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見る/開く - 東京外国語大学学術成果コレクション

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見る/開く - 東京外国語大学学術成果コレクション
第3号
2002.3
「Scarab Island Meditation」リタ・アルバカーキ(Rita Albuquerque)作
古代エジプトでは永遠の旅へ向かうミイラを準備する際に石棺のくぼみにスカラベの石を置き、永遠の
生命の象徴としましたが、このスカラベの石の上に東京外国語大学で履修できる 26 カ国語で記述された
言葉に、心の夢、潜在意識、スカラベの瞑想を映し出しています。
(附属図書館 3∼ 4 階吹き抜けに展示)
目 次
■ 新入生の皆さんに
図書館が教えてくれる本の魅力―新入生の皆さんへ ……………………………………………………… 2
図書館の基本的な使い方 …………………………………………………………………………………… 5
■ 平成 13 年度附属図書館講演会報告
ジェンダー研究の現在 …………………………………………………………………………………… 11
■ 図書館からのお知らせ ……………………………………………………………………………… 12
図書館が教えてくれる本の魅力
―
― 新入生のみなさんのために ―
―
外国語学部総合文化講座・英語 鈴木 聡
電子図書館からさらにディジタル図書館(註 1)
へと飛躍的な進化を遂げつつある現代の図書
っていたのでは、徹底性、網羅性はとうてい
望み得ないということがあります。
館は、本、書物、書籍と称される伝統的な媒
逆のいいかたをするならば、それだからこ
体のありかたと同様、本とはなにかという概
そ、私たち自身も、各種のウェブサイトから
念そのものにも大きな変動が生じようとして
恩恵をこうむるのみという受動的な立場にと
いる現在の状況に対応してゆかなければなり
どまることなく、知られざる資料を発掘し、
ません。なによりも重要な変化は、おそらく、
世の人びとによって広く共有されるべきもの
インターネットに代表されるような電子的情
として提供するサイトを構築するなどして、
報獲得手段の普及により、今後、多くのひと
知の共同体の一員としての責任を積極的に果
にとっての読書習慣が、ディスプレイ上で自
たす余地がじゅうぶんにあるということにも
由に閲覧可能な電子テクストその他にまず第
なりましょう。そうした目的に近づくための
一に依拠するものとなるであろうと予想され
有効な手がかりを与えることこそ、今日の図
ることでしょう。そうした事態を念頭におく
書館が担っているたいせつな役割のひとつに
とき、図書館が現に所蔵する膨大な文献はか
ほかなりません。
つてのような意義や有用性を保ち得なくなる
インターネットの時代において改めて見な
かのように思われるかもしれません。
おされるようになった印刷媒体の独自性、本
しかし、過去から営々と蓄積されてきた
の魅力なるものは、ひとことで「温もり」と
人類の叡智の結実がいままさに確固たる実体
いい表わされることがあります。その点を説
として私たちのまえに現前しているという事
明づけることはなかなか困難なのですが、ま
実は、いくつかの揺るがしがたい教えを含む
ずまちがいなくいえるのは、照明や家具と同
ものでもあります。ひとつには、情報や知識
様、本が人間の生活に欠かすことのできない
の電子化はいまようやく端緒についたばかり
重要な一部をなしてきたということです。本
であって、ごく狭いひとつの分野に限ってみ
を読むという穏やかな営みが、多くのひとの
ても、ウェブを利用したデータ蒐集のみに頼
心を癒し、また豊かにする助けともなってき
−2−
たというのは、歴史的と称してもよい、厳然
という不思議な直観を掻き立てられる書物に
たる事実なのではないでしょうか。すぐれた
めぐり合う可能性があるからです。背表紙の
書物とは、書かれた内容の充実もさることな
文字をたどるだけならば、さほど時間もかか
がら、装幀、紙質、活字などにも、多年にわ
