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「情報の非対象性」におけるインプラント トラブルの減少に

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「情報の非対象性」におけるインプラント トラブルの減少に
「 情 報 の 非対 象 性 」に お け る イ ンプ ラ ン ト トラ ブ ル の減 少 に 向 けて の 各 機 関 の対 応
木村
1
2
征子
は じめ に ・ ・・ 何 故 イン プラ ン ト ト ラブ ル は 起き る の か
情報提供
1)
国民生活センター
2)
NHK報道
3)
週 刊 朝 日 MOOK
3
歯科医師会
1)
歯科医療白書
2008年 版
2) 日本顎顔面インプラント学会調査報告
3)
4
その他・ガイドラインについて
厚生労働省
1)
医療機関ホームページガイドライン
2)
医療機能情報提供制度
5
お わ り に ・ ・ ・ イ ン プ ラ ン ト ト ラ ブ ル に 合 わ ない た め に
1
は じめ に ・ ・・ 何 故 イン プラ ン ト ト ラ ブル は 起 きる の か
2011年 12月 22日 に 独 立 行 政 法 人
わる問題
国民生活センターより、「歯科インプラント治療に係
━ 身 体 ト ラ ブ ル を 中 心 に ━ 」 1が 、 歯 科 イ ン プ ラ ン ト 治 療 に よ り 危 害 を 受 け た と
いう相談情報を分析し、消費者への情報提供とトラブルの未然防止・再発防止のために関
係 機 関 へ の 要 望 と 情 報 提 供 が 行 わ れ た 。 こ の 国 民 生 活 セ ン タ ー の 情 報 提 供 後 、 2012年 1月 18
日 に N H K ク ロ ー ズ ア ッ プ 現 代 で 「 歯 科 イ ン プ ラ ン ト ト ラ ブ ル 急 増 の 理 由 」 2が 放 送 さ れ
大変な衝撃を受けた。しかし消費者はいまだに、どこの歯科診療所に行けば安全で安心な
インプラント施術を受ける事ができるかまた、どこの歯科診療所の施術で患者が苦しい思
い を し てい る の か知 る 事 がで きな い 。
筆 者 は 2011年 11月 に 3本 の イ ン プ ラ ン ト の 埋 入 手 術 を 受 け た ば か り で あ る た め 、 よ り 関 心
1 国民生活センターの報道発表資料: http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20111222_2.pdf
アクセス2012.8.31
2 NHKクローズアップ現代: http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail_3143.html
アクセス
2012.8.19
1
を 深 め 、 周 囲 の 友 人 ・ 知 人 の 様 子 を 聞 く こ と に し た 。 ま ず 、 1本 当 た り の 価 格 に 大 き な 差 が
在 る 事 、 施 術 後 に 痛 み が 残 り 、 10日 間 お か ゆ し か 食 べ る 事 が 出 来 な か っ た 人 、 首 に ま で 内
出血が広がりその後、発熱した友人等を知る事ができた。知人は施術に不満はあっても、
イ ン プ ラン ト は この よ う なも のと 諦 め て いる よ う だ。
筆者は循環器疾患のため、抗血液凝固剤・血管拡張剤・抗コレステロール剤・消化器官
用薬の服用を続けている。歯科医師より施術前の服用中止を求められたため、循環器医師
に 相 談 し た 結 果 、 症 状 が 安 定 し て い た た め に 4日 間 の 服 用 中 止 が 認 め ら れ 、 1ヶ 月 前 の C T
撮影を確認しながら、インプラント埋入手術を受ける事ができた。何の問題もなく、「麻
酔が切れたら固いもの以外何でも食べられます」と言われ、現在まで問題がなく、自分の
歯 が 戻 った よ う に感 じ て 過ご せる 事 は 幸 運で あ っ たと し か 思 え ない 。
何故インプラント施術を受けることにしたのか。その動機は、保険適用外の部分入れ歯
と保険適用の部分入れ歯を使用した結果、保険適用の部分入れ歯は厚みがあり、咀嚼機能
より、口中の違和感と、話し言葉、特に電話での発音が聞き取りにくいようで、よく相手
から聞き返されることがあり、このまま歳を重ね、人と話す事が面倒になって行く事を恐
れ た 結 果で あ る 。
国 民 生 活 セ ン タ ー の 情 報 提 供 ( 2011年 11月 15日 ま で の 記 録 ) 後 、 消 費 者 庁 事 故 情 報 デ ー タ
3
ー バ ン ク に イ ン プ ラ ン ト に 係 わ る 記 録 が 13件 ( 2012年 8月 31日 現 在 ) 収 載 さ れ 、 そ の 多 く
は 国 民 生 活 セ ン タ ー ・ 全 国 消 費 生 活 情 報 ネ ッ ト ワ ー ク シ ス テ ム ( PIO-NET) か ら の 情 報 提 供
に よ る た め 、 国 民 生 活 セ ン タ ー 情 報 と 同 一 と 考 え る 。 13件 の 中 に は 重 大 事 故 が 2件 含 ま れ て
い る 。 13件 の 中 に は 同 一 人 物 か ら の 訴 え が 2件 含 ま れ て お り 、 同 一 人 物 の 訴 え は 、 60歳 代 の
患 者 「 歯 科 医 で 上 あ ご の 歯 に 13本 の イ ン プ ラ ン ト を 植 え た が 、 痛 み が ひ ど く な り 半 年 で 11
本が抜けた。相談できるところはないか」と「歯科医の責任を求めたい」と言うものであ
っ た 。 傷 病 の 程 度 は 1ヶ 月 以 上 と あ る 。 読 む だ け で 相 談 者 の 痛 み や 悔 し さ や 伝 わ っ て く る 。
13件 の 他 に 、 10件 の 返 金 ・ 慰 謝 料 等 金 銭 に 関 す る 問 い 合 わ せ や 訴 え が あ る 。 こ の 10件 の 問
い 合 わ せも イ ン プラ ン ト 施術 に満 足 し て いな い 結 果で あ る 。
こんな状況が放置されて良いはずは無く、消費者(患者)は情報がなく、どの歯科診療
3消費者庁事故情報データーバンク: http://www.jikojoho.go.jp/ai_national/
アクセス2012/8/31
2
所に行けば安心・安全なのか、自分に合った施術方法はどんな方法か、いくら費用が掛か
るのかなどは歯科診療所に行くまで知る方法はなく、特に歯科医の技術の程度は全く知る
事は出来ない。そこでかかりつけ医、インターネット広告やチラシ広告に頼り、埋入本数
の多い歯科診療所、あるいは料金の安い歯科診療所、通うのに便利な歯科診療所で施術す
る こ と にな る 。
2010年 の 医 師 ・ 歯 科 医 師 ・ 薬 剤 師 調 査 に よ れ ば 、 歯 科 診 療 所 は 全 国 に 6万 7400あ り 、 そ の
内 、 44% [歯 科 医 療 白 書
2008年 版
N=374(回 収 率 37.4% )]の 診 療 所 で イ ン プ ラ ン ト 施 術 が
行われていた。現在はより増加していると思われる。消費者が情報を知るシステムと歯科
医師の専門性の強化がなければ、被害者を減少させることは出来ないと考える。また歯科
医師自身も施術の結果を全て知る事はなく、満足出来ていないのではないか、患者は施術
結 果 に 不満 、 不 信が あ れ ば、 別の 歯 科 診 療所 に 行 くこ と に な る 。
本稿ではインプラントに関する情報提供の状況、歯科医師会及び厚生労働省のトラブル
減 少 に つい て の 対策 な ど につ いて 見 て い く。
2
情 報提 供
情報提供については1)国民生活センター
2 ) NHK報 道
3 ) 週 刊 朝 日 MOOK
について
見 て い く。
1 ) 国 民生 活 セ ンタ ー
国民生活センターでは、歯科インプラント治療に係る問題
-身体的トラブルを中心に
-を公表している。その中で同センターは基準やガイドラインの作成、危害を加えた際の
対 応 の 改善 、 イ ンタ ー ネ ット 上の 広 告 ・ ホー ム ペ ージ の 規 制 な どを 求 め てい る 。
国 民 生 活 セ ン タ ー か ら の 警 告 は 要 望 先 と し て (ⅰ )消 費 者 庁 消 費 者 政 策 課 (ⅱ )社 団 法 人 日
本 歯 科 医 師 会 (ⅲ )日 本 歯 科 医 学 会 (ⅳ )公 益 社 団 法 人 日 本 口 腔 イ ン プ ラ ン ト 学 会 (ⅴ )特 定 非
営 利 活 動 法 人 日 本 歯 周 病 学 会 (ⅵ )社 団 法 人 日 本 口 腔 外 科 学 会 (ⅶ )社 団 法 人 日 本 補 綴 歯 科 学
会 に 対 し て 行 わ れ 、 情 報 提 供 先 と し て は (ⅰ )厚 生 労 働 省 医 政 局 歯 科 保 険 課 (ⅱ )厚 生 労 働 省
医 政 局 総 務 課 (ⅲ )消 費 者 委 員 会 事 務 局 (ⅳ )独 立 行 政 法 人 医 薬 品 医 療 機 器 総 合 機 構 (ⅴ )日 本
歯科医療管理学会に対して行われている。以下は国民生活センターからの情報の概要であ
3
る。
①
歯科インプラント治療とは、歯の喪失により生じた欠損部分の顎の骨に人工物を埋
め込み、これを支台として歯冠部や歯肉への代替物を取り付け、損なわれた咀嚼機能
や 審美 、 発 音な ど を 回復 する 治 療 法 であ る 。
② 危害を受けたという相談の概要
(ⅰ)相談件数:
イ ン プ ラ ン ト 治 療 に 関 す る 相 談 は 、 2006年 以 降 の 約 5年 間 ( 2011年 11月
15日 ま で ) で 2,086件 寄 せ ら れ 、 歯 科 治 療 に 関 す る 相 談 ( 13,060件 ) の 16.0% を 占 め て い た 。
相 談 内 容 は 「 安 全 ・ 衛 生 」 ま た は 「 品 質 ・ 機 能 ・ 役 務 品 質 」 に 関 す る 相 談 が 51.0% ( 1,063
件 ) と 約 半 数 を し め た 。 危 害 を 受 け た 相 談 は 343件 ( 16.4% ) で あ り 、 2011年 は 11月 15日 ま
で 、 前 年同 月 は 48件 で あり 、 件 数 は 増加 傾 向 にあ る ( 図 1)。
図1 相談件数の推移 n=343
100
80
60
82
40
82
56
20
38
49
36
0
( 出 所 )国 民 生 活セ ン タ ーの 報道 発 表 資 料:
http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20111222_2.pdf
(ⅱ)
被害者の年代・性別:
ア ク セ ス 2012.8.31
60歳 代 ( 103件 、 30.0% ) 、 50歳 代 ( 96件 、 28.0% ) で 合
わ せ て 6割 近 く を 占 め た 。 ま た 性 別 で は 女 性 が 283件 で 、 男 性 が 59件 の 5倍 で あ っ た ( 図 2) 。
4
図 2 年代別件数 n=343
90歳代1件 (0%) 不明18件
( 5%)
80歳代
13件( 4%)
20歳代
4件( 1%)
30歳代
23件( 7%)
40歳代
37件( 11%)
70歳代
48件 (14%)
50歳代
96件( 28%)
60歳代
103件 (30%)
( 出 所 )国 民 生 活セ ン タ ーの 報道 発 表 資 料:
http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20111222_2.pdf
(ⅲ)
契約購入金額:
ア ク セ ス 2012.8.31
危 害 を 受 け た 相 談 の う ち 、 契 約 購 入 金 額 の 回 答 者 228件 の 平 均 額
は 120万 円 で あ り 、228件の 回 答 者 の 71.5% ( 163件 ) は 50万 円以 上 で あ り 、47.4%
( 108件 ) は 100万 円 以 上の 契 約 で あ った ( 図 3) 。
図 3 契約金額別トラブル件数(n=228)
500万円以上
2
106
100~500万円未満
50~100万円未満
55
