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12. 人間科学社会科学専門部会(2008年3月まで)

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12. 人間科学社会科学専門部会(2008年3月まで)
平成 18・19 年度科学技術振興調整費「重要政策課題への機動的対応の推進」
日本人が身に付けるべき科学技術の基礎的素養に関する調査研究
21 世紀の科学技術リテラシー像~豊かに生きるための智~プロジェクト
「科学技術の智」プロジェクト
人間科学・社会科学専門部会
議事要録
目 次
人間科学・社会科学専門部会 第 1 回(2007 年 1 月 25 日) ............................................................ 2
人間科学・社会科学専門部会 第2回(2007 年 3 月 19 日)シンポジウム..................................... 3
人間科学・社会科学専門部会 第3回(2007 年 6 月 29 日) .......................................................... 15
人間科学・社会科学専門部会 第4回(2007 年 8 月 8 日)............................................................ 18
人間科学・社会科学専門部会 第5回(2007 年 9 月 10 日) .......................................................... 21
人間科学・社会科学専門部会 第6回(2007 年 9 月 29 日) .......................................................... 21
1
人間科学・社会科学専門部会 第 1 回(2007 年 1 月 25 日)
会議名
人間科学・社会科学専門部会 第 1 回
会議責任者名
長谷川寿一
会議年月日
2007 年 1 月 25 日(水)10:00~12:00
会議場所
日本学術会議 5A(1)会議室
出席者名
長谷川寿一、辻敬一郎、伊藤たかね、清水和巳、隅田学、利島保、戸田山和久、二宮裕之、
長谷川眞理子、早川信夫、広野喜幸、松沢哲郎、松本三和夫、渡辺政隆、
(北原和夫、長崎栄三、
斉藤萌木)
配付資料
1.2006 年度科学技術振興調整費による「重要政策課題への機動的対応の推進」課題の第 2 回指
定について(2006 年 10 月 26 日総合科学技術会議)
2.組織図
3.公式会合(企画推進会議・専門部会等)
4.プロジェクトの趣旨説明
5.補説1 研究組織
6.補説2 研究スケジュール
7.補説3 会議開催一覧
8.補説4 専門部会の活動
9.補説5 プロジェクト報告書の構造
10.内規1 事務処理の扱い
11.資料1 平成 17 年度「科学技術リテラシー構築のための調査研究」の研究成果
12.資料2 アメリカの科学技術リテラシー像の報告書の紹介
13.科学的リテラシー(北原和夫)
主な討議事項
1.自己紹介など。
2.北原プロジェクト代表より、配布資料に沿ってプロジェクトの趣旨説明
学術会議において若者の理科離れを検討した際、科学技術教育のゴールが示されていないとい
う問題が見出されたことがプロジェクトの基礎になっている。AAAS が 1989 年に提出した Science
for All Americans.に対応するような Science for All Japanese.の完成を目指している。このプロジェク
トでは、科学技術リテラシーを市民が科学技術について意思決定する際の根拠となるようなもの
と考えている。人間の存在を理解するための科学という側面を大切にしたい。
2
3.長崎事務局長よりプロジェクトの進行状況と、運営上の特徴について説明
リテラシー像策定の過程を公開していくこと、教育・科・マスコミ・社会教育など多様なメン
バーが参加していることなど。
4.自由討議
(1)アメリカにおける「すべてのアメリカ人のための科学」の評価
①必ずしも定着してない。原因は州ごとに所轄が別であることや、教員の質の問題にあるので
は。
②全体の底上げを目指すとエリート育成がおろそかになるという批判がある。
(2)プロジェクトの大きな目標
①国民運動的な盛り上がりを作るために広報の役割が大事になる。
②百科事典ではなく、読んで面白いものをつくれるとよい。
③100 年間くらい有効であることを目指したい。
④一般人の理解を目指すからといって内容的なレベルを落とすべきではない。
(3)このプロジェクトの科学的リテラシーを捉え方
①批判的な目を持つことも含め、科学技術の方向性の決定に市民が参加することを構想してい
る。
(4)本格的な活動に向けて
①概念を見定めるための方法をとらえることが重要。
②方法論がなぜ必要かまで掘りさげてほしい。
③人間と社会を科学的に議論するということがこの部会の役割。
④このプロジェクトならではの説得力のあるものをつくらないといけない。
⑤どういう状態が実現したらプロジェクトが成功したことになるのかを規定しておくべき。
⑥測定できる科学的リテラシーとここで目標としているか学力とは異なっている。
⑦科学と市民社会そのものの関係を変えるようなものができるとよい。
⑧人を対象に科学をするとはどういうことかが伝わるとよい。
⑨科学全体の像を描くことを意識してほしい。
⑩エッセンスを出すという形をとらず、何を伝えたいかを大切にしていきたい。
備考
初回なので、プロジェクトについての説明と意見交流が中心となった。
次回の日程は決まらなかった。
人間科学・社会科学専門部会 第2回(2007 年 3 月 19 日)シンポジウム
会議名
人間科学・社会科学専門部会 第2回 シンポジウム
会議責任者名
長谷川寿一
会議年月日(曜日)時刻
2007 年 3 月 19 日(月)13:00~17:30
3
会議場所
東京大学(駒場)アドミニストレーション棟大会議室
出席者名
【プロジェクト参加者】長谷川寿一、辻敬一郎、伊藤たかね、清水和巳、隅田学、利島保、二宮
裕之、早川信夫、渡辺政隆、伊藤卓、岩崎秀樹、佐々義子、長崎栄三、原口るみ、アンドリ
ュー・ドモンドン、曽根朋子、阿部好貴、斉藤萌木
【講演者】仁平義明、山越言、明和政子
【外部参加者】5 名
配布資料
1.プロジェクトの趣旨説明
2.仁平義明編『嘘の臨床・嘘の現場』
(仮題)
(現代のエスプリ 2007 年 7 月予定)
3.仁平義明『大学生の思考の柔軟性は低下したか?-「ルーチンスの水差し問題」の解:15 年
間の変化-』
(東北大学高等教育開発推進センター紀要第1号、 2006 年 3 月)
4.ルーチンスの水差し問題
5.山越言『野生チンパンジーとの共存を支える在来知に基づいた保全モデル-ギニア・ボッソ
ウ村における住民運動の事例から-』
(環境社会学研究、 12、 120-135、 2006)
主な討議事項
1.長谷川委員長開会挨拶。
プロジェクトの趣旨説明。
2.発表と質疑応答
(1)発表概要1 渡辺政隆「若者と科学:科学を学ぶ意味」
子供たちの科学に対するイメージ(ユネスコ資料)
:職業選択としての世界的な理系離れ
TIMSS-R1999(世界中 38 の地域及び国の 14 歳の子供たちに関する調査)における理科の成績と
理科好きの関係:日本と韓国は成績は良いが「理科の勉強が好き」と応える生徒の割合は低い。
フィリピンは逆、米国はどちらも平均ぐらい。
「国語、社会、算数・数学、
(中学生に対してはそれらに加えて英語)のうちそれぞれの勉強が好
きですか」
(国立教育政策研究所・教育課程実施状況調査、平成 13 年)
:中学1年の英語以外は、
小学5年生から中学3年生まで全部理科がトップ。男子の方が女子よりも理科が好きな児童生徒
の割合が高い。算数、数学はずっと下。
「何のために勉強するか」
(国立教育政策研究所・教育課程実施状況調査、平成 13 年)
:理科が「普
段の生活や社会に出て役立つと思う」子どもの割合は、国語、社会、算数・数学、
(中学生に対し
てはそれらに加えて英語)よりもすべての学年で低い。
「理科を勉強する理由」
(平成13年度小中学校教育課程実施状況調査報告)
:理科の勉強は大切
だとか好きだという答えは多いが、普段の生活や社会で役に立つと答える子が非常に少ない。
(小
学校5年生で約半分、中学3年生では 40%以下)
「理科に対する勉学意識」
(14 歳、TIMSS-R、 1999)
:
「希望の職業に就くために勉強する」がシ
4
ンガポールでは多いが、日本と韓国は少ない。
「親を喜ばせるために理科の勉強をする」が日本は
とても少ない。
「希望の大学に入るために勉強している」については、日本はシンガポールやイギ
リス、韓国、などと同じぐらいの割合。
「科学技術への意識に関する世論調査」
(18 歳以上の大人対象、総理府・内閣府調査、1976 年か
ら 2004 年にかけて約5年ごと)
:76 年には、60%以上の成人「科学技術のニュースや話題に関心
がある」が徐々に下がり 87 年ぐらいでいったん底を打ってちょっと上がる。88 年から 2004 年ま
での6年間に日本人の4人のノーベル賞受賞者が輩出されたにもかかわらず、科学技術に関する
関心度はやや下がっている。
「科学技術情報に対する世代別関心度の推移」
(総理府・内閣府調査、1976 年から 2004 年にかけ
て約5年ごと)
:76 年の関心度が全体的に一番高かった頃というのは、一番高い関心を持っている
のは 20 代、30 代、あるいは 40 代だった。それに対し、2004 年では若い世代が関心を失っている。
若い青年たちの科学離れがこれからますます深刻になる。
「理科及び科学に対する興味・関心の世代別推移」
(瀬沼、 1998・総理府世論調査、 1998 より作
成)
:中学、高校で理科嫌いがつくられて、それがなかなか回復しない?
