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The case study of entry via semi- knocked
ISSN 1343-4225 No.116 ERINA REPORT 116 特集:第6回日露エネルギー・環境対話イン新潟 Special Feature: The Sixth Japan-Russia Energy and Environment Dialogue in Niigata ■自動車メーカーの新興国ロシアへの参入戦略 -双龍自動車、マツダ、トヨタ自動車のウラジオストクでのセミノックダウン(SKD) 生産による参入を事例として- 富山栄子 The Strategies of Automotive Manufacturers for Entry into the Emerging Russian Market: The case study of entry via semi-knocked-down (SKD) production in Vladivostok of SsangYong, Mazda and Toyota (Summary) TOMIYAMA, Eiko 2014 MARCH 2014 MARCH No.116 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 目 次 特集:第6回日露エネルギー・環境対話イン新潟 Special Feature: The Sixth Japan-Russia Energy and Environment Dialogue in Niigata ■プログラム………………………………………………………………………………………………… 1 ■会議抄録 開会・基調講演…………………………………………………………………………………………… 3 Session A:ガス・石油… ………………………………………………………………………………… 18 Session B:環境… ………………………………………………………………………………………… 32 ■会議総括・新潟アピール………………………………………………………………………………… 44 ■Program……………………………………………………………………………………………………… 45 ■Keynote Addresses (Abridged)… ……………………………………………………………………… 47 ■Summaries of Report Contents Session A: Gas and Oil… ………………………………………………………………………………… 51 Session B: Environment…………………………………………………………………………………… 53 ■Summary of the Dialogue and the Niigata Appeal on Energy and the Environment… ………… 55 ■自動車メーカーの新興国ロシアへの参入戦略 -双龍自動車、マツダ、トヨタ自動車のウラジオストクでのセミノックダウン(SKD)生産に よる参入を事例として-………………………………………………………………………………… 57 事業創造大学院大学教授 富山栄子 The Strategies of Automotive Manufacturers for Entry into the Emerging Russian Market: The case study of entry via semi-knocked-down (SKD) production in Vladivostok of SsangYong, Mazda and Toyota (Summary)… ………………………………………………………… 66 TOMIYAMA, Eiko, Professor, Graduate Institute for Entrepreneurial Studies ■会議・視察報告…………………………………………………………………………………………… 67 ◎中国における地域発展戦略の実施現場を歩く-天津・鄭州・重慶・成都視察報告- ERINA調査研究部研究員 穆尭芋 ■北東アジア動向分析……………………………………………………………………………………… 72 ■研究所だより……………………………………………………………………………………………… 78 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 第6回日露エネルギー・環境対話イン新潟 ●開催日 2013年11月18日㈪ ●会 場 朱鷺メッセ2階「スノーホール」 ●主 催 新潟県、新潟市、公益財団法人環日本海経済研究所(ERINA) ●後 援 外務省、経済産業省、在日ロシア連邦大使館、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機、 日本貿易振興機構(ジェトロ) 、 一般財団法人日本エネルギー経済研究所、 一般財団法人石炭エネルギーセンター、 一般社団法人ロシアNIS貿易会、一般社団法人日本経済団体連合会、株式会社国際協力銀行、石油連盟、 一般社団法人日本プロジェクト産業協議会(JAPIC) 、世界省エネルギー等ビジネス推進協議会、 一般社団法人新潟県商工会議所連合会、新潟経済同友会、新潟日報社、毎日新聞新潟支局、読売新聞新潟支局、 産経新聞新潟支局、朝日新聞新潟総局、共同通信社新潟支局、時事通信社新潟支局、日本経済新聞社新潟支局、 NHK新潟放送局、BSN新潟放送、N S T、TeNYテレビ新潟、UX新潟テレビ21 PROGRAM ■開会 【9:30 - 10:10】 泉田裕彦 新潟県知事 篠田昭 新潟市長 エフゲーニー・アファナシエフ 駐日ロシア連邦特命全権大使 セルゲイ・ヤーセネフ 在新潟ロシア連邦総領事館総領事 ■基調講演 ― 日露エネルギー協力の新しいファクター ― 【10:10 - 12:00】 外務省欧州局日露経済室長 石川誠己 セルゲイ・マーリン ロシア連邦外務省第3アジア局露日経済交流部長 南亮 資源エネルギー庁石油天然ガス課長 ロシア科学アカデミーシベリア支部エネルギー研究所副所長/アジア太平洋エネルギー研究センター主任研究員 ボリス・サネーエフ/ドミトリー・ソコロフ 一般財団法人日本エネルギー経済研究所特別顧問 田中伸男 ヴィクトル・チモシ-ロフ ガスプロム東方プロジェクト調整局長 (代読:ガスプロム東方プロジェクト調整局チーフ・スペシャリスト アレクサンドル・カルミーチェク) ■Session A ― ガス・石油 ― 【13:30 - 15:30】 沿海地方行政府電力・石油ガス・石炭産業局長 ニコライ・ロヴイギン 極東エネルギー産業発展戦略センター所長 イーゴリ・スベトロフ (代読:極東連邦大学石油ガス研究所所長 アレクサンドル・グリコフ) 東北電力株式会社火力原子力本部燃料部副部長 小村尚志 中部電力株式会社上越火力発電所副所長 佐藤俊久 国際石油開発帝石株式会社(INPEX)ユーラシア・中東事業本部ジェネラルマネージャー 塚田邦治 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)調査部担当審議役 本村真澄 新日鉄住金エンジニアリング株式会社 戦略企画センター海外事業企画部長、常務執行役員 青山伸昭 1 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH ■Session B ― 環境― 【15:45 - 18:00】 基調報告:世界省エネルギー等ビジネス推進協議会(JASE-W)事務局長 村澤嘉彦 アレクサンドル・グリコフ 極東連邦大学石油ガス研究所所長 一般財団法人石炭エネルギーセンター(JCOAL)技術開発部参事管掌 原田道昭 株式会社WINPRO執行役員海外事業担当 奥谷明 東芝燃料電池システム株式会社営業部長 草間伸行 齋藤忍 株式会社大原鉄工所営業部 環境営業Ⅱ課課長 〈会議総括〉 杉本侃 ERINA副所長 ※本特集は、「第6回日露エネルギー・環境対話イン新潟」の内容を当日の録音及び資料をもとに翻訳・編集したもので、 文責はERINAにある。 2 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 開会・基調講演 主催者あいさつ 新潟県知事 泉田裕彦 本日は、日ロ両国から多くの方々に本会議にご参加いた 隣国とのエネルギー協力ができることは安全保障上もメ だき、心より感謝申し上げる。 リットが大きい。 現在、日本を取り巻くエネルギーの環境は大きな変動期 今日は忌憚のない意見交換をこの新潟で行っていただ に入っている。日露エネルギー・環境対話は6回目となる き、日ロ両国にとって経済的にも、環境的にも、持続可能 が、近年、ますます重要性を増している。 性という観点でも、望ましい方向性の基礎が築かれること 日本は東日本大震災で、原子力発電所のみならず火力発 を期待している。 電所を含めた発電設備に大きなダメージを受けた。その結 新潟県として大きな関心を持っているのが、日本海横断 果、省エネが進んできている。今年、猛暑にもかかわらず、 パイプラインである。天然ガスを液化すると、その圧縮と 新潟県のピーク時電力も大きな数字にはならなかった。電 気化の両方にエネルギーが必要になり、コストアップに 力不足も、数量的には一時の厳しい状況から脱している。 なってしまう。ガスのまま運んでくれば、双方にとって魅 世界のエネルギー供給事情は、北米を中心としたシェー 力的な価格での交渉もあり得るのではないか、と思ってい ルガス革命によって大きな変動が予想されている。シェー る。新潟県には東京電力、東北電力、中部電力の発電所が ルガス革命が環境面に与えるネガティブな影響も指摘され 集中し、各方面に天然ガスパイプラインが伸びている。加 ている。安定したエネルギー環境をどうつくっていくのか えて、新潟県では以前から天然ガスが産出され、枯渇ガス が問われる局面に入っている。 田も抱えている。この枯渇ガス田に輸入した天然ガスを貯 日本が再生可能エネルギーに依存していくには時間がか めれば、設備投資がわずかな額で済むメリットもある。 かるという環境の中で、ロシアからのエネルギー供給が進 日本全体のエネルギー供給の安定、日本とロシアの友好 むことは、今後のエネルギー供給構造を大きく作用するも 親善、安全保障を含め、さまざまな視点からエネルギー分 のと考えている。また、中東等に大きく依存する状況から、 野での対話が促進されることを期待している。 主催者あいさつ 新潟市長 篠田昭 本日は国内外の皆さまからお集まりいただき、81万新潟 る日露首脳会談など、これまでにないような素晴らしい関 市民を代表して心より歓迎申し上げる。今回初めてアファ 係を築きつつある。具体的な経済交流、 さまざまな人的交流、 ナシエフ駐日ロシア連邦大使におみえいただいたことは、 文化交流が飛躍的に伸びようとするような段階へと踏み込 この会議が良い評価をいただいていることの証として受け もうとしている。 止めたい。 日本では、大きな災害が起こっても、より安全でしなや 日ロ関係は、今年4月の安倍首相・プーチン大統領によ かに対応できる国家をつくろうという取り組みが進められ 3 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH ている。その中で、日本海側、そして新潟の役割が重要性 力し、それが今後さらに重要な政策として動いていくであ を増しており、われわれも新潟県とともに、それに対応し ろう。エネルギー・環境の相互協力はもちろん、食料・農 た取り組みを強化していきたい。エネルギー、食料、水が 業、医療、スマートシティなどで日本から提案ができ、協 大きな災害時でもっとも必要なものであり、太平洋側が被 力関係が築かれるのではないか、と考えている。 害を受けた時は日本海側が、日本海側が被害を受けた時に この第6回の対話を通じ、皆様からこれまで以上に踏み は太平洋側がしっかり支えるような体制をつくっていくこ 込んだ実践的な討議をいただければありがたい。日ロ関係 とが安倍政権の一つの方向だと受け止めている。 が日本の安全保障にも貢献するという認識の下、新潟とし こうした中で、ロシアとの関係を強化していくことは大 ても頑張ってまいりたい。 きなポイントである。プーチン政権がシベリア・極東に注 来賓あいさつ 駐日ロシア連邦特命全権大使 エフゲーニー・アファナシエフ いまの日ロの関係は非常に良い方向で発展している。こ している。 こ半年を見ても、4度の首脳会談が行われ、10年ぶりに日 地域交流には、大きな未利用のポテンシャルがある。今 本国首相によるロシアの公式訪問があった。その他のレベ 年だけでも、東京で、ロシアの一連の地域(サハリン州、 ルでも交流が進んでいる。 スベルドロフスク地方、ボロネジ)の説明会が行われた。 最近、ラブロフ外相とショイグ国防相が日本を訪れ、日 さらに、日本の政界や経済界等の関心を呼ぶ別の説明会も 露外務・防衛閣僚協議、いわゆる「2+2」が行われた。 予定されている。私たちはこの路線を継続していく。 対話が行われているということは、日ロ両国がそれぞれに 日ロ関係では非常に重要な二つの委員会が活動してい とって重要なパートナーだということであろう。 「2+2」 る。一つは、貿易・経済協力委員会で、ロシア側のリーダー が行われている国はなかなかない。 はシュワロフ第一副首相である。ロシアの第一副首相は1 また、貿易・経済関係が進んでいるということを、たい 人だけで、その彼が日本を担当しているのである。もう一 へん喜ばしく思っている。2012年は貿易高335億ドルとい つは近代化委員会で、リーダーはドボルコビッチ副首相で う記録を達成することができた。他国と比較するとまだま ある。この委員会の会合が最近、東京で開かれた。この先 だ小さな数字だが、成長する可能性が非常に高い数字だと に控えている交流や公式訪問としては、12月末、茂木経済 思う。 産業大臣のモスクワ訪問がある。2014年3月には、ロシア プーチン大統領が発言したように、日本は隣国であり、 「自 経済発展相の訪日が予定されている。日ロ政府間委員会の 然なパートナー」である。したがって、日本が希望するあら 会合も控えている。最高レベル・ハイレベルの対話もある。 ゆる分野での両国関係の発展を、我々も希望する。現在、 これらはすべて、活発な対話、さらなる協力分野の発掘を 両国指導部はあらゆる分野の具体的な成果のある協力に青 可能にする。 信号を出している。 エネルギー産業についていえば、最近、ガスプロム、ロ ロシアにとって、また日ロ関係にとって優先事項の一つ スネフチ、ノバテク等、ロシアの大手企業の社長が訪日し、 が、シベリア・極東の発展の加速化である。日本からハバ 日本側のパートナーたちと協議した。確かに、エネルギー ロフスク、沿海地方には飛行機で1時間半くらい、船でも 産業は今もこれからも、我々の協力の優先事項の一つであ 1日半~2日で行くことができる。私たちは隣人であり、 る。同時に、我が国の指導者たちはエネルギー以外に新し 当然、新潟とロシア極東は交流を深めていく方針である。 い協力分野を見出した。農業、医療、都市環境、都市管理、 昨日、新潟県知事、新潟市長と会談し、様々な有望プロジェ 両国経済に係るあらゆる近代化だ。これらのすべての協力 クトについて話し合った。それらが具体化することを期待 を、 私たちは互恵的事業とみなしていることを強調したい。 4 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 一方通行ではなく、互恵的プロジェクトである。双方がそ 現したことで、 エネルギーの価格は下がっていくと思われ、 の協力から利益を得るのである。 日本が今後、 シェールガスに注目していくのは当然である。 日本で検討されている石油・ガス分野の協力の三つの エネルギーの供給元をどう多様化するか、日本には自分で テーマに触れたい。一つ目は、県知事が取り上げたガスパ 決める権利がある。しかし、いくつか疑問が残る。シェー イプラインの敷設だ。この問題は約30年間話し合われてい ルガスが実際にどれだけあるのかは、アメリカやカナダに る。この問題は注目に値すると思うが、日本側からの具体 とっても自給自足という面で本質的な要素である。シェー 的な提案はなかった。もし日本政府から提案があれば、ロ ルガスの輸送や精製が加わった場合、 (価格は)より有利に、 シア側は一緒に検討する。 より安くなるのか、将来的にアメリカからどれだけの量を 二つ目は、日本に供給されるエネルギー資源の値段をど 輸出ができるのかは、大きな問題だ。さらなる問題は、環 うやって下げるかだ。これは日本にとって、特に福島第1 境に及ぼす影響だ。アメリカを含め多くの国々が、シェー 原子力発電所の事故後すべての原子力発電所が停止されて ルガスの採掘による環境への甚大な影響を懸念している。 から、非常に深刻な問題になっていることを我々は明確に シェールガスはロシアにもあるが、今のところ喫緊の問題 認識している。しかし、ここで機械的な問題解決はあり得 ではない。なぜなら、天然ガスや石油等、より扱いやすく ない。長期契約が解決策の一つだと考える。長期契約ベー 有益な資源があるからである。また、石炭の埋蔵量も豊富 スなら、価格も相互にとって有利なものになりうる。 スポッ である。 ト市場の価格は安いこともあれば高いこともある。長期契 最後に、この会議の成功を祈念し、皆様の参加に感謝す 約は、日本がより満足のいく条件でエネルギーを手に入れ るとともに、新潟県・新潟市の今後の繁栄、ロシアおよび る保証となるであろう。また、日本からの技術への投資も 沿海地方との交流の発展を希望する。ロシア大使、大使館、 このプロセスを促進するであろう。 通商代表部は、今後の協力のためにあらゆるお手伝いをす 三つ目のテーマは、日本で活発に議論されている 「シェー るだろう。ヤーセネフ在新潟総領事も、ラチーポフ在大阪 ルガス革命」だ。世界のエネルギー産業に新たな要素が出 総領事も関心を持って、この会議に出席している。 来賓あいさつ 駐新潟ロシア連邦総領事館総領事 セルゲイ・ヤーセネフ この会議のテーマであるエネルギー協力は、日ロ経済交 するために活用することが非常に重要であると考えている。 流において非常に重要な問題である。新潟が、日ロ関係を 今日の会議のテーマの一つである環境協力について、少 新しい段階に進める可能性を模索し、広げようとしている し触れたい。環境問題、特に生活ゴミ・廃棄物の処理は現 ことを、我々は高く評価している。新潟は石油・ガスの加工、 在、喫緊の問題となってきている。地球をよりきれいにす 輸送の分野の経験をもっており、エネルギー分野での「自 る、あるいは少なくとも現状を維持することは、世界中の 然なパートナー」だと言えるだろう。そして、 いちばんのファ 課題であり、共通の義務だ。日本にいると、ロシア極東に クターは、ロシアにとって最も近い隣国、昔からの信頼でき も担える役割があることを実感する。しかも、ロシアには、 る友だということである。新潟は長い間、極東にとって「日 原子力発電所の事故処理も含め、環境問題に貢献できる優 本への玄関」であった。ロシア人がアエロフロートの飛行 秀な科学者たちがたくさんいる。そういう意味で、両国の 機に乗って日本に来て、いちばん最初に見るのが佐渡島、 研究者、環境運動家、学生の間の環境対話を拡大していく 新潟市、この会場であり、ロシア連邦総領事館のある朱鷺 ことは、有意義だと考えている。 メッセである。私は、ロシア極東と日本の日本海沿岸地域と 私ども在新潟ロシア連邦総領事館が、本日の会議に係る が非常に近いという地理的優位性を、エネルギー協力も含 イニシアチブのみならず、今後の新潟のあらゆる建設的な めた経済関係および両国のあらゆる交流をできる限り強化 イニシアチブをサポートすることを約束する。 5 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 基調講演① 外務省欧州局日露経済室長 石川誠己 本日は、日ロ両国間のエネルギー協力に向けた背景とい 注いでいきたいと考えているが、人口の減少が課題として う意味も込め、最近のロシアの経済情勢および日ロ経済関 指摘されている。1990年代に800万強あった人口が、625万 係の現状について話したい。 まで下がっている。 2012年のロシアの名目GDPは約2兆ドルで日本の3分 ロシアにとって非常に大きな課題である極東開発だが、 の1、一人当たりGDPが1万4千ドルとなっている。2000 2013年8月から9月にかけて、大きな変化が見られた。8 年以降、ロシア経済は大きく成長してきた。その原動力が 月31日、イシャーエフ極東発展大臣兼極東連邦管区大統領 原油価格の高騰と世界2位の石油・天然ガス生産であり、 全権代表が解任され、トルトネフ大統領補佐官が後任と 国家歳入の約半分は石油・ガスの採掘税や輸出関税となっ なった。ここで注目すべきは、トルトネフ全権代表は副首 ている。ロシア国民の賃金は過去10年で約10倍となり、貧 相を兼任しており、連邦管区全権代表のうち副首相のス 困層は半減した。 テータスを与えられているのは北コーカサスと極東だけで しかし、最近のロシア経済には停滞の兆しも見られる。 あることであり、いかに極東が重視されているかがうかが IMF Outlookによると、2013年の実質経済成長率が1.5%、 われる。極東発展大臣の後任には38歳のガルシュカ氏が任 来年が約3%となっている。こうした中で浮かび上がって 命された。民間ビジネスマンの手腕が期待されての人事と いる課題が、ロシアのエネルギー依存経済である。ロシア 言われている。 のGDPの推移を見ると、エネルギー価格の推移と連動し 9月には、極東に関する政府の委員会が二つ作られた。 ている。ロシア政府としても、資源依存経済からの脱却を メドベージェフ首相を議長とする社会経済発展に関する政 目指し、民間資本の流入、投資環境の改善、イノベーショ 府委員会、そしてドボルコビッチ副首相を議長とする極東 ンなど、経済の近代化に努めているが、ビジネス環境、腐 水利政府委員会である。メドベージェフ議長の政府委員会 敗認識などの面で依然として改善の余地があると指摘され の会合の後、地方発展省や経済発展省の極東に関する権限 ている。特に2008年のリーマンショック以降、現在まで、 を極東発展省に移していくという話もあり、極東発展省が 民間資本の流出が続いている。 これからどれだけ実質的な役割を果たしていくかが注目さ ロシアの輸出は、エネルギー資源の輸出に頼っている。 れる。 およそ3分の2が原油、石油製品、天然ガスとなっている。 また、貿易経済に関する日露政府間委員会のロシア側議 ロシアの貿易パートナーは中国が1位で、以下、欧州国が 長であり、極東マガダン州出身のシュワロフ第一副首相に 続き、日本が8位となっている。EUがロシアの貿易の約 ついても、 依然として重要なアクターとして注目している。 半分を占めている。欧州向け輸出は、西シベリア以西の石 油・天然ガスが太宗を占めてきたが、これからは西シベリ 安倍総理は日ロ関係をもっとも可能性に富んだ二国間関 アの天然ガスが減少し、石油も横ばいとなる。そこで注目 係の一つとして重視している。2013年4月の訪ロの後も、 されるのがヤマルの天然ガス、極東の天然ガス・石油であ 6月のG8サミット、9月のG20サミット、10月のAPEC首 る。欧州に輸入される天然ガスでロシアが占める割合は、 脳会合の機会に、半年余りで4回の日ロ首脳会談が行われ 2000年以降、非常に下がってきている。シェール革命の影 た。この間に、両首脳の個人的な信頼関係も確立されてき 響によりアメリカ、カタールから安価なLNGが入り、ロ ている。 シアは新たな販路として極東に目を向けていると言われて 11月初めには、ラブロフ外相、ショイグ国防省が訪日さ いる。 れ、それぞれの大臣会談に加え、外務・防衛閣僚による「2 ロシア政府としても、経済成長著しいアジア太平洋地域 +2」会合も開かれた。これは日本にとっては米、豪に次 の活力を取り込み、同地域に面する極東地域の発展に力を ぐ3カ国目、ロシアにとっても5カ国目であったと承知し 6 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH ており、こうしたハイポリティクスな「2+2」会合が行 いては現在、ガスプロムに限られている輸出枠がロスネフ われたことは非常に画期的なことだったと考えている。今 チ、 ノヴァテクなど他の企業にも与えられる可能性があり、 回の日ロ外相会談の結果、2014年1月末から2月初めに日 我々も注目している。 ロ次官級協議が、春には岸田外務大臣がロシアを訪問する 日ロ間では、省エネルギーについても有望な協力分野で ことが決まった。 あると考えている。ロシアでは、GDP単位で日本の7倍 経済面でも日ロ関係発展の機運が高まってきている。13 強のエネルギーが消費されているというデータもあり、ロ 年4月の総理訪ロの際には、30名の主要企業トップを含む シアでは省エネルギーの潜在性、その中での日ロ協力の潜 約120名の日本企業ミッションが同行した。8月には、官 在性が非常に高いと考えている。一例として、スマートシ 邸の下に関係省庁で構成される日露経済交流促進会議が設 ティ、ゴミ処理をしながらの発電、極東でのコジェネレー 置され、10月には坂根・小松製作所相談役が代表世話人と ション・プロジェクトなどがある。 なった日露交流促進官民連絡会議が設置された。 一昔前は、 最近の傾向として、エネルギーに限らず、協力の幅が広 ロシアとの経済交流というと外務省が関係省庁にお願いす がっている。医療、農業、都市開発など、新しい分野が出 ることがしばしばだったが、いまは関係省庁が非常に熱心 てきている。新潟市による沿海地方との農業協力の取り組 に取り組んでいることを実感している。 みもある。 さらに10月にはドボルコビッチ副首相が訪日され、ロシ 最後に、日ロ間の関係発展がいかに国益に資するかにつ ア経済近代化のための諮問会議が行われた。この際、企業 いて話したい。われわれの基本的な考え方として、まず、 の方々を交え、両国間で進められている具体的な経済案件 アジア太平洋地域の戦略環境が大きく変化する中で、日ロ について協議を行った。非常に実務的な会議であり、ドボ 関係を全体として高めていくこと自体が国益にかなうと考 ルコビッチ副首相からは、次回会合を来年ウラジオストク えている。それを強固にするためにも、平和条約の締結に で行いたい、という話もあり、ロシア政府が極東開発につ 向けて引き続き最大限の努力を行っていく。 いて日本との協力関係を重視していることがうかがわれた。 安全保障分野では、先般の「2+2」会合でもテロ・海 日ロ貿易は2012年で335億ドルであり、リーマンショッ 賊対処共同訓練の実施で一致したが、 海上安全保障、コミュ クによる落ち込みはあったが、過去10年間で約3倍に増え ニケーションの強化なども重要である。 た。ロシアに進出している日本企業も10年で倍増し、2011 エネルギーについては、ロシアからのエネルギー供給の 年時点で444社となっている。日本からロシアへの直接投 増大が我が国のエネルギー安全保障の強化にも資すると考 資もフロー、ストックとも近年、著しい伸びを示し、2012 えている。資源価格の高騰が言われているが、サハリンか 年はストックで2,360億円と過去5年で5倍、毎年のフロー らのLNGの価格は、日本にとって他の国からの輸入より でも大きな伸びを見せている。 も安価であるという話も聞いている。 日ロ間の貿易の内訳では、日本からロシアに対しては自 ロシアの大きな国内市場も日本にとって魅力的である。 動車が6割、ロシアから日本へは資源・エネルギー関係が 人口が1億を超え、一人当たりGDPが1万ドルを超えて 4分の3と、伝統的な分野が依然として重要な地位を占め いる国は、数多くない。ロシアには日本製品や日本文化を ている。日本はロシアから原油の5%を輸入し、LNGは 受け入れる土壌もある。日本企業にとって商機が訪れてい 2009年のサハリン2の生産開始以降増え、9.5%を輸入し る、と考えている。 ている。石油・天然ガスは、サハリンプロジェクトのみな さらに、シベリア鉄道、北極海航路などの協力も、一朝 らず、ウラジオストクのLNGプロジェクト、極東LNGプ 一夕に進むものではないが、今後の大きな可能性がある分 ロジェクト、ヤマルLNGプロジェクト、東シベリアでの 野として挙げられよう。 共同探鉱など種々あり、日本企業も何らかの形で関与して きている。詳しい話は他の報告に譲るが、特にLNGにつ 7 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 基調講演② ロシア連邦外務省第3アジア局露日経済交流部長 セルゲイ・マーリン 経済関係者のみならず、国際社会全体にとって、人類の までも両国の協力が積極的に推進されてきた分野である。 未来がアジア太平洋地域にあることは明らかである。ここ 年頭より日ロ企業の間で様々な大型プロジェクトに関する協 は、世界の発展の中心である。ロシア、特にシベリア・極 定が結ばれた。特に、ハイテクソリューションの適用、産業 東はアジア太平洋地域と不可分であり、この地域の発展は 協力の質的強化は、我が国の近代化の必要性に適っている。 国家規模の重要な優先課題となっている。我々は、東向き ここで、LNG工場の新規建設での協力プロジェクトに の地域統合の推進を重視し、それがロシアの対外経済政策、 触れたい。沿海地方ではガスプロムが極東ロシアガス事業 外交政策の優先目標であるとみなしている。2012年のウラ 調査株式会社(日本)とプロジェクトを実施する。そして、 ジオストクAPEC会議に始まり、特に2013年4月のモスク ヤマルLNGへの資本参加を三井物産、三菱商事が検討中 ワでの首脳会談以降、日ロ経済交流が今までにないスピー だ。今年4月に調印されたノバテクとの覚書にしたがい、 ドと規模で活性化していることは、大いにこの目的に適っ 日揮(JGC)がプロジェクト向けの機材・設備を供給する。 ている。言うまでもなく、このような協力の発展の受益者 さらに、ロスネフチはサハリンで二番目となるLNG工場 は両国の国民である。また、この分野のポテンシャルを開 の建設を進めており、日本企業にプロジェクトへの参画を くことが、互恵関係、「Win-Win」をベースとした協力関 呼びかけている。 このようなプロジェクトの始動によって、 係の構築に寄与する。このようなアプローチによって、両 今後、日本のロシア産天然ガスの輸入量がいっそう増えて 国の関係をさらに改善することができ、また、日ロの真の いくものと期待している。また、日本にロシアの天然ガス パートナーシップを築いていけると確信している。 が入ることによって、日本のエネルギー源の多様化、最終 さらに現在、貿易取引の明るい見通しや日本との投資協 的に日本のエネルギー安全保障全体の確保、この分野での 力の拡大が見受けられる。世界経済が厳しい状況に置かれ 互恵的協力の継続に貢献できるよう希望する。 ている中で、明るい兆しとなっている。2013年1~7月の これもハイテクプロジェクトに相当するが、ロスネフチと 日ロ貿易高は7.2%成長し、190億ドルに達した。最終的に 三井物産によるナホトカでの石油化学コンビナートの建設 2013年は、2012年の310億ドルを超える新記録を樹立でき がある。今年5月には、ロスネフチと国際石油開発帝石 るのではないかと期待している。また、ロシア経済に対す (INPEX)が、オホーツク海のマガダン2及びマガダン3の る主要な投資家としての日本の地位が強化されつつある。 両鉱区の共同開発について合意した。そして、ロシアのエ 投資額は累計ですでに100億ドルを超えた。 ネルゴテクニカ社と川崎重工業、双日による、ガスプロム 日ロ協力において複数の興味深いプロジェクトが現在、 のパイロットプラント向けのガスタービンの供給案件は、同 検討されている。2013年9月のG20サンクトペテルブルグ・ 分野での両国の協力の着実な発展を示すものである。また、 サミットの際の日ロ首脳会談で安倍首相がプーチン大統領 注目すべきは、ハバロフスク、サハリン、日本を結ぶエネ に提出したリストの中に、新しい分野での協力、特に日ロ ルギーブリッジの建設構想だ。このようなイノベーションプ 先端医療センターの建設(ガン治療)、エネルギー効率や ロジェクトの実施は、両国のエネルギー安全保障の確保に 環境等を踏まえた近代的都市環境の整備、農業協力があっ 貢献するだろう。日本側がこの件を具体的に検討する姿勢 た。従来の日ロ関係をより豊かにする新しい協力の波が起 を示していることを歓迎する。さらに、ロシアの建設分野 きていると言えるのではないか。このような関係の多様化 への投資における三菱重工業と双日の積極的な姿勢を歓迎 によって、原料に特化した伝統的なロシアの輸出品構成を したい。すでに2件目となるが、ボログダ州チェレポベツ 徐々に改善することが可能となる。 でのアンモニア工場の建設権の日本企業による落札に、お ロシア、特にシベリア・極東で積極的に投資を進める日 祝い申し上げたい。電力分野の協力の好例として、ロシア 本企業の熱意を歓迎する。電力、石油・ガス分野は、これ のEn+グループと日本の複数の商社の提携がある。特にこ 8 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH れは、シベリア・ロシア極東における発電所の新規建設へ 政府の「2020年までのロシア・エネルギー戦略」は、ロシ の投資や、鉱業、製造業、電力部門の合弁企業の設立である。 ア東部地域におけるパイプライン・システムの形成を定め 同時に、両国のエネルギー分野の関係がどんどん多様化 ている。これはアンガルスク-ナホトカ間石油パイプライ している。従来のエネルギー産業部門に加えて、日本企業 ン(年間輸出能力8,000万トン)とその大慶向け支線(3,000 はエネルギー効率向上、再生可能エネルギー源の分野での 万トン) 、東シベリアと極東の太平洋沿岸地域を結ぶガスパ 協力にはっきりと関心を示している。具体的には、 チェリャー イプラインで構成される。さらに、ロシア東部地域におけ ビンスクにおけるコジェネ技術の採用による最新型ゴミ処 る新しい石油・ガスの生産拠点の形成、既存のバイカル以 理場建設プロジェクト、カムチャツカでの風力発電所の建 西のパイプラインの延長となる統一ガスパイプラインの建 設、クラスノヤルスクでのいわゆるスマート・シティの建設 設、 原油・石油製品の輸出インフラの整備も見込まれている。 構想等がある。このような案件が実現することを期待する。 ここでは、純粋な原料だけを話題にしてはいない。LNG一 2013年6月のサンクトペテルブルグ国際経済フォーラム つとっても、我が国としては採掘した資源を国内で加工し、 の成果として、日ロ関係の新たな展望が開かれた。特に注 完成品・半製品を国外に輸出するシステムを構築する必要 目されるのは、ロシア・グリッド社(ロスセチ、電力系持 性から出発している。まずは、国内における最新の加工施 株会社)と日立製作所によって調印された、ブリヤート等 設の形成に、ぜひとも、日本企業に参加していただきたい。 ロシアの地方の電力インフラの近代化における技術協力協 北海道の例に倣って、沿海地方の同業者との農業協力を 定だ。また、ルスギドロ社、東部電力系統社と川崎重工業 進めていきたいという新潟の農業関係者の意向を我々はよ が、世界に例のないプロジェクトになる液化水素プラント く承知している。また、新潟は膨大な発電能力と発達した の建設で協力する。 エネルギーインフラを有し、この分野の地方レベルの協力 いま、ロシアはいろいろなイニシアチブを取っているが、 の発展には大きな魅力と将来性がある。我が国は、炭化水 特に、APECのエネルギー作業部会(EWG)で検討され 素資源および電力の採掘・加工・輸送(パイプライン等) ている北東アジアのエネルギー系統を統合する可能性を検 での互恵的パートナーシップを発展させることによって、 討するイニシアチブ、いわゆる「アジア・エネルギーリン 日本のエネルギー安全保障に寄与する用意がある。サハリ グ」への日本の参加を歓迎する。 ンとのエネルギーブリッジやロシア極東のガス化、ロシア 総括すると、シベリア・極東で進行中、あるいは実施予 の火力発電所の近代化・設備更新などのプロジェクトは、 定のエネルギー分野のプロジェクトは、道程の始まりでし 環境分野における時代の要請や「京都議定書」の精神に応 かない。未活用のポテンシャルは莫大だ。ロシアの総資源 え、電力分野の先端技術の導入に対応するだけではない。 量における当 該 地 域 の 貢 献 度 は、石 炭45 %、天 然 ガ ス 日本の仲間たちに呼び掛けている投資協力において、それ 30%、石油18%、水資源80%超と評価されている。また、 らは望ましく、必要かつ有益な分野だと確信している。 基調講演③ 日ロ石油・ガス協力のネクスト・フェーズ 資源エネルギー庁石油天然ガス課長 南亮 今日は、日ロ協力の現状、日本のエネルギー事情、これ 本の石油依存は中東に偏っている。このような中で、日本 らを踏まえてロシアとどのように石油・ガス協力を進めて に地理的に非常に近いロシアから供給されていることは、 いきたいかについて、話をしたい。 日本にとって心強いものになっている。LNGは中東依存 ロシアは、日本の石油輸入量全体の5%、ガスで10%を 度が低くなっているが、オーストラリア、カタール、マレー 占めている。石油輸入先はサウジアラビア、UAE、カター シアに比べて、ロシアは日本に近いメリットがある。日本 ル、クウェート、イランと、いずれも中東の国であり、日 の電力会社、ガス会社の話を聞いても、デリバリーを頼ん 9 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH でから日本の基地に届くまでの期間が短く、ビジネス上の アが初めて共同で行う大きな石油プロジェクトである。 メリットがあるということである。 日本とロシアの関係は、ここにきて実際の成果が現れて ロシアから日本を見ると、石油の日本への輸出は2.2%、 いる。日本のロシアからの石油輸入は、2006年まではほと ガスが5.6%と、これまでヨーロッパ中心にやってきたロ んどなかった。しかし、 サハリン1、 サハリン2のプロジェ シアの中で、まだまだ増加することができるのではないか クトが立ち上がり、東シベリア太平洋(ESPO)パイプラ と思っている。 インが完成したことで、確実にロシアからの輸入が増加し 日本とロシアのエネルギー協力プロジェクトについて ている。LNG輸入は、2008年まではまったくなかったが、 は、サハリン1の石油プロジェクト、サハリン2の石油・ サハリン2プロジェクトが立ち上がり、現在は約10%をロ ガスプロジェクトを第1ステージとし、これから第2ス シアから輸入している。こうした流れを活かして、ウラジ テージとして多くのプロジェクトを実現に向けて進めてい オストクLNGプロジェクト、極東LNGプロジェクト、ヤ きたい。中でも、ウラジオストクLNGプロジェクトは、 マルLNGプロジェクトを中心に、さらにプロジェクトを ロシアのガスをアジア太平洋に供給する基地として、日本 進めていきたい。 にとっても重要なプロジェクトであり、ガスプロムと一緒 他方、ロシアの方々にも理解していただきたい日本のエ に進めている。加えて、極東LNGプロジェクトもアジア ネルギー事情がある。日本のLNG輸入の負担が非常に大き へのLNG供給を可能にする重要なプロジェクトである。 くなっていることである。東日本大震災が起きて、原子力 また、マガダン2・3の石油プロジェクトは、日本とロシ 発電所が止まり、原子力の代わりにLNGや石油で電力を作 10 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH り始めたため、 その燃料の負担が非常に高くなってしまった。 費に転嫁することが認められていたが、これを改め、安価 東日本大震災を境に、日本の電力構成が大きく変化して なLNGを基準に電力費を査定しようというもので、今年 いる。震災前の2010年は、原子力発電の割合が32%あり、 から導入している。第三に、石炭火力の再評価がある。石 ガス、石炭、石油といった化石燃料の割合は60%だった。 炭火力は環境面で問題があるが、経済的には優れている。 それが2013年8月時点では、原子力発電が2%(2基)と 第四に、新潟とともに行なっていく部分も多いが、国内資 いう状況になっている。その分、日本が何を増やしたかと 源としてメタンハイドレートの開発を進めていこうとして いうと、一つはLNGであり、もともと32%だったものが、 いる。 現在は半分近くまで増加している。次に増加したのが石油 供給面の対策としては、まずアメリカからのLNGの輸 で、5%だったが、13%になっている。LNG火力も、石 入を進めていきたい。昨年ぐらいまでは、LNGの輸入が 油火力も、コストはほとんど燃料費であり、その負担が非 実現するのか疑問視する声もあったが、今年の5月以降、 常に増加した。 アメリカ政府から次々と輸出許可が出ており、直近では先 LNGの輸入量は2010年に約7千万トンだったものが、 週の金曜日(11月15日)に約200万トンの天然ガスの輸出 2013年は約9千万トンになることが予想され、 2千万トン、 許可が出たところである。2017年頃から、アメリカから日 約30%の増加となる。量だけでなく、値段も上がっており、 本へのLNGの輸入が始まるのは間違いないと思っている。 二重に負担が増加している。日本のLNGの輸入価格は2010 第二は、アメリカに限らず、その他の地域からのLNG輸 年でおよそ10ドルだったものが、現時点では15ドルで、単 入であり、ロシアからの輸入もしっかり進めていきたい。 価が約50%上がっている。量が50%、単価が50%増加して しかし、現在のLNGの状況を見ると、アメリカ、カナダ、 いるのである。2010年から2012年にかけて、LNGは3.5兆 ロシア、モザンビーク、オーストラリアなど、売り手の方 円から6兆円へと、2.5兆円の負担増となり、石油は約 が多く、 競争的な価格、 競争的な条件で日本への輸出を図っ 3兆円、石炭は2千億円の負担増となった。石油製品を含 ていただくことが大切になる。ロシアとの交渉はこれから めた化石燃料全体で約7兆円の負担が増加した。 本格化していくであろうし、日本の状況をよく理解して対 化石燃料の負担増も大きな要因として、 わが国は2011年、 応していただければ、ロシアと日本のガス協力も深まって 31年ぶりに貿易赤字に転じ、2012年は約5兆円、2012年度 いくのではないかと思っている。 では約8兆円の貿易赤字を記録した。わが国は基本的に貿 最後に、新潟ということもあり、メタンハイドレートに 易黒字を計上してきた国なので、貿易赤字がこれほど大き ついて説明したい。日本も現在、国内資源としてメタンハ く計上されるのは非常にショックであり、これを減らして イドレートの研究開発を行っている。メタンハイドレート いくことが政府としての課題となっている。 は日本海側と太平洋側の両方にあり、どちらも楽しみなエ 我々としても日本の燃料費負担、LNG負担を減らさな ネルギーである。日本海側にある表層型メタンハイドレー ければならず、いくつかの対策をとっている。需要面の対 トは、今年から県や市のご協力を得て、探査を行っている 策としては、一つは原子力発電所の安全性を確認し、それ が、存在する可能性のある構造が上越沖、能登沖に225カ を動かせないか、ということである。すでに安全性審査が 所見つかっている。太平洋側にある砂層型メタンハイド 始まっており、日本にある50基の原子力発電所のうち、現 レートは、13年3月に生産試験を行い、早期に商業化を図 在14基について再稼働の申請が出ている。第二に、LNG るべく対応している。米国からのシェールガスに比べ、若 を安く入手することである。電力会社やガス会社の買い手 干時間がかかるかもしれないが、日本にも国内資源がある が安いガスを購入しようとするモチベーションを持つこと ことをロシアの方々にも理解していただき、これからの協 が大切で、燃料費の査定方法を変え、トップランナー方式 力を進めていただきたい。 を採用している。以前は、購入した燃料費をそのまま燃料 11 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 基調講演④ 日ロ協力に向かうロシア東方エネルギー政策-過去、現在そして未来への視線 ロシア科学アカデミーシベリア支部エネルギーシステム研究所副所長 ボリス・サネーエフ アジア太平洋エネルギー研究センター主任研究員 ドミトリー・ソコロフ 新しい経済環境下におけるロシア経済の発展の特徴は、 350億kWh、2020~2025年に600億~700億kWhにできる これまでに採用された経済政策やエネルギー政策の優先事 かどうか、検討されている。 項を見直す必要性を呼び起こした。ロシアの国益は、ロシ ロシアにとっては、熟慮されて科学的裏付けのある北東 アと日本、韓国、中国、その他北東アジア諸国との互恵的 アジア諸国との経済・エネルギー協力の戦略が不可欠だ。 エネルギー協力の活性化を必要としている。「ロシアエネ 莫大な経済ポテンシャルとエネルギーポテンシャルを有す ルギー政策の東向きベクトル」と呼ばれるロシアのエネル る国内東部地域、つまり東シベリア及び極東は、このよう ギー産業の発展の優先的方針は次の通りである。 に戦略上重要な圏域においてロシアの国益を実現する前進 ・国内の東部地域における新しいエネルギー拠点の形成は、 基地である。 ロシアのエネルギー安全保障の向上、壊れてしまった地 域間の燃料・エネルギー協力の復活と強化、連邦・地域間・ 日ロ共同研究は、ロシアの東方エネルギー政策の形成、 地方レベルの数多くの重要課題の解決を促進する。 ロシアと北東アジア諸国のエネルギー協力の本質、方向性、 ・ロシア東部地域及び北東アジアにおける発達したエネル 問題の理解に大きく貢献した。 ギーインフラ(国家間を結ぶガス・石油パイプライン、 ロシアと北東アジア諸国のエネルギー協力の問題提起に 送電線)の形成は、エネルギー価格の引き下げを可能に おける最初の作業は1993~1995年、ロシア連邦エネルギー省 し、様々な国々の需要家への電力・燃料供給の確実性を と日本の通商産業省との協定にしたがって、ロシア科学アカ 高め、環境問題の解決を容易にする。 デミーエネルギー研究所(モスクワ) 、ロシア科学アカデミー ロシアの「エネルギー政策の東向きベクトル」は経済政 シベリア支部シベリアエネルギー研究所(現エネルギーシス 策の一部であり、最終目標ではなく、本質的に重要な連邦・ テム研究所、 イルクーツク) 、 日本のエネルギー経済研究所(東 地域間・地方レベルの多くの課題を処理する手段である。 京)が、日ロ企業の積極的な関与と財政援助で実施した調 21世紀最初の25年間で、ロシア東部地域では、基幹石油・ 査であった。すなわち、日ロプロジェクト「ロシアのエネル ガスパイプライン、輸出用石油・ガスパイプライン、送電 ギー資源のアジア太平洋諸国への輸出を視野に入れた東シ 線の形で、他に類のない運輸・エネルギーインフラが形成 ベリアと極東のエネルギー発展マスタープラン」である。 され、その結果、ロシアに運輸・エネルギーの統一圏域が 活動の中で、ロシア東部地域のエネルギー産業、原油・ 形成されるであろう。 天然ガス・石炭・電力の北東アジア諸国への輸出の発展を 現在、ロシアのエネルギー政策の東向きベクトルの物的 左右する32の投資案件が検討された。この日ロプロジェク 基盤は、北東アジア諸国をターゲットとするいくつかの大 トの主要な成果を以下にまとめる。 