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こちら - 公益財団法人食品農医薬品安全性評価センター

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こちら - 公益財団法人食品農医薬品安全性評価センター
No.
33
新年度のスタートにあたり
専務理事 井上 才祐
小泉内閣は,“国民の痛みを伴う”「聖域なき
構造改革」をかかげ,奮闘中であり,目下その成
就を願
って政・官・業の各界が努力していると
ころであります.今年は,その構造改革を達成し,
景気はドン
底から上昇に転ずるものと期待して
います.
それにつけても昨今の政・官・業の清域なき虚
言の罷り通ることか,各界が原因の追究と責任を明確にし,再発防
止に努めなければならないと強く感じます.
さて,お陰様で当センターは種々の懸案事項をかかえながらも一
つひとつ解決につとめ,飛躍し続けています.
私達は,5年前に,運営理念,行動指針を策定しました.その行
動指針には,「常に公益法人としての
自覚をもち,社会との共生
に努め“誠意”“熱意”“創意”をもって行動すること」を謳って
います.特
に“誠意”については,顧客は勿論のことすべての相
手の要望をきき,その欲求を満足させ,共に喜び を分かち合うこと.
また,業務の性格上,安全性評価試験から得られたすべての事実を
最終報告書に反
映させ,顧客の皆様の信頼に応えることを常に心
懸け行動しております.
遺伝毒性試験グループの陣容もほぼ整い,薬効試験も運営の一つ
の柱にまで成長しました.また,多くの顧客から要望の強かった
サル試験への取り組みも本年度から開始する運びとなりました.
皆様のより一層のご指導,ご鞭撻をお願い申し上げ,御用命を心
からお待ち申し上げています.
財団法人 食品農医薬品安全性評価センター
・新年度のスタートにあたり
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・1
・第16回望月喜多司記念賞
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・2
・薬効薬理試験メニューの紹介(Ⅳ)
アカゲザルを用いたパーキンソン病
モデル動物
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・3
・薬効薬理試験メニューの紹介(Ⅴ)
カニクイザルを用いた動脈硬化モ
デル(Ⅱ報) ・
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・4
・安評センターにおけるサルを用い
た試験の現状と今後
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・5
・連載 病理の話題(Ⅳ)
技術レポート2:TH抗体を用いたラ
ット副腎髄質の免疫染色
技術レポート3:Ki-67(MIB-5)抗体
を用いた免疫染色における抗原賦
活法の検討
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・6
・第18回日本毒性病理学会に参加
して
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・7
・Use of genomic data in risk
assessment: State of the art
2001に参加して
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・8
・連載:生物統計講座 No.11
順位和検定の一事例
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・9
編集後記
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・10
No.33
第16回 望月喜多司記念賞
−第16回望月喜多司記念賞の各賞決定−
事務局 阿部 和彦
平成13年度望月喜多司
記念賞の受賞者に,食品・農
薬・医薬品等の安全性の分野
は功労賞1氏,業績賞1氏,
奨励賞2氏が決定いたしまし
た.農薬の分野では,業績賞
2氏,奨励賞1氏,論文賞1
氏が決定されました.安全性
の分野の受賞者への贈呈式は3月14日の第6
8回理事会の席にて,また,農薬の分野の受賞
者への贈呈式は3月31日の日本農薬学会通常
総会の席で行なわれました.
なお,今回の各賞の受賞者と受賞研究題目は
次の通りです.
1. 食品・農薬・医薬品等の安全性の分野
【功労賞】
伊東 信行先生(名古屋市立大学 前学長)
研究題目:動物による発癌物質検出方法の簡便
化とそれによる発癌性の評価に関する研究
【業績賞】
堀井 郁夫先生(日本ロシュ株式会社,研究所
前臨床科学研究部 部長)
研究題目:毒性学・病理学領域における毒作用
発現に関する諸研究およびそれらの創薬時の安
全性評価への応用展開
【奨励賞】
宇野 洋先生(帝人株式会社,医薬開発研究所
安全性研究部・安全性研究部長)
研究題目:胃および腸管切除による消化吸収障
害モデルの実験病理学的研究
田中剛太郎先生(大鵬薬品工業株式会社,安全
性研究所 主任研究員)
研究題目:抗アレルギー剤トシル酸スプラタス
トの代謝物によって選択的に誘発される小脳顆
粒細胞死の神経病理学的研究
2. 農薬の分野
【業績賞】
本山 直樹先生(千葉大学,園芸学部・教授)
研究題目:農薬の安全性に関わる環境科学的研
究
赤松 美紀先生(京都大学大学院,農学研究科・
助教授)
研究題目:農薬の三次元構造活性相関に関する
研究
【奨励賞】
池田 朋子先生(筑波大学,農林学系・研究員)
研究題目:GABAレセプターをターゲットと
2
する殺虫剤の電気生理学的研究
【論文賞】
都築 学先生(住友化学工業株式会社,生物環
境科学研究所・主任研究員)
研究題目:熱力学的方法を用いた農薬の蒸気圧
予測法
Thermodynamic Prediction of Vapor
Pressure for Pesticides
■望月喜多司記念賞■
当センターの創設者である望月喜多司翁のご
遺志をうけ,その偉大な業績を記念すると共に
人類の健康の保持増進,農業生産の向上,そし
て地球の環境保全を願う崇高な理念を継承する
ために食品,農薬,医薬品等の安全性に関する
分野ならびに農薬分野に顕著な功績のあった方々
を1986年以来毎年数名表彰しています.
