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政 治

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政 治
政 治
過去5年間の出題傾向
政治思想
各国の
政治制度
政党・
圧力団体
選挙制度
行政
地方自治
政治史
国際関係理論
国際連合
国際機関・
国際機構
軍縮
条約
2003
2004
2005
2006
2007
国家Ⅰ種 国家Ⅱ種 地方上級 国税・労基
裁事・家裁 東京都Ⅰ類
特別区Ⅰ類
近年の本試験出題動向をみると,政治思想に関する問題が,複数の試
験種で出題されています。また,各国の政治制度や選挙制度に関する問
題は,毎年のように出題されていますので,しっかりと学習する必要が
あるでしょう。ただし,わが国の選挙制度に関しては,公職選挙法の改
正などに伴う時事的な事項も問われることも多いので,その点について
も注意が必要です。
行政や地方自治に関しては,その時々の政策などに関する時事的な問
題が出題される一方,理論や制度などの知識を問う問題は,頻出論点が
限られていますので,過去問を利用して知識を固めるのが良いでしょう。
国際関係については,国際連合をはじめとする国際機関や国際会議な
どの問題が出題されやすいので,基本事項から押さえていきましょう。
政治原理と政治制度
権力論
行政国家化の問題点
ホッブズの思想
政治思想
政治共同体
イギリスの政治制度
アメリカ合衆国の政治制度
各国の政治制度
近代以降のデモクラシー理論
出題される
ポイントを
押さえましょう。
第1章
政治原理と政治制度
政治原理と政治制度
1 絶対主義時代の政治思想
(1)N.マキャヴェリ 主著『君主論』
マキャヴェリは,支配者には,
ヴィルトゥ=「ラ
イオンの力とキツネの狡さ」が必要と説くなど,
徹底したリアリズムと目的合理主義の立場に立
ち,政治を神学や倫理学から解放しました。
(2)J.ボーダン 主著『国家論』
ボーダンは,絶対的かつ恒久的なものとして主
権概念を提示し,絶対王政の確立に寄与した人物
です。彼のいう主権の絶対性は,国内的最高性と
対外的自立を,主権の恒久性は,主権が直接国家
に帰属することをそれぞれ含意しています。
【絶対主義時代】
中世と近代の狭間にあ
り,ルネサンスと宗教改
革を経て,ローマ・カト
リック教会と封建貴族の
勢力が衰退していき,国
王に権力が集中して中央
集権国家が形成されてい
く時代のことを指しま
す。
2 社会契約説
(1)T.ホッブズ 主著『リヴァイアサン』
ホッブズは,自然状態において,人間は,万人
の万人に対する闘争状態にあると主張しました。
そこで,自己の生命身体を保全するために必要な
一切のことをなす権利としての自然権をもつ各人
民は,自然状態を終わらせ,平和を実現するため
に,自己の自然権を唯一の人間または唯一の合議
体に委譲する契約を相互に結び,これによって主
権をもった国家が設立されると述べました。
(2)J.ロック 主著『市民政府二論』
ロックによれば,自然状態は平和な状態ですが,
潜在的には常に闘争状態へと転落する不安定な状
態とされます。この不安定状態を脱却して生命・
自由・財産に対する権利である自然権の享受を確
実なものとするため,人民は,契約によって共同
社会を形成し,そこに統治機関を設立してその権
力を信託すると考えました。
【社会契約説】
17〜18世 紀 の 市 民 革 命
期の代表的な思想です。
代表的な思想家として,
ホッブズ,ロック,ルソー
が挙げられます。自然状
態を想定し,そこから個
人がその自然権を確保す
るために相互に社会契約
を結び,その結果として
国家が設立されるという
理論構成によって,国家
の成り立ちを説明するも
のです。
(3)J.J.ルソー 主著『社会契約論』
ルソーによれば,現実の文明社会は,自然状態
で人間が有していた善性や自由,平等が失われ,
私有財産制に基づく不平等と支配と悪徳のはびこ
る社会とされます。このような社会を改めて人間
性を回復するため,各人は自身のもつすべての権