10~50万円未満
54
10
5~10万円未満
1~5万円未満
1
( 出 所 )国 民 生 活セ ン タ ーの 報道 発 表 資 料:
http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20111222_2.pdf
(ⅳ)
身体症状の継続した期間:
ア ク セ ス 2012.8.31
継 続 期 間 の 記 載 の あ っ た 相 談 204件 の う ち 、 1ヶ 月 を
超 え た 相談 が 154件( 75.5%) 、 そ のう ち 64件 (41.6% )は 1 年 を超 え て 身 体 症状
が 継 続 した 。 危 害を 受 け た相 談の 82.5% は相 談 受 付時 に 痛 み な どの 身 体 症状 が 継 続 し て
い る と 言 う 相 談 で あ っ た ( 図 4) 。 歯 科 イ ン プ ラ ン ト に よ る 危 害 を 受 け た 際 に 、 他 の 医 療 機
関 の 受 診を 求 め る相 談 は (165件 、 48.1% ) で あ った 。
5
図 4 身体症状が継続した機関(n=204)
継続期間
8
10年以上
~10年程度
~5年程度
終了もしくは中断
6
10
1
36
~3年程度
31
~1年程度
1
30
~半年程度
3
23
~3ヶ月程度
2
28
3週間~1ヶ月程度
2
11
1~2週間程度
1週間未満
3
8
1
( 出 所 )国 民 生 活セ ン タ ーの 報道 発 表 資 料:
http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20111222_2.pdf
(ⅴ)
危害を受けたという部位及び内容:
ア ク セ ス 2012.8.31
危害を受けた部位のほとんどが「口・口
腔 ・ 歯 」 で あ っ た ( 301件 、 87.8% ) そ の 内 容 を 分 析 し た 結 果 、 歯 や 口 腔 の 痛 み 、 腫 れ 、 イ
ンプラント体の破損、化膿・炎症、噛み合わせが悪い・合わない、麻痺・痺れが多かった
( 図 5)
( 出 所 )国 民 生 活セ ン タ ーの 報道 発 表 資 料:
http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20111222_2.pdf
6
ア ク セ ス 2012.8.31
(ⅵ)インプラント治療を行う歯科医療機関の広告:治療を受けた歯科医療機関を選択し
た き っ かけ に つ いて 294件 につ い て の集 計 ( 図 6) 。
( 出 所 )国 民 生 活セ ン タ ーの 報道 発 表 資 料:
http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20111222_2.pdf
ア ク セ ス 2012.8.31
インターネット上の広告・新聞折込広告、フリーペーパー上の広告に不適切な広告が見
られた。歯科医療機関のホームページは医療法上、「情報提供」「広報」として扱われ、
広告規制対象外であるが、消費者にとって非常に重要な情報収集の手段であるために調査
を 行 っ た結 果 、 イン タ ー ネッ ト上 の 広 告 同様 な 不 適切 な 表 現 の 記載 が み られ た 。
( ⅶ ) 問題 点 :
a) イ ン プ ラ ン ト 治 療 に よ っ て 危 害 を 受 け る と 、 症 状 や 治 療 が 長 期 化 す る お そ れ が あ る 。
b) 基 準や ガ イ ド ラ イン が な いた め に 歯 科 医師 に よ って 治 療 の水 準 に 差 が ある お そ れが
あ る。 危 害 を受 け た 場合 の対 応 が 不 十分 ・ 不 適切 。
c) 治 療内 容 ・ 治 療 方法 ・ 治 療リ ス ク な ど の治 療 前 の説 明 が 不十 分 。
d) 危 害 を 受 け た 時 、 対 応 に 誠 意 が な く 不 満 や 不 信 を 持 ち 、 転 院 を 希 望 す る 事 例 が 多 い 。
e) イ ン プ ラ ン ト 治 療 を 行 う 歯 科 医 院 の ホ ー ム ペ ー ジ は 、 イ ン タ ー ネ ッ ト 上 の 広 告 と 同 様
な 不適 切 な 広告 が あ る。
f) 消 費者 が 危 害 を 受け た 場 合、 消 費 者 セ ンタ ー で のあ っ せ ん、 解 決 は 非 常に 困 難 。
消 費者 は 複 数の 相 談 窓口 に問 い 合 わ せせ ざ る を得 な い 状 況 であ る 。
( ⅷ ) 消費 者 へ のア ド バ イス
7
a) 情 報収 集 を 行 う 事及 び 歯 科医 に 対 し て リス ク の 説明 を 受 ける 事 。
b) 施 術後 も 定 期 的 に歯 科 診 療所 に 通 い 口 腔清 掃 を 行う 。
c) 危 害の 問 題 が 発 生し た 時 はセ カ ン ド オ ピニ オ ン を得 る 、 大学 病 院 の 診 察も 薦 め る。
解 約・ 返 金 ・補 償 を 求め る時 は 弁 護 士会 な ど に相 談 ( 有 料 もあ る ) 。
以上、この国民センターからの警告は大変細かく、分かりやすく説明されている、この
警告によって社会は歯科インプラントに対してより一層注視するようになったことは確実
である。この警告後も患者に対して、リスクの説明をしっかりしている歯科医師はまだ少
数派ではないだろうか。また患者は比較的高齢者が多く、情報の収集を行う事とされても
具 体 的 な方 法 が 明示 さ れ ない と難 し い 事 とな る 。
2 ) NHK報 道
NHKで は 2011年 11月 か ら 2012年 5月 ま で 、 歯 科 イ ン プ ラ ン ト の 現 状 に つ い て の キ ャ ン ペ ー
ン 報 道 が な さ れ た 。 2011年 11月 ・ 12月 に は 「 お は よ う 日 本 」 で 、 2012年 1月 18日 に は 「 ク ロ
ー ズ ア ッ プ 現 代 」 で 同 月 20日 に 「 朝 イ チ 」 で 取 り 上 げ ら れ 、 多 く の 消 費 者 が 現 状 を 知 る 事
に な っ た。
①
NHK生 活 情 報 ブ ロ グ 歯 科 医 療 最 前 線 か ら 、 「 広 が る イ ン プ ラ ン ト 治 療
相次ぐトラブ
ル 」2011年 11月 24日 放 送 。
この放送では、実際のインプラント トラブルにあった患者の事例を紹介し、歯科大学病
院教授から「インプラント治療は、専門性が高く、幅広い知識や高度な技術が求められる。
これまで大学ではインプラント治療についてほとんど教えられていなかった。そのため、
インプラントを始めようとする歯科医師の多くが、製造メーカーが開く“講習会”などで
学んでいるのが現状です」この発言はトラブルにあった患者が聞いた時、高額を払いなが
ら、自分はまるで実験台になったような気持ちになり、痛さも・悔しさも倍加されると推
察する。
さ ら に 「 日 本 口 腔 イ ン プ ラ ン ト 学 会 」 4 で は 100時 間 の 研 修 を 終 了 し 、 試 験 に 合 格 し た 歯
科 医 師 を 「 専 門 医 」 と し て 認 定 し て い る が 、 全 国 で 約 700名 し か い な い 。 「 解 剖 学 ・ 歯 周
4 日本口腔インプラント学会: http://www.shika-implant.org/
8
アクセス2012.05.21
病・噛み合わせなどをトータルに学ばない事が、問題が起きる原因」と述べている。歯科
大 学 の 中に は 体 系的 に 教 えよ うと い う 動 きが 出 で きた よ う だ 。
その他、厚生労働省は現状をどう考えているのか「インプラント治療は、患者と医療機
関との契約に基づいて行われる自由診療のため、保険診療とは違い、強制的な指導はでき
ない、今年度、研究班を作って情報収集を始める」とある。日本歯科医師会では歯科医師
の 選 び 方の ポ イ ント を 以 下の よう に 示 し てい る 。
(ⅰ)インプラント以外の治療法、ブリッジ・入れ歯について夫々の長所・短所を平等に
説 明 し てく れ る 。
(ⅱ)インプラント治療を始める前に、治療計画書を提示し、費用について説明してくれ
る。
②
クローズアップ現代「歯科インプラント
ト ラ ブ ル 急 増 の 理 由 」 2012年 1月 18日 放 送 。
こ の 放送 で は 多く の 視 聴者 が衝 撃 を 受 けた と 思 われ る 。 ト ラ ブル の 背 景は 充 分 な 技 術
を 持 た な い 歯 科 医 師 が 治 療 を 行 っ て い る 実 態 が あ っ た か ら で あ る 。 NHKが 行 っ た 歯 学 部 の あ
る全国の大学病院に行ったアンケート調査では、治療後に不具合を訴えて大学病院を訪れ
た 患 者 は 2年 半 で 2700人 以 上 、 最 初 に 治 療 し た 歯 科 医 師 の 技 術 や 知 識 不 足 を 上 げ た 大 学 は 8
6% で あ り 、 さ ら に 難 し い ケ ー ス へ の 無 理 な 治 療 を 挙 げ た 施 設 は 76% に 上 が り 、 技 量 を 超 え
た 無 理 な治 療 が トラ ブ ル の温 床に な っ て いた と 指 摘し て い る 。
小宮山彌太郎
5
東 京 歯 科 大 学 教 授 は 「 イ ン プ ラ ン ト に 関 す る 講 義 は 10年 ほ ど 前 か ら 始 ま
っ て い るが 、 実 習は 最 近 にな って 始 め る よう に な った 。 教 育 を 受け て い ない 歯 科 医 師 が
インプラントに目を向けるようになり、どこで知識・技術を学ぶのか、ここに問題があっ
た。治療の難しい点は患者一人一人、全部違いがあるため、CT検査などの事前の準備が
大切、患者の主訴をよく聞き、よい点、悪い点を説明すれば問題は少なくなる。患者の全
身状態を把握できる力、現在かかっている医科主治医の意見も尊重し、連携を取る事が大
事 」 で ある と 述 べて い る 。
5小宮山彌太郎
東京歯科大学教授:1971年東京歯科大学卒業
歯学博士
東京歯科大学
臨床教授
1980年から1983年にかけてスウェーデン、イェーテボリ大学留学。近代インプラントの祖であるブ
ローネマルク教授に直接師事し、ブローネマルク法を日本に紹介して初めて導入した。
9
また、アンケート調査では歯科の経営環境の悪化を挙げているところが半数近くあり、
保健診療だけでは経営が成り立たないということで、インプラントを導入した歯科医師も
い た 。 (図 7) は 歯 科 医師 ・ 歯 科診 療 所 数 の 増加 を 示 した 。
(出所) 平成22年医師・歯科医師・薬剤師調査:
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001084609 アクセス2012.10.31
③ 「歯科インプラント~治療前の検査が不十分~」2012年7月02日放送。
この放送では、厚生労働省研究班の調査報告を基にした資料報告で、骨祖しょう症の患者が、9年
前から服用していた「ビスホスホネート系薬剤」による影響で細菌への抵抗力が弱くなっていたため
に、インプラント周辺が感染により骨が壊死した患者の報告がある。これは治療前の持病や服用して
いる薬などの調査を怠った結果である。
④ 「日本歯科医師会・大久保会長に聞く」2012年6月8日放送。
この放送ではNHK生活情報ブログにNHK米原達生記者との対談が記載されている、その中で「歯
科には治療費や診療内容など医科に比べてよく分からない部分がある」という指摘に対して、大久保
会長からは「保健では機能的な部分を保障し、快適さの強い部分は自費になる事が多い」。また「治
療内容がこれでいいのかが分からない、価格が高くなれば改善するのか、評価方法を明確にすべき」
という指摘に対しては「歯科医療では検査が少ない、今後取り組んでいきたい」。「患者の“分から
ない”不安・相談・苦情に応ずる場所が必要、歯科医師会で相談やセカンドオピニオンが受けられな
いか」の提案に対しては「疑問や相談に答える常設的な窓口が必要かもしれない」。その他にも記者
から取材を通して国民の安心を実現するために(ⅰ)治療の可視化(ⅱ)歯科医院の立場表明(ⅲ)
10
トラブル時の第三者的な団体の必要性の3つの提案があった。
⑤
