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生命保険における市場透明性
生命保険における市場透明性・ 競争・消費者保護 -西ドイツ生命保険市場をめぐる最近の動向- 下和田 功 (山口大学経済学部教授) 目 次 1.はじめに 2.西ドイツ生命保険市場の特徴 2-1保険監督行政 2-2 生命保険企業 2-3 主要生命保険指標 2-4 生命保険商品 3.マインツ大学経済政策研究所の生命保険答申 3-1答申の背景と反響 3-2 答申の概要 3-3 答申に対する評価 4.被保険者同盟とその生命保険批判 4-1被保険者同盟の概要 4-2 被保険者同盟の生命保険批判 4-3 若干の考察 -1- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 5.ドイチェバンクの保険付貯蓄プラン 5-1大手銀行の生保業務への進出 5-2 保険付貯蓄プランの商品概要 5-3 銀行側の進出動機 5-4 生保業界の反応と生保商品の競争上の有利性 5-5 銀行と生命保険の競争の行方 6.おわりに 1.はじめに 世界の金融・証券制度は、アメリカ型とヨーロッパ大陸型に大別で きるといわれる。アメリカ型は、世界大恐慌時に証券業務に関係して いた多数の銀行が倒産し、危機を深刻化させた苦い体験から、 1933年 銀行法(Glass Steagall Act)による軌\規制のもとに銀行・証券分 離型となっている。これに対して、西ドイツを典型とするヨーロッパ 大陸型は、こうした業務分野、業際関係についての国の強い規制がな く、自然に発展してきた銀行・証券兼業型のユニバーサルバンキング 方式を基本的に守ってきている。ところで、金融の自由化・国際化、 情報革命が進行するなかで、わが国でも銀行法の改革をめぐる論議が 活発化してきているが、世界主要国の銀行法をめぐる最近の動向のな かでもっとも注目されるのは、両タイプを代表するアメリカと西ドイ ツの動きであるといわれている1'。 一 アメリカでは、高インフレ、高金利、技術革新などを背景に、 1980 1 ) r西ドイツの金融証券制度-「銀行構造委員会報告」を中心に1 日本証券経済研究所、昭和59年12月、はしがき(荒井勇氏述1 -2 ページを参照されたい0 -2- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 年前後より、従来の規制の枠を超えたMMF (money market mutual fund-短期金融資産投資信託)やCMA (cash management account-現金管理勘定)といった新商品の売行きが爆発的な伸びを 示すなどの金融革新(financial innovation)ないし金融革命が進展 し、証券・銀行の両者がお互いの業務分野に侵入してきている。金融 市場の変革と金融再編成が進行するなかで、 1980年の金融制度改革法 (Depository Institutions Deregulation and Monetary Control Act of 1980)を手初めに、金利の自由化、金融業務の自由化といっ た金融の自由化ないし規制緩和(Deregulation)が進められており2㌧ 現在もアメリカ連邦議会で1933年銀行法の改正が検討されている0 他方、西ドイツでは、 1974年のヘルシュタット銀行(HerstattBank KGaA)の倒産を契機に、銀行監督行政庁である連邦大蔵省 (Bundesministerium der Finanzen)は、同年11月に「銀行構造委員 会」 (Bankenstrukturkommission)3 を設置し、西ドイツ銀行制度の 在り方について全般的検討を行なうこととした。同委員会の最終報告 書は1979年5月に連邦大蔵大臣に提出され、公表されたが、 「西ドイ ツのユニバーサルバンク・システムは、基本的には変えられたり、廃 止されるべきものではなく、引き続き存続すべきものであるという結 論を明らかにしている」4'といわれる。こうした両国の銀行法改革をめ ぐる動向については、 「アメリカにおける制度的変革については、わ Z)アメリカの金融革新の動向については、たとえば r米同金融市場 調査団報告書j全国銀行協会連合会、昭和57年2月、を参照されたい. 3)その正式名称は「金融経済の基本的問題に関する調査委員会」 (Die Studienkommission "Grundsatzfragen der Kreditwirtschaft" といい、大蔵省・司法省・連邦銀行代表各1名、金融機関代表4名、 労働界代表1名および学識経験者3名の計11名によって構成される大 蔵大臣の諮問委員会である。委員長ゲスラー(Prof. Ernst GeBler) の名をとって「ゲスラー委員会」ともよばれる。くわしくは前掲書 ( r西ドイツの金融・証券制度」 ) 25ページ以下を参照されたい。 4) r西ドイツの金融・証券制度J 221ページo SB 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 が国で紹介されることが多いが、西ドイツのそれは少なく」 、西ドイ ツの金融・証券制度や金融・資本市場の構造などについては、わが国 では十分に知られていず、 「それらに関する解説書ないし概説書で一 般に入手しうるものはほとんどない」5)のが現状である。 ところで、生命保険制度についても、同様な状況がみられるといえ よう。アメリカでは、生保業界最大手のプルデンシャル生命が証券業 界6位のベ-チェを買収し、不動産部門などへも進出して、経営多角 化を積極的に推し進め、総合金融機関化への布石を打つなど、生保企 業そのものがアメリカ金融革命の渦中にある。また、生保市場でも、 「①インフレーションの高進と高金利の出現、 ②コンシューマリズム (消費者意識の変化) 、 ③コンピューターの発達(技術革新) 、 ④金 融機関との競争(金融革新) 」6'を背景に、変額生命保険、アジャスタ ブル・ライフ、ユニバーサル・ライフ、さらには変額ユニバーサル・ ライフといった、従来の伝統的生保商品とは異なる革新的新商品の開 発が相次ぎ、 1980年代に入り、大手生保もこれら新商品の発売に踏み 切っている。こうした生保市場を巻き込んだ形で進行しているアメリ カの金融革命の動向と革新的生保商品の開発については、わが国にお いても盛んに紹介され、生保関係者も強い関心を示してきている。 他方、西ドイツの生保市場の動向については、業界紙などに断片的 記事が紹介されるだけで、本格的に取り上げた文献は皆無に近いとい える。西ドイツのファールニイ教授が「保険商品のイノベーションの 動きは、どのヨーロッパ諸国でもむしろ緩慢であった」7)と述べ、スイ 5) r西ドイツの金融・証券制度j はしがき1ペ-ジ。 6)北野賞「米国の生保商品のイノベーション」 r保険学雑誌J 、第 503号、昭和58年12月、 121ページ。 Dieter Farny, Unternehmenspohtische Grundsatzentscheidungen europiischer Versicherer bis zum Ende unseres Jahrhunderts, in Versicherungswirtschaft, 1 /1985, S. 36. BE 生爺保険における市場透明性・競争・消費者保護 スのハラー教授が「ヨーロッパでの展開はアメリカと類似しているが、 しかしよりゆっくりと進行している」8)といっているように、たしかに 金融革新や生保商品開発の動きは、ヨーロッパ諸国ではアメリカはも ちろん、さらに日本よりもゆるやかである。しかし、ヨーロッパでも 「今世紀の残りの十数年で、保険商品のイノベーションは強まるであ ろうし、」9)動きが緩慢であるとすれば、その理由なり、背景が分析 される必要があろう。現象的には、すでに西ドイツでも、異種金融機 関同士の提携による新金融商品の開発、ヴィデオテックスなどの新販 売チャネルを用いた生保商品の販売といった新しい動きがみられるの である101。本稿では、西ドイツに関する情報ギャップを多少とも埋め るべく、最近の同国の生命保険市場をめぐる動向を紹介し、検討した いと思う。 生命保険が広く普及し、その国民生活に占める重要性が増大するに 伴い、国民の西ドイツ生保事業に対する関心も一段と高まってきてい る.また、消費者保護グループやマスコミはもちろん、政治家や隣接 業界とりわけ銀行からも厳しい批判の眼がこの数年来生保業界に向け られてきた。特に1970年代末より、生保市場の不透明性と不十分な剰 余金分配に批判が集中している。保険監督行政庁である連邦大蔵省の シュトルテンベルク大臣(Gerhard Stoltenberg)は、西ドイツ生命 保険会社協会(Verband der Lebensversicherungs-Unternehmen) の年次総会の席上、生保業界のこれまでの成果を賞讃した後、特に言 8 ) Matthias Haller,くくAssekuranz 2000))蝣Moghche Wege und ein Gemeinschaftsprojekt, in・Jahresbencht 1982/83 des Instituts mr Versicherungswirtschaft an der Hochschule St. Gallen, St. Gallen 1983,S.23. 9) Farny, a. a. 0., S.37. 10)下和田功「生命保険市場における新競争」 r山口経済学雑誌j 第 34巻第3 ・ 4号、昭和60年6月、 41-58ページを参照されたい。 -5- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 及して、顧客のために生保市場の透明性11)を改善し、剰余金の顧客へ の分配率を高めるよう、生保会社の一段の努力を要請しているが、こ の大蔵大臣の発言は生保会社に向けられた最近の批判・要求を代弁し たものであるといわれる)2-. マスコミは70年代末より生保会社の顧客への剰余金分配が少なすぎ ることを厳しく批判していたが、こうした生保批判の最近のクライ マックスが1982年3月に設立された「被保険者同盟」 (Bund der Versicherten)の登場であったといわれる13)。同盟は保険事業全般を 批判の対象としているが、生保に対する要求の一つとして、アメリカ の生保商品の開発をモデルに、保険料を貯蓄部分と保障部分、経費部 分に分離することを求めており、この要求が実現すれば、保険消費者 は剰余金分配率が最も高く、事業費率の最も低い会社を選択でき、生 ll) 西ドイ ツでは、保険市場における市場透明性 (Markttransparenz)の問題が再三論議されてきた0 7 7-ル二イは、 その著書 r保険市場一保険市場理論に関する一研究」 (Dieter Farny, Die Versicherungsmarkte. Eine Studie tiber die Versicherungsmarkttheorie, Berlin 1961)において、カーレル(Erich Carell の著書(Volkswirtschaftslehre, 8. Auflage, Heidelberg 1958)に拠りながら、市場展望(Marktubersicht)と市場判断 (Markteinsicht)とをその本質とする市場透明性の概念を保険市場に 適用している(Vgl. Dieter Farny, Die Versicherungsmarkte. Eine Studie tiber die Versicherungsmarkttheorie, Berlin 1961, SS.34 -36.: かれの見解によれば、保険市場における市場展望とは、あ る潜在需要者に供給される給付の多様であることの展望をいい、保険 市場における市場判断とは、給付と価格(料率)との比較考量による 判断をいう。そして、保険市場における市場透明性は、 Q)多くの保 険種目における多種多様な約款の存在、 ②生命保険などにおける総 価格主義採用による価格比較の不可能さ、などの理由からあきらかに 極度に劣っている、という。なお、市場透明性は需要者側と供給者側 の両サイドから取り上げることができるが、本稿ではもっぱら需要者 側における市場透明性を問題としている。 (くわしくは、広海孝一 「保険市場の不完全性-77ルニーの所説を中心として-」 r保険学雑 誌J第418号、昭和37年11月、 116-117ページを参照されたい。) 12) Vgl. Wirtschaftswoche Nr. 25 (15. 6.1984) , S.96. 13) Vgl. Wirtschaftswoche Nr. 25, S.96. -6- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 保市場の透明性が著しく改善され、有効競争も促進されるものと考え ている。 同盟が手本としているアメリカの変額生命保険やユニバ-サル・ラ イフに頬似した側面をもつ保険付貯蓄プランがドイチェバンク (Deutsche Bank)により1983年秋から発売され、銀行の生保への挑 戦として話題をよんだ。一部の識者からは、銀行の生保業務への進出 が、生保市場における競争を激化させ、生保の市場透明性を高め、消 費者の利益を増大させるもの、と期待されている。 本稿では、まず西ドイツ生命保険市場の特徴を以下の行論で必要な 限りで簡単に触れた後、生命保険における市場透明性の改善、競争の 促進、消費者保護の確保の堵観点から、マインツ大学経済政策研究所 が1982年に大蔵大臣に提出した答申を紹介し、さらに前述の被保険者 同盟の生保批判とドイチェバンクの生保業務進出について若干の検討 を行ないたい。 2.西ドイツ生命保険市場の特徴 211 保険監督行政 保険事業に対する監督法規として、 「私的保険企業の監督に関する 法律」 、いわゆる保険監督法(Versicherungsaufsichtsgesetz-VAG) が制定されている。