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墨田区中小企業振興基本条例等の
調査報告書
2012 年 7 月 20 日(金)
第 54 回自治体学校 in 浜松
参加報告書
2012 年 7 月 21 日(土)
~7 月 23 日(月)
日本共産党帯広市議会議員団
~
目
次
~
P1~3
東京都墨田区中小企業振興基本条例等の視察報告
P4~7
墨田区産業振興会議の趣旨と経過
P8~20
第 53 回自治体学校 in 浜松 全体会 パネル討論
佐々木とし子
・傘木宏夫(NPO 地域づくり工房 代表理事)
・宮下早紀子(浜松市職員組合学校給食員部会部会長)
・渡辺 潤(東京・大田区所 生活保護面接員)
・服部守延(愛知県商工団体連合会副会長)
・小川英雄(ふくしま復興共同センター事務局次長)
P21~22 パネル討論に参加して
杉野智美
P23~33 全体会【総括講演】 川瀬憲子(静岡大学教授)
「分権改革」と地方財政― 住民自治と福祉社会の展望
P34~35 総括講演を聞いて
稲葉典昭
P36~46 第 2 分科会
・脱原発そして再生可能エネルギー社会へ
井内尚樹(名城大学教授)
・浜岡原発の永久停止・廃炉、脱原発めざし、自治体との連携と住民との共同
小泉
P47~49 第 2 分科会に参加して
治(静岡自治労連
書記次長)
佐々木とし子
P50~65 第 3 分科会 経済再生で笑顔あふれる地域社会を
・ひとりひとりが輝く地域経済の再生と展望
・浜松餃子でまちおこし
岡田知弘(京都大学教授)
齊藤公誉(浜松餃子学会
会長)
・浜松市のものづくり産業の現状と産業政策
三井啓義(浜松市産業部産業振興課)
・大阪の産業実態と地域で生きる中小企業
宮川
晃(NPO 法人自然環境会議八尾副理事長)
・静岡県経済と産業の課題について
P66~69 第 3 分科会に参加して
児玉和人
稲葉典昭
P70~74 第 4 分科会
・人間尊重のコミュニティづくり
小池田
忠(名古屋市緑区・森の里荘自治会長)
・静岡県生活と健康を守る会の取り組みから
酒井光七(静岡県生活と健康を守る会連合会)
P75~76 第 4 分科会に参加して
杉野智美
P77~83 全体会【特別講演】東海地震による浜岡原発のリスク管理を考える
渡辺敦雄(NPO 法人 APAST 理事 事務局長)
P84~85 記念講演を聞いて
P86
杉野智美
中嶋学校長による全体会の閉会あいさつを聞いて
杉野智美
東京都墨田区中小企業振興基本条例等の視察報告
佐々木とし子
2012 年 7 月 20 日、共産党帯広市議団は、東京都墨田区を訪れ、中小企業振
興基本条例等の取り組みとすみだ中小企業センターの視察を行った。
墨田区産業観光部すみだ中小企業センターの小板橋一之館長から説明を受け
た。墨田区では、昭和 52 年に製造業基本実態調査、
昭和 53 年に商業関係実態調査を実施、係長級職員総
動員による 1 軒 1 軒を回っての前代未聞の調査を行
った。昭和 54 年 3 月に墨田区中小企業振興基本条例
を策定し、区長の責務、中小企業者の努力、区民等
の理解と協力を明記した。
昭和 55 年 6 月には、企業者参加による施策の提案・実施検討を行う産業振興
会議が発足し、墨田区の産業振興の主要施策は、この会議で提案・検討された
上で実施されている。主な例として、すみだ産業会館、すみだ中小企業センタ
ーなどがある。昭和 58 年に開館したすみだ産業会館は、5,000 社を登録してい
る。産業振興会議は、審議会的性格から産業施策の検討、具体化の場になって
いる。これまでの具体的成果として会議での検討が基礎となった「工業振興マ
スタープラン(昭和 63 年 3 月)」に基づき、平成 5 年 1 月に工場アパート「テク
ノネットすみだ」、そして平成 12 年 4 月に「国際ファッションセンター」をオ
ープンさせた。ソフト面においては、「3M 運動」、「イチから始める運動」、「ワ
ンモール・ワントライ作戦」、
「魅力ある個店づくり応援隊」
「フロンティアすみ
だ塾」等の事業への展開が図られてきた。振興会議は 2 ヶ月に 1 回開かれ、1
年間の最後には区長にも出てもらって提言を提出している。
昭和 60 年には、墨田区製造業・卸売業企業台帳調査を実施。製造業約 7,700
社、卸売業約 1,900 社の計約 9,600 社の詳細な企業データの整備を行った。平
成 22 年 1 月 31 日現在、製造業 3,781 社、卸売業 1,510 社の計 5,291 社の企業
データが整備されている。
平成 20 年度は、平成 15 年に策定した「墨田区工業振興マスタープラン」を
改定し、個々の中小企業の基礎体力の強化、ものづくりネットワーク力の強化、
新たな産業集積のための支援等に重点的に取り組むとした。平成 21 年度は、平
成 24 年度の東京スカイツリーの開業を契機とした「すみだ地域ブランド戦略」
を推進している。平成 22 年度は、すみだブランド認証商品 28 点を認証し、8
月には区内の優れた商品を PR するための施設として「すみだ もの処」が開設
されている。
以上、墨田区の中小企業振興の取り組み等について、小板橋館長から詳しく
説明を受けた。
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【すみだ中小企業センターについて】
次に、すみだ中小企業センターの概要について、説明を聞きながら、見学を
した。
この施設は昭和 61 年に開館、区内の中小企業の経営、技術、取引等のレベル
アップを総合的に支援する複合的区民施設である。