贈呈式
安全性分野の受賞者
(左から宇野先生、伊東先生、望月理事長、堀井先生、田中先生)
No.33
薬効薬理試験メニューの紹介(Ⅳ)
アカゲザルを用いた
パーキンソン病モデル動物
薬理試験グループ 糀本 芳郎
薬理試験グループ 北島 俊一
薬効試験グループ 廣内 康彦
1.はじめに
パーキンソン症候群は,J. Parkinson が
1817年に振戦麻痺として報告した神経変性疾
患で,運動緩徐,筋固縮,振戦及び体位と歩調
の異常を特徴とする臨床症状であります.
臨床病理学的には脳の基底核にある黒質ドパ
ミン作動神経細胞がLewy小体を形成して変性,
脱落する神経変性疾患であります.また,ドパ
ミンのシナプス後部受容体を遮断する抗精神病
薬や,レセルピンの様なシナプス前部ニューロ
ンのドパミンを枯渇させる薬物でもパーキンソ
ン病様症状が引き起こされる事が知られていま
す . B u r n s 2)ら は ド パ ミ ン 神 経 毒 で あ る
MPTP(N-methyl-4-phenyl-1,2,3,6,tetrahydropyridine)を霊長類に投与するとパ
ーキンソン病に似た神経症状を起こす事を報告
しました.このMPTPによって引き起こされる
パーキンソン病様症状はヒトの疾患と病理学的
及び生化学的にも非常に類似していると言われ
ています.
パーキンソン病には古くからドパミンの前駆
体であるL-dopaが治療薬として用いられて来
ました.しかし,長期間に渡るL-dopaの投与
は治療効果の変動,精神症状及び不随意運動等
の副作用を引き起こすことも報告されています
3),4),5).また,L-dopaとドパミン作動薬を併用
することでL-dopaの副作用を軽減できる事が
報告されています6),7),8).
製薬メーカーでは副作用の少ないドパミン作
動薬の開発がなされていますが,前臨床試験で
の薬効評価にはサルを用いた試験が有用である
ことが知られています.
今回,我々はアカゲサルにMPTPを投与して
パーキンソン病様症状を発現する動物を作製し,
これにドパミン作動薬を投与してその効果を調
べましたので報告します.
2.実験方法
MPTPを0.5mg/kgの用量でアカゲザルに1
週間に1回静脈内投与した.
パーキンソン病様症状の発現が安定した動物
6匹を選んで試験に使用した.コントロールと
して薬物投与前30分間ビデオ撮影した後,メ
シル酸ブロモクリプチン 10mg/kgを経口投与
し,投与6時間後までの一般状態を観察し,さら
に病理組織学的に解析した.
撮影したビデオを基にパーキンソン病様症状
をAkai T1)らの方法に準じてスコア化した.
評価規準は以下の通りである.
Rating scale to assess the parkinsonism in MPTP-lesioned monkeys
Behavior Scores
Parkinsonism
Alertness
Head checking movement
Eyes
Attention
Blinking, movement
Posture
Balance
Motility at rest
Reaction to external stimuli
Vocalization
Tremor
Normal;0, reduced;1, absent;2
Present;0, reduced;1, absent;2
Normal;0, reduced;1, eye closed;2
Normal;0, abnormal-trunk;+1, limb;+1, grossly abnormal;3
Normal;0, impaired;1, no movement;2
Normal;0, mild slow;1, moderate bradykinesia;2,
bradykinesia;3, Akinesia;4
Normal;0, reduced;1, slow;2, absent;3
Normal;0, absent;1
Absent;0, moderate;1, severe;2
3.結果
メシル酸ブロモクリプチン10mg/kgの経口
投与により投与後90分から6時間後の観察で
は手足の震えなどの運動障害であるパーキンソ
ン病様症状を有意に改善した.データには示し
ておりませんが,このモデルはL-dopaでもパ
ーキンソン病様症状を改善することが確認された.