「 イン プ ラ ント 治 療 、事 前検 査 徹 底 を」 2012年10月 26日 放 送。
こ の 放 送 で は 10月 13日 に 横 浜 市 で 行 わ れ た 、 「 イ ン プ ラ ン ト 治 療 を 安 全 に 行 う た め の シ
ン ポ ジ ウ ム 」 の 様 子 が 記 載 さ れ て い る 。 シ ン ポ ジ ウ ム に は お よ そ 150人 の 歯 科 医 師 が 参 加 し 、
発表を行った歯科大学教授からは「事前検査を徹底する事がトラブルの防止につながる」
他の教授からは「安全を確保するためには患者の状況を見極め、治療をしない判断も必
要 」 「 イ ン プ ラ ン ト は 歯 科 に お け る 20世 紀 最 大 の 発 明 と 言 わ れ て い る が 、 信 頼 は 大 き く 揺
ら い で いる 」 な ど強 い 危 機感 を感 じ て い る事 な ど が、 詳 し く 記 載さ れ て いる 。
3 ) 週 刊朝 日 M OO K
2012年 2月 10日 発 行 の 「 い い 歯 科 イ ン プ ラ ン ト 治 療 医 を 選 ぶ ! 」 は 完 全 保 存 版 と し て 朝 日
新 聞 出 版か ら 発 売さ れ た 。
発刊した理由は、①インプラント トラブルは何故起こるのか?歯科医院経営をめぐる苦
しい社会情勢がある、②歯科医師の技量の問題
③歯科医院の広告と宣伝に問題があると
指 摘 さ れて い る 。
①
インプラント トラブルは何故起こるのか?どうすれば防ぐことが出来るか?が本研
究の主題である事から、歯科医院経営をめぐる苦しい社会情勢とは何かを「歯科医師過
剰 」 と 「国 民 医 療費 」 と の関 連に つ い て 調査 す る 。
( ⅰ ) 「 歯 科 医 師 過 剰 」 に つ い て 、 文 部 科 学 省 の 「 学 制 百 二 十 年 史 」 に よ る と 、 昭 和 60(19
85)年 ま で に 人 口 10万 人 当 た り 歯 科 医 師 数 を 50人 程 度 確 保 す る こ と が 提 唱 さ れ た が 、 45(197
0)年 度 以 降 の 私 立 の 新 設 等 に 続 き 、 51(1976)年 か ら 54(1979)年 ま で に 四 国 立 大 学 歯 学 部 が
新 設 さ れ た 。 そ の 結 果 、 入 学 定 員 が 44(1969)年 度 に 1,260人 か ら 、 56(1981)年 度 に は 3,360
人 と な り 、 目 標 は 55(1980)年 ま で に 達 成 さ れ た 。 そ の 後 、 厚 生 省 に お い て 医 師 ・ 歯 科 医 師
の 需 要 に つ い て 再 検 討 が な さ れ 、 平 成 7(1995)年 に 歯 科 医 師 に な る も の を 20% 程 度 抑 制 す る
事 を 目 標 と し 、 入 学 者 の 削 減 、 入 学 定 員 の 厳 守 等 の 提 言 を 得 た 。 平 成 3(1991)年 ま で の 削 減
数 は 658人 ( 19.5% ) と な っ て い る 。 最 近 で は 、 平 成 10年 の 厚 労 省 の 需 給 検 討 会 に お い て 、
さ ら に 10% 程 度 の 削 減 が 必 要 と さ れ 、 平 成 24( 2012) 年 度 の 入 学 者 は 2,417名 、 昭 和 60( 19
85)年 に 対 する 削 減 率 は27.8% に な って い る 。
11
最 近 の 歯 科 医 師 国 家 試 験 合 格 者 は 2010年 2,408名 、 2011年 2,400名 、 2012年 2,364名 で あ っ
た 。 ま だ過 剰 感 は続 く と 思わ れる 。 入 学 定員 と 入 学者 の 推 移 は (表 1) の 通 りで あ る 。
表 1 歯学部歯学科入学者の推移
合計
年度
1960
1965
1970
1975
1980
1985
1990
1995
2000
2005
2010
入学定員
690
1,140
1,460
2,220
3,360
3,380
2,732
2,714
2,697
2,667
2,566
2,417
国立
入学者
入学定員
799 (115.8%)
1,443 (126.6%)
2,139 (146.5%)
3,066 (138.1%)
3,374 (100.4%)
3,440 (101.8%)
2,751 (100.7%)
2,709 (99.8%)
2,662 (98.7%)
2,625 (98.4%)
2,173 (84.7%)
2,306 (95.4%)
90
240
340
340
840
860
685
680
665
635
620
539
2012
(出所)文部科学省 歯科教育に関する基礎資料;
公立
入学者
100
240
321
338
850
847
678
677
623
601
623
541
(111.1% )
(100.0%)
(94.4%)
(99.4%)
(101.2%)
(98.5%)
(99.0%)
(99.6%)
(93.7%)
(94.6%)
(100.4%)
(100.4%)
入学定員
120
120
120
120
120
120
95
95
95
95
95
95
私立
入学者
132 (110.0%)
146 (121.7%)
122 (101.7%)
120 (100.0%)
121 (100.8%)
120 (100.0%)
96 (101.1%)
95 (100.0%
96 (101.1%)
96 (101.1%)
95 (100.0%)
95 (100.0%)
入学定員
480
780
1,000
1,760
2,400
2,400
1,952
1,939
1,937
1,937
1,891
1,783
入学者
567 (118.1%)
1,057 (135.5%)
1,696 (169.6% )
2,608 (148.2%)
2,403 (100.1%)
2,473 (103.1%)
1,977 (101.3% )
1937 (99.9%)
1,943 (100.3%)
1,928 (99.5% )
1,489 (78.7%)
1,670 (93.7%)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/035/gijiroku/08092415/001.pdf アクセス2012/8/27
(出所)文部科学省 学校基本調査報告書;
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001040920&cycode=0 アクセス2012/12/24
一 方 、 大 学 歯 学 部 の 開 設 は 1960年 に は 〔 東 京 歯 科 大 学 ・ 日 本 歯 科 大 学 ・ 日 本 大 学 ・ 大 阪
歯 科 大 学 ・ 九 州 歯 科 大 学 ・ 東 京 医 科 歯 科 大 学 〕 の 旧 制 歯 科 医 学 専 門 学 校 と 大 阪 大 学 の 7大 学
で あ り 、 1965年 〔 愛 知 学 院 大 学 ・ 神 奈 川 歯 科 大 学 ・ 広 島 大 学 ・ 東 北 大 学 ・ 新 潟 大 学 ・ 岩 手
医 科 大 学 歯 学 部 〕 6大 学 が 設 置 、 1980年 代 前 半 に 歯 学 部 が 16校 に 新 設 ・ 増 設 さ れ 、 現 在 、 国
立 大 学 11校 、 公 立 1校 、 私 立 学 校 法 人 15校 、 日 本 大 学 と 日 本 歯 科 大 学 で は 2校 の 歯 学 部 が あ
る。
2012年 度 の 歯 学 部 の 入 学 状 況 は 私 立 大 17校 の 内 、 7校 で 募 集 人 員 を 下 回 っ た こ と が 、 文 部
科 学 省 の 集 計 で 分 か っ た 、 昨 年 は 10校 で あ っ た か ら 3校 減 少 し た が 、 募 集 人 員 の 2割 に 満 た
な い 学 校 も あ っ た 。 定 員 割 れ は 2009年 度 12校 、 2010年 度 は 11校 、 2011年 度 は 10校 と 推 移 し
ている。文部科学省では学生の確保が困難だったり、国家試験の合格率が低迷している大
学 に 入 学定 員 の 見直 し を 提言 して い る 。
2010年 末 の 医 師 ・ 歯 科 医 師 ・ 薬 剤 師 調 査 の 歯 科 医 師 総 数 は 101,576名 と な り 、 人 口 10万 人
に 対 し て 79.3人 と な っ て い る 。 1970年 の 人 口 10万 人 に 対 し て 歯 科 医 師 50人 が 適 正 数 で あ れ
ば 、 そ の 1.58倍 と な る 。 1960~ 1980年 ま で は 子 ど も の 「 虫 歯 の 洪 水 」 と 言 わ れ る ほ ど 虫 歯
が 多 い 時代 で あ った が 、 子ど もの 虫 歯 は 減少 し て いる ( 図 8) 。
12
(出所)2011年歯科疾患実態調査について:http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/62-23.html アクセス2012/6/6
5~ 9歳 、 10~ 14歳 の 虫 歯 保 有 者 は 1987年 に は 夫 々 43.3% 、 90.4% で あ っ た が 、 2011年 の
歯 科 疾 患 実 態 調 査 で は 10.0% 、 34.7% に 減 少 し 、 虫 歯 予 防 の 意 識 が 高 ま っ て い る 。 大 人 の
喪 失 歯 の 調 査 で は 、 80歳 以 上 で 20本 以 上 の 歯 を 有 す る 者 の 割 合 は 、 1985年 に は 7% で あ っ た
が 、 2011年 に は 38.3% に な り 、 8020の 達 成 者 は 3人 に 1人 以 上 と な り 、 歯 に 対 す る 意 識 が 高
ま っ た 結果 で あ り、 歯 科 疾患 の患 者 は 減 少し て い るこ と は 明 ら かで あ る 。
( 図 9) は 都 道 府 県 別 の 10万 人 に 対 す る 歯 科 医 師 数 ・ 歯 科 診 療 所 数 ( 左 軸 ) と 週 刊 朝 日 MO
OK調 査 に よ る 、 ア ン ケ ー ト 有 効 回 答 専 門 医 の イ ン プ ラ ン ト 1 本 の 最 低 平 均 金 額 ( 右 軸 ) を
比 較 す ると 、 か なり ば ら つき のあ る 事 が わか る 。
人 口 10万 人 に 対 し て 歯 科 医 師 数 、 (
) 内 は 10万 人 あ た り の 歯 科 診 療 所 数 、 最 も 多 い の
は 東 京 都 122.0人 ( 80.6施 設 ) 、 徳 島 県 の 103.5人 ( 56.0施 設 ) 、 福 岡 県 103.2人 ( 59.3施
設 ) 、 新 潟 県 90.3人 ( 50.1施 設 ) 、 大 阪 府 88.7人 ( 61.6施 設 ) で あ っ た 。 東 京 都 の よ う に
歯科医師数の多い地域では患者の奪い合いが起こっているようである。少ない県は福井県
の 51.5人 ( 35.2施 設 ) が 最 も 少 な く 、 島 根 県 56.6人 ( 39.4施 設 ) 、 青 森 県 の 56.9人 ( 41.7
施 設 ) 、 滋 賀 県 57.2人 ( 39.3施 設 ) 、 山 形 県 57.4人 ( 41.1施 設 ) で あ り 、 大 学 歯 学 部 の あ
る 県 が 歯科 医 師 の人 数 が 多く なっ て い る 事が わ か る。 全 国 平 均 は79.3人 (53.4施 設 ) 。
イ ン プ ラ ン ト 1本 当 た り の 最 低 金 額 平 均 で は 回 答 し た 専 門 医 の 人 数 が 都 道 府 県 に よ り 偏 り
が あ り 、 東 京 都 120名 と 多 く 、 5名 以 下 の 県 が 17県 ( 青 森 5・ 秋 田 3・ 山 形 3・ 富 山 5・ 石 川 3・
福 井 2・ 滋 賀 4・ 奈 良 3・ 和 歌 山 4・ 鳥 取 1・ 島 根 1・ 香 川 4・ 愛 媛 3・ 高 地 1・ 佐 賀 2・ 宮 崎 4・ 沖
縄 3) も あり 、 こ の 専 門医 の 少 ない 県 で は イ ンプ ラ ン ト平 均 金 額と は 云 え な い。
13
