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中 條 良 美

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中 條 良 美
1
北陸大学 紀要
第28号 (2004)
pp. 225∼233
企業の再編可能性と非線型残余利益ダイナミクス
中 條 良 美 *
Corporate Restructuring and Nonlinear Residual Income Dynamics
Yoshimi Chujo *
Received October 29, 2004
Abstract
This paper focuses on the cases in which the cross shareholding prevailing among Japanese firms
narrows the range of a firms’ investment opportunities set and its effect on the residual income
dynamics. Also, by using the option style accounting valuation model, the paper provides
theoretical framework to examine the existence of shareholders’ option which strongly draws
managerial attentions to their wealth when a firm’s performance declines. The result shows that
the persistence of current residual losses decreases as the firm’s downsizing becomes
accelerated. As well, it is shown that the cross shareholding restricts the firm’s divestment
opportunities in time of sufficiently low profitability and the most part of residual losses tends to
be carried over in the future. In this sense, the value of shareholders’ option is excluded from
stock prices in evaluating strongly crossholding firms.
Ⅰ.はじめに
本稿の目的は,残余利益モデルにもとづいて,相互持ち合いに代表される日本企業の株式所
有構造が株価形成におよぼす影響を分析することにある。従来の研究でも,株主構成が企業統
治のあり方に影響し,企業に対する市場の評価を変えることが検証されてきた。たとえば,
Jensen and Meckling〔1976〕,Morck et al.〔1988〕,McConnell and Servaes〔1990〕は,と
くに経営者による所有と株価との関連性を分析している。また,手嶋〔2000〕は,日本企業に
特徴的な株式の持ち合いが,株価を低下させる証拠を提示している。ただ,そこでは株主と経
営者の間,あるいは株主相互間で生じる利害関係のコンフリクトに焦点が置かれているが,企
業の内生的な事業投資のメカニズムや資本市場における企業評価のプロセスが,所有構造によ
ってどのように変化するかについては検討されていない。
*
未来創造学部
School of Future Learning
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他方,Barth et al.〔1996〕,Collins et al.〔1997〕,Francis and Schipper〔1999〕などは,
株価が利益と純資産価額というふたつの会計数値と強い相関をもつことを示している。また,
Burgstahler and Dichev〔1997〕やZhang〔2000〕によれば,利益水準がどれだけ落ち込んで
も,純資産の帳簿価額は株価のアンカーになることを証明している。しかし,後者の結果は,
つねに資本コストを保証する事業投資が行われる場合にのみ成り立つ。特徴的な株式所有構造
が企業による柔軟な投資変更に制約を加えるとすれば,それは日本企業に対して無条件に当て
はまるわけではない。
そこで本稿では,株式所有構造が企業による事業投資をつうじて残余利益ないし損失の持続
性におよぼす影響について分析する。安定的な株式の持ち合いが迅速な事業再編を妨げるとす
