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デジタルネイティブを越えて - Weblogs at Harvard
特別論文 デジタルネイティブを越えて 早稲田大学 文学学術院 教授 高橋 利枝 Toshie Takahashi 「デジタルネイティブ」—この現代の若者を捉える言葉は、インターネットやソーシャルメディア、 携帯電話などデジタル技術の急速な普及とともに世界中で活発に論じられてきた。 しかしこの言葉には同時に多くの批判も投げかけられている。 本論文では、まず「デジタルネイティブ」という言葉の定義を明らかにし、 世界及び日本における研究動向を紹介する。 そして「デジタルネイティブ」概念に対する批判や限界について考察し、 現代社会における若者とメディアを捉えるために有効な視点を提示していく。 キーワード デジタルネイティブ 若者 メディア スマートフォン ソーシャルメディア さってできています。 「デジタル」は、デジタル機器や 1. デジタルネイティブとは? デジタル 時代、 デジタル 世界に関するもの。 そして 「 ネイテ ィ ブ 」は、「 その土地や国に生まれた人 」や 現代の若者を捉える言葉には、 「デジタルネイティ 「生まれつき」などの意味があります。つまり、デジタ ブ」や「サイバーキッズ」 「ミレニアム」など様々な言 ル時代に生まれ育った人たちを「デジタルネイティブ」 葉があります。中でも「デジタルネイティブ」という言 と呼んでいます。 葉は、そのインパクトの強さから、世界中で注目され、 デジタルネイテ ィ ブ の名付け親 マ ー ク・ プレンス 産業界を始め、学者や政府、広告業界、メディア・IT キィ(Mark Prensky)は、現代の若者はテレビゲーム 産業などで活発に論じられてきました。 やインターネット、携帯電話など、デジタル機器に絶 え間なく関わることによって、アナログ時代の人たち 「デジタルネイティブ」と「デジタル移民」 「 デジタルネイテ ィ ブ 」という言葉は、 文字通り、 「デジタル」と「ネイティブ」という二つの言葉が合わ 50 Vol.18 2014 Summer とは脳の発達の仕方が異なっていると、脳科学者の見 解 を 引 用 し な が ら 自 説 を 述 べ て い ま す(P r e n s k y , 2001a; 2001b) 。 さらにプレンスキィは、アナログ時代に育ち、大人 つに集約されます。第1 に、社員としてのデジタルネ になってからデジタル世界に移住した人たちのことを イティブ。デジタルネイティブと呼ばれる世代の人た 「デジタル移民」と呼んで、デジタルネイティブと対比 ちが企業に就職するにあたって、新入社員研修にデジ タル技術を取り入れたり、企業内コミュニケーション させています。 や仕事のやり方や採用の方法など、会社や組織の在り デジタルネイティブの定義 方そのものを変革する必要があるというもの。第 2 に、 また、法学者であり、デジタルネイティブプロジェ 顧客としてのデジタルネイティブ。これまでのアナロ クトを行ったハーバード大学ロースクールのパルフ グ時代の消費者とは異なるため、マーケティングや商 リィ教授ら(Palfrey & Gasser, 2008)は、 「デジタル 品開発、広告、顧客との関係の構築の仕方、企業の役 ネイティブ」を、1980年以降に生まれ、デジタル技術 割など再構築していく必要があるというものです。 にアクセス可能で、 「デジタルリテラシー」を身に着け デジタルネイティブに対する関心は各国の企業ばか ている人と定義しています。そしてその特徴を「グロー りではなく、米空軍や研究者たちの間でも高まってき バルな文化を共有し、絶えず互いにつながっている」と ました。例えば、2009 年11 月には、ノーベル賞受賞 述べています。 者などを支援しているアメリカ の研究機関“AFOSR 本稿では、 「デジタルリテラシー」の狭義の定義とし (Air Force Office of Scientific Research)”が、世界の て、マスメディア時代のメディアリテラシー にプラ 「若者とメディア」に関する研究者 20 人を集め、デジ スして、携帯電話やパソコンなどのデジタル機器を使 タルネイティブに関するワークショップを開催しまし いこなせる(発信力やクリエイティビティ、批判性を た。