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トップインタビュー ティモシー・J・ファレル 米国タコマ港湾局長
さ ら な る 成 長 へ 、 ロ ー カ ル 貨 物 の 拡 大 に 自 信 4 TOP INTERVIEW L A / L B 港 か ら の 内 陸 貨 物 シ フ ト を 期 待 CARGO NOVEMBER 2008 米国北西岸(PNW)地域を代表する国際貿易港、タコマ港。米国内陸部向けのインターモーダ ル貨物の取扱量が多数を占める同港において、さらなる成長のためにはローカル貨物の取り扱い 強化が大きな課題の1つ。ティモシー・J・ファレル港湾局長は「タコマ近郊では今後15年で人口 が25%増えるという数字がある。また、大手小売業などによる物流センター開設が相次いでいる ことから、ローカル貨物の取扱量は今後、拡大する」と自信を見せる。同氏はまた、西岸最大の ゲートポート、ロサンゼルス、ロングビーチの両港では、環境問題も絡み大規模な港湾拡張が困 難になる一方、カリフォルニア州の人口増でローカル貨物への対応に重点を置かざるを得ないと の見方を示し、 「内陸向け貨物がタコマ港にシフトする可能性は高い」と期待を寄せる。 80年代にコンテナ取り扱い本格化 ターミナルを利用しての寄港ですが、今年 □ファレル 最大の理由は、オンドックの鉄 から商船三井のサービス船もタコマ港に寄 道施設の整備が進んでいることだと思いま □本誌 タコマ港でコンテナ貨物の取り扱 港しています。あと、昨年7月に発表しまし す。タコマ港では81年に米国で最初のオン いを始めた経緯を聞かせてください。 。 たが、ブレア水道東側に整備する新しいコ ドック鉄道施設、ノース・インターモーダル・ □ファレル コンテナ貨物を取り扱い始め ンテナターミナルを日本郵船が借り受けるこ ヤードを整備しました。コンテナ船が本格的 たのは1960年代にまでさかのぼりますが、 とが決まっています。新ターミナルの稼働開 に寄港を開始する前から、将来のタコマ港 本格的に取り扱いをスタートしたのは80年 始は12年を予定していますが、邦船3社す 発展の青写真を描く上で、こうした施設が 代ですね。最初に、専用ターミナルを借り べてにタコマ港を利用してもらえることにな 不可欠だと判断しました。川崎汽船の米国 受ける形で利用を開始したのは当時、世界 りました。今後も、マースクやエバーグリー ターミナル事業会社ITS (International 最大の定航船社だったシーランド。85年か ン、3大アライアンスメンバーでタコマ港を利 Transportation Service) は、このノース・イ ら寄港を始めました。次にマースクが専用 用している船社以外にも、積極的に利用を ンターモーダル・ヤードを見て83年にハスキ ターミナルを借り受けて、タコマ寄港のサー 働き掛けていこうと考えています。 ー・ターミナル社を設立、ターミナルの専用 ビスをスタートしました。マースクは当初、ハ □本誌 スキーターミナル社の運営するターミナルを が候補になりますか。 てタコマ港の将来性を評価してもらったの 利用していましたが、同ターミナルに川崎汽 □ファレル 名前の挙がった2社だけでなく、 だと考えています。現在では、マースクだけ 船のサービス船が寄港することが決まり、新 タコマ港を現在、利用していないすべての有 でなく、エバーグリーンや現代商船なども専 たに自前で専用ターミナルを整備し、そこ 力船社との関係強化を目指していきます。 用のオンドック鉄道施設を利用しています。 にシフトした格好です。川崎汽船の寄港は □本誌 ブレア水道東側には、もう1つ分、 12年から稼働する日本郵船の専用ターミナ 88年、今年で寄港開始からちょうど20周年 新ターミナルを整備することができる用地が ルでも、同じように専用の鉄道施設を設け の節目を迎えました。90年代に入るとまず、 ありますね。 ることになるでしょう。 例えば、MSCやCMA-CGMなど 借り受けを決めました。この鉄道施設、そし エバーグリーンが91年、それに続いて現代 □ファレル はい。ただし、この用地を将 □本誌 タコマ港は国際海上貨物、特に米 商船が98年にそれぞれ専用ターミナルを借 来、どのように活用していくのかは、まだ検 国内陸部向けのコンテナ貨物が大きな比重 り受け、タコマ寄港を始めました。