Comments
Description
Transcript
発表資料【PDF形式:2413KB】
地震時の地盤災害の リアルタイムの予想 地理地殻活動研究センター 地理地殻活動研究センタ 地理情報解析研究室主任研究官 神谷 泉 平成25年6月7日 第42回国土地理院報告会 Ministry of Information Land, Infrastructure, Transport Geospatial Authority of Japanand Tourism 研究の目的 問題点 本研究が提案する解決策 地震直後は、被災状況がわか らない場合がある 震度と既存情報で, 現地の状況を予想できないか 中越地震では、山古志村の被 害がわかったのは、翌朝 阪神淡路大震災では、深刻な 被害が認識されたのは、テレビ で空撮映像が放映されてから 現在は,危機管理体制が進ん でいるが・・・ 地盤災害(斜面崩壊、地すべり、 液状化)を予想し 結果を配信 液状化)を予想し、結果を配信 行政的に役立てる 国民の安全・安心 2 研究の概要と成果の活用方針 地震発生 推計震度分布図 (気象庁) 斜面崩壊 事前に収集した 地理空間情報 ・ DEM ・ 地形分類 ・ 地すべり地形分布図 ・ シームレス地質図 : 地盤災害の予想 液状化 国土地理院 防災科研 産総研 等 地震発生後15分 程度で予想結果 を自動的に送信 防災担当部局 地すべり 国土地理院 (現状) 国土地理院内には自動配信 本省等には必要に応じ人手 で転送 3 地盤災害の予想アルゴリズム 推計震度分布図 (気象庁) 計測震度の補正 斜面崩壊の予想 地すべりの予想 液状化の予想 4 距離減衰式を用いた計測震度の補正(1) 推計震度分布図 震度計が計測した計測震度を、地盤条件を考慮して内挿。 問題点 震度計が震央付近に存在しないと、震央付近の震度が 震度計が震央付近に存在しないと 震央付近の震度が 過小に評価される。 対処方針 計測震度の距離減衰式を使用して計測震度を補正。 岩手・宮城内陸地震の例 このあたりの計測震度が最も 大きいと考えられるが、 震度計がないので 周りの計 震度計がないので、周りの計 測震度から推定している 計測震度と震度の例 計測震度 4.5, 4 5 4.6, 46 4 4.7, 7 4 4.8, 8 4 4.9 9 → 震度 5弱 計測震度 5.0, 5 0 5.1, 51 5 5.2, 2 5 5.3, 3 5 5.4 4 → 震度 5強 5 距離減衰式を用いた計測震度の補正(2) アルゴリズム 推計震度分布図添付の震源の位置を用いた点震源のモデルを仮定。 距離減衰式には、地盤の条件(揺れやすさ) を示す AVS30 を考慮。 距離減衰式のパラメーターを、推計震度分布図の震度観測点の 位置の計測震度で決定。 震度計 不足に起因する推計震度分布図 誤差を推定 震度計の不足に起因する推計震度分布図の誤差を推定。 推計震度分布図を採用 距離減衰式を採用 採用する計測震度 補正の上限に達している 推計震度分布図の計測震度+ 推計震度分布図の誤差の推定値 推計震度分布図の計測震度 距離減衰式で求めた計測震度 6 距離減衰式を用いた計測震度の補正 (結果) 岩手・宮城内陸地震の例 推計震度分布図 震源付近の震度 補正結果 5強 6強 (防災科研「一関西」) (防災科研「 関西」) 6弱 推計震度分布図 + 距離減衰式 = 計測震度の補正結果 Slide 7 震源付近(赤丸)の震度のみが補正されていることがわかる 斜面崩壊の予想方法 六甲式 多くの地震で検証されている六甲式(国総研 作成、兵庫県南部地震における経験式)を採用。 F = 0.075 s 8.92 c + 0.006 a 0.3228 六甲式作成時のトゥルースデータの範囲 等を考慮しながら、「震度6強以上では 等を考慮しながら、 震度6強以上では 常に崩壊」、「傾斜43度以上では常に崩壊」 という欠点をなくす(修正六甲式)。 