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なぜ世界の掟破りドイツに誰もものが言えないか

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なぜ世界の掟破りドイツに誰もものが言えないか
リサーチ TODAY
2016 年 5 月 18 日
なぜ世界の掟破りドイツに誰もものが言えないか
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
伊勢志摩サミットを前に、財政出動への期待が高まっている。サミットでは、ドイツの反対をいかに抑える
かがカギを握っているとされる。みずほ総合研究所は『みずほ欧州経済情報』1を発表し、「伊勢志摩サミット
で日本はドイツを説得できるか」と問題提起した。下記の図表は世界の経常収支の比較である。今日、ドイ
ツを筆頭にしたユーロ圏は、地域別でみると経常収支の黒字が最大である。歴史を振り返れば、1970年代
に変動相場制へ移行後、世界の経済秩序の掟として、常に経常収支の黒字が最大の地域が機関車として
財政も含めた内需拡大で世界経済をけん引することが暗黙裡に求められてきた。同時に、自国の内需を海
外に明け渡すべく、自国通貨高の圧力を受けてきた。具体的には、1970年代以降日本とドイツ(当時は西
ドイツ)が機関車の役目を果たし、2000年代に経常収支が最大の黒字国が中国に移った、2008年には中
国が財政を拡大し、世界の機関車の役目を果たした。同時に、通貨高の圧力を受け入れてきた。今日、世
界最大の黒字国であるドイツを筆頭に、ユーロ圏は頑なに財政緊縮を掲げ「金利水没(マイナス)」による通
貨安競争によって外需拡大を志向しており、まさに近隣窮乏化が起きている。
■図表:G20の経常収支(対GDP比)比較
(%)
10
8
6
4
2
0
-2
-4
英国
トルコ
南アフリカ
ブラジル
オーストラリア
サウジアラビア
カナダ
1
米国
(資料)IMF よりみずほ総合研究所作成
メキシコ
(注) データは 2015 年見込み。
インドネシア
アルゼンチン
インド
フランス
イタリア
EU
日本
中国
ロシア
韓国
ドイツ
-6
リサーチTODAY
2016 年 5 月 18 日
下記の図表はG7各国の資本支出シェア比較だが、ドイツは最も低い水準だ。ドイツが財政を抑制する
要因は経済と政治の両面にある。経済面では、ドイツはその実力からみて共通通貨(ユーロ)で割安な通
貨価値で外需に依存できるため、単独で財政拡大を行う必要性が低い。政治面では、均衡財政は2013年
の連邦議会選挙における、キリスト教民主同盟(CDU)の主要な公約で、CDUの均衡財政に固執する姿勢
は、ドイツ国内では同党のイメージカラーである「黒」をとって「ブラック・ゼロ」と呼ばれる。ドイツは2017年秋
に連邦議会選挙を控えており、CDUとしては前回の選挙公約の実現を主張しやすい国内事情がある。
■図表:一般政府(G7)の資本支出のシェア比較
(%)
14
12
10
8
6
4
2
0
ドイツ
イタリア
英国
フランス
米国
カナダ
日本
(注)総支出に占める資本支出の比率。日本と米国は 2013 年、その他は 2014 年。
(資料)OECD より、みずほ総合研究所作成
今日の世界の需要不足の要因には「ブラックホール」のように世界の需要を吸収する、欧州の超財政緊
縮がある。その背後には、ユーロという共通通貨を用いることによる構造問題が存在する。すなわち、ユー
ロという統一通貨が用いられているにもかかわらず、域内不均衡是正の資金移転(トランスファー)が制度
上否定されているため、各国財政の緊縮とマイナス金利による通貨下落が必要とされているという矛盾であ
る。しかも、こうした欧州の勝手な議論に対し、米国でさえも物が言えず国際政治上の分断が生じている。
そもそも、1970年代以降、経常収支の黒字国が機関車として財政拡大で貢献するという掟が守られてき
たのは、米国が為替面で影響力を発揮し、黒字国に通貨高でけん制をかけてきた面が大きかった。この構
造は、今日も日本に強く当てはまる。ドイツには1990年代までこの掟が当てはまったが、通貨がマルクから
ユーロになり、共通通貨を隠れ蓑にできるようになって以来、マルクの時と異なりドイツを狙った通貨高の圧
力の効果が出にくくなった。そもそもドイツにはユーロ域内からも誰も物が言えない状況にあるが、米国から
も圧力が加わりにくい状況になってしまったのだ。ましてや、日本の言うことに従うインセンティブはドイツに
薄い。しかも、G7先進国には、共通の脅威もなくなった。今回の伊勢志摩サミットは、こうした世界的な分断
のなかで協調をとるという本質的な難しさを抱えている。
1
『みずほ欧州経済情報』 (2016 年 4 月号 2016 年 4 月 28 日)
当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき
作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。
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