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ストレッチについて(作成:本沢・中村)
ストレッチングに関 する知識の整理 本沢整骨院 2015/05/18 【はじめに】 ストレッチングはウォームアップやクーリングダウンとして、また治療手技やセルフコンディショニン グとして最も身近な行為であるが、その効果や根拠は意外と知られていない。 ここでは、ストレッチングに関する論文、文献を再検証しカンファレンスを行った。 未だ、EBM(科学的根拠に基づく医療)に乏しい部分もあったが本沢整骨院なりの答えをだし紹介した いと思います。 1章 1部 ストレッチングの基礎知識 ストレッチングの種類 1.スタティックストレッチ(静的ストレッチ) ゆっくりと筋や腱をひき伸ばし、関節可動域の限界あるいは限界近くで一定時間保持する。 保持時間は20秒以上が良いとされる。 2.バリスティックストレッチ(動的ストレッチ) 反動や勢いをつけて関節可動域の全体あるいは可動域を越えるところまで筋や腱を伸張させる。 3.PNF ストレッチ ターゲットとなる筋群をスタティックストレッチした状態(関節可動域の最大位)で等尺性に筋活動さ せる。 4.ダイナミックストレッチ(動的ストレッチ) ターゲットとなる筋群の拮抗筋を意識的に収縮させ、関節の曲げ伸ばしや回旋などを行ったり、実際 のスポーツあるいは運動をシミュレートした動作を取り入れたりする。 2部 ストレッチングの生理学 1.スタティックストレッチの生理的反応(Ib 抑制) スタティックストレッチにより筋腱移行部に存在するゴルジ腱器官に張力が加わると、興奮が生じこ の興奮が求心性神経線維の Ib 繊維を介して脊髄後角に伝わります。 その後、介在ニューロンを介して自己筋の脊髄前角細胞を抑制し自己筋、共同筋の緊張を低下させ ます。 2.動的ストレッチ等の生理的反応(Ia 抑制) 動的ストレッチなど筋収縮によるストレッチ効果は相反抑制によります。 相反抑制とは主動筋が収縮する際、拮抗する筋が弛緩する神経機構を言います。 例えば、肘を屈曲させる際には上腕二頭筋が主動筋として働きます。 その際、上腕二頭筋が収縮しやすくなるように拮抗する上腕三頭筋は弛緩します。 上腕二頭筋収縮 上腕三頭筋弛緩 上腕三頭筋が弛緩するために、上腕二頭筋の筋紡錘から求心性の Ia 繊維が抑制性の介在ニューロン を介して脊髄前角細胞を抑制し拮抗する上腕三頭筋の緊張を低下させます。 この機構を相反抑制または、Ia 抑制と呼びます。 3.伸張反射 ある筋が急に引き伸ばされると、それ以上筋が伸びてダメージを受けないようにその筋を収縮させて 保護しようとする反射 4.自己抑制 ゴルジ腱器官の張力を感知するセンサーからの神経伝達により、力を出した筋肉が損傷されないよ うに出力の抑制刺激が出されることにより主動筋が弛緩する反射メカニズム 2章 フォームアップとしてのストレッチング 運動前にストレッチを行うことによってパフォーマンスが低下するとする報告が多数あります。 ◦兵役軍人約2500人を対象にした調査で、トレーニング前後に5~10分のストレッチをした 群としなかった群に振り分け、筋肉痛のスコア、怪我の発生状況を調べた報告では筋肉痛スコア 怪我の発生率ともに両群に差を認めなかった。 ◦その他、スタティックストレッチを運動前に行うことによるパフォーマンスについての調査は 2000 年代に多数報告されているがいずれも瞬発力、筋力がストレッチによって向上するという 報告はなく、そのほとんどが低下するというものである。 (Avels(1998)Cramer(2004)Marek(2005)Nelson(2005)Young(2008)他多数) 上記のようにウォームアップとしてストレッチを行う事によりパフォーマンスが低下する要因としては ①神経・筋の興奮抑制(副交感神経優位性) ②筋長が長くなる事でアクチンとミオシン結合部位が少なくなることによって張力が低下する ③可動域が広がることによる収縮速度の低下 などがあげられる。 筋肉の柔軟性が向上すれば、②③については起こってしまうので静的、動的問わず起こる可能性がある。 したがって、近年では運動前にスタティックストレッチを行うことはタブーとされ、ダイナミックスト レッチを推奨する者とストレッチ全般を行わなくて良いとする者に分かれる。 