型燃料・エネルギープロジェクトの判断基準となっている。 ① 国内需要の充足と余剰炭化水素の北東アジア市場への ・ 「中国その他のアジア太平洋諸国へのガス輸出を考慮し 輸出を目的とした東シベリア及び極東の石油およびガ た東シベリア及び極東における統一ガス生産・輸送・供 ス資源の開発は、ロシア東部地域の社会経済発展、北 給システム構築計画」がロシア連邦政府によって実行さ 東アジアのエネルギー安全保障の確保にとっての戦略 れている。同プログラムは、2015年以降のロシア産天然 的優先事項である。 ガスの輸出量が500億立方メートルになるとしている。 ② ロシア東部地域における石油・ガスパイプライン網、 ・ 「東シベリア・太平洋」石油パイプラインの建設(ESPO 輸出向け石油・ガスパイプラインの形成の原則的な図 プロジェクト)が終了しつつある。 式が提案された。ロシア東部地域におけるガスパイプ ・中国に対する年間電力輸出量を2015~2020年に300億~ ライン網および輸出用ガスパイプラインを形成する図 12 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 式が、ロシアの研究組織「ロスアジアガス」と日本の ③ 将来の発展や経済リスク、国家プロジェクトの見通し アジアパイプライン研究会の共同研究の枠内でさらに がほとんど立たない状況においては特に、国家間の大 検討された。 型エネルギープロジェクトの実行によって両国、地域、 ③ 日本市場にとって魅力的で有望な炭鉱、ロシアの電力 エネルギー会社が得られる成果について、総合的、体 を日本、中国等の北東アジア諸国へ輸出するための電 系的評価が行われるべきである。 源の候補が示された。 ④ 相互が容認できる国家間エネルギープロジェクトのメ ④ 北東アジアエネルギー協力の強化で提案されている事 カニズム(組織、経済、法律、その他のメカニズム) 業の実行メカニズムへの提言が行われた。 が策定されるべきである。 1993年以降、日本経済界に対して有望なプロジェクトが ⑤ 国家間プロジェクトは(事業化調査、設計・デザイン 提案されるようになった。北東アジアのエネルギー協力と 作業から実行に至るまでの全段階で)国際チームに エネルギー安全保障の諸問題の研究の調整に係る重要な仕 よって策定され、実施されるべきである。 事を担っているのがERINA、アジアパイプライン研究会、 学術的裏付けのある北東アジアのエネルギー協力を策定 アジア太平洋エネルギー研究センター等である。 する必要性が十分に高まっている。そこでは、燃料・エネ 日本の社会、経済界はロシア東部地域のエネルギー産業 ルギー資源開発の手順、それらの国内外の需要家への供給 の現状と見通しに関して十分な情報を得ており、ロシアと の手順・段階が示され、企業のみならず地域、国が得られ のエネルギー協力の強化に関心を持っている。しかし、ロ る社会・経済的成果が評価されなければならない。政府及 シア東部地域のエネルギー産業における日本の経済界のプ び地方行政機関の積極的な支援のもと、関係諸国の学術研 レゼンスは、彼らが自覚しているよりもはるかに小さい。 究機関、設計者、企業、銀行等の国際協力をベースにして その中で、イルクーツク州およびサハ共和国(ヤクーチア) のみ、このような戦略を策定することができる。 のガス・石油市場に進出するための日本のJOGMECの積 北東アジアのエネルギー協力の主な輪郭は明確になって 極的な活動について指摘できるのは喜ばしい。 いる。エネルギー資源供給国の供給基盤は詳しく調査して ある。したがって、 国家間の大型燃料・エネルギープロジェ エネルギー分野での互恵的協力には、次の5つの条件が クトの実行に係る経済メカニズム、法律、その他のイニシ 揃っていなければならない。 アチブを考慮し、参加者(国、地域、企業)が足並みのそ ① 政策的意思、両国にとって互恵的で具体的なエネル ろった行動をとるためのメカニズムにいっそう注目するこ ギープロジェクトを推進するという参加者らの意向の とが必要だ。特に、燃料・エネルギー製品の価格形成方式 真剣さが、発揮されるべきである。 が重視されるべきである。 ② 国家間のエネルギープロジェクトをまとめる際に、両 日ロの研究機関、エネルギー関連企業は、両国にとって 国の中央・地方の行政機関及び経済界の経済政策とエ 重要な問題の解決に寄与するため、この方向で活動を活性 ネルギー政策のすり合わせがなされるべきである。 化させなければならない。 基調講演⑤ シェール革命とエネルギー安全保障 日本エネルギー経済研究所特別顧問 前国際エネルギー機関(IEA)事務局長 田中伸男 私は以前、国際エネルギー機関(IEA)の事務局長であっ として残るにはどうしたらいいか、グローバルな観点から たことから、シェール革命にも大きな関心を持って見てき 考えてみたい。 た。きょうは日ロ関係の議論が続いているが、シェール革 IEAは毎年、World Energy Outlookを出している。IEA 命やエネルギー情勢の変化の中で、日ロそれぞれが勝ち組 がつくられた1970年代には、OECD先進国でほとんどのエ 13 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH ネルギーが消費されていたが、最近は半分になり、今後は いく中でも、ロシアはやはり重要なガスの輸出国である。 ますます途上国や中国、インド、中東、ASEANなどアジ 西側のヨーロッパに向けてパイプラインを伸ばしてきたロ アの国でエネルギーが消費されていく。そのとき、いかに シアのエネルギー政策も、東シベリア・極東の開発を通じ 競争的にエネルギーが流れていくかというフレームワーク て、東側にパイプラインを伸ばしていく時代になっていく を考えなければならない。エネルギー源としては再生エネ だろう。大きな需要国である中国との関係では、ロシアが ルギー、原子力なども伸びていくが、やはり大半は化石燃 いつごろ価格ディールできるのかも重要なポイントであ 料である。これを途上国などが奪い合う中で、供給国、そ る。日本もLNGプロジェクトを進めているが、当然なが して日本はどうしていくのか、というエネルギー・セキュ らパイプラインの可能性も重要な戦略的な決断となろう。 リティを考える必要がある。 こうした中で、どのくらいの値段でガスを買えるだろう そこでIEAが注目したのは、北米におけるシェール革命 か。シェール革命の前までは、ヨーロッパも日本もアメリ である。在来型の石油は減っていくが、非在来型の石油 カも同じような価格トレンドにあったが、シェール革命が (light tight oil)の生産が増えており、ガスについても同 始まってからは、日本はアメリカの5倍、ヨーロッパはア じことが言える。アメリカがガス、石油の両方の生産で世 メリカの3倍ほど高い価格でLNGを買っている。IEAで研 界1位になるということは、どういうインパクトを持つだ 究したところ、ガスと一緒に出てくる液体部分、コンデン ろうか。アメリカはガスの輸出国になり、石油の輸入を大 セートと言ったりナチュラルガスリキッドと言ったりする きく減らし、貿易収支を改善し、圧倒的な勝者となり、一 が、それが多いほど価格が安く済み、石油の値段が高くな 人勝ちとなってしまうのである。 ればなるほど、ガスの値段は安くなってくるという状態が 日本はフクシマ以降、原子力がまったく動いていない危 シェール革命によって生まれた。日本は高い石油にリンク 機的な状況を短期的に起こしており、中長期的にも競争力 してガスを買っているが、このフォーミュラを変えること で大きなマイナスとなることが心配される。 は時代の流れになっている。スポット価格で買うかどうか アメリカが中東からエネルギー面で自立することは、大 は別にして、アジアや日本が経済成長を続けていくための きなインパクトを持ち得る。中東の安全、特にホルムズ海 前提として、またガスの供給国にとっても、相互利益の観 峡の自由通行についてアメリカがコミットし続けるかどう 点から新しいプライスフォーミュラが必要である。アメリ かは深刻な問題となる。中国やインドにとってもそうだが、 カはLNGの輸出を進め、たぶん10ドル前後で日本にも出 日本にとっていかにシーレーン防衛をしていくかは他人ご してくるであろうし、これが価格を変える大きなきっかけ とではない。中国はパイプラインによりエネルギー安全保 になるであろう。これから原子力が再稼働し、アメリカの 障を図ろうとしているが、石油の85%、ガスの20%がそこ LNGが安く加わってくることによって、日本のLNG価格 を通過する日本は、もしイラン危機が起これば大変なこと も大きく下がっていくことは間違いない。 になる。原子力を再稼働していくことは、やはり重要なエ メタンハイドレートは、アメリカのシェールガスのリ ネルギー安全保障上のポイントであると思う。 ザーブの100倍もあるという。これをいかに地上に上げて シェール革命によってガスの供給国が多様化されるのは いくか、技術開発を日本が進めていくことは極めて重要な 消費国にとって結構なことだが、貿易ルートが多様化して 戦略である。 14 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 水素については、千代田化工や川崎重工がいかに安く水 自然エネルギーが足りない国は原子力で補完している。 素として運んでくるか研究している。日本は、LNGとし ヨーロッパではいろいろな国がさまざまなポートフォリオ てはアメリカの倍の値段で買わざるを得ないので、水素と を持っていて、互いにそれをつないで、化石燃料、再生エ しての価値を付けて買うのは大いにあり得る技術革新であ ネルギー、原子力のバランスを取っている。互いにパイプ ろう。 ラインをつなぎ、グリッドをつなぎ、一つのエネルギー市 これからはガスを電力にして使う時代である。いろいろ 場、いわば集団的安全保障を目指しているのがヨーロッパ な国が、いろいろな電力投資をしていかなければならない である。アジア、なかんずく北東アジアでも、そのような が、先進国はやはり再生可能エネルギーに大きく依存して モデルができないだろうか。ドイツが原発をやめられるの いくであろう。しかし、再生エネルギーは値段が高い。固 も、フランスから電気を買い、ポーランドから石炭で作っ 定価格買い取り制度によってすでに1兆ドル近いお金がコ た電気を買ってくればいいわけであるが、日本は、そう簡 ミットされている。さらに2.6兆ドルが補助金としてかかり、 単にはいかない。ヨーロッパは北アフリカのガスや風力、 バイオ燃料の補助金もかかる。日本もこれから再生エネル 太陽光の電気を買おうとしている。多様なパイプラインを ギーを使い、コスト高な電力構成になるのはやむを得ない 作ろうとしているし、LNG基地も作っている。 状況である。また、東西が50ヘルツと60ヘルツに分かれて 北東アジアでは、日本、ロシア、モンゴル、中国、韓国 いるグリッドの問題もある。IEA は2035年までに各国の家 が中心となって「北東アジアガス・パイプラインフォーラ 庭の電力料金に大きな差がついてしまうという予測をして ム」を作り、 平田賢先生が活躍されて青写真ができている。 いる。原発や安いガスを買ってくることが、日本の産業競 中国ではトルクメニスタンからタリム盆地を経て上海に至 争力にとってもいかに重要かということがよく分かる。 るパイプラインが整備されたが、残念ながら日本は国内の 中国を中心に原子力が使われていくが、この技術を日本 パイプラインもきちんとできていない。外国との間は、相 がいかに維持していくか、フクシマの教訓を各国とシェア 変わらず点線状態である。 この点線をいかに実線にするか、 していくことも重要であるし、第4世代の原子炉の開発も サハリンからのアイデアや、ウラジオストクから新潟をつ やっていかなければならない。 なぐ800キロのアイデアもある。800キロという距離はパイ エネルギー・セキュリティを高める課題は、diversity(多 プラインを敷いて互いに儲かる距離である。2,000キロを 様性)、そしてconnectivity(連結性)である。つまり隣の 超えないならLNGよりパイプラインの方が良いというの 国とネットワークを作っていくことであり、それでうまく は経験則であり、互いの国益にかなうものではないか。ロ 行かないときは原子力で補完することになる。化石燃料、 シアにとって日本はもっとも安定的な消費国のはずであ る。パイプラインを使うことによって、よりその価値を高 めるというメリットがあるのではないだろうか。 アジアのスーパーグリッドについて孫正義氏がよく取り 上げているが、私もセチン副首相から「日本はどうしてロ シアの水力でできた電気を買わないのか」と言われたこと がある。そういうアイデアも十分にあり得るだろう。しか し、二カ国間ではなく、北東アジアでいかに集団的エネル ギー安全保障を考えるのか、その中で日本とロシアがどの ようなリーダーシップを取っていけるのかを考えることが 極めて重要である。日ロ間の個別プロジェクトだけに任せ るのではなく、どのような絵を描いていくのが東アジアの 安定に役立つのかを考えていくのが良いだろうと思う。 15 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 基調講演⑥ ウラジオストクLNG-アジア太平洋の新エネルギー源 ガスプロム東方プロジェクト調整局長 ヴィクトル・チモシーロフ (代読)ガスプロム東方プロジェクト調整局チーフスペシャリスト アレクサンドル・カルミーチェク ガスプロムは世界最大の天然ガスの生産・供給企業であ が決定した。工場建設用地として、沿海地方ハサン地区ア る。当社は2012年、約4,870億立方メートルのガスを生産し、 ムール湾南部(ペレボズナヤ小湾)西岸のロモノソフ半島 2,030億立方メートル超を輸出した。当社の絶対的なメリッ の土地が確保された。 ト・長所は、完全なトップダウン型組織、長年にわたる外 この種の他プロジェクトに対して、「ウラジオストク 国パートナーとの仕事の経験、大量の長期契約、有利な地 LNG」プロジェクトには複数の競争上のメリットがある。 理的位置、資源埋蔵量である。 まず、同プロジェクトには、長期的なガスの安定供給を保 世界経済のグローバル化のプロセスは、世界の天然ガス 障する本格的な原料供給源がある。LNG工場の初期の二 市場に直接的な影響を及ぼしている。ガスプロムはこの流 つのライン向けの原料供給源となるのが、サハリン3(キ れに適時に対応するよう努め、天然ガスの採掘・輸送・加 リンスキー鉱区、南キリンスキー鉱区)のガスだ。 工分野の新技術・最新技術を積極的に導入している。 次に、同プロジェクトには地理的メリットがある。日本 現在、サハリン2のLNGの供給および輸出は世界市場 海側の日本の大型港までの距離は700マイル超、新潟まで 全体の5%を占めている。しかし、当社のミレル社長が表 はわずか450マイルである。2~3日以内にLNGタンカー 明したように、会社の戦略的目標は世界の天然ガス市場に は日本南岸および他のアジア諸国の大型港に到達すること おけるシェアを2030年までに12~15%にまで拡大すること ができる。重要なのは、LNGタンカーが需要家に直接、 である。 向かうことだ。ここには、第三者に管理される海峡のよう ガスプロムは、日本との協力の発展を大いに重視してい な「弱点」はない。 る。日本は世界最大のLNG輸入国であり、ロシアの東部 「ウラジオストクLNG」プロジェクトは、ロシア連邦及 国境から非常に近い位置にある。ガスプロムは2007年にサ び日本国の政府の支持を得ている。それは、2012年6月に ハリン2の事業主体となり、工場の設計生産能力を超え、 サンクトペテルブルクで、ロシア連邦エネルギー省と日本 約100億立方メートルの液化ガスを生産した。目下、LNG の経済産業省が調印した覚書によって確立された。その後、 は10カ国に輸出されており、日本は当社の主要な取引相手 2012年9月にはウラジオストクでガスプロムのアレクセ である。 イ・ミレル社長と日本の資源エネルギー庁の高原一郎長官 2007年、「中国その他のアジア太平洋諸国へのガス輸出 が、「ウラジオストクLNG」プロジェクトに関する覚書に を考慮した東シベリア及び極東における統一ガス生産・輸 署名した。「ウラジオストクLNG」プロジェクトの実施に 送・供給システム構築計画(東方ガス・プログラム)」が おける協力に向けた相互努力のもう一つの裏付けとなった 承認された。このプログラムは、アジア太平洋諸国をター のが、2013年6月、サンクトペテルブルグにおける、 「極 ゲットとするロシア産天然ガスの新しい輸出拠点の東シベ 東ロシアガス事業調査株式会社」 (日本)とのLNGプロジェ リア・極東における形成を見込んでいる。この方針での優 クトに関する相互理解に関する覚書の調印である。この覚 先プロジェクトの一つがウラジオストク市周辺に液化天然 書は、プロジェクトの実現に向けた共同事業会社の設立の ガス工場をつくる事業である。 可能性、さらに日本での共同マーケティング活動を見込ん ガスプロムと極東ロシアガス事業調査株式会社(日本) でいる。我々の共通の目標は、2018年までにLNGの生産 によって、LNG工場建設プロジェクトの共同事業化調査 とウラジオストクから日本をはじめとする東アジア諸国市 が実施された。2013年2月、ガスプロム経営陣によって 「ウ 場へのLNGの輸出に着手することだ。 ラジオストク市周辺におけるLNG工場建設への投資審査」 2013年10月22日、ウラジオストク市のルースキー島で、 が検討、承認され、プロジェクトを投資の段階に移すこと 日本の潜在的パートナーおよびLNGの買手向けに「ウラ 16 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH ジオストクLNG」プロジェクトの説明会が開かれた。説 者候補との接触が続けられている。ガスプロムはプロジェ 明会には日本の大手ガス会社、電力会社が出席した。ガス クト実現の道を自信を持って進んでおり、すでにLNG工 プロムは、ウラジオストクLNGプロジェクトの実現を、 場の設計も始まった。日ロ両国の国民の幸福のために、ガ 日本との多角的協力の発展の重要方針とみなしている。現 スプロムと日本企業の相互努力によって同プロジェクトが 在、LNGの有望な買手との交渉、プロジェクトへの参画 成功裏に実現されることを確信している。 17 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH Session A ガス・石油 Session Aでは、近年ロシアから日本への供給が増えつ している。受け入れたLNGは、発電燃料とする以外に一 つあり、今後も両国間のエネルギー協力にとって重要な役 般産業向けにもタンクローリにより供給している。 割を果たすことが期待される石油及びガスをテーマとし 国際石油開発帝石の塚田邦治氏は、同社がロシアで推進 た。ロシア側から2名、日本側から5名の発表があり、そ している石油・天然ガス開発プロジェクトの紹介を行った。 の後質疑応答を行った。以下、順次発言の要点を紹介する。 同社は、世界28カ国で79プロジェクトを展開している。 沿海地方行政府のニコライ・ロブイギン氏は、石油・ガ CIS地域において同社は、日量65万バレルを産出するACG スの利用に関わる問題に重点を置きつつ、地域の電力事情 油田、2013年9月に生産を開始したカシャガン油田に参画 について説明を行った。沿海地方はエネルギー自給ができ している。ロシアでは、ザパドノ・ヤラクチンスキー鉱区 ず、外部からのエネルギー移入に頼っている。同地方では 及びボルシェチルスキー鉱区での探鉱作業に参画してい 現在、 「ボストーチナヤ発電所」(13.95万kW)が建設中で る。また、2013年5月には、オホーツク海のマガダン2、 あるほか、ウラジオストク第二熱併給発電所など複数の火 マガダン3鉱区での探鉱に関して、ロシア国営石油会社の 力発電所の改修計画やリプレース計画がある。また、沿海 ロスネフチと協力協定を締結した。将来的には、北極海に 地方行政府は、遠隔集落のディーゼル発電機を再生可能エ も可能性があると考えている。 ネルギーを利用した発電設備に転換するプログラムを推進 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の本村 している。 真澄氏は、多国間パイプラインの意義について論じた。同 極東エネルギー産業発展戦略センターのイーゴリ・スベ 氏によれば、特に米国においては、マッキンダーの地政学 トロフ氏の報告は、アレクサンドル・グリコフ氏が代読し の類推で、パイプラインは資源国が消費国を支配する手段 た。同氏は、ロシア極東地域における天然ガスへの燃料転 であるとの見方がされている。これに対して同氏は、パイ 換にあたっての日ロ協力について発表した。極東における プラインによる供給では、需要側・供給側双方の利得が重 地域熱供給や地域的な電力供給にはガスタービンコージェ 要であり、パイプラインは「互恵的・双務的」な性質を有 ネレーションが有効である。また、年間生産量20~100万 すると主張した。また、供給国側による一方的な供給途絶 トン、輸送距離1,000kmを想定したミニLNGも検討されて という政治的圧力があった場合には、需要国側は他燃料へ いる。このほか、沿海地方行政府はガス自動車の活用につ のシフトという形で対抗が可能である。2006年以降のロシ いて検討を始めており、当センターも協力している。日本 アから欧州向けのパイプラインガスの価格は、同時期の日 には、これらに関連して様々な技術があり、協力の可能性 韓のLNG輸入価格より概ね2割程度安かった。日本の将 を探っていきたいとのことであった。 来のエネルギー供給を考える上では、これらの事実を考慮 東北電力の小村尚志氏は、東日本大震災後の電力供給の する必要があろう。 状況、特徴などについて報告を行った。原子力発電が停止 新日鉄住金エンジニアリングの青山伸昭氏は、近年の世 している中、LNG発電所を含む火力発電所による発電が 界の天然ガス市場に起こりつつある変化について述べた。 増加している。同社では、今後、他買主との共同調達や、 同氏は、米国でのシェールガスの登場などにより、供給源 北米シェールガスの導入を図り、燃料費低減に努める方針 の多様化が進んでいることなどを強調した。その結果、天 である。同氏は、豊富な資源量を持ち地理的にも日本に近 然ガス市場は、売り手市場から買い手市場に変化した。こ いロシアが、シェールガスによるマーケット変化を受けた うした中で重要なのは、価格競争力と安定供給である。ウ 日本買主の動きも考慮に入れながら、日本のLNG供給に ラジオストクから新潟、あるいはサハリンから日本への輸 これまで以上に重要な役割を果たしていくことに期待を表 送を考えた場合、LNGよりもパイプラインの方がコスト 明した。 が安く、 日本にとってもロシアにとってもメリットがある。 中部電力の佐藤俊久氏は、同社の発電所の中で唯一日本 結果的に両国の協力関係にも資する。 海側に立地する上越火力発電所の紹介を行った。同発電所 これらの発表の後、ウラジオストク~新潟のパイプライ の総出力は238万kWで、熱効率は58%以上の世界最高水 ン建設の可能性などを含め、パイプライン整備に関して、 準を目指している。上越火力発電所におけるLNG調達実 質疑応答、意見交換が行われた。その中では、天然ガス受 績は2011年の17万トンから増加してきており、2013年に け入れ拠点としての新潟の重要性が強調された。 130万トン、2014年以降は年間188万トン程度の調達を計画 (ERINA調査研究部主任研究員 新井洋史) 18 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 報告① 沿海地方の電力政策-有望発展分野 沿海地方行政府電力・石油ガス・石炭産業局長 ニコライ・ロヴイギン 本セッションは、石油・ガスがテーマであるが、電力産 ④2015年までの間の発電電源を決める要素は、相対的な経 業はこれらの燃料と密接な関係があるので、電力を中心と 済的指標、燃料調達条件、電力需要の特徴(規模、構造)、 した内容の発表とさせていただきたい。 環境・社会要素である。 ⑤2015~2020年については、電力産業全体の効率性に基づ まず、極東連邦管区の電力分野が抱える問題点を紹介し き判断される。 たい。 ⑥2021~3030年については、2030年までのエネルギー戦略 ・発電設備、送電網が老朽化、陳腐化している。(80%以 上の発電設備が耐用年数超過。1,600MW(20%)のター に示された目標数値に基づき判断される。 ビン機関、7,400トン/時(21%)の蒸気生成ボイラー 極東連邦管区に導入される新規発電出力、熱供給出力は、 が要交換。61%の送電網、70%の蒸気輸送配管の供用期 それぞれ394万kW及び4,386Gcal/hである。これにより、 間が20年以上で、これらのネットワークの減耗率は70% 廃止設備の代替、安定・安全な電力供給及び将来的な電力・ を越えており、早急な交換が必要。) 熱需要の充足を図ることとしている。 ・大規模発電所から主要需要地への距離が離れている状況 沿海地方のエネルギー事情の特徴は、電力、ボイラー燃 にありながら、送電網が不十分である。 料及び自動車燃料のいずれも不足していることである。沿 ・ネットワーク上での電力及び熱の大幅な損失がある。 海地方の電力需要の20%以上、消費石炭の40%近く、及び ・現行の電力・熱料金制度では、主要生産設備の修繕や再 暖房用重油の全てが域外からの移入である。沿海地方内の 建費用はもとより、経常経費を賄うことができない。 遠隔地集落の一部では、非経済的な老朽化したディーゼル ・発電コストの70%を燃料費が占めている。 発電機による電力供給がなされている。全体として、沿海 極東地域の発電能力の増強戦略を策定するにあたっての 地方はエネルギー安全保障の観点からみて、不首尾の部類 優先課題は次の通りである。 に分類される。 ①主要設備の稼働年数を考慮しつつ、既存設備の交換を進 不首尾の部類から脱却するため沿海地方では2025年まで める必要がある。 に古い非効率な設備を廃棄し、再建もしくは新設により代 ②現行の要求に適合しない非効率な設備を交換、 撤去する。 替することが計画されている。その一環として、現在「中 ③移入量も考慮しつつ、電力・熱の予測需要を充足する。 央蒸気ボイラー」 ( 「ボストーチナヤ」火力発電所)の敷地 現在は、以下の作業が進められている。 において、出力14万kW及び420Gcal/hを持つガスタービ ①残存稼働年数を専門家が評価し、それが5年未満の場合、 ン熱併給火力発電所の建設が進んでいる。また、ウラジオ 慎重に利用しつつ更新に向けた準備を進めるための適切 ストクの「第2熱併給発電所」でも再建事業が進んでおり、 な対策をとる。5年~10年の場合は、信頼性及び効率性 2018年までにはガスタービン設備を、2021年には2系列の を向上させる対策を採用する。その際、5年以内に資金 複合ガスタービン設備を導入する予定で、完成後は非効率 回収が可能な低コスト対策とする。 な設備が廃止される。「沿海地域発電所」では、2025年ま ②電力が不足している地域の火力発電所では、新規発電施 でに第1~第4ブロックが廃止され、同時に第10、第11ブ 設の整備、老朽設備の解体、廃止設備の新規設備への交 ロックが新設される。さらに、アルチョム市において既存 換という順に作業を行う。 熱併給発電所の代替としての新規発電所計画、ウスリース 「30年以上稼働してい ③交換の必要性を判断する要素は、 ク市での新規熱併給発電所の建設計画がある。ウスリース ること」及び「2回以上稼働期間の延長を図ったこと」 ク市の発電所は沿海地方南部の電力事情改善のために必要 である。 なものである。 19 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH これらの事業の実現により、次のような社会経済的な効 上、大気汚染物質の排出削減が挙げられる。 果が期待できる。まず、電力会社にとっては、廃止設備の 沿海地方内の28地区、約1万5千人の住民は電力系統に 代替、将来的な電力・熱需要の充足、燃料費の低減、建設 接続されていない。これらの地域では老朽化したディーゼ 済施設の減価償却を活用した投資資金確保が可能となる。 ル発電機による発電が行われている。いくつかの地区では 次に、住民の立場から見ると、極東に居住する650万人の 設備の減耗率が80%を超えている。2013年9月9日、沿海 快適な生活環境創出、新規就業機会創出、雇用水準の向上 地方行政府とRAO東部電力系統は、地方住民に対する電 と人口流出の縮小、電力・熱供給の質・安定性の向上が実 力供給に再生可能エネルギーを活用することに関する協力 現される。国家の立場では、極東連邦管区での電力系統の 協定に調印した。 安定的・持続的な運用、地域の鉱工業のさらなる発展のた 天然ガスが利用できるようになったことで、高効率ガス めの環境整備、各レベルの財政への追加的な税源確保が実 タービンエンジンやガスピストンエンジンによるコジェネ 現する。 レーション技術を地域熱供給システムに活用する可能性が 次に、火力以外の電力について述べたい。「株式会社 開かれた。 RAO東部電力系統」の発電出力増強計画により、 電力輸出、 最後に、極東及び沿海地方の電力政策及び今後の電力発 再生可能エネルギー事業の拡大、コジェネレーション技術 展の取り組みの基本的考え方を述べたい。 の活用が進むだろう。電力輸出の拡大については、中国側 ①極東連邦管区の発展は、国家の短期的重点課題であり、 にも関心がある場合には、追加供給を可能とするような発 そこでの電力部門の発展は鉱工業生産発展の基盤である。 電設備の増強がなされるだろう。また、将来的には、日本 ②廃止予定の非効率発電施設の代替、将来需要の充足のた 向けの電力ブリッジも検討されよう。同社では、電力輸出 め、新規発電所建設が必要である。 量は200~400万kWになるとみている。投資総額は57億ド ③極東の電力産業をさらに発展させ、また進行中のプロ ルと試算されている。 ジェクトを効率的に推進していくためには、有望事業への 同社は、再生可能エネルギー活用にも精力的に取り組ん 国家資金の導入や電力インフラ整備主体に対する優遇措置 でいる。最も活発に取り組まれているのは、 サハ共和国 (ヤ の供与など国家レベルでの政策が必要である。 クーチア)である。最大のものは、バガタイ市に建設して ④極東地域の特徴は、伝統的な電源に加えて、風力や太陽 いる4,000kWの太陽光発電所で、2015年に運転開始する。 光をはじめとする再生可能エネルギーの開発を進めるのに 極東での再生可能エネルギープロジェクトの効果として 適している。 は、燃料費の節減(2016年で10億ルーブル、2020年で20億 ⑤中長期的なアジア太平洋地域の国々との電力分野の協力 ルーブル)、ディーゼル発電にかかる内部補助問題の部分 として、中国や日本への「電力ブリッジ」の整備や電力輸 的解決、電力料金上昇の鈍化、電力供給の安定性・質の向 出がなされるだろう。 報告② 日本メーカー参加によるロシア極東連邦管区における燃料のガス転換の有望分野 極東エネルギー産業発展戦略センター所長 イーゴリ・スベトロフ (代読)極東連邦大学石油ガス研究所所長 アレクサンドル・グリコフ 極東地域の自然・気候環境は非常に厳しい。極東連邦管 いる。極東のボイラーにおける主な燃料は、石炭(65%)、 区住民のかなり部分が小都市や集落に居住しているのに対 石油(19%)である。天然ガスは7%、薪は6%利用され し、主な発電・熱供給施設は大都市に集中立地している。 ている。その他のボイラーでは、複数の燃料を組み合わせ また、極東の大部分の小都市等における熱供給は工場や小 たり電力を利用したりしている。サハリンには地熱ボイ 規模な温水ボイラーによっている。極東には4,915の暖房 ラーが1基ある。 ボイラーがあるが、そのうち60%は減耗率が50%を超えて 極東の多くの地域では、独立電源による電力供給が行わ 20 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH れている。こうした電源として、987のディーゼル発電所 家庭向け、地域企業向け、企業向けのガス供給やガス自動 (180万kW)がある。ディーゼル発電所の平均稼働年数は 車燃料供給にも利用できる。 10年を超えており、平均減耗率は約70%であり、減耗率 天然ガスを自動車燃料として利用する動きは80カ国以上 50%を超える設備は70%を超える。極東のエネルギー供給 で精力的に進められている。圧縮天然ガス(CNG)やLPG は早急な近代化を必要としている。 を自動車に利用する際の課題は、ガス充てん所や車両改造 東方ガスプログラムでは、極東地域内のヤクーチア、カ 工場が不足していることである。CNGは、主に行政や大 ムチャツカ、サハリンにガス生産センターを構築すること 規模企業、旅客・貨物運送業、建機、農機などで利用され になっている。統合ガス輸送システム(パイプライン網) ている。LPGは主に個人が利用している。現在、ガス状燃 ができることで、サハリン州、アムール州、ユダヤ自治州、 料も含む車両への燃料補給は、2013年5月29日付政府決定 ハバロフスク地方及び沿海地方のガス需要を満たすことが 459号で規定されている。極東の各州政府においては、 可能になる。ガス幹線パイプライン建設と共に、地域経済 LPGや天然ガスを公共交通の燃料として利用することを推 全体、公益サービスにおける広範な「ガス化(ガスへの燃 進する作業が活発に進められている。沿海地方行政府は、 料転換)」が進められることになっている。ヤクーチア、 域内でのガス充てん所ネットワーク整備プログラムの策定 アムール州、サハリン州、ユダヤ自治州、ハバロフスク地 及び実施作業に着手しており、当センターもこれに参加し 方、沿海地方のボイラーのかなりの部分が計画中や建設中、 ている。 稼働中の幹線ガスパイプライン沿線にあるほか、ヤクーチ 化学(触媒利用)転換によりメタンを液化するGTL技 アでは開発中のガス田や域内ガスパイプラインにも近いた 術で生産される液体燃料は発電や輸送用に利用できる。ミ め、ガスへの転換が可能である。 ニGTLの設計がなされ、実験プラント、商業プラントの 相当の燃料節約や電力・熱の生産コストの低減を可能に 試験もなされている。ロシアでは、今のところGTL技術 するためには、既存のエネルギー供給システムの技術的転 はメタノール生産に利用されているのみである。新日鉄、 換が必要である。例えば、既設のガスボイラーを、熱効率 JOGMECを含む日本企業グループは経済産業省の支援を 80~85%の最新のコジェネレーション技術に置き換えてい 得て、2011年までに商業生産に適用できるGTL技術を開 くなどである。極東では、ガスタービンコジェネレーショ 発した。各社は、中小ガス田の開発にこの技術を活用した ン設備が、自治体の熱供給や地域的な電力供給の問題解決 いと考えている。日揮と大阪ガスは共同で合成ガス生産の に有効である。 新技術(AATG)を開発した。三菱ガス化学は三菱重工 我々は200kW ~7,500kWクラスの中小規模ガスタービ 業と共同開発したメタノール生産の新技術を持っている。 ン製品の詳細な検討を行った。このクラスの製品は、ロシ 三菱ガス化学と日揮が共同開発したDME生産技術は、同 アでは生産されておらず、米国のOPRA、キャタピラ、日 社が開発した高効率のメタノール脱水触媒を利用した 本の川崎重工業、IHI、新潟原動機の製品がある。価格と DME生産の新しい手法である。東洋エンジニアリングの 品質の両面を検討すると、極東においてコジェネレーショ GTL生産設備は広く活用されている。 ン設備の部材、自動装備、補助装置などを組み立てる可能 以上の話をまとめると次のようになる。 性がある日本製品が望ましい。 ①極東の遠隔居住地のガス化や電力・熱供給を経済的に進 ハバロフスク地方行政府は、地域のボイラーやディーゼ めていくためには、大都市とは本質的に異なるアプロー ル発電所を液化天然ガス(LNG)に転換する計画を策定 チが必要である。 ②全ての地域暖房ボイラーをミニ火力発電所によって置き した。LNGは、ニコラエフスク・ナ・アムールに建設す る液化工場で生産する。 換えることが可能である。 仮に熱効率が同じであっても、 小規模LNGの場合、年間生産量は20万~100万トン、供 熱の輸送にかかる運転コストを引き下げることができる 給距離は1,000km以下を想定している。日本には先端技術 からである。 を持つ企業として、極東ロシアガス事業調査、伊藤忠、千 ③極東には、自動車や農業機械のガス燃料への転換を大規 代田化工、三井、三菱、日立、カグラベーパーテックなど 模に進める条件が整っている。その際には、各地に自動 がある。ロシアでは、比較的小規模なLNG生産の意義が 車用ガス充填所のネットワークが構築される。 ④日本の技術を基礎として、各地の特性に対応させつつ高 高まっている。パイプライン網によるガス供給が経済的に 効率の天然ガス液化施設を整備する。 困難な地域においては、近い将来、小規模LNGが設置さ ⑤小 規模LNG生産施設を建設し、自動車(ローリー)で れることが期待される。小規模施設で生産されるLNGは、 21 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 輸送することで、高価なディーゼル燃料を代替すること ウラジオストクは新潟の対岸にある。新潟は、日本国内に ができ、エネルギー供給費用を引き下げることができる。 おける石油・ガス生産の中心地であり、大陸棚でガスの採 ⑥コ ジェネレーションの利用により、LNG利用効率を30 掘も行われている。沿海地方にも石油資源があるので、日 ~40%引き上げることができる。 本の企業、さらにできれば新潟県庁とともに沿海地方にお ⑦極 東の条件に合わせた小規模発電・給熱、ミニLNG・ ける共同探鉱作業を行うことを提案したい。埋蔵量は確か GTL工場の導入や適合、近代化などに関する技術開発 に小さいが、新潟近郊の小規模油・ガス田も地域の財政に が必要である。 は大きく貢献していると理解している。以前、新潟県の代 ⑧日本が持つ省エネルギー、高効率技術の分野での日露技 表団とお会いした際には、2カ所の油田(いずれも埋蔵量 5,000万トン以下)での協力可能性を検討することを提案 術協力やビジネスの可能性を共同で検討する。 した。もちろん中央政府レベルでの調整など障壁があるだ 以上がスベトロフ氏が用意した報告であるが、この場を ろうが、だからこそ知事レベルに上げて検討することが実 借りて、極東大学石油ガス研究所が行っていることを紹介 現への道だと考える。ナホトカ近郊には石油化学工場建設 したい。ロシア政府は、東シベリア・太平洋パイプライン 計画があるが、新潟では化学工業が発達していると聞いて (ESPO)から100kmの範囲で油田探査を行うことを認め いる。石油化学工場は、単に資源の採掘・輸送という以上 ている。沿海地方には石油の堆積層があると見込まれてい に付加価値を高めることにつながる。まずは検討すること る。現行法では5,000万トン以下の埋蔵量の油田について からでもいいので、一緒に始めることを提案したい。 は、当該地方に開発に関する権限がある。地図を見ると、 報告③ LNG調達の現状と展望 東北電力株式会社火力原子力本部燃料部副部長 小村尚志 当社は東北6県に新潟県を含めた7県(日本国土の約2 作業にあたってきた結果、順次稼動を再開している。この 割)に電力を供給しており、全国的にみると電力量の約9% 震災および水害への対応に伴う設備投資額は、震災発生か を占めている。東日本大震災のあった2011年度の販売電力 ら平成27年度までの実績・計画累計額で2,464億円に上った。 量は 753億kWhまで低下した。2012年度の販売電力量は 当社が購入したLNGは新潟東港にある日本海エル・エヌ・ 778億kWhとなり回復基調に転じたものの、被災前の水準 ジー株式会社のLNG基地で受け入れている。このLNG基 に戻るまでには、かなりの時間を要するものと考えている。 地では、1983年の第1船受入れ以来、本年3月31日の受入 次に、供給面だが,当社は太平洋側沿岸と日本海側沿岸 れをもってLNG累計受入量1億トンを達成し、9月末時 に発電所を有しており、発電設備能力は合計で約1,500万 点で1,811隻、約1億202万トンのLNGを受け入れている。 KWである。また、この他200カ所を超える水力発電所が 現在、 タンク8基で総容量72万キロリットルを擁しており、 ある。加えて、容量は大きくはないが、太陽光発電設備や LNGの需要増加やLNGソースの多様化への対応が可能と 風力発電からの電力購入など再生可能エネルギーも活用し なっている。また、現在太平洋側の宮城県にある新仙台火 ている。 力では、2016年度の運転開始を目指し、ガスコンバインド 2011年の東日本大震災により、太平洋側の発電所が重大 サイクル化のためリプレース工事を進めており、併せて な被害を受け、特に石炭火力である原町火力発電所の被災 LNG受入設備を建設中である。これにより当社のLNG受 状況は甚大であった。また、同年7月には新潟、福島両県 入基地は2カ所になり、さらに安定供給に寄与するものと を襲った豪雨により水力発電所29カ所が被災した。 その後、 考えている。 多くの関係者の方々に協力をいただき、全力をあげて復旧 電源構成では、震災以降、ガスおよび石油の比率が上昇 22 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH している。これは原子力の停止に伴い、老朽ガス・石油火 の新たな価格体系を導入し、LNG価格の多様化を図るべ 力を含む火力発電の稼働率が高まっていることによるもの く、具体的な協議・検討を進めている。 で、結果として燃料費が大幅に増加している。こうしたな 次に、サハリン2プロジェクトについて述べたい。当社 か、安定供給の観点からは火力発電所の修繕費抑制には限 のサハリン2プロジェクトとの長期契約の契約期間は2010 界があることから、今後、電力の安定供給を維持しながら 年度から20年間で、契約数量は年間約42万トンである。本 如何にコスト削減を進めていくかが大きな課題となってい プロジェクトはFOB契約であり、LNG船は東京電力殿と る。 共同使用している。サハリン2プロジェクトは、ロシアに 当社のLNG調達量は、年度によって増減はあるものの、 おいて最初のLNGプロジェクトであり、ロシアが極東ア これまで年間約300万トンを長期契約により調達してきた。 ジア向けに天然ガス供給を行った最初のプロジェクトでも 震災の影響により、大幅な追加調達が急務となり、今もそ ある。サハリン島を含めロシアでは新たな天然ガス開発案 の状況は続いている。現在、中国、韓国、東南アジアさら 件もあるが、東アフリカやその他の供給ソースとの比較で にはスポット需要も堅調な中、原子力停止中の日本は,非 競争力が発揮できるならば、ロシアとのさらなる関係発展 常に厳しく不利な交渉環境にある。 につながる可能性や期待が大きくなるものと考える。 震災以降、年間200万トン近い追加調達を進めてきたが、 最後に、今後のLNG調達の課題を整理してみたい。震 可能な限り低廉なLNGを調達すべく努力を続けている。 災後の日本のLNGの調達に求められる条件は、基本的な ここ数年の当社のLNG価格は、全体としては、全日本CIF 「安定性」に加え、世界的に見て日本のLNG価格が高いと と遜色のないレベルと評価しているが、今後、他買主との される中で競争力のある価格、すなわち「経済性」を確保 共同調達や、北米シェールガスの導入を図り、更なる燃料 していくこと、そしてLNG需要の不透明性に対応するた 費低減に努めていく。国別LNG購入比率では、供給力の めの「弾力性」を確保していくことだと考える。震災以降 あるカタールの比率が増加していると同時に、アルジェリ LNG調達量が増加している中、原子力の再稼動などが不 ア、ナイジェリアをはじめとするアフリカや、南米など、 透明な状況下で、この三本柱を確保するためのひとつの考 幅広いLNG生産国から追加調達を進めている。 え方は「多様化」である。特にシェールガスをめぐるLNG 当社は、豪州ウィートストーンプロジェクトからのLNG マーケットの環境変化を受けて、価格の多様化の重要性が 購入に関して、本年10月に売買契約を締結した。今後、本 増してきている。豊富な資源量を持ち、地理的にも日本に 件を足掛かりとして、他社との調達協力関係を拡大し、低 近いロシアが、シェールガスによるマーケット変化を受け 廉なLNG調達に繋げていきたいと考えている。 た日本買主の動きも考慮に入れながら、日本のLNG供給 現在、北米シェールガスが大きな話題となっており、多 にこれまで以上に重要な役割を果たされていくことを期待 くの日本企業が参画している。当社も天然ガス価格リンク している。 報告④ 中部電力上越火力発電所 中部電力株式会社上越火力発電所副所長 佐藤俊久 中部電力は国内販売電力量の約15%を販売している。今 上越火力発電所は、ガスタービン発電設備と蒸気タービ 回紹介する上越火力発電所は当社の供給エリア外の日本海 ン発電設備を組み合わせたコンバインドサイクル発電設備 側に位置している。中部電力の発電所は太平洋側に集中し となっている。ガスタービン発電機2基の運転により発生 ているため、地震等の災害対策、送電系統の安定化、燃料 する高温の排気ガスを蒸気発生器に導き、発生させた蒸気 供給ルートの多様化という点で大変期待されている発電所 で蒸気タービン発電機により発電を行うものである。ガス である。 タービン2基と蒸気タービン1基を組合わせた設備を4ブ 23 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH ロック設置する計画で、総出力は238万kWとなる。熱効 設備は現在試運転を行っており、完工は2013年11月下旬を 率は58%以上の世界最高水準を目指している。燃料は液化 予定している。 天然ガスで設備利用率は70%程度を見込んでいる。 当社ではLNGを、カタール、ロシア(サハリン) 、イン 発電所建設は、まず併設する液化天然ガスターミナルの ドネシア及びオーストラリアの、主に4つのルートから調 工事から始め、2007年3月に着工した。2011年10月には、 達している。ロシア(サハリン2、プリゴロドノエ港)か タンカーによるLNGの初受入れを済ませ、2012年7月に ら直江津港までの距離は1,500kmと、他の調達地と比較し 1ブロック目の営業運転を開始した。現在、引き続き2ブ て近く、輸送日数が3日間で短いという利点がある。 ロック目、3ブロック目が営業運転を開始しており、2014 当社のLNG輸入量は近年1,000万トンを超え、昨年は1,428 年5月には総合運開する予定である。 万トンを輸入しており、東京電力に次ぐ輸入量となってい ガスタービンは、GE社製の1,300℃級改良型ガスタービ る。上越火力発電所におけるLNG調達実績は2011年の17 ンであり、排熱回収ボイラーは、高圧系統還流型の排熱回 万トンから増加してきており、2013年に130万トン、2014 収三重圧形を採用している。蒸気タービンは、入口蒸気温 年以降は年間188万トン程度の調達を計画している。 度566℃を採用し、高効率化を図っている。 受け入れたLNGについては、発電所ガスタービン燃料 LNGタンクは、防液堤とタンクを一体化したPC防液堤 のほか、発電所内にタンクローリにより出荷する設備を設 外槽一体型を採用しており、18万kLタンクを3基有して 置し、 一般産業向けにも供給している。弊社は2001年より、 いる。