2000年以 討中です。コンテナターミナルにするのか、 を占めていますが、一方で米国内を動く貨 降は、川崎汽船がターミナル3、4に移転し コンテナ船以外の船種が寄港するターミナ 物、とりわけアラスカと米国本土を結ぶ重要 ◎米国タコマ港湾局長 たのに伴い、ヤンミンが川崎汽船の跡地に ルにするのか、当面はこの用地に関する発 な結節点という役割があるのではないでし ティモシー・J ・ファレル 氏 専用ターミナルを設け、05年からサービスを 表を行う予定はありません。 ょうか。 Timothy J.Farrell Port of Tacoma Executive Director □ファレル そうですね。今後、タコマ港が 開始しています。 □本誌 今年に入り、商船三井もタコマ港 米国初のオンドック鉄道施設整備 の利用を開始しました。 さらなる成長を実現するためには、国際貨 物の取り扱い拡大はもちろんですが、アラス □ファレル そうですね。専用ターミナルで □本誌 タコマ港を利用する船社が増えた カトレードの成長が必要不可欠といえます。 はなく、現代商船のワシントン・ユナイテッド・ 理由を、どのように分析していますか。 アラスカ関係の貨物の70%はタコマ港で取 CARGO NOVEMBER 2008 5 TOP INTERVIEW り扱っています。その大半を、ホライゾン・ラ 民に十分な配慮をし、理解を得る必要があ イン、そして地元のトーテム・オーシャン・トレ ります。このほか、タコマ港を利用する船社 (他の港がタコマ港を上回るペースで取扱 イラー・エクスプレス (TOTE)の2社が海上 だけでなく、タコマに鉄道を乗り入れている 量を落とすことで) タコマ港のシェアは上昇 輸送しています。 ユニオン・パシフィックやBNSFなど鉄道会 するのではないでしょうか。 社との良好な関係維持も、われわれにとっ □本誌 コストの上昇と荷動き減少の同時 て重要な課題です。 進行により、定航各社の航路収支は極めて 周辺に潤沢な開発用地 □本誌 世界経済、米国経済は今、非常 ら、コンテナ取扱量は減りますが、一方で、 厳しい状況にあります。 で い ま す 。 タ コ マ 港 に お け る ロ ー カ ル 貨 物 の 取 り 扱 米 大 手 小 売 業 者 な ど に よ る 物 流 倉 庫 の 設 置 が 相 次 い □本誌 次に、タコマ港の優位性、今後の に厳しい状況にあります。 課題を聞かせてもらえますか。 □ファレル 現時点(9月下旬)で、今後の 極めて深刻な状況にあり、定航各社が苦し □ファレル まず、タコマ港周辺には、さら 経済情勢を見通すことは極めて困難であ い状況にあることは良く理解しています。早 なる開発が可能な用地が残されている、と り、明確なビジョンを示すことができる人な くこうした異常事態が解消され、利用者で いうのが最大の強みといえるのではないで どいないのではないでしょうか。ただ、1つ ある船社が、北米西岸サービスで正当な利 しょうか。また、自然条件にも恵まれており、 言えることは、少なくとも今年中の経済回復 益を享受できるような環境になればいいと 水深は51フィート (15.5m) を確保しています。 は絶望的だということ。経済の失速に伴い、 考えています。 一方で、今後の課題として最大のものは、 今年に入ってから、タコマ港におけるコンテ 自分たちでは解決できない部分にあると考 ナ取扱量も前年実績を割り込んでいます。 えています。港の成長は外部要因に左右さ 今年1∼8月の実績では前年同期比で1.7% れやすい。具体的には、グローバルな経 のマイナスとなりました。しかし、米国西岸 □本誌 済、とりわけ米国経済が持続的な成長を続 全体で約8%の減少になっていることを勘案 取扱量はどのように推移するでしょうか。 けない限り、タコマ港の成長も難しい、とい すれば、タコマ港のマイナス幅は他港に比 □ファレル うことです。また、タコマ港の成長には地元 べ小さい。これは、タコマ港がコスト競争力 量は拡大基調で推移する、とみています。ま の理解、協力が不可欠です。ターミナル、鉄 のある港である、と利用者から認識してい ず、取扱量そのものは、これまで国内総生 道、道路の拡張を進めていく上で、地元住 ただいている結果とみています。残念なが 産(GDP)成長率を上回るペースで拡大し カリフォルニア州の人口増大 います。