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米国連邦政府における安全保障目的を中心とした IT に係る取り組み

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米国連邦政府における安全保障目的を中心とした IT に係る取り組み
ニューヨークだより 2008 年 12 月
「米国連邦政府における安全保障目的を中心とした IT に係る取り組み」
市川類@JETRO/IPA NY
1.はじめに
米国においては、民間企業、消費者による IT 投資や消費だけでなく、連邦政府
における IT 関連予算の金額は、非常に大きな割合を占める。その中でも、特に、
国防、国土安全保障などの安全保障関連に係る多額の IT 関連予算は、米国の特徴
とも言え、また、この安全保障関連の予算は、9/11 以降、ブッシュ政権下の下で、
急増してきている。
このような中、米国連邦政府の IT 関連の予算に関し、世界最大規模の IT 利用組
織として国防総省(DOD)は、その IT 予算の戦略的なマネジメントに取り組むと
ともに、国土安全保障の強化の流れにおいて、国土安全保障省(DHS)その他の
省庁は、テロリスト対策の観点からの、人や物に対する IT による管理の強化を図
ってきている。
また、これらの連邦政府による IT 予算は、その多くが DC 周辺に立地する特定
の国防系 IT 企業を中心に外部委託されている。このため、DC 周辺においては、
IT 関連の企業が多く立地し、周辺産業も含めて一大産業として集積されている。
本報告においては、このような問題意識の下、連邦政府における安全保障関連
の予算に関して、国防総省の IT 戦略に係る取り組み、国土安全保障の観点からの
IT による外国人等の管理を中心にとりまとめるとともに、それらの予算が、米国
の国防系 IT 企業、ワシントン DC への地域産業へ及ぼす影響等について報告する。
2.連邦政府の IT 予算と安全保障の位置づけ
(1)米国連邦政府の IT 予算の動向
<米国連邦政府の予算全体の配分>
米国の連邦政府予算の特徴は、その大半が安全保障のために配分されているこ
とが特徴である。
具体的には、2009 年度の大統領予算要求額1のうち、各省庁に割り当てられる裁
量的支出2は合計 9,876 億ドルであるが、これらのうち、安全保障(Security)関
1
http://www.gpoaccess.gov/usbudget/fy09/pdf/budget/tables.pdf
なお、2009 年度の予算は、2008 年 10 月 1 日から始まるが、各省庁別の裁量予算に関しては、現時点で
は、必ずしもまだ議会を通過していない。
-1-
ニューヨークだより 2008 年 12 月
連3の金額は 5,945 億ドルであり、非安全保障関連の金額の 3,930 億ドルを大幅に
超え、全体の約 6 割を占める4。この安全保障関連予算のうち、国防総省(DOD)
が占める額は 5,154 億ドル(52%)となっており、それに加えて、各省の国土安
全保障(Homeland Security)関連予算5が総額 663 億ドルとなっている。この国
土安全保障関連予算のうち、国土安全保障省(DHS)が 328 億ドル6、次いで
DOD が 176 億ドルと、その大半を占めている7。
なお、非安全保障関連の省庁では、健康福祉省(HHS)の 704 億ドル(7%)が
最も多く、次いで教育省(DoEd)の 592 億ドル(6%)となっている8。
<米国連邦政府の IT 関連予算の配分>
この 2009 年度裁量的予算の要求額(9,876 億ドル)のうち、IT 関係予算は 707
億ドルであり、全体の予算要求額の 7%強を占める。(なお、これらの IT 関係予
算のうち、IT セキュリティに係る予算は約 1 割を占める。)
この連邦政府の IT 関連予算の金額は、米国の民間企業の IT 投資額が、2,507 億
ドル(2006 年)9であることを考慮すると、米国全体の IT 投資のうち、連邦政府
の占める割合は、2 割以上を占めることになり、米国における IT の最大の需要産
業であると位置づけられる。更に、州政府、地方政府による IT 投資を含めれば、
政府全体としては更に大きな割合を占めるものと推測される。
この連邦政府の IT 関係予算のうち、各省庁別の割合をみると、対予算要求額に
対する IT 関連予算の割合は、省庁によってばらつきがあり、また、国防総省
(DOD)が他省庁と比べて IT 関係の予算の割合が大きい訳では必ずしもない10。
しかしながら、結果的には、予算の全体額の多い国防総省(DOD)が 47%を占め、
2
なお、2009 年度は、連邦政府の歳入として 2 兆 7,000 億ドル、歳出としては 3 兆 1,070 億ドルが大統
領によって要求されている。このうち、義務的支出(社会保障、メディケア、メディケイドなど、過去の法律に
おいて支出額が自動的に定められており、議会の承認を必要としないもの)は 1 兆 6,360 億ドル、その他
(利子等)は 2,600 億ドル。
3
具体的には、DOD の予算、国土安全保障に係る各省の予算、及び、国際的活動の合計。
4
http://www.gpoaccess.gov/usbudget/fy09/pdf/budget/tables.pdf
5
国土安全保障に関しては、2002 年国土安全保障法(Homeland Security Act of 2002)により、毎年、
各省庁の裁量的支出額内における国土安全保障関連の予算の分析を行う事が義務付けられている。(な
お、分析対象は、連邦政府だけでなく、州政府や地方政府による国土安全保障予算も含む。)
6
なお、DHS 全体の予算要求額は 376 億ドル。
7
その他に、健康福祉省(HHS:45 億ドル)、司法省(DOJ:38 億ドル)、国務省(25 億ドル)、エネルギー省
(DOE:19 億ドル)を加えた 6 省庁で全体の 95%を占める。
http://www.whitehouse.gov/omb/budget/fy2009/pdf/spec.pdf
予算の詳細は以下のウェブサイトを参照:
http://www.whitehouse.gov/omb/budget/fy2009/pdf/ap_cd_rom/homeland.pdf
8
http://www.whitehouse.gov/omb/budget/fy2009/summarytables.html
9
http://www.census.gov/csd/ict/xls/2006/Full%20Report.htm
10
具体的には、商務省、財務省、運輸省などが、予算要求額における IT 関連予算の割合が多い。
-2-
ニューヨークだより 2008 年 12 月
それに、安全保障に関連する国土安全保障省(DHS:8%)、司法省(DOJ:
4%)を加えると、全体の約 6 割を占めている。なお、民生関連省庁で IT 関係予
算が多いのは、健康福祉省(HHS)であり、全体の 8%を占める。
連邦政府各省庁別の IT 予算の配分11
国防総省(DOD)
健康福祉省(HHS)
国土安全保障省(DHS)
財務省(Treasury)
運輸省(DOT)
司法省(DOJ)
退役軍人省(Veteran)
農務省(DOA)
商務省(DOC)
エネルギー省(DOE)
NASA
その他
(うち NSF)
合計
予算
2008
2009
479.5
515.4
71.9
70.4
34.9
37.6
12.0
12.5
15.5
11.5
22.7
20.3
39.4
44.8
21.8
20.8
6.9
8.2
23.9
25.0
17.1
17.6
195.8
203.5
6.0
6.9
941.4
987.6
2008
32084
5514
5312
2933
2765
2601
2151
2395
1816
2023
1969
6557
62
68121
IT 予算
2009
33032 (6.4%)
5681 (8.1%)
5317(14.1%)
3061(24.5%)
2981(25.9%)
2750(13.5%)
2534 (5.7%)
2429(11.7%)
2295(28.0%)
2038 (8.2%)
1874(10.6%)
6724 (2.9%)
63 (0.9%)
70716 (7.2%)
IT セキュリティ
4029(12.2%)
231 (4.0%)
404 (7.5%)
229 (7.4%)
765(25.7%)
223 (8.3%)
119 (4.7%)
113 (4.7%)
173 (7.7%)
248(12.1%)
111 (5.9%)
633 (9.4%)
5 (5.7%)
7278(10.3%)
研究開発予算
NITRD
2009
81067 1237
29973
554
992
Q
902
Q
884
1955
1152
90
10519
495
12780
71
7519
5175 1090
147743 3548
<米国連邦政府の IT 関連予算の内容>
ただし、この各省庁の IT 関係の予算は、その全てが、当該省庁におけるミッシ
ョン達成のためのフロントエンドのために使用されている訳ではない。各省庁に
おける IT インフラの管理や人事/財務管理などのバックエンドにも多く使用され、
また、開発投資だけではなく、運営維持に係る費用にも多く充当されている。
実際に IT 予算を分類別にみると、フロントエンド(「市民に対するサービス」
等)に使用されている金額と、バックエンド(「政府資源に係るマネジメント」
に使用されている金額は、約半々であり、特に後者については、運営維持費用に
多くの予算をかけている。このため、国防・安全保障や国土安全保障を直接目的
とする IT 関連予算は、全体の 2 割程度となっている。
11
出典:予算は OMB 資料、IT 予算は OMB(E-Gov)資料(2009 年の括弧内は、予算全体に対する割合、
IT セキュリティの括弧内は、IT 予算に対する割合)、研究開発予算は AAAS 資料(Q 部分は、金額が小さ
いために記載がなかった部分。その分は、その他に計上。)、NITRD(IT 関係の研究開発プログラム)予算
は、NITRD 資料より(参加機関の金額を足し上げ)。
単位は、予算全体は 10 億ドル、それ以外は、100 万ドル。2009 年は、2009 年度大統領予算要求額。
http://www.whitehouse.gov/omb/budget/fy2009/pdf/budget/tables.pdf
http://www.whitehouse.gov/omb/egov/documents/FY09_IT_Budget_Rollout.pdf
http://www.aaas.org/spp/rd/upd908tb.htm
http://www.nitrd.gov/pubs/2009supplement/index.htm
-3-
ニューヨークだより 2008 年 12 月
連邦政府の IT 投資の内訳(2009 年度要求額)12
内容
市民に対するサービス
国防・安全保障
IT 投資
29,678
42%
11,594
16%
6,292