れば,それにともない将来の成果に対する市場の期待も変わってくるはずである。年々の利益
によって確かめられる企業の成果が当初の期待を下回った場合には,投資からの撤退が遅れる
ほど,株主が負担する損失が拡大するおそれがある。そうなると,この企業の評価は,資本関
係の制約が小さい企業に比べて割り引かれることになろう。本稿の最終的な課題は,株式所有
構造と企業行動との関係を理論的に定式化し,それが資本市場の評価に織り込まれるプロセス
を明らかにすることである。
Ⅱ.残余利益の持続性と株価との関連
1.残余利益モデルの特徴
もともと,株式の理論価値は,予想される将来のペイオフをもとに決まる。ここでいうペイ
オフとしては,配当が代表的であろう。しかし,政策的に決められる配当の大きさは,企業が
置かれた競争環境をかならずしも反映していない。経営者の裁量まで見通して将来の分配額を
予想するよりは,その分配の原資となる企業利益の大きさを考えたほうが,株価形成が容易で
あるかもしれない。その意味で,残余利益とよばれる利益概念は株価形成において重要な役割
を果たしてきた。そこでは,とりわけ貸借対照表と損益計算書のボトムラインの項目が,相互
補完的に株価の形成に寄与する点が特徴的である。
残余利益モデルによれば,t時点の株価は,
∞
∼α
Pt=yt+Σ
(1+r )-τEt [ x
t+τ] (1)
τ=1
を理論値とする(1)。Pt,ytは純資産の市場価値(株価)と帳簿価額(簿価),rは資本のコス
ト
(2)
,xat +τ はτ年後の残余利益であり,Et [・]は期待値のオペレータである。なお,t年度の
会計利益をxt ,同年度期首時点の簿価をyt -1と置けば,残余利益は利益から資本のコストに相
当する利子を差し引いた部分,
xat =xt−ryt -1
(2)
と定義される。
図1によって,このような残余利益と株価との関係を確認しよう。そこには,現在の利益水
準が恒久的に持続することを前提とした場合の株価が描かれている。一見してわかるように,
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(注)現在の利益水準が恒久的に持続することを仮定している。
図1
利益水準と株価との関連
ちょうど資本利子に見合う利益を獲得することで,この企業には純資産に等しい評価が与えら
れる。企業の純資産は,利益の再投資を含めた株主からの資本支出のみにもとづいて測定され
るため,将来期待される資本利子の現在価値は,どの時点においても純資産の帳簿価額に一致
するからである。将来の利益がこの水準を上回りつづけると予想されれば,株価には純資産を
超えるプレミアムが付与され,いわゆる残余損失が生じる状況ではディスカウントされる。市
場が要求する最小限の利益を確保することで,純資産が株価の下限として機能するのである。
しかし,将来の残余利益の大きさを利益の分配から独立に決めることはできない。(2)式が
意味するように,残余利益の予想は,純資産簿価がどのように増減するかによって制約を受け
る。いうまでもなく,純資産は企業の財産を配当などのかたちで分配すれば減少するから,利
益を配当として消費するか留保して同じ事業に再投資するかは,将来の残余利益の変動に大き
くかかわる。そうなると,結果として株価の形成を配当とわけて考えることが困難になる。株
価を会計測定のバイアスから独立な将来のキャッシュフローで評価してみても,話は変わらな
い。利益やキャッシュフローの生成自体をその分配のメカニズムから切り離すことができない
以上,ペイオフをなにで予想しても同じことなのである。
2.残余利益の持続性
ただ,株主に帰属する企業の価値を最大にする目的からすれば,企業による配当ないし再投
資の意思決定に関していくつかのシナリオを想定することができる。このとき,残余利益の概
念は,市場競争の経済構造を反映するうえで,キャッシュフローよりも便利な性質をもつ。も
ともと,残余利益は市場平均を上回る部分の利益であるから,そのような超過分をめぐる企業
間での競争を誘発する。そうした競争の程度が強いほど,ひとつの企業に流入する残余利益は
はやく枯渇するであろう。他方,規制などによって独占的な事業の継続を約束されている場合,
現在の残余利益の水準は,ほぼ恒久的に保証されることになる。ここでは,外生的に与えられ
る競争の強さが,残余利益の持続の程度によって捉えられると考えるわけである。
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このとき,翌年の残余利益を,
x∼αt +1=ωxαt+∼
εt +1
(3)
のようにあらわすことができる。ここで,市場における企業の競争上の優位を反映する ω は
0≤ ω ≤1の値をとり,εt +1は確率誤差項を意味する。なお,Ohlson〔1995〕で導入された残余