連邦大蔵省が保険監督行政の所管官庁であるが、 その外局として連邦保険監督庁(Bundesaufsichtsamt flir das Versicherungswesen-BAV)が連邦保険監督庁設置法によりベルリンに 設置されており、実質的監督主義に基づき、保険事業の細部にわたり、 -7- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 強力な監督・指導を行なっている BAVには、消費者から多数の問 い合わせや苦情が寄せられており、 1984年には20,210件(前年度は 20,811件)に達しているH)。 保険事業は、保険監督法第7条Iにより、株式会社か保険相互組合 (Versicherungsverein auf Gegenseitigkeit-VVaG)15)または公法上 の団体ないし施設(offentlich-rechtliche Korperschaft /Anstalt)で なければ営業できないことになっている。 また、法律上明確な規定がないにもかかわらず、監督行政は生命保 険、疾病保険、信用保険、訴訟費用保険(Rechtsschutzversicherung) の兼営を認めていず、その他の保険部門は「損害・災害保険」の名称 でよばれ、いわゆる多種目保険業者(Kompositversicherer)によって 取扱われている。 こうした複雑な兼営禁止に関する保険監督の実態が、保険コンツェ ルンないし保険グループ化の形成を促す要因となっているといわれ、 戦後も系列化が一層促進された。大部分の主要保険企業が15大グルI プのいずれかに属している。なかでも、アリアンツ・ミュンヘン再保、 フォルクスフユアゾルゲ、ライン・グループ、ヴィクトリア DAS、 ゲーリング、 7-へン・ミュンヘン、 SRBの七大コンツェルンの市 場占有率は高く、生命保険市場でも、 5社を有するアリアンツ・ミュ ンヘン再保コンツェルンが24.18%の市場シェアを有し、七大コン ツェルンが市場の約5割を占めている(第1表参照)0 14) Cf. Swiss Reinsurance Company, experiodica, No. 4/1985, 6. 15)これには小相互組合と大相互組合があり、後者がわが国の相互会 社に相当する。 ss 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 第1表収入保険料による七大コンツェルンの市場占有率(1980年度) (単位:%) コンツ ェル ン ない し グ ル ー プ 名 A llia n z / M u n c h e n e r R u c k 生 命保 険 疾 病保 険 24 .18 1 8 .3 1 損 害 . 災害保 険 全保 険 部 門 2 2 .9 6 2 2 .6 3 1 .3 6 5 .1 0 6 .2 1 4 .4 7 4 .3 7 3 .5 1 3 .7 4 G e r lin g - K o n ze r n 3 .3 8 3 .2 6 3 .1 7 A achener und M u nchener 2 .7 9 4 .10 3 .0 8 2 .9 8 S 1 .2 5 1 4 .0 6 2 .4 8 2 .9 4 3 6 .9 6 4 2 .8 6 4 5 .0 3 V o lk s fiir so rg e 7 .2 6 R h e in is ch e G r u p p e 4 .0 5 V ic to r ia / D A S R B 合 計 4 7 .2 8 0 .4 9 〔出所〕 Dieter Farny, Die deutsche Versicherungswirtschaft, Karlsruhe 1983, S. 118. 2-2 生命保険企業 西ドイツ生命保険会社協会の会員会社数を企業形態別にみると、 1983年度では株式会社66社、相互会社28社、公営保険会社5社、その 他16社16㌧合計115社となっており、株式会社が全体の約6割と圧倒 的多数を占めている。 また、保有契約高、収入保険料、総資産の主要三指標でみると、い ずれも上位10社内には株式会社形態をとる生保企業が大半を占めてお り、西ドイツの生命保険市場では株式会社が絶大な支配力を有してい ることがわかる.第2表により1983年度について収入保険料ベースで 上位10社の市場占有率をみると、第1位のアリアンツ生命保険株式会 社が1社で生保市場の七分の一に相当する14.;のシェアを有し、上 位3社で28.2%、上位5社で36.5%、上位10社では生保市場の二分の 16)大部分が外国保険会社である。 -9- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 -強の51%の市場占有率を記録している。しかも、上位4社はすべて 株式会社であり、上位10社中実に8社までが株式会社によって占めら れている。西ドイツ以上に生命保険の普及している日本およびアメリ カでは相互会社が上位を占めているが、その点で西ドイツはきわめて 対照的である。 第2表収入保険料に,よる西ドイツ生保上位10社(1983年度) (単位: io0万マルク、 %) 順 位 1983 年 19 82年 会 社 市 名 金 額 場 2) 占有 率 生 産 3) 集 中度 1 1 A llian z L ebe n ㈱ 5 ,2 1 0 .3 8 1 4 .2 上 位 1 杜 2 2 V o lksfur so rge ㈱ 2 ,7 0 2 . 15 7 .4 14 .2 3 3 H a m b u rg tM an n heim er㈱ 2 ,4 10 .6 9 6 .6 4 7 V icto ria L e ben ㈱ 1 ,5 3 5 .1 0 4 .2 5 4 Idu n a L eb en l相 ) 1 ,4 9 6 .1 8 4 .1 6 5 R + V L eb en 相 ) 1 ,3 6 8 .5 2 3 .7 7 6 G erlin g- L ebe nーG rup p e㈱ 1 ,1 2 6 .0 9 3 .1 上 位 3 杜 2 8 .2 上 位 5 杜 3 6 .5 8 8 A M tL eb en ㈱ 9 6 9 .8 8 2 .6 9 9 C o lo n ia L eb en ㈱ 9 6 2 .8 2 2 .6 上 位 10 杜 10 10 D e utsch er H ero ld ㈱ 9 0 9 .3 0 2 .5 5 1 .0 198 3年 度 収 入 保 険 料 合 計 (全 社 ) 3 6 ,6 3 7 .0 0I, 10 0 .0 注: 1) Die deutsche Lebensversicherung, Jahrbuch 1984より引用. 2), 3)筆者が1)を用いて算出。 〔出所〕 Zeitschrift fiir Versicherungswesen, Nr.16/1984, S.404. 2-3 主要生命保険指標17' 1983年度の保有契約高は、金額では9,835億マルク(同年度国民所 得12,775億マルクの約77%に相当する)で、 1950年度の150億マルク の65倍にも達しており、件数では6,715万件(世帯数約2,500万として 17)主にVerband der Lebensversicherungs-Unternehmen, Die deutsche Lebensversicherung, Jahrbuch 1984 (藤田楯彦他訳「西 ドイツの生命保険(1984年版)」生命保険文化研究所r所報J第70号、 1985年3月、 153-241ページ)に依拠している0 -10- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 1世帯平均2.7件の生保契約を有することになる)で、 1950年度の 2,400万件の2.8倍になっている。件数の伸びをはるかに上回る金額の 伸びを記録しているのは、新契約件数と新契約平均保険金額の増加に よることはもちろんであるが、 1970年初頭に導入された調整条項 (Anpassungsklausel)18付契約の普及率が年々高まってきたことにも 起因しており、アリアンツ生命の新契約件数でみると、その三分の二 以上がこの調整条項付契約となっている19)。平均保険金額は1983年度 で30,600マルクであるが、男性の平均33,810マルクに対し、女性の平 均保険金額は24,660マルクで、男女間の格差は大きく、 9,150マルク に達している。 1983年度の総収入保険料は366.4億マルク(国民所得の約2.86%; で、 1950年度の7.92億マルクの46倍に増加している。 また、 1983年度の総資産は2,386億マルク(国民所得の18.7%;で、 1950年度の150億マルクの16倍となっている。保険契約者の払い込む 保険料が累積され、生命保険会社によって投資運用されるこの巨額な 生保資金は、長期安定資金として資本市場を通じて民間企業のみなら ず、国家財政や地方財政のためにも提供されている1983年度の新規 運用資産400億マルクの実に22%にあたる88億マルクが、連邦や州、 地方自治体の財政のために生保会社から融資されていた。その内訳は 貸付金が39億マルク、連邦債・州債が16億マルク、地方債が33億マル クとなっている。 18)西ドイツの中核的な公的年金制度である職員年金保険では、最高 報酬限度額を一般賞金上昇率にスライドして毎年引き上げているが、 この引上率を基準にして、調整条項付契約では保険料が毎年増額され それに応じて保険金額も増額される0 19) Vgl. Allianz Lebensversicherungs-AG, Bericht tiber das Geschaftsjahr 1983, SS. 13-14. -日l 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 2-4 生命保険商品 西ドイツ生保市場では、 100社を超える生命保険会社により、おお まかに見積って1,000種以上の生保商品が販売されており、さらに各 種の配当や付加的サービスなどが加わり、多種多様な生保商品が顧客 のために用意されている、といわれる。 しかし、主力商品は伝統的養老保険であって、保有契約高の四分の 三以上を占めており、その平均契約期間は28-30年となっている。 生命保険の保有契約高を種類別に金額と件数で示した第3表をみる と、団体保険の比重は約13%と低く、個人保険が87%を占めている。 個人保険では、一時金保険(Einzel-Kapital-Lebensversicherung)が 時系列的にはその比重を低下させているとはいえ、依然として最も普 及している保険種類であり、 1983年末でも金額で78.1%、件数で 80. 7%と生保市場全体の五分の四を占めている。個人保険市場に限定 すれば、 1983年末の一時金保険の占率は、金額で89.4%、件数では 92.3%とさらに高い数値を示している。そして、一時金保険の大部分 は生死混合保険、すなわち養老保険で占められているのである。 定期保険(Risikoversicherung)は、その比重を年々高めていると はいえ、 1983年でも生保市場全体では金額で6.2%、件数で5.1%を占 めるにすぎず、一時金保険のわずか十三分の一(金額で) 、ないし十 六分の- (件数で)にすぎない。個人年金保険(Einzel-Rentenversicherung)の比重は、定期保険よりもさらに低くなっている。 -12- 第S3 生EfSaou^KiiM旧 (1)保険金額 (単位:億マルク, %) 】 個 人 煤 時 金 保 険 」 垂 年l] 1 3 1 .0 1 (8 7 .3 ) 1960年 I 1970年 5 3 9 .3 0 ( 8 2 .2 ) 1 ,9 5 6 .0 4 定 期 保 険 1 .5 1 1 .0 ) 8 .6 7 ( 1 . 3 ) 5 5 .2 7 年 金 保 険 3 .0 3 ( 2 .0 ) l l .6 0 ( 1 .8 ) 8 8 .3 7 (8 3 .2 ) ( 2 .3 1980年 6 , 16 7 .0 2 ( 7 8 .5 ) 4 5 9 .5 0 ( 5 .9 1983年 7 ,6 7 5 .2 3 ( 7 8 .1 ) 6 1 4 .0 1 ( 6 .2 ) Hf E喝 56 サ rl 険 3 .8 ) 2 3 0 .9 3 ( 2 .9 ) 2 9 4 .1 8 3 .0 缶ナ ヽ+ 団 体 保 険 14 .5 0 ( 9 .7 ) 9 6 .5 9 ( 1 4 . 7 2 5 2 .6 6 ( 10 .7 ) 9 9 3 .9 3 ( 1 2 .7 ) 1 ,2 5 1 .5 8 1 2 .7 か 哉・ r f S I- 15 0 .0 5 ト・一 竿(2)件 数(単位:iooo,%) 一 個 人 Llg 団 時 金 保 (100 ) 19 50年 「 6 5 6 .1 6 ( 1 0 0 ) 1960 年 2 ,3 5 2 .3 4 ⊥ 197 0年 19 80年 9 ,8 3 5 .0 0 (1 0 0 ) 1983年 IS 軸 盟 蘇 2 0 ,9 1 9 (8 7 . 1 ) 3 4 ,2 2 0 8 4 .5 ) 4 5 ,0 7 8 8 4 .5 ) 5 3 ,5 7 1 8 1 .5 ) 5 4 , 16 7 (8 0 . 7 ) 2 .5 ) 3 ,3 1 6 ( 5 .0 ) 3 ,4 2 9 ( 5 .1 ) 823 ( 1 .2 ) 義 )畔 軸 8 ,728 (13 .0 ) 13 期 保 険 72 0 .3 ) 23 1 0 .5 ) 1 ,3 3 1 年 金 保 険 168 ( 0 .7 ) 118 0 .3 ) 553 2 ,8 6 6 ( l l .9 ) 5 ,9 4 8 ( 1 4 .7 ) 6 ,4 1 3 保 7 ,8 5 1 .3 8 ( 1 0 0 ) 険 定 体 10 0 ) 険 ( 1 .0 ( 1 2 .0 ) 72 1 8 ,1 4 0 1 .1 (12 .4 ) m # 淋 合 計 2 4 ,0 2 5 100 ) 4 0 ,5 1 7 (100 ) 5 3 ,3 7 5 ( 10 0 ) 6 5 ,7 4 8 100 ) 6 7 , 14 7 (100 注: 1)一時金保険は養老保険、財形保険、簡易保険、終身保険からなる1950年代まで簡易保険が重要な地位を占めていたが、その後 急速にその比重は低下してさてお.) 