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情動価を伴う将来予期の神経機序と うつ病における認知

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情動価を伴う将来予期の神経機序と うつ病における認知
2009.05.17 日本生理心理学会
ミニシンポジウム2
「中枢系の心理生理学はどこへいくのか
-予期と予測の観点から-」
情動価を伴う将来予期の神経機序と
うつ病における認知
小野田慶一
島根大学医学部(神経内科)
予期
我々は、日常において様々な環境の変化にさらされて
いるが、受動的にその変化を受け取るだけではなく、
次に何か起こるか予期して生活している。
・ できの悪い試験の結果の公表を、覚悟して待つ
・ 健康的な体を目指して、摂生する
予期は生存適応と感情制御の文脈において非常に重要
な機能である。
しかし、このような予期機能はストレス関連疾患にお
いてうまく機能していないことが指摘されている。
うつ病
典型的な症状
抑うつ気分
興味と喜びの喪失
易疲労性の増大や活動性の減少
一般的な症状
集中力と注意力の減退
自己評価と自信の低下
罪悪感と無価値感
将来に対する希望のない
悲観的な見方
自傷あるいは自殺の観念や行為
睡眠障害
食欲不振
うつ病における将来に対する認知の歪み
健常
うつ病
ポジティブ
健常
ネガティブ
うつ病
うつ病では、将来のポジティブな情動事象を過小
評価し、ネガティブなものを過大評価する
年間自殺者の2割にのぼるうつ病による自殺は、
将来に対する認知の歪みがその一因と考えられる
本発表の目的
本発表では、情動価をもつ将来予期の神経機
序に関する健常者の知見を紹介し、さらに予
期機能が破綻したモデルとしてうつ病を取り
上げ、そのメカニズムについて検討する。
情動価を伴う将来事象の予期
不快事象の予期に関して
1)
2)
3)
予期された事象の処理に対する効果
予期時の神経メカニズム
うつ病における脳機能変異
快事象の予期に関して
1)
2)
3)
遅延報酬選択とうつ傾向との関連
遅延報酬選択と脳機能の関連
遅延報酬に関するうつ病の脳機能低下
情動価を伴う将来事象の予期
不快事象の予期に関して
1)
2)
3)
予期された事象の処理に対する効果
予期時の神経メカニズム
うつ病における脳機能変異
快事象の予測に関して
1)
2)
3)
遅延報酬選択とうつ傾向との関連
遅延報酬選択と脳機能の関連
遅延報酬に関するうつ病の脳機能低下
痛みに対する予期の効果
Pi・・・・・
・・・・・・
Koyama et al., (2005)
痛みを予期することによって、主観的痛みと脳反応を
抑制することができる
→より社会的な刺激でも同様の現象が起こるか?
不快事象に対する予期の効果
視覚誘発反応を用いたMEG研究
警告刺激
予期可能
Visual
evoked
field
情動画像
快スライド
予期不可能
警告刺激なし
予期可能
不快スライド
予期不可能
警告刺激なし
予期可能な不快刺激に対する
視覚誘発磁場は低下していた
15
20
25
mean amplitude (fT/cm)
(Onoda et al., 2006 )
情動価を伴う将来事象の予期
1) 予期された事象に処理に対する効果
モダリティそのものが不快でなくとも、到
来する刺激の内容が不快と予期される場
合には、刺激の入力を抑制することが可
能であるかもしれない
それにより、不快感情の喚起を抑制してい
るのかもしれない
情動価を伴う将来事象の予期
不快事象の予期に関して
1)
2)
3)
予期された事象の処理に対する効果
予期時の神経メカニズム
うつ病における脳機能変異
快事象の予期に関して
1)
2)
3)
遅延報酬選択とうつ傾向との関連
遅延報酬選択と脳機能の関連
遅延報酬に関するうつ病の脳機能低下
Bastiaansenの予期的注意モデル
Prefrontal
cortex
Visual
cortex
Auditory
cortex
Sensory
cortex
Thalamus
attention
Eye
Ear
Skin
(Bastiaansen et al., 1999)
前頭前野による選択的注意が視床のゲート機構を制御
し,予期されるモダリティの視床―皮質の回路を活性
化させる。その結果、注意が向けられたモダリティに
対応する皮質領域の律動的活動が減衰する。
情動事象の予期時の皮質活動
0-500
500-1000
1000-1500
1500-2000
2000-2500
予期可能快条件
予期可能不快条件
予期不可能条件
0ms
↑
警告刺激呈示
2000ms
↑
情動画像呈示
(Onoda et al., 2007)
不快事象の予期時には、後頭及び右前頭領域において
準備的活動がおこる
情動予期時の脳活動
律動的活動のパワ減衰の検討により、不快
画像の予期時には、前頭前野と視覚皮質に
おける準備的活動が亢進する可能性が示さ
れた。
他方、恐怖条件づけに関するfMRI研究から
条件刺激に対して扁桃体を含む辺縁系領域
が賦活することが報告されている。
(Buchel et al., 1998; LaBar et al., 1998)
→
より社会的な刺激の予期でも同様?
