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クレジット・スコアリングと金融機関経営

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クレジット・スコアリングと金融機関経営
クレジット・スコアリングと金融機関経営∗
–第 1 世代の中小企業信用リスク計測モデルを用いた検証–
蓮見 亮
†
平田 英明
‡
2008 年 8 月 1 日
Abstract
本稿では、この数年で急速に一般化してきたスコアリング貸出の定量的な情報を用
いて、金融機関経営とスコアリング貸出市場の今後の拡大の可能性について検証す
る。金融機関の貸出行動をモデル化し、Moody’s モデルを使った貸出のシミュレー
ションを行ってみると、単独の財務指標に頼って貸出の可否を判断するよりも、高い
収益性を実現することが確認される。ただし、個々の企業レベルでみると、高いスコ
アを得ていた企業がデフォルトしたケースも少なからず存在している。この事実は、
スコアリング貸出を小口分散化させ、スコアリング貸出債権を一つのポートフォリ
オとみなすべきであることを示唆する。
モデルの特徴に関してもいくつかの検証を行うと、説明力の高い変数へのモデル
内でのウエイトが不十分である可能性が示唆された。そして、財務諸表の信頼性が、
スコアの精度を押し下げているインパクトも、無視し得ない。審査コストの削減は
モデル適用の大きな利点であるといわれるものの、スコアリング貸出をより採算の
とれるビジネスにするためには、小野 [2007] が指摘するように、事前の面談やモニ
タリングなどのコスト負担は避けられない。
∗
本研究は Moody’s Credit Markets Research Fund の助成を受けたものである。分析にあたっては、
ムーディーズKMVより RiskCalc を無償で利用させて頂くとともに、東京商工リサーチに中小企業財務
データの無作為抽出をして頂くなど、様々なご協力を得た。また、2008 年金融学会春季大会、国民金融
公庫、慶應義塾大学、成城大学、日本経済研究センター、法政大学、武蔵大学におけるセミナーにおいて、
数多くの方に有益なコメントを頂いた。また、とくに稲倉典子氏、小野有人氏、久保田敬一氏、黒坂佳央
氏、胥鵬氏、鶴田大輔氏、深尾光洋氏、松岡秀明氏、吉野直行氏に詳細なコメントを頂いた。深く御礼申
し上げたい。
† 慶應義塾大学/日本経済研究センター E-mail: [email protected]
‡ 法政大学/日本経済研究センター E-mail: [email protected]
1
1 はじめに
90 年代の半ばから続いた中小企業向け貸出残高の低下傾向に、00 年半ば以降、ようや
く歯止めがかかりつつある。その要因の1つに、中小企業向け貸出の新しい貸出手法であ
るトランズアクション型貸出(transaction based banking)の急拡大が挙げられる。ト
ランズアクション型貸出とは、ハード情報と呼ばれる、おもに財務情報や入手しやすい
定性情報などの企業情報のみを用いた判断に基づく貸出である (Berger and Udell [2002,
2003])。
トランズアクション型貸出のうち、自動審査無担保ローン等とも呼ばれるスコアリング
貸出は、00 年代前半から本格化した。この貸出スキームでは、デフォルト判別に有効な情
報を説明変数とした質的選択モデルなどの統計学手法により構築されたスコアリング・モ
デル(以下、モデル)を用いて、各貸出債権のデフォルト確率(以下、スコア)を推計す
る。そして、推計されたスコアを基準として、貸出判断および(理論的には)貸出金利の
上乗せ幅(スプレッド)を決める。
高まるスコアリングの役割の重要性は、貸出の拡大や多様化に限られたものではない。
たとえば、バーゼル II が 07 年より導入された中で、精度の高い信用リスクの定量化ツー
ルの拡充が求められており、モデルはそのツールの 1 つとして、金融機関のみならず金融
監督当局にとっても重要である(Altman and Sabato [2005, 2007])。また、わが国でも
06 年度より実施された信用保証協会の弾力的(段階的)保証料率の算定には、スコアが利
用されている。更に、近年組成が全国的に行われるようになってきた CDO(束ねられた
貸出債権等を証券化した商品)のリスク評価にも、スコアリングは活用されている。
一方で、スコアリング貸出の問題点も徐々に明らかになってきている。たとえば、東京
都の出資によって 05 年に設立された新銀行東京のスコアリング貸出「ポートフォリオ」
は、債務超過や赤字の場合でも、スコアが一定以上であれば貸出を行うというスキーム
であった。しかし、07 年度 3 月期に 500 億円以上の赤字を出した主たる要因は「ポート
フォリオ」の失敗であったとされ、その後スキームが見直された。また、日本銀行 [2007]
も、実用的に用いられているモデルの精度が、一般的に不十分であることを指摘してい
る。さらに、大手行を中心に、スコアリング貸出残高を圧縮する傾向が見られる。
以上を踏まえると、スコアリング貸出のようなハイテク型の貸出スキームは、本当に貸
出にかかるクレジット・リスクを的確に定量化しているのであろうか、という疑問が自ず
と沸いてくる。
本稿の問題意識は、スコアリング貸出のクレジット・リスク定量化パフォーマンスを金
融機関の視点から検証し、その問題点を明らかにしていくことである。特に本稿では、ス
コアリング貸出の揺籃期である 00 年代前半に利用された第 1 世代モデルが運用された時
2
期に注目する。この時期、まだモデルのパフォーマンスについてはほとんど情報がない中
で、スコアリング貸出がはじまっている。そのパフォーマンスを確認し、金融機関経営へ
のインプリケーションを導くことが目標である。
残念ながら、費用面の問題などもあり、このような研究は筆者の知る限り行われていな
い。だが、その必要性は、スコアリング貸出の先進国である米国でも度々提言されている
(Mester [1997])
。モデルによっては、モデルの基本的な仕様、モデルの精度、業種別にみ
たスコアとその後のデフォルトの関係に関する開示は行われている。とはいえ、モデルの
具体的な定式化までについては、ビジネス戦略的な理由もあって開示はされておらず、事
後的にみたモデルについての精度に関する詳細なレビューも対外的には不完全にしか開示
されていない。わが国でも「今後、実際のデータによって繰り返し検証を行っていくこと
が不可欠である」と日本銀行金融市場局 [2004] で指摘されている。すなわち、地道な分析
の蓄積こそがモデルの精度に関する「手触り感」をユーザーに与え、スコアリング貸出市
場の拡大に繋がる。そればかりでなく、貸出債権の信用リスクの定量的評価の質的向上も
進み、ひいては貸出債権の証券化商品市場の発展や信用保証スキームの充実にも資する。
ところで、スコアリング貸出についての先行研究は、大きく 2 つに分類できる。1 つは、
モデルの構築並びに精度自体に関する分析である。このタイプの分析では統計的な分析が
研究の核となる。諸々のマイクロデータを使った新しいモデルの提唱やモデルの確からし
さに関する検定手法の提唱などが主たる研究例である*1 。もう 1 つは、モデルの経済効果
や金融機関経営に関する分析である。おもにスコアリング貸出が金融機関によってどのよ
うに使われているのかといった点に目が向けられ、金融機関へのサーベイ調査等のデータ
を使った検証が行われることが多い*2 。
本稿の分析は、これらの先行研究とは一線を画する。われわれは、モデルのユーザーが
実際にスコアリング貸出を通じて、収益を上げていくというビジネス・モデルのフィー
ジビリティを検証する。先行研究のように、モデルの精度を「所与」とした金融機関経営
