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ボスニア・ヘルツェゴビナ国 ボスニア・ヘルツェゴビナ

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ボスニア・ヘルツェゴビナ国 ボスニア・ヘルツェゴビナ
IX
ボスニア・ヘルツェゴビナ国
ボスニア・ヘルツェゴビナ美術館
展示機材整備計画
調査結果概要
IX
目
次
頁
プロジェクト位置図
写真
1. プロジェクトの背景・経緯 --------------------------------------------------
1
1-1 プロジェクトの背景と無償資金協力要請の経緯 -------------------------------
1
1-2 無償資金協力要請の内容 ---------------------------------------------------
1
1-3 我が国の関連分野への協力 -------------------------------------------------
2
1-4 他のドナー国・機関による協力----------------------------------------------
2
2. プロジェクトを取り巻く状況 ------------------------------------------------
3
2-1 プロジェクトの実施体制----------------------------------------------------
3
2-1-1 組織 -------------------------------------------------------------------
3
2-1-2 財政状況 ---------------------------------------------------------------
6
2-1-3 技術水準 ---------------------------------------------------------------
7
2-1-4 既存施設・機材 ---------------------------------------------------------
8
2-2 環境社会配慮及びグローバルイシューとの関連 ------------------------------- 10
2-2-1 環境社会配慮 ----------------------------------------------------------- 10
2-2-2 その他(グローバルイシュー等との関連) --------------------------------- 10
3. プロジェクトの内容 -------------------------------------------------------- 10
3-1 プロジェクトの概要 ------------------------------------------------------- 10
1) 上位計画 -----------------------------------------------------------------
10
2) 当該セクターの現状 -------------------------------------------------------
10
3) プロジェクトの目的 -------------------------------------------------------
11
3-2 無償資金による計画 ------------------------------------------------------ 11
3-2-1 設計方針 --------------------------------------------------------------
11
3-2-2 基本計画(機材計画)---------------------------------------------------
12
3-2-3 調達計画 ---------------------------------------------------------------
18
1)資機材等調達先-------------------------------------------------------------
18
2)輸送計画-------------------------------------------------------------------
18
3)機材据付及び操作指導-------------------------------------------------------
19
4)事業実施工程表-------------------------------------------------------------
19
3-3 相手国側負担事項 --------------------------------------------------------- 21
IX
3-4 プロジェクトの運営維持管理 ----------------------------------------------- 21
4. プロジェクトの評価 -------------------------------------------------------- 21
4-1 プロジェクトの前提条件 -------------------------------------------------- 21
4-1-1 事業実施のための前提条件 ----------------------------------------------