ヒトParkinson病の特徴的な病理組織学的所
見として,黒質メラニン含有ドーパミン神経細
胞の変性,脱落,Lewy小体の出現および神経
膠症が観察される.今回の実験で使用した
MPTPは神経毒として働き,メラニン含有ドー
パミン細胞の中に蓄積し,ミトコンドリア内で
濃縮され,内呼吸経路の電子伝達系によるAT
P合成を低下させ,その結果,黒質の神経細胞
に障害を与える.MPTP誘発パーキンソン病様
モデルの黒質網様部を病理組織学的に解析した
結果,黒質網様部におけるメラニン含有ドーパ
3
No.33
ミン細胞の変性,脱落が観察された.しかし,
Lewy小体は確認されなかった.なお,MPTP
投与動物とメシル酸ブロモクリプチン投与動物
の黒質網様部における神経細胞の数を
Tyrosine hydroxylase抗体による免疫組織化
学的染色を用いて現在検討中です.
15
Scores
12
9
5)
Calne
DB(1993)
Treatment
of
Parkinson's disease. N Engl J Med 329:
1021-1027
6) Calne DB et al.: Bromocriptine in
Parkinsonism. Br. Med. J. 4:442-444, 1974
7) Parkes JD et al.: Bromocriptine in
Parkinsonism-Long-term Treatment, Dose
Response, and Comparison with Levodopa. J.
Neurosurg. Psychiatry 39: 1101-1108,
1976
8) Hoehn MM: The Result of Chronic
Levodopa Therapy and its Modification by
Bromocriptine in Parkinson's Disease. Acta
Neurol. Scand. 71: 97-106, 1985
6
薬効薬理試験メニューの紹介(Ⅴ)
カニクイザルを用いた
動脈硬化モデル(Ⅱ報)
Non-treatment
3
Dopamine agonist
第二毒性試験室長
廣内 康彦
0
0
4
8
12
16
20
24
Time(hr)
4.アカゲサルを用いたMPTP誘発パーキン
ソン病様モデルは薬理学的及び病理組織学的に
もヒトのパーキンソン病に類似したモデルであ
り,この病態モデルは抗パーキンソン病薬の開
発に応用できるものと考えられます.
5.参考文献
1) Akai T, Ozawa M, Yamaguchi M, Mizuta E
and Kuno S: Combination Treatment of the
Partial D2 Agonist Terguride with the D1
Agonist SKF 82958 in 1-Methyl-4-Phenyl1,2,3,6-Tetrahydropyridine-Lesioned
Parkinsonian Cynomolgus Monkeys. J
Pharmacol Exp Ther 273, 309-314(1995)
2) Burns, R. S.; Chiueh, C. C.; Markey, S. P. ;
Ebert, M. H.; Jacobwitz, D. M.; and Kopin, I. J.
A primate model of parkinsonism: selective
destruction of dopaminergic neurons in the
pars compacta of the substantia nigra by Nmethyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine.
Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 1983, 80,
4546-4550.
3) Goodwin FK(1971) Psychiatric side
effects of levodopa in man. J Am Med Assoc
218: 1915-1920
4) Marsden CD, Parkes JD(1976)“On-off”
effects in patients with Parkinson's disease
on chronic levodopa therapy. Lancet i: 292296
4
はじめに
前回,Cynomolgus
monkey(Macaca
fasciculairus)に4%コレ
ステロール負荷食を6ヵ月間
与えた動脈硬化病変の進展に
ついて紹介した.この実験で
は総コレステロール,中性脂
肪,遊離脂肪酸,遊離コレステロール,リン脂
質,LDL-コレステロールおよびVLDL-コレス
テロールが高値,また,HDL-コレステロール
は低値であった(表).また,酸化ストレスの
指標となる尿中イソプラスタンはいずれも普通
食動物に比べ高値だった.組織学検査の結果,
マクロファージ(泡沫細胞)の集族は胸部,腹
部および腸骨動脈の内膜下に,平滑筋の遊走・
増生は腹部,腸骨動脈の一部に軽度観察された
が,発生部位およびその程度にバラツキが見ら
れた.また,肝臓には薬物代謝に影響を与える
ほどの重度の脂肪変性がみられ,薬効試験への
有用性に問題を残した.今回は,動脈塞栓除去
用カテーテルを用いて血管壁に損傷を与え,さ
らに高脂肪食を負荷して誘発した動脈硬化病変
の程度を検討した.
