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回復期リハビリテーション病棟に対する質の評価の導入 [PDF
特集2 小竹敦司 Atsushi_KOTAKE 日本光電工業株式会社 コンサルティング&ソリューション企画営業部 課長 医業経営コンサルタント 回復期 リハビリテーション病棟に 対する質の評価の導入 専修大学経営学部卒業。製薬会社,経営コンサルタント会社を経て,1997年日本光電入社。 販売会社,事業戦略開発チームを経て2003年より現職,同社のコンサルティング事業を手掛 ける。財団法人日本医業経営コンサルタント協会認定登録医業経営コンサルタント。日本医 療マネジメント学会,MMPG,医療経済学会会員。共著『繁栄する医院開業と運営Q&A』 (じ ほう,2006) 。 104 看護部長通信 V o l u m e . 6 N u m b e r . 5 2008年の診療報酬改定において,試行的ではあるが,回復 期リハビリテーション病棟に対する「質の評価」が初めて導入 された。本稿では,その概要と意義および届出施設数の推移等 の現状を踏まえた上で,「脳卒中患者の行き場がない」などの 問題点を指摘し,あるべきリハビリテーション体制の機能分化 について今後の動向を展望する。 医療の質評価の 3要素 法でどのような基準を用いて評 2008年の診療報酬改定にお 基準には客観性が保たれる必要 いて,回復期リハビリテーショ がある。 ン病棟(以下,回復期リハ病棟) 医療の質の評価の重要性を説 に対する質の評価が導入され いたアメリカの医療経済学者で た。試行的とはいえ「医療の質」 あるDonabedianによると,医療 が診療報酬において評価される の質は,構造(ストラクチャー) , のは初めてであり,注目を集め 過程(プロセス),結果(アウ ている。医療の質の評価につい トカム)の3要素で評価される ては, 「質」を測定する「基準」 としている。 が必要となるが,どのような方 構造(ストラクチャー)は, 価するかによって,評価結果に 差異が生ずるため,評価方法や 医療が提供される条件を構成す 日本においては,日本初の第 評価となっており,病院経営に る因子で,施設や設備などの物 三者評価機関である「財団法人 与えるインパクトや今後の動向 的資源,専門家の数,多様性, 日本医療機能評価機構」が1995 が大きな関心事となっている。 資格などの人材資源,医師・看 年に発足,1997年より審査が 護師スタッフの組織,教育研究 開始された。日本医療機能評価 機能,監視および医療であると 機構は,病院を対象に第三者評 している。 価を実施し,一定の水準に達し 過程(プロセス)は,診断, ている病院に対して「認定証」 治療,リハビリテーション,患 を発行するという方法をとって 改定前の回復期リハビリテー 者教育など,通常,専門家によっ お り,2008年 9 月29日 現 在, ション病棟入院料(1,680点)に て行われる医療活動および,特 日本医療機能評価機構の認定病 対して,2008年度診療報酬改 に患者や家族などの医療への参 院数は2,527病院と病院総数の 定において回復期リハビリテー 加であるとしている。 28%に上り,構造(ストラク ション病棟入院料1 (1,690点: 結果(アウトカム)は,提供 チャー)の評価としては我が国 以下,入院料1)および回復期 された医療に起因する個人や集 のスタンダードとなりつつあ リハビリテーション病棟入院料 団における変化(望ましいも る。診療報酬上では,緩和ケア 2(1,595点:以下,入院料2) の,望ましくないものを含む) 診療加算の施設基準として日本 の2階建ての診療報酬体系と であり,具体的には健康状態の 医療機能評価機構等が行う医療 なった。入院料1には,重症患 変化,患者または家族が得た将 機能評価を受けていることが条 者回復病棟加算(50点)が設 来の健康に影響を及ぼし得る知 件となっているなど,今後,第 定されており,事実上3段階の 識の変化,将来の健康に影響を 三者評価機関による評価・認定 評価となった(表1∼4) 。 及ぼし得る患者または家族の行 が診療報酬上の施設基準に取り 入院料1については,新たな 動の変化,医療およびその結果 入れられる可能性は高い。 要件として当該病棟の新規入院 に対する患者や家族の満足度で 今回の回復期リハ病棟に対す 患者のうち1割5分以上が重症 あるとしている。このモデル る質の評価の導入は,医療の質 患者(日常生活機能評価で10点 は,広く医療の質評価の3要素 評価の3要素のうち結果(アウ 以上の患者)であること,退院 として適用されている。 