アメリカ、イギリス、オーストラリア、韓国、日 含めて)能力とします。そして、広義の定義として「デ 本などの脳科学者やゲーム研究者、社会学者、ジャー ジタル世界を生きるための能力」としたいと思います 。 ナリスト などとともに、 私も招 聘 され、 韓国の脳科 1) 2) しょうへい 学者 Soo-Young Lee 教授がホスト となり、KAIST 2. デジタルネイティブの研究動向 (the Korea Advanced Institute of Science and Technology)で 3 日間のワークショップが開かれまし 世界におけるデジタルネイティブ研究 た 6)。 アメリカをはじめとしてイギリス、フランスなどの 同じ頃、 イギリス では、 ロンドン 大学教育学部の 西欧諸国や、日本、韓国、インド などの非西欧諸国 バッキンガム(David Buckingham)教授とオッ クス においてもデジタルネイティブは注目を集めてきまし フォード大学教育学部のデーヴィス(Chris Davies)教 た。 フランス では、 ル・ モンド 紙が、 「 デジタルネイ 授、 ロンドン・スク ー ル・オブ・エコノミクス 大学の社 ティブは企業を激変させる」 や「企業よ、デジタルネ 会心理学者リビングストーン(Sonia Livingstone) 教授 イティブの到来に対して準備せよ」 などというセン の 3 人によるデジタルネイティブに関するセミナーが セーショナルな記事を書いています。これらの記事の 開催されました。このセミナーは、「デジタルネイティ 中では企業の文化的、社会的、組織的、技術的習慣を ブ:一つの神話」7)と名付けられ、学術的な見解から かき乱すような若者像が描かれています。 厳しい批判が投げかけられました。 3) 4) 5) 企業がデジタルネイティブに注目する理由は次の二 Vol.18 2014 Summer 51 特別論文 日本におけるデジタルネイティブ研究 概念に注目して、 音声通話、 ケ ー タイメ ー ル、 ミク 日本では 2008年11月にNHKスペシ ャ ル で取り上 シィ、ブログなどに異なる「空気」が存在することを げられて以降、 認知度が高まっ てきます。2009 年に 指摘しています。 はドン・タプスコットの邦訳書『デジタルネイティブ このようにデジタルネイティブ研究では世代間の格 が世界を変える』が出版され、東京大学情報学環の橋 差について注目されている一方で、ケータイネイティ 元良明教授と電通総研による共同研究「ネオ・デジタ ブ研究では、20 代後半以下の同じ世代でも、日本の新 ル・プロジェクト」 (橋元他、2009)が行われました。 村社会に閉じこもる村人と、グローバルなつながりを ここでは、デジタルネイティブを 76世代、86 世代(20 求める人との間の世代内における格差について述べら 代、30 代)とし、その特徴をパソコンやインターネッ れています。 ト、テキスト・音声ベースでコミュニケーションをす るとしています。それに対して、96世代(10 代)をネ 日本におけるデジタルネイティブの定義 オ・デジタルネイティブとし、モバイル、動画、映像 私自身は、2007 年にハーバード大学バークマン・セ によってコミュニケーションをするとしています。 ンターから「デジタルネイティブ」プロジェクトへの また同じ頃、 博報堂の原田曜平氏(2009)による 協力要請を受けた時、日米におけるメディア環境の違 「ケータイネイティブ」の調査が行われました。山本七 いからデジタルネイティブを以下のように便宜的に定 平の『空気の研究』 (1977)や村社会など日本の文化的 義しました(高橋他、2008 年、p.72)。 特殊性に注目し、ケータイネイティブの特徴として、 情報収集より人間関係の維持・拡大を重視しており、 Windows 95 が発売され、パソコンが一気に普及する 携帯電話による絶え間ないつながりによって、 「噂話・ ようになった 1995年を基準として、このときに 12歳 陰口が多く、出る杭は打たれ、他人の顔色をうかがい、 以下(中学校に入学する以前)であった者をデジタル 空気を読むことが掟とされる、かつて日本にあった村 世代(Born Digital)、13 歳以上であった者を非デジ 社会が若者の間で復活したのです」 (p.246)と述べてい タル世代(Non-Born Digital)とし、パソコンや携帯 ます。