利益のダイナミクスは,当期の残余利益と会計情報にはあらわれていないその他の情報の関数
として定義されている
(3)
。残余利益の獲得に貢献する新規の契約などがこの情報に該当する
のであろうが,ここでは分析を単純化するために,その他の情報に関する定式化は行わない。
このように,将来の残余利益を一階の自己回帰過程で表現すれば,株価を配当の予想とは無
関連なかたちであらわすことができる。いま,(3)式を(1)式に代入することで,
Pt=yt+αxat
(4)
が得られる。ただし,
ω
α = ─────
(1+r−ω)
である。
このとき,(2)式とyt -1=yt−xt+dt(dtは配当)を代入して整理すれば
(4)
,(4)式は予想時
点の純資産と利益の加重平均モデル,
Pt=(1−k)yt+k (ϕxt+dt ) (5)
に変形される。ここで,
ωr
1+r
k =αr = ───── ϕ = ───
r
(1+r−ω)’
である。企業価値に対する純資産と利益の寄与度を決めるkが,ω の関数であることからわか
るように,予想時点の会計数値と株価との関係は,現在の利益水準が将来どれだけ持続するか
に大きく依存する。
図2をもちいてそのことを確かめよう。かりに現在の利益水準が資本利子に満たないx1の水
準であるとする。 x 1 の利益水準がごく一時的なもので持続性が認められない場合( ω =0),
k =0となるから,
Pt=yt
(6)
となり,株価が純資産簿価PCによって近似される(直線C0C1に対応する)。他方,現在の利益
水準が恒久的に続くと予想される場合(ω =1),同様にしてk =1,
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図2
5
利益の持続性と株式の理論価値
Pt=φxt−dt
(7)
となる。このとき純資産は株価と無関係になり,株価は利益を資本のコストで除した大きさ
PAに近づく(直線A0A1に対応する)。x1が資本利子を下回るから,PAは当然,純資産より小さ
い。株式価値は,資本のコストに対応するe点を中心に ω が減少するにつれて,直線A0A1→
B0B1→C0C1のように右回りに回転する。
Ⅲ.株式所有構造と残余利益ダイナミクス
1.残余利益ダイナミクスに対する再編可能性の影響
このように,利益の持続性は,株価に対する利益と純資産の説明能力を決める要素となる。
とりわけ残余損失が生じるケースでは,図2で確認したように,現在の事業を速やかに清算す
ることが鍵となる。日本企業のROEはほぼ一貫して低下する傾向にあり,近年では1%に近
い水準まで落ち込んでいる。平均的にみれば,残余損失が恒常的に発生しているとみてよい。
株価は,最近では回復しているものの,純資産を割り込む銘柄は依然として東京証券取引所に
上場する企業の過半を占める
(5)
。純資産が株価のアンカーとして機能しない現状は,残余損
失の持続性に対する市場の期待がいかに強いかを物語っている。
たしかに,土地や金融資産に多額の含み損益を抱える日本企業の純資産に,株価を客観的に
裏づけるほどの信頼が寄せられているかどうかは疑問である。しかし,(1)式で示されたよう
に,資本の利子に見合う利益が保証されているかぎり,株価は純資産を下回ることはない。た
とえば,資産に含み損を抱える状況でも,基本的に減損を認識しない日本では,その分だけ毎
年の利益が上乗せされる。その全部が分配されるとすれば,株主は自身がとったリスクに釣り
合うだけのリターンが期待される投資にそれを振り替えればよい。払い出された分だけ簿価が
減少するので,このとき減損の認識は株価にとって中立である。内部留保される場合も,簿価
(6)
の水増しに比例して増加した資本の利子を回収できなければ,純資産は株価に反映されない 。
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重要なのは,十分な利益が見込まれない事業を速やかに切り上げて,資本のコストを保証す
る他の事業に資金を振り替えることである。それは,株主の利害という観点からみれば,ごく
当然のことである。しかし,そうした視点は日本企業の特殊な資本構造のもとでは見失われる
ことが多かった。たとえば,1970年代の資本の自由化を契機に,企業間で株式を安定的に持ち
合う慣行が高度に発達した。その背景には,安定株主を増やすことで,互いにテイクオーバー
の脅威を排除する目的があったと指摘される。その意味では,株式を持ち合う企業の間では,
相互の経営に対して干渉することが少なかったと考えられる。むろん,右肩上がりの株価がそ
の必要性を希薄にしていたが,資本関係を強固にするメリットは株式の保有損益にかぎられな
かったはずである。
実際,内部昇格によって経営者が決まることが多い日本の企業では,株主よりも従業員に対
