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4.痒みの評価
ただいま、ページを読み込み中です。5秒以上、このメッセージが表示されている場 合、Adobe® Reader®(もしくはAcrobat®)のAcrobat® JavaScriptを有効にしてください。 日皮会誌:115(12) ,1764―1770,2005(平17) Adobe® Reader®のメニュー:「編集」→「環境設定」→「JavaScript」で設定できます。 「Acrobat JavaScriptを使用」にチェックを入れてください。 4.痒みの評価 なお、Adobe® Reader®以外でのPDFビューアで閲覧されている場合もこのメッセージが表示さ れます。Adobe® Reader®で閲覧するようにしてください。 上出 良一(東京慈恵会医科大学) 要 確立する必要がある. 旨 痒みの測定法については既に Wahlgren3)4)がその歴 皮膚疾患の治療上痒みの制御は極めて重要である 史や考え方について詳しく述べているが,元々は痛み が,止痒治療を適正に評価するには痒みの客観的評価 の客観的評価法の応用として始まり,いくつかのスコ が必要である.痒みの客観的評価は痛みにおける知見 アリングシステムが考案され,また痒みに独特の評価 を基盤として最近大きな進歩が見られる.痒みの定量 法として,痒みに伴う!破,特に夜間の!破を指標に として最も使われているのが種々の評点やスケールを する方法も提唱されてきた5).我が国でも Aoki らの 用いたもので,中でも Visual analogue scale(VAS)が グループ6),江畑ら7)8)が痒みの測定法確立に積極的に 簡便で感度も良く頻用されている.最近,電気刺激に 取り組んできた. よる知覚を基準として,それと比べて痒みを定量化す る機器も開発されている.痒みそのものではなく!破 1.痒みの定量:痒さの評価 の程度を間接的指標とする方法も開発され,赤外線ビ 1)自己申告による評価 デオで夜間の!破を直接観察したり,ストレインゲー 痒みは自覚症状であるためその主観的評価をどう数 ジや加速度計で手の動きを測定する方法が用いられて 量化するかが問題となる.痛みの研究領域では既に いる.PET や functional MRI で脳血流の増加を観察す Visual analogue scale(VAS)が痛みの定量法として一 る方法も試みられている.痒みの定量のみならず痒み 般化されていた9).それを痒みにも応用して,痒みなし の性質を質問紙法でより詳細に解析することも行われ を 0, 考えられる最大の痒みを 10 ある い は 100 と し ている.新手法による痒みの評価の更なる進歩が期待 て,10cm の線分のどこに位置するかを被検者に指示 される. してもらう方法である.1 個人について時系列的に データをとれば,痒みの程度の変遷が定量化される. はじめに しかし,その値は各個人における相対的なものであり, 痒みは古く か ら “An unpleasant sensation that pro1) 個人個人では当然基準が異なる可能性が高く,群とし vokes the desire to scratch.”,す な わ ち!破 衝 動 を て集計した場合,果たしてどの程度のばらつきが出る 惹起する,不快な感覚と定義されてきた.しかしなが か懸念されるところではある.しかし,既に多くの臨 2) ら不快かどうかは自覚的な感覚であり,Savin はより 正しく表せば“A sensation that, if sufficiently strong, will provoke scratching or the desire to scratch”,すな わち「十分に強ければ,!破あるいは!破衝動を惹起 する感覚」としている.痒みは皮膚,粘膜固有の感覚 であり,皮膚炎,蕁麻疹,水疱症など様々な皮疹を伴 う皮膚疾患で見られるのみならず,明らかな発疹を伴 わずに痒みのみ生じる皮膚!痒症として肝不全,腎不 全などの全身性疾患に伴っても生じる. 痒みを軽減させることは,!破による皮疹の悪化を 抑制する点で,皮膚疾患の治療で大きなウエートを占 める.アトピー性皮膚炎の治療では特にその意義が大 きい.しかし,抗ヒスタミン薬をはじめとする様々な 止痒治療の評価を正しく行うためには痒みの評価法を 図 1 かゆみの VAS 測定用スケール 4.痒みの評価 1765 表1 自己申告による痒みの評価法 1.Verbal descriptor scale(VDS) (ある,ない) (高度,中等度,軽度) (耐え切れない, 非常に強い, かなり強い, 中等度, 弱い, ほとんどない, 全くない) (いつも,しばしば,ときどき,まれに,ない) 2.Numerical rating scale(NRS) 0 ∼ 5,0 ∼ 10 の点数 3.Visual analog scale(VAS) 10cm の線分上の位置 経時的測定:Symtrack 4.Behavioral rating scale(BRS) (江畑俊哉:かゆみの客観的評価.