図 9 都道府県別人口10万に対する歯科医師・診療所数・インプラント平均費用
人・軒
歯科医
歯科診療所数
万円
インプラント価格
140.0
45
40
120.0
35
100.0
30
79.3 80.0
25
20
53.4 15
60.0
40.0
10
20.0
5
0.0
平均
沖縄
宮崎
鹿児島
大分
熊本
長崎
佐賀
福岡
高知
愛媛
香川
徳島
山口
広島
岡山
島根
鳥取
奈良
兵庫
和歌山
大阪
京都
滋賀
三重
愛知
静岡
岐阜
長野
山梨
福井
石川
富山
新潟
東京
神奈川
千葉
埼玉
群馬
栃木
茨城
福島
山形
秋田
宮城
岩手
青森
北海道
0
( 出 所 )2010年 医 師・ 歯 科 医 師 ・薬 剤 師 調査 の 概 況:
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/10/dl/gaikyo.pdf
アク セ ス 2012/5/4
( ⅱ ) 「 国 民 医 療 費 」 ( 図 10) と の 関 連 を 見 る と 、 苦 し い 社 会 情 勢 の 原 因 で あ る こ と が 分
かる。
国 民 医 療 費 は 1992年 に 23.5兆 円 か ら 2010年 に は 36.6兆 円 と 1.55倍 に 増 加 し て い る 、 一 般
医 療 費 は 同 じ く 20.5兆 円 か ら 27.9兆 円 と 1.36倍 に 増 加 し て い る が 、 歯 科 医 療 費 は 同 じ く 2.3
兆 円 か ら 2.6兆 円 と 18年 間 に 3千 億 円 の 増 加 で あ り 、 伸 び 率 は 1.13で あ る 。 1996年 に 2.5兆 円
14
(出 所)
2010年医 療 費 の動 向 :
http://www.mhlw.go.jp/topics/medias/year/10/
ア クセ ス2012/5/2
に な り そ の 後 ほ ぼ 同 額 で 推 移 し 、 2001年 に 2.6兆 円 と な っ た が 、 そ の 後 減 少 も あ り 2010年 に
2.6兆 円 に な っ て い る 。 国 民 医 療 費 に 占 め る 歯 科 医 療 費 の 割 合 (右 軸 )は 、 1992年 に は 9.8%
で あ っ た が 、 年 々 減 少 し 2010年 は 7.1% ま で 減 少 し て い る 。 調 剤 費 は 1992年 に は 0.7兆 円 で
あ っ た が、 年 々 増加 し 2010年 に は6.1兆 円 と 8.7倍 と 大 幅 に 増加 し た 。
国民医療費の中で歯科医療費はずっと押えられているために、歯科診療所では保険診療だ
け で は 経 営 が 難 し く 、 自 費 診 療 6( 保 険 外 診 療 ) に 目 を 向 け る よ う に な る の は 当 然 の 結 果 で
ある。
(表2)は厚生労働省の医療経済実態調査による2007年6月、2009年6月、2011年6月の各1ヶ月、1
施設当たりの損益集計の最近3回の調査結果である。
この調査は社会保険による診療を行う全国の病院、一般診療所、歯科診療所、保健薬局
を対象に経営の実態を明らかにする事を目的に隔年で調査している。歯科診療所について
抽 出 率 は 1/50で あ る 。 2007年 の 調 査 対 象 施 設 は 1,141施 設 、 有 効 回 答 は 711、 有 効 回 答 率 は 6
2.3% で あ っ た 。 2009年 の 調 査 1,100施 設 中 有 効 回 答 施 設 は 661、 有 効 回 答 率 は 60.1% 、 2011
年 は 1,124施 設 中 有 効 回答 609施 設、 有 効 回答 率 は 53.6% で あ っ た。
6 自費診療(保険外診療):機能の回復・維持以外の診療で、矯正、インプラント・ホワイトニング等、
特別な材料による特定治療費も認められている。
15
表 2 医療経済実態調査(歯科診療所)
個人
16回
2007・6月
構 成比 率 法人
構成比率
個人
17回
2 0 0 9 ・ 6月
構成比率
法人
労災等
自費診療
その他
15
1,318
78
0.2
19.5
1.2
11
442
48
0.3
12.2
1.3
5
2,181
198
0.1
27.2
2.5
0
359
34
18
0.3
1
0.0
16
0.2
介護収入 Ⅱ
12.2
1.3
2
108
%
8,033 100.0
5,649
70.3
個人
116
%
6,775
100.0
5,365
79.2
3
423
45
551
%
3,616
100.0
3,115
86.1
構 成 比率
有効回答施設
593
%
100.0
( 医業収入 単位千円) 3,455
医業収入 Ⅰ
2,984
86.4
18回
2011.6月
構成比率
法人
391 %
3,526
100.0
3,133
88.9
構成比率
82
7,440
6,163
%
100.0
82.8
0.0
10.2
1.0
6
1,156
116
0.1
16.2
2.2
4
0.1
46
0.6
( 医業・ 介護費用) Ⅲ
2,228
64.5
6,017
88.8
2,415
66.8
7,299
90.9
2,535
71.8
6,842
92.0
( 損益差額) Ⅰ+Ⅱ- Ⅲ
1,229
35.6
760
11.2
1,202
33.2
750
9.3
995
28.2
644
8.7
http://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/iryoukikan.html
(出所)厚生労働省 医療経済実態調査 アクセス 2012/4/22
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&tclassID=000001035974&cycleCode=0&requestSender=search
個人経営の歯科診療所は(医業・介護費用)Ⅲに開設者の報酬は含まれていない。職員
の 給 与 、医 薬 品 購入 費 、 歯科 材料 費 、 委 託費 ( 歯 科技 工 等 ) 、 減価 償 却 費等 で あ る 。
3回 の 歯 科 診 療 所 実 態 調 査 結 果 の 損 益 差 額 ( Ⅰ +Ⅱ - Ⅲ ) は 個 人 経 営 で は 122.9万 、 120.2
万 、 99.5万と 減 少 し、 法 人 で も 76.0万 、 75.0万 、 64.4万 と 減 少 し てい る 事 が分 か っ た 。
医 業 収 入 の 内 イ ン プ ラ ン ト を 含 む 自 費 診 療 の 構 成 比 率 は 個 人 経 営 で 各 々 12.2% 、 12.2% 、
10.2% 、 法人 で は 19.5% 、 27.2%、 16.2%で あ り 、 2011年は い ず れも 減 少 した 。
歯科経営をめぐる苦しい社会情勢は「歯科医師過剰」「国民医療費」共に明らかである。
次に②の「歯科医師の技量の問題」がある。
(表3)は週刊朝日MOOKが2011年度のインプラント講座の有無について、アンケート調査を行
い、インプラント講座の無い大学を×とした。筆者は2011年に×であった大学の2012年シラバスか
ら、インプラント講座を調べた結果を表にした。現在でも未だ講義も行われていない大学があること
は愕きであり、当然、臨床が行われている大学は極く限られていることが推察される。
文 部 科 学 省 「 モ デ ル ・ コ ア ・ カ リ キ ュ ラ ム の 改 定 に 関 す る 専 門 研 究 委 員 会 」 議 事 録 7 ( 20
11年 2月 23日 ) に よ る と <歯 科 医 師 と し て の 必 要 な 臨 床 能 力 の 確 保 >と し て 、 イ ン プ ラ ン ト 関
係の実習やカリキュラムがないことは、現在の臨床に即していないので改善すべき。イン
プ ラ ン ト 学 は 口 腔 分 野 の 領 域 が 70% を 占 め 、 昨 今 の 臨 床 の 中 で 重 要 な 分 野 で あ る 。 と の 意
7 「モデル・コア・カリキュラムの改定に関する専門研究委員会」議事録:
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/032-1/gijiroku/1304565.htm
アクセス2013/3/15
16
表 3 全国歯科大学・歯学部 インプラント講座
国公立 北海道大学
東北大学
私立
週刊朝日調査(2012・2・10発行)
2012年度シ ラ バス
インプ ラ ント 講座の有無
イン プ ラン ト講座( 選択科目も 含む )
×
○顎口腔機能改善学
○口腔システム補綴学分野
東京医科歯科大学
○インプラント・口腔再生医学
新潟大学
大阪大学
△生体歯科補綴学分野、魚島勝美教授のもとで扱っている
岡山大学
○インプラント再生補綴学分野
広島大学
×
徳島大学
△口腔顎顔面補綴学一部でインプラントを教えている
○歯科補綴学第一教室
○歯科補綴学第一
九州大学
○インプラント・口腔再生医学義歯補綴学
長崎大学
○口腔インプラント学
鹿児島大学
×
九州歯科大学
○口腔再建リハビリテーション学
○歯科インプラント治療学
北海道医療大学
○クラウンブリッジインプラント補綴学分野
岩手医科大学
○口腔インプラント学分野
奥羽大学
×
○口腔インプラント学
明海大学
東京歯科大学
×
○口腔インプラント学
○口腔顔面外科学口腔インプラント学
昭和大学
×
×
日大歯学部
×
×
日大松戸歯学部
○口腔インプラント学
日本歯科大学
×
×
日本歯科大学新潟生命歯学部 ×
×
神奈川歯科大学
×
○歯科インプラント学
鶴見大学
×
×
松本歯科大学
×
×
朝日大学
○インプラント学分野 永原研究室
愛知学院大学
大阪歯科大学
△高齢者歯科学講座の中に口腔「インプラント科が設置されている。
福岡歯科大学
○咬合修復学講座 口腔インプラント学分野
×
○口腔インプラント学
( 出 所 )週 刊 朝 日MOOK「 い い 歯 科イ ン プ ラン ト 治 療医 」 を 選 ぶ !( 145頁 )
見がパブリックコメントで寄せられていることが紹介されている。その後公表された歯学
8
教 育 モ デ ル ・ コ ア ・ カ リ キ ュ ラ ム 教 育 内 容 ガ イ ド ラ イ ン 2010年 度 改 訂 版 ( 2011年 3月 31
日 ) 、 イ ン プ ラ ン ト の 臨 床 実 習 内 容 は 水 準 4「 原 則 と し て 指 導 者 の 歯 科 医 療 行 為 の 見 学 に と
どめるもの」と記載されている。患者のインプラント手術を安全に行うことが出来る歯科
医 師 に なる ま で には 、 多 くの 知識 ・ 技 術 の研 鑚 が 必要 に な る こ とが 理 解 でき る 。
週 刊 朝 日 MOOKの <米 国 で は 25年 も 前 か ら 歯 学 部 生 に イ ン プ ラ ン ト 治 療 を 教 育 し て い た >( 2
68頁 ) に は 「 日 本 で は 2010年 に 初 め て 歯 科 医 師 国 家 試 験 の 出 題 基 準 に イ ン プ ラ ン ト 項 目 が
盛り込まれた。文部科学省が定める歯学部の教育指針でも、教えるべき項目の一つに挙げ
られているが、その内容は、極めて初歩的な段階にとどまっている」と記載している。パ
8 歯学教育モデル・コア・カリキュラム教育内容ガイドライン2010年度改訂版:http://www.mext.go.jp/c
omponent/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2011/06/03/1304433_3.pdf
5
17
アクセス2013/3/1
ブリックコメントのご意見にあるように、現実の臨床現場と教育環境はかなりの乖離があ
り、歯科医師免許があれば誰でもインプラント施術が可能となっている現状がトラブル発
生 の 当 然の 帰 結 のよ う に 思え る。
米 国 の カ リ フ ォ ル ニ ア 州 立 大 学 ロ サ ン ゼ ル ス 校 ( UCLA) に 週 間 朝 日 MOOKの 記 者 が 取 材 し
た 記 事 ( 268頁 ) の 中 に 、 顎 顔 面 補 綴 学 科 の ジ ョ ン ・ ビ ュ ー マ ー 教 授 の 言 葉 と し て 「 韓 国 ・
シンガポール・タイなどアジアには、非常に質の高い教育をしている大学があるのに、日
