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不動産の仲介業務を通して 再出発を応援する
きらめく個性 か がやく経営 不動産の仲介業務を通して 再出発を応援する 企業概要 ●代 表 者：高島 繁 ●創 業：2003年 ●従 業 者 数：2人 ●事 業 内 容：不動産売買・賃貸の仲介、絵画の販売 ●所 在 地：北海道函館市松川町6−1 ●電 話 番 号：0138（44）3020 ㈲アート宅建 代表取締役 高島 繁 ●Ｕ Ｒ Ｌ：http://art.cbiz.co.jp 不動産の仲介業務では条件の良い物件を数多く取り扱っていることが重要になる。そのため、 地域でどれだけ信頼を得ているかや、同業者間で情報を共有しているかが鍵になってくる。 函館市内で不動産仲介業を営む㈲アート宅建の高島繁社長は、後発で地縁もないことから当 初は苦戦を強いられていた。しかし、任意売却の仕事に出会ってからは、徐々に存在感を高め ている。その原動力となっているのは、貧しかった幼少期に培った強みから生まれた、任意売 却をきっかけとして相談者の再出発を応援したいという独自の信念である。 と貧しさを意識しないわけにはい そこで、2002年に46歳で会社を 間がかかり、ストレスもたまる仕 きません。しかし、貧しさのなか 辞め、 1 年間勉強して宅地建物取 事です。短期間で売却しなければ にあっても、日々の姉たちとのさ 引主任者の資格を取得後、不動産 競売に移行することも多いためス さいなやりとりに幸せを感じてい 仲介業を始めました。この仕事を ピードが要求されます。それに、 ましたし、大好きな絵を描いてい 選んだのは、住宅機器メーカーで 市場調査をするための不動産の知 るときは、すべてを忘れて没頭し の営業経験を活かせると考えたた 識だけでなく、債権者と交渉する たものです。いつしか、逆境と呼 めです。また資金の準備が十分で ための金融や民法の知識も求めら ばれるような状況にあっても、世 はないなかで、不動産仲介業なら れます。手間暇の割にもうけは同 の中悪いことばかりではないなと、 初期投資が少なくて済むことも理 じですから、大手の同業者などは 物事を前向きに考えるようになっ 由の一つでした。 敬遠しがちな仕事です。 ていきました。だから、自宅の売 未経験の事業で独立すること、 でも売買を成立させたときの達 却を迫られ、ともすれば家庭の雰 収入が減るかもしれないことなど、 成感は通常の仲介業務の比ではあ 囲気までも悪くなりがちな人たち 不安は尽きません。それでも何と りません。現在では手がける業務の をほっておけないのです。 かやっていけるだろうと前向きに 考えるようにしました。 6 割以上が主に住宅の任意売却と なっています。任意売却に携わる たびに感じるのは、この仕事は自 家族と暮らすため 未経験の分野へ ―― 独立してみていかがでしたか。 覚悟はしていましたが、予想以 分に合っているなということです。 ―― 高校を卒業後すぐに不動産業 ―― どういうことでしょうか。 上に厳しい状況でした。 界に入ったのですか。 当初は戸建住宅の売買や賃貸ア 自宅を手放さざるを得ないとい いいえ。はじめは、静岡県で文 パートの仲介などの業務をしてい 残高を下回る金額でしか買い手が たことはありません。しかし、景気 う厳しい状況にある人たちの再ス 具問屋に勤めながら夜間大学に通 ました。一般的に、不動産仲介業 つかないときは全額は返済できま が本格的に回復しないなかで、収 タートの手助けができるからです。 いました。卒業後は静岡の浴槽メー においては立地や築年数などの条 せん。そこで、債権者である金融 入の減少や失業により住宅ローン わたしは北海道夕張市で八人姉 カー勤務を経て、北海道に戻りま 件の良い物件を数多く取り扱って 機関などと交渉し、返済し切れな などの支払いに苦悩する方が増え 弟の末っ子として生まれました。 す。システムキッチンなどを扱う いることが重要です。どうしても ―― 任意売却を中心とする不動産 い債務を残したままで抵当権など ているのが現状です。 幼いころに両親と死別し、姉に育 住宅機器メーカーで札幌、釧路、 地場密着の老舗の会社や大手の会 仲介業をされていると聞きました。 を解除してもらって不動産を売却 てられたのです。 函館の各営業所を回りながら20年 社が有利になります。 逆境にある相談者の 再出発のため 任意売却とは住宅ローンなどの 借入金の返済が難しくなったとき、 するわけです。 