らぬはず。書名や著者名などは、なるべく多
たって愛読者を飽きさせることのない精緻な
く頭にはいっていることが望ましいのは、い
工夫を凝らしたものであり、美的完成度とい
うまでもないことです。また、多種多様な書
う点では、名匠の手になる工芸品にも優に匹
名を眼にすることで、各ジャンルごとにタイ
敵するものなのです。たんに伝統に培われた
トル決定にあたっての約束事なり法則なりが
というだけではかたづけられないデザインの
働いていることがおのずと会得でき、読者の
洗練こそ、たとえばウェブサイトのページ構
関心を喚起するタイトルとはいかなるものか
成にあたっても見習うべき美点であるといえ
という点についても、感覚的に理解できるよ
ましょう。各国語の印刷物に触れることは、
うになるでしょう。さらに一歩進んで、この
とくにわが国では軽視されがちなタイポグラ
問題そのものを美学的見地から考察した佐々
フィにたいする鋭敏な感性を育むうえで必ず
木健一氏の好著『タイトルの魔力 ―― 作品・
役に立つはずです。その意味からたとえば、
人名・商品のなまえ学』(中公新書)を一読す
図書館の蔵書のなかでも比較的出版年代の古
れば、たとえば自分の書くレポートや論文な
いものには、たとえいわゆる貴重書、稀覯本
どに適切なタイトルを付すことがいかに大事
ではなく、またすでに資料的価値が失われて
であるか飲みこめると思います。このように
いようとも、造本や印刷の質という面で注目
して図書館にいくらか親しむきっかけを得た
してよいものがあろうかと思われます。現実
ひとは、図書館が存在しなければならないそ
に眼を向けると、多くの学生は、レポートの
もそもの理由について考えをめぐらしてみて
執筆のために必要だというような実利的理由
もよいかもしれません。読書の愉しみを分か
によって、数冊にあらかじめ目星をつけ、当
ち合ううえで図書館の果たしている機能はも
該目的の図書を借り出すためだけに図書館を
ちろん否定できないでしょう。とはいえ、自
利用するという仕儀になりがちなのではない
己の関心のみを主張している限り、図書館に
でしょうか。そのような場合でも、ただ性急
は自分の読みたい本さえ揃っていればそれで
に用事をすませようとするのではなく、目的
ひとまずじゅうぶんだという結論にもなりか
の図書の配架されている棚の周辺だけでもし
ねません。また、テクストという実質的内容
ばらく見わたしてみるときっとよいことがあ
を把握すれば当座の用はたりるのだというこ
るでしょう。思いがけず新たな発想につなが
とで、その種の利益のみをひたすら追求する
りそうな書物、あるいは、当面の必要とは無
なら、紙とインクによって形成された書籍と
関係でありながら、いつか読んでみなければ
いう形態は、いずれ完全に時代遅れのものと
−3−
して淘汰されることになろうという議論すら
の『ナインス・ゲート』(1999 年)は、わが国
引き出されるものと思われます。集合的記憶
でのおおかたの評価によれば新趣向のホラ
の再構築というテーマが定着しつつある近年
ー・ムーヴィーという程度でかたづけられた
の批評的言説の動向を念頭におくとき、とり
映画ですが、ジョニー・デップの演じた主人
わけ重要な意味をもってくることですが、書
公の職業が書籍探偵という耳慣れぬものあっ
籍出版というメディア自体が研究対象となり
た点に留意する必要があります。むろん映画
得ること(註 2)、それゆえ印刷物の蒐集という
として見れば点数を辛くせざるを得ないもの
行為も有機的な全体像への接近をめざしてな
の、書誌学とオカルトを結びつけ、本のもつ
されていることを忘れてはなりません。図書
魅力がときとして魔性を秘めた危険なものと
館とは、図書館学をはじめとするいくつかの
なりかねぬことを遺憾なく示したことで、こ
学問的伝統からなる知的、歴史的な背景にさ
れは記憶にとどめられてよい作品であったと
さえられた情報の総体です。それらの伝統の
いえましょう。
ひとつに、日本ではあまりポピュラリティの
いくつかの例を挙げて述べてきましたが、
ない書誌学という学問を数えることができる
結局、本のもつ多様な魅力の一端しか伝える