利とともに自分自身をも共同体に完全に委譲しま
す(ここで成立する共同体の意思が一般意思で
す)。それによって人民は,一般意思の表現形態
である法に従うことによって完全な自由を獲得す
ることができるとルソーは主張しました。
ホッブズ
ホッブズが人民の抵抗を
認めないのに対し,ロッ
クは,統治機関が設立目
的に反する活動をした場
合,人民には一方的に信
託を取り消し政府を交代
させる権利が留保されて
いるとしました(抵抗権・
革命権)。
ロック
ルソー
主 著
『リヴァイアサン』
『市民政府二論』
『社会契約論』
自然状態
万人の万人に対する闘争
→無秩序状態
自然法に基づく平和
→不安定
他者のいない平和
→現実は堕落
財産権の確保
人間性の回復
契約目的 自己保存のまっとう
3 国家観の変遷
近代国家は,その役割が対外的防衛や国内の秩
序維持といった消極的役割に限定されるべきもの
と考えられていました(「消極国家」
「夜警国家」
,
)
。
しかし,産業革命などにより貧困や失業が社会問
題となる中で,国家は,社会・経済政策の実施を
求められるようになり,「積極国家」
(福祉国家)
へと変貌しました。そして,国家の積極国家化は,
政治的問題の量的増大と質的高度化をもたらし,
その結果,政治の中心を立法府から行政府へと移
行させました。このように,行政府が政治におい
て決定的に重要な機能を果たす国家を,近代の立
法国家に対して,「行政国家」とよびます。
4 統治形態の分類
(1)議院内閣制
行政府(内閣)が立法府(議会)の信任の上に
成立する政治制度です。議会の第一院における多
数派から首相が選出され,選出された首相が内閣
を組織し,内閣は議会に対して連帯して責任を負
うのが一般的です。立法府と行政府が協力関係に
【近代国家】
→夜警国家,消極国家,
立法国家
【現代国家】
→福祉国家,積極国家,
行政国家
第1章
議院内閣制を採る国…イギ
政治原理と政治制度
あり,この協力関係が維持されなくなった場合に
国民の審判を仰ぐことになります(内閣には議会
の解散権が,議会には内閣に対する不信任決議権
がそれぞれ付与されています)
。
リス,
ドイツ,
日本など
大統領制を採る国…アメリ
(2)大統領制
行政府の長である大統領にきわめて強い権限が
与えられている制度で,アメリカなどが採用して
います。行政を担当する大統領は,立法を担当す
る議会とは無関係に選出されることが多く,原則
として議会に対して責任を負いません。また,立
法府と行政府の役割が厳格に分離されているた
め,議会による大統領の不信任決議権や大統領に
よる議会の解散権などは存在しないのが一般的で
す。
カ,韓国など
両制度の中間…フランス
(半大統領制)など
大統領が存在するというだ
けでは大統領制とはいえず,
大統領が行政府の長を兼任
し,強力な権限を持つのが
大統領制です。ドイツは大
統領が存在しますが,議院
内閣制に分類されます。
5 主要国の政治制度
(1)イギリス
立憲君主制国家で,成文の憲法典をもたない(憲
法習律に依拠)国です。議院内閣制を採る国の典
型で,諸権力の分立は必ずしも明確ではありませ
ん。内閣は議会(下院)に対して連帯して責任を
負い,(実質的な)下院解散権を持っています。
議会は二院制で,上院(貴族院)は実質的権限を
ほとんど持たず,選挙に基づき構成される下院
(庶
民院)が上院に優越します。また,下院は内閣不
信任決議権を持っています。
イギリスの議院内閣制は,
下院総選挙の直後に,下院
第一党の党首が国王から首
相に任命される
(首相の指
名選挙は行わない)という
点や,大臣は全員議員でな
ければならないという点で
日本のものとは異なります。
国 王
下院第一党
党首を任命
首相の推挙
により任命
【議会】
世襲貴族
一代貴族
宗教貴族
法律貴族
下院(庶民院)
定数646名
小選挙区・任期5年
首相
閣内相
解散
信任
【政府】
︻内閣︼
上院(貴族院)
閣外相
選出
国 民
(2)アメリカ
アメリカは,連邦共和制の国で,きわめて厳格
な権力分立制をとっています。合衆国大統領は国
家元首であり,行政権の長として行政各部の長官
