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1.基礎技術
1.基礎技術 1.基礎技術 1-1.[11C]CO2 の迅速な分離濃縮 A-1.液体アルゴンによる濃縮 (岩田 大量のターゲットガスである窒素と共に照射容器から取 出される[11C]CO2 を標識反応に利用する前に、これを分離濃 縮することが迅速な標識合成には必要である。その利点とし て、 1) 照射容器から迅速に[11C]CO2 を回収できる、 2) 分離された[11C]CO2 は非常に少量の気体で取り出せ る(濃縮する)、 3) 錬) 表 1.気体の沸点 気体名 沸点 (C) CO2 –78.48sub CO –191.5 CH4 –161.4 N2 –195.8 Ar –185.9 従って、反応溶液中に低流速で[11C]CO2 を通せるので反応効率を改善できる、 4) または反応溶液の使用量を減らせる、 等があげられる。簡便な分離濃縮法としては、 両者の温度特性の差を利用する方法が良く用い られる。表 1 に示す関連する気体の沸点から明 らかなように、–150C 前後の温度で十分に分 離可能である。 最も簡便で効率的な方法としては、液体アルゴンを用いる捕集濃縮法がある。内径 0.8 mm X 外径 1.6”のステンレスチューブの長さを変え約 4 L の窒素ターゲット中に含まれる[11C]CO2 を 1 L/min の流速で通した場合の、[11C]CO2 の捕集効率とトラップからの取出し時に同時に放出 される窒素の容量の関係を表 2 に示した。明らかに液体アルゴンの方が液体窒素に比べ捕集効 率、濃縮効率共に優れている。上図にこの目的で使用するシステムの概略図を示す。液体アル ゴンが入手困難な地域において、このようなシステムを用いて液体窒素でやむなく捕集する場 合、効率をある程度犠牲にしてトラップの大きさはできるだけ小さくするべきである。表から 表2. [11C]CO2 捕集と濃縮効率 スパイラル の長さ 25 cm 50 cm 150 cm 捕集効率 液体Ar 91% 96% 98% 液体N2 73% 79% — 1 取出し時の放出気体の容量 液体Ar 液体N2 <1 mL 10 mL 1 mL 30 mL 2 mL >100 mL わかるように、大きなトラップを用い る場合、取り出し時にトラップを加熱 すると大量の窒素が急激に放出され る結果、[11C]CO2 が導入されるべき反 応溶液を飛散させて反応効率を低下 させるだけでなく、閉鎖系である反応 容器内の圧力を異常に上昇させ、チュ ーブ等の接続部を脱離させ重大な放射能漏洩を引起こすことになるので十分に注意する必要が ある。 液体窒素を使用しても液体アルゴンと同様な効率で[11C]CO2 を捕集することが可能である。 右図はその原理を図式化したものである。有限の熱伝導度を持つならば、必ず温度勾配が生じ るが、これをうまく利用すれば、液体窒素温度よりもわずかに高い温度にトラップループを保 つことができる。–150C 以下であれば[11C]CO2 の捕集効率はほほ 100%に近い。ヒーターの電 源を入れることで 1 分以内に定量的に[11C]CO2 を回収することができる。 A-2.モレキュラーシーブを使った濃縮 (大崎 勝彦) 液体アルゴンあるいは液体窒素を用いる捕集濃縮法の他に、モレキュラーシーブ(MS)を用 いたガスクロマトグラフによる捕集濃縮方法が報告されている 1-4)。本方法の利点は、1)液体 アルゴンや液体窒素が不要である、2)電磁弁以外に動くパーツがない、3)好ましくない不純 物である O2、NOx、N2、CO、水分を除去できる、等があげられる。 [用意するもの] MS 13X(80-100mesh)4):Alltech(Part No.57732)(註1) [調製法] MS 13X の約 300 mg を外径 1/4”の銅管(肉厚 0.8 mm、長さ 12 cm)に入れ、両端を石英ウ ールで塞ぎ、分離濃縮カラムとする。(註2) [使用法] 1. MS カラムを右図に示すラインに組み込む。 [11C]CO2 MS 13X 排気 2. 使用前にカラムを電気炉により 200ºC に加熱し、 N2(または He)を流速 30 mL/min で流して 5 分間コンディショニングを行なう。 電気炉(200℃) 3. カラムを室温に戻し、[11C]CO2 を流速 400 mL/min でカラムに通し、捕集させる。 N2( or He) 反応容器 4. カラムを 200 ºC に加熱し、N2(または He) を流速 10~15 mL/min で流して、捕集された[11C]CO2 を反応容器に導く。(註3) 5. 使用後は、空気が入らないようにしてカラムを放冷する。 (註4) 註1) MS としては、MS 13X のほかに MS 5A(60-80 mesh)2)、Carbon MS(Carbosphere, 60-80 mesh)3) 等が報告されている。 2 1.基礎技術 註2) MS 充填量と払い出しガス量は施設ごとに最適化する必要がある。石英ウールを詰めす ぎると流量が流れなくなる可能性がある。また、当然カラム内での MS の位置が適正 である必要がある。したがって、カラムは迅速な昇温が可能なように熱伝導のよい材 質が望ましいが、MS 位置の視認性を上げるためには石英カラムも有効。 註3) 100ºC を越えたあたりから[11C]CO2 のリリースが始まる。 註4) このカラムの寿命に関しては、まだ充分な使用経験がないが、Carbon MS カラムは 1 年間使用可能であると報告されている 3)。 参考文献 1. Clark J.C., Buckingham P.D.: Short-lived Radioactive Gases for Clinical Use. Butterworths, London (1975). 2. Marazano C., Maziere M., Berger G., Comar D.: Int. J. Appl. Radiat. Isot., 28, 49–52 (1977). 3. Mock B.H., Vavrek M.T., Mulholland G.K.: J. Nucl. Med., 22, 667–670 (1995). 4. Tremblay S., Oullet R., Rodrigue S., et al.: Appl. Radiat. Isot., 65, 934–940 (2007). 1-2.化学的・放射化学的純度測定用ラジオ HPLC システム 合成される薬剤は、PET 検査に供される前にその化学的・放射化学的純度や比放射能を迅速 に測定して求める必要がある。迅速な分析法としては HPLC を用いる方法が最も一般的であり、 高感度な UV 検出器と放射能検出器を直列につないでカラムからの溶出液を測定する。これら の検出器から得られる分析データの迅速な処理装置を組み合わせ、ラジオ HPLC システムとし て用いられる。 A-1.CYRIC の例 (岩田 錬) 下図は、CYRIC においてルーチンな HPLC 分析に使用されているラジオ HPLC システムの 構成図を示したものである。 3 一般的な HPLC システムに、溶媒切換え用にテフロン製の 6 ポジションロータリバルブ (Rheodyne 社製 Model 5011)を、カラム切換え用に 2 個の高圧 6 ポジションバルブ(Rheodyne 社製 Model 7060)を導入している。占有する溶媒とカラムは 5 種類までとし、残り 1 つは洗 浄溶媒と迅速な溶媒交換のためにバイパスラインとなっている。 鉛ブロックで遮蔽した NaI(Tl)シンチレーションカウンターを放射能検出器(註1)として用い、UV 検出器と直列に 接続されたテフロンチューブを検出器前面でループにして通している。通常の分析には数Ci の放射能量を使用するが、比放射能測定用には mCi オーダーの放射能量を使用するため、ルー プの大きさと検出器に対する幾何学的配置の異なった 2 種類流路を 3 方バルブで切換えること で感度を調整する。放射能検出器からのシグナルはアナログ出力として UV シグナルと共に PC に入力され、クロマトグラフィデータ処理ソフトウエア(註2)で処理される。