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Title 06 オーストラリアとロシア語 −在豪ロシア系移民のロ シア語・ロシア

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Title 06 オーストラリアとロシア語 −在豪ロシア系移民のロ シア語・ロシア
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Title
06 オーストラリアとロシア語 −在豪ロシア系移民のロ
シア語・ロシア文化の保持に関する一考察−
Author(s)
臼山, 利信, Usuyama, Toshinobu
Citation
ロシア語学と言語教育, 3: 49-63
Date
2011-03-31
Type
Research Paper
Rights
publisher
KANAGAWA University Repository
オーストラリアとロシア語
一一在豪ロシア系移民のロシア語・ロシア文化の保持に関する一考察一一1
臼山利信
キーワード・オーストラリア,ロシア語,移民,船主語
1
.研究動機
「なぜあなた(=臼山)はロシア語・ロシア文化に関するこの国際会議において英語で発表したのですか.
わたしはシドニーのロシア民族学校のロシア語の教師ですが,英語ではなく,ロシア語の発表を期待してい
0
0
7年 1
0月にシドニーのマツコーリ一大学てオ子われた国際会議「ロシ
ました 非常に残念です. Jこれは, 2
アの言語,文学,文化および歴史に関する会議j (組織責任者: NonnaRYAN博士)で,わたしが「カザフ
スタン共和国アスタナ市,アノレマトイ市における社会言語学的調査の実施報告」の題目で口頭発表した際の
出来事である.発表内容に対する質問を期待していたわたしにとって,全く思いがけない発言であったし,
彼女の意思表明の意味がわからなかった.彼女の発言を受け,その後のわたしの発表内容に関する議論は英
語ではなく,ロシア語でて行われた.
2日間に及ぶ会議終了後の懇親会で,例の発言をした年配のロシア語教官市である彼女と知り合い,彼女の
同僚たちとも知り合いになったそこでわかったことは,彼女たちの多くは高齢であったが,皆 1950年代に
政治的な理由でソ連・ロシアに戻ることがで、きなかったオーストラリアに亡命した,中国(ハノレビン)出身
の白系ロシア人だった.また皆ソ連時代はロシアを訪れたことはなく,つまり,彼女たちがオーストラリア
知具
で生きた半世紀はロシアに行った経験はなく,ソ連崩壊後に初めてロシアを訪れたという事実を知り, i
した.というのも,約 50年間も祖国から断絶した生活を強いられていたにも関わらず,彼女たちは,英語の
詑りのまったくない,しかも非常に美しい完壁なロシア語を話していたからである.それを可能にするほど,
ロシア語・ロシア文化に対して強い恩いを持って生きてきたということだ,そして,ロシア語,ロシア文学,
ロシア文化について会議などで本気で議論する場合,ロシア語でなければ本当の意味ではできないという彼
あり,ロシア系移民の子供たちがロ
女の主張を理解した2. またシト、ニー市内には, 7校のロシア民族制凱5
シア語で教育を受けていることを知り,さらに驚いた.そこでは,白系ロシア人たちの第三世代,つまり孫
の世代やソ連崩壊後にオーストラリアに移民したロシア人の子供たちが学んでいること,移民と言っても
様々な移民の波があることを知った'・
撃であったが,母語と母文化の源流である祖国から切り離されながら,
とれらの事実はわたしにとっては街I
ロシア系移民たちがどのようにしてロシア語を守り,ロシア文化を代々伝えてきたのか,またオーストラリ
アというイギリス系ヨーロッパ文化の影響の強い英語圏国家で,ロシア人としてのアイデ‘ンティティーをど
1筑波大学般言語学研究会月例会(人文社会学系棟 A
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9年 6月 3
0日)の発表において臨布した報告資料を一部
訂正したものである.
2 これはよく理解できる心理的態度であるー例えば,日本語,日本文学,日本文化について日本語以外の言語,例えば,
かっ大切なニュアンスがすでに損なわれている,あるいは失われている気
英語で議論する場合,日本語でのみ伝わる錦繍H
がするのと同じである.
3 ロシア系移民の波は,研究者によって区分けが異なる
堤正典・小林潔編『ロシア語学とロシア語教育E』神奈川げて学ユーラシア研究センター, 2011年
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のように形成しているのか,あるいはオーストラリア人としてのアイデンティティーとロシア人としてのア
イデンティティーをどのように両立させているのかという学問的問題に興味を持った
2
. 筑波大学国際連携プロジェクト
プロジェクトの目的
本学の教育研究活動等における国際連携及び本学職員の国際化を図ること
プロジェクトの程類:
¢筑波大学国際連携プロジェクト(招へい)
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:筑波大学国際連携プロジェクト(イベント・フォーラム形成)
調査研究題目.