DEM(10m) G = 3.93 log a + 4.38 log s 119 c 15.27 静的な部分(地震前に計算可能) s 地表面の傾斜(度) c 地表面の平均曲率(m−1) a 最大加速度(gal) 速 傾斜、曲率 「修正六甲式のうち、静的な部分」の 250m内のメッシュのヒストグラムを 事前に作成 リアルタイム処理 のための工夫 修正六甲式 値が大きいほど危険 崩壊と非崩壊に2分 する場合は する場合は、 正: 崩壊 負: 非崩壊 計測震度 最大加速度 修正六甲式が正の部分のみ積算 地質、土壌雨量指数(予定) 地質 土壌雨量指数(予定) による修正 等比的な分級 危険度 8 過去の地震による検証 以下では、3種の地盤災害の予想方法の説明に続き、過去の地震へ 適用した結果のうち、うまくいった代表事例と、問題のあった代表事例 を示します。適用した地震は、以下のとおりです。 なお、これ以前の地震では、推計震度分布図が作成されていません。 2003年 十勝沖地震 2004年 中越地震 2005年 福岡県西方沖の地震 2005年 宮城県沖の地震 2007年 能登半島地震 2007年 中越沖地震 2008年 岩手・宮城内陸地震 2008年 岩手県北部の地震 2011年 東北地方太平洋沖地震 2011年 長野・新潟県境の地震 2011年 浜通りの地震 9 過去の地震による検証(斜面崩壊、中越地震) 0.8 空中写真の 判読結果と よく整合 被害発現率 0.6 0.4 02 0.2 0.0 0 1 2 3 危険度 4 斜面崩壊は、 斜面崩壊は 危険度3及び4 の範囲に集中し て発生している。 また、危険度3 と4の範囲を比 較すると、危険 度4で、より密に 発生している。 黒枠は調査範囲 (以下同様) 広域 旧山古志村 10 過去の地震による検証(斜面崩壊、中越沖地震) 0.12 被害発現率 A 空中写真の 判読結果と概 ね整合するが、 一部問題あり 0.08 0.04 出雲崎町 0.00 0 1 2 3 4 危険度 長岡市 B Aの範囲内では、 山地より海岸沿 いで斜面崩壊 が多 が多発している る が、予想結果は、 山地の方をより 危険と評価して いる。 刈羽村 また、少数であ るが 赤破線内 るが、赤破線内 の砂丘のへりの 崩壊を見逃して いる。これらは、 いずれも狭長な ずれも狭 な 急傾斜地である。 柏崎市 11 斜面崩壊の予測における地質データ利用の効果 地質データなし 長野・新潟県境の地震 地質データ 地質を利用する と、斜面崩壊の 予想結果が向 上した。 強風化岩 新第三紀以 降の堆積岩 グリーンタフ 火砕流 堆積物 地質データあり 脆弱な地質(下記)の場合、危険度を1段階上げる 脆弱な地質(下記)の場合 危険度を1段階上げる (実際には、脆弱な地質の分布域の方が広いので、 それ以外の地質の場合、危険度を1段階下げている) 超苦鉄質岩(≒蛇紋岩) 火砕流堆積物 新第三紀以降の堆積岩類 メランジュ メランジ 断層破砕帯 高圧型変成岩 強風化岩 グリーンタフ等 温泉変質帯 12 地すべりの予想方法 既存 知見 既存の知見 ゴリズム 概要 アルゴリズムの概要 1. 地質を考慮して地すべりの面積率 を平均 2 面積率と震度で、評価(下図) 2. 面積率と震度で 評価(下図) 3. 土壌雨量指数、大まかな積雪地と 融雪時期地すべりを考慮(予定) 1.地震時の地すべりは、既存地すべりの再 活動と新規地すべりがあるが、1km程度の スケールで見ると、新規地すべりも、既存 地すべりの近くで発生。 地震による地す りは震度 強以 、大 2.地震による地すべりは震度5強以上、大 半は震度6弱以上で発生。 3.地すべり分布図は、作成年代により、取 得単位のスケール(大まかに取得するか 得単位のスケ ル(大まかに取得するか、 詳細にするか)が異なる(面積率以外は、 直接比較できない)。 4.地すべりは、降雨、融雪の影響を強く受け 4 地すべりは 降雨 融雪の影響を強く受け る。しかし、土壌雨量指数は、融雪の効果 を含まない。 左式の整数 部分をとって 0~4に分級 0 4に分級 既知の知見をもとに、かつ、中越地震、能登半島地 震、岩手宮城内陸地震、東日本太平洋沖地震の実 態とあうように、定数の値を設定した。 危険度 既 存 地 す べ り 50 の 面 積 率 0 1 2 3 4 ( ) log面積率 震度 5.0 1 g2.5 log 0.33 100 % 0 40 4.0 45 4.5 50 5.0 55 5.5 60 6.0 65 6.5 7 7.0 0 計測震度 13 過去の地震による検証(地すべり、中越地震) 0.4 長岡市 空中写真の 判読結果と よく整合 被害発現率 0.3 0.2 小千谷市 01 0.1 0.0 0 1 2 3 4 危険度 地すべりは、概 地すべりは 概 ね危険度2以上 でのみ発生し、 危険度3及び4 の範囲で集中し 範 集中 て発生している。 