分析ではない点が大きな違いである*3 。すると、当然モデル自体の評価をすることになる
が、モデル自体の精度を批判したり、新しいモデルを提唱したりすることは必ずしも研究
の主眼ではない。むしろ、実際に活用されているモデルを使って、スコアリング貸出の揺
籃期にいったいどういったリスク・プロファイリングが行われたかを分析する。その結
果、スコアリング貸出市場の部分均衡的な収益性がどの様に変化したのかを事後的に点検
するのが 1 つの目的である*4 。更に、モデルをどのように使っていくことが、収益性を高
*1
*2
*3
*4
新しいモデルの提唱については、平田 [2005] で指摘されている諸論文や Rommer [2005] のサーベイを
参照。検定方法については、わが国では山下 [2005] などがある。
日本に関しては益田・小野 [2005]、米国に関しては Berger and Frame [2007] のサーベイ参照。
Stein [2005] と Blöchlinger and Leippold [2006] は、本稿と同様の問題意識で、receiver operator
characteristic (ROC) カーブを用いてスコアリング貸出の収益性を検証している例外的な研究といえる
ここで、部分均衡的としたのは、実際には一部の貸出が既存の貸出等との代替で実施されている可能性
3
める上で有効かを考えていくのがもう 1 つの目的である。
具体的な分析は、以下のような手順で行う。まず、分析に用いるモデルの特徴を説明す
るとともに、分析に用いる企業データの特性を明らかにする。そして、貸出実行時の各貸
出先企業のスコアと、貸出終了時の生存先とデフォルト先との対応関係を調べ、業種別・
財務指標別にみたスコアの特徴を整理していく。次に、金融機関がスコアリング貸出市場
で利潤最大化行動を行うと仮定したシミュレーションを行い、最適貸出規模や最大利潤水
準の業種別比較分析を行う。その上で、スコアリングが真のスコアを計算しない場合、そ
の原因がどこにあり、どのような理由でそれが起こっているのかを明らかにし、より効率
的なスコアリング貸出の拡大に向けた提言を行っていく。
2 スコアリング市場とスコアリングモデル
スコアリング貸出は、クレジットカードの認証判定や消費者向けの貸付に利用されたモ
デルから発展した手法であり、わが国で本格的に実用化したのは 00 年代初めである。こ
の時期に実用化したのは、IT の発展に伴い、モデルの構築に不可欠な大規模データベー
スが整備可能となったためでもあるが、金融不安を背景にわが国において信用リスク定量
化の必要性が意識されたことや、バーゼル II が意識されたことも大きい。
スコアリング貸出に関する公式統計は十分に整備されていないが、スコアリング貸出の
利便性を背景に、市場規模は急拡大している*5 。各種情報を整理すると、大手金融機関、
中小・地域金融機関ともにその貸出実施規模を着実に拡大させていることがわかる。たと
えば、メガバンク 3 行(三菱東京 UFJ、みずほ、三井住友)での貸出残高は 2006 年 3 月
で 5 兆円を突破した。中小・地域金融機関については、年間のべ 20 万件以上のスコアリ
ング貸出が実行され、03 年度から 3 年間の累計で 8 兆円超に上る*6 。
モデルには様々な種類があるが、本稿ではわが国でも最も幅広く活用されているモデル
の1つである Moody’s KMV の RickCalc Ver. 1(以下、Moody’s モデル) を用いる。94
年∼00 年の約 4 万社の中小企業データを用いて構築された Moody’s モデルは、Moody’s
KMV によって 01 年 12 月にリリースされた非上場企業向け信用リスク定量化の第 1 世
代モデルである*7 。典型的なモデルでは、ロジット回帰のような質的選択モデルが用いら
れる。説明変数は、将来のデフォルトの説明力を有すると考えられる定量情報や定性情報
である。被説明変数は、デフォルト確率 (以下、スコア) のため、生存ならば 0、デフォル
*5
*6
*7
があるため。代替に関しては、大田他 [2007]、斉藤 [2007]、Berger and Udell [2003]、Uchida et al.
[2007] 参照。
小野 [2007] 参照。
小野・野田 [2006] は、企業サーベイから、潜在的市場規模が 30 兆円近いと試算している。
現在では、第 2 世代モデルに相当する Ver. 3.1 が標準的に用いられている。
4
トならば 1 となる変数である。被説明変数の推定値は、デフォルトが発生する条件付き確
率に相当する。Moody’s モデルの場合、スコアの推定には、売上高や総負債総資産比率な
ど、多重共線性を考慮した 7 指標を説明変数としたプロビット回帰が用いられている。
ところで、Moody’s モデル構築には、90 年代後半のいわゆる金融システム不安の時期
のデータが用いられていることには留意すべきであろう。この時期は、いわゆる平成の金
融危機の時期であり、わが国のクレジット市場で信用リスクが初めて強く意識された時期
に相当する(島 [2006] 参照)。実際、金融機関の相次ぐ破綻等に加え、一般企業について
も 97 年の東海興業、多田建設、ヤオハンの倒産などが次々と発生した。倒産中小企業数
も、90 年代半ば以降、上昇傾向にあった。このように、信用リスクが高まっていた時期の
データを使って構築化されたモデルであるため、スコアが厳しめ (保守的) に計算される
可能性がある*8 。
3 データセットとスコア
3.1 データセットと記述統計量
本研究では 01∼02 年の連続 2 期生存していた企業が、あたかも実際にスコアリング貸
出の申し込みを金融機関に対して行ったかのような想定で分析を行う。そこで、東京商工
リサーチ(TSR)のデータベースから、上記の条件に見合う企業を抽出し、潜在的なスコ
アリング貸出候補企業群のデータセットを構築する。TSR では、継続的に企業情報を収
集していることから、貸出終了時までにおける負債総額などのデータを把握できる企業の
数が十分に確保できる。
分析対象は、製造業(計 496 社)、卸売業 (計 504 社)、建設業 (計 1,000 社) の 3 業種・
計 2,000 社の法人かつ非上場である中小企業である。サンプル抽出は以下のとおり行っ
た。はじめに、02 年に生存していた企業で、3 年後の 05 年における生存・デフォルト情
報が把握可能なデータ数を業種別に計算した。つまり、貸出期間は 3 年とし、デフォルト
(生存) 先とは、貸出実行後、3 年以内にデフォルトした (しなかった) 企業とする*9 。そ
の上で、十分な数のデフォルト企業の情報が収集でき、前述のモデルが対象としている業
種に分析対象を絞ることにした。そして、本稿のデータベースのユニークな点として特筆
すべきは、2,000 社のうち 05 年における生存数とデフォルト数が概ね半々である点であ
る。業種毎のデフォルト企業の中からそれぞれ総サンプル数の半数を無作為抽出し、生存
企業の中からもそれぞれ上記サンプル数の半数を無作為抽出した。つまり、各業種におけ
る生存企業数とデフォルト企業数は同数となっている。これは、おもにサンプル抽出を単
*8
*9
保守的すぎると、返済能力のある企業への貸出の妨げになる可能性がある。
スコアリング貸出の貸出期間は数ヶ月から 5 年程度であり、平均的には 3 年程度と考えられる。
5
純に行うと、デフォルト企業数が極めて少なくなってしまうという問題を避けるためであ
る*10 。
ここで、デフォルトの定義の違いについて簡単に触れておきたい。TSR データと
Moody’s モデルでは、この定義に多少の違いがある。前者は、デフォルトを「会社更生法
適用、民事再生法手続き、破産申請、特別精算申請、銀行取引停止処分、内整理など」と
