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3.1.3.9 - 巨大地震・津波による太平洋沿岸巨大連担都市圏の総合的

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3.1.3.9 - 巨大地震・津波による太平洋沿岸巨大連担都市圏の総合的
3.1.3.9
目
(1)
防災用人的シミュレーションシステムの研究開発
次
業務の内容
(a) 業務題目
(b) 担当者
(c) 業務の目的
(d) 5ヵ年の年次実施計画
(e) 平成 18 年度業務目的
(2)
平成18 年度の成果
(a) 業務の要約
(b) 業務の成果
1) ボランティア船による支援ネットワークの構築に関する研究
2) 津波来襲時の係留船舶の挙動に関する検討
3) 津波来襲時の錨泊船舶の挙動に関する検討
4) 津波来襲時の船舶避難に関する検討
5) 堺泉北港における津波来襲時の対応策に関する現状調査
6) 製油所における想定津波波高
(c) 結論ならびに今後の課題
(d) 引用文献
(e) 成果の論文発表・口頭発表等
(f) 特許出願、ソフトウエア開発、仕様・標準等の策定
469
(1)
業務の内容
(a) 業務題目
防災用人的シミュレーションシステムの研究開発
(b) 担当者
所属機関
役職
氏名
メールアドレス
神戸大学
海事科学部
教授
久保雅義
[email protected]
神戸大学
海事科学部
教授
大辻友雄
[email protected]
神戸大学
海事科学部
教授
石田憲治
[email protected]
神戸大学
海事科学部
教授
小林英一
[email protected]
神戸大学
海事科学部
助手
長松
[email protected]
神戸大学
海事科学部
助教授
林
東北大学大学院工学研究科
助教授
越村俊一
神戸大学自然科学研究科
大学院生
米田翔太
神戸大学自然科学研究科
大学院生
池田龍介
神戸大学自然科学研究科
大学院生
竹田昇史
東洋信号通信社
隆
美鶴
[email protected]
島之上雅也
(c) 業務の目的
地震や津波襲来などの災害発生時に被災者の救助、地域の復旧において重要な輸送路となる臨
海部に重点を置き、海経由の避難・広域連携法の研究開発を行う。また、港湾災害軽減化のため
に、津波が船舶に及ぼす影響を検討するとともに、大型船舶や危険物船の避難方法の研究を行う。
(d) 5ヶ年の年次実施計画
1) 平 成 1 4 年 度 :
大阪湾沿岸地域における大規模災害発生を想定し、関連する自治体・企業等の緊
急対応体制、大阪湾沿岸地域における緊急輸送システムに必要とされる諸施設、設
備の状況を調査した。モバイル機器を活用し、災害発生時に客船やフェリーと連携
し高速輸送が期待できる漁船の活用法の検討を行った。また、シミュレーション実
験 シ ス テ ム の 仕 様 の 決 定 を 行 い 、webベ ー ス の 人 的 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン シ ス テ ム の プ ロ
トタイプを構築した。
2) 平 成 1 5 年 度 :
海上経由の緊急支援船ネットワークの設計を行うための準備として、阪神大震災直
後における漁船等小型船舶の活動状況をアンケート調査し、定量化した。
港湾の防災対策の現状についてアンケート調査を行い、津波襲来時の船舶災害を軽
減化する防災上の基礎的な問題点の整理を行った。また、津波が船舶の係留に及ぼ
す影響を検討し、津波による船舶の漂流について基礎的な解析を行った。
3) 平 成 1 6 年 度 :
470
前年度に構想した緊急輸送システムの具体化を目指し、支援船ネットワークの概念
的な設計を行った。 津 波 襲 来 時 の 港 湾 に お け る 船 舶 に よ る 災 害 の 軽 減 化 の 研 究 に
関しては、津波襲来時の船舶の挙動に関する解析計算を続けるとともに、船舶
ならびに港湾の被害を軽減化するための方策を検討した。
4) 平 成 1 7 年 度 :
支援船ネットワークについては、大阪湾沿岸、瀬戸内海、九州東岸の漁協を対象に、
それらの設備、能力、支援活動参加の可能性等に関するアンケート調査を実施した。
さらにネットワークの運営主体について検討した。 津 波 襲来時の 港 湾災害軽 減 化に
関する研究では、津波が係留船舶に及ぼす影響、船舶の港外避難の可能性につい
て検討し、大阪湾内船舶を対象としたハザードマップを作成した。
5) 平 成 1 8 年 度 :
支援船ネットワークを構築するため、その運営主体となる組織の設立を図る。津波
による船舶・港湾の被害を軽減するための対策をまとめ、その実現を目指して関係者
との意見交換を行う。
(e) 平成18 年度業務目的
海経由の避難・広域連携法の研究開発に関しては、ボランティア船による支援システムの具体
化を目指してシステム設計を行う。また、ケーススタディとして、津波被災地域に高知市付近を
想定し、17年度に和歌山、瀬戸内、九州東岸地区の漁協や船会社に依頼したボランティア船を対
象に、地図・情報システムと行動パターンプログラムを使って被災地までの最適ルート、所用時
間、支援人材・物資を検討する。
津波による船舶と港湾の被害予測と災害軽減化に関する研究では、津波来襲時に予想される錨
泊船舶の振れ回りや走錨に関連して、減災指針の策定に資するシミュレーション解析を行う。ま
た、津波来襲時に船舶が港外避難する際の安全避航指針策定に資するため船舶避難シミュレーシ
ョン解析を行う。また、臨海部での災害時に危険地域に想定される火力発電所、石油コンビナー
ト、LNG基地の被害想定を行う。
(2)
平 成 1 8年 度 の 成 果
(a) 業務の要約
海上経由の緊急支援船ネットワークに関しては、その運営主体となる NPO の立ち上げ
を目指して準備を開始した。しかし、NPO の設立・維持にはいくつかの問題があることが
判明した。そこで当面は NPO 設立のための準備会として研究会を立ち上げることとした。
また、GIS を用いた災害地支援地図情報ステーションの構築作業を開始した。
津 波 襲 来 時 の 船 舶 の 挙 動 に 関 し て は 、船 舶 に よ る 二 次 災 害 を 防 止・ 軽 減 す る た め の 対
応 策 の 作 成 に 資 す る た め に 、係 留 船 舶 及 び 錨 泊 船 舶 に 及 ぼ す 津 波 の 影 響 を 数 値 シ ミ ュ レ
ー シ ョ ン す る と と も に 、津 波 来 襲 時 に お け る 船 舶 の 避 難 に 関 す る シ ミ ュ レ ー シ ョ ン を 実
施した。
石 油 コ ン ビ ナ ー ト 等 の 被 害 想 定 に 関 し て は 、東 南 海・ 南 海 地 震 で 津 波 が 襲 来 す る 可 能
性 の あ る 地 域 に 位 置 す る 製 油 所 に お け る 想 定 津 波 波 高 と 、そ れ ぞ れ の 地 域 の 堤 防 高 さ を
471
比較した。
(b) 業務の成果
1) ボランティア船による支援ネットワークの構築に関する研究
a) 災害時のボランティア船ネットワーク構想の NPO 組織化
災害発生後の支援手段の一つとして、船舶による海上からの支援が挙げられる。実際、
1995 年の阪神淡路大震災において、災害発生直後の小型船舶による支援が行われていた。
震災時小型船舶が輸送したものは、人物、燃料、食料、衣類、医薬品やその他の日用品で
あった。このときの小型船舶による支援は組織的な動きではなく、そのほとんどが個人と
個人による支援であったがその有効性は証明されており、災害対応の初期段階における海
からの支援は非常に有効であると考える。神戸を含む瀬戸内海一帯は内海ということもあ
り、各地域に多くの船舶がいることがわかっている。この個人間における支援をネットワ
ークで繋ぐことにより国や自治体の対応が始まるまでに空白の時間を作ることなく支援を
行うことが可能となると考えられる。
このネットワークを構築するに当たって、中心となる組織として NPO 法人を立ち上げ
ることを計画している。この法人を小型船舶広域支援ネットワークと呼ぶことにする。
NPO 法人を立ち上げるにあたり、「兵庫ボランタリープラザ」にて NPO 設立にかかる費
用や申請書類について相談に行った。兵庫ボランタリープラザの相談窓口において、NPO
法人の定款を見てもらい、表記上の不備等を指摘してもらった。
NPO の事務局を神戸大学海事科学部内に設置することを予定しているため、神戸大学連
携創造本部、学務課、会計課、既に学内にて NPO を立ち上げている教員に相談し、NPO
立ち上げ時の学内規定等との整合性について確認を行った。NPO として法人格を持つと、
学内における研究活動とは異なるため、大学の施設および物品を大学から借りるという形
式をとらなければならず、その維持費だけで年間 13 万円ほどかかること、また、正規の
時間内での NPO 活動は行うことができないこと等が分かった。そのため、NPO としての
活動が制限されてしまう。
そこで、当初計画していた NPO に変わり「災害時ボランティア船ネットワーク研究会
(仮)」を立ち上げて、活動を継続することとする。この研究会は、NPO 法人「小型船舶
広域支援ネットワーク」設立のための準備会的位置づけにある。NPO 化に向けて、データ
ベースの整理、支援方法の検討、活動資金の調達といった準備を行っていく。
図 1 および図 2 にネットワークをモデル化した例をしめす。
472
Submodel of Transportation by Ships
To damaged
area.
