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概要版 - 千葉市
平成27年度千葉市・大学等共同研究事業報告書 事務事業に係る行政資源の可視化について 【概要版】 平成28年2月 千葉市・千葉大学 1 共同研究に取り組む背景 地方自治体は、地方自治法第2条に基づき、住民の福祉の増進に努めるとともに「最 少の経費で最大の効果を挙げること」及び「組織及び運営の合理化に努めること」の2 点について不断の努力を行わなければならない。 これまでは、事務事業ごとに見直しをしてきたが、今後は、複数の事務事業を相対的 に評価し、事務事業の整理・統合、集約化などを進める必要がある。 複数の事務事業を比較検討するためには、事務事業に投下している行政資源を統一的 な基準で可視化することが必要となるが、現状では、予算額や決算額では比較できるも のの、人的コストなどは事務事業ごとにうまく金額換算できていない。 そこで、事務事業の費用対効果を検証する際の費用には、カネに係る予算額や決算額 だけでなく、ヒトに係る人件費やモノに係る減価償却費などを含めたコスト情報として 捉えることとし、そのコスト情報の把握方法を共同研究の中で検討することとした。 2 共同研究の目標等 自治体におけるコスト情報を、「現金による支出」だけではなく、「団体の活動により 消費した資源の量を金額で表現したもの」と定義し、事務事業に係る行政資源の可視化 を図る。 本研究の目標とするのは有効なコスト情報の把握方法の確立であるが、必ずしも発生 主義・複式簿記を採用した新たな財務会計システムの導入をゴールとするものではない。 現実的な手法として、既存のデータ等を活用したコストの把握方法の開発を目指すもの である。 コスト情報の把握に関して、先行して取り組んでいる自治体等の事例を参考にしなが ら、過度な稼働とならぬよう千葉市で既に把握している既存データを活用することを基 本に研究を進める。 まずは、公会計の分野で先進的な取組みをしている自治体の情報を収集するとともに、 参考事例の収集を行い、コスト情報の把握にあたってのあるべき姿を明らかにする。 次に、千葉市で保有している既存データの内容を洗い直し、情報の棚卸を行う。 あるべき姿を踏まえつつ、既存データを活用して千葉市の実状にあった具体的なコス ト情報の把握方法の確立を目指す。 自治体においては人的コストの金額換算がうまくできていない。このため、人的コス トの把握方法については、本研究の重要テーマに設定する。 具体的には、主に次の4つの項目を検討のうえ、千葉市の実情にあった行政資源の可 視化手法の確立を目指す。 ① 事務事業の単位など「事業費」について ② 業務量(人工)の把握方法など「人件費」について ③ 庁舎管理費など「間接費」について ④ 減価償却費など「支出のない消費」について 3 先行自治体等へのインタビュー調査 公会計の導入に関して先行的に取り組んでいる自治体の状況について、インタビュー 1 調査を行うことで、コスト情報の具体的な取得・計算方法等を把握する。 ヒアリング先は、共同研究代表者である大塚教授が理事を務めるJAGA(公会計改 革ネットワーク)の研究会に関係があり、先進的な取組みを行っている自治体の中から、 大阪府吹田市、東京都町田市、大分県臼杵市を選定した。 人件費のとらえ方については、微妙な違いがある。いずれの自治体も人件費の算出式 は、 「業務量(人工)×平均給与額」としているが、町田市では課単位の平均給与額を採 用している。また、吹田市では、退職給与引当金相当額を事業ごとに按分していない。 このことは、定まった方法がない中で、各自治体が各々の目的に合った最良の方法を 模索していることによるものといえる。 庁舎管理費などの間接費は、事業ごとに按分せずに、一つの事務事業として管理して いるが、これは合理的な按分基準を設定することが困難なためであると考えられる。 4 政令指定都市へのアンケート調査 事務事業ごとのコスト情報の把握状況を明らかにするため、政令指定都市を対象に、 把握しているコスト情報や人件費の算出方法について、アンケート調査を実施した。 政令市におけるアンケート結果で、政令市の多くが事務事業評価システムなどを活用 して、事務事業ごとのコスト情報を把握していることがわかった。 把握しているコスト情報としては、事業費と人件費が多く、間接費、減価償却費、公 債金利まで把握している自治体は少数であった。 