1,663
3,668
5,398
8%
2,990
1,570
529
3,128
4%
2,214
753
2,551
4%
2,097
417
1,188
2%
1,132
960
1%
852
108
860
1%
752
834
1%
306
389
3,165
4%
2,986
4%
33,446
47%
25,894
37%
11,893
9,835
3,248
2,605
4%
1,637
512
2,448
3%
1,590
2%
910
1%
4,605
7%
2,149
3%
1,506
2%
950
1%
70,716 100%
・Strategic National and Theater Defense
・Operational Defense
・Tactical Defense
健康
・Health Care Administration
・Health Care Delivery Services
・Population Health Mgt and Consumer Safety
運輸
・Air Transportation
・Space Operations
国土安全保障
・Border and Transportation Security
・Key Asset and Critical Infrastructure
コミュニティ・社会サービス
・Social Services
一般科学と技術革新
・Scientific & Technological Research & Innovation
・Space Exploration and Innovation
環境管理
・Environmental Monitoring and Forecasting
法執行
・Criminal Investigation and Surveillance
・Citizen Protection
その他
市民に対するサービスに係る支援業務
政府資源に係るマネジメント
情報技術マネジメント
・IT infrastructure Maintenance
・Information Management
・Information Systems Security
サプライチェーンマネジメント
・Logistics Management
・Goods Acquisition
財務管理
人材管理
総務管理
サービスタイプと部分
プロセスマネジメント
開発と統合
その他
合計
12
開発更新
12,107
6,004
1,700
856
3,448
1,404
602
402
326
1,619
1,450
128
1,186
973
187
18
6
285
241
43
245
211
356
121
210
990
1,204
7,666
4,906
1,161
1,431
1,870
1,182
672
269
774
387
417
679
231
133
315
21,657
運営維持
17,571
5,590
4,593
778
220
3,994
2,338
1,168
203
1,509
765
625
1,365
1,124
230
1,171
1,126
675
611
64
616
541
477
185
188
2,174
1,782
25,780
20,988
10,732
8,403
1,378
1,422
965
243
1,674
1,203
493
3,926
1,919
1,373
634
49,060
出典:E-Gov の HP(VUE-IT: Visualization to Understand Expenditures in Information Technology)
より作成。単位:百万ドル。
http://www.whitehouse.gov/omb/egov/vue-it/index.html#path5/path5.json|path2/path2.json
-4-
ニューヨークだより 2008 年 12 月
(2)米国における安全保障と IT の役割
①米国における安全保障政策を巡る近年の動き
<安全保障政策を巡る動向>
米国では、2001 年 9 月の同時多発テロ以来、ブッシュ政権下で、国家安全保障
に向けた取り組みを強化してきている。
実際に、米国の軍事出費は、従来から増加傾向にあったが、2001 年以降はその
増加率が急激に上昇しており、この 8 年間で、金額は絶対額で 2 倍以上、対 GDP
比も 1 ポイント以上上昇している。これは、2001 年以降、同時多発テロを受けて
年間の国防費が増加し、アフガニスタン及びイラク戦争によって緊急財政支出が
なされためである(ただし、今後、この傾向が新政権下で続くかは不明である)13。
米国による軍事出費の変化と対 GDP 率(1998~2007 年)14
年
金額
対 GDP 比率
1998
274
3.1%
1999
281
3%
2000
302
3.1%
2001
313
3.1%
2002
357
3.4%
2003
415
3.8%
2004
465
4%
2005
503
4%
2006
528
4%
2007
578
N/A
また、それらの基となる安全保障に係る政策としては、ホワイトハウスは、
2002~2003 年にかけ、「国土安全保障戦略(National Strategy for Homeland
Security15)」、「安全保障戦略(National Security Strategy16)」、「テロと戦う
ための国家戦略(National Strategy for Combating Terrorism17)」という 3 つの報
告書を発表している18。
13
Boston Globe, “Pentagon board says cuts essential Tells Obama to slash large weapons
th
programs,” Nov 10 2008, obtained via Nexis.
同記事によると、ペンタゴンの諮問グループは次期大統領選出のオバマ氏に対し、この防衛費は将来的に
持続可能な金額ではなく、削減すべきだと忠告したとの事である。
14
出典:ストックホルム国際平和研究所データベース(金額の単位は、10 億ドル)
http://milexdata.sipri.org/result.php4
同研究所は、スウェーデン議会によって 1966 年に設立された、独立研究機関である。
15
http://www.whitehouse.gov/homeland/book/nat_strat_hls.pdf
16
http://www.whitehouse.gov/nsc/nss/2002/nss.pdf
17
http://www.whitehouse.gov/news/releases/2003/02/counter_terrorism/counter_terrorism_strategy.
pdf
18
なお、これらの報告に関し、米国国務省(Department of State)のテロ対策調整室(Office of the
Coordinator for Counterterrorism)は、「安全保障戦略」と「テロと戦うための国家戦略」を中核として、各
種テロ対策を実行している。
http://www.state.gov/s/ct/
また、その他、2006 年 9 月には、「9/11 から 5 年-過去 5 年の成果と今後の課題(9/11 Five Years
Later: Successes and Challenges )」を発行し、テロとの戦いへの勝利と、米国の安全の確立に向けて米
国が過去 5 年間に行ってきた取り組みを挙げ、今後の課題を指摘している。
-5-
ニューヨークだより 2008 年 12 月
米国ホワイトハウスによる国家安全保障に係る政策文書
タイトル
国土安全保障戦
略(National
Strategy for
Homeland
19
Security )
発行日
(改訂版)
2002 年 7 月
(2007 年 10
月)
安全保障戦略
(National
Security
20
Strategy )
2002 年 9 月
(2006 年 3
月)
テロと戦うため
の国家戦略
(National
Strategy for
Combating
21
Terrorism )
2003 年 2 月
概要
対テロ対策の大きな柱の 1 つとしての国土安全保障に関する
戦略のアップデート。米国が直面する脅威として、①テロリ
ズム、②自然災害、③工業災害やインフラの不備による事故
やその他の危険、の 3 点を特定、これらの問題の予防・解決
に向けて行うべき具体的な行動戦略を発表。(2007 年版:そ
の他詳細は後述)
米国における安全保障を確立するための最善の方法は、民主
主義の国際的な普及であると特定し、①人間の尊厳の擁護、
②対テロ同盟の強化、③地域紛争の終結に向けた協力体制の
構築、④敵による、大量破壊兵器の使用の脅威の予防、⑤自
由市場と自由貿易の促進、⑥開かれた社会と民主主義の基盤
構築を通した、経済開発や責任ある政府、個人の自由の促
進、⑦国際社会による協調行動促進に向けたアジェンダの開
発、⑧米国の安全保障機関を、21 世紀特有の問題や機会への
対応が可能な体制に改善、⑨グローバリゼーションの機会と
問題への取り組み、の 9 つの目標を設定し、これらの目標達
成に向けたこれまでの取り組みと今後の課題を特定。(2006
年版)
テロの根絶に焦点を当て、現代のテロリズムの構造について
解説するほか、テロとの戦いに勝利するために必要な 4 つの
目標(①テロリスト及びテロ組織の壊滅、②テロリスに対す
る支援の否認、③テロリストが利用しうる、テロ発生条件の
削減、④米国内外での米国民の保護)と、目標達成のために
米国が取るべき行動を提唱。
<国土安全保障戦略を巡る動向>
上記の米国における国家安全保障に関する政策を見ると、テロとの戦いでの勝
利から民主主義に基づいた世界平和の構築に至るまで、その目的・目標は非常に
多岐に渡るが、これらの取り組みの中でも、米国が最も力を入れて取り組んでい
る事項の 1 つとして、国土安全保障の確立が挙げられる。
もともと、安全保障(National Security)とは、必ずしも定義が明確にされてい
る概念ではないが、伝統的には、ある集団・主体(国家など)にとって、外部
(外国など)からの何らかの脅威が及ばぬように何らかの手段を構築し、防衛す
19
http://www.whitehouse.gov/homeland/book/nat_strat_hls.pdf (2002 年版)
http://www.whitehouse.gov/infocus/homeland/nshs/NSHS.pdf (2007 年版)
20
http://www.whitehouse.gov/nsc/nss/2002/nss.pdf (2002 年版)
http://www.whitehouse.gov/nsc/nss/2006/nss2006.pdf (2006 年版)
21
http://www.whitehouse.gov/news/releases/2003/02/counter_terrorism/counter_terrorism_strategy.