(閣僚)を任命し,統率します。大統領は,大統
領選挙人団による間接選挙によって任期 4 年で
選出され, 3 選は禁止されています。また,議会
は大統領(や閣僚)を不信任することができず,
大統領も議会を解散することができません。
一方,
連邦議会は州を基礎とする上院(元老院)と人口
を基礎とする下院(代議院)からなる二院制です。
大統領の法案拒否権に対して,両院が 3 分の 2 以
上の特別多数で同一の法案を再可決した場合に
は,当該法案は大統領の署名なしで法律として成
立します(オーバーライド)。
違憲立法
審査
人事
大統領
任期4年 3選禁止
裁判官9名
任期終身
連邦控訴裁
連邦地裁
副大統領
【大統領府】
行政管理
予算局
ほか
大統領顧問
大統領補佐官
選出
が,教書という形式で,
議会に対して自己の意見
や希望を述べる権限を持
ちます。また,議会で可
決された法案に対し,法
案を受け取ってから10
日以内であれば拒否権を
行使できます。ただし,
オーバーライドにも注意
しましょう。
【省庁】
教書で
立法
勧告
弾劾
連邦議会
上院
下院
100名
435名
任期6年 任期2年
副大統領が
上院議長
人事承認
大統領選挙人団 538名
人事
国務省,司法省,財務省,国防総省など
対して法案を提
出することができません
拒否権
弾劾
連邦最高裁判所
大統領は議会に
選出
選出
【国民】
有権者登録が必要
第1章
マキャヴェリは,国家と主権という概念を用いて,絶対主義国家を正当
化した。
Q2
ホッブズは,契約によって統治機関(政府)が設立され,契約目的が果
たされない場合は人民が政府に抵抗することも許されるとした。
Q3
ロックは『リヴァイアサン』において契約に基づいて絶対的な主権を持っ
た国家の設立を説いた。
政治原理と政治制度
Q1
Q4 ロックは立法権と行政権と裁判権の三権の分立を主張した。
Q5
ルソーによれば,文明化によって失われた人間性を回復するために社会
契約が必要とされる
A.トクヴィルはアメリカ社会を分析し,民主主義社会でも自由が維持さ
Q6 れうるとした。また,民主主義と自由主義との矛盾にも注目し,少数派
の自由が多数派によって侵害される可能性を指摘した。
Q7
近代国家は,その役割が対外的防衛や国内の秩序維持といった消極的役
割に限定されるべきものと考えられた。
Q8 近代国家は行政国家という性質を持つ。
Q9
議院内閣制とは行政府(内閣)が立法府(議会)の信任の上に成立する
政治制度である。
Q10 ドイツは議院内閣制に分類される。
Q11 イギリスでは大臣は全員議員でなければならない。
Q12
イギリスの議会は二院制で,内閣不信任決議権を持つ上院(貴族院)が
下院(庶民院)に優越する。
Q13 イギリスは連邦共和制国家で,成文の憲法典をもたない。
Q14 アメリカの大統領は任期が 4 年で再選は一度だけ認められている。
Q15
アメリカの連邦議会は大統領を不信任することができず,大統領も議会
を解散することができない。
Q16 アメリカの大統領は議会に対して法案を提出することができる。
Q17
権力の実体概念とは,権力者の保有する資源に注目して権力を捉える考
え方である。
Q18 権力の実体概念を唱える代表的論者として,R.ダールが挙げられる。
Q19 暴力の集中が権力の資源であると捉えたのはK.マルクスである。
Q20
権力の関係概念とは,
「AがBに普通ならBがやらないことをやらせた
場合,AはBに対し権力を持つ」と表現することができる。
A1 ×
国家と主権という概念を用いて,絶対主義国家を正当化したのはボ
ダンである。
契約によって統治機関(政府)が設立され,契約目的が果たされな
A2 × い場合は人民が政府に抵抗することも許されるとしたのはロックで
ある。
A3 ×
『リヴァイアサン』において契約に基づいて絶対的な主権を持った
国家の設立を説いたのはホッブズである。
A4 ×
立法権と行政権と裁判権の三権の分立を主張したのはモンテス
キューである。
ロックは立法機関と執行機関の二権の分立を主張した。
A5 〇
ルソーは社会契約によって,文明化によって失われた人間性を回復