定義している一方、後者は「90 日間の支払い遅延、倒産、金融機関内での破綻懸念先への
分類、償却」としている。デフォルトの定義の統一化は不可能なことから、便宜的に、デ
フォルトの定義は同じであるとみなす。
表 1 は、TSR データの 2,000 社のスコア分布とおもな財務指標の中央値をみたもので
あり、本データセットが中小企業のデータとして偏りのあるものではないことが確認され
る*11 。
記述統計量について興味深いのは、一般的にいわれるように企業規模が大きいほど、デ
フォルト率が低いということは、必ずしもいえない点である。卸売業や建設業の場合、資
本金や売上高で比較すると、むしろデフォルト企業のほうが規模は大きい。他方、売上高
営業利益率や自己資本比率といった収益性や健全性の指標として用いられる指標は、生存
企業・デフォルト企業間で大きな差が観察される。
スコアはこれらの個別指標よりもデフォルトのシグナルとして機能するのだろうか。生
存企業とデフォルト企業とでスコアを比較すると、中央値には有意な差がみられ、その有
効性が示唆される。もっとも、スコア差程には貸出金利差が観察されず、リスクに応じた
貸出金利設定が従来型貸出に関しては十分にはなされていない可能性もある*12 。
3.2 スコアの水準と貸出金利の水準について
ところで、そもそもモデル構築時にはわが国のマクロ的・包括的な中小企業のデフォル
ト率に関する情報が入手困難であった。Moody’s KMV によると、Moody’s モデルは長
期的な平均デフォルト率を 1.2% と想定している。これは、その後の実績デフォルト率か
らみるとやや楽観的な設定水準であった(平田 [2005])。また、個別のスコアをみると、
TSR データに関しては最高でも 8% 程度のデフォルト確率が計算されるが、この点につ
いても議論の余地があるかも知れない。さらに、Moody’s モデルは、スコアを格付に読み
*10
モデルに関する既存研究の多くでは、分析に用いるデフォルト先数は非常に少ない場合が多い。だが、モ
デルに期待されることは、貸出期間中にデフォルトしそうな中小企業を見極めることだけではなく、生存
しうる中小企業をできるだけ外してしまわないことでもある。本稿のデータベースはこのような観点か
ら、モデルの特徴を把握する上で有用である。
*11 全 54 万社をカバーする中小企業庁『中小企業の財務指標』によると、02 年の売上高営業利益率の平均は
製造業、卸売業、建設業で 1.1%, 0.7%, 1.0%、自己資本比率の平均は製造業、卸売業、建設業で 14.0%,
13.9%, 16.6% である。
*12 ここでは TSR データの中小企業の借入は全て伝統的な借入とみなしている。
6
替えた「ドット PD 格付け」も推計する。この格付は Moody’s の長期債格付とは直接比
較することはできないことに注意が必要ではあるが、中小企業としては、かなり高い格付
が付与される企業も多い(表 2 参照)。
すなわち、モデル自体は、前述の通り、保守的に推計されているかもしれないものの、
当初設定された長期的な平均デフォルト率の水準が実績デフォルト率対比で低かったた
め、デフォルト確率の絶対水準(格付)が、比較的低い値(高い格付)となっている可能
性には注意が必要である。そこで、本稿ではスコアの絶対水準よりも、むしろ同一モデル
内での相対的なスコアの違い、すなわち各企業のスコアの順序と企業間でのスコア差に注
目して、分析を進めていく。
分析を始める前に、既存の貸出がどの程度リスクに応じた金利水準で行われている
のかを確認しておこう。わが国では、既存の貸出の中でも、特に高リスクの中小企業に
対してはリスクに応じた貸出金利設定ができていないといわれる(Smith [2003]、植杉
[2005])*13 。
純粋なトランズアクション型貸出の場合、貸出金利のプライシングは動的には行われな
い。むしろ、その時々のリスクに応じて貸出金利が静的に設定される。以下では極めて単
純な静的プライシングが行われているかを実証的に検証する*14 。仮に静的プライシング
が行われていないのであれば、それを静的プライシングを行うスコアリング貸出に代替し
ていくことを通じて、金融機関の貸出供給能力の拡大に繋がり、厳しさの続く金融機関の
貸出態度の改善に繋がることが期待できる。そこで、02 年の財務諸表に基づいて計算し
た有利子負債対支払利息を各企業の借入金利とみなして、これをスコアで回帰することに
より、金融機関がリスクに応じた貸出金利を設定していたかどうかについて分析する。
まず、回帰モデル (1) として、
r = α + β1 s + β4 dD + γx + ϵ
(1)
を考える。被説明変数 r は有利子負債対支払利息、s はスコア、dD はデフォルトダミー、
x はその他の説明変数 (具体的には業種ダミーと地域ダミー) であり、ϵ は誤差項である
(正規分布を仮定)。業種ダミーは製造業、地域ダミーは関東を基準とした。もし金融機関
がリスクに応じた貸出金利設定をしているならば、β1 および β4 の符号はプラスである。
最小二乗法による推定結果を示した表 3 によると、β1 および β4 は共にプラスで有意で
ある。ここでは、切片は生存企業とデフォルト企業それぞれに対して別々であるが、傾き
は共通である。
*13
ただし、これはある時点に関してみたリスクと貸出金利の関係であり、細野他 [2005] によれば、金融機
関と企業間のリレーションシップを背景に、より動的な貸出金利設定をしているのであれば、決してリス
クに応じた貸出金利設定をしていないことにはならない。
*14 スコアが、個別の企業のリスクを適切に反映していることを基本的な前提としている点に留意が必要であ
る。
7
そこで次に、回帰モデル (2) と (3) として、
r = α + β2 dA s + β3 dD s + γx + ϵ
(2)
r = α + β2 dA s + β3 dD s + β4 dD + γx + ϵ
(3)
というモデルを考える。dA は生存ダミーである。回帰モデル (2) は、生存企業とデフォ
ルト企業の傾きが別々、切片が共通であり、回帰モデル (3) は傾き、切片の両方が別々で
ある。金融機関がリスクに応じた貸出金利設定をしているという仮説のもとでは、β2 、β3
および β4 の符号条件はプラスである。
再び表 3 に示すように、回帰モデル (2)、(3) では、デフォルト企業に対する傾きであ
る β3 がプラスで有意であるのに対し、β2 はマイナスで有意ではないという推定結果を得
た。自由度修正済み決定係数によるラフなフィットの比較によると、回帰モデル (1) より
も回帰モデル (2)、(3) のほうが当てはまりがよい。回帰モデル (3) のデフォルトダミーに
対する回帰係数 β4 は、回帰モデル (1) におけるよりもプラス幅が小さくなったが、回帰
モデル (2) とのフィットの比較ではデフォルトダミーがあるほうが当てはまりが良いこと
が示唆される。
すなわち、回帰モデル (2)、(3) では生存企業に対する傾き β2 は有意でなく、かつ想定
される符号条件とは逆となったが、デフォルト企業に対する傾き β3 は有意かつプラスで、
理論的な符号条件と整合的である。ただし、β3 の水準は約 0.15 であり、デフォルト企業
のスコアが 0 ∼ 8 の区間のみに存在していることからすれば(表 2 参照)、かなり低いと
いわざるをえない。なぜなら、この傾きであれば、最も高リスクの企業に対しても、最も
低リスクの企業向けの金利に年率 1.2% しかスプレッドを上乗せしないことになるためで
ある。
地域ダミーをみると、九州沖縄の金利水準が有意に高い。業種ダミーは建設業が約 0.6
で有意にプラスであり、スコアとデフォルトダミーによってリスクをコントロールした場
合でも、製造業、卸売業に比べて建設業に対して高い金利が課されていることが示唆さ
れた。