本の歯学教育は先進諸国の中で一番悪い。その理由は、臨床トレーニングが非常に貧困な
ことです」とあることからも、歯科医師がインプラント治療に係わる総合的な教育と臨床
を 行 わ れて い な い事 が 海 外か らも 指 摘 さ れて い る 。
インプラント施術に関するガイドラインは日本歯科放射線学会が決めた「インプラント
画 像 診 断 ガ イ ド ラ イ ン 」 ( 2008年 9月 1日 ) 以 外 の ガ イ ド ラ イ ン は 無 い 。 唯 一 の 画 像 診 断 ガ
イ ド ラ イン を 守 らず に 、 安易 に施 術 を 行 って い る 歯科 医 師 が い る事 に も 問題 が あ る 。
③ 歯 科 医 院 の 広 告 と 宣 伝 の 問 題 に つ い て は 、 2012年 6月 29日 付 け で 厚 生 労 働 省 よ り 「 医 療
機関のホームページの内容の適切なあり方に関する指針(医療機関ホームページガイドラ
イ ン ) が示 さ れ たた め 、 後述 する 。
④ そ の 他 、 週 刊 朝 日 MOOKに は 「 オ ッ セ オ イ ン テ グ レ ー シ ョ ン ( 骨 結 合 ) 」 を 発 見 し た ス
ウ ェ ー デ ン 人 ブ ロ ー ネ マ ル ク 教 授 の イ ン タ ビ ュ ー 、 イ ン プ ラ ン ト 治 療 の 名 医 の 紹 介 ( 12
名 ) 、 「 イ ン プ ラ ン ト 治 療 の 基 礎 知 識 」 「 イ ン プ ラ ン ト 治 療 の 真 実 34」 な ど が 掲 載 さ れ 、
「 イ ン プ ラ ン ト 治 療 の 真 実 34」 で は 、 例 え ば 、 事 前 の 検 査 項 目 、 ど ん な 手 術 方 法 が あ る か 、
費用はどのくらい掛かるか等々、患者が知りたいと思う事が詳しく掲載されている。この
「 イ ン プ ラ ン ト 治 療 34」 に お け る 設 問 は 、 こ れ か ら 施 術 を 受 け る 人 の 指 針 と な り 、 か な り
の 知 識 が得 ら れ る。
この本が圧巻なのは「患者が安心してインプラント治療を受けるには、情報開示が必
9
要」という認識で、日本歯科保存学会 、日本補綴歯科学会
10
、日本歯周病学会
11
、日本
口 腔 イ ン プ ラ ン ト 学 会 の 4学 会 の 専 門 医 が い る 歯 科 診 療 所 ・ 大 学 病 院 に つ い て 北 海 道 か ら 沖
9日本歯科保存学会:http://www.hozon.or.jp/
10日本補綴歯科学会:http://www.hotetsu.com/
11日本歯周病学会:http://www.perio.jp/information/topics.shtml
18
縄 ま で 3,209名 の 専 門 医 に イ ン プ ラ ン ト に 関 す る 調 査 用 紙 を 送 付 し 、 イ ン プ ラ ン ト を 行 っ て
い な い 人 を 除 き 、 診 療 所 782名 、 大 学 病 院 39施 設 の 調 査 結 果 が 記 載 さ れ て い る こ と で あ る 。
診 療 所 名 、 住 所 、 年 間 の イ ン プ ラ ン ト 患 者 数 /本 数 、 費 用 、 CT( コ ン ピ ュ ー タ ー 断 層 撮 影 )
の 有 無 等 々 が 表 に ま と め ら れ て い る 。 全 国 の 診 療 所 の 治 療 費 の 平 均 金 額 は 1本 当 た り 32.7万
円 ~ 39.9万 円 で あ っ た 。 都 内 の 診 療 所 は 全 国 平 均 よ り 3万 円 ほ ど 高 く 、 大 学 病 院 の 平 均 額 は
全 国 平 均 よ り 約 6万 円 高 く な っ て い る 。 診 療 所 で は 歯 科 CTに つ い て 、 所 有 し て い る が 33% で
あ っ た が 、 所 有 し て い な い 67% の 医 院 は 他 の 医 療 機 関 と 提 携 し 、 術 前 に CT撮 影 を 行 っ て い
る か 否 かが 重 要 と思 わ れ るが 、調 査 は 行 われ て い ない 。
上 記 4 学 会 の 他 に 日 本 口 腔 外 科 学 会 12の 専 門 医 の 記 載 が 無 い の は 残 念 に 思 う 。 日 本 口 腔
外科学会は先の日本消費者センターからの警告の要望先として挙げられていることからも、
専 門 医 は多 く の イン プ ラ ント の施 術 を 行 って い る 事が 予 測 で き る。
日 本 口 腔 外 科 学 会 の HPに は 2012年 11月 12日 、 理 事 長 名 で 大 き く 赤 文 字 で <緊 急 >と し て 、
会 員 の 皆 様 へ 「 週 刊 朝 日 MOOK」 の 調 査 依 頼 ア ン ケ ー ト に 協 力 し な い よ う に 。 本 学 会 理 事 会
はこのアンケートに調査実施を了解していない。依頼文書やアンケート項目に不適切な表
記が多い。調査事務局に謝罪をするように申し入れている」としている。消費者としては、
アンケート中の不適切な部分を指摘し、それを誌上に記載する事を条件とした上で、アン
ケートに協力し、より多くの専門医を消費者に明らかにし、インプラント施術を行う専門
医 と 、 その 技 量 を公 表 す る必 要が あ る と 考え る 。
日本口腔外科学会の専門医は厚生労働省から広告が可能になった専門医(口腔外科専門
医・歯周病専門医・歯科麻酔専門医・小児歯科専門医・歯科放射線専門医)であり、告示
で定める基準を満たす団体として認定を受けている。認定基準は「医業、歯科医業若しく
は助産師の医業又は病院、診療所若しくは助産所に関して広告することができる事項」(2
007年 厚 生 労 働 省 告 示 第 108号 ) で 定 め ら れ 、 基 準 の 第 一 条 二 の リ 、 「 資 格 を 認 定 し た 医 療
従事者の名簿が公表されていること」となっているが、専門医の名簿・住所はなく、病院
名、所在地(○○市)、数、が記載されている、これは名簿とは言えず、消費者にとって
は 不 親 切で あ る 。
日 本 歯 科 医 学 会 の 傘 下 に は 21の 専 門 分 化 会 ( 表 4) と 19の 認 定 分 科 会 が あ り 、 多 く の 専 門
12日本口腔外科学会:http://www.jsoms.or.jp/
19
分 科 会 の HPに は 「 一 般 の 方 へ 」 、 「 お 近 く の 専 門 医 」 と し て 医 師 の 氏 名 、 勤 務 先 の 名 称 ・
住所等が記載され、消費者は近隣の専門医を知る事が出来るが、インプラント施術を行っ
ているか否か、インプラントに関するアンケートにあるような詳しい内容は知る事が出来
ない。
専門医制度・認定医制度は各専門分科会によって独自に決められていて一律ではないが、
専門医資格認定には歯科医師免許証登録後、認定された研修施設でカリキュラムに従って
数年間の診療に従事し、専門分科会に継続して数年間会員であり、その後試験によって認
定され、数年後には更新の必要がある。各専門分科会の会員数と専門医、厚生労働省から
認 定 さ れ て い る 専 門 資 格 名 で あ る ( 表 4) 。 こ の 広 告 可 能 な 認 定 さ れ た 専 門 資 格 名 の 中 に イ
ン プ ラ ント 専 門 医が 認 め られ てい な い 事 が残 念 に 思わ れ る 。
インプラント治療のような新しい分野では年々新たな治療法・素材が開発されているた
め に 、 専門 分 科 会で 研 究 発表 に接 し 研 鑽 が必 要 と なっ て い る 。
一 方 、 医 科 で は 現 在 55種 の 専 門 医 が 認 定 専 門 医 と 認 め ら れ て い る が 、 専 門 医 制 度 改 革 が
厚 生 労 働省 の 検 討会 で 議 論さ れて い る 。 医科 で は 各学 会 の 認 定 制度 か ら 、専 門 医 資 格 の
認 定 と 、 そ の 養 成 プ ロ グ ラ ム の 評 価 ・ 認 定 の 2つ の 機 能 を 持 っ た 、 第 三 者 機 関 の 認 定 制 度 に
改められる新制度に移行しようといているため、やがて歯科においても同様な動きになる
と 思 わ れる 。
20
表 4 2 01 2年日本歯科医学界専門分科会会員数
専門分科会
会員数(2012年) 専門医
歯科基礎医学会
日本歯科保存学会
日本補綴歯科学会
日本口腔外科学会
日本矯正歯科学会
日本口腔衛生学会
日本歯科理工学会
日本歯科放射線学会
日本小児歯科学会
日本歯周病学会
日本歯科麻酔学会
日本歯科医史学会
日本歯科医療管理学会
日本歯科薬物療法学会
日本障害者歯科学会
日本老年歯科医学会
日本歯科医学教育学会
日本口腔インプラント学会
日本顎関節学会
日本臨床口腔病理学会
日本接着歯学会
2,449
4,465
6,569
9,704
6,380
2,468
2,007
1,285
4,521
8,719
2,351
502
1,189
708
4,426
2,533
1,818
12,199
2,531
532
920
最終認定日 資格名
--794名
782名
1788名
2,739名(認定医)
----202名(認定医)
1102名
921名
241名
------373名(認定医)
----803名
167名
--95名(認定医)
不明
不明
2011.6.28現在 口腔外科専門医
不明
2011.7.7現在
不明
不明
不明
歯科放射線専門医
小児歯科専門医
歯周病専門医
歯科麻酔専門医
2012.4.16現在
http://www.jads.jp/about/outline.html
日本歯科医学会 専門分科会一覧 アクセス2012/5/21
3
歯 科医 師 会
この章では、歯科医師会がインプラントに関してどのように取り扱っているか歯科医師
会 関 連 につ い て 見て い く 。
1 ) 歯 科医 療 白 書2008年 版
こ の 白 書 は 2009年 2月 28日 に 社 団 法 人 日 本 歯 科 医 師 会 、 日 本 歯 科 総 合 研 究 機 構 の 監 修 で 、
5年 振 り に 発 行 さ れ た 。 白 書 の 内 容 は 第 1章 か ら 第 14章 ま で あ り 、 口 腔 保 健 の 現 状 ・ 歯 科 医
師の需要と供給・国民経済と歯科医療費・歯科サービス価格・診療報酬・診療所の経営・
経 営 分 析 ・ 歯 科 医 師 所 得 分 析 ・ IT化 ・ 保 険 制 度 改 革 ・ 国 際 比 較 ・ 都 道 府 県 別 歯 科 医 療 費 ・
歯 科 医 師 会 等 が 収 載 さ れ て い る 。 こ の 第 9章 「 歯 科 医 師 所 得 の 経 済 分 析 」 9.自 費 診 療 に 関 す
る国民意識と歯科インプラントの経済分析として、インプラントを含む自由診療と価格に
関 す る アン ケ ー ト調 査 報 告が 収載 さ れ て いる 。
歯 科 の 自 由 診 療 に 対 し て 、 (ⅰ )国 民 が ど の 程 度 の 情 報 を も っ て い る の か 、 (ⅱ )国 民 の 歯
科 医 院 探 し は ど の 程 度 か 、 (ⅲ )歯 科 医 師 の 参 入 障 壁 は ど の く ら い あ る の か を 、 国 民 ・ 歯 科
医師に対してのアンケート調査を株式会社ジーシーと共同で行っている。(調査会社のデ
21
ー タ ー ベ ー ス か ら 無 作 為 に 抽 出 し た 14,000人 に 郵 送 、 1,463人 か ら 回 答 。 回 答 率 10.5% ) 。
ま た 同 調 査 を 、 1,000施 設 の 歯 科 診 療 所 に 郵 送 し 、 374施 設 か ら 回 答 を 得 た 。 回 答 率 37.4%
で あ る 。結 果 は 以下 の 通 りで ある 。
(ⅰ )国 民 の 自 由 診 療 に 対 す る 認 知 度 、 イ ン プ ラ ン ト 、 ホ ワ イ ト ニ ン グ 、 歯 列 矯 正 、 を
「 知 っ て い る 人 」 は そ れ ぞ れ 62.1% 、 79.9% 、 96.4% で あ っ た が 、 自 由 診 療 に 対 し て 特 に
情 報 を 得 よ う と は し て い な い し 、 自 由 診 療 は 保 険 診 療 よ り 質 が 高 い と 思 っ て い る 人 が 56.
