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事例 金属積層造形に関わる技術をトータルで 提供 後工程まで考慮した
特集 新たなモノづくりを提案! 積層造形による最終製品の設計 事例 金属積層造形に関わる技術をトータルで 提供 後工程まで考慮した最適な設計を 提案―金属技研 編集部 金属積層造形(金属 AM)の特性を活かして製品 では機械加工や熱処理を含めたトータルの加工技 設計をするには,金属 AM 機(金属 3D プリンタ 術を提供しています。そこに AM も合わせ込むと ー)の特徴をよく知らなくてはならない。さらに, いう形で,従来はできなかった新たなアプローチ 造形後の機械加工や熱処理など製造に必要な情報 に取り組んでいます」と同社テクニカルセンター をトータルで考えた上で設計することが求められ の増尾氏は AM に取り組む自社のスタンスを説明 そうだ。金属部品に関する製造技術をトータルで する(写真 1) 。 提供する金属技研では,他社に先駆けて金属 AM 金属 AM に関する技術開発を担うテクニカルセ を導入し,造形性の検証を積み重ねてきた。今で ンターは,JR 相模線の社家駅のすぐそばにある は航空・宇宙関連の部位品製作などで実績も上が 同社神奈川工場(神奈川県海老名市,写真 2)に置 っている。同社技術本部テクニカルセンターの増 かれている。同工場には現在,3 台の金属 AM 機 尾大慈氏と唐土(もろこし)庄太郎氏,取締役技 が導入されており,造形性の検証や顧客の試作相 術本部長の上田実氏に,金属 AM を前提とした製 談,実際の部品製作を行っている。後で詳しく紹 品設計で考慮すべきポイントを紹介してもらった。 介するが,導入している 3 台のうち,2 台は照射 熱源に電子ビームを用いた装置(EBM)で 1 台はフ ァイバレーザを用いた装置(DMLS)である。この 3 台の金属 AM 装置を導入 照射熱源の異なる 2 種類の装置を同時に保有する のは国内で珍しいという。 金属技研は,金属部品の熱処理や熱間等方圧加 圧(HIP)処理を主力にするが,機械加工や溶接, 検査などを含め,モノづくりに必要な加工技術を 総合的に提供できることを強みとしている。主に 精密で付加価値の高い部品の受注生産に対応して おり,航空・宇宙,自動車,精密機械など顧客の 分野は幅広い。受注生産といっても,ただ単に顧 客が示した設計図面でモノを作って納めるだけで はない。生産に適した形状などに最適化できるよ う,設計提案を頻繁に行っている。 新たな造形手法として AM に着目したのも早く, 今の金属 AM 技術が RP と呼ばれていた 2001 年頃 から事業をスタートしていたという。2013 年に は金属 3D プリンターの導入により,金属 AM に よる造形を本格的に事業の一部に加えた。 「当社 第 60 巻 第 7 号(2016 年 5 月号) 写真 1 金属 AM による造形例 41 写真 2 金属技研神奈川工場の外観 写真 3 A2X 設計初期の段階で造形機の長所と 短所の把握が必要 EBM と DMLS の特徴 まず,造形機別で異なる長所や短所について, テクニカルセンターには,さまざまな金属 AM 同社の保有する装置を例に紹介していく。 の試作依頼が日々寄せられる。しかし,3D デー タをひと目見ただけで,造形は難しいと判断せざ 電 子 ビ ー ム を 用 い た 造 形 機(EBM:Electron るを得ないような案件は少なくない。 「ここ最近 BeamMelting) は無理難題を出されることは減ってきていますが, 材料となる金属紛体を敷きつめたパウダーベッ やはり,『何でもかんでも AM でつくれる』とい ドに電子ビームを照射して必要な部分を溶融し, う考えは間違いだと思います」と増尾氏は指摘す 1 層ずつ造形していく装置である。EBM を用いる る。 メリットとして,造形中の変形を抑制できる点が そして増尾氏は, 「AM のメリットを生かした 挙げられる。電子ビームは磁場コイルで制御する 部品の設計を考えた際には,設計者の構想をいか ため,機械的な駆動部がなく高速走査が可能とな に造形機の特性に合わせ込んで具現化するかを考 る。高速走査による予熱を実施する(造形中の面 えるのが最も重要なポイントです。つまり,設計 全体が熱を持った状態にする)ことで,残留応力 者が最初の段階で,造形機の長所や短所をある程 の発生を抑制できる。変形が生じないことで,複 度把握しておかなければなりません」と強調する。 雑形状の造形を可能にするほか,サポート(材) また,「既存の形にこだわりすぎると,そこか が少なくて済むなどの利点がある。 ら先に進まなくなる」という点も考慮すべきポイ デメリットとしては,予熱により余計な金属紛 ントだ。AM に適した形状とは,設計者の想像が 体が造形物にくっついてしまう点がある。たとえ 及ばない形状である場合もあり,製造したい部品 ば,細い水管を造形した場合,形状によっては内 に求められる機能,造形機の特徴,造形後の加 部に金属紛体が固まってしまい,水管としての機 工・熱処理など総合的な観点から設計を考える必 能を果たせない場合がある。この「『粉抜け性』 要がある。 の問題は EBM の大きな課題となっている」(金属 技研テクニカルセンターの唐土氏)という。 金属技研では 2013 年にスウェーデンの Arcam 社製の EBM 機「A2X」を導入(写真 3)。2015 年 42 機 械 設 計