21
4-1-2 プロジェクト全体計画達成のために必要な相手方投入(負担)事項-----------
22
4-2 プロジェクトの評価 ------------------------------------------------------- 22
4-2-1 妥当性 ----------------------------------------------------------------
22
4-2-2 有効性 ----------------------------------------------------------------
22
1) 定量的効果----------------------------------------------------------------
22
2) 定性的効果----------------------------------------------------------------
23
4-3 その他(広報、人材交流等)------------------------------------------------ 23
4-3-1 相手国側による広報計画-------------------------------------------------
23
4-3-2 その他----------------------------------------------------------------
23
5. 付属資料 ------------------------------------------------------------------ 24
5-1 調査団員・氏名 ----------------------------------------------------------- 24
5-2 調査行程------------------------------------------------------------------ 24
5-3 関係者(面会者)リスト --------------------------------------------------- 24
5-4 討議議事録及び当初要請からの変更点---------------------------------------- 25
IX
プロジェクト位置図
(中東欧地図)
ボスニア・ヘルツェゴビナ
(出典:The Cartographic Section of the United Nations (CSUN))
(ボスニア・ヘルツェゴビナ地図)
サラエボ市
(出典:University of Texas Libraries)
IX
写
真
写真-1:美術館の外観。3 階建てで、各階に展示室を有し
ている。
写真-2:美術館入口ホールにある書店。同美術館発行の書
籍や、絵画のポストカードなどを扱っている。
写真-3: 2 階にある常設展示室。スイスギャラリーと命名
されている。2007 年より「Retrospectrum」
(回想)開催
中。
写真-4:木製の台にペンキを上から塗っただけの手作りの
展示台。
写真-5:2 階に設けられた、ワークショップに参加した児
童・生徒の作品を展示するコーナー。展示作品から子供
たちがインスピレーションを受けたものが描かれてい
る。
写真-6 絵画を展示するためのピクチャーレールと吊下げ
コード。レールは絵画用ではなくカーテン用で、また吊下
げ用コードは専用のワイヤーではなくプラスチックコー
ドで代用している。
写真-7:1 階の展示室。常設及び特別展示室として使用
されている。
写真-8:1 階展示室の照明は老朽化に加え、紫外線、赤外
線の発生、発熱等により美術品に悪影響を与えている。
IX
写真-9:ビデオアートの展示風景。既存機材の不足によ
り、ビデオアートの展示では、芸術家本人、美術館職員
によって必要機材を工面している。
写真-11:地上階の展示スペース。主に特別展示室として
使用されている。
写真-13:地下にある美術品倉庫。温度、湿度を調整する
空調機材によって美術品保管に望ましい状態が保たれ
ている。
写真-15:特別展でのニューメディアアート、ビデオイン
スタレーションの様子。ビデオスクリーン、スタンド、
ビデオプロジェクター各 5 台を組み合せての展示。
写真-10:プロジェクターを使ったビデオアートの一部。
スクリーンがなく、美術館購入の民生用プロジェクタ
ー、スピーカーを使用して、壁に投影している。
写真-12:「ボ」国の美術の歴史に関係する 1 万点以上の
文献を有する図書館。サラエボ大学芸術学部の学生や一
般市民に利用されている。
写真-14:地下の修復スペース。2002 年度草の根無償資金
協力により整備された修復機材一式は同スペースで使
用されている。
写真-16:別の美術館で開催された、写真-15 と同様の展
示。こちらはモニター、DVD プレーヤー各 5 台を組み合わ
せる展示方法をとっている。
IX
1. プロジェクトの背景・経緯
1-1 プロジェクトの背景と無償資金協力要請の経緯
ボスニア・ヘルツェゴビナ美術館は、ボスニア・ヘルツェゴビナ国 1 (以下「ボ」国という。
)
のサラエボ市に位置しており、1946 年に旧ユーゴスラビア連邦のボスニア・ヘルツェゴビナ人民
共和国国立博物館の美術部門から独立し、約 5,500 点に及ぶ「ボ」国で最も多くの美術品を所蔵
する美術館である。同美術館の活動は、常設展及び特別展の開催、
「ボ」国における美術研究、
「ボ」
国芸術の振興、美術品の修復、保全など多岐に亘り、
「ボ」国の美術分野における中心的役割を担
うとともに、
「ボ」国の芸術、文化の振興に大きく貢献している。同美術館は、ボスニア・ヘルツ
ェゴビナ連邦(以下「ボ」連邦という。)に限らず、スルプスカ共和国(以下「ス」国という。)