From
damaged area.
Unloading Time
図1
高知市を対象にした飲料水供給モデル
Mainmodel of Transportation by Ships
Distance
Ship Speed
Submodels
about 26 ports
Amount of water
Port scale
Water volume
Sub-models about 26 ports are in this red circle.
図2
System Dynamics を用いたシミュレーションモデル
b) GIS を用いた災害地支援地図情報ステーションの構築
支援可能船舶の管理、小型船舶の着桟可能な場所のデータベース作成を行う。データベ
ース内の情報を、地図上に表示することで情報を視覚的に捉えることができるようになる。
SQL サーバと、GIS ソフトである MapInfo を連携させ、Web 上で情報提供を行う。
c) 高知市を含む災害モデル地の現地調査
i)調査日時
2006 年 11 月 15 日~2006 年 11 月 18 日
ii)調査地域
高知県高知市及び、高知市から室戸岬までの沿岸部
iii)調査対象及び成果
ア) 高知県危機管理担当理事所管危機管理課
高知県における南海・東南海地震への備えについて聞き取り調査を行った。高知県の第
2 次アセスメントにて行った津波のシミュレーション結果を GIS 上に表示できるデータと
473
して提供を受けられることになった。
イ) 高知県立高知東高校
高知東高校にて防災教育を行っている谷内教諭を訪問した。ここでは、高知東高校で行
っている防災教育の授業内容や、生徒たちの反応についての話を聞き取った。高知東高校
では防災の授業は総合科目の中の 1 選択科目となっている。過去に、大大特Ⅲ-3 の成果発
表会にて行われていたクロスロードが授業に取り入れられていた。大学受験に役に立たな
い防災教育を高校で行うことは難しいとのことであった。
ウ) 高知港及び桂浜から室戸岬までの沿岸部
小型船舶による支援を考えるに当たり、高知港及び桂浜から室戸岬までの沿岸部の調査
を行った。
高知県では、地震に伴う津波に比べ、より頻繁に発生する高潮への対策に力を入れてき
たため、沿岸の堤防や防波堤は非常に高く造られている。
高知港のある浦戸湾の入り口には、浦戸大橋が架けられている。高知県庁で聞いた話で
は、この浦戸大橋は建造年度が古く耐震強度も南海地震を想定して作られていないため、
地震発生時に崩壊する危険性があるとのことであった。その場合、高知港内に入っての船
舶による支援は困難となる恐れがある。高知県の石油コンビナートは高知港内にあり、橋
が落ちた場合深刻なエネルギー不足になることも分かった。
高知新港が浦戸湾外にあり、ここから高知市に向けて新しく臨港線が整備されている。
浦戸湾に侵入できなくても高知新港から高知市への支援ルートは確保できるものと考えら
れる。
高知新港には津波対策として 14mの防波堤が建造されていた。また、高知県安芸市の安
芸漁港においても 16m の防波堤が建造されていた。
2) 津波来襲時の係留船舶の挙動に関する検討
a) 初めに
大型の津波が発生した際には港湾内の船舶は早急に安全な海域へと避難するのがよい
と考えられる。しかし過去の事例からも分かる様に直下型の地震津波の際は、早いところ
で、5 分程度で津波が到来する可能性があり、避難出来ない事も十分考えられる。また港
湾条件によっては避難する事で別の危険が発生する事も考えられる。そのため、津波によ
り係留船舶がどの様に運動し、それに伴いどの様な被害が想定されるかを検討する必要が
ある。そこで、数値シミュレーションを行い、係留船舶の動揺とそれにともなう係留索張
力や防舷材の反力を求める事で津波の係留船舶へ与える影響を考える。今までの計算では、
主に、津波来襲初期の水位上昇時の検討が行われてきたが、津波波形が第一波よりも第二
波、第三波のほうが、水位上昇が大きくなる可能性はすでに示唆されている。また船体運
動においては、必ずしも津波の減衰に伴い係留船舶の動揺が同じ様に減衰していくとは限
らないのではないかと考えられる。そこで、初期波形を含めたより長い時間の数値計算を
行う事で、船体運動の減衰を考察する。
474
b) 計算条件
まず図 3 に対象とする津波の水位変動と流速の時系列データを示す。係留船は図 4 に示
すシーバースに係留された 135,000m 3 の LNG 船を想定し図 5、図 6 にはそれぞれ係留策
の張力特性曲線と防舷材の反力特性曲線を示す。
u (m/s)
v (m/s)
Elevation
6
4
0
-2
-4
-6
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
Time (s)
図3
水位変動と流速の時系列データ
y
140
L16
Line 5
120
289.5
70
Tension (ton)
40
L10
100
80
Line 1
Line 10&16
60
40
F1
20
20
0
0
25
G0
F3
2
4
6
8
10
Elongation(%)
x
図5
− 30
係留策の張力特性曲線
60 0
50 0
Reaction Force (Ton)
(m)(m/s)
2
L5
L1
図4
40 0
30 0
20 0
10 0
0
0
船体データと係留データ
10
(長さの単位は m)
図6
475
20
30
40
50
Deflection (%)
60
防舷材の反力特性曲線
70
c) 数値計算概要
津波計算から算出された水位変動(図 3)を FFT により成分波に分解して、成分波ごとに
速度ポテンシャル及び流速を与え、船体に作用する波浪強制力や流れによる流圧力を算出
する。その際、成分波ごとに、リサージュ図形を作成してそれぞれに波向きを設定する必
要があるが、今回は津波の船体動揺への影響がどの様に減衰していくかを確認する事が目
的のため、簡易にすべての流速振幅データをプロットして、卓越波向きを x 軸に対し-30deg
と設定した。また、FFT により抽出した成分波をすべて扱うと実波形にない短周期成分波
が強調される可能性があるため、閾値波振幅を 5cm とし、21 個の成分波を抽出した。抽
出した成分波を用いて津波の水位変動と流速データを再現すると、水位変動は十分に再現
出来ていた。流速に関しては、水位変動に対する位相関係はよく再現されていたが、波向
きを一定値に定めたために、絶対値が過大評価されていた。そのため、流速の絶対値を合
わせる様に係数を乗じて修正した。その再現波形を図 7 に示す。
u(m/s)
v(m/s)
Elevation
6
4
(m)(m/s)
2
0
-2
-4
-6
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
Time(s)
図7
FFT を用いた再現波形
d) 計算結果
図 8 には、津波による船体運動を各運動ごとに時系列で示した。図 9 には、係留策にか
かる張力と、防舷材の反力を時系列に示した。
索や防舷材にかかる力は非常に強く、係留索の破断や防舷材の破損の危険性が考えられ
る。Heave 運動に関しては、津波の水位変動と一致しており、波の減衰と共に、船体運動
も減衰していく事が分かる。しかし、Surge 運動に関しては、運動変位のピークは、3000
秒程度で、初期波形が過ぎ去った後である事がわかる。係留索の一部や防舷材にも、同様
の特徴がある事がわかる。
476