上越火力発電所LNG設備と国際石油開発帝石株式 重油などから環境負荷の低いLNGへと燃料転換する一般 会社直江津LNG基地との間では、主として緊急時を想定 産業向けに天然ガス/液化天然ガスを販売する事業を行っ したLNG相互受入およびLNG融通を目的として、LNG基 ており、これらの販売実績は2011年には67万トンまで拡大 地連系設備が設置される。一方のLNG桟橋から他方のタ している。2011年より上越火力をLNG出荷の拠点の一つ ンクへ受入を行うLNG連絡管と、一方のタンクから他方 に加えた。今後、顧客のニーズに的確に応えることでこの のタンクへLNG移送を行うタンク連絡管を主に設置し、 販売事業の拡大を図っていきたい。 LNGの受入および移送が相互に可能な設備である。連系 報告⑤ ロシアにおけるINPEXの活動 国際石油開発帝石株式会社(INPEX)ユーラシア・中東事業本部ジェネラルマネージャー 塚田邦治 本日は、まず当社の概要の紹介をしたい。また、ロシア ストラリアのイクシスガス田を開発しており、2016年末の を含むCIS地域の中での活動を紹介する。その後、ロシア、 生産開始を目指している。その他、インドネシアのチモー 特に東シベリアでの現在の活動、また近い将来にオホーツ ル海にある「アバディ」や、アブダビを中心とした中東、 ク海北部で行われるプロジェクトを説明する。 さらにアフリカ方面にも力を注いでいる。 初めに、わが社は28カ国で事業を行う上流専業の石油会 2012年に当社が策定した中長期ビジョンでは、生産力の 社である。日量約40万バレルの生産量があり、また確認埋 向上、国内のガスサプライチェーンの強化、再生可能エネ 蔵量・推定埋蔵量合わせて40億バレルほどあり、ともに国 ルギーへの積極的な取り組みの三つを柱とし、重点的に取 内最大である。世界的にみると、当社は中堅の真ん中あた り組むことを明確化した。このことにより、今後5年間に りに位置している。アジア、オセアニアを中心に活動して 探鉱への投資3,000億円を含めた3兆5,000億円の投資を検 おり、この地域で生産量の半分以上を占めている。この地 討している。 域では、ガス生産が全体の9割以上を占め、日本をはじめ このビジョンでは、ユーラシア、CIS地域の開発も視野 東南アジア諸地域にLNGとして輸出している。現在はオー に入れている。その中でも、 ACG油田(アゼルバイジャン) 24 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 図 やカシャガン油田に次ぐ開発先として注目しているのがロ ロジェクトを進めていく中で、これらの課題を解決できる シア地域である。当社は今年、初めてロシアでのE&P 可能性などを見極めていきたいと考えている。 (Exploration & Production)事業に直接参加した。今後 2013年5月にロスネフチとの間で、オホーツク海北部の も直接的な投資を、状況を判断しながら徐々に行っていく。 マガダン2、マガダン3の探鉱に関する協力協定を締結し 具体的には東シベリアでのザパドノヤラクチンスキー鉱区 た。協定により、 参入に向けての独占交渉権を得た。現在、 (ZY)及びボリシェチルスキー鉱区(BT)の開発、オホー 最終合意の締結に向けて、双方で協議を行っているところ ツク海でのマガダン2、3などが挙げられる(図) 。 である。この鉱区は、マガダン市から南に50km ~150km ZY及びBTでは、JASSOC(日本南サハ石油株式会社) 離れた、水深100~200mの大陸棚にある。隣の鉱区では、 とロシアのイルクーツク石油とが「INKザパド」という合 既にスタトオイルがロスネフチと最終合意書を締結して作 弁会社を設立して、2009年以降探鉱事業を行っている。鉱 業を開始している。これらの鉱区は、古第三紀時代に堆積 区の位置はイルクーツク市の北方約700kmであり、面積は が始まったリフト型の堆積盆地であるマガダン海盆に位置 8,000平方キロメートル以上ある。東シベリアの中で多く している。炭化水素を形成するに十分な堆積量があり、ポ の巨大石油・ガス田が集中する「ネパ・ボツオバ地域」と テンシャルが高い。ソ連時代にいくつかの井戸が掘削され いう地質的な高まりがある地域の一番南西に位置してい ているが、いずれも目的を果たせずに終わっている。基本 る。1億バレルの可採量を持つヤラクタ油田に隣接してい 的に未探鉱といえるような処女地であり、今後の発見が期 る。この鉱区では2009年以降、INKとJOGMECが精力的 待される。最終合意書締結後は、オペレーションを行う合 に探鉱を行った結果、既に3カ所の石油の胚胎が確認され 弁会社を設立する。当社が33.33%、ロスネフチが66.67% ている。2013年9月に、当社と伊藤忠商事がこの鉱区に参 を出資して、この鉱区を操業していくことになっている。 加した。現在は、民間が日本側のイニシアチブをとってプ このプロジェクト自体にも期待を持って注力していくが、 ロジェクトを進めていこうとしているところである。この 同時にこのプロジェクトを通じてロスネフチとの関係を深 プロジェクトは、先カンブリア紀及びカンブリア紀といっ め、ロシアという大きな石油ガス埋蔵量を持つ国での資源 た地質時代(約6~5億年前)にできた世界最古の油・ガ ビジネスを発展させていきたい。具体的な果実を得て、中 ス層での探鉱プロジェクトである。低温、低圧力、低生産 長期目標の実現につなげたい。 性といった技術的な難しさがあり、これらをいかに克服す 中長期目標よりもさらに先の遠い将来には、ポテンシャ るかが最大の課題である。今回、ロシアの企業と一緒にプ ルのさらに高い北極域にもつなげていきたい。 25 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 報告⑥ 多国間パイプラインと日本 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)調査部担当審議役 本村真澄 . マッキンダーの地政学では、大陸の中心にあるハート 具体的にソ連から欧州へのパイプラインが建設された歴 ランドが外側にあるリムランドに強い影響力を与えるもの 史を見てみたい。1969年10月に、西ドイツのブラント政権 と考える。特に、19世紀後半に登場した鉄道技術によって、 が、東方外交、緊張緩和を政策の基本にすえた。続く11月 ハートランドがリムランドに対して非常に強い立場になり には、ソ連との間で大口径管輸出と天然ガス輸入で合意し うるという議論である。マッキンダーが示した地図では、 た。そして同年12月には、イタリアも追随した。これに基 ロシアの版図がハートランドと重なる形になっている。 づき、 西シベリアからの「北光(Northern Light )」とオー ユーラシア大陸の石油、天然ガスのパイプライン地図に ストリアから西ドイツに向けての「Transgas」という2 マッキンダーの議論を援用して、ロシアが周辺国に強い影 本のパイプラインの建設が行われた。ソ連は、1973年に西 響力を及ぼしているという議論がなされることがよくあ ドイツへ、翌1974年にはイタリアに天然ガス輸出を開始し る。支配の手段としてのパイプラインという受け止め方に た。1970年と2002年の欧州のパイプラインの発達状況を比 なる。パイプラインは資源国が消費国を支配する手段とい べてみると(図1)、ソ連・ロシア、更にアルジェリアか う見方であり、これは特に米国において顕著である。しか らの幹線パイプラインが、域内網の発達と相まって欧州の し、より専門的なパイプライン地政学の議論ではこの逆を エネルギー事情の安定に寄与したと言える。この間、欧州 主張する。需要側が大規模なガス輸入を確約することは、 ではエネルギー危機というべき事態は全く起こっていない。 エネルギーの安全保障を供給側に委ねるが、これにより供 ところがこの最初のパイプラインができて7年後の1981 給側も安定的な利益が約束される。すなわち、需要側・供 年、レーガン政権のリチャード・パール国防次官補は、議 給側にとっては双方の利得が重要なことから、パイプライ 会証言で「欧州がソ連産ガスに依存するのはその影響下に ンは一方的なものではなく「互恵的・双務的」な性質を有 入ることで、危機にあってはその政治目的のために供給途 する、という議論が主流となっている。 絶を受ける」と発言した。同年12月、米国は対ソ石油機材 図1 欧州での天然ガスパイプライン網の発達(1970年と2002年) 26 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 輸出停止に踏み切った。「武器」としてのパイプラインと 図2 韓国におけるガスパイプライン網 いうのが米国の終始一貫した認識である。しかしながら現 実には、1991年のソ連崩壊時も通常通り天然ガス供給が続 いた。大きな政治の変化とは全く関係なく、経済的な利益 を優先したものである。欧州向けパイプラインは約40年間、 安定的に操業され、ソ連、欧州ともに利益をもたらした。 パイプラインにおいてはマッキンダー流の支配・被支配関 係はなく、地域の「安定装置」として機能している。 更に加えて、パイプラインには「相互確証抑制」という 機能がある。天然ガスは他の燃料との間の「燃料間競争」 の下で供給される。供給国側による一方的な供給途絶とい う政治的圧力があった場合には、需要国側は他燃料へのシ フトという形で対抗が可能である。これ故、供給国の需要 国に対する一方的で破滅的な行動は自制的に回避されると いう機能が働く。こうした考え方を表した 「相互確証抑制」 という言葉は、核戦略における「相互確証破壊」からの造 語である。消費国側には「Take or Pay」条項による買取 り義務がある一方、供給国側は収入源の維持のために安定 日本でも国内縦貫パイプラインの構想が何度も出されて 供給を志向する。この双務性により、破滅的な闘争は自制 いる。これにより、日本におけるガス需要増加に対応可能 的に回避されると考えるのが、この考え方である。 である。また、分散型発電に有利なインフラ整備となる。 ロシアの極東・東シベリアには、サハリンセンター、ヤ 国際パイプラインとの連結によって、エネルギー安全保障 クーチアセンター、イルクーツクセンター及びクラスノヤ 上有利なインフラでもある。なお、ロシアからの供給途絶 ルスクセンターという4つの豊富なガス埋蔵地域が分布し が言われることもあるが、先述の通り相互確証抑制が働く ている。 ため、実際にはあり得ないと言ってよい。 韓国が最初のLNGを輸入したのは1986年である。1995 日本のLNG輸入は震災を機に大きく増加した。2010年 年の政策において、LNGだけではなくパイプラインでの から2012年の間に25%増加した。LNG輸入が経済的負担 輸入の実現も政策の柱においた。これに基づき国内ガスパ になっていることは間違いない。2006年から2012年までの イプライン網整備を進めてきており、国内のほとんどの地 日本、韓国のLNG輸入価格とロシアから欧州へのパイプ 域がパイプライン網でカバーされている(図2)。当初は ライン天然ガス輸入価格の推移を比べてみると、時期にも 2006年にもパイプライン輸入を実現したいとのことだった よるが後者は平均2割程度安い。 が、若干遅れている。幹線パイプラインは2,755kmにも達 日本の将来のエネルギー供給を考える上で、このような している。 事実が大きな教訓を持っているものと考える。 報告⑦ 日本及びアジアの天然ガス市場の多様化 新日鉄住金エンジニアリング株式会社戦略企画センター海外事業企画部長、常務執行役員 青山伸昭 本日の報告では3点お伝えしたい。1点目は、日本及び 化しつつあるということであり、「多様化」が今後のキー 世界の天然ガス市場がシェールガス革命を契機に大きく変 ワードとなる。2点目は、この市場では価格競争力と安定 27 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 供給力が重要となるという点である。3点目が最も強調し 図 たい点だが、日ロ間で考えた場合、価格競争力という点で はLNGよりパイプラインの方がはるかに有利だというこ とである。 今後、既存のガス供給源に加えて、北米シェールガスや アラスカ、アフリカ、豪州といった地域からの天然ガス供 給増が見込まれる。アジア市場はこれまでどちらかという と売り手市場だったが、今後買い手市場に変わっていく可 能性が大きくなりつつある。恐らく2017年以降にそうなる だろう。 供給源の増加に加えて、最近では価格決定メカニズムが 従来の石油価格連動の価格から、ヘンリーハブ価格に基づ くLNG価格やヨーロッパの指標価格であるNBP価格、さ らにはこれらを組み合わせた価格に換わりつつある。契約 も、従来の長期契約から、今後はスポット契約や仕向け先 を柔軟に変更できる契約が増えていくだろうと考えられ る。以上のように、今後市場の構造が変わっていく可能性 がある。 一方、需要側でも高効率タービンの開発やコジェネレー へのコストを試算してみたところ、パイプラインの方がコ ションの普及によって、需要管理が進んでいく。再生可能 スト的には圧倒的に安いという結果となった。これを供給 エネルギーの開発も進んでいくと考えられる。 国であるロシアの立場で見ると、アメリカからのシェール このように、市場参加者の増加、市場構造の変化が起こ ガス由来のLNGと同等の価格(日本国内需要家購入価格) り、売り手市場が買い手市場に変わっていくことが予想さ で日本に輸出しようとした時に、パイプラインで輸出した れる中で、成功のカギを握るのは価格交渉力と安定供給力 方が出荷価格を高く設定することができるということにな であると考えられる。 る。ロシアの皆様には、どちらが得かということをよく考 天然ガスの輸送方法には、LNGとパイプラインの2種 えていただきたい。 類がある。LNGの場合は、天然ガスを液化して、高価な 先ほど本村氏が日本国内のパイプライン網についても LNG船で輸送した後、再気化して需要家に配送するとい 様々な検討がされてきたことを指摘したが、現時点では総 うプロセスである。これに対して、パイプラインの場合は 合資源エネルギー調査会のガス市場整備委員会で検討され 井戸元から直接焚口まで輸送することが可能である。した たものがある。このネットワークが整備されれば、これを がって、通常であれば、パイプラインの方が輸送ロス、費 サハリンや韓国と接続すればよいのではないかということ 用の点で有利である。しかし、パイプラインは長距離にな が委員会の中で議論されている。国内パイプライン網の整 るほど資本投資がかさんでいくので、その場合はLNGが 備とサハリンなどからの国際パイプラインの連携を推進す 有 利 に な る。 条 件 に よ っ て 違 う が、 お よ そ2,000km ~ るために、日本プロジェクト産業協議会(JAPIC、会長: 3,000km以下であれば、パイプラインの方が有利というの 三村明夫)の中に天然ガスインフラ開発・利用委員会を立 が定説である。 ち上げた。主要メンバーとしては、東京ガス、大阪ガス、 そこで新潟を中心にして極東地域を眺めてみると、泉田 中部電力といった大手エネルギー企業、IHI、日立、東芝 知事があいさつで指摘されたとおり、新潟とウラジオスト といった天然ガス利用機器メーカー、さらに日本エネル クの間は直線で800kmしかない。また、サハリンから太平 ギー経済研究所やERINAなどの研究機関が参加している。 洋側へのルートを考えると、ロシア国境から1,000km強で この場で、パイプライン整備を本格的に議論していこうと あり、新潟までのルートであればさらに短い(図)。今日 考えている。また、国際的には北東アジア天然ガス・パイ 私が提起したいのは、この距離をLNGで運ぶという選択 プラインフォーラム(NAGPF)という組織が20年来活動 肢はないだろうということだ。 している。そこでは、中国、韓国、ロシア、モンゴル及び 昨年、ある一定の前提をおいて、サハリンから太平洋岸 日本の間で、 パイプライン整備について議論してきている。 28 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 今後は、JAPICに新設した委員会がNAGPFの日本側の窓 本へのパイプラインは価格競争力を担保する上で重要な手 口となって議論を進めていこうとしている。 段である。パイプラインを建設すれば双方にメリットがあ NAGPFが15年前に提案した北東アジア天然ガスパイプ る。本村氏が主張した「互恵的・双務的」関係が構築され ラインネットワークのうち、中国国内部分はほとんどその る。ロシアにとっては日本という信頼できる市場が確保で 通りに実現している。日本は、全く出来ておらず、恥ずか き、日本にとってはロシアというエネルギー大国からの供 しい。 給を受けることができ、エネルギー安全保障につながる。 結論を申し上げると、市場が変わっていく中で、カギと 1対1の関係ができることで、相互信頼が深まる。いわば なるのは価格競争力と安定供給力である。言い換えれば、 「夫婦関係」となることで、日ロ間でのWin-win関係が実 経済合理性が無いプロジェクトは進まない。ロシアから日 現できるものと考える。 質疑応答 新井洋史(ERINA調査研究部主任研究員) トではなく、日ロ共同プロジェクトである。本日提示され ウラジオストクから新潟にパイプラインを建設するとい たような大規模なパイプラインプロジェクトを現実のもの う案が新潟で検討されている。他方、ウラジオストクでは として議論できるのは5~7年後のことだと考える。 LNG基地の建設プロジェクトが進められつつある。ロシ 別の側面もある。本日参集されている日本の多くの専門 アから日本へのパイプライン整備について、カルミチェク 家が指摘されているように、日露パイプライン建設には、 氏の意見を聞きたい。 日本国内のパイプライン網整備が前提となる。そうでなけ れば、ロシアからのパイプでの輸送は経済的に成立しえな カルミチェク い。日本国内で安価なガスを供給するためには、国内ガス ガスプロムの人間としてではなく、青山氏が紹介した国 パイプライン整備が不可欠である。それには何年もかかる 際的な取り組みに18年間関わってきた一人の専門家として だろう。なお、ガスプロムはこの問題にも関心を持ってい お答したい。大陸から日本へのパイプライン建設は、経済 る。もし、これらの構想が部分的にでも実現されるのであ 的意味だけでなく政治的な意味を持つプロジェクトであ れば、こうしたプロジェクトに参加したい。当社には、ガ る。過去20年にわたり、日本の専門家は熱心に議論してき スパイプラインの整備・運営に関する蓄積がある。もしこ た。ところが、中国では一部のプロジェクトが実現してい れが実現すれば、 二国間協力の幅が一層広がることになる。 るにもかかわらず、日本ではそうではない。青山氏は「恥 あえて触れる必要はないかもしれないが、日本国内には ずかしい」と述べたが、恥ずかしく思う必要はない。経済 安価なガスがパイプラインで入ってくることに反対するロ 的、政治的環境が熟していないというだけのことである。 ビー勢力もある。彼らは今後も活動を続けるだろう。 近年、日ロ両国間では、経済面でも政治面でも肯定的な動 きが目立ってきている。日ロ間の信頼関係は急速に深まる 吉田進(新潟県アドバイザー) だろうと思う。近いうちに、経済的・政治的に意義の大き 私の考えでは、ウラジオストクLNGを早期に完成させ、 いプロジェクトについて公に議論ができるような程度にま さらにロシア国内パイプライン網を完成させた上で、2024 で信頼関係が達するものと思う。 年に生産開始予定のコビクタガス田の開発に合わせて、ウ 現時点では、我が国はこのようなプロジェクトを議論す ラジオストク~新潟間のパイプラインを整備するのが良い る準備ができていない。もし我々がウラジオストクLNG と思う。ガス資源が無ければ、パイプラインだけ作っても プロジェクトを計画通りの期間で実現することができれ 意味が無いからだ。以上のような考え方でガスプロムと新 ば、両国間のエネルギー協力進展の上で重要な一歩となる 潟県が協力計画を策定することはできないか。 だろう。このプロジェクトは、単にロシアのガスを日本に 供給するというものではない。ロシア東部におけるガス生 カルミチェク 産、輸送の様々な局面に日本の多くの企業が参加するとい 我々は、ウラジオストクLNGプロジェクトのことを、 うプロジェクトである。その意味で、ロシアのプロジェク 東シベリア・極東における大規模なガス資源開発プロジェ 29 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH クトの第一歩として考えている。2013年10月22日にウラジ た際に発電所建設問題を提起していたが、その件も含め、 オストク市において日本企業向けにウラジオストクLNG ご教示願いたい。 プロジェクトのプレゼンテーションを行った。 翌23日には、 キリンガス田(サハリン)の生産開始式典を行った。これ カルミチェク は、ウラジオストクLNG基地で生産を始めるためのガス 確かに今年4月にミレル社長が茂木大臣と面談した際、 が確保されたことを意味する。恐らく、年内にはチャヤン 本件も取り上げられた。その際、社長は、ガスプロムはロ ダガス田(ヤクーチア)からのパイプライン建設が始まる シア国内最大のガス事業者であるばかりではなく、最大級 だろう。もし、これが計画通りに進めば、ご指摘の通りコ の発電事業者の一つであることを説明した。その意味では、 ビクタガス田開発もスケジュールに上ってくる。今後の展 ガスプロムはガス事業のみならず、発電事業などの関連事 開は、我々の協力がどのように進むかにかかっている。 様々 業にも関心を持っている。こうした案件への投資を検討す な意思決定が素早くなされる状況が続くとよいと思う。現 る際には、当社が膨大なガス資産を持っているということ 在、第1期のLNG生産能力は年間1,000万トンとされてい が重要なポイントである。つまり、日本国内において、ガ るが、これは近いうちに引き上げの方向で見直されるかも スプロムがガス供給者としても想定されるような発電事業 しれない。新潟は日ロ協力に最も積極的な土地の一つであ の投資案件があれば、当然ガスプロムは関心を持つことに り、またロシア産天然ガス受け入れ基地として最も可能性 なろう。 がある土地でもある。LNGだけではなく、パイプライン ガスにおいても新潟は日露エネルギー協力の中で重要な役 西村可明(ERINA所長) 割を果たしうるだろう。 青山氏に質問したい。東日本大震災以降、政治状況は変 化したと思う。 エネルギー供給源を全国的に最適配置して、 青山 それらをパイプラインなどでネットワーク化していくに カルミチェクさんは誤解されている面があるかもしれな は、政治的な決定が必要だと思う。ビジネスの世界から見 い。第1に、日本にパイプラインを嫌うロビー勢力がある て、このような政治的決定がどの程度期待できるか、お聞 との指摘があったが、10年前はともかく、東日本大震災以 きしたい。 降そのようなことを言う人はいないと思う。日本として安 価なガスを安定的に購入することが大切であり、それが実 青山 現できるのであればLNGであろうとパイプラインであろ 総合資源エネルギー調査会の下のガス市場整備委員会 うと関係ない。2点目だが、国内パイプラインが無ければ で、国内のガスパイプライン網整備の議論が官民合同でな ロシアからのパイプラインは尚早であるとの指摘もあっ されている。東日本大震災の際、仙台のLNG基地が津波 た。これに関して言うと、輸入するガスがLNGであろう で完全に機能を失った時に、ライフラインとなったのは新 とパイプラインガスであろうと日本にとって国内パイプラ 潟からのパイプラインだった。それを踏まえ、今般の国土 イン網は必要であることは事実だ。ただ、国内パイプライ 強靭化計画の中でも、ライフラインとしてのパイプライン ン網が無いからといって、パイプラインで輸入することが が必要だという議論になっている。ここで問題なのは、こ できないということにはならない。現在検討されているサ れまでの日本のパイプラインは需要がある地域に少しずつ ハリンから年間500万トン程度輸入するパイプラインであ 敷設されてきたが、今回はエネルギーセキュリティの観点 れば、大規模発電所1カ所で消費できる。最後に、 プロジェ からの整備となるという点である。誰がその費用を負担す クトの規模が大きいので時間がかかるという点に関して言 るかが問題になる。 国が全部負担することは無いだろうし、 うと、あくまでLNGやパイプラインなどそれぞれのプロ だからといってガス会社が負担するのも困難だ。議論は継 ジェクトの経済合理性で判断すべきだと考える。 続しているが、難しい問題である。主要な需要地を結びつ ける幹線パイプラインを整備するという構想が、近いうち 杉本侃(ERINA副所長) に出てくるものと期待している。 本会議は、日ロ間のビジネスにつなげるという目的も 持っている。ガスプロムは欧州でガスの小売りや電力分野 石井修(新潟県議会議員) への進出を考えているが、日本についても同様の検討をさ 私は、自民党新潟県日本海資源開発議員連盟の会長もし れているのか。ガスプロムの方が茂木経済産業大臣に会っ ている。7月に国会議員5名、県会議員18名、民間の方を 30 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 含めて計35名でウラジオストク、ハバロフスクを訪問した。 今日の会議参加者の皆様にもこうした状況をご理解いただ 今年9月には、新潟県、新潟市、上越市及び聖籠町が、国 き、是非我々に力添えいただきたい。 に対し「エネルギー戦略特区」を提案した。この提案は採 用されていないが、引き続きフォローしていきたい。これ 新井 からの日本の将来を考えた際、太平洋側にしかない装置産 今回は6回目のエネルギー・環境対話である。このセッ 業を日本海側、中でも最初に新潟に作りたいと考えている。 ションの中では、これまでの議論が実現しつつあることが おそらく知事も同様に考えている。県議会議員としても中 紹介された。ウラジオストクLNG基地をはじめ、イルクー 央に働きかけていきたい。新潟とウラジオストクを結びつ ツク州での探鉱事業、直江津での火力発電所とLNG受入 けて強固な人脈を構築しながら、船であってもパイプライ 基地などである。また、これからのプロジェクトとして、 ンであっても構わないので、一日も早く天然ガスを新潟に ウラジオストク~新潟のパイプラインが議論されたほか、 受け入れたい。新潟にはすでにLNG受入施設があり、 仙台、 沿海地方での石油の共同探鉱という興味深い提案もあっ 東京ともパイプラインがつながっている。さらに、相馬に た。これらのプロジェクトについて、引き続き議論をしな カナダからのLNGを受け入れる施設ができて、既存パイ がら、実現につなげていけるとよいと思う。 プラインと接続されれば、新潟ともつながることになる。 31 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH Session B 環境 Session Bでは環境、省エネ・再生可能エネルギーといっ リーンコール技術として、我が国では高温燃焼による高効 た観点から計6名が報告した。以下、その報告内容の要旨 率 化 と、CO2を 回 収 し て 地 中 に 貯 留 す るCCS(Carbon を紹介する。 Capture and Storage)技術という二つの方向から開発と 実証化が推進されている。前者に関しては超々臨界圧シス 1.世 界省エネルギー等ビジネス推進協議会(JASE- テムの開発、IGCC(石炭ガス化複合発電)の実用化、 World)事務局長 村澤嘉彦氏 IGFC(石炭ガス化燃料電池複合発電)の開発を挙げるこ 「JASE-Worldの紹介と対ロシアに向けての活動」 とができる。後者については日本企業の参画による実証試 JASE-Worldは日本の民間企業・団体90社を会員とする 験がオーストラリアで進められている。こうした技術が確 組織で、日本企業が保有している省エネルギー・再生可能 立・定着すると世界的に大量にある石炭を安く利用するこ エネルギー技術の商品・テクノロジーを官民連携体制の下、 とが可能になり、CO2の排出も回避できるようになる。日 海外展開していくことを課題として活動している。この目 ロ間でもこうした石炭火力分野での協力関係の構築が期待 的を達成するために、日本のこの分野の技術に関する総合 される。 カタログともいえる冊子「国際展開技術集」を作成し、海 外向けに発信している。組織の中に分野別のワーキンググ 4.株式会社WINPRO執行役員海外事業担当 奥谷明氏 ループが設置され、ロシアに関しても省ネルギー分野の専 「WINPROの技術紹介とウラジオストクにおける取り組 門グループが設けられている。現在ロシア国内で高効率 み」 コージェネ・システムの普及・促進を図ることを目標にし 弊社は小型風力発電機の製造を行うベンチャー企業であ て、ESCO(Energy Service Company)スキームを基本 る。風向きに左右されず回転する縦型風力発電機、風力と とする話合いが開始されている。 太陽光双方を利用するハイブリッド・システム、最大出力 が5キロワットの高効率非接触反転発電機など独自の開発 2.極東連邦大学石油ガス研究所所長 アレクサンドル・ 技術を有する。ウラジオストクの極東連邦大学と共同開発 グリコフ氏 に関する基本契約を締結し、同校キャンパス内に風力発電 「エネルギーセンターの創造へ-極東連邦大を拠点とし 機を1基設置する話合いを進めている。さらに、極東連邦 た省エネ・新エネ論」 大学とは風力発電、太陽光発電、蓄電池、燃料電池、バイ 新生の極東連邦大学では、「エネルギー資源・省エネ」 オ発電など再生エネルギー分野での共同開発を実施してい というテーマを今後の同校の発展の一つの方向と位置づけ く予定で、今後も日ロ間の架け橋的存在として努力してい ている。これを達成するために、国内外の企業や研究機関 きたい。 と共同研究を進めており、キャンパス内に教育・研究開発・ 製造のための実験用プラントを設置することも予定されて 5.東芝燃料電池システム株式会社営業部長 草間伸行氏 いる。日本企業とも今後キャンパス内にスマートハウスを 「家庭用燃料電池発電システムについて」 共同設置し、それを母体にして日本企業の省エネ技術を導 弊社は家庭用コージェネレーション・システムであるエ 入・普及させていくようなことを検討していきたい。小規 ネファームを製造・販売している。燃料は都市ガスやLP 模風力発電機の分野で、日本企業との間で具体的な協力関 ガスであるが、ガスは燃焼させないで、水素を分離・抽出 係が築かれつつある。 し燃料電池に供給し、電気と温水を作るシステムである。 当社では2009年から商用化し販売を開始しているが、2012 一般財団法人石炭エネルギーセンター(JCOAL)技術 3. 年までの4年間で20,000台を販売している。2013年は単年 開発部参事管掌原田道昭氏 度で20,000台を達成する計画になっている。この装置はエ 「日本のクリーンコール技術」 ネルギーの利用効率が高く、かつ大きな省エネ効果が期待 石炭は世界全体で約10億トン規模の輸出入取引が行われ できることより、日本全体ですでに10万台設置され、分散 ているが、日本もロシアから長期にわたり継続して石炭を 電源の一種として急速に普及しつつある。日本政府をはじ 輸入しており、2011年は1,000万トン強を輸入している。 め製造各社はこの装置の輸出を計画しており、2016年以降、 地球温暖化対策という観点から、石炭をクリーンに使うク 海外展開を進めていくことになる見通しである。そうなれ 32 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH ばロシアとも接点がでてくると期待される。 低メンテナンスコストを考慮し、電気出力25キロワット及 び50キロワットの2機種を標準機として商品化し、発電効 6.株式会社大原鉄工所環境営業II課課長 齋藤忍氏 率は35%を実現している。ロシアでは送電線の未接続地域 「メタン発酵によるバイオガス発電機について」 が多く存在し、小型・分散型電源の潜在的需要があると思 弊社が製造する「バイオガス発電プラント」は、生化学 われ、また再生可能エネルギーの利用気運も高まりつつあ 的変換技術である「メタン発酵」技術を基にしたプラント るようなので、弊社の技術はロシアのニーズにも貢献でき で、下水・し尿汚泥、家畜糞尿、生ごみ、草木などを前処 ると思われる。 理し、可燃性ガスであるバイオガスに変換し、それを燃料 として発電するシステムである。小規模サイトでの適用、 33 (ERINA経済交流部部長代理 酒見健之) ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 基調報告 JASE-Worldの紹介と対ロシアに向けての活動 世界省エネルギー等ビジネス推進協議会(JASE-World)事務局長 村澤嘉彦 本日は我々の組織の活動と、活動の一つとして行ってい 我々の組織は官民連携が柱になっている。一方にプライ るロシア・サブワーキンググループについて紹介したい。 ベート・セクターとして色々な業種の企業が名前を連ね、 「世界省エネルギー等ビジネス推進協議会」は、英文名 他方に経済産業省、外務省、国際協力機構(JICA) 、国際 称がJapan Business Alliance for Smart Energy Worldwide 協力銀行(JBIC) 、日本貿易振興機構(JETRO)といった で あ り、 そ の 頭 文 字 を と っ てJASE-Worldあ る い は パブリック・セクターがオブザーバーとして我々の活動を JASE-Wと称している。この組織の目的は、日本のスマー サポートいただいている。 トエネルギーの商品とテクノロジーをビジネス・ベースで 国際展開技術集は、われわれのホームページにもその全 世界に展開することにある。スマートエネルギーとは、日 文がある。現在6カ国語で作成しており、ロシア語も含ま 本企業が有する非常にレベルの高い省エネルギーと再生可 れている。国際展開技術集には基本的に7つの分野が含ま 能エネルギー技術の商品・テクノロジーを意味するが、特 れ、例えば住居、工場、オフィスといった分野別にそれぞ にビジネス・ベースということが我々の活動の主な重点で れの技術が収められている。 ある。ビジネス・ベースで海外展開する場合は個々の民間 ワーキンググループは現在5つの活動を行っている。省 企業が取り組んでいくのが基本であるが、省エネルギー・ エネソリューションワーキンググループ、ソーラー発電 再生可能エネルギーのビジネスを国際展開する場合は、相 ワーキンググループ、地熱発電ワーキンググループ、廃棄 手国の法規制・税制などの障害、乗り越えるべき課題があ 物発電ワーキンググループという分野ごとの4つのワーキ り、官側のサポートが必要となる。こういう観点からこの ンググループがあり、もう一つ官民連携のワーキンググ 組織は設立された。 ループがある。これは4つのワーキンググループのいわば 当組織は2008年10月に設立され、ちょうど5年経過した。 まとめ役として官民という器に乗せて活動するワーキング 会長は日本経済団体連合会の米倉弘昌会長で、現時点で70 グループという位置づけである。ワーキンググループの下 の民間企業と20の団体が会員として加入している。JASE- に地域別のサブワーキンググループがいくつかあり、ロシ Worldにはオブザーバーとして15の政府系組織が参加して ア・サブワーキンググループは省エネソリューションワー おり、その存在が我々の組織の大きな特長である官民連携 キンググループの下にある。 体制となっている。 我々の活動の目的は、日本の優れた技術や製品を海外に ロシア・サブワーキンググループは、2009年に設立され 展開していくことによって地球温暖化とエネルギー・セ た。日ロ省エネルギー・再生可能エネルギー共同委員会と キュリティーの問題を解決し、それによって世界への貢献 いう政府間ベースの組織があり、第1回が2010年3月、第 にもつながると考えている。主な活動は4つあるが、特に 2回が2010年7月、第3回は震災があった関係で少し間が 次の2つが中心である。まず、「国際展開技術集」という おかれたが2013年9月に行われた。この3回の会議に、官 冊子を作成していることで、これは本日、ロシア側の皆さ 民セッションという枠で我々も参加している。ロシア・エ んの机の上にも置かせていただいた。これはわが国の企業 ネルギー庁(REA)と我々はMOUを交わし、ロシアにお が有する技術についてのいわばカタログ集である。できる ける省エネ・プロジェクトを共同で進めることになってい 限り多くの方の目に触れるよう配布しており、当協議会 る。第3回会議で、このMOUを更新した。 ウェブサイトでも見られるので是非参照していただきた このほか、2010年9月にモスクワで開催された環境・省 い。もう一つは、ワーキンググループを設け、そのもとで エネ問題の共同セミナーにも参画した。2011年の新エネル テーマごとに活動している。 ギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の調査では、油田 34 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH の随伴ガスの活用というテーマで研究を行った。また、ロ 三つ目はESCO(Energy Service Company)アレンジメ シアにおける地域熱供給システムの現状に関して外部委託 ントである。エネルギーの使用量を減らすことによって浮 による調査を行い、地域熱電併給(コジェネ)の改良と改 かせたコストを関係者間でシェアするスキームと考えて頂 善を大きなターゲットにしている。さらに、2012年11月に ければよい。ESCO会社をJVで設立し、それが関係者で経 ウラジオストクでコジェネをテーマにしたAPECのワーク 済的な利益をシェアする器となる、という考え方で取り組 ショップが開催され、我々も会員企業から専門家を派遣し んでいる。例えば、もともと100%の燃料を使っていたの プレゼンを実施した。その会社がウラジオストクに納めた を高効率の機器に取り換えることによって70%に減らす コジェネ施設を見ていただくという活動も行った。 と、30%の燃料が余剰になる。ロシアの場合、燃料の国内 現在のターゲットは高効率のコジェネシステムをロシア 価格がMMBTUあたり2~3ドル、国外価格は10~12ド で 普 及・ 促 進 し て い こ う と い う も の で、Super-efficient ルであり、余った燃料を海外に売ることで、その差額部分 ESCO Modelと呼んでいる。現在、ロシア直接投資基金 を関係者間でシェアしていこうというのが基本的な考え方 (RDIF; Russian Direct Investment Fund)と話を進める である。 べく協議中である。メンバーは住友商事、東洋エンジニア ロシアにこのスキームを適用した場合、ロシアの法規制 リング、三菱重工業、川崎重工業他の会員企業である。ロ など色々な問題がでてくると思われる。そういうところは シアの発電設備は老朽化しているものが多く、それを日本 民間だけではなく官も一緒に入ってもらい、可能な限り の高効率機器に取り換えることにより関係者が皆利益を得 我々の描いているスキームを実現するような形でロシア側 るようなスキームを仕立てようとしている。3つのアレン とやり取りをしていきたいと考えている。ちょうど明日か ジメントを行うことで、このスキームがビジネスとして成 ら我々のロシア・サブワーキンググループのミッションが り立つのではないかと考えている。一つ目はロシアの政府 ロシアを訪問し、 このスキームを提示することになっている。 と電力会社の間で交わされるCapacity Supply Agreement ロシアでの活動を説明したが、ロシアに限らず我々は で、これが締結されていることが前提条件となる。二つ目 ターゲットとなる国をテーマごとに決め、それぞれの国の はRDIFと日本のJBICの投資プラットフォームを活用する 状況や課題に応じて、いかにして日本の企業の有する技術 ことである。これは2013年4月の安倍首相訪ロ時に合意さ や製品を展開していくか、それによって相手国もいかに利 れた基金で、未だ実績はないと聞いているが、これを活用 益を得るか、ということを念頭に日々活動を行っている。 することでスキームを立ち上げていきたいと考えている。 ご支援とご協力をお願いしたい。 報告① エネルギーセンターの創造へ-極東連邦大を拠点とした省エネ・新エネ論 極東連邦大学石油ガス研究所所長 アレクサンドル・グリコフ ロシアは世界で最も北の国であり、国土も大きく、資源 高等教育機関を統合する形で、 ウラジオストク・ルースキー も豊富にある。従って、省エネ技術はまだまだ発展してい 島に極東連邦大学が作られた。現在、3,000人以上の教員 ない。理由は、燃料が安いからである。しかし今後5年、 が働いており、およそ25,000人の学生が学んでいる。極東 10年と時が経過すると、ロシアでも省エネ技術がそれなり の中でも最も優秀な学生たちが集まってくるので、人材ポ の地位を確立することになるであろう。我々極東連邦大学 テンシャルも大きい。 が行っている活動も実ることになると思う。 極東連邦大学の発展の主な方向は、世界の海洋資源、エ 極東連邦大学について紹介したい。この5年ほどの間、 ネルギー資源・省エネ、ナノシステムとナノマテリアル産 ロシアでは極東の発展に多大な力が注がれていることは皆 業、輸送・ロジスティクウス、バイオ・メディカル技術で さんよくご承知だと思う。その一環で2011年、4つの主要 ある。極東連邦大学は極東とアジア太平洋地域を結ぶ架け 35 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 橋であり、極東のイノベーション経済の象徴となっている。 ミレーション設備 本大学の役割は、地域に最新の知識と技術に関する自由な ・実験用水力タービンや海流、潮力、波力を利用した発電 交流の場を提供すること、投資誘致と極東経済を資源型か 装置 らイノベーション型に移行すること、極東を有能な人材に ・センターの建物を省エネ設計でスマートハウス型として とって魅力ある地域にしていくこと、極東を文化・経済・ 作り、実験プラントの発電機や実動機の稼働状況をモニ 学術面でアジア太平洋地域に統合すること-である。 タリング管理できる設備にする。 現在、極東連邦大学では、連邦水力発電会社ルスギドロ ここで、日ロ省エネ技術実証プラントの検討を提案した (モスクワ)及び機械製造企業シュナイダーエレクトリッ い。プロジェクトの目的は、日本企業の省エネ製品の展示 ク(フランス)と共同して、「エネルギー効率技術と代替 プラントを極東連邦大学のキャンパス内に作る可能性の調 エネルギー」のプロジェクトを行っている。このプロジェ 査、省エネ技術をロシアで共同生産するための技術選別、 クトの目的は、極東連邦大学に世界水準の学術教育と製造 そして再生可能エネルギー技術の開発における協力-であ の拠点を作り、設備や技術、知識と人材を集めて省資源技 る。この日ロ省エネ技術実証プラントの課題は以下の通り 術分野の先端研究プロジェクトを、既存エネルギーや代替 である。 エネルギーをベースにして行うことである。 ・日本企業の最先端発電装置のうち再生可能エネルギーを この目的を達成するために、ルースキー島のキャンパス 利用し、省エネ性能の高いものをベースにして展示プラ 内に教育・研究開発・製造のプラントを作ることになる。 ントを作る。 第一期工事で予定しているのは、主要電源としての風力 ・極東連邦大学を基盤にして日ロ共同開発の省エネ技術を ディーゼル発電所270kWの建設で、150kWの風力発電機 製造・導入する会社を設立する。 と120kWのディーゼル発電機から構成される。自動シス ・再生可能エネルギーや省エネ技術分野における技術交流 テムで補助電源や消費者を調整するシステムになってい を、日ロ双方が省エネ製品市場の拡大を望むことを条件 る。補助電源はヒートポンプと太陽電池で24kWを見込ん として進める。 でいる。そして発電所の管理モニタリング・システム、大 ・日本企業の省エネ設備を極東連邦大学に導入し、スマー 学のキャンパス全体のエネルギー管理システムが含まれ トハウス用のライフラインの設計・建設を行うための基 る。我々のキャンパスではサハリンからの天然ガスを使用 本的な作業を行う。 しているが、非常に大きな大学なので電力消費量はかなり そのためのロードマップを提案したい。 大きい。 ・事業化調査の詳細を詰め、プラントとスマートハウスの このプロジェクトの主な課題は、研究開発や技術ポテン 設置場所を決める。 シャルを極東のエネルギー産業や再生可能エネルギー分野 ・デモ設備を設置する日本企業の提案を基にプラントの詳 で高めること、新たな技術者育成のために人材育成を行う 細設計を行う。 こと、われわれの連邦大学をロシアの学術・教育とイノベー ・スマートハウスを建設し、日本企業の設備を大学に設置 ションのセンターにし、エネルギー分野ハイテク技術の科 し、セットアップする。 学的改良をロシアとアジア太平洋地域で主導すること、そ ・設置された装置をベースに省エネ技術に関する共同研究 してロシアとアジア太平洋地域の主要なビジネス組織・企 計画を策定し、実施する。 業・団体と共同で、共同研究プロジェクトを発掘し、共同 ・新たな省エネ技術の開発のための基礎研究計画を策定 研究実験プラントを作り、既存エネルギーや再生可能エネ し、実施する。 ルギー分野の技術開発を行うこと-である。このセンター 現在、すでに最初の一歩が踏み出されている。省エネ技 は次のようなものを含むことになる。 術分野の協力合意書が極東連邦大学の企業であるHTMU ・実動モデルとしての風力発電機、太陽光発電機、並びに 社と㈱WINPROとの間で締結され、極東連邦大学で同社 太陽光パネル、蓄熱器、ヒートポンプ及び地熱井に基づ による代替エネルギーに関するセミナーが開催された。ま く熱供給施設 た、極東連邦大学への小規模風力発電機の納入に向けて作 ・実験用コージェネ設備とバイナリー発電機、水素と天然 業を行っている。小規模風力発電機のロシアでの組立てと ガスによる燃料電池 販売に関しても検討中である。 ・水素燃料の製造・貯蔵設備 現在、我々はこのロードの出発点に立っている。我々は ・電力系統と発電・送電・配電管理のフルスケール・シュ 非常にユニークな可能性を持っており、日本の企業はこの 36 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH プラントに参加していくことができる。我々の大学のプロ も参加している。日本とのプラントも成功すればよいと期 ジェクトにはヨーロッパの企業も参加している。フランス 待している。 の企業については申し上げた通りであり、他にドイツなど 報告② 日本のクリーンコール技術 一般財団法人石炭エネルギーセンター(JCOAL)技術開発部参事管掌 原田道昭 アファナシエフ駐日大使が発言されたように、化石燃料 が輸出入されていることになる。ちなみに日本は、石炭は にはガス、石油、石炭があり、ロシアはいずれもたくさん 国内ではほとんど生産されておらず、1億8,000万トンぐ 保有している。たくさん保有しているがゆえに無駄使い、 らいを海外から輸入している。ロシアは逆に、約1億トン あるいは省エネ・環境にあまり配慮されないで使われてい を輸出しているという状況である。当然、近隣の国々向け た。