の芸術家の作品や、ユーゴスラビア時代の作品など時代や歴史を反映した美術品を積極的に紹介
することで、
「ボ」国民が民族や歴史について考える機会を与えるとともに、美術は民族や宗教な
どの違いを超えたものであることを認識させ、
「ボ」国の民族融和に間接的ながら貢献できるよう
目指している。
同美術館は、1992~1995 年のボスニア・ヘルツェゴビナ紛争後、海外のドナーにより建物の修
復や事務用品の一部等の支援を受けて活動を再開したが、
「ボ」国の厳しい経済状況のために、政
府からの予算は十分ではない。そのため、独自で機材を整備することは難しく、代用品や乏しい
機材で美術作品の展示を行っている状況であり、同美術館では展示方法、状況の改善及び同美術
館の活動の強化に必要な機材の整備が急務となっている。
このような背景から、同美術館の作品の展示方法、状態を改善し、展示される美術品のダメー
ジを軽減し、貴重な所蔵品を後世に引継ぎ、また、国内外の作品を広く展示して、国民が美術作
品に触れる機会を増やすことによって、「ボ」国の文化、芸術の振興を図るために、「ボ」国政府
は必要な機材の整備について我が国へ無償資金協力を要請した。
1-2 無償資金協力要請の内容
1) 要請年月
2009 年 8 月
2) 要請金額
22.6 百万円
3) 要請内容
①展示室用空調機材: 3 セット
②展示室用照明機材: 2 セット
③フォト・スタジオ用機材: 一眼レフデジタルカメラ、標準及びマクロ交換レンズなど 7 品目
④美術館展示用機材: ピクチャーレール、組立型展示ケースなど 6 品目
1
「ボ」国はボスニア・ヘルツェゴビナ連邦と、スルプスカ共和国という、2 つのエンティティ(構成体)より成
り立っている。1992 年から始まったボスニア・ヘルツェゴビナ紛争は、1995 年 12 月、デイトン和平合意の成立
により終息した。中央政府は大統領評議会とその下に 10 の省庁からなる閣僚評議会で構成されており、ボシュニ
ャク系及びクロアチア系住民が中心の「ボ」連邦と、セルビア系住民が中心の「ス」国を統轄している。両エン
ティティにも各省が属しており、「ボ」連邦はエンティティ、県、市町村、「ス」国は、エンティティ、市町村を
統轄している。
Ⅸ-1
IX
1-3 我が国の関連分野への協力
我が国の関連分野(美術修復分野)への協力実績は表-1、表-2 のとおりである。
表-1 我が国の技術協力・有償資金協力等の実績(美術品修復分野)
協力内容
実施年度
2005 年
国際交流基金文化協力事業
案件名
概要
美術品修復・保存
ボスニア・ヘルツェゴ
ビナ美術館所蔵の美術
品の修復、サラエボ芸術
大学学部生への技術指
導
表-2 我が国の無償資金協力の実績(美術品修復分野)
(単位:百万円)
実施
年度
2002 年
供与
協力形態
案件名
草の根文化無償
資金協力
ボスニア・ヘルツェ
ゴビナ美術館に対
する修復機材
概要
限度額
美術品修復機材の支援
3.17
1-4 他のドナー国・機関による協力
同美術館は、1992~1995 年のボスニア・ヘルツェゴビナ紛争後、表-3 のとおり国連、EU ほか、
欧米諸国から復興に必要な支援を受けている。特にスイスの画家、フェルディナント・ホドラー
(Ferdinand Hodler(1853~1918))の作品を同美術館が所蔵していることから、スイス政府からの
支援が多い。また、2 階の展示室はスイスの支援を受けて修復されたことから、
“スイスギャラリ
ー”と命名されている。
表-3
他のドナー国・機関の協力実績
(単位:ユーロ)
実施年度
機関名
1998 年
1998 年
1999 年
2000 年
2000 年
スイス政府
ドイツ政府
国連
EU
世界銀行、スイス政
府、ポルトガル政府
スイス政府
国連
不明
不明
不明
不明
不明
298,467
10,062
14,010
49,304
125,266
不明
不明
不明
不明
不明
建物修復に対する支援
図書館機材の整備支援
図書館修復に対する支援
ボイラー室建設支援
建物外観修復支援
不明
不明
20,452
不明
不明
不明
米国国際開発庁
(USAID)
EU 及び「ボ」連邦
文化・スポーツ省
スイス政府
米ソロス財団
不明
2,971
不明
2001 年
2001 年
2003 年
2008 年
不明
不明
案件名
金額
援助形態
概要
不明
不明
不明
保管庫の修復に対する支援
パソコン、ビデオ、コピー
機の整備支援
ビデオ、DVD プレーヤー、音
響システムの整備支援
地下室空調機材の支援
不明
不明
不明
不明
不明
不明
除湿機の整備支援
パソコンの整備支援
Ⅸ-2
IX
不明
ドイツ政府
不明
不明
不明
不明
米国国際開発庁
(USAID)
不明
不明
不明
パソコン、プリンター、ス
キャナーの整備支援
車輌、パソコン、カラープ
リンター、テレビ、事務用
家具の整備支援
上記のほか、2002 年度に我が国の草の根文化無償資金協力で修復機材が整備された後、2004 年
から“European Bridge”交流プログラムが開始され、同美術館がサラエボ大学芸術学部の学生に
対して行っている修復ワークショップに、フランス、スロベニア、オーストリアなどから修復・
保全の専門家が派遣されている。
2. プロジェクトを取り巻く状況
2-1 プロジェクトの実施体制
2-1-1 組織
本プロジェクトの主管官庁は外務省 2 、実施機関はボスニア・ヘルツェゴビナ美術館である。
同美術館の組織図は図-1 のとおりである。美術館の運営に主に関わっているのは、副館長及び
美術館活動グループに所属している 8 人の計 9 人である。
*括弧内の数字は職員数。
(出典:ボスニア・ヘルツェゴビナ美術館提出資料)
図-1 ボスニア・ヘルツェゴビナ美術館組織図