任意売却は、債権者にもメリッ ―― どのようなかたちで収入を得 ているのですか。 ひどく貧しい生活でしたが、姉 一方、当社は後発で、函館には ほど所長を務めました。 たちの愛情を感じていました。自 函館勤務となって 5 年目のある 地縁が少ないこともあって、苦心 する日々が続きました。 抵当権などを設定している債権者 トがあります。強制的な競売に比 不動産業者が行う任意売却には、 身の進学を諦め姉弟で唯一の男子 日、再び転勤の内示を受けます。 の合意を得て、不動産を売却する べれば、たいてい売却金額が高く 宅地建物取引業法が適用されます。 であるわたしを定時制高校まで進 当時長男は中学生で、高校進学の そんなある日、不動産を売りた ことです。 なりますし、残った債務について そのため売却価格の 3 ％に 6 万円 学させてくれるなど、子どもなが ことを思うと転校は難しい状況で いという方がやってきました。い も柔軟に交渉する余地が残される を加えた仲介手数料のみが収入に らに感ずるところは少なくありま した。とはいえ、家族と離れて単 ろいろと事情を聞いてみると、ど からです。 なります。もし買い手がつかなけ せんでした。姉弟仲良く、温かい 身赴任することも考えられません。 うもローンの返済に困っているよ れば収入はありません。 雰囲気のなか暮らしていました。 家族と一緒に過ごす時間が何より うでした。他の不動産仲介会社に も大切だからです。 も依頼していたようですが、面倒 不動産を売却する場合、当然抵 当権などを解除する必要がありま す。その際、借入金の残高よりも 高く売れれば問題はないのですが、 34 常の不動産売買の仲介業務より手 日本政策金融公庫 調査月報 May 2011 No.032 もちろん、任意売却を検討する ような状況にならずに済むに越し いうまでもなく任意売却は、通 もちろん友人の家庭と比較する 日本政策金融公庫 調査月報 May 2011 No.032 35 きらめく個性 か がやく経営 がられてなかなか話が進まなかっ せん。そうした気持ちを抑えて、 しなければならないか考えるよう 営業の経験が長かったので人を見 単なイメージ図をつくり建設会社 たようです。 購入希望者の都合に合わせ柔軟に になるものです。 る目には自信があります。そのう に持ち込んでみました。そうした えでこの人ならと思える専門家に ところ、面白いアイデアだとして 任意売却の経験はありませんで 時間調整ができるかどうか。ささ それでも信頼を寄せてくれない したが、関連する書籍を読んだり いなことですが、こうした対応の なら、わたしも自らが歩んできた 対応をお願いすることにしました。 とんとん拍子に話が進み、販売を 懇意にしていた同業者にアドバイ 積み重ねが成約の可否を大きく左 道のりを包み隠さずさらけ出し、 こうした経験を重ね、徐々に専門 任せてもらえることになったの スをもらったりして、話を進めま 右するのです。 理解を求めます。わたし自身、過 家とも連携を図れるようになった です。 第二に、本当の意味での再生を 去にはお金に苦労した経験があり ことで、相談者との橋渡しも円滑 どとの調整に手間取り、半年ほど 図るためには、全てをさらけだし ますが、周囲の支えもあり、何と に行えるようになっています。 かかりましたが、最終的には交渉 てもらう必要があるからでもあり かここまでやってきました。苦労 をまとめることができました。 ます。住宅ローンの支払いに苦し を乗り越えてきた者の言葉である ―― 取り組みの成果はいかがでし トリエ」と名付けました。室内に きたのです。これが追い風になり、 む人のなかには消費者金融の借入 からこそ相談者の心にも響くので たか。 絵を飾るピクチャーレールをつけ、 新たな相談も増えています。 などが膨らんでしまう方もいます。 しょう。悪いことばかりではない これらの借入は、本人の申し出が と考えて一歩を踏み出してくれる 任意売却に向けた体制を整備でき 入居者にはお好きな絵画を贈呈さ 労もしましたが、自分の信じるこ ないと把握できません。せっかく きっかけになると思うのです。 たことで、取り扱い件数、成約件 せていただいています。 と、好きなことに取り組んだ結果、 過去の経験を任意売却に活かす ―― 苦境を脱する糸口を見つけた 返済計画をまとめても、隠れた借 のですね。 入金の返済負担が大きければ、す ―― 他にはどのような課題があり ただ、任意売却に本格的に取り ぐに全体の支払いが厳しくなって ましたか。 