6
Sway
120
(to n )
(m )
3
0
-6
0
1200
2400
3600
0
0
4800
Surge
(to n )
(m )
-3
-6
0
Heave
6
1200
2400
3600
(to n )
(m )
2400
600
1200
1800
2400
600
1200
1800
2400
600
1200
1800
2400
600
1200
1800
2400
600
1200
1800
30
90
60
30
-3
1200
2400
3600
0
0
Line 16
4800
Pitch
120
0.5
(to n )
(d e g )
1800
120
0
-6
0
0.0
90
60
30
-0.5
-1.0
0
1200
2400
3600
0
0
Fender 1
4800
Roll
400
300
0.5
(to n )
(d e g )
1200
60
0
0
Line 10
4800
3
200
0.0
100
-0.5
-1.0
0
1.0
1200
2400
3600
0
0
4800
Yaw
Fender 3
400
300
0.5
(to n )
(d e g )
600
90
3
1.0
Line 5
120
0
1.0
60
30
-3
6
Line 1
90
200
0.0
100
-0.5
-1.0
0
1200
図8
2400
3600
0
0
4800
Time (s)
2400
T ime (sec)
図9
津波波形による船体動揺
係留索張力と防舷材反力
e) 終わりに
今回の計算結果はあくまで一例を示したにすぎないが、津波の減衰とともに、船体動揺
が、必ずしも減衰していくとは限らないと考えられる。そのため、今まで行われてきた船
体動揺の解析だけでは十分とはいえず、より様々な条件を想定した数値計算を行う必要が
あるといえる。
津波により係留船舶には、係留索の破断や、それに伴う座礁や衝突といった被害が想定
される。その結果、積荷やオイル、破片などの漂流物が、津波による被害を増大させる可
能性をはらんでいると言える。そのため、大型船の二次災害は非常に深刻な問題であると
考えられ、それを未然に防ぐためにも、より正確で多くの情報を提供し、津波による被害
を予測しやすくする事が重要なのではないかと考えられる。今後は、この数値計算を利用
し、係留索の張り方や本数、係留方法などを見直していく事や、係留状態で津波を受ける
と分かった時に、津波が到達するまでの間や、被災中の間にどの様な行動がとれるのか、
検討していく必要があると思われる。
3) 津波来襲時の錨泊船舶の挙動に関する検討
a) 目的
陸上においては、津波が発生すると認識した場合、「速やかに沿岸から高台への避難す
る」という様な避難マニュアルが多く存在すると思われる。より詳しいものでは、避難経
路が規定され、連絡先などが記載された詳細なものが既に作られていると思われる。
一方、海域については、津波による水平流速と水位変化により、港湾内の入出港または離
477
接岸中の船舶は漂流してバース衝突や底触などの事態が発生する可能性があり、地震によ
る被害をより広める可能性がある。しかし、明確な避難マニュアルは規定されておらず、
「港外に速やかに避難する」あるいは「パイロットの指示に従い、沖合に錨泊して津波を
やりすごす」といったやや抽象的なもので、具体的な船舶の避難手順が明確に確立されて
いるものはあまり無い。よって、先に示したように津波が港湾に来襲すると認識された場
合、出航可能な船舶は直ちに港外へ避難し状況により錨泊するというのが一般的な考え方
であると思われる。
しかし、津波中での船舶の運動を示して評価解析を行った研究はあっても、錨泊中のも
のは従来行われてこなかった。理由としては、台風等の強風時において今まで問題なく安
全に過ごすことが出来たという漠然とした安心感があると思われる。しかし、津波と台風
の大きな違いとしては流れの方向の変化が早いことである。台風は平均して 6 時間ほどか
けて風向を変化させるが、津波は 10~20 分という短い周期で流れの方向を変化させる。
この大きな違いがあることから、研究を行う必要がある。
本研究ではこのような背景のもと、錨泊中における津波来襲時の船体動揺の初期検討と
して、大型タンカーが錨地付近で津波の来襲を受けた場合を例として船体動揺シミュレー
ションを行い、今後の具体的な船舶避難指針作成に資することとした。
b) 津波の計算
南海トラフ上で発生した地震による津波が大阪湾に来襲した場合の様子を把握するた
め、津波シミュレーションを実施した。津波挙動は水平方向の流速分布が水深方向に一様
とした非線形波理論により、図 10 に示す座標系にて、連続の式と運動量保存の式を用い
て次のように表すことができる
1) 。
∂η ∂M ∂N
=0
+
+
∂t ∂x0 ∂y 0
∂M
∂ M2
∂
+
+
∂t ∂x 0 D
∂y 0
∂ MN
∂
∂N
+
+
∂t ∂x0 D
∂y 0




MN
∂η τ
+ gD
+ = 0
D
∂x 0 ρ

2

N
∂η τ
+ gD
+ =0 

D
∂y 0 ρ
ここで
η
:静水面からの水位上昇 t
:時間
x 0 ,y 0
:水平座標
g
:重力加速度
ρ
:海水密度
D
:全水深
τ x ,τ y :x 0 ,y 0 方向の海底摩擦
M,N
: x 0 ,y 0 の流量フラックス
本論文ではこれを有限差分法にて解いた。
478
(1)
z
x0
η
o
y0
h
図 10
津波計算の座標系
c) 船体動揺の計算
i) 船体運動の計算
船体の運動に関する運動方程式は、津波による流れが比較的緩やかな変化であり、かつ
波の傾斜による運動が小さく主たる運動が前後、左右、およびヨー方向のみと仮定する。
そして、船体と共に移動し、その原点を船体重心とする図 11 に示す座標系を用いる。
(m + m x )u& − (m + m y + X vr )vr − (u c 0 sinψ − vc 0 cosψ )(m y − m x + X vr ) = X H
(m + m y )v& + (m + m x )ur − (vc0 cosψ + vc0 sinψ )(−m y + m x )r = YH + Ty
(I zz + J zz )r& = N H + PxT y − Py Tx
+ Tx ⎫
⎪
⎬
⎪
⎭
(2)
ただし
m
: 船の質量
mx , m y
: 船の前後方向及び左右方向の付加質量
I zz
J zz
u,v
u c 0 , vc 0
r
: z 軸回りの船の慣性モーメント
ψ
u& , v&, r&
X H , YH , N H
Tx , T y
: z 軸回りの船の付加慣性モーメント
: x , y 方向の速度成分
: 津波水平流の x0 , y0 方向の速度成分
: z 軸回りの回頭角速度
: 回頭角
: u , v, r の時間微分
: 船体に作用する前後力、 左右力及び Z 軸まわりモーメント
: 船体に働くアンカーからの力
P
: 船体重心からアンカー取り付け点の x 方向距離、y 方向距離
また X H , YH , N H については津波により船体に流れ込む流れが船体近傍では一定方向か
らの流れで、潮流抵抗で表現できるとした。また港湾内では、船底と海底の距離が喫水に
比べて小さくなることがあるため YH , N H については浅水影響も考慮した。Tx , T y について
は後述する張力計算法にて計算を行った。
479
図 11
船体運動シミュレーションの座標系.