ボスニア・ヘルツェゴビナ美術館は、旧ユーゴスラビア連邦時代のボスニア・ヘルツェゴビナ
人民共和国の国立博物館の一部であった美術部門から 1946 年に独立し、現在ではボスニア・ヘル
ツェゴビナ国の美術館として、同国で最も多くの約 5,500 点の美術品を所蔵している。所蔵品の
うち 500 点余りは国立博物館より引継いだものであり、オーストリア=ハンガリー帝国時代や、
旧ユーゴスラビア連邦時代の美術品(主に彫刻、絵画)などの歴史を物語る美術品を多く所有し
ている。
「ス」共和国のバニャ・ルカ市に現代美術館が存在するが、所蔵作品数は 200 点ほどであ
2
芸術・文化に関連する活動の管轄は「ボ」国レベルでは閣僚評議会下にある民生省であるが、海外からの援助案
件については外務省が主管官庁となるとの取決めによって、本プロジェクトは外務省が主管官庁となっている。
Ⅸ-3
IX
り、ボスニア・ヘルツェゴビナ美術館が「ボ」国における最大の美術館である。
同美術館が所蔵するコレクションは表-4 のとおりであり、16-17 世紀のセルビア正教、ローマ・
カトリック教の肖像(偶像)画コレクション、国境なきアーティストたちなどから寄贈された国
際美術コレクションなどである。作品の形態はキャンバス画、グラフィック映像、彫刻、ビデオ、
インスタレーション 3 など多岐に亘る。
表-4 ボスニア・ヘルツェゴビナ美術館所蔵美術品
美術品カテゴリー
常設展示作品数
ボスニア・ヘルツェゴビナ美術コレクション
倉庫保管作品数
計
129
3,814
3,943
フェルディナント・ホドラーコレクション
(19世紀のスイスの画家)
4
218
222
肖像(偶像)画コレクション
(15~19世紀初頭の作品が多い)
2
78
80
旧ユーゴスラビア美術コレクション
(絵画、彫刻、版画など)
40
527
567
国際美術コレクション
21
332
353
0
259
259
196
5,228
5,424
“Nada”アーカイブ
(1920年代発行の定期刊行物。当時の様子を物語る挿絵が挿入されている。)
計
(出典:ボスニア・ヘルツェゴビナ美術館提出資料)
同美術館は、地上 3 階、地下 1 階からなっており、地上階(展示面積:106m2)、1 階(267.02m2)、
2 階(387.10m2)の 3 階全てに展示室を有し、地上階では特別展、1 階は特別展及び常設展、2 階は
常設展を行っている。地下階は、所蔵品倉庫及び、美術品修復スペースとなっている。開館時間
は火曜~土曜日の 10 時から 18 時であり、多くの人に美術を鑑賞してもらうために入場無料とし
ている。
常設展では 5 年毎にテーマを選び、同美術館の所蔵品の中からテーマに合った作品を選んで展
示を行っている。
「ボ」国において常に多民族、多宗教が共存してきている現実を反映させ、美術
品を広く紹介する角度から展示を行っている。2010 年現在の常設展は色をテーマとし、展示作品
を色ごとに分け、17 世紀作品と現代美術作品を隣同士に設置するなど、作者の国や時代、宗教な
どの分類を超えた展示方法を採用している。特別展については、同美術館所蔵品の一部や、国内
外の美術館などからの美術品の展示を行っている。
同美術館の過去 5 年間における常設展(ワークショップ含む)、特別展、入場者数は表-5 のと
おりである。
3
1970 年代後半から顕著になった現代美術の手法の一つ。インスタレーションとは、本来は「設置、架設」を意
味するが、美術の領域では、画廊、もしくは屋外の任意の空間に彫刻や立体、あるいはそのほかの事物を据え付
けることによって、重層的な「意味空間」を生み出す行為を指すことばとして用いられている。
Ⅸ-4
IX
表-5 2006 年~2010 年までの常設展及び特別展の入場者数
常設展
(単位:人)
特別展
合計
一般入場者数 学生入場数
ワークショップ
2006年
4,125
7,385
2007年
5,525
1,162
3,245
2008年
3,379
1,196
371
6,575
2009年
2,814
2,728
125
8,989
2010年
1,720
8,868
*2010 年は 10 月 30 日までの入場者数。
*常設展の入場者数は、特別展が開催されていない期間の入場者数のみである。
11,510
9,932
11,521
14,656
10,588
(出典:ボスニア・ヘルツェゴビナ美術館提出資料)
「ボ」国の美術研究においては、同美術館の学芸員、司書が中心となって研究活動を行い、成
果品は出版物として発行しているほか、「ボ」国美術についての 1 万点以上の文献(「ボ」国の美
術、美術学、建築、デザインについての書籍、美術館での過去の展示会についての切り抜きなど)
を所有している。サラエボ大学芸術学部の美術関連蔵書よりも図書が充実しているため、同大学
の学生にも頻繁に利用されている。
「ボ」国芸術の振興に関しては、同美術館所蔵美術品の保全だけではなく、毎年 10,000~15,000
ユーロの予算を割当て、
「ボ」連邦、
「ス」共和国両エンティティの若いアーティストの作品を購
入し、展示するなど「ボ」国芸術家の育成にも力を入れている。
また、
「ボ」国の芸術教育を深めるため、サラエボ大学芸術学部の学生が主体となり、幼稚園・
小・中学生対象のワークショップを同美術館で行い(ワークショップへの参加人数は表-8 を参照)、
生徒・児童が美術に触れる場を設けている。また、サラエボ県教育省と協力し、小中学校での美
術教育のために、同美術館が教材を作成し、提供も行っている。
最近では、若者の芸術に対する関心を引きつけるため、ソーシャル・ネットワーキング・サー
ビス(フェースブック、ツイッター)などの新しいメディアを利用し、同美術館の活動の発信も行
っている。
同美術館では、「ボ」国における唯一の美術品修復機関として、我が国の 2002 年度草の根文化