トカム)に対する診療報酬上の 患者のうち在宅復帰(他の保険 回復期 リハビリテーション 病棟入院料の概要 看護部長通信 V o l u m e . 6 N u m b e r . 5 105 □表1 回復期リハビリテーション病棟入院管理料 1.回復期リハビリテーション病棟入院料1 1,690点 (生活療養を受ける場合にあっては1,676点) 2.回復期リハビリテーション病棟入院料2 1,595点 (生活療養を受ける場合にあっては1,581点) 注1)別に厚生労働大臣が定める主として回復期リハビリテーションを行う病棟に関する施設基準に適 合しているものとして保険医療機関が地方社会保険事務局長に届け出た病棟に入院している患者で あって,別に厚生労働大臣が定める回復期リハビリテーションを要する状態にあるものについて,当 該基準に係る区分に従い,当該病棟に入院した日から起算して,当該状態に応じて別に厚生労働大臣 が定める日数を限度として所定点数を算定する。ただし,当該病棟に入院した患者が当該入院料に係 る算定要件に該当しない場合は,当該病棟が一般病棟である場合には区分番号A100に掲げる一般病 棟入院基本料の注2に規定する特別入院基本料の例により,当該病棟が療養病棟である場合には区分 番号A101に掲げる療養病棟入院基本料の入院基本料Eの例により,それぞれ算定する。 注2)回復期リハビリテーション病棟入院料1を算定する患者が入院する保険医療機関について,別に 厚生労働大臣が定める施設基準を満たす場合は,重症患者回復病棟加算として,患者1人につき1日 。 につき所定点数に50点を加算する(注1のただし書に規定する場合を除く) 注3)診療に係る費用(当該患者に対して行った第2章第7部リハビリテーションの費用,第2節に規 定する臨床研修病院入院診療加算,医師事務作業補助体制加算(一般病棟に限る) ,地域加算,離島 加算,栄養管理実施加算,医療安全対策加算及び褥瘡患者管理加算,区分番号B005-3に掲げる地域 連携診療計画退院時指導料並びに除外薬剤・注射薬の費用を除く)は,回復期リハビリテーション病 棟入院料に含まれるものとする。 ※注2に規定する重症患者回復病棟加算の施設基準 重症の患者のうち3割以上の者が退院時に日常生活機能評価で3点以上改善していること。なお,その割合 は,次の(1)に掲げる数を(2)に掲げる数で除して算出するものであること。 (1)直近6か月間に退院した重症の患者(第2部通則5に規定する入院期間が通算される再入院の患者を除く) であって,入院時と比較し日常生活機能評価が3点以上改善した患者数 (2)直近6か月間に当該病棟に入院していた重症の患者数 社会保険研究所:医科点数表の解釈〈平成20年4月版〉,2008.より 医療機関への転院した者等を除 営に大きな影響を及ぼしそう 1,100病 棟( 図 1), 病 床 数 に く者)が6割以上であることが だ。例えば,50床の病棟の場合, して49,102床(図2)に上る。 追加された。経過措置として, 入院料1で重症患者回復病棟加 診療報酬改定後,新たに78病 入院料2の算定施設では,2008 算を算定した病棟と入院料2の 棟3,051床が回復期リハ病棟と 年9月末を期限として改定前の 病棟では,年額で2,610万円の して新規届出を行っている。回 1,680点を算定できた。また新 差額となる。 復期リハ病棟は,2000年度の 診療報酬改定で誕生して以来, 規参入の病棟においては,6カ 施設数推移 2度の増加傾向があった。1度 入院料1および入院料2の施 全国回復期リハビリテーショ 般病床・療養病床の選択を迫ら 設基準を比べると,人員配置な ン 病 棟 連 絡 協 議 会 に よ る と, れた際に,2度目は2006年度 ど同じ医療資源の投入量に対し 2008年11月現在,回復期リハ の療養病床へのRUG(慢性期包 て最大145点の点数差は医業経 病棟として届け出ている病棟は 括支払い方式)導入による入院 月間の実績を届け出るまでの間 は入院料2の適用となる。 106 看護部長通信 V o l u m e . 6 N u m b e r . 5 目は2003年度に医療機関が一 □表2 回復期リハ病棟の施設基準 項目 内容 標榜科名 リハビリテーション科を標榜していること。 医師 病棟ごとに常勤の専任医を1名以上配置すること。 PT・OT 病棟ごとに常勤専従のPT2名以上,OT1名以上を配置すること(リハ施設基準の専従PT・OT との兼務は不可)。 看護職員 常時,入院患者の数が15又はその端数を増すごとに1名以上であること(最小必要数の40% 以上が看護師であること)。 看護補助者 常時,入院患者の数が30又はその端数を増すごとに1名以上であること。 