0% で あ っ た 。 (ⅱ )国 民 の 情 報 サ ー チ 範 囲 が 狭 く 、 歯 科 医 院 の 選 択 基 準 は 、 通 う の に 便 利
( 22.0% ) 、 先 生 の 対 応 が 良 い ( 19.9% ) 、 医 療 技 術 の レ ベ ル が 高 い ( 15.2% ) 、 治 療 内
容 を 分 か り や す く 説 明 し て く れ る ( 12.4% ) 、 で あ っ た が 、 実 際 に 通 っ て い る 歯 科 医 院 は
自 宅 ( 66.6% ) ま た は 勤 務 先 ( 12.7% ) の 近 く で あ り 、 患 者 の サ ー チ 範 囲 は 非 常 に 狭 い こ
と が 分 かっ た 。
イ ン プ ラ ン ト を 受 け た 事 の あ る 人 の 年 齢 は 50代 だ が 、 女 性 は 40、 50代 で 、 自 営 業 、 年 収
は 1200万 以 上 と あ る 。 (ⅲ )歯 科 医 師 側 の 参 入 障 壁 に つ い て 、 イ ン プ ラ ン ト 治 療 を 実 施 し て
い る 44.% 、 イ ン プ ラ ン ト 治 療 の 阻 害 要 因 と し て は 、 患 者 へ の 経 済 的 負 担 ( 27% ) 、 安 全 性
の 問 題 ( 25% ) 、 技 術 の 問 題 ( 17% ) 、 設 備 投 資 の 負 担 ( 5% ) と 供 給 側 の 問 題 を 挙 げ る 歯
科医師は半分程度であり、技術的なサポートが利用できれば、インプラント治療を積極的
に 行 う と 回 答 し た 歯 科 医 師 は 67.7% も お り 、 技 術 面 で 参 入 障 壁 が あ る こ と が 示 唆 さ れ る と
記 載 さ れて い る 。
このアンケート調査にはインプラント トラブルについては全く触れられていない、国民
が歯科の自由診療に対してどのように理解し、どのように歯科医院を選んでいるか、歯科
医師のインプラント治療に関する考え方を調査対象としているため、インプラント トラブ
ルに関する歯科医師会の考え方を知る事ができないが、インプラントに関して歯科医師が
技術的に未熟であると認識している事を知ることが出来た。まとめとしてインプラント治
療に代表される自由診療を普及させるには、まず「価格のあるものには費用がかかると言
う事を国民に理解してもらわなければならない」そのためには「一定の質と価格をモニタ
ー す る 第三 者 機 関の 存 在 が不 可欠 で あ る 」と し て いる 。
「一定の質と価格をモニターする第三者機関」は消費者にとって大変望ましく、一時も
早く設立する事を切望する、質と価格だけでなく、トラブルを抱えた患者の救済機関とし
22
て の 機 能を 持 た せる 事 を 提案 した い 。
先の小宮山弥太郎歯科医師はトラブル減少のためには「患者さんにもっと賢くなって頂
きたい」と発言している。たとえ患者はセカンドオピニオンを求め、他の医院からも見積
書を貰い、検査方法や金額を比較できたとしても、各々の歯科医師の技術的能力は知る事
は出来ない。このために大きな違いがなければ、家の近くで通いやすい、あるいは価格の
安い方の歯科医院を選ぶ事になる。消費者に歯科医院の選択をさせるには情報の公開しか
なく、インプラント施術を行う全ての歯科医院・歯科医師に対し、情報の公開を義務づけ
る 必 要 があ る と 考え る 。
2)日本顎顔面インプラント学会「インプラント手術関連の重篤な医療トラブルについ
て」
この「調査報告書」は日本歯科医学会の認定分科会である、日本顎顔面インプラント学
会が、歯科医師会側としては初めて行った、インプラントの医療トラブルに関する調査報
告 で あ る 。 こ の 報 告 は 同 学 会 の 「 日 本 顎 顔 面 イ ン プ ラ ン ト 学 会 誌 、 第 11巻 第 1号 ( 2012年 4
月 25日 発 行 ) 」 に 収 載 さ れ て い る 。 こ の 調 査 は 2009年 1月 よ り 2011年 12月 末 ま で の 3年 間 に
つ い て 、 2012年 2月 13日 ~ 3月 30ま で 、 同 学 会 が 認 め た 認 定 施 設 ( 79施 設 ) に ア ン ケ ー ト 用
紙 を 郵 送し 、 74施 設 か ら回 答 を 得 た (回 収 率 94% )。
イ ン プ ラ ン ト 手 術 関 連 の 重 篤 な 医 療 ト ラ ブ ル ( 図 11) は 3年 間 の 合 計 発 生 件 数 と し て 421
件 、 2009年 158件 、 2010年 127件 、 2011年 136件 で あ り 、 こ れ ら の ほ と ん ど が 、 他 施 設 で の イ
ンプラント トラブル症例の後処置を認定施設が担当した。下歯槽神経損傷や他の神経を損
傷 し た もの を 合 わせ る と 神経 損傷 は 158件 、 ト ラ ブル 全 体 の37.5% で あ っ た。
図 11 インプラント 手術関連の重篤な医療トラブル発生件数(2009~2011)
n=421
下歯槽神経損傷
上顎洞内インプラント迷入
上顎洞炎
心身医学的障害
オトガイ神経障害
異常出血(局所的原因)
インプラントの骨外穿孔
顎骨壊死
術後蜂窩織炎
軟組織に対する長期的障害
隣在歯の損傷
誤飲・誤嚥(手術中)
異常出血(全身的原因)
眼窩下神経損傷
舌神経損傷
その他
117
63
61
45
36
13
12
10
8
6
4
4
3
3
2
34
( 出 所 )日 本 顎 顔面 イ ン プラ ント 学 会 誌 、第 11巻 第 1号
23
2012年 4月 25日
p 32
一 方 治 療 の 結 果 ( 図 12) 、 3年 間 の 合 計 治 癒 は : 146例 ( 37.7% ) 、 軽 快 100例 ( 25.8% ) 、
不 変 124例 ( 32.0% ) 、 増 悪 1例 ( 0.3% ) 、 不 明 16例 ( 4.1% ) で あ っ た 。 治 癒 あ る い は 軽
快 に 向 か っ て 良 好 な 経 過 を 得 た 症 例 は 、 63.5% で あ っ た が 、 症 状 の 改 善 が 認 め ら れ な か っ
た 、 あ る い は 悪 化 し た 症 例 は 32.3 % を 示 し た 。 神 経 損 傷 を ま と め る と 158例 中 85例 ( 53.
