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ポリブチレンテレフタレートの初期劣化特性の評価

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ポリブチレンテレフタレートの初期劣化特性の評価
資料
長野県工技センター研報
No.2, p.M54-M56 (2007)
ポリブチレンテレフタレートの初期劣化特性の評価
斉藤憲洋*
伊東
健*
藤澤
健*
Evaluation of Early Degradation Properties of Poly(1,4-butylene terephthalate)
Norihiro SAITO, Takeshi ITO and Ken FUJISAWA
ポリブチレンテレフタレート(PBT)を,無乾燥での成形及び熱処理により劣化させた。劣化させた試
験片について引張試験,曲げ試験,アイゾット衝撃試験等の機械的特性の評価及び赤外線吸収スペク
トル(IRスペクトル)の測定,熱重量測定(TG),メルトフローレイト(MFR)測定を行った。
その結果,劣化の初期段階では引張伸び,衝撃強さの低下が観測され,材料が脆くなる傾向がある
ことが確認された。また,この初期段階の変化は赤外分析及び熱重量測定ではほとんど観測されなか
ったが,MFR測定により差を捉えることができた。
キーワード:ポリブチレンテレフタレート,劣化
1
はじめに
23℃,湿度50%の環境中で16時間状態調節し,成形温度
現在,プラスチック製の部品は日用品や工業用部品等
260℃で行った。金型は,引張試験片(JIS K7113-1995
1
で幅広く利用されている。さまざまな環境にさらされる
号形)と曲げ試験片(長さ約110mm,幅約12mm,厚さ約
ため保管中や輸送中,または使用中に破損することもあ
3.1mm)及びアイゾット衝撃試験片(JIS K7110-1999付属
り,その原因究明のための相談が当センターによせられ
書1,2号A)がセットになったものを用いた。
る。破損の原因は,材料の問題,設計の問題,製造条件(成
また,熱処理用試験片は,成形前に材料ペレットを
形)の問題,使用方法(使用環境)の問題に大別される。こ
120℃で4時間乾燥した後,上記と同様に成形した。成形
のうち材料の問題に着目した場合,劣化により機械的特
した試験片の熱処理には,ギヤー式老化試験機(GPH-201,
性が変化し,部品が破壊したことが推定される場合があ
エスペック(株))を使用し,温度120℃で24時間,96時間,
る。しかし,その確認のため強度試験の実施を検討した
168時間処理し促進劣化を行った。
際,決まった寸法の試験片を採取することは困難である
2.2
評価
場合が多い。そこで,部品からサンプリングすることが
引張試験は,JIS K7113-1995により試験速度50mm/min
可能な別の評価方法で劣化の確認を行い,機械的特性の
で行い,引張強さ及び引張破断伸びを求めた。曲げ試験
推定を行うことになる。そのためにはあらかじめデータ
は,JIS K7171-1994により試験速度2mm/minで行った。引
取得を行い,その評価方法により取得した結果と機械的
張試験及び曲げ試験には,インストロン型材料試験機
特性の関連を調査しておく必要がある。
(5567,インストロン社)を用いた。アイゾット衝撃試験
ここでは、汎用エンジニアリングプラスチックである
PBTについて劣化試験を行い,その初期段階の機械的特
性の評価及び機器分析等を行い,取得したデータを紹介
する。
は,アイゾット衝撃試験機(IM-501,テスター産業(株))
を使用しJIS K7110-1999付属書1により行った。
IRスペクトルは,試料表面よりカッターでサンプリン
グしダイヤモンドプレスによる薄片処理を行い,フーリ
エ変換赤外分光光度計(JIR-6500,日本電子(株))により顕
2
2.1
微透過法で測定した。熱重量測定は,示差熱天秤
実験方法
劣化試験
(TG8101D,(株)リガク)を用い,試料約5mgを窒素雰囲気
劣化の促進は,無乾燥の市販PBT材料ペレットを射出
中で室温から500℃まで20℃/minで昇温した。得られた
成形機(PS60E,日精樹脂工業(株))で成形する方法と,成形
TG曲線から,試料重量が10%損失した時の温度を求めた。
前に推奨された条件で乾燥し射出成形した試験片を熱処
MFR測定は,JIS K7210-1999
理する方法の2種類行った。
ックサ(P111H型,(株)東洋精機製作所)により,試験温度
無乾燥のペレットの成形は,成形前にペレットを温度
A法に準じてメルトインデ
260℃,荷重21.18Nで行った。成形品からのサンプリング
はランナー部分をニッパーで破砕し,約8gを測定試料と
* 材料化学部
した。
- M 54 -
50
曲げ強さ(MPa)
引張強さ(MPa)
60
40
30
20
10
0
熱処理なし 無乾燥成形
24時間
96時間
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
熱処理なし 無乾燥成形