無償資金協力で整備された修復機材により、政府より委託を受けて美術品(絵画)の修復保全を
行っている。修復作業は、スロベニアで絵画修復の勉強をした同美術館の修復専門家 1 人によ
って行われており、過去に修復された美術品数は表-6 のとおりである。同美術館で修復する
絵画の 9 割は同美術館所蔵品、残り 1 割は他から依頼されたものである。
表-6 2007 年~2010 年の修復実績
美術品カテゴリー
2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年
計
ボスニア・ヘルツエゴビナ美術コレクション
5
1
2
8
35
6
0
57
肖像(偶像)画コレクション
0
0
1
0
0
0
39
40
旧ユーゴスラビア美術コレクション
0
1
1
10
2
3
0
17
計
5
2
4
18
37
9
39
114
*2010 年は 10 月 30 日までの数字。
(出典:ボスニア・ヘルツェゴビナ美術館提出資料)
Ⅸ-5
IX
4
「ボ」国モザイク財団 が、 EUから 30 万ユーロの支援を受け、2010 年 11 月から 2 年間、サラエ
ボ市の文化的、歴史的遺産に焦点を当てた観光プロジェクト“Crossroads to stay”を実施する
ことになり、同美術館を含むサラエボ市内 10 の美術館、博物館において、観光客向けのサービス
を強化する予定である。市内 10 の美術館、博物館は観光ルートに組み込まれ、美術館スタッフも
観光向けガイドの説明ができるようにトレーニングを受ける予定である。これによって、今後の
入場者の増加が期待される。
このように、同美術館は、美術品の展示、美術研究、美術品の修復・保全など幅広い活動を通
じて、「ボ」国の美術分野で中心的役割を担い、
「ボ」国の芸術、文化の振興に大きく貢献してい
る。
2-1-2 財政状況
同美術館の予算を表-7 に示す。収入は、政府予算(「ボ」国民生省、「ボ」連邦文化・スポーツ
省、サラエボ県文化・スポーツ省、サラエボ市、コミュニティレベル)、その他海外からの支援、
直営の書店における販売と、一部施設を民間の書店にリースしており、その賃貸料などの独自収入
により成り立っている。政府からの補助金に関しては、毎年政府に支出の内訳を報告する義務があ
り、厳しく予算が管理されている。
毎年の収支はほぼバランスを保っており、運営状況は安定している。
表-7 ボスニア・ヘルツェゴビナ美術館予算
年度
2007 年度実績
2008 年度実績
(単位:ユーロ)
2009 年度実績
2010 年度予算
2011 年度予算
134,680
130,759
157,722
収入
政府からの補助金
-「ボ」国民生省
152,149
189,916
100,556
76,694
76,694
76,694
76,694
-「ボ」連邦文化・スポーツ省
578
52,890
25,724
21,956
33,234
-サラエボ県文化・スポーツ省
51,015
54,328
31,342
26,229
39,358
-サラエボ市
0
6,004
0
0
2,556
-コミュニティ
0
0
920
5,880
5,880
自己収入
海外からの支援
合計
75,612
52,878
58,649
53,379
62,378
0
1,190
958
0
0
194,287
184,138
220,100
227,761
243,984
支出
給与
180,256
159,741
149,253
134,981
160,000
光熱費
25,242
21,763
23,920
20,124
25,435
施設・機材購入費
10,796
26,128
13,248
15,820
25,565
-施設費
0
5,161
4
0
0
5,565
モザイク財団は 2000 年に設立されたコミュニティ開発基金。
「ボ」国地域社会の発展のために資金提供やアドバ
イス等を行っている。同財団のホームページは以下のとおり。(http://www.mozaik.ba/eng/index.php?id=home)
Ⅸ-6
IX
-機材費
4,609
20,967*
0
3,503
0
-「ボ」国芸術購入費
6,187
0
13,248
12,317
20,000
維持管理費
1,642
2,462
2,233
2,301
3,500
-施設費
441
895
287
307
1,000
-機材費
1,201
1,567
1,946
1,994
2,500
33,853
7,870
5,573
5,600
その他(カタログ作成費、事
9,835
務用品購入など)
合計
227,771
243,947
196,524
178,799
220,100
*2008 年の機材購入費は、EU 及び連邦政府より支援を受けて購入した地下室空調機材費である。
(出典:ボスニア・ヘルツェゴビナ美術館提出資料)
2-1-3
技術水準
要請機材の総責任者は館長である。各要請機材の使用者、維持管理者は表-8 のとおりである。
展示用照明機材、現地調査時に追加要請のあったニューメディアアート展示機材については、美
術館活動グループに属する機材技術者 2 人及び全機材を管理している副館長の合計 3 人が担当す
る。技術者は現地調査時の技術的対応から見て、一定の操作技術を有すると推測され、新規に要
請がなされているニューメディアアート展示機材についても、類似の既存機材を扱っており特段
の運用・維持管理上の問題はないと判断される。
美術館展示用機材については、学芸員 2 人が中心となって管理を行う予定であるが、高度な技
術レベルは要求されないので問題はない。
フォト・スタジオ用機材については、デザイナー兼写真家である学芸員が使用予定であるが、
同等レベルの機材を扱った経験を有し、技術レベルについて特に問題はない。
表-8
No.
名前