pdf
-6-
ニューヨークだより 2008 年 12 月
ることを指す。このような中、従来は、安全保障は、国外と国内に分けられ、外
国からの攻撃を防衛する国防機能(米国では、国防は DOD、海外の諜報は CIA が
担当)と、国内での犯罪に対する警察機能(米国では、連邦レベルでは司法省・
FBI が担当)が中心であった。
そのような中で、今後の脅威が、単に外国の軍隊や核兵器攻撃ではなく、テロ
による国内での攻撃が対象となってきたことから、テロリストによる国内での活
動を防止するべく、入国管理の強化と、国内の重要施設の防御、事故復旧対応等
が課題となってきたものと解釈される。
実際に、2002 年 7 月に発表された「国土安全保障戦略」では、米国における国
土安全保障とは、「米国内におけるテロ攻撃の予防、テロ攻撃に対する米国の脆
弱性の軽減、攻撃を受けた際の被害の最小化と早急な回復を目的とし、米国全体
が一丸となって行う取り組み」と定義付けられ22、それを踏まえて、2002 年 11 月
に、国土安全保障省(Department of Homeland Security:DHS)が設立された。
同省においては、入国管理など国境での水際措置を担うとともに、空港管理や重
要施設の安全体制のとりまとめ等を担うことにより、国土安全にむけた取り組み
を強化している23。なお、2007 年 10 月に改定された国土安全保障戦略においても、
以下の通り、①テロリストによる攻撃の予防、阻止(入国管理の強化等)、②国
内インフラ等の保護(重要インフラ、サイバーセキュリティ等)、③事故・事件
対応、早期復旧等を柱として挙げている。
国土安全保障戦略(2007 年度版)における戦略の概要24
戦略の種類
①テロリストに
よる攻撃の予
防・阻止
•
•
•
②国民、インフ
ラ、資源の保護
•
•
•
概要
テロリストによる大量破壊兵器の使用の予防を目的とした情報収集
テロリストやテロ関連の武器などの入国の阻止
国境警備及び国内警備の強化(国境警備隊員の増員やトレーニングの徹底、不
法就労の防止、留学生のステータス管理など)
人物のスクリーニング(Real ID Act、US-VISIT プログラムなど)
貨物のスクリーニング(コンテナーセキュリティ・イニシアチブなど)
テロリストによるテロ活動の阻止
犯罪に関するデータ収集、分析、情報共有などを行う、Intelligence-Led
Policing(ILP)アプローチの活用など
米国内のイスラム教徒の過激化・暴力化の阻止
テロの脅威の軽減
米国の脆弱性の軽減
17 の重要インフラ及び主要資源を特定
サイバーセキュリティの確立
22
http://www.whitehouse.gov/homeland/book/nat_strat_hls.pdf
なお、その背景として、2002 年度版「国土安全保障戦略」の中でブッシュ大統領は、米国にはこれまで、
国土安全保障に関する包括的な戦略が存在しなかった点を指摘、しかし現在の米国は、将来常に起こりう
るテロ攻撃の危険にさらされており、このような米国の脆弱性を補うことと、米国の国土安全保障の確立は
密接に結びついているとし、その重要性を強調している。
http://www.whitehouse.gov/homeland/book/nat_strat_hls.pdf
24
出典:2007 年版「国土安全保障戦略」を元に作成。
23
-7-
ニューヨークだより 2008 年 12 月
③事故・事件へ
の対応と早期復
旧
④長期的な成功
の確立
•
•
•
テロや災害による影響の最小化
事故管理と、事故への対応策の構築
事件・事故への効果的な国家的対策の強化
•
•
•
•
•
•
リスク情報に基づいた取り組みの枠組みの構築
緊急事態に備える風潮(Culture of Preparedness)の構築
国土安全マネジメントシステム(Homeland Security Management System)の構築
事故管理システムの維持・強化
科学技術の利用、研究開発の促進
外交、情報、軍備、経済など様々な手段の駆使
②安全保障、国土安全保障における IT と IT セキュリティ
このような安全保障あるいは国土安全保障において、IT 関係の関わりとしては、
二つの側面がある。
一つは、安全保障を目的とした IT システムの構築である。(「安全保障目的の
IT システム」。)安全保障に限らず、あるミッションを達成するためには、必要
な情報を収集、分析し、それに基づいて、対応・行動を行うことが必要であり、
そのために IT は重要な役割を果たす。
・ 国防関連では、外国等での戦闘等に必要な情報の収集、意思決定、指揮系統シ
ステムなどの一連防衛システムの構築にあたっては、IT システムが不可欠とな
る。また、国内での犯罪防止・対応にあたっても、犯罪者等に係るデータベー
スや各種の情報システムが重要になる。
・ 国土安全保障の観点から見た場合、特に、入国者等の管理において、個別人物
を特定、データベース化し、テロリスト等の特定を行うための IT システムの
構築が不可欠となる。これらは、国内のデータベースとの連携が行われること
になる。
もう一つは、重要な IT システムの攻撃に対する対応である。(いわゆる「IT セ
キュリティ」)。特に、IT システムが社会において、必要不可欠なインフラとな
り、これらが海外のテロリストや国内の犯罪者の標的となる可能性が高まりつつ
ある中、国土安全保障の一環として重要になりつつある。
・ この中で、重要施設の IT セキュリティ対策等については、2003 年に改定され
た大統領令25に基づく対応の一環として、DHS のとりまとめのもと、各所管省
庁が、関連業界等と連携しつつ、実施することになっている。
・ なお、連邦政府の IT セキュリティについては、2002 年連邦情報セキュリティ
マネジメント法(FISMA)により、各省庁が、国立標準技術研究所(NIST)
が作成したガイドライン等に基づき、対策をとることが義務付けられている。
25
HSPD-7 for Critical Infrastructure Identification, Prioritization, and Protection
-8-
ニューヨークだより 2008 年 12 月
なお、一般的に、IT セキュリティと言った場合には、上記以外にも民間企業等
における IT セキュリティもあり、また、IT セキュリティの範囲も、多義的な意味
合いを有する。
次章においては、この中で、主として、前者の、米国連邦政府における安全保
障を目的とした IT システムの構築に係る取組について紹介する。具体的には、特
に、DOD における IT 戦略の取り組みとともに、国土安全保障の観点からの DHS、
FBI、CIA などの各省庁における IT を活用した取り組みについて紹介する。
3.米国政府による IT を活用した安全保障に向けた取り組み
(1)国防総省(DOD)における IT に係る取組
<国防総省(DOD)の概要と IT 予算の配分>
国防総省(DOD)は、米国の国防の確保や戦争の防止に向けた、米軍の派遣を
管轄する連邦機関であり、その中核をなす組織は、陸軍(Army)、海軍(Navy。
海兵隊(Marin Corp)を含む)、空軍(Air Force)である26。また、これら組織の
ほか、地域別に編成された統合軍(Unified Combatant Commands)に加え、官房
である Office of Secretary of the Defense(OSD)の基に、15 の防衛各庁
(Defense Agencies)、7 のフィールド・アクティビティ(Field Activities)など
による活動も行われている27。
この DOD における IT 関係予算は 330 億ドル(2009 年度要求額)であり、世界
最大規模 IT 投資企業であると言える。その組織別の配分状況をみると、中核組織
である、陸軍、海軍(海兵隊を含む)、空軍の合計で 218 億ドルと大きな割合を
占めるが、DOD の横割部門である防衛各庁(Defense Agencies)等においても、
112 億ドルの予算が要求されている
この DOD 防衛各庁の中で、IT 関連予算が多いのは、国防情報システム局
(Defense Information Systems Agency:DISA)と、国家安全保障局(National
Security Agency:NSA)である。
DISA28は、世界規模でのネット中心(Net-Centric)のソリューション・システ
ムの構築やサポートなどをミッションとし、DOD や大統領などの政府高官に対し、
グローバル指揮・統制システム(Global Command & Control System- Joint:
GCCS-J)、グローバル先頭支援システム(Global Combat Support System:
26
http://www.defenselink.mil/odam/omp/pubs/GuideBook/DoD.htm#Department%20of%20Defense
組織図については、以下を参照。
http://www.defenselink.mil/odam/omp/pubs/GuideBook/Pdf/DoD.PDF
28
http://www.disa.mil/
27
-9-
ニューヨークだより 2008 年 12 月
GCSS)、多国間情報共有システム(Multinational Information Sharing:MNIS)
などのシステムを提供している。
NSA29は、具体的には、米国の情報インフラの保護を目的とした情報アシュア
ランス(Information Assurance)と、外国からの各種信号情報の収集・分析
(Signals Intelligence:SIGINT)を主要ミッションとする米国の暗号解析機関で
あり、メリーランド州の Fort Meade に本部を置く。
国防総省(DOD)の IT 投資30
組織
海軍(Navy)
陸軍(Army)
空軍(Air Force)
国防各庁(Defense Agencies)等
Defense Information System Agencies (DISA)
TRICARE Management Agency
National Security Agency (NSA)
Defense Logistics Agency (DLA)
Office of Secretary of Defense (OSD)
US Transportation Command
Defense Finance & Accounting Services
31
その他
合計
2008
7,080
7,771
6,863
10,368
4,449
1,442
827
736
405
398
378
1,733
32,084
2009
7,028
7,744
7,004
11,256
4,905
1,493
972
687
444
396
362
1,997
33,032
<DOD の IT 戦略と体制>
DOD では、今後の防衛の変革(Transformation)に対応すべく、6 つの運用上
のゴール32を掲げているが、そのうち 2 つが IT 関係である。また、この変革への
対応にあたっては、IT が重要な役割を果たすとしており、そのためには、ネット
中心の運用(Net-Centric Operation)の能力向上を図ることが鍵であるとしている。
このような認識の下、同省では、同組織の CIO(Assistant Secretary of Defense
for Networks and Information Integration が兼任)のもとで、IT のマネジメントに
取り組んでおり、具体的には、①ネット中心のデータ戦略(Net-Centric Data
29
http://www.nsa.gov/home_html.cfm
出典:DOD Exhibit 300 資料 (予算の詳細は、同資料を参照のこと。)
https://snap.pae.osd.mil/snapit/BudgetDocs2009.aspx
31
なお、研究開発で有名な DARPA の IT 投資は、72 百万ドル(2009 年)と、相対的に少ない。
32
具体的には、以下の 6 項目。
・Protect critical bases and defeat chemical, biological, radiological, and nuclear weapons
・Project and sustain forces in anti-access environment
・Deny enemies sanctuary
・Leverage information technology
・Assure information systems and conduct information operations
・Enhance space capabilities
30
- 10 -
ニューヨークだより 2008 年 12 月
Strategy)33、②SOA(Enterprise Service Oriented Architecture)34、③全体の情
報アシュアランス(End to End Information Assurance)35を遂行している。
DOD の IT 戦略36
このような認識 の下で、DOD の IT の推進体制としては、ミッションに直結し
た 3 分野と基盤に係る分野に分けて運営されている。
・ 戦闘ミッション分野(Warfighting Mission Area:WMA)は、Joint Chief of
Staff(CJCS)の議長のもとで、DOD の IT 投資のポートフォリオをマネジメ
ントしている。その中でも、2006 年に発表された Joint Command, Control,
Communication, and Computer (C4) System Campaign Plan に基づき、マネー
ジをするとともに、ネット中心(Net-Centric)によるデータ共有も推進してい
る。具体的には、①Net-Centric、②Command & Control、③Battle Awareness、
33
データの操作に関して、予め定められたアプリケーションに基づくのではなく、容易に探し出し、利用でき
るようにするため、関心あるグループ(Communities of Interest)がタグのつけられた情報コンテンツのデ
ー等を共有することができるようにすることを目的とする。User Defined Operating Pictures(UDOPs)を
利用。
34