そして戦後の村社会の崩壊の動きと逆行して生 電話などの情報機器や通信機器を日常的に利用し、 まれたこのような新村社会は、24時間常時接続のため 高度なメディアリテラシーを習得しながら、社会化 逃げ場もなく、 「複雑な人間関係のしがらみに息苦し の過程を経た若年層世代 さを感じ、既視感によって視野や行動範囲を狭めてち 52 ぢこまる村人と、地域や偏差値や年代を超えて活動の もちろん、現代の高度情報化社会を生きる全ての人 幅を広げる村人との『ネットワーク格差』を生み出し たちが、メディア環境の変化の影響を同じように一様 たのです」 (p.247-248)と指摘しています。 に受けているわけではありません。 本人の年齢、 学 さらに東京大学総合文化研究科の木村忠正教授 歴、階級、文化資本、親の学歴・職業など様々な要因 (2012)はデジタルネイテ ィ ブ を 4世代( 第1 世代: ~ によって、新しい情報技術へのアクセシビリティや適 1982年生まれ、 第2 世代:1983 ~ 87 年生まれ、 第3 応力、自己呈示や他者との相互作用の在り方は異なる 世代:1988 ~ 90年生まれ、 第4世代:1991 年生まれ でしょう。そのためデジタルネイティブの実態を捉え 以降 )に分類しています。 そして原田氏同様「 空気 」 るために、ここでは世代間と世代内の格差を考慮する Vol.18 2014 Summer ため、 世代軸とデジタル・ ライフスタイル 軸( デジタ した実践をしている人を指します。 ル実践者 Live Digital と非デジタル実践者 Non-Live 第4 に、デジタル移民(Digital Immigrants) 。デジ Digital)によって、現代を生きる人たちを以下のよう タル移民は、これまでの生活のなかで、デジタル世界 に四つに分類しました(図表1) 。 を経験することがなかった人たちを意味します。 第 1 に、デジタルネイティブ(Digital Natives)。こ れは、パソコンや携帯電話などの情報機器や通信機器 デジタル世代 vs.非デジタル世代 を日常的に利用し、高度なデジタルリテラシーを習得 プレンスキィを始めとするデジタルネイティブに関 しながら、社会化の過程を経た若年層世代を意味して する主な言説は、 図表 1 の赤枠の「 デジタルネイテ ィ います。特に、ソーシャルメディアや、ニコニコ動画 ブ」と「デジタル移民」の 2 項対立を用いて論じられて や YouTubeといった動画共有サイトを積極的に利用 きました。 デジタル 世代と非 デジタル 世代では、 メ することによって、積極的に情報収集やコミュニケー ディアのエンゲージメントの仕方が異なります。例え ションをしている若年層世代を指しています。 ば、総務省の調査(2013a)によると、各メディア別の 第 2 に、デジタル異邦人(Digital Strangers) 。これ 利用を世代で比較すると、図表 2(次頁)に見られるよ は、高度情報化が実現された社会に生まれながら、社 うに、 デジタルネイテ ィ ブ である 10 代、20 代はテレ 会・経済的格差により日常生活において、パソコンや ビよりインターネットの行為者率の方が高く、利用時 携帯電話などの情報機器や通信機器を利用することな 間も拮抗しています。一方、テレビ、新聞、ラジオの く生活してきた若年層世代を指します。 利用は世代とともに、利用時間、行為者率ともに増加 第 3 に、デジタル定住者(Digital Settlers) 。デジタ している一方で、インターネット利用は減少していま ル定住者は、幼少期から家庭や学校などでパソコンや す。非デジタル世代である 60 代ではテレビ利用が圧倒 携帯電話などの情報機器や通信機器に接触しながら 的に多く、インターネット利用は 40%程度にとどまっ 育ったわけではありませんが、ある程度の社会化の過 ています。