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平成27年度第2学期終業式 校長式辞 2学期が終了します。今学期

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平成27年度第2学期終業式 校長式辞 2学期が終了します。今学期
平成27 年度第2学期終業式
校長式辞
2学期が終了します。今学期、大宮北高校では、初めての海外修学旅行そして創
立60周年記念式典など発展的で 充実した取組がありました。ところ が世界に目を
向けてみると11月13日、日本時間14日未明に起きた 、パリ同時多発テロのよ
うな、世界を震撼させる出来事が起こってしまいました。皆さんも衝撃を受けたと
思います。
私は、ここで 、パリ同時多発テロで妻を亡くしたフランス人ジャーナリストのア
ントワーヌ・レリスさんがフェイスブックに投稿した実行犯へのメッセージ「 君 た
ちに憎しみの贈り物をあげない」 の一部を読ませていただきます。
金曜日の夜。君たちは特別な人の命を奪った。私の最愛の人であり、息子の母
親だ。だが私は君たちを恨まない。
私は君たちに憎しみの贈り物をあげない。君たちはそれを望んだのだろうが、
怒りで憎しみに応えるのは、君たちと同じ無知に屈することになる。君たちは私
が恐れ、周囲に疑いの目を向けるのを望んでいるのだろう。安全のために自由を
犠牲にすることを望んでいるのだろう。それなら、君たちの負けだ。私はこれま
でと変わらない。
私は今朝、妻と再会した。幾日も幾夜も待ち続けてやっと会えた。彼女は金曜
日の夜、出かけた時のままだった。私が12年以上前、激しい恋に落ちた日と同
じように美しかった。もちろん私は悲しみにうちひしがれている。君 たちの小さ
な勝利を認めよう。だが、それも長くは続かない。
妻はこれからも、いつも私のそばにいて、私たちは、君たちが決して近づくこ
とができない自由な魂の天国で一緒になる。私は息子と二人になった。だが私た
ちは世界の全ての軍隊よりも強い。
この子の生涯が幸せで自由であることが、君たちを辱める(はずかしめる)だ
ろう。君たちには彼の恨みですら、あげることはない。
レリスさんは、妻エレンさんをバタクラン劇場でテロリストに射殺されたにもか
かわらず、実行犯を「君たち」と呼び、憎しみに憎しみで返すことはしない、そし
て残虐なテロに屈することはないと宣言しています。このメッセージに世界中から
多くの共感が寄せられました。
ところが、今、フランスは もちろん欧州の各国では「報復」を支持する世論が圧
倒的となり、アメリカ、フランス、トルコそしてイギリスの有志連合にロシアまで
加わってISの拠点であるシリア北部 ラッカへの空爆が 続いています。ヨーロッパ
各国はイスラム恐怖が燃え上がり、シリア難 民にテロリストが紛れ込む可能性を主
張してその受け入れに難色を示し 、ドイツでは、難民に寛大な対応を示して い た メ
ルケル首相の支持率が急落しています。アメリカでは、大統領選 の共和党指名争い
をしているトランプ 氏が、イスラム教徒の入国を禁止すべきだと 発言したにもかか
わらず高い支持 を集めています。
レリスさんは「君たちは私が恐れ により 、周囲に疑いの目を向け、安全のために
自 由を 犠 牲 に する こ と を 望ん で い る の だ ろ うが 、 君 た ちの 思 い ど おり に は な らな
い 。」 と 訴 え ましたが、残念ながら世界は 異質なものを「排除」するグローバ リ ズ
ムが台頭しはじめました。フランスでおこったテロの目的の一つが、民族対立の激
化を目指していたとすれば、その戦果は十分すぎるものとなってしまいました。
2 0 0 1 年9月11日、アメリカ で発生 した同 時多発テロ事件以降、「イスラ ム
教」は過激な宗教と思われ、2014年からは 、イスラム過激派組織 ISが勢力を
拡大し、世界中がその存在に恐れおののいていますが 、イスラム教、そしてイスラ