情動予期課題
1.5T MRI装置
Event-related design
各条件20試行
(Onoda et al., 2008)
250ms
3750ms
2000ms
予期区間において持続的な活動を示す領域を検出し、
条件間で比較した。
不快予期に関する脳活動
(不快予期-予期不可能) > (快予期-予期不可能)
前頭前野
前帯状回
扁桃体
視床
視覚野
Uncorrected p<0.001 at voxel level and uncorrected p<0.05 at cluster level
(小野田ら、2008)
快予期のときよりも不快予期において,前帯状回及び
扁桃体の情動反応が喚起され,前頭前野, 視床, 視覚
野が活性した
情動予期における領域間の関連
差分のピークボクセルを中心とした半径6mmのデー
タの抽出し、探索的にパス解析を行った。
Prefrontal cortex
0.41*
0.26
0.66
Anterior
cingulate
cortex
Thalamus
0. 46*
0.43*
Amygdala
Visual cortex
(小野田ら、2008)
辺縁系から前頭前野、前頭前野から視床を介して
視覚野へ影響が及ぶモデルが得られた
情動予期の神経生理学的モデル
Prefrontal
cortex
Visual
cortex
Auditory
cortex
Sensory
cortex
Thalamus
Limbic
system
attention
Eye
Ear
Skin
情動予期時では、大脳辺縁系の情動反応が前頭前野
の選択的注意プロセスを促進し、知覚領域の準備活
動を制御している可能性が示唆される
情動価を伴う将来事象の予期
不快事象の予期に関して
1)
2)
3)
予期された事象の処理に対する効果
予期時の神経メカニズム
うつ病における脳機能変異
快事象の予期に関して
1)
2)
3)
遅延報酬選択とうつ傾向との関連
遅延報酬選択と脳機能の関連
遅延報酬に関するうつ病の脳機能低下
うつ病における脳機能
イメージング研究では情動や動機づけ(Rogers et al.,
2004)だけでなく、認知的統制(Rubia et al., 2007)に
関与して、前頭-基底核回路、辺縁系の機能異常が
報告されている
うつ病は、認知/実行機能と情動の統制機能に関与
する前頭前野の障害により、辺縁系の制御が不全と
なり、ストレス反応が持続した状態である(Maletic
et al., 2007)
→ うつ病は前頭前野機能障害として
その一側面を理解できる
うつ病における不快予期に伴う脳活動
>
健常対照群
HAMDの重症度と右腹外側前頭前野
の活動が正の相関
BOLD response
うつ病患者群
r = 0.85
Total HAMD score
(Ueda et al., in submission)
うつ病では、不快事象の予期に関連して
右腹外側前頭前野の活動が亢進していた
情動価を伴う将来事象の予期
3)
うつ病における脳機能変異
うつ病は、基本的に前頭前野機能障害とし
て理解できるが、単純に機能が低下するわ
けではなく、ネガティブな事象の予期に対
してはその活動を亢進させる。
これは将来をより悲観的に評価するという
認知的バイアスを脳機能的視点から示した
知見と考えられる。
情動価を伴う将来事象の予期
不快事象の予期に関して
1)
2)
3)
予期された事象の処理に対する効果
予期時の神経メカニズム
うつ病における脳機能変異
快事象の予期に関して
1)
2)
3)
遅延報酬選択とうつ傾向との関連
遅延報酬選択と脳機能の関連
遅延報酬に関するうつ病の脳機能低下
強化学習モデルによる報酬予測
ポジティブな将来の予期として、
遅延を伴う報酬の予測を取り上げる
•価値関数V: 将来得られると予測される報酬
V = R γD (R:報酬、γ :割引率、D:遅延時間)
内的な報酬価
高γ
0.9
100
低γ
0.7
100
80
80
60
60
長期大報酬
長期大報酬
40
40短期小報酬
短期小報酬
20
20
0
0
0
1
2
3
4
5
6
0
1
2
3
4
5
6
うつでは、将来の報酬に対する認知が正常に機能して
いないため、割引率γの低下を示すと予測される
遅延報酬選択課題
異なる水量のどちらかを選択し、水量が0になると
報酬がもらえる課題で、参加者は報酬を最大化する
ように求められる。
左を選択
右を選択
水量の多い方を選択すると、0になるまで時間はか
かるが大きな報酬がもらえ、少ない方を選択すると
時間はあまりかからないが報酬は少なくなる。
行動データから最尤法を用いて割引率γを算出した
40G
Indifference line
12 12
10 10
8 8
6 6
4 4
VL = VS
fit data
1/(1 + K1 D)
RL
RLreal
強化学習モデルでは
4R⋅γDL = R⋅γDS
DL = DS − logγ4
total 2000 yen
長期大報酬の選択
2
0
長期大報酬
短期小報酬の選択
16 16
14 14
Dl (sec)
短期小報酬
長期大報酬の遅延時間
10G
fitting
18
0
0.5
1
1.5
2
2.5
Ds (sec)
3
3.5
4
1
2
3
4
短期小報酬の遅延時間
4.5
5
うつ傾向と割引率(γ)との関連
健常者(n=44)を対象に実験を行い、うつ傾向 (BDI)
と割引率(γ)及び大報酬選択率との相関を求めた
0.9
大報酬選択率
0.9
0.85
γ
0.8
0.75
0.8
R=-0.34, p=0.030
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
R=-0.35, p=0.027
0.7
0.2
0
5
10
15
うつ傾向
20
25
0
5
10
15
20
うつ傾向
高うつ傾向者ほど、割引率(γ)と大報酬選択率が
低くなっていた
25
情動価を伴う将来事象の予期
1)
遅延報酬選択とうつ傾向との関連
高うつ傾向者は、将来の報酬を低く見積も
る傾向が行動的に示された。
遅延報酬選択に関わる脳内ネットワークは
割引率(γ)とどのように関わっている
か?