「科学技術基礎概念の理解度」
(アメリカ、日本、EU、EU 候補国が行った共通の 11 問に関する
平均正答率の問題、 2001、 2002)
:○×式の質問にも関わらず、日本の平均正答率は、約 53%。
一番高かったのがスウェーデン、EUの平均が 58%。
「共通12問の平均正答率」
(日本、米国、EU 比較、 2001)
:
「地球と太陽が回っていますが、ど
っちが回っていますか」
「放射能に汚染された牛乳は沸騰させれば安全である」などの正答率が日
本は非常に高い。
「抗生物質はバクテリア同様ウイルスも殺す」「レーザーは音波を集中すること
で得られる」
「赤ちゃんが男の子になるか女の子になるかを決めるのは父親の遺伝子である」など
は日本の正答率が非常に低い。
「現在の人類は原始的な動物種から進化したものである」について
は、アメリカは正答率が低いけれども、日本とEUはかなり高い。
「科学者や技術者は身近な存在であり、親しみを感じているか」
(内閣府、2004)
:肯定的な意見
(身近な存在で親しみを感じる)が 15%、否定的な意見が 74.3%。科学や技術を、あまり身近に
思ってない。科学に対する何となく漠とした不安が広がってきて、同時に疑似科学なんかも出て
きてる
顔が見えるような科学、科学者・科学のイメージを変える必要性:アメリカでは、スティーブ・
J・グルドのような顔の見える科学者-「シンプソンズ」
(子ども向けアニメ)に、自然史博物館
の古生物学者役で登場。
「リチャード・フォーティ著『生命 40 億年全史』
」に送られてくる読者カードの年齢分布:平均
年齢が 61.8 歳、中央値が 63 歳、最高年齢 92 歳の人が3人、最低年齢 18 歳が1人。高齢になると、
生命とは何なのかという関心が高まってきて、こういう本を読んでみようかという気になるので
はないか。宗教に代わるものとして、科学というものが生きてる意味を与えられる可能性もこう
いうところにもあり得る。本を買っている一番の中心層というのはやっぱり 50 代、60 代の方が多
い。
【質疑応答】
Q.一般の人が科学というものに目を向けるときに、どういうふうな形で目を向けさせるか。兵庫
県立「人と自然の博物館」の事例より、高齢者が若い人たちをどう引きつけるかということで、
5
博物館がある意味でプロモートしないといけないのでは。
A.博物館や科学館が日本では地域にたくさんあるので、そういうものが中心になることが一番理
想的。博物館への来館頻度:日本はアメリカよりも低い。日本は男性の科学館への来館者数、
割合が低い。米国は高学歴者が科学館に良く行くのが特徴的。兵庫県立「人と自然の博物館」
では、セミナーというか、レクチャーの数が非常に多く、学芸員の方が非常に頑張っている。
これからどうやってそういうところを活用していくかというのが非常に重要な問題。
Q.クイズ的知識ではないリテラシーをどうはかるかについて、例えば擬似科学をどのぐらい擬似
だと見分けられるか、という一種の力みたいなものを測るような物差しが可能か?
A.インタビュー形式で測るのが一番客観的なことが分かるのではないかと言われるが、手間がか
かる。私たちの研究でもウェッブを使った調査を行ったところ、
「死後の世界があると思う」と
いう答えがかなり多い。科学技術を使いながらそういうスピリチュアルなところも同じ人の中
で共存しているということが日本人の中では結構当たり前のようになってきているのか。
「死人
が生き返ると思いますか」という質問に対しても「思う」と答える人が結構多かった。
Q.高校までの社会科の科目はほとんど記述的な議論ばっかりやっているが、大学に入ってくると、
数学や統計を使う。自分たちが高校までやってきた政治経済と大学の経済学は全く違い、全然
できないことでショックを受けて、経済学から離れていく学生が結構いる。もしかすると、理
科離れではなくて、そういう数字離れというか、物事を客観的に見るような見方から離れてい
るのではないか。
A.自然現象を勉強するのは面白いけど、その原理とか基本法則みたいなところを分析して考える
というようなことは多分あまり教えられてないのかもしれない。算数離れというのが非常に深
刻であって、その中でもう1つ社会現象的にそういうのが出てきている可能性は大いにある。
Q.なぜ中・高時代に理科嫌いがつくられるのか?
A.やはり教科書が面白くないのではないか。知識偏重で、知識を覚えていくと、覚える、記憶の
勉強になってしまっている中で、科学の面白さというのを教えられてないのではないか。
Q.科学の分野、物理・化学とか純粋科学の分野のカテゴリー分けというのを見直す必要がある気
がする。高校で総合理科がつくられたけれども、先生も教科の枠にとらわれてしまって、本当
の理科の面白さみたいなことが伝えきれていないんじゃないかという気がする。
Q.私も高校で物化生地の枠を取り払った高校の理科教育というものの必要性を訴えているが、な
かなかコンセンサスが得られない。私どもは物化生地の枠を取り払って、少なくとも高校1年
生で全員で学ぶ科学の基礎というものを設定しようというふうにしている。
Q.物化生地を超えて、そもそも科学論というか、科学的思考とは何かというのを僕らはどこでも
習わない。生物学者でも物理学者でも、科学哲学、科学論というのをきちっと習わないという
ところに、横の連携ができない1つの問題がある。生物学では仕組みについては非常に細かい
ことをやるが、個体より上のレベルでの生物学というのがほとんど教育の中で抜け落ちている
のが、生物の魅力を失わせることに関係しているのではないか。この問題と地域振興とは関係
があり、科学フェスタみたいなものを地域運動としてやっていくなんていうのも面白いアイデ
アじゃないか。
(2)発表概要2 仁平義明「大学生の思考の柔軟性は低下したか-ルーチンスの水差し問題の
6
解:15年間の変化-」
「できるだけ速く、例えば平仮名「お」を書くデモンストレーション」
:人間の間違い(急速反復
書字によるスリップ)
、一生懸命注意して、どんなエラーが起こるか知っていて、簡単で慣れてい
る行為であっても間違いは起こる。スリップ:特にわれわれの間違いの中でも自分がやろうと思
っていたものとは違う行為をやってしまうエラー。
「10 円硬貨の表と裏を、見ないで描くデモンストレーション」
:合計すると8つぐらいの要素があ
るが、日本人の成人で正しく書けるのは平均して2つ以下。日常的記憶の経済仮説:日常的場面
では環境が必要とする対象を必要な精度で記憶する。
(不必要には明細化しないで、適度に省略し
ている)
「モーゼ錯覚」
:
「箱舟には動物の1種類ごとに何匹ずつ乗せたでしょうか、モーゼは」という質
問-箱舟はノア。モーゼではない。だから答えられないのが正しい。
「ねつ造論文」の実験的作成(論文タイトル「人格の分裂誘発実験は可能か」
)
「大学生の思考の柔軟性は低下したか」:大学1年生におけるルーチンスの水差し問題の回答が
1979 年から 2005 年で反応が大きく変容している。ルーチンスの水差し問題は、表面的な課題とし
ては1つの解、単一解を発見するという装いだが、実際は最適解の発見の課題で、先行経験、前
にうまくいった経験が構えを形成するとルーチンスは主張。1988 年度は、学生が構えを形成し、
ルーチンスの主張と一致していたが、2003 年度になると、先行経験による構えの影響が確認でき
なくなった。柔軟な解をする割合が低い。センター試験において、短時間で、かつ多問正解とい
う要求への学習法の影響か。それは日常的な問題解決のスピードとアキュラシーのトレードオフ
という関係に反している。
「アイザック・アシモフの話」
:私たちは、科学教育とかそういう中でも、複数の解を想定した教
育も考えていかなければいけないのではないか。
【質疑応答】
Q.構え形成なしでやらせたときに、難しい方を先に解く学生が増えたのはどうしてか?