して企業価値が優先的に分配される傾向があったといわれる
(7)
。たとえば,青木・伊丹
〔1985〕は,企業価値が株主と従業員の間の交渉力に依存して分配されることを主張している。
このとき,株式の保有損益を最大にしようとする株主への分配が小さくなるとすれば,株式の
持ち合いはそれを可能にするひとつの要因とみてよいであろう。企業の規模を拡大すれば,人
件費の増加をとおして従業員の厚生は改善される。しかし,収益性に劣る事業の維持・拡大は
明らかに株主の負担を増加させる。上記の(7)式には,資本利子の回収が担保されない日本
企業の現状がよくあらわれている。
2.株式所有構造と非線型残余利益ダイナミクス
少なくとも,ROEが傾向的に低下しているとすれば,それは代替的な事業への再編がいっ
そう求められるシグナルと考えてよい。Lichtenberg and Pushner〔1994〕や新田〔2000〕に
よれば,他の事業法人によって安定的に株式が保有されている企業では,生産性とROEが低
くなるようである。そうした企業では,事業再編に向けた外部からの圧力が希薄であるため,
収益性の低下が恒常的であるとみなされる範囲で株価も下落する。それに対して,Kang and
Shivdasani〔1997〕では,銀行による安定保有が強い企業ほど,事業再編に向けた行動が迅速
にとられることが示されている。そこで以下では,他の事業法人によって保有される株式が多
い企業を対象に,株式所有構造と残余損失の持続性について分析する。
ここでは,現在観察される収益性が事業の縮小ないし拡大の基準となり,それが残余損失
(利益)の持続性に影響することを明らかにしたBiddle et al.〔2001〕のモデルをもとに分析を
展開する。Biddle et al.〔2001〕では,残余利益の持続性を事業投資の増加関数,
ω t=f (INVESTt )
∂ω t
────── > 0
∂INVESTt
としてあらわした。ただし,ωt はt時点における残余損失(利益)の持続性であり,
INVESTtは投資額である。残余損失が生じているケースであれば,投資縮小のペースが迅速
(INVESTt<0)なほど,翌年以降の残余損失が小さくなる。
a
そこから,本稿ではつぎのように仮説を設定する。本来,x tが低い企業では翌年の投資が
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抑制されるから,残余利益ないし損失の持続性 ω は小さくなるはずである。しかし,他の事
業法人による持ち株が多い企業では ω がそれほど弾力的に減少しないと予想される。それを
検証するために,中條〔2003〕と同様に,
xat +1=β 0+β 1DM+β 2DH+ω 0xat+ω 1DMxat+ω 2DHxat+ε t +1
(8)
を推定し,事業法人持ち株の多い企業と少ない企業とで,収益性が低下した場合の残余利益の
持続性 ω 0 を比較する。DMとDHは,当期の残余利益によってサンプルを三区分したときに中
間と上位の企業群を示すダミー変数であり,ω 1 とω 2 は,ω 0 に対する変化量をあらわす。
ここでは,東京証券取引所に上場する3月期決算企業の1991−2001年度のデータをサンプル
とする。それを事業法人持ち株の割合の中央値(21%)で二分して,それぞれのグループに対
し(8)式を推定する。不均一分散の問題を緩和するために,(8)式の両辺は総資産で除され
ている。金融業や異常値を除いた結果,7,276のサンプルが得られた。なお,残余利益の算出
には,税金調整済みの経常利益と10年もの国債の6月末日の金利をもちいている
(8)
。分析に
利用されるデータは,有価証券報告書と大和総研アナリスト・ガイドから集めている。
表1
事業法人持ち株比率と残余利益の持続性との関係
パネル1 事業法人持ち株が多い企業
−
ω
ω
ω
R2
0
1
0.82
0.07
2
-0.02
(30.07) (1.68) (-2.71)
0.70
パネル2 事業法人持ち株が少ない企業
−
ω
ω
ω
R2
0
1
2
0.68
0.17
0.15
0.70
(28.37) (2.13) (-0.53)
(注)括弧内はt値。
t値は,左隣のパラメータとの差異がゼロであるという帰無仮説を検定した結果である。
表1は,分析結果の概略をまとめている。パネル1とパネル2は,それぞれ他の事業法人に
よる支配が相対的に強い企業と弱い企業に対するパラメータの推定値を表示している。事業法
人持ち株が多い企業グループでは,当期の残余利益がもっとも小さいレンジの持続性 ω 0 が
0.82であり,他法人の持ち株が少ないグループの持続性0.68とくらべるとかなり大きい。その
差異は,5%の水準で有意である。それに対して,中間レンジの持続性 ω 0 +ω 1 は,前者のグ