「オーストラリアにおけるロシア系移民のロシア語教育とアイデンティティーに関する調査研究J
派遣国及び派遣先機関
オーストラリア連邦マツコ一日一大学(シドニー)
派遣期間:
2
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8年 7月 I日∼2
脚 年 l月 7日(計 1
9
1日間)
研究経費
2
5
0万円
派遣先機関での立場・
マツコーリ一大学教養学部(ヨーロッパ学科ロシア専攻)客員准教授
研究の背景:
露豪関係、の歴史はすでに 2
0
0年以上に及ぶ( 1
8
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7年以来)
西洋人入植初期の 19世紀前半にはロシア系
移民の記録が残されている ロシア系移民の波は一様ではなく,少なくとも大きく 4つの時期,すなわち,
①植民地時代,~帝政ロシア時代,③ソヴィエト時代,④ポスト・ソヴィエト時代,に分けられる.各時期
をさらに細分化することもできる.
帝政ロシア末期及びソヴィエト時代のロシア系移民(ロシア語話者移民)は,多くの場合,戦争と政治の
荒波の中で,オーストラリアに入組したという社会的背景を持っており,それぞれの思想・信条(「白系」,
左翼系など)や宗教(ロシアE教,ユダPヤ教など)を基盤とするロシア・コミュニティーをつくり,支え助
け合い,相対的に強固な人間関係を築いてきたー一方,ポスト・ソヴィエト時代以降のロシア系移民は,そ
50
うした強い恩怨的な共通基盤を持っておらず,その大半がより条件の良い仕事を求め,富を築きたいという
願望に基づく経済的な理由で入構している.現在,
8万人を超えるロシア系移民(及ひその子孫)全体に占
めるべレストロイカ期以降のロシア系移民の割合が大きく高まり( 1
9
9
1年の旧ソ連出身の移民数は 1
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1
9
9
3年は 2
1蜘人),オーストラリアにおけるロシア系移民コミュニティーは多様で複雑な様相を示してい
る
研究の目的.
研究プロジェクトでは,特にペレストロイカ期,ポスト・ソヴィエト期のロシア系移民の既存のロシア系
移民コミュニティーに対する影響に焦点、を当てて,新旧ロシア系移民の第二,三(あるいは四)世代の若者
たちへの言語教育・文化教育の現状・歴史・課題について,社会言語学的観点から事例研究を行うものであ
る.具{相拘には,シドニー市内にある,ロシア系移民(および一時的評柄生者)の子供たちのための 7つのロ
シア語学校(ロシア正教系の教会などが運営)において,教師,児童・生徒およびその両親などに対するイ
ンタヴュー調査やアンケート調査を行い,移民世代繍)と次世代(子)の言語意識とアイデ、ンティティー
の実態の端を究明する.
研究の意義ー
最近 20年間の世界の移民動態の中心的位置を占めるのは,ソ連崩壊後に激流となって始まった旧ソ連邦
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3
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出身のロシア系移民である.オーストラリアへの移民数は, ドイツ(3
スラエノレ( l
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O万人)への移民数と比べると格段に少ない しかし,ロシア系移民の言語とアイデンティテ
ィーに関する研究という側面から考えると,民族的マイノリティーとの積線的共存政策である多文化主義政
策の中で生きるオーストラリアのロシア系移民の言語教育とアイデンティティーの問題は,民族的マジョリ
ティーの強力な同化政策の中で生きるドイツやイスラエノレのロシア系移民とは大きく異なり,独自の学術的
価値を持っている
また旧ソ連邦出身のロシア系移民のロシア語教育とアイデ、ンティティーに関する社会言語学的研究は世界
的に開始されたばかりであり,特にペレストロイカ期及びポスト・ソヴィエト期以降のオーストラリアのロ
シア系住民に関する詳細な調査研究は,発表者の知る限り,行われていないその意味でも当該研究プロジ
ェクトは,学術上,非常に先駆的な意義を有している研究である
当該研究の成果は,世界の他の地域におけるロシア系移民の言語とアイデンティティーに関する研究成果
とを有機的に結びつけた比較研究へと発展・昇華させていける可能性を持っており,移民研究全体への寄与
も期待されるものである.また広い意味で,言語学,社会学,民族学への一定の学術的貢献も見込まれる.