このようにし て化学的純度と放射化学的純度が迅速に得られる。 註1) 高感度の市販放射能検出器としては、Bioscan 社の Flow-Count Radio-HPLC Detector System やユニバーサル技研社の UG-3000 などのオールインワン装置が便利である。 註2) 島津や日立などの GC/HPLC 用のデータ収集解析ソフトや EZChrom Elite、システム インスツルメント 480II データステーションなどが利用できる。また専用のデータ処 理装置(例えばシステムインスツルメント社のクロマトコーダ 21 や島津製作所のクロ マトパック C-R8A)も便利である。 A-2.放医研の例 (中尾 隆士) PET 用薬剤の品質検査には、迅速性とともに試験対象となる非放射性物質が微量のため高感 度分析が要求される。また、分子イメージング研究などの進展により様々な PET プローブが開 発・利用されており、大きく構造の異なる薬剤を短時間のうちに測定することもしばしばある。 放医研では、このような状況をふまえて、ルーチン製造に使用する全ての 11C、18F-標識薬剤(30 種類以上:ただし、[18F]FDG は除く)に対し、共通のカラム・移動相組成を用いて、超迅速・ 高感度な品質検査を実施している。 下図に、そのラジオ HPLC システムを示す。市販の HPLC システムに放射能検出器(鉛で 遮蔽された NaI(Tl)シンチレーション検出器とシングルチャンネルアナライザーSCA の組み合 コンピュータ ADC HPLCサーバ SCA 移動相組成(3液) 廃液 カラム HPLCポンプ ループインジェクター 4 UV検出器 NaI(Tl)検出器 1.基礎技術 わせ)を接続し、各検出器のシグナルを HPLC サーバに入力させ、コンピュータにて得られた 結果を解析する構成となっている。 HPLC にて迅速に分析を行おうとする場合、ショートタイプで粒子径の小さい充填剤のカラ ムを用いることが有効である。粒子径が小さいほど広い流速範囲で高い理論段数が得られ、50 mm 程度のカラムを用いて高流量で送液しても高分離能が維持されるので時間が短縮される。 そのため、粒子径 2.5 m、内径 3.0 mm、有効長 50 mm のカラム(Waters 製 XBridge RP18) にて 1.0 mL/min 程度で送液している。このことにより、臨床利用前に要求される比放射能、 化学的不純物、放射化学的不純物の品質検査が 1 分以内と 11C-標識薬剤ではわずか 3%の放射 能減衰のうちに完了できる。なお、微粒子充填剤ではカラム圧の上昇が懸念されるが、この条 件では 200~280 kg/cm2 と一般のポンプやインジェクターの推奨範囲内(上限値:300~400 kg/cm2)である。 UV 検出法により非放射性成分を定量する際、検出波長を目的物に特異的な吸収極大に設定 することがよくあるが、高感度分析に対して必ずしも最適であるとは限らない。目的物に固有 な長波長における吸収帯より 230 nm 以下の低波長領域が強く吸収する場合が多く、低波長 UV を利用することにより高感度化、さらにはより多くの物質が測定対象となりうる。そのため、 移動相には低波長 UV においてもバックグランドが低く広域な pH を調整することが可能な 3 組成(①90%アセトニトリル、②100 mM リン酸アンモニウム緩衝液 (pH 2.1)+5 mM オクタ ンスルホン酸ナトリウムと③50 mM リン酸アンモ [11C]Raclopride ニウム緩衝液 (pH 9.3))を用い、薬剤毎に設定した 混合比で送液し、低波長 UV にて検出する設定にし ている。これにより、UV 検出が困難とされていた N-[11C]メチル-4-ピペリジルアセテート(MP4A) なども含め高感度に検出することが可能となった。 Radioactivity 等が異なり一様ではないが、数 ppb(ng/mL)から 100 ppb 程度である。また、移動相 pH の選択範囲 Raclopride Ascorbic acid 非放射性物質の検出限度は、化合物により吸光係数 が 広 い た め ( 緩 衝 能 の 高 い pH=2.1、 7.2、 9.3 UV (210 nm) が 使 用 で き る )、 様 々 な 化 合 物 の 測 定 に 対 応 で きる。分析の 1 例として、[11C]ラクロプライドのラ 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 Time (min) ジオクロマトグラムを右図に示した。 このシステムでは、共通のカラム・移動相組成を 使用するため、短時間のうちに異なった薬剤も試験することができ人為的なミスの削減や作業 の簡便化にも繋がっている。なお、試料注入量は 5 L に、迅速分析のためインジェクターから カラム、検出器に用いた配管・コネクタ等は背圧に支障のない限り低デッドボリューム(例え ば配管は内径 0.12 mm、コネクタはノーデッド)のものを用い、各検出器のサンプリング速度 を 10 ポイント/秒としている。さらにこの HPLC 分離を利用し、オンラインで高感度検出可能 な電気化学法、蛍光法、化学発光法などと組み合わせることにより、100 Ci/mol 以上の超高 比放射能製剤の高速分析も行っている。 また放医研では、医師からの薬剤のオーダから製造、品質検査、最終製剤のシリンジへの分 5 注までの一貫を総合的製造システムにより各装置の制御やデータの集約管理を行っている。こ の HPLC システムも製造システムの一部として構成されている。品質検査直前に製造システム から HPLC サーバへ当該する薬剤の HPLC メソッドを自動的にセットアップさせ、測定後に は HPLC ソフトウェアで自動算出された分析結果が製造システムに送られ、半減期補正、放射 化学純度、比放射能の計算などを行った後、品質検査結果として出力される。このとき規格値 も同時に閲覧できるため、製品が基準を満たしているか否かが直ちに判定できる。測定終了か ら検査結果の出力までの処理時間はおおよそ 2、3 秒である。 1-3.[11C]よう化メチル合成用 LiAlH4-THF 試薬の調製法 [11C]メチル化による高比放射能の 11C-標識化合物を合成するためには、 LiAlH4-THF 試薬 の調製は非常に重要であり、細心の注意を要する。一方、ルーチンに使用する試薬の調製は、 できる限り労力を費やすことなく、簡便に行うことが肝要である。ここでは、比較的簡便な実 績のある 2 つの調製法を示す。 A-1.CYRIC における調製法* (岩田 錬) [用意するもの] アルゴンガス———高純度のものが望ましい(註1) 湿度が管理されたグローブボックス 乾燥した 1 mL と 10 mL のシリンジ———ガラス製または使捨てのポリプロピレン製 (Aldrich)10 mL 位のねじ口バイアル(註2) 上記用テフロンライナー(テフロンコートされたゴム栓) (註2) 無水 THF———Aldrich(109-99-9)、100 mL 1.0 M LiAlH4-THF———Aldrich(16853-85-3)、100 mL 註1) 比重が重いので使用する。 註2) 例えば、Pierce 社製の React-Vial に Mininert valve を取り付けたものを代用しても よい(GL サイエンスから入手可能) 。 [調製法] バイアル、ゴム栓およびシリン ジをよく乾燥し、これらをグロー ブボックスに入れる。アルゴンガ スのボンベに一方に針の付いた チューブを接続し、これをボック ス内に通す。 約 0.5 気圧位に調整されたアル ゴンガスを針から流しつつ THF のビンに差し、次いで 10 mL の 6 1.基礎技術 シリンジで少量の THF を取って、まずシリンジを洗い次にバイアルを洗って捨てる。次に約 10 mL の THF を取り、素早くバイアルに移す。 LiAlH4-THF のバイアルをアルゴンガスで加圧し、1 mL のシリンジを少量で洗った後約 1 mL これに取り、素早くバイアルに入った THF に加えてゴム栓をする。 このように調製した THF 溶液が分解して生成した白い Al(OH)3 で白濁していないことを確 かめる。 [注意点] 試薬の調製はグローブボックス内で開放状況で行われるため、内部の乾燥状態と二酸化炭素 の混入に対して十分に注意する必要がある。このためできるだけ小さなグローブボックスを使 用し、予め内部をアルゴンガスで十分に置換する方が良いと考えられる。 試薬の使用量は、1 回につきせいぜい 0.2 mL 位のであるため調製の規模を小さくしたほうが よいと思われるが、規模を小さくすると 少量の水分でも LiAlH4 の分解する割合が増加し、従 って失敗の可能性も増すことに留意すべきであろう。 調製した LiAlH4-THF の有効期限は、ゴム栓に針を刺す頻度に依存する。水分の混入で徐々 に分解して水素を発生するため、ゴム栓が膨らみ始め内部に半透明な沈殿物が成長してくれば、 安全のため新しいものを調製すべきであろう。Pierce 社製の容器を使用する場合は、この限り ではなく寿命はより長くなる。 (*CYRIC では気相法による[11C]よう化メチル合成に移行したた め、現在本法による調製は行っていない) A-2.放医研における調製法 (鈴木 和年) 放医研では今まで、高比放射能 11C-標識化合物製造用に不活性雰囲気下、閉鎖系内で THF を 蒸留し、LiAlH4-THF 試薬を調製してきた。しかし、近年、Aldrich 社からも 100 GBq/mol 程 度の比放射能を有する 11C-標識化合物の合成が可能な LiAlH4-THF 試薬や無水 THF が入手で きるようになり、通常用途にはわざわざ蒸留する必要はなくなった。しかし、実際の使用に当 たっては、LiAlH4-THF 試薬の無水 THF による稀釈や小分け作業が必要となる。その出来・ 不出来が製品の比放射能に影響を与えるだけでなく、試薬の活性や使用可能期間などに大きな 影響を及ぼす。ここでは、その簡便な調製法を示す。 [用意するもの] 高純度窒素ガス(純ガス S) 金属針(両端ともテーパー) 100 mL バイアル瓶———洗浄、乾燥後、窒素ガス置換したもの 100 mL バイアル瓶———液量計測用 無水 THF———Aldrich(109-99-9)、100 mL 1.0 M LiAlH4/THF———Aldrich(16853-85-3) [調製法] 窒素ガスライン、Aldrich 製無水 THF、金属針、100 mL バイアル瓶を図のように接続する。 この際、ガスを流しながら(乾燥とガス置換) 、高圧側より順次組み立てていく。液の移相は針 7 の上下により行う。70 mL 程度バイ 0.3㎏/・ A B C D V1 アル瓶に移った時点で(水が 70 mL 入った液量計測バイアルの水面 レ ベルと比較して)針 B を上に移動し V1 を閉じ、液移相を中断する。液量 計測バイアルに水 3 mL を追加する。 針 A を THF 容器から抜き、1 M 窒素ガス 無水 T H F 1M-LiAlH4 LiAlH4-THF 容器に突き刺す。次に (純ガスS)(Aldボトル)/THF 溶液 針 B を抜き、 素早く LiAlH4-THF 容 100・ バイアル 液量計測 バイアル 器に突き刺し V1 を開く。液量計測バイアルの水面レベルと同じになるまで液移相を行った後 針 B を上げ、V1 を閉じる。そのあと、針を D、C、B、A の順に抜く。調製した LiAlH4-THF 溶液は液がバイアルのゴム栓に付着しないように静かに取り扱い、冷凍庫に保管する。 バイアル瓶のゴム栓については、さまざまな材質のものが使用可能である。内側にテフロン ライニングしたものは使用後(針を何回か刺した後)の気密性確保に問題があり、放医研では 安価なブチルゴム製品を利用している。 使用器具は、事前に十分洗浄乾燥したものを一晩真空引きし、最後に窒素ガスを充填した状 態で試薬調製に利用している。また、調製試薬の保存は、バイアル瓶のゴムキャップ部をシー ルテープで密封した後、冷凍庫に保管している。 1-4.[11C]メチルトリフレートの合成 11 (岩田 AgOTf CH3I 錬) 11 CH3OTf 200oC [11C]メチルトリフレート([11C]MeOTf)は、[11C]よう化メチルから合成可能な[11C]メチル化 剤で、[11C]よう化メチルに比べ、 より強力で高い反応性を有すること 高沸点(bp. 94∼99C)であるため反応溶媒により容易に捕集されること、 の利点を有し、優れた 11C-標識前駆体である。 [11C]よう化メチルから [11C]MeOTf への変換は、上記の反応式が示すように、 [11C]よう化 メチルを 200C に加熱した AgOTf に通すだけでオンライン的に可能である。通常購入した AgOTf 試薬をそのままカラムに詰めて使用しても十分な変換効率が得られるが、反応表面積を 大きくして効率を高めたい場合には AgOTf を不活性な支持体に保持させて使用する。文献的に は 2 通りの調製法(参考文献参照)が知られているが、いずれもそれ程容易ではない。両者を 比較検討して考案された以下に記す調製法が、実験室的にも簡便に利用可能である。 8 1.基礎技術 [用意するもの] AgOTf:Aldrich (17,643-5) Graphpac GC (80∼100 mesh):Alltech (Part No. 8538) [調製法] 3.0 g の AgOTf をフラスコに取り、60 mL のジエチルエーテルを加えこれを完全に溶けるま で攪拌する。 6.0 g の Graphpac GC をゆっくりと加える。 そのまま 30 分間攪拌の後、溶媒を減圧留去する。 残渣を減圧下 40C で乾燥する。 このように調製した AgOTf-C の約 300 mg を内径 4~6 mm のパイレックスガラス管に入れ、 両側を石英ウールで塞ぎ、反応カラムとする。 (註 1) [使用法](AgOTf が酸化されないよう注意深く使用することで 20 回以上は使用可能である) 1. AgOTf-C カラムを図に示すラインに組み込む。 2. 反応管に He(または N2)を流して O2 を除き、その状態で電気炉により 200C に加熱 する。 3. [11C]よう化メチルを流速 50 mL/min でカラムに通し、生成した[11C]MeOTf を反応容器 に導く。(註 2) 4. 使用後は、空気が入らないようにして AgOTf-C [11C]CH3I カラムを放冷する。(註 3) 排気 註 1) Graphpac GC は非常に細かい粉末の ため、このままでは必要とする流速を 得ることができない場合がある。この 大きな圧損を減らすためには、調製し 電気炉(200C) た AgOTf-C を適当な不活性物質(例 反応容器 He えば石英ウールや石英砂など)と混合 して使用すると良い。 註 2) [11C]よう化メチルから[11C]MeOTf が生成したかどうかを確認する方法として、ピリジ ン系の化合物中に吹き込んで不揮発性の生成物を得る方法が報告されているが、より 簡便な確認法として以下の例を示す。 Light と活性炭を直列に つなぎ、それぞれ[11C]よ う化メチルと[11C]MeOTf を通してその放射能分布 を調べると、Sep-Pak に 保持された割合は、[11C] よう化メチルでは 1%、 シ リカカラ ム の放射能量 Sep-Pak Plus Silica [11C]MeOTf 11 [ C]MeI 0 2 4 経過時間(分) [11C]MeOTf では 99%で 9 6 8 あった。下図はこのときの放射能の保持の様子を示したものである(He 35 mL/min の流速で通過させた)。[11C]よう化メチルはいったんカラムに吸着されるがすぐに溶出 する。通常サイズのシリカカラムを使用するとこの保持時間が長くなるが、充分時間 をかけてガスを流せばほぼ同じ結果が得られる。このほかピリジンを保持させた Sep-Pak C18 を使用して同様な確認を行うことも可能であるが、この場合[11C]よう化 メチルの保持時間はかなり長くなるので注意する必要がある。 註 3) このカラムの寿命に関しては、まだ充分な使用経験がなく明確なことを示すことはで きない。しかし、その寿命は使用条件に大きく依存することは容易に予想される。例え ば、加熱下で酸素が混入すれば AgOTf は容易に酸化的に分解するだろうし、比放射能 の低い[11C]よう化メチルを使用すれば、AgOTf は急速に消耗する。 