以上をまとめると、既存の貸出については、少なくともデフォルトを起こさなかった企
業に関して、金融機関はリスクに応じた貸出金利を設定しているとはいいがたい。一方
で、デフォルト企業に関してリスクに比例する形で、貸出金利を設定していたといえる。
もっともその傾き、すなわち比例度合いは小さく、貸出金利にはリスクの一部しか反映し
ていない。
スコアリング貸出に期待されるのは、スコアに応じたスプレッドの設定である。本来で
あれば、それも踏まえた設定での分析が望ましい。だが、上述の通り、スコアの水準に関
しては、第一世代のモデルから得られるスコアの数値水準そのものを貸出金利に適用する
8
ことには、注意が必要である。そこで、本稿ではスコアの高低を貸出判断に使うことの有
用性に焦点を当て、以後の分析に関しては、貸出金利を一律として分析を進める。
4 スコアリング貸出と金融機関経営
4.1 スコアリング貸出の理論モデル
本節では、上述のデータセットを利用したスコアリング貸出の事後的な評価を行うた
め、利潤最大化を前提としてモデルを構築する。ある金融機関が、モデルを使用して、貸
出先を選択するとしよう。貸付先がデフォルトしない場合の金利を r 、貸出先がデフォル
トした場合の損失を l とする。金融機関は、貸出先候補をスコアの順に並び替え、高スコ
ア企業 (低デフォルト確率の企業) から z% 選択する。貸出額は各社一律とし、金融機関
は、自由に z を 0 以上 100 以下の任意の水準に決定できる。z% 選択した場合の、デフォ
ルトしない企業の数を NA (z)、デフォルトする企業の数を ND (z) とおくと、金融機関の
利得 π(z) は、
π(z) = rNA (z) − lND (z)
(4)
であり、最大値を有する関数である。したがって、金融機関は、π(z) を最大化するよう
に貸出先数を決定する。ここで、NA (z) が z で微分可能だとすれば、候補企業の総数を
NM とした場合、NA (z) + ND (z) = NM × 0.01z のため、一階の条件は、
(
)
NM
′
′
′
π (r) = rNA (z) − l
− NA (z) = 0
100
(5)
であり (π ′ (z) が単調減少である場合)、
NA′ (z) =
l NM
r + l 100
(6)
を満たす z が π(z) の最大値を与える。
4.2 実証モデルと前提条件
TSR データにはサンプル企業の生存/デフォルトの情報があるため、任意の z に対す
る関数 π(z) の値を数量的に求められる。また、利潤最大化問題の解となる π(z) の最大値
π(zM ) およびそのときの z の値 zM も求められる。そこで、理論モデルを実証可能な形
に修正していく。
まず、N を総サンプル企業数、SD をそのうちのデフォルトした企業数、SA (= N − SD )
を生存企業数とする。本稿のデータベースでは、企業の完全な無作為抽出を行っていない
9
ため、デフォルト率 PD を外生的に与える*15 。生存企業とデフォルト企業の母集団が異
なるにもかかわらず、スコアに基づいて全サンプルを並べ替えて上位 n 社を選択するの
と、生存企業とデフォルト企業が混在する真の母集団の上位 z% を選択するのでは、全く
違う実験を行っていることになってしまうためである。そこで、n と z は以下の関係にあ
るとする。
{
}
n − nA (n)
nA (n)
z = f (n) = (1 − PD )
+ PD
× 100
SA
SD
(7)
ただし、nA (n) は、総サンプルから上位 n 社を選択したうちの生存企業の数である。すな
わち、z はデフォルト率が PD の際に、N 社のサンプル企業から n 社を選択した場合に、
現実には全体の何 % を選択したことになるかを示している (単位は %)。関数 f は n につ
いて単調なので、逆関数 f −1 が存在し、n = f −1 (z) のようにおける。
ここで、nD (n) は、総サンプルから上位 n 社を選択したうちのデフォルト企業数であ
るとすると、
nD (n) =
P D SA
(n − nA (n))
1 − PD SD
(8)
で定義される。そして、
nA (N ) : nD (N ) = SA :
P D SA
(N − SA ) = 1 − PD : PD
1 − P D SD
(9)
という関係は恒に成り立つ。
以上から、利潤 πn は
πn = rnA (n) − lnD (n)
(10)
となる。r, l の持つ意味は、理論モデルの場合と同一である。次に (10) 式の右辺に (8) 式
を代入することによって、任意の z に関して、理論モデルの (4) 式に相当する金融機関の
目的関数 πn の値が求まる。
さらに、(10) 式の z に関する形式的な微分は、
dπn
dπn dn
=
dz
dn dz
(11)
であり、 dn
dz > 0 は自明であるから、
dπn
dnA
P D SA
=r
−l
dn
dn
1 − P D SD
*15
(
)
dnA
1−
dn
(12)
TSR データが全サンプルからの純粋な無作為抽出ではないために、実証モデルの定式化が複雑になっ
ている。もっとも、この実証モデルは本質的には、上記の理論モデルと同一である。なお、前述の通り、
TSR データの生存企業プール、デフォルト企業プールそれぞれから無作為抽出をしているため、データ
のランダム性自体は担保されている。
10
A
の符号によって πn の増減が決まる。(12) 式の符号条件は、 dn
dn の大きさをみればよく、
PD
これがある定数 l 1−P
D
SA
SD
(
PD
r + l 1−P
D
SA
SD
)−1
を下回る時、πn が減少する。
本稿では、貸出期間 3 年、貸出金額一様、貸出金利は日本銀行『金融経済統計月報』の金
利別貸出統計や表 1 の借入金支払利息率の中央値を参考にして年利 2.7%(簡単化のために
単利とする)、デフォルト時の元利金の弁済率がゼロ、実績のデフォルト率 PD が 5%、変
動費がゼロであると仮定する*16 。(12) 式に代入するパラメータは、それぞれ PD = 0.05、
100
SA 、l
r=
=
100
2.7×3 r
とおく。r はモデルが完全である場合の πn の最大値 rSA が、100
A
となるように基準化して設定した。さらに、πn の増減をみるために、 dn
dn の近似として、
sk =
nA (nk ) − nA (nk−1 )
(k = 1, 2, . . . , K)
nk − nk−1
(13)
を計算する。ただし、n0 = 0 < n1 < · · · < nK = N である。 sk は、全体を K 分割した
場合、k 番目のグループに、何 % 生存企業が含まれるかを示す。
4.3 分析結果
図 1 に示す実線は、Moody’s モデルのスコアに基づいて計算した z と πn の関係
(利潤曲線) を視覚化したものである。棒グラフは全体を 20 分割した場合、つまり
zk = k/K × 100, nk = f −1 (zk ), K = 20 の場合における zk と sk との関係を示す*17 。水
平に描かれた点線の水準を棒グラフが下回れば πn が減少する。棒グラフが右下がりなの
は、スコアの順にサンプルを並べた場合、下位にいくほどデフォルト企業が増加すること
を意味する。
モデルが完全に各企業を真のデフォルト確率順に評価できるとすれば、利潤曲線は、
図 1 の左上に示す実線の折れ線のように原点から (z, πn )=(95, 100) まで線形で増加し、
(100, πN (= 35.02)) まで線形で減少する。実際には、モデルは完全ではないため、完全な
ケースの直線よりも下に位置する*18 。
表 4 では、これらの場合における πn について、最大値とそれを与える n と z 、その点