8% ) が 不変 で あ り 、 神経 麻 痺 のト ラ ブ ル が 継続 し て 残っ て い る事 が 分 か っ た。
その他の症例では治癒率が高い。神経損傷原因はドリリング(顎の骨にドリルで穴を開
け る ) に 起 因 し て い る こ と が 多 く 、 術 前 に CT撮 影 が 行 わ れ 適 格 な 診 断 、 治 療 計 画 が な さ れ
図 12 各種トラブルの転帰
下歯槽神経損傷
オトガイ神経障害
舌神経損傷
異常出血(局所的原因)
異常出血(全身的原因)
治癒
術後蜂窩織炎
軽快
顎骨壊死
上顎洞炎
不変
上顎洞内インプラント迷入
増悪
誤飲・誤嚥(手術中)
不明
隣在歯の損傷
インプラントの骨外穿孔
心身医学的障害
軟組織に対する長期的障害
眼窩下神経損傷
0
20
40
60
80
( 出 所 )日 本 顎 顔面 イ ン プラ ント 学 会 誌 、第 11巻 第 1号
100
120
(33頁)
て い れ ば、 手 術 手技 に よ るト ラブ ル 数 を 減少 さ せ られ た か も し れな い 、 とし て い る 。
今回の調査はインプラント治療が行われた総数が不明であるため、「トラブル発生率」
は検討することが出来なかった。今後インプラント治療の登録制度等の整備が必要とし、
同学会からは「国際インプラント手帳」が提案され、医療トラブルを最小限にするために
歯科医師に協力を呼びかけでいる。患者がダウンロードして歯科医院に持って行き、イン
プラント治療を始める前に詳細をこの手帳に記入して貰い、万一術後に何らかの不具合を
感じた際に、大学などの大きな病院の口腔外科あるいはインプラント科を受診した時、適
切な処置がスムーズに行われることが紹介されているが、残念ながら宣伝不足で消費者は
24
知 ら な いと 思 わ れる 。
3 ) 「 日 本 歯 科 評 論 10」 2011年 10月 11日 発 行 の 特 集 、 イ ン プ ラ ン ト 治 療 に お け る 問 題 と そ
の対応――何をすればよいか?してはならないか?――の中で、春日井昇平教授(東京医
科歯科大学歯学部付属病院、インプラント外来)は「インプラント治療における問題点を
考 え る 」と し て 、
( ⅰ ) イン プ ラ ント の 利 点; ・義 歯 の 安 定・ 残 存 歯へ の 負 担 が ない ・
(審美的な回復が可能)・(あらゆる欠損様式に対応)、(
)内は全ての症例に合致し
ない。
(ⅱ)欠点;・侵襲が大きい・骨が不足する場合は困難・長期の治療期間・高額な費用・
失 敗 す ると 回 復 が困 難 ・ 天然 歯列 と の 調 和・ 軟 組 織と の 結 合 に 問題 が あ ると し て い る 。
( ⅲ ) イン プ ラ ント 治 療 の成 功基 準 ( ト ロン ト 会 議、 1998年 )
a) イ ン プラ ン ト は 患 者と 歯 科 医の 両 方 が 満 足す る 機 能的 ・ 審 美的 な 上 部 構 造物 を よ
く 支 持 して い る 。
b) イ ン プラ ン ト に 起 因す る 痛 み、 不 快 感 、 知覚 の 変 化、 感 染 の兆 候 等 が な い。
c) 臨 床 的に 検 査 す る 場合 、 個 々の 連 結 さ れ てい な い イン プ ラ ント は 動 揺 し ない 。
d) 機 能 開始 1 年 以 降 の経 年 的 な1 年 毎 の 垂 直的 な 骨 収集 は 平 均0.2mm以 下 で ある 。
春 日 井歯 科 医 師の 成 功 基準 に加 え る 事 を提 案 す る新 た な 項 目
e) 治 療 終 了 後 に 問 題 が 起 き な か っ た 、 あ る い は 問 題 が 起 き た と し て も そ の 問 題 を 解 決 す る
事 が で きた 。
以 上 の a~ eま で が 満 た さ れ た 時 に イ ン プ ラ ン ト は 成 功 し た と 言 え る 、 患 者 が 満 足 し て い
な い 時 や軽 度 で も不 具 合 があ る時 に は 成 功と は 云 えな い そ う で ある 。
インプラント治療で問題を起こさないために必要なこととしては、インプラント治療の
手順は「診査・診断・治療計画(インフォームドコンセントを含む)」→「インプラント
埋入手術」→「補綴治療」→「メンテナンス」の4段階に分けられる、外科的な手術の習
熟が重要であり、診査・診断・治療計画の段階が極めて重要と述べている。この「日本歯
科評論」は歯科医療従事者を対象としているために患者へのアドバイスはないが、歯科医
師に重要な事は消費者にとっても重要な事であり、審査・診断・治療計画(インフォーム
ドコンセント)の部分で患者は納得が出来るまで質問してみる事が大切である。特に既往
25
症 の あ る患 者 は 医科 の 主 治医 に相 談 す る こと も 重 要と 思 わ れ る 。
春 日 井 教 授 は ア エ ラ 2012年 11月 5日 号 の 、 TVキ ャ ス タ ー -草 野 仁 氏 と の 対 談 で 今 ま で イ ン
プ ラ ン ト 治 療 を 受 け た 人 は 、 世 界 で 800万 人 、 日 本 で 100万 人 以 上 と 語 っ て い る が 、 厚 生 労
働 省 の 2011年 度 の 歯 科 疾 患 実 態 調 査 1 3 の 中 で 、 今 回 初 め て 行 わ れ た イ ン プ ラ ン ト 有 無 調 査
( 表 5) に よ る と 、 調 査 総 数 3,716人 ( 15歳 以 上 ) 中 2.6% の 人 が イ ン プ ラ ン ト を 有 し て い た 。
こ の 割 合 は 2010年 10月 の 国 勢 調 査 の 15歳 以 上 人 数 に 直 す と 、 2,891千 人 ( 111,218千 人 × 2.
6% ) と な り 非 常 に 多 い 、 調 査 対 象 者 に 偏 り が あ っ た の だ ろ う か 。 特 に 55~ 64歳 で は 765.9
千 人 ( 17,812千 人 × 4.3% ) 、 65~ 74歳 で は 672.7千 人 ( 15,190千 人 × 4.4% ) と 他 の 年 代 に
比 較 し て多 い 事 がわ か る 。
表 5 インプラントの有無調査
年齢
割合(%)
人数(人)
総数
総数
3,716
あり
なし
2.6
不詳
94.0
3.4
15~24
202 -
97.0
24~34
315
1.0
97.1
35~44
498
1.0
95.0
45~54
467
2.1
96.8
55~64
726
4.3
93.9
65~74
839
4.4
92.0
75~84
565
1.2
91.9
85~
106
2.8
90.6
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/62-23.html
3.0
1.9
4.0
1.1
1.8
3.6
6.9
6.6
(出所)2011年歯科疾患実態調査について アクセス2012/6/6
4 ) イ ンプ ラ ン ト ガ イド ラ イ ンに つ い て
日 本 歯 科 医 学 会 の 専 門 分 科 会 、 日 本 歯 科 放 射 線 学 会 14に 「 イ ン プ ラ ン ト 画 像 診 断 ガ イ ド
ラ イ ン 」 第 2版
2008年 9月 1日 設 定 が あ る 、 こ の ガ イ ド ラ イ ン は 不 適 切 な 診 断 に よ っ て 、 患
者への不必要な医療被曝等が起こらないように指針を示した。このガイドラインの目的は
口 内 法 X線 撮 影 や パ ノ ラ マ X線 撮 影 で の 予 備 的 な 診 査 を 行 い 、 CT( 三 次 元 画 像 ) を 組 み 合 わ
13 歯科疾患事態調査:歯科保険状況を把握するために6年に1度行われる、全国を対象とし、平成23年
度国民生活基礎調査より設定された単位区から無作為に抽出した300単位の世帯及び当該世帯の満1歳以
上の世帯員を調査客体としており、今回被調査者数は4,253人(男1,812人、女2,441人)。
mhlw.go.jp/toukei/list/62-23.html
アクセス2012/6/6
14 日本歯科放射線学会:https://www.jsomfr.org/
26
http://www.
せ る 事 が 常 識 的 と な っ て い る た め に 、 CTを 中 心 に 説 明 し て い る 。 対 象 患 者 は イ ン プ ラ ン ト
治療を受ける全ての患者、利用者はインプラント治療に携わる全ての歯科医師である。と
しているが、インプラント治療に携わる全ての歯科医師が、このガイドラインを守ってい
ないことは明らかであり、今後、訴訟事例が増えるに従って守られる事になると思われる。
日 本 歯 周 病 学 会 で は 「 歯 周 病 患 者 に お け る イ ン プ ラ ン ト 治 療 の 指 針 2008」 が あ る 。 歯 周
病患者のインプラント治療について、検査・診断・メンテナンス療法まで書かれている。
日 本 口腔 イ ン プラ ン ト 学会 では 2012年 6月 に「 口 腔 イン プ ラ ント 治 療 指 針 」 (80頁)
を出版した。この指針は一般的と認められる、診察・検査・評価・診断・治療計画・イン
フォームドコンセントの方法・術式等が書かれている。また同学会には歯科医師用に「イ
ン プ ラ ン ト 治 療 の た め の チ ェ ッ ク リ ス ト 2012年 版 」 が 作 成 さ れ た 、 い ず れ も 出 来 て 日 が 浅
いために未だ浸透していないと思われる。
このように各学会に於いて指針が作られてい
る が 、 歯科 医 学 界全 体 と して のガ イ ド ラ イン は 制 定さ れ て い な い。
4
厚 生労 働 省
厚 生 労働 省 に おけ る 取 り組 みに つ い て 以下 見 て いく 。
1 ) 医 療機 関 ホ ーム ペ ー ジガ イド ラ イ ン 1 5
従 来 、 医 療 広 告 ガ イ ド ラ イ ン は ( 平 成 19年 9月 28日 告 示 ) 制 定 さ れ て い た が 、 医 療 機 関 の
ホームページは病院の情報を得ようとする人が閲覧する、情報提供や広報として扱われ、
広告とは見なされていなかった。インターネットが一般的となった現状では、美容医療サ
ービス・歯科インプラント等の自由診療を行う医療機関において、ホームページに掲載さ
れている治療内容や費用と受診時の医療機関の説明対応が異なる等、ホームページの記載
内容に起因するトラブルが発生している。全国の消費生活センターには広告に関する相談
が多数寄せられ、消費者庁から医療機関のホームページ上の不適切な表示等に対して適切
な対応が求められている。前出の国民生活センターからも同様な対応が求められている。
厚生労働省では「医療機関では、営利を目的として、ホームページにより不当に誘引す
15 医療機関のホームページの内容の適切なあり方に関する指針(医療機関ホームページ
ン);http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002kr43-att/2r9852000002kr5t.pdf
01/08
27
ガイドライ
アクセス2013/
る事を慎み、国民・患者保護の点でも、ホームページに掲載されている内容を適切に理解
し、治療等が選択出来るよう、客観的で正確な情報提供が行われるべきである」。医療機
関のホームページを一律に医療法の広告とすると、保険診療を行う一般の医療機関で、患
者が知りたい情報、例えば治療法・施術の内容、効果などがインターネットで入手できな
くなるデメリットがある。そのため今回の要請は美容医療サービスや歯科インプラント治
療などの自由診療分野を対応するとしている、「医療情報の提供のあり方に関する検討会
報告書」
16
を踏まえ、従来通り原則として医療法の対象とはしないこととしているが、ホ
ー ム ペ ージ の 内 容の 適 切 なあ り方 に 関 し てガ イ ド ライ ン を 作 成 した と し てい る 。
医療機関のホームページの内容の適切なあり方に関する指針(医療機関ホームページガ
イ ド ラ イン ) は 2012年 6月 29日 に 案 が示 さ れ 、 同 年9月 28に 告示 さ れ た。
( ⅰ ) ホー ム ペ ージ へ の 記載 は不 適 切 な 事項
a) 内 容が 虚 偽 、 客 観的 事 実 の証 明 が 出 来 ない 事 項
例 :「 加 工 ・修 正 し た術 前・ 術 後 の 写真 な ど の掲 載 」 、 「 絶対 安 全 な手 術 の 提 供 」
「 ○% の 満 足度 」 等
b) 他 との 比 較 、 優 位性 を 示 そう と す る 事 項
