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ISO20022RMG定例会合 ロンドン(英国)
平成 21 年11 月 20 日 日本銀行金融研究所 国際標準化機構・金融専門委員会(ISO/TC68)1 ISO 20022 2RMG 定例会合の模様 本年 11 月 4 日∼5 日にかけて、ISO 20022 Registration Management Group (RMG)3定例会合(年 2 回開催)が英国・London において行われ4、TC68 国内 委員会事務局の山田が出席した(両会合の参加者リスト5、日本からの country report および当日作成された決議文につき、別添参照)。会議の模様は以下のと おり。なお、次回は 2010 年 5 月に日本において開催の予定。 <要旨> ① これまで資金、証券の決済分野を中心に ISO20022 の標準生成が進められる 中で、手付かずとなっていた論点に焦点を当てた議論が交わされた点が今回 の特徴。拡張可能なネームスペースである extensions や、BAH(Business Application Header)など、従来、ISO20022 の標準生成手続に拠らずに制定さ れてきた実装の理論的整理や今後の取扱い方針の方向性が見出されたほか、 BIC のコード体系の再整理の必要性などの新たな課題も認識された。 ② ISO20222 を取り巻く関連標準化組織との協働が進む中、Trade SEG の活動 が漸く本格化したほか、Card SEG についても標準化評価体制の強化が図られ ることとなった。 ③ こうした中、ISO20022 の普及に向けて、情報発信機能を拡充していく方向が 打ち出され、次回の東京会合では、業務分野ごとに RMG メンバーと東京市 場参加者とのラウンドテーブルを設けることとなった。 1 国際標準化機構(ISO)金融専門委員会(TC68)とは、金融業界で利用される情報通信技 術に関する国際標準を策定する委員会である。 2 ISO 20022 とは、銀/証の垣根を超えて、金融サービス全般で利用される通信メッセージ に関する新しい国際標準。 3 Registration Management Group(RMG)は、TC68 の直下に置かれた組織であり、ISO 20022 の標準化過程全般に関する意思決定機関といった性格をもつとともに、傘下にある 5 つの 標準化評価グループ(Standards Evaluation Groups、SEGs)や、技術支援グループ(Technical Support Group、TSG)の任命・所掌範囲の確定、登録機関(Registration Authority、RA) および各 SEGs の活動の監視等、ISO20022 にかかる標準化プロセス全般を統括する役割を 担う。 4 英国の UK Payments Administration (本年 7 月までの APACS から改組した組織) がホスト。 このほか、国内検討委員会の稲葉委員(日立)ほか 2 名がオブザーバとして出席。 5 1 1. ISO20022 の標準体系の整備 (1)extensions の認知 ISO20022 の世界には、特定ユーザー間に閉じた利用に供される拡張された タグである extensions が存在する。これらは標準化提案(business justification) や標準変更(change request)といった通常の標準生成手続によらず、ISO20022 レポジトリの中にも必ずしも登録されている訳でもない。手続上の定めがない がゆえに、Technical Support Group(TSG)において実装方式の整理・検討が進 められる過程で、異議が唱えられるケースが散見されてきたもの。今次会合で は、TSG 主査の LaSalle 氏(米、JP Morgan)から RMG に対して、extensions の 位置付けにかかる理論的整理を行うように提案された。 extensions の存在については、ISO20022 レポジトリに収録されているフォー マットの世代交代の狭間にある過渡期において、標準ユーザーのニーズを満た すためには必要であるが、ISO20022 レポジトリに収録されていない派生標準 (variants)の扱いと同様6、国際標準化の主旨を形骸化させる怖れもあるため、 極力制限的な形で容認すべき、とする声が出された。 