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11.九官鳥

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11.九官鳥
9
6
昭和 6
0
.1
0 第3
9号
ダクタイル鉄管
?J で あ っ た 。 世 話 の こ と な ど ま っ た
考えていなかった私にとっては、まこと
に厳しい指摘であった。いき掛かり上、
世話役は娘に押しつけたものの、実際に
はほとんどの世話は妻の仕事になるだろ
うことは明らかであった口わが家の住人
罵
になった九官鳥は、いちばん月なみで手
っ取り早い「九ちゃん」と名づけられて、
鳥鑓の止まり木の聞を跳びながらきわめ
て上機嫌の様子であった。
「鉄は熱いうちに打て」の言葉通り、さ
っそく幼児(鳥)教育にとりかかったが、
九ちゃんに言葉を覚えさせることは、思
ったより根気がいる仕事であった。「おは
よう J や 「 今 日 は 」 な ら 簡 単 に 覚 え て く
れるものと考えていたのに、なかなか覚
える気配もみせず、やきもきしたもので
大阪市水道局総務部長
丸 山 修
ある。生毛が生え変わり、羽毛がしっと
りとした成鳥のそれとなり、体もほっそ
りと引き締まる頃に、九ちゃんはオレンジ
色の艶やかなくちばしを動かして、意味
九官鳥を飼っていたことがある。テレ
ある第一声を発した。苦心惨たん教え込
ビで歌をうたう九官鳥が紹介されたよく
もうとしていた「台はよう」でも「今日
目、当時小学生であった娘にせがまれて、
は」でもなく、手ムカ~'þ良を叱ったり、 E子び
令やかしに出かけてみた
ペットショップヘJ
つけるときに発するやや甲高い「トモコ
のがきっかけてもあった。テレビに出 j
寅し
/J であった口立良はふくれっ面をするし、
た九官鳥の歌唱力は、思いがけないほど
私は自分の教育能力の欠如にがく然とし
すばらしかった口九官鳥が、「おたけさん」
たものである。一度発声のコツをつかむ
や「おはよう」と片言をしゃべるのは昔か
と、しばらくして「おはよう」や「今日
らしっていたが、小首をかしげつつ、か
は」もしゃべり出すようになり、妻の笑い
なり長い歌詞を間違えずに歌っている九
声や隣家で飼っているマルチーズの鳴き
官鳥を見ていると、私にも教えられそう
声、自動車の警笛など、次々にレパート
な気がしたものである。
リーを拡げるようになった。
ペットショップにいた雛はまだ生毛も
九ちゃんの音に対する関心は非常に高
生え変わっていず、丸々とふくれた肥満
く、変わった音がすると動作を止めてピ
児のようであった。くるくると動かす目
っと動かず、首をかしげて聞き入るのが
玉がとても可愛いくて、無性に欲しくな
常である口真剣そのものの様子を見てい
ってしまった。大きな鳥龍をそっと抱え
ると、学生時代
て家に帰った私に妻が皮肉っぽくいった
ょうとし
言葉は、「一体、誰が世話をするのかしら
したりした。
9
7
随筆
りわけ驚いたのは、九ちゃんが単に
鳥同士の楽しい会話が交わせる
を覚えるのみならず、音の抑揚まで
理をして退屈な人間とのつきあいをする
すっかり真似をしてしまうことであった。
必要もなくなるからであろうかと考えな
息子の友人が来訪するたびに発する「丸
がら、すこしかわいそうな気もした。
山 君 /J を真似るようになったときは、
九官鳥の物真似能力にも個人差がある
2人 の 友 人 の 発 音 を 使 い 分 け て 、 息 子 が
そうである。飼い主の指導技術の上手・
間違えて玄関まで出ることもあったし、
下手や熱心さにも大いに関係するのであ
また、九ちゃんが真似ていると思って放
ろうが、あまり真似をしない鳥もいると
ってわいたら、本当にその友人が戸口に
聞いたことがある。飼い主が熱心に教え
立ちつくしていたこともあった。行商の
込もうとする言葉をなかなか覚えず、思
八百屋さんの声を真似て、「野菜いりまへ
いもかけない言葉を明瞭に発声するのは
んか J を い い 出 し た こ と も あ る 。 こ の 言
どうしたことであろうか。馬を水辺に連
葉が気に入ったのか、来客中に連発され
れていくことはできても、水を飲ますこ
たときはすこしばかり困ったものであっ
とはできないというように、九官鳥にも
たが、八百屋さんが遠方から車で近づい
自我があり、自分自身が興味を持ち、
てくると、必ず、といってよいほどしゃべり
生理的にも快い音のみを選別して覚え
出すので、妻はかなり重宝がっていた。
るのではないだろうか口その意味では物
八百屋さんの遠方の声を聞き分けるのか、