モデル動物作製の方法および検査
生後5歳のCynomolgus monkey雄6匹を
用いた.ケタミン麻酔下で腸骨動脈を剥離し,
近位部に動脈用クレンメをかけ,血流を遮断し
た.動脈の一部を横断面で切開を入した.動脈
塞栓除去用カテーテルを挿入しカテーテルが血
管内部に入ったことを確認後,クレンメをはず
No.33
し,さらに大動脈弓部まで挿入した.カテーテ
ル内に生理食塩水の適当量を注入することによ
ってバルーンを膨らませ,一定の速度で動脈内
を引き戻し,血管壁に損傷を与えた.この操作
を3回繰り返した後,カテーテルを引き出し,
腸骨動脈を結紮した.手術直後より,高脂肪負
荷食(コレステロール0.5%を負荷)を1日当
たり150 gを与え,6ヶ月後に解剖し,生化学
検査および心臓,肝臓および大動脈を病理組織
学的に検査した.
結果・結論
生化学検査の結果,総コレステロール,中性
脂肪,遊離脂肪酸,遊離コレステロール,リン
脂質,LDL-コレステロールおよびVLDL-コレ
ステロールが高値,HDL-コレステロールは低
値を示し,4%コレステロール負荷食時の検査
値とほぼ類似した結果であった.病理組織学検
査の結果,平滑筋の遊走・増生は胸部,腹部お
よび腸骨動脈に顕著に観察され,腹部および腸
骨動脈で強くみられた.マクロファージの血管
中膜内への遊走・集簇は腹部および腸骨動脈の
方に発生が強く見られた(写真C).また,マ
クロファージの中膜内への遊走・集簇は血管外
膜側の炎症がみられた部位あるいは血管分岐部
位附近に特に多く観察された.また,血管内膜
に損傷を与えなかった頸動脈,冠状動脈,末梢
動脈壁の内膜下にはマクロファージの集簇を主
体とするプラークが形成され,特に血管の分岐
部に集中して観察された.しかし,動脈硬化巣
中には石灰化の形成を示す像は観察されなかっ
た.肝臓には脂肪変性が観察されたが,コレス
テロール4%負荷した肝臓の脂肪変性に比べ極
めて軽度であった.ヒトに類似した粥状硬化病
変を形成させるには血管壁に外科的に損傷を与
えても,6ヶ月以上のコレステロール高脂肪食
負荷(コレステロール0.5%)が必要である.
次回はサル冠状動脈硬化モデルを紹介する.
安評センターにおけるサルを用いた
試験の現状と今後
イヌ試験グループ
薬理試験グループ
北島 省吾
サルを用いた試験は,一昨
年より広東省順徳実験動物研
究所(中国)の実験施設にて,
安評センター薬効試験グルー
プおよび提携会社であるプラ
イメイトにより病態モデルを
用いた薬効薬理試験を進めて
参りました.
現時点では,多種のwhole
bodyの動物実験を可能とすることは,動物実
験データをヒトへ外挿する上で,まだまだ重要
な要素であると考えております.そこで,中国
での試験に並行し,これまでに蓄積した安評セ
ンターの技術とサル試験を多面的に結びつけた
検討を可能にするために,第一段階として,イ
ヌ試験棟を一部改造し,サル飼育室(24匹収
容),手術・実験室,テレメトリー室(特殊実
験室)を稼働させることとなりました.
当面は,一般毒性試験・安全性薬理試験実施
のための背景データ収集および新規病態モデル
動物作成といったサル試験の基盤構築のための
施設として立ち上げますが,小規模なサルを用
いたPK試験およびスクリーニング試験には,
対応させて頂く準備を進めております.サル試
験に関するご助言および試験のご依頼等のご連
絡を頂ければ幸いです.
飼育室
手術・実験室
5
No.33
連載 病理の話題(Ⅳ)
技術レポート
病理臨床検査グループ 萩原 孝
前号に引き続き技術レポー
トとして研究会で発表または
誌上発表した2題についてご
紹介いたします.
実験病理組織技術研究会 第
23回関西部会例会発表要旨集,
1999。P24より転載
−技術レポート2−
TH抗体を用いたラット副腎髄質の免疫染色
報告者 萩原 孝
【はじめに】
カテコールアミン類の局在を証明する方法と
して合成酵素であるTyrosine hydroxylase (TH),
Aromatic L - amino acid decarboxylase
(AADC)およびDopamine β- hydroxylase
(DBH)などに対する抗体が知られている.我々
は,第121回日本獣医学会において脳のドーパ
ミン性神経細胞のマーカーとして,ラットでは
TH抗体が最も良い結果であったことを報告を
した.今回,TH抗体を用いラット副腎髄質を
染 色 し た と こ ろ , 従 来 用 い て き た
Chromograin Aに比べ容易かつ明瞭に副腎髄
質を染め出すことができたので報告する.