ループで0.89,後者のグループで0.85であり,それらの間の差異は統計的にゼロと変わらない。
当期の残余利益がもっとも大きいレンジについても,両者のパラメータに差異は観察されなか
った。したがって,株式所有構造によって,残余損失(利益)のダイナミクスに相違が生じる
ことがわかった。
Ⅳ.おわりに
以上,本稿では株式所有構造と株価との関連を残余利益の持続性の観点から分析した。そこ
で導かれた発見事項をまとめよう。まず,純資産の帳簿価額が株価のアンカーとなるためには,
収益性が低下した事業を速やかに再編する意思決定の柔軟性が必要条件となることが示され
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た。そのうえで,残余利益ないし損失の持続性が事業規模の変更に応じて変動するメカニズム
を指摘した。さらに,日本企業の間に支配的な株式所有の構造がそこに重要な影響を与えるこ
とが明らかになった。事業活動の硬直化をもたらす資本構造は,株主に帰属する損失を拡大す
るおそれがある。残余利益の弾力性を株主構成とかかわらせれば,明らかにその兆候を読み取
ることができた。
他方,分析方法の観点からはいくつかの課題が残されている。まず,事業再編のプロセスと
残余利益のダイナミクスの関連性を時系列で分析する必要がある。本稿の分析はクロスセクシ
ョンを道具立てとしているので,上記の結論が特定産業内部でのみ生じている可能性を排除す
ることができないからである。また,ここでは会計上計算される利益が,企業の株価を構成す
る主要な変数であると仮定しているが,会計に固有の操作や保守主義の影響を受けているとす
れば,株価評価にはバイアスが生じるかもしれない。したがって,保守主義や会計手続きに起
因するバイアスを修正するための追加的な調整を行わなければならない。
註
(1) (1)式の導出過程については,たとえばOhlson〔1995〕のp. 667を参照。そこでは,クリーン・サ
ープラスとよばれる純資産の増減に関する制約条件が重要な役割を果たす。クリーン・サープラス
とは,純資産が利益によって増加し,配当によって減少するという関係を規定したものである。な
お,変数に付されたティルドは,確率変数であることを意味する。
(2) 資本のコストは各期間をつうじて一定であると仮定する。
(3) そこでは,xat+1=ωxat+νt+εt +1,νt +1=γνt+ε2t+1のように,その他の情報 νt にも1階の自己回帰過程
が与えられている。たしかに,νt によって残余利益に対する事業投資の影響を捉えることができる
が,それは当期に行われた投資の効果に限定される。翌年以降に行われる投資を株価評価にタイム
リーに反映させるためには,投資決定のメカニズムを取り入れたより精巧なモデルが必要とされる。
(4) クリーン・サープラスによればyt=yt-1+xt−dtであるから,それを配当について展開すればよい。
(5) 東証1部上場企業を分析した山田〔2001〕によれば,1997年頃から株価が純資産を下回るケースが
増加し,2001年12月時点では55%に達している。赤字企業については,同年3月末において,
62.9%の企業で株価が純資産を割り込む。
(6) それは企業にとっても同様である。純資産を過大評価すれば,翌年以降に要求される資本利子が大
きくなり,利益がそれを下回れば株価はディスカウントされるからである。(1)式が株価評価の基
礎となるかぎり,純資産の評価上のバイアスは基本的に問題にならない。
(7) 佐々木・米沢〔2000〕などを参照。
(8) サンプル抽出のプロセスや変数の選択理由について,くわしくは中條〔2003〕を参照。
引用文献
佐々木隆文・米沢康博「コーポレート・ガバナンスと株主価値」『証券アナリストジャーナル』Vol. 38
No. 9,2000年,29-46頁。
中條良美「日本企業の非線型残余利益ダイナミクスの検証」『現代ディスクロージャー研究』No. 4,2003
年,9-20頁。
手嶋宣之「経営者の株式保有と企業価値」『現代ファイナンス』No.7,2000年,41-55頁。
新田敬祐「株式持ち合いと企業経営−株主構成の影響に関する実証研究」『証券アナリストジャーナル』
Vol. 38 No. 2,2000年,72-93頁。
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企業の再編可能性と非線型残余利益ダイナミクス
Burgstahler, D.C., and I. Dichev, “Earnings, Adaptation and Equity Value”, The Accounting Review, Vol.
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