人件費の把握方法は、「業務量(人工)」×「職員平均人件費」で算出している自治体 が多いが、より実態に近い人的コストを把握するためには、 「職位別平均人件費」で算出 している京都市、北九州市の事例を参考にすべきと考えられる。 5 本市における既存情報の棚卸 今後、事務事業に係るコスト情報を把握するにあたり、過度な稼働にならないよう、 できるだけ既存情報を活用するために、既存の情報の活用の可能性を検討する。 事務事業の単位として、 「事務分掌」や「予算上の事業名」が活用できるほか、減価償 却費の把握に「固定資産台帳」が活用できる。また、人件費の把握に「担当別職務分担 表」と「給料表」が活用できると考えられる。 一方、既存情報では事務事業ごとの公債金利を把握することはできないと考えられる。 6 コストの算出方法 コストの算出について、財務会計的なコストと管理会計的なコストの比較を踏まえ、 既存情報の活用を基本に、現実的な算出方法を検討した。 コスト情報は、事業費に人件費と減価償却費を加えたものを基本とし、事務事業ごと の按分が困難な間接費や公債金利は一つの事務事業として管理することが現実的である といえる。 人件費については、より実態に近いコストで把握する必要があると考えられる。この ため、人件費の算出の基礎となる「業務量(人工)の把握方法」と「職位別人件費単価 の算出」について、具体的な方法を検証する。 2 財務会計的なコストと管理会計的なコストの比較 検討項目 事業費 論点 財務会計的なコスト 管理会計的なコスト 決算額と予算額の 決算額で事業の評価を 作成年度の予算額を基本 いずれを活用すべき 行うべき に、前年度決算を参考とし か て記載する。 事業単位をどう設定 予算の査定単位とあわ 予算の小事業を基本に、所 すべきか せるべき 管の任意設定とする。 歳入及び財源をどう 国費や使用料等を把握 財源構成は明確にする。 扱うべきか し、市の負担額を明確 にすべき 人件費 業務量(人工)をど 業務内容及び業務量を より低稼働な業務内容及び う把握すべきか システムで自動集計す 業務量の把握方法を検討す べき る。 職位別平均で算出す 職員の昇格等で単価が 職位別に算出する(但し、 べきか 変動しないよう全職員 1~3級を一つの職位とす 平均で算出すべき る)。 特別職や管理職を含 特別職や管理職を含 把握する対象は課長級まで めるか め、一定の基準で事業 とする。 ごとに按分すべき 人件費に含める項目 共済費や各種手当など 住居手当、通勤手当、時間 は すべての経費を含め、 外手当、共済費等を含める 一定の基準で事業ごと ため、給料に一定の係数を に按分 掛けて算出する。 間接費に含める項目 一定の基準で事業ごと 庁舎管理費など一つの事務 は に按分すべき 事業として把握する。 支出のな 減価償却費を対象と コスト情報として、対 対象とする。 い消費 すべきか 象にすべき 公債金利をどのよう 公債費を事務事業ごと 公債費を一つの事務事業と に把握するか に管理して、事務事業 して把握する。 間接費 ごとの金利を算出すべ き 退職手当引当金をど 一定の基準で事業ごと 給料に一定の係数を掛けて のように把握するか に按分すべき 算出する。 7 業務量の把握方法 事務事業ごとの業務量を正確に把握するためには、業務日報(タイムシート)など一 定の記録をつける必要があるが、日報等の作成に係る事務負担についても十分考慮する 必要があるため、日報(タイムシート)を試行的に実施して検証を行うこととした。 本市におけるタイムシートの試行実施結果として、監督者(主査クラス)で把握して 3 いる業務量と大きな差がないと考えられることが実証された。このことから、必ずしも 担当者による作成によらず、監督者(主査クラス)による作成でも齟齬がないものと考 えられる。 タイムシートを導入すれば、一定のデータが取得できるものの、入力すること自体に 新たな稼働が発生してしまうほか、個人の主観で入力するので必ずしも正確な情報が入 力されるとは限らない。事務事業の評価のためだけにコスト情報を把握するのであれば、 稼働をかけてタイムシートを実施しなくても、既存情報の活用で十分であると考えられ る。 しかしながら、タイムシートの試行実施の結果から、 「業務管理という面からタイムシ ートをやる意義はある」「1日の振り返りには役に立った」との意見があったことから、 タイムシートには、コスト情報の把握という目的以外で活用できる可能性もあることが わかった。 