E-SOA は、オープン、かつ、アウトプットにフォーカスした、システムや場所に依存しないアーキテクチャ
ーである。また、その一環として、全体の(end to end)の Global Information Grid(GIG)によるモニタリン
グ、コンフィグレーションのマネジメント、問題解決手法を提供する。
35
Information Assurance(IA)は、最も大きな挑戦を受けている課題であり、信頼のベースであるとの認
識のもと、今後の IA は、単にファイヤーウォールによって侵入者を防ぐだけではなく、個々のデータがライ
フスパンにわたって保護されることが必要との認識のもと、取り組みを実施。
36
出典:DOD Exhibit 300 資料
https://snap.pae.osd.mil/snapit/BudgetDocs2009.aspx うち Section1 うち Section1 Overview より。
- 11 -
ニューヨークだより 2008 年 12 月
④Focused Logistics、⑤Force Application、⑥Force Protection、⑦Joint
Training、⑧Force Management の 8 分野において取組を行っている。
・ ビジネスミッション分野(Business Mission Area:BMA)では、2005 年に、
企業(Enterprise)レベルでの変革(Transformation)を担う Business
Transformation Agency (BTA)を設立し、Defense Business Systems
Management Committee (DBSMC)のマネジメントの下で、取り組んでいる。
具体的には、認証当局のメカニズムとして、投資レビュー委員会(Investment
Review Boards: IRBs)を設立し、各ビジネスシステムの投資の監督を行い、
DOD 全体のアーキテクチャー(Business Enterprise Architecture :BEA)の整
合性の確保を図ることとしている。
・ 防衛情報分野(Defense Intelligence Mission Area:DIMA)では、下記に記す
Office of the Director of National Intelligence (ODNI)のもとで、DOD の担当
Under Secretary が担当している。
・ エンタープライズ情報環境(Enterprise Information Environment: EIAMA)は、
上記の 3 分野を支援するための横割的な分野であり、DOD の CIO が担当する
こととなっている。
DOD における IT 戦略の推進体制37
37
出典:DOD Exhibit 300 資料
https://snap.pae.osd.mil/snapit/BudgetDocs2009.aspx うち Section1 うち Section1 Overview より。
- 12 -
ニューヨークだより 2008 年 12 月
(2)国土安全保障省(DHS)における IT に係る取組
<国土安全保障省(DHS)の概要>
2001 年の世界同時多発テロを受けて 2002 年 11 月に発足38した国土安全保障省
(Department of Homeland Security:DHS)は、米国の安全と自由の確保に努め
ることをミッションとする39。
DHS には、主要な部局として、7 つの部局があり、その主な活動は、テロリス
トなどの入国管理や危険物質の流入などの国境警備など、外部からもたらされう
る危険性からの米国の保護に加え、不法移民の摘発、合法移民の管理など、国内
に存在する外国人の管理40を行っており、また、その他に、運輸部門やネットワー
クなどの重要インフラの保護、要人警備、災害時の復旧活動なども行っている。
DHS の 2009 年度の予算はおよそ 505 億ドルと、前年度予算と比較して約 7%
増加しており、同省内の主要組織では、以下のように配分されている41。
DHS の主要組織と 2009 年度予算の配分状況42
分類
国境管
理、入
国管理
重要施
設管理
事故災
害対応
官房系
部局
米国沿岸警備隊(US Coast Guard:USCG)
税関国境警備局(Customs and Border Protection:CBP)
移民税関執行局(Immigration and Customs Enforcement:ICE)
移民局(US Citizenship and Immigration Services:USCIS)
運輸保安局(Transportation Security Administration:TSA)
シークレット・サービス(United States Secret Service:USSS)
緊急事態管理局(Federal Emergency Management Agency:FEMA)
FEMA グラント予算
国家保護及びプログラム理事会(National Protection and Programs
Directorate:NPPD)
科学技術局(Science & Technology Directorate)
分析・運用(Analysis & Operation)
その他
合計
38
2008
8,741
9,307
5,054
2,540
6,820
1,595
5,522
4,118
2009
9,346
10,941
5,676
2,690
7,102
1,639
6,567
2,200
902
1,286
830
306
1,268
47,003
869
334
1,852
50,502
発足にあたっては、財務省(税関関係)、司法省(移民関係)、運輸省(TSA)等の一部が移行され、また、
大統領直轄であった FEMA も移管された。
39
http://www.dhs.gov/xlibrary/assets/budget_bib-fy2009.pdf
40
http://www.dhs.gov/xlibrary/assets/DHS_StratPlan_FINAL_spread.pdf
41
Homeland Security Budget in Brief, P19. http://www.dhs.gov/xlibrary/assets/budget_bibfy2009.pdf
42
出典:FY 2009 Homeland Security Budget in Brief (単位:百万ドル。分類は、筆者による。)
http://www.dhs.gov/xlibrary/assets/budget_bib-fy2009.pdf p19
DHS の組織については、以下を参照。
http://www.dhs.gov/xlibrary/assets/DHS_OrgChart.pdf
http://www.dhs.gov/xabout/structure/
- 13 -
ニューヨークだより 2008 年 12 月
<DHS の IT 関連予算(概要)>
国土安全保障省(DHS)の IT 関連の予算(2009 年度要求額)は、全体で 5,317
百万ドルと、省庁の中では 3 番目に多い。そのうち、予算が最も多く使用されて
いるのは省全体のインフラ部分であるが、個別プロジェクトでみると、省内横断
プログラムである US-VISIT プログラムに約 430 百万ドル計上されていることに
加え、入国管理等を担う税関国境警備局(CBP)に全体的に多く配分されている。
国土安全保障省(DHS)の IT 投資と主な IT プロジェクト43
主要 IT プロジェクト
米国沿岸警備隊 (US Coast Guard: USCG)
- Rescue 21
- Integrated Deepwater System (COP)
- Nationwide Automatic Identification System
2008
2009
124
90
18
119
92
32
308
129
110
203
28
308
158
157
157
65
26
21
45
29
139
37
31
69
31
31
99
45
24
17
11
14
15
161
73
24
16
15
13
13
25
33
12
40
19
12
445
75
50
12
436
106
63
13
1,394
33
5,312
1,337
48
5,317
税関国境警備局 (Custom and Border Protection: CBP)
- Automated Commercial Environment (ACE)
- Non Intrusive Inspection (NII) System Program
- Secure Border Initiative net (SBI net)
- Western Hemisphere Travel Initiative (WHTI)
- Traveler Enforcement Compliance Systems (TECS)
移民税関実施局 (Immigration and Customs Enforcement:ICE)
- Student and Exchange Visitor Information System (SEVIS)
- Federal Financial Management System
移民局 (US Citizenship and Immigration Services:USCIS)
- Transformation
- Benefit Provision – Verification Info System (VIS) & EEV
- Integrated Documentation Production (IDP)
運輸保安局 (Transportation Security Administration: TSA)
- TSA Operating Platform
- Secure Flight
- Transportation Worker Identification Credentials (TWIC)
- Hazmat Threat Assessment Program (HAZMAT)
- Crew Vetting
- Security Technology Integrated Program (STIP)
- Freight Assessment System (FAS)
緊急事態管理局 (Federal Emergency Management Agency: FEMA)
- Consolidate Alert & Warning System
- Total Asset Visibility
- Disaster Management E-Government Initiative
国家保護・プログラム理事会 (National Protection & Program Directorate)
-
US-VISIT (Visitor & Immigrant Status Indicator Technology)
US-CERT
Information Systems Security LoB
Infrastructure Information Collection Program (IICP)
省内横断プログラム
- Infrastructure
- Homeland Secure Data Network (HSDN)
合計
43
出典:http://www.dhs.gov/xabout/budget/gc_1202416321962.shtm より抜粋。(単位は、百万ドル)
- 14 -
ニューヨークだより 2008 年 12 月
<DHS における入国管理強化に向けた IT 利用の動き>
DHS では、上述の通り、IT を利用したプロジェクトが多数行われているが、こ
の中でも、税関国境警備局(CBP)等を中心に、特にテロリスト対策、あるいは、
不法移民防止対策の観点から IT を積極的に活用したプロジェクトが多く行われて
いる。これらは、具体的には、外国人を中心として、生体情報を収集し、それを
データベース化し、入国管理あるいは国内での活動の監視に役立てようとするも
のである。以下において、これらのプロジェクトの概要について説明する。
DHS における IT を利用した外国人等の入国管理に係る取り組み(事例)44
NPPD
税関国境
警備局
(CBP)
プログラム名
US-VISIT プログ
ラム
電子渡航認証シス
テム(ESTA)
予算
6,280 万ドル
-
期間
2004 年 9 月
~
2008 年 8 月
1 日~
Traveler
Enforcement
Communication
System(TECS)
2,500 万ドル
該当情報な
し
Automated
Targeting System
(ATS)
500 万ドル
(ATS-P に
対して)
-
2006 年 11
月に存在を
45
初公開
2003 年 1 月
~
1,720 万ドル
2009 年 1 月
~(パイロ
ット)
移民税関
執行局
学生・交流訪問者
情報システム
(SEVIS)
移民局
E-verify
概要
14 歳から 79 歳の外国人に対し、入国の際に
生体情報(指紋と顔写真)の提供を義務付け
ビザ免除プログラムでの旅行者に対し、渡航
前にインターネット上のウェブサイトから情
報を入力、渡航許可証の申請を義務付け
危険人物の情報を収集・管理した DHS の
「警戒リスト」データベース。外国人入国者
の生体情報を管理しており、入国者の生体情
報を利用する機関やプログラムに活用
CBP が収集した貨物・旅行者などに関する情
報と、これらの物品や人物のリスクのレベル
を関連付けるリスク評価システム
米国への留学生・交流訪問者の情滞在状況や
ステータスを追跡・監視するため、これらの
人物の情報をインターネット上で管理するデ
ータベース。
外国人の就労資格を判定するための、雇用主
を対象としたインターネットベースの雇用認
証システム。
①外国人の生体等に係る各種情報の収集(US-VISIT プログラム、ESTA)
DHS では、テロリスト等の入国防止を強化するために、米国に渡航する外国人
の生体等に係る情報収集を強化している。その主要プログラムとしてあげられる
のは、米国への訪問者の生体情報を入国時に採集する、US-VISIT プログラムであ
り、国家保護及びプログラム理事会(NPPD)46による IT 予算として多く予算を
割り当てられている。
44
出典:DHS の HP 等より作成。予算は、下記資料に「FY2009 Initiative」として記載している金額。
http://www.dhs.gov/xlibrary/assets/budget_bib-fy2009.pdf