【材料と方法】
19週齡の雄F344ラットの副腎5例を10%
中性緩衝ホルマリン固定し,常法に従いパラフ
ィン切片を作製した.免疫染色はLSAB法(ダ
コ社)を用い,1次抗体としてTH抗体(ETI社)
およびChromograin A抗体(ダコ社)を室温1
時間反応させDABで発色,ヘマトキシリンに
て核染色を行った.また,長期毒性試験で観察
されたラット副腎の褐色細胞腫と診断した標本
についても同時に染色を行った.
【結果およびまとめ】
TH抗体およびChromograin A抗体ともに副
腎髄質細胞を選択的に染め出した.しかし,
TH抗体を用いた場合には髄質細胞の染色性が
濃く,皮質と髄質の境界も明瞭であったのにく
らべChromograin A抗体を用いた場合,多少
髄質細胞の染色性が淡く,皮質と髄質の境界も
不明瞭であった.Chromograin A抗体の場合
には褐色細胞腫と診断された組織標本において
も同様でTH抗体がChromograin A抗体と比べ
良好な染色結果であった.
6
実験病理組織技術研究会 第6回総会発表要旨集,
1999。P10より転載
−技術レポート3−
Ki-67(MIB-5)抗体を用いた免疫染色における
抗原賦活法の検討
報告者 磯部 香里
【はじめに】
Ki-67(MIB-1)抗体は人をはじめ多くの動物
種で細胞増殖マーカーとして使用され,その陽
性像は増殖サイクルにある細胞核(G1期∼M期)
の核内に顆粒状に認められ,またPCNAとは違
い陽性核の区別が容易であることが知られてい
る.そしてその陽性率はBrdU標識率と相関す
ることなどから増殖マーカーの中では信頼性の
高いマーカーと言われている.しかし,MIB-1
抗体はラット,マウスなどの実験小動物には染
色不可能であった.最近ラット,マウスなどの
実験小動物にも染色可能であるというKi-67(MIB5)抗体が市販された.そこで今回,MIB-5抗
体における抗原賦活法について検討を行なった
ので報告する.
【材料と方法】
材料:10%中性緩衝ホルマリンにて固定した
F344ラットの小腸および肝臓のパラフィン切片
方法:抗原賦活法の検討
1)マイクロウェーブ処理(5分×3回)
溶液:クエン酸緩衝液(pH6.0)
2)マイクロウェーブ処理(5分×3回)) 溶液:5%尿素を含むトリス緩衝液
1)
(pH9.5)
3)オートクレーブ処理(120℃ 15分)
溶液:クエン酸緩衝液(pH6.0)
抗体:Ki-67抗原(MIB-5)モノクローナル抗
体(Immunotech社)100倍希釈,4℃1晩
免疫染色はLSAB法(DAKO社)を使用して行
った.
【結果およびまとめ】
MIB-5抗体における抗原賦活法の検討の結果,
オートクレーブ処理でクエン酸緩衝液を用いた
方法が他の方法に比べて最も良好な結果を得た.
しかし,抗原賦活法については溶液,pH,
処理温度および時間などの条件の違いにより染
色性がかわるといわれているので,今後溶液,
時間等について検討を行なう予定である.
【文献】
1)Shan-Rong-Shi,RichardJ.Cote,et
al Use of pH 9.5 Tris-HCl buffer
containing 5% Urea for antigen retrieval
immunohistochemistry,BIOTECHNIC &
HISTOCHEMISTRY Vol 71,No.4,
190-196, 1996.
No.33
第18回日本毒性病理学会に参加して
病理臨床検査グループ 安井 雄三
2002年1月24∼25日に
東京の国立学校財務センター・
一橋記念講堂で行われた第
18回日本毒性病理学会に参
加しました.学会当日は天候
にも恵まれ,参加者も多くな
かなかの盛況ぶりでした.
今回の学会は口演発表32題,
ポスター発表87題,シンポ
ジウム1「トランスジェニックラットを用いた
発がん研究」,シンポジウム2「前がん病変の
分子病理」と題して計8題の講演が行われました.
例年に比べると若干,発表数が少なかった印象
を受けましたが,例年通り活発な討議が行われ
ました.