もっとも、①古くはレガシー標準である ISO15022 から存在し、ISO20022 にも継承される内部コードを構成する DSS(Data Source Schemes)を筆頭に、② 最近、Payment SEG において承認された外部コードや、③証券 SEG を中心に目 下検討中の参照データ(後述)などの存在に鑑みれば、extensions は既に不可欠 なものとなっている、との指摘があった。さらに、そうした実情に鑑みれば、 そもそも ISO20022 のメッセージ体系そのものが、業務領域や地域毎に存在する ユーザー・ニーズを遅滞なく吸収する extensions の存在を前提に成立しているの ではないか、といった反論も出された。 こうした議論を踏まえて、むしろ extensions の存在そのものは積極的に認知 した上で、無秩序な拡散を回避するための一定の運用原則を整備すべき7、との 方向性が打ち出され、今年末までに、extensions の基本的な要件についての考え 方を整理し、RMG に報告することを目的とした Subgroup が組成された。主要 RMG メンバー18 名で構成され、議長については、席上投票の結果、Securities SEG 主査の Wooldridge 氏(英、元 Euroclear)が選出された(決議 09/109)。 6 7 一方、variants は XML パーサーによる validation の対象となるが、extensions に対してはそ うした validation の対象とならない。 むしろ、今回の extensions を巡る議論に鑑み、European Payment Council (EPC)が Additional Optional Services (AOS)として認めているナショナル・オプションについても、運用ルール を定めるべし、との欧州メンバー間の corridor での議論も聞かれたところ。 2 (2)BAH(Business Application Header)8の改定 RMG において alternative syntax9の容認スタンスが明確化された結果、ポス トトレードより川上の証券取引分野において、FIX Protocol でやりとりされるメ ッセージの ISO20022 化を進める FPL10も、ISO20022 の BAH を利用することと なった。これに伴い、ISO20022 のメッセージ体系に横断的に共有される BAH の改定案が固まりつつある。 こうした中、今次会合では、既に標準生成手続が完了したり、利用に供され ているメッセージ群の取扱いについて議論された。BAH は、各メッセージに付 随する形で ISO20022 レポジトリには登録されているが、その生成手続について は、前述の extensions と同様、明定されていなかった。 BAH については、標準生成を行う現場の混乱を避けるべく、アップデート しなければメッセージの利用局面において支障が出かねないものを除いて、遡 及適用は見送る一方、直近の標準変更手続の中で必要に応じて修正していく扱 いとなった(決議 09/112)。 (3)BIC の体系変更論の再燃 昨年、BIC コードについては、従来の Bank Identifier Code(旧 BIC)が Business Identifier Code(新 BIC)に名称変更され、これまで Business Entity Identifier (BEI) として付番されてきた事業法人についても新 BIC の体系で付番されることとな った11。これは、敢えて事業法人を金融法人と並列に置くことで、企業の財務部 門における、複数の取引銀行に開設した口座の資金繰り管理の一元化ニーズを 満たすことなどに照準を当てた対応であった。 もっとも、新 BIC への変更が決定された後に、前述の、alternative syntax 問 題への対応に伴う BAH の改定の話が浮上した。この結果、証券取引で用いられ る取引当事者の事業属性を区別する仕組み(Party Identification Scheme)が手当 てされた結果、逆に、新 BIC を、再び金融法人と事業法人の 2 つのグループ(BIC FI、BIC non FI)に区分することの是非について、RA(Registration Authority、SWIFT が受託)から RMG に対して検討依頼された。 BIC の コ ー ド 体 系 を 取 り 巻 く 議 論 の 迷 走 へ の 批 判 に 加 え て 、 Party 8 通常、ネットワーク上を伝送されるメッセージは、伝送のために必要なデータを格納した header とメッセージのコンテンツ本体である payload から構成される。BAH は ISO20022 のメッセージの header 部を指す。 