Comments
Description
Transcript
FET を理解しよう
特集*はじめてのトランジスタ回路設計 第2章 JFET,MOSFET,MESFET, CMOS など FET を理解しよう 渡辺 明禎 Akiyoshi Watanabe FET は米国ベル研究所のショックレー(William B. Shockley)が接合型トランジスタを発明した翌年の ■ ゲート構造による三つの分類 1952 年に着想したもので,1953 年に同研究所のデシ FET をゲート構造から大別すると, ー(G. C. Dacey)とロス(I. M. Ross) によって初めて接 合型 FET が試作されました.これが 1960 年に同研究 (1)接合型 (2)ショットキー型 モ ス 所のカーング (Dawon Kahng) とアタラ (M. M. Atalla) による MOSFET の発明へとつながります. (3)MOS 型 シ ー モ ス に分類できます.なかでも MOSFET は,CMOS によ パソコンのマイクロプロセッサやメモリ IC は, MOSFET の高集積 IC ですし,電気自動車のモーター る集積化と高速化が飛躍的に進歩し,非常に重要なデ バイスとなっています. を制御するのはパワー MOSFET,携帯電話にも多数 使われています. FET はトランジスタより難しい…そんな先入観を 持っていませんか?実は FET のほうが動作原理は単 純です.本章では,そんな FET の基本的な動作原理 を知ることにしましょう. 〈編集部〉 FET ■ 別名ユニポーラ・トランジスタ ■ 伝達特性の違いによる三つの動作モード 基本的な電界効果トランジスタは,図 2 − 1 に示す ように,ゲート(Gate),ソース(Source),ドレイン (Drain)の三つの電極があり,ゲート−ソース間に加 える電圧 VGS によってドレイン−ソース間に流れる電 流 ID を制御できる素子です. 伝達特性に注目して分類すると,図 2 − 2 に示す三 つの動作モードがあります. depletion 図 2 − 2( a)がディプリーション ・モードで,ゲー ト−ソース間のバイアス電圧の絶対値が大きくなるに FET と は 電 界 効 果 ト ラ ン ジ ス タ( Field Effect Transistor)の略称です.電気伝導に関与するのが,N つれ,ドレイン電流が減少していきます.このモード の場合,正の VGS を加えるとゲート電流が流れてしま チャネル型の場合は電子だけ,P チャネル型の場合は 正孔だけなので,別名「ユニポーラ・トランジスタ」 〈図 2 − 1〉FET の動作 (unipolar transistor)とも呼ばれます.後述するトラ ンジスタは,電子/正孔ともに動作に関与するので, バイポーラ・トランジスタ(bipolar transistor)とも呼 ID VGS により ID が 変化する ばれます.FET は小信号から大電力まで,さまざま な分野で使われています. RD D G VGG VGS S Keywords 電界効果トランジスタ,ユニポーラ・トランジスタ,ディプリーション・モード,エンハンスメント・モード,静特性,ソース共通 回路,ゲート共通回路,ドレイン共通回路,ピンチ・オフ電圧,カット・オフ電圧,ゲート・ピンチ・オフ電圧,空乏層,反転層, 蓄積層,ショットキー接触,金属−半導体接触,フェルミ準位,スレッショルド電圧,順方向伝達アドミタンス,Yfs,相互コンダク タンス,gm,Ciss,Crss,カスコード接続,ミラー効果. 2003 年 4 月号 141 い,素子を破壊してしまうことがあります. enhancement 図 2 − 2(b )に示すエンハンスメント ・モードは, VGS の値を大きくしていくにつれてドレイン電流が増 加します.VGS = 0 V にすると ID を非常に小さくでき るので,CMOS ロジック IC などのスイッチング素子 としてよく使われます. (c)に示すように,ディプリーション・ また図 2 − 2 モードとエンハンスメント・モードの両方で動作でき る FET もあります. JFET ■ 概要 JFET は,接合型電界効果トランジスタ(Junction FET)の略称です.ドレイン−ソース間に流れる電流 の制御に,第 1 章で説明した PN 接合を使ったトラン ジスタです. 表 2 − 1 を見てください.N チャネルの場合,P 型基 板の中に N 型層,P 型層を形成します.ゲートは P 型 層,ソース,ドレインは N 型層からそれぞれ取り出 します.各端子に何ら電圧が加えられていない場合, 図のようにゲート直下に PN 接合による「空乏層」が 形成されています. 図記号の矢印の向きは電流が流れる方向(順方向バ イアスの方向)を示しています.しかし,FET はゲー トに電流が流れない領域で使うデバイスなので,ゲー ト−ソース間にかける電圧は逆バイアスで使うことを 忘れないでください. 静特性で最もよく使われるのは,表に示す VGS をパ ラメータとした VDS − ID 特性です.この特性から FET ■ 動作状態 図 2 − 3 に JFET の動作状態を示します.JFET の VDS − ID の静特性にしたがい,動作状態を説明します. ただし,実際は P 型層にも空乏層は形成されています が,簡単化するために省略し,N 型層の空乏層だけに 着目します. ● VGS = 0 V の場合 特性の一番上のカーブをみてください.V点ではゲ ート直下に空乏層ができており,VDS の増加とともに, この空乏層は広がっていきます.しかし,N 型層内に 電流が流れるパスが残っているので,VDS の増加とと もに ID も増えていきます. VDS をさらに増加したW点で,空乏層は N 型層に達 してしまい,N 型層に電流パスは存在しません.ダイ オードの場合,接合面にできた空乏層は電流を流すこ とができない絶縁層として説明してきました.という ことは FET の場合も,空乏層がチャネル層いっぱい に達すると電流が流れなくなってしまうのでしょう か? ソース−ドレイン間にできた空乏層は,実際に は電極 D の近くで,ごく一部がソース−ドレイン間を 空乏化しているにすぎません.したがって,ドレイン 電流は流れることができます.このときの現象を pinch off 「ピンチ・オフ」と呼び,この VDS の値を「ピンチ・ オフ電圧」と呼びます. さらに VDS を大きくすると(X点),空乏層はドレイ ン側に広がっていきますが, I D はほとんど変化しま せん.このように,VDS を大きくしても ID がほとんど 変化しないような静特性は「5 極管特性」とも呼ばれ ます. の動作時の状態を知ることができます. 〈図 2 − 2〉伝達特性による FET の分類 使用例は,ソース共通型増幅回路で,FET を使う ための基本回路です.これがマスタできれば,ほかの ID VGS =0 増幅回路も理解できるようになると思います.ソース 共通で使う場合,負荷抵抗 RL に流れる電流 ID をゲー この領域 で,使っ てはいけ ない ト−ソース間に逆バイアスで加えた電圧 VGS により制 御します.このとき, R L から得られる出力電圧は入 力電圧より大きくなります. 0 ID ID ID VGS が負の方向 V GS 0 (a)ディプリーション・モード ID ID VGS が正の方向 VGS が正の方向 VGS =0 0 VGS 0 VDS (b)エンハンスメント・モード 142 VDS 0 VGS 0 VGS =0 VGS が負の方向 VDS (c)ディプリーション+エンハンスメント・モード 2003 年 4 月号