でしょう。これに関連づけていえば、ヨーロ
ことはできなかったようです。ここでは触れ
ッパ・アメリカの文化に深く根づいている愛
られなかったものの、図書館の幾多の蔵書を
書という趣味の源に書誌学的教養があること
じっさいに手に取ることで、みなさん自身が
も銘記しておく必要があります。その例証と
発見できる新たな魅力がきっとあるはずです。
なるものは、大衆的娯楽作品のうちにも容易
に見いだすことができます。長くアガサ・ク
リスティと並び称されながら、日本では依然
としてやや知名度の低い探偵小説作家、ドロ
シー・セイヤーズが創造した貴族探偵ピータ
ー・ウィムジー卿は、古書蒐集の趣味が昂じ
て(もちろん架空の書名ではありますが)『初
期印刷本蒐集覚書』(Notes on the Collecting
of Incunabula)(註 3)という著書を発表してい
ます。ピーター卿のこのような趣味が、書痴
と呼ばれる、たとえば京極夏彦の一連の作品
における京極堂こと中禅寺秋彦の濫読癖と一
線を劃すものであることは改めて指摘するま
でもありません。ロマン・ポランスキー監督
−4−
図書館の基本的な使い方
また資料の配置については使いやすさを考
ご入学おめでとうございます。
これから卒業(修了)までの間、みなさん
慮して各フロアにそれぞれ明確な性格付けを
が必要とする資料や情報を提供する場所が図
行なっています。なお、資料は原則、すべて
書館です。
開架としており、目的の資料を自由に手にと
ることができます。
当館は、従来の大学図書館とは異なり、開
放的で明るく、本を読むだけではもったいな
設備としては、情報処理センターと協力し
いと思っていただける空間と各種設備を整え
て館内に約 200 台のパソコンを配置し、イン
た図書館です。
ターネットの利用を始め、レポート・論文の
図書館の建物は、4 階建て延べ 6,900m2 の面
作成が可能なほか、音声や画像処理機能を搭
積があり、快適さと収容力の両立を図るため、
載した機器もあり、目的に応じた利用ができ
1 階を効率重視の書庫スペース、2 階から 4 階
るようになっています。
を広い窓とできる限り仕切りのない空間構成
また閲覧席には情報コンセントを設置し、
として開放感のある閲覧スペースを実現して
自分のノート型パソコンからインターネット
います。
に接続することもできます。
●開館日、開館時間
平 日 9:00∼21:45(長期休暇中 9:00∼17:00)
土曜日 9:30∼ 16:45(長期休暇中 休館)
休 館 日曜日・祝日、年末年始、毎月最終水曜日
※開館日・開館時間は臨時に変更することがあります。開館スケジュールは館内で配付していま
す。また図書館ホームページにも掲載しています。
●入館方法
「キャンパスカード」(学生証・身分証)を、入館ゲートに設置してあるチェッカーに通すこと
でゲートが自動で開き閲覧スペースに入ることができます。
☆キャンパスカードは、入館のほか、各種手続きに必要です。忘れずにお持ちください。
−5−
資料配置と建物案内
▲1 F
▲2 F
▲3 F
▲4 F
各フロアの特徴
4階
日本語・英語以外の図書とマルチメディアのフロアです
●マルチメディアルーム
●情報処理センターサービスカウンター
●グループ閲覧室
3階
日本語と英語図書のフロアです
●個室閲覧室
2階
参考図書と雑誌、目録・検索コーナーのフロアです
●メインエントランス
●ブラウジングホール
●自由閲覧室
●入退館ゲート
◆館内は「飲食・喫煙」禁止です
●図書館カウンター
◆携帯電話は、2Fリフレッシュコーナーをご
●コピーコーナー
利用ください(閲覧室内での通話は不可)
ご協力をお願いいたします
1階
書庫のフロアです(2層)
雑誌のバックナンバーや、3 階・4 階に配置していない分野の図書があり、自由に利用できます
●集密書庫(電動式集密書架)
−6−
図書館のサービス
●館内の資料は自由に閲覧できます
●学外から論文等のコピーを取り寄せる
●貸出冊数と貸出期間
ことができます(文献複写)
学部学生、科目等履修生: 1 0冊 2週間
●所蔵のない図書を学外から借り受ける
大学院生、研 究 生:20 冊 1ヶ月