さらに本格的な少子高齢化社会の時代を迎えた日本社会が,外国人労似J
者人口の安定的な確保という課題
の中で,将来的に外国人の移民問題に直面するという予測もなされているので,当該研究プロジェクトの成
果をこうした日本の近い将来の政策課題に何らかの形で役に立つ貴重な生きたデータのーっとして蓄積する
ことができる
5
1
研究の概要
オーストラリア連邦は現在 4人に 1人の国民が外国生まれという移民大国である 報告者は 8万人を超え
る在豪ロシア系移民(仰P人
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かにする目的で,ロシア系移民コミュ二ティーを通じて,社会言語学的なフィーノレドワーク調査を行った
E
また,在豪ロシア系移民に関する様々な文献も幅広く収集した.
ロシア系移民と一口に言っても決して単純ではなく,様々な時代(帝政ロシア時代,ソヴィエト時代,ロ
シア連邦時代)に様々な背景(出身地,イデオロギー,民族,宗教,経済,世代)を背負って来豪した移民
が存在する.調査では,シドニー市,メノレボノレン市,ブリスベン市,アデレード市において, 194ι50年代に
ヨーロツノ効ミら移民した第一世代, 1
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0年代にソヴィエト連邦から移民した第一世代,そして 1
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9
1年のソ連崩猿後に旧ソ速から移民した第
一世代の被験者 3
0人以上を対象に聴き取りインタウ、ューを実施した.質問項目は 3
5で,移民の経緯,言語
教育,アイデンティティーに関するものである(一人につき,平均して 1 2時間)
さらに,ロシア語教育を訪苗している以下のロシア民族学校(基本的に土曜日ないし日曜日に開校)を訪
問し,校長先生をはじめとする関係者にロシア語教育の歴史・現状・課題に関するインタヴューを行うとと
もに,実際、の授業を参観した
部の学校では,教員,児童,父兄を主換にアンケート調査も動画した.
1
. ホムアマツシュ聖アレナザントγレ・ネフスキーロシア学校(シド、ニー市)
2
. シドニ一望エコライロシア学校(シドニー市)
3
. シドニー東部地区ロシア学校(シドニー市)
4. 7 ノレーブラロシア学校(シト、ニー市)
5
. 古儀式派ロシア正教会付属ロシア学校(シド、ニー市)
6
. 翠ヨハネロシア正教会付属ロシア学校(キャンベラ市)
7
. ロシア学校「プーシキンリツェイ」 (メノレポノレン市)
日 聖セラフィームロシア正教会付属ロシア学校(ブリスベン市)
9
. 聖ニコライロシア正教教会付属ロシア学校(アデレード市)
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また,オーストラリアにおいて専門的にロシア語教育やロシア研究を行っている以下の大学を訪問し,ロ
シア語教育の歴史・現状・課題などについて詳細な聞き取り調査を行った.
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32 ロシア語母語話者と民族
表6 ロシア語母語話者の分類
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(ロシア人)
外国籍のロシア系ロシア語母語話者
非ロシア系ロシア語母語話者
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作成:臼山利信
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図 I 世界のロシア語母語話者
ロシア人(ロシア国籍・外国籍)
作成.臼山利信
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33 ロシア文化・ロシア世界・ロシア性
図 2 ロシア文化
非ロシア系ロシア語母語話者
によって創られたロシア的価値
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作成白山利信
oロシア語母語話者,特にロシア人にとって,
「ロシア性」とは何かワ
o 「ロシア性j とは,ロシア語母語話者とロシア語を基盤とする,広い意味での「ロシア文化j である
o 「ロシア文化J とは,ロシア語母語話者によって創り出されたロシア的価値の総体である
図 3 ロシア世界
ロシア文化
ロシア性の認識・自覚
ロシア語母語話者
56
。ロシア語母語話者,特にロシア人にとって,
。「ロシア世界Jとは,
「ロシア世界Jとは何か?
「ロシア文化Jと「ロシア語母語話者」が存在し,彼ら自身が「ロシア性」を強く
認識・自覚する場所である.
3
.
4 在豪ロシア系移民の同化のプロセス
O移民たちの異言語・文化環境における同化は,彼らがその社会に適応し,恒常的に暮らし,かっその国民
にならなければならない以上,基本的に不可避であるー移民先の社会の言語・文化の知識と理解なくしては,
支障のない日常生活を送ることはできない
o
移民たちの同化過程は,その社会の言語と文化を習得・獲得し,その社会に適した人格を形成していくプ
ロセスに他ならない.