機材使用者、維持管理者
担当
業務経験年数
担当業務
シニア学芸員
14 年
美術館用展示機材
美術館用展示機材
1
Ms. Ivana Udovičić
2
Ms. Maja Abdomerović
学芸員
10 年
3
Mr. Sanjin Lugić
修復家
7年
4
Ms. Maja Kordić
デザイナー・写真家
4年
5
Mr. Haris Osmanović
電気技術担当
7年
6
Mr. Amir Hadžić
財務及び機材全般
10 年
7
Mr. Mihret Alibašić
技術担当
14 年
修復関係機材、
フォト・スタジオ機材
フォト・スタジオ機材、
マルチメディア展示
照明機材、
音響・視聴覚機材担当
照明機材、
音響・視聴覚機材担当
全機材
(出典:ボスニア・ヘルツェゴビナ美術館提出資料)
Ⅸ-7
IX
2-1-4 既存施設・機材
既存の機材リストは表-9 に示すとおりである。
・空調用施設・機材
現在、全ての展示室において、温度は窓の開閉及び扇風機での調節、湿度の調節は加湿器を利
用している。2 階の展示室は、天井の一部がガラス張りになっており、外気の影響を直接受け易
く、夏は室内温度が 40 度近くになることもあるが、既存の照明機材が発する熱によって、さらに
展示物周囲の温度を上げている状況である。急激な温度湿度の変化がある場合には、美術品を温
度湿度が管理された地下階の所蔵品倉庫等に移動させる等の対策を行っている。暖房が整備され
ているため冬季は問題ないが、夏季の展示室における温度変化は、長期的には美術品に影響を与
える可能性がある。
・照明機材
地上階及び 1 階の展示室には 1980 年代に導入された蛍光灯及びレフ電球 5 タイプスポットライ
ト照明、2 階は 1998 年にスイス政府の支援により設置された白色コンパクト蛍光灯 6 照明が整備さ
れている。地上階、1 階のスポットライトについては、同機材を設置して既に 30 年を経ており、
老朽化が激しいことに加えて、紫外線・赤外線などの有害光線の発生、発熱などにより美術品に
悪影響を与えているため、更新を必要としている。
・フォトスタジオ機材
フォトスタジオについては、紛争で破壊された後、フォトスタジオの機能を持った部屋は現在ま
で確保されていない。限られた予算の中で 2006 年に民生用カメラを自己調達して、美術品のデジ
タル記録のほか、修復前の作品の状態を撮影し、修復後に修復前の状態と比較できるように記録
しているが、カメラの性能上の問題、撮影用照明機材がないことなどから、十分に目的を果たし
ていない。
・展示用機材
展示台については、30 年前に製作した木製の台があるが、ペンキが剥がれ落ち、長年使い込ん
だ傷が見られる。また、展示台にはケースが付いていないことから、展示品を埃や虫の糞の付着、
参観者が直接触ったりすることなどから保護することが出来ず、必要に応じてケース付き展示台
を、他の博物館や展示主催者から借りている状況である。
展示パネルは、5 つの大きな手製パネルを地上階と 1 階に設置しているが、重いため移動でき
ず、展示会の内容に応じたスペースを作ることができない。また、展示物を吊るすためのフック
やワイヤーなども付いておらず、展示に支障をきたしている。
全ての展示室のピクチャーレール、フックは美術品展示専用のものではなく、カーテン用のレ
ールで代用している。専用ワイヤーの代わりに、プラスチックのコードを使っているが、重量の
ある絵画には耐えられない状況である。レールの傷みも見られており、老朽化が著しい。
マップキャビネットは 2 台保有しているものの、紙に描かれた絵画が多いため、全てをキャビ
ネット内に保存できていない。紙製のフォルダーに一時的に保管し、美術品へのダメージを最小
限に抑えようとしているものの、100 点ほどの美術品が望ましい状態で保管されていない。
5
6
レフ電球:光を一つの方向にまとめ、その照射方向がより明るくなるように開発された電球のこと。
一般的に直管蛍光灯より全長が短くなったランプを指す。U 字に曲げたものもある。
Ⅸ-8
IX
・修復用機材
既存の修復機材は全て 2002 年度草の根文化無償資金協力で整備された機材であり、一部故障し
ている機材があるものの、地下階にある修復スペースで使用されており、状態は良好である。
・ニューメディアアート展示機材
DVD プレーヤー、モニター、スピーカーなど一部機材を所有しているものの、数量が不足して
おり、老朽化している。また、これらは民生用レベルであり、音声出力レベルや輝度が低く、メ
ディアアート、オーディオアートの展示に使用するための要求を満たしていない。
表-9 既存機材リスト
機材名
数量
整備年
状態
(優/良/故障)
設置場所
空調機材
加湿器
2
1999 良
扇風機
照明機材
スポットライト
スポットライト
一般蛍光灯照明
フォトスタジオ機材
カメラ
三脚
美術館展示用機材
ピクチャーレール
フック
鉄製保存用図面キャビネット
展示台(ケースなし)
パネル
視聴覚・音響機材
スピーカー(小)
プロジェクター
DVDプレーヤー
ビデオカセットレコーダー(VHS)
オーディオアンプ
モニター(20インチ)
スピーカー
7
2005 良
1台-2階展示室
1台-必要に応じて移動
展示室(必要に応じて移動)
1981 老朽化
1998 老朽化
1981 老朽化
地上階及び1階展示室
2階展示室
全ての展示室
2006 良
2003 良
写真家用事務所
写真家用事務所
1998
1998
不明
不明
不明
全ての展示室
全ての展示室
保管庫
全ての展示室
地上階・1階展示室
ワイヤレスマイク
オーディオミキサー
48
72
237
1
1
約350m
500
2
20
5
老朽化
老朽化
良
老朽化
老朽化
2
不明 良
2 2000/2008 良
3
不明 良
1
不明 老朽化