ロシアの石炭発電所は老朽化しているものが多く、そ が多く、日本はロシアから1,000万トン強の石炭を輸入し ういう意味で効率が悪く、環境にもまだまだ配慮が足りな ている。オイルショック以降、経済性と安定供給という二 いという状況にある。これからも、ガス焚きだけではなく、 つの観点から、脈々とロシアから石炭が輸入されている。 石炭、石油も使っていくと思うので、世界から見てもトッ これからはロシアから天然ガスが日本に入ってくると思う プレベルあるいはトップにある日本の石炭火力発電の技術 が、石炭の輸入は今後も変わらないか、あるいは、最近は を紹介させていただきたい。今後の日本とロシアの協力関 石炭の価格が下がっているので、その意味で増えていくか 係がこういった分野でも構築できないかと考えている。 もしれない。 本日はこういう意味で、高効率技術と、CO2を回収して 石炭をクリーンに使うクリーンコール技術は、従来の 地中に貯留するCCS(Carbon Capture and Storage)技術 NOx、SOx、煤塵対策の技術に加え、地球温暖化対策とい を紹介し、化石燃料を使っても地球温暖化は防げるという う観点から、最近は高効率化とCO2回収技術がある。 話をし、最後に石炭の将来像を示したい。 最初に高効率技術について説明する。図1は高効率化技 世界では10億トン規模の石炭が取引されている。世界全 術の体系を示すもので、左が現在日本で主力として使われ 体で年間76億トンの石炭が使われているので、その1割強 ている高効率の蒸気タービンを使った石炭焚き火力発電所 図1 石炭火力発電の高効率技術 37 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH の技術であり、熱効率は約41%である。次は、同じく蒸気 化して使う場合で、石炭をガス化したガスをシフト反応器 タービンを使うが、さらに高温の蒸気タービンを使うもの で反応させ、ガス成分を水素とCO2にして、その後CO2を で、700℃クラスのAdvanced USC(ultra-supercritical、 超々 分離する。ポストコンバッションは、通常の微粉炭焚きボ 臨界圧システム)として国のプロジェクトで開発が進めら イラの煙突から排出される排ガスからアミン等の吸収液を れている。これが実現すると効率46%ぐらいが可能となる。 使ってCO2を分離回収する方法である。オキシフュエルは、 次のIGCC(石炭ガス化複合発電)は、高温燃焼のガスター 石炭を空気ではなく純粋な酸素を使って燃焼させ、排ガス ビンを使う技術である。1,500℃ぐらいのガスタービン技 を100パーセントCO2にしてしまう方法である。 術は、天然ガスを燃料とするコンバインド・サイクル発電 図2 石炭火力からのCO2回収方法 で現在使用されているが、石炭をガス化して使う場合はま だ十分その域に達しておらず開発中であり、効率は46%か ら48%ぐらいが可能となる。さらにIGFC(石炭ガス化燃 料電池複合発電)は、将来、燃料電池を組み込んだサイク ルを使えば発電効率が55%ぐらいになるだろうと言われて いる。 石炭火力発電では高効率の技術が徐々に実用化されつつ あり、それだけ省エネルギーが可能になってくる。日本の 石炭焚き火力発電所の実例として、Jパワー(電源開発) の磯子発電所を紹介する。1967年横浜市に最初に建設され、 その後、1号機が2002年、2号機が2009年に再建・運転開 回収したCO2の貯留場所としては、石油や天然ガスを採 始され、NOx、SOx、煤塵の数値はそれぞれ60 ppm→20 掘してしまったところや帯水層が考えられる。これらの層 ppm → 10 ppm、159 ppm → 20 ppm → 13 ppm、50 mg/ は、上部に液体やガスを通さないキャップロックがあるの 3 3 3 m N→10 mg/m N→5 mg/m Nと非常に低く抑えられ、効 で、注入したCO2は地上に出てこない。さらに、日本政府 率も改善されている。CO2の排出も最初の1号機を100% の補助金を使い我々とJパワー、三井物産が共同で進めて とすると現在は83%に抑えられている。 いる日豪プロジェクトがある。これは空気から酸素を製造 IGCCの技術は、常磐共同火力発電所で2013年4月から して酸素だけで石炭を燃焼するオキシフュエルプロジェク 完全に商業化された形で運転している。ただ、 このガスター トで、現在オーストラリアで進めている。 ビンは1,200℃級なので、より高温で燃焼できるようにな 石炭の将来は、どのような画が描けるかだろうか。石炭 れば、さらに高効率が可能になる。 は、発電及び水素や化学原料を製造するのに使われる。製 IGFCとしては、中国電力とJパワーが中国地方に共同 造された水素は水素タービンや燃料電池車に利用される。 出資して設立された大崎クールジェンという会社があり、 ここらからの排出は、水だけとなる。石炭を使って排出さ 同社がその開発を進めている。これが実現すれば熱効率で れるCO2は回収され、地下に貯留される。また、石炭層中 は55%が達成できることになる。 に存在するメタンガスを回収するのにも使うことができ 次に、CCSプロジェクトに関して話したい。石炭火力は る。このような石炭のサイクルが実現すれば、世界中に大 CO2の排出が多いので使わないように、という考え方があ 量にある石炭を安く使うことができ、そのうえCO2の排出 るが、安定供給とコスト競争力の上から、石炭は使わざる もなくなり、地球温暖化を心配しなくてもよくなる。将来 を得ない状況にある。そうした中で、CO2を回収して煙突 的には日本とロシアで、石炭火力の高効率化あるいは環境 から出さないようなシステムとして図2のように三つの方 対策を施した石炭火力の協力関係が構築できればと思う。 法が考えられている。プレコンバッションは、石炭をガス 38 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 報告③ WINPROの技術紹介とウラジオストクにおける取り組み 株式会社 WINPRO 執行役員海外事業担当 奥谷明 弊社は創業者であり社主である原明緒の経営理念のもと この新型風力発電機の革新的技術としては、以下4点を に設立されたベンチャー企業で、理念は自然エネルギーを 挙げることができる。①世界初のバーティカルブレードの 利用した小型風力発電機の製造を基本に、 それをステップ・ 液体空力解析ソフトを自社開発し、機動性と高効率を兼ね アップしていくことにある。本社は新潟市中央区にあり、 そろえたWINPROブレードを実現したこと、②これも世 営業拠点として東京に支店を持ち、三条市に技術開発セン 界初の非接触マグネットによる同軸反転式発電機を実現し ターを有している。 たこと、③自力浮遊構造による低摩耗回転のブレードを実 弊社の製品のラインアップについて説明したい。弊社の 現していること、④抵抗値の自動変速電子負荷制御システ 基 本 理 念 で あ る 小 型 風 力 発 電 機 は、 既 存 で はLance、 ムを実現していること-である。 Sail、Clusterの3種類がある。これらは横型ではなく縦型 次に、弊社のウラジオストクへの取り組みの経緯を説明 の小型発電機で、発電部分である動力部分はマグネットを したい。2012年11月にERINAの極東経済視察団に同行し、 利用したリニアモーターカーと同じ原理で中空に浮かせる その際、極東連邦大学を訪問した。2012年11月22日の日露 ものである。通常、横型の風力発電機は風の方向によって エネルギー・環境対話の際に、極東連邦大学のグリコフ工 瞬時に対応することはほぼ不可能だが、弊社の縦型の風力 学部長兼エネルギー研究所所長から共同開発に関する提案 発電機の特徴は、360度どの方向から風を受けても常に回 をいただいた。それを踏まえ、2013年7月に再度極東連邦 る、無音である、害になる低周波も一切出ないことである。 大学を訪問し、大学、WINPRO、現地法人CTHM社の3 さらに、インフラ整備のない山間部や広い場所で、風力を 者間で5年間の基本契約を締結した。 ベースにした独立電源システムとしても実現している。 2013年10月14日の極東連邦大学への訪問で、大学の正門 最近は、ハイブリッドと称する風力と太陽光を利用した もしくは中庭に弊社の風力発電機LANCEを1基設置する システムを行っている。設置例として、公共施設では新潟 ことになった。設置時期は2014年4月以降になる見込みで 市北区文化会館の駐車場用街路灯、駅の周辺では大阪府吹 ある。 田駅の歩道の街路灯、民間企業では大阪府の企業前の歩道 弊社は、極東連邦大学及び現地法人CTHM社と風力発 の街路灯、市役所では新潟県燕市役所の駐車場の街路灯が 電、太陽光発電、蓄電池、燃料電池、バイオ発電などの分 ある。これらに加えて東京の大手町でもこのシステムが4 野において共同研究開発を実施し、将来はロシア国内の再 基ほど年内に導入されることになっている。 生エネルギー及び最高級ロシア製品の普及と生産販売を目 次に、WINPROの新型風力発電機を紹介する。従来は 指している。 最大で1kWであったが、新規のものは最大5kWを実現 今回、風力発電機を設置することは、双方の協力により している。最適値、高効率の実現により従来の2分の1以 発電機をより良い内容に修正し、きょうご紹介した5kW 下の受風面積、5分の1の体積、3分の1の製造コストを 発電機を更に修正、技術的に改良しながら10kW、20kW、 実現している。非接触型マグネット構造とギアレス構造に あるいはそれ以上のシステムアップをしていくうえで重要 より、メカロスのない飛躍的な電動エネルギー、長期の耐 な一歩になったことを意味する。その他のアイテムを共同 久性と静寂性を実現している。また磁石配列により反転速 開発する上でも、日本とロシアの架け橋的存在として、技 度が7倍、発電量では49倍になる。バーティカル風力発電 術的な面においても一層の努力を行っていきたい。 機のジャンルにおいては世界初のシステムである。 39 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 報告④ 家庭用燃料電池発電システムについて 東芝燃料電池システム株式会社営業部長 草間伸行 本日は家庭用燃料電池「エネファーム」について紹介す ンクの容量は200リットルの設計になっている。 る。日本のガス業界は約100年の歴史をもっており、ガス の販売やコンロの製造に従事してきたが、この100年間で 燃やさないガスを販売したことはなく、このエネファーム 日本では、この装置は屋外に設置される。電気は系統連 が初めてである。この意味で、ガス業界にとってこれが最 携しているが、国内法規により、この装置の電気出力は全 終兵器かつ最新装置ということになる。 て家庭内で消費し、系統に戻すこと(逆潮流)は認められ エネファームとは家庭用燃料電池コージェネレーション ていない。発電時に出た電気や熱を、家庭の電気や給湯・ システムのことである。すでに家庭でコージェネレーショ 暖房に利用できるので、熱損失が少なくエネルギーの利用 ンシステムが普及し始めているということに対し、海外の 効率が高いシステムであり、家庭での大きな省エネルギー 方には不思議な顔をされ信じてもらえないが、その非常に 効果が期待できる。このエネファームは2009年より商用販 驚くべきことが日本で起こっている。燃料は都市ガスや 売され、日本全国で既に約10万台が設置されている。 LPガスである。図1の左の小さな箱の中で都市ガスある 装置の内部を弊社のシステムの例で紹介する。図1の小 いはLPガスから水素を変換し、その水素を燃料電池に供 さな箱は燃料電池ユニットと呼び、背の高い箱は貯湯ユ 給し、電気と熱を作る。出てきた電気は系統と繋がってお ニット(あるいは貯湯タンク)と呼んでいる。燃料電池ユ り、家庭内で消費される。電気出力は700W程度で、1 ニットは、燃料から水素を取りだす燃料改質装置、水素と kWに満たないレベルであるが、これで十分に家庭の需要 空気から発電する燃料電池、燃料電池の直流出力を家庭で は賄える。熱は温水タンクに貯められ、温度は約60℃。日 使う交流に変換するインバーターなどから構成される。貯 本人が入浴に使う温水温度が大体40℃なので、60℃のもの 湯ユニットは、燃料電池本体の排熱で温めた60℃のお湯を を薄めながら4人家族で一日分の湯量が貯まるように、タ ためる200リットルのタンクと、万一燃料電池システムが 40 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 図 エネファームのシステム図 停止してもお湯を供給できるようにするためのバックアッ 10年間使えることをガス会社と取り決めている。効率が プの給湯器から構成される。 どちらも重量は約100kgである。 94%等いろいろな特徴をもって設計されている(表) 。2009 東芝グループのこれまでの出荷台数は、2009年に1,700 年モデルよりは格段に性能を上げ、コストダウンを行った。 台、2010年 に2,600台、2011年 に4,100台、2012年 に12,400 この装置にはかなり細かい部品が入っており、弊社ではシ 台と出荷台数を増やし、4年間で20,000台以上を出荷した。 ステム開発とともにコストダウンの研究を絶えず行ってい 2013年は4月~9月で約9,000台を出荷しており、今年度 る。ここ新潟にはさまざまなプラスチック部品の製造技術、 は20,000台を達成しようとしている。非常に成長している 板金技術が豊富にあり、製造に適した場所となっている。 事業となっている。 エネファームは家庭にどれぐらいのメリットがあるだろ 地域別の出荷数を見ると、新潟県を含む中部・北陸エリア うか。エネファームを持っている場合は、持っていない場 では、都市ガス用が2,532台、LPガス用が335台設置されてい 合に対し26%の節減ができる。ガスと電力単価に一定の想 る。ここ新潟県では北陸ガスが牽引している。新潟県、 新潟市、 定があるが、年間で6万円ぐらい安くなる。 さらに政府の補助も受け、日本全体の支持を得て進めている。 エネファームの特徴の一つに自立運転機能がある。家庭 燃料電池は、高効率でクリーンなシステムである。効率 では、発電装置を購入したのだから停電が起こっても電気 については、弊社の場合、発電効率が39%、熱利用効率が の供給を確保したい、ただし、停電はめったに起きないの 55%、総合で94%となる。いわゆる分散型電源として家庭 で安価でこれを達成してほしい、といった要望がある。弊 でそのまま使えるので、ロスはわずか6%ということにな 社のシステムは、この条件をバッテリーなしで実現するこ る。CO2については48%削減できる。 とに成功した。 弊社の燃料電池の生産開始は約30年前に遡る。事業用の また、 弊社は日本全国にエネファームを普及させるため、 大容量11MW燐酸形燃料電池から、産業用の200kW燐酸形 さまざまな燃料ガスで運転ができるシステムを開発した。 燃料電池を手がけ、この間に様々なシステム技術・要素技 ここ新潟県産の天然ガスでも、LNGでも、LPGでも運転が 術を蓄積してきた。これらの技術が、家庭用エネファーム 可能である。寒冷地仕様機も開発し、外気温度がマイナス の随所に活かされている。約10年前に家庭用エネファーム 20℃まで運転が可能である。いま一つの特徴は優れた保守 の開発を始め、ほぼ毎年モデルチェンジを重ね、コストダウ 性で、発電装置に必要な定期点検をきわめて簡単に行うこ ンをしながら、現在の商用機を作った。最新モデルは2012 とが可能である。フィルタとイオン交換樹脂を3.5年に1 年にリリースしたもので、2013年も継続して販売されている。 回交換すれば十分で、その作業時間はわずか30分である。 弊社は、横浜に本社と燃料電池本体の製造工場を、川崎 日本では今後、エネファームや太陽光発電などの分散電 に研究所を持っている。燃料電池ユニットの製造をここ新 源の普及が進み、既存の系統電力から独立した小規模な系 潟県加茂市で行っており、貯湯ユニットの製造は山口県で 統を形成するいわゆる「スマートグリッド」の構想がある。 行っている。 エネファームはますます普及し、スマートグリット社会の 2012年モデルはTM1ADあるいはADという名称で、6つ 中核装置にとなると思われる。 の特徴を持っている。その一つは耐久性で、日本の家庭で 一方、海外にエネファームの技術を広げる計画が日本政 41 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 表 2012年モデル仕様 Model 2012 Model(2nd generation) 2009 Model(Initial) Electrical Power 250~700 W AC-NET ← Electrical efficiency > 38.5%(LHV)for City Gas > 37.5%(LHV)for LPG 36%(LHV) Overall efficiency > 94%(LHV) 86% Design life of fuel cell 80,000hrs 50,000~70,000hrs Fuel City Gas / LPG ← Operating noise < 38 dB(A) < 40 dB(A) Operation Control Automatic(LearningControl) ← Hot Water Capacity 200 L ← Package Size(W-D-H) FC Unit: 780×300×1000 mm EHU : 750×440×1760 mm 890×300×895 mm 750×440×1900 mm Package weight(Dry) FC Unit: 94 kg, EHU: 100 kg FC: 104 kg, EHU: 105 kg Maintenance Interval Once per 3.5 year (30 min. work during operation) Once per 2.0 year Cost Reduction 40% of 2009 Model - Options Self-Sustaining operating function NA 府にもあり、2016年頃から少しずつ、海外での導入も進む 社は海外に展開していくであろうし、我々もそう考えてい ものと考えられる。海外のガスはカロリーが変動しやすく、 る。ロシアの家庭でもエネファームが設置される日はそん それをどうコントロールするかという問題があるが、それ なに遠くないであろう。その機会にも今回のようなプレゼ を解決すれば十分に輸出も可能だと思う。2016年以降、各 ンの場を持ち、説明させていただきたい。 報告⑤ メタン発酵によるバイオガス発電機について 株式会社大原鉄工所環境営業 II 課課長 齋藤忍 本日は、再生可能エネルギー(メタン発酵バイオガス) 総代理店として、ロシア国内に数台販売している。1970年頃 を燃料とした小型・分散型バイオガス発電機を紹介させて から現在の主力事業である環境事業に着手し、し尿処理場 いただく。 や水門、下水処理場、ごみ処理場、バイオガス発電に関する 当社は新潟県長岡市に本拠を構え、創業は1907年(明治 機器およびプラントの開発・設計・製作・施工を行っている。 40年)にさかのぼる。長岡は古くから石油・天然ガスが豊富 本日紹介させていただくバイオガス発電プラントは、 な地域であり、現在でも日本最大級の天然ガスの埋蔵量があ 多々あるバイオマスエネルギー変換技術の内、生化学的変 り、弊社の創業も石油ガス掘削のリグや泥水ポンプの開発製 換技術である「メタン発酵」という技術を基にしたプラン 造販売であった。新潟県は有数の豪雪地帯で、1950年頃か トである。メタン発酵とは、生物分解可能な有機物を嫌気 ら新潟県や防衛庁からの要請で雪上車の開発に着手し、現 性微生物の働きによって分解する方法で、その副成物とし 在では雪上車の国内オンリーワン企業として、スキー場のゲ てメタン60%および二酸化炭素40%を含むバイオガスとい レンデ整備車、自衛隊の雪上車、南極観測隊の雪上車などを う可燃性ガスに変換し、それを燃料として発電し、エネル 開発・製造し、南極観測隊に隊員を派遣したりしている。雪 ギーとするシステムである。 上車はロシアへの輸出実績もあり、ロシアのラトラック社を 例えば、下水・し尿汚泥、家畜糞尿、生ごみ、草木などを 42 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 必要により破砕・破袋・選別・水分調整などの前処理を行い、 電機をベースに改造しているので、いわば新潟県内企業の 嫌気環境下で38℃程度に加温すると、バイオガスが得られる。 集大成でもあり、本製品は「Made in新潟新技術普及・活 バイオガスはバイオガス発電機に供され、電気と熱に変換さ 用制度」にも登録されている。 れる。電気は売電されたりプラント内電力として利用され、 最後に、導入事例をご紹介する。まず対象となるバイオ 発電機の排熱はメタン発酵槽の熱源とされたり、同じくその マス原料は、基本的に生物分解可能であればメタン発酵は 他用途で利用される。また発酵の残渣として消化液が得られ 何でも結構である。代表的な原料として、 生ごみ、 家畜糞尿、 るが、この消化液は固液分離され固体部分は堆肥に、液体 下水汚泥、工場排水汚泥、草木等が挙げられる。また間伐 部分は牧草地や水田・畑などに液肥として利用が可能である。 材などを熱分解ガス化したガスについてもカロリー次第で 日本国内では、メタン発酵技術そのものは、家畜糞尿の は適用が可能である。例として100kW出力の発電機を24時 悪臭対策や下水汚泥の減容化を目的として多くの導入事例 間稼働させるために必要なバイオマス原料は、下水・し尿 があるが、発生するバイオガスの利活用の事例は、バイオ 汚泥であれば水処理能力3万トン/日規模、濃縮汚泥量と ガスをボイラーで燃やしてメタン発酵槽の加温に使い余り して120トン/日、家畜糞尿であれば乳牛で飼育数600頭規 は焼却処分されることが一般的で、発電などの積極的なエ 模、糞尿量で40トン/日、生ごみであれば10トン/日程度 ネルギー利用の事例は多くない。その背景には、市場に大 が必要である。原料によって希釈などの前処理方法が異な 出力・高価なバイオガス発電機しかなく、そのほとんどが海 り、 施設建設費も原料によって変わるので注意が必要である。 外製品でメンテナンスも高価かつ困難であり、日本の大部 日本では2012年7月より再生可能エネルギーの固定価格 分を占める小規模サイトへの導入を抑制していたことがある。 買い取り制度(Feed-in Tariffs; FIT)が開始された。これに そこで弊社では、小規模サイトで適用が可能な小型・分 よってメタン発酵バイオガスによって発電した電力は、 散型発電機の開発に着手した。それを具現化する方法とし 40.95円/ kWh(税込)で電力会社が購入してくれるように て、市販性の高いディーゼルエンジン型発電機を改造し、 なった。同じ100kWでも、これまで場内利用の買電単価が 低イニシャルコスト、低メンテナンスコストの製品を実現 10円として1,000円程度だったのに対し、FITにより売電すれ した。出力は小規模サイトでも適用が可能な25kWおよび ば4,000円相当の効果となり、大幅に設備投資回収に寄与す 50kWの2機種をラインナップし、一方で小型ながらもク る。このような法律の整備もバイオガス発電の導入、ひいて ラスNo. 1の発電効率35%を実現している。また、小型機 は再生可能エネルギーの利用促進にも大きく寄与している。 を複数台並べて台数制御や出力制御をすることにより大規 ロシアでは、ダーチャのような中央送電網未接続地域が 模サイトへの適用も可能であり、バイオガスの発生状況に 多く存在し、小型・分散型の地産地消エネルギーの潜在的 あわせて最適な運転が可能になっている。 需要があることが推測される。また2007年に電力プレミア 本製品の開発にあたっては、弊社が古くから力を入れて ムスキームと言われる電力買取り制度や、2012年4月に採 きた雪上車の製造技術が大いに役立った。特に南極観測隊 択されたバイオテクノロジー発展プログラム「バイオ2020」 の雪上車となればマイナス100℃のような過酷な環境下に の中でもバイオエネルギーを重点分野の一つに位置づけら あり、このような条件下でも稼働が可能なエンジンの技術・ れ、特にベルゴロド州では2015年までに国内代替エネルギー メンテナンスのノウハウが多数蓄積されているので、バイ の4分の1を域内で生産することを目標に掲げているなど、 オガス発電の分野でもユーザーの様々なニーズに対応でき 再生可能エネルギーの利活用の機運が高まりつつあるよう る技術を持っているものと自負している。また本製品は同 である。小型分散型バイオガス発電プラントは、ロシアの じく新潟県内企業である北越工業のディーゼルエンジン発 こうしたニーズにも貢献できる技術であると考える。 43 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 会議総括・新潟アピール 日露エネルギー・環境対話実行委員長 ERINA 副所長 杉本侃 昨今の日ロ間の動きをみると、首脳会談が今年だけでも 4回を数える他、外務・防衛大臣会合などハイレベルの協 議が幾つも開催されるなど、双方が良好な関係の構築に努 めている。我が国のエネルギー情勢に目を転じると、まだ ポスト福島の方向性は出されていないが、一日も早い確固 たるエネルギー政策の策定が急がれる。他方、ロシアとし てはシェールガスの出現によって欧州における優位性に変 化が生じており、エネルギー政策のベクトルを東に向けつ つある。今回の「エネルギー・環境対話」は、かかる環境 の中で開催された。 「対話」では、主催者・ご来賓の方々からご挨拶をいた だき、この対話の目的や意義、方向性が述べられるととも に、日ロ間のエネルギー・環境協力に対する期待が述べら れた。基調講演では、日ロ関係の現状、我が国のエネルギー 政策の方向性、エネルギー輸入の見通し、シェールガスに 係る諸課題などに触れられた。 日本海横断天然ガスパイプラインや送電線の敷設、日本 における発電事業へのロシア側の関心などは、将来におけ る日ロ関係の新しい方向性を示している。 EUの経験が紹介されアジアのモデルになり得ること、 また北東アジアにおいてエネルギー安全保障の協議の場を 作ることが必要であることが強調された。この組織は拘束 力あるものとすることが大事だと思う。 日露エネルギー協力については、これまで多くの事業が 検討されてきたが、その経緯や経験を踏まえて実現に向け た課題が提起された。 「対話」では、極東地域の電力部門やガス化に対する日 本企業参加の可能性、ロシアとの省エネルギー・新エネル ギー部門での協力の実情、日ロ間の資源開発協力の実例、 ならびに、多国間ガスパイプラインの現状が紹介されると 共に、LNGの輸入と発電での利用の状況、省エネルギー・ 再生可能エネルギー技術の紹介と利用の現状が報告された。 ERINAがロシアと共同で設立した「日ロ地域間ビジネ ス推進協議会」 の事業の一環としてロシアを訪れた企業が、 新エネルギーの分野でロシア極東連邦総合大学との間で締 結した協力協定が結実しつつあることが、成功事例として 報告された。基本合意は昨年の「対話」で紹介されたが、 6年に及ぶ「対話」の歴史の中で、ビジネスに結び付いた 最初の事例である。 今年は2つ目の成果が出た。昨年の「対話」でイルクー ツク石油会社が自社の事業を紹介したところ、今年9月に 伊藤忠と国際石油開発帝石が、イルクーツク石油会社の パートナーであるJOGMECを通して資本参加を決めた。 「対話」が仲人の役を果たしたとすれば嬉しい限りである。 以上の成果を踏まえて、 「新潟アピール2013」を発表する。 第6回日露エネルギー・環境対話イン新潟 「新潟アピール2013」 2013年11月18日 於:新潟市 新潟は北東アジア諸国との長い交流の歴史を持つだけでなく、石油・天然ガス・石炭といったエネルギーを受け入れ、産 業や民生部門で利用し、他地域に中継輸送する拠点としての重要な役割を担っており、また、新潟にはエネルギー関連技術 の開発に携わる企業が多くあることから、 「対話」を新潟で開催する意義は大きいと言える。 「対話」の主催者である新潟県、新潟市およびERINAは、今次「対話」の成果を考慮し、また、日ロ間のエネルギー・環 境協力の進展が北東アジア、延いては広く世界のエネルギー安全保障の強化に資することを確信し、中央・地方の産学官が 一体となった「対話」の取り組みをさらに持続・拡大させるため、以下を提案する。 ・「対話」を持続し発展させるため、日ロ双方の人的ネットワークを拡充すると共に、 「対話」の魅力を国内外に広く発信し て関係者の関心を高めること、 ・「対話」を通じて具体的なビジネスに繋がる案件を発掘し、成功事例を増やすべく努力すること、 ・新潟が我が国エネルギー産業に果たしている受入基地および中継拠点としての優位性や機能を更に強化すること、 ・「対話」が有する意義を周知し、日ロがリーダーシップを取って北東アジア地域のエネルギー安全保障協力の枠組み設置の 必要性を国内外の関係機関にアピールすること。 44 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH The Sixth Japan-Russia Energy and Environment Dialogue in Niigata Date: Monday 18 November 2013 Venue: Snow Hall, 2nd Floor, Toki Messe Organizers: Niigata Prefecture, City of Niigata, Economic Research Institute for Northeast Asia (ERINA) Sponsors:Ministry of Foreign Affairs; Ministry of Economy, Trade and Industry; Embassy of the Russian Federation in Japan; Japan Oil, Gas and Metals National Corporation (JOGMEC); Japan External Trade Organization (JETRO); The Institute of Energy Economics, Japan; Japan Coal Energy Center; Japan Association for Trade with Russia & NIS; Nippon Keidanren; Japan Bank for International Cooperation; Petroleum Association of Japan; Japan Project-Industry Council (JAPIC); Japanese Business Alliance for Smart Energy Worldwide; Federation of the Chambers of Commerce & Industry of Niigata Prefecture; Niigata Association of Corporate Executives; The Niigata Nippo; Niigata Bureau, The Mainichi Newspapers; Niigata Bureau, The Yomiuri Shimbun; Niigata Bureau, The Sankei Shimbun; Niigata General Bureau, Asahi Shimbun; Niigata Bureau, Kyodo News; Niigata Bureau, Jiji Press, Ltd.; Niigata Bureau, Nihon Keizai Shimbun; Niigata Station, Japan Broadcasting Corporation (NHK); Broadcasting System of Niigata, Inc. (BSN); Niigata Sogo Television (NST); Television Niigata Network Co., Ltd. (TeNY); The (UX) Niigata Television Network 21 Program Opening Addresses (9:30-10:10) Governor of Niigata Prefecture Hirohiko IZUMIDA Mayor, City of Niigata Akira SHINODA Ambassador of the Russian Federation to Japan Yevgeny AFANASIEV Consul-General of the Russian Federation in Niigata Sergey YASENEV Keynote Addresses: New Factors in Japan-Russia Energy Cooperation (10:10-12:00) Senior Coordinator/Director, Japan-Russia Economic Affairs Division, European Affairs Bureau, Ministry of Foreign Affairs Masaki ISHIKAWA Head, Section for Economic Relations with Japan, Third Asia Department, Ministry of Foreign Affairs of the Russian Federation Sergey MARIN Director, Petroleum and Natural Gas Division, Agency for Natural Resources and Energy, Ministry of Economy, Trade and Industry Ryo MINAMI Deputy Director, Melentiev Energy Systems Institute, Siberian Branch of the Russian Academy of Sciences Boris SANEEV Researcher, Asia Pacific Energy Research Centre Dmitry SOKOLOV Global Associate, The Institute of Energy Economics, Japan Nobuo TANAKA Head, Oriental Projects Coordination Directorate, Gazprom Victor TIMOSHILOV (Read on his behalf by: Chief Specialist, Oriental Projects Coordination Directorate, Gazprom Alexander KALMYCHEK) 45 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH Session A: Gas and Oil (13:30-15:30) Director, Energy, Oil & Gas Complex and Coal Industry of Primorsky Territory Nikolay LOVYGIN The Far Eastern Center for Strategic Research on the Fuel and Energy Complex Igor SVETLOV (Read on his behalf by: Director, Institute of Oil and Gas, Far Eastern Federal University Aleksandr GULKOV) Deputy Director, Fuels Department, Thermal and Nuclear Division, Tohoku Electric Power Company Inc. Takashi KOMURA Deputy Director, Joetsu Thermal Power Plant Construction Office, Chubu Electric Power Co., Inc. Toshihisa SATO General Manager, Planning & Coordination Unit, Eurasia & Middle East Project Division, INPEX Corporation Kuniharu TSUKADA Senior Advisor and Chief Researcher, Japan Oil, Gas and Metals National Corporation (JOGMEC) Masumi MOTOMURA Managing Director, and General Manager, Strategy Planning Center, International Business Planning & Development Department, Nippon Steel Sumikin Engineering Co., Ltd. Nobuaki AOYAMA Session B: The Environment (15:45-18:00) Keynote Report: Secretary General, Japanese Business Alliance for Smart Energy Worldwide (JASE-W) Yoshihiko MURASAWA Director, Institute of Oil and Gas, Far Eastern Federal University Aleksandr GULKOV Director, Research and Development Department, Japan Coal Energy Center Michiaki HARADA Executive Officer in Charge of Overseas Business, Winpro Co., Ltd. Akira OKUNOYA Director of Sales and Marketing, Toshiba Fuel Cell Power Systems Corporation Nobuyuki KUSAMA Director, Environmental Sales Department II, Sales Department, Ohara Ironworks Co., Ltd. Shinobu SAITO Summary of the Dialogue Deputy Director-General, ERINA Tadashi SUGIMOTO 46 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH Keynote Address (Abridged) The Next Phase for Japan-Russia Oil and Gas Cooperation MINAMI, Ryo Director, Petroleum and Natural Gas Division, Agency for Natural Resources and Energy, Ministry of Economy, Trade and Industry project which makes possible LNG supply to Asia. In addition the Magadan II and III oil projects are large oil projects which Japan and Russia are carrying out in collaboration for the first time. Actual results to date for relations between Japan and Russia have appeared. There were mostly no oil imports from Russia by Japan up to 2006. The Sakhalin I and Sakhalin II projects have got up and running, however, and with the Eastern Siberia-Pacific Ocean (ESPO) pipeline being completed, imports from Russia have steadily been increasing. There were no imports of LNG to 2008, but the Sakhalin II project has got up and running, and currently approximately 10% is being imported from Russia. Making best use of this trend, I would like to see projects furthered, centered on the Vladivostok LNG project, the Far East LNG project, and the Yamal LNG project. I would like to talk today on the current status of Japan-Russia cooperation, and Japan's energy situation, and based on these how we would like to advance oil and gas cooperation with Russia. Russia accounts for 5% of Japan's oil import volume and 10% for gas. The sources of oil imports of Saudi Arabia, the UAE, Qatar, Kuwait, and Iran are all Middle Eastern countries, and Japan's oil dependence is skewed toward the Middle East. In such a situation, the fact of being supplied from Russia, which is geographically extremely close to Japan, is heartening for Japan. As for LNG, the degree of dependency on the Middle East is growing less, but compared with Australia, Qatar, and Malaysia, Russia has the plus of being close to Japan. Listening to the talk of Japanese electricity and gas firms also, the time period from requesting delivery to arriving at the plant in Japan is short and there are advantages in business. Looking at Japan from Russia, exports of oil to Japan are 2.2%, and gas is 5.6%, and in Russia which has been focusing on Europe to date, they think they are still able to increase this further. Regarding Japan-Russia energy cooperation projects, we made the Sakhalin I oil projects, and the Sakhalin II oil and gas projects the first stage, and in the future, as the second stage, we would like to continue moving toward the realization of a great many projects. Among which, the Vladivostok LNG project, as a base for supplying Russian gas to the Asia-Pacific, is an important project for Japan also, and we are moving it forward together with Gazprom. In addition, the Far East LNG project is an important On the other hand, there is a situation for energy in Japan which I would like the people on the Russian side also to understand. The burden of Japan's LNG imports is something that has become extremely large. The Great East Japan Earthquake occurred, nuclear power plants stopped working, and due to electricity generation being started with LNG and oil in place of nuclear energy, the burden of that fuel has grown extremely high. With the impetus of the Great East Japan Earthquake, Japan's electricity generation structure has been changing greatly. For 2010, before the earthquake, the share of nuclear electricity generation was 32%, and the share of the fossil fuels gas, coal and oil was 60%. As of August 2013 that had become a situation where nuclear electricity 47 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH Previously, imputing the purchased fuel costs as they were to fuel costs was allowed, but altering this, attempting to assess electricity costs with low-price LNG as the criterion is being