、 1983年では総件数の20%を占めるが、金額ではわずか1.7%にすぎない。 〔出所〕 Die deutsche Lebensversicherung, Jahrbuch 1984 より作成。 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 3.マインツ大学経済政策研究所の生命保険答申 3-1 答申の背景と反響 西ドイツでは1970年代に入り、消費者運動が盛んとなり、国民の消 費者保護問題に対する関心は急速に高まっていった。マスコミでもこ の間題がしばしば取り上げられるようになったが、生命保険に対する マスコミの批判も一層手厳しいものになっていった1980年前後がそ の一つのピークともいえるが、西ドイツ生命保険会社協会発行の年報 (1981年版)では、とくに一章を割いて「生命保険に対する社会的批 判」が論じられている20'し、 1982年版では、 「1981年は、生命保険が あらゆる分野の批評家によって取り上げられ、批判された」21'と述べ られている。 マスコミが生命保険をテーマとする場合の論議スタイルの変化は70 年代に始まるといわれ、 「その頃に、西ドイツの生命保険の業績を公 表して透明性を高めること、換言すれば、とくに消費者志向的サービ スとして読者に順位一覧表の形で競争比較を流す、というジャーナリ スティックな試みが始められた」22'のである。生保業界ではマスコミ による「こうした透明性の試みに問題のあることを繰り返し指摘して、 不正確な記事を訂正し、そ.の正しい本質を明らかにすることに努め」 たが、 「この種のジャーナリスティックな試みを抑制させ」ることは できなかった23)。 20)下和田功他訳「西ドイツの生命保険(1981年版) 」生命保険文化 研究所 r所報j第57号、昭和56年12月、 169-174ページ0 21)下和田功他訳「西ドイツの生命保険(1982年版) 」生命保険文化 研究所r所報」第61号、昭和57年12月、 137ペ-ジ。 22)、 23)下和EEl他訳「西ドイツの生命保険(1981年版) 」 169ページ0 -14- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 このような状況を背景に、連邦大蔵省は、マインツ大学経済政策研 究所(Forschungsinstitut fur Wirtschaftspolitik an der Universitat Mainz)に生命保険の調査研究を委託した。研究所では、シュテッ フラー(Dr. Michael Stoffler)を中心に5人の学者(Prof. Dr. H. Diederich: Prof. Dr. 0. Gandenberger: Prof. Dr. W. Hamm: Prof. Dr. E. Welter: Prof. Dr. W. Zohlnhdfer)が加わって検討 を重ね、 1982年2月にその答申(Gutachten)を「市場透明性の促進 による生命保険における競争の改善」 (Verbesserung des Wettbewerbs in der Lebensversicherung durch Ferderung der Markト transparenz - Darstellung, Analyse und Wertung der gegenwartigen Lage auf dem Markt sowie der moglichen Anderungen aus insbesondere wettbewerbs- und verbraucherpolitischer Sicht) と題してとりまとめ、連邦蔵相に提出した。同答申は「生命保険にお ける市場透明性」 (Markttransparenz in der Lebensversicherung. Analyse bishenger Erfahrungen und Empfehlungen fur die Weiterentwicklung se-ktorspezifischer Regelungen aus wettbewerbs und verbraucherpolitischer Sicht)と改題されて、同研 究所の叢書の一つとして翌年に出版されている。また、 1984年には、 その新版ともいうべき著書がシュチッフラー著として市販されるに 至っており24)、情報提供の問題を中心に、生命保険市場における消費 者の状況を経済学の観点から総合的に把握した最初の著書といわれて いる。 この学者グループによる答申は、社会的に大きな反響をよび、生保 関係者のみならず、新聞、雑誌などで繰り返し引用され、言及されて 24) Michael Stoffler, Markttransparenz in der Lebensversicherung, Karlsruhe 1984. -15- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 きた。たとえば、最近の引用例としては後述の被保険者同盟代表のマ イヤーの著書(Ratgeber Lebensversicherung, S.32)や、西ドイツ 生命保険会社協会の「西ドイツの生命保険1984年版) 」 215ペー ジ)をあげることができる.また、学者グループの一人デイ-デリッ ヒは1984年2月マンハイム大学保険学振興協会の年次総会に招解され て講演を行なっており、答申の要旨を紹介し、答申に対する二、三の 見解やその後の新展開について説明している25)。 3-2 答申の概要 筆者の手元にあるマインツ大学経済政策研究所叢書としての著書 r生命保険における市場透明性」の構成は、以下のようになっている0 第一部 生命保険市場における現状の叙述 A 生保市場における供給の形成 B 生保市場における国家監督 C 供給者の法形態が需要者の決定に与える意義 D 外国の生保業界の概観 第二部 生命保険市場における現状の評価および競争政策的、消費 者政策的視点からの改善案 A 生命保険市場における市場透明性、競争および消費者保 護 B 生命保険市場における市場透明性、競争および消費者保 護の改善の可能性 25) Vgl. Helmut Diedench, Markttransparenz und Verbraucherschutz in der Lebensversicherung (Mannheimer Vortrage zur Versicherungswissenschaft, Nr. 30), Karlsruhe 1984. -16- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 第-部では、西ドイツ生保市場の現状(保険料計算、剰余金の規定 要図・分配、募集・情報提供、監督行政、企業形態など)が説明され ている。その現状分析に基づき、第二部では、生命保険における競争 と市場透明性を改善するために、学者グループによる具体的提案が行 なわれている。ここでは、第二部第B章(184-231ページ)に示され た提案の概要を紹介する。 この学者グループの基本的考え方は、以下のように要約できる26)。 生命保険の供給・需要は原則として市場で取り引きされ、生保市場で は競争が行なわれるべきである。市場のプロセスを通じ、経済全体とし て望ましい成果が得られるためには、需要者側がミニマムの市場展望を 得られることが前提となるO需要者が供給される市場について十分な知 識を入手できなければ、自分のニーズにマッチした最良の商品を選択す ることはできないし、供給者側の競争も十分には促進されない。した がって、市場展望の確保は国家の経済政策により配慮されるべきである。 市場透明性の改善と消費者保護は密接に関連しており、市場現象に関す る消費者の情報入手は財の供給者に対する消費者の地位を改善する重要 な手段となる。 こうした認識に立って、以下のごとき市場透明性改善のための提案・ 検討(D-(5 と、消費者保護の確保のための対策((6 、 7)) が答申に提示されている。 (1 )消費者向けパンフレットの作成Z7' 生保会社や外務員の立場から書かれた従来のパンフレットとは異なり、 26) Vgl. Diederich, a. a. 0., SS.5-6. 27) Vgl. Forschungsinstitut紬r Wirtschaftspohtik an der Universit畠t Mainz, Markttransparenz in der Lebensversicherung, Mainz 1983, SS. 185-197. -17- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 非専門家も参加して中立的立場から書かれた、以下の如き内容からなる 平易なパンフレットを作成し、消費者の保険教育を強化すべきである0 なぜなら、消費者の知識の向上が生命保険市場における競争改善の前提 条件となるからである。パンフレットの第一部では、メリット情報とデ メリット情報とを含め、生命保険の任務と機能が説明され、第二部では、 最良最適の契約形態を選択するための留意事項が記述される。 ( 2 )現行実例計算の改善28) 現在用いられている剰余金配当の実例計算(Beispielrechnung)は消 費者に間違った印象を与える恐れがあるので、その名称を「現状から可 能と思われる対比計算(Vergleichsrechnung) 」と改め、さらに計算に は「将来の剰余金分配額は今後の死亡率、投資収益、事業費の推移に よって左右され、現時点で正確に予測できない」といった旨の文章を挿 入すべきである。また、全ての生保企業が予定剰余金分配の支払能力の あることを証明する方式を煮化すべきである。 ( 3 )予定利率の現状維持29' たとえば1980年で生保会社の平均利回りが7.1% (1970年では7 %)で、 現行予定利率3 %を大幅に上回っていることから、予定利率の引き上げ を求める声があるo しかし、予定利率を引き上げると剰余金が低下する ので、競争と市場透明性の改善には必ずしもならない。また経営状態の 最悪の生保企業も契約は確実に履行しなければならず、企業の中には現 行予定利率とあまり差のない4ないし5%以下の利回りしかあげていな い会社も数社存在する。 28) Vgl. do., SS. 198-201. 29) Vgl. do., SS. 201-206. -18- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 ( 4 )独立保険ブローカーの育成30) 独立保険ブローカー unabhangige Versicherungsmakler)は経験豊 かであり、顧客の立場に立って適切な保険会社や商品の選択の相談に のってくれるので、かれらの育成と増員は生保の市場透明性の改善に役 立つものと思われる。 ( 5 )指標の問題点31) 生命保険業界は、保有契約高・新契約費、収入保険料・事業費率、資 産運用の平均収益率・総収益率、剰余金配当・配当準備金などの指標を 含む指標一覧表を作成してきた。しかし、各指標は相互に関連しており、 専門家でないと適確に理解することはできないし、個別的かつ限定的読 明能力しかない。むしろ一般の消費者にとって指標に基づく生保企業の 比較は、生保企業の間違ったイメージをもたせ易く、消費者が最も有刺 な会社を選択する方法として、指標は決して適切なものではない321 ( 6 )保険契約者の契約撤回権の付与と外務員手数料体系の改善33J 保険契約者が契約締結後第-回保険料を支払わなくても、保険会社 はそれを訴求しないが、このことは外部的には公表されていない。し たがって、その契約締結に不満な新規保険契約者は、第-回保険料の 払い込みを拒絶するか、契約破棄ができないから払い込まざるをえな いと考えるかに応じて、現在は保険会社から異なる扱いを受けている0 こうした現状を改善するために、保険契約者に一定期間契約を解除す る権利を与えるべきである.契約撤回権(Rucktrittsrecht)を認める 30) VgL. dO., SS. 207-208. 31) Vgl. do., SS. 209-221. 32)くわしくはr西ドイツの生命保険(1984年版) 」 211-217ページ も参照されたい。 33) Vgl. do., SS. 221-224. -19- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 期間としては、 10日間が適当と考えられる。 保険契約の締結には外務員がきわめて重要な役割を演じており、保 険契約者に決定的影響力を持つ。ところが、現行の外務員手数料は養 老保険契約や高額契約に有利になっているので、外務員は契約者の立 場に立って必ずしも保険加入を勧誘するとは限らず、自分の収入を増 やす方に関心が向きがちである。したがって、契約撤回権の導入と共 に、外務員が保険契約者の立場にたって勧誘するような外務員手数料 体系に改める必要がある。しかし、それは各保険会社が自ら実施すべ きことであって、国家が干渉して外務員に支払う手数料を強制的に三 年間に分割させるといったことは、競争政策的観点からは否定される べきであろう。 ( 7 )消費者保護のための国家監督の有効性確保34' 国家監督の任務は、保険契約者の利益を守り、危険から保護するこ とにあり、そのために、保険監督官庁はすべての生命保険企業の経営全 般にわたり監督指導している。競争の激化によって、契約者の利益が 脅かされる可能性も増大するので、消費者政策の観点から、連邦保険 監督庁(BAV)が法律で委任された事項を完全に履行することがさ らに要請される。