私の見解としての理想的なウォーミングアップメニューを下記に示す。 ①20分程度のジョグ(十分体が温まり発汗する程度、心拍数120~140程度) ②各部位5~10秒のスタティックストレッチ(自身の筋緊張を確認する目的) ③10分程度のダイナミックストレッチ ④80%程度でのスプリント ⑤種目における基礎練習(パス、シュート等) 3章 クーリングダウンとしてのストレッチング クーリングダウンに関して、ダイナミックストレッチや軽運動(ジョグ等)は疲労物質である乳酸等の 除去という点において安静より有効である。 スタティックストレッチは、運動後内圧、張力が上がった筋肉の緊張を緩める効果が期待できる。 アイシングは上昇した体熱を下げる効果がある。また、障害部位等においては炎症の抑制作用がある。 4章 怪我とストレッチングの関係 ◦大学サッカー選手61名を対象とした大阪教育大学の調査では、多くの項目において柔軟性が高い 群の方が怪我の発生頻度が高かったと報告している ◦医学博士が代表を務めるトップアスリート株式会社によると、ストレッチを練習前、試合前を通じ て禁止したところ、怪我が減少し競技成績が向上したと報告している 上記のように、 柔軟性と怪我に関して柔軟性が向上することで怪我が増加するとする報告が散見される。 これは、従来の常識とは逆の結果である。 まだ、データ数が少ないため今後さらなる調査が期待されるが、少なくとも柔軟性の向上によって劇的 に怪我が減るという事はないだろう。 では、ストレッチングは怪我の予防としての効果はないのだろうか? 個人的な見解としては、運動前にスタティックストレッチを行うことによって自身のコンディション (筋 肉の張り感)を知る事により、怪我のリスクを軽減することができると推測します。 ただし、条件としてスタティックストレッチにより筋の柔軟性向上効果が得られるとする20秒以上 行わない。あくまで、柔軟性向上を目的として行うのではなく自身のコンディションを知るために行う こととする。 瞬発力低下 20秒以上のストレッチ 柔軟性向上 筋張力低下 怪我のリスク増加(?) 10秒程度のストレッチ 柔軟性の向上は薄い 自身のコンディション を把握できる スポーツ活動外に目を移すと怪我や障害と柔軟性の関係を示した研究は少なく明確な答えは見つからな かった。 ここでの私見としては、柔軟性が極端に悪い場合も良い場合も怪我や障害のリスクファクターになり得 る。適正閾値がありそれを維持することが大切と考えられる。 また、短期間で柔軟性が低下してきている。 左右差がある。同一筋の中に硬い部位があるなどという場合は、怪我や障害に結びつく可能性が高くス トレッチを行うべきと考える。 硬 い リ ス ク 5章 適正域 リ ス ク 柔 ら か い 疼痛とストレッチング ストレッチにより痛みが緩和するメカニズムは、血中循環改善による発痛物質の代謝、中枢神経への刺 激によるβエンドルフィンなどの内因性疼痛物質の分泌、副交感神経優位性をもたらすことによる緊張 緩和等があげられる。 しかし、実際の疼痛改善度を示した論文は少ない。 著者の実体験においても、頚部痛の強度なときにストレッチを行っても根本改善は得られていない。 そこで、治療としてのストレッチについて以下のような考察を立てた。 ◦筋緊張の左右差、同一筋内での硬結や索状硬化、Stiffness 等がある場合はストレッチにより改善する 可能性がある。 ◦アライメント不良が原因と考えられる疼痛で、筋緊張により骨への牽引ストレスが予測される場合 ストレッチにより改善する可能性がある。 ◦運動後等疲労物質の蓄積、その他広義の「疲労」による疼痛、倦怠感等に関して各種ストレッチで 改善の可能性がある。 ◦理論だった治療としてのストレッチにおいて、 一定回数の治療で症状の改善を認めない場合は他の原因 を考慮し治療法を再考すべきである。 6章 まとめ ストレッチに関してこれまでの仮説や漠然とした理論は、近年の EBM を重視する流れのなか変化しつ つある。 治療やコンディショニングに関わる者、スポーツの監督やコーチなど指導に関わる者は「イメージ」で はなく「真実(=統計等によって導きだされた結果)」を重視しクライアントと関わって行くべきだと考 える。 まだまだ、研究不足の事項も多く今後の研究に期待を寄せると同時に常に最新の情報を各人得られるよ うにしたいものである。