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立ち読み
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16/06/01 10:43
はじめに
前著『カタカナ語 目からうろこ』は筆者の予想以上に読
者に受け入れられ、また反響を呼んだ。光栄と言わざるを得
ない。
その背景には、カタカナ語が広く私たちの日常生活の中で
用いられ、その多くがもはや日本語として定着しつつあるこ
とが挙げられよう。
さらには、ふだん何気なく使っているカタカナ語に、その
由来などを含めて知的関心を寄せる人々が年々増えてきてい
ることも理由の一つかもしれない。
前著の序文では「氾濫するカタカナ語」などとどちらかと
いうと否定的な表現を用いたが、たとえば「コンプライアン
ス」などの難解な言葉がメディアに次々と登場しても、筆者
が日々接する学生諸君など若い人々のあいだでは、それほど
の乱用が見られない。むしろ「氾濫」しているのは、
「スマ
ホ」などに代表される略語である。たとえばファッション用
語「コンサバ」などはどうであろうか。これには ― 筆者
自身もそうなのだが ― 高年齢の読者の中には戸惑う方々
が多いのではあるまいか?
私たち日本人が外国語をカタカナ語に変えて受け容れるの
はなぜだろうか。前著では何らかの効用があるのではと考え、
それぞれの生み出す効果による分類を試みた。本書では、む
しろ私たちが日常生活において見聞きするものを、それぞれ
1
の場面やジャンルによって分けてみることにした。つまりは
生活者としての目線からカタカナ語を見つめ直す試みである。
とりあげた言葉は、どれも前著で扱えなかった語だが、日
常語として私たちが慣れ親しんでいるものばかりだ。しかし、
そのような平易なカタカナ語を掘り下げてみると意外な発見
がある。読者諸氏の興味をそそるものと確信している。
本文のさし絵は著者による
2
目次
Ⅰ 街の風景
…………………………………………… 7
フェスティバルとカーニバル………………………… 8
モールとアウトレット…………………………………11
ロード……………………………………………………13
カルチャー………………………………………………14
ホール……………………………………………………16
イベント…………………………………………………18
デモ………………………………………………………20
ポスト……………………………………………………21
Ⅱ 動く・移る…………………………………………25
オスプレイ………………………………………………26
アクセス…………………………………………………28
リニア新幹線……………………………………………30
ポータブル………………………………………………32
ツアー……………………………………………………34
ターミナル………………………………………………36
イージス艦………………………………………………38
ナビ………………………………………………………40
Ⅲ 音楽・歌・映像 …………………………………43
ロックンロール…………………………………………44
3
シンフォニー……………………………………………46
クラシック………………………………………………48
ビジュアル………………………………………………50
ミュージアム……………………………………………52
アーティスト……………………………………………54
エキストラ………………………………………………56
Ⅳ 身体・スポーツ …………………………………59
クリニック………………………………………………60
CT スキャン ……………………………………………62
リハビリ…………………………………………………64
バレーボール……………………………………………66
バスルーム………………………………………………68
プール……………………………………………………70
スタジアム………………………………………………72
パフォーマンス…………………………………………74
Ⅴ 着る・装う…………………………………………77
コスプレ…………………………………………………78
メイク……………………………………………………80
シャンプー………………………………………………81
ダウン・ジャケット……………………………………84
カジュアル………………………………………………86
4
Ⅵ 飲む・食べる
……………………………………89
ブラックとダーク………………………………………90
ウォーター………………………………………………92
スナック…………………………………………………93
パーティ…………………………………………………95
Ⅶ 心もよう
……………………………………………97
テンション………………………………………………98