そこで、以下のような強化措置が求められる。 (》検査回数の増加 保険監督法(第84条第1項1)は5年に1度各保険会社を検 査することを定めているが、実際にはBAVのスタッフ不足から 平均して8年に1度しか実施されていない。消費者の利益保護を 確実に行なうためには、やはり生保会社の検査は少なくとも5年 に1度実施すべきであり、 BAVの体制を整備すべきである。 34) Vgl. d0., 225-231. -20- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 ②損益計算書などの早期提出 生命保険会社は事業年度が終了して8カ月以内に損益計算書 などをBAVに提出すればよいことになっている。しかし、監督 機能を迅速に適切に発揮するためには、情報を早く入手すること が重要であるので、年度終7後3カ月程度で書類を提出するよう 改めるべきである。 ③不十分な契約者配当に対するBAVの介入強化 生保会社の剰余金の大部分は、保険監督法で定められた安全 性を見込んだ保険料算定の結果発生したものである。したがって、 BAVはこの剰余金が保険契約者に適正に分配されるよう生保会 社に要請すべきである BAV自身が契約者の利益保護のために 必要と考えている最低基準の配当返還率(Rlickerstattungsquote )を下回る生保会社には、その改善が求められる。保険契約者 への配当が明らかにしかも数年にわたり不十分な会社には、 BAVはもっと介入すべきである。 ④解約時の保険契約者への剰余金分配 現行規定では、早期に解約した保険契約者には、その年度の 剰余金は分配されないことになっている。しかし、それは全契約 者に利源別に平等に剰余金を分配するという原則に反するもので あり、早期解約者にも取り分に応じた剰余金を配当すべきである。 3-3 答申に対する評価 答申の諸提案は、全体として穏健なものであり、西ドイツ生保業界 を混乱に落とし入れるような斬新かつ革新的なものはない。ズルミン スキイも「研究所の諸提案は西ドイツの現行生命保険システムに適合 -21- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 したものであり、生保会社があまり苦労せずに実現可能なものであ る」35)と評価を下している。 答申の本格的検討は、改めて別稿で試みる予定であるので、ここで はズルミンスキイの評価36)を要約して紹介するにとどめる。 (D消費者向けパンフレットの作成であるが、わずか10ページ程度 の小冊子で素人にもわかるように生命保険を解説することはきわめて 困難であり、補足的なパンフレットや説明書がさらに多数必要となる0 それらが実際にどの程度消費者を啓蒙し、教育するのに役立つか疑わ しい。自動車や洗濯機の購入の場合とちがって、生保を契約する前に こうした情報を入手したいと思う生保需要者は少ない。生保の顧客は 勧誘員との人的つながりが強く、ほとんどの生保契約者は外務員まか せで、面倒な資料を自分で読むような労力を惜しんでいる。 ②現行の実例計算書は、たしかに消費者を誤解させるような点が あり、名称および内容を改善しようという研究所の提案は結構なこと である。 ③現行予定利率を維持すべきとする研究所の提案にはそれなりの 根拠があるが、しかし、競争の促進、市場透明性の改善という観点か らは、現行予定利率をそのままにしておくことには疑問がある。なぜ ならば、予定利率を引き上げれば、生保会社がその経営を効率化させ、 経費節減を行なわせる有力な圧力となりうるからである。予定利率と 実際の運用利率の差が縮小すれば、経費を無駄使いする余裕は少なく なる。 ④保険ブローカーに関す再提案は、業界の実情を無視した空理空 35) Arno Surminski, Mehr Marlcttransparenz und Wettbewerb in der Lebensversicherung, in・Zeitschnft fur Nr. 18/1983,S. 450. 36) Vgl. Surminski, a. a. 0., SS. 450-452. -22- Versicherungswesen, 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 論であるO保険ブローカーもできるだけ多額の手数料収入をえるため に活動しているので、顧客本位に行動するとは限らない。さらに、典 型的な保険ブローカーは生命保険の個人客にはほとんど関心はなく、 コスト面から企業との取引や団体保険・企業年金に専ら従事している ことを研究所の提案は見過している。 ⑤指標による生保会社の企要比較について、研究所は否定的見解 を示している。しかし、比較可能な指標を作ろうとするこれまでの努 力は過小評価すべきではない。マスコミを通じて指標が公表され、国 民に広く知られることによって、競争が促進され、消費者の保険に対 する関心や知識も高まってきた。最近の生命保険の市場透明性の改善 は、指標が必ずしもいつも正しい方法で用いられなかったとしても、 まず第一にこの指標が広く利用されるようになったことに起因すると いってよい。したがって、研究所の見解とは異なり、今後指標を一層 改善する努力が行なわれるべきであり、指標の普及は少なくとも間接 的に市場透明性を高める役割を果たすといえる。 ⑥外務員手数料体系の改革については、立法や行政によってでは なく、各生保会社が、自ら検討すべきであるというのが、研究所の見 解である。そして、外務員の不十分な説明による需要者の立場を保護 し、生保会社が問題のある外務員手数料体系を顧客志向的なものに変 革するようにするために、研究所は約10日間の契約撤回権を保険契約 者に認めるよう提案しており、妥当な見解といえる。 (B こうした提案と並行して、研究所が生命保険業界の広告の不適 切さと、実質的監督主義の問題点を指摘しているのは興味深い。広告 については、それがとくに「もうかる投資」という観点を強調してい る点を研究所は批判している。生保の税法上の優遇措置を除外すれば、 とても太刀打ちできない他の金融機関と生保会社が競争をはじめるこ -23- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 とになる。 研究所はイギリスにみられるような公示主義(Publizitatssystem) に一定の理解を示している。公示主義では、国家監督は単に保険会社 の収益状態と資産状態の公開を行なわせるだけで、公開されたデータ から必要な結論を導きだすのは国民大衆である。この監督方式は顧客 の生命保険に対する関心を増大させ、顧客が必然的によりよい情報を 入手できるようにするものと研究所は考えている。逆に西ドイツのよ うな実質的監督主義では、監督官庁の承認が保険商品の品質を保証す るので、顧客は自分で調べる必要はないと考える。ドイツの保険消費 者は、実質的監督主義の結果、国家という父親のみを信頼している未 熟な子供のように自立できないでおり、この点をもつと根本的に洗い 直す必要がある。 4.被保険者同盟とその生命保険批押7' 4- 1被保険者同盟の概要3n (1)創設 保険消費者団体の一つである「被保険者同盟」 (Bund der Versicherten e.V.は、マイヤー(Hans.Dieter Meyer)を代表者 (Gesch軸sfiihrer)として、 1982年3月ハンブルクに創設された登録 37)別稿で詳しく検討する予定なので、本稿ではその概要のみを紹介する0 38)主に下記二著書を参照した。 ① Hans Dieter Meyer, Lebensversicherung-Was Gesellschaften und Vertreter verschweigen, Hamburg 1983. I以下Meyer, 1983として引用.) ② Hans Dieter Meyer,Ratgeber Lebensversicherung-Es geht um viel Geld, Munchen 1984. I以下Meyer, 1984として引用。) -24- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 済社団法人(eingetragener Verein)である。同盟は会員組織をとっ ており、1983年には会員数は2,000人をこえ、さらに1984年初めには 3,000人を上回ったといわれるo同盟は保険情報出版社(Verlag fur Versicherungsinformationen)という出版局を有して、パンフレット や本を出版し、会員および一般消費者のために保険に関する情報を提 供している。また、会員の個人的相談にのるために、同盟は1983年か ら地方支部 Landesverb且nden)を逐次設置し始めている. 「その活 発な出版活動、具体的なアドバイス、勇気ある情報の提供により、保 険という暗黒大陸に光をあてた」として、同盟は[1982年度消費者 賞J (Verbraucherpreis 1982)を授与されているO (2)目的 被保険者同盟は、保険消費者の利益を守るための利益団体として組織 されたものである。保険消費者の置かれている現状に対する同盟の基 本的認識は、以下のように要約できる。 国民は誤った高すぎる保険へ加入することによって多額のお金を 損している。その原因は種々あるが、なかでも消費者への情報提供 が不足していること、および被保険者の利益を代表する団体が存在 しないことに求められる。したがって、同盟の目的は消費者に適切 な情報を提供し、消費者の相談にのり、被保険者の利益代表として 活動することにあるO そこで、同盟は次のような活動を行う。 ①保険問題について情報を定期的に流し、同時に同盟は会員の書 面による相談に応じ、保険に関するあらゆるアドバイスを会員に与 える。また、会員が保険会社とのトラブルに巻き込まれた場合には、 同盟は無料で39)会員を支援する. 39) Meyer , 1983, S.49では無料となっているが、 Meyer, 1984, S.161 では「無料で」という語句は削除されている。 -25- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 ②同盟は、重要な問題についてはモデル訴訟(Musterprozesse) として訴訟をおこす。また、同盟は保険制度の調査研究を行なう が、すでに1982年には保険制度をテーマとする連邦議会の公聴会に 招聴されており、政府や連邦保険監督庁といった政治的レベルで、 西ドイツの被保険者の地位が改善されるよう、努力している。 (3)出版活動 被保険者同盟は、保険に関する有益な情報を盛り込んだパンフレッ トや単行本を会員に対し無料で配布している。 r保険情報 一 被保 険者同盟機関誌」 (Versicherungsinformationen, Mitteilungsblatt des Bundes der Versicherten)が定期的に発行されている。また、 筆者の確認しえた限りでは、これまで以下のタイトルで単行本が出版 され、会員に無料で配布されており、いずれも一般書店でも販売され ている。 I. Versicherung-ja,aber・・・, Hamburg, September 1982, 48 Seiten. II. Ratgeber Versicherung一mehr Wissen spart Geld, Mtlnchen 1983, 207 Seiten. Ill Lebensversicherung-Was Gesellschaften und Vertreter verschweigen, Hamburg , Juni 1983, 48 Seiten. IV. Ratgeber Lebensversicherung -Es geht urn viel Geld, MUnchen 1984, 198 Seiten. l,Iiiは自社出版で、 iiは当初自社出版され、後にハイネ文庫 Heine Biicher)の一冊としてノヽイネ書房 Wilhelm Heine Verlag, Mtlnchen)から市販されて、ベストセラーの一つとなって いる。 ivも同じくハイネ文庫の一冊として出版されている.著者はい -26- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 ずれもマイヤーであるが、 iは編者が同盟とハンブルク消費者セン ターVerbraucherzentrale Hamburg) 、 iiiは同盟となっているo iは同盟創立後まもない1982年9月にハンブルク消費者センターと 同盟の共同発行の形で発行され、マイヤーにより書かれたものである が、 iiと共に生・損保を問わず全保険部門を批判の対象として、保険 消費者に基礎的情報を提供することを意図しているo ll (24-25ペジ)には「老齢保障のための生命保険は、 r合法的詐欺 ein legaler Betrug) Jである・-- 」という文章が絵入りで掲載されていた。こ れに対し、西ドイツ生命保険会社協会は同盟とその代表者でかつ著者 であるマイヤーをさっそく裁判所に訴えたが、ハンブルク地方裁判所 (Landesgericht Hamburg)は、 (》同盟の非難は保険制度や生命保険そのものにむけられたものでは ない、 (む老齢保障のための生命保険、即ち一時金保険を消費者が契約する ことを思い止まるようにアドバイスするという被告の「意見の表明 (MeinungsauCerung) 」にすぎず、それが適切かどうかは重要で isan といった理由で、この訴えを却下した。この裁判はマスコミでも広く 報道され、生命保険に対する国民の関心を集め、同盟の存在が全国的 に知られるようになった。 Ill, IVでは特に生命保険を取り上げて、マイヤーの厳しい生保批判 が展開されている。 -27- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 4- 2 被保険者同盟の生命保険批判 ( 1 )情報提供40) 保険会社と保険勧誘員の情報提供には問題が多く、必要な情報を消 費者に知らせずに、むしろ消費者を惑わせる情報を流している。 生命保険業界は生命保険の貯蓄としての有利性を強調し、保険金額が 剰余金分配により30年後には2倍になると広告しているが、長期の一時 金保険の利回りはあまり良くなく、しかもインフレーションの影響を 受けることは伏せている。また、生命保険が経済的保障を加入と同時 に提供することは宣伝しても、同額の保障をえるのに定期保険だと養 老保険の10%の安い保険料ですむことにはふれない。スイスのグロス マン教授 Prof.GroCmann)が言っているように、保険消費者は 真っ暗闇の中で手探りしているようなものである。 正確な情報を入手しないまま、外務員の話法に翻弄されて、消費者 が生命保険に加入するケ-スが多いが、外務員の謡を信用することは 必ずしもベターではない。というのは、外務員の多くは、ただ一社の 生保商品しか販売していないからである。また、外務員は給料ではな く、手数料収入で生活しており、手数料の多く入る一時金保険の販売 には熱心だが、手数料収入の少ないその他の生保商品の販売には積極 的ではない。したがって、消費者は複数の会社の生保商品の比較情報 をえられないし、自分のニーズにマッチした商品を外務員に紹介され るとは限らないことになる。 40) Vgl.Meyer, 1983, SS.7-15 und Meyer, 1984, SS.19-62. -28- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 (2)保険料41) 保険契約者が生命保険会社に支払う保険料は、一時金保険の場合、 ①保障部分 ②貯蓄部分 ③事業費部分 の三要素から構成されている。マール教授 Prof. Mahr)が「保障 部分と貯蓄部分は被保険者が調達した給付」であるといっているよう に、 ①と②は被保険者の財産である。 ③は生保会社が保障機能と貯蓄 機能を履行する過程で貢献した組織的給付に対する対価であって、こ の部分のみが、連邦経済相も1981年に書いているように、保険会社の サービス給付の価格である。 ところが、クリカ教授 Prof.Dr. Klaus-Thomas Krycha in Frankfurt)が1982年に保険の問題点として指摘しているように、一 時金保険では、三つの部分が混合されており、利回りもわからないま ま契約者は保険契約を締結している。保険料は三構成要素に分離して 顧客に明示すべきであり、 ③のみが保険会社の持分に移され、 ①と② は被保険者ないし被保険者共同体(Versichertengemeinschaft)の持 分として、生保会社は信託財産として管理すべきである。 生保会社では一時金保険の保険料を計算する場合、保険監督庁の関 連規定にしたがって、保険料の約20%を③に、約20%を①に、残りの 60%を(参に充当し、 3 %の予定利率で利息をつける形で計算している. フィンジンガー博士(Dr.Finsinger)の調査によると、同じ給付 を提供するのに、東欧の保険会社は6-7%、銀行だとわずか23 %ですんでいるのに対し、西ドイツの生保会社の平均事業費率は現 在、保険料収入の27%となっており、異常に高くなっている。 41) Vgl.Meyer, 1983, SS.27-29 und Meyer, 1984, SS.93-103・ -29- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 (Dは20%と非常に高めに定められているが、実際には生保会社は保 険料収入のわずか10%を早期死亡の場合の保険金として支出している にすぎず、残りの10%はいわゆる死差益となっている。 また、 (参の貯蓄部分の予定利率は3 %であるが生保会社の最近の平 均利回りは7-8%となっており、いわゆる利差益が生じている。さ らに被保険者の財産を投資して、キャピタル・ゲインを得て、生保会 社はいわゆる秘密準備金(stille Reserven)421を積み立てているO 生保会社は高目に設定された予定事業費率20%をさらに上回る30% 近い事業費率を費消しており、企業損失が生じているが、それは死差 益、利差益、秘密準備金を流用して補填されている。すなわち、被保 険者の財産で企業損失が埋め合わされているのである。しかも、企業 損失があるにもかかわらず、生保会社は「企業利潤」や株主配当、無 償株、新株引受権の株主への交付および自己資本の増額を被保険者の 財産とその剰余金で賄っている。さらに生保会社は、被保険者とは全 く関係のないコンツェルン傘下の会社の赤字を補填するためにも被保 険者の財産とその剰余金を流用している。 ( 3 )一時金保険43) 一時金保険は、その90%までは何ら保険ではなく、長期貯蓄であるO しかも、その利回りも物価上昇率を下回る場合が多く、実質零であり、 被保険者の財産を投資して得られたキャピタル・ゲインも秘密準備金 として積み立てられ、被保険者にはほとんど分配されない。老齢保障 のための生命保険は、 「合法的詐欺」だといわれる所以である。国家 42)わが国の保険業法第86条準備金に相当し、各事業年度の財産の評価換な いし売却により計上した利益が、これによって計上した損失を超えるときは、 その差額を準備金として積み立てることになっている。 43) Vgl. Meyer, 1983, SS.4-26 und Meyer, 1984, SS. 13-18, 83143. -30- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 も被保険者の財産である生保資金によって恩恵を受けており、一時金 保険の保険料は税法上のえさに誘われて払い込まされる「愚者課税 (St, :euer紬Dumme)」といえる。西ドイツでは、保有契約高の四 分の三強が一時金保険で占められており、5,000万件もの契約が存在 する。多数の国民が、割高の保険料を払わされ、中途解約すれば損を する誤った一時金保険を契約することによって、数千万マルクを失っ ている。 生命保険業界は一時金保険を最重点において宣伝広告を行なってい るが、人々を惑わす表現を使っており、問題が多い。たとえば、一時 金保険の高利回りを宣伝しているが、インフレーションを考慮すれば、 その実質利回りは零に近く、現行の貯蓄部分の平均利回り5-5.! では30年で保険金額は倍増しない。しかも、マインツ大学経済政策研 究所の答申(137ページ以下参照)に指摘されているように、生命保 険に対する税制上の優遇措置を無視すれば、一時金保険の利回りはむ しろ他の投資対象よりも悪いと考えられる。その上、フィンジンガー 博士のF保険市場論」(156ペ-ジ)にあるように、生保契約の三分の 二は早期に解約されており、解約返戻金の額は非常に少なく、実質利 率は平均するとかなりマイナスとなる。 (4)定期を買って、差額を投資44' 既述のごとく、一時金保険の90%までは何ら保険ではなく、長期貯 蓄であり、その利回りもよくない。一時金保険と同じ保険保護をえる のに、定期保険では十分の-の保険料ですむ。たとえば、ある人が早 期死亡に備えて保険金額10万マルクの定期保険に加入すれば1年間の 保険料は280-350マルクですむが、 10万マルクの養老保険の年払保険 44) Vgl. Meyer, 1983, SS.4-12, 25,38 und Meyer, 1984,SS.55-74. -31- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 料は3,000マルクにもなる。したがって、定期保険に入れば、毎年 2,500マルク以上も保険料を節約できる。その節約分を自分で投資運 用し、老後に備える方が、目減りした一時金保険の満期保険金をあて にするより、はるかに賢明である。家族の生活保障のためにはどんな 場合でも、一時金保険には加入しないで、定期保険のみを契約すべき m&m (5)剰余金分配45) 生保会社は剰余金の97%ないし98%を被保険者に分配していると宣 伝しているが、実際は被保険者に分配する前に会社は剰余金を思いど おりに大幅に削減することができるのである。したがって、何の97% が被保険者に分配されたのかが問われねばならない。既述のごとく、 事業費自体が異常に多めに被保険者から徴収されており、利差益、死 差益に加えて秘密準備金も積み立てられており、これらの剰余金の 97%が被保険者に分配されているとは思われない。被保険者に分配さ れるべき剰余金の一部は、高コストの事業費の損失補頒分に流用され、 生命保険株式会社の場合、株主配当や無償株、新株引受権、さらに自 己資本増額分へ流用されている。ある生保会社は1980年から1983年ま でのわずか3年で、配当、新株引受権などを含め300%相当の利潤を 株主に分配していた。 (6)事業費46J 保険料計算の段階では予定事業費率は保険料の15-2 を想定して いるが、実際の生保会社の平均事業費率は、フィンジンガ一教授の研 45) Vgl. Meyer, 1983, SS.33-36 und Meyer, 1984, SS.103-106. 46) Vgl. Meyer, 1983,S.29 und Meyer, 1984, S.95. -32- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 究では27%にも達しており、銀行の場合の2-3 に比べて9-14倍 も高く、東欧諸国の保険会社の6-7 と比較しても4-5倍も高く なっている。 キャピタル誌(Capital,10/1978)が指摘しているように、比較的 楽で問題の少ない生命保険経営の事業費が全体的に高すぎることに驚 かされる。 4-3 若干の考察 被保険者同盟の生保批判は、 ①国家と生保会社との癒着 ②監督官庁・学界と生保会社との癒着 ③生保の税制優遇措置の現状批判 など、さらに多方面にわたっている。これらの批判の多くは、今後も 繰り返し提起される性質のものと考えられる。 同盟の多彩な活動は社会的に多大な反響を呼んでいるが、同盟の思 想的基盤として第一に指摘できることは、「ツェラー・クライス(Zeller Kreis)」とよばれる保険消費者団体との連続性である。すなわち、 同盟の底流にある考え方は、ツェラー・クライスのそれと多分に共通 するものがある47)。 ツェラー・クライスは、 1977年4月にスイス国境近くのバーデン= ヴユルテンプルク州ツェル(Zell im Wiesental)の町に創設された 登録済社団法人であるO その会長はゲ-リー(H.Gehri)であるが、 47)ツェラ-・クライスの概要とその活動内容、論理構成などについては、 高尾厚「西ドイツにおける最近の保険消費者運動の一形態をめぐって」 r国 民経済雑誌1第146巻第1号、昭和57年7月、 72-93ベ-ジで詳細に紹介・ 分析されているので、参照されたい。 -33- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 中心人物の一人としてマイヤーの名前もあがっている48)。したがって、 ツェラー・クライスと被保険者同盟とは少なくともマイヤーを通じて 関連があり、その主張や活動形態にも共通性を見出せるのは当然かも しれないO ただし、ツェラー・クライスは、その1982年1月11日付回 状によると、創設されたばかりの「バーデーン被保険者保護同盟 (das Badische Versicherten-Schutzverband)と連帯しているが、同 年5月現在その活動は終息に向かいつつあるといわれ、その月刊機関 蕊(r消費者と保険(Verbraucher十Versicherung)J]は「1980年6 月以降休刊中であり、一連の訴訟にすべて敗れ、目下、散発的に若干 の広報紙を発行する程度だ」4nとのことであるoツェラー・クライスが その後どうなったのか、マイヤーが被保険者同盟を創設し、その代表 者におさまるまでに、マイヤーとツェラー・クライスとの関係がどう なったのかは、資料が不十分なため明らかでない。 ツェラー・クライスは「外部の経済環境に関りなく、一体制無関連 的に一相互扶助をもくろむ被保険者の信託財産(Treuhandvermdgen) の管理者として保険者をアプリオリ一に位置づけて」50'おり、 「近代 保険における企業の性格規定に際しても、前期的資本の姿を描きつつ、 株式会社形態の保険者に極度に不信感を懐いているようである」51I とのことであるが、 既述の説明から明らかなように被保険者同盟に ついても全く同様なことが指摘できる。また、ツェラー・クライスの 現状批判が「既存制度に対する実証的データーの裏づけを持った内在 48)高尾・前掲論文、 79ページによると、マイヤーは「Alhanz生保会社の 元外務員(Generalvertreter であったが、現在は諸外国の保険制度を専門 とする法律家(Jurist, Experte des internationalen Versicherungswesens, wissenschafthcher Mitarbeiter des Zeller Kreis e.V. と自称 し」ているという。 49)高尾・前掲論文、 86, 92ページ参照。 50)高尾・前掲論文. 82ページ。 51)高尾・前掲論文. 88ページ。 -34- 生命保険における市場透明性・顛争・消費者保護 批評ではなく、むしろ保険制度の技術的特徴一理念的には保険団体の 内で危険が自動的に平均化される---(中略)・--構造上の特色一に 幻惑され、またそれゆえに原始的共済こそ保険の理想郷と前提しつつ 試みられる近代保険への外在批評ないし印象批評」52'であり、 「その 主張内容がいわゆる r保険団体論」のそれと意外にも軌を一にしてい る」53)との指摘は被保険者同盟の主張にも適用できる。 しかし、だからといって、被保険者同盟は、保険株式会社の存在を 全面的に否定したり、保険会社の利潤そのものを否定しているわけで はない。