組もうとすると、課題も見えてき しまいます。結局、自宅を手放し ました。 ても何ら再生が図れないことに なってしまうのです。 最大の課題は、いかに相談者と 36 2006年から売りに出したこの した。なにぶん不慣れで債権者な 住宅は、家族とのだんらんを大切 絵画を飾った事務所 にしてほしいとの思いを込め「ア 相談からアフターフォローまで、 オープンハウスの際には絵を飾り、 不慣れな不動産業界で当初は苦 数ともに順調に増えてきました。 任意売却において相談者の再出 事業に道筋をつけることができま また、新たな取り組みも始めて 発を応援していることや、住宅と した。今後はできることなら、任 います。任意売却の相談が増える 絵画の融合といったユニークな取 意売却を迫られるような方が少な 一方で、一般物件の買い手が見つ り組みをしていることが相乗効果 くなり、その結果として、当社も 消費者金融などの借入が膨らんで かりにくくなっていたからです。 を生みました。地元の各種メディ 絵画や住宅の販売割合を高めてい しまった場合には、債務整理など、 特に建売住宅は他との差別化が難 アに取り上げられる機会も増えて けたらと思っています。 専門分野への対応も課題でした。 信頼関係を築くかということでし ですから、わたしは任意売却の 司法書士や弁護士といった法律の しいので、付き合いのある地元の た。わたしがこの仕事を通してや 相談を受けた段階から信頼を得ら 専門家にしか対処できない業務を 建設会社からもよく愚痴を聞かさ り遂げたいのは、相談者に任意売 れるよう努めています。まず、相 伴います。ところが専門家への橋 れました。 却をきっかけにして再出発しても 談者の不安を和らげ、新たなスター 渡しをしようにも、ホームページ らうことです。そのためには相談 トを切るのだという自覚をもって など情報が多すぎて、誰を選べば わたしは幼い頃から絵を描くのが 答えた。人間の内面にある豊さと自然の躍動する光とにこだわったとされる 者の信頼を得て積極的に協力して もらいます。例えば、相談者には よいか、すぐには決めかねました。 好きで、市のコンクールで入賞し 柔らかなタッチの作品で、伝統的技法と革新的表現が混在する作品としても もらう必要があるのです。理由は 方針について十分な説明をし、今 専門家ごとに業務への取り組み姿 たこともあります。紙と鉛筆があ 知られる。高島社長にぴったりの感がした。 大きく二つあります。 よりも負担の軽減が図れることを 勢や得意分野は異なるはずですが、 れば絵の世界は無限に広がってい 第一に、相談者が非協力的だと 具体的に伝えるのです。こうする 掲載されていた内容はどこも似た きます。 不動産が売れにくくなるからです。 ことで、これならやっていけると ようなものに思えたからです。 例えば、購入希望者が物件を見学 いう見通しを持ってもらうように そこで、まず事前に得られる情 する際には、現在の住人と会って しました。この先自分がどのよう 報を頼りに、相談者と一緒に何人 事務所の壁にかけられた絵画を眺 経営者を取り巻く環境は変化を続けるが、変わらぬ経営者の個性は経営に みたいというケースがよくありま にして借入金を支払いながら生活 かの専門家に絞り込みました。そ めながらふと、絵画を飾ることを 独自の彩りと輝きを添える。高島社長の躍動する筆はその運びを止めること す。一方で相談者のなかにはどこ していけばよいのか分からないと して、専門家の話を聞く際には、 前提に設計された住宅を提供して はない。 か負い目を感じ、人との関わりを 不安になります。でも、この不安 わたしも同席し直接会って考え方 はどうだろうかと考えたのです。 避けたいという方が少なくありま が取り除かれると、自然と今何を などを確認するようにしたのです。 描くのはお手のものですから、簡 日本政策金融公庫 調査月報 May 2011 No.032 そこで目をつけたのが絵画です。 これまでもインターネットで複 製画などを販売していましたので、 取材メモ 好きな絵画を尋ねると高島社長は「ルノアールの『雨傘』だね」と優しく 貧しさに直面したことがその後の人生観に影を落としてしまう人は少なく ない。しかし、高島社長はその経験を糧にして地域とのつながり、人とのつ ながりといった伝統を大切にしながら、再出発を応援する任意売却、住宅と 絵画の融合という革新に取り組んできた。 （石原 裕） 日本政策金融公庫 調査月報 May 2011 No.032 37