特徴として 5 つを紹介。
・特徴 1「人」
11 名の技術相談員がローテーション勤務で、月曜から土
曜、夜 7 時まで開放機器の指導、講習、実習講師、異業種
交流コーディネータ等を行っている。
また、7 名の取引相談員が常時区内企業を巡回し実態把握、
区内外からの発注に対し、適切な受注を斡旋している。
・特徴 2「設備」
工作機械と測定機器を備え、実践的な開放利用と技術指導をしている。
・特徴 3「情報」
「企業台帳システム」により区内製造業・卸売業の企業情報を整備し、取
引斡旋等に幅広く活用している。また、希望する製造業には、区のホームペ
ージ内「企業ガイド」により PR をしている。
・特徴 4「交流」
10 の異業種交流グループと1つの共同受注グループの活動→すべてセンタ
ー開館後に、センターの提唱又はセンターとの関わり
の中での発足。
「フォーラム・イン・すみだ」(企業者交流イベント)
実行委員会などの中心的な担い手として活躍。
・特徴 5「産学官連携事業」
早稲田大学との包括的な協定締結
(当初 平成 14 年 12 月 24 日
更新 平成 19 年 12 月 24 日)
産業振興、人材育成、まちづくり、文化振興など広い分野を対象とした全国
でも初の試み。協定期間は 5 年間。
すみだ産学官連携プラザの整備、産学官連携クラブの発足
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帯広市は、中小企業振興基本条例を平成 19 年に制定し、まもなく産業振興
ビションの 5 年後の見直しを行う。墨田区における中小企業振興基本条例制定
の取り組み、事業所悉皆調査を区職員総動員で取り組んだこと、その調査が企
業のデータベースとして蓄積され中小企業の支援に活かさ
れていることなど、先進的な取り組みを学ぶことができた。
毎年発行される「すみだ産業振興事業ガイド」は資料編
も含めると 150 ページを超える冊子で、墨田区の重要事業
や相談窓口、融資制度、経営・創業に関すること、消費者・
勤労者のためになることまで掲載されている。このような
取り組みも大変参考になった。
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【全体会
パネル討論】
「みんなでつくるホンモノの地方自治」
杉野
智美
浜松で開かれた第54回自治体学校の一日目には、パネル討論が行われた。
まず、コーディネーターの傘木宏夫氏(NPO 地域づくり工房)が、
「国家的なひずみが地
方に押し付けられ、現場にはさまざまな課題が山積みになっているなか、自治体、労働者、
住民として活動する人たちも、余裕のない状況に追いやられている。それぞれの現場で抱え
ていることを語り合い、どのような対話と共同が地域で求められているのか議論したい」と
問題提起し、4人のパネラーが発言した。
宮下早紀子氏(浜松市職員組合学校給食員部会)は、6つの給食センターのうち3つが、
行政経営計画の一環として民間委託となっている問題について発言した。衛生面では O15
7の発症以来、全員が集まっての研修会実施、衛生管理ハンドブックの見直しなど意識向上
に努めてきたが、全員がそろっての研修は民間の会社では困難であること、また、委託した
学校で、「時間に間に合わない」
「野菜が煮えていない」「味が日によってばらばら」などの
声が聞かれる。給食を作る人がパートタイムでころころ変わるなどが原因と思われるが、
「食
の専門性が問われているのではないか」と報告。12市町村の大合併によって、特色を生か
した献立で給食を提供してきた地域でも、かたちが崩れてきていることと合わせ、自治体職
員として担ってきた食の専門性としての役割が問われていると述べた。
次に生活保護の現場から渡辺潤氏(東京・大田区役所 生活保護面接員)が発言。生活保
護の面接官として、「住民の命と暮らしが危ない」と感じることが毎日のようにあると話し
始めた渡辺氏。自殺しようか、福祉へ相談に行こうか、悩んでくる方が本当に多いのが今の
生活保護窓口の実態である。リーマンショックを契機に生活保護受給者数が史上最高になっ
ているが、ここでの一番の問題は、終身雇用制度を崩壊させ、非正規・低賃金労働者を大量
に増やし、失業給付等の社会保障を改悪し、さらに諸外国と比べると低水準の年金制度等の
矛盾が表れていることを指摘。本来は権利であるはずの生活保護申請をさまざまな手口で阻
止することによって、2000 年代後半から餓死、自殺、心中事件などの悲惨な事件につなが
っていると述べ、2012 年 1 月、札幌市白石区の40代の姉妹の死亡事件について自ら作っ
た「傷名(きずな)」という歌を披露。本来は住民の命を守るべき生活保護の窓口が住民の
命を奪うことになっている、地域・行政に本当のきずながあればこうしたことは起きない、
と発言しました。
続いて印刷業をしている服部守延氏(愛知県商工団体連合会副会長)が発言した。服部氏
は商工業者や企業は、住民に商品やサービスを提供し、販売高を回収して商売を継続し、利
益の一部は自治体に納税し、労働者に賃金を支払い、家計に回っている。しかし大企業は、
下請けとして地元企業を使い循環しているように見えるが、利益は本社へ、納税は他地域の
自治体へ出て行ってしまう。したがって、外からきている企業がいくら売り上げを伸ばして
も、地元自治体収入や地元雇用確保には何の効果もないと述べた。地元商工業者や企業をい
かに育てていくかが重要で、その役割を担うのが農家、商工業者、企業、地域金融機関、地