9 メタのレベルで semantics を共有する複数の syntax のうち、ISO20022-XML を除くもの。 10 FIX Protocol Limited。 11 ISO9362 の標準変更の手続きを踏む形で行われ、目下、最終文書(FDIS)に差し掛かろ うとしている。 3 Identification Scheme が、事業特性だけでなく、国籍や所在地情報、発行人・保 証人の別などの属性情報も必要とするなど、BIC の体系変更のみに閉じた議論で ない点も指摘された。こうした批判を受けて、まずは上記問題への適切な判断 を RMG が下すために十分な材料を、RA が整理、文書化することとなった(決 議 09/106)。 (4)証券系の参照データの取扱い 参照データについては、これまで、TC68/SC4 の WG11 を中心に、FIX Protocol や FpML、XBRL などの、証券取引のフロント部分に用いられる syntax を用いた 既存の実装例からリバース・エンジニアリング12を行う形で、Financial instruments business information model (FIBIM)へと標準生成していく方向で検討が進められ てきた。 FIBIM については、目下、ユーロシステムが開発中の T2S から実装される線 表にある中、前回 Rio 会合での決議を受けて、TC68 議長の McKenna 女史や TC68/SC4 主査の Yous 氏、ECB の Bayle 氏(T2S 課長)、RA の Eloy 氏などが Study Group を構成し、ISO20022 への取り込みに向けた検討を行い、今次会合におい てポジションペーパーが提出された。 こ の 中 で は 、 参 照 デ ー タ の 構 造 に か か る UML 13 な い し XMI 14 を www.iso20022.org に掲載し、標準ユーザー間でダウンロードし共有することとす るが、あくまで参照データ自体は ISO20022 の標準化のスコープの外と位置付け た上で、既存の ISO20022 メッセージ設計に影響がない限り、ISO20022 におけ る標準変更(Change Request)によらず、随時に迅速なアップデートを可能とす る管理の仕組みなどが提唱され、今次会合において承認された(決議 09/114)。 2. 標準評価体制の整備 (1)Trading SEG の本格稼働 昨年中、国連における貿易金融の EDI 対応における標準化団体である UN/CEFACT において取り纏められた Cross Industry Invoice (CII) ver.215を、貿易 12 ここでいうリバース・エンジニアリングとは、既存の実装の解析によりデータ構造の情 報を抽出し、これを起点として標準化実装を生成することを意味する。 13 Unified Modeling Language。要件定義などのソフトウェア開発の上流工程において浸 透しつつある、OMG が標準化を進めるモデル記述言語で、ISO/IEC19501 として国際標 準化されている。なお、ISO20022(2004 年版)では UML1.0 が採用されていたが、2008 年以降に着手された改定作業では、UML2.0 が採用されることとなった。 14 XML Metadata Interchange。XML を用いて、UML 等で記載されたメタデータをデジ タルに交換可能とする実装で、OMG が標準化を進めている規格。 15 (筆者注)CII 標準の EDI 情報は、ニューヨーク連銀による Fedwire 資金系の送金人情 4 金融分野のメッセージへとリバース・エンジニアリングする形で、これまで開 店休業状態にあった Trade SEG における標準化活動が漸く本格化した。payment initiation や invoice financing のメッセージを対象に、Trade SEG と Payment SEG の協働による標準評価の検討がスタートしたほか、European Banking Association (EBA)においても、主として中堅・中小企業を対象とした e-Invoicing の普及に向 けた作業部会を組成するなど、本格実施に向けた体制整備も進みつつある。 (2)Card SEG の梃入れ カード分野における ISO20022 対応については、SEPA の実施過程にあるユ ーロ圏がドライバーとなっている。もっとも、例えば、ベルリン・グループに よる ISO20022 の標準化依頼16などにみられるとおり、ユーロ圏内の各国が自ら のデビットカードの既存仕様を ISO20022 に反映させようとする動きなども散見 されている。