45
http://www.dhs.gov/xlibrary/assets/privacy/privacy_pia_cbp_ats.pdf
46
NPPD は、米国が抱えるリスク軽減に向け、分野横断的、省庁横断的な取り組みを行う機関であり、そ
の主な活動は、①米国民及び米国の、外国から訪問中の危険人物からの保護、②米国の物理的インフラ
の保護、③米国のサイバーインフラ及びコミュニケーションインフラの保護、④米国のリスク管理プラットフ
ォームの強化、⑤省庁間横断パートナーシップの強化や協力体制の強化、の 5 点となっている。
- 15 -
ニューヨークだより 2008 年 12 月
本プログラムに基づき、2004 年 9 月以降、米国は、テロリストなどの要注意人
物の入国や不法入国の防止のため、同国に入国する、14 歳から 79 歳の全ての外
国人47に対し、入国の際に指紋と顔写真という 2 種類の生体情報を、IT システム
を利用して採集している。また、各種ビザによって入国する外国人に対しては、
ビザ申請時にも生体情報の提供を求めており、入国管理官は IT システムを利用し
て申請時の情報と入国時の情報を照合することで、ビザを取得した本人が入国し
ているかどうかを判断している48。
現在では、精度を高める観点から、10 本の指全ての指紋を採集(それまでは 2
本)する動きが出てきており、2008 年末までには全米のほぼ全ての空港に 10 本
の指紋を採取する機械が導入される予定である49。なお、この理由として DHS は、
①入国者の身元確認を迅速に行うため、②指紋認証システムの正確性の向上のた
め、の2つの理由を挙げている。なお DHS は、2009 年中には出国の際にも指紋
の採取も開始する方針で、現在導入に向けた準備を行っている。
また、電子渡航認証システム(Electronic System for Travel Authorization:
ESTA)は、ビザ免除プログラムでの渡航を予定している旅行者が、ビザなしで入
国するに値するかをスクリーニングするシステムである。これまで、特定の友好
国の国民が観光・商用目的で短期間米国に滞在する際、定められた期間内であれ
ば観光ビザの取得は必要とされていなかったが50、セキュリティ強化の必要性を受
け、2008 年 8 月 1 日に導入が開始された。現在のところ ESTA への情報提供は任
意であるが、2009 年 1 月 12 日からは、ビザ免除で入国する渡米者全てに対し、
入国前に ESTA への情報提供が義務付けられる予定となっている51。
旅行者は米国への渡航前、インターネット上のウェブサイトから各自の情報を
入力し、渡航許可証を申請する。入力する情報は誕生日・居住国などの個人情報、
パスポート情報、米国滞在中の住所に加え、感染症の保持の有無などである52。
②外国人等に係る各種情報に係るデータベース化
47
原則。ただし、極稀に例外あり。US-VISIT プログラムの対象外については以下を参照。
http://www.dhs.gov/xtrvlsec/programs/editorial_0527.shtm
48
http://www.dhs.gov/xtrvlsec/programs/editorial_0525.shtm
http://www.dhs.gov/xtrvlsec/programs/content_multi_image_0006.shtm
49
http://www.dhs.gov/xlibrary/assets/usvisit/usvisit_edu_10fingerprint_consumer_friendly_content_1400_words.pdf
50
https://esta.cbp.dhs.gov/esta/WebHelp/ESTA_ScreenLevel_Online_Help_1.htm#Who%20is%20required%20to%20have%20a%20travel%20authorizatio
n
51
http://travel.state.gov/visa/temp/without/without_1990.html
52
https://esta.cbp.dhs.gov/esta/WebHelp/ESTA_ScreenLevel_Online_Help_1.htm#Who%20is%20required%20to%20have%20a%20travel%20authorizatio
n
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ニューヨークだより 2008 年 12 月
この生体情報に関する各情報は、DHS のデータベースに保存されるとともに、
各種照合がなされているものと考えられる。
DHS のデータベースとしては、税関国境警備局(CBP)53の管理する、Traveler
Enforcement Communication System(TECS)があげられる。この TECS は、米
国への入国を許可すべきではない人物や、米国への脅威となりうる人物などに関
する情報を収集・管理した DHS の「警戒リスト」データベースである。同システ
ムは米国への外国人入国者の生体情報を管理しており、上記 US-VISIT プログラム
以外にも、DHS 内の他の入国者の生体情報を利用する機関やプログラムでも活用
されている54。また、後述する通り、このデータベースは、FBI のデータベースと
連携がされているものと思われる。
③データの関連付けとリスク評価(ATS)
また、これらのデータは、単にデータベースとして保存されるだけではなく、
各種の情報との関連付けが行われ、リスク評価がなされている。
具体的には、ATS (Automated Targeting System)は、税関国境警備局
(CBP)が収集した貨物・旅行者などに関する情報と、これらの物品や人物が米
国にもたらしうるリスクのレベルを関連付ける、リスク評価システムである55。ま
た、同システムの一部である ATS Passenger(ATS-P)は、①米国を出入国する
人物、②貿易や商業活動を行う人物、③米国を通過する商品の取引に携わる人物、
④米国への出入りを行う船舶・車両・航空機・列車の乗務員や乗客、を対象とし
て、これらの人物にかかる情報を収集・管理した上で、これらの人物が米国に与
えうるリスクの分析を行っている。
④入国した外国人の追跡システム
また、DHS では、テロリスト対策というよりは、不法移民対策の観点の色彩が
強いと考えられるが、学生や労働者として入国した外国人に係る国内での動向を
把握するための IT システムの構築を進めている。
移民税関執行局(USICE)56は、2003 年 1 月に導入が開始された、インターネ
ットベースで留学生の情報を管理する学生・交流訪問者情報システム(Student
and Exchange Visitor Information System:SEVIS)を構築・運用されている57。
53
税関国境警備局(Customs and Border Protection:CBP)は、国境及び通関を管轄しており、DHS によ
ると、CBP はテロリストやテロの脅威から米国を守るための最前線に立つ機関である。また同局は、米国
に流入する物品や人の規制や管理を通し、経済安全保障の確立にも当たっている。
http://www.dhs.gov/xlibrary/assets/budget_bib-fy2009.pdf
54
http://www.dhs.gov/xlibrary/assets/budget_bib-fy2009.pdf
55
http://edocket.access.gpo.gov/2006/06-9026.htm
56
移民税関執行局(USICE :Immigration and Customs Enforcement)は、主に違法物品や不法入国者
の米国内への流入を取り締まる機関である。
57
http://www.dhs.gov/xnews/releases/pr_1158339830666.shtm
- 17 -
ニューヨークだより 2008 年 12 月
SEVIS は、米国への留学生や交流訪問者の情報をインターネット上で管理する
データベースシステムである。同システムの導入により、USCIS はこれらの人物
の滞在状況やステータスを追跡・監視することができる58。また、DHS は SEVIS
に入力された情報を元に、留学生の国別人数や所在地の傾向などをまとめた、
「SEVP Quarterly Review」を定期的に発行している。
また、移民局(USCIS)59は、2008 年、雇用資格検証システムである E-Verify
を発足させている。E-verify は、DHS と社会保障庁(Social Security
Administration:SSA)が共同で運営する、インターネットベースの雇用認証シス
テムである。同システムは雇用主を対象としたもので、企業は新入社員の雇用に
際し、E-verify に社員候補の人物の情報を提出、DHS 及び SSA のデータベースに
蓄積された情報と照合することで、その人物が米国での就労資格を保有している
かや、提出された社会保障番号が本人に所属するものであるかを確認することが
出来る。このため、DHS は、E-verify を使用することで、就労資格のない外国人
の就労を防ぐことが出来るとしている60。なお、現在のところ E-verify の使用は任
意、且つ無料となっているが、2009 年 1 月 15 日以降、連邦政府の請負業者、及
び下請け業者に対しては、同システムを使用して新規被雇用者の合法就労性を確
認することが義務付けられることになっている61。
<IT を通じた入国管理強化に対する批判>
以上に述べたように、米国政府は外国人の入国やテロリスト情報の収集・管理
に関して IT を活用した取り組みを行っている。この中でも特に、入国者への指紋
採取に関しては反対する意見もあったが、ここ数年で、日本(2007 年)が外国人
に対する指紋採取を開始、EU も現在同様の取り組みを審議中である62ため、入国
時の指紋採取に関し、米国を批判する声は薄れてきていると見られる。
ただし、2009 年内に出国者からも指紋を収集するとした米国の発表に対しては、
例えば、英 Telegraph 紙の記者が同紙ホームページのブログ63上で、「米国は、入
58
http://travel.state.gov/visa/temp/types/types_1268.html#sevis
http://www.ice.gov/doclib/sevis/pdf/quarterly_report_october08.pdf
59
移民局(United States Citizenship and Immigration Services:USCIS)は、米国での居住・就労を希望
する外国人への情報提供や、居住・就労申請の審査、および許可・却下を行う連邦機関である。また、移
民申請のスクリーニングに当たっては、DHS の他機関や、労働省や国務省、連邦捜査局(Federal
Bureau of Investigation:FBI)など、外部連邦機関との連携体制も構築している。
60
http://www.dhs.gov/xprevprot/programs/gc_1185221678150.shtm
61
http://www.uscis.gov/portal/site/uscis/menuitem.eb1d4c2a3e5b9ac89243c6a7543f6d1a/?vgnextoi
d=75bce2e261405110VgnVCM1000004718190aRCRD&vgnextchannel=75bce2e261405110VgnV
CM1000004718190aRCRD
62
http://www.timesonline.co.uk/tol/news/world/europe/article3366326.ece
63
http://blogs.telegraph.co.uk/charles_starmer-smith/blog/2008/04/29/us_fingerprinting_frenzy_
ただしその英国でも、反テロ法により、英国を出国する外国人に対しては、2009 年より指紋の提
供が義務付けられる予定である。
- 18 -
ニューヨークだより 2008 年 12 月
国する外国人観光客を犯罪者のように扱うだけでは事足らず、今度は出国の際に
まで指紋を収集するというのか。ブッシュ政権は観光客に来て欲しくないの
か?」などとする反発もある。また、DHS は、「出国前の指紋収集のための機械
を導入するために各航空会社が支払う金額は、今後 10 年で 32 億ドル」とする試
算を発表したことに対し、各航空会社は、「出国時の指紋収集にかかる費用は政
府が負担するべきである」と反発を示したとされる64。
(3)FBI、CIA 等の Intelligence(諜報)機関における IT に係る取組
<司法省(DOJ)の概要と IT 関係予算>
司法省(Department of Justice:DOJ)は、法の遵守、公共の安全の確立、犯罪
の予防、正当な裁判の実行などを司る機関である65。DOJ には 37 の部局があり66、
それぞれ DOJ のミッションの達成に向けた活動を行っている。
その司法省の IT 関係の予算を見ると、横割のマネジメント部門である Justice
Management Division が多いものの、それ以外には連邦捜査局(FBI)の予算がほ
とんどを占める。
司法省(DOJ)の IT 投資と主要 IT プログラム67
2008
Justice Management Division
- Consolidated Enterprise Infrastructure (CEI)
- Integrated Wireless Network (IWN)
- Unified Financial Management System (UFMS)
- Litigation Case Management System (LCMS)
FBI (Federal Bureau of Investigation)
- Next Generation Identification
- Special Technologies and Appliance (STAS)
- Sentinel
- Terrorist Screening System (TSS)
- Biometric Interoperability (BI)
- Law Enforcement National Data Exchange Program