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方自治体であり、これらの経済主体が地域内で繰り返し投資を行うことで、人・もの・金が
循環する社会が実現することを強調した。
パネラーの最後に、小川英雄氏(ふくしま復興協働センター事務局次長)が、原発事故に
ついて発言した。政府も東電も「人災」とは言わないなか、国会事故調が出した文書で「今
回の事故は、自然災害ではなく、明らかに人災である」と結論付けられたことが大きい。政
府や東電が何もしない中、除染など自治体ががんばっている。また、県外に避難している人
と避難していない人で、軋轢(あつれき)のようなものもあったが、首相官邸前の集会にほ
かの県に避難している人も多く参加するなど、その軋轢も克服される局面が生まれている。
福島の実態を伝えながら全国のみんなと闘っていきたい、と訴えた。
4人のパネラーの発言をうけてコーディネーターの傘木氏が、地産地消や地域の連携をど
のように進めるかについて、再度発言を求めた。
服部氏は、地元の野菜等々を、農協を通さずに直接農家から学校へ提供することで、地域
で働く人、商売や企業が存続していける地域社会を構築し、結局はそこに住む人の豊かな生
活を保障することにつながる、と発言。
生活保護をめぐって渡辺氏は、働いて地域に貢献したいという人に、きめ細やかな相談が
できる体制の必要性について発言した。
復興問題で小川氏が、決定的に遅れているのは地域でのなりわいをどう取り戻すかである
ことを指摘。仮設住宅と学校と仕事を3つ一緒に、工場のそばに小さなスーパーマーケット
をつくり、仮設工場、仮設住宅をつくる、などの提案をしていることを報告した。
最後に、地域でさまざまなことが起こっている時だからこそ、住民自治の流れを強く大き
くしていくことが求められていること、そのために、議員も、自治体職員も、商工事業者、
企業も、住民も、対話し協力し合って地域の仕事を起こしていく努力の重要性が、まとめと
して傘木氏から語られた。
さまざまな分野の人たちが力を合わせて、ホンモノの自治のありかたを生み出すという、
示唆に富んだシンポジウムあった。
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【総括講演】「分権改革と地方財政―住民自治と福祉社会の展望」(川瀬憲子静
岡大学教授)を聞いて
稲葉典昭
今年の自治体学校のメインテーマは「みんなでつくるホンモノの地方自治」。
東日本大震災と福島第 1 原発事故の被害状況はいまだ深刻であり、地域社会の
枠組みがゆがむ中、被害が増幅している。単なる天災ではなく、規制緩和の政
策は経済成長優先で安全・安心を軽視し、防災や減災を損ねてきた。福祉行政の
レベル低下は被災者に対する物心の支援を弱める結果を招き、生活環境の貧し
さや絶望を募らせ「災害関連死」を今も生み出している。ところが地方制度改
革によって、財政・人員・権限を制約された地方自治体
が、山盛りの住民要求に直ちに応えられない現実があり、
被災地の惨劇は全国どこでも再現されかねない。こうし
た奥深い問題としっかり対峙するには、これまでに増し
て幅広い知見や旺盛な行動力が求められ、「ホンモノの地
方自治」が求められている。
こうした立場から川瀬先生は、地方自治体の財政問題を国際比較から分析し、
構造改革下の「分権改革」が市民生活に何をもたらしたかを明らかにした。そ
して政権交代と「地域主権改革」を概括的に述べ、市町村合併が自治体財政に
どのような影響を与えたかを特に静岡県の合併の事例を分析しながら問題点を
解明。その上で、住民自治と福祉社会の展望、いかに地域セーフティネットを
構築するかに言及した。
川瀬氏は 3.11 東日本大震災と福島第 1 原発事故に伴う様々な問題に関して、
自ら 7 回被災地に足を運んだ経験を述べながら、補正予算で 19 兆円もの国家財
政が投入されたが、高速や空港などのインフラはいち早く復旧したのに対して、
生活面では一向に復旧・復興していないと指摘。特に福島第 1 原発周辺地域は
復旧のメドすら見えないと強調。また、
「平成の大合併」期に石巻のように広域
的な合併を行った地域では、編入合併となった地域の切捨てが進んでいると説
明した。こうしたことから、地域において何らかの形で地域セーフティネット
を作っていかなければならないと強調した。
「社会保障と税の一体改革」の民自公 3 党の合意を受け、1989 年の消費税導
入、1997 年に増税したにもかかわらず借金は増え続け、一方社会保障の伸びは
抑制。その最大の要因は、公共投資と説明。無駄な大型公共投資の例として静
岡空港を例示。1,900 億円かけて作った静岡空港は、現在毎年 50 億円の税金を
投入しながら年間赤字が 16 億円。静岡空港を利用した県民は9%、余り使わな
い空港に多額の税金の投入に 4 割の県民が「廃港にすべき」。
多いといわれている公務員についての国際比較では、OECD加盟国で最下
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位、
「小さすぎる政府」になっているとした。社会保障給付についての国際比較
でも、年金と医療だけはOECD平均並だが、それ以外の社会保障給付費は、
ヨーロッパの充実している国の 10 分の1の水準。イギリスやスウェーデンなど
医療に自己負担のない国だが、国の累積債務はきわめて低く健全財政と報告。
日本の高い累積債務の原因は、公共投資にあることを浮き彫りにし「社会保障
と税の一体改革」の前提条件が狂っていることを解明した。
高い累積債務が政府の失政と市場の失敗であるにもかかわらず、その再建を
