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アメリカ合衆国における同性婚をめぐる近年の動向

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アメリカ合衆国における同性婚をめぐる近年の動向
アメリカ合衆国における同性婚をめぐる近年の動向
青山学院大学非常勤講師
鈴木伸智
アメリカ合衆国における最初の同性婚訴訟である 1971 年の Baker 事件(ミネソタ州)以
来、同性のカップルは、自分たちの関係は、婚姻制度に包含される関係であり、それを制
限する州婚姻法は連邦憲法や州憲法に違反する、と主張してきた。争点となったのは、主
として、同性のカップルには婚姻をする基本権があるか、性的指向(同性愛)は違憲の疑
いの強い分類であるか、という二点であった。各裁判所は、同性のカップルには婚姻をす
る基本権はないとし、1995 年の Dean 事件(コロンビア特別区)では、性的指向が違憲の
疑いの強い分類ではないことが示唆された。
一方、1993 年の Baehr 事件で、ハワイ州最高裁は、同性のカップルには婚姻をする基本
権はないが、婚姻上の地位を条件とする様々な権利および利益へのアクセスを同性のカッ
プルから奪うことになるハワイ州婚姻法は、州が、同性婚を禁止するやむにやまれぬ利益
を証明しないかぎり、性差別を禁止する州憲法に違反すると判示した。さらに、1998 年の
Brause 事件で、アラスカ州上位裁判所は、ライフ・パートナーの選択は基本権であるため、
同性婚を禁止するには、やむにやまれぬ州の利益が証明されなければならないと判示した。
しかし、ハワイ州およびアラスカ州は、判決後、州憲法を改正し、同性婚を禁止している。
このような流れのなかで、ヴァモント州最高裁は、1999 年の Baker 事件で、ヴァモント
州憲法の共同の利益条項(Common Benefits Clause)にもとづき、同性のカップルには、
婚姻した異性のカップルと同等の制定法上の利益および保護を付与される資格があると判
示した。それを受けて、ヴァモント州は、2000 年 7 月 1 日に、シヴィル・ユニオンと名付
けられた、登録をした同性のカップルに、婚姻をした異性のカップルと同等の利益および
保護を付与する制度を施行している。さらに、2003 年 6 月 26 日には、同性のカップルに
一定の法的保護を付与しようとする際に障碍となっていたソドミー法が、連邦憲法に違反
すると判示された。
そして、2003 年 11 月 18 日に、マサチューセッツ州最高裁は、Goodridge 事件で、当事
者が同性であるという理由だけで、婚姻から生じる保護、利益および義務から排除するの
は、州憲法違反であると判示し、2004 年 2 月 3 日には、州議会によって提示されたシヴィ
ル・ユニオンを規定する法案についても、州憲法に違反する疑いが強いとした。その結果、
マサチューセッツ州では、2004 年 5 月 17 日より、同性のカップルに対しても婚姻許可状
が発給され、同性婚が認められるに至ったのである。
しかし、マサチューセッツ州議会は、2004 年 3 月 29 日に、同性婚を禁止する州憲法改
正案を可決しており、早ければ、2006 年 11 月に予定されている州民投票により、同性婚
は禁止されることになる。また、同性婚を禁止するために憲法を改正する州も相次いでお
り、連邦憲法修正案も検討されるなど、現在、アメリカ合衆国は、同性婚をめぐって、非
常に活発な動きをみせている。
本報告では、これら一連の流れを確認したうえで、シヴィル・ユニオン制度の有用性・
問題点などにも言及したい。
参考文献
棚村政行「同性愛者間の婚姻は法的に可能か」婚姻法改正を考える会編『ゼミナール婚
姻法改正』41 頁(日本評論社、1995 年)、篠原光児「Lawrence v. Texas, 539 U.S.— , 123
S.Ct. 2472 (2003)— 合衆国憲法第 14 修正のデュー・プロセス条項のもとで、同性間の性
行為を禁止する州法を合憲とした 1986 年の先例、Bowers v. Hardwick をくつがえして、
違憲とした事例」[2004-1]アメリカ法 69 頁、鈴木伸智「同性のカップルに対する法的保
護」青山法学論集 42 巻 4 号 59 頁
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