労務管理の視点では、客観的データから職員ごとの業務量(負荷)を把握することで、 年度途中に人員配置を見直すなどの活用方法が考えられるほか、日々の業務を上司へ報 告するツールとしても活用できる。 8 概算人件費の算出 概算人件費は、事務事業ごとの業務量(人工)×職位別人件費単価で算出するが、各 種手当や共済費負担金、当該年度に発生する退職手当相当額を算出するために、過去5 年の決算データ等から人件費総額を把握し、給料との比率から係数を2.3に設定する。 人件費算出に係る係数 単位:百万円 区分 H25決算 H24決算 H23決算 H22決算 H21決算 37,829 39,431 40,164 40,670 43,109 40,241 共済組合負担金 7,094 7,356 7,705 7,348 7,407 7,382 退職手当引当金繰入額※ 3,348 4,929 4,885 4,984 5,291 4,687 322 321 292 264 0 240 48,592 52,037 53,046 53,266 55,807 52,550 A 21,408 22,493 22,887 23,056 24,342 22,837 B 職員給(各種手当を含む) 職員の児童手当 計 給料 5か年の平均 退職手当引当金繰入額を除き、毎年公表している決算状況のデータ(人件費の内訳)から算出 係数 2.30 A/B 職位別人件費単価は、設定した係数を活用すると「級別の平均給料額×12か月× 2.3」で算出できる。 人件費単価の算出 級 人件費単価(各種手当、共済負担 金、退職手当引当金相当額を含む) 職員(係員) 職員(係員) 職員(係員) 主査(係長) 課長補佐 1 2 3 4 5 7,147,846 7,147,846 7,147,846 10,816,578 11,520,240 課長 6 12,107,651 事務事業に係る人的コストを算出するために、職位別人件費単価を活用して概算人件 費を自動計算できるシートを作成した。 4 このシートでは、従事した正規職員の級と年間の業務割合(%)を入力すれば、福利 厚生費や当該年度に発生した退職金相当額を含む概算人件費が算出できるものとなって いる。 概算人件費の算出シート 事務事業名 ○○○○の推進 ①正規職員(課長以下の職員) No 職名 氏名 級 事務分担割合 6 5 4 3 2 1 10% 20% 30% 40% 50% 60% 1 課長 ○○ ×× 2 課長補佐 ○○ ×× 3 主査 ○○ ×× 4 主任主事 ○○ ×× 5 主事 ○○ ×× 6 主事 ○○ ×× 年間人件費 概算人件費 (自動計算) (自動計算) 12,107,651 1,210,765 11,520,240 2,304,048 10,816,578 3,244,973 7,147,846 2,859,138 7,147,846 3,573,923 7,147,846 4,288,707 7 リストから選択 0 0 8 リストから選択 0 0 9 リストから選択 0 0 10 リストから選択 0 0 当該事業に係る概算人件費 17,481,555 17,482 円 千円 ②非常勤職員 区分 非常勤職員 嘱託職員 計 人数 1.00 0.00 1.00 予算額 1,166 千円 0 千円 1,166 千円 概算人件費計(①+②) 18,648 千円 9 まとめ(政策提言) 本研究を通じて、人的コストを含めた事務事業のコストを算定することや、その算定 のためのタイムシートを作成することが、個々の事務事業に対する事後評価(振り返り) に役立つことも確認できた。この点では、コストの算定による事務事業の実施状況の可 視化は、個々の事務事業の費用対効果の検証にあたって非常に有効なツールとなり得る ことを改めて指摘することができる。 地域住民の行政サービスに対するニーズは多様化しており、自治体はそのニーズに対 応し得る事務事業を展開していかなければならない。しかしながら、自治体が事務事業 を遂行するうえで利用可能な行政資源には限りがある。また、今後の少子高齢化・人口 減少という社会環境の変化の下では、自治体が利用可能な行政資源を拡大していくこと も難しい。したがって、自治体は自らが保有する行政資源を有効に活用できる仕組みを 早急に構築していかなければならない。そのためには、本研究で提示した人的コスト等 の算定を可能にする制度の導入を進め、自治体が事務事業の中で利用した行政資源をそ れぞれの事業のコストとして把握し、それらのコストに基づいた事務事業評価を実施し ていくことが必要である。 5