国民と地方に付回し、地方には「三位一体の改革」3年間で9兆8千億円の地
方交付税と補助金を削ったと説明。川瀬氏は自著の「分権改革と地方財政」の
中で、稲葉市議の提供した帯広市の三位一体改革の資料を基に「帯広市の事例」
を紹介もしている。
静岡・清水の合併では、合併時の地方債発行が前年比 32%増しで公共工事を
拡大したが、翌年の「三位一体の改革」で 1 年間 100 億円の財源不足に。結果、
国保料は最大 2 倍など公共料金の相次ぐ値上げと高齢者バス券事業の廃止など
福祉施策の縮減と廃止、「合併したら借金が増え交付税が減った」「サービスは
低い方に、負担は高い方に」なったと指摘した。浜松市の事例も報告しながら、
静岡大学と中日新聞の共同アンケート調査で、合併しなかった自治体は「合併
しなくてよかった」というのが 7 割と結果について報告した。
そして長野県佐久地域の先進的な地域医療の取り組みや隠岐の人間力こそが
地域力につながるとしたユニークな取り組みなどを紹介しながら、貧困を放置
せずネットワークを組んで対応するほうが、全体的な豊かさにつながると強調。
基本的人権を保障し、ナショナル・ミニマムを保障するための国の役割と共に、
基礎自治体である市町村の役割がきわめて重要、今求められているのは「広域
行政」ではなく「狭域行政」への対応と締めくくった。
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【第 2 分科会】脱原発そして再生可能エネルギーの社会へ に参加して
佐々木とし子
第 2 分科会は井内尚樹名城大学教授が基調講演を行った。
井内教授は「東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故がおこり、日
本の経済社会は未曽有の「危機」に直面した。この「危機」を踏まえ、日本資
本主義のありよう、地域経済の再生=「再生可能エネルギー」自然エネルギー社
会の構築を考えていく。福島原発の事故は、都市が農村を利用するだけ利用し
つくしてきた現実を大きくクローズアップさせた。東京は福島の電力生産で生
活ができている。山間地のダムによる水力発電、過疎地の
原子力発電所に東京は依存しているという事実。「脆弱都
市」東京はこれからどうすべきか? 「都市化とエネルギ
ーについてあまり議論してこなかった。「エネルギーは自
分で生産するもの」とせず、「エネルギーを国家的な社会
資本」と位置づけてきたことが問題」と述べ、以下 19 項
目について報告した。
1. 「都市と農村の対立」を世界市場にまで拡大する方向について
2. 「危機」の意味=原子力発電所のエネルギーを使用し続けるのか、ゼロに近
づけていくのか?
3. 原発を廃炉か再稼働かを判断するのは誰か?
4. 深刻な原発事故のない国を見ると
5. 原発停止の地域経済と中小企業
6. 現在の問題は原子力発電に頼らない日本経済の構築…地域経済の現場で、原
子力発電エネルギーに頼らない地域産業を構築する必要性
7. ドイツの実践から学び産業構造を中小企業が起こしていく必要性
8. 戦後の日本の産業構造の推移について
9. 現在の産業構造を拡大再生産する TPP=「都市と農村の対立」を世界市場に
拡大
10. ドイツの 1970 年代の運動から新しい産業構造の構築に学ぶ
11. 石油危機、欧米の原発事故から日本は何を学んだのか
12. エネルギーは自ら生産するもの…国策(社会資本)である必要があるのか?
13. 「再生可能エネルギー社会」を構築するために…新しい循環型地域経済
14. 自然エネルギー生産だけではなく、ドイツから学ぶべきもの…エネルギーを
使わない省エネルギー住宅を追求するドイツ住宅・集合住宅建設の重要性=
建設・不動産業の変革
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15. 建設・不動産業などの変革(社会的分業の再編成)家の燃費と車の燃費問題
16. フライブルクの社会システムについて
17. 資源のある国、日本の循環型経済を構築するために 地域資源としての森林
資源の活用
18. 自然教育の重要性
19. 再生可能エネルギー社会=「都市と農村の共生」を進める新しい産業構造
報告の中で、井内教授は現在の問題点として、再生可能エネルギーの買い取
り問題について、金持ちが太陽光パネルに出資し、42 円(20 年間保証)を儲け、
パネルに出資できない、
「貧乏庶民」が、買い取り価格負担を行う。地域の太陽
光は、市民のものであり、大企業のメガソーラーのもうけにはさせない政策が
重要と述べた。そして、滋賀県湖南市の『自然エネルギー条例』について紹介
し、早急に各地域でも条例制定の取り組みを急ぐことが大切と強調した。
次に、静岡自治労連の小泉治書記次長が、浜岡原発の永
久停止・廃炉、脱原発めざし、自治体との連携と住民との
共同と題して報告した。
東日本大震災、福島原発の事故をうけ、静岡自治労連で
は、東海地震の震源域の真上にある世界一危険な浜岡原発
を即時停止させようと運動し、5 機全ての原子炉が停止し
た。「浜岡原発の永久停止・廃炉を求める署名」の取り組み、静岡、浜岡での
5,000人と4,000人の集会の取り組み、浜岡原発のある御前崎市のとなりの牧之
原市が「浜岡原発の永久停止」を求める決議を採択、再稼働反対・慎重の立場
をとる首長・町村が広がっていった。そして 12 万筆をこえる署名を 2012 年
1 月、経済産業省に提出したと述べた。
また、自治体労働者として、①住民や自治体などとの幅広い共同、②自治体
労働者がその運動の先頭に立つ、の 2 点を重視していくべきとして、
「浜岡原発