することができると考えた。
Q6 〇
少数派の自由が多数派によって侵害されることをトクヴィルは「多
数者の専制」とよび,危険視した。
Q7 〇 それゆえ近代国家は「消極国家」とよばれることがある。
Q8 ×
近代国家は立法府が政治の中心であったため「立法国家」という性
質を持つ。行政国家という性質を持つのは現代国家である。
Q9 〇 行政府が立法府の信任の上に成立する政治制度を議院内閣制とよぶ。
Q10 〇
ドイツは大統領が存在するが,大統領は強力な権限を持っておらず
議院内閣制に分類される。
Q11 〇 日本の議院内閣制では大臣は過半数が議員でなければならない。
Q12 ×
内閣不信任決議権を持つのは下院(庶民院)であり,上院(貴族院)
に対して下院が優越する。
Q13 ×
イギリスは確かに成文の憲法典をもたないが連邦共和制国家ではな
い。立憲君主制国家である。
Q14 〇
アメリカの大統領は三選が禁止されている(すなわち再選は一度だ
け認められている)
。
Q15 〇 連邦議会と大統領は厳格に分立している。
Q16 × アメリカの大統領は議会に対して法案を提出することができない。
Q17 〇 権力者の保有する資源に注目するのが権力の実体概念である。
Q18 × R.ダールは権力の関係概念の主唱者である。
Q19 × 暴力の集中が権力の資源であると捉えたのはマキャヴェリである。
Q20 〇 ダールによる関係概念的な権力の定義である。
10
1
チェック度
重要度
第1章
過去問・問題
A
政治原理と政治制度
下文は権力に関する記述である。下線部ア〜オのうち,誤っているのはどれ
か。
(全国型1997)
政治権力を考える場合に,権力を実体概念としてとらえる立場と,関係概念
としてとらえる立場がある。前者の立場に立つ代表的な人物には,暴力(軍隊)
の集中を権力の基盤とみなしたマキャヴェリやア富(生産手段)の所有が権力
の基礎であるとしたマルクスらがいる。
これに対し,権力を関係概念としてとらえる見方には次のようなものがある。
Aが権力を持ちBがそれを認知してAの命令に従うと仮定した場合,Aの権力
をいかにとらえるかはBの側の問題であって,第三者はBがAの命令に服従す
るという現象を観察することによってAの権力を認識する。このときイBが抱
くAの権力についてのイメージは,権力現象において決定的な重要性を持つ。
R.ダールの権力概念は権力を関係概念としてとらえる立場に立つものの代
表的なものであるが,ダールはさらに実証研究を通じてウ権力構造が一時的で
流動的かつ多元的であることを発見し,政治への参加が容易で,権力が批判さ
れやすい政治体系をポリアーキーとよんだ。
ところで,国際社会は,権力の正当性の根拠となる秩序の法が存在するわけ
ではないため,いわゆる自然状態に近いものとされ,力学的説明や予測のため
にパワー・ポリティックスという理論モデルが考えられるようになった。その
特色の主なものはエどの国も国益のためにパワーを極大化する傾向を持つこと,
パワーの手段としては軍事力が最も有効な強制力として機能することなどであ
る。
しかし1970年代後半以降このような認識は現実と乖離してきている。特に
経済成長と政治の民主化を遂げてきた国々の国際関係においては,そこに占め
る軍事力の役割と機能が戦争を合理化し難い方向に変化してきた。これをゲー
ム理論で見れば,ゲームの行為主体が,共通の利益ないしは協調・協力という
契機を相互に大切にしなければならない形のゲームに変化し始めているといえ,
いわばオ冷戦時の非ゼロ・サム型のパワー・ゲームが,ゼロ・サム(総和がゼロ)
型のゲームの性格を持つようになってきているのである。
1 ア
2 イ
3 ウ
4 エ
5 オ
11
正解 5
〈権力論〉
ア○ 権力を実体概念で捉える立場は,
何らかの社会的資源・価値の所有によっ
て権力がもたらされると考える。その資源・価値として,N.マキャヴェ
リ(伊,1469-1527)は暴力の集中を,K.マルクス(独,1818-83)は生
産手段と富の集中を挙げている。
イ○ 関係概念としての権力は,支配者と被支配者の影響力関係に着目し,被