におけるスコア、そして最大化された利潤 πn の 95% 以上の値を与える z の区間を整理
している。下段は、図 1 左上のグラフに示した斜線部の面積に相当する面積を、各ケー
スについて計測した結果とともに、z = 50, 60, 70, 80, 90 における利潤 πn の水準を示す。
*16
この場合には、利潤 πn は、収益から変動費を差し引いた粗利益を意味する。このパラメータ設定は、資
金調達費用がゼロで、かつ貸し出しをしなかった資金は、何ら利潤を生まないものと仮定している。この
想定は、今回の分析期間において預金金利がゼロ近傍にあったことと整合的である。なお、金融機関が得
る純利益は、πn から固定費を差し引いた金額であると考えることができる。
*17 正確には、zk は z1 を 5 以上の最小の z 、z2 を 10 以上の最小の z (以下同様)として設定した。
*18 なお、実線が原点からある水準まで右上がりのグラフを描くのは、少数の企業にしかスコアリング貸出を
実施しない場合に、高い機会費用が発生していることを示唆している。
11
斜線部の面積が小さければ小さいほど、モデルの平均的な当てはまりがよいことになる。
さて、これらの図表から、いくつかの指摘すべき特徴がみえてくる。第 1 に、3 業種
をまとめて全体的な傾向をみると、貸出候補企業全体のデフォルト率が 5% の時には、
z = 75 の近傍がスコアリング貸出実施判断の臨界点となっている。つまり、レモンの問
題がなく、無作為に選ばれた貸出候補企業が 1,000 社 (うちデフォルト企業 50 社) 存在す
る場合、スコア上位 750 社程度に貸出を行うと利潤最大化を実現することを意味する。第
2 に、表 4 における πn の最大値と斜線部の面積によると、モデルの正確性は、卸売業、
製造業、建設業の順で高い。同様の事実は、図 1 の利潤を示す実線の推移をみると明らか
で、3 業種の中では建設業の山が相対的に低い。限界的利潤を示す棒グラフをみても、卸
売業が z = 65 まできれいに右下がりを描くのに対し、製造業では z ≥ 55 の範囲で歪ん
でいる。表 5 では、参考までにスコアではなく経常利益、自己資本比率等の単独の財務指
標による順位付けに基づいて貸出判断をした場合の、表 4 と同様の計算を行った結果を示
している。これによると、自己資本比率や売上高対支払利息比率といった比較的デフォル
ト予測力の高い財務指標をスコアの代わりに使った場合の πn の最大値は、スコアによる
それを大きく下回る。
5 失敗するスコアリングの原因は何か
以上から、金融機関にとって第一世代のスコアリング貸出は、ある程度利益性のあるビ
ジネスと考えられる。ただし、新銀行東京のように大きな損失を出した金融機関も少なか
らずある。前節の実証分析結果を踏まえると、スコアリング貸出の結果を左右する要因と
しては、モデルの適用の仕方の問題とモデル自体の要因があると考えられる。
いかにモデルが統計的に優れたものであっても、財務データとデフォルトとの関係が希
薄であれば、算出されるスコアは真のスコアとはかけ離れたものになる。関係が希薄とな
る要因の 1 つとして、財務諸表だけから企業の将来の業績予想をすることの難しさがあ
る。たとえば、景気や公共事業に左右されやすい建設業の場合、財務諸表からは予測し得
ない事態に伴うデフォルト発生が、他業種に比べて多くなるかもしれない*19 。もう 1 つ
の要因としては、財務諸表が各期の業績と期末の資産内容を適切に反映しないこと、すな
わち粉飾が考えられる。以下では、これらの原因(前者を企業属性要因、後者を粉飾要因
と呼ぶ)について考えていきたい。
*19
モデルを適用する際、業種間の差を考慮せずに適用することには問題があると考えられる。これまでみて
きた通り、スコア水準と実際のデフォルトの関係は、業種毎に区々である (表 4)。業種間のばらつきは、
業種ごとのモデルの当てはまりの差を示しており、将来の業績の予測に対して各業種の財務諸表が有する
情報量の差を反映しているものと考えられる。つまり、スコアリング貸出が、一部の業種になじみにくい
可能性を示唆しているといえよう。あるいは、業種毎の景況感の違いがスコア水準とデフォルトの関係に
ついて業種間差につながっている可能性もあると考えられる。
12
5.1 データの精度の問題
企業属性要因や粉飾要因を財務諸表のみから見抜くのは極めて難しい。ただし、たとえ
ば、スコアリング実施時点での負債総額に比べて、デフォルト時点での負債総額が極端に
大きいならば、それは粉飾または財務諸表から予測できないような事態のシグナルと考え
られるだろう。フローのデータに比べれば、相対的に変化の小さいと考えられる負債総
額のようなストックのデータの大きな変化は有効なシグナルである。幸い TSR データに
は、スコアリング時のみならず、デフォルト企業のデフォルト日時とデフォルト時の主要
財務データも含まれている。そこで、ストック指標である負債総額とフロー指標である売
上高に関して考察を試みた。
表 6 は TSR データのデフォルトした企業のデフォルトと財務指標の経年変化との関係
を示した記述統計量である。「経過月数」は 02 年の決算から倒産までの経過月数の中央
値、
「負債比」は「倒産時の負債総額/ 02 年の負債総額」の中央値および 90% 区間、
「売
上比」は「倒産時の売上高/ 02 年の売上高」の中央値および全サンプルに対する 90% 区
間である。なお、捕捉可能な一部の生存企業に関しても貸出終了時(05 年)の同記述統計
量を参考値として示す。
デフォルト企業と生存企業を比較した場合、負債比の中央値では大差ないが、分布をみ
るとデフォルト企業の右裾が極めて厚い。特に、建設業は他 2 業種と比較してもはるかに
厚い。一方で、売上比に関しては、デフォルト企業・生存企業双方とも、縮小傾向にある
が、業種間や生存・デフォルト企業間差は限定的である。
表 7 では、デフォルト企業をスコア順に 4 分割し、負債増加率・売上高増加率の上位
10% と 25% に入る企業群が、どのスコアの分割に分類されるかを示している。例えば、
スコアの上位 10%(25%)、すなわち 100(250) 社を取り出してみた場合、実に 44(59) 社が
負債増加率上位 10% に入っている。つまり、明らかに高いスコアをえているにもかかわ
らずデフォルトした企業には、スコアリング時点の負債とデフォルト時の負債の極端な格
差が観察されるということである。他方、売上高減少率に関しては、特に大きな偏りはみ
られない。同様の事実は、表 8 に示すスコアと財務指標の順位相関係数からも確認で、デ
フォルトした建設企業の場合に特に極端な負債増加が観察される*20 。
*20
全 3 業種についてスコアの順位と負債増加率の順位に関するスピアマンの順位相関係数は 0.24 で、無相
関という帰無仮説に対する p 値は概ねゼロであった。これに対し、スコアの順位と売上高減少率の順位
に関するスピアマンの順位相関係数は 0.066(p 値=0.04) と非常に低い。どちらの相関係数も有意である
が、相関の度合いも有意性も負債増加率の方が高い。
13
5.2 残り物には福がないのか、それとも粉飾か
以上より、財務データとデフォルトとの関係が希薄なために、スコアの精度が下がって
しまうケースがかなりあることがわかる。ただ、それが粉飾要因によるものなのか、企業
属性要因によるものなのかはわからない。
そこで、以下では、新銀行東京の問題を取り上げながら、両要因の識別を行ってみたい。
05 年 4 月にスコアリング貸出を主力商品として開業した新銀行東京は、その三年後に大
量の不良債権を抱え、資本の 8 割以上を毀損した結果、08 年 4 月に 400 億円の増資を実
施した。ジャーナリスティックな議論では、モデルの精度をその要因とする向きが多い。