当センターから,第一毒性試験室の志賀主任
研究員が国立がんセンターがん予防研究部との
共同研究である「ピエリシン投与マウス・ラッ
トにおける全身毒性の病理組織学的検索」につ
いて口頭発表した.さらに病理臨床検査グルー
プの石崎職員が「ラットの心臓における
Intramural Schwannomaの組織学的特徴お
よび問題点」について,永山職員が「ラットの
心臓に見られた自然発生性血管系腫瘍の2例」
について,安井が「加齢ラットの肝臓に観察さ
れた多発性動脈炎に起因する陳旧化結節性線維
化病変の1例」についてポスター発表しました
ので,その要旨を紹介させて頂きます.
「ピエリシン投与マウス・ラットにおける全
身毒性の病理組織学的検索」
ピエリシンはモンシロチョウのサナギから抽出
された蛋白質で細胞毒性を有し, では
in vitro
各種がん細胞およびヒト臍静脈内皮細胞にアポ
トーシスを誘導する.しかし,ピエリシンの生
体への影響に関する情報は乏しい.今回,ピエ
リシンの生体に対する毒性を明らかにするため
に,マウス・ラットにピエリシンを投与し病理
組織学的検索を行った.マウス(BALB/c系)
ではL 50:6∼10μg/kg.溶血,劇症肝炎,
骨髄障害,腎障害,小腸における障害,胸腺,
脾臓およびリンパ節における障害が認められた.
ラット(F344系)では,L50:30μg/kg以下.
Ht値の上昇,骨髄障害および肝臓の被膜肥厚お
よび右葉の葉間線維性癒着,骨髄,脾臓および
リンパ節における萎縮性変化が認められた.こ
れらの病変の病理発生には,他の蛋白質毒素と
同様,組織にあるレセプター量の違いが影響す
るものと考えられた.
「ラットの心臓におけるIntramural
Schwannomaの組織学的特徴および問題点」
ラットの心臓におけるIntramural
Schwannoma(IMS)は未だ細胞起源が確定
されていないことから,過去にmyxomaあるい
は粘液変性を伴う間葉系腫瘍として診断された
ものも含まれる.今回,IMSと診断される病態
の組織学的特徴を再検討し,本診断上の問題点
を明確にする目的でF344ラットの心臓に観察
されたIMS31例を検索した.
IMSの特殊染色,免疫組織化学的,電子顕微
鏡学的検索においてSchwann細胞を示唆する
所見は得られなかったことから,病態が解明さ
れていない段階でSchwannomaという診断名
を用いるのが適切かどうかが疑問視された.現
在のところIMSという診断名の中に様々な病態
(fibrosis,Schwannoma以外の間葉系腫瘍)
が含まれている可能性があるという認識を持つ
ことが重要であり,また今後,診断名および診
断基準を見直す必要があると思われた.
「ラットの心臓に見られた自然発生性血管系
腫瘍の2例」
ラットの心臓に原発する血管系腫瘍の自然発生
は極めて稀とされ,その報告も我々が検索した
限りでは見当たらない.今回,F344および
SDラットにおいて自然発生性の血管系腫瘍を
2例経験したので,その病理組織学的特徴につ
いて報告した.
症例1:右心房に不整形の血管腔形成を伴う
増殖性病変が認められた.腫瘍性内皮細胞は強
い異型性を示し,立方形から扁平な境界不明瞭
の細胞質と大型淡明核を有し,核分裂像が散見
された.免疫染色では第Ⅷ因子およびサイトケ
ラチンに陽性を示したが,WGA,CD31,ト
ランスグルタミナーゼ,ビメンチンに対しては
陰性であった.症例2:心尖部中隔において内
皮細胞が内張りする毛細血管の局所的増生が認
められた.症例1と同じ抗体を用いた免疫染色
では,すべて陰性であった.
以上の結果,症例1を類上皮型血管肉腫,症
例2を毛細血管性血管腫と診断した.しかし,
永山職員
石崎職員
安井職員
7
No.33
症例1ではごく一部の腫瘍細胞がアルシアンブ
ルー染色で陽性,間質がビメンチン陽性を示し
たことから,Atriocaval Methotheliomaと
の鑑別が今後の課題として残された.
「加齢ラットの肝臓に観察された多発性動脈
炎に起因する陳旧化結節性線維化病変の1例」
加齢ラットでは膵臓,腸間膜,腎臓,胃腸管壁
などに多発性動脈炎が好発することが知られて
いる.今回,多臓器に多発性動脈炎が観察され
たラットの肝臓において,動脈炎の器質化と考
えられる高度の結節性線維化病変を示した興味
深い症例について,その病理所見を報告した.