ことができます(相互貸借)
●他の大学図書館へ訪問・利用する際に
必要な紹介状を発行しています
●返却は、カウンターで受け付けます
返却ポストへの投函も可能です
●インターネット接続、電子メールの送
●返却期限内で、予約の入っていない場合
受信が可能です
に、貸出期間を延長することができます
●音声・画像処理など利用目的に応じた
機器も設置されています
●貸出中の図書は予約を申し込むことが
できます
●資料の検索や各種サービスに関する総
合案内を行なっています
★図書館の利用で困ったことがありまし
たら、お気軽に御相談ください
●館内設置の複写機で資料の複写が可能
です(セルフサービス)
●当館で所蔵していない図書について、
購入を申請することができます
−7−
蔵書の検索
●図書館ホームページ
開館日や開館時間、図書館からのお知らせなどを学外から確認ができるよう、図書館ホームペ
ージをインターネット上で公開しています。また図書館サービス全般について詳しく紹介してい
ます。
URL
http://www.tufs.ac.jp/common/library/index-j.html
●OPAC(図書館蔵書検索)
図書館の蔵書をオンライン上で検索できるシステムです。貸出状況や所在(配置場所)の最新
情報を確認することができます。また検索ヘルプも参照できます。
館内に専用端末を設置しているほか、図書館ホームページからも検索が可能です。
図書館資料は、利用者全員の共有財産
です。
傍線を引く、書き込みをする、ページ
を折るなどしないでください。
また複写等で、付箋紙を使用した場合
には必ず剥がしてください。
☆OPAC で検索できない資料もあります。検索して見つからない場合には、館内設置のカー
ド目録および冊子体目録を参照して下さい。
●NACSIS Webcat(他機関の蔵書検索)
国内の大学図書館を始め、国内の諸機関が所蔵している蔵書を検索することができます。
URL
http://webcat.nii.ac.jp/
※その他の情報検索については、図書館ホームページのリンク集を参考にして下さい。
URL
http://www.tufs.ac.jp/common/library/guide/link-j.html
−8−
コレクション概要
新分類図書
昭和37 年4月以降受入の資料群。当館蔵書の大半(約80%)を占める
旧分類図書
昭和37 年4月以前に受け入れた資料、約9 万冊
貴 重 図 書
明治維新前後、日本で出版された外国事情、外国研究書及び19世紀中葉以前発
行の英・独・露・萄・蘭各国語の図書、1,262冊
特 殊 文 庫
※個人寄贈に
よるコレク
シ ョ ン
大
型
コレクション
・諸岡文庫(主として中国語図書、8,300冊)
・八杉文庫(主としてロシア語図書、941 冊)
・吉原文庫(主としてロシア語図書、864冊)
・冠木文庫(主としてチェコ語図書、880冊)
・蒲生文庫(主としてウルドゥー語、ペルシア語図書、1,200 冊)
・アラビア現代史料 [1978(S53)]・ブラジルコレクション[1978(S53)]
・モンゴル大蔵経(蒙古カンヂュール大蔵経)[1980(S55)]
・ペルシア研究基本文献コレクション [1982(S57)]
・朝鮮日報(1921.9-1979.12) [1983(S58)]
・ロシアナロードニキ研究史料集成 [1988(S63)]
・故M.J.ドレスデン教授旧蔵インド・イラン言語学コレクション[1989(S64)]
・朝鮮近代民族・文化運動資料コレクション [1998(H10)]
言語分類表
A
日本語
B
ペルシア語
T
バルト諸語
中国語
F1 インドネシア語、 J1
マレーシア語
K
英語
U
ギリシア語
C
朝鮮語
F13 フィリピン語
L
ドイツ語
V
ラテン語
D
極北諸語
G
M
ゲルマン語一般
W
ウラル諸語
E
チベット・東南
アジア諸語
G11 モンゴル語
N
フランス語
X
G21 トルコ語
O
使用せず
その他の
ヨーロッパ諸語
タイ語
H
セム諸語
P
スペイン語
Y
E11 ラオス語
H1
アラビア語
Q
ポルトガル語
ハム語、
アフリカの諸語
E2 ビルマ語