- Foreign Terrorist Tracking System (FTTS)
- Digital Collection
- National Crime Information Center
Bureau of Prisons
Office of Justice Program
合計
2009
782
79
100
13
800
122
101
19
120
70
53
60
44
55
25
15
11
24
5
2,601
127
97
74
60
57
54
31
21
11
23
6
2,750
http://www.dailymail.co.uk/news/article-1038879/All-air-passengers-fingerprints---reason-securitysimply-raise-profits-duty-free-shops.html
64
2008 年 4 月 22 日付 USA トゥデイ記事。
http://www.usatoday.com/travel/flights/2008-04-21-fingerprints_N.htm
65
http://www.usdoj.gov/02organizations/
66
DOJ の組織図については、以下を参照。
http://www.usdoj.gov/jmd/mps/manual/ag.htm#orgchart、http://www.usdoj.gov/dojorg.htm
67
出典: http://www.usdoj.gov/jmd/2009justification/exhibit300/
- 19 -
ニューヨークだより 2008 年 12 月
<連邦捜査局(FBI)と同局における IT に係る取組>
司法省内に設置されている連邦捜査局(Federal Bureau of Investigation:FBI)
は、1908 年にその前身が設立された連邦機関であり、①テロリストや国際的なス
パイ犯罪からの米国の保護、②米国の刑事法の維持・執行等をミッションとする
連邦機関であり、1908 年にその前身となる機関が設立されている68。ワシントン
DC 市内に本部を置く。
FBI はその活動の中で、IT の活用の重要性を認識しており、FBI のミッション達
成の助けとなる、革新的かつ効果的な IT 資源の提供を行う”Information and
Technology Branch”を設立している69。また、テロリズム対策としては、国家保安
部(National Security Branch)内にテロリスト監視センター(Terrorist Screening
Center:TSC)を設立し、2003 年 12 月より活動を開始している70。
・ TSC は IT を活用し、テロリスト・スクリーニング・データベース(Terrorist
Screening Database)などの米国の「テロ要注意人物リスト」の統合・強化や、
国務省、DHS(CBP、USCIS、TSA 等)などの外部機関によるテロリストの
スクリーニング作業の支援を行っている71。TSC はその他、全米犯罪情報セン
ター(National Crime Information Center:NCIC)を通じ、全米の保安職員に
対して、テロリストの身元に関する情報提供も行っている。
・ また、FBI の刑事司法情報サービス部(Criminal Justice Information Service
Division:CJIS)は、統合型自動指紋照合システム(Integrated Automated
Fingerprint Identification System:IAFIS72)や、簡易犯歴照会システム
(National Instant Criminal Background Check:NICS73)の管理を行っている。
IAFIS は犯罪者の指紋の照合を、24 時間 365 日体制で行う電子システムで、
NICS は、銃火器の購入者に犯罪暦がないかどうかを調べるためのシステムで、
銃火器の販売者によって使用される。販売者は、電話、もしくはインターネッ
トで NICS にアクセスする事が出来る。
また、2007 年 12 月 22 日付 Washington Post 紙は、FBI は 10 億ドルを投じて、
米国民及び外国人の虹彩、指紋やデジタル処理された顔写真などの生体情報を管
理するデータベースシステム「Next Generation Identification(NGI)」の構築に
着手していると報じている74。同データベースには生体情報と共に、個人の犯罪暦
68
http://www.fbi.gov/priorities/priorities.htm
http://www.usdoj.gov/jmd/mps/manual/fbi.htm
69
http://www.fbi.gov/hq/ocio/ocio_home.htm
70
http://www.fbi.gov/congress/congress04/bucella032504.htm
71
http://www.fbi.gov/terrorinfo/counterrorism/mission.htm
72
http://www.fbi.gov/hq/cjisd/iafis.htm
73
http://www.fbi.gov/hq/cjisd/nics.htm
74
Washington Post, “FBI Prepares Vast Database of Biometrics; $1 Billion Project to Include
Images of Irises and Faces,” December 22, 2007. Obtained via Nexis.
- 20 -
ニューヨークだより 2008 年 12 月
なども保存されており、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドで共
有されている標準に基づいており、NCIC や TSC とも連動する予定である。また、
FBI は 2008 年 2 月 12 日、NGI の構築に当たり、Lockheed Martin と 10 億ドルの
契約を交わしたと正式に発表、同社は、NGI システムの設計、開発、文書化、統
合、試験などに当たる75。
<中央情報局(CIA)・国家テロ対策センターにおける IT に係る取組>
中央情報局(Central Intelligence Agency:CIA)は、米国大統領や上級政策決
定者らに対し、海外に関する情報提供を行うことを主なミッションとする連邦政
府機関であり、1947 年に設立された76。CIA は自らを、国防の第一線と自負して
おり、敵の計画や狙いなどに関する情報を収集し、大統領や政府高官に、適切な
タイミングで助言を行うほか、大統領の指令の下、米国の脅威に対する工作活動
も行っている77。
CIA には、①CIA 情報本部(Directorate of Intelligence)、②国家秘密局
(National Clandestine Service)、③科学技術局(Directorate of Science and
Technology)、④支援本部(Directorate of Support)4 部門が設置され、各部の下
に設置されたセンターや部局などが、それぞれに活動を行っている78。なお、CIA
の予算、組織の人数は、公表されていない79。
この CIA の体制に関連し、2004 年に成立した諜報機関改革及びテロ防止法に基
づき、CIA は、新たに設けられた Director of National Intelligence (DNI)のポジショ
ンのもとで、新たに設立された国家テロ対策センター(National Counterterrorism
Center:NCTC)と併せて、統括されることになった。
この新たに設立された NCTC は、対テロ対策に係る情報を取り扱う省庁間横断
機関であり、上記の米国国家情報局(Office of the Director of National
Intelligence)の管轄下に位置づけられる80。NCTC は、FBI、CIA、DOD、DHS、
エネルギー省(DOE)、健康福祉省(HHS)、原子力規制委員会(NRC)などの
パートナー機関の職員で構成され、また外国のパートナー機関とも提携している81。
NCTC は、米国政府が保有するテロ関連情報(完全に国内的なテロ活動を除
く)の統合・分析を行う機関として位置づけられており、テロ関連の情報の集積
75
http://www.fbi.gov/pressrel/pressrel.htm
https://www.cia.gov/about-cia/faqs/index.html#whatdo
https://www.cia.gov/about-cia/index.html
77
https://www.cia.gov/about-cia/cia-vision-mission-values/index.html
78
https://www.cia.gov/offices-of-cia/index.html
組織図については、以下を参照。
https://www.cia.gov/about-cia/leadership/70040_BLU_SEPT_07_OPA.pdf
79
https://www.cia.gov/about-cia/faqs/index.html#employeenumbers
80
http://www.nctc.gov/about_us/about_nctc.html
81
http://www.nctc.gov/about_us/key_partners.html
76
- 21 -
ニューヨークだより 2008 年 12 月
地として機能するほか、NCTC 内の各組織や他省庁がアクセス可能な IT システム
を構築し、テロ情報の統合、普及、利用に貢献している82。
同センターが運営する NCTC On-Line は、NCTC やその他のテロ活動のモニタ
リングなど反テロ対策を実施している機関による情報を集積しており、海外の反
テロパートナー機関に対し、テロリズムに関する情報を共有する第一ソースとも
なっている83。
4.連邦政府の IT 調達に対する IT ベンダーと地域経済を巡る動向
(1)連邦政府の IT 関連調達に係る主要ベンダー
連邦政府における IT 関連予算については、米国における金融機関などの民間企
業などとは異なり、その大半がコントラクトという形で、外部の IT サービス企業
に対して委託されている。実際に、前述の通り、連邦政府の IT 予算は、米国の企
業系 IT 投資の 2 割強を占めると想定されるものの、州政府等を含む政府全体の IT
人材の数は、全米の約 7%程度84にしか過ぎない85。
また、これらのコントラクターとなる主要 IT サービス企業は、民間企業を相手
とする主要 IT サービス企業ではなく、防衛系の企業が、そのビジネスポートフォ
リオの一環として、連邦政府に対して IT サービスを提供しており、民間企業を主
に対象とする IT サービス企業とかなりの棲み分けがなされているのが実態である。
実際に、Washington Technology 社の調べによると、 2007 年で連邦政府の IT
調達額86が最も高かった企業上位 20 社は以下の通りであるが、IT 関連調達額全体
(トップ 100 合計)のうち、Lockheed Martin、Boeing、Northrop Grumman など
防衛系企業である上位 5 社が約 45%を占めており、特定の企業を中心に配分され
ていると言える。
また、米国系の IT サービス企業のトップ 5(2007 年)は、IBM(541 億ドル)、
EDS87(221 億ドル)、Accenture(206 億ドル)、HP(173 億ドル)、CSC
(163 億ドル)であること88を踏まえると、以下のようなことが言える。
82
http://www.nctc.gov/about_us/what_we_do.html
http://www.nctc.gov/about_us/how_we_do.html
84
http://www.bls.gov/news.release/ocwage.t02.htm
85
なお、2008 年度の連邦政府の IT 関連予算は 681 億ドルであるのに対し、Washington Technology
社による 2008 年度の連邦政府における IT 調達の実績額は、後述の通り、918 億ドルとなっている。ただ
し、下記の通り、これらは、統計対象が異なるため、そのまま評価はできない。
86
連邦政府の調達情報から、同社が IT(技術)に明らかに関係しないものを省いて統計をとったものであり、
したがって、かなり広い範囲の IT 関連の調達が含まれているものと考えられる。
87
同社は、2008 年 8 月に HP 社と合併し、HP 社の技術サービス部門となっている。
88
Gartner 社(2008 年 5 月) http://www.gartner.com/it/page.jsp?id=668907
83
- 22 -
ニューヨークだより 2008 年 12 月
・ 上位を占める防衛系企業における連邦政府からの IT 調達額の規模は、上記ト
ップ 5 の IT サービス企業の売り上げに次ぐ規模となっている。また、これら
の企業の多くは、IT 以外を含む連邦政府の調達額全体でも上位を占めるととも
に、企業にも依るが、民生(非国防)系の IT 調達においても、上位を占める89。
・ 一方、上記 IT サービス全体でのトップ 5 のうち、EDS、CSC の 2 社は 10 位
内に入っているなど連邦政府の IT 調達にも一部参入できているが、業界 1 位
の IBM は、16 位に留まっている。ただし、民生系の IT 調達に限れば、IBM は
5 位、CSC は 6 位、Accenture は 13 位、EDS は 15 位に入る90。
連邦政府からの IT 調達額が高い企業 20 社91
順
位
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
計
企業名
本社所在地
Lockheed Martin
Boeing
Northrop Grumman
Raytheon
Science Applications
International (SAIC)
General Dynamics
KBR
L3 Communications
Computer Science
(CSC)
EDS
Booz Allen Hamilton
BAE Systems
Harris Corp.