参考文献 1. Jewett D.M.: Appl. Radiat. isot., 43, 1383–1385 (1992). 2. Holschbach M., Schueller M.: Appl. Radiat. Isot., 44, 897–898 (1993). 1-5.[11C]ホスゲンの合成 A-1.[11C]ホスゲン合成法(その1) (西嶋 剣一) 下記の反応スキームで合成する 1, 2)。 11 CH4 Cl2 560oC 11 CCl4 Fe + Fe2O3 11 COCl2 320oC [使用試薬] [11C]メタン Cl2———―ADEKA(99.999%:アデカ高純度液化塩素) 鉄———―Aldrich(granules, 10-40 mesh, 99.999%:413054) 酸化鉄(Ⅲ)———―和光純薬(096-01025) アンチモン———―Merck(<150 mm:1078320025)、和光純薬(粉末:018-04382) ガラスビーズ———―アズワン(BZ-06) 五酸化リン———特級試薬(特級試薬:167-02345) Porapak Q———Waters(80-100 mesh) [方法] 通常ターゲットは 5%の H2 を添加した窒素ガスとし、[11C]メタンを製造する。[11C]メタンは、 五酸化リンカラム(内径 3.0 mm X 長さ 100 mm)を経て、液体窒素により冷却された Porapak Q カラム(内径 4 mm X 長さ 150 mm、銅製で、照射終了 10 分前までに液体窒素または液体ア 10 1.基礎技術 ルゴン 3, 4)で冷却しておく)に捕集して濃縮する。その後、銅カラムを室温に戻し、He により [11C]メタンを、五酸化リンカラムを経て、Cl2(2 mL)を含むガスタイトシリンジ(100 mL) へ移送して混合する。混合ガスは、およそ 25 mL/min の流速で 560oC に加熱した空の U 字型 石英管(内径 10 mm X 長さ 250 mm)に通じて[11C]四塩化炭素とする。次いで、25 mL/min の流速の He 気流で[11C]四塩化炭素を 320C に加熱された鉄顆粒-酸化鉄粉末カラム(1.5 g: 酸化鉄粉末/鉄顆粒:1/28 w/w)を詰めた U 字型石英管(内径 3.0 mm X 長さ 100 mm)に通し て[11C]ホスゲンとする。更に、これをアンチモン(200 mg)とガラスビーズ(200 mg)を混 合したカラム(内径 3.0 mm X 長さ 50 mm)を通過させて過剰の Cl2 を除去し、[11C]ホスゲン を得る。 [合成収率の測定法] [11C]ホスゲンの分析はそのままでは困難であるため、[11C]ホスゲンをトルエン溶媒中アニリ ンと反応させ、[11C]ジフェニルウレアに誘導体化することにより行う 1)。トルエンを除去した 後、反応容器に残存する放射能が、[11C]ジフェニルウレアであり、トルエン溶媒中の放射能が、 [11C]四塩化炭素である。 [その他の注意事項] 合成前後において、不活性ガスによる十分なパージを行う。 [11C]メタンの捕集が低下したときは、Porapak Q カラムのエージングを行ことで改善する。 塩素ガスを使用するため、電磁弁の故障が考えられる。そのため Cl2 が通じるラインは、不 活性ガスで置換しておくこと。 Cl2 の採取は、ディスポーザブルタイプの 10 mL シリンジを用いている。 アンチモンカラムは、10 回程度の使用が可能である。 [11C]ホスゲンの収量が低下した場合は、1)[11C]四塩化炭素が圧倒的に多い、2)[11C]四塩化 炭素も少ない場合の2つのパターンがある。1)の場合は、[11C]ホスゲンが生成していないた め、鉄顆粒-酸化鉄粉末カラムの不具合を考え、カラムの調製や電気炉の調整が必要となる。2) の場合は、[11C]ホスゲンの分解が推定され、装置内の水分が原因と考えられる。この場合はラ インのパージを行うなど水分の除去を行うことが肝要である。 A-2.[11C]ホスゲン合成法(その2) (高田 下記の反応スキームで合成する 5)。 ガス検知管の反応管 メタナイザー 560oC [使用試薬] [11C]CO2 H2 ——— 大陽日酸(G1 グレード) Cl2/He 混合ガス(20/80) ——— 大陽日酸 アンチモン——— 和光純薬(粉末 500g:012-04385) 11 由貴) ガラスビーズ——— Alltech (60/80 mesh 125g:5420) 五酸化リン——— 和光純薬(特級試薬:167-02345) アスカライト——— Aldrich(20-30 mesh:223921) Porapak Q——— Waters (80-100 mesh) 北川式ガス検知管の反応管——— 光明理化学工業(四塩化炭素:147S)(註1) 註1) 1 箱(5 回分)が 2,100 円(税込)で販売されている。 [方法] [11C]CO2 を常法により製造、濃縮する。得られた濃縮[11C]CO2 を H2 と共にメタナイザー(GL サイエンス 211MT)へ流速 10 mL/min で導入し、[11C]メタンとする。これを水分及び未反応 の[11C]CO2 を除くために五酸化リン-アスカライト II の入ったカラムに通したのち、あらかじ め液体窒素により冷却(—130ºC)された Porapak Q カラム(内径 1.0 mm X 長さ 300 mm) に捕集して濃縮する。余剰 H2 を除くため N2 を Porapak Q カラムに流速 10 mL/min で 15 秒 間流したのち、室温程度まで加熱し、[11C]メタンを 20%Cl2/He(2 mL)が入ったディスポー ザブルプラスチックシリンジ(テルモ SS-10ESZ 10 mL)へ移送して混合する。この混合ガス (約 7 mL)を、50 mL/min の流速の N2 で 560ºC に加熱した空の石英管(外形 10 mm、内径 8 mm X 長さ 300 mm)に通じて[11C]四塩化炭素とし、次いで、常温で北川式ガス検知管の反 応管に通して[11C]ホスゲンとする。更に、アンチモンとガラスビーズを混合したカラム(1:1、 500 mg)を通過させて過剰の塩素ガスを除去し、[11C]ホスゲンを得る。 [合成収率の測定法] [11C]ホスゲンの分析はそのままでは困難であるため、[11C]ホスゲンをトルエン溶媒中アニリ ンと反応させ、[11C]ジフェニルウレアに誘導体化することにより行う 6)。トルエンを除去した 後、反応容器に残存する放射能が、[11C]ジフェニルウレアであり、トルエン溶媒中の放射能が、 [11C]CO2 や[11C]四塩化炭素である。 [その他の注意事項] [11C]ホスゲン合成の成否は、石英管および北川式ガス検知管の反応管へ導入する際の流速に 左右される。[11C]ホスゲンの前駆体である[11C]四塩化炭素は石英管での流速が遅いほど収量が 上がるが、流速が遅いまま反応管に導入すると[11C]COCl2 まで酸化されてしまう。 逆に、流速が速いと十分な[11C]四塩化炭素が生成されず、結果として[11C]ホスゲンの収量が 低くなる。放医研では流速 50 mL/min のときが最もバランスがよかった。各サイトにおいては 流速の調整が必要である。 反応管は、2 回目までなら再使用できるが 3 回目では[11C]ホスゲンの収量が半減した。安定 した収率を望むならば使い捨てにした方がよい。 参考文献 1. Nishijima K., Kuge Y., Seki K., et al.: Nucl. Med. Biol., 29, 345–350 (2002). 2. Link J.M., Caldwell J.H., Krohn K.A.: J. Nucl. Med., 42, 70P (2001) (Abstract). 3. Landais P., Crouzel C.: Appl. Radiat. Isot., 38, 297–300 (1987). 4. Link J.M., Krohn K.A.: J. Label. Compd. Radiopharm., 40, 306–308 (1997). 12 1.