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- 1 - 刈草ロールの無償提供について 青森河川国道事務所 藤崎出張所
刈草ロールの無償提供について 青森河川国道事務所 藤崎出張所 ○ 工藤 繁田 節男 弘樹 1.はじめに 藤崎出張所では平成25年度より、堤防除草で生じる刈草を地域の資源として有効 活用を図るべく、地域の農業(特に需要が大きい酪農業)に着目し、幅広く無償提 供を実施している。無償提供にあたりコスト縮減、安全管理、品質管理に関する検 討を行った。 2.酪農家を取り巻く背景 2.1.地域の酪農業 地域では昭和39年より酪農業が張り付いてる。現在、組合員数は15名(内、4名 が出荷者)で約150頭の乳用牛を飼養し、1日当たり約2,000L出荷している。 2.2.酪農業における飼料の種類 主食と副食から成り立ち、主食は牧草や配合飼料である。牛は本来牧草だけで生 きていける動物であるが、近代酪農では配合飼料も与え、より高品質な牛乳の生産 を行っている。主食の中でも牧草は真の主食に属される。酪農家が自ら牧草地で栽 培収穫するほか、不足分は作付け農家等から購入している。また、ホールクロップサイレージ (飼料用の稲)は、消化が悪く主食には向かず副食用として扱われている。 2.3.配合飼料の高騰と酪農家の減少 近年のエネルギー資源高騰に伴い配合飼料並びに乳製品の価格が上昇している。 今後円安となれば更なる上昇が予想され、消費者も影響を受けることとなる。配合 飼料高騰による不採算、高齢化による廃業、後継者不足が原因で酪農家及び飼養頭 数が減少している。経費節減のため地域の酪農家は、刈草ロールに注目している。 図1:配合飼料価格の推移 図2:総合乳価の推移 図3:酪農家戸数の推移 2.4.刈草ロールの需要と供給 農林水産省の畜産統計によると、乳用牛は全国で約1,423,000頭、内、東北は約1 13,010頭、青森県は約12,900頭、藤崎出張所管内では約150頭飼養されている。 一般的な大きさの乳用牛が1頭1日あたり約10kgの牧草を食べるものとして、需要 量を計算すると年間約55tとなる。刈草ロール1巻15kgを年間3,500巻製造するもの として供給量を計算すると年間約5tとなる。全て供給した場合、約10%を補うこと が可能であり、約175万円相当の牧草価値がある。 - 1 - 3.刈草ロールの提供実績 3.1.平成25年度の提供先・割合・用途 平成25年度の刈草ロール製作実績は2,249巻。 平成25年度における提供先・割合・用途については以下の通りである。 ①酪農業 :約70%:家畜用の資料 ②農業 :約20%:保肥力、保水力の向上のための堆肥、マルチング材 ③馬術協会:約10%:馬の寝床用の敷ワラ 特に酪農業は安定した需要が大きいことから、次年度以降も継続的な大口取引先 として期待している。各利用者からは好評を得ており、今後更なる需要拡大に向け 調整中である。また、酪農業や馬術協会から生じる家畜の糞は、地域の農業に還元 しており、間接的に地域の循環型農業に貢献している。 4.コスト縮減 4.1.持続的なコスト縮減額 従来の焼却処分と無償提供を比較した場合、施設で処分するまでの一連行為(積 込・運搬・荷下・処分)がコスト縮減項目となる。計算の結果、年間2回刈の総面 積約200百万m2に対して、毎年約10百万円の縮減となる。 5.安全管理 5.1.家畜の中毒原因物質 家畜の中毒原因物質となるものは、植物、細菌、真菌、無機物、重金属、農薬等 に分類される。これらの中毒原因物質を摂取すると、様々な中毒症状を経由し場合 によっては死に至る。家畜の中毒原因物質は有毒植物だけではない。 表1:家畜の中毒原因物質 - 2 - 5.2.家畜に有害な植物の種類と危険度 農業関係機関等の文献より危険度の高い植物を抽出し、中毒症状を基に危険度を 設定した。特に注意が必要なものは、どこにでも自生しているシダ植物のワラビで あり、家畜にとっては非常に猛毒である。除草、集草、梱包後であると何の植物か 判別不可能となるので、有毒植物の有無は除草前に確認する必要がある。また、有 害植物の自生を確認したら、完全な除去を行うか、当該区間を提供範囲に含めない ことが重要である。 表2:家畜に有害な植物の種類と危険度 図4:家畜に有害な植物集 5.3.エンドファイトによる家畜の中毒 エンドファイト(内生菌)とは植物体内で共生的に生活している真菌や細菌のこ とである。病害虫や環境ストレスに対し耐性を持たせるため芝草に感染させ商品価 値を高めているものも存在する。主にフェスク類やグラス類の洋芝で使用されてい る。一方、エンドファイトは動物に有害な物質も生産する。芝業界の有識者に国内 で流通している野芝(張芝用の切芝及び川裏用の種子)に関するエンドファイトの 使用について確認した結果、一切使用されていないことが判明した。但し、試験的 に洋芝を植生した区間については感染種であるか、提供前に確認が必要である。 6.品質管理 6.1.家畜に提供する場合の品質 酪農家が自ら栽培する牧草は中長期的な天候を鑑み、適切に一連で乾燥、集草、 梱包を行うため品質が良い。維持工事等では管理区間が広いので天候を考慮した一 連作業が難しいところであるが、安全性を確保した品質の良い刈草ロールを製作、 提供するためには、以下に注意が必要である。 ①中毒原因有害物質を混入させない。 ②異物(ごみ等)を混入させない。 - 3 - ③イタドリ等茎の固い植物を混入させない。(牛は茎の固い植物を食べない。) ④刈草が良く乾燥している状態で集草、梱包の一連作業を行う。 ⑤梱包後、水による品質低下を防ぐために夜露や雨に当てない。法尻に放置しな い。 ⑥品質の良い状態で速やかに提供可能な連絡体制を構築する。 表3:刈草ロールの品質と特徴 7.今後の課題 7.1.徹底した安全・品質管理に向けて 徹底した安全、品質管理を行うことにより、安心で質の良い刈草ロールの提供が 可能となり、提供する側、受ける側相互の信頼が深まる。これらを達成させるため には、提供側の意識向上が不可欠である。 ■安全管理方法の確立を目指す。 ①除草前に有害植物の点検を実施。 『家畜に有害な植物集』を用い除草作業員と合同で実施。 可能であれば農業関係有識者も招く。 ②有害植物に関する記録、除去等の措置。 有害植物の自生箇所の記録、除去方法の確認、除去の記録。 ③農業関係有識者の問合窓口確認。 有害、無害の判断が付かない植物の自生を確認した場合の問合窓口。 ■品質管理方法の確立を目指す。 ①異物(ごみ等)混入防止の徹底。 ②天候を考慮した集草、梱包の実施及び引取次期の徹底した連絡調整。 - 4 -