A.よくわからないが、そこにある記号を全て使わなきゃいけないという、そういう思いこみがあ
るのかもしれない。
Q.問題文で3つの水差し全てを利用することを条件としているように解釈できないか?
A.ルーチンスのオリジナルも同じ表現を取っている。
Q.1989 年の前後に起こった劇的な変化の原因として、センター試験のことが議論されているが、
それ以前から共通一次試験があったので、ここでは何が原因となったのか?
A.センター試験そのものが原因というよりは、恐らくそれ以前にこの辺で急激に起こっていた
小・中学校あたりからの教育というものが何か変わっていたのではないか。とにかく、環境要
因、教育要因しか考えられない。
Q.説明というのは一通りではなく、複数、あるいはもうこうでないこともあるんじゃないかとい
うことを考えるというのは確かに最近の子供たちはあまり得意ではないように思う。
(3)発表概要3 明和政子「コミュニケーションの誕生と進化:類人猿からヒトへ」
「模倣(今回は体を使った模倣に限定)の2つの機能」
:社会的な学習としての模倣-道具の使用
とか製作といった遺伝的には伝わらない情報を非常に効率的に学ぶことができる、社会的・倫理
7
的な能力の発達基盤としての模倣-他者の行為を自分自身の体でシミュレートしていくことで、
心の理論、他人の気持ちを自分の心とは独立して理解する。模倣することによって自己意識とか
他者意識ということが芽生える。ピアジェは、模倣能力は人のシンボルを表象する優れた能力と
述べている。
「チンパンジーにとってどういった行為を模倣することが難しいのか」
:赤いボールの上からボー
ルをかぶせるというふうな意味のない行為-ヒトの赤ちゃんは非常に簡単にやるが、チンパンジ
ーには非常に難しい。そのエラーが面白い。チンパンジーは訓練なしで行為を模倣することは非
常に希であった。チンパンジーとヒトの模倣における大きな違いとは、チンパンジーが他者の行
為を見るときに、他者の体の動き自体を見ているのではなく、操作されているモノのほうに注意
を向けている。他者の行為を見て、それをモノに関する視覚的な情報と、他者の体の動きに関す
る視覚的情報をそれぞれ情報処理して模倣に至る必要があり、ヒトの赤ちゃんの場合にはこの両
方のルートをうまく使って行為を認知し、それを出力として模倣しているが、チンパンジーはそ
のルートが非常に制限されている。ヒトはより正確な形で、身体の動きを含めた形で模倣するこ
とができるので、道具使用レベルを超えた形での技術を他者から受け継いでいくことができる。
正確に受け継ぎ、その情報を文化として蓄積していくことができる。
「メルトフ・ムーワ(1977 年) ヒトの新生児は表情を模倣できる、という事実を発表」
:大人が舌を
出すと、新生児が舌を出す(口を開けたり、唇を突き出す行為も同様)
。ホモイミタント-ヒトは
生まれながらに模倣する動物。ヒトの新生児模倣は生得的なもので、最も早い事例は生後 42 分で
確認。それから、生後2カ月ぐらいになると、この新生児模倣はいったん消え、生後1年ぐらい
すると、私たちが今できるような形の模倣が再び表れる(U 字型)
。
「チンパンジーの新生児模倣について(霊長類研究所)
」:チンパンジーの新生児、あるいは乳児
も、ヒトの表情を生まれながらに模倣することができる。チンパンジーでも生後9週以降になる
とこういった模倣反応が影を潜める。ニホンザル、テナガザル、リスザルには同様な模倣が共有
されていない。
「なぜヒトは身体を使った模倣をその後も発達させていくのか?」
:ヒトの赤ちゃんは生後9カ月
ぐらいから非常にうまく母親の模倣をしたり、ゲームの中で模倣のやりとりをしたりということ
が起こってくる。チンパンジーはヒトと同じような形では模倣能力を発達させない。ここが実は
ヒトの知性を支えている要因の鍵。
「模倣における2つの発達的なステージ」
:1つ目はいわゆる新生児模倣のレベル-ヒトの胎児は
既におなかの中にいるときから自己というものに関する知識をかなり蓄えている。ヒトの胎児は
お母さんの声を聞くと口を開ける。知らない女性の声を聞かせても反応はない。重要な情報と、
まあ今はちょっと無視しておいていいやというふうな情報というのを胎児も選択しているような
感じ。2つめは、生後二ヶ月くらいで新生児模倣が消えて社会的な振る舞いをするようになるス
テージ。例えば、あやすと非常にうまく返してくれる。そこで、あやしているほうも非常にうれ
しくなって、コミュニケーションがうまく進む。実はチンパンジーの赤ちゃんもこの2カ月の時
期に社会的になる。
「ヒトのコミュニケーションは複雑で三項関係的になる」
:ヒトのコミュニケーションというのは
非常に複雑で、ただ他者と自分、それから自分自身と物というふうな形での二者関係ではなくて、
その後三項的な関係、物を他者と共有しながらコミュニケーションするというふうな三項関係的
8
なコミュニケーションが始まる。そういったコミュニケーションによってヒトの模倣というのは
成り立っていく。チンパンジーでは三項関係的なものは見られない。
「物をめぐるやりとり、インタラクションの4つのタイプ」
:①一方向的:私がAさんをつつく、
②双方向的:Aさんと私が一緒に何か引っ張り合う、③物を交互交代的に扱う:私がAさんにこ
れをどうぞ、Aさんが私にどうぞというふうな形でやりとりをすること、④交互交代的行為:例
えば太鼓をたたく。とんとたたくと、Aさんが次にとん、とん、とんというふうな形でやりとり
をする。チンパンジーの遊びには他者との物を使ったインタラクションというのは非常に少ない。
人の場合には、日常的に三項関係的なインタラクションというのが非常によく見られる。
「インタラクションの中でヒトは他者と心を共有したいというのが非常に強い。」
:ヒトはヒトと
してひとりだけでは生きていけない。社会的な中でヒトらしさというものが育まれる1つの重要
な要因となっている部分だと思うが、この感情を共有したいという部分がヒトとチンパンジーで
は随分違っている。わざわざ赤ちゃんにモノを持たせて、持てるか持てないか分からないような
時期からモノを持たせてインタラクションする、行為を共有するということは、他者の心の状態
をシミュレーションするということにつながる。そういった教育、と言っていいのかもれないが、
そういった大人のガイド、導きがヒトらしさというものを非常にうまく成り立たせているんだろ
うなということ、最近よく考える。
【質疑応答】
Q.チンパンジーも集団生活しているのに、三項関係インタラクションがほとんど見られないのは
何故か?感情の共有は今の学生も好きだが、科学リテラシーなんかだと理性を共有するという
か、何かもう1段階行かないとこのプロジェクトは難しいのかなと思った。
A.三項関係的なコミュニケーションって実はすごく時間と手間がかかる。なぜそれが人に可能に
なったかというのは難しいところ。それは恐らく何らかのメリットがあったはず。チンパンジ