その第一の根拠はタコマ近郊の人 てきています。過去15∼20年の数字を振り いう点に触れられていましたが、もう少し詳 で、ロサンゼルス、ロングビーチの両港はロ 口が増加しているということ。今後15年で人 返ると、タコマ港におけるコンテナ取扱量は しく聞かせていただけますか。 ーカルマーケット向けの貨物の取り扱いを優 口は25%増えるという予測数字があります。 GDP成長率の2.5倍の伸びを示しています。 □ファレル アジアから北米東岸の諸港を 先せざるを得ない状況になるのではないで 第二の根拠として、タコマ周辺からアジアな 今後は今までのような高成長は見込まれな カバーするサービスでは、パナマ運河の通 しょうか。港湾のキャパシティーをローカル貨 ど諸外国向けの西航貨物の取扱量が近 いかもしれませんが、GDP成長率を上回る 航料が段階的に値上げされています。さら 物に優先的に振り向ける結果、内陸向け貨 年、急速に伸びている点が挙げられます。 取扱量の増大は続くと考えています。一方、 に、西岸サービスに比べ投入船のサイズを 物の取り扱いが減るのではないか、とみて 最近では、米国からの輸出貨物用にコンテ 取扱量にネガティブな影響を与えるのでは 小さくせざるを得ず、かつ隻数も多くする必 います。例えば、エバーグリーンはタコマと ナを確保することが困難になっています。そ ないかと考えられる要因もあります。コスト 要があるため、運航コストは割高になります。 ロサンゼルスに専用ターミナルを有していま のいい例が穀物を輸出するケース。米国か 増や生活水準の向上で、世界の工場、中国 こうした点で、タコマ港はまず東岸諸港に対 すが、ロスのターミナルのキャパシティーは限 ら穀物をバン詰めし、輸出したいという業 から生産拠点が米国やカナダ、メキシコなど しコスト競争力があると言えるでしょう。一 界に達しているようです。一方でタコマ港の 者が増えていますが、コンテナ不足ですべ 北米大陸に回帰することで、アジアからの 方、カリフォルニア州のロサンゼルス、ロング ターミナルはまだ、幾分余力があり、さらに ての輸送需要に応えられないというのが実 東航貨物が減少するのでは、との見方が台 ビーチの各港は、大都市を背後圏に控えて 同社はタコマ港のターミナル能力を40%拡 情です。定航各社には西航貨物用のキャパ 頭しています。 おり、環境問題への対応を優先せざるを得 大する権利を有しています。エバーグリーン シティー拡大を期待したいですね。 □本誌 ということは、マイナス要因をプラ ず、大規模な再開発、それに伴う許認可の は内陸向け貨物をタコマにシフトするだけ □本誌 最近は、大手荷主企業がタコマ近 ス要因が上回る、とみているわけですね。 取得が極めて困難になっています。環境問 の余力を持っているといえます。 郊にディストリビューションセンターを開設す そうです。中国から北米への 題への対応の一環で港湾関係の諸チャー □本誌 米国内陸部向け貨物の取扱量は る動きが活発化しているようですね。 生産シフトがあったとしても、そのマイナス影 ジを課す動きが加速しており、利用者のコス 今後、拡大が予測される一方で、タコマ港 □ファレル はい。米大手小売業者などに 響はトレード拡大に比べ、規模は小さいと ト負担が増大しているように見受けられます。 のさらなる成長には、ローカル貨物の取り扱 よる物流倉庫の設置が相次いでいます。例 思います。最初に述べましたようにタコマに □本誌 そうすると、今後はPSW港を経由 い強化も必要なのではないでしょうか。 えば、家具販売大手のイケアはこのほど、タ □ファレル り 扱 い を ス タ ー ト し た の は 1 9 8 0 年 代 で す ね 。 6 CARGO NOVEMBER 2008 6 0 年 代 に ま で さ か の ぼ り ま す が 、 本 格 的 に 取 最 初 に コ ン テ ナ 貨 物 を 取 り 扱 い 始 め た の は 1 9 確かに、運航コストの上昇は い 拡 大 に 大 き く 貢 献 す る で し ょ う 。 長期的に取扱量は拡大 長期的には、タコマ港のコンテナ □ファレル 結論から言えば、今後も取扱 おける海上コンテナの取扱量は着実に、拡 それはもちろんです。ローカル していた貨物がタコマ港などPNW港にシフ □ファレル 大する方向で動いていくでしょう。 トする可能性があると考えていますか。 