そしてデジタル世代である 25 歳以下に注目 程を経たあとにデジタル世界に入り、高度なデジタル した調査(総務省、2013b)によると、スマートフォン リテラシーを習得し、日常的にそのような能力を生か /フィーチャーフォンを所有している高校生以上では、 きっこう 図表1 世代とデジタル利用による四分類 デジタル実践者 Live Digital 非デジタル実践者 Non-Live Digital 1 デジタル世代 非デジタル世代 Born Digital Non-Born Digital デジタルネイティブ 2 Digital Natives デジタル異邦人 Digital Strangers 3 4 デジタル定住者 Digital Settlers デジタル移民 Digital Immigrants (高橋利枝他,2008,p.72) Vol.18 2014 Summer 53 特別論文 図表2 主なメディアの利用時間と利用割合(総務省 , 2013 a, p.2) 87.3% % 100 71.0% 80 60 40 20 テレビ(リアルタイム)視聴時間 ネット利用時間 新聞閲読時間 ラジオ聴取時間 テレビ(リアルタイム)行為者率 ネット行為者率 新聞行為者率 ラジオ行為者率 80.9% 8.6% 10.4% 3.2% 5.3% 121.2 112.5 71.6 15.5 16.1 分 1.7 分 50 分 2.4 分 分 6.8 65.8% 42.3% 59.4% 12.2% 14.2% 219.2 263.0 分 分 分 74.6 13.3 17.6 51.3 23.5 19.4 分 分 分 35.1 27.4 分 分 .4 分 33.9 分 分 12 分 8 分 63.4% 分 分 2.4 分 93.3% 10.8% 187.4 76.5 分 93.9% 76.1% 6.1% 158.9 102.9 108.9 89.2% 45.7% 分 分 100 83.1% 28.5% 9.3% 200 150 78.7% 75.9% 分 300 184.7 85.6% 40.0% 0 250 90.0% 分 分 分 .3 分 0 全体 10 代 20 代 30 代 40 代 50 代 60 代 (N=3000) (N=278) (N=450) (N=592) (N=556) (N=524) (N=600) ※ 平均利用時間:各情報行動について、一日あたりの平均時間 ※ 行為者率:調査の 2 日間の 1 日ごとにある情報行動を行った人の比率(利用割合)を求め、平均したもの 出典:総務省 情報通信政策研究所(2013) 「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」 図表3 スマートフォン/フィーチャーフォン所有者が最も重要だと思う機器(総務省 , 2013 b, p.6) スマートフォン/ フィーチャーフォン パソコン 39.5% 39.5% (n=30 以上の場合) 性別 学生別 全体 n=1953 39.5 39.5 11.7 4.5 2.8 1.9 0.1 男性 n=934 51.7 29.9 8.5 6.5 2.1 1.3 0.0 女性 n=1019 28.4 48.3 14.6 2.6 3.4 2.6 0.1 小学 4∼6 年生 n=175 14.9 12.6 39.4 26.9 2.9 3.4 0.0 中学生 n=270 25.6 33.7 21.5 9.3 5.6 4.1 0.4 高校生 n=482 47.9 35.9 8.1 2.1 3.9 2.1 0.0 大学生 n=680 44.9 46.6 5.0 0.7 1.6 1.2 0.0 社会人 n=346 40.8 48.6 8.1 0.3 1.4 0.9 0.0 出典:総務省 情報通信政策研究所(2013) 「青少年のインターネット利用と依存傾向に関する調査」 54 Vol.18 2014 Summer 0.1% 雑誌 全体 −10 ポイント以上 1.9% マンガ本 全体 −5 ポイント以上 2.8% 4.5% ゲーム機 テレビ 全体 +5 ポイント以上 音楽プレーヤー 11.7% 全体 +10 ポイント以上 ※全体値 降順で並び替え 最も重要だと思う機器は、テレビやゲーム機を押しの むにつれて、スマートフォンやソーシャルメディアと けて、 「パソコン」と「スマートフォン/フィーチャー のエンゲージメントが高く、テレビやラジオなどのマ フォン」がともに高くなっています(図表3) 。