ーの生活の中では、三項関係的なやりとりの時間、労力を割くよりも重要な側面があったので
はないか。心の理論というのは自分の気持ちと他者の気持ちが異なるものだと理解できるとい
うこと。やはりそこにはメタ的な、回想的な理解があって、自分はハッピーで他者もハッピー
で、それを理解している自分。もう1段階、それをより客観的に見る自分というものがやっぱ
りなければいけない。いわゆる自己というものを理解する、他者をどう理解するかということ
が言えるためには、そのもう1段、客観的に見る自己、他者を客観的に見るというレベルが必
要だと思う。
Q.後でご褒美をやりますよね、そういうふうなところとの結び付き、S-R 的な結び付きというの
がどうもあるような気がする。人間の赤ちゃんとチンパンジーの赤ちゃんのあり方というもの、
あるいはチンパンジーと人間の違いみたいなもの、そういうものがお母さんのサイドで理解で
きるような方法はないものか。それが科学リテラシーに結び付くのではないか。そういうこと
の情報の発信が意外となされてないかなという気がする。
A.あれは基本的には食べ物に動機付けられてやっているということよりは、むしろ松沢先生に褒
められたい。松沢先生とチンパンジーとの日常的な関係の中で、社会的報酬というんでしょう
か、褒められたいから頑張るというふうな形での動機のほうがやっぱり強いような気がする。
それは非常にヒトらしい部分だと思う。ヒトの2、3歳児に匹敵する、模倣能力のあるボノボ
という種もいる。何を他者が子ども、あるいは赤ちゃんにすることが模倣能力を引き出すこと
9
につながっていくのかということが、遺伝的な部分だけではなくて、重要な点だと思う。私自
身よく県内の高校、保育所、教育委員会などでお話しさせてもらう。そうすると『すっごく目
が覚めました』という反応がある。やはりこういったことを聞かれる機会が非常に少ないと思
う。それを教育とか保育と結び付ける発想というのがなかなか日常的な場面では一般の方には
つながらないようだ。
Q.話を聞いたお母さん自身も、あっ、教育というのは本当に人間的な営みなんだなあときっと納
得して、それで手抜きの育児じゃなくて、一生懸命お子さんとインタラクションをするように
なれば、それが科学リテラシーの基礎づくりになるんじゃないか。
Q.チンパンジーに言葉を覚えさせる際、
「開ける」など、ものが変化するような単語は覚えるが、
「走る」など、何かやってる動詞は覚えないと聞いた。言語学としては非常に不思議なことに
思えたが、今日の話で、チンパンジーは、動きのほうには目が行ってなくて、モノのほうに行
っているということで、すごく何か納得したような気がした。
(4)発表概要4 山越言 「地域研究と自然科学の橋渡し:ギニアのチンパンジー保全活動の
現場から」
チンパンジーが隣人として暮らしている村(ギニアのボッソウ)において、最近チンパンジー
の群れが減りつつある。具体的には、村人が森を切り始めることから議論が始まる。
「畑をやめて
森を広げる」という外部者からの保全推進に対して、自然科学的に見ていては分からないが、社
会科学的・地域住民の視点に立ってみると、森林伐採行動にも必然性がある。
実は、昔から守られていたのは丘の頂上付近のみで、その周辺は以前は畑として使われていた。
当時、チンパンジーは畑荒らしをしてキャッサバを食べたりすることができた。住民も、チンパ
ンジーをご先祖さまの移り代わりというような信仰を持ち、少しくらい畑を荒らされても許して
いた。
科学モデル(ユネスコによるバッファーゾーン・ゾーニングのモデル)とローカルモデル(森の
一部を畑に)を比較すれば、やはりローカルモデルのほうに分があるように感じる。一方で、地
元の人たちに、隣の群れまで遠くてチンパンジーが行ったり来たりしないと困るだろうと言って
も、それに対するローカルな考えが出てこないということで、必ずしも万能だと言ってるわけで
はない。相補い合うべきものがあるということは少なくとも言えるのではないか。
科学社会論に結び付ければ、従来からの科学者が大衆を啓蒙するという考え方(欠如モデル)
に対して、近年は、ローカルノレッジが大事だとか、参加型が大事という形で、地域の人たちに
参加してもらっている現状がある。実際、本来あるべき姿というのはローカルモデル。
「アフリカ
人には意欲も理念もないし、保全なんか任したって駄目だ」というふうに言ってきたほうの考え
こそをむしろ変えるべき。ローカルモデルにある理念や意欲というものを発見していって、信頼
するということが大事。
【質疑応答】
Q.生物的な多様性を守るべきだという倫理的な判断はどこから来るのか。
A.一応、今の国際的な研究者の中の世論(スタンダード)では、やはり生物多様性の維持という
のが一番大事だろうということがいわれている。何か多様な崇高なものがそこにあって、それ
を守らなければいけないということを地域の人たちも信じているが、かなりそれに近い形で生
10
態学者も、それを外したらもう議論ができないという形で考えている。
Q.先ほどのお話と仁平先生のアシモフと工場労働者の会話が非常によく似ているような気がす
る。むしろ理数科離れしたほうがいいんじゃないかということにならないのか。旧来からある
学力、ないしは知識、技能というものがあればあるほど、現実に対応できないということにな
ってくるような気がしてならない。
」
A.1つの村で成り立っていることを見ただけで、実際この村以外のところで役に立つかという点
に関しては、文系的なアプローチで丹念にやっても、ほかの村では違うからということで終わ
ってしまうところもある。やはり一般性が大事だと思うので、そこは逆に言うと議論になって
ないと思う。自然科学を批判するようなスタンスで一応書いているが、批判して言い得たこと
は、実はあんまり広がりを持たないという欠点も持っているというふうに思う。
Q.本プロジェクト リーダーの北原先生は、科学リテラシーのこの運動の中で、日本という文化
の中で固有の科学像というのがあるはずだということを強調されている。それに対して異を唱
える科学者もいるし、私自身としてはどちらかよく分からない。だから、科学リテラシー像の
この運動全体が、何も全部普遍主義とか科学者の押し付けとか、そういうものだけじゃないと
いうことはこの運動全体の中にも含まれているし、特に人間や社会を扱うときには現場と科学
との折り合いをどうつけるかというのは非常に重要で、特に環境問題というのは、さっき清水
さんがおっしゃったとおり、これは規範が必ず絡む問題なので、純粋科学から一歩踏み込んだ
話になる。生態学者の側も従来の理学的な生態学では世の中の運営はうまくいかないというこ
とは十分承知しているんだと思う。
Q.科学的モデルとローカルモデルについて。大事なことは、ローカルモデルはある科学的モデル
を批判はしているけれども、ローカルモデルそのものが非科学的なものではないということ。