1
不明 良
1
不明 老朽化
2(1ペア)
1995 良
1/故障中
2
不明
1/良
1
1995 老朽化
Ⅸ-9
保管室および展示室
保管室および展示室
保管室および展示室
保管室および展示室
保管室および展示室
保管室および展示室
保管室および展示室
保管室および展示室
保管室および展示室
IX
機材名
修復用機材(草の根整備機材)
真空ホットテーブル
マイクロ真空テーブル
吸引器
顕微鏡
ライト付拡大鏡
ハイドロ・サーモメター
湿度計
ホット・ワックス焼付け装飾用器具
塗金器器具一式
修復用イーゼル
小型拡大鏡*
ホット・セラミックプレート
顕微鏡
スチールフレームキャビネット*
携帯抽出タービン
ホットエアーペンセット*
細棒糊付け器具
ノートパソコン
数量
整備年
1
1
2
2
2
1
1
1
2
2
2
1
1
1
1
1
1
1
2002
2002
2002
2002
2002
2002
2002
2002
2002
2002
2002
2002
2002
2002
2002
2002
2002
2002
状態
(優/良/故障)
優
優
優
優
良
優
優
故障
故障
優
優
優
優
優
優
優
優
良
設置場所
修復室
修復室
修復室
修復室
修復室
修復室
修復室
修復室
修復室
修復室
修復室
修復室
修復室
修復室
修復室
修復室
修復室
修復室
* 草の根文化無償資金協力による整備機材と、美術館提出機材リストの対比が困難な箇所は、美術館
提出資料のまま記載している。
(出典:ボスニア・ヘルツェゴビナ美術館提出資料)
2-2 環境社会配慮及びグローバルイシューとの関連
2-2-1 環境社会配慮
特になし。
2-2-2 その他(グローバルイシュー等との関連)
特になし。
3. プロジェクトの内容
3-1 プロジェクトの概要
1) 上位計画
特になし。
2) 当該セクターの現状
同美術館は 1992~1995 年の紛争により、屋根と 2 階が破壊され、建物全体も損傷を受けた。紛
争後、スイス政府を中心とした海外のドナーより、建物修復や事務用品の一部等の支援を受けて
活動を再開したが、絵画展示用ピクチャーレールについては、当時入手可能であったカーテンレ
ールなどの代用品による応急処置で対応せざるを得ず、現在までその状況は続いている。また、
30 年前に独自で製作した展示台は老朽化が著しい。同博物館は、作品の展示方法、状態を改善す
るために機材整備を要望してきたものの、
「ボ」国の経済状況の厳しさのために、政府から割当て
られる予算は少ない。政府からの予算及び自己収入は、美術館の運営に必要な最低限の金額であ
るため、同美術館は政府に追加支援を要請したり、スポンサー、NGO等の資金協力先を探したりし
Ⅸ-10
IX
ながらの活動を余儀なくされている。2008 年にようやく、EU、「ボ」連邦からの支援を受けて、
地下階に空調設備を設置し、保管されている美術品の状態を改善することが出来るようになった
ものの、美術品の展示に必要な展示室の空調設備、照明機材、展示用機材などの整備は十分出来
ていない。このため、展示作品がダメージ 7 を受けることもあり、ダメージを受けた箇所はその都
度修復を行っている状況である。また、外部の美術品の展示については、展示用ケースなどをア
ーティストや他の美術館から借りてきて何とか展示を行っているが、照明設備、展示用機材など
の展示環境が整っていないとの理由から、美術品のダメージを懸念して、同美術館での展示に同
意しない所有者もおり、展示会の開催を断念せざるを得ない場合もある。
また、最近ではニューメディアアート 8 作品の展示要望が増加傾向にあり、そのためには複数の
視聴覚機材、音響機材を組み合わせての展示が必要となるが、同美術館の既存機材は民生用であ
るため、輝度、音声出力の面で作品に要求されるレベルを満たしていない。これら機材はほとん
どが老朽化し、また数量も不足している。ニューメディアアートについても展示機材と同様に、
美術館学芸員やアーティストが機材を持ち寄り開催することもあるが、機材の制約から展示会が
計画中止となる状況が度々生じている。
このような背景から、同美術館の展示方法、状態を改善し、展示される美術品へのダメージを
軽減し、貴重な所蔵品を後世に引継ぎ、また、国内外の作品を広く展示して、国民が美術品に触
れる機会を増やすことによって、「ボ」国の文化、芸術の振興を図ることを目的に、「ボ」国政府
は必要な機材の整備について我が国へ無償資金協力を要請したものである。
3) プロジェクトの目的
本プロジェクトは、ボスニア・ヘルツェゴビナ美術館に対し、照明機材、美術館展示用機材、
フォト・スタジオ機材及びニューメディアアート展示機材を整備し、美術品の展示方法、状態を
改善して美術品に対するダメージを軽減し、また国内外の作品を広く展示して「ボ」国民が美術
品に触れる機会を増やし、「ボ」国の文化、芸術の振興を図ることを目的とする。
3-2 無償資金協力による計画
3-2-1 設計方針
本プロジェクトは、
「ボ」国政府の要請と現地調査及び協議の結果を踏まえて、以下の方針に基
づき計画することとした。なお、展示室用空調機材については、後述の理由により計画機材より
削除した。
計画機材は、同美術館の活動を考慮し、美術品の展示を適切に行えるよう、また美術品に対す
るダメージを軽減できるよう、下記方針に基づき設計を行い、併せて必要数量を算定した。
① 展示室用空調機材
7
一般蛍光照明下の展示による退色、長年の埃・虫糞の付着等による画面の汚損、変色、黄化等、温度差による黴
等の弊害などが挙げられる。
8
20 世紀中期より広く知られるようになった、芸術表現に新しい技術的発明を利用する、もしくは新たな技術的
発明によって生み出される芸術の総称的な用語である。特に、ビデオやコンピュータ技術をはじめとする新技術