基礎技術 5. Ogawa M., Takada Y., Suzuki H., et al.: Nucl. Med. Biol., 37, 73–76 (2010). 6. Nishijima K., Kuge Y., Seki K., et al.: Nucl. Med. Biol., 29, 345–350 (2002). 1-6.オンカラム標識法とループ標識法 11C (岩田 錬) の標識合成では、主に気体の標識前駆体([11C]CO2、[11C]よう化メチル、[11C]メチルト リフレートなど)と液体に溶解した反応基質との反応が用いられる。標識前駆体を含む気体(N2 や He)を反応溶媒中にバブリングすることでこの反応(液相法)を行う。この場合、その導入 管への反応液の逆流を防止したり、反応容器(通常ガラス製)を加圧して反応液を移送したり、 と面倒な操作が必要となる。また、気体の標識前駆体を効率よく捕集するためには、ある程度 の反応用液量(0.2∼1 mL)を使用せざるを得ない。反応溶媒量を減らし、標識反応操作を簡便 化して自動化を容易にするために、オンカラム標識法やループ標識法が開発されている(下図 参照)。 He/液体試薬 排気 標識前駆体 次へ 標識前駆体 反応液 排気 反応カラム 反応液 He/液体試薬 次へ 標識前駆体 反応液 反応ループ He/液体試薬 排気 次へ 反応容器 液相法 オンカラム法 ループ法 A-1.オンカラム標識法 オンカラム標識法では、反応基質を含む溶媒を小さな固体粒子表面に吸収分散させ気体との 接触表面積を大きくすることで、そこを通る気体の標識前駆体の反応溶媒への捕集効率を大幅 に改善する。使用する固体粒子として市販のルアータイプの使い捨て固相抽出カートリッジ(例 えば Waters の Sep-Pak C18 など)が便利である。 調製した反応溶媒 0.2∼0.4 mL を、必要ならばよく乾燥させたカラムにシリンジで注入し、空 気で過剰分を押し出す(註 1)。このカラムを装置に接続し、標識前駆体を通した後に液体試薬 や He で反応物をカラムから追い出して次の操作に移る。このオンカラム標識法で合成される PET 薬剤には、[11C]メチオニン 1)、[11C]コリン 2)、[11C]WAY1006353)などがある。一般的なバ ブリング法では標識前駆体の捕集後に加熱による反応促過程を必要とされるが、オンカラム法 では室温で迅速に反応が進行し、標識前駆体の導入完了後には直ちに次の処理を開始すること がでる。 註 1) 例えば Sep-Pak Plus C18 は 1 mL 程度の液体を保持できるので、0.5 mL 以下ならば 出口から溢れることはない。 13 A-2.ループ標識法 オンカラム標識法では反応物をカラムから効率よく溶出するために比較的多量の溶媒が必要 なので、[11C]メチオニンや[11C]コリンのように反応後に HPLC による精製を必要としない標識 合成に適する。一方、レセプターリガンド合成のような HPLC 分離精製過程を必ず伴う標識合 成には使用する溶出溶媒の選択やその量、または前段階での濃縮操作などが考慮されなければ ならず、簡便な方法とは必ずしも言えない。ループ標識法は使用する反応溶媒量を大幅に少な くすることを可能にし、そのまま HPLC カラムに直接導入したり固相抽出濃縮を経る HPLC カラムへの導入により、迅速で簡便な方法である。 長さ 5∼10 cm プラスチック製チューブ(内径 0.5∼0.8 mm の PEEK またはテフゼルが適する) を 4∼5 cm 径のループ状にしてその両端にルアージョイントを接続したものを反応容器とする。 このチューブ内にシリンジで 50 L 前後の反応溶媒を注入し、装置に接続して標識前駆体を通 す。標識前駆体は、内壁に広がる反応溶媒膜に接したり短い液層を押し上げて壊れる時に捕集 される。従って、まず標識前駆体のキャリアーガスの流速が、捕集効率に対して大きな影響を 与える。通常 10∼50 mL/min の流速が使用される。沸点の高い標識前駆体が捕集効率の点から 望ましく、[11C]メチル化には[11C]よう化メチルよりは[11C]メチルトリフレートが適する。原理 が気液反応であるため溶媒の存在が不可欠であり、この点からアセトンなどの揮発性の溶媒は 避け、MEK(2-butanone)や DMF などの高沸点溶媒を用いるとこが必要である。 ループ標識法は迅速な反応が望ましく、[11C]CO2 とグリニャール試薬との反応 4)や[11C]メチ ルトリフレートを用いる反応 5)に適する。いずれの場合も使用する反応基質量を大幅に減らし、 前者では比放射能を改善し、後者ではオンカラム標識法で述べたように HPLC カラムへの反応 物注入が簡単に自動化される。HPLC インジェクターの試料ループをそのまま反応容器として 用いるか 6)、あるいは試料ループに代わり固相抽出濃縮カラムを用いることで 7)オンライン的に 反応物のカラムへの導入が可能である(1-7を参照のこと)。 参考文献 1. Pascali C., Bogni A., Iwata R., et al.: J. Label. Compd. Radiopharm., 42, 715–724 (1999). 2. Pascali C., Bogni A., Iwata R., et al.: J. Label. Compd. Radiopharm., 43, 195–203 (2000). 3. Wilson A.A., DaSilva J.N., Houle S.: J. Label. Compd. Radiopharm., 38, 149–154 (1996). 4. McCarron J.A., Turton D.R., Pike V.W., Poole K.G.: J. Label. Compd. Radiopharm., 38, 941–953 (1996). 5. Iwata R., Pascali C., Bogni A., et al.: Appl. Radiat. Isot., 55, 17–22 (2001). 6. Wilson A.A., Gacia A., Jin L., Houle S.: Nucl. Med. Biol., 27, 529–532 (2000). 7. Iwata R., Yamazaki S., Ido T.: Appl. Radiat. Isot., 41, 1225–1227 (1990). 14 1.基礎技術 1-7.分取 HPLC カラムへの反応液自動注入法 (岩田 錬) [18F]FDG や[11C]メチオニンなど一部を除き多 [ 11 C]よ う化メチル くの場合には合成の最終過程で未反応の標識前駆 体やその分解物、あるいは出発原料(前駆体)を 6方切換バルブ HPLC で迅速に除去する必要があり、自動合成装 置には下記に示すいくつかの HPLC カラムへの反 ポンプ 応物自動注入法が採用されている。これらの方法 では、高価な分取カラムの分離能低下を招く恐れ 反応ループ のある空気の注入を避けつつ効率よく試料をカラ HPLCカ ラム ム内に導入する工夫がなされている。最近のルー 溶離液 プ標識法(Captive solvent 法)では、1~2 mL の Captive solvent 法 気体を反応物と一緒にカラムに注入していること は注目する必要がある 1)。 標識反応物 シリンジポンプ A-1.シリンジポンプ法 最も一般的で自動化しやすい方法である。シリ ンジを使用する手動での注入法に従い、6 方のイン 6方切換バルブ ジェクションバルブの一方からシリンジポンプで 吸引して、予め容器に集めた反応液をループに移 ポンプ 送する。この場合ループ内に溶離液が充填されて いなければならない。従ってループをポンプ側に インジェクション ル ープ しておき、試料の導入直前にバルブを切換える。 HPLCカ ラム 反応液などは通常その使用量が一定で注入すべき 液量は既知であるため、予め設定値だけシリンジ 溶離液 シリンジポンプ法 を引くことで空気をループに入れることなく効率 的に反応液を注入できる。 シリンジポンプの代わりにマイクロポンプを使用することができる。1 回のストロークが固 定されているので、液量に合わせて必要回数だけポンプを駆動して反応液を移送する。シリン ジポンプに比べ小型で安価であるが確実性は劣る。