真似の上手な鳥より、物真似をしない九
それとも近づいてくる自動車の音を覚え
官鳥の方がむっくりと物事を考え、賢い
ていて、連鎖反応的にしゃべり出すのかわ
のかもしれないなぁと、他人の言葉にす
からないままであった。ときどき、まっ
ぐ付和雷同しやすい自分を反省して思っ
たく甲高い奇声を発するかと思うと、口
たこともある。
の中でボソボソといくら聞きとろうと耳
いずれにしても、わが家の九ちゃんは、
をそば立ててもわからないことをしゃべる
家族ぐるみの努力の甲斐もなく、歌をう
こともあった o ?両日隻したり、オ吋谷び、後:の
たったり、筋の通ったお話をするほどの
毛づくろいを済ませたりして機嫌のょい
才能はみせてくれなかった。よく考えて
と思われるときや、餌箱が空となって空
みれば、テレピに出られるほどの九官鳥
腹を訴えたいとき、テレピの音声や人の
はそうざらにあるはずはなく、物真似に
会話が聞こえたり、人の気配が感じられ
関しては秀才中の秀才に決まっている。
るときなどによくしゃべり出すようであ
人間の歌唱能力でも、プロ歌手から音程
った。
の狂った音しか出せない者までいること
九官鳥は本来さびしがりゃなのかもし
れない。友だちが欲しい、相手の関心をひ
きたい、なにかを訴えたいという気持が
を考えると、九ちゃんばかりを責めるわ
けにはいかない。
人 間 の 大 脳 皮 質 の 細 胞 は 140億あり、
物真似になるのではないだろうか。一度、
成 長 期 を 過 ぎ た 20
歳 頃 か ら 1 日1
0万 個 ず
九ちゃんがあまりさびしそうなので、友
つ機能喪失していくそうである。私の場
だちか配偶者を揃えてやろうかと、ペット
0億 以 上 の 細 胞 が ダ メ に
合など、すでに1
ショップへ相談にいったことがあるが、
なっているのだから、物忘れがひどくな
二羽揃えるとあまりしゃぺらなくなると聞
るのも仕方がないのかもしれなし」九官
いてやめてしまった。友だちができて九官
歯車問月包カfい く ら あ る の か は し ら な p
,鳥の H
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昭和 6
0
.1
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9
号
ダクタイル鉄管
が、その記憶能力についても人間のそれ
がしたので、妻が見にいくと、九ちゃん
とよく似た経過を辿るようである。
は床の上で動かなくなっていたそうであ
言葉をよく覚えるのは、好奇心の強い
る口よく朝、庭の片隅に穴を掘って、家
若いうちの方が活発であり、続けさまに
族みんなで九ちゃんを埋めてやった。猫
多くの言葉を覚え、しゃべるのが年を経る
がきて掘り上げないように、白い石を上
につれて機能低下し、物忘れがはビまる
に置いてやったが、娘の涙が石の上にポ
のだろう。九ちゃんも年をとるにつれて
タポタと落ちていた。
口数が少なくなり、しゃべる言葉の種類
もいつの聞にか減少してきた。
このように別れがつらいものとは、思
ってもみなかった。九ちゃんが元気な頃
九 ち ゃ ん が わ が 家 に 住 み つ い て 7年目
鳥籍の外に跳ね飛ばした餌を雀たちがよ
の冬頃から元気がなくなってきた。止ま
く食べにきていた。鳥蓄電の中でただー羽、
り木から止まり木へ跳び移る動作が緩慢
自由で友だちの多い雀たちを眺めていた九
となり、鳥寵の床の上にうずくまること
ちゃんの姿を目に浮かべながら、私はも
が多くなってきた。ある朝、ふと気がつ
うペットは飼わないことにしようと心に
くと、息が苦しいのか胸の羽毛が大きく
決めていた。
上下するのが目立ち、思いなしか目がト
O一
一
一
一
一
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一 O一
一
一
一
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一
ー
。
ロンとしているようであった。あわてて
通勤の道筋で九宮烏を飼っておられる
獣医さんの所へ連れていき、手当てをし
家がある。生垣越いこ鳥籍の中を活発に
てもらったりしたが、とうとう元気を回
動きまわっている九官鳥の姿が自に入る。
復しないままであった口冷え込みのきつ
朝の出勤時、私は小声で「九ちゃん、お
い日の昼下がり、鳥龍の中でガタンと音
はよう」といいながら通り過ぎ、る。
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