ハンブルク地方裁判所の却下理由にも指摘されているように、 同盟の批判は保険制度そのものを否定したものではなく、定期保険を 中心とした生命保険の利用を消費者にすすめ、現在のような割高な一 時金保険中心の利用を批判したものである。そして、保険料三分割の 提案に示されているように、コスト・ディスクロージャーを生保会社 に求めると同時に、保障部分と貯蓄部分から生じる利益はすべて被保 険者に確実に分配すべきであり、事業費部分のみが生保社会に帰属す るのだから、その範囲内で利潤を含む事業費を生保会社は捻出すべき であって、しかも経営努力によって現行の事業費をもっと大幅に引き 下げるべきである旨を同盟は主張しているのである。 第二に指摘すべき点は、アメリカの金融革命の進展ないし革新的生 保商品の開発が同盟の生保批判に大きな影響を及ぼしていることであ る。既述のごとく、経済専門誌(Wirtschaftswoche,Nr.25/1984)ち この点を指摘しているが、マイヤーもその著書の最終章において「業 界は--Manager Magazin(1984年第3号)が表現しているように-r不 安におののいてj いるOというのは、アメリカではすでにユニパーサ 52)高尾・前掲論文, 84ページ0 53)高尾・前掲論文, 92ページ。 -35- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 ル・ライフとよばれる新種の生命保険が導入されており、そこでは保 険と貯蓄が分鮭され、危険保険料、投資収益、経費などの契約内容の 現状と取引の明細がコンビュ-タ-で計算され、契約者に毎年報告さ れている。そしてドイツでは、ドイチェバンクがく保険保護付貯蓄プ ラン)を市場で販売しており、貯蓄と定期保険を組み合わせて、両者 を明確に分離して.いる。それは生命保険で失われる消費者の貯蓄部分 を取り戻すささやかな試みである。この商品はまだ欠陥がある。だが、 ここでも少しずつ競争が開始されようとしている.」恥と述べている。 保険料三分割ないしコスト・ディスクロージャーの要求や、一時金保 険の9割は貯蓄であって、残り1割が保険であるという解釈、一時金 保険ではなく定期保険を利用し、差額を自分で活用しようといった主 張など、同盟の西ドイツ生保批判はいずれもアメリカの動向から大な り小なり影響を受けたものということができよう。 被保険者同盟の保険料三分割の要求に対しては、デイーデリッヒは 次のように批判している55)。第-に、保険会社は現行方式では事業費 と利潤を投資収益で一部カバ-しているが、保険料を分割した場合、 保険会社はその分だけ事業費部分を減少させることに同意しないであ ろうから、結局保険料が値上げされることになり、保険料分割が被保 険者にとってベターかどうかは疑間であるo第二に、投資収益は、保 険会社の資産運用能力によって左右されるが、投資収益が全て被保険 者に配分されることになれば、保険会社の経営効率化の意欲は著しく 阻害されることになろう。第三に、現行方式では事業費部分も保障部 分や貯蓄部分と込みで計算されているが、保険料を分離して計算する 場合、事業費部分を契約期間の経過するにつれて何らかの方法で増額 54) Meyer, 1984, S.166。 55) Vgl. Diedench, a.a.0.,SS.20-22. サIi 生余保険における市場透明性・競争・消費者保護 せざるを得なくなる。以上の諸点を考慮すれば、現在の方式に種々の 欠陥があるとしても、それを維持した方が結局は保険契約者の利益に なるものと思われる。そして、生保市場における市場透明性を改善し、 競争を促進することが重要である旨をデイーデリッヒは指摘している。 5.ドイチエパンクの保険付貯蓄プラン 5- 1 大手銀行の生命保険業務への進出 西ドイツの三大銀行の一つであるドイチェバンク(Deutsche Bank) が、ベルリン生命保険株式会社(Berlinische Lebensversicherung Aktiengesellschaft.本店所在地はヴィースパーデンおよびベルリ ンサ>と提携して、 1983年秋より新しい金融商品「保険付貯蓄プラン」 (Sparplan mit Versicherungsschutz)の発売に踏み切ったことは大 きな反響をよんだ。マスコミも「銀行の生保への挑戦」とか、 「銀行 の保険市場への攻撃」 、 「ドイチェバンク、生保業界へ宣戦布告」 、 「不安におびえる生保」 、 「アメリカのユニバーサルライフや変額 保険をモデルにした商品」といったセンセーショナルな見出しで、盛 んに報道したものである。 しかし、商品そのものは特に目新しいものではなく、この種の商品 はすでに数年前からプレ-メンの貯蓄金庫や地方公営銀行などで発売 されており、さらに投資会社は60年代末に定期保険と投資とを組み合 56)同社は西ドイツにおける中堅生保会社であるが、 1983年度業績は・収入 保険料が5億6,979万マルク(生保業界では第19位にランクづけられる)、保 有契約高195億マルク(第15位)となっている。 -37- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 わせた新種商品を販売していたといわれる57)。 ただ、今回の販売がマスコミなどの大きな反響をよんだ主な理由は、 なによりも西ドイツ最大の金融機関であるドイチェバンクが、こうし た形でついに生命保険業務に乗りだしてきたことにある。ドイチェバ ンクの試みが成功すれば、他の銀行も追随することは必至とみられて いたが、はたしてドレスナーバンク(Dresdner Bank)はその子会社 に同種商品を発売させることをすぐに発表している。また、コンメル ツバンク(Commerz Bank)も昨年10月からドイチェバンクと同様 な商品の発売に踏み切ったといわれ、これで三大銀行がすべて生保業 務に進出したことになる。大手銀行によるこうした新しい金融商品の 窓口販売は、生保業界に与える影響も大きく、また西ドイツ金融界の 将来を占う意味からも、やはり注目すべき出来事であるといえよう。 5-2 保険付貯蓄プランの商品概要5B' ドイチェバンクの保険付貯蓄プランは、長期貯蓄と定期保険とを組 み合わせた養老保険類似の商品である。毎月一定額を積み立てる長期 貯蓄契約がドイチェバンクと契約者の間で締結されるが、養老保険の 蓄積保険料に相当する貯蓄部分はドイチェバンクで運用され、危険保 険料に相当する部分はベルリン生命保険会社に回される。 57) Vgl. Wilhelm Seuss, Sparplan mit Versicherungsschutz:!. Das Produkt, inJahrbuch der Lebensversicherungen 1984,Lage / Lippe 1984, S.9. 58)くわしくは、以下の諸論文を参照されたい。 ① Seuss, a.a.0.,SS.9-17. ② Werner Seifert, Sparplan mit Versicherungsschutz. II. Der Anbieter, in・Jahrbuch der Lebensversicherungen 1984, Lage/Lippe 1984, SS. 18 -23. ③ Werner Tewes , Deutsche-Bank-Sparplan versus Lebensversicherung, in・Versicherungs-Vermittlung, Mai 1984, SS. 191-193. -38- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 契約期間は8年以上25年以下の範囲で契約者が選択できるが、毎月 の最低貯蓄額は100マルクとなっている。契約期間内に預け入れられ る金額の総計は、貯蓄目標額と一致する。貯蓄部分には、 4年定期預 金の市場金利(発売当時で6%)に連動した利息がつく。さらに、契 約後の経過期間に応じて、預金額のo too/のボーナスが満期時に追 加支給される。契約満了前の6カ月間は、貯蓄部分の払い込みは免除 監Era* 同時に、貯蓄目標額を常に保障するために、定期保険契約がベルリ ン生命保険会社と締結されており、その保険金額は当初は貯蓄目標額 と同額であるが、その後は貯蓄残高の増加に応じて逓減してゆく(第 1図参照) 。保険料は契約期間、貯蓄目標額、契約者の年齢などによ り異なる。保険としては保険金額の逓減に応じて、保険料も逓減して ゆく、いわゆる債務残高保険(Restschuldversicherung)の形をとっ ており、しかもこの保険付貯蓄プランに加入する人々を対象とする団 体信用保険である。 SKE 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 貯蓄プランの満期時には、積み立てられた貯蓄額と利息が契約者に 支払われ、定期保険の保険料はもどってこない。また契約者が契約を 早期に解約した場合には、銀行は利息の一部を差し引くことになって いる。すなわち、信用制度法第22条に定めた緊急の場合と認められれ ば、これまで預けられた貯蓄額は、市場金利の四分の- ( 4年もの市場 金利が6%であれば、 1.5% の利息をつけてすぐに中途解約ができ る。なお、緊急状態が存在しない場合には、 48カ月の解約期間経過後 にはじめて解約できることになっている。中途解約の場合のボーナス は、当初協定された期間ではなく、実際に経過した期間に応じた額で 支払われる。利息の支払額は、実際に預け入れられた貯蓄額によって きまる。 契約者が満了前に死亡した場合には、それまでに預け入れられた貯 蓄額と約定の貯蓄目標額との差額は定期保険から保険金として支払わ れるが、それは相続人の希望により貯蓄プランの貸方に繰り入れるか、 相続人に即座に支払われることになっている。 以上みたごとく、保険付貯蓄プランは養老保険とはぼ類似の機能を 有しているといえる。しかし、養老保険では蓄積保険料と危険保険料 の額が契約者にはわからず、したがって貯蓄部分の利回りがいくらか わからないのに対し、保険付貯蓄プランではその点が明解であり、ユ ニバーサル・ライフやバリアブル・ライフと同様に、貯蓄部分と保障 部分とが分離されている(unbundling)ものである。また中途解約 の場合、生保商品では契約者が常に損失をこうむり、解約返戻金とし て既払込保険料の一部しか返還されない(しかも、契約後3年以上経 過しないと全く返還されない)のに対し、この貯蓄プランでは、通常 利息の一部とボーナスの一部を矢うにすぎず、とくに契約当初は契約 者にとって生保商品よりも明らかに有利である(第2図参照) 0 -40- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 経過年数 5-3 銀行側の進出動機 ドイチェバンクは、提携先のベルリン生命保険会社とは従来より団 体信用生命保険取引で密接な関係を有しており、その延長線上に今回 の保険付貯蓄プランの販売を位置づけることができよう59)。 しかし、今回の新金融商品発売の主要動機は、この20年来の金融市 場における銀行の長期低落傾向に歯止めをかけるという長期戦略から でてきたものであった。したがって、西ドイツでは、アメリカや日本 とは異なり、ドイチェバンクやその他の銀行の生保業務進出が金融革 新ないし金融の自由化の一環として受けとられていないことに注目す る必要がある60)。 59)アリアンツ生命社長(Arno Paul BAumer)の発言を参照 (Wirtschaftswoche Nr.25(15. 6. 1984),S.97. )0 60)アメリカでは、西ドイツとは逆に、個人金融商品に占める生保商品の比 重の低下がみられ、高金利の影響から契約者貸付が急増するなど、生保市場 からの資金流出が問題の一つとなり、それが、変額保険などの革新的生保商 品の開発の-動機となったと考えられる。 -41- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 とりわけ家計貯蓄市場における銀行の市場占有率は長期的に大幅に 低下している。統計資料ごとに数字は異なるが、どの資料を使っても、 銀行の占率低下は明白である。第4表で明らかなごとく、銀行業界は 1970年代中葉までは家計貯蓄市場の5割以上のシェア-を有していた が、 79年より常時5割をきり、 83年には37.3%に下がっている。第3 図でみても、 77年の55.3%から82年の50.3%へと、この5年間で77年 業績の9%減となっている。銀行預金の中でも、とりわけ金利の低い 普通預金の業績はふるわず、比較的金利の高い定期性預金の増加分を 相殺してあまりあるといわれている。 他方、 「1970年には個人部門の金融資産形成に占める保険の比率は 13.3%にすぎなかったが、現在ではすでに25%を占めるに至ってい る」…と-生保首脳が述べているように、この10数年来、生命保険業 界は自己の商品の貯蓄性を強調し、高利回りを宣伝することにより、 家計金融市場における市場占有率を確実に急速に増大させてきている0 第4表によれば、 73年の17.2%から83年には33.9%と約2倍に生保の 占率が伸びており、第3図でも77年の16%から82年の18.2%へと、こ の5年間で77年業績の14%増となっている。すなわち、生保業界へは 家計部門から絶対的にも相対的にもますます多額の資金が流入してい るのに対し、銀行業界へは相対的にますます少ない資金しか家計から は流入しなくなってきているのである。 銀行業界は、国民の資金吸収面で、生保業界がこうした輝かしい成 果をどのようにしてあげてきたのか、深い関心をもって眺めてきた。 ドイチェバンク首脳が「われわれはこれ以上預貯金が侵食されるのを 阻止しなければならない。われわれはもはや一刻の猶予もできない」62' 61) Rolf Diekhof , Die Angst im Nacken, in manager magazine 3/1984, SS.47-48. 