魚沼市 広域 十日町市 旧山古志村 14 過去の地震による検証 (地すべり 岩手・宮城内陸地震) (地すべり、岩手・宮城内陸地震) 0.8 被害発現率 0.6 0.4 02 0.2 震央 0.0 0 1 2 3 危険度 B 広域 一関市 関市 A 4 空中写真の判読 結果とある程度 類似しているが、 一部問題あり Aの範囲内が過 小評価となって いる。これは、点 震 を仮定 た 震源を仮定した 距離減衰式では、 震度が十分補正 されなかったこと に原因があると 考えられる。 Bの範囲が相対 的に過大に評価 されている。ここ で地すべりが発 生 してい な い理 由は、この周辺 の断層面上のす べりが小さいた めと考えられる。 栗原市 15 予想方法(液状化) 液状化の予想方法 1.PL法(半物理的な方法) 2.地形分類を用いた経験的な方法 1のPL法は、標準貫入試験のN値、 地下水位が必要。 ⇒ 2を採用。 国土地理院内の知見+松岡・若松等の 国土地理院内の知見+松岡 若松等の 知見を用いて、震度と地形分類(若松に よる250mメッシュ)から、下表に基づき 危険度を計算。 一部で10m DEMを併用(下の*2、*3)。 地形分類 山麓地 火山山麓地 岩 台地 岩石台地 ローム台地 扇状地 砂礫質台地 扇状地 *2 砂丘 自然堤防 *3 砂州・砂礫洲 後背湿地 谷底低地 干拓地 三角州・海岸低地 自然堤防 谷底低地 *2 砂丘 *4 砂州・砂丘間低地 埋立地 旧河道 河原 7 0 1 2 3 4 4 4 6強 強 0 0 1 2 3 4 4 6弱 0 0 0 1 2 3 4 5強 0 0 0 0 1 2 3 5弱 0 0 0 0 0 1 2 震度 山地 丘陵 火山地 火山性丘陵 磯・岩礁 水域 *1 *1 河道、湖沼、沿岸海域 *2 傾斜が緩い場合(勾配1/100未満) *3 比高が高い場合(5m以上) *4 低地に接する砂丘のヘリの場合 16 過去の地震による検証 (液状化 福岡県西方沖の地震) (液状化、福岡県西方沖の地震) 0.12 、 液状化は、ほぼ、 危険度4の部分 でのみ発生。 被害発現率 0 08 0.08 0.04 * 日本液状化履 歴マ プ 745歴マップ 745 2008 0.00 0 1 2 3 危険度 液状化履歴 * マップとよく整合 4 これまで報告さ れた液状化をと りまとめた冊子。 悉皆的な調査で はないが、国内 で最も網羅的な 液状化の調査結 果である。 玄界島 博多湾 破線は、被害発 破線は 被害発 現率を計算にお いて、仮想的に 設定した調査範 囲(以下同様)。 17 過去の地震による検証(液状化、中越地震) 拡大 広域 液状化報告地点を囲む 矩形範囲(破線)を調査 範囲と仮定して、被害 発現率を計算。 日本液状化履 歴マップと概ね 整合するが、 一部問題あり 危険度が高い 部分で、液状化 が密に発生して いるが 危険度 いるが、危険度 0または1でも、 かなり発生して いる。 中越地震では、 扇状地の水田 の下の砂利を 採取して山砂を 埋め戻した場所 で液状化が多 発しており(例え ば 赤破線の範 ば、赤破線の範 囲)、これが原 因と考えられる。 0.3 被害発現率 02 0.2 0.1 0.0 0 1 2 3 危険度 4 18 過去の地震による検証(まとめ) 地震名 斜面崩壊 地すべり 液状化 2003年 十勝沖地震 - - ○ 2004年 中越地震 ○ ○ △ 扇状地の水田の下の砂利を採取し山 砂で埋め戻した部分で、過小評価。 2005年 福岡県西方沖の地震 ○* - ○ 2005年 宮城県沖の地震 - - ○ 2007年 能登半島地震 ○ - ○ 2007年 中越沖地震 △ 狭長な急傾斜地帯では、予想 結果は過小である。 - ○ 2008年 岩手・宮城内陸地震 ○* △* ○ 2008年 岩手県北部の地震 - - - 2011年 東北地方太平洋沖地震 △ ○ (データ準備中) 2011年 長野・新潟県境の地震 ○ (データ準備中) - 2011年 浜通りの地震 ▲* - - まとめ 概ね妥当。 概ね妥当。 概ね妥当。 狭長な急傾斜地帯の過小評価と いう問題はあるが、被害の予想 の概観という目的には 大きな問 の概観という目的には、大きな問 題とはならない。 