貨物の取扱量は今後拡大する、と確信して □本誌 先ほど、タコマ港のコスト競争力と □ファレル CARGO NOVEMBER 2008 7 TOP INTERVIEW コマ近郊に100万平方フィート (約9.3ha) に 及ぶ広大なディストリビューションセンターを 開設しました。このほか、ホームデポやター ゲットストア、ピア・ワン・インポートなど大手 小売業者が物流拠点を開設済みです。こう した動きも、タコマ港におけるローカル貨物 の取り扱い拡大に大きく貢献すると考えて います。 地元住民への配慮、細心の注意 □本誌 カリフォルニア州における環境問 題への取り組みに言及されましたが、タコ マ港でも環境問題は重要なテーマなのでは ないですか。 □ファレル 先に話しましたが、タコマ港と してはまず、地元住民への配慮を怠らず、理 解、協力を得ていくことに細心の注意を払 っています。最近の調査では、タコマ近郊の 住民のうち、約84%の人たちが将来のタコ マ港の発展を期待しています。港の発展は、 解 、 協 力 を 得 て い く こ と に 細 心 の 注 意 を 払 っ て い ま す 。 タ コ マ 港 と し て は ま ず 、 地 元 住 民 へ の 配 慮 を 怠 ら ず 、 理 ■略歴(ティモシー・J・ファレル) ワシントン大学で港湾・海運経営の修士号を取得。以降、マサチューセッツ 港湾局、シアトル港湾局で港湾行政に携わり、2000年にタコマ港湾局に副 局長として入局、04年から現職。65年生まれ。 海運事業、また貿易関係の仕事などビジネ スチャンスの拡大に貢献します。また、ビジ ることもありませんし、道路が大きなダメージ 内外に広く伝わっています。 “タコマのタイガ ネス拡大は、雇用の増大にもつながるでし を受けることもないため、市の負担も軽くな ー・ウッズ” という呼び名は、私どもの耳にも ょう。港の発展と環境問題への対応を両立 ります。しかし、環境問題への対応は重要 入っています。 させていくことは難しい作業かもしれません だということは十分認識しており、例えば港 □ファレル 私は常々、自分が“タコマのタ が、地元の人々の理解を得ながら、港湾機 内のストラドルキャリアをはじめとする荷役 イガー・ウッズ” と呼ばれるたびに、 「その呼 能の強化を粛々と進めていきます。実は、タ 機器の燃料には、低硫黄燃料を使うことを び方はちょっと違っています。タイガー“イン・ コマ港を経由して米国内に向かう貨物の多 義務付けているほか、老朽機器の代替にも ザ”ウッズですよ」 と説明しています。この名 くは、環境負荷の低い鉄道で輸送されてい 積極的に取り組んでいます。さらにタコマ港 の示すとおり、ゴルフコースでは、いつも林 るのです。例えばタコマで荷揚げされた貨 利用の船社の協力を得て、全体の約7割の の中(in the woods)にいます。打球が、 物のうち、穀物は100%、完成車の80%、コ 入港船で低公害燃料を使用してもらってい 右へ左へと曲がってしまうんです(笑) 。 ンテナの70%、ブレークバルクの半分が、内 ます。われわれはもとより、タコマ寄港船社 □本誌 休日はゴルフをプレーしていること 陸向け輸送の手段として鉄道を利用してい など利用者の方々にも地元への配慮をして が多いのですか。 ます。トラック利用の比率は他港に比べて いただいていることもあり、港の成長に否定 □ファレル 低いのがタコマ港の特徴です。 的な見解を示す人の数は非常に少ない。 レーをしていましたが、今年、娘が生まれて □本誌 なるほど、環境問題の元凶の1つ こうした状況は、ワシントン州の知事も理解 からは、そちらにかかりきりです。ラウンド数 と考えられているトラックの利用を必要とす しており、環境問題への対応をはじめ、港 はずいぶんと減ってしまいましたね。 る貨物が、タコマ港では最初から少ないわ 湾の利用者に対する新たな税やチャージの □本誌 本日はお忙しいところ、どうもあり けですね。 課徴は特に考えていません。 がとうございました。 そうです。トラックの利用率が □本誌 最後に、プライベートな質問になり 低いため、港湾周辺の道路渋滞が発生す ますが、ファレル局長のゴルフの腕前は国 □ファレル 8 CARGO NOVEMBER 2008 かつてはほぼ毎週のようにプ ( 聞き手:西 拓 也 、写 真 撮 影:B r i a n DalBalcon)