液量が未知の場合は、インジェクションバ ルブの試料入口に液面センサーを設けることで、この信号 溶離液 とシリンジポンプを連動させることで自動化できる 2)。 標識反応物 A-2.ポンプ入口直接注入法 HPLCカ ラム HPLC ポンプの溶離液吸い込み口から反応液をカラム に注入するため 6 方のインジェクターバルブが不要とな る簡便な方法である。ポンプを停止した状態で入口に設け た専用の液溜に反応液を入れて、次にポンプを作動させて 15 ポンプ 液面 セ ンサー ポンプ入口直接注入法 反応液を吸い込みカラムに注入する。 試料の拡散による分離の低下を避けるため、まず液溜への溶離液の流入を止め、中の溶離液 をできるだけ少なくした状態でポンプを停止する。反応液を液溜に移送し、ポンプを作動させ てこれを吸い込む。溶離液の液溜への流入を再開し HPLC 分離を行う。 また、ポンプ内に空気が入ると溶離液の流速が不安定になるため、液面操作に最大限の注意 が必要である。これらの操作を自動化するため、液溜の最下部に液面センサーを設けてその信 号でポンプや電磁弁の動作を制御する 3)。 A-3.固相抽出カラム濃縮法 標識反応物 シリンジポンプ 6 方インジェクションバルブの試料ループに 代えて小さな逆相の固相抽出(SPE)カラムを用 い、ここに反応液中の目的物を濃縮して集め、バ ルブを切換えてカラム内に注入する方法である 4)。逆相カラムを用いる HPLC 分取では、精製対 6方切換バルブ 水 溶液 象の目的化合物は低極性であることが多い。従っ て、この目的物を過剰の極性の高い水に溶解させ ポンプ て逆相カラムに通せば少量の充填剤でも効率よ く捕集できる。逆に、極性の高い添加物や副反応 生成物などは捕集されないので、分取カラムに注 固相抽出 カ ラム HPLCカ ラム 入されない。 溶離液 SPE カラムで先端濃縮されるため、液量を気 SPE カラム濃縮法 にすることなく反応液と移送用の水をカラムに 通しても分離が低下すること [ 11 C]よ う化メチル/ [ 11 C]メ チルトリフレート はなく、また空気の注入も簡単 に避けることができ自動化に 標識反応 ル ープ 適する。但し、SPE カラムに 液を通すにはある程度の高圧 が必要なため使用するポンプ、 シリンジポンプ 6方切換バルブ バルブおよび配管は耐圧性を 考慮する必要がある。本法の利 用法として最も適するのはル ープ標識法との組み合わせで 水 ポンプ ある。この場合、標識反応用の ループ内には少量の反応液し 固相抽出 カ ラム か存在しないので、水を流すだ HPLCカ ラム けで反応溶媒は希釈され SPE 溶離液 カラムに容易に捕集される。実 ループ SPE 法 際には図に示すように、シリン 16 1.基礎技術 ジポンプとインジェクターの間に標識反応ループを入れ、シリンジポンプからループと SPE カ ラムに連続して流し、一定量の水を流し終えた時点でインジェクションバルブを切換えて反応 物を HPLC カラムに注入する 5)。 参考文献 1. Wilson A.A., Gacia A., Jin L., Houle S.: Nucl. Med. Biol., 27, 529–532 (2000). 2. Iwata R., Yamazaki S., Ido T.: Appl. Radiat. Isot., 41, 1225–1227 (1990). 3. Suzuki K., Inoue O., Hashimoto K., et al.: Int. J. Appl. Radiat. Isot., 36, 971–976 (1985). 4. Luthra S.K., Brady F., Turton D.R., et al.: Appl. Radiat. Isot., 45, 857–873 (1994). 5. Iwata R., Pascali C., Bogni A., et al.: J. Label. Compd. Radiopharm., 45, 271–280 (2002). 1-8.HPLC 分離精製物の固相抽出調製法 (岩田 錬) 一般に、標識反応物を HPLC カラムに注入して目的化合物を分離精製しそのフラクションを 分取しても、そのまま注射液とすることができない。人に投与できない有機溶媒を含む場合が 多いからである。有機溶媒を迅速に除去し投与可能な注射液とするためには、真空ポンプで減 圧されたロータリエバポレーターに分取液を集めて溶媒を乾固した後、生食などの水溶液で残 渣を溶解して滅菌フィルターを通してバイアルに集める。従って、大きなエバポレーターをホ ットセル内に設置しなければならず、限られた遮蔽空間のかなりの部分を占拠してしまう。こ の溶媒留去法に代わり、使い捨ての逆相固相抽出カラムで分取液中の目的物だけを分離捕集し て最終注射液を調製する方法が用いられ 分取液 る 1)。この方法では分取液中の有機溶媒だ けでなく、HPLC 溶離液に添加した物質 シリンジポンプ も除去できるので、最終注射液への混入 を考慮することなく HPLC 精製を行える 利点がある。 固相抽出による調製では、目的化合物 蒸留水 エタノール 分取液 リザーバー を含む分取液に水を加えて極性を高めた 混合溶液を、C18 などの逆相固相抽出カ ラムに通して目的物だけを捕集分離する。 Sep-Pak C18 水でカラムを洗って残存する溶離液成分 を除いた後、少量のエタノールで捕集物 を溶出する。エタノールを含む水溶液が 蒸留水 投与可能ならば注射用の蒸留水や生食を 加えてエタノール濃度を規定以下にして 廃液 17 目的物 注射液とする。エタノール投与を避ける場合は、ロータリエバポレーターでエタノールを留去 する必要があるが、乾固操作は短時間で済み、少なくとも溶離液中の添加物は除去できる。 実際の操作は、右図に示すような装置により、HPLC カラムからの分取液をあらかじめ水 (30~50 mL)(註 1)を入れたリザーバーに集め、次に活性化処理した C18(あるいは tC18) に通す(註 2)。分取液に含まれる目的物が固相抽出カラムに保持される。次に注射用蒸留水で ラインとカラムを洗い、最後に少量のエタノールを流して目的物を溶出しバイアルないしはロ ータリエバポレターへ送る(註 3)。 化合物によっては無視できない量が固相抽出カラムに残存する場合があるので tC18 も検討 する。また、固相抽出カラムに濃縮される時点で放射線分解(自己放射線分解)が起きる可能 性があるので、必ずその前後で放射化学的純度を分析して分解の程度を調べておくことが必要 である。 註 1) 混合液の極性を高めるために水と混合するが、水の添加量は分取される溶離液量とそ の組成(アセトニトリルなどの割合)に依存する。 註 2) 活性化処理とは、通常未使用の乾燥したカラムにエタノール(約 5 mL)を通し、次に 水(5 mL)と空気を通す操作を言う。この処理なしでいきなり極性の高い水溶液を通 しても低極性物質が保持されない。 註 3) ここでは切換バルブの付いたシリンジポンプの例を示すが、マイクロポンプによる移 送や圧送を用いることもできる。 参考文献 1. Lemaire C., Plenevaux A., Aerts J., et al.: J. Label. Compd. Radiopharm., 42, 63–75 (1999). 1-9.分取 HPLC 時の溶媒選択ガイド (村上 松太郎) PET トレーサーの調製に先立ち、標識合成反応混合物から目的とする化合物を迅速に分離精 製する手法として、分取 HPLC が広く用いられている。 現在使用されている PET トレーサ ーの多くがアミンやアミドのアルキル体であることを考慮すると、分取 HPLC として、目的物 が原料物質その他に先行して流出し、流出溶媒の除去がたやすい順層系クロマトが望ましいに もかかわらず、流出時間や流出溶媒選択の多様さなどの面から逆層系クロマトが一般的に用い られる。その際の流出溶媒には、極性有機溶媒と水の混液、もしくはそれに種々の酸や塩基を 添加したものが用いられる。溶媒や添加物の除去の容易さ、残留した場合の安全性への配慮か ら一定の流出溶媒選択ガイドを設けておくことは意義深いと考えられる。 A.秋田脳研の例 [11C]メチルスピペロン分取を想定して記述するが、他の化合物についても大部分は適用可能 と考える。