支配者がそのような権力関係を認めるところに成立するものであるとされ
る。R.A.ダール(米,1915-)はこのことを「AがBに普通ならBがや
らないことをやらせた場合,AはBに対し権力を持つ」と表現した。
ウ○ ダールの権力論は,観察可能な「行動」に焦点を当てて権力を捉えよう
とするところに特徴があり,このような立場に立つことにより,権力概念
から神秘性を取り去り,権力を科学的に観察可能な経験的事象として捉え
ようとした。そして,下線部ウにあるように,実証研究を通じて,権力関
係は固定的なものではなく,問題によってあり方が異なるとする多元的な
視点を主張した。
エ○ パワー・ポリティックスとは,国家間の権力闘争を国際政治の本質とみ
なす考え方であり,また,そのような観点から国家の利益や権力の維持お
よび増大を追求しようという国家政策のことである。パワー・ポリティッ
クスの最も典型的なかたちは,たとえば軍事力を国家の有するパワーの中
心に据えて,他国に対する強制力・抑止力として機能させようとするもの
である。
オ× かつては肢エのような考えから,国際社会における 2 つの主体間の関係
は,一方が他方の犠牲によって価値を獲得・増大するのみであり,価値の
総計は変化しないとするゼロ・サム型のモデルでとらえられるのが一般的
であった。しかし,特に1970年代以降,経済その他の分野における国際
相互依存関係が強まり,国際社会における主体にとって,軍事力により自
勢力の拡大を目指すことよりも,相互協力によって互いの価値を増大する
ことのほうが合理的であると考えられるようになってきた。このような,
各主体の行動によって価値の総計そのものが変化すると考える非ゼロ・サ
ム的な概念を,プラス・サム的と表現することがある。
よって,正解は肢 5 である。
12
2
チェック度
重要度
第1章
過去問・問題
A
政治原理と政治制度
国家のあり方についての下文の意見と異なる立場からのものは,次のうちど
れか。
(全国型1998)
資本主義が高度化し,国家が19世紀の自由国家(消極国家)から20世紀の
社会国家(積極国家)に変化したことに応じて,行政権は各国で異常に肥大化
し,法の執行機関(政府)が「国家の基本政策の形成決定」に中心的・決定的
な役割を営む現象が顕著に見られる。社会国家化それ自体は不可避といってよ
いが,行政権の肥大化があまりに進めば,権力分立は形骸化し,民主政も危機
にさらされるおそれが大きい。この現象の行き過ぎをチェックするシステムを
再構成する必要がある。
1 福祉を拡充すること
2 議会主義の復権を図ること
3 司法が行政へ積極的に関与すること
4 地方分権を進めること
5 告知・聴聞を内容とする適正手続を行政へも拡張すること
13
正解 1
〈行政国家化の問題点〉
国家が福祉国家としてその役割を拡大するにつれて,行政の内容は高度に専
門化・複雑化し,議会がこれを監視・監督していくことは困難となった。さら
に,法案や予算案の作成でも行政官僚が主導権を握るようになると,議会は行
政部の決定に対してそれを形式的に審議して承認する機関という傾向が強ま
り,その形骸化が進行した。つまり,実質的な国政の中心が立法府である議会
から行政府へと移行したのである。政治におけるこのような傾向を行政国家化
といい,またそのようになった国家のことを行政国家という。
1異なる 福祉の拡充は行政のさらなる専門化・複雑化を招き,結果として行
政に対する議会の監督・統制をさらに難しくする。行政国家化の行き過ぎ
を危惧する本文とは立場を異にする考え方であるといえる。
2異ならない 議会主義の復権によって,国政の中心を行政府から立法府へ取
り戻そうという考え方は,立法による行政の監視・監督といった役割を強
化するなどして行政国家化の行き過ぎを是正しようという本文の立場に合
致している。
3異ならない 司法が行政に積極的に関与することで,行政活動を監視するこ
とができる。これは司法の側から行政の行き過ぎを是正するものであり,
本文の立場に合致している。
4異ならない 地方分権の推進は,中央行政機構への権力の集中を防止し,行