アレルギー・免疫,10 : 85-89, 2003 より) 表2 痒みの程度の判定基準(Behavioral rating scale の例) スコア 日中の症状 夜間の症状 4点 いてもたってもいられない痒み かゆくてほとんど眠れない 3点 2点 1点 かなりかゆくて,人前でもかく 時に手がゆき,軽くかく 時にむずむずするが,かくほどではない かゆくて目がさめる かけば眠れる かかなくても眠れる 0点 ほとんどかゆみを感じない ほとんどかゆみを感じない (川島 眞,原田昭太郎,丹後俊郎:註痒の程度の新しい判定基準を用いた患者日誌の使用経験, 臨皮,56 : 692-697, 2002 より) 床研究において VAS による痒みの定量化が用いられ 7) いる(表 1) .BRS の応用例として抗ヒスタミン薬の ており,その有用性は確立されているといえよう.し 慢性蕁麻疹に対する用量検索試験において患者日誌の かし,注意すべき点は後述する痒みの性質に違いがあ 記載に,0∼4 の 5 段階で日中,夜間の!痒の程度を記 る場合である.すなわち異なる疾患における痒みは当 11) 載する判定基準が用いられている(表 2) .各スコア 然それぞれ固有の性質を持っているため,一律に評価 の記載が具体的なため,被検者の主観に沿った評価が できない場合もありうる. 可能とされる.しかしながらこれらのランクづけした 実際の測定に際しては記載用紙に 10cm の線分を予 評点形式では VAS と比べて感度が低いとされる. め引いておいてチェックする方法と,専用のスケール でスライダーを動かして指示してもらう方法がある10) 2)基準知覚との比較 (図 1) .さらに VAS 測定値の変化を定期的に得る方法 VAS を用いた測定では測定値が最小ゼロと,考えら として,コンピュータ内蔵の機器で一定時間毎にア れる最大の痒みという両端が決められているため,こ ラームを鳴らして,スライダーを動かして,その時点 れまでに経験したことのない痒みが生じた場合は対応 での痒みの程度を VAS で記録する携帯機器が Sym- できず,また考えられる最大の痒みといっても個人差 ! track として開発されている.データは機器内のメモ が大きい.この点を克服するため痛みに関しては,か リーに蓄積され,一括してパソコンに転送され,ソフ なり以前より電気刺激による痛みを一種の知覚の基準 トウエアでグラフィカルに表示,解析できる.基本的 と し て 用 い る 方 法 が 考 案 さ れ,機 器 と し て Pain- には主観に基づいた VAS であるが,経時的に計測で Matcher!(Cefar Medical AB,Sweden)が開発され き,評価が容易である. 12) ている(図 2) .スイッチを押すと徐々に増強するパ VAS 以外にも Verbal descriptor scale(VDS),Nu- ルス電気刺激が指に与えられ,その時他部位で感じて merical rating scale(NRS),Behavioral rating scale いる痛みと同じ程度の知覚に至ったときに指を離すと (BRS)などで主観的感覚を数値化することも行われて その時の値(0∼99)が記録される.エンドポイントと 1766 皮膚科セミナリウム 第8回 痒み―基礎と臨床(1) 図 2 PainMatcher! 図 3 ActiTrack! 表3 機器による掻破の測定法 前腕の筋電図 手足の動き(自動巻時計を改造) ベッドの振動 手関節の動き(電磁計) 手背の伸縮(Paper strain gauge) 手背の厚変化(Scratch monitor) 手背の動き(Piezoelectric film) レーダーシステム の合計を全"破時間とし,就眠時間(実際に眠ってい るかは問わない)に対するパーセントで求めた.また 一連の"き動作を起こした回数も記録した.%全"破 時間はアトピー性皮膚炎の重症度と比例し,治療によ る皮疹の軽快と共に減少した19).睡眠導入薬であるニ 赤外線ビデオ Wrist activity monitor(ActiTrac, Actiwatch) Pruritometer トラゼパムのアトピー性皮膚炎の夜間"破に対する影 (江畑俊哉:かゆみの客観的評価.アレルギー・免 疫,10 : 85-89, 20037) を改変) なり,結局一晩における全"破時間は抑制されないと 響も検討したところ,深い睡眠により一連の"き動作 の回数は減少したものの,1 回の"破持続時間が長く いう興味ある結果が得られた20).同様に赤外線ビデオ 法の応用として,肝不全に伴う汎発性皮膚!痒症患者 して現在感じている痛み以外に,知覚の閾値,痛みの に対してナロキソンやオンダンセトロンを投与して止 閾値が測定できる.