例 : 「 日 本 一 」 、 「 No.1」 「 最 高 」 「 ○ ○ の 治 療 で は 日 本 有 数 の 実 績 」 ( 事 実 で あ っ
て も誤 認 の おそ れ が あり 不可 ) 「 著 名人 が 受 診」 ( 事 実 で も不 可 )
c) 内 容が 誇 大 、 医 療機 関 に とっ て 都 合 の 良い 情 報 の過 度 な 強調
例 :任 意 の 専門 資 格 「○ ○学 会 認 定 医」 ( 活 動実 態 の な い 団体 に よ る認 定 )
施 設認 定 「 ○○ 協 会 認定 施設 」 ( 活 動実 態 の ない 団 体 に よ る認 定 )
体 験談 の 強 調、 「 患 者に 謝礼 を 支 払 い医 療 機 関に 都 合 の 良 い体 験 談 」
d) 医 療内 容 と 直 接 関係 の な い事 項 に よ る 誘引
例 :物 品 の 贈呈 等
e) 早 急な 受 診 を あ おる 表 現 や費 用 の 過 度 な強 調
例 :「 た だ いま キ ャ ンペ ーン 実 施 中 」「 期 間 限定 ○ ○ 療 法 50% オフ 」 等
( ⅱ ) ホー ム ペ ージ に 記 載す る事 項 ( 自 由診 療 )
16 医療情報の提供のあり方に関する検討会報告書:アクセス2012/10/15
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000024cec-att/2r98520000024eu3.pdf
28
・通常の治療内容や費用が医療機関によって大きく異なり、その内容・費用を明確にす
る必要がある。平均的費用が明確でない場合は最低金額から最高金額までの範囲を示す。
治 療 のリ ス ク や副 作 用 など を分 か り や すく 掲 載 する 。
当ガイドラインは関係団体の自主的な取り組みとしているために、違反に対して罰則は
無 い が 、 今 後 改 善 さ れ て い く 事 と 思 わ れ る 、 2013年 の 初 頭 で も 相 変 わ ら ず 違 法 な ホ ー ム ペ
ー ジ が 氾濫 し て いる 。
一 例 を 示 す と 、 「 キ ャ ン ペ ー ン 20% OFF 先 着 100名 」 「 1本 埋 入
法 ) 」 「 国 内 No.1 イ ン プ ラ ン ト 」 「 日 本 最 大 級
10万 円 を 8万 円 ( 1回
月 250人 が イ ン プ ラ ン ト 」 「 お ど ろ き の 2
0年 保 障 」 「 こ ん な に 安 く て い い の 」 「 ど こ よ り も 安 全 で 高 品 質 な 治 療 を 納 得 の 価 格 で 」
「 体 験 談」 「 イ ンプ ラ ン ト年 1,000件 以 上」 「他 院 と の値 段 の 比較 」 等 。
2 ) 医 療機 能 情 報提 供 制 度( 医療 情 報 ネ ット )
17
2007年 4月 1日 よ り 改 正 医 療 法 に よ っ て 設 立 さ れ た 、 医 療 機 能 の 情 報 提 供 制 度 で あ る 。 住
民・患者による医療機関の適切な選択を支援する事を目的とし、病院等に対し、医療機能
に関する情報について都道府県知事への報告を義務づけ、都道府県知事はその情報を住
民 ・ 患 者に 提 供 する 制 度 であ る。
この制度では、医療機関は基本情報(診療科目・診療日・診療時間)のほか、対応可能
な疾患・治療内容等、歯科を例に取ると、診療科目として歯科・矯正歯科・小児歯科・歯
科口腔外科に分類されている。歯科インプラントについては独立した項目はないが、歯科
口腔外科を検索するとインプラントの施術を行っているか否かを知る事ができる県もある
が、検索が難しい県もある。東京都の「医療機関案内サービス
ひ ま わ り 」 18は 疾 患 名 が
細分化され探しやすい。また、「提供する医療体制」あるいは「診療内容」の項目に、専
門 医 資 格や 医 療 従事 者 数 等を 知る 事 が で き、 地 域 の病 院 ・ 診 療 所の 検 索 が可 能 で あ る 。
17
医療機能情報提供制度(医療情報ネット):
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/teikyouseido/index.h tml
アクセス2013/01/10
18 東京都
医療機関案内サービス
ひまわり:
http://www.himawari.metro.tokyo.jp/qq/qq13tomnlt.asp
29
アクセス2013/01/10
この医療情報ネットは各都道府県で制作しているため、県毎にホームページに違いがあ
り分かりにくい県があることが難点であるが、今後の問題としてもっと消費者が使いやす
くなる事を期待する。前出の「医療情報の提供のあり方に関する検討会」では都道府県に
技術的助言を行い、もっと検索しやすくし、機能の追加を行い医療機関のホームページに
リンクし、制度の普及・啓発に努めて、医療を提供する側と受ける側の間に「情報の非対
称 性 」 を可 能 な 限り 緩 和 する こと が 今 後 の課 題 と して 挙 げ ら れ てい る 。
お わ り に・ ・ ・ イン プ ラ ント トラ ブ ル に 合 わな い た めに
2007年 5月 22日 に 東 京 都 中 央 区 八 重 洲 の 歯 科 医 院 で イ ン プ ラ ン ト 手 術 を 受 け た 70歳 の 女 性
が 手 術 中 に 大 量 出 血 し 、 死 亡 し た 事 件 は そ の 後 、 遺 族 4人 が 歯 科 医 院 と 院 長 を 相 手 取 り 、 約
1億 9000万 円 の 損 害 賠 償 を 求 め る 訴 え を 東 京 地 裁 に 起 こ し た た こ と が 2008年 6月 25日 分 か っ
た 。 警 視 庁 は 業 務 上 過 失 致 死 容 疑 で 立 件 に 向 け て 、 詰 め の 捜 査 を 進 め て い る 。 ( 2008年 6月
26日 付 け 日 産 経 新 聞 の 記 事 ) 。 こ の 死 亡 事 故 は イ ン プ ラ ン ト 手 術 を 行 っ て い る 全 て の 歯 科
医師にとっても、インプラントを受けようとしている消費者にとっても驚きであり、大変
不幸な事故であった。医療行為にはリスクがあるとはいえ、何故こんな大事故が発生して
しまうのか。この事故によって歯科医師・消費者の両者が、インプラントに対してより緊
張感を持つ事が重要であるが、「情報の非対称」の基で、より歯科医師側の責任は重大と
言 え る 。 ( 追 記 ) 2013年 3月 4日 、 東 京 地 裁 は 業 務 上 過 失 致 死 罪 に 問 わ れ た 院 長 、 飯 野 久 之
被 告 ( 68) に 禁 固 1年 6か 月 、 執 行 猶 予 3年 ( 求 刑 禁 固 2年 ) の 判 決 を 言 い 渡 し た 。 弁 護 側 は
控 訴 す る方 針 。 (日 経 2013年 3月5日 )
そこで消費者はインプラント治療の被害に合わないために消費者が行うことのできる最
大 の 防 御は 専 門 医を 探 す こと であ る 。
専 門 医の 探 し 方は
( ⅰ ) 「 日 本 歯 科 医 学 会 の HP」 → 「 専 門 分 科 会 一 覧 」 → ( 日 本 補 綴 歯 科 学 会 ) ・ ( 日 本 歯
周病学会)・(日本歯科保存学会)・(日本口腔外科学会)・(日本口腔インプラント学
会 ) 、 「 各 学 会 HPの 専 門 医 一 覧 」 か ら 探 す 。 た だ 、 日 本 口 腔 外 科 学 会 ・ 日 本 口 腔 イ ン プ ラ
ント学会の専門医一覧は再三の名簿変更により、より一層探しにくくなっている。また上
記 の 専 門医 は す べて イ ン プラ ント 手 術 を 行っ て い ると は 限 ら な い。
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(ⅱ)「医療機能情報提供制度(医療情報ネット)」から探す。各県のホームページから
探すより、大本の厚生労働省の制度説明から探すほうが良い。各都道府県の掲載ページに
移動する。「医療機関を探す」→「診療科目や診療領域」→「口腔外科」検索→各診療所
一覧→「診療内容・提供保健・医療・介護サーブス」を開けると、専門医であれば、その
資格名が記載されている。各県によって表示方法は異なっていが、地域を指定して検索が
可 能 で ある 。
( ⅲ ) 前出 の 週 刊朝 日 MOOKか ら 探す 。
今 後 の課 題 と して は 次 の3点 を挙 げ る 事 が でき る 。
(ⅰ)「インプラントガイドライン」を作成することが急務である。ガイドラインに則っ
た治療を行う事を義務付ける必要がある。厚生労働省は「自由診療は保険診療と違い強制
的な指導はできない」としているが、自主規制では減少はできないと考える。ガイドライ
ンに沿う事の出来ない歯科医院はこの治療法から撤退する必要がある。ガイドラインが出
来ることによって、事前の検査・画像診断・臨床検査・服薬状況等を歯科医師が知る事が
出来るようになり、リスクの高い患者を選択し大学病院に紹介することによって、トラブ
ル は 減 少す る と 思わ れ る 。
( ⅱ ) 「 医 療 機 能 情 報 の 提 供 制 度 」 の 活 用 で あ る 。 こ の 制 度 は 2007年 4月 か ら と 新 し く 、 な
じみのない制度であるが、都道府県知事は報告の督促や報告の内容の是正の命令を出し、
命令に違反した場合は、「開設の許可の取り消し」や「期間を定めた閉鎖」という罰則が
規定されている強力な制度であるため、消費者は安心して利用できると考えられる。ただ
一般医科に比べて歯科は緊急性に乏しいためか、内容が貧弱な上に、口腔インプラント専
門医が広告対象外であるために、インプラント治療の検索にはまだまだ使い勝手が悪い。
専門医資格の記載がない県もあり、実際には多くのインプラント手術が行われている診療
所の「提供する医療体制」にインプラントの記載がない県もある。全ての道府県の医療情
報 ネ ッ トが 東 京 都の 「 医 療機 関案 内 サ ー ビス
ひ まわ り 」 と 同 等に な る 事を 希 望 す る 。
現状の歯科では「医療の実績、結果に関する事項」の項目には前年度の平均来院患者数が
記載している県が多いが、この項目に他の自由診療の実績を含め、インプラント患者数、
施術本数が記載されると消費者にとっては情報公開として役立つ事になり、歯科医院選択
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の 助 け にな る と 考え る 。
(ⅲ)患者が歯科医院を選ぶチェックリストが必要である。患者は高額の支払いと不安な
気持ちでインプラント手術を受けるのであるから、より慎重に歯科医院を選ぶ姿勢が必要
である。
a) 手 術前 ・ 手 術 後 も長 期 間 通う 必 要 が あ るこ と を 念頭 に 、 専門 医 を 探 す 。
b) 候 補の 医 院 に つ いて 「 医 療情 報 ネ ッ ト ワー ク 」 で歯 科 医 院の 全 体 像 を 知る 。
c) 歯 科医 院 の 清 潔 感、 診 療 室は も ち ろ ん 医療 従 事 者、 ト イ レ等 。
d) 歯 科医 師 の 年 齢 、極 若 い 人、 高 齢 者 は 敬遠 す る 。
e) イ ンプ ラ ン ト を 強く 勧 め 決断 を 急 が せ る歯 科 医 師は 敬 遠 する 。
f) イ ンプ ラ ン ト の メリ ッ ト ・デ メ リ ッ ト を説 明 し ない 歯 科 医師 は 敬 遠 す る。
g) 1 本 当 た り の 専 門 医 に よ る 全 国 平 均 金 額 は 最 低 ~ 最 高 で 、 32.7万 円 ~ 39.9万 円 で あ っ
た 、大 き く かけ 離 れ てい る時 に は セ カン ド オ ピニ オ ン を 実 行す る 。
h) 既 往症 ・ 病 歴 ・ 服薬 状 況 を尋 ね 、 主 治 医と 連 携 しな い 時 は敬 遠 す る 。
i) CTの 撮 影 に 対応 で き ない 時 は 敬遠 す る 。
参考文献
野村真由美・広井良典・尾崎哲則「日本の歯科医療政策
ら」
勁草書房
森山
満
2007
「医療過誤・医療事故の予防と対策―病・医院の法的リスクマネジメント」
(株 )中 央経 済 社
春日井昇平
2002
「 イ ン プ ラ ン ト 治 療 に お け る 問 題 を 考 え る 」 日 本 歯 科 評 論 10
ン ・ パブ リ ッ シャ ー ズ
河 畠 大四
医療経済と国際比較の視点か
㈱ヒョーロ
2011
『 「い い 歯 科イ ンプ ラ ン ト 治療 医 」 を選 ぶ ! 』 朝 日新 聞 出 版
32
2012
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