スマー スメディアよりも重要なメディアとなっていることが トフォン/フィーチャーフォンでほぼ毎日利用する わかります。 サービスは「ソーシャルメディアを見る」が 50.4%と 3. デジタルネイティブに対する批判 最も高く、 次いで「 友だちとメ ー ル する」 (38.3 %) 、 「ソーシャルメディアに書き込む」 (32.3%)となってい ます(図表 4)。このようにデジタルネイティブである インターネットやソーシャルメディア、携帯電話な 現代の若者はデジタルリテラシーを習得し社会化が進 どのデジタル技術の発展に伴って世界各国において、 図表4 スマートフォン/フィーチャーフォンの利用サービス・アプリ等(総務省 , 2013 b, p.28) 3.6% 8.2% 4.6% 8.2 4.6 3.6 3.5 1.8 1.7 1.2 0.8 9.5 9.5 3.7 3.0 3.3 2.8 2.6 1.5 1.4 6.3 7.4 7.0 5.4 4.1 3.7 1.0 0.9 1.0 0.3 1.1 6.9 2.3 0.0 0.6 1.1 0.0 0.6 1.1 0.0 5.9 3.7 1.9 2.2 1.1 2.2 1.9 0.4 (n=30 以上の場合) 性別 学生別 〈参考〉ネット 依存的傾向別 (3 区分) スマートフォン 所持別 n=1953 50.4 38.3 32.3 27.4 26.8 17.5 16.1 15.4 13.7 男性 n=934 女性 n=1019 54.2 40.4 34.6 29.6 24.0 17.9 19.4 12.6 12.7 9.8 46.4 36.0 29.8 25.1 29.9 17.1 12.5 18.4 14.9 13.7 ショッピングや オークションをする 写真や画像を ダウンロードする 3.5% 1.8% メル友募集・出会い系の サイトを利用する 音楽をダウンロードする 8.4 全体 −10 ポイント以上 全体 1.7% 1.2% 0.8% 学校サイトを利用する ネット小説・ ウェブコミックを読む 文字チャット、 メッセンジャーを利用する 9.8% 匿名掲示板を利用する 全体 −5 ポイント以上 ソーシャルゲームをする 16.1% 15.4% 13.7% ネット動画を見る 全体 +5 ポイント以上 8.4% 家族とメールする 全体 +10 ポイント以上 無料通話アプリや ボイスチャットを利用する ニュースを見る 26.8% 17.5% ソーシャルゲーム以外の オンラインゲームをする 27.4% ホームページや ブログを見る ソーシャル メディアに書き込む 32.3% 自分で撮った写真や作った画像をサイトに 投稿したり、友だち・恋人などと共有したりする 38.3% 友だちとメールする ソーシャル メディアを見る 50.4% 小学4∼6年生 n=175 中学生 n=270 26.3 55.2 21.9 13.7 11.1 11.5 17.0 17.0 15.6 3.3 10.7 高校生 n=482 51.2 34.4 35.9 24.5 22.2 21.4 18.3 18.0 13.5 8.9 10.4 11.0 5.6 5.6 5.6 2.7 1.7 1.7 0.6 大学生 n=680 65.9 39.4 43.8 35.6 35.7 19.6 13.8 14.7 15.0 14.7 7.1 10.1 5.0 3.7 3.5 1.3 1.8 0.7 1.3 社会人 n=346 60.4 38.2 27.5 36.1 37.9 18.8 16.5 15.9 14.5 11.0 7.2 5.2 5.5 3.5 2.9 3.2 1.7 1.2 0.9 5.7 18.9 3.4 8.0 7.4 5.7 17.1 6.9 5.1 70点以上 n=133 55.6 42.9 45.9 37.6 33.1 26.3 20.3 31.6 19.5 22.6 40−69点 n=827 54.1 38.3 37.2 31.1 26.1 17.5 15.4 17.0 15.0 11.6 20−39点 n=993 46.7 37.7 26.4 23.1 26.6 16.3 16.2 11.8 11.9 ネット依存自覚者 n=659 59.8 35.4 41.4 