の再稼働」「地域防災計画」「再生可能エネルギー」をテーマにして、自治体首
長や当局との懇談を進めてきたと報告した。
再生可能エネルギーへの転換は、地域に密着したエネルギーの地産地消を進
めることにもつながり、地域に新たな産業・雇用が生まれ、地方自治体の税収
も増えるなど、地域振興につながる好循環を生み出す。自治体との懇談は意見
交換や情報提供の有益な場となったと述べた。
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次に、長野県飯田市の小林敏昭水道業務課長が、環境が
文化として定着した低炭素な「環境文化都市」の創造と
題して報告した。
『明日の環境首都』として、環境をすべての政策の基
本におき、多様な主体の協働を進めながら、環境モデル
都市として「おひさま」と「もり」のエネルギーの総合
利用への展開、低炭素社会に向けた地域全体の意識改革に取り組んでいると述
べ、共同受発注グループによる LED 防犯灯 6,000 灯設置、小水力発電、エネル
ギーの域産域消とおひさまファンド、りんご並木などの取り組みを紹介しまし
た。
つぎに、静岡県掛川市環境政策課長が、再生可能エネル
ギーの利用促進と題して、太陽光発電と風力発電の取り組
みの概要について報告した。
掛川信金にも協力をしてもらっている。10 万人以上 50
万人未満の自治体で最もゴミが少ない市となっている。レ
ジ袋を出さないマイバック運動、太陽光発電を 5 年後をメ
ドに戸別住宅の 20% 5,800 戸へ、これから年間 800 戸に設置していくなどの取
り組みを紹介した。
第 2 分科会には全国から 108 人が参加した。東日本大震災、福島原発事故の
後、帯広市でも、太陽光・バイオマス・小水力など再生可能エネルギーの活用
をどう進めていくのか、地域の産業や雇用にどう結びつけ、地域資源として活
かしていくのかが、重要な課題になっている。この分科会で学んだ、全国の自
治体の先進事例、井内教授の大きな視点からの基調報告を帯広市の取り組みに
活かしていきたいと考える。
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【第 3 分科会】
経済の再生で笑顔あふれる地域社会を
ひとりひとりが輝く地域経済の再生と展望
岡田知弘京都大学教授
第 3 分科会の基調講演は、岡田先生の「ひとりひとり
が輝く地域経済の再生と展望」と題した講演。岡田先生
は3.11が①東京一極集中型の国土構造の脆さ②原発
依存型エネルギー政策の危険性③市町村合併の弊害と
国・地方自治体の役割、について改めて問いかけたとし、
国や地方自治体が誰のためにあるべきかが鋭く問われる時代に入ったと話を切
り出した。
グローバル化と「構造改革」のなかで地域産業の後退と人口減少が進み、住
民の暮らしや生存条件の揺らぎと崩壊が広がっている。グローバル化と進めら
れた「投資立国」ニッポンは、利益の 7 割が東京に集まり、しかもその半分は
外国人に。地域産業が崩壊し生活困難地域が拡大していると指摘。そうした中
で、人間の生活の場としての地域を作り、守る主体としての地方自治体の役割
とあり方がクローズアップされていると強調した。
「市町村合併で地域の活性化」と国が主導した「平成の大合併」。合併が大き
く進み政令指定都市が激増したが、周辺部ほど地域は衰退し財政危機も深刻化
した。従来の大型公共事業+企業誘致型地域開発政策は、地方財政・環境に負荷
をかけ誘致された企業の利益は本社に移転される。地域内に再投資されず、非
正規雇用や請負労働者が多数を占め波及効果に限界があるとし、
「地域が豊かに
なる」とは住民一人ひとりの生活が維持され向上すること。そして地域発展の
決定的要素とは、
「地域内再投資力」の量的質的形成にあると強調した。地域産
業の維持・拡大を通して、住民一人ひとりの生活の営みや地方自治体の税源が
保障され、最終目標は「一人ひとりが輝く地域」づくりにあるとした。
そうした一人ひとりの生活を向上させる地域再生は、①地域を破壊する「構
造改革」政策でなく、住民の消費購買力を拡大する改革が必要②地域経済の主
役である中小企業・農家を第 1 に優先する政策への転換③食料・エネルギーの
「地産地消」の必要性、と述べた上で、地方自治体レベルでの産業政策を住民
生活の向上に直接つながるものに変える独自の産業政策をもつことを強調した。
そうした個性あふれる産業政策と農村社会の再構築について、地域内再投資
力の形成、地域内産業連関=地域内経済循環の意識的形成を重視した取り組み、
中小企業振興基本条例や公契約条例の制定、住宅リフォーム助成制度の活用な
どを例示した。さらに地域社会と景観形成の相互連関、エコロジーを重視した
循環型地域社会、「年金経済」の重要性についても強調した。
最後に地域づくりは、地域の「宝物」の発見=自分たちの発見=生きがいづ
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くりであり、地域づくりは楽しいものと強調。植木枝盛「無天雑録」から「人
民は国家を造るの主人にして国家は人民に作られし機械なり」
「未来が其の胸中
に在る者之青年と云う 過去が其の胸中に在る者之を老人と云う」を紹介して
閉じた。
岡田先生の基調講演後、フロアから 3 名が発言した。稲葉市議は「中小企業
振興条例制定後の変化に触れながら、大規模倒産が続く建設産業の実態につい
て発言。まとめで岡田先生は「帯広には何度か行き、元気に頑張っている地域
だと思っていたが、そこでも厳しい実態があり非常にショック」と厳しさへの