モチベーション……………………………………… 100
ファースト・インプレッション…………………… 102
イメージ……………………………………………… 104
アンケート…………………………………………… 106
センチメンタル……………………………………… 108
マナーモード………………………………………… 110
Ⅷ アピール戦略
………………………………… 113
プレミアム…………………………………………… 114
サンドイッチマン…………………………………… 115
キャラクター………………………………………… 117
プレゼン……………………………………………… 119
リーズナブル………………………………………… 121
オリエンテーション………………………………… 123
5
Ⅸ 人の絆
…………………………………………… 125
スマホ………………………………………………… 126
カップル……………………………………………… 129
プライベート………………………………………… 131
アドレス……………………………………………… 133
ブライダル…………………………………………… 135
プロポーズ…………………………………………… 137
インテリ……………………………………………… 138
マニュアル…………………………………………… 140
Ⅹ 自然・地球・生態系 ………………………
143
ゴム…………………………………………………… 144
ソーラー……………………………………………… 146
メルトダウン………………………………………… 147
ストーブ……………………………………………… 149
エイリアン…………………………………………… 151
Ⅺ IT・ビジネス …………………………………
153
ログイン……………………………………………… 154
ツイッター…………………………………………… 156
マター………………………………………………… 158
シェア………………………………………………… 160
タスク………………………………………………… 162
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Ⅰ 街の風景
フェスティバルとカーニバル
──「祭り」は「楽しい」
一年の節目節目に催される祭り ―― 私たちは祭りを楽し
みに日々の仕事に励んでいる、そんな気さえする。
「祭り」と名のつくものは、東京・浅草の「三社祭」や京
都の「葵祭」など古からの祭り、あるいは「さっぽろ雪まつ
り」など今でも健在だが、現代では多くの場合、フェスティ
バルというカタカナ語がとって代わっている。
「街おこしフェ
スティバル」
「スプリング・フェスティバル」
「ミュージック・
フェスティバル」など枚挙にいとまがない。だが、
「マツリ」
という言葉には、どこか厳かでしっとりとした響きがある。
「サマー・フェスティバル」より「夏祭り」の方が風情が感
じられるような気がするのだ。
ちょっと余談になるが、大阪には 1958 年に竣工した「フェ
スティバルホール」がある。現在も大きな公演が行われ、関
西の文化拠点となっている。一方、宮城県の登米市には登米
祝祭劇場がある。大ホールが 878 席と大阪と比べてだいぶ小
規模だが、筆者はこの「祝祭劇場」というネーミングに威厳
と親しみを感じる。
このフェスティバル(英語の festival)という言葉につい
て探ってみよう。
その語源をたどってゆくと、festīvus という語につきあた
る。これは「楽しい」という意味のラテン語だ。まさに「祭
り」は「楽しい」そのものだ。
ま た、festival は「 祝 宴 」
「ご馳走」を意味する英語の
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feast ともつながりがある。「楽しい」
「祭り」
「祝宴」
「ご馳走」。
胸がわくわくする言葉の連鎖ではないか。
一方で、最近「フェス」
「フェスタ」という言葉を耳にする。
たとえば、
「野外フェス」
「音楽フェス」など。「フェス」はフェ
スティバルの簡略形と考えられなくもないが、
「フェスタ」は、
どこからきた言葉であろう。
「祭り」を表す主なヨーロッパ語をちょっと並べてみよう。
f iesta(s) (フィエスタ)
スペイン語
festa
(フェスタ)
イタリア語
fête
(フェット)
フランス語
Fest
(フェスト)
ドイツ語
こうして見てみると、
「フェスタ」は、どうやらイタリア
語に由来する言葉であることが分かる。フェスタはフェス
ティバルより言いやすい。もしかしたら「フェス」は「フェ
スタ」を短くしたものと言えるかもしれない。2013 年の参
議院選挙では、新しいスタイルの街頭演説「選挙フェス」が
現れ、東京・渋谷に何千人もの若者らが集結した。
さて、フェスティバルをとりあげると、自然と思い浮かべ
るのが
