Comments
Description
Transcript
VOL.58 AUTUMN Maroon in Spain
スペイン、ガリシア州のサン・ティアゴ・デ・コン ポステーラはバチカン、エルサレムと並ぶキリス ト教の3大巡礼地のひとつ。10世紀頃から現 在に至るまで、世界中から巡礼者を迎えている。 巡礼路にあたる町には格安で宿と食事を提供 する巡礼宿がある(左) 。 ラス・メドゥラス観光の起点となるポンフェラーダ の町もこの巡礼路にあたる。この町を過ぎると 巡礼路最後の難所が標高1,320mのセレブレ イロ。この村には巡礼路で一番古い教会が巡 礼者を見守っている(右) 。 大自然と見まごう ダイナミックな景観は 古代ローマの残照 濃 い緑の森に覆われた海老茶色 年代にもよるが、だいたい3,200円くら の岩山が連なる壮大な谷。一 い。1ローマン・ポンド約13万円の計 見、アメリカのグランドキャニオンを 算だ。剥き出しの赤い岩肌や、あちこ 想起させる5km四方の景観が、自然 ちに開いた巨大な岩穴は「ルイナ・モ が長い歳月をかけて作り出したもので ンティウム」の名残。繁栄を渇望する はなく、人間の手になるものだという 人間の業が、平坦だった台地の地形を ことが信じられるだろうか。 すっかり崩し、奇妙な岩山の連なりに ここはラス・メドゥラス。スペイン北部 変えてしまった。周囲の緑の森さえも、 のレオン県にある、古代ローマ帝国の そのほとんどが労働者の食用に人の手 金鉱山の跡地だ。2000年前、ローマ で植えられた栗の木なのだ。ちなみに 帝国初代皇帝アウグストゥスの頃、彼 もろく崩れやすい土地なのに現在まで らによる大規模な採掘が始まった。そ 景観が残っているのは、生い茂った栗 れまでも周辺住民により砂金の採掘は の木が、地形の崩壊を防いでいるから 行われていたのだが、ローマ帝国の採 だといわれている。 掘はその方法も規模も桁違いだった。 無尽蔵と思われた金鉱は、250年後に 山崩しを意味する「ルイナ・モンティウ は枯渇し放棄された。ローマ帝国も ム」という工法はローマが誇る水道技 緩やかに衰 退していく。ローマへ金 術を応用したもので、まず、数十キロ を運んだ道は、一部がサン・ティアゴ・ メートル離れた水源から水を引き、金 デ・コンポステーラへの巡礼路になり、 鉱山の山頂に作った貯水池に溜める。 今も多くの巡礼者が行き交っている。 溜めた水を、あらかじめ掘っておいた ラス・メドゥラスは1997年、古代ロー 複数の横穴に一気に引き入れ、その マ鉱業の産業遺産としてユネスコの世 勢いで土砂ごと金を押し流して採取す 界文化遺産に登録され、世界屈指の る。まさに「山崩し」。なんともダイナ 絶景スポットとして人気を集めている。 Maroon ミックな工法だ。プリニウス(AD23/24 人や国家の栄枯盛衰をどう思うかは人 ∼79年)の「博物誌」によると、この頃 それぞれだが、この風景を眺めると、 のラス・メドゥラスでは毎年2万ローマ 僕は人間という種族のたくましさを感 ン・ポンドの金を算出していたという。 じずにはいられない。そして、金の採 Spain 1ローマン・ポンドからは、ローマで流 掘に邁進した古代ローマの人々が、パ 通していた金貨が40∼50枚鋳造でき ワーを与えてくれるような気がするの た。金貨1枚を貨幣価値に換算すると、 だ。 「お前も、がんばれよ」と。 in FRANCE レオン Atlantic Ocean 世界の 色図鑑 World color palette 地球の歩き方 マドリッド 渇望の色・繁 栄の 色 PORTUGAL 編集長 植木 孝 SPAIN Mediterranean Sea 国名 : スペイン 首都 : マドリッド(Madrid) 面積 : 約50万6,000km2 人口 : 約4,646万人(2014年) 言語 : スペイン語 地球の歩き方 ガイドブック スペイン スペインには44カ所の世界遺 産が登録されている。イタリア、 中国に次いで3番目。 悠久の歴史と美しい 自然は、世界中から の旅行者を魅了して Present 5名さま やまない。 定価 1,836円(税込) 全国書店で発売中 2015 AUTUMN 2