以下の条件で溶媒選択の基礎検討を行う。 18 1.基礎技術 使用カラム:Inertsil ODS-5(内径 4.6 mm X 長さ 300 mm) 、GL サイエンス 流 速:2.0 mL/min 検出器:UV、254 nm 最 初 の 報 告 で は CH3OH/H2O/HCO2NH41) 、 そ の 後 CH3OH/H2O/triethylamine2) 、 CH3CN/CH3CO2NH4/CH3CO2H3) 等が用いられていた。その 1 例を Chart a に示す。 Chart a: CH3CN/0.1 M CH3CO2NH4/CH3CO2H(500/500/1) スピペロン(15 nmol)とメチルスピペロン(5 nmol)、AUFS 1.0 上記の溶媒系は、3 者とも良好な分離能を示すが、下記の観点から、より良い流出溶媒を検索 することになる。 1)極性有機溶媒に関して 表 1 にみるように、沸点からみた留去し易さの点では 3 者間に大差はないといえる。ヒト換 算毒性の点では、 (1)エタノール、 (2)アセトニトリル、 (3)メタノールの選択順位となるが、 粘性率を考慮すると、高流量でも圧力上昇の少ないアセトニトリルが第 1 選択候補となる。 2)添加化合物に関して 現在まで、HCO2NH4、CH3CO2NH4、CH3CO2H、triethylamine 等が汎用されてきた。と りわけて重大な問題はないと考えられるが、毒性と除去の 2 点から再考する。 アミン、アミド類は弱酸性条件下が安定である。分取 HPLC で目的標識物の画分の溶媒留去 を考えると、酸性化合物が望ましい。そこで HCO2H、HCO2NH4、CH3CO2H、CH3CO2NH4、 NaH2PO4 等が候補に残るが、これらはいずれも標識合成過程における通常の減圧留去での完全 除去は困難と考えられる。 表 2 に依ればアンモニウムイオンの毒性が以外に強いことが判る。いま Chart a の溶媒によ る分取 HPLC(6 mL/min)で 1 分間の画分をとったとすれば、アンモニウムイオンは 5.4 mg 混 入することになる。この量は望ましい安全係数 1/10,000 に至らない。また、体重 60 kg の成 人の全血液容量を 5.0 L とした場合、血液中レベル(正常で 100 µg/dL 以下)を 2 倍以上に引 き上げる計算になる。循環血液容量は更に少ないこと、アンモニアによる中毒症状は血液中レ ベルの 610 倍で確実に出現することを考えるとき、肝や腎機能の悪い被検者への投与は控え たい。 そこで、化合物を添加しない場合のクロマトを Chart b に示すが、原料、 メチルスピペロン 共に流出せず、有機溶媒と水の比率を変えたところで実用的ではないと判断される。 Chart b: CH3CN/H2O(40/60) スピペロン(25 nmol)とメチルスピペロン(5 nmol)、AUFS 1.0 表 1.有機溶媒特性 沸 点 粘性率 LD50 値 ヒト(60 kg)換算毒性 エタノール 78.2 1.14 10.6 g/kg(rat, young, po) 7.1 g/kg(rat, old, po) LD50: 636 g(young) 426 g(old) アセトニトリル 81.6 0.39 3.8 g/kg(rat, po) LD50: 228 g メタノール 64.7 0.52 5.6 g/kg(rat, po) LD50: 336 g (水) (100) (0.95) 溶 媒 Merck Index(v.11)による。 19 次に添加化合物を検討することになるが、残る HCO2H、CH3CO2H、NaH2PO4 のうち、昇 華、共沸で幾分は除去可能であるが、強酸であるとの理由から HCO2H は最終選択候補に残し た(しかしながら、フルマゼニルなどの場合には、正リン酸の使用が抜群の効果を発揮するこ とも事実である。これら不揮発性の強酸を用いた場合には、溶媒留去の後に生理食塩液を加え ただけでは、注射剤としての許容範囲ながらも最終製品は酸性となるため、炭酸水素ナトリウ ム注射液等で中和するのが望ましい)。 先ずは減圧蒸留で不完全ながらも除去可能な弱酸候補の CH3CO2H を最初に検討するが、テ ーリングが強く、より緩衝作用の強い添加物が望まれた(Chart c) 。 Chart c: CH3CN/0.1% CH3CO2OH(40/60) スピペロン(25 nmol とメチルスピペロン(5 nmol)、AUFS 1.0 残る候補の NaH2PO4 は、蒸留除去は不可能であるが、体液緩衝剤として臨床にも使用され るものである。本品を用いて完全に分離して流出することが判明した(Chart d)。 Chart d:CH3CN/0.1 M NaH2PO4(50/50) スピペロン(15 nmol)とメチルスピペロン(5 nmol)、AUFS 2.0 分取時に原料の混入を最小限度に抑えるために、水比率を増やして流出時間の差を大きくす ることができた(Chart e)。仮に本液の 10 mL を分取したとすれば、NaH2PO4 を 72 mg 含む ことになる。表 2 の筋注毒性でみる安全係数は、200 倍前後である。 Chart e:CH3CN/0.1M NaH2PO4(40/60) 表 2.添加化合物毒性 添加化合物 ギ 酸 アンモニウムイオン 報告毒性 ヒト(60 kg)換算毒性 LD50:145 mg/kg(mouse, iv)* LD50:8.7 g(iv) LD50:1100 mg/kg(mouse, po)* LD50: 66.0 g(po) LD100:2 mg/20 g(mouse, iv)* LD100: 6.0 g(iv) LD100: 2-3 g(iv)** LD50:30 mg/kg(rat, im)* LD50: 1.8 g(im) LD50:500 mg/kg(mouse, sc)*** LD50: 30.0 g(sc) LD50:3530 mg/kg(rat, po)* LD50: 211.8 g(po) LD50:460 mg/kg(rat, po)* LD50: 27.6 g(po) LD50:7400 mg/kg(rat, po)* LD50: 444.0 g(po) LD50:326 mg/kg(rat, ip)**** LD50: 19.6 g(ip) LD50:12930 mg/kg(rat, po)* LD50: 775.8 g(po) LD50:2000 mg/kg(rat, ip)**** LD50: 120.0 g(ip) リン酸二水素一ナトリウム LD50:250 mg/kg(rat, im)**** LD50: 15.0 g(im) 塩化アンモニウム 酢 酸 トリエチルアミン リン酸三ナトリウム リン酸一水素二ナトリウム * Merck Index(v.11) ** 現代内科学大系、中毒編(中山書店) *** Drug dosage in laboratory animals; a handbook **** 実験化学ガイドブック(丸善書店)日本化学会編 20 1.基礎技術 スピペロン(15 nmol)とメチ ルスピペロン(5 nmol)、AUFS 2.0 そこで、NaH2PO4 濃度を 1/10 に 減じても、流出時間がわずか長くなる のみで分離精製に支障ないことが判 明した(Chart f)。通常は 10 mL も 分取しないこと、100 mCi 位製造し て 1020 mCi 位投与することから、 安全係数 10,000 倍を合格することに なる。 Chart f : CH3CN/0.01 M NaH2PO4(40/60) スピペロン(25 nmol)とメチ ルスピペロン(5 nmol)、AUFS 1.0 実際の供給用標識合成は、原料のス ピペロン 2.5 µmol、分取カラムは同 一充填剤の同長カラム(内径 10.7 mm X 長さ 300 mm)で行うことを 想定する。保持量は充填剤量に比例す ることから、今回の検討カラム(内径 4.6 mm)でスピペロン 0.46 µmol と微少のメチルスピペロンが完全に分離流出する必要があ るが、良好な結果を得た(Chart g)。 