ii) 張力計算法
本研究では、アンカーチェーンの運動、流体力、3 次元変形を全て考慮した Lumped Mass
法を用いて計算を行った。 Lumped Mass とは図 12 に示すように、索をいくつかに分割
し、それをバネと質量に置き換え、各質点に対する運動方程式を解くことにより索の運動
および張力を求めようとするものである。
図 12
lumped mass 手法に関する座標系
⎡ I1 j
⎢
⎢ J1 j
⎢ K1 j
⎣
I2 j
J2j
K2 j
I 3 j ⎤ ⎡ &x&⎤ ⎡ FXj ⎤
⎢ ⎥
⎥
J 3 j ⎥ ⋅ ⎢⎢ &y&⎥⎥ = ⎢ FYj ⎥
K 3 j ⎥⎦ ⎢⎣ &z&⎥⎦ ⎢⎣ Fzj ⎥⎦
ただし、
480
I 1 j = M j + Anj cos 2 α j + Atj sin 2 α j
I 2 j = J 1 j = (Atj − Anj )sin β j sin α j
I 3 j = K 1 j = (Atj − Anj )sin γ j sin α j
J 2 j = M j + Anj cos 2 β j + Atj sin 2 β j
J 3 j = K 2 j = (Atj − Anj )sin β j sin γ j
K 3 j = M j + Anj cos 2 γ j + Atj sin 2 γ j
α j = (α j + α j −1 ) 2
β j = (β j + β j −1 ) 2
γ j = (γ j + γ j −1 ) 2
Dc 2π
l j C hn
4
Dc 2π
Atj = ρ
l j C ht
4
FXj = T j sin α j − T j −1 sin α j −1 + f dXj + f gXj
Anj = ρ
FYj = T j sin β j − T j −1 sin β j −1 + f dYj + f gYj
FZj = T j sin γ j − T j −1 sin λ j −1 + f dZj
C hn
Dc
:
法線方向付加質量係数
C ht
Fdj
:
索の等価円断面直径
Fgj
:
着底している際に発生する海底との摩擦力
δj
:
索の単位長さ当り水中重量
lj
:
分割された索の部分長
:
接線方向付加質量係数
:
流体抗力
Mj
:
j 番目の質量の点
この式を、解くことで索の運動および張力 Tx , T y を求めることが出来る。
iii) 海底との摩擦力の考え方
アンカーおよびアンカーチェーンが海底に接している場合、把持力が発生する。これは
アンカーの種類と海中重量、アンカーチェーンの把持部の長さと海底重量および海底の底
質から求められるとされている。以下にその式を示す。
P = k a wa + k c lwl
ここで
P
ka
wa
kc
l
wl
:
:
把持力
アンカーの把持力係数
:
アンカーの海中重量
:
アンカーチェーンの把持力係数
:
:
アンカーチェーンの把持力部長さ
アンカーチェーンの単位長さの重量
である。この式を応用し式(2)の Fgj は
481
Fgj = 0 (浮中時)
Fgxj = k c l j wl (着底時)
Fgyj = k a wa (j:アンカー部 着底時)
とした。しかしここで示した式による把持力はアンカーチェーンの接線方向への力であり、
アンカーおよびチェーン共に静止着底時に発生しうる最大力である。つまり静止摩擦係数
そのものである。
しかし、実際の海域においては接線方向だけでなく法線方向にも有る程度の力を発生さ
せていると思われる。チェーン部を個別に見ると、着底部と浮中部との間では、接線方向
だけでなく法線方向にも走錨しながら力を発生させている。つまり、動摩擦係数的な数値
が必要である。また走錨状態における把持力については、研究事例が無く本研究での走錨
中における各部の把持力は便宜的に以下の式を用いた。
Fgj = 0
Fgxj = −0.1k c l j wl x& j
Fgyj = −0.1k c l j wl y& j
iv) シミュレーション計算法
本研究では運動方程式をルンゲ・クッタ法を用いて解いた。入力データとしては以下の諸
量が必要である。
・ 船の主要目
・ 船の初期状態
・ 索の特性(長さ、断面積、ヤング率等)
・ 索の初期状態
・ 潮流速の時刻歴変化および水深
・ Time step の長さおよびシミュレーション時間
d) シミュレーション
i) 津波シミュレーション条件
対象とした津波は、中央防災会議想定で最も被害の大きい津波を発生させると予測され
ている、東南海・南海連動型地震の津波波源モデルに基づいた。
格子間隔は図 13 に示す(A)1350m、(B)450m、(C)150m、(D)50m の組合せを用い、大
阪湾においては 50m を採用した。遡上計算は行わずに全反射とし、計算対象時間は地震発
生後 5 時間とした。
482
(D)50
(C)150
(B)450
(A)1350
図 13
シミュレーション海域
ii) 船舶挙動シミュレーション条件
対象の船舶として表 1 に示すタンカーとし、計算初期位置を図 14 に示す大阪湾堺泉北
港に通じる浜寺航路入り口付近の堺泉北港指定錨地とした。船舶の初期状態として、実海
域においては船速及び回頭速度を有した運動状態となるが、ここでは初期的な検討である
ことを考え、船体が停止した状態を初期値として与えた。
15
45
計算開始点
30
図 14
計算対象領域
浜寺航路
表 1 タンカーの諸元
Length
269.0m
Breadth 44.50m
Draght
11.5m
iii) 索運動シミュレーション条件
索の特性はこの船型として標準的であると思われる表 2 に示す特性とした。また索の初
期状態として、実海域における作業を参考した。作業手順としては、アンカーポイントで
錨を降ろして着底させ、その後、船体に後進をかけながら所定量のアンカーチェーンを繰
り出して錨 泊を行う。 この時の錨 鎖の繰り出 し量は、荒 天時におけ る錨鎖繰り 出し量(L)
の標準である水深(D)を基準とする L = 4 D + 145 を用いた。また、船舶と錨鎖の位置関係
の初期条件として、計算開始時に錨鎖が船舶に対して水平方向の力を与えない安定な状態
483
とするため、図 6 に示すようにベルマウスから垂直に海底まで錨鎖を配置し、アンカーま
で海底を這わせた。同時に、海底を平面とみなし、海底の凹凸や傾斜を考慮せずに運動計
算を行った。
錨鎖および錨に働く流体力を求めるための流速は、船の位置における表層流速で、海底
方向の分布は一定とした。
表 2 索の特性
単位長さ重量(空中) 315kg/m
0.28m 2
等価円断面積
206GPa
ヤング率
1.98
付加質量(法線方向)
0.20
係
数(接線方向)
2.18
抗力係数(法線方向)
0.17
(接線方向
図 15
船の初期状態とチェーンの初期状態
e) 計算結果および考察
i) 津波シミュレーションによる結果
浜寺航路大阪湾側入り口付近での水位流速変化を図 16 に示す。まず、水位・流速の変
化をみると、地震発生後はゆるい南向きの引き波に始まり、その後約 5000 秒後に北向きの
押し波が来襲している様子を読み取ることができる。また最大流速の絶対値は 0.7m/s 程度
であること、堺泉北港において、波が来襲するまでは約 1 時間 40 分程度であることなどが
分かる。
484
Velocity[m/s] Elevation[m]
1.5
Velocity component for east
Velocity component for north
Sea surface elevation
1
0.5
0
-0.5
-1
-1.5
0
図 16
2000
4000
6000 8000 10000 12000 14000
Time[s]
津波による水位と東及び北向き速度成分の時間変化
ii)船舶挙動シミュレーション
津波来襲中における船舶漂流挙動シミュレーションの地震発生後から 12000 秒間の結
果を図 17,18 に示す。船の図は 500 秒ごとに描いたものである。
図 17 を見ると、南向きの引き波を受けて僅かに南に移動後、北東方向の強い押し波を
受けて北方向に流されている。その後、引き波が更に来襲して西南方向へ流された後さら
に北東方向への押し波を受け北東方向に漂流している。この時、船の描く軌跡として、円
を描くように漂流している。これは津波の流速変化の周期性によるものと思われる。
図 18 も同様にして円を描くように漂流していることから初期位置の方向に関わらず、
漂流させた場合、円を描くように漂流する可能性が分かる。
次に、アンカー及びアンカーチェーンを含めたシミュレーションを初期方向を変えて地
震発生後から 12000 秒間の結果を図 19~22 に示す。図 19 を見ると、地震発生直後のゆ
るい南向きの引き波を受けて僅かに南に移動後、北東方向の強い押し波を受けて北方向に
流されている。その後、引き波が更に来襲して西南方向へ流された後、さらに北東方向の
押し波を受けてアンカーチェーンとアンカーとの間のどこかの点を中心に振れ回っている
様子が分かる。
同様に図 20,21,22 もアンカーとアンカーチェーンとの間のある点を中心として円を描
くような軌跡を描いている。初期位置を変えてのシミュレーション計算を行っても同様に
回転していることから、錨泊中の船舶の津波来襲中における運動は、ある点を中心として