「カーニバル」。これは英語の carnival から来た言葉だ。
こ の carnival の 語 源 に つ い て は さ ま ざ ま な 説 が あ る が、
carne vale(カールネ バーレ)
「肉(carne)よ、さらば」
という解釈がよく知られている。キリストの復活を祝う毎年
春の復活祭(イースター)の前にカトリックなど西方教会の
文化圏で見られる。教徒は懺悔を行い、肉を絶つ。そして、
その苦行の前に大いに肉を食べお祭り騒ぎをする……。
「謝
肉祭」
(謝=わびる、ことわる、別れる)と日本語に訳され
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ているのは、このような説に由来するかもしれない。
カーニバルと言えば「リオ(・デ・ジャネイロ)のカーニ
バル」が代表的だが、ブラジルの公用語であるポルトガル語
では Carnaval do Rio de Janeiro。カーニバルのパレードは、
多くの人々やフロート(山車)が参加して通りがいっぱいに
なる。さまざまなコスチュームに身をつつみ、サンバのリズ
ムにのって通りを練り歩く。まさに、世界最大の見せ物のひ
とつであると言えるだろう。
オクトーバー・フェスト
ドイツを訪れる日本人観光客によく知られているのは、ミュン
ヘンで開催される世界最大規模のビールの祭典「オクトーバー・
フェスト」
(ドイツ語で Oktoberfest)だ。Oktober+fest だが、
Oktober は英語の October にあたり、10 月を意味する。9 月半ば
から 10 月上旬に開催され、毎年約 600 万人の人が会場を訪れる
という。
10
モールとアウトレット
──新しい商店街
ひところは、郊外に大規模なスーパーができると、手軽に
車で行けて何でも手に入ることから、町の人々はこぞってそ
ちらに買い物に行く傾向が見られた。その結果、街の賑わい
は失せ、
「シャッター通り」と言われる光景がメイン・スト
リートに出現。町の中の活気は消え、
「ドーナッツ現象」と
呼ばれる状況が、特に地方の小都市に現れた。すなわち、大
型ショッピング・センターが広大な土地を求めて中心市街地
から郊外へ進出するようになると、地元商店街や地元スー
パーの来客数が減少し閉店を余儀なくされ、その結果、特に
マイカーを所有していない人や運転できない人が生活必需品
の買い物にすら困るという事態が発生し、いわゆる「買い物
難民」と呼ばれる層が出現した。
だが最近では、郊外にも依然としてスーパーやショッピン
グ・センターが存在するものの、町からさほど遠くないとこ
ろに「モール」と呼ばれる、店の集合体とも言うべき商店街
が生まれ、人々は、わざわざ郊外に行かなくても、買い物を
済ませることができるようになった例が少なくない。
この「モール」とは、どのような意味の言葉かと疑問に思
い、手元の英語の辞書をめくってみたら、mall という言葉
があった。
「モール街、歩行者専用のプロムナード風の商店街、
shopping mall、shopping center とも言う」と記されている。
mall とは、どこかで聞いたか見たような気がすると、さら
に調べてみると“the Mall”と呼ばれるもので、ロンドンの
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セント・ジェームズ・パークからバッキンガム宮殿に続く木
陰の多い通りだ。ロンドンを旅したときに、この通りを歩い
た。この場合、Mall は「マル」のように発音することも知っ
た。また、アメリカのワシントン D.C. の Capitol(国会議事堂)
から Washington Monument(ワシントン・モニュメント=
ワシントン記念塔)までの広々とした緑地帯も“mall”と呼
ばれる。
一方、最近では「アウトレット」と呼ばれる商店街も、あ
ちらこちらに出現している。英語の outlet mall または outlet
center の簡略形である。1980 年代にアメリカ合衆国で誕生
した新しい小売業で、主に「メーカー品」すなわち「メーカー
のブランド名を表示したもの」や、
「高級ブランド品」など
を低価格で販売する複数の店舗を一箇所に集めたショッピン
グ・モールのことだ。
本来、アウトレット(outlet)とは、水や煙などの排出口
を指す英語で、outlet center は「生産の現場から直に出てき
たもの」を意味する。
「海外の一流のブランド品を安い値段で買えるよ。絶対い
いから」
という友人に促されて、足を運んでみた。たしかに、
海外とおぼしき店舗がひしめきあっている。若者であふれ、
私のような高齢者は場違いなところと思ったが、
「せっかく
来たのだから」と英国から特許をとったというスーツを一着
買ってしまった。
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