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北朝鮮視察報告 - 環日本海経済研究所

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北朝鮮視察報告 - 環日本海経済研究所
ERINA REPORT Vol. 88 2009 JULY
平壌出張記
ERINA調査研究部研究主任 三村光弘 2009年4月22日〜29日の間、朝鮮民主主義人民共和国
(北
ことにした。
朝鮮)の平壌を訪問した。今回の訪問は朝鮮社会科学者協
北京経由での訪朝の場合、ウラジオストク経由や瀋陽経
会、朝鮮社会科学院等の学者との学術交流のためであった。
由で行われているビザの空港配達サービスは利用できず、
当初は開城工業地区の参観も希望していたが、同地区の事
北京の北朝鮮大使館領事部でのビザ申請となる。ビザ申請
業環境が悪化しているため、今回は見送りとなった。
は月曜日と金曜日が午前と午後、火曜日〜木曜日は午後の
みの受付・受領となる。この月曜日と金曜日というのは、
北京経由での訪朝
長らく北京〜平壌間を火曜と土曜の週2便飛んでいた(現
これまでの訪朝では、新潟〜ウラジオストク〜平壌線や
在はこれに木曜を加えて週3便)高麗航空の平壌便出発の
大阪〜瀋陽〜平壌線など、同日乗り継ぎができるルートを
前日にあたる日である。
利用してきた。現在、ウラジオストク経由はスケジュール
今回は2008年春から就航した中国国際航空(高麗航空が
変更で同日乗り継ぎができなくなっている。また、瀋陽経
飛んでいない月・水・金に運行)を利用してみることにし
由は全日空が大阪〜瀋陽便を休航にしているため、同日乗
た。東京から平壌まで通しの切符が発売されており、公示
り継ぎができない。そのため今回は、北京経由で訪問する
運賃は11万円だが、旅行社では2009年4月現在で約9万円
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ERINA REPORT Vol. 88 2009 JULY
写真1 北京・首都国際空港の中国国際航空チェックイン
カウンター
写真2 平壌第1中学校の生徒たちの公演
に空港使用料や燃油追加料金等が加算される。東京を4月
とかなり年齢に幅があるので、まだ背が低く幼い感じの残
21日に出発して、北京で1泊し、北朝鮮大使館でビザを取
る子供たちから、すでに大人と変わらないくらいの背丈の
得してから首都国際空港に向かった。
子供たちまでが同じ学校で勉強していた。
北京・首都国際空港での中国国際航空の搭乗手続は昨年
高学年の英語の補習班を見せてもらったが、生徒たちの
新設された第3ターミナルとなる。エコノミークラスの
英語は相当のレベルであった。先生が「英語で話しかけて
チェックインカウンターは便ごとに設けられており、平壌
みてください」とおっしゃるので、
「中学を卒業したら進
行きCA121便のチェックインカウンターの隣は、ソウル・
路はどうするのか」と質問してみたところ、
「もちろん、
仁川行きCA125便のチェックインカウンターであった。中
金日成総合大学に進学します」
とのことだった。
「もちろん」
国国際航空の北京発朝鮮半島行きの便名は中国の朝鮮半島
のところが若干嫌みっぽく感じられなくもなかったが、そ
政策を示唆するかのように南北とも120番台が付与されて
う答える生徒のまなざしには力があった。
お り、 平 壌 行 き はCA121/122便、 ソ ウ ル 行 き はCA123-
この学校がエリート校だからかもしれないが、廊下で会
127/124-128便、釜山行きはCA129/130便となっている。
う生徒たちは例外なく客であるわれわれ一行に会釈をして
北京〜平壌線の機材はボーイング737-300型機で、定員
通っていった。廊下を走っていたやんちゃな低学年の生徒
は128人。4月22日のフライトは50人も乗っていなかった。