この機器を痒みの測定に応用した 痒 効 果 を 検 討 し,"破 時 間 が 減 少 す る こ と を 示 し 報告があり,正常人にヒスタミンのイオントフォレー た21).最近,赤外線ビデオ法は小児のアトピー性皮膚 シスで痒みを与えた場合と,湿疹患者で痒みの測定を 炎患者の夜間"破の観察にも用いられており22),後述 行い,再現性がよく, また刺激に対する反応性も良かっ する機器による自動計測の妥当性を評価する上で," 13) たという . き動作の実際を確認することができる標準的計測法と して用いられる.多彩な"破の様式を知り,"破部位 3)!き動作による痒みの間接的定量 を特定するにも有効な方法であり,一例としてアト 痒みは必然的に"破を伴うものであるため,"破を ピー性皮膚炎患者では,夜間,頸部,顔面を長時間" 検出すれば客観的に痒みを定量化できると考えられ 破していることが観察され19),これらの部位の皮疹が る.特に夜間は行動や心理的なバイアスが少ないため, 重篤で難治なことの裏付けになる.ただし,寝具に隠 夜間の"破を検出することが試みられてきた.Savin れると正確な"破の確認がしにくいことと,早送りと ら14)は前腕の筋電図を用いて"破の検出を試み,その はいえ一晩分のビデオを再生して計測するのは多大な 後も手の動きを検出する様々な方法が考案されてき 労力を要することが欠点である. 15) ∼17) た (表 3) . より簡便に手の動きを測定する方法として,動きの 江畑ら18)は患者の睡眠を妨げない暗い状態でも撮影 加速度を直接的に電気信号に変換する着装可能な機器 可能な赤外線ビデオ装置で夜間の"破状況を記録し, があり,Actigraph (Ambulatory Monitoring Inc., Ard- 定量化を試みた.記録したビデオテープを早送りで観 23) sley, NY) ,ActiTrac! (IM Systems, Baltimore, MD) 察しながら,5 秒以上持続する"き動作を行った時間 24) (図 3) が痒みの測定に用いられている.腕時計の様に 4.痒みの評価 表4 痒みの表現 青木敏之ら,200140) as insect crawl 虫が這うような 1767 表5 痒 み の 表 現 Yosipovitch, G et al, 200035) chiku-chiku iji-iji チクチクする イジイジする tickling くすぐったい stinging ピリピリする muzu-muzu ムズムズする crawling like ant ムズムズする piri-piri ピリピリする stinging 刺すような stabbing pinching burning 焼けるような burning tsun-tsun ツンツンする bothersome 刺すような つまみたくなるような 灼熱感 annoying やっかいな いらいらする unbearable 耐えきれない worrisome 気をもますような 表6 痒みの表現(Der Eppendorfer Juckreizfragebogen)Darsow et al,199732) ●痛がゆい,拍動性,鼓動性,チクチク,突き刺すような,つねりたくなるような,ひっぱられるような,ムズムズ, ひりひりする,焼け付くような ●暖かい,しつこい,焼けるような,冷たい,突き抜ける,寒さで増強,熱で増強 ●うつろな,穏やかな,鋭い,ムズムズ,起伏のある,とがった,はっきりした,針で刺すような,暑い,もぞもぞす る,日焼けしたような,しめつけられるような,圧迫されるような ●うんざりする,疲れさせる,気持ちの良い,殺人的な,ひどく骨の折れる,身の毛もよだつ,扇情的な,しぶとい, 腹の立つ,いやらしい,残酷な,など 80 の表現 手首に着装すると手の動きの加速度が経時的にデータ (PET)で観察さ れ て い る26)27).更 に 最 近 で は func- として蓄積され,パソコンに転送して解析する.痒み tional MRI でより詳細に脳の活性化部位が捉えられて 計測についての妥当性を検証するため,赤外線ビデオ いる28).このように痒み知覚の中枢機構が脳のイメー 法と同時に施行したところ,高い相関係数が得られ, ジングで空間的,時間的に把握できるようになってき より簡便に,かつ 1 カ月という長期にわたる観察も可 ており,今後の痒み評価が大きく進展することが期待 能な点が優れている24).しかし,手の動作には!破以 される. 外のものも当然含まれており,如何に!き動作以外の ものを排除するか,あるいは!き動作のみを抽出する 2.痒みの性質の評価 か,今後のソフトウエア的対応が必要である.また, 痛みと痒みはよく対比されるが,痛みにはズキズキ センサーの圧電子水晶体は極めて高感度で激しい!き とかヒリヒリ,また刺すようなものなど,その性質に 動作により故障することが多いのも事実で,!