政国家化の弊害を減少させる。また,地方行政に対しては,住民の直接参
加制度が充実しており,中央行政機構と比較して国民による統制手段が豊
富である。これは,本文の立場に合致した考え方である。
5異ならない 告知や聴聞といった手続を行政に対しても拡張して利用するこ
とは,国民の監視下での行政権の行使というシステムを構築することにつ
ながる。これは本文の立場に合致した考え方である。
【参考】
「市民社会から大衆社会」への変遷を背景にした論点は最頻出項目である。
① 権利・自由:自由権→参政権→社会権,自由の尊重→平等の尊重
② 国家観:夜警国家→福祉国家,立法国家→行政国家
③ 政党の性格:名望家政党,幹部政党→近代政党,大衆組織政党
④ 主体の変化:理性的な市民(ブルジョワ)→感情的な大衆(マス)
⑤ 法律:私法(民法)の修正原理の追加など
14
3
チェック度
重要度
第1章
過去問・問題
A
政治原理と政治制度
ホッブズの思想に関する記述として,妥当なのはどれか。 (特別区2007)
1 ホッブズは,人間は,自由・生命・財産の権利を自然権として持っており,
この自然権を保障するために,
相互に社会契約を結び国家をつくったとした。
2 ホッブズは,主権という概念を初めて理論的に明らかにし,主権は国家の
最高権力であるとした。
3 ホッブズは,政治権力について立法権と執行権に分け,立法権を執行権に
優先させる形で権力分立を主張した。
4 ホッブズは,人間は,自然状態では「万人の万人に対する闘争」となるの
で,契約により統治者に自然権を委譲して,秩序を維持する必要があるとし
た。
5 ホッブズは,社会は各個人の自由意志による相互契約によって成立し,主
権は常に人民にあり,人民の「一般意思」に基づいて行使されるとした。
15
正解 4
〈ホッブズの思想〉
1× これは,ホッブズ(T.ホッブズ,
英,
1588-1679)ではなくJ.ロック(英,
1632-1704)の思想である。ホッブズもロックも社会契約説を唱えたが,
ホッブズの社会契約説には,財産権の保護という発想はない。ロックは,
近代的な財産権の概念を提唱した代表的な思想家である。
2× これは,ホッブズではなくJ.ボーダン(仏,1530頃-96)の思想である。
絶対主義時代の思想家ボーダンは,主権の概念を理論的に明らかにし,絶
対王政を擁護した。これに対して,ホッブズは,人民が互いに社会契約を
結び,それを一元的な権力へと委譲することを説いたのであり,このこと
は結果的に絶対王政を認めたにすぎない。
3× これは,ホッブズではなくロックの思想である。肢 2 の解説で述べたと
おり,ホッブズは,各人の生命を守るために一元的な権力が存在すること
を支持しており,そこには権力分立という発想はない。なお,ロックの権
力分立概念は,立法権と執行権の二権分立であるが,C.モンテスキュー
(英,1689-1755)は三権分立を唱えた。
4○ ホッブズは,自然状態を,「万人の万人に対する闘争」状態と想定し,
こうした戦争状態を回避するため,人民は契約によって自然権を一元的な
統治者に委譲し,これによって主権を有する国家が設立されると説いた。
なお,ホッブズ,ロック,およびルソー(J.J.ルソー,仏,1712-78)
はいずれも社会契約説を唱えたが,それぞれの自然状態の解釈は異なる。
すなわち,ホッブズは戦争状態,ロックは一応平和だが不安定な状態,ル
ソーは理想的な状態と解している。
5× 「一般意思」や人民主権の概念を唱えたのは,ホッブズではなくルソー
である。すなわち,ルソーは,人間本来の自由,平等,善性を回復するた
め,人民は契約を締結して国家を創設すると主張し,これによって形成さ
れた共同体の意思を一般意思とよんだ。この一般意思は,単なる個別的意
思の合計である全体意思とは明確に区別され,公共の利益の実現を目指す
全人民の意思であるとされている。また,一般意思は分割・譲渡すること
のできないものと考えられ,人民主権を基礎付ける概念となった。
16
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