夜勤看護職員 2名以上(看護補助者が夜勤を行う場合においては看護職員の数は1名以上)であること。 夜勤看護補助者 2名以上(看護職員が夜勤を行う場合においては2名から看護職員の数を減じた数以上)であ ること。 リハ施設基準 ,脳血管疾患等リハ料(Ⅰ) ,(Ⅱ)もしくは(Ⅲ) ,運動器リハ料(Ⅰ) , 心大血管リハ料(Ⅰ) 呼吸器リハ料(Ⅰ)のいずれかの施設基準を届け出ていること。 病室床面積 内法による計測で患者1人につき,6.4m2以上であること。 廊下幅 病室に隣接する廊下幅は内法による計測で1.8m以上,両側に居室がある場合は2.7m以上であ ること。その他の構造設備患者の利用に適した浴室及び便所が設けられていること。 リハ実施体制 リハの実施計画の作成の体制,適切なリハの効果,実施方法等を定期的に評価する体制がとら れていること。 日常生活機能評価 日常生活機能評価表の記入は,院内研修を受けたものが行うものであること。院内研修は,次 に掲げる所定の研修を修了したもの(修了証が交付されているもの)もしくは評価に習熟した ものが行う研修であることが望ましい。 ・国及び医療関係団体等が主催する研修であること。 ・講義及び演習により,次の項目を行う研修であること。 イ)日常生活機能評価の考え方,日常生活機能評価表の構成と評価方法 ロ)日常生活機能評価に係る院内研修の企画・実施・評価方法 地方社会保険事務 局長への報告義務 毎年7月において,1年間(前年7月から6月までの間)に当該入院料を算定する病棟に入院 していた患者の日常生活機能評価について,別途6の別紙22により報告。ただし,平成20年 7月の報告は要しない。 社会保険研究所:医科点数表の解釈〈平成20年4月版〉,2008.より □表3 回復期リハビリテーションを要する患者と算定上限日数 回復期リハビリテーションを要する患者 入院までの日数 算定上限日数 脳血管疾患,脊髄損傷,頭部外傷,くも膜下出血のシャント手術後, 脳腫瘍,脳炎,急性脳症,脊髄炎,多発性神経炎,多発性硬化症, 腕神経叢損傷等の発症又は手術後,義肢装着訓練を要する状態 2月以内 150日 高次脳機能障害を伴った重症脳血管障害,重度の頸髄損傷,頭部外 傷を含む多部位外傷の発症又は手術後 2月以内 180日 大腿骨,骨盤,脊髄,股関節又は膝関節,2肢以上の多発骨折の発 症又は手術後 2月以内 90日 外科手術又は肺炎等の治療時の安静により廃用症候群を有しており, 手術後又は発症後 2月以内 90日 大腿骨,骨盤,脊髄,股関節又は膝関節の神経,筋又は靱帯損傷後 1月以内 60日 社会保険研究所:医科点数表の解釈〈平成20年4月版〉,2008.より 看護部長通信 V o l u m e . 6 N u m b e r . 5 107 □表4 他の保険医療機関へ転院した者等を除く者のうち 自宅退院以外の対象 社会福祉施設,身体障害者施設等(短期入所生活介護,介護 予防短期入所生活介護,短期入所療養介護,介護予防短期入所 療養介護を除く),地域密着型介護老人福祉施設(特別養護老 ,特定施設,指定特定施設,指定地域密着型特定施 人ホーム) 設,指定介護予防特定施設,グループホーム(認知症対応型グ ,有料老人ホーム,高齢者専用賃貸住宅が含ま ループホーム) れる。 なお,介護老人保健施設に入所もしくは短期入所する患者は 含まれない。 厚生労働省保険局医療課 平成20年3月28日事務連絡,「疑義解釈資料の送付について」より 料の大幅引き下げの影響で機能 転換が起こった際に,大きな増 加傾向が見られた。今回のアウ トカム評価導入でも,同様の増 加の波が見込まれている。 増加施設の精査が必要だが, 一般急性期脳外科系病棟から回 復期リハ病棟へ転換した例以外 にも,療養病床や障害者施設等 病棟からの回復期リハ病棟への 機能転換が増加の要因として挙 1,200 1,000 ■ 病棟届出数 ■ 累計数 げられる。特殊疾患病棟入院料 と障害者施設等入院基本料の算 800 定要件だった重度の肢体不自由 600 児(者)または脊髄損傷などの 重度障害者から,脳卒中患者ら 400 が除外されることになったた め,リハビリテーション病棟的 200 0 性格を持った障害者施設等病棟 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 (年) □図1 回復期リハビリテーション病棟届出数(2008年11月現在) が移行したと考えられる。 現在,入院料1を届け出てい る病棟は全体の1割程度である 50,000 45,000 40,000 が,前述のとおり診療報酬に最 ■ 病床届出数 ■ 累計数 大145点の点数差があることか ら,入院料1を算定すべく動き が加速されるものと予想される。 