ITT Corp.
Dell Inc.
IBM
CACI International
Verizon
Communications
United Technologies
Jacobs Engineering
Group
MD, Bethesda
IL, Chicago
CA, Los Angeles
MA, Waltham
CA, Sun Diego
連邦政府調達額
2007
2008
33,639① 25,869①
24,244② 18,424②
17,662③ 13,580③
11,838⑤ 10,997④
5,185⑨
4,271⑨
VA, Falls Church
TX, Houston
NY, New York
VA, Falls Church
14,568④
4,872⑩
7,055⑦
3,918⑫
10,846⑤
4,031⑩
5,412⑧
3,650⑫
4,900
4,131
3,945
3,670
4,392⑤
4,130⑥
3,696⑦
2,583⑨
508⑭
1
249
1,088⑥
TX, Plano
VA, McLean
英国 London
FL, Melbourne
NY, White Plains
TX, Round Rock
NY, Armonk
VA, Arlington
NY, New York
N/A
2,244
10,125⑥
1,956
2,600⑱
1,115
1,523
1,523
N/A
N/A
1,907
10,396⑥
1,575
2,522⑰
672
1,429
1,071
N/A
2,458
2,402
2,020
1,855
1,800
1,740
1,603
1,337
1,320
1,973⑩
1,543⑭
1,849⑪
1,618⑬
1,646⑫
1,077⑱
422
1,105⑰
1,107⑯
485⑮
859⑦
170
237
154
664⑩
1,181⑤
231
214
5,858⑧
1,227
6,414⑦
1,532
1,283
1,280
1,110⑮
616
173
664⑨
447,698
368,409
91,804
78,244
26,810
CT, Hartford
CA, Pasadena
連邦政府 IT 調達額(2008)
国防
民生
13,449 10,205①
3,243①
9,707
7,902②
1,804②
7,914
6,298③
1,617④
5,170
4,762④
408⑱
4,920
3,223⑧
1,697③
89
なお、Raytheon、General Dynamics は、比較的民生系は少なく、防衛系に特化していると言える。
なお、HP は 26 位であり、Dell(10 位)と比べてもかなり低い。
91
出典:IT 調達額:Washington Technology (ただし、上述の通り、広義の範囲での IT 調達であり、した
がって、純粋には IT のみではない国防系の調達を含め、数字が大きく記載されているものと考えられる。)
http://www.washingtontechnology.com/top-100/2008/index.html (各社の主要調達省庁の記載もあり)
連邦政府調達額:USA Spending.gov
http://www.usaspending.gov/fpds/tables.php?tabtype=t2&subtype=t&year=2008
http://www.usaspending.gov/fpds/tables.php?tabtype=t2&subtype=t&year=2007
90
各社 HP 等、より作成。単位は、100 万ドル。なお、IT 調達の合計は、記載のある上位 100 社の合計。
- 23 -
ニューヨークだより 2008 年 12 月
(2)主要各社の動向
これらの主要連邦政府 IT 調達企業のうち、上位企業は、連邦政府の主要契約業
者(プライムコントラクター)としての役割を担っている。
このうち、国防関連の IT 調達の上位 5 社92を比較すると、いずれも、その収入
の大半を、DOD をはじめとする連邦政府に依存しており、また、その売り上げの
中味としては、IT 以外の国防関連の調達に加えて、概ね 3 割前後を連邦政府等に
対する IT サービスの提供(IT 調達)に依存していることが分かる。
連邦政府防衛関連 IT 調達の主要企業の概要93
売上
売上
分類
主要
顧客
Lockheed
Martin
419 億ドル
Boeing
664 億ドル
Northrop
Grumman
320 億ドル
・航空機:
123 億$(29%)
・電子システム:
111 億$(27%)
・情報システム/グ
ローバル・サービス
102 億$(24%)
・宇宙システム:
82 億$(20%)
・民間航空機:
334 億$(50%)
・統合防衛システム
321 億$(48%)
・情報・サービス:
126 億$(38%)
・航空宇宙:
82 億$(25%)
・電子機器:
69 億$(21%)
・造船:
58 億$(17%)
・DOD:
58%
・他米政府機関及び
民間企業:
27%
・海外:
15%
<民間航空機>
海外
70%
米国
30%
<統合防衛システム>
DOD
84%
・米国政府(主に
DOD): 89.6%
・その他: 10.4%
Raytheon
213 億ドル
・ミサイルシステム
50 億$(22%)
・統合防衛システム
47 億$(20%)
・宇宙航空システム
43 億$(19%)
・ネットワーク・セ
ントリックシステム
42 億$(18%)
・情報システム
27 億$(12%)
・技術サービス
22 億$(10%)
・米国政府(主に
DOD):
86%
・海外:
20%
General
Dynamics
272 億ドル
・情報システム技術
96 億$(35.3%)
・戦闘システム:
78 億$(28.6%)
・海洋システム
50 億$(18.3%)
・航空機
48 億$(17.7%)
・米国政府:69%
・米国民間:10%
・外国政府:14%
・外国民間:7%
以下においては、これらの企業のうち、Lockheed Martin 社、Raytheon 社、
General Dynamics 社について、それぞれの概要と連邦政府(特に、安全保障関
連)向けの IT サービスに係る取り組みの事例について、紹介する。
92
連邦政府調達全体の上位 5 社と一致。
出典:各社ホームページより。
http://www.lockheedmartin.com/data/assets/corporate/documents/ir/2007-Annual-Report.pdf
http://www.envisionreports.com/boeing/2008/15FE08006M/print/Boeing_2007AR_REDUCED.pdf
http://www.boeing.com/companyoffices/aboutus/overview/powerpoint/boeing_overview.ppt
http://www.northropgrumman.com/images/annual_report/2007_noc_ar.pdf
http://media.corporate-ir.net/media_files/irol/84/84193/ar07_final/pdf/Raytheon_AR07_10K.pdf
http://library.corporate-ir.net/library/85/857/85778/items/284657/GD%20AR%202007.pdf
なお、Boeing 社及び Northrop Grumman 社は売り上げを公開していないため、代わりに歳入を表記した。
また、Northrop Grumman 社の売上分類の%は、歳入 320 億ドルに、部門間の重複分である 15 億ドル
を足した 335億ドルから算出した。また、Raytheon 社の米国政府の売り上げ、海外への売り上げには、共
に、米国政府を通しての外国軍への販売額(15 億ドル)を含む。
93
- 24 -
ニューヨークだより 2008 年 12 月
①Lockheed Martin 社
<企業概要>
Lockheed Martin 社はメリーランド州ベセスダに本拠を構える、国際的なセキュ
リティ企業である。同社が提供するサービスの分野は航空、電子装置、情報シス
テム及びグローバル・サービス、宇宙システムとなっており、2007 年の売上額は
419 億ドルである。また、2007 年の売り上げ全体のうち 58%は国防総省に対する
売り上げで占められている94。
<IT サービス部門の取り組み>
IT 関連のサービスとしては、同社の Information Systems & Global Services
(IT&GS)部門が、①ミッション・ソリューション、②情報システム、③グロー
バル・サービスの 3 部門を設立しており、2007 年には、同社の売り上げ全体の
24%に当たる 102 億ドルの売り上げを達成している95。なお、同部門の主要顧客
は DOD、および DHS、NASA や FBI などの他連邦機関となっており、連邦政府に
対する売上額は、部門全体の売り上げの 94%を占めている。
そのうち、同社は、国土安全保障に係るサービスとして、米国政府に対し、国
境警備、インフラ保護、緊急事態の管理及び対応、情報管理、運輸セキュリティ
などのサービスなどを提供している96。その事例としては、以下の通り。
・ FBI 関係では、550 万の指紋情報を蓄積する IAFIS(Integrated Automated
Fingerprint Identification System)の設計、開発、配備、メンテナンスを一手に
引き受けている97ほか、2008 年 2 月 12 日には、先述した FBI の次世代認証シ
ステムである NGI の開発及びメンテナンスに関し、10 億ドルのプロジェクト
を受注した98。
・ DHS 関係では、TSA に対して Strategic Airport Security Rollout プログラムを
提供し、全米 429 の民間機専用空港にて、セキュリティ・チェックポイントの
技術や装置のアップデートを行ったり、また、新しいスクリーニング技術を導
入するなどしている99。
・ また、緊急事態管理・対応としては、米国沿岸警備隊(USCG)に対して携帯
無線 IC タグ(Radio Frequency Identification:RFID)システムである Savi 技
術を提供、同隊の武器庫内の供給量や展開中の作戦の実時間追跡に利用されて
いる100。
94
http://www.lockheedmartin.com/aboutus/index.html
http://www.lockheedmartin.com/data/assets/corporate/documents/ir/2007-Annual-Report.pdf
96
http://www.lockheedmartin.com/capabilities/homeland_security/index.html
97
http://www.lockheedmartin.com/products/Biometrics/index.html
98
http://www.lockheedmartin.com/news/press_releases/2008/FEDERALBUREAUOFINVESTIGATI
ONAWARDSLOCKHEEDMARTINNEXTGENERATIONIDENTIFICATIONPROGRAM.html
99
http://www.lockheedmartin.com/products/sasr/index.html
100
http://www.lockheedmartin.com/capabilities/homeland_security/emergency_mgmt/index.html
95
- 25 -
ニューヨークだより 2008 年 12 月
②Raytheon 社
<企業概要>
Raytheon 社は、マサチューセッツ州ウォルサムに本社を構える軍需製品メーカ
ーである。同社のサービス提供範囲は、国家システムのマネジメント、軍事作戦
やミッションのサポート、宇宙システム、戦略情報システム、作戦情報システム、
情報ソリューションの提供となっており、2007 年の純売り上げはおよそ 213 億ド
ルであった101。
同社の場合も、Lockheed Martin 社と同様、その売り上げの多くを連邦政府機関