たちも、急停止をして会釈をした。いろいろと悪く言われ
乗客の多くは欧州やアジアからの乗り継ぎ客とおぼしき
ることの多い北朝鮮だが、子供たちの希望に満ちた目と態
人々だった。食事時間帯を飛ばないので、ピーナッツと飲
度の良さにはいつも驚かされる。
物のサービスだけだった。平壌までは1時間25分ほどのフ
学校や学生少年宮殿の参観の最後には、生徒や子供たち
ライトだった。
による公演があるのがおきまりだ。北朝鮮最高のエリート
校だから、ここではないだろうと思っていたが、しっかり
平壌第1中学校参観
公演の席が設けられていた。案内の先生が「この4月に入
滞在中、平壌第1中学校を参観する機会があった。北朝
学したばかりの1年生なので、まだまとまりのある公演に
鮮の教育体系は小学校4年間、中学校6年間に就学前1年
なっていません」とおっしゃっていたが、伴奏も歌もなか
間を含む「全般的11年義務教育」の上に大学や専門学校、
なかのものだった。
就職後の再教育制度などが組み合わさった形になってい
る。中学校には10歳で入学し、17歳で卒業する。平壌第1
沙里院市訪問
中学校は、1984年から始まった北朝鮮における「秀才教育」
朝鮮人民軍創建記念日で休日の4月25日、沙里院市を訪
の頂点にあるトップ校とのこと。平壌市内だけではなく、
問した。前回、開城工業地区からの帰りに沙里院市に寄っ
全国から試験を突破した超エリートの卵たちが学ぶ。
て「民俗通り」という昔の街並みに似せた観光コースを簡
午後に参観したので、すでに授業は終わっており、課外
単に見学をしたが、その時に訪問したいと思っていたマッ
活動をする生徒たちの姿を見せてもらった。10歳から16歳
コリ
(コメを主体に麦麹で発酵させたどぶろくのような酒)
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ERINA REPORT Vol. 88 2009 JULY
写真3 結婚記念撮影を行う軍人とその奥さん
写真4 錦繍山記念宮殿参観記念の写真を撮る学生たち
店は訪れることができなかった。今回、それを覚えていて
いくつかの大学の学生たちの参観団と出会う機会が多かっ
くれた朝鮮社会科学者協会の計らいで再訪がかなった。
た。北朝鮮の大学生たちの多くは思想が堅固な家庭に生ま
平壌市から平壌〜開城間高速道路を南下すること1時間
れ育ち、その上厳しい試験をかいくぐってきた学生たちが
弱で黄海北道の道庁所在地、沙里院市に到着した。休日だ
多いと言われている。参観の際にあった学生たちに共通し
けあって、民俗通りや隣接する公園には多くの人が集まっ
ていたのは、前述した平壌第1中学校の生徒たち同様、力
ていた。公園には好太王碑や古墳の模造品など、朝鮮の歴
のある目をしているということだった。同時に、自らがエ
史を彷彿とさせるものが多いが、考古学的に厳密な考証は
リートであるという誇りと、その誇りに見合った働きをし
なされていないようであった。
ないといけないという矜持を感じた。外国人の遠慮ない視
マッコリ店に行き、緑豆のチジミ(緑豆の粉を水でこね
線を向けられても、恥じることなく相手を見つめることの
て油で焼いたパンケーキ状のスナック)を肴にマッコリを
できる学生が多くいる北朝鮮は、国が厳しい国際政治的、
飲む。少し酸っぱい。味が素朴で結局500ccのどんぶりで
経済的試練の中で翻弄されるとしても、それを乗り越えて
5杯ほど飲んだ。アルコール度数はビールと同じ位なので、
いける力を持った国だと思った。参観後に記念撮影の列を
それほど酔わない。ソウルで飲んだマッコリよりも味が優
待つ学生たちは、仲間同士でふざけ合いながら、楽しそう
しかった(ソウルのマッコリは逆にキレのよい味だ)
。
に過ごしていた。彼らのふだんの生活の一面を垣間見るこ
その後、周囲の公園を散策した。公園には何組もの軍服
とができたような気がする。
を着た男性とチマチョゴリ姿の女性が記念撮影を行ってい
平壌市の西、万景台区域にある光復通りに最近イタリア