感想と仕事作りについて強調した。
【稲葉市議の発言】
十勝は、農業を基幹産業とし農業粗生産額は約 2,500 億円、関連産業で 1
兆円、自給率 1,100%と日本有数の食糧基地。
北海道の開拓が「屯田兵」による官の開拓であったのに対し、十勝の開拓は
民間人の投資による開拓であり、寒冷地に適応した畑作農業が先行したため作
物に適応した金属機械の製造業や畑作・畜産の食品加工製造業が地場産業とし
て底固く発展。同時に基幹産業の農業に匹敵する公共事業が長らく地域経済を
底支え。
建設産業の重層下請け構造は、地域経済を支える中小業者の営業と生活に困
難さをもたらし、その実態調査を市に繰り返し求めてきた。最初の実態調査は、
97 年に元請・下請各 50 社に無記名で実施、現在まで 5 回実施。その結果、適
正な下請契約が行われていない実態が明らかになり、元請と下請や末端で働く
建設労働者の適正な関係を計ることを目的に 98 年 4 月から「帯広市発注工事に
かかる元請・下請適正化指導要綱」を制定。この要綱は、その後 3 度改定され
「建退共完全適用の帯広方式」
「下請保護システム」など制度として適用させて
きた。こうした取り組みを進めながら、墨田区の中小企業施策を紹介し地域経
済の担い手・中小企業の振興には「中小企業振興条例」が必要と求めたのが 97
年。
帯広市では 2007 年 4 月 1 日、
「帯広市中小企業振興基本条例」が施行。
「条例」
の前文では、
「中小企業は、帯広・十勝の地域経済の振興・活性化を図る極めて
重要な担い手」とし「中小企業の振興が、帯広・十勝の振興に欠かせないもの・・・、
関係者の協働で地域振興を図ることによって産業及び地域の発展に資する」と
し、さらに市長の責務として「中小企業振興の指針を定める」
「必要な施策を講
じる」と明記している。
「条例」ができて様々な取り組みが、
「中小企業振興、地域振興」という視点
から一体的に捉えられるようになってきた。例えば、十勝の小麦の生産量は全
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国の 4 分の 1 で、従前は 100%玄麦のまま移出していた。しかし最近では、地域
で加工をする取り組みとして、パンやパスタ、餃子やピザなど十勝産小麦を使
った製品開発や試食会が行われている。また、小麦の製粉工場設置の声が多方
面から高まり、昨年7月から年間4千トンを生産する製粉工場が稼動すること
になった。帯広市食産業振興協議会が十勝産小麦を使った商品の経済波及効果
の試算を行い、その経済波及効果は 110 倍から 140 倍との結果に関心が高まっ
ている。
帯広市にある「北の屋台」では、地元の食材(牛肉やアスパラなど季節の旬
な食材)を各店の創作で提供する企画などを行っているが、行政も参加し「レ
シピ集」の発行へと発展させるなど多面的な取り組みにもつながっている。観
光拠点施設(とかち村)の整備も、安全安心の食材を使った食文化、それを中
心にした食の観光、その拠点施設の整備に「産業振興会議」からの意見も取り
入れながら、「ビジョン」の具体化として進み出している。
帯広市の景気対策も条例制定後の補正予算の編成に変化があった。08 年度補
正では制度融資保証料補給金4千万円(09 年、10 年も継続)、09 年度補正では
「小規模修繕登録制度」対応の施設整備費(前年度実績3千万円→6千万円に)
など地域の中小企業者にピントを当てた新たな補正の枠組みが示された。自治
体が仕事をつくることで、仕事が地域で回り、雇用と所得が生まれる。そして
所得が地域で消費され、地域を潤す。すると自治体の財政も潤い、さらに地域
へ仕事が生み出せる。こうした地域経済循環の輪をつくることで、地域社会の
土台をしっかりとさせていきたい。
しかし現状は、建設産業の落ち込みが激しい。今年、5 月 6 月だけで負債総額
10億円を超える大型倒産が3件も相次いだ。地域密着の公共事業(生活道路
の整備、雨水管整備、建物の耐震化、橋梁・樋門の点検・整備、住宅リフォー
ム助成制度、小規模修繕登録制度など次々と提案)で仕事つくりと具体的な提
案も行っているが、間に合わない。全国の先進事例があれば聞きたい。
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【第3分科会 経済の再生で笑顔あふれる地域社会を】
特別報告が4本あった。「浜松餃子でまちおこし」(浜松餃子学会会長 斎藤
公誉氏)「浜松市のものづくり産業の現状と産業政策」(浜松市産業部産業振興
課 三井啓義氏)「大阪の産業実態と地域で生きる中小企業」(経営コンサルタ
ント・NPO 法人自然環境会議八尾副理事長・八尾民主商工会相談役 宮川晃氏)
「静岡県経済と産業の課題について」(静岡英和学院大学 児玉和人氏)。
特に印象深かったのは「浜松餃子でまちおこし」。報告した浜松餃子学会の斎
藤会長は、印刷関連会社の経営者で学会員は全て異
業種で餃子関係者は入れないとのこと。まちづく
りについて仲間で酒を飲みながら議論していたとき、
「みんな餃子好きだよな」との話になり、友達の友
達へと調査をしてみると90%が餃子好き、しかし
食べるのは月数回。調べてみると、浜松には大正時代
から餃子店があった。餃子を丸く並べ真ん中に茹でモヤシを置く、など明らか
になり「新しい宝」の発見となった。東部の焼きそば、中部のおでん、西部に
は何もなかったのでウリにした。
全国餃子サミットの開催など徹底的にメディアを使った戦略を考え、全国に
発信した。活動はボランティアで餃子店からは一切お金は頂かない。餃子店は