36.7 30.5 17.9 16.8 19.9 16.5 15.0 所有 非所有 6.6 n=1183 68.0 41.5 44.3 36.3 34.1 27.0 16.9 21.7 17.8 13.9 n=770 23.5 33.4 13.9 13.9 15.7 2.9 14.9 5.6 出典:総務省 情報通信政策研究所(2013) 「青少年のインターネット利用と依存傾向に関する調査」 7.4 3.6 8.3 7.5 5.3 6.0 7.6 8.9 5.1 4.5 4.1 1.8 1.8 1.2 0.7 7.9 6.2 2.9 1.5 1.8 1.0 0.8 0.7 0.2 9.6 11.4 7.6 7.3 6.8 2.9 2.3 1.8 1.7 13.0 12.8 5.4 5.2 5.1 2.5 2.4 1.8 1.1 3.4 1.2 1.2 0.8 0.6 0.4 0.4 17.3 18.0 14.3 13.5 12.8 1.3 1.0 ※全体値 降順で並び替え Vol.18 2014 Summer 55 特別論文 デジタルネイティブに対して注目が集まり活発な議論 ています。 が交わされる一方で、研究者からは厳しい批判が投げ 最後に若者に対するエキゾチズムに関する批判があ かけられています(Bennett, Maton, and Kervin 2008; ります。ロンドン大学のバッキンガム教授は、デジタ Helsper and Eynon 2010; Livingstone, 2009; Selwyn, ルネイティブが語られる文脈には希望と恐怖が混在し 2009)。 主な批判をまとめると、 決定論、 モラルパ ていることを指摘しています(Buckingham, 1998) 。 ニック、方法論、西欧中心主義、エキゾチシズムに集 日本においても経済的に低迷し、閉塞感のある日本社 約されます。 会の変革の希望の光をデジタルネイティブに託してい まず、 世代決定論や技術決定論に見られるように ます。その一方で、デジタルネイティブという言葉に 「デジタルネイティブ」という概念が決定論的であると 込められる「他者性」は、テレビゲームやインターネッ いう批判があります(e.g. Selwyn, 2003; Jones, 2011)。 ト、携帯電話など新たなメディアに対する大人たちの この批判はデジタルネイティブという概念が世代間に モラルパニックを表しています。コントロールできな おける差異を強調し過ぎており、 世代内の多様性を い、理解できない子供への恐怖、家庭・学校・権力の 軽視し、 現代の若者を同質化しているというもので 崩壊など、社会・経済的に先行き不透明な日本社会に す(e.g. Buckingham, 2006; Facer and Furlong 2001; おいて希望と恐怖の複雑な見解とともにデジタルネイ Livingstone 2008a) 。 ティブは語られてきたのです(Takahashi, 2011) 。 第 2 に、デジタルネイティブという概念が単なる「モ ラルパニック」 (Cohen, 1972)であるという批判です。 4. デジタルネイティブを越えて 1930年代には映画、50年代にはテレビという「ニュー メディア」が登場した時、盛んに論じられた「モラル それでは、デジタルネイティブという概念は意味が パニック」と同様に今、再び、インターネットやテレ 無いのでしょうか? デジタルネイティブに対して投 ビゲーム、スマートフォンといったニューメディアに げかけられた多くの批判に応え、『デジタルネイティ 対して、社会や人々、特に子供に対する悪影響に関し ブを脱構築する』 (Thomas, ed., 2011)の中でハーバー て多くの不安が投げかけられています。 ド大学パルフリィ教授らはデジタルネイティブの再構 第 3 は方法論に関する批判です。多くのデジタルネ 築を、また、デジタルネイティブの名付け親プレンス イティブに関する言説は現実の現象というより、むし キィは「デジタルウィズダム(Digital Wisdom) 」とい ろビジネスや政策のための言説にすぎず、また、プレ う新しい概念について述べています。 ンスキィやタプスコットの研究もデータの信頼性に欠 56 ける(e.g. Francis, 2007)という批判です。 