introduced from this year. Third, there is the reevaluation of coal thermal power. Coal thermal power has problems from the environmental respect, but is superior in economic terms. Fourth, there are many areas that are being carried out along with Niigata, and we are striving to promote the development of methane hydrate as a domestic resource. For measures on the supply side, first we would like to further the import of LNG from the United States. Up to around about last year, there were voices questioning whether LNG imports would be realized, but from May of this year export permits have been issued one after the other from the US government, and most recently on Friday of last week (15 November) an export permit has been issued for approximately 2 million tonnes of natural gas. From 2017, or thereabouts, it seems certain that the import of LNG from the United States to Japan will begin. Second, there are LNG imports from other regions, not just the United States, and we would like firmly to further imports from Russia also. Looking at the current situation for LNG, however, there are many sellers, such as the United States, Canada, Russia, Mozambique, and Australia, and it will be important that they strive for exports to Japan at competitive prices, and with competitive conditions. Negotiations with Russia will probably continue gathering momentum in the future, and if they can understand Japan's circumstances and deal with them, it seems that Russia and Japan's gas cooperation will go on deepening. Lastly, I would like to expound on the fact that there is also Niigata, and on methane hydrate. Japan also is currently undertaking research and development for methane hydrate as a domestic resource. There is methane hydrate both on the Sea of Japan and Pacific coasts, and both are promising energy sources. Obtaining the cooperation of Niigata Prefecture and Niigata City from this year, there has been exploration undertaken for surface stratum methane hydrate on the Sea of Japan coast, and possibly existing structures have been found in 225 generation was 2% (two plants). One part which Japan has increased is LNG, and was originally 32% but presently has increased to almost half. The next part to have increased is oil, which was 5% but has grown to 13%. The costs of both LNG and oil thermal power are mostly fuel costs, and that burden has greatly increased. The volume of LNG imports was approximately 70 million tonnes in 2010, but was forecast to grow to approximately 90 million tonnes for 2013, an increase of 20 million tonnes, approximately 30%. Not only the volume, but also the price has risen, and the burden has doubled. The price of Japan's LNG imports was approximately US$10 in 2010, and at US$15 at the present time the unit price has risen approximately 50%. The volume has increased 50% and the unit price 50%. From 2010 to 2012 there was an increase of 2.5 trillion yen in the burden for LNG from 3.5 to 6 trillion yen, and there was an increase in the burden of approximately 3 trillion yen for oil, and 200 billion yen for coal. The burden for fossil fuels in their entirety, including petroleum products, increased by approximately 7 trillion yen. With the fossil fuel burden increase also a major factor, in 2011 Japan's trade figures went into the red for the first time in 31 years, and a trade deficit of approximately 5 trillion yen was recorded for 2012, and approximately 8 trillion yen for the 2012 fiscal year. As Japan is a country that has basically posted trade figures in the black, it is a huge shock that a trade deficit is recorded as large as this, and reducing this has become an issue for the government. For us also, we have to reduce Japan's fuel cost burden and LNG burden, and are taking several measures. As for measures on the aspect of demand, one is the confirming of the safety of nuclear power plants, and whether or not to put them into use. The review of safety has already begun, and there are currently requests for the restarting of 14 of the 50 nuclear plants in Japan. Second is the obtaining of LNG cheaply. It is important that the buyers from electricity and gas companies have the motivation to attempt to purchase cheap gas, and they are changing the assessment method for fuel costs and adopting the top runner method. 48 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH but getting the understanding of people on the Russian side that there are domestic resources in Japan also, we would like them to move cooperation forward in the future. [Translated by ERINA] locations off Joetsu and Noto. A production test was carried out in March 2013 for sandy stratum methane hydrate on the Pacific coast, and we are taking action to aim for its commercialization at an early date. It may take somewhat more time compared to shale gas from the United States, Keynote Address (Abridged) The Shale Revolution and Energy Security TANAKA, Nobuo Global Associate, The Institute of Energy Economics, Japan Former Executive Director, International Energy Agency (IEA) somebody else's problem. China is aiming for energy security via pipelines, but for Japan of which 85% of its oil and 20% of its gas passes through the strait, if an Iranian crisis occurred it would be terrible. I think that the restarting of nuclear power is an important point within energy security. That the gas supplier countries have become diversified via the shale revolution is all very good for consumer countries, but even amid the trade routes continuing to diversify Russia is still an important gas exporter country. For Russia's energy policy of extending the pipelines toward Europe to the west the time is probably coming to continue extending the pipelines to the east, via the development of Eastern Siberia and the Far East. In its relations with the large demand-side country of China, when Russia will be able to do a price deal is also an important point. Japan is also moving forward LNG projects, but naturally the possibility for pipelines will also be an important strategic decision. Under such circumstances, what kind of price could gas be bought at? Up until before the shale revolution, Europe, Japan and the United States had all had similar price trends, but after the shale revolution began, Japan has been buying LNG at five times the price of that for the United States, and Europe three times that for the United States. When I was doing research at the IEA, the liquid fraction that comes out with the gas was called condensate As I was formerly the Executive Director of the International Energy Agency (IEA), I have been watching the shale revolution with great interest. Today, the discussion of Japan-Russia relations is continuing, and amid the shale revolution and the changes in the energy situation, I would like to consider from a global perspective what best to do in order to have both Japan and Russia end up as winners. The IEA issues the "World Energy Outlook" every year. In the 1970s, during which the IEA was created, most energy was consumed by the advanced OECD nations, but, recently growing to half, in the future all the more energy will be being consumed by developing countries and Asian countries, including China, India, the Middle East, and ASEAN. They will have to consider a framework of how energy would continue flowing competitively at that time. As energy resources, renewable energy and nuclear energy, among others, are continuing to grow, but still the greater part is fossil fuels. Amid the developing nations and others vying for this, it is necessary for the supplier countries, and Japan, to consider energy security and how to proceed. Therefore what the IEA has focused attention on is the shale revolution in North America. Conventional oil is declining, but unconventional oil (light tight oil) production is increasing, and the same can be said regarding gas also. What impact will there be with the United States becoming the global number one in both gas and oil production? The United States will become a gas-exporter, greatly reducing its oil imports, improving its trade balance, and becoming the overwhelming winner; and it will be winner takes all. Since Fukushima, for Japan a critical situation has occurred in the short term, where nuclear power has not been working at all, and there are worries that it will become a great minus in competitiveness in the medium to long term. That the United States will be independent of the Middle East in energy terms could have a major impact. The security of the Middle East, in particular whether the United States will continue its commitment regarding the free navigation of the Strait of Hormuz, will become a serious problem. It is the same for China and India also, and for Japan how to continue defending the sea lanes is not 49 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH "diversity" and "connectivity". That is, creating networks with neighboring countries, and when they don't work smoothly, supplementation with nuclear power. Countries lacking in fossil fuels and natural energy sources supplement with nuclear power. In Europe different countries have a variety of portfolios, and by reciprocally linking them up have balanced fossil fuels, renewable energy and nuclear power. It is Europe that is mutually linking up pipelines, linking up grids, and aiming at the socalled collective security of a single energy market. In Asia, and most of all Northeast Asia, this kind of model won't be possible. While Germany can halt nuclear power, and buy electricity from France or electricity generated from coal from Poland, Japan cannot proceed so easily. Europe is striving to buy North African gas, wind power, and solar electricity. It is attempting to create a diversity of pipelines, and is also building LNG plants. In Northeast Asia, they have created the "Northeast Asian Gas and Pipeline Forum" centered on Japan, Russia, Mongolia, China, and the ROK, and with Masaru Hirata being involved, a blueprint has been achieved. In China, the pipeline to Shanghai passing through the Tarim Basin from Turkmenistan has been put in place, but unfortunately Japan has not properly achieved any domestic pipelines. The situation with other countries is still one of routes being dotted lines. As to how to turn the dotted lines into solid lines, there is the idea for pipelines from Sakhalin, and also the idea of an 800km pipeline linking up to Niigata from Vladivostok. The distance of 800km is a mutually profitable distance for laying a pipeline. It is a rule of thumb that if it doesn't exceed 2,000km a pipeline is better than LNG, and would reciprocally serve national interests. For Russia, Japan has to be the most stable consumer nation. Via using the pipeline, there would be the merit of raising the value higher. Masayoshi Son has often spoken about an Asian Super Grid, and I also have been told from Deputy Prime Minister Sechin: "Why doesn't Japan buy Russia's hydroelectricity?" Such an idea would also be a distinct possibility. However, as to how to consider the collective energy security in Northeast Asia, it is extremely important to consider in what way Japan and Russia take the leadership therein, and not only bilaterally. Not only relying on individual Japan-Russia projects, I think it would be good to consider the kind of picture to paint that would be useful to East Asian stability. [Translated by ERINA] or was called natural gas liquid, but the more there is, the lower the price ends up being, and a situation has come into being via the shale revolution, where as the price of oil rises the price of gas falls. Japan has been buying gas linked to high-priced oil, but the changing of this formula is the current of the times. Putting to one side whether to buy at the spot price, and with an assumption of Asia and Japan continuing economic growth, for the gas supplier countries also a new price formula is necessary from the perspective of mutual benefit. The United States is pushing forward with its LNG exports, and may send it to Japan at perhaps around US$10, and this will likely be a major trigger for changing the price. In the future through nuclear power restarting, and additionally the cheapness of United States' LNG, Japan's LNG price too will doubtless fall greatly. They say that there is 100 times more methane hydrate than the US shale gas reserves. As to how to raise this above ground, Japan's furthering of technological development is an extremely important strategy. On the subject of hydrogen, Chiyoda Corporation and Kawasaki Heavy Industries are researching how to transport it cheaply as hydrogen. Japan has to buy LNG at twice the US price, and buying it at the price for hydrogen would be a highly likely technological innovation. The future will be an era of using gas to generate electricity. Various countries have to make various investments in electricity, but as expected developed countries will depend greatly on renewable energy. The cost of renewable energy is high, however. Already close to US$1 trillion has been committed via a fixed price purchasing system. A further US$2.6 trillion will be applied as subsidies, and biofuel subsidies will also be applied. Japan will also use renewable energy in the future, and a high-cost electricity generating structure is unavoidable. In addition there is also the problem of the grid being divided east-west at 50Hz and 60Hz. The IEA has made a forecast of wide differences in household electricity prices for various countries to 2035. It can easily be understood how important the buying of nuclear power and cheap gas will also be for Japan's industrial competitiveness. Nuclear power, with China central, will be used, and how Japan maintains this technology and shares the lessons of Fukushima with each country will be important. We must also develop fourth-generation nuclear reactors. The issue of enhancing energy security is one of 50 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH Session A: Gas and Oil Summaries of Report Contents Toshihisa Sato of Chubu Electric Power Co., Inc., made an introduction of the Joetsu Thermal Power Plant, which among the company’s power plants is uniquely located on the Sea of Japan coast. With the total output of the power plant at 2,380 MW, they are aiming for the world’s highest level for thermal efficiency of over 58%. The LNG procurement for the Joetsu Thermal Power Plant has increased from 170,000 tonnes in 2011, to 1.3 million tonnes in 2013, and from 2014 on they plan a procurement of 1.88 million tonnes annually. The LNG received, other than being used as fuel for electricity generation, will also be supplied to ordinary industries by tanker lorry. Session A took the theme of oil and gas, the supply of which has been increasing in recent years from Russia to Japan, and in the future also are expected to play a major role for energy cooperation between the two countries. There were presentations from two persons from the Russian side, and five from the Japanese, and afterwards they undertook a question-and-answer session. Below, I shall introduce the key points of the statements in order. Nikolay Lovygin of the government of Primorsky Krai placed emphasis on the problems concerning the utilization of oil and gas, and made an explanation of the regional electricity-generating situation. Primorsky Krai is not able to supply itself with energy and is reliant on the import of energy from outside. Currently in the region, besides the “Vostochnaya Power Plant” (139.5 MW) which is under construction, there are renovation plans and replacement plans for a number of thermal power plants, including Vladivostok Thermal Power Plant 2. In addition, the government of Primorsky Krai is promoting a program to convert diesel-run generators in remote settlements to generating facilities which use renewable energy. Kuniharu Tsukada of INPEX Corporation made an introduction of the oil and natural gas development projects the company is promoting in Russia. The company is developing 79 projects in 28 countries around the world. In the CIS area the company is participating in the Azeri– Chirag–Guneshli (ACG) oil fields which produce a daily volume of 650,000 barrels and the Kashagan Oil Field which commenced production in September 2013. In Russia, it is participating in the exploration work in the Zapadno-Yaraktinsky block and the Bolshetirsky block. In addition, in May 2013 it concluded a cooperation agreement with the Russian state-owned oil company Rosneft regarding exploration in the Magadan II and Magadan III blocks in the Sea of Okhotsk. They are considering the potential in the future for the Arctic Ocean also. The report of Igor Svetlov of the Far Eastern Center for Strategic Research on the Fuel and Energy Complex was read on his behalf by Aleksandr Gulkov. He made a presentation on Japan–Russia cooperation on the fuel shift to natural gas in the Russian Far East region. Gas-turbine cogeneration is effective for the district heating supply and regional electricity supply in the Far East. Moreover, miniLNG of an envisioned annual production volume of 200,000–1,000,000 tonnes and transportation distance of 1,000 km is being investigated. Other than that, the government of Primorsky Krai has begun to examine the use of natural-gas-powered cars, and the Center is also cooperating on that. There is a variety of technology related to these things in Japan, and there was the desire to explore potential for cooperation. Masumi Motomura of the Japan Oil, Gas and Metals National Corporation (JOGMEC) discussed the significance of cross-border pipelines. According to him, in the United States in particular a way of looking at pipelines is taken, using Mackinder’s geopolitical analogy, as a means for resource countries to control consumer countries. In response to this he asserts that in supply via pipeline the benefits are important for both the supply and demand sides, and that pipelines have a “mutually-beneficial and reciprocal” nature. In addition, in the cases where there has been the political pressure of unilateral supply disruption by the supply country side, counteraction is possible in the form of a shift to other fuels for the demand country side. The price of pipeline gas from Russia to Europe from 2006 onward was mostly 20% lower than the import price of LNG for Japan and the ROK during the same period. In considering Japan’s future energy supply, it will be necessary to take account of these facts. Takashi Komura of Tohoku Electric Power Company Inc. delivered a report on such matters as the situation and characteristics of the electricity supply after the Great East Japan Earthquake. Amid the halting of nuclear energy generation, the generation of electricity by thermal power plants including LNG electricity-generation plants has increased. The company, in the future, is planning joint procurement with other buyers and the introduction of North American shale gas, and has a direction of attempting fuel cost reduction. He stated the hope that Russia, which possesses abundant amounts of resources and is also geographically close to Japan, would go on playing a major role, even more than to date, in Japan’s LNG supply, while taking account of the moves of Japan’s buyers affected by the changes in the market from shale gas. Nobuaki Aoyama of Nippon Steel Sumikin Engineering Co., Ltd., remarked on the changes that have been occurring in the global natural gas market in recent years. He emphasized among other things that the diversification of sources of supply is progressing, via the appearance on the scene of US shale gas, etc. As a result, the natural gas market has changed from a sellers’ market 51 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH session and exchange of opinions took place, relating to the development of pipelines, including the possibility of construction of a Vladivostok–Niigata pipeline. Within that the importance of Niigata as a hub receiving natural gas was emphasized. to a buyers’ market. What is important in such a situation is price competitiveness and stable supply. In the cases where they have considered transportation from Vladivostok to Niigata or from Sakhalin to Japan, for pipelines costs are lower than for LNG, and there are benefits for both Japan and Russia. In terms of results this will also be conducive to cooperative relations between the two countries. (Hirofumi ARAI, Senior Research Fellow, Research Division, ERINA) [Translated by ERINA] After these presentations a question-and-answer 52 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH Session B: Environment Summaries of Report Contents tonnes. From the viewpoint of measures to tackle global warming, in Japan, the development and proving, as clean coal technology for using coal cleanly, is being promoted from the two directions of high efficiency via hightemperature combustion and CCS (carbon capture and storage) technology for recovering CO2 and storing it in the ground. Related to the former, the following can be raised: ultra supercritical pressure system development; the practical application of IGCC (the integrated gasification combined cycle); and the development of IGFC (an integrated gasification fuel cell). Regarding the latter, verification tests via the participation of Japanese firms have been pursued in Australia. When such technology gets settled and established it will become possible to utilize cheaply the large amount of coal globally, and it will become possible to avoid CO2 emissions. The construction of cooperative relations in this area of coal-fired thermal power between Japan and Russia is hoped for. In Session B a total of six persons made reports from the perspectives of the environment, and energy-saving and renewable energy. Below I will introduce the summaries of the contents of those reports. 