肝臓右葉尾部において,周囲組織と境界明瞭
な結節性線維化病変が観察された.この病巣の
辺縁において高度の好酸球浸潤,リンパ球浸潤,
胆管増生および褐色色素沈着が観察された.
EVG染色では結節内に小葉間動脈の弾性板の
断裂が観察された.膵臓,腸間膜および盲腸で
は様々な経過を辿った多発性動脈炎の組織像が
観察された.これらの臓器で観察された組織所
見は好酸球浸潤,線維芽細胞増生,器質化など
肝臓に観察された所見と同様であったことから
肝臓の陳旧化結節性線維化病変の本態は多発性
動脈炎であることが推察され,非常に稀な症例
であると同時に病理発生に興味が持たれた.
Use of genomic data in risk
assessment: State of the art
2001に参加して
病理臨床検査グループ 飯田 麻里
今回のワークショップは、アメリカ首都
Washington
DCにおいてSociety
of
Toxicology の Risk Assessment Task
Forceの後援により2日間の日程で開催された.
genomicsを技術として利用してgenomicsと
密接に関連したrisk characterizationを明ら
かにし,遺伝子と環境の相互作用を理解するこ
とが最大の目的であった.また,ゲノムプロジ
ェクトを進めて行くにあたり社会的,倫理的,
法的問題が複雑に絡み合っていることから,人
権問題,私的遺伝子情報の問題,差別的なデー
タ使用の問題なども討論された.NCIの
Dr.Weinstein は,Bioinformaticsには「Applied
Bioinformatics-公的データベースの調査,デ
ータ解析」と「Developmental
Bioinformatics -統計手段の発達,演算手順,
ソフトウエアの開発」の2つのタイプがあり,
マイクロアレイのデータ解析を通してリスクア
セスメ ントを考える時には,双方が重要であ
ることを説明した.また,US
EPAの
8
Dr.Farlandは,Research,Assessment,
Managementが相互に関係しあうことが大切
であり,小さな変化がいつ生物学的に顕著なも
のになるのかを明らかにすることが今後の課題
であると説明した.
Lawewnce
Livemore
National
laboratoryのDr.Mohrenweiserは,
Biomarkerのsourceとして,age, smorking,
exposure statusの3つをあげ,1. Indicator
of "predisease" state(前疾病状態の指標),
2.Predictor of risk(リスクの予測)3.
Estimator(評価)があると説明した.NIHの
Dr.Collinsは,2030年までの
Toxicogenomics構想を紹介し,2010年−
Mainstreaming
of
individualized
preventive medicine.2020年−Genomic
therapeutic revolution in full swing.
Gene-based designer drugs available for
diabetes,
Alzheimer's.
2030年−
Genomics-based health care is the
normal molecular surveillance.と掲げてい
た.Harvard Center for risk Management
のDr. Grayはリスクアセスメントには,1.
Knowledge-Understand how variability in
exposure can influence risk. 2. Datawidely available distributions of exposure
components. 3. Tool-Monte Carlo and
other
techniques
to
combine
distributions of exposure. が必要であり,
さらに最も感受性の高い性/系統/種の動物を用
いて評価を行うことも大切だと説明していた.
化学物質の毒性や発癌性をcDNAマイクロアレ
イやMass spectrometryを用いて,遺伝子発
現やそれにともなうタンパク質の発現の変化を
調べることが可能になったが,やはりそこには
表現型の変化が伴うことを忘れてはならず,毒
性の影響をヒトに外挿するには,Phenotype
severity,Dose,Timeの3次元で解析するた
めのBiomarkersが必要ではないかと感じた.
No.33
生物統計講座No. 11
順位和検定の一事例
第一毒性試験室 主席研究員 小林 克巳
表1に示したデータの平均値を見ると高用量
群に有意差印が,また順位和検定で実施した旨
のN(Non-parametric 検定)が対照群の平均値
に付いています.この二者の平均値は同一にも
かかわらず有意差が認められています.この事
例はめったにないことです.この理由は,
Bartlettの等分散検定の結果,有意差を示し
Non-parametric型のDunnettの検定を採用し
たためです.順位和検定は,定量値自体の検定
ではなく,すべての群の個体値を小さい順に並
べて順位化したものに対して有意差の吟味を実
施する検定法です.したがって,検定結果は平
均順位に対して付けるのが分かり易いと思います.