デジタルネイティブの再構築 第 4 に、グローバルなレベルで見た場合、デジタル デジタルネイティブに対する最も厳しい批判は、 「デ ネイティブの概念が西欧中心主義であるという批判も ジタルネイティブ」vs「デジタル移民」という 2項対 あります。デジタルデバイドという言葉が示すとおり、 立です。この批判に対してパルフリィらは、デジタル 80 年以降に生まれても、発展途上国や貧困による社会 ネイティブをデジタル技術を使いこなす若者たちの一 経済的格差によりインターネットや携帯電話などデジ つの「世代(generation)」としてではなく、「人口、市 タル機器に接することができない人たちも多く存在し 民、集団(population)」として定義しています。ここ Vol.18 2014 Summer で重要なのは、デジタル技術を使いこなす若者たちの ルネイティブと非デジタル世代のデジタル移民との対 間にグローバルな文化が創発していることであり、「最 比に焦点が当てられていたのに対して(図表1)、これ も重要なことは、新たなメディア実践によって何が起 からは世代を越えてつながり合う「デジタルネイティ きているのか理解するための共通のコミットメントを ブとデジタル定住者」に対して、非デジタル実践者で 共有すること。そして、大人も若者もメディア実践に ある「デジタル異邦人とデジタル移民」の間に格差が よって好機をつかみ、リスクを軽減するために共に努 広がっていく。このデジタル実践者と非デジタル実践 力することである」 (Palfrey &Gasser, 2011, p.201)と 者との間の格差は国内だけではなく、グローバル世界 述べています。 の構図をも大きく塗り変えてしまうことでしょう。本 稿において広義の定義として「デジタル世界を生きる デジタルネイティブからデジタルウィズダムへ ための能力」としたように、グローバル化、デジタル 一方、プレンスキィ自身も「重要なのはデジタルネ 化が進む世界においてデジタルリテラシーは、かつて イティブとデジタル移民という区別を強調することで の「読み書き能力」のように現代社会を生き抜くため はなく、『デジタルウィズダム(digital wisdom) 』の概 に必要不可欠な能力といえるのではないでしょうか。 念について考えることである」 (Prensky, 2011, p.18) 若者に過度に変革の希望を託すのでもなく、他者とし と述べています。脳はデジタルとの相互作用によって て恐怖を感じ、無理に価値観を押し付けるのでもなく、 再構築されるため、デジタル技術は思考力を高める。 現代社会におけるデジタルリテラシーの必要性を理解 またデジタルによるデータ収集や蓄積、意思決定ツー し、これまで以上にコミュニケーションを大切にして ルは判断力を高める。我々はすでにデジタル技術によ 相互理解を図り、共によりよい社会を創っていくこと る能力の向上に依存しており、オバマ大統領やルパー が大切なのではないでしょうか。 ト・マードックのように多くのデジタル移民は世代間 の格差を越え、デジタル叡智にあふれていると述べて 謝辞 います。 本論文の主要な部分は、2009 ―2011 年度科学研究費 補助金(基盤研究 B「デジタルネイティブの国際比較 世代論を越えて 研究」研究代表:高橋利枝〈研究協力:ハーバード大 10代から 20代のソ ー シ ャ ルメデ ィ ア 利用から生 学バークマンセンター、オックスフォード大学教育学 み出されたC世代という言葉があります。 この言葉 部〉)の助成を得て行われたものです。 が意味している、 コンピ ュ ー タ(Computer)、 イン ターネット上でのつながり(Connected) 、コミュニ テ ィ(Community) 、 協働(Collaboration)、 変化 (Change) 、自分流を編み出す(Create)などは、イン ターネットやスマートフォン、ソーシャルメディアの 普及に伴って、世代を越えてつながり合う集団、市民 (population)の特性と考えることができるのではない でしょうか。