62) Diekhof , a.a.0.,S.48. -42- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 第3図 密計部門の金融資産形成(単位: %) そ の 他 tract** 保 J nm; 旧Eia n二山門 〔出典〕 Mckinsey & Company, Jahrbuch der Lebensversicherung 1984Lage/Lippe 1984, S 18 と述べているのは、こうした銀行業界の金融市場における地盤沈下を 何とかくいとめたいとの切迫した状況から出てきたものである。今回 の保険付貯蓄プランの販売は、まさにこうした銀行の金融市場におけ る失地回復を狙って打ち出された経営戦術であったわけである。した がって、それは銀行の長期的経営戦略の第一歩にすぎず、銀行は今後 新たな戦術を次々に展開してゆくものと思われる。 今回の新商品販売が銀行にとっていかなる経営上の意義を有するか、 主要点を以下に列挙する。 ①新商品の販売には、銀行の既存の販売網・設備(支店、行員、コ ンピューター・ネット・ワークなど)がそのまま利用でき、追加的 投資をほとんど必要としない。 ②外務員を使った高コスト販売体制をとる生保業界に対して、支 BiS 第4表 裏計部門の金融資産形成 一 年 度 銀 行 .貯 蓄 金庫預 金 住宅 貯 蓄 金庫 預 金 保 険 料 (単位:憶マルク, %) 確 定 利 付 有 価 証 券 393 (5 3 .3 85 19 7 4 年 4 9 5 ( 6 2 .1 57 19 7 5 年 649 6 6 .6 6 9 ( 7 .1 14 8 ( 1 5 .2 1976年 507 4 9 .9 6 6 ( 6 .5 170 1 6 .7 1 8 9 ( 1 8 .6 ) 84 ( 8 .3 ) 19 7 7 年 552 (5 5 .4 6 6 ( 6 .6 ) 18 8 1 8 .9 114 76 ( 7 .6 19 7 8 年 5 7 7 ( 5 4 .4 73 6 .9 2 10 1 9 .8 ) 19 7 9 年 5 2 0 ( 4 3 .2 78 6 .5 2 2 8 ( 1 9 .0 2 77 19 8 0 年 508 4 2 .2 63 5 .2 25 5 2 1 .2 19 8 1 年 3 6 3 ( 2 8 .1 57 4 .4 ) 19 8 2 年 60 1 48 3 .7 lI+ 19 8 3 年 4 4 4 ( 3 7 .3 r 7 一 1) 115 13 6 ( 1 7 .1 ) 10 2 ( 1 2 .8 ) 91 (1 5 .6 ) の 1973年 1 1 .5 1 2 7 ( 1 7 .2 そ I) 他 9 .3 18 2 .4 家 計 貯 蓄 合 計 738 (100 ) 7 ( 0 .9 7 97 ( 100 ) 1 8 ( 1 .8 9 7 5 ( 10 0 ) ト拝 苫〉 m 璽 fi 放 し■ & 1 ,0 1 6 100 ) 996 (100 ) 1 0 6 ( 10 .0 ) 1,060 (100 ) 醇 2 3 .0 ) 1 0 0 ( 8 .3 1 , 2 0 3 ( 10 0 ) m せ 25 5 2 1 .2 1 2 3 ( 10 .2 ) 1,204 ( 100 ) 2 7 7 ( 2 1 .5 48 8 3 7 .8 106 8 .2 1,29 1 ( 100 ) 意 * 軸 3 1 8 (2 4 .8 ) 19 1 1 4 .9 ) 125 9 .8 1 ,28 3 (100 ) 56 40 4 22 6 1 9 .0 ) 97 8 .1 1 , 1 9 1 ( 10 0 ) 1 1 .5 ) 哉 * 蜘 こ冨 4 6 .8 2 0 ( 1 .7 ) 3 3 .9 9 4 ( 8 .9 ) 1)株式および年金銭金(pensionsfonds) 21町iwi. 〔出所〕 Rolf Diekhof, Die Angst im Nacken, in : manager magazin 3/84, S.48.の図表より筆者が計算・作成した。 m 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 店において行員による窓口販売を行なう銀行は販売費を低コストで 抑えることができる。管理費も同様であり、銀行は生保商品も取り 扱うことにより、各種のシナージイ効果をえられる。 ③銀行は多数の顧客63)と取引を有し、顧客に関する各種の情報を 掌握しているO全国の主要な街角には支店叫が配置されており、顧 客との接触も多く、顧客の方から月に何回も銀行に出向いてくるの で、保険の窓口販売も容易である。 ④機械化の進展により、銀行は行員に特別の負担をかけることな く、新しいサービス給付を供給することができる。 ⑤オンラインによる従来の各種金融サービスに加えて、保険サー ビスを組み合わせた新商品の提供により、銀行は多角的、総合的金 融サービスを顧客の高度化・多様化したニ-ズに対応して提供する ことができ、顧客の新しいニーズを掘り起こすことができるo 5 - 4 生保業界の反応と生保商品の鏡争上の有利性 銀行の生保業務への進出といい、貯蓄部分と保障部分を分離した新 商品の特徴といい、ドイチェバンクのケースはアメリカの動向と多分 に共通性を有している。マスコミの多くは、銀行による新商品の販売 が生保市場における市場透明性を高め、競争を促進するのに寄与する のではないかと歓迎している。 保険付貯蓄プランは、貯蓄部分と保障部分を分離することによって、 消費者にとってわかり易い商品となっている。養老保険では蓄積保険 料と危険保険料、付加保険料がどうなっているのか不明のまま、契約 63)64)ドイチェバンクの顧客数は約500万人、支店数は全国各地に約1,500 あるといわれている。 -45- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 者は保険料を込みで払い込み、利回りも確定されないまま加入してお り、ブラックボックスの部分があまりにも大きい。保険付貯蓄プラン では、貯蓄残高が常に明らかであり、利回りも契約時にはっきりして おり、かつ高利回りである。また、中途解約の場合、養老保険では解 約返戻金が既払込保険料以下となることがあるのに対し、保険付貯蓄 プランでは払込金額と利息が常に保証されている。 こうした有利な特色をもつ保険付貯蓄プランの販売に対する生保業 界の反応はどうであろうか。 ドイチェバンクの生保業務への進出は、とりわけ生保業界第1位の アリアンツ生命(Allianz Lebensversicherungs-Aktiengesellschaft. 本店所在地はシュツットガルト)に大きなショックを与えた65)。とい うのは、アリアンツ生命とドイチェバンクは役員の相互派遣など従来 きわめて親密な関係にあり、また、保険付貯蓄プランの定期保険部分 を取り扱うベルリン生命はアリアンツグループの有力メンバ-の一つ であったからである(第4図参照)。保険付貯蓄プランの販売開始後 も、アリアンツ生命の経営トップは西ドイツ生保業界に与える打撃を 憂慮して、 1984年1月までドイチェバンク首脳と一連の交渉を行なっ た。しかし、その結果はアリアンツ生命にとって不本意なものに終っ ている。そして、アリアンツ首脳陣は、保険付貯蓄プランが西ドイツ 生保にとってそれほど脅威にはならないだろうとみて、表面上は現在 静観の態度をとっている。 したがって、マスコミとは異なり、西ドイツ生保業界全体の保険付 貯蓄プランの販売に対する反応は一応平静であり、地盤沈下の著しい 銀行側のあがきとも受け取られており、銀行のお手並拝見といったと ころである。こうした冷静な反応は、一つには銀行自体が生保業務を 65) Vgl. Diekhof, a.a.0.,SS.46-53. -46- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 第4図アリアンツ・コンツェルンの主要生保会社 〔出所〕 Diekhof. a, a, 0., S.52. 日前でやるのではなく、生保会社と提携して行なうのであって、現行 の銀行・保険を分離する監督行政体制のなかで法律的にも認められた 範囲で行なわれていることにもよるであろう。 しかし、銀行側の前述の強みをもってすれば、生保業界の脅威とな るほどに成功するのではないかとの見方も生保業界の一部にはみられ る。銀行での生保の窓口販売は、最近の通信販売会社や直接販売会社 などによる保険販売の動向66'とあわせて、外務員のなかでも、とりわ 66)この点については、下和田功「生命保険市場における新競争」 r山口経 済学雑誌j 第34巻第3 ・ 4号、昭和60年6月、 41- 58ペ-ジを参照された い。 -47- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 け年輩の外務員層には、業際競争を激化させるものとして大きな不安 をもって眺められている。しかも、保険付貯蓄プランが、生保の主力 商品である養老保険と競合することが、かれらの不安を一層増幅させ ている。 ところで、保険付貯蓄プランと比較して、生保商品は競争上いかな る利点をもつのであろうかO生保側が第-に指摘する点は、生保商品 の利回りの有利なことである67)。既述のごとく、家計貯蓄市場におけ る銀行の市場占有率は長期低落傾向にあるが、その主要な理由として、 消費者の金利選好意識が高まってきたことが指摘されている。すなわ ち、利率のきわめて低い銀行の預貯金から、利回りのより高い有価証 券や生命保険へ、消費者の関心、が高まってきたことである。できるだ け条件を等しくして、各種の投資対象の過去における利回りを調査し た第5表をみると、銀行の預金金利は年利5.18%の利回りで、 第5表投資対象別利回り(辞税前での比較) 年 間 支 出 額 (マ ル ク) ik V ti ′1958年 12 月31∈は り、 \1981年 12 月30日 までノ 元 利 合 計 (マ ル ク ) 利 回 り [% 生 命 保 険 (満 期 保 険 金 利 回 り )1) 1▼0 0 0 50 ,7 34 5 .5 8 貯 金 2} 1 ,00 0 4 7,8 98 5 .1 8 券 D 1 ,00 0 60 ,2 52 6 .7 8 式 4, 1 .0 0 0 4 7,5 28 5 .12 託 (株 式 )5) 1,00 0 4 6,4 3 4 4 .9 6 確 定 利 付 有 株 担 架 信 価 証 ) 1982 年12月31 B 現在 ) 1 )加入年齢30歳の男性の場合の養老保険。この数値はある大手生保の実績による。 2) 1年定期預金のその時々の利率に基づき複利計算した。 3)ドイツ連邦銀行の利回り計算に基づき、ある抵当狂者基金の場合について計算した。 4)株式市場における平均配当率をもとに、各年の株式配当も株に投資されるものとして計算したo wm㌫li'i ims&i巴mm魯品BosH RE32顎堅RiZ闇崩i:サ*s n* tro t L TtHTL t 〔出所〕 Dieter Farny, Zur Rentabihtat langfristiger gemischter Lebensversicherungen (Stand 1983), in '. Zeitschrift fur die gesamte Versicherungswissenschaft, 1983, S. 374. 67)既述の被保険者同盟の考え方とは、この点で全く対立している。 -48- 生命保険における市場透明性・境争・消費者保護 6.78%の確定利付有価証券や5.1 の養老保険の利回りよりもかなり 低くなっている。しかも、契約期間12年以上の生保の配当は無税とい う、税制上の優偶措置が生保には与えられているのに対し、銀行預金 にはかかる優遇措置はなく、その利息は全て課税対象となる。したがっ て、所得税率が21-56%ときわめて高い西ドイツでは、税引後の生保 商品と銀行預金の収益性格差はさらに拡大し、生保が銀行よりはるか に有利になるといわれる。 30歳の人が期間15年で毎月100マルクずつ預金した場合のドイチェ バンクの保険付貯蓄プランと、これと条件を同じくした場合のある大 手生保の養老保険との利回りを試算したところ、課税前の比較では前 者が6.4%、後者が5.4%になった。ところが、税引後の比較では、前 者は所得税率に応じて5.0% (最高税率22%の場合) 、 4.5% 最高税 率30%; 、ないし3.8% 最高税率40%;の利回りとなり、後者は課 税されないので5.'の利回りで、したがって、養老保険の方が有利 という結果になっている68)。しかも、養老保険の場合、保険料所得控 除も認められているので、生保加入者は銀行預金者よりも二重に有利 となる。 こうした利回り面での有利さと並んで、商品面などでも、生保は以 下の諸点で銀行よりも競争上有利であると生保関係者は考えている69)0 ① 保険付貯蓄プランは契約期間として8-25年しか認めていない が、生保の契約期間はもっと弾力的である。 ② 保険付貯蓄プランは結局確定的な利回りを保証していない。と いうのは、それは4年定期預金のその時々の市場金利に連動して利 68) Vgl. Werner Tewes, Deutsche-Bank-Sparplan versus Lebensversicherung derKein Grund zur Panik, in Versicherungs-Vermittlung (Zeitschrift selbsはndiger Versicherungskaufleute und Bausparkaufleute)、 Mai 1984, S.192. 69) Vgl. Tewes, a.a.0.,S.193. -49- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 息をつけるからであり、場合によっては利率が低くなることがあ る。これに対し、生保の契約者配当は比較的安定しており、長期 的に保証されている。 ③ 保険付貯蓄プランは毎月の貯蓄額が100マルク以上の場合に はじめて可能となり、その定期保険は死亡事故のみを保障する。 生保は職業不能をも保障する保険保護をもっと安い保険料ですで に提供している。 ④ 保険付貯蓄プランは貨幣価値の変動を考慮しない静態的保障 モデルとして設計されている。他方、生保は顧客の希望に応じて 調整条項をつけることも保険金額を増減することも認めており、 動態的である。また保険付貯蓄プランでは、貯蓄契約を解約する 場合のみしか毎月の貯蓄額の払い込みが中止できないのに対し、 生保では契約期間中での保険料払い込みの免除についても種々の 方法が用意されている。 ⑤ 保険付貯蓄プランでは、満期時にはっきりと解約の意思表示 をしないと、その貯蓄残額は顧客の別の口座に転記され、満期後 は普通預金などの扱いとなる。生保では顧客に早目に連絡し、保 険金は満期時に顧客に支払われる。 ⑥ 途中で死亡した場合、保険付貯蓄プランでは、その貯蓄目標 額を保証する定期保険から保険金が即座にかつ直接遺族に支払わ れるが、貯蓄契約は引き続き存続し、契約後4年経過してはじめ て解約できるか、即座に解約する場合には顧客が一部損をしなけ ればならない。生保では、死亡事故の場合、保険金は割増分をも 追加して、即座に全額遺族に支払われる。 -50- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 515 銀行と生命保険の競争の行方 ドイチェバンクの保険付貯蓄プラン導入の主要動機は、銀行を利用 している顧客の資金が銀行から他の金融機関にシフトしてゆくことを 食いとめ、長期的に顧客を銀行と結びつけておくことにあったといわ れている。この商品がどれだけの実績をあげているかは不明であるが、 銀行の顧客の中でこの商品を利用する者はまだあまり多くないといわ れる。 今後の動向を占う上で税法上の問題が重要となろう。 生保の税制優遇措置はすでに1898年に始められたが、こうした形で 生保の普及を奨励することが国民の生活の安定に資すると共に公的保 障の肩代わりともなり、国家にとっても引き合うことから導入された0 銀行業界は貯蓄にも生保と同様の税法上の優遇措置を与えるよう境 力な運動を展開している。この税制問題の解決策としては大きく、 ① 現状維持、 ②生保の優遇措置全廃、 ③銀行預金にも生保商品と同等な税制優遇措置を認める、 の三つの可能性が考えられる。 (参は生保の優遇措置が長年の歴史と実 績を有し、国民の間にすっかり定着していることから、実現の可能性 はほとんどないものと思われる。 ③は最近の財政事情などからこうし た新しい貯蓄優遇措置を認めることは困難と考えられ、結局①に落ち 着く公算が大であり、生保業界はもちろん現状維持を望んでいる。 しかし、ことは政治問題であり、 ③の実現する可能性も皆無とはい えない。もし③の事態になれば、生保業界に及ぼす影響はきわめて大 きい。西ドイツ生保の主力商品は、貯蓄性が強く、契約期間が平均28 年という長期契約の養老保険であって、この商品が全保有契約高の8 -51- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 -9割を占めているが、その主力商品としての意義は著しく低下し、 定期保険中心の時代がやってくることが予想される。そして、生保か ら銀行へ資金がシフトしたり、養老保険類似の機能を持つ保険付貯蓄 プランのような、定期保険を生保会社、貯蓄部分を銀行が分担する形 の銀行・生保提携商品がさらに増加するといった状況も生まれてこよ う。 銀行による保険付貯蓄プランの販売といった事態を招いた責任は、 新商品の開発を怠ってきた生保業界にある、という見方がある。たし かに、西ドイツでは伝統的な養老保険が保有契約高の大半を占め、ア メリカのごとき変額保険やアジャスタブル・ライフ、ユニバーサル・ ライフといった革新的な新商品は末だ開発・販売されていない。その 理由として、まず保険監督行政と業界団体の特殊な構造を指摘するこ とができる701。すなわち、 ①実質的監督主義をとる西ドイツでは、生命保険事業に対する保 険監督規制が強力である ②西ドイツ生命保険会社協会を中心とする協会体制が確立されて おり、生保業界としての共同歩調を生保各社にとらせる傾向が強い ことから、市場経済体制では本来各社の創意工夫・自主性にまかせる べき生保商品のイノヴェーションにも、保険監督行政と協会体制が足 伽をはめていることである。 また、アメリカでは金融革命と革新的生保商品の開発が高インフレ、 高金利を背景に進展したのに対し、西ドイツでは、 ③物価上昇率がこの20年来アメリカよりもずっと低く、安定して おり、現在でも2%前後の低率で推移している 70)ハラーとフア-ルニ-は、ともにこの2点をヨーロッパで保険商品のイ ノヴェーションのテンポが従来アメリカよりも遅れている理由として指摘し ている (Vgl. Haller, a.a.O.S.23 und Farny,a.a.0.くVersicherungswirtschaft 1/1985), SS. 36-37. ) -52- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 ④金利もアメリカのように高金利ではなく低金利で推移しており、 主力商品である養老保険の利回りは市場金利を常に上回っており、 生保は安定した高利回りを顧客に長期にわたって保障してきた ⑤アメリカとは異なり、税制上の優遇措置を与えられている西ド イツの生保会社は利回り寮争でも銀行その他の金融機関より有利な 立場にある ことから、ユニバーサル・ライフのごときアメリカ的新商品開発の必 然性がこれまではなかった、というのが西ドイツ生保業界の一般的見 方であるO したがって、 ③-⑤の状況が変化し、需要者のニーズが増 えてくれば、西ドイツでもアメリカ的新商品導入の必要性がでてくる だろうし、生保業界はいつでも対応できる体制にあるといわれる。実 際に西ドイツ生保各社のコンピューター化も相当進んでおり、大手生 保は従来数カ月ないし数年かかった新商品の開発も、現在では数週間 で行なえる能力を持っており71㌧ したがって、ドイチェバンクの保険 付貯蓄プランのごとき商品はもちろん、アメリカ的新商品もいつでも 開発・販売できるといわれている。 さらに、アメリカ的金融革命の動きが西ドイツで活発でないのは、 西ドイツでは、前述のごとく、 ⑥ユニバーサルバンク・システムをとっており、銀行業務と証券 業務などの兼営が可能なこと (丑 コンツェルン、グループ化が全産業分野で広くみられ、異種業 種間の関係が緊密であり、保険業界でも生・損保、元受・再保険を 問わず、七大コンツェルンを中心としたグループ化・系列化が進ん でいること であろう。 既に述べたように、ドイチェバンクの保険付貯蓄プランの場合も、 71) V名1- Wirtschaftswoche Nr-25 (15-6・1984),S・97・ -53- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 ドイチェバンクの提携先のベルリン生命はアリアンツ生命の属する 保険業界最大のコンツェルン、アリアンツ・ミュンヘン再保グルー プの一員であり、ドイチェバンクとアリアンツ生命も緊密な関係を 有していたo このケースの他にも、ライングループの保険会社への オッペンハイム銀行の資本参加や公営保険会社と公営貯蓄金庫、ラ イファイゼン銀行とR+Ⅴ保険コンツェルンとの協力関係など、西 ドイツでは銀行と保険との提携の例は従来も多数存在する721。 西 ドイツでは、銀行と保険の監督体制は異なり、両者の垣根は非常に 高く、兼業による相互乗り入れの実現する可能性は低い。しかし、 提携、グ)t'-プ化などは禁止されておらず、ドイチェバンクとベル リン生命の提携による保険付貯蓄プランの銀行窓口販売も法律的に も監督行政上も問題はないといわれており、こうした形の大協業 (groBe Kooperation)が総合金融サービス化と技術革新の進展に より今後さらに展開されてゆくものと予測される。 6.おわりに 以上において、 1980年代に入ってからの西ドイツ生命保険市場を めぐる具体的な動向を三例みてきたが、いずれも生命保険事業その ものの動向というよりも、いわば部外者による生保事業の外在批評 を紹介してきたといってよい。しかし、この三例に共通していえる ことは、いずれも生命保険における市場透明性の改善、競争の促進、 消費者保護の強化(消費者主権の回復ないし重視といってもよい) という古くて新しい重要な問題を生命保険事業に改めて突き付けて 72) Vgl. Dieter Farny, Die dcutsche Versicherungswritschaft, Kalsruhe 1983,S.51. -54- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 いることである。マインツ大学経済政策研究所の生保答申は、その 冒頭で、パイルベルン(Wilhelm Heilpern)が1874年に「保険に もっと光を、保険について民衆にもっと光を」 (Mehr Licht in die Assekuranz und mehr Licht iiber Assekuranz ins Publikum )と要望した文章を引用して、 「この生命保険における市場透明 性改善の要求は、 100年以上たった現在もなお現実性を失っていな い。保険の顧客の立場を改善するために立法者や業界団体、保険会 社、マスコミが色々努力してきたにもかかわらず、生命保険市場に おける透明性の改善は、特に民衆のためには今日まで何ら十分な成 果をあげることはできなかった」73'と述べているが、問題解決の困 難さを改めて指摘していて印象的である。 こうした部外者の生保批判に対応して、生保業界は1980年代に 入ってから真撃な努力を続けている。たとえば、生保業界は約款の 重要事項をやさしく説明した「契約のしおり」を契約者に配布した り、定期的に契約の現況を通知したり、生命保険に関する重要な指 標を一覧表にして公表するといった、わかり易い情報を提供し、透 明性を高める努力を行なってきた74-。また、法律的素養のない保険 契約者にも保険約款が理解できるように、約款を平明化する努力も 行なわれており、積立型生命保険の保険約款のモデル約款が1982年 に、定期保険の保険約款のそれが1983年に作成され、一部の生保会 社はこの新約款をすでに使用している751。 73) Forschungsinstitut fur Wirtschaftspohtik an der Universitat Mainz, a.a.0.,S. 1. 74)下和田他訳「西ドイツの生命保険(1981年版) 」 170-173ページを参照 されたい。 75)下和田他訳「西ドイツの生命保険会(1982年版) 」 138ページおよび下 和田切他訳「西ドイツの生命保険(1983年版) 」 r所報j 第65号、昭和58年 12月、 182-192ページを参照されたい。 -55- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 剰余金分配に対する批判に対しては、生保業界は「革命的」とい われる76'即時配当(Direktgutschrift)を導入することを1983年に公 表し、 1984年より各生保会社が逐次実施に移すことで対応しようと している77)。即時配当の実施は、保険契約者に剰余金をより早くよ り多く分配する効果をもつものと期待されており、また配当競争を 促進するように配慮されているといわれる。 すでにみたように、現在、西ドイツの生保業界は、消費者団体や マスコミなどからの厳しい生侠批判に加えて、銀行、通信販売会社、 外資系銀行などの生保業務進出による新規参入企業との競争や税法 上の問題への対応など、多くの困難な課題をかかえている1984年 9月20日に行なわれたケルン大学保険学研究所における筆者との対 談の際、ファールニイ教授は西ドイツ生保事業が当面している主要 問題として、 (∋銀行との競争 (塾税法上の問題 ③経営コストと収益性の問題 の三点を特に指摘してくれた。いずれも新規参入企業、とくに銀行と の競争から、既存生保企業が直面している問題といえる。新規参入企 業の多くは、窓口販売、通信販売などの低コストのニュ-チャネルを 用い、女性料率の採用や単純商品販売などによる低コスト化を通じ、 低料率で生保商品を販売する価格競争をもたらし、他方で高利回り、 すなわち高い契約者配当を約束している。したがって、これら新規参 入企業との競争に対応して、コストのかかる外務員チャネルを用いる 76) Wilhelm SeuB, "Revolution " der Lebensversicherung, inFrank-furter Allgemeine Zeitung (25. 10. 1983). 77)くわしくは下和田他訳「西ドイツの生命保険(1983年版)」144,168-170 ページを参照されたい。 -56- 生命保険における市場透明性・競争・消費者保護 既存生保会社は、いかにして経営コストを圧縮し、同時に資産運用面 でさらに高利回りをあげてゆくかを迫られている。生保各社は、外務 員の質を高めることにより、銀行の窓口販売や通信販売などでは提供 できないきめ細かな多面的サービスを顧客にいかに提供するかを模索 するとともに、商品面でも単純商品とは異なる顧客の高度化し多様化 したニーズにマッチした良質の弾力的新商品を開発するなど、今後さ らにより一層の経営努力を求められることとなる。 このように、西ドイツ生保業界は厳しい経営環境の中におかれてお り、今後とも市場透明性を改善し、消費者保護を強化する努力を継続 するとともに、 「業界に寄せられたその顧客の信頼から生まれる沈着 冷静さをもって、局外者の主張にも耳を傾ける」78)ことが一段と要請 されているといえよう。 (1985. 7. 7. 78)下和田他訳「西ドイツの生命保険(1983年版) 」 145ページ。 -57-