移民たちの母語と母文化の保持の程度は,移民した時の年齢とその後の母語と母文化を保持するための努
O
力にかかっている.
O移民の年齢は,その母語と母文化を保持するための,非常に重要な要素である.なぜならば,それは移民
先の新しい言請と文化を受容するのに必要な柔軟性と深く結び付いているからである.
O以上の事実を踏まると,次の三つの移民に関する定式を導き出すことができる.
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I移民は,移民した時¢年齢が高ければ高いほど,移民先の社会の人聞に同化する力は弱い逆にその年齢
が低ければ低いほど,その社会の人聞に同化する力が強い.したがって,オーストラリアに移民したロシア
人は,移民時の年齢が高ければ高いほど,オーストラリア系英語話者に同化する力は弱く,その年怖が低け
れば低いほど,同化する力が強い
(
図 4を参照)
②移民は,移民した時¢年齢が高ければ高いほど,移民先の社会の言語(公用語)を習得する力は弱いー逆
にその年齢が低ければ低いほと\その言語を習得する力が強い したがって,オーストラリアに移民したロ
シア人は,移民時の年齢が高ければ高いほど,英語を習得する力が弱く,その年齢が低ければ低いほど,習
得する力が手品、
(
図 5を参照)
③移民は,移民した時¢年齢が高ければ高いほど,母語と母文化を保持するカが大きい.逆にその年齢が低
ければ低いほど,保持する力が弱い.したがって,オーストラリアに移民したロシア人は,移民時の年齢が
高ければ高いほど,母語と母文化を保持する力が強く,その年齢が低ければ低いほど,保持する力が弱い.
(
図 6を参照)
5
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図4
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ロシア語ーロシア文化
英霊の習得度→
の保存度→
作成・白山利信
。このように移民した時のロシア人の年齢が低ければ低いほど,その人はオーストラリアの生活に適応しや
すく,年齢が高けれは高いほど,適応しにくいということが言える
(成人時の)在豪ロシア系移民の同化プロセスをモデル化すると表 7のよう
0上記の三つの定式に基づき,
になる
表7
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。表 7は,ロシア系移民がオーストラリア系英語話者に同化していく具体的なプロセスを示している
。第 1世代は,実際にオーストラリアに移民したロシア系住民である.第 2
, 3
, 4, 5, 6世代は,彼ら
の子孫、である
o第 1世代の年齢は, 5つの年齢層(臼0歳以上,②4
0∼5
9歳 , む0
∼3
9歳,④1
2
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9歳 , 伽 ∼1
1歳)に分
けられる.
o第 1世代の第 1-4年齢層のロシア系移民にとって,ロシア語は第一言語であり,英語は第二言語である
彼らは,ロシア語母語百者である
o
第 1世代の第 5年齢層だけは状況が異なる.彼らにとってロシア語は第一言語ではなく,第二言語である
彼らは英語を第一言語とする英語母語話者である.
。第 1世代のロシア語およびロシア文化の保持率は,移民時の年齢に大きく依存している.その保持率は,
次世代以降,相対的に,また漸次的に低下していく
o第 2世代以降,ロシア系住民にとっては,英語が第言語で彼らの母語となる.したがって,第 2世代以
降の同化のプロセスは,加速し,かっ深化していく.
。我々のモデルによる予測では,第 4, 5世代以降,ロシア語およびロシア文化の保持率は最低水準に達し,
第 6世代では,オーストラリア系英語話者への同化過程が完全に終了する.
3
.
5 在豪ロシア系移民のロシア語・ロシア文化の保持に寄与している要因
oロシア系移民の同化過程に歯止めをかけることはできないのか?
在豪ロシア系移民がロシア語とロシア
文化を保持することは不可能なのか。
o非常に困難ではあるが,可能である.実際に在豪ロシア系系移民(住民)コミュニティーでは,一定の程
度,ロシア語とロシア文化が保持されている.