Chart g:CH3CN/0.01M NaH2PO4(40/60) スピペロン(500 nmol)とメチルスピペロン(5 nmol)、AUFS 2.0 よって、現在の臨床供給用の分取 HPLC は、内径 10.7 mm X 長さ 300 mm のカラムに 7 mL/min で流し、8 分前後に流出する[11C]メチルスピペロン画分を分取している。 参考文献 1. Burns H.D., Dannals R.., Langström B., et al.: J. Nucl. Med., 25, 1222–1227 (1984). 2. Omokawa H., Tanaka A., Ito M., et al.: Radioisotopes, 34, 480–485 (1985). 3. 日本アイソト-プ協会医学薬学部会サイクロトロン核医学利用専門委員会、Radioisotope, 44 (suppl.), 1–23 (1995). 21 1-10.添加剤概論 A-1.可溶化剤 (田沢 周作) 水に溶けにくい PET 用放射性薬剤は、エバポレーターを用いて HPLC 分取溶媒を濃縮乾固 した後に製剤溶液に再溶解する際にフラスコに残留することがある。また、メンブランフィル ターを用いて無菌ろ過する際にフィルターに残留することにより、大きく放射化学的収率を低 下することがある。これらの場合、製剤化の過程で可溶化剤を添加することで改善することが できる。 本書に収載されている PET 用放射性薬剤では、ポリソルベート 80(Tween 80)1)とエタノ ール 2)が多く用いられ、IAEA から出版されている「Strategies for Clinical Implementation and Quality Management of PET Tracers」では、これらに加えてプロピレングリコール 3,4) が多く用いられている。何れかを単独で、あるいは組み合わせて用いることで可溶化に成功す ると思われるが、何らかの疾病を持ち薬剤治療を受けている患者に投与する可能性を考えると、 極力少ない種類で少量の可溶化剤を用いた製剤に最適化を行うべきである。一方、プロピレン グリコールについては、エバポレーターで濃縮乾固する際に[11C]mHED と反応することが報告 されている 5)。有効成分である標識化合物に影響しないことを確認することも重要である。 医薬品で用いられている添加剤について、日本医薬品添加剤協会で編集され、薬事日報社か ら出版されている「医薬品添加物辞典 2007」に詳細が記載されている。その中で、可溶化剤と して PET 用放射性薬剤で用いられているもの、用いられる可能性があるものを下表に示す。 静脈内注射 名称 用途 規格 販売先 最大使用量 安定化剤、界面活性剤、 ポリソルベート20 医薬品添加物規格 40 mg 和光純薬工業 日本薬局方 500 mg 和光純薬工業 日本薬局方 800 mg 溶解補助剤 安定化剤、界面活性剤、 ポリソルベート80 可溶化剤、溶解補助剤 安定化剤、可溶化剤、溶 エタノール 解補助剤 プロピレングリコー 安定化剤、可溶化剤、溶 ル 解補助剤 日本薬局方 安定化剤、可溶化剤、溶 マクロゴール300 医薬品添加物規格 解補助剤 日本薬局方 3.2 g 日本薬局方 120 mg 溶解補助剤 安定化剤、可溶化剤、溶 マクロゴール4000 解補助剤 ベンジルアルコール 安定化剤、溶解補助剤 4875 mg/m2 小堺製薬 丸石製薬 日油 (体表面積) 安定化剤、界面活性剤、 マクロゴール400 3.32 g 健栄製薬 日本薬局方 22 0.5 mL 丸石製薬 和光純薬工業 丸石製薬 メルク 1.基礎技術 参考文献 1. Hashimoto, K., Inoue, O., Suzuki, K., et al.: Ann. Nucl. Med., 3, 63–71 (1989). 2. Debruyne, J.C., Versijpt, J., Van Laere, K.J., et al.: Eur. J. Neurol., 10, 257–264 (2003). 3. Minn, H., Salonen A., Friberg J., et al.: J. Nucl. Med., 45, 972–979 (2004). 4. Suzuki, K., Inoue O., Hashimoto K., et al.: Int. J. Appl. Radiat. Isot., 36, 971–976 (1985). Arponen, E., Helin, S., Någren, K., et al.: J. Label. Compd. Radiopharm., 48, S200 5. (abstract) (2005). A-2.放射線分解抑制剤 (福村 利光) 放射線分解は、放射線の作用により時間とともに標識化合物の純度が低下する現象であり、 トレーサー研究の分野では、古くから知られている現象である。放射線分解の起こりやすさは 一般的に放射能濃度、比放射能等と相関関係にあることが知られ、また放射線の種類によって も異なることが知られている。すなわち、放射線分解の程度及び起こりやすさは、放射能量、 放射能(濃度)及び比放射能の上昇と共にリスクが上昇し、電離能力の高い放射線ほど放射線 分解を起こしやすい。一方で放射線分解に対する感受性は、化合物によって差があり分解しや すい物質と比較的分解しにくい物質が存在している。また下記に示すように反応性の高いラジ カルが分解に関与していることから溶液中の不純物の存在により分解の程度は左右され易く、 一般的に不純物の少ない高品位の PET 薬剤にしようとすればするほど放射線による分解を受 けやすくなる。 PET 薬剤等の希薄溶液の放射線分解は、多くの場合、間接作用と呼ばれる放射線と周囲の分 子との作用によって生成するイオンやラジカルが関与しており、特に水性の注射剤として供与 される PET 用放射性薬剤の放射線分解では、ほとんど場合、周囲の水分子と放射線の相互作用 によって生成した活性ラジカルにより分解が引き起こされる。従ってこの分解のプロセスをい かに抑制するかが放射化学的純度を高く保つうえで重要になる。 水の放射線分解において生成される活性ラジカルの中で重要なものは、G 値(100 eV あたり 生成する数)の大きい酸化性のヒドロキシラジカル、還元性の水和電子や最終生成物の過酸化 水素等があげられる。PET 薬剤の放射線分解に際しては、ほとんどの場合、ヒドロキシラジカ ルにより分解が引き起こされていると考えてよい。しかしながら少数ではあるが水和電子や水 和電子とヒドロキシラジカルの両方が分解に関与していることもある。 PET 用薬剤の放射線分解を抑えるためにはこれらの活性ラジカルを捕捉するいわゆるラジカ ル捕捉剤を加えることで分解を抑制することができる。ここで放射性薬剤に使用するラジカル 捕捉剤の要件として以下のような事項があげられる。 ① 上記の活性ラジカルに対して概ね 108~1010 M-1S-1 程度の大きな反応速度定数を有する こと。 ② PET 薬剤と反応しないこと。 ③ PET 薬剤による測定を阻害しないこと。 ④ 人体に対して無害であること。 23 以上の要件に当てはまり局方品が比較的手軽に利用できるものとして、エタノール、アスコ ルビン酸等があげられる。また溶解補助剤として使われる界面活性剤にも分解抑制の効果が認 められる。但し、これらの添加物もすべての場合において万能ではなく、効果がないかかえっ て分解を促進する場合もあるので、実際に添加後、経時的に純度の確認を行っておく必要があ る。 ラジカル捕捉剤の添加は、PET 薬剤製造のプロセス中で分解が起こりやすい工程で行う必要 がある。通常最も分解しやすい工程は、HPLC 等によって分離精製を行った後の溶媒の除去の 工程である。この場合には濃縮用エバポレーターのナスフラスコ中にあらかじめラジカル捕捉 剤を加えておく必要がある。また水系の分離溶媒を使用した際の HPLC 分離中にもカラム内で 分解することもあり、この場合には分離溶媒中にラジカル捕捉剤を添加しておく必要がある。 添加するラジカル捕捉剤の必要な濃度は、活性ラジカルとラジカル捕捉剤の反応速度定数と PET 薬剤と活性ラジカルの反応速度定数から推定することができるが、多くの場合、最終製剤 に数パーセント添加することで分解を抑制することができる。 24