1. Yoshihiko Murasawa, Secretary General, Japanese Business Alliance for Smart Energy Worldwide (JASEWorld) "Introduction of JASE-World and Its Activities aimed at Russia" JASE-World, with an organization that has 90 members which are Japanese private-sector firms and bodies, is active on the challenge of continuing to develop overseas, placing energy-saving and renewable energy technology products and technologies which Japanese firms possess under a public-private cooperation system. In order to achieve this aim, we have created a book, "Japanese Smart Energy Products & Technologies", which can be called a general catalogue relating to Japanese technology in this field, and have sent it overseas. The working groups for individual sectors within the organization have been established, and a specialist group for the energy-saving sector related to Russia also has been established. At present in Russia domestically we have made our target striving for the spread and promotion of high-efficiency cogeneration systems, and discussions to base it on an ESCO (Energy Service Company) scheme have begun. 4. Akira Okunoya, Executive Officer in Charge of Overseas Business, Winpro Co., Ltd. "Introduction of Winpro's Technology and the Initiative in Vladivostok" Our company is a venture company undertaking the manufacture of small wind power generators. It possesses its own developed technology, including a vertical wind power generator which rotates regardless of the wind direction, a hybrid system which utilizes both wind and solar power, and a high-efficiency non-contact inversion generator with a maximum output of 5 kW. We concluded a basic contract on joint development with the Far Eastern Federal University in Vladivostok, and are progressing with consultation on installing a wind power generator on the campus of that university. Furthermore, with the plan of continuing to execute joint development with the Far Eastern Federal University in the field of renewable energy, including wind power generation, solar power generation, storage batteries, fuel cells, and biofuel power generation, we would like to make efforts in the future as a bridge between Japan and Russia. 2. Aleksandr Gulkov, Director, Institute of Oil and Gas, Far Eastern Federal University "The Prospects for the Creation of an Energy Center: Energy-saving and alternative energies on the basis of the Far Eastern Federal University" At the new Far Eastern Federal University, the themes of "energy resources and energy saving" have been designated as one of the directions for future development at the university. In order to achieve this, we are proceeding with collaborative research with firms and research institutes within and without the country, and it is planned to also establish an experimental plant on campus for education, research and development, and manufacturing. We would like to investigate constructing in the future a smart house on campus in collaboration with Japanese firms, and, making that the basis, introduce and disseminate the energy-saving technology of Japanese firms. In the area of small-scale wind power generators, concrete cooperative relations with Japanese firms are being constructed. 5. Nobuyuki Kusama, Director of Sales and Marketing, Toshiba Fuel Cell Power Systems Corporation "Residential Fuel Cell Systems" Our company manufactures and sells "Ene-Farm", a residential cogeneration system. It is a system for producing electricity and hot water where the fuel is town gas or LPG (liquefied petroleum gas); the gas is not combusted, but the hydrogen is separated and extracted and supplied to the fuel cell. At the company we commercialized and put the product on sale in 2009, and in the four years to 2012 sold 20,000 units. For 2013 we have plans to achieve sales of 20,000 in that one year alone. Due to the device showing promise for high energy-efficiency and great energy-saving outcomes, 100,000 have already been installed in Japan as a 3. Michiaki Harada, Director, Research and Development Department, Japan Coal Energy Center "Japan's Clean Coal Technology" For coal, in the world as a whole, import and export transactions of approximately one billion tonnes take place. Japan, also, has continued over the long term to import coal from Russia, and in 2011 it imported over 10 million 53 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH burnable gas; and then using this as fuel generates electricity. Giving consideration to application at smallscale sites and to low maintenance costs, we have commercialized plants of two standard kinds with electricity output of 25 kW and 50 kW, and we have realized a generating efficiency of 35%. In Russia there exist many areas that are not connected to electricity transmission lines, and it appears that there is latent demand for small-scale and distributed power sources. Furthermore, because the momentum for utilization of renewable energy is also continuing to increase, our company's technology appears able to contribute to Russia's needs also. whole, and it is rapidly spreading as a form of distributed energy source. With the Japanese government in the lead, each manufacturing firm has been planning the export of this device, and from 2016 there is the prospect of the promoting of overseas expansion. If that happens, it is hoped that there will also be a point of contact with Russia. 6. Shinobu Saito, Director, Environmental Sales Department II, Ohara Ironworks Co., Ltd. "Biogas Electricity Generators using Methane Fermentation" The "biogas power generation plant" which our company manufactures is a system with a plant based on the biochemical transformation technology of "methane fermentation" that: pretreats such materials as sewage water, sewage sludge, animal manure, kitchen refuse, and garden plant refuse; converts them to biogas which is a 54 (Takeshi SAKEMI, Deputy Director, Business Support Division, ERINA) [Translated by ERINA] ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH Summary of the Dialogue and the Niigata Appeal on Energy and the Environment SUGIMOTO, Tadashi Chair Person, Japan-Russia Energy and Environment Dialogue Executive Committee, and Deputy Director-General, ERINA Regarding Japan-Russia energy cooperation, while many projects have been examined to date, challenges for their realization have been raised based on the background and experience thereof. Reported at the "Dialogue" were: the possibility of the participation of Japanese firms in the electricity-generating sector and the connecting-up to the gas supply in the Far East; the actual situation for cooperation with Russia in the energy-saving and new energy sectors; the case example of resource development cooperation between Japan and Russia; and, along with the current status of multilateral gas pipelines being introduced, the situation for LNG import and use in electricity generation, an introduction of energysaving and renewable energy technology, and the current status of the use thereof. Reported as successful cases were the firms which visited Russia as part of the work of the "Japan-Russia Association to Promote Interregional Business" which ERINA set up in collaboration with Russia, and the cooperation agreement concluded with Russia's Far Eastern Federal University continuing to bear fruit in the new energy sector. The basic agreement was introduced at last year's "Dialogue", and was the first example that led to actual business in the six-year history of the "Dialogue". This year there was a second successful result. With the Irkutsk Oil Company introducing the company's work at last year's "Dialogue", in September of this year Itochu and INPEX decided on capital participation by way of JOGMEC, the partner of the Irkutsk Oil Company. We are extremely happy that the "Dialogue" has played the role of go-between. Based on the above outcomes, we proclaim the "Niigata Appeal on Energy and the Environment 2013". Looking at last year's moves between Japan and Russia, in addition to summit meetings this year alone numbering four occasions, several high-level deliberations such as meetings between foreign ministers and defense ministers were held, and both sides are making efforts in constructing good relations. Turning our attention to Japan's energy situation, with the post-Fukushima direction as yet undrawn, the formulation of clear-cut energy policy is extremely urgent. On the other hand, for Russia, via the emergence of shale gas, a change in the preeminence of Europe has occurred, and is turning the energy policy vector to the east. The "Energy and Environment Dialogue" this time around was held in such circumstances. At the "Dialogue" we received messages of greeting from the organizers and guests, and along with stating the objectives, significance and direction of this dialogue, the expectations for energy and environmental cooperation between Japan and Russia were stated. In the keynote addresses, various issues related to the current situation for Japan-Russia relations, the direction for Japan's energy policy, the prospects for the import of energy, and shale gas were touched upon. Such matters as the laying of natural gas pipelines and electricity transmission lines crossing the Sea of Japan and the interest of the Russian side in electricity-generating projects in Japan have been shown as a new direction for Japan–Russia relations in the future. It was emphasized that, with the experience of the EU being introduced, it could become a model for Asia, and in addition that it was necessary to create an arena for deliberation on energy security in Northeast Asia. It is thought important that this organization have binding force. The Sixth Japan-Russia Energy and Environment Dialogue in Niigata The Niigata Appeal on Energy and the Environment 2013 18 November 2013 in Niigata City Not only does Niigata have a long history of exchange with the countries of Northeast Asia, but it also receives energy, such as oil, natural gas, and coal, and uses it in industry and the civilian sector, and plays an important role as a hub for its transportation on to other regions of Japan. In addition in Niigata there are many enterprises specializing in the development of energy technologies. Thus we can say that the holding of the "Dialogue" in Niigata has great significance. The organizers of the "Dialogue", Niigata Prefecture, the City of Niigata, and ERINA, having taken into account the 55 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH results of the current "Dialogue", are convinced that the evolution of energy and environmental cooperation between Japan and Russia will assist the strengthening of energy security not only of Northeast Asia but also of the whole world, and in order to maintain and further expand the initiatives of the "Dialogue" which have brought together central and regional industry, academia and government, they make the following proposals: ●The expansion of the human networks in Japan and Russia for the continuation and development of the "Dialogue", as well as disseminating information on the attraction of the "Dialogue" domestically and internationally and raising the interest of the parties concerned; ●The finding and determination via the "Dialogue" of promising projects that may lead to concrete business results, and the application of effort to increase the number of successful examples; ●The further strengthening of the dominant position and functions of Niigata, as a receiving center and transport hub for energy resources, a role which Niigata fulfils for the Japanese energy industry; ●The publicizing of the significance of the "Dialogue" and the appeal for joint initiatives by Japan and Russia to the interested organizations domestically and internationally with the proposal of the necessity of the formation of mechanisms for cooperation in the area of energy security in the Northeast Asian region. [Translated by ERINA] 56 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 自動車メーカーの新興国ロシアへの参入戦略 ―双龍自動車、マツダ、トヨタ自動車のウラジオストクでの セミノックダウン(SKD)生産による参入を事例として― 事業創造大学院大学教授 富山栄子 はじめに 組立をしないで輸出し、現地で組み立てる形態を指す。現 自動車の主要市場が先進国から新興国へ変わってきてい 地ではプレス工場、溶接工場、塗装工場、組立工場等を有 る。トヨタ自動車など日系自動車メーカーは、これまで、 する。輸出先は相対的に自動車産業の発展度が高い国であ 需要が高まる新興国などで生産する場合、品質を優先し、 る3。 自社の工場建設に膨大な金額を費やしてきた。新興国は急 新興国市場をいかに開拓し、どのようにマネジメントし 激に成長するためスピードが重視される。例えば韓国の現 ていけばいいのかという研究が近年盛んに行われている 代自動車は、グローバルな展開において、ライセンシング (多国籍企業学会(2012)他) 。しかしながら、従来の研究 などのKD生産という外部委託により、ローカル企業の資 は、日米欧の多国籍企業の具体的なメーカーの海外市場へ 1 源を活用して迅速に市場参入する戦略を多用してきた 。 の進出形態(直接投資(完全所有子会社か合弁)なのか、 トヨタ自動車(以下、トヨタ)はロシア極東ウラジオス それともローカル企業との契約(ライセンシング等)なの トクで、現地の自動車メーカー「ソラーズ」と三井物産の か、及びその効果等に関する研究(大石編著(2009) 、 合弁会社「ソラーズ・ブッサン」で、セミノックダウン Cavusgil他著(2002) 、M.Kotabe, K.Helsen(2007))が大 (SKD)生産を2013年2月に開始した。トヨタの他にも、 半であった。そうした中で、現地におけるSKD生産の研 双龍自動車(以下、双龍)、日本のマツダもウラジオスト 究蓄積は手薄であった。新興国市場での競争力優位の確保 クの「ソラーズ」でSKD生産を行っている。ウラジオス は、 日本の産業にとって今後大きな課題である。本研究は、 トクは、ロシア政府が自動車生産や資源加工をはじめ日本 新興国市場へのSKD生産による新たな参入方法を分析す や韓国から投資誘致や技術導入に力を入れている地域であ ることで、 グローバル競争戦略の再考を促すことを目指す。 り、ロシア極東のビジネスの中心地である。また、シベリ 本稿では、最初に、ロシア政府の極東重視政策とソラー ア鉄道を使い、ロシアの西側地域へモノを運ぶロジスティ ズについて概観する。次に、双龍、マツダ、トヨタのSKD クスの始発点でもある。ロシアの沿海地方は、自動車工業 生産とロジスティクス、販売マーケティングについて分析 団地という形で経済特区の申請を行い地域拡張計画がある を行う。具体的には、現地での品質管理や人材育成をいか が、ロシアのガルシカ極東発展相は2013年12月26日、訪ロ に行っているのか、ウジオストクの「ソラーズ」でSKD 中の茂木敏充経済産業相とモスクワで会談し、自動車関連 生産を行う理由とプロセス、その成果、トヨタのSKD生 など輸出型企業の極東地域への進出を促すため、法人税や 産における三井物産の果たす役割等について明らかにす 地価税の減免を柱とした新たな経済特区を2014年に新設す る。最後に、双龍とマツダ、トヨタのロシア・ウラジオス 2 る意向を表明している 。この経済特区が正式に認可され トクでのSKD生産と販売マーケティングの共通点と相違 れば、ロシアのソラーズで行われているSKDからCKDへ 点について明らかにする。 の移行にプラスに働く可能性がある。ちなみに、SKD生 産とはSemi Knock Down生産の略で、部品を本国である 1.研究方法 程度までユニット化、コンポーネント化した後に輸出し、 定量分析だけでなく、文献データの収集、インタビュー 現地で組立てる形態を指す。現地でボルト、ナット、簡単 調査による定性研究が中心である。2011~2012年にかけて な溶接機械等で組立が可能である。輸出先は相対的に自動 日本、韓国、ロシアで現地調査を実施した。双龍の韓国本 車産業の発展度が低い国である。CKD生産はCompletely 社、トヨタ本社、ロシア・ウラジオストクでのマツダ・ソ Knock Down生産の略で、部品を単体のままで、ユニット ラーズ、ソラーズ・ブッサン、双龍車とマツダ車のSKD 1 富山・塩地(2010)。 日経産業新聞、2013年12月27日付。 3 富山・塩地(2010)同上。 2 57 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH ソラーズ 生産工場、ソラーズ広報部で調査を実施した4。 ソラーズは旧社名セベルスタルアフト(SeverstalAvto) 2.ロシア政府の極東重視政策とソラーズ 自動車工場を傘下に収める持ち株会社として、2002年に設 ロシア政府の極東重視政策 立された。2004年に軍用車両をベースとするSUVや、商 2012年9月にウラジオストクで開催されたAPEC会議を 用車の生産を行うUAZ6を買収。2005年にかつてサブコン 契機に、極東が脚光を浴びている。プーチン政権は2013年 パクトカーのラダ・オカの生産が行われていたZMAのナー 3月、極東開発を重要な国家戦略と位置付け、2025年まで ベレジュヌィ・チェルヌィ工場をカマーズから買収し、 に総額で約11兆円の連邦予算を決めた。ロシアはゴルバ 2006年からフィアット車の生産を開始した。2007年にはい チョフ時代から極東長期開発計画を次々と打ち出してきた すず、双日とともにいすずトラックの生産販売を行う合弁 が、多くの計画は絵に描いた餅に終わった。また、ロシア 会社を設立し、2008年、社名を現在のソラーズに変更。エ は最大の貿易相手である欧州に石油・ガスなどのエネル ラブカに新工場を設立し、フィアット、いすず、双龍車の ギー資源の大半を輸出し、欧州諸国との経済関係を強化し 生産を開始した。 ていたが、欧州経済が低迷し、欧州諸国への輸出だけでは 2009年12月に、ソラーズが100%出資するウラジオスト 大きな成長が望めない状態に陥った。そのため、ロシアは クで自動車の組立を行うための極東工場を設立し、2010年 エネルギー輸出戦略の見直しを行うと共に、脱エネルギー から双龍のアクティオン(小型SUV)などのSUVの組立 資源、貿易商品構造の多角化などを余儀なくされ、アジア を行っている。これは、エラブカ工場で行っていた双龍の 太平洋地域に重心を移行するようになった。そして2012年 SUVの組立生産を移管させたものである。表1の通り、 にAPECがウラジオストクで開催され、インフラ整備を進 双龍の生産台数は順調に増加している(表1)7。 めた。ロシア政府は極東地域の人口減少を食い止めるため にも経済振興を目指しており、その意向に沿う形でソラー 鉄道輸送の際の特典 ズがウラジオストクで生産事業を拡大してきた。同社の ソラーズの極東工場は、工業アセンブリ措置の枠内での シュヴェツォフCEOはフリスチェンコ元産業商業大臣の 特典とともに、生産した車を極東以外のエリアに鉄道輸送 娘婿であり、政治力がある。現在、ソラーズのウラジオス する際の鉄道料金(鉄道インフラ使用料金)を免除される トクにある極東工場では、双龍車、マツダ車、トヨタ車の という特典を享受している。以前は、免除額に相当する金 SKD組立が行われており、ソラーズは同地域での生産規 額を国がロシア鉄道に補助金として給付する形が取られて 5 模を将来的に年18万台程度まで増やしたい考えである 。 いたが、ロシアのWTO加盟後は、免除額に相当する額の 補助金がソラーズに支払われ、ソラーズがその補助金でロ シア鉄道に鉄道料金を支払っている。2013年は、当初30億 表1.ソラーズ、ブランド別・モデル別乗用車生産台数(2007−2012年) (単位:台) メーカー ブランド モデル 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 ソラーズ フィアット アルベア他 フォード クーガ,S-Max,ギャラクシー ,エクスプローラー 双竜自動車 アクティオン,レクストン他 21,678 36,006 UAZ ハンター , パトリオット他 31,869 30,953 14,811 24,716 30,394 32,469 マツダ CX-5 双竜に含む – – ソラーズ計(フォード、マツダ合弁分含む) – – 10,658 18,560 – – 649 207 6,992 5,369 13,662 25,127 32,773 – – – 3,108 53,547 66,959 20,180 49,036 74,730 75,549 出所:FOURIN 世界自動車調査月報No.334, 2013年6月号, 21頁。 4 ウラジオストクのソラーズ広報部(2012年9月19日)、韓国の雙龍本社(2012年8月16日)、ウラジオストクのソラーズ・ブッサン(2012年7月4日) 、 ウラジオストクのマツダ・ソラーズ(2012年12月25日)、トヨタ本社(2013年5月27日)、トヨタ本社(2011年9月7日)の調査による。 5 公益財団法人環日本海経済研究所(ERINA) ・ユーラシア研究所共催パネル討論会「エネルギーが北東アジアを繋ぐーエネルギー輸送インフラス トラクチャーと安全保障」 (2013年12月16日㈪会場 新潟市朱鷺メッセ)における配付資料およびパネル討論(池田元博「ロシアの天然ガス資源と 日ロ協力」 、兵頭慎治「ロシアの北極政策」 、平石和昭「北東アジアの天然ガス輸送インフラストラクチャー」、本村真澄「ロシアの展開するパイプ ライン地政学」、蓮見雄「エネルギー政策にみる欧州の絆と買い手としてのパワー」による。 6 1941年設立の自動車メーカーで第2次大戦時に軍用車の生産を開始。ウリヤノフスクでは軍用車をベースにしたSUV、トラックやバスの生産を行っ ている。 7 ソラーズに関する記述はFOURIN(2013b)による。 58 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH ルーブルの補助金が想定されていたが、極東工場での生産 に任せっきりである。双龍車の組立ラインでは、女性の姿 台数が伸びているため49億ルーブルに増額されることに が目についた。簡単な組立作業であるため、女性でもでき なっている。2014~2015年についても合計で65億ルーブル る仕事は女性も担っている。オフィスを含め30%が女性で の補助金が供与されることが内定している。国家プログラ ある。 ム「2020年までの産業発展と産業の競争力の向上」によれ ロシアでの双龍車の販売は、 ソラーズの100%子会社「双 ば、さらに2016~2020年に合計で201億ルーブルの補助金 龍販売会社(DC SsangYong) 」が行っている。双龍車の 8 がソラーズの極東工場に対し供与されることになっている 。 販売台数は、ロシア国内では1位モスクワ、2位サンクト ロシア政府の極東産業振興策であるこの特典がある間 ペテルブルグ、3位極東連邦管区である。双龍自動車の は、少なくとも極東で自動車組立を行い、ロシアのヨーロッ ディーラーは、74都市に104社ある(2012年)。モスクワで パ地域へ完成車を輸送しても十分に価格競争力がある。 の双龍車の価格は、極東連邦管区ウラジオストクよりも 3万ルーブル高い価格に設定されている。それはソラーズ 3.双龍車のSKD生産 の工場がウラジオストクにあるため、会社の方針として、 双龍は1954年に『河東煥自動車製作所』として設立され、 工場所在地での販売価格を安く設定しているとのことであ 1963年、河東煥自動車工業株式会社として改組された韓国 る。ソラーズは、工場と韓国の双龍自動車本社とをテレビ の自動車メーカーである。1979年に韓国京幾道にある平澤 会議でつなぎ品質会議を行っており、問題が発生したら一 工場で生産を開始したが、経営悪化により1997年乗用車部 緒に解決している。現在の極東のソラーズの機械設備は、 門の経営権が大宇グループへ譲渡された。2004年に中国の かつてナーベルジュニエ・チェルヌィの同社の工場にあっ 上海汽車(SAIC)による買収を経て、2011年3月にイン たものである。当時は品質管理のための韓国人が駐在して ドの自動車メーカー、マヒンドラ&マヒンドラが70%出資 いた。その後、極東でソラーズの工場が稼働することにな 9 し買収した 。 り、ナーベレジュニエ・チェルヌィからフレーム構造の 双龍車のSKD生産が行われているソラーズの極東工場 SUVラインをウラジオストク工場まで輸送した。ウラジ の専用バースには韓国から部品を積んだ船が入港し、工場 オストク工場では、韓国人は常駐したことがない。ソラー から埠頭まで20mの好立地にある。工場からシベリア鉄道 ズのウラジオストク組立工の平均年齢は27歳である。ソ の引き込み線まではわずか7mである。ロジスティクスと ラーズによると、 ウラジオストクの工場での組立開始時は、 しては理想的である。部品は韓国のほか日本からも運ばれ 組立に時間がかかり、3交代で一日中稼働していた。タク てくるため、内陸では輸送効率が悪く、現調率が低いプロ トタイム(1工程に要する時間)は20分以上。今はスピー ジェクトは内陸部は不利になるからである。コンテナ船が ドアップし、2交代でできるようになった。工員は1週間 直接、工場前のバースに入り、荷卸しされ、コンテナは保 交代で昼夜入れ替わり勤務している。直行率は95%程度で 税倉庫にいったん仮置きされる。そして、必要に応じて通 あり、1日154台組み立てているが、その中で1~2台に 関されている。通関後に部品はラインに供給され、組立を 問題があるという10。それは、輸送中の船の嵐などで車体 終えた完成車はヤードに保管され、シベリア鉄道に載せら に傷がついた場合に、修正用塗装程度を行うとのことであ れて出荷されている。埠頭は工場の目の前にあり、シベリ る。毎月3カ月分の余裕を見て、20日までに注文が来た分 ア鉄道の引き込み線まで近く、コスト的にも輸送距離的に を組み立てている。 も競争優位のある立地である。双龍にとり、ロシアは韓国 販売マーケティングもソラーズの100%子会社「双龍販売 に次ぐ最大の市場である。 会社(DC SsangYong) 」が行っており、双龍がソラーズに ソラーズ極東工場における双龍車の生産台数は2010年 販売マーケティングを丸投げしている。これはマーケティ 1.4万台、2011年2.5万台、2012年3.3万台へと年々拡大して ング政策上望ましいとは言えない。なぜならば、ソラーズ いる(表1)。2012年には新型アクティオン(小型SUV) 、 の子会社からの受注により販売量や価格が決定されるので、 アクティオン・スポーツ・ピックアップの生産も開始され 双龍自動車にとっては売上が不安定になる。さらに、ロシ た。ソラーズにおける双龍車の組立は、すべてソラーズの アにおけるマーケティング技法や販売チャネルに関するノ 販売会社からの受注生産である。双龍車の組立はソラーズ ウハウや経験が自社に蓄積できない、販売促進活動の積極 8 ソラーズ広報部調査へのヒアリング調査による(2012年9月19日、ロシア語)、坂口(2013)13頁参照。 双龍に関する記述は、双龍本社での調査および水野(1997)による。 10 1日154台は、マツダ、ソラーズ・ブッサンがまだSKDを始めておらず、双龍のSKDだけが行われていた時のことである。 9 59 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 表2.マツダ、ロシアモデル別乗用車販売台数(2007〜2012年) (単位:台) 化やアフターサービスの改善なども自社で管理できない。 自社でディーラーに販売できないため、顧客が抱える問題 モデル 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 マツダ2 - 2,357 1,029 577 848 742 マツダ3 28,547 39,144 13,006 9,976 15,730 14,324 マツダ5 1,260 2,002 412 328 330 455 マツダ6 15,298 17,569 8,583 9,127 11,723 10,223 MX-5 80 115 59 40 73 63 − - - RX-8 22 27 2 CX-5 - - - - - 13,063 CX-7 2,845 8,896 4,833 4,059 9,488 5,441 CX-9 - 543 1,873 - - 47 BT-50 1,544 2,618 846 819 1,526 85 や新たな情報を入手できない。そのためにマーケティング イノベーションにつながらない。顧客に対する適応、製品 革新や製品の一部改良のための顧客からの新しい情報が入 手しづらいからである11。 4.マツダ車のSKD生産 マツダのロシア事業沿革は以下の通りである。 2004年12月、現地駐在員事務所を設立し、2005年12月に 100%出資の販売子会社マツダモーターロシアを設立した。 出所:FOURINロシアトルコ中東欧自動車部品産業2013、149頁。 同社はインポーターディストリビューター(総輸入販売会社) 表3.マツダ、ロシアセグメント別乗用車販売モデル一覧(2013年4月) である。ロシアでマツダ車はスポーティーな車づくり、デザ セグメント A B C D E 高級 スポーツ SUV MPV ピックアップ インに人気があり、ロシアの30歳代のスポーティーやスタイ リッシュな車を好む人にフィットし、マツダ3(Cセグメン ト12)やマツダ6(Dセグメント)は、 2009年のリーマンショッ クまでは急激に売上を伸ばした(表2)13。