回転することが分かる。これは津波による流れと流速変化の周期性による影響と思われる。
485
図 17 漂流 初期方向
図 18 初期方向 南向き
東向き
図 19 初期方向 東向き
図 20 初期方向 南向き
図 21 初期方向 西向き
図 22 初期方向 北向き
f) 結言
本研究では対象をタンカーとし、限られた海域の限られた初期条件でのシミュレーショ
ンを行った。その結果、錨泊中の船舶の挙動とし、円を描くように振れ回るという現象が
486
発生する結果を得た。このことから、船が短時間に円を描いて振れ回るということを考慮
に入れ、多数の船舶が津波避難のために錨泊を行う場合の詳細な避難マニュアルの作成が
必要であると思われる。
しかし、船体の初期位置や初期運動状態の差がどのような結果を与えるかなどのより広
範囲な検討が必要である。また、この結果が全ての船舶へ当てはめても良いのか、錨や錨
鎖の状態によって異なった変化するのか、等の検討も行わなければならない。他に、この
ような錨と錨鎖のモデルを用いてシミュレーション計算を行ったが、モデルが正しいかど
うかについて模型実験などの実験によって確かめる必要がある。特に、錨鎖に対して横方
向に力が働いた場合の海底摩擦力についての検証を行わなければならない。本研究で用い
たモデルよりも摩擦力が小さい場合は、走錨等による船舶の振れ回りの方が影響が大きい
と思われる。
本研究での成果を要約すると次のようになる。
1. 湾内に津波が来襲したとき、錨泊中の船舶の挙動を解析する基本手法を整備した。
2. これに基づき、大阪湾内の浜寺航路入り口で LNG 船が錨泊した場合は、振れ回り現
象の他に回転現象が見られた。
3. 今後、シミュレーション手法の精度検証や様々な初期状態や船舶の種類、風外乱下
についての検討を行う必要がある。
4. 今後より広範な予測計算を行うことにより、避難航行後の安全な避泊に対する指針
作成基礎データを整備することができる。
4) 津波来襲時の船舶避難に関する検討
a) 緒言
津波来襲時には、本研究が対象とする大阪湾のような多くの船舶が航行・停泊を行って
いる海域では、ほぼ同時に多くの船舶が避航行動をとるが、航行水域が限られているため、
海上交通が輻輳し円滑に避難できないことも考えられる。また船舶の避難行動が遅れると、
港の出口付近や狭水路など、津波による水平流れが強くなる場所で、津波の来襲に遭遇し
てしまう危険もある。
また、津波来襲中における避航操船に関しては、先の研究
2,3)
において、
「積極的な操船」
が必要であることが示されている。これは対象が尾鷲湾であったため、地震発生から津波
来襲までの時間が 20 分程度と短く、積極的な操船のみにより避難が可能であった。しかし、
大阪湾に注目すると、予測されている震源域から遠いため、津波が来襲する前により多く
の時間的余裕があると考えられる。
本研究ではこのような背景のもと、来襲までの時間に注目し、南海トラフで発生する地
震による津波が多くの船舶が航行・停泊を行っている大阪湾に来襲した場合を想定し、好
適な避難水域を検討するため、船舶の避難操船シミュレーションを行い、今後の具体的な
船舶避難指針作成に資することとした。
b) 大阪湾の実情の把握
487
避航操船シミュレーションを行うに当たって、大阪湾内にはどれだけの数の船がどのよ
うな状態で存在するか、どの様な航路を通っているか等の湾内の実状を検討するために
AIS の受信データを用い調査を行った。
AIS とは自動船舶識別装置(Automatic Identification System )であり、お互いの船舶が、航
海情報として、喫水、積載危険物の種類、目的地、目的地到着時間、動的情報として、緯
度・経度、位置精度、時刻、対地針路、対地船速、船首方位、回頭角速度、航海ステータ
ス、静的情報として、MMSI(Maritime Mobile Service Identity=海上移動業務識別)、呼出符
号、船名、IMO 番号、船体長さ・幅、船舶の種類、アンテナ位置の情報の送受信を行うこ
とで海上交通をより安全とする目的で搭載が義務付けられた。海上交通をより安全とする
目的だけでなく、針路や速力の正確なデータから、船舶の航行状況の調査にも用いること
が出来る。
今回は、一例として 2005 年 3 月 12 日 12:00 時点での AIS データから、シミュレーショ
ン対象である大阪湾内で航行又は停泊を行っていた船舶を抽出して後述のシミュレーショ
ンのための基礎データとして用いた。大阪湾内の船舶は合計 30 隻で、詳しい情報を表 3、
表 4 に示す。表 3 は船種別の分類で、貨物船、コンテナ船、タンカーがその大半を占めて
いることが分る。表 4 は場所による分類で、神戸港、大阪港、阪南港などに船舶が存在す
ることが分る。同日の 8:30~12:30 の AIS データを用いて描いた航跡画を図 23 に示す。
これによれば、予想されていたことではあるが、友ヶ島水道-明石海峡、友ヶ島水道-
大阪港・神戸港、明石海峡-大阪港・神戸港それぞれの区間を航行する船舶が卓越してい
る。また、詳細な例として LNG 船「播州丸」の堺泉北港から友ヶ島水道通過までの航跡
と、航行速度を図 24 に示す。このような解析により船舶の航行状況を時間的・面的に詳細
に分析することが出来る。後述する船舶避難シミュレーションではこの AIS データに基づ
き、基本条件データの設定を行った。
図 23
AIS の解析によって得られた大阪湾内の船舶の航跡
488
16
Velocity[knot]
14
12
10
8
6
4
2
0
0
5000
10000
Time[s]
図 24
AIS によって得られたある LNG 船の航跡
表 3 大阪湾内における船舶の種類
表4
大阪湾内における船舶の位置
Number of
Number of
Kind of ship
ship
Position
ship
General cargo ship
9
Port of Kobe
10
Container ship
7
Port of Osaka
7
Chemical/Oil products tanker
6
Port of Sakai-Senboku
3
Chemical tanker
3
Port of Hannan
7
Bulk carrier
1
Center of Osaka Bay
3
Cement carrier
1
Total
30
Dredger
1
Refrigerated cargo ship
1
Ro-ro cargo
1
Total
30
c) 津波シミュレーション
i) 対象とした地震と津波
南海トラフ上で発生した地震による津波が大阪湾に来襲した場合の様子を把握するた
め、津波シミュレーションを実施した。対象とした津波は、中央防災会議想定で最も被害
489
の大きい津波を発生させると予測されている、東南海・南海連動型地震の津波波源モデル
に基づいた。そこで想定されている断層モデルを表 5 に示す。この断層モデルに基づき後
述する津波計算式の初期値を与えた。
表5
項目
断層面の原点
地震の断層モデル
南海地震
東南海地震
N 32°54’ 57’’ N 33°37’
8’’
E 135°36’ 1’’
E 137°13’ 47’’
断層滑り量[m]
9.45
7.05
断層長さ[m]
150,000
150,000
断層幅[m]
120,000
70,000
断層走向[度]
250
250
断層傾斜角[度]
20
10
断層滑り方向[度]
117
127
断層面深さ[m]
10,000
10,000
ii) 津波の計算
津波の挙動は 3)で述べた手法と同じ手法を用いて計算した。
iii) 計算結果
津波シミュレーションより得られた最大絶対値流速の大阪湾内での分布を図 25 に、基
準水位からの水位変動の最大低下値を図 26 に、最大上昇値を図 27 に示す。また各主要海
域での水位・流速変化を図 28~30 に示す。
図 25 に よ れ ば 水 平流 の 最 大 値は 大 阪 湾 の港 外 水 域 では ほ と ん どの 部 分 で 0.4 な い し
0.6m/s 程度で、高々0.8m/s 程度である。また、図 26 によれば水位変化の最大低下値は 0.8m
程度であり、図 27 によると最大上昇値は 1m 程度である。
一方で港内の水域では図 5 の最大流速の分布から、大阪港・神戸港付近の一部では水深
が浅いことと防波堤などの影響で 2m/s 以上の高い流速が発生していることが分る。また、
同様にして図 26、図 27 の水位変化から、1m 以上の大きな水位変化が発生していることが
分る。
また、図 28 の友ヶ島水道における水位・流速の変化をみると、地震発生後、まずはゆ
るい南向きの引き波の後、約 1 時間後に北向きの押し波が来襲している様子を読み取るこ
とが出来る。同様にして、図 29、図 30 のグラフからも津波来襲の様子を読み取ることが
でき、最大流速は 1m/s 程度であることが分る。
この計算結果によれば、大阪湾に津波が来襲すると沿岸部から離れた水域ではゆるやか
な水位変化と水平流れ変化となるが、湾内や湾口部の防波堤付近では 1m/s 以上の強い局
所的な流れが生じ大きな危険を伴う。このためこのような水平流れとなる前に当該水域か
ら避難する必要がある。
490
Kobe
Osak
Akash
a
Osaka
Awaji Is.