こうした中、Card SEG 内はもとより、Payment SEG、ひいてはカ ード分野のレガシー標準(ISO8583 等)を所管する TC68/SC7 とも調整を図るべ き論点が山積されているのが実情。 今次会合において、Card SEG 主査の Starr 氏(英、UK Payments)から、TC68 に横断的なアドバイザリー・グループの組成が提案された。もっとも、まずは 組成されて1年に満たない Card SEG の審議検討機能の底上げを図るべき、との 結論に至り、同 SEG が既存のカード実装にも通暁する人材を揃えることを目的 に、追加的にエキスパート募集を行うこととなった(決議 09/107)。 3.ISO20022 の普及に向けた体制整備 (情報発信の強化) 前回 Rio 会合で決議された毎半期発行の機関紙“ISO20022 News Letter”に ついては、第 1 号(本年 6 月発行)について、各国から肯定的な反響が報告さ れた。RMG としても、今後は多様なチャンネルを通しての情報発信を強化して いく方針が確認され、News Letter の構成を一般人にもより親しみやすいものに 変えることとなった。 また、RMG 議長の Hartsink 氏(蘭、EPC)からは、標準ユーザーとの双方 向の情報交換が重要であるとして各国の national body のレベルでも Web サイト への掲載等により積極的に情宣していくことが推奨されるとともに、次回東京 会合には、業種・ドメイン毎に国内検討委員会メンバーを中心に、東京市場参 16 報欄の拡充対応における主要コンテンツのひとつとされているもの。 ドイツ国内のデビットカード(EC-Karte)の現行仕様を、SEPA のカード分野のメッセー ジ実装を包含している ISO20022 に残そうとするイニシアティブ。 5 加者との意見交換の場を持つことが提案された17。 さらに、Twitter や Facebook などの、インターネット上のダイレクトなコミ ュニケーション・ツールを活用できないか、との提案も出されたが、こうした ツールの活用については、セキュリティ実装を具備したオフィス環境からはア クセスできないなど利用可能性に難があるため、引続き検討継続とのステータ スに留められる一方、情報発信の反響を少しでも把握できるよう、 www.ISO20022.org に測定機能を付加することとなった(決議 09/118)。 (顧客-銀行間のメッセージの移行) 現状では、SEPA の対象地域を含めて、専ら金融機関間のメッセージが ISO20022 化の移行作業の対象となっている中、フランスでは、他国に先駆けて、 企業セクターと銀行間でやりとりされるメッセージの ISO20022 への移行の目処 をつけたとの報告があった。各国からの注目を集める中、次回の東京会合にお いて、ノウハウの共有に向けて、Brachet 女史(仏、Soc.Gen)がプレゼンテーシ ョンを行うこととなった(決議 09/117)。 4.今後の予定 次回は、2010 年 5 月 10 日(月)∼13 日(木)にかけて、SC4 年次総会、SC7 年次総会、RMG 定例会合、TC68 年次総会の順に、東京において各日 back to back で開催することとなった18。 ▽ 今後の開催予定 2010 年 5 月 (12 日、日本・東京<日銀>) 2010 年 11 月 (4-5 日、イタリア・Rome) 2011 年 5 月(オランダ・Amsterdam) 2011 年 11 月(ノルウェー・Oslo) 2012 年 5 月(米・Chicago<シカゴ連銀>) ―― 最近の特徴として、11 月は RMG 定例会合のみが単独開催される一方、5 月は他の T68 関連会合と back-to-back で開催される傾向にある。 以 17 上 閉会後、RMG 議長の Hartsink 氏、同副議長の Blair 氏(米、JP Morgan) 、TC68 議長の McKenna 氏(米、Citi)と刷り合わせを行った結果、RMG(5 月 12 日)の前日、SC7 年 次総会閉会後のスロット(例えば 15 時∼17 時)において、Payment、Securities、IT の 3 つのドメインに分けて、RMG メンバーと国内メンバーで、ラウンドテーブルを持つこと について申し合わせた。 18 既往の TC68 関連の国際会議の日本でのホストは、2004 年 9 月の TC68/SC2、同 SC6(リ テール金融、2006 年に解散し SC7 に統合)の年次総会以来となる。 6