I
インド諸語
R
イタリア語
Z
人工語
E4 ベトナム語
I1
ウルドゥー語
S
ロシア語
E51 カンボジア語
I2 ヒンディー語
S61 ポーランド語
F
J
S63 チェコ語
E1
南島諸語
アルイタイ諸語
イラン系諸語
☆当館の主要コレクションである新分類図書の言語分類表です。図書館の蔵書は言語記号ご
とに配置されています。ご自分の専攻語の言語記号を確認してみてください。
詳しい言語分類表は、館内の配布物やホームページで御覧下さい。
URL http://www.tufs.ac.jp/common/library/guide/bunrui/gengo-j.html
−9−
図書館を上手に使うために
みなさんに図書館を有効に利用していただくことを目的として、各種のお知らせや案内を作
成・配布しています。これらを活用して上手に図書館を利用してください。
図書館からのお知らせをチェックしたい
●図書館ホームページの「図書館からのお知らせ」
●図書館2階エントランスの「インフォメーションキオスク」
●館内掲示(1階玄関前の掲示板、2階エントランスの掲示板)
●図書館カウンターに配布用として常置している「Library Information」
図書館の開館スケジュールを知りたい
●図書館ホームページの「開館スケジュール」
●図書館1階玄関前の掲示板
●図書館カウンターに配布用として常置している「開館スケジュール」
図書館の資料配置を詳しく知りたい
●図書館ホームページの「書架配架図」
●図書館カウンターに配布用として常置している「配架図」
●各階に掲示されているフロア案内図
資料の探し方を知りたい
●図書館ホームページの「情報検索案内」
●図書館カウンターおよびカウンター前の筆記台に常置している各種手引き例
・東京外国語大学附属図書館利用の手引き
・OPAC利用の手引き など
☆図書館では、みなさんに図書館を上手に利用できることを目的としたガイダンスを企画・
実施する予定です。実施にあたっては、図書館ホームページや館内の掲示でご案内します
ので興味のある方は、是非、ご参加ください。
[予定している内容]
・ 図書館オリエンテーション(4月)
・OPAC講習会(5月)
・ 情報リテラシー授業(6月)
・文献調査案内
・ ネットワークリソースの活用方法 など
−10−
平
成
13
年
講
度
附
会
演
属
報
図
書
館
告
ジェンダー研究の現在
東京大学大学院教授 上野千鶴子
ジェンダーという概念は文法用語だったが、
として知のゲットー化を招いた。これに対し
性差は生物学的に決定されるという解剖学的
てジェンダー研究は、既成の学問の客観性・
宿命論(Anatomy is destiny)を乗り越えるた
中立性自体が男性的なバイアスによって作ら
め、再定義されて、現在のジェンダーという
れたものであり、真理を標榜する知は男性知
概念が生まれた。
に過ぎないことを暴露する。
もともと、「女らしさとは、By nature or by
女性学は、私的な領域と見なされてきた性
nurture(氏か育ちか)」という議論があった。
愛・育児などを主題として来た。その立場から、
すなわち、性差の決定因の線引きをめぐって、
公的領域をも問題化し、公的領域が公正を装い
生物学区的性差と社会・文化的性差のどちら
ながら、実は私的な領域(女性の身体・育児)
が優勢かという議論があった。これを生物学
に非関与なルールが作られており、女性が構造
的基盤論と言う。これに対して、マネーやタ
的に排除される仕組みになっていることを明ら
ッカーらが新しいジェンダー論を展開し、性
かにした。また、フェミニズム通過後に登場し
差は遺伝子、ホルモン、外性器などで決定さ
た男性学は、私領域の男、つまり男の性愛・家
れるのではなく、性自認(Sex Identity)によ
事・育児を対象とする傾向があった。こうして
って決まること、性自認には後戻りできない
最後に男性のみによって占められる公的領域が
臨界期があり、言語形成期と一致することを
残る。そこは、客観性・中立性が構造的に女性
発見した。このように性差は言語によって社
を排除する障壁として、男性に有利に働く男性