35,000 30,000 機能分化の中で 25,000 20,000 2008年度の診療報酬改定に 15,000 よって,回復期リハ病棟の機能 10,000 や進むべき方向性は明確に示さ 5,000 0 れた。機能分化が進む中で,問 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 (年) □図2 回復期リハビリテーション病床届出数(2008年11月現在) 108 看護部長通信 V o l u m e . 6 N u m b e r . 5 題点を指摘する声も挙がってい る。 それは, 「脳卒中患者の行き れてくれたとしても,回復期リ て,診療報酬上3段階の評価と 場がない」という声だ。収益を ハ病棟で行うような専門的なリ なった回復期リハ病棟である 確保する条件である,①回復期 ハビリテーションを行う体制が が,入院料1で重症患者回復病 リハビリテーションを要する状 ないことも多く,在宅復帰が難 棟加算を志向する施設において 態の患者を80%以上確保,②新 しいという。 は,急性期病院との連携強化は 規患者のうち重症患者15%以 さらに,重症患者の受け入れ もちろんのこと,社会福祉施設 上,かつ居宅等復帰率60%以 制限がかかる可能性を懸念する や身体障害者施設などの受け皿 上確保,③重傷者のうち日常生 声もある。今回のアウトカム評 となる施設との連携強化も必須 活機能指標が一定以上改善した 価では,新規患者のうち重症患 となるだろう。2008年度の診 患者割合30%以上確保,を目 者が15%以上という基準があ 療報酬改定により,脳卒中の地 指すために入院患者の疾患選択 るが,この重症患者率が例えば 域連携クリティカルパスが保険 が行われた場合,受け皿として 50%でも居宅等復帰率は一律 適用となったことも医業経営に の機能が圧倒的に不足するとい 60%という基準をクリアする必 おいて追い風となっている。 うのだ。脳卒中患者の急性期病 要がある。本来,重症患者率が 今後,急性期医療などほかの 院からの転院に際して,回復期 高ければ医療資源の投入が手厚 分野にもアウトカム評価が導入 リハ病棟では発症日などから起 くなるはずなので,居宅等復帰 される可能性があるが,我が国 算して2カ月以内でなければな 率の基準を下げて重症患者率と 初の診療報酬による医療の質の らないという転院基準(厚生労 の組み合わせで評価するか,診 評価はまだ始まったばかりであ 働省告示)があるため,発症後 療報酬上でも評価が欲しいとこ り,アウトカム評価の導入につ 2カ月を過ぎた重度の脳卒中患 ろである。これまで重症患者の いての成否については,回復期 者は回復期リハ病棟には転院で 受け入れ割合が高い施設では, リハ病棟の今後の動向を待たな きない。これまで,そうした脳 逆に重症患者の受け入れ制限を ければならない。 卒中患者の大きな受け皿であっ かけてリスクを軽減する動きが た障害者病棟,特殊疾患病棟の 出ることが懸念されている。 対象疾患から,今回の診療報酬 これらの懸念点は,これまで 改定で脳卒中の後遺症患者が除 回復期リハ病棟が担ってきた役 外されたことにより,障害者施 割の実態から,今回のアウトカ 設等病棟で脳卒中後遺症患者の ム評価の導入で機能を明確に絞 リハビリテーションを行うこと り込んだために生じた懸念と考 が不可能になった。 えられる。回復期リハビリテー また,医療型療養病棟では医 ション・維持期リハビリテー 療度の高い医療区分3でないと ション・介護保険適用リハビリ 経営が成り立たないという側面 テーションの役割分担の明確化 から,受け入れが難しい状況に や受け皿の整備が待たれる。 ある。医療型療養病棟で受け入 アウトカム評価の導入によっ 参考文献 1)厚生労働省ホームページ http://www.mhlw.go.jp/ (2008年11月閲覧) 2)全国回復期リハビリテーション病棟連 絡協議会ホームページ http://www.rehabili.jp/(2008年11月閲覧) 3)全国回復期リハビリテーション病棟連 絡協議会:平成20年度改定診療報酬回復 期リハビリテーション病棟関連Q&A, 2008年4月 4)一戸真子:医療における医療評価シス テムについて,大原社会問題研究所雑誌 477号,1998. 5)社会保険研究所:医科点数表の解釈 〈平成20年4月版〉,2008. 6)厚生労働省保険局医療課 平成20年3月 28日事務連絡,「疑義解釈資料の送付に ついて」 看護部長通信 V o l u m e . 6 N u m b e r . 5 109