たしかに、新銀行の利用モデルに問題があった可能性もあるが、それだけが原因ではこれ
ほどの損失は発生しないはずである。
図 2 は新銀行のビジネスを抽象化したものである。2004 年第 1 回定例都議会における
都知事答弁などによると、新銀行は一般の金融機関が貸出を躊躇するような(パフォーマ
ンスの悪い)中小企業に対する貸出を積極的に行うとしていた。単純化すれば、一般の金
融機関が貸出を断った先が「新銀行にとっての潜在的融資先」であったといえる。そこ
で、図 2 を模して、既存金融機関がリレーションシップ型貸出貸出を行い、残った企業に
対してスコアリング貸出を実施するという2段階のシミュレーションを行う。
新銀行の失敗はなぜ起きたのだろうか。3 つの仮説を考えてみたい。第一に、既存のリ
レーションシップ型貸出を行う金融機関が、既に大半の優良先に貸出を実施しており、新
銀行にとっては既に潜在的な貸出余地がなかったという仮説である。この仮説は、貸出を
拡大していっても利潤が拡大しない(もしくは損失が発生する)かどうかを検証すること
で確かめられる。第二に、企業属性要因によってスコアでは企業の信用力が十分に計れな
い(つまり、企業属性による財務データとデフォルトとの関係が希薄)という仮説であ
る。この仮説は、高いスコアの企業から貸していった際、図 1 のような最大値を持つ利潤
曲線を描ければ、棄却されるだろう。第三に、粉飾要因によってスコアが真のデフォルト
リスクを表現していないという仮説である。これは、逆に図 1 のような利潤曲線が実現
しないのであれば、信憑性の高い仮説である。なお、このシミュレーションの大前提は、
リスクに応じた貸出金利が設定がされていることである。各種の情報によれば、新銀行の
貸出金利は7%程度とのことなので、その金利水準で一律貸出が実施されたと仮定してシ
ミュレーションを行った(参考までに貸出金利 2.7% のケースもシミュレーションした)。
また、第 1 段階の貸出は、便宜的に Moody’s モデルとは異なるスコアリングモデルを用
いた。金融機関が利潤最大化を行うという仮定は先ほどと同じである。
図 3 はシミュレーションの結果を示している。この結果は、リスクに応じた貸出金利設
定の下では、ある程度の損失が発生するにしても、貸出債権をポートフォリオとして認識
14
すれば、収益性が十分に見込めることを示している。すなわち、新銀行の実際のケースと
全く正反対の結果であり、残存企業に十分な貸出余地があり、企業属性要因の影響は軽微
であるということである。
どうして、このような差が生じるのだろうか。本稿の TSR データは、企業データを無
作為に抽出している。そのため、粉飾先を相当程度、自動的に排除されていたと考えられ
る。換言すれば、新銀行の問題は、第三の仮説である粉飾の可能性が極めて高いと考えら
れる。
そもそも、現代的な中小企業向け貸出論では、ハード情報のみを用いるスコアリングの
ような貸出手法と、ハード情報に加えソフト情報(簡単に入手しにくい個別企業の定性情
報)も用いながら融資判断をする従来型貸出手法の二つがあると考える。ハード情報のみ
を用いる貸出手法 (トランズアクション型貸出) の主たるメリットは、与信審査にかかる
費用の低減や審査時間の短縮ができることであり、審査精度が従来型貸出に勝るというこ
とはない。むしろ、審査自体を簡略化している以上、審査の精度は従来型の方が高いと考
えるのが自然である。特に、日本では中小企業への与信判断に有効とされる企業オーナー
に関するハード情報がモデルに組み込めていないため、従来からスコアの精度には限界が
あることが指摘されてきた (小野 [2007]、平田 [2005])。
上記の通り、スコアリング貸出の審査は、従来型貸出の審査に勝るものではない。まし
てや、従来型の貸出手法で貸付が難しいとされた企業に対して、スコアリングを適用して
高いスコアが出たと言うことは、何らかのソフト情報が貸出を妨げたということを示唆し
ていると考えるのが妥当である。
新銀行のスコアリング貸出は原則無担保・第三者保証不要であり、貸出判断には財務情
報やキャッシュフローを用いるとしていた。貸出候補企業は、事前に通常の融資に比べ、
新銀行の融資はソフト情報の審査が緩い(ない)と知ることができたため、逆選択の問題
を誘発していた可能性がある。新銀行の貸出候補先 (新銀行への融資申込先) のうち、デ
フォルトした企業の多くは、本稿のサンプル企業とは明らかに性質が異なるハード情報の
改ざん、すなわち粉飾を行った悪意の借り手であった可能性が高い*21 。
5.3 モデルの精度の改善
最後にモデルの精度そのものについて、簡単に考えていきたい。生存企業に貸出しな
かった時の機会費用よりも、デフォルト時の損失のほうがはるかに大きいことを考慮する
と、スコアリングモデルは、貸出候補企業がデフォルトするという帰無仮説を検定してい
*21
新銀行の場合、貸付実施後も、モニタリングが不十分であったとの報道も踏まえると、貸出実施時点では
問題のなかった企業の中にも、貸出実施後、モラルハザードを引き起こしていた先があった可能性もある
だろう。
15
ると考えるのが自然である。
TSR データには、各企業(貸出先候補)の 01 年、02 年の財務情報に加え、3 年以内
での各社の生存/デフォルトの情報がある。そこで、モデルの精度改善の可能性を探るた
め、高いスコアを得ていた企業、具体的には投資適格とみなされた企業に関して、デフォ
ルトしたか否かの情報を被説明変数、スコアを予測する時点での財務情報等を説明変数と
する回帰モデルを推定する。具体的には、ドット PD 格付けで Baa 格以上の企業を投資
適格とみなし、被説明変数 y は、生存した場合に 0、デフォルトした場合に 1 をとる質的
変数とする。モデルにはロジット回帰を採用し、業種ごとの推定を行った。このような分
析は、事後に判明するいわば「残差」を、事前の情報で回帰することに相当する。
説明変数の候補は、定数項以外に、自己資本比率、売上高経常利益率、当座比率、棚卸
資産回転期間、売上高対支払利息比率、売上高対有利子負債、減価償却率、売上高増加率
の定量データ 8 種類と定性データである地域ダミーの全 9 種類とした。モデル候補は、各
変数それぞれについて説明変数に含めるか否かの 2 通りとなることから、計 29 通りの組
み合わせがありうる。これらの組み合わせについて、後進ステップワイズ法により探索を
行い、AIC を最小にする説明変数の組み合わせを最も当てはまりがよいものとみなすこ
とにした。
推定結果を示した表 9 によると、各業種に共通して、自己資本比率および売上高対支払
利息が説明変数として選ばれ、かつ有意(回帰係数の符号条件も一致)になっている。表
5 からも確認されるように、これらの変数はデフォルト予測力が最も高い。これらの変数
がモデルの失敗を説明できるという結果は、Moody’s モデルがこれらの変数を利用して
いないか、利用していたとしてもウエイトが不十分(または変数のモデルへの導入の仕方
が不適切)であることを示していると考えられる*22 。ただし、この結果はあくまで本稿
のサンプルに関する結果に過ぎないことには注意が必要である。
モデルの当てはまりの地域差を示している地域ダミーの回帰係数をみると、地域性を考
慮することによりモデルが改善する、または地域性を考慮したスコアの活用の必要性も
示唆される。製造業、卸売業に関しては、北海道、東北についてモデルの当てはまりが良
かった。一方で、建設業に関しては、北海道についてモデルの当てはまりがよく、九州沖
縄について当てはまりが悪い。
*22
Moody’s モデルでは、レバレッジ比率(総負債/総資本= 1 −自己資本/総資本)がモデル構築に利用
されているため、自己資本比率については明示的に考慮されている。一方で、金利関連指標として金利カ
バレッジ比率(売上総利益/金利費用)が利用されているものの、売上高対支払利息比率は含まれていな