そして、これまでデジタル世代のデジタ Vol.18 2014 Summer 57 特別論文 Toshie Takahashi 高橋 利枝 早稲田大学 文学学術院 教授 共 著 書 とし て“T h e L a n g u a g e 東京大学大学院社会学研究科修士 o f S o c i al M e di a” (P al g r a v e , 課程修了。東京大学大学院人文社会 2014) 、 “Deconstructing Digital 系研究科博士課程単位取得満期退 N a t i v e s” (R o u t le d g e, 2011) 、 学。英国ロンドン・スクー ル・オブ・エ コノミクス・アンド・ポリティ カルサイ 注 “In t e r n a t i o n a l H a n db o o k o f Children, Media and Culture” エンス大学院博士課程修了Ph.D.取 (S a g e, 2008) 。 主な単 著論 文は 得。 現在、 早稲田大学文学学術院 ‘MySpace or Mixi? Japanese 教授。2010年オックスフォード 大 Engagement with SNS(Social 学客員リサ ー チ・フェロー。2010 Networking Sites)in the Global 〜 2011年 ハ ー バ ード 大学 ファ カ Age’ ( “New Media and Society” , ルテ ィ・ フ ェ ロ ー。IAMCR( 国際 Sage, 2010) 、 「デジタル・ネイティ メデ ィ ア・ コミ ュ ニケ ー シ ョン 学 ヴと日常生活――若者とSNSに関す 会)オーディエンス研究部門副部門 るエスノグラフィー」 (情報通信学会 長。 米学術雑誌 “Television and 誌、2009)他多数。現在、オックス New Media” (Sage) 編集委員。主 フォード大学教育学部と共に「若者 な著書は単著書として“Audience とメディア」に関する国際比較研究を S t u d i e s” (R o u t l e d g e ,2009) 、 行っている。 1) 東京大学情報学環の濱田純一教授を座長とする「放送分野における青少年とメディア・リテラ シーに関する調査研究会」報告書は、放送メディアに注目して、メディア・リテラシーを「メ ディア社会における生きる力」とし、次の三つの構成要素からなる複合的な能力としている (pp.5 -7) 。 1 .メディアを主体的に読み解く能力。 2 .メディアにアクセスし、活用する能力。 3 .メディアを通じてコミュニケーションする能力。特に、情報の読み手との相互作用的 (インタラクティブ)コミュニケーション能力。 http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/top/hoso/kyouzai.html 2)「リテラシー」という言葉に関しては、情報リテラシー、メディアリテラシー、デジタルリテラ シーなどこれまで多様な用語が用いられてきた。ユネスコは、情報技術に関わるリテラシーを 全て統合した「メディア・情報リテラシー(Media and Information Literacy) 」を民主主義社会 における市民のエンパワーメントに必要な能力として現在世界中で普及活動に務めている。 “Digital Natives with a Cause?”the Center for Internet & 3) Shah and Abraham(2009) Society, India. 4) http://www.lemondeinformatique.fr/dossiers/lire-digital-natives-ils-vont-bouleverser-lentreprise-68 .html 5) http://www.lemondeinformatique.fr/actualites/lire-entreprises-preparez-vous-a-l-arrivee-desdigital-natives-27373 .html 6)“Etiology and impact of‘digital natives’on cultures, commerce and societies”. 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