むしろ現代の科学によりサポートされるものなのではないか。
Q.科学者の思い込みだけでやった結論というのは一部しか見てなかったけれども、それをローカ
ルなナレッジと合わせることによってより合理的な解が出た。
Q.その状況でどう使うかということのない科学知識というのは多分あんまり意味もないし、共感
も持たれないのではないか。使い道を考えずに科学の楽しさを分かってもらおうというのは無
理。科学の楽しさが分かってもらえないから理科離れが進んでいる。
Q.従来の科学的モデルの足りないところに気付けるような仕組みをつくっていく。それを社会が
持てるようになるというのが社会における科学リテラシーなんじゃないかなということを示し
た研究だと思った。
Q.科学リテラシーが必要なのは、小・中学生、高校生だけではなくて、既にもう成長している地
域の社会の方。彼らが持っている科学リテラシーは今かなり落差が大きい。その落差をもっと
小さくする必要がある。
Q.ボノボのワンバというところでは、1990 年代に研究者たちはむしろローカルな考え方に基づい
て保全のマスタープランを立てた。その現地の人たちの社会的・経済的な状況が随分変わって
しまい、昔ながらの野生動物と住民との付き合いがかなり変質してしまって、必ずしも保全と
いうのがローカルモデルでうまくいっていない。
A.ある種アニミズム的な考え方が、今の国際的な行政に取り入れられてない。乗り越えられるべ
き野蛮なものだという考えがアフリカなどでは非常に強い。日本(東アジア)だけかもしれな
11
いが、ある種そういうアニミズム的なものと自然保護をくっつけ、それが前近代の遺物みたい
に思わずに現代的な課題として持っている国は珍しい。何かそういう考え方を輸出するという
のもおこがましい言い方だが、何か少しでも力になれないかなというふうには思うところがあ
る。
Q.絶滅する以前には、オオカミ信仰がニホンオオカミを守っていた。恐らくそのアニミズム的な
ものをうまく利用すれば共生できたものが、結局近代文化による環境破壊でなくなってしまっ
た。ここら辺をもう少し知恵として持つべきではないかという印象があった。
A.日本人もいまだに死後の世界がうんぬんという、オカルトとの境界があいまい。そこと非常に
バッティングする。南方熊楠は、そういう死後の世界を含めたアニミズム世界も記述している。
100 年前ぐらいの日本にあった統合的なものの見方で何かできないか。それがオカルトに走らな
い形でできないかというのが課題かなと思う。
(5)発表概要5 清水和巳 「政治経済学に必要なツールは何か?」
政治経済学:政治経済現象を実証的に分析する学問。政治経済現象とは社会現象一般。政治の
先生と経済の先生が一緒に仕事を行い、何か面白い教科書を書けないだろうかということで、教
科書を書き始めている。
対象とする読者:政治学、経済学の基礎を知っている大学の3、4年から修士の1年生。
伝えたいメッセージ
1)政治経済学の目的は、政治経済現象を因果論的に説明することにある。
2)方法には一長一短がある以上、研究者が「方法論」に自覚的であることは重要。
政治経済学の目的は、政治経済現象、いわゆる社会現象を因果論的に説明すること。物理学だ
と、説明する場合に正しいか間違っているかのゼロ・1の世界で考える方が研究者には多い。われ
われだと、ゼロ・1で正しい/間違っているというようなことはほとんどなく、グレーゾーンが非
常に多い。
その中で、より正しいような仮説と、より間違っているような仮説とは、区別できるだろう。
それを区別するためには、方法的には一長一短があって、それをどういうふうに組み合わせるの
か。方法のメリット、デメリットを研究者自身が知ることが重要。
より正しいであろう説明と、より間違っていそうな説明の区別をつくることは可能ではないか
ということを、科学、哲学をベースにしながら説明する。章立ては以下の7つ。
① 数理モデル(数理経済学者)
1.Large N な現象(観察)から、反復される現象に注目し、
2.その現象に共通する因果関係を、
「~の条件の下では、一般的に・・・の帰結が生まれる」
ということを「演繹的に」記述する。
② 統計(統計学者)
1.LargeN のデータを収集し、
2.そのデータにもっともフィットするモデルを割り出す。
3.その際、
「もっともフィットする」という基準はいったい何であるのかを明確にしておく
必要がある(尤度、最節約法、オッカムの剃刀・・・)
4.この段階では変数間に数量的な関係があることのみが確認されている。
12
③ 実験(実験社会心理学者+実験経済学者)
1.数理モデルで想定され独立変数-従属変数の関係、統計で相関関係の見つかった諸変数
の関係が。
2.実際に、因果関係になっているかどうかを検証する。
3.基本的な方法は「比較」
。
④ シミュレーション(工学者)
1.実験の代替物(というよりも)
2.パラメーターを操作することによって見出される新たな知見⇒理論(仮説)のリファイ
ンメントの色合いが強い(のではないか)
3.シミュレーションでは仮説の検証はできない。
⑤ 事例研究(歴史)
(政治学者)
1.Small N に注目することで、
「因果効果」だけではなく、
「因果メカニズム」を分析。
2.実験できない現象を、現実の least likely case、 most likely case を観察することで検証。
⑥ 社会調査-世論調査を例に-(政治学者)
1.世論調査により主観的現実:人々の選好、願望、偏見と投票行動の関係を調査する。
2.客観的現実:実際に、ある政党の政策が投票した人々の利益にかなっているかどうかを
集計データにより調査する。
⑦ 規範(法哲学者+社会選択理論家)
1.価値判断の基準(パレート効率性、マキシミン原理)を明確にし、
2.ある条件の下ではその基準が一般的に満たされる(満たされない)ことをフォーマルに
分析。
3.このフォーマルな分析を鵜呑みにせず、前提・帰結の意味内容を吟味し、新たな価値基
準を設定したら社会状態がどう評価し直されるのかを分析。
4.2と3の繰り返し
留意点
この本は基本的に方法論的個人主義に立っている。
⇒「個人の意思決定、行動が積み重なってマクロレベルの政治経済的現象を作り出す」と考
えている。
⇒「検証されるべき仮説も最終的には「個人」レベルで構築される」と想定している。
このような仮説の検証に必要なツールをあげてみた。
【質疑応答】
Q.今の話を伺っていて、新規性というところが1つも出てこない。新規性も立派な研究成果にな
る。非常に価値観が違うということも分かったし、こういった社会科学の先生方が大変そうい
う点で方法論的な考え方等を念頭に入れた研究の進め方をしているんだということが今日よく
分かった。
A.新しいものをつくるというのは、その現象を説明する新しい理論をつくるんのではなくて、新
しい物をつくるということか?