。現地調査の結果,在豪ロシア系移民(住民)のロシア語運用能力の保持・伸長の成否,民族的・文化的ア
イデンティティーの保持の成否に少なくとも 28のファクターが関わっていることが判明した
o具体的には, l
オーストラリアの移民政策, 2オーストラリアの言語政策, 3
.移民の動機(政治難民,経済
移民) '4
.ロシア・ロシア語・ロシア文化に対する愛情と関心, 5 ロシア系移民コミュニティーの相互扶助
力・連借感, 6ロシア本国からオーストラリアへの継続的な移民, 7両親の努力, B祖父母の支援, 9
.ロシア
系移民同士の結婚, I
O
.民族としてのロシア人, 1
1
.在豪ロシア系移民同士の家放レベノレでの私的行事, 1
2
.テ
レビ・ラジオのロシア語放送, 1
3
.インターネット, 1
4
.在豪ロシア語新聞・雑誌の刊行, 1
5
.ロシア正教会,
1
6
.ロシア民族学校, 1
7
.在豪ロシア系移民のための組織・団体, 1
8
.大使館などのロシア連邦所管の在豪公的
機関, 1
9
.ロシア研究やロシア語教育を笑胞しているオーストラリア園内の大学, 2
0
.在豪ロシア系移民のた
59
めの図書館, 2
1
.ロシア系移民が働いてしも職場の専門性・多様性, 2
2
.在豪ロシア語専門書店, 2
3
.ロシア料
理レストラン, 2
4
.
地理的距離, 2
5
.
文化的同質性, 2
6
.在豪ロシア系移民による民族的・文化的行事の恒常的開
催
, 2
7
.ロシア旅行, 2
8
.オーストラリア人のロシアに対する肯定的なイメージ,である.
3
.
6 調査研究のまとめ
1
. 在豪ロシア系移民のオーストラリア系英語話者への同化のプロセスは,全体として第二世代以降,確実
に進行している.
2
. 在豪ロシア系移民の中には,第三世代に入ってもロシア語とロシア民放的・文化的アイデンティティー
を非常に高い水準で保持している家庭が相主する.
3
. 在豪ロシア系移民のロシア語運用能力の保持・伸長の成否,民放的・文化的アイデンティティーの保持
の成否に 28のファクターが関わっている.
4
. 現在のオーストラリアには,上記の 28のファクターが存在し,相対的には一定の均衡の下で肯定的に
機能しているので,在豪ロシア系移民のロシア語とロシア民放的・文化的アイデンティティーが保持され
得る環境は辛うじて確保されているー
5
. 近年,ロシア・旧ソ連諸国からオーストラリアへの車断涜的な移民の流れが急池に縮小しているので(例
えば,旧ソ連出身の移民では, 1
9
9
3年は約 2
1
側人であったが, 2
叩年は約 l
脚人),人口学的銑点か
ら在豪ロシア系移民の言語と民放的・文化的アイデンティティーの保持を可能にする力が留時的に弱まっ
ていく可能性が非常に高い
6
. オーストラリアの大学におけるロシア語教育およびロシア研究の状況は,ペレストロイカ期,ソ連崩壊
宛いていくものと
直後の時期をピークに悪化の一途を辿っており,今後も非常に厳しい教育・研究環境か1
恩止コれる
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なお,在外研究中,以下の 2件の特別講演会を実施した.
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オーストラリアとロシア語
一一在豪ロシア系移民のロシア語・ロシア文化の保持に関する一考察一一
臼山利信
オーストラリアでのロシア系移民は 8万人を越え、シドニー市内には 7校のロシア民族学校があり,ロシ
ア系移民の子供たちがロシア語で教育を受けている そこでは,白系ロシア人たちの第三世代,つまり孫の
世代やソ連崩壊後にオーストラリアに移民したロシア人の子供たちが学んでいる そもそも移民と言っても
機々な移民の波がある.ロシア系移民たちがどのようにしてロシア語を守り,ロシア文化を代々伝えてきた
のか,またオーストラリアというイギリス系ヨーロッパ文化の影響の強い英語圏国家で,ロシア人としての
アイデンティティーをどのように形成しているのか,あるいはオーストラリア人としてのアイデンティティ
ーとロシア人としてのアイデ‘ンティティーをどのように両立させているのか、筑波大学国際連携プロジェク
トの一貫として「オーストラリアにおけるロシア系移民のロシア語教育とアイデンティティーに関する調査
研究」を 2
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8年 7月 1日∼2
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9年 1月 7日(計 1
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1日間)行ったその結果によれば,英語話者への同化プ
ロセスが確かに進行しているものの,ロシアのアイデンティティーを高い水準で維持している家庭は存在し,
8ファクター)も碓保されている 一方で,大学に於けるロシア語教育およびロシア語
保持・継承の環境(2
研究の状況は悪化している
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