き動作 ついて多様性がある.しかし,痒みについてはムズム 用のより堅牢な装置が必要である.同様な機器として ズくらいで一般的にもそのバリエーションについては Actiwatch(Cambridge Neurotechnology Ltd., Cam- 余り意識されていない.これまで VAS などで測定し bridge, UK) ,Pruritometer25)などが市販あるいは試作 ているのは「痒さ」の定量であり,それに対して「痒 されている. み」は定性的なもので,痒みの性質についての検討は 今後は更に洗練された機器やソフトウエアが開発, 極めて少ない.痛みに関してその性質にまで踏み込ん 改良され,より簡便にかつ正確に!破の測定が行える 30) だ質問票として McGill Pain Questionnaire(MPQ) が ことが期待される. ある.項目数が多いので時間がない状況では shortform31)が 用 い ら れ て い る.Darsow ら32)は MPQ の 4)脳のイメージング long-form を 参 考 に Eppendorf Itch Questionnaire を 痒み知覚で脳のどの部位が活性化されるか非常に興 考案してヒスタミンによる実験的!痒誘発33)やアト 味深いが,ヒスタミンにより痒みを誘発した時に生じ ピー性皮膚炎の!痒34)について検討した.Yosipovitch る 脳 血 流 の 変 化 が Positron emission tomography は short-form MPQ を参考に痒みの質問票を考案し, 1768 皮膚科セミナリウム 第8回 痒み―基礎と臨床(1) 病的状態によって生じる痒みであり,帯状疱疹後の! 痒,brachioradial itch,脳血管障害,多発性硬化症,脳 腫瘍に伴う!痒が該当する.Neurogenic itch は中枢性 に生じる痒みであるが,神経の異常が証明されていな いもので,胆汁うっ滞による!痒が挙げられる.オピ オイド受容体の関与が言われている.Psychogenic itch は精神的な異常に伴って生じる痒みで,寄生虫忌避症 における妄想や脅迫性傷害で見られる.これらのタイ プが混合してみられることもあり得る.このような分 類も参考に,今後更に痒みの性質を評価していくこと が必要であろう. 図 4 痒みの伝達系と痒みの分類(Yosipovitch, G, et al. 200341), Twycross, R et al. 200342)より) 3.治療効果判定への応用 赤外線ビデオやその他の%破測定機器により抗ヒス タミン薬や睡眠導入薬のアトピー性皮膚炎の!痒に対 世界各国で様々な!痒性疾患について有用性を検証し する定量評価がいくつかなされている8).しかしなが た36)∼38).これらの質問票では単に痛みの強さや性質 ら EBM の観点からみてこれまで十分な根拠は得られ のみならず,QOL に与える影響など総合的に把握でき ていなかった.最近 Kawashima ら43)は,5 段階の Nu- 39) るよう項目が盛り込まれている .痒みの表現の多様 40) merical rating scale を用いたかゆみ日記で昼間と夜間 性から言えば青木ら は痒みの性質を表す表現として の痒みを記録し,Fexofenadine の痒み抑制効果を証明 8 種類を挙げ(表 4),Yosipovitch28)は 10 種類(表 5), した.今後とも,多数例を対象とした臨床試験では簡 Darsow ら32)は何と 80 種類の表現項目(表 6)について 便な方法として VAS や NRS が用いられるであろう 質問票を作成している. し,さらに客観性を持たせたい場合には症例数は制限 最近,痒みを成因から,!Pruritoceptive itch,"Neu- されるが手に取り付けた機器を用いた%破の定量が適 ropathic itch,#Neurogenic itch,$Psychogenic itch, していると思われる.近い将来,脳のイメージングが 41)42) .Prurito- より普及すれば求心性の痒み刺激の認知,中枢での処 ceptive itch は皮膚の炎症や傷害によって生じる痒み 理,遠心性の%破の指令などを中枢レベルでより詳細 で,乾皮症,蕁麻疹,虫刺,疥癬など多数が挙げられ に知ることができ,薬剤による痒み治療の評価に絶大 る.Neuropathic itch は痒みの求心性経路のどこかの な威力を発揮するであろう. に分類することが提唱されている(図 4) 文 1)Rothman S : Physiology of itch, Physiol Rev , 21 : 357―381, 1941. 2)Savin JA : How should we define itching? 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