情動価を伴う将来事象の予期
不快事象の予期に関して
1)
2)
3)
予期された事象の処理に対する効果
予期時の神経メカニズム
うつ病における脳機能変異
快事象の予期に関して
1)
2)
3)
遅延報酬選択とうつ傾向との関連
遅延報酬選択と脳機能の関連
遅延報酬に関するうつ病の脳機能低下
遅延報酬の選択に関わる脳機能
長期大報酬を選択した試行
> 短期小報酬を選択した試行
外側前頭前野、内側前頭前野、
線条体などの活動亢進が認め
られた
長期の遅延報酬選択には、前頭-基底核回路
が関与している
→
この回路と割引率γとの関連を検討した
線条体活動に及ぼすセロトニンの影響
(Tanaka et al., 2007)
報酬予測課題において、セロトニンの前駆物
質であるトリプトファンの摂取量を操作した
ところ、脳内セロトニン量が低下すると腹側
部が、上昇すると背側部が内的な報酬価と関
連していた
個人固有のγと線条体の関連は?
内的な報酬価の時系列変化
内的な報酬価
40
30
個人のγから推定される
内的な報酬価の変化
20
10
0
-10
Steps
内的な報酬価と相関する領域を線条体において検出
個人毎に内的な報酬価と
相関する領域のピーク座
標を抽出した
内的な報酬価と相関を示したピーク座標
0.9
黒点:
色点:
線条体
個人ごとの
ピーク座標
0.85
30
25
30
20
15
10
0.75
5
-30
0
-20
-5
-10
0
-10
10
-15
40
20
30
20
10
0
-10
-20
-30
30
-40
ピーク座標のZ値
0.8
20
10
0
-10
0.7
0.75
0.8
γ
0.85
0.9
割引率γが高い個人はより背側が、低い個人は
より腹側が報酬予測と関連している
0.95
情動価を伴う将来事象の予期
2)
遅延報酬選択と脳機能の関連
割引率
うつ傾向
負の相関
γ
背側線条体
背側前頭前野
腹側線条体
腹側前頭前野
遅延報酬予測における線条体の活動は割引率
γと関連しており、より長期の遅延報酬予測
は背側の前頭-基底核回路が関与している可
能性が示唆される。
情動価を伴う将来事象の予期
不快事象の予期に関して
1)
2)
3)
予期された事象の処理に対する効果
予期時の神経メカニズム
うつ病における脳機能変異
快事象の予測に関して
1)
2)
3)
遅延報酬選択とうつ傾向との関連
遅延報酬選択と脳機能の関連
遅延報酬に関するうつ病の脳機能低下
うつ病における報酬予測に関する脳活動
短期
小報酬
○の出る確率を操作
長期 短期
50円 10円
長期
大報酬
健常者 > うつ病患者
背側線条体
背外側前頭前野
小脳
(Ueda et al., in preparation)
情動価を伴う将来事象の予期
3)
遅延報酬に関するうつ病の脳機能低下
割引率
うつ傾向
負の相関
γ
背側線条体
背側前頭前野
腹側線条体
腹側前頭前野
うつ病では、背側の前頭-基底核回路の機能が
低下しているために、将来の報酬を正しく評価
できていない可能性が示唆される
情動価を伴う将来予期とうつ病
本発表では、情動予期課題と遅延報酬選択課題を
用いて、情動価を伴う将来事象の予期に関する神
経機序と、うつ病におけるその機能不全に関して
検討した。
不快情動の予期に関して
1) 予期された不快刺激の入力を抑制する
2) 予期区間では、辺縁系→前頭前野→知覚領域
のネットワークが活性する
3) うつ病における悲観的な将来認知は前頭前野
の機能亢進と関連している
情動価を伴う将来予期とうつ病
報酬の予期に関して
1) うつ傾向は将来に対する見通しと関連する
2) 報酬予測に関する線条体の活動は将来に対す
る見通しと関連している
3) うつ病では、報酬予測において背側の前頭基底核回路が機能していない
うつ病では、ネガティブな予期では前頭前野は
活動亢進を示し、ポジティブな予期では前
頭-基底核回路の活動低下を示したことから、
将来の予期における認知的なバイアスを脳機
能的視点から示したといえる。
今後の展望
臨床応用に向けて
病態の理解・治療の評価・効果の予測の
観点からの検討
課題特異的な視点から非特異的な視点へ
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