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アメリカン・アリゲーターの性決定・性分化への
生命環境コース 教室セミナー 「アメリカン・アリゲーターの性決定・性分化への エストロゲンおよび環境ホルモンの影響」 サウス・カロライナ医科大学助教 河野郷通 博士 (横浜市立大学客員研究員) 日時:平成 25 年 1 月 21 日(月) 午後 4 時〜5 時 場所:理科館 4 階 408 講義・セミナー室 フロリダ州の農薬および産業化学物質で汚染された湖で観察されるワニの生殖異常の原因として、 環境ホルモンの関与が示されている。寿命の長いワニは、生態系の中で食物連鎖の最高位の捕食 者であり、鳥類の様に長距離の渡りを行わないことから、地域の環境汚染の指標として有益な動物 といえる。“Fetal Origins of Adult Diseases”と呼ばれる仮説から、女性ホルモンや環境ホルモンに よる個体発生中への曝露は、ヒトにおいても、将来的な生殖異常をもたらす可能性が高い。ワニの さまざまな生殖異常のメカニズムを解明することで、環境ホルモンが野生動物およびヒトに与えうる 影響を理解し、対策を立てることも可能となるであろう。 アメリカン・アリゲーターを含むワニ類は、性染色体を持たず、発生中の温度に依存して性が決ま る。温度感受性の高い期間に卵を 30˚C で保温するとふ化時には全てメスになり、33.5˚C ではオス になる。ワニの性決定過程では温度が引き金となり、性分化過程では性ホルモンが重要な役割を 果たしている。しかし、オスの温度であっても、女性ホルモンに曝露された卵は、全てメスになってし まう。また、 環境ホルモンである PCB や DDE、BPA に曝露された卵でも、同様に性転換が起こるこ とが分かっている。 女性ホルモンは、女性ホルモン受容体を介して作用する。多くの脊椎動物は、2 種類の女性ホル モン受容体(ERαと ERβ)を持っている。ワニの卵をそれぞれの受容体に特異的な作動薬に曝露し、 オスになる温度で保温すると、ERα作動薬ではメスへの性転換が起こるが、ERβ作動薬では起こら ない。この ERα作動薬によって引き起こされる性転換では、生殖腺および生殖腺附属器官の形態 的な変化、遺伝子発現パターンの変化も観察される。これらの特徴は、女性ホルモンで引き起こさ れる性転換でも同様に観察される。 このように、アメリカン・アリゲーターにおける、オスになる温度下での女性ホルモンによるメスへ の性転換は、ERαを介して引き起こされることが明らかとなった。しかしながら、環境ホルモンである PCB や DDE、BPA による性転換が、女性ホルモンと同様に ERαを介して引き起こされるのかどう かは分かっていない。ヒトで観察される不妊などの生殖異常と環境汚染物質との関係を明らかにす るためにも、今後、環境汚染物質がワニの発生過程にどのように作用して生殖異常を引き起こすの かを解明していく必要があるだろう。 問い合わせ先:佐藤友美 [email protected]