2008年10月には ロシアヨーロッパ部への輸送時間を短縮するため、シベリア 鉄道を利用した自動車輸送を開始した。広島本社工場と防 府工場から完成車を海路でウラジオストク近郊のザルビノま で運び、そこからシベリア鉄道で30両編成の専用列車でモ 投入モデル ●マツダ2 ●マツダ3 ●→★マツダ6 ― ― ●MX-5 ●→★CX-5、●CX-7、●CX-9 ●マツダ5 ●BT-50 注:・★現地組立生産、●輸入 ・マ ツダ6とCX-5の●→★は、輸入から現地組立生産へ移行 したことを意味する 出所:FOURINロシアトルコ中東欧自動車部品産業2013、149頁を基に、 マツダ・ソラーズへのヒアリング調査に基づき、加筆・修正して作成。 スクワまで運ぶルートである。モスクワまでの約9,300kmの 所要日数は11日前後であり、これまでの西欧経由の海路と陸 路の輸送システムに比べ最大30日短縮することができた。 2012年9月にソラーズと折半出資の合弁会社「マツダ・ソラー 図1.マツダの世界主要国国別自動車販売台数(2010~2012年) ズ・ マ ニ ュ フ ァ ク チ ャ リ ン グ・ ル ス(Mazda Sollers Manufacturing Rus) 」を設立し(投資額100億ルーブル(約 250億円) ) 、同年10月から、CX-5の組立生産を開始した。工 場は現地のソラーズの既存工場を活用した。2012年10~12 年 月の生産台数は3,108台であった。従業員数は約1,000人で将 年 来SKDに移行したら3,000人規模になる予定である。ロシア 年 極東での乗用車組立生産開始は、日系メーカー初であった。 マツダの山内孝社長は、ロシア市場を「300万台に迫る勢い 万 で世界屈指の市場に成長しており、その中でも特にウラジオ ストクは、東アジア経済圏へのアクセスポイントとして大い 万 万 (台) 出所:FOURIN世界自動車調査月報NO。334 2013.6、16頁より作成。 11 双龍車に関する記述はウラジオストクのソラーズ広報部での調査による。 セグメントは乗用車の分類基準である。単純に全長を基準として分類もあれば、全長、価格、イメージ、装備など複数要件を勘案した分類もある。 国により、また分類する会社により基準が異なる。たとえば欧州の代表的な調査会社グローバル・インサイトは、セグメントAがSmall Car、セグ メントBが Super Compact、セグメントCがLower Medium、セグメントDが Upper Medium、セグメントEがExecutiveと分類している(吉田(2003) ) 。 本稿では、FOURINの分類に基づいている。 12 13 マツダ車はロシアでは30歳代、ドイツでは50歳代、日本では40歳代が主として購入しているという。マツダ車は全世界同じスペックだが、国ごと に顧客の年齢層が異なっている。国ごとのレギュレーシヨンが異なるのでロシア向けのチューニングは日本本社で行っている。ロシアのウラジオス トクで組み立てているCX5は構造は同じでもチューニングが異なる(マツダ・ソラーズでの調査による)。 14 マツダ株式会社(社長:山内 孝)と、OJSCソラーズ(Sollers)社(ヴァディーム・シュヴェツォフCEO)との、2012年9月6日にロシア極東連 邦管区沿海地方ウラジオストク市での、生産合弁会社 MAZDA SOLLERS Manufacturing Rus(マツダ・ソラーズ・マニュファクチャリング・ルス) 設立記念式典における山内孝社長のスピーチから抜粋(マツダ、プレスリリース2012年9月6日)。 60 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH なる発展が期待されており、ロシア自動車産業の新たな拠点 着後、マツダのディストリビューター、ディーラーで修理 14 として成長していくことに貢献したい 。 」と考えており、現 対応している。数年以内に、現在のSKDによる簡易的な 在のSKDからCKDへの用意周到な準備を行っている。 組立から、車体・塗装・組立の一貫生産へ移行する計画で マツダは、2013年4月からマツダ6(Dセグメント)の ある。今の陣容に比べて倍以上のエンジニア、工場作業者 生産を開始した(表3)。年産能力は5万台で、将来的に を雇う。そのための建設計画、作業計画、採用計画、組織 は車体・塗装工場を新設し、年産10万台規模を目指してい 体制を作成中で、一部はすでに実行開始されている。今後 る。マツダにとっては、欧州ではドイツが最大市場であっ は、日本やアセアン諸国の工場での教育を考えており、今 たが、2012年にはロシアが抜いた(図1) 。マツダは、ロ から2014年内までにやっていくという。部品の関税優遇措 シアには経済的リスクなど不安要素はあるが、市場は確実 置の条件として、優遇対象の輸入部品を一貫生産開始後か に伸びる市場であると判断し、生産の合弁会社設立に踏み ら4~5年以内に30%減らさなければならない。この条件 切った。マツダは、双龍自動車の組立が行われている同じ を達成するため、ソラーズと協力して部品の現地調達を進 建物の中にSKDのラインを敷設し組立を行っている。 める、あるいはマツダの中国やアセアン諸国の生産拠点を 販売マーケティングは、マツダの100%子会社「マツダ・ 活かした部品コスト低減を進めることを考えているとのこ モーター・ルス(Mazda Motor Rus)」がインポーターディ とである15。 ストリビューターとして、全ロシアのディーラーへ輸入卸 売マーケティングをしている。マツダCX- 5は、2012年日 5.トヨタ車のKD生産 本のカーオブザイヤーであり、競合する車種はトヨタの トヨタの参入プロセス RAV4、VWティグアンなどの小型SUVカテゴリーであ トヨタのロシア市場参入プロセスは、旧ソ連時代に商社 る。ロシアは悪路のためにSUVの販売高が伸びており、 経由でロシアへ輸出する間接輸出を行うことから始まっ マツダは最初にSUVのCX- 5のSKDから始めた(表3)。 た。その後、1998年駐在員事務所設立、2001年総輸入販売 テストトラックも併設されている。2012年の生産能力は 会社「トヨタ・モーター・ロシア(TOYOTA MOTOR 35,000台。2013年には5万~6万台。将来的に車体・塗装 RUSSIA(TMR) ) 」を設立し、2002年TMRが営業を開始 工場を立ち上げ、CKD年10万台規模までの拡大を目指し する。2005年4月ロシア経済発展貿易省、サンクトペテル ている。工員は新卒採用で3週間オフラインでトレーニン ブルク市とMOU締結、2005年5月にサンクトペテルブル グし、その後1週間インライン、全部で1カ月くらいの訓 グに生産会社「トヨタ・モーター・マニュファクチャリン 練を行っている。 グ・ ロ シ ア(TOYOTA MOTOR MANUFACTURING マツダの組立用部品は、最初に広島から車両を韓国の浦 RUSSIA(TMMR) ) 」を設立し、2007年12月にトヨタカ 項市(ポハン市)の港まで運び、そこで双龍の部品と一緒 ムリ(Eセグメント)の現地生産を開始した。その後2010 の船に積み替えて、ウラジオストク工場へ供給されている。 年8月、三井物産がソラーズとの生産合弁会社ソラーズ・ ロシア政府による部品輸入関税の旧制度の適用は、2012年 ブッサンを折半出資で設立。2011年3月、ソラーズ・ブッ 以前に締め切られていたが、極東だけは経済発展強化地域 サンが極東ウラジオストクの工場でランドクルーザー・プ として旧制度の適用が特別に認められており、マツダはそ ラドの組立を開始することでトヨタと基本合意し、2013年 れを利用して事業を行っている。マツダからは日本人4人 2月にSKDを開始した。 が合弁会社へ出向している。副社長1人、技術者2人(品 SKD生産する車種は、ソラーズ・ブッサンから提案が 質担当と生産技術担当)、財務担当1人である。合弁の業 あり、トヨタが最終決定した。ロシアではSUVなどの大 務分担は、マツダは生産と品質・量産準備を担当し、人事・ 型車・高級車に人気があること等を考慮に入れて、ランド 総務や政府との渉外事項はソラーズが担当し、会社の重要 クルーザー・プラドに決定した(表4、表5) 。組立てら 事項については両社からの出向者幹部による合議で決定し れた完成車は、モスクワにあるトヨタ・モーター・ロシア ている。完成車は、極東向けを除いて全数シベリア鉄道に (TMR)が全量買い取っている。事業主体は三井物産とソ よって出荷されている。シベリア鉄道輸送に関しては、品 ラーズであり、ロシア政府の部品輸入関税優遇旧制度が適 質、期間ともに大きな問題はないとのことである。輸送途 用されている。トヨタは部品供給と生産および技術指導・ 中でのいたずらなど些細な問題が時々あるが、目的地に到 品質管理のサポートをしている。組立プロセスは以下のと 15 マツダのロシア事業に関する記述はマツダ・ソラーズでの調査による。 61 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 表4.トヨタ、ロシアセグメント別乗用車販売モデル一覧(2013年4月) セグメント トヨタ A B C ●カローラ ●オーリス ●ヴァーソ ●プリウス D E ★カムリ 高級 スポーツ ●GT86 SUV ●RAV 4 ●ヴェンザ ●ハイランダー ●→★ランドクルーザー・プラド ●ランドクルーザー200 MPV ●アルファード ●ハイエース PU ●ハイラックス レクサス ●CT ●IS●ES●GS ●LS ●RX●GX●LX 注:・★現地組立生産、●輸入、iQは2009年、2010年のみ投入、ヤリスは2010年まで投入していた。 ・ランドクルーザー・プラドの●→★は、輸入から現地組立生産へ移行したことを意味する。 出所:FOURIN ロシアトルコ中東欧自動車部品産業2013 126頁に加筆して作成。 表5.トヨタ、ロシアモデル別乗用車販売台数(2007〜2012年) (単位:台) モデル iQ ヤリス カローラ カローラ・ヴァーソ ヴァーソ オーリス プリウス アヴェンシス カムリ RAV4 ハイランダー ハイラックス ランドクルーザープラド ランドクルーザー100 ランドクルーザー200 アルファード GT86 2007年 - 4,775 38,942 1,039 - 10,908 - 20,843 26,358 22,856 - - 11,542 6,423 1,287 - - 2008年 - 5,693 63,986 923 - 19,342 - 19,337 28,029 22,918 - - 16,236 - 12,388 - - 2009年 16 2,110 16,067 552 470 3,059 30 6,960 16,452 9,167 - - 5,517 - 7,606 - - 2010年 69 135 16,417 - 2,029 1,865 367 3,079 16,149 16,479 765 201 12,652 - 8,699 - - 2011年 - - 27,007 - 2,291 2,097 225 2,549 21,442 27,206 9,589 1,732 12,177 - 12,312 - - 2012年 - - 33,262 - 2,734 2,734 115 1,245 34,619 27,166 11,281 6,535 17,186 - 15,518 439 147 出所:FOURINロシアトルコ中東欧自動車部品産業2013、126頁。 おりである。すなわち、トヨタが田原工場で部品の梱包を ライン投入からラインオフまでは1日弱かかる。トヨタに 行い、三井物産が田原工場から豊橋港へ輸送アレンジをす とっての利益は、部品販売とTMRの完成車販売による。 る。ソラーズ・ブッサンはコンテナ海上輸送、再組付、完 このプロジェクトには、田原工場が支援工場に指定され、 成車輸送に責任を負い、鉄道貨車積み込みをして輸送する。 立ち上げ前から支援をしてきた。立ち上げ前は10数名が半 トヨタ車の組立は双龍・マツダ車の組立の工場とは別の建 年張り付き支援をしてきたという。立ち上がり後は、常駐 物で行われているが、両ブランドと同様に、ウラジオスト で田原工場品質管理部と組立部から1名ずつ現地に駐在し クの工場では組立のみで、溶接、塗装のないSKDである。 ている。ポジションは「Executive Coordinator16」である。 16 ラインに入らない技術責任者。 62 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 人材育成はソラーズが行っている。初心者・未経験者には、 最重要課題になってきた。三井物産は、サハリンⅡも含め 基礎的トレーニングを4週間行っている。ソラーズには、 幅広くロシアと商売してきており、ロシアに対して何か手 韓国車で培った教育プログラムがあり、それにトヨタがア 伝いができないかという中で生まれたプロジェクトの1つ ドバイスを加え、ソラーズとトヨタの良い点を取り入れて である。 実施している。日当たり2直。月約1,000台。年間で13,000 また、ロシアで事業を行うには、パートナーが重要であ ~14,000台の計画である。海上輸送は、荷量的に10日に1 る。三井物産がパートナーをソラーズに選んだのは、同社 船程度である。シベリア鉄道での輸送は、トヨタの荷量だ はアフトヴァズと並び、ロシアの自動車産業を発展させる 17 けではブロックトレイン を仕立てられないため、輸送途 上での核の1つと認識されているため、政府からの支援を 上で他の荷物を積んだ貨車と連結されて運ばれていく。 受けやすい状況にあったこと、ソラーズは三井物産ともの リードタイムは20日程度となっている。一部資材を除き、 づくりを共にできる、品質を重視する価値観を共有できる 部品はすべて日本からの支給である。ソラーズ・ブッサン 企業であったからである。 両社は自動車製造だけに限らず、 の従業員は、現場と管理含め280人(2013年7月4日現在) 。 様々な分野で事業展開している19。 なお、ウラジオストクのソラーズの従業員総数は1,100人 また、ロシアにおいて、現代/起亜、BMW、アウディ である。トヨタは、モスクワ現着ベースで、完成車で輸入 等多くの欧米韓国自動車メーカーが、現地の組立メーカー してきたCBU(完成車)とウラジオストクでソラーズ・ブッ であるアフトートル等でSKD生産を行ってきたのに対し、 サンがSKD生産したランドクルーザー・プラドの販売価 トヨタは品質にこだわり、現地の組立工場に組立を委託す 格を同一としている。極東(ウラジオストク、ハバロフス ることはしてこなかった。それでは、 なぜ、 トヨタがソラー ク、ナホトカ)のディーラーへは、ウラジオストク渡しだ ズ・ブッサンにSKD方式で組立を行うことにしたのであ が、それ以外はモスクワまでシベリア鉄道で運び、そこか ろうか。次節では、トヨタの海外におけるSKD生産の簡 ら各都市へ運ぶ。これはロジスティクス上、非効率である 単な歴史を振り返り、トヨタの2010年以降の新興国基本戦 とトヨタも認識しているとのことである。輸送後は、 略を概観する。 TMRが<引き取り前品質点検>を行っている。シベリア トヨタの海外におけるKD生産の歴史と新興国基本戦略 鉄道には、コンテナではなく車両輸送用専用貨車で、1両 18 に8台載せて運んでいる 。 トヨタは、従来は毎年世界のどこかで新工場を新設し、 数量と収益を追求してきた。大きな工場で効率化、台数を 三井物産の役割 追うことに主眼があった。それが2010年頃から小さい需要 本プロジェクトは、三井物産からトヨタに対して提案さ にきめ細かく対応し、愚直に新興国でも存在感を高めてい れた事業である。プーチン大統領が2012年に2期目の大統 くことも重視するようになった。小さな国の顧客の声にも 領に就任すると、極東の経済発展が「最重要の地政学的課 対応できなければ将来はないと考えた同社は、単純に台数 題」であるとして、新政権の最優先事項の一つに掲げた。 を求めて拡大する時代は既に終わったという認識を踏ま 極東発展プログラムは過去20年にわたり存在はしたが、ほ え、なるべく現地のサプライヤーから部品を購入し、国産 とんど絵に描いた餅だった。経済協力の中心となるロシア 化した上で組立しようとしている。その上で生産能力をつ 極東では、中国からの企業や労働者の流入が著しい上、極 け、 現地のニーズに応えていく。そのためには、販売のネッ 東の主力産業である天然ガスはシェールガスの普及で販売 トワークにおける顧客対応で競争力をつけたうえで輸出 先の確保に苦慮しており、ロシアは日本企業による開発を し、モデルの拡充もしていくという方針で新興国に取り組 進めることで、中国へのけん制と資源需要の確保を狙って んでいる。このことはすなわち、まずは流通チャネル戦略 いる。このため、人口流出が続く極東の開発は、戦略的な において、サービスを徹底して行うことから始めることを 17 ブロックトレインとは、シベリア鉄道を活用した貨物専用急行列車である。80フィート(24メートル)コンテナ専用貨車×最低 31台~最大 37 台(40 フィート(12メートル)コンテナ換算で62~74本)から成る一編成の列車であり、目的地までノンストップで走行する。ルートが予め確定されてお りルート途上の列車編成替えを無くすので、納期の短縮を実現し、定時性を高めたサービスが提供される。途中駅に停車しないので積荷紛失のリス クが減るうえ、貨車を連結するときの衝撃を受けずに済み、積荷へのダメージも少ない。ウラジオストック港からモスクワ迄の列車走行時間で11~ 12日 で あ る。 最 大 の メ リ ッ ト は、 輸 送 期 間 の 短 縮 と 定 時 運 行 に よ る リ ー ド タ イ ム の 削 減 で あ る。https://www.mitsui.com/jp/ja/business/ challenge/1190506_1589.html,(2014年1月8日アクセス、http://www.mitsui-tsr.com/index5.html(2014年1月8日アクセス)。 18 19 トヨタのロシア事業についてはトヨタ本社での調査による。 三井物産に関する記述はソラーズ・ブッサンでの調査による。 63 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 意味する。 するため、投資を最小限にとどめることができる。 トヨタは、1980年頃から南アフリカやパキスタンなど、 トヨタは2010年頃から新興国シフトを強め、国地域の 多くの発展途上国でKD生産を行ってきた。当時は部品を ニーズに対応した車づくりを目指し、新興国で生産能力増 現地に輸出し、組立ては現地組立メーカーに一任していた。 強、投資拡大しようとしている。そして、現地化を進める しかし、昨今はそうしたやり方は取らなくなっている。そ ために現地に軸足を置いた自立性のあるプロジェクトを推 の理由は、①スケールメリットを追求している、②KD生 進し、現地リソースを活用しようとしている。ソラーズ・ 産の元々の意義は現地生産をすると関税が大幅に減免され ブッサンでのSKD生産もソラーズという現地リソースを活 ることにあるが、貿易自由化時代になり関税の差がなく 用しており、新興国シフト戦略の一環であると思われる20。 なってきている。このため、タイのような新興国の生産拠 点から輸出をした方が安くなったためである。 むすび 一方、1980年代頃からKD生産をやってきた発展途上国 本稿は、日本の自動車メーカー、トヨタ、マツダおよび は、モータリゼーションが進み、販売台数が増えてきてい 韓国の双龍のウラジオストクでのSKD生産を事例に、新 る。こうした国こそ、次に新興国として車を購入してもら 興国ロシアへの参入戦略の変化をKD生産・販売マーケ える国でもある。こうした国にトヨタがきちんと商品対応 ティング・ロジスティクスの観点から分析した。本研究か していくためには、現地で組立てた方が顧客ニーズをより らの含意は以下の通りである。 知ることができ、安く生産でき、その結果、先発参入優位 1.双龍・マツダ・トヨタいずれも、ロシアの現地企業を にもなる。新興国は、一般的に自国の自動車産業を育成し 活用し、半製品を輸出して現地で組み立てるSKD方式 たいので、完成車の輸入税が高い。税が低い部品や半製品 を活用した。双龍の場合、投資は現地組立企業兼販売企 で輸出し現地で組立てることで、低価格で販売することが 業であるソラーズが負担し、マツダはソラーズとマツダ できる。例えば、エジプトは135%の関税をかけているため、 の折半、トヨタの場合は、三井物産とソラーズが負担し 現地で組立てた方が安い。また、道路状況なども各国それ た。双龍、マツダ、トヨタが製造技術を提供した点は同 ぞれの特徴がありチューニングする必要があるが、年産で じである。KD生産により海外展開での投資リスクを低 3,000~5,000台しか売れない場合は、トヨタ本体では難し 減できるメリットは大きかった。部品は集中生産でコス い。こうした国に対して、部品を輸出し現地の組立メーカー トを最小化し、完成車の輸入税が高いため、税が低い半 に組み立ててもらおうという取組みをトヨタは行うように 製品で輸出し、現地で組み立てることで完成車を安く組 なった。 み立てることが可能になり、価格競争力強化にもつな トヨタは、ニーズはあるがKD生産を行っていない国に がった。 対しても、顧客に車を使ってもらい、トヨタの裾野を広げ 2.双龍、マツダ、トヨタとも、現在はSKDによる簡易 たいという目的でKD生産を行っている。小さなニーズが 的な組立生産を行っており、ロシアにとってSKDの段 ある国で、投資もリスクも最少でありながらも現地に密着 階ではあまり大きな付加価値を生むことにはならない。 し安く組み立てることが可能なKD生産という参入形態で 今後、ウラジオストクで一定程度の現地部品調達に基づ 供給している。 くCKDへ移行できるのかどうかが鍵となるが、うまく 極東ロシアでは、ウラジオストクで2013年にSKD生産 移行できれば、ロシアにとっても付加価値が増大するこ を開始した。また、エジプトでも2012年の4月、SKDの とになるだろう。ロシア極東にサプライヤーの基盤がな 生産を開始している。エジプトの現地の組立会社に部品を いことが問題である。 供給して組み立てて販売してもらっている。日本からの指 3.マツダ、トヨタなどの日系メーカーは、生産の技能員 導員がついてきちんとした組立訓練に基づいており品質に を出張ベースで現地に送り、社員のトレーニング、技術 問題はない。カザフスタンでも、2014年春から現地の組立 協力を徹底的に行い、きちんと品質を確保した商品を生 会社に部品を販売し「フォーチュナー」をCKD方式で組 産することを最優先に取り組んだのに対し、双龍自動車 み立ててもらい、トヨタの現地法人が販売を行うことに は現地企業任せである。 なっている。こうした参入様式を取ることで、完成車輸出 4.マーケティングにおいて、双龍車の販売マーケティン よりも関税を抑え、工場建設などの費用も現地企業が準備 グを行っているのはソラーズの組織であり、他社任せで 20 トヨタ本社の調査による。 64 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH ある。他社任せの販売による流通費用の節約でコストダ 坂口泉(2013)「ロシアで外資メーカーが直面する現調化 ウンすることができるが、販売価格まで他社(ソラーズ) の難問」『ロシアNIS調査月報』2013年12月号、1 が決定しており、作ったものをいかに安く売るかという ~16頁。 プロダクトアウト的な志向である。また、販売台数を増 多国籍企業学会著18名共著『多国籍企業と新興国市場』文 やして利益を得るという「販売」志向の戦略である。他 真堂。 社任せでは、自社にマーケティング技法や販売チャネル 富山栄子・塩地洋(2010)「現代自動車のグローバル展開 に関するノウハウやその経験の蓄積することができな におけるロシア市場参入の特徴-ライセンシングか い。これに対して、マツダはマツダの100%販売子会社、 ら子会社 KD生産へ-」 『ロシア・ユーラシア経済』 トヨタはトヨタの100%販売子会社がそれを行っている。 第940号、10~26頁。 自社の販売子会社は流通チャネルをうまくコントロール 富山栄子(2013)「ウラジオストク自動車産業見聞記-双 し、より顧客の意見を取り入れることができるので現地 龍自動車、マツダ、トヨタのSKD-」『ロシアNIS のニーズを収集し売れるものをいかに作るかといった 調査月報』2013年12月号、40~44頁。 マーケットインの発想である。出発点は市場にあり、 サー FOURIN(2013a) 『ロシアトルコ中東欧自動車部品産業』 ビスも含めた顧客満足によって利益を得るという「マー FOURIN。 ケティング志向」の戦略である。長期的な観点から考え FOURIN(2013b) 『世界自動車調査月報』NO.334、2013 ると、マツダ、トヨタのマーケティング政策の方がロシ 年6月号。 アで熱狂的なファンを増やすことにつながるだろう。 水野順子(1997) 『韓国の自動車産業』アジア経済研究所。 5.日本からの指導員がついてきちんとした組立訓練に基 吉田信美(2003)「急成長を続けるスモールカー市場~日 づけば、KD生産は品質に問題はないのであるから、今 本企業の選択と戦略~」 『JAMAGAZINE』日本自動 後の新興国戦略として、小さな需要にきめ細かく対応し 車 工 業 会、 2003年 3 月 号。 http://www.jama.or.jp/ ていくために、現地の組立会社に部品を提供して組み立 lib/jamagazine/200303/03.html(2014年1月8日ア ててもらうKD生産の取組みが、新興国進出の方法とし クセス) 。 てもっと評価されてもいいのではなかろうか。それは、 現地の小さなニーズに応え収集できるのみならず、現地 ※本稿は、富山(2013)に大幅に加筆修正したものであ リソースの活用にもなり、投資を最小限にとどめること る。本稿作成にあたり、 京都大学経済学研究科塩地洋教授、 ができるからである。 トヨタ自動車本社、マツダ・ソラーズ、ソラーズ・ブッサ ン、ソラーズ極東工場、双龍自動車本社のご担当者の皆様 参考文献 に多大なご協力をとご支援を賜りました。記して御礼申し 大石芳裕編著(2009)『日本企業のグローバルマーケティ 上げます。 尚、 本研究は文部科学省科学研究費基盤研究(C) ング』白桃書房。 (課題番号25380581) 、事業創造大学院大学特別奨励研究費 S.Cavusgil, N.Ghauri, R.Agarwal(2002),Doing Business の助成を得た。 in Emerging Markets, SAGE Publications. M . K o t a b e , K . H e l s e n ( 2 0 0 7 ), G l o b a l M a r k e t i n g Management, Fourth Edition, WILEY. 65 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH The Strategies of Automotive Manufacturers for Entry into the Emerging Russian Market: The case study of entry via semiknocked-down (SKD) production in Vladivostok of SsangYong, Mazda and Toyota TOMIYAMA, Eiko Professor, Graduate Institute for Entrepreneurial Studies Summary This research, with the case study of the semi-knocked-down (SKD) production in Vladivostok of the automotive manufacturers of the ROK's SsangYong Motor Company, Mazda and Toyota Motor Corporation, analyses the changes in the entry strategies into the emerging Russian market from the perspectives of entry mode, KD production, sales and marketing, and logistics. Although Japanese manufacturers lead in terms of technology, with rapidly becoming captivated by the markets of emerging economies, KD production has come to be reconsidered. Via this analysis, I have discussed the rethinking of global competitive strategy. The findings from this research are as follows: 1.Each of SsangYong, Mazda, and Toyota have utilized local Russian firms, and exporting semi-finished products there, have used an SKD (semi-knocked-down) method to assembly them locally. In the case of SsangYong, Sollers, a local assembly and sales firm, covered the investment; Mazda went fifty-fifty with Sollers on the investment; and in the case of Toyota, Mitsui and Sollers covered the investment. It is the same regarding SsangYong, Mazda, and Toyota having provided manufacturing technology. The plus was great of lowering the investment risk in overseas development, via KD production. 2.SsangYong, Mazda, and Toyota are all currently undertaking simple assembly production by SKD, and for Russia the SKD stage doesn't result in a very great amount of value added coming about. In the future, the key will be whether a shift will be possible to CKD, based on a certain level of local procurement of components in Vladivostok. If they are able to handle the shift deftly, for Russia too it will mean that value added will increase. That there is no supplier base in the Russian Far East is a problem. 3.Japanese manufacturers such as Mazda and Toyota send production technicians on-site on a business-trip basis and thoroughly carry out the training of company employees and technical cooperation, and have tackled as the highest priority the producing of commodities with properly ensured quality; in contrast, the SsangYong Motor Company has left it to local firms. 4.In marketing also, the carrying out of the sales and marketing of SsangYong cars is entrusted to another company within the Sollers organization, and is a "sales"-oriented strategy which increases the number of vehicles sold and makes a profit. For Mazda and Toyota, in contrast, 100% subsidiaries for sales are carrying out their marketing. Making a profit via customer satisfaction, including service, is a "marketing-oriented" strategy. 5.Toyota drew a line under its supremacism on the number of vehicles, coming from its reflection on past paths of expansion, and made a target of raising its share in emerging economies. It then carried out organizational reform aimed at a shift toward emerging economies. It hasn't entrusted assembly to the local assembly plants in Russia to date, but via a strategy emphasizing emerging economies, it has linked up with local firms, and has commenced SKD production in Russia also, transporting the components and assembling locally. Via SKD production it is curbing investment and undertaking speedy local assembly. [Translated by ERINA] 66 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 中国における地域発展戦略の実施現場を歩く -天津・鄭州・重慶・成都視察報告- ERINA 調査研究部研究員 穆尭芋 筆者は中国の地域発展戦略の実施情況の現地調査を続け 成都市では四川地震にも遭った。家族や同僚たちが心配し ている。2013年春、北京経由で天津市、河南省鄭州市、重 てくれたが、現地にいるとさほど緊張しなかった。調査ス 慶市、四川省成都市を訪問した(図)。いつもと違って、 ケジュールが影響を受けなかったことにほっとしている。 今回は慌ただしい出張となった。北京市、天津市、鄭州市 以下、訪問の時間順に視察報告を行う。 で鳥インフルエンザA(H7N9)に追われ、最終訪問先の 図 天津市、鄭州市、重慶市、成都市の位置図 出所:© 2013 AutoNavi, Google, MapKing, SK planet, ZENRINより作成 1.天津市の経済発展の方向と位置づけ の企業が集積し、高層ビルが立ち並んでいる(写真2)。 天津市は国の直轄市で、中国北方の重要な製造業集積地 天津市を訪問して最も多く議論されたのは、全国におけ 及び物流拠点である。首都北京市の海に向けた玄関口であ る天津市の経済的な位置づけである。 まず、 「環渤海経済圏」 り、北京-天津の高速列車を利用すれば110キロ前後の距 における天津市の役割である。天津市が立地する環渤海地 離を30分程度で移動できる(写真1)。天津市が有する濱 域(遼寧省・河北省・山東省・北京市・天津市)は、珠江 海新区は、上海浦東新区に次いで国務院に承認された全国 デルタ地域(広州市中心) 、長江デルタ地域(上海市中心) 2番目の新区であるが、GRP(域内総生産)では浦東新区 と並ぶ全国3大経済圏の一つであり、人件費が比較的安い を上回っている。天津市内では製造・金融・ハイテク関連 ため、今後更なる発展が見込まれている。天津市は環渤海 67 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 写真1 北京-天津高速列車の速度表示板 写真2 高層ビルが立ち並ぶ天津市内 筆者撮影 筆者撮影 地域においてGRPランキングの最も高い沿海都市で、広州 行誘致を行った。しかし、全国の金融市場の中心である上 市・上海市のように当該経済圏の発展の牽引都市として期 海市と大手国有金融企業の本社集積地である北京市との熾 待されている。しかし、天津市と経済関係の強い地域は北 烈な競争の中で、想定していたほど全国的に影響力のある 京市・河北省・内モンゴル自治区等であり、「線」状で内 金融センターに成長していない。また、2013年9月に国務 陸部に波及しているのが実態である。天津市と遼寧省・山 院が金融改革を中心とした「自由貿易区」を上海市に選定 東省との連携関係はそれほど強くなく、2省に対する波及 したことで、「北方金融センター」を目指す天津市の経済 効果も弱い。一方、遼寧省は大連市を先頭に省都の瀋陽市、 的位置づけはさらに揺らぐ可能性がある。 さらに吉林省・黒龍江省にまで連携関係を伸ばし、山東省 また、「首都経済圏」における天津市の位置づけも議論 は青島市を先頭に省都の済南市、河南省等に及んでいる。 されている。「首都経済圏」は北京市・天津市・河北省を 環渤海地域の域内連携は、珠江デルタ・長江デルタのよう 含み、首都機能及び近隣地域との連携を強化する経済圏構 な「面」の連携ではなく、「線」の連携である。天津市が 想である。同構想は早い段階から検討されてきたが、3地 環渤海地域全体の経済成長の牽引役を果たすのは難しいで 域の利益調整がうまく行かず、まだ打ち出されていない。 あろう。 天津市が「首都経済圏」でどのような位置づけになるか注 次に、「北方金融センター」をめぐる議論である。天津 目されている。国務院が2006年に承認した「天津市都市全 市には20世紀前半に外国からの金融機関が数多く進出し、 体規画(2004-2020) 」では、天津市を「北方経済センター」 上海市と並ぶ金融センターだったと言われ、今でも旧金融 として位置づけた。1年早く(2005年)承認した「北京都 街の風景が残っている(写真3)。天津市は発達している 市全体規画」では、 北京市を「政治センター、文化センター、 製造業と物流業を生かし、濱海新区を中心に金融機能の再 世界に著名な古都、現代国際都市」と位置づけて、 「経済 興に取り組んでいる。特に、2002年に元中国人民銀行総裁 センター」という表現を使わなかった。しかし、経済規模 の戴相龍氏が天津市長に就任すると、天津市を「北方金融 では北京市は天津市を大きく上回っている状況である。北 センター」として発展させることを全面的に打ち出し、中 京市には大型国有企業の本社が集積し、数多くの外資系企 央政府の支援を獲得して大胆な金融改革と積極的な外資銀 業も進出している。 「北方経済センター」 は天津市ではなく、 写真3 天津市の旧金融街(解放路) 写真4 天津市の旧市街(イタリア街) 筆者撮影 筆者撮影 68 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 北京市に与えるべきだと考える人が多い。筆者も今後打ち ことを支持することに関する指導意見」を公表し、 「中原 出される「首都経済圏」における天津市の位置づけに注目 経済区」戦略は中央政府に承認された。その中心的な内容 したいが、天津市が北京市を凌駕する「北方経済センター」 は「3化協調」というもので、工業化・都市化・農業現代 に成長するには、相当な年月がかかると思われる。 化の協調的発展を模索することである。工業化では、機械 天津市の発展の方向性と位置づけは悩ましい問題であ 産業・自動車・電子情報・食品加工・化学工業等の産業を る。筆者が天津市を訪れて見たのは、市民や観光客がイタ 発展させ、外資誘致に努めるとともに、沿海地域からの国 リア風の古い街をゆっくり散策し、露天の店でのんびり 内産業移転を促す。都市化では、省都鄭州市を中心とした コーヒーを飲み、そんな問題は存在しないかのように街を 都市群の発展を促進し、都市機能の強化、新区の建設、地 楽しんでいる風景である(写真4)。タクシー運転手たち 域中核都市の育成等に取り組む。農業現代化では、食糧生 は「北方経済センター」という言葉をほとんど知らず、無 産中核地域の建設、農業生産構造の改善、農業サービスの 関心である。鳥インフルエンザのニュースが流れているに 強化等が挙げられる。「3化協調」を実施するには、食糧 もかかわらず、人々は仕事を続けている。上の政策がどう 生産を確保し、環境汚染を行わない前提が置かれている。 変わろうと、民衆は日々の生活を守り、固有のリズムに従っ 現地調査で強く感じたのは、 都市化の進展の速さである。 て生きている。 鄭州市の東部に立地する 「鄭東新区」 には新しいビルが次々 に建設され、道路・電気・水道等の基礎インフラも整備さ 2.河南省と「中原経済区」 れつつある(写真5) 。街を歩くと、道路にはゴミがなく、 河南統計年鑑2012年版によると、河南省の総人口数は 緑も多くて鄭州市の旧市街とは別の世界にいるような感じ 1億489万人(2011年)に達し、省内に人口が1,000万人を である。鄭東新区の発展ビジョンを展示する「規画展示館」 超えた市が2つもある(南陽市1,164万人、周口市1,121万 が設置されているが(写真6) 、 「電気を修復している」と 人) 。多くの人口を抱えた河南省にとって、食糧生産の確 言われて入場を断られた。鄭州市の郊外に行くと、道路建 保ないし農業の発展は極めて重要な政策課題である。 設工事が行われている箇所も多く(写真7) 、竣工後の予 2011年、国務院は「河南省中原経済区建設を加速させる 想図が現場付近に掲示されている(写真8) 。鄭州市はこ 写真5 車内から見る鄭州市鄭東新区 写真6 鄭東新区規画展示館の玄関 筆者撮影 筆者撮影 写真7 鄭州市郊外の道路建設工事現場 写真8 竣工後の予想図 筆者撮影 筆者撮影 69 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH れからの数年間に大きく変貌するに違いないと実感した。 り、一地方政府で解決できる問題ではなく、中央政府の積 専門家の意見を聞くと、問題が山積していることも分 極的な支援も必要であろう。 かった。工業化では、沿海地域からの産業移転を促してい るが、付加価値の低い労働集約産業が中心となっている。 3.戸籍改革と重慶市・成都市 工業化の推進は、土地・エネルギーの供給不足を引き起こ 重慶市は「山城」とも呼ばれ、 市内の道路はほとんど坂、 し、地域の環境負荷が増大している。都市化の推進では、 曲り道である。高層ビルが密集しているため、街を歩くと 農民の土地を不正に徴用する問題が頻発している。農民は 圧迫感を感じる(写真9)。重慶市内では長江と嘉陵江が 戸籍上の市民となるが、土地・収入を失って都市貧民に陥 合流し、人間の活動は山と川を避けて行わざるを得ない。 るケースがある。農業の発展は重要なテーマだが、GRP成 重慶市内を歩くと、土地の価値の高さを実感できる。しか 長に対する貢献は小さいため、政策実施の優先順位では工 し、重慶市の郊外に行くと、いくつかの低い山に囲まれて、 業化・都市化より低いように思える。特に重要なのは、 「3 谷にできた水田に寄り添って数件の家が建てられていると 化協調」の「協調」に対する模索が見えないことである。 いう閑散とした農村風景が広がる(写真10) 。重慶市の農 結局どこの地方政府もやっているような工業発展・都市化 村は東北・華北地域の農村(平原地域の集中村落)と全く 促進を行っている印象である。また、地域経済の成長は 違うことが分かる。 GRPの量のみならず、質も重要であると現地の専門家が指 重慶市から四川省都の成都市までは列車で2時間余り、 摘した。 距離は310キロ強である。旅客専用高速鉄道も建設中で(写 「中原経済区」の「3化協調」戦略が河南省の最も重要 真11) 、2015年の開通を目指している。開通すれば重慶市 な地域特性を反映しているか、その推進により地域経済が と成都市は1時間ほどで結ばれる。成都市は四川盆地のほ 大きく成長するかについて、議論の余地があると思われる。 ぼ中心に立地し、重慶市と違って平原地域である。近年目 現在の地域政策は工業化・都市化に重点が置かれているが、 覚ましい経済発展を遂げ、市の中心部には立派なビルが立 「3化協調」の方策を積極的に模索することも求められよ ち並んでいる(写真12) 。気候が良くて農業も発達し、「天 う。なお、このテーマは国全体にとっても重要な課題であ の恵みの国」と呼ばれている。市内には茶館が多く、市民 写真9 高層ビルが密集している重慶市 写真10 重慶市郊外の農村風景 筆者撮影 筆者撮影 写真11 建設中の成都-重慶高速鉄道 写真12 成都市内の中心広場 筆者撮影 筆者撮影 70 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 写真13 成都市内の茶館 写真14 地震後の献血の人々 筆者撮影 筆者撮影 はのんびりした生活を送っている(写真13) 。 川地震が発生した。筆者は移動中だったので、さほど揺れ 重慶市と四川省には、国務院承認の「成渝経済区地域規 を感じなかったが、携帯電話が不通となり、市内に救急車 画」という発展戦略があり、戸籍改革を中心とした都市・ のサイレンが鳴り響いた。成都市内にはすぐに災害対応の 農村の一体化政策を全国に先駆けて行っている。重慶市内 専用道路が区分され、警察官が交通整理にあたった。献血 と郊外の農村との経済的格差を是正し、戸籍改革を通じて を行う人が多く、列を作った(写真14)。繁華街では、学 農民の都市への移動を促進する。それによって都市の規模 生たちが募金活動を行った。出張先で何が起こるか分から を拡張し、消費を引き起こして内需の拡大に繋げる狙いで ないことを改めて実感し、心配してくれた家族や同僚にわ ある。戸籍改革は土地、民政、教育、雇用、公安等の多分 が身の安全を報告をした。 亡くなられた人々の冥福を祈る。 野に関わるが、土地以外の分野は地方政府が管理を任され ているため、中央政府と調整しなくても実施可能であると いう。土地について、中央政府は全国の耕地面積を18億ムー 以上に維持する方針を取っており、各省が最低耕地面積の 維持枠を振り分けられている。新規の開墾が難しい状況に おいて、地方政府にとって最低耕地面積枠の維持は、工場 建設や不動産開発に使う建設用地の拡大の足かせになって いる。