会的に形成されるものであることが明らかに
だけの世界(企業、政治)であり、これも又ジ
なった。80 年代のポスト構造主義時代に入っ
ェンダー研究の対象となる。このようにジェン
て、スコット、バトラーらが現れて、ジェン
ダーは、私的な領域から公的な領域まですべて
ダー論は新しい展開を迎える。この中で、デ
を対象にできる領域横断的な分析ツールである。
ルフィーが次のような明確な定義をジェンダ
これが、女性学がジェンダー研究へと転換した
ーに与えた。(1)ジェンダーは、2 つの項を表
大きな理由である。学問の範型自体がジェンダ
す名詞ではなく、一つの差異を表す単数概念
ー・バイアスがかかったものであること、男性
である。(2)ジェンダーは文化・社会によっ
社会のルールで競争するのではなく、男性社会
て恣意的である。(3)ジェンダーは非対称的
のルール自体を変える必要があることを主張す
な上下(権力)関係の実践である。さらにス
るのがジェンダー研究である。ジェンダーとは
コットは、ジェンダーとは「身体的差異に意
この意味で非常に大きな破壊力を持った分析概
味を付与する知」と簡明に定義した。
念であり、ジェンダー研究は現在の社会制度的
女性学は既成の学問が対象としなかった身
変革のみならず、知の組み替えをも要求するよ
体・性愛・出産・育児を主題として扱った。
うな知的営みなのである。
これは、学問の死角の補完であったが、結果
(文責 内島 秀樹)
−11−
図 書 館 か ら の お 知 ら せ
この4月から図書館の利用規則(貸出冊数・期間)が以下のように変わります。なお、詳細に
ついては資料サービス係にお問い合わせ下さい。
(内線5195)
対象者
本学教官
大学院生等
学部生等
卒論執筆者
冊 数
30冊
20冊
10冊
20 冊
期 間
3 ヶ月
1ヶ月
2週間
1ヶ月
図 書 館 活 動 日 誌
10月10日 平成 13年度第3 回選書委員会
10月17日 平成 13年度第3 回図書館委員会
10月31日 平成 13年度国立大学図書館協議会東京地区協議会人事担当事務(課)長会議
11月37日 講演会(東京大学教授上野千鶴子氏「ジェンダー論の現在」)
11月37日 図書館所蔵ロシア語・中国語貴重書展示会
11月21日 平成 13年度第4 回図書館委員会
12月10日 平成 13年度国立大学図書館協議会東京地区協議会事務連絡会議
12月19日 都立大学との相互協力協定締結
12月12日 平成 13年度第5 回図書館委員会・平成13 年度第4 回選書委員会
平成14年
1月――日
12月12日
サイエンスダイレクト東京地区サブコンソーシアムクロスアクセス開始
(約800 タイトル)
12月12日 ケンブリッジ大学人文系オンラインジャーナルアクセス開始(71 タイトル)
12月12日 LLBA ・MLA インターネットアクセス開始
12 月20日 平成 13年度第5 回選書委員会
12 月27日 平成 13年度第6 回図書館委員会
編 集 後 記
カスタリアは、毎年春の冊子版と夏のインターネット版の 2 回に亘って発行しています。今号は
昨年春の初号の発刊から通算 3 号目となります。今回は、新入生の方が、図書館の基本的な使い方
がある程度わかるようにマニュアル的に編集しました。大学に入学して取りあえず使ってみる施
設の一つに図書館があるのではないかと思います。これから 4 年間の大学生活に欠かせない施設で
もあるでしょう。その意味で、このカスタリアを利用されて、まず図書館の探検をしてみること
をお勧めします。これから 4 年間図書館をふるに使って、皆さんの学習のために有効に活用して下
さい。ご意見、ご要望もどしどしお寄せ下さい。
2002年3 月 30日発行
発 行:東京外国語大学附属図書館 〒 183-8534 東京都府中市朝日町3−11−1
電 話:042−330−5193
印 刷:三鈴印刷株式会社
ホームページ:http://www.tufs.ac.jp/common/library/index−j.html
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