Tomogashima
h
図 25
l
津波シミュレーションに基づく大阪湾内最大流速分布
Kobe
Kobe
Akash
Akash
Osaka
Osaka
Awaji Is. Osaka bay
Awaji Is.
Tomogashima
Tomogashima
津 波シミュレ ーションに 基づく 図 27
大阪湾内最大水位下降値分布
津 波シミュレ ーションに 基づく
大阪湾内最大水位上昇値分布
1.5
Velocity[m/s] Elevation[m]
図 26
Osaka bay
Velocity component for east
Velocity component for north
Sea surface elevation
1
0.5
0
-0.5
-1
-1.5
0
2000
4000
6000
8000 10000 12000 14000
Time[s]
図 28
友ヶ島水道における流速と水位
491
1.5
Velocity component for east
Velocity component for north
Sea surface elevation
1
Velocity[m/s] Elevation[m]
Velocity[m/s] Elevation[m]
1.5
0.5
0
-0.5
-1
-1.5
Velocity component for east
Velocity component for north
Sea surface elevation
1
0.5
0
-0.5
-1
-1.5
0
2000
図 29
4000
6000 8000 10000 12000 14000
Time[s]
0
2000
図 30
明石海峡における流速と水位
4000
6000 8000 10000 12000 14000
Time[s]
神戸港内における流速と水位
d) 船舶避難の可能性
津波発生後、陸上の人や自動車と比較して、海上の船舶が避難を開始し、避難を完了さ
せるまでに長い時間を必要とする。また、船舶に津波が来襲するまでの時間が短ければ、
二次災害の方が懸念され、むしろ避難しない方が良い場合もあり得る。このような検討を
行うためにまず大阪湾に津波が侵入する時間の推定が必要となる。
i) 津波来襲までの時間猶予
大阪湾の主要海域での水位・流速変化の結果から、各海域における津波第一波来襲時間
を表 6 に示す。地震発生後に最初に現れる緩い引き波は水位・流速変化共に小さいため船
舶への影響は無いと考えられ、その後の強い押し波の方が危険であると考えられるため、
津波第一波来襲時間は押し波が来襲して、水位がピークとなる時刻とした。
この結果から、大阪湾においては地震発生後に津波が来襲するまでにある程度の時間的
猶予が有ることが分る。岸壁に接岸中の大型船が避難を行う場合、出航には一般的に 30
分かかるといわれているが、表 6 の結果と比較すると、準備による遅れを考慮しても、あ
る程度の時間的猶予があることがわかった。
表6
津波第一波来襲時間
Position
Time(min)
Tomogasima channel
54
Akashi straits
90
Kobe port anchorage point
83
Sakai Senboku anchorage point
116
ii) 船員への連絡
船舶の避難を行う場合、実際に操船を行う船員が津波の来襲を知らされなければならな
い。しかし、海上の船員にとって地震は感知しにくいものであるため、津波来襲をすぐに
予測することは困難である。よって、本研究では地震発生後、気象庁の津波予測が発表さ
れ、ポートラジオ等を通じて船舶に伝えられるまでに 10 分かかると仮定した。
e) 避難海域の設定
492
i) 危険である時間の設定
図 28,29,30 が示すように、いずれの場合でも最初は緩やかな引き波が生じているが、こ
れはその程度も小さく船舶への影響はほとんど無いと思われる。一方で、水位上昇の最初
のピーク以降は水位の上昇下降、水平流の増減と方向の変化が継続し、船舶にとって大き
な影響をもたらすと考えられるので、d)-i)節で述べた津波第一波来襲以降を危険な時間で
あるとした。
ii) 避難海域の設定
津波が湾内に来襲してきたとき、船舶の輻輳度が高い領域で津波を受けるより、水深が
十分深く津波の影響度が低くかつ大洋への避航が容易な友ヶ島水道以南か、船舶の交通量
が少なく比較的広い水域で漂泊など津波対応策がとりやすい播磨沖へ明石海峡を通過して
避航することが良いと思われる。そのため、友ヶ島水道以南と播磨沖の大阪湾外海域を第
一の安全水域と考えた。
iii) 湾内での安全水域の設定
船舶は大阪湾の外へ避難することが理想であるが、船舶の速度等の問題から、避難距離
的・時間的に避難不可能な場合も想定される。その場合、大阪湾内で出来るだけ安全な海
域への避難を行わなければならない。
図 25 より、大阪湾、神戸港の港湾内・沿岸付近では 2m/s 以上の高い流速が発生してお
り、航路も狭いため危険であると考えられる。このため、港湾外の沖合への避難が必要で
ある。港湾の沖合の流速は図 25 と図 28~30 より 1m/s 程度である。この程度の流速であれ
ば安全であると考えられるため、本研究では台風避泊でも用いられ錨泊しやすい指定錨地
を利用することを考え、大阪湾内の指定錨地を安全であると仮定し第二の安全水域と考え
た。
f) シミュレーション手法
i) シミュレーションの概要
シミュレーションの目的として、全ての船舶が避難開始点から避難完了点を通過する時
間を調べることとした。そこで、本研究では、シミュレーション手法として、待ち行列シ
ミュレーションを援用した手法を用いた。このシミュレーションの特徴は、単純な「避難
距離÷速度」で得られる様な避難時間と違って、航路の交差部を評価して航路上での混雑
度を評価したシミュレーションが可能となっている。
この待ち行列シミュレーションを用いるにあたって、いくつかの仮定と簡略化を行った。
・避難開始点までの移動時間を 30 分
・船舶は指定された航路において並走・追い越しをせず一列で避難する
・速度は一定で避難
・船長は AIS で解析した湾内船舶の平均船長とする
・閉塞領域は船長の 10 倍とする
・航路合流点では先入船を優先し、後続船は待機する
また津波シミュレーションによる水平流れは大阪湾の中央部では高々0.8m/s 程度であり、
避難時の想定船速よりかなり低く、本研究は避難海域を絞り込むための基礎的な検討であ
ることを勘案し、船舶避難シミュレーションでは刻々の水平流の時間変化を省略して検討
493
を行った。
ii) シミュレーション手法
一つの船は図 31 に示す前方に船長(L)の 8 倍、後方に船長の 2 倍の他船に侵入されない
閉塞領域を持っているとし 2) 、この領域を領域通過時間分だけ占有し、その時間が経過す
ると船は避難先に向けて次の閉塞領域へと移動する。航路が交差する場合では進行方向の
閉塞領域が他船によって占有されている場合はその場でとどまる。
この作業を繰り返すことによって全ての船舶が避難開始点から避難完了点まで通過す
るまでに必要な繰り返し作業数を求めることで全船避難の所要時間を求める。
Ship
2L
8L
図 31
Blockade
2L
8L
船の閉塞領域
iii) シミュレーション手順
1.避難開始点と避難完了点の設定
AIS データの調査から、大阪湾における船舶の位置を求め、避難開始点とする。ま
た、避難先の目標点を避難完了点とする。
2.避難航路の設定
避難開始点と避難完了点とを結ぶ避難航路を図 1 に示す様な AIS データから描かれ
た航跡画を元に、実際に用いられている航路と同じ航路を用いて設定し、航路同士
の交差点も求める。
3.平均速度・平均船長の設定
AIS データより大阪湾における船舶の一般的な航行速度を平均速度とする。また、
大阪湾における船長の平均を平均船長とする。
3.閉塞領域の設定
平均船長から、閉塞領域の大きさを求める。
4.航路のブロック分けと閉塞領域通過時間の設定
避難航路を閉塞領域の長さごとにブロック分けを行う。この時、この領域を通過す
る時間は閉塞領域÷平均船速から求められる。
5.シミュレーション実行
6.避難所要時間の計算