い。
16
6 むすびにかえて
本稿では、01∼02 年に生存していた 2,000 社の中小企業データを用いながら、わが国
のスコアリング貸出市場の現状と課題を明らかにしてきた。まず、金融機関の利潤最大化
モデルを構築し、最適な貸出規模や利潤水準を求めたところ、モデルの算出するスコアに
は一定の精度はあるものの、少なからず精度面で不十分な部分も存在することが明らかに
なった。この結果は、金融機関が、ある程度の「予想の失敗」を前提として、スコアリング
貸出をポートフォリオとして認識し、ある程度の規模で行う必要があることを意味する。
スコアリング貸出のパフォーマンスを左右する要因として、粉飾がスコアを歪めた可能
性がある。本稿では、高スコア・低デフォルト率ながらもデフォルトを引き起こした企業
の半数弱程度は、負債急増という原因を抱えていることを数量的に確認した。特に、表 6
等にもみられるように、建設業に問題が多い傾向が明らかとなった。この結果は、日本銀
行 [2007] が、スコアリング貸出のパフォーマンスを悪化させる要因として、粉飾の問題
の可能性を取り上げていることと整合的である。
もっとも、総負債の額が 3 年程度で倍以上になったとしても、これが直ちに粉飾の存在
を意味するわけではない。たとえば、財務諸表にきちんと注記がなされ、客観的に債務化
の可能性は低いと考えられた保証債務が、予期せぬ形で負債化したケースなどが考えられ
る。しかし、すべてが会計基準上適切な処理をしたにもかかわらず、負債が急増してし
まった場合に該当するとも考えにくい。実務的にも、借入金や買掛金などの債務の存在を
隠すのは容易であるため、簿外債務化するという粉飾の手口は多く見られる。したがっ
て、負債の急増が簿外債務の顕在化によるものであるケースが多く含まれる可能性は十分
にあることには注意が必要であろう。
また、スコアリングモデル自体の精度も、むろんスコアリング貸出のパフォーマンスを
左右する要因となりうる。そこで、被説明変数を各企業の事前の情報であるスコアと、事
後の情報である実際の生存/デフォルトとのマッチングをさせた質的変数としたロジット
回帰を行った。これによると、デフォルトの予測に優れた財務指標によって、モデルの失
敗を説明できることが判明した。この結果は、モデル内でこれらの財務指標を適切に利用
していないか、あるいは利用していたとしてもウェイトが不十分であることを示唆する。
以上から、今後のスコアリング貸出市場の発展に向けて、より有効なスコアリング貸出
の必要条件がわかってくる。まず、わが国のスコアリング貸出時の経営者への面接や企業
訪問を強化すべきであろう。日本銀行 [2007]、平田 [2005] などで指摘されているように、
米国では経営者の信用情報が、モデルの精度向上、スコアリング貸出の拡大に役立ってい
る。だが、残念なことに、それをそのまま日本に即適用できると考えるのは早計である。
信用情報をモデルに導入することは、事前審査やモニタリングのコストを引き下げる役割
17
を果たすと考えられる。しかし、現状ではそのようなデータを中小企業財務データとマッ
ピングして利用できるような環境にある金融機関は限られる。そのため、企業オーナー
との事前面談や企業オーナーの個人保証を求めるケースが多いというのは、理にかなっ
たことであると評価できよう。なお、米国ですら、7割以上の金融機関が、スコアのみに
頼ることなく融資判断を行い、個人保証の有無なども有力な判断材料としているという
(Cowan and Cowan [2006])。
次に、トラック・データを地道に分析して、モデルのクセを把握いくことが重要であろ
う。早い時期からスコアリング貸出を始めていたメガバンクなどでは、これまでのスコア
リング貸出のトラックが蓄積されてきているはずである。地銀は地域的要因もあり、貸出
先業種が偏る傾向があることから、モデルの利用に関してはメガバンク以上に注意をす
る必要があろう。また、モデルのくせが外部者にとって明らかにになっているケースで
は、”credit doctoring(スコアを高めるためのハード情報の改ざん)”を通じて、審査対象
の母集団自体におのずとバイアスがかかる可能性があることにも気を配るべきであろう。
最後に、本稿の分析の課題を指摘しておきたい。まず、本稿ではスコアリング貸出にか
かる諸々の固定費や変動費を考慮していない。第 2 に、現在の主力モデルは第 2 世代へ移
行しているものの、今回は分析できなかった。第 3 に、スコアリング貸出の代替を考慮し
ていない点である。第 4 に、データの蓄積が不十分なことから、景気変動を踏まえた中期
的なモデル評価ができなかった。そして、最後に情報の非対称を考慮した上での分析がで
きていない。これらの点については、今後の課題としたい。
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19
表1
主要財務指標とスコアの記述統計量
1. サンプル数
3 業種計
2,000
1,000
1,000
485
248
237
515
252
263
1,000
500
500
うち生存企業
うちデフォルト企業
製造業全体
うち生存企業
うちデフォルト企業
卸売業全体
うち生存企業
うちデフォルト企業
建設業全体
うち生存企業
うちデフォルト企業
14
14
14
30
32
26
13
14
13
11
11
12
5. 売上高
6. 自己資本
比率 (%)
営業利益
率 (%)
3 業種計
0.92
1.07
0.81
1.46
2.14
1.09
0.55
0.61
0.53
0.96
1.10
0.91
うち生存企業
うちデフォルト企業
製造業全体
うち生存企業
うちデフォルト企業
卸売業全体
うち生存企業
うちデフォルト企業
建設業全体
うち生存企業
うちデフォルト企業
4. 借入金
3. 売上高
(百万円)
2. 従業員数
支払利息
率 (%)
498
482
504
702
725
617
812
760
877
338
308
374
2.68
2.42
2.95
2.56
2.28
2.83
2.50
2.14
2.80
2.88
2.61
3.11
7.Moody’s
スコア
13.4
22.9
7.7
11.4
21.0
6.2
11.8
19.6
5.9
15.2
25.7
9.8
0.91
0.23
3.02
1.33
0.34
4.07
0.85
0.23
2.47
0.84
0.20
2.65
表 2 格付とスコアの分布
格付
Aa 以上
A
Baa
Ba
B
合計
デフォルトの
社数
225
246
465
467
597
2,000
割合
うち生存
うちデフォルト
203
216
288
176
117
1,000
22
30
177
291
480
1,000
20
0.10
0.12
0.38
0.62
0.80
0.50
スコア
最小
最大
0.01
0.07
0.16
0.76
3.26
0.01
0.07
0.09
0.75
3.24
7.99
7.99
表3
スプレッド回帰式の推計結果
回帰モデル (1)
t値
9.1
2.6
回帰係数
α
β1
β2
β3
β4
2.28
0.09
業種ダミー卸売業
業種ダミー建設業
地域ダミー北海道
地域ダミー東北
地域ダミー北陸
地域ダミー中部
地域ダミー近畿
地域ダミー中国四国
地域ダミー九州沖縄
Adjusted R
2
0.50
-0.03
0.58
0.37
0.36
-0.40
-0.24
-0.43
-0.05
1.06
0.0324
2.7
-0.1
3.1
1.5
1.3
-1.2
-0.8
-1.6
-0.2
3.0
回帰モデル (2)
2.52
t値
10.5
-0.05
0.15
-0.8
4.7
-0.02
0.62
0.23
0.35
-0.46
-0.27
-0.43
-0.06
1.12