トゥル トゥルースデータによる検証結果(定性的判断) デ タ よる検証結果(定性的判断) ○ よく整合、概ね整合 悉皆的な写真判読等の結果、あるいは、「日本液状化履歴 マップ 745-2008」との比較 △ 一部に問題あり ● ▲ - よく整合、概ね整合 埋戻しでの過小評価の問題はあるが、被 害の予想の概観という目的には、大きな 問題とはならない 問題とはならない。 その他 * 一部に、震度の推定の誤差に起因する 考えられる過小評価がある。 上記以外の調査結果との比較 赤字 赤字は、これまでに紹介した事例。 れま 紹介 事例 一部に問題あり 検証用のデータがないか、ごく少数 19 2013年2月25日 栃木県北部の地震 斜面崩壊の予想結果と被害 福島県 檜枝岐村 この周辺に 集落なし セントロイド (深さ10km) MW 5.8 女夫淵温泉 奥鬼怒温泉郷 × 川俣温泉 予想結果 ・ 斜面崩壊 左図 ・ 地すべり 地すべりの予想なし ・ 液状化 下図 推計震度分布図配信時点での震源 (深さ10km) MJ 6.2 震源(深さ3km) MJ 6.3 × 液状化の予想結果 川俣 × 大清水小屋 被害の報告の範囲 土砂崩れ 1か所,クラック, 段差 亀裂 雪崩 段差,亀裂,雪崩 丸湯温泉 土砂崩れ 日光市湯元 (震度5強) 土砂崩れ等で通行 止めとなった林道 群馬県 片品村 沼田市 5km 栃木県 日光市 地獄茶屋 震度 5強 日光市湯元 5弱 (なし) 4 日光市中鉢石 日光市日蔭 那須塩原市 檜枝岐村 ほか 戦場ヶ原 赤の楕円の外の主要な集落の概略位置 (日光市から入手した資料を基に作成) 20 2013年4月13日 淡路島の地震 斜面崩壊の予想結果 (地すべりの予想はなし) 液状化の予想結果 21 2013年4月13日 淡路島の地震 5:33 地震発生 5:39 推計震度分布データが国土地理院に到着 推計震度分布デ タが 地 院 着 5:40 国 国土地理院内へ予想結果を自動的に送信 地理院内 予想結果を自動的に送信 強く揺れた範囲が 狭かったので、 短時間で計算終了 6:10 ~ 第1回国土地理院災害対策本部会議(電話会議) 7:08 ~ 予想システムの担当職員が国土地理院庁舎に参集 7:45 ~ 第2回国土地理院災害対策本部会議 会議において、担当職員が予想結果を説明 今後は、運用実績を積み重ね、防災担当部局 の信頼を得て 自動的に送付し 災害対策の初 の信頼を得て、自動的に送付し、災害対策の初 動に活用されるようにしたいと考えている。 22 まとめ 地震発生後概ね15分で斜面崩壊、地すべり、液状 後 化の危険度を自動的に予想し、その結果を配信す る地震時地盤被害予想システムを開発した。 過去の地震に対して適用したところ、概ね良好な結 果が得られた。 果が得られた 予想システムは、現在国土地理院内で試験運用中 である。今後、外部の防災担当部局にもデータを 配信し 災害対策に活用することにより 成果を国 配信し、災害対策に活用することにより、成果を国 民の安心・安全につなげていく予定である。 謝辞 (ユーザー*の立場からのアドバイス) 内閣官房危機管理室 国土交通省大臣官房官庁営繕部 消防研究センター 細川直史、新井場公徳 (データを提供していただいた部署等) 気象庁地震火山部 気象庁予報部 防災科学技術研究所 産業技術総合研究所 国土交通省国土政策局 国土交通省水管理・国土保全局砂防部 国土技術政策総合研究所 海道 総合研究機構 質研究所 北海道立総合研究機構地質研究所 関東学院大学 若松加寿江 東京工業大学 松岡昌志 * 一般的に、災害時の被害情報のユーザーという意味であり、 必ずしも本研究のデータのユーザーという意味ではない。 (専門家の立場からのアドバイス) 立命館大学 岡田篤正 東京 業大学 松岡昌志 東京工業大学 産業技術総合研究所 斎藤眞、西岡芳晴、 宝田晋治、山本直孝、須藤定久 防災科学技術研究所 土志田正二、 内山庄一郎、井口隆、長坂俊成、藤原広行 海道 総 究機構 究 石丸聡 北海道立総合研究機構地質研究所 気象業務支援センター 佐々木昭士、 軍地達雄 国土交通省 関克己 国土技術政策総合研究所 冨田陽子、 小山内信智、林真一郎 土木研究所 山越隆雄、横山修、丸山清輝、 野呂智之 国土地理院 今給黎哲郎 (敬称略、所属は当時) 24