Q.自然科学というのは物をクリエイトするというのも大きな使命。化学の世界では、原子の世界
からだんだんそれをつくり上げていくというところでその結合を構成する。その辺のところは、
13
ある意味では哲学的な発想も必要になってくるところで、検証も必要。そういう意味で、一言
で自然科学と言っても非常に多彩だということを申し上げておきたい。
A.もしかすると政治経済学の中で新規的なものというと、メカニズムデザインなどが当てはまる
のかもしれない。
Q.逆に、自然科学の世界でも今盛んにデザインというのを強調するようになっていて、それは必
ずしも何かをつくり出すのではなく、つくるプロセスのデザインなどに対する価値のこと。そ
の辺が、融合の1つの切り口なのではないか。
Q.経済学は社会科学の中でいうと割と理学的だと思うが、例えば経営学だとか、物をいかに売る
かとか、そういうことはもっと実践的で、それは工学の発想なんかにちょっと近いのではない
か。
A.それは私もそのとおりだと思う。経営学でマーケティングをする人は、結構認知心理学などを
している。要するに人がどういう意思決定をして、どういうコマーシャルを見て買うかという
ことは、発想的に自然科学というより、人間科学に近いものである気がする。
Q.先生のお話を政治社会現象を因果律で読み解くとどうなるのか?最後には規範という言葉が出
てきて、因果論と規範の関係というのがいまひとつ分からない。因果論というのは演繹であれ
ば規範で導き出せるということであろうし、帰納的に言えば、
「前に言ったでしょう、だからこ
うなったでしょう」というような形になると思う。先生はその規範の置きどころをつまりどう
いうふうに因果論の中で置こうとされているのかというのがちょっと分からない。
A.私自身は実はこの規範のところに進化倫理学みたいなものを考えたいなと思っている。規範の
ところのベースにも進化理論のような自然科学をベースにしたようなものを置きたい。
Q.進化学は歴史科学として、物理科学と違った方法論を持っている。ただ、それが物理科学的な
方法論を取る人たちからは科学ではないという批判をずっと浴びてきた。やはり、再現実験で
きない歴史現象を対象にする場合には、自然科学でも社会科学と非常によく似たそういう比較
研究とか、あるいはそういうのだけから仮説検証を行っていくというようなこともあるという
のは、今日のお話を聞いていても非常によく分かって面白かった。
Q.今日、先生のお話を伺っていて、まさに教育科学の世界こそこういった考え方でものを見てい
ったほうがいいんじゃないかという気がした。先生の目からご覧になって教育科学はどう見え
ているのか。結果の検証とかそういうことを十分なされていないでいろいろ今議論されている
のかなというところを非常に強く思っているのだが。
A.今、結構教育を語っている人は、目的がよければ結果がいいというふうに考えている人が多い
のではないか。目的がいいからといって結果がよくなるということではないと思う。目的がい
いということに情緒的に流れるところに、どこかで戒める論理性みたいなものが必要。何か情
緒的に流れていくところと、そこにちょっと待ったをかける論理性の、名詞と形容詞の辺りが
実践的には重要なのではないかと、直感的には思う。
Q.最近の数学教育学の研究の大きな流れとしてこういう社会学的なアプローチと、もう1つは人
間的なアプローチがある。だから、まさしくここでやっていることと同じようなアプローチを
していると感じた。話を聞いていて、ほとんどツールは納得しながら聞いていた。ただ唯一違
うのが規範の中身。規範の中身が当然ながら効率性。私たちは人間をどう育てるかとか、文化
とは何かとか、そういうような視点で見ているんだというので、すごく違いが見えた。
14
Q.教育というのはとにかくある目標、ゴールを立ててやらなければいけない。科学者の場合には、
あることが正しいのかどうかという結論は、ちゃんとこれは有意な効果があったとかそういう
結論が出るまで科学者は結論を控えることができる。しかし、教育においてその社会の中であ
るゴールを立ててそれを実現するということは、どちらがいいのか分からなくてもやめること
ができない。つまり、どれがいいのか、その選択肢で結論が出ないままにやらなければいけな
いというのが、多分教育の宿命ではないかと思っている。そういうときに、どれがいいのかと
いうことをこういうふうな場で議論して、少しでもそのゴールが妥当なものかどうかというの
に近づける必要がある。ただ、教育をする者はとにかく、はっきりしないからやめますと言う
ことができないという、それが大変な宿命だろうなと思う。
Q.そうだと思うが、ただ、検証とかただ突っ走るだけだとやっぱりそれは困る。その両方だと思
う。
【司会者総括】
人間科学と社会科学、人文社会学ではこの背景には、僕らが何か一言言うたびに必ず異論を唱
える人が 100 万人ぐらいいるようなことを話している。だからまとまりようがないが、いろいろ
な意味で面白い議論ができたと思う。また、これから具体的な作業に入っていくときの手掛かり
も得られたんだと思う。
今日、もうちょっとお話しいただきたかったのは、例えば歴史の問題など。それから最後の規
範の問題(科学の「である」と社会科学の「べし」の間の問題)も本当は実はもっと話をしたか
った。その両者というのは本当に切り離せるものかどうか。切り離さなければいけないというの
が伝統的な考え方だが、法哲学なんかも含め、そこには非常に分かちがたい問題があると思う。
そこのところを避けずにこの科学リテラシー像をまとめることはちょっとできないのではないか
思う。
備考
人間科学・社会科学専門部会 第3回(2007 年 6 月 29 日)
会議名
人間科学・社会科学専門部会 第3回
会議責任者名
長谷川 寿一
会議年月日
2007 年 6 月 29 日(金)18:00~20:00
会議場所
東京大学(駒場)3 号館 116 号室
出席者名
長谷川寿一、辻敬一郎、伊藤たかね、清水和巳、二宮裕之、早川信夫、廣野喜幸、渡辺政隆、
(北原和夫、阿部好貴、斉藤萌木、曽根朋子)
15
配付資料
1.人間科学・社会科学専門部会の活動計画 (長谷川部会長)
2.人間科学・社会科学(目次案 Ver.1.0)
(長谷川部会長)
3.人間科学・社会科学専門部会作業計画(案)(辻副部会長)
4.Seven Evolutionary Steps to Human Knowledge Capacity: Steven Mithen の資料より(長谷川部会長)
主な討議事項
1.長谷川部会長より、資料と議題について説明。
今後の作業計画と、科学論の部分をどうするかを話し合いたいとのこと。
2.辻副部会長より、今後の計画について。
(1)部会報告書の方針
SFAA は羅列的な印象がある。日本の現在の教科書には、人間・社会に関する内容が各教科に分
散しているので、まとめて教科「人間」をつくるとしたら?という観点から体系化をはかる。
日本では、文系と理系が早期から別れるが、人々の科学観にもその弊害があらわれている。こ
のプロジェクトに人間・社会科学があるということを重要視し、他の部会とつながりつつ、独自性
を伝えていかなければならない。
(2)作業計画
関係分野が広いので、固有概念を羅列せず、取り上げる内容を厳選する。初段の作業はメンバ
ーの専攻分野に沿って進める。委員からの意見をまとめ、執筆は全員で分担する。フォーマット
は話し合いの中で決めていく。
現象レベルの記述に終わるのでなく、現象に底在するメカニズムを説明したり、現象を取り上
げながら方法論を説明したりすることで、現象の持つ機能を浮かび上がらせる。既知の問題だけ
でなく、未知の問題を取り上げる。
取り上げる事象を、種レベル、集団レベル、個人レベルに整理する。ロングショットからズー
ムアップもありうる。
可能な限り現実と結び付けたいが、体験的な部分のみを面白がられることは警戒する。現実的
問題や私的体験を導入とし、経験知と学知との関係(ズレ)についても触れる。
他部会と重なる内容も取り入れ、あとで調整する。
事象をまとめて図示する。項目と共に、理解するための構造をあわせて提示する。
21 世紀に予測される社会的な変化と学問の将来像を念頭に置く。
並行して、高校生の人間科学・社会科学に関する理解度の把握、日本学術会議の「大学の心理
学カリキュラム検討」や「中高生の歴史教育」に携わる人たちとの連携を行いたい。