避難所要ステップ数より避難所要時間は 1 閉塞領域通過時間と避難所要ステップ数
の積で求める。
g) シミュレーション結果
本研究では 2005 年 3 月 12 日 12:00 時点での大阪湾内のデータを用いた。AIS データの
調査より、平均船長は 130m、大まかな平均船速は 10knot であった。これより、閉塞領域
は 1300m、通過時間は 4.21min とした。
494
図 32、図 33 に設定した避難航路を示し、それぞれの結果を表 7,8 に示す。以上の結果
より、湾外の第一安全海域の避難は時間的に難しいことが分る。しかし湾内の第二安全海
域への避難であれば、津波第一波来襲前に避難を終えることができることがわかった。
Center of the Kobe
port anchorage point
Center
Start
of
the
Sakai
Senboku
Finish point
図 32
表7
図 33
湾外への避難ルート
表8
湾外へ避難する場合のシミュレー
港近くの錨地への避難ルート
錨地へ避難する場合のシミュレー
ション時間の比較
ション時間の比較
Evacuation
Time of passing
The first tsunami
route
through the channel
Peak time
position
anchorage point
peak time
5h
54min
Kobe port
1h30min
1h40m
3h30min
1h30min
1h50min
2h
1h20min
2h
1h45min
2h
Tomogasima
channel
Akasi straits
Osaka port
area
Tomogasima
channel and
Initial ship Time of arrival at The first tsunami
Sakai
4h
54min
Senboku
Akashi Straits
port area
Hannan port
area
h) 結言
本研究では、大阪湾において、津波来襲時間と避難所要時間との比較を行った。
まず、津波来襲時間としては、友ヶ島水道を通過する時間が地震発生後 54 分で来襲す
ることから、大阪湾内の船舶は約 1 時間の時間的猶予があることがわかった。この結果を
基に避難所要時間のシミュレーションを行ったところ、友ヶ島水道と明石海峡を通過して
湾外の第一安全海域へ避難することは、多くの船舶が避難途中で狭い海域である海峡で津
波の来襲を受ける可能性があることが分った。しかし、第二安全海域である湾内の指定錨
地への避難では多くの船舶が速やかに避難できれば津波来襲前に避難出来る可能性が高い
495
ことも分った。
以上のことから、近くの指定錨地への避難が一つの方法であると考えられる。
今後の課題として、実際の海域ではプレジャーボート・漁船・小型船舶など様々な船舶
が存在する。このような船舶とどのように協調しながら安全に避難するか、あるいは出来
るかなどについてより詳細な検討が必要である。また、津波の流速による航行速度の低下
を考慮していない。このため避難所要時間は更に遅れる可能性がある。よって、津波の流
速も取り込んだシミュレーションも今後行っていく予定である。
一方で避難開始が遅れると、湾内に津波が来襲する時刻と湾外に避難する時刻が合う場
合も考えられる。このような時にはあえて避難しない方がリスクが小さいかもしれないの
で、遭遇する危険度も考慮した分析が必要であろう。
更に、指定錨地での錨泊時には 1m/s 程度の水平流れを受ける場合もある。そのような環
境下では振れ回りが懸念されしかも台風避泊と異なり、一時間ほどの周期で流向が変化す
る。さらに走錨が起こらないかなどについても検討が必要であると考えられる。
また、船舶が友ヶ島水道付近や明石海峡付近を航行していた場合、大阪湾内へと入るこ
となく、湾外への航行を行えばよいと思われる。このような、船舶の位置による避難方法
の違いも発生し、船舶の運動性能の違い等の「条件分け」もしくは「場合分け」を含めた
詳細なシミュレーションを行い、より適切なマニュアルの作成が必要であると考えられる。
5) 堺泉北港における津波来襲時の対応策に関する現状調査
a) 実施内容
堺泉北港に停泊中の船舶が、地震による津波発生時にどのような行動をとるかについて、
以下の二種類のアンケートを実施した。
i) 堺泉北臨海地区にある事業所のうち、危険物を取扱う専用バースを持っている事業所に
対する、地震による津波発生時の対応に関するアンケート
Q 係留中の船舶に、津波情報をどのようにして伝えますか?
Q 地震や津波が発生した場合、係留中の船舶及び陸上からの船舶支援に関するマニュ
アルはありますか?ある場合はその内容、ない場合は
Q 荷役中に、地震や津波が発生した場合、どのような措置を取る予定ですか?
Q 離岸を決定してから、離岸するまでにどれくらいの時間が必要ですか?
ii) 専用バース係留中の船舶の船長に対する、地震による津波発生時の避難に関するアン
ケート
Q 東南海、南海地震が同時に発生した場合、地震発生から 90 分後に堺泉北港へ 2~
3m の津波が来ると予想されています。この状況で、荷役を中断して、離岸し、港
外に避難する場合、その後どのように津波を回避しますか?
①錨地で錨泊する。
②錨地よりもより陸岸から離れた場所で錨泊する。
③播磨灘方向へ逃げる。
④紀伊水道(外洋)方向へ逃げる。
496
⑤大阪湾内でドリフティングする。
⑥その他
b) アンケート回収状況
25
事業所に発送し、そのうち 58%にあたる
20
11 事業所から回答を得た。この内、石油
船舶数
事業所を対象とするアンケートは、19
15
10
類を取り扱う事業所が 6 社、化学薬品を
5
取り扱う事業所が 5 社、液化ガス類を取
0
り扱う事業所が 1 社であり、この中には
100~500
0~100
500~1000
複数種類を取り扱う会社もある。堺泉北
1000~5000
5000~
総トン数
港 で 危 険 物 を 取 り 扱 う 専 用 バ ー ス は 69
図 34
あるが、このうち回答してくれた事業所
アンケートに回答した船長が
のバース数は 41 で、全体の 59%を占める。
乗船していた船舶のトン数
また、これらのバースに係留できる船舶数は、
堺泉北港内の総数 101 隻に対し、アンケートに回答してくれた事業所は 71 隻で、全体の
70%を占める。すなわち本アンケートは、堺泉北港に入港する船舶の 6~7 割程度の船舶
への対応が反映されていると考えられる。
また、船長を対象としたアンケートは事業所を通じて行い、45 人から回答を得た。各船
長が乗船している船舶の総トン数分布を図 34 に示す。ほとんどが 5,000ton 以下の船舶で
あった。
c) 事業所に対するアンケート結果
図 35 に、事業所から係留
中の船舶への津波情報の伝達
6
手段について、手段別の回答
4
数を示す。最も多かったのは
2
口頭で、複数の手段を回答し
5
3
1
0
口
頭
電
た事業所が 4 社あった。また、
話
イン
担当者は決まっているが、連
マ
ル
サ
ット
ン
トラ
ペ
絡手段は不明が 3 事業所あり、
ー
ジ
シー
ング
担
に
バ
ー
て桟
当
者
橋
は
担
決
当
ま
者
って
連
に
い
る
絡
が
連
絡
手
段
は
不
明
不
明
状況に応じて最も適切な方法
図 35
を取るものと思われる。
津波情報の伝達手段
マニュアルの有無については、
6 事業所が準備しており、5 事業者は持っていなかった。マニュアルを持っている事業所
の荷役中止・離桟準備の判断基準は、地震の加速度(40 ガル以上、50 ガル以上、100 ガル
以上 150 ガル未満など)や津波注意報であるのに対し、緊急離桟の判断基準は、基本的に
は津波警報で、これに地震の加速度が組み合わされる場合がある。すなわち、多くの事業
所が地震発生時点で荷役を中止し、離桟準備までを行い、津波警報が出た時点で、緊急離
桟を行うと考えられる。一方、マニュアルがない事業所では、地震や津波が発生したら荷
497
役を停止させ、離桟させると回答しているが、その決定に関して明確な判断基準はない。
9
回答数
回答数
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