しかし,この例のように高用量群に2.96と
極めて飛び離れた大きい値が存在します.もし
この値がたとえ0.89(対照群の0.88の次に大
きい値と仮定した)となっても順位は変化せず,
順位和検定の結果は不変です.しかし,定量値
の平均値は,小さくなり有意差が認められれば
納得することができます.このような事例は滝
沢(1991)も指摘しています.
この場合の解決法は,Thompsonや
Smirnov等の棄却検定を用いてこの値を吟味し
て棄却するのが最良です.棄却後の検定結果を
表2に示しました.
著しくかけ離れた値の動物は,勇気を持って
何らかの手法で除外して,ほぼきれいな分布に
した後,定量値自体の分布を利用した多重比較
検定で検定したいと思います.この方法によっ
て被験物質の影響がよりはっきりと把握できま
す.
引用文献
滝沢毅(1991):「決定樹方式での統計処理法の
注意点」質疑.医薬安全性研究会,
No. 34, p54
表1. F344 ラットの投薬後52週の血漿クレアチニン濃度(mg/dl)
群
対 照
低用量
中用量
高用量
個 体 値 (20匹/群)
0.70 0.68 0.70 0.74 0.60 0.65 0.65 0.72 0.63 0.78
0.67 0.64 0.63 0.66 0.88 0.73 0.57 0.79 0.78 0.65
0.72 0.64 0.66 0.66 0.88 0.68 dead 0.51 0.65 0.63
0.79 0.60 0.69 0.68 0.62 0.57 dead 0.66 0.59 0.54
0.56 0.59 0.66 0.68 0.57 0.67 0.70 0.83 0.86 0.68
0.60 0.68 0.57 0.67 0.53 0.57 0.64 0.61 0.86 0.67
0.51 0.59 0.49 0.60 0.58 0.62 0.51 0.57 0.60 2.96
0.56 0.65 0.71 0.55 0.54 0.41 0.52 0.62 0.59 0.59
平均値±標準偏差
0.69±0.07N
0.65±0.09
0.66±0.10
0.69±0.54**
N: 順位和検定.** p<0.01.
表2. 高用量群の2.96を棄却検定
で除外した後の検定結果
群
個体数
平均値±標準偏差
対 照
20
0.69±0.07N
低用量
18
0.65±0.09
中用量
20
0.66±0.10
高用量
19
0.57±0.07**
** p<0.01 by Duncan's multiplerange test.
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No.33
◆編集後記◆
◆編集後記◆
新世紀2年目も早4ヵ月を経過してしまいました.当センターにとっては4月が2002年度
のスタートの月です.
クライアントの皆様に対する当センターの本年度のテーマは「クライアントのウォントに
応える」ことと「良きパートナーとして認められる」受託機関となることです.
お客様の研究開発指向は,基礎・探索研究に向かっています.当然周辺の研究,
試験等は外注に向かっている様に思います.受託機関は,従来は型にはまった試験を
忠実に実施できればよかったが,これからはクライアントが社内で実施していた研究業
務をも消化出来る技術の蓄積が求められています.当センターもここ数年新技術の開発,
蓄積に投資してまいりました.とはいえ,クライアントが求める技術を全て整え,要求に
応えることは今のところ困難です.ある部分,最初はご指導頂く事の方が多いこともあ
ろうかと思いますが,これに独自の技術をおりこんでより精度の高い試験としてクライア
ントに還元する.クライアントの要求を吸収し実施出来る能力を備え,既に蓄積した技
術から新たな提案が出来る能力を持つことが重要と思います.これが,これからのパート
ナーシップではないでしょうか.これが私ども受託機関の目指す姿であるべきと考えてい
ます.その意味で,当センターは引き続き精進してまいります.併せ,ご指導をお願いす
る次第です.
事業部 東京事務所長 舟 木 拓 治
【研究所】
〒437-1213
静岡県磐田郡福田町塩新田 582-2
事業部 山本利男
TEL:0538-58-1659 FAX:0538-59-1170
【東京事務所】
〒110-0015
東京都台東区東上野 2-18-7共同ビル(上野)501号室
事業部 舟木拓冶
TEL:03-3837-2340 FAX:03-3837-7850
広報誌に関するご意見、
お問い合わせは下記までお願いします.
編集委員会事務局 山本利男
財団法人 食品農医薬品安全性評価センター
〒437-1213 静岡県磐田郡福田町塩新田582-2
TEL.0538-58-1659(ダイヤルイン) FAX.0538-59-1170
E-mail:[email protected]
安評ホームページ http://www.anpyo.or.jp/
発行責任者/財団法人 食品農医薬品安全性評価センター 井上才祐 発行日/2002年4月
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