3.長谷川部会長より目次案について
人間科学・社会科学各分野相互の関連が分かるようなストーリー(人類進化のストーリー)をつく
り、その中に不可欠な要素が散らばっていればいいと思う。人間や社会を科学的に理解するため
に、自然科学と人間・社会科学を統合したものを盛り込みたい。
〈以下、目次案に沿って説明〉
(1)自然界における人間の位置
16
①霊長類としてのヒト:人間の特徴である知覚・感覚の話を盛り込む。
②人類の進化:人間の将来を考えるための背景を教える。
(2)人間性について
人間は遺伝子レベルでは特殊なチンパンジーであるという認識に基づき、チンパンジーの中で
特殊なヒトが現れ、人間らしくなっていく過程を歴史軸に沿って話す。言語、文化といった人間
の特殊性について、それぞれの委員に書いてもらう。
*以上 2 章により、人間の歴史的位置づけを知ることができる。
(3)社会科学の方法と領域
①歴史研究:人間にとって歴史的思考がなぜ重要か。
②地域研究:社会問題をとらえる際のローカリティの重要性について。
*これら 2 節により、地理と歴史をコンパクトにまとめる。
③社会調査研究・実験研究:法と経済の話題を扱う。
(4)規範・倫理・法
プロジェクト全体のテーマである「善く生きるとはどういうことか」に関連して、人間固有の
問題として道徳、法制度の意味について具体的に書く。
(5)人類の未来への展望
4.報告書執筆に当たっての諸論点
(1)
「科学の誕生」という問題をどう書くかに関して
①知識の統合によって抽象概念が生まれなければ、科学は生まれない。その意味で言語能力との
リンクが重要。
②「科学は面白い」という感覚の源流は何かということを、心理学的に探ることはできないか。
たとえば、時間軸に基づいて自分の存在を知る安心感があるのでは。
③人間は原因を探したがる動物で、チンパンジーはそうではない。それがなぜかは、心理学、認
知科学、社会科学の知見を盛り込んで書いていきたい。
④人間の心は個環境で機能するということも重要。
⑤自然科学の誕生は、個の条件だけでなく、社会の役割に注目しないといけない。
⑥社会の性質と進化的条件を関連させて扱ってほしい。
⑦文明、都市、宗教のかかわりの中で科学が生まれたという考え方もできる。
⑧「科学の誕生」を独立の章にすべきかどうか。
⑨現在の人間が科学をする意味、この先、多様な情報の中で人間がどう科学的に考えていくのか
という問題をあわせて扱うべき。科学=物化生地という既成概念を壊してほしい。
(2)社会科学領域の書き方に関して
①社会科学では、基礎的な知識を出すのは難しい。ただ、最近の社会科学では個人に注目した法
則を見出すことで、社会現象を説明しようとする試みがいくつか行われているので、そういう
ものを紹介することは可能である。たとえば、民主主義国どうしの戦争は起こらないというこ
とを、個人の合理的選択論で説明できる。
②社会科学を考えるのにどういう視点が必要かを書けばよい。
(3)哲学、価値の扱いに関して
17
①「善く生きることの意味」というのは、科学技術リテラシーの範疇を超えるのではないか。
②人間の価値観はリテラシーとして書くのは難しい。
③科学技術の倫理はこの部会でとりあげるべきではないか。
④根源的な法や規範意識には人類学的裏づけがあるかもしれないが、それと現在の法体系とのず
れをどうとらえるか。
⑤「未来への展望」の章で、
「よく考えながらやっていくしかありません」という形で書く方法も
ある。
⑥自然科学の立場で考えることが、紛争解決や論理的な思考に結びついているということを述べ
たらどうか。
⑦環境問題への取り組み方が、ソーシャルディレンマとして論じ始められているということくら
いは書ける。
⑧従来道徳で教えられてきたことが、科学になりうるということを知るのは重要である。
5.今後の作業について
各委員が、項目、関連項目、キーワードを出し編集してみる。目次案に加え、
「個と社会」
、
「科
学の誕生」
、
「学びとは」というテーマも書いてみる。
備考
次回は、7 月 25 日。キーワードなどを持ち寄って検討する。
人間科学・社会科学専門部会 第4回(2007 年 8 月 8 日)
会議名
人間科学・社会科学専門部会 第 4 回
会議責任者名
長谷川寿一
会議年月日
2007 年 8 月 8 日(土)13:00~15:00
会議場所
東京大学(駒場)3 号館 116 室
出席者名
長谷川寿一、辻敬一郎、伊藤たかね、利島 保、戸田山和久、二宮裕之、長谷川眞理子、
山岸俊男、渡辺政隆、
(曽根朋子、阿部好貴)
配付資料
1.科学技術の智(人間科学・社会科学専門部会)第 2 案(長谷川委員)
2.意識と行動(構成案)
(辻委員)
3.人文・社会科学リテラシー
4.科学論入門/科学哲学入門、規範・論理・法のうち「論理」のパート(戸田山委員)
5.社会科学(山岸委員)
6.科学はいかにしてうまれ、成長していったか(廣野委員)
7.言語-普遍性と多様性-(伊藤委員)
18
8.数学教育の目的(二宮委員)
9.科学教育の目的(隅田委員)
主な討議事項
1.人間(ヒト)の科学(長谷川、辻、利島)についての議論
(1)心の発達ということで、
「発達ということ」
「発達を科学的に捉えるには」
「心の発達には生
物学的基礎がある」
「外界との出会いとコトバの発生」
「対人関係の変化にみる心の発達」
「教
育と心の発達」
「心の生涯的変化の意味を考える」という 7 つの主要項目がリストアップされ、
その説明がなされた。
(2)
(高校生との面談したときに感じたこととして)心理現象についての個別の知識はもってい
る(言葉は知っている)が、理解が偏っている。個別の知識を統合する枠組が与えられていない
のがその理由か。高校生にとって体系的なものが欠如している。あらゆるものが心理学の領
域として存在しているように捉えられ、心理学の領域構成が理解されていない。
(3)
「意識と行動」に関する構成案がだされた。
『心理の探究』として「心のとらえ方」
「心理の
解き方」
、
『心の諸相』として「心の表われ方」
「心のなりたち」
「心のからくり」
「心のはたら
き」
、
『心の科学と技術』として「社会貢献の道」とされ、それぞれについて説明がなされた。
(4)個々の用語の解説をするのではなく、心というトータルなものに対していろいろな側面か
らアプローチしようとしている。
(5)重複する部分があるので、今後整理していく。また、読み手を意識すると、一般的な心理
学でも用語や表現が難しすぎるとの意見がだされ、
「心の障害」についても少し触れることと
なった。
(6)心理学についての説明をするのか、それとも心理学でわかっていることを説明するのか、
ということが議論された。
「百科全書」にしない、とはいいながら、
「これは入ってないとい
けない」といった風に、概論の教科書的になってしまっている。
「似非科学にだまされない」
というのは重要ではあるが、
「科学とは何か」ということについて一般の人が誤解している部
分を正すことが第一に必要。そうすると、
「心理学が科学である」とはどういうことなのかと
いうことが大事になる。こう考えると、
「科学」
「こうでないと科学でない」といった視点が
重要になる。「心をトータルに捉える」のは難しいので、様々な視点を示そうとする。
「似非
科学」や「危険なもの」を見分けられることが必要。生活していく上で必要なことをあまり
にも知らなすぎるという現状がある。
2.伊藤委員の発表(資料「言語-普遍性と多様性-」参照)
山岸委員の発表(資料「社会科学」参照)と議論
(1)
「社会科学についての説明」はできるが、
「社会科学で分かっていることについての説明」
は難しい。社会科学といってもさまざまな意見があるので、個人の意見は書けるが、社会科
学の立場からの一般論は書けない。社会科学全体としてのトータルな了解はありえない。
(2)
「よく生きるための智」ということで道筋を付けたいが、それは価値の問題であり、価値フ
リーではいかない。人文科学では、健全な価値判断の位置づけを科学ができるであろうと考
えているが、社会科学ではそれは難しいのか。
19
(3)社会科学と言っても「歴史科学」などは扱わずに、局所的に纏めたものでもよい。
(4)なぜ社会科学をやるのか、ということは書いたほうがいい。
(5)社会科学にはいろいろな立場あるので、この部会で曼荼羅を書くのは難しい。いろいろな