8
7
6
5
4
3
2
1
0
10分以内
10~30分
30~60分
不明
10分
以
内
10~
30分
不
明
所要時間
所要時間
図 36
30~
60分
離岸を決定してから離岸するまでに必要な時間
次に、荷役中の船舶が離岸を決定してから離岸するまでに必要な時間について、図 36
に荷役中の船舶(左)と荷役を行っていない船舶(右)に分けて示す。荷役中の船舶は 10~30
分必要な船舶が最も多いが、荷役を行っていない船舶は 10 分以内に離岸可能な船舶が多
く、荷役中の船舶に比べ離岸に必要な時間が短い。また荷役中であるかないかに関わらず、
離岸を決定してから離岸するまでに 30~60 分必要な船舶がある。これは離岸にタグボー
トが必要な船舶で、離岸の条件として荷役の中止よりもタグボートの到着が影響すること
を表している。
d) 船長に対するアンケート結果
果を示す。港を出向後、大阪湾内でドリ
隻数
図 37 に、船長に対するアンケート結
フティングして津波を回避するとの回答
が最も多く、錨地で錨泊すると回答した
30
25
20
15
10
5
0
①
船長はいなかった。これは、波に船首を
②
③
④
⑤
⑥
立てて波を乗り越えるようにして避航す
る一般的な操船に従っているものと考えられる。
図 37
船長アンケート結果
e) ハザード・チャートの評価
前年度に作成したハザード・チャートは、地震が起こってから船舶が離岸するまでの所
要時間や、避難場所までの所要時間など、時間に関しては考慮されていなかった。そこで
今回のアンケート結果を基に、昨年作成したハザード・チャートの避難海域分けが適切で
あるかを評価した。
ハザード・チャートに設定されている堺泉北港から避泊海域までの距離は、一般商船は
8mile、危険物積載船・大型船は 6mile である。避難船舶の船速は 15knot と仮定する。ア
ンケートの回答から、離岸を決定してから離岸するまでに必要な時間を、最も時間がかか
る場合を使用し、一般商船は 30 分、危険物積載船・大型船は 60 分とすると、一般商船は
498
離岸決定から避泊海域まで 62 分、危険物積載船・大型船は 84 分必要である。堺泉北港へ
の津波第一波のピークが到達する予想時間は地震発生後約 90 分後であるので、一般商船
については離岸決定がスムーズに行われれば、ハザード・チャートに指定されている避泊
海域へ津波第一波のピークが到達するまでに到着できると考えられる。一方、危険物積載
船・大型船については、離岸決定がスムーズに行われなければ、津波第一波のピークが到
達するまでに避泊海域に到着することが難しく、避泊場所を再考する必要があると言える。
6) 製油所における想定津波波高
石油コンビナートに津波が襲来し石油タンクが破壊されれば、石油の流出あるいは火災
が発生して甚大な二次災害が起きる恐れがある。太平洋および瀬戸内海沿岸にある 25 箇
所の製油所について、それらの住所と、中央防災会議が公表している東海・東南海・南海
地震における想定津波波高の図表データを照合して、各製油所での想定津波波高を求めた。
図 38 に満潮位時の場合の結果を示す。
8
7
想定津波波高(m)
6
5
4
3
2
1
コ
鹿
島
石
ス 油・
極 モ 石 鹿島
東
石 油・ 製油
千
油
葉 所
工
出 業・ 製油
光
千
興
葉 所
富
産
製
東 士石 ・千 油所
燃
葉
油
ゼ
製
ネ ・袖
ヶ浦 油所
ラ
ル
製
石
東 油・ 油所
川
亜
東 石油 崎工
亜
場
・
新 石油 川崎
日
工
・
本
京
場
新 石油 浜製
日
本 ・ 横 油所
石
浜
出 油・ 製油
光
根
コ
興
岸 所
ス
昭
産
製
和 モ 石 ・愛 油
四
所
日 油・ 知製
四
市
油
日
石
油
市 所
東
東 ・四 製油
燃
日
邦
ゼ
市 所
ネ 石油
製
ラ
ル ・尾 油所
石
東
鷲
油
燃
製
・和 油
ゼ
ネ
歌 所
ラ
山
ル
コ
工
石
ス
場
油
新 モ石 ・ 堺
日
本 油・ 工場
新 石油 堺製
日
ジ
本 ・ 大 油所
ャ
パ
石
阪
ン
エ 油・ 製油
新 ナジ 水島 所
日
本 ー・ 製油
水
石
島 所
油
出 ・麻 製油
里
光
布 所
興
西 産・ 製油
徳
部
山 所
石
コ
製
ス 油・
モ
山 油所
石
口
太 油・ 製油
坂
陽
出 所
石
九 油・ 製油
州
四
石
国 所
油
事
・大 業
分 所
製
油
所
0
製油所
図 38 各製油所における想定津波波高(満潮位時)
次に、国土交通省河川局海岸室が公表しているデータから、製油所が所在する市町村で、
海岸堤防・護岸が一部でも想定津波波高より低い箇所を選び出した。該当する製油所は、
東燃ゼネラル石油・和歌山工場、東邦石油・尾鷲製油所、新日本石油・麻里布製油所、新
日本石油・水島製油所、ジャパンエナジー・水島製油所、出光興産・徳山製油所、太陽石
油・四国事業所、コスモ石油・坂出製油所、出光興産・愛知製油所、鹿島石油・鹿島製油
所の 10 箇所であった。
(c) 結論ならびに今後の課題
大規模災害発生時における海上からの支援については、ボランティア船による支援ネ
ットワークの運営主体となるべき NPO の設立を検討したが、いくつかの問題があるこ
とが分かり、当面は研究会形式で活動を継続することとした。Web 上で支援ネットワー
499
クに関する情報を提供するために、地理情報システム(GIS)を用いた災害地支援地図情報
ステーションの構築に着手した。また、ケーススタディとして、高知が被災したと想定
し、当支援ネットワークの活動可能性、有用性を調べるために現地調査を行った。今後
は、問題点を解決して NPO を設立し、本格的な活動を開始することが求められている。
津波襲来時の港湾災害軽減化に関する研究では、津波が係留船舶や錨泊船舶の挙動
に及ぼす影響をシミュレーション計算により調べた。その結果、錨泊船舶は振れ回り
現象の他に 回転現象も 見られた。船舶の港外避難については、大阪湾内にいる船舶が湾
外もしくは指定錨地に避難するのに要する時間をシミュレーションによって求め、その
時間と津波の第一波が到達する時間を比較した結果、湾外への全船避難は不可能である
が、指定錨地への避難なら間に合うことが判明した。また、堺泉北港を対象に、停泊中
の船舶が津波来襲時にどのような行動をとるかについてアンケート調査を実施した。今
後の課題としては、シミュレーションの精度を高めるとともに、これまでの研究で得ら
れた知見を基に、より実効性のある港湾災害軽減化策を作成することが必要である。
(d) 引用文献
1) Imamura, F. : Review of Tsunami Simulation with a Finite Difference Method, Long-Wave
Run-up Models, World Scientific, River Edge, NJ, 1996, pp.43-87
2) 小林英一,越村俊一,久保雅義,津波による船舶漂流に関する基礎研究,関西造船協会論文
集 第 243 号,平成 17 年 3 月,pp.44-56
3) 小林英一,久保雅義,鈴木三郎,越村俊一,津波による船舶の漂流とその対策に関する基礎
研究,日本航海学会論文集 第 114 号,平成 18 年 3 月,pp.157-163
(e) 成果の論文発表・口頭発表等
著者
題名
小林英一、
津波による船舶の漂流とそ
久保雅義、
の対策に関する基礎研究
発表先
発表年月日
日本航海学会論文集 第 114 号
平成 18 年
3月
鈴木三郎、
越村俊一
R.Ikeda,
Supporting Network of
International Disaster
K.Ishida
Volunteer Ships from Sea at Reduction Conference Davos
平成 18 年
8月
Disaster
2006
「大都市大災害軽減化プロ
日本航海学会誌 NAVIGATION 平成 18 年
久保雅義、
ジェクト」における海の視点
第 165 号
大辻友雄、
からの災害対応研究
林
美鶴、
小林英一、
石田憲治
(f) 特許出願、ソフトウエア開発、仕様・標準等の策定
なし
500
12 月
Fly UP