ム教を信じる人々を ムスリムといいますが、彼らは そんな危険な 人々なのでしょう
か。
イスラム教は、7世紀の前半にムハンマドが始めた宗教です。 ユダヤ教、キリス
ト教、イスラム教の3つの宗教が信じる神は、同じであり指導者が違うから別の宗
教 と な っ て いきまし たが、 ユダヤ教を「親」に持ち、「キリスト教」を「兄」 に 持
つのがイスラム教と考えると分かりやすいのかもしれません。
イスラム教徒は、死後 、天国へいけるように神の言葉を守り生活します。たとえ
ば1日5回聖地メッカの方向に向かって礼拝を行うとか、収入の2.5%を寄付す
るとか、イスラム暦の9月ラマダンに断食を行うとかで す。私は、アメリカ留学中
に約半年間イス ラム教徒であるイラン人とルームメイトとして暮らしましたが、イ
スラム教は、「宗教」というよりも「生活の規範」に近いと感じていました。「コー
ラン」は、暮らしのルールが書かれているようでした。
2年生は、10月にシンガポール・マレーシア修学旅行を実施しました。マレー
シアでは、「SMK・パセル・グダン」と いう高校と学校交流をしましたが、この
学校は9割を超える生徒と先生方がイスラム教徒です。皆さん、素朴で穏やかな優
しい人々でした 。そして、スポーツや音楽を楽しみ、SNSでコミュニケーション
を取り、将来の自分に希望を持っ たり、 悩んだり 、皆さ んと 同じ高 校生で した ね 。
JICAで中東を担当している 方がこんなことを言っていました。
「イスラムの人々は、よく“もっとも敬虔なイスラム教徒は日本人だ”と言いま
す 。 な ぜ な ら、ルールを守る、身の 回りをきれいにする、人との争いを好まな い 。
もちろん豚肉を食べるとか、お酒を飲むとか表面的な違いはあ るが、本質的なとこ
ろで日本人とムスリムは、親和性があると思う。」と。
イ ス ラ ム 教徒の多くは、平和を愛 する人 々です。そして、今や16億人を超え 、
世界人口の4分の一弱を占めています。この人々を無視したり敵視していくことは
できません。ここにいる皆さんのほとんどが、社会人になり経済活動の中に組み込
まれていったとき、イスラム世界とのかかわりなしで 日本経済が成り立っていかな
いことに気づくと思います。
国際宇宙ステーション(ISS)に約5ケ月間滞在し、大きなミッション を成功
させ、先 日帰還した宇宙飛行士油井さん の言葉も印象的でした。
「ISSの中では国籍も国もなく協力して一つの目標に向かっている 。宇宙から
見れば地球は小さく、国境もない。地上ではいろいろなことがあるが、相互理解で
乗 り 越 え 、 平和な世界を作るために 協力して いけたらいい 。」 さらにこのように 続
けていました。「超大国でない日本、日本 人だから、ロシアともアメリカともイス
ラム世界ともコミュニケーションがとれる。日本人である我々 こそ が、多様性を受
け入れ活用しさらには繋いでいく 存在になりえる。」
最後にもう一つ、ドバイ在住シリア出身のアナウンサー、シャハード・バラン氏
のフェイスブックに投稿された文章を読ませていただきます。
愛するパリよ。あなたが目にした犯罪を悲しく思います。しかし、私たちのア
ラブの国々では、毎日起きていることなのです。世界中があなたの味方になって
くれていることを、ただうらやましく思っています。
西欧キリスト教文明は、19世紀20世紀を通じて、人類世界に対し我が物顔に
ふ る ま っ て きましたが、21世紀に なり、欧米が「自分たちの価値観に合わせ ろ 」
と言っても、「イスラムで何が悪いのか」 と言い返される時代となりました。混迷
の時代です。
私は、皆さん こそが、この混迷の時代に 平和が成立する国際秩序を 維持するため
の知恵を出す人々だと思っています。
以上で、2学期終業式の私のお話を終わりにします。
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