分野ごとに、基本的なことが一貫していない。
(6)文化人類学は必要ならば執筆する。
3.戸田山委員の発表(資料「科学論入門/科学哲学入門、規範・論理・法のうち「論理」のパート」
参照)と議論
(1)ここで考えている倫理は、現象として倫理判断していることではなくて、直接的な倫理。
「ど
うすべきかという判断」をどう形成すべきか、ということ。そういう議論のやり方のこと。
大事なことは、倫理学の方法や倫理的な判断をするための方法を知ること。いろいろな立場
があるが、
「哲学だけではだめ」という立場から論を進める。倫理的な判断をするにも、議論
は合理的にすべきだと思う。倫理ですから予見を変えることもあるが、整合性についての要
請もある。
「倫理的な判断をしていきましょう」というリテラシーについて論じる。それは、
どちらかといえば方法的なもの。そう考えて、
「これだけもっていれば議論を整理できますよ」
というものになっている
(2)アメリカでよく使われる教科書に近い形なので、イデオロギーの面からの反論はそれほど
ないと思われる。
(3)
「人類の未来を全員で討議」はまた追って検討する。
(4)
「科学論入門」について。科学論は広いものと狭いものがある。今回の原稿は科学者に読ん
でもらうことを想定した。科学はどういう知的な営みなのかについてを書いた。科学哲学は
何か、それを学ぶとはどういうことか、科学についてメタ的な視点を持つことが重要、科学
哲学はどう進展してきたか、具体的にどんなことが論じられてきたか、科学の方法は何か、
その正当化はどうするかのか、科学的説明とは何をすることか、科学実在論論争、個別の科
学をもってきて個別の科学について書く、など。科学をメタ的にみることはクリティカル・シ
ンキングと近いということで、
「日常生活に役立つ」ということが言えたらよい。
4.二宮委員の発表(資料「数学教育の目的」
、
「科学教育の目的」参照)と議論
(1)学ぶとはどういうことかについて。大きく2つ考えた。学ぶとはどういう現象か、と、学
ぶということがもつ意味について。後者が今求められている。このプロジェクト自体が後者。
数学教育と理科教育でそれぞれ検討しているが、技術科も含め、それぞれの教科間のすり合
わせはまだできていない。隅田委員は、陶冶、実用、文化、社会の 4 点を指摘した。数学で
も陶冶、実用、文化がある。
(2)学ぶことの意味について焦点化してもらって、数学教育と理科教育の意義をまとめてもら
いたい。
5.今後の予定
(1)8 月 10 日までに 1 事案を提出する。10 月くらいまでに、一人 5 枚くらいの原稿を作成する。
(2)専門部会報告は、一般が読めることが理想ですが、この部会の人が読めることが最低条件。
20
(3)8 月 27 日にシンポジウムがある。一番の山場。
備考
人間科学・社会科学専門部会 第5回(2007 年 9 月 10 日)
会議名
人間科学・社会科学専門部会 第 5 回
会議責任者名
長谷川寿一
会議年月日
2007 年 9 月 10 日(月)
・11 日(火)
会議場所
北海道大学文学部亀田研究室
出席者名
亀田達也、清水和巳、山岸俊男
配付資料
主な討議事項
1.社会科学について
備考
人間科学・社会科学専門部会 第6回(2007 年 9 月 29 日)
会議名
人間科学・社会科学専門部会 第6回
会議責任者名
長谷川寿一
会議年月日
2007 年 9 月 29 日(土)13:00~15:00
会議場所
東京大学(駒場)3 号館 116 室
出席者名
長谷川寿一、辻敬一郎、伊藤たかね、木畑 洋一、利島保、二宮裕之、松本三和夫
(長崎栄三、斉藤萌木、曽根朋子)
21
配付資料
1.人間科学・社会科学専門部会報告書骨子(案)
2.科学教育とは
(二宮委員)
3.専門部会報告書の書式
4.第 1 回報告書作業部会議事要録(案)
5.総合報告書骨子案(案)
(第 1 回報告書作業部会資料)
6.第 1 章「21 世紀を豊かに生きるための科学技術の智」に向けて(案) (第 1 回報告書作業部会
資料)
主な討議事項
1.長谷川部会長より資料説明と新メンバーとして、歴史学担当の木畑委員が紹介された。
2.辻副部会長より、プロジェクトの進行状況と報告書作業部会について報告
(1)総合報告書の第 1 章「21 世紀を豊かに生きるための科学技術の智」は、人間科学・社会科
学部会で担当する科学哲学や科学教育の内容と重なるので、意見を欲しい。
3.部会報告書について
(1)全体に関して
①3 章構成とし、名称は「第 1 章、第 2 章、第 3 章」とする。
②1 担当者当たり A4 で、5~10 枚とし、10 月 25 日を部会の締め切りとする。書式はプロジェクト
の規定に沿う。11 月の閲読会を視野に入れる。
③語句からリテラシーを定義するのではなく、概念から議論する。具体例も適宜加える。科学者
として人々の意思決定の土台をつくることを目指す。
④他部会との記述の重複はとりあえず気にせず、あとで調整する。
(2)第 1 章(旧 0 章)に関して
①1.1 担当:戸田山委員
1)総合報告書の第 1 章との刷り合わせが重要である。
2)
「科学とは何か」という問題は難しいので、この部会としての考えを提示する。
②1.2 担当:広野委員
1)科学本来の持つ意義を強調したい、日本の科学という視点を入れたいという北原委員長の
考え方を踏まえる。
③1.3 担当:松本委員
1)広い意味での科学論と社会科学の橋渡しを行う。
2)
「科学技術と社会」という主題で執筆する。
3)科学者の社会的リテラシーの欠乏という観点を踏まえてほしい。
④1.4 担当:隅田・二宮委員
1)科学教育の目的は、理科、数学、技術の合意事項として執筆する。まずは数学教育の目的
論を「数学=科学」と読み替えて素案を作り、理科と技術の観点を加える。部会に技術教育
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の専門家がいないので、技術部会にコメントをもらいたい。
(3)第 2 章(旧 1 章)に関して
①2.1、2.2 担当:長谷川部会長・長谷川眞理子委員
1)特になし
②2.3 担当:辻副部会長
1)心理学は現象の記述で満足しがちなので、それではいけないとい点をうったえたい。
2)心理と脳の関係については、生命科学と重なる問題だが、
「ちがう」ということのみ強調し
心理学の観点から執筆する。心のからくりを脳の働きに求めることで、その相関に言及する。
③2.4 担当:利島委員
1)発達の方法論を入れるかどうか。
2)発達障害はリテラシーとして扱った方がよい。支援技術の問題から科学技術という観点も
強くなる。環境ホルモン、発達の加速化など、環境に影響される人間の変化・公害病など。
(コ
ラムとして掲載するか?)
④2.5 担当:伊藤委員
1)具体例をどの程度交えて書くべきなのか??
(4)第 3 章(旧 2 章)に関して
①今回の委員の顔ぶれでは、法学や地域研究を網羅できないが、致し方ない。
②価値、規範、思想的立場など、実証的な社会科学と対局にある社会科学は網羅できない。
③3.1 担当:社会科学チーム(亀田・清水・山岸委員)
1)人間の経済活動を中心的なテーマとし、専門とするメンバーがいない法学と地域研究は無
理して扱わない。
2)社会科学には価値・規範・思想を前面に押し出すところもあるが、ここでは実証的な部分
を中心にまとめていく。
3)自分たちが社会科学の代表であると誤解されては困る。
④3.2 担当:戸田山・松沢委員
1)前回、素案検討済み:倫理学の ABC。
「21 世紀の地球生命倫理学(仮)
」を追加。
⑤3.3 担当:松本委員
1)科学と社会の界面で生じる問題を主題とする。
2)3.1 との調整が必要。
⑥4 担当:木畑委員
1)人間と社会にとっての歴史の意義、歴史と科学の関係などを主題に考えている。
⑦3.5 担当:松沢委員
1)グローバルなどふまえ、将来に向けてメッセージ性のあることを書いてもらう。
4.そのほか
(1)作業予定、部会報告書の書式と分量、他部会の進行状況、周辺の動きなどについて長崎事
務局長と討議。
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備考
次回の予定は決まっていない。
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