168時間
120
168時間
96時間
168時間
アイゾット衝撃強さ(kJ/m2)
35
100
引張破壊伸び(%)
96時間
(c)曲げ強さ
(a)引張強さ
80
60
40
20
30
25
20
15
10
5
0
0
熱処理なし 無乾燥成形
24時間
96時間
熱処理なし 無乾燥成形
168時間
図1
3
24時間
(d)アイゾット衝撃強さ
(b)引張破断伸び
3.1
24時間
PBTの劣化試験前後の機械的特性
結果と考察
168h
機械的特性
図1に劣化処理前の試験片及び劣化試験後の試験片に
96h
た結果を示す。引張強さ及び曲げ強さは劣化試験後,初
期値と比較してほぼ同等か若干増加する傾向が見られた。
一方,引張破断伸び及びアイゾット衝撃強さは,劣化試
験により低下していくことが確認された。このことから
Absorbance(-)
ついて引張試験,曲げ試験,アイゾット衝撃試験を行っ
24h
無乾燥成形
劣化の初期段階で,材料が硬く脆くなる変化が起こって
いると考えられる。そのため製品形状の中に,コーナー
熱処理なし
部分でRが小さいなど衝撃的な力がかかりやすい場所が
ある場合は,材料の状態によりトラブルが発生する可能
3500
性があり注意が必要となる。
3.2
3000
2500
2000
Wavenumber(cm-1)
1500
1000
機器分析による評価
図2に劣化処理前の試験片及び劣化試験後の試験片の
図2
PBTの劣化試験前後のIRスペクトル
IRスペクトルの比較を示す。試験前後で比較したところ
差はほとんど見られなかった。このことから,今回の劣
み取った値を示した。この10%重量損失温度は,一部の
化試験の条件では,IRスペクトルに変化が現れるほどの
高分子材料で劣化の解析に有効であることが知られてい
分子構造の変化は起こらなかったと考えられる。ウェザ
る 2)。しかし,今回の測定では劣化試験前後で大きな差
ーメーターを使用して促進劣化試験を行った報告 1) によ
を認めることはできなかった。
ると,長時間の試験後では3400cm-1付近に水酸基による
図5にMFR測定結果を示す。劣化処理前の値と熱処理
と考えられるピークが現れる等の変化が確認されている
後の値を比較すると,ほぼ同程度か若干の低下が観測さ
ことから,さらに劣化が進むとスペクトルに変化が現わ
れた。しかし,無乾燥のペレットを成形したものでは,
れてくると考えられる。
値が大きく増加している。無乾燥のペレットの成形では,
図3に劣化試験前の試験片のTG曲線を,図4にそれぞ
れのTG曲線から試料重量が10%損失した時の温度を読
- M 55 -
材料が水分を含んだ状態で成形温度まで加熱されるため,
加水分解による劣化が進行していると考えられる。一方,
Weight(%)
0
-20
-40
-60
-80
-100
50 100 150 200 250 300 350 400 450 500
Temperature(℃)
図3
図5
PBTの劣化試験前のTG曲線
PBTの劣化試験前後のMFR
10%重量損失温度(℃)
400
390
撃強さの低下が観測され,材料が脆くなっていくことが
380
確認された。一方,FT-IR測定,TG測定では劣化試験前
370
後でほとんど差が見られなかったが,MFR測定では加水
分解によると考えられる変化を捉えることができた。本
360
研究で行った劣化試験は,分析で差を確認するのが難し
く引張強さ及び曲げ強さも低下しない程度の初期の劣化
350
熱処理なし 無乾燥成形
図4
24時間
96時間
168時間
を再現したものであるため,今後さらに長時間の劣化試
PBTのTG曲線から読み取った10%重量損失温度
験を行い,より劣化が進行した材料のデータ取得を進め
る予定である。また,今回実験に使用したPBTは分子内
に加水分解されやすい構造をもつ結晶性のプラスチック
熱処理の場合は水分が存在しない状態であり,劣化に影
であるが,プラスチックの種類は多岐にわたっておりそ
響する要因は,主に熱と酸素で加水分解は起こりにくい
れぞれ劣化による性質変化の挙動は異なるため,他の材
ため,熱酸化劣化が進行していると推定される。MFRの
料についてもデータ取得を検討していく予定である。
値の違いは,この劣化機構の違いによると考えられる。
参考文献
4
おわりに
1)
熱処理による劣化の2つの方法で劣化試験を行い,機械的
福島県ハイテクプラザ.
FT-IRによる劣化評価
.
プラスチックの環境レポート. 2003,p83-107.
PBTについて,無乾燥のペレットの成形による劣化,
2)
大武義人.
事故原因究明に便利な分析手法
.高分
特性の評価,FT-IR測定,TG測定及びMFR測定を行った。
子材料の事故原因究明とPL法.東京,アグネ技術セン
劣化の進行に伴い,引張破断伸びの低下やアイゾット衝
ター,1999,p135-156.
80
MFR(g/10min)
70
60
50
40
30
20
10
0
熱処理なし 無乾燥成形
24時間
96時間
168時間
- M 56 -
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