た。建軍記念日ということで、多くの軍人がこの日に結婚
料理店が誕生したとのニュースが『朝鮮新報』ホームペー
式をしたり、記念撮影を行うそうだ。
ジ で 報 道 さ れ て い た(http://www.korea-np.co.jp/news/
最近は北朝鮮でも結婚式の記念ビデオを作る人が多く
ViewArticle.aspx?ArticleID=35855)
。 報 道 に よ る と、 料
なってきているらしく、一族郎党が集まってカメラマンの
理人をイタリアに派遣して実習させた本格的な店のよう
指示のもとにしきりにポーズをとり、ビデオ撮影にいそし
だ。どのような店か興味があったので、行ってみることに
んでいた。
した。
光復通りは平壌市内で現在進行中の路面電車の軌道補修
錦繍山記念宮殿と光復通り参観
第2期工事の対象区間にあたる。そのため、側道は軌道工
滞在中、錦繍山記念宮殿を参観する機会があった。錦繍
事中で通行できず、少し遠回りをしながら、店までたどり
山記念宮殿は、故金日成主席の遺体が安置されている場所
着いた。看板には「ピザ」
「スパゲッティ」と朝鮮語とイ
で、もともと金日成主席が執務していた主席宮の場所を逝
タリア語で書かれ、その下に「イタリア料理専門食堂」と
去後拡張して建設された場所だ。平壌市内だけでなく、北
朝鮮語で書いてある。営業開始時間まで少しあったので、
朝鮮全土から参観者が絶えない。
店のまわりで散歩しながら待つ。店は100席ほどだ。営業
今回の訪問では、平壌市内の金策工業総合大学はじめ、
開始まであと10分というのに誰もいない。結局時間を15分
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ERINA REPORT Vol. 88 2009 JULY
写真5 工事中の路面電車の軌道
写真7 ハマグリのガソリン焼き
写真6 イタリア料理店の外観
程度のものが多く、
大きすぎて大味だった。
また風が強かっ
たので、ガソリン臭が強かったが、今回は風もそれほど強
くなく、ガソリン焼は成功した。ハマグリは今回、4.5セ
ンチ程度の最上級品が手に入った。日本の経済制裁で北朝
鮮から日本へのハマグリの輸出が止まっている影響もある
と思われる。12キロで32ユーロ(約4,200円)と北朝鮮の
物価としては相当高い。日本に輸出されなくても、国内の
余裕にある層に出回っているのだろう。日朝関係が正常化
すると、ハマグリはまた日本に輸出され、国内には大きな
ものが出回るのかもしれない。
今回の訪朝では、このような参観を行ったほか、朝鮮社
会科学者協会と社会科学院経済研究所、社会科学院法律研
すぎても店が開かないので、結局この日のイタリア料理試
究所の研究者と北朝鮮経済の現状や憲法改正をはじめとす
食は次回に繰り越しとなった。
る立法動向など多岐にわたる意見交換を行い、世界金融危
機が北東アジアに及ぼす影響について共同研究を行うこと
龍崗温泉訪問
で合意した。現在、最悪の状況が続いていると言われる日
龍崗温泉は、平安南道の温泉郡にある保養所を外国人に
朝関係であるが、このような厳しい状況の下でも、学術交
も開放している別荘形式の温泉保養施設である。施設の内
流を継続し、事実に基づいた研究を進めていくことの必要
容については、すでにERINA REPORT vol. 70の67〜68
性は変わらない。今回の出張中には、北朝鮮の関係者から
ページで報告しているのでそちらを参照いただきたい。今
日本に対する大変厳しい発言も出たし、こちらからも率直
回は、前回訪問の際に強風のために失敗した「ハマグリの
な意見を言わせてもらったが、どのような状況にあっても
ガソリン焼」の雪辱戦を行った。
交流のともしびを消してはならないという思いは同じであ
前回のガソリン焼で食べたハマグリは大きさが7センチ
ることを感じた出張であった。
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