0.0344
-0.1
3.3
1.0
1.3
-1.4
-0.9
-1.6
-0.2
3.2
回帰係数
***
**
回帰モデル (3)
回帰係数
***
2.44
-0.03
0.13
0.19
-0.03
0.60
0.29
0.36
-0.43
-0.26
-0.44
-0.07
1.08
0.0348
***
**
**
**
**
**
t値
9.3
-0.4
3.4
0.8
-0.2
3.2
1.2
1.3
-1.3
-0.8
-1.6
-0.2
3.1
*印…5% 水準、**印…1% 水準、***印…0.1% 水準で有意
表4
πn の最大値
全 3 業種
製造業
卸売業
建設業
全 3 業種
製造業
卸売業
建設業
57.9
61.3
66.0
54.7
z = 50
47.2
47.6
49.4
46.2
利潤最大化および貸出規模に関する利潤の変化
n
z
1092
288
288
460
75.8
81.0
81.7
67.1
スコア
z = x における πn
z = 60 z = 70 z
54.4
56.1
53.1
58.6
57.5
61.9
51.6
53.6
21
最大値 95% 区間
下限
1.24
2.53
1.14
0.64
64.7
70.0
71.0
60.5
= 80
56.9
60.5
64.7
51.5
z = 90
53.6
53.2
59.1
51.5
上限
85.8
85.4
88.1
90.9
斜線部面積
1234.6
1155.1
911.0
1378.9
***
***
**
**
表 5 個別指標による貸出シミュレーションの結果
サンプル数
πn の最大値
2,000
2,000
2,000
2,000
2,000
2,000
2,000
2,000
2,000
2,000
2,000
2,000
1,911
40.2
49.6
37.0
38.6
41.8
48.7
35.3
39.2
41.8
44.8
42.6
41.9
39.2
経常利益 (降順)
自己資本比率 (降順)
自己資本比率前期差 (降順)
自己資本当期純利益率 (降順)
有利子負債比率 (昇順)
売上高対支払利息比率 (昇順)
売上高増加率 (降順)
売上高経常利益率 (降順)
売上高対有利子負債比率 (昇順)
当座比率 (降順)
棚卸資産回転期間 (昇順)
減価償却率 (降順)
借入金支払利息率 (昇順)
表6
サンプル数
z
1,758
1,065
1,782
1,145
1,616
1,236
1,948
1,276
1,317
1,194
1,447
1,552
1,155
93.0
70.1
92.3
67.4
88.2
76.6
98.0
73.0
76.1
72.8
81.8
85.6
70.6
最大値 95% 区間
下限
上限
財務指標の値
−12001.0
12.2
−8.8
0.1
78.8
1.3
−46.5
0.2
51.6
71.4
52.6
0.0
2.9
84.9
61.3
82.8
55.3
52.5
64.5
83.2
63.5
65.0
66.3
71.1
81.6
61.7
財務指標の変化
経過月数
負債総額比
中央値
デフォルト企業
製造業
卸売業
建設業
3 業種
生存企業
3 業種
n
売上高比
90% 区間
下限
上限
中央値
90% 区間
下限
上限
237
263
500
1,000
23.2
22.6
32.4
27.7
1.01
0.98
1.02
1.01
0.57
0.47
0.50
0.51
1.83
1.83
3.08
2.50
0.99
0.95
0.88
0.93
0.59
0.50
0.40
0.46
1.48
1.22
1.64
1.48
334
36.0
0.94
0.45
1.65
0.94
0.57
1.54
生存企業は、1,000 社中捕捉可能な 334 社(うち製造業 84、卸売業 83、建設業 167)。
表7
スコア上位
スコア上位
総数
デフォルトと財務指標の変化の関係
0-10%
10-25%
0-25%
25-50%
50-75%
75-100%
負債増加率上位
売上高減少率上位
10%
44 社
15 社
59 社
19 社
14 社
8社
100 社
10%
10 社
12 社
22 社
22 社
21 社
34 社
99 社
22
25%
62 社
49 社
111 社
56 社
50 社
33 社
250 社
25%
26 社
33 社
59 社
58 社
62 社
69 社
248 社
97.6
82.9
100.0
96.0
92.8
85.2
100.0
94.9
96.5
89.0
92.5
97.8
82.3
表8
スピアマンの順位相関係数
負債総額比
全 3 業種
0.24
0.16
0.17
0.31
製造業
卸売業
建設業
表9
定数項
自己資本比率
当座比率
棚卸資産回転期間
売上高対支払利息比率
売上高対有利子負債
売上高増加率
地域ダミー北海道
地域ダミー東北
地域ダミー北陸
地域ダミー中部
地域ダミー近畿
地域ダミー中国四国
地域ダミー九州沖縄
AIC
サンプル数
うちデフォルト
売上高比
0.07
0.11
0.04
0.05
(2) 卸売業
−0.34
−0.06
t値
−0.5
−3.5
0.01
0.62
1.7
2.5
0.01
−1.82
−2.12
−1.45
−0.46
0.92
−1.24
−14.58
164.5
200
42
1.8
−2.6
−2.3
−1.6
−0.6
1.5
−1.3
0.0
p値
0.04
0.09
0.55
0.25
ロジット回帰の推定結果
(1) 製造業
回帰係数
p値
0.00
0.01
0.01
0.00
(3) 建設業
1.98
−0.04
−0.01
t値
2.4
−2.5
−2.2
*
*
*
*
1.97
−0.04
2.9
−2.0
**
*
**
*
−3.48
−2.00
−1.28
0.47
0.37
−1.25
−0.25
191.7
247
55
−5.2
−3.1
−1.0
0.6
0.5
−1.7
−0.3
***
**
回帰係数
***
*印…5% 水準、**印…1% 水準、***印…0.1% 水準で有意
23
t値
−0.53 −1.32
−0.02 −3.46
回帰係数
0.46
2.37
−1.40 −3.66
0.41
0.90
0.03
0.05
0.55
0.98
0.57
1.38
1.94
3.17
18.83
0.03
399.88
487
132
***
*
***
**
図1
利潤曲線
80
│
│
││
20
0
0
20
40
│
40
│
60
60
80
100
製造業
100
3業種計
40
60
80
100
0
20
40
60
z
z
卸売業
建設業
80
100
80
80
100
20
100
0
60
│ │
│ │
20
40
│
0
0
20
40
60
│
0
20
40
60
80
100
z
0
20
40
60
80
z
スコア順に貸出を行った時の利潤水準。デフォルト企業が既知の場合、95% の企業に貸出を実施すると最大利潤を実現する。
この水準の利潤 π(縦軸) を 100 とした。
24
100
図2
新銀行東京のビジネス
25
20
40
150
100
50
0
−50
−100
−100
−50
0
50
100
150
200
利潤水準(左:貸出金利が 2.7%、右:貸出金利が 7.0%)
200
図3
60
80
100
20
40
60
80
100
スコア順に貸出を行った時の利潤水準。横軸は z、縦軸は利潤 π(図 1 とスケールは揃っており、直線の実線は、図 1 において
デフォルト企業が既知な場合における利潤曲線と同じ。点線の実線は、各貸出金利の下でデフォルト企業が既知な場合の利潤
曲線。
26
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