しかし、郊外に住む農民の住宅地を耕地にすれば、 その枠を交換する意味で、都市近郊の開発価値の高い耕地 を建設用地に回すことができる。地方政府はその建設用地 を開発企業に譲渡して得た収入の一部をもって、農民の住 宅補償を支払い、再就職ができるように職業訓練等の費用 に充てている。 この取り組みは、しかし、数多くの問題を抱えている。 まず、都市・農村の一体化政策は地域経済成長の原動力に ならないであろう。なぜなら、市民になった農民はそれほ ど高い消費能力を持っているわけではないからである。次 に、農民に対する農村戸籍移転、農地・住宅地の徴用は反 発を招く恐れがある。市民になりたくない人はたくさんい る。第3に、市民になった農民は、確実に職が得られる保 証はなく、教育・雇用・医療・年金に対する不安が大きい。 重慶市・成都市が戸籍改革及び都市と農村の一体化政策の 実験地域に選ばれた理由は分かるが、その実施において問 題が山積しているといえよう。 成都市訪問中の4月20日、200人近くの死者を出した四 71 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 北東アジア動向分析 2013年1~9月期の消費者物価指数(CPI)は、遼寧省 中国(東北三省) が前年同期比2.6%、吉林省が同3.0%、黒龍江省が同2.3% 東北経済の成長率は減速 の上昇にとどまり、上昇率が安定的に推移している。 2013年1~9月期における東北三省の実質域内総生産 都市部住民の一人当たり可処分所得については、遼寧省 (GRP)成長率は、遼寧省が前年同期比8.7%増、吉林省が が前年同期比10.0%増(名目、以下同じ)の19,109元、吉林 同8.8%増、黒龍江省が同8.4%増となった。三省とも全国平 省が同10.1%増の16,625元、黒龍江省が同10.2%増の14,343元 均の成長率(同7.7%増)を上回ったものの、いずれも1桁 となり、いずれも全国平均水準(同9.5%増の20,169元)を下 の伸び率にとどまり、 中国経済と同様の鈍化傾向が見られる。 回っている。他方、農村住民の一人当たり純収入は、遼寧 経済成長減速の影響を受け、東北三省の工業生産は伸び 省が前年同期比12.1%増の12,823元、吉林省が同11.8%増の 悩んでいる。2013年1~9月期における一定規模の工業企 10,368元、黒龍江省が同11.7%増の10,536元に達し、三省と 業(年間売上高2,000万元以上)の付加価値増加率は、遼 も全国平均水準(同12.5%増の7,627元)を大きく上回った。 寧省が前年同期比9.7%増、吉林省が同10.3%増、黒龍江省 が同7.2%増にとどまった。 黒龍江と内モンゴル東北部地域国境地域開発開放規画 東北三省の固定資産投資額は、前年同期比22.2%増の3兆 中国政府(国務院)は2013年8月9日、2013~2020年を対 5,962億元となり、伸び率はいずれも全国平均の20.2%を上回っ 象期間とする「黒龍江と内モンゴル東北部地域国境地域開発 た。 このうち、 遼寧省が同20.8%増の2兆1,018億元、 吉林省が同 開放規画*」 (以下、 「規画」 )を正式に承認し、 中国の対ロシア・ 22.5%増の8,508億元、 黒龍江省が同26.5%増の6,436億元だった。 北東アジアの重点開放地域としての位置付けを明確化した。 社会消費財小売総額については、遼寧省が前年同期比 「規画」の対象地域は、黒龍江省全域および内モンゴル 13.2%増の7,668億元、吉林省が同13.1%増の3,918億元、黒 自治区のフルンボイル市となるが、その総面積は70.7万 龍江省が同13.1%増の4,316億元となった。伸び率はいずれ km2に上る。数値目標としては、 「2020年までに、当該地 も全国平均水準(12.9%)を上回ったものの、前年同期に 域の年間の一人当たり名目GRPを84,500元、都市化レベル 比べて三省とも上昇率が鈍化した。 を65%、対ロ輸出入額を700億ドル、都市部住民の一人当 2013年1~9月期の東北三省の対外貿易の伸び率は前年 たり可処分所得を43,000元、農村住民の一人当たり純収入 同期比7.0%増となり、 全国平均水準(同7.7%増)を下回った。 を19,200元」に引き上げることが設定されている。 うち、輸出が同14.5%増、輸入が同0.7%増だった。各省の貿 重点推進分野としては、 「①対外協力を推進するためのプ 易額を見てみると、遼寧省の輸出が同9.3%増の467.4億ドル、 ラットホーム機能の強化、②国境地域の都市化推進、③産業 輸入が同4.1%増の361.4億ドル、吉林省の輸出が同21.2%増の 発展の促進、④インフラ整備の強化、⑤社会事業の発展お 49.3億ドル、輸入が同2.9%減の141.9億ドル、黒龍江省の輸出 よび国境地域の民生の改善、⑥自然生態系の保全」と明記 が同35.4%増の127.7億ドル、輸入が同3.2%減の167.4億ドル されているが、今後、その具体的な進展に注目していきたい。 となり、吉林省と黒龍江省の輸出の伸びは特に顕著であった。 (ERINA調査研究部研究主任 朱永浩) 2010年 2011年 2012年 2013年1-9月 中国 遼寧 吉林 黒龍江 中国 遼寧 吉林 黒龍江 中国 遼寧 吉林 黒龍江 中国 遼寧 吉林 黒龍江 経済成長率(実質) % 10.4 14.2 13.8 12.7 9.3 12.2 13.8 12.3 7.7 9.5 12.0 10.0 7.7 8.7 8.8 8.4 工業生産伸び率(付加価値額) % 15.7 17.8 19.9 15.2 13.9 14.9 18.8 13.5 10.0 9.9 14.1 10.5 9.6 9.7 10.3 7.2 固定資産投資伸び率 (名目) % 23.8 30.5 32.5 35.5 23.8 30.2 30.4 33.7 20.3 23.5 30.5 30.0 20.2 20.8 22.5 26.5 社会消費品小売額伸び率(名目) % 18.3 18.6 18.5 19.0 17.1 17.5 17.5 17.6 14.3 15.7 16.0 15.9 12.9 13.2 13.1 13.1 輸出入収支 億ドル 1,815.1 55.7 ▲ 78.9 70.6 1,549.0 61.2 ▲ 120.5 ▲ 31.7 2,311.0 119.1 ▲ 126.1 ▲ 89.5 1,693.7 106.0 ▲ 92.5 ▲ 39.7 輸出伸び率 % 31.3 28.9 43.2 61.5 20.3 18.4 11.7 8.5 6.2 13.5 19.7 ▲ 18.3 8.0 9.3 21.2 35.4 輸入伸び率 % 38.7 27.4 43.5 50.0 24.9 19.6 37.8 130.0 4.3 2.5 8.9 12.2 7.3 4.1 ▲ 2.9 ▲ 3.2 (注)前年同期比 工業生産は、一定規模以上の工業企業のみを対象とする。2011年1月には、一定規模以上の工業企業の最低基準をこれまでの本業の年間売上高500万元から 2,000万元に引き上げた。 2011年1月以降、固定資産投資は500万元以上の投資プロジェクトを統計の対象とするが、農村家計を含まない。 国家統計局は2013年9月2日、2012年の中国の実質GDP伸び率を7.8%から7.7%に修正すると発表した。 (出所) 『中国統計年鑑』2013年版、『遼寧統計年鑑』2012年版、『黒龍江統計年鑑』2012年版、『吉林統計年鑑』2012年版、『遼寧日報』2013年10月17日付、10月 24日付、 『吉林日報』2013年10月25日付、『黒龍江日報』2013年11月2日付、中国国家統計局および国家発展改革委員会東北振興司の資料より作成。 * 中国語表記:黒龍江和内蒙古東北部地区沿辺開発開放規劃。 72 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 訂作業を開始してから、2年以上を費やした。この間に、 ロシア(極東) 極東開発省が設置され、さらにその初代大臣のビクトル・ 経済概況 イシャーエフ氏が解任されるという大きな出来事があっ 極東では、固定資本投資の減少傾向が続いている。2013 た。2013年9月に着任した二代目のアレクサンドル・ガル 年1~9月期の減少率は27.1%(対前年同期比)にも達し シカ大臣が、大急ぎで取りまとめた形だ。 た。マガダン州を除くすべての連邦構成主体で減少を記録 その内容を一言でいえば、地域版の運輸インフラ発展プ しており、しかも軒並み二桁の減少率である。要因として ログラムである。鉄道、道路、空港、港湾といった交通イ まず、連邦政府による投資の息切れが想起されるが、地域 ンフラ以外に盛り込まれているプロジェクトは、既存プロ の固定資本投資総額に占める連邦財政支出の比率は、前年 グラムからの継続事業で2014年に完成予定の22万ボルト送 同期の12.4%から13.9%に上昇しており、実はその他の落 電線(マガダン州)1件のみである。 ち込みの方が大きかったことが読み取れる。実数 (名目値) 分野別に事業費を見ると、総事業費6,969億ルーブルの で統計が出ている外国投資を見てみると、111億ドルから 4分の3が鉄道事業(5,234億ルーブル)に投入されるこ 36億ドルへと急減している。外国投資すべてが固定資本投 とになっている。そのほか、道路事業に495億ルーブル、 資に向かうわけではないので、短絡的に結論付けることは 空港事業に737億ルーブル、港湾事業に465億ルーブルと できないが、相当の影響を与えているものと推測される。 なっており、交通インフラの中でも鉄道だけが突出してい 2013年1~9月期の極東地方の鉱工業生産は対前年同期 る。金額のみならず、 事業の重みの点でもアンバランスだ。 比3.0%増で、ロシア全体がほぼ前年同水準にとどまる中、 ウラジーミル・プーチン大統領は、2013年6月のサンク 比較的高い伸び率を示した。鉱工業生産の大きい地域の中 トペテルブルク経済フォーラムにおいて、国家にとって重 では、沿海地方(11.6%増)の伸びが大きく、ハバロフス 要な3大プロジェクトの真っ先にシベリア鉄道及びBAM ク地方(4.7%増)やサハ(ヤクーチア)共和国(4.5%増) 鉄道の改修・増強を取り上げた。事業期間の関係もあるの も比較的好調だった。沿海地方では、自動車生産や電気機 で関連事業すべてではないだろうが、大枠としては大統領 械の生産が伸びている模様だ。 肝いりの国家プロジェクトが、地域インフラ整備を主眼と これに対して、サハリン州は1.5%減少した。サハリン する本プログラムの中に落とし込まれたことになる。プー 州は鉱工業生産に占める鉱業の比率が高い地域であるが、 チン大統領は、このプロジェクトに対して国民福祉基金の その鉱業が1.5%減少している。石油(コンデンセートを 資金を投入することにも言及してきたが、結果として1,500 含む)が3.9%減、石炭が7.2%減などとなっていて、天然 億ルーブル (場合によっては、 さらに追加で260億ルーブル) ガス及び随伴ガスの生産が2.6%増加しているものの、全 が同基金から投入されることになった。 体としては減少となった。 プログラム全体で、連邦財政本体から2,129億ルーブル が支出されることになっており、国民福祉基金分を合わせ 2018年までの極東・バイカル地域発展プログラム ると事業費総額の半分以上となる。2013年までのプログラ 2013年12月6日、従来の連邦特定目的プログラム「2013 ムでは連邦財政支出の比率は最終的に44%となったので、 年までの極東・ザバイカル地域の社会・経済発展」の期間 これと比べて連邦政府が積極的な役割を果たす姿勢を示し を延長し、地域を拡大(イルクーツク州を追加)した改訂 た形にはなっている。 プログラム「2018年までの極東・バイカル地域の経済・社 (ERINA調査研究部主任研究員 新井洋史) 会発展」が決定された(政府決定第1128号) 。2011年に改 鉱工業生産高成長率(前年同期比%) ロシア連邦 極東連邦管区 サハ共和国 カムチャッカ地方 沿海地方 ハバロフスク地方 アムール州 マガダン州 サハリン州 ユダヤ自治州 チュコト自治管区 2006 6.3 4.2 0.0 1.6 12.6 ▲10.7 4.7 ▲11.2 31.1 4.2 ▲9.1 2007 6.8 35.1 0.5 0.6 2.1 10.1 2.6 ▲ 9.0 2.3倍 22.7 ▲ 2.3 2008 0.6 ▲ 0.2 4.2 0.9 14.6 ▲ 7.4 11.4 2.1 ▲ 9.2 18.6 77.4 2009 ▲ 9.3 7.6 ▲ 13.6 ▲ 0.2 ▲ 2.7 ▲ 6.8 11.4 5.8 26.6 ▲ 18.8 16.3 2010 8.2 6.5 17.6 8.6 13.6 21.3 0.1 3.3 0.0 2.3 ▲ 9.7 2011 4.7 8.8 11.4 20.1 19.6 15.8 25.6 7.7 2.9 4.1 ▲ 6.5 2012 12・1-3月 12・1-6月 12・1-9月 13・1-3月 13・1-6月 13・1-9月 2.6 4.0 3.1 2.9 0.0 0.1 0.1 2.8 1.0 0.3 2.6 ▲ 1.9 1.8 3.0 6.3 3.0 0.6 5.3 1.2 5.2 4.5 7.8 22.6 14.9 9.9 1.1 2.0 1.7 10.1 8.7 14.2 9.5 2.0 10.2 11.6 10.6 19.0 12.0 10.4 ▲ 0.1 2.7 4.7 2.0 ▲ 1.1 ▲ 1.1 2.3 21.0 16.1 11.5 7.7 32.5 11.0 15.1 10.9 5.8 5.3 ▲ 3.4 ▲ 6.7 ▲ 4.9 ▲ 3.2 ▲ 7.4 ▲ 3.2 ▲ 1.5 5.0 ▲ 3.4 ▲ 5.8 ▲ 0.2 5.6 ▲ 1.9 ▲ 1.6 ▲ 1.7 ▲ 11.7 ▲ 9.4 ▲ 1.2 ▲ 3.7 ▲ 1.8 5.4 『ロシア統計年鑑(2012年版) (出所) 』; 『極東連邦管区の社会経済情勢(2012年)』;『ロシアの社会経済情勢(2012年3、6、9月;2013年3、6、9月)』(ロ シア連邦国家統計庁)。 73 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 固定資本投資成長率(前年同期比%) ロシア連邦 極東連邦管区 サハ共和国 カムチャッカ地方 沿海地方 ハバロフスク地方 アムール州 マガダン州 サハリン州 ユダヤ自治州 チュコト自治管区 2006 16.7 2.3 2.1 5.2 6.4 8.7 5.1 23.9 0.3 ▲ 1.2 ▲ 38.6 2007 22.7 18.9 92.2 33.5 20.6 22.9 38.9 28.7 ▲ 18.1 20.3 1.6 2008 9.9 11.7 14.0 5.4 41.5 9.9 24.1 15.1 ▲ 5.4 4.5 29.5 2009 ▲ 15.7 7.1 9.4 27.7 74.3 8.1 ▲ 11.4 ▲ 0.2 ▲ 24.6 ▲ 16.3 61.9 2010 6.0 6.1 ▲ 36.2 18.7 21.3 52.2 19.5 ▲ 0.1 11.2 2.0倍 ▲ 66.1 2011 8.3 21.4 23.6 ▲ 4.0 21.3 3.9 36.1 0.8 36.6 28.8 64.9 2012 12・1-3月 12・1-6月 12・1-9月 13・1-3月 13・1-6月 13・1-9月 6.6 16.3 11.6 10.3 0.1 ▲ 1.4 ▲ 1.4 ▲ 14.8 ▲ 8.4 ▲ 9.2 ▲ 3.6 ▲ 21.5 ▲ 20.9 ▲ 27.1 10.2 46.4 37.4 49.5 ▲ 26.0 ▲ 13.9 ▲ 23.7 5.8 45.6 3.5倍 23.2 ▲ 59.2 ▲ 44.2 ▲ 1.7 ▲ 41.0 ▲ 33.3 ▲ 40.7 ▲ 34.2 ▲ 50.6 ▲ 51.1 ▲ 53.8 ▲ 11.3 ▲ 30.0 ▲ 23.0 ▲ 9.4 ▲ 8.2 ▲ 18.0 ▲ 27.5 ▲ 20.0 ▲ 26.3 ▲ 39.2 ▲ 28.1 ▲ 14.5 ▲ 2.1 ▲ 17.6 21.3 48.3 50.1 53.2 72.2 32.5 17.2 ▲ 8.1 23.1 31.7 16.1 ▲ 3.4 ▲ 11.2 ▲ 13.8 ▲ 11.5 ▲ 50.8 ▲ 39.5 ▲ 12.2 ▲ 69.1 ▲ 55.0 ▲ 62.1 51.6 38.4 58.3 26.1 15.4 23.0 ▲ 19.6 (出所) ;『極東連邦管区の社会経済情勢(2012年) 』 ; 『ロシアの社会経済情勢(2012年4、7、10月;2013年4、7、10月) 』 (ロ 『ロシア統計年鑑(2012年版)』 シア連邦国家統計庁)。 小売販売額成長率(前年同期比%) ロシア連邦 極東連邦管区 サハ共和国 カムチャッカ地方 沿海地方 ハバロフスク地方 アムール州 マガダン州 サハリン州 ユダヤ自治州 チュコト自治管区 2006 14.1 12.9 8.6 10.8 12.9 13.3 13.7 9.6 22.1 5.4 6.4 2007 16.1 11.2 7.4 12.8 11.8 15.3 12.0 10.0 7.9 6.1 12.9 2008 13.7 10.6 7.6 9.4 9.9 7.9 12.8 3.1 20.0 8.1 55.9 2009 ▲ 5.1 0.7 2.1 1.6 ▲ 2.3 3.6 ▲ 2.5 ▲ 0.3 2.5 1.9 3.2 2010 6.4 3.7 3.6 3.1 2.2 6.2 6.0 4.4 1.3 2.7 8.2 2011 7.0 5.3 2.7 5.0 3.5 6.4 18.7 5.5 2.2 ▲ 5.8 1.6 2012 12・1-3月 12・1-6月 12・1-9月 13・1-3月 13・1-6月 13・1-9月 5.9 7.5 7.1 6.3 3.9 3.7 3.8 4.9 5.6 6.0 5.3 4.2 4.5 5.0 2.6 2.6 1.8 1.9 0.9 2.4 3.0 2.1 2.5 ▲ 1.0 ▲ 0.7 0.4 0.2 0.2 4.2 8.2 9.2 6.6 5.6 7.3 8.9 4.9 1.7 3.2 3.5 5.9 5.8 5.1 14.3 18.4 17.5 16.9 7.2 5.7 4.6 6.3 3.4 4.4 6.2 9.3 8.9 7.4 2.0 2.9 3.6 2.8 0.7 ▲ 0.3 2.7 6.5 ▲ 0.6 2.8 4.4 2.3 0.6 0.1 ▲ 10.7 ▲ 11.0 ▲ 7.9 ▲ 11.8 ▲ 5.0 ▲ 8.2 ▲ 8.1 (出所) ;『極東連邦管区の社会経済情勢(2012年)』;『ロシアの社会経済情勢(2012年3、6、9月;2013年3、6、9月)』(ロ 『ロシア統計年鑑(2012年版)』 シア連邦国家統計庁)。 消費者物価上昇率(前年12月比%) ロシア連邦 極東連邦管区 サハ共和国 カムチャッカ地方 沿海地方 ハバロフスク地方 アムール州 マガダン州 サハリン州 ユダヤ自治州 チュコト自治管区 2006 9.0 8.8 11.9 11.6 7.1 8.7 9.1 8.1 10.4 5.5 11.2 2007 11.9 9.6 9.0 10.1 9.7 9.8 9.6 13.3 11.8 11.7 7.5 2008 13.3 13.6 12.5 14.8 13.5 14.1 14.1 19.3 13.1 15.0 9.9 2009 8.8 9.7 8.2 10.7 9.5 9.5 9.6 13.4 10.7 12.2 17.2 2010 8.8 7.7 6.0 10.2 7.0 8.1 9.4 8.5 10.0 9.5 1.4 2011 6.1 6.8 7.0 5.8 5.6 7.9 7.6 9.2 6.4 8.9 5.4 2012 12・1-3月 12・1-6月 12・1-9月 13・1-3月 13・1-6月 13・1-9月 6.6 1.5 3.2 5.2 1.9 3.5 4.7 5.9 1.2 2.8 4.4 1.9 3.4 5.1 5.4 1.1 2.3 3.9 1.6 3.0 4.8 5.6 0.6 1.5 4.0 1.0 2.5 5.1 6.0 1.6 3.3 4.9 2.1 3.4 4.8 5.4 0.9 2.7 3.8 1.9 3.5 4.9 7.2 0.9 2.5 5.4 1.8 3.7 5.7 8.7 2.2 4.2 5.7 2.8 4.3 7.4 6.0 1.1 2.4 4.2 1.8 4.0 4.7 6.5 1.5 3.2 5.1 2.5 4.1 6.6 6.0 1.9 4.6 4.3 2.8 2.9 3.9 (出所) 』;『極東連邦管区の社会経済情勢(2012年)』;『ロシアの社会経済情勢(2012年3、6、9月;2013年3、6、9月)』(ロシア 『ロシア統計年鑑(各年版) 連邦国家統計庁)。 実質貨幣所得成長率(前年同期比%) ロシア連邦 極東連邦管区 サハ共和国 カムチャッカ地方 沿海地方 ハバロフスク地方 アムール州 マガダン州 サハリン州 ユダヤ自治州 チュコト自治管区 2006 14.1 12.1 6.1 7.1 15.0 14.3 10.3 9.1 14.1 8.3 7.2 2007 13.1 10.6 5.1 8.8 10.6 12.1 19.6 6.8 12.4 5.5 4.4 2008 3.8 3.4 8.6 4.9 4.0 ▲ 4.9 11.5 1.0 6.8 12.0 5.2 2009 1.8 4.0 1.7 3.9 6.5 8.4 ▲ 5.5 2.5 ▲ 0.6 4.7 ▲ 8.1 2010 5.4 3.5 2.9 3.2 5.5 4.7 0.4 3.8 ▲ 2.2 3.5 6.0 2011 1.1 1.5 3.4 ▲ 0.8 2.9 ▲ 2.8 12.9 ▲ 2.0 ▲ 3.1 ▲ 3.2 9.5 2012 12・1-3月 12・1-6月 12・1-9月 13・1-3月 13・1-6月 13・1-9月 4.8 3.0 3.6 3.8 5.0 5.2 4.2 2.6 4.4 5.2 2.6 6.1 5.7 4.9 4.0 3.6 5.4 2.4 2.9 1.1 1.9 ▲ 2.6 ▲ 4.1 ▲ 2.7 ▲ 3.5 4.4 4.9 1.6 2.5 6.1 5.3 0.4 8.0 8.9 9.6 0.5 1.5 2.5 0.0 6.6 5.5 4.0 13.9 27.6 29.7 27.8 4.0 3.6 0.3 8.7 10.8 6.9 5.9 2.0 7.2 0.2 ▲ 2.2 ▲ 4.8 ▲ 3.5 ▲ 3.8 11.9 8.5 9.4 3.2 ▲ 7.0 0.5 0.2 0.6 1.5 ▲ 1.1 ▲ 13.8 ▲ 9.0 ▲ 7.0 ▲ 6.6 ▲ 2.5 ▲ 2.2 ▲ 0.9 (出所) 『ロシア統計年鑑(2010年版、2012年版)』;『ロシアの社会経済情勢(2012年4、7、10月;2013年1、4、7、10月) 』 (ロシア連邦国家統計庁)。 *斜体:速報値 平均月額名目賃金(ルーブル) ロシア連邦 極東連邦管区 サハ共和国 カムチャッカ地方 沿海地方 ハバロフスク地方 アムール州 マガダン州 サハリン州 ユダヤ自治州 チュコト自治管区 2006 10,634 13,711 16,168 18,541 10,903 12,888 11,111 17,747 18,842 9,529 25,703 2007 13,593 16,713 19,409 21,815 13,174 15,884 13,534 22,102 23,346 11,969 30,859 2008 17,290 20,778 23,816 27,254 16,805 18,985 16,665 28,030 30,060 15,038 38,317 2009 18,638 23,158 26,533 31,570 18,997 20,455 19,019 32,657 32,626 16,890 42,534 2010 20,952 25,814 28,708 35,748 21,889 22,657 21,208 36,582 35,848 19,718 46,866 2011 23,369 29,320 34,052 39,326 24,423 26,156 24,202 41,934 38,771 22,928 53,369 2012 12・1-3月 12・1-6月 12・1-9月 13・1-3月 13・1-6月 13・1-9月 26,822 24,407 25,476 25,686 28,788 27,339 29,044 33,611 30,444 31,700 31,907 35,608 33,876 35,643 39,751 35,500 37,523 37,448 43,411 39,825 42,780 43,156 39,593 41,482 41,323 47,641 43,812 46,925 27,453 25,249 26,141 26,155 28,419 27,282 28,479 30,908 27,407 28,694 29,078 32,095 30,707 32,393 26,859 24,130 24,840 25,359 28,797 28,037 28,875 51,061 45,630 47,944 49,286 55,374 52,797 54,848 44,453 41,995 42,802 42,710 46,509 45,792 47,269 25,244 22,933 24,095 24,256 26,117 24,869 26,160 62,856 56,615 60,236 60,275 67,783 65,035 67,786 (出所)『ロシア統計年鑑(2010年版、2012年版)』;『ロシアの社会経済情勢(2012年4、7、10月;2013年1、4、7、10月) 』 (ロシア連邦国家統計庁)。 74 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 財政収入は前年同期を15.0%上回り、財政支出は前年同期 モンゴル を2.0%上回った。予算収入とは別に421億トゥグルグが安 モンゴル経済は引き続き拡大を継続しているが、その速 定化基金に積み立てられた。これは前年同期を48.0%上 度は低下しつつある。貿易及び海外からの直接投資の縮小 回っている。財政収入の増加は、財・サービスに対する税 に伴う通貨の急激な減価は、消費財及び生産材料の大部分 収、所得税収、社会保障負担の増加によるものである。一 を輸入するモンゴルにとって、インフレスパイラルの引き 方で純融資は前年同期の3倍となり、債務額は前年同期を 金となる危険性がある。さらに失業の増大と、ビジネス環 56.0 % 上 回 っ た。 財・ サ ー ビ ス へ の 支 出 は 前 年 同 期 を 境の悪化は、 経済の持つ潜在的な成長力を損なう恐れがある。 16.0%上回った。しかし財政支出全体の半分以上を占める 資本支出と補助金・交付金は、前年同期をそれぞれ6.1%、 マクロ経済指標 13.6%下回った。 2013年第3四半期の実質経済成長率は鉱工業及び農業部 門の拡大により、前年同期比11.9%を記録した。また1~ 通貨及び金融 9月期の成長率は同11.5%となった。 2013年11月末の貨幣供給量(M 2)は9.1兆トゥグルグで、 鉱工業生産額は引き続き拡大し、10月に前年同期比 前年同期を20.0%上回った。しかし通貨の減価により、米 17.3%増、11月に同14.0%増となった。この結果、1~11 ドル換算では52.5億ドルとなり、前年同期比4.3%増にとど 月期の鉱工業生産額は前年同期比12.4%増となった。鉱業 まっている。 はこの成長の中心であり前年同期比16.6%増となり、鉱工 11月末の融資残高は前年同期を55.0%上回る10.8兆トゥ 業生産額の68.2%を占めた。金、銅精鉱、原油などの主要 グルグ(約62億ドル)となった。11月末の不良債権比率は 品目の生産額は前年同期をほぼ50%上回った。一方で石炭 5.3%に止まっているが、金額は前年同期の倍となった。 の生産額は停滞し、前年同期比2%増にとどまった。同時 この指標は7カ月連続の上昇を記録し、モンゴルのビジネ 期に製造業の生産額は1.7%、公益事業の生産額は5.0%、 ス環境の悪化を示している。 それぞれ増加している。 しかし、2013年11月末の登録失業者数は、鉱業、建設業、 外国貿易 道路及び観光業の季節雇用の減少により、9月末の37,600 2013年1~11月期の貿易総額は97億ドルで、前年同期を 人から、42,900人増加した。製造業はこの増加を吸収する 5.7%下回った。輸出は39億ドルで、前年同期比4.2%減少、 ことはできなかった。 輸入も同じく59億ドルで、同6.6%減少した。 11月末の消費者物価上昇率は前年同期比12.3%であっ 輸出減少の主な原因は、主要輸出品である石炭の輸出の た。また、1~11月期平均の上昇率は前年同期比10.3%で 減少である。しかし、他の主要鉱産物の輸出は増加してお あった。部門別に見ると、通信以外のすべての品目が上昇 り、銅精鉱の輸出量は58.6万トンで前年同期比10%増、金 している。 は7.1トンで前年同期の3倍となっている。 通貨トゥグルグの対米ドル為替レートは急速な減価を続 輸入減少は、機械、設備、乗用車、トラックなどの輸入 けており、11月末には1ドル=1,734トゥグルグで前年同 の減少によるものである。これらの品目の輸入額は前年同 期から24.0%の減価となった。こうした減価は、貿易赤字 期比19.0%減少している。モンゴルは同時期に999GWh、 の拡大と対内FDIの減少によるものである。第3四半期の 金額にして9,210万ドルの電力を輸入した。これは電力量 経常収支の赤字は4億ドルで、前年同期を68.6%上回って にして前年同期の3.3倍、金額にして4.7倍である。これは いる。また第3四半期の対内FDIは前年同期の約3分の1 モンゴルの電力供給の不足が拡大していることを示してお となっている。 り、早急に対策が採られないならば、今後の経済成長の支 2013年1~11月期の国家財政収支は1,660億トゥグルグ 障となる可能性がある。 の赤字となった。これは前年同期を76.4%下回っている。 実質GDP成長率(対前年同期比:%) 鉱工業生産額(対前年同期比:%) 消費者物価上昇率(対前年同期比:%) 登録失業者(千人) 対ドル為替レート(トゥグルグ) 貨幣供給量(M2)の変化(対前年同期比:%) 融資残高の変化(対前年同期比:%) 不良債権比率(%) 貿易収支(百万USドル) 輸出(百万USドル) 輸入(百万USドル) 国家財政収支(十億トゥグルグ) 国内貨物輸送(百万トンキロ) 国内鉄道貨物輸送(百万トンキロ) 成畜死亡数(千頭) 2010年 6.4 10.0 13.0 38.3 1,356 63 23 12 ▲ 292 2,909 3,200 2 12,125 10,287 10,320 2011年 17.5 9.7 10.2 57.2 1,244 37 73 6 ▲ 1,747 4,780 6,527 ▲ 632 16,337 11,382 651 (ERINA調査研究部主任研究員 Sh. エンクバヤル) 2012年 2012年4Q 2013年1Q 2013年2Q 2013年3Q 2013年1-11月 12.6 10.6 7.2 14.3 11.9 - 7.2 9.2 7.1 4.4 22.4 12.4 14.3 14.5 11.4 9.6 9.2 10.3 35.8 35.8 35.2 41.7 37.6 42.9 1,359 1,393 1,397 1,431 1,569 1,510 19 19 20 14 19 20 24 24 28 36 48 55 4 4 4 4 5 5 ▲ 2,354 ▲ 340 ▲ 396 ▲ 651 ▲ 681 ▲ 1,994 4,385 1,153 809 1,215 1,074 3,861 6,739 1,493 1,205 1,866 1,755 5,855 ▲ 1,163 ▲ 605 84 ▲ 217 2 ▲ 166 16,647 4,995 3,015 4,761 3,855 - 12,176 3,081 2,469 3,300 3,270 11,130 429 132 244 395 21 - (注)消費者物価上昇率、登録失業者数、貨幣供給量、融資残高、不良債権比率は期末値、為替レートは期中平均値。 (出所)モンゴル国家統計局『モンゴル統計年鑑』、『モンゴル統計月報』各号 ほか 75 10月 - 17.3 10.8 39.4 1,688 24 53 5 ▲ 133 382 516 ▲ 52 - 1,047 - 11月 - 14.0 12.0 42.9 1,734 20 55 5 ▲ 133 381 514 17 - 1,001 - ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH ついては、年前半が前年同期比3.9%、年後半が同3.5%とし、 韓国 後半における低下を予測している。韓国において労働、資 マクロ経済動向 本ストックを完全に使用した状態の潜在成長率は4%程度 韓国銀行(中央銀行)が12月5日に公表した2013年第3四 と見られており、KDIも韓国銀行同様、2014年にはこの水 半期の成長率(改定値)は、季節調整値で前期比1.1%(年 準に復帰できないと予測したことになる。 率換算4.5%)で、前期の同1.1%と同水準であった。需要項 2013年の成長率を需要項目別に見ると、内需は民間消費 目別に見ると内需では、最終消費支出は同0.8%で前期の同 が2.2%で韓国銀行を0.3ポイント下方修正された。設備投 1.1%からやや低下した。固定資本形成は同2.2%で前期の同 資は▲2.5%で韓国銀行を0.7ポイント下回っている。一方、 2.2%と同水準であった。その内訳では建設投資は同3.2%で 建設投資は7.1%で韓国銀行を1.0ポイント上回った。外需 前期の同3.4%から低下した。一方、設備投資は同1.0%で前 である輸出は4.3%となっている。 期の同▲0.2%からプラスに回復した。外需である財・サービ 2014年の成長率を需要項目別に見ると、内需は民間消費 スの輸出は同▲1.3%で前期の同1.8%からマイナスに転じた。 が3.6%で、年前半は前年同期比3.8%、年後半が同3.4%と 第3四半期の鉱工業生産指数の伸び率は季節調整値で前 なっている。設備投資は8.4%で、 年前半は前年同期比8.0%、 期比0.2%となり、前期の同0.4%を下回った。月次では、 年後半が同8.9%となっている。建設投資は2.9%で、年前 10月は前月比1.4%、11月は同▲0.3%となっている。 半は前年同期比4.3%、年後半が同1.8%となっている。外 第3四半期の失業率は季節調整値で3.0%であった。月 需である輸出は6.6%で、年前半は前年同期比6.1%、年後 次では、10月は3.0%、11月は2.9%となっている。 半が同7.1%となっている。 第3四半期の貿易収支(IMF方式)は166億ドルの黒字 2014年の失業率については3.1%で、ほぼ前年比横ばい であった。月次では、10月は72億ドル、11月は62億ドルの としているが、雇用者数の増加は2013年の35万人から、40 それぞれ黒字である。 万人に拡大すると見込んでいる。 対ドル為替レートは10月に1ドル=1,016ウォン、11月 一方、2014年の消費者物価上昇率は2.0%で、2013年の に同1,066ウォン、12月に同1,056ウォンとウォン高基調で 1.1%から上昇を予測している。 推移している。 消費者物価上昇率は、9月に前年同月比1.0%、10月に 朴政権の新年度の経済政策 同0.9%、11月に同1.2%、12月に同1.1%と推移している。 朴槿恵大統領は1月6日、 「経済革新3カ年計画」を発表し、 生産者物価上昇率は、9月に前年同月比▲1.8%、10月に 新年度の経済政策の方向性を提示した。内容としては規制 同▲1.4%、11月に同▲0.9%とマイナスで推移している。 緩和による内需関連産業の成長促進、中小企業の育成など に重点が置かれている。特定の大企業にのみ利益が集中す 今後の展望 る現在の輸出主導成長の歪を是正することが指向されている。 政府系シンクタンク、韓国開発研究院(KDI)は11月19 なお、目標数値としては現在2万3千ドルの一人当たり 日に経済見通しを発表し、2013年の成長率を前号で掲載し 国民所得を3年かけて4万ドル引き上げるとしているが、 た韓国銀行と同じ2.8%、2014年の成長率を韓国銀行を0.1 これはかなり過大と見られる。 ポイント下回る3.7%と予測している。2014年の成長率に 2008年 実質国内総生産(%) 2.3 最終消費支出(%) 2.0 固定資本形成(%) ▲ 1.9 鉱工業生産指数(%) 2.8 失業率(%) 3.2 貿易収支(百万USドル) 5,170 輸出(百万USドル) 422,007 輸入(百万USドル) 435,275 為替レート (ウォン/USドル) 1,103 生産者物価(%) 8.5 消費者物価(%) 4.7 株価指数(1980.1.4:100) 1,124 2009年 0.3 1.2 ▲ 1.0 ▲ 0.1 3.6 37,866 363,534 323,085 1,276 ▲ 0.2 2.8 1,683 2010年 6.3 4.1 5.8 14.0 3.7 40,083 466,384 425,212 1,156 3.8 3.0 2,051 2011年 3.6 2.2 ▲ 1.1 5.9 3.4 31,660 555,214 524,413 1,108 6.7 4.0 1,826 (ERINA調査研究部主任研究員 中島朋義) 2012年 12年10-12月 13年1-3月 2.0 0.3 0.8 2.2 0.5 ▲ 0.1 ▲ 1.3 ▲ 1.6 3.8 0.9 0.9 0.1 3.2 3.0 3.3 38,338 14,314 9,340 547,870 139,768 135,328 519,584 129,831 129,679 1,127 1,090 1,085 0.7 ▲ 0.9 ▲ 1.9 2.2 1.7 1.6 1,997 1,997 2,005 4-6月 1.1 1.1 2.2 0.4 3.1 15,838 141,167 126,785 1,123 ▲ 2.3 1.2 1,863 7-9月 1.1 0.8 2.2 0.2 3.0 16,623 136,786 125,975 1,111 ▲ 1.4 1.4 1,997 9月 10月 11月 - - - ▲ 1.0 2.7 5,669 44,664 41,040 1,085 ▲ 1.8 1.0 1,997 - - - 1.4 3.0 7,028 50,488 45,612 1,066 ▲ 1.4 0.9 2,030 - - - ▲ 0.3 2.9 6,175 47,899 43,101 1,063 ▲ 0.9 1.2 2,045 (注)国内総生産、最終消費支出、固定資本形成、鉱工業生産指数は前期比伸び率、生産者物価、消費者物価は前年同期比伸び率、株価指数は期末値 国内総生産、最終消費支出、固定資本形成、鉱工業生産指数、失業率は季節調整値 国内総生産、最終消費支出、固定資本形成、生産者物価は2005年基準、消費者物価は2010年基準 貿易収支はIMF方式、輸出入は通関ベース (出所)韓国銀行、統計庁他 76 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH どが重要な対象として列挙されている。また、住宅建設や 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮) 学校建設などの重要性にも言及がある。平壌市においては 開城高度科学技術開発区の着工式挙行 軍民共同での建設を継続することが言及されている。 2013年11月11日発『朝鮮中央通信』によれば、同日、開 科学技術については、「科学技術発展に人民の幸福と祖 城市で中国・香港、シンガポール、オーストラリア、中近 国の未来がかかっている」と表現されており、その中でも 東、アフリカ企業の投資による開城高度科学技術開発区の 科学技術の経済建設の現場への応用と「知識経済」化、 「全 着工式が行われた。 民科学技術人材化」に表現される科学技術知識の普及が強 調されている。 13の経済開発区が設置 次に、これまで四大先行部門(石炭、金属、電力、鉄道 2013年11月21日発『朝鮮中央通信』によれば、同日、国 運輸)の優先的発展が強調されていたところ、今年は金属 内の各道(都道府県に相当)に経済開発区を置く最高人民 工業と化学工業の2つの部門の成長の必要性が指摘され、 会議常任委員会の政令が発表された。発表されたのは13の その後電力、石炭、鉄道運輸に言及する形となっている。 経済開発区で、⑴鴨緑江経済開発区、⑵満浦経済開発区、 その他、経済関係においては、軽工業、水産部門における ⑶渭原工業開発区、⑷新坪観光開発区、⑸松林輸出加工区、 軍所属の水産企業を模範とした漁船、漁具の近代化、地下 ⑹現洞工業開発区、⑺興南工業開発区、⑻北青農業開発区、 資源と林業資源の保護と植樹の重要性、節約を通じた「内 ⑼清津経済開発区、⑽漁郎農業開発区、⑾穏城島観光開発 部予備」の動員、経済事業における指導と管理の改善につ 区、⑿恵山経済開発区、⒀臥牛島輸出加工区。 いての言及がある。その後、教育、保健、文化芸術、体育 の各部門の重要性と改善の必要性が比較的詳細に指摘され 新義州市に特殊経済地帯を設置 ている。 2013年11月21日発『朝鮮中央通信』によれば、同日、平 その後、防衛力強化についての言及が続くが、ここでは 安北道新義州市の一部地域に特殊経済地帯を置く最高人民 主に軍人の生活環境改善( 「中隊の強化」 )と軍内部の思想 会議常任委員会の政令が発表された。 統制の重要性が説かれている。国防工業部門の近代化につ いては、軽量化、無人化、知能化、精密化した武器生産の 「新年の辞」 必要性が指摘されている。 2014年1月1日朝9時過ぎから、朝鮮中央テレビで、金正 次に、幹部たちに対する思想統制の重要性が指摘され、 恩朝鮮労働党第1書記による「新年の辞」の放送があった。 次に「人民大衆」に対する精神力の強化が指摘されている。 これは、最高指導者が直接国民に語りかけるその年の施政方 また、すべての分野における革命的規律と秩序を厳格に立 針である。今回の新年の辞の放送時間は、 26分ほどであった。 てる問題が指摘されている。 今年の新年の辞のスローガンは、「勝利の信心高く強盛 南北関係、統一問題に関しては、民族内部の問題である 国家建設のすべての戦線で飛躍の炎を力強く引き起こして ことが強調され、暗に韓国を指し示し「国際共助」は「民 行こう」である。 族の運命を外勢に籠絡させる」行為であると批判しつつ、 昨年の評価については、経済、建設、教育文化の3分野 「北南間の関係改善のための雰囲気を醸成しなければなら について言及されており、経済については悪条件下にもか ない」としている。特に『「従北」騒動』をはじめとする かわらず農業生産が伸びたこと、建設については「祖国解 誹謗中傷合戦をやめようという提案が行われ、 「われわれ 放戦争勝利記念塔」「銀河科学者通り」「紋繍室内プール」 は民族を重視し、 統一を願う人であれば、 その人が誰であっ 「馬息嶺スキー場」をはじめとする「記念碑的建造物」や ても過去を不問とし、一緒に歩むであろうし、北南関係改 洗浦台地開墾事業など人民軍による建設が進んでいるこ 善のために今後も積極的に努力する」としている。 と、教育文化については、体育部門の成果や、義務教育の 対外関係については、昨年の米韓合同軍事演習とそれに 1年延長の準備、科学技術の現場への普及、医療施設の改 対する北朝鮮の対抗が「共和国を圧殺するための敵対勢力 善、音楽分野の成果などを挙げている。 たちの核戦争策動によりいわば一触即発の戦争の危険が造 今年、力を入れるべき分野としては農業、建設、科学技 成された」としている。このような挑発には、 「わが人民 術が挙げられている。農業が第一順位になっている理由と において、平和はもっとも貴重であるが、それを願い、あ しては、人民生活向上のためには食糧問題の改善が必要で、 るいは心から実現したいと思って実現するものではない」 かつ農業分野での改革が功を奏し、生産が増加傾向にある という現実的視点から、挑発に対しては強力に対抗するこ こともあるが、今年が「社会主義農村テーゼ」発表50周年 とを表明しつつ、「自主、平和、親善」の対外政策理念を にあたり、朝鮮労働党の農業政策の思想的継続性とその正 確固として堅持しつつ、自国の自主権を尊重し、友好的な 当性を証明する必要があるということが第一であろう。 国に対してはすべての国との間で親善協力関係を拡大発展 建設については、清川江階段式発電所、洗浦台地開墾事 させるとしている。 業、高山果樹農場、干拓地建設、黄海南道水路建設工事な (ERINA調査研究部長・主任研究員 三村光弘) 77 ERINA REPORT No. 116 2014 MARCH 研究所だより 今号は、「第6回日露エネルギー・環境対話イン新潟」 を特集した。エネルギーと環境の問題は、どの国の社会・ イベントの開催 経済にとっても大切なテーマであろうが、とりわけ日本に ▽パネル討論会 とっては2011年3月11日の東日本大震災以降、その重要性 「エネルギーが北東アジアを繋ぐ を増している。 エネルギーミックスの中で原発をどう考え、 ~エネルギーインフラストラクチャーと安全保障」 再生可能エネルギーをいかに発展させていくのか。 “強靭 平成25年12月16日㈪ な国土”の中でエネルギー基地をどのように配置し、国民 会場:朱鷺メッセ中会議室201 のエネルギー安全保障をどのように確保するのか。こうし 共催:ユーラシア研究所 た背景もあって、今回の「対話」で関心を集めたのは、進 みつつある日ロLNG協力のみならず、パイプラインによ ▽2014北東アジア経済発展国際会議イン新潟 るロシアの天然ガス輸入の可能性であり、ロシア極東の分 平成26年1月29日㈬~30日㈭ 散型電源市場動向と日本の省エネルギー・再生可能エネル 会場:朱鷺メッセ マリンホール ギー技術であった。 主催:北東アジア経済発展国際会議実行委員会 (新潟県、 ERINAではこの「対話」後も、 エネルギー関連のセミナー を開催したり、ガスプロムの担当者が研究所を訪ねてきた 新潟市、ERINA) 参加者:延べ約300名 りしている。エネルギー・環境分野は、一連の北東アジア 6カ国(中国、日本、モンゴル、韓国、ロシア、米国) 経済研究の中でも実利的な面が強く、地域経済への影響力 も相当ありそうである。 セミナーの開催 そんなことを意識しながら、本号に掲載した「対話」を ▽日露石油ガスセミナー(新潟) 吟味していただければ幸いである。 (中村) 〜ロシアの石油ガス最新事情と日ロ協力の可能性〜 平成26年2月12日㈬ 会場:朱鷺メッセ中会議室301 講師:ルスエナジー ミハイル・クルチヒン氏 発行人 共催:一般社団法人ロシアNIS貿易会 西村可明 編集委員長 三村光弘 編集委員 新井洋史 中島朋義 Sh. エンクバヤル 朱永浩 穆尭芋 発行 公益財団法人環日本海経済研究所Ⓒ The Economic Research Institute for Northeast Asia(ERINA) 〒950−0078 新潟市中央区万代島 5 番 1 号 万代島ビル13階 13F Bandaijima Bldg., 5-1 Bandaijima, Chuo-ku, Niigata City, 950-0078, JAPAN Tel: 025−290−5545(代表) Fax: 025−249−7550 E-mail: [email protected] URL: http://www.erina.or.jp/ 発行日 2014年2月15日 (お願い) ERINA REPORTの送付先が変更になりましたら、 お知らせください。 禁無断転載 78