からの調達に頼っており、2007 年度は、同社の売り上げ全体の 86%に当たる 183
億ドルが、DOD への売り上げによるものである102。DOD 以外の同社の顧客にと
しては、ミサイル防衛庁(Missile Defense Agency:MDA)、陸軍、空軍などの
軍事関連機関のほか、エネルギー省や DHS など、米国の 14 連邦政府機関が挙げ
られる103。その他には、英国内務省(UK Home Office)や国境庁(Border
Agency)などの英国の政府機関も含まれている。
<IT サービス部門の概要>
同社では主に、Intelligence and Information Systems 部門が、IT を利用したサー
ビスを提供しており、2007 年は 27 億ドルの売り上げを計上している。
同部門のサービスの中で国家安全保障に関連するものとしては、生体技術ソリ
ューションや国境・運輸セキュリティの提供、非常事態対応及び対応者トレーニ
ングシステムの構築などが挙げられる104。その事例としては、例えば、同社の
Immigration Control and Identity Management(ICIM)が挙げられる。
・ 同サービスには、US-VISIT プログラムの基盤となる Intelligent Border
Architecture や、入国の際の生体情報収集に使われる自動指紋 ID システム105な
どを含む IDENT システムなどを構築している。
・ また、ICIM の一環として、事件やその調査に関する情報の収集、および共有
を可能にするアーキテクチャーである N-DEx を提供。同製品は FBI の他、全
米 1 万 8,000 の警察機関に使用されており、米国において、全国的なデータ交
換システムとしての機能を果たしている。
101
http://www.raytheon.com/businesses/riis/about/Business/index.html
http://www.raytheon.com/businesses/riis/about/index.html
102
http://media.corporate-ir.net/media_files/irol/84/84193/ar07_final/pdf/Raytheon_AR07.pdf
103
http://www.raytheon.com/businesses/riis/customers/index.html
http://media.corporate-ir.net/media_files/irol/84/84193/ar07_final/pdf/Raytheon_AR07.pdf
104
http://www.raytheon.com/capabilities/rtnwcm/groups/ncs/documents/content/rtn_ncs_products_s
ecurity3_pdf.pdf
105
同システムは全米 150 ヶ所に設置されている。
- 26 -
ニューヨークだより 2008 年 12 月
③General Dynamics 社
<企業概要>
General Dynamics は、ヴァージニア州フォールズチャーチに本社を置く、全米
第 5 位の防衛企業で、2007 年の純売上額は 272 億 4,000 万ドルであった。同社の
顧客も、やはりそのほとんどが米国政府機関となっており、全体の 69%を占めて
おり、その中でも特に米軍(海陸空軍)からのコントラクトが売り上げの大部分
を占めている。
同社のビジネス分野は、航空宇宙、戦闘システム、海洋システム、情報システ
ム技術の 4 分野に渡っており、この中でもっとも売り上げが多いのは情報システ
ム技術分野で、同分野の 2007 年の収益は、総売り上げの約 35%にあたるおよそ
100 億ドルと、4 部門の中で最大の割合を占めている106。
<IT サービス部門の取り組み>
このうち、情報システム技術分野では、先進情報システム、ネットワークソリ
ューションを提供する C4 システム、情報技術の 3 部門からなり、それぞれにサー
ビスを提供している107。
先進情報システム部門では、知的・海洋・宇宙・国土安全保障分野における米
国政府機関を顧客とし108、戦闘システム、サイバーセキュリティ、国土安全保障、
諜報・監視・偵察、宇宙システムの 5 分野のサービスを提供している109。このう
ち、国土安全保障については、重要インフラの保護、情報共有・分析、運輸シス
テムに係る安全確保の 3 種類のサービスを提供しており、この中でも特に、情報
共有・分析のサービスについては、DHS やその他の政府機関、民間企業などに対
して、情報システムの設計、脅威に関する情報の特定、分析及び普及を行ってい
る110。
また、情報技術部門は、防衛、国防関連の政府機関のほか、一般連邦政府機関
や民間企業に対して IT、システムエンジニアリング技術などを提供している111。
同部門は、DHS(USCIS、USCG 等)、司法省、財務省等に対し、統合ネットワ
ークサービスやコミュニケーションサービスなどを提供している112。
106
http://library.corporate-ir.net/library/85/857/85778/items/284657/GD%20AR%202007.pdf
なお、同社の 2007 年の収益は前年比 13%増となっている。
107
http://www.gendyn.com/
また、General Dynamics United Kingdom Limited は、英国政府の主契約業者として、同国政府に情報
システムサービスを提供している。
http://www.gendyn.com/prod%5Fserv/is&t/GDUK_Products_and_Services.htm,
http://www.generaldynamics.uk.com/
108
http://www.gd-ais.com/index.cfm?acronym=customerspartners
109
http://www.gd-ais.com/index.cfm?acronym=solutions
110
http://www.gd-ais.com/index.cfm?acronym=informationsharing
111
http://www.gendyn.com/
112
http://www.gdc4s.com/content/detail.cfm?item=816a4a1c-1316-4879-adff-430e9f7972fa
- 27 -
ニューヨークだより 2008 年 12 月
(3)DC を中心とした IT 企業の立地動向
このような連邦政府による国防・安全保障を含む IT 関連の調達は、全国的にみ
て規模的に大きく、したがって国防系に限らず多くの IT 関連企業が DC 周辺地域
(DC の北に位置するメリーランド州や、DC の南および西に位置するヴァージニ
ア州北部)に立地しており、同地域の一大産業となっている。
具体的には、本社を DC 周辺地域に構えている民生系の大手 IT サービス企業と
しては、Computer Sciences (CSC)などに限られるが、上述の IT サービスも提供
する防衛系企業である Lockheed Martin や General Dynamics など本社が立地し、
また、それら以外にも、Northrop Grumman、L-3 Communications などの防衛系
企業における IT 部門子会社の本社が立地113する。
また、それ以外にも、非防衛系の IT サービス企業の主要開発部門114も多く立地
するとともに、それらに加えて、それらの企業に対して製品を供給するソフトウ
ェアベンダーの開発部門やハードウェア企業の営業部門も多く立地している115。
特に連邦政府の IT 調達については、これらの特定の防衛系企業がプライムコン
トラクターとしての役割を担う一方、日本と同様(また、米国の金融等の民間企
業とは異なり)、ハード、ソフトはもちろんのこと、そのサービスのかなりの部
分をサブコントラクターとして再委託しており、その結果、同地域は、IT に係る
主要な産業集積地域(クラスター)となっている。
特に、これらの IT 関連企業の多くは、ヴァージニア州北部、特に DC 市域と
Dulles 国際空港を結ぶ Dulles Technology Corridor116(ルート 267 周辺)と呼ばれ
る地域を中心に多く立地している。この結果、ヴァージニア州は、全米で、人口
あたりで IT サービス産業が最も集中している州となっており117、また、絶対量と
してもカリフォルニア州に続いて IT サービス産業の規模が大きい州であるとされ
る118。また、コンピュータ技術者の人数の観点からも、DC 周辺地域は、NY 周辺
地域やシリコンバレー周辺地域を越える119。
113
例えば、BAE System (Rockville)は米国本社、L-3 Communications (Chantilly)は Global Security &
Engineering Solutions 社、Northrop Grumman (MacLean)は Information System 社、同社 (Reston)は
Mission System 社、Raytheon (Reston)は、Technical Service 社。
114
例えば、Accenture は、Reston に DC オフィスを加えて、合計 3000 名以上雇用している。
http://www.accenture.com/Countries/USA/About_Accenture/WashingtonRestonVirginia.htm
115
なお、最近では、サブコントラクターでは必ずしもないものの、Google も、今後、連邦調達に参加すべく、
Reston に新たにオフィスを構えたことが報道されている。
http://www.washingtonpost.com/wpdyn/content/article/2008/09/28/AR2008092802216.html?nav=rss_technology
116
http://en.wikipedia.org/wiki/Dulles_Technology_Corridor
117
http://www.census.gov/econ/census02/data/tops/TOPSTVA.HTM
118
http://www.census.gov/econ/census02/data/industry/E5415.HTM#T4
119
NY だより 2008 年 10 月号参照。
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ニューヨークだより 2008 年 12 月
ワシントン DC 周辺地域における主要 IT 関連企業の立地状況(例)120
☆BAE Systems
☆Northrop Grumman
☆Raytheon
Accenture
Microsoft
Oracle
☆Northrop Grumman
Unysis
BAE Systems
★Lockheed Martin
SAIC
★Booz Allen Hamilton
L-3 Communications
★XO Communications
EDS
★General Dynamics
☆L-3 Communications
★Computer Sciences
★Dyn Corp
Raytheon
なお、本レポートは、注記した参考資料等を利用して作成しているものであり、
本レポートの内容に関しては、その有用性、正確性、知的財産権の不侵害等の一
切について、執筆者及び執筆者が所属する組織が如何なる保証をするものでもあ
りません。また、本レポートの読者が、本レポート内の情報の利用によって損害
を被った場合も、執筆者及び執筆者が所属する組織が如何なる責任を負うもので
もありません。
120
出所:各社ホームページより作成。(地図は、Live Search Maps を利用)
★は本社、☆は子会社の本社。
なお、本資料は、必ずしも一定の基準に従って記載しているものではなく、他の企業や記載している企業
の他の部門も多く同地域に立地している。(例えば、その他に、Boeing は、Chantilly、Reston、Arlington
にオフィスがある模様。)
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