学会に入れない。などユニークな活動を展開。現在、マップには 180 店が紹介
されている。(掲載も配布も無料)
まさに地域づくりを担う 3 者(「バカもの」「ワカもの」「ヨソもの」が、「宝
物」を発見し、バカバカしくても真剣に全国にアピールして、数年で全国区に
なった経験であり、非常に楽しく面白い話を聞くことができ参考になった。
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【第4分科会】
「人間尊重のコミュニティづくり」に参加して
杉野
智美
自治体学校2日目の分科会、「人間尊重のコミュニティづくり」に参加した。
はじめに、愛知学泉大学付属研究所客員研究員・元教授の山崎丈夫先生が、
「人
間尊重のコミュニティづくり」をテーマに、分科会への問題提起を行った。
山崎先生はまず、だれにも看取られず亡くなる人が年間2万5千人を超え、
貧困率は16%、生活の格差が社会問題となる中、地域は安心して暮らせる場
ではなくなっている現状を分析し、生活の場を立て直すために地域づくりに取
り組むことで、集団のもつ力、ため込まれている力が発揮されていくことが重
要と述べた。
愛知県豊橋市老津地区では「地域の情報をどこまで共有できるかが防災マッ
プづくりのカギ」と一人一人が生活をさらけ出すことで、みんなを守りあう地
域づくりを行っている事例や、名古屋市城西学区では調査や工夫を強めた避難
訓練の工夫により、住民の参加が 300 人から 1,700 人に広がった取り組みなど
防災での地域づくりの重要性が報告された。
また子ども、高齢者の取り組みでは、町内の共通の関心事であるお祭り、将
棋大会などの行事の重要性とともに、千葉県松戸市常盤平団地自治会が、高齢
者の孤独死をなくすための安否確認や住民の鍵を預かり葬儀まで行う、
「NPO
法人 孤独死ゼロ研究会」など、興味深い実践が紹介されました。
大震災の復興とコミュニティづくりについてでは、陸前高田市など避難所で
の自治会づくりを紹介。名簿の管理の重要性や、
「つい立て」がそれまでのつな
がりを壊してしまう可能性から避難所でのつい立てをつくらない事例、仮設住
宅への移行後もつながりを壊さない「グループホーム型」仮設住宅が提案され
ている事などが紹介され、教訓的な災害復興の例として、奥尻の事例について
述べた。奥尻では徹底的に住民と自治体の討論が進められ、ほとんどの住民が
元居た所に住むことにより産業の回復につながり、5 年で終息宣言を出すに至っ
た。一方で阪神・淡路では、都市開発を優先したことで、元居た所に戻ってこ
られない住民が多数にのぼり、対照的な復興の事例について述べた。人口の流
出を防ぐためには、住民のくらしを重視し、働く場をつくり、もとの生活がで
きる地域の復興が求められていると感じた。
この提案に続いて、名古屋市緑区森の里荘自治会の小池田忠会長と、静岡県
生活と健康を守る連合会の酒井幸七事務局長が実践報告を行い(詳細は別紙参
照)、参加者の討議が行われた。
フロア討論では参加者が次々と発言。町内会加入率が下がる中、報告のあっ
た森の里荘がほぼ 100%の加入率を維持している背景について、「自治会に入っ
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てよかったと思える自治会づくりができるかどうかが〝ものさし〟」という討
議や、社協や自治体、町内会が連携して困難な事例の解決に当たっている経験、
また名古屋では「困りごと解決の会社」が大きく宣伝しており、入会金 150 万
円を少ない貯蓄から払って『安全・安心を買う』高齢者も増えているという報
告など、地域のあり方、行政の役割など学ぶ事が多かった。
山崎先生が最後に、
① 小学校区の範囲でさまざまな団体や個人が活動する場~〝プラットホーム
〟づくりが求められていること
② 地域の要求を行政に提案でき、地域の自治の要となる自治会活動を推進する
こと。
③ 活動の原点は学習。地域でおこっている問題をテーマに、必ず専門家を呼ん
で学習することが、活動の水準を高めていくと、コミュニティづくりについ
てまとめた。
この分科会には約 80 人が参加。自治体職員や議員が多くを占めたが、地域住
民(自治会活動に関わる方)の参加が多かったのも特徴であった。
東日本大震災後、防災のありかたに始まり地域のつながりをどうつくり上げ
るかが、まちづくりの大切なアイテムとなっている。この要となるのが地域の
自治会活動である。住民の要求をどこにつないで解決するのか、という活動の
ポイントでは、退職した自治体職員の役割の大きさが語られたことも印象的で
あった。
貧困と格差、高齢化、ひきこもり、子どもの虐待などさまざまなくらしの中
の困難がうずまき、いつ、どこで、何がおこってもおかしくない現在の地域の
現状をつかみ、学び、住民のつながりを強めている多くの実践に学び、帯広の
まちづくりに活かしていきたい。
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【最終日全体会 特別講演】
東海地震による浜岡原発のリスク管理を考える
講師 渡辺 敦雄 (NPO 法人 APAST 理事
事務局長)
杉野
智美
自治体学校の最終日、全体会で特別講演を行った渡辺氏は、元東芝の技術者。
2011 年 3 月 11 日に発生した日本国内観測史上最大規模の巨大地震、そしてそ
れによって引き起こされた福島第一原子力発電所などが全交流電源喪失という
事態を引き起こし、放射性物質の漏えいなども重なったことで、日本全国、そ
して世界に経済的な二次被害ももたらされている。二度とこうした苦しみが生
じないように、どのようなリスク管理対応をなすべきか、自らがかかわった浜
岡原子力発電所を例に、と講演が始まった。
まず原子力発電と他のテクノロジーとの違いについて、3 つの観点から述べた。
1つは、事故の規模が異なるという点である。いかなる発電技術と比較しても、
原子力発電はひとたび制御に失敗すれば、電力会社が単独で責任を取れるもの
ではないという特異さを持つ。
2つ目は、使用済み核燃料の処理方法が未確立であるという問題である。
「未
確立」というより、現代科学では不可能、と言い切った渡辺氏。核変換をしな
ければ放射性物質の毒性は変化せず、煮ても焼いても毒性は変化しない。軽水
炉の使用済み核燃料には3%程度のプルトニウム 239 が含まれるが、その半減
期は 2 万 4 千年であり、毒性が 1/32 に減じるのには、10 万年もかかる。
「10 万
年の管理」は想像ができないものである。
3つ目には、電気を生産する方法には、自然エネルギーなどの代替え法の可
能性があるという点である。
渡辺氏は危機管理について、図表を示しながら、事故に学び、事実を把握し
事実を見抜くこと。そのうえで真実から最悪の事態を想像し、不安を解消する
ための自分自身の行動計画、対策を立てることの重要性について述べた。
「地球
全体にとっての対策」「地域から見た対策」「50 年後の未来から見た対策」の視
点が求められると、確信をもって語った。
続けて述べた「事故の本質の認識」を「安全文化の共有」として一致させる
ことの重要性について、①人間は過ちを犯す。②自然災害は必ず来る。③組織
は効率を最優先する。④機械は必ず故障する。という 4 点が、危機管理の原則
として不可欠の観点であると述べた。
原発の概要については専門家としての科学的認識でわかりやすく、大変興味
深いものであった。福島第一原子力発電所は軽水を熱交換媒体とした沸騰水原
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発型。もともと原子力の平和利用として、潜水艦用に開発された加圧水型原発
を地上用に改良して米国ゼネラルエレクトリック社が開発し、米国に建設した
炉を、日本に技術導入したもので、東芝と日立が日本の沸騰水型原子炉市場を
ほぼ2分しているということであった。1年間でヒロシマ型原爆千個分の核分
裂生成物である放射性物質が発生し、使用済み燃料プールに保管され、冷却さ
れているという事実に驚きを禁じえなかった。
コストの面でも火力発電所と比べて約10倍の設備投資が必要であるという
ことです。
現在停止中の浜岡原発3、4号機および5号機については、今後30年間に
88%の確率で起こると推定される東海地震対策と、原子炉格納容器の構造上
の問題の2点を指摘した。また、浜岡原発には、1号機から5号機まで、使用
済み核燃料棒が約7,000本冷却保存されており、特に、3号機、5号機は燃
料貯蔵プールの冷却機能が喪失した場合、爆発の状態になる恐れがあることに
もふれ、早急の対策が必要であると述べた。
講演のまとめに際し講師は、技術者、国、および地方自治体の行政当局に求
められる危機管理には、最大想定事故への想像力がすべてであると述べた。浜
岡原発は、福島原発以上の事故発生確率があり、市民、行政当局にその問題が
共有され、倫理観のある技術者が、50年後の地球、市民を支える人材を育て
る力になることを願っていると述べて講演を閉じた。
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【学校長による全体会の閉校あいさつ】
「みんなが先生 みんなが生徒」
杉野
智美
第 54 回自治体学校、最終日の 3 日目、全体会では中嶋信学校長が閉会挨拶を
行った。
自治体学校の在り方について中嶋氏は、
「本質的には、教わるという受け身の
行為ではなく、主体的な営みであり、参加型の学校を意識している」と述べ、
山田洋次監督の学校シリーズの 1 回目で夜間学校をテーマにした映画について
ふれた。この中で、先生役の西田敏行が「教えてほしいという生徒がいて、教
えてやろうじゃないかという先生がいる。それが学校だろう。」というセリフを
言う場面を紹介し、お互いに先生になり、生徒になるということで、みんなが
力をつけていく、そういう参加型の学校が、この自治体学校であるという意識
だと述べた。
参加者は議員が半数だが、地元静岡から 200 名以上が参加し、住民の参加が
積極的に組織されたことで、分科会もいい議論ができたことが報告されました。
住民と行政マンと議員と、3 者が一体となって議論できたことが特徴であり、充
実した内容につながった大会であった。
地方制度改革という括弧つきの改革が進み、自治体が本来持つ自治の機能を
崩しつつある中で、それを乗り越えるような主体形成をどう構築するかが重要
であると述べ、今回の学校のタイトル「ホンモノの地方自治」という言葉が、
偽物の地方自治、怪しい地方自治が横行する中、それを一つ一つ乗り越えてい
く力が必要となっていることを強調。行政と議会そして住民との協働関係を高
めていくために新しい力を蓄積していくことが求められていると述べた。
私は、この 3 日間学んだことを通し、地域でのこうした協働関係を構築しな
がら、素人から専門家まで、多くの人が一緒にネットワークをつくって進むこ
とが、地域の特色をいかした、地域発の活動であることを実感した。
自治体学校に参加して 2 年目。より多くを吸収し、自治体のネットワークを
つくり、次回も参加したいと思った。
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