に触発され、生まれた美術であり、またこういった新技術の使用を積極的に志向する美術である。ニューメディ
アアートの例としては、オーディオアート、サウンドアート、コンピューターアート、デジタルアート、ソフト
ウェアアート、ビデオアートなどがある。
Ⅸ-11
IX
展示用空調機材を計画機材より削除した理由は次の通りである。同美術館の当初の要請は、
3 フロアの限られた展示スペースを温度調整する機材と了解していたが、現地調査時にその
内容を確認すると、同美術館は温度・湿度調整機能と換気機能を持つ精密空調機材を 3 フロ
アに各 1 セット台ずつ要望していることが判明した。
同美術館では、美術品の保護のために、このような機能を有した空調機材を強く要望してき
たものの、既存の照明機材に替えて新たに計画する照明機材により、また展示ケースの利用
により、美術品に対するダメージは軽減でき、夏季には直射日光の当たらない場所に美術品
を移す等の工夫を施すことによって、美術品を保護しながらの展示はある程度可能である。
また、要望の空調機材は光熱費が現在の光熱費の 50%増以上に当たる 1 万ユーロほど増額す
るほか、維持管理費が嵩み、同美術館の財政状況を圧迫するおそれがある。
これらのことを総合的に判断して、展示室用空調機材の評価を C とした。
② 展示室用照明機材
地上階、1 階の既存スポット照明は老朽化しているうえ、美術品に適した照明ではない。
このため、美術品にダメージを与えない LED 照明を整備する。
③ フォト・スタジオ用機材
所蔵美術品をデジタル記録化し、データーベースを作成するほか、美術品の修復やカタロ
グ作成などに使用するために必要なフォト・スタジオ機材一式を整備する。
④ 美術館展示用機材
既存の機材は手作りや他のもので代用しており、十分な数量も有していないことから、ピク
チャーレール、展示ケースなど必要最小限の展示用機材を整備する。
⑤ ニューメディアアート展示機材
複数の視聴覚・音響機材を組み合わせて展示を行うニューメディアアートの展示用機材一
式を整備する。
3-2-2 基本計画(機材計画)
上記設計方針に基づき、各種機材の設置場所、先方の要望等を勘案の上、以下の通り計画対象
機材の選定を行った。
① 展示室用照明機材
展示品の保護・損傷防止の観点から、照明からの熱や紫外線・赤外線などの有害光線の発生
が少なく、省電力で保守コストを削減可能な LED 型スポットライトを選定した。数量に関し
ては、既存の照明レールの長さに合わせた上で、地上階、1 階の展示室の広さに必要な 150
~200 ルクス程度の明るさを考慮し、地上階は 55 基、1 階は 146 基とした。
②フォト・スタジオ用機材
全ての所蔵美術品のデジタル記録化、データーベースの作成、作品の管理、及び常設展や年
平均 15 回開催されている特別展毎に発行しているカタログ・パンフレットの作成、美術品の
修復前の撮影等に使用するため、フォト・スタジオ用機材一式を整備する。機材構成は、カ
メラと共に使用する付属レンズ、撮影用照明、写真を加工、編集するための画像編集用ソフ
トウェアを一式とした。なお、同美術館では、フォト・スタジオ用機材を使って、データー
Ⅸ-12
IX
ベース化した作品を、新しく作成予定の美術館ホームページ(現在のホームページは
www.ugbih.ba、新ホームページには子供向けに美術に関するゲームを掲載し、ボスニア語以
外に、基本情報を英語、フランス語、イタリア語、アラビア語、日本語の多言語で掲載する
ことを計画)に掲載し、来館できない人や、美術研究者のために、作品へのアクセスを容易に
することを計画している。
同計画機材は、地下階に今後整備予定のフォト・スタジオ用の一室に設置される。
③ 美術館展示用機材
同美術館の常設展、特別展における美術品の展示に使用する。特別展においては、展示内容
に応じ、展示会毎に移動して使用する。
1) 展示台
既存の展示機材と入替えとし、展示室の広さ、展示品の大きさ、内容を考慮して、ケース
なしの展示台を 3 種類合計 10 台及びケース付きの展示台を 2 種類各 5 台、合計 10 台を選
定した。美術館は、特別展示毎に作品の移動が頻繁であるが、同美術館にはエレベーター
が備え付けられていないので、床の強度、利便性を考慮して、各展示台は比較的軽量で移
動しやすい簡易型組立式とした。
2) 展示パネル
同美術館の所蔵品は絵画が多く、展示パネルがあれば展示が可能になること、また展示会
の内容に応じた展示スペース作りのために移動して使用が可能であることから、展示室の
広さを考慮して、展示品(主に絵画)を吊るすためのフックやワイヤーなどが付いている
展示パネルを選定した。
3) ピクチャーレール、フック、吊金具セット
地上階、1 階、2 階展示室の全ての展示室の壁と天井の間に取り付け、主に絵画を吊り下
げて展示するためのものとなる。各展示室の広さ、展示場所、天井の高さを考慮して、吊
り下げに必要なピクチャーレール、フック、吊金具セットを一式とし、各必要数量を選定
した。
各数量の選定については以下の通り算出した。
・ピクチャーレール- 展示室のピクチャーレール設置場所の周囲長(地上階 41.30m、1 階
114.95m、2 階 157.30m)を考慮して数量を選定。
・フック- 展示方法、作品によって大きさが異なるものの、展示品の大きさを平均 67cm
とし、数量を選定。
・吊り金具セット- 各展示室において異なる天井から床までの高さ(地上階 5.22m、1 階
4.42m、2 階 3.62m、3.15m、2.52m)及び作品の大きさを考慮し、数量を選定。
4) マップキャビネット
地下階に設置し、紙に描かれた絵画品約 100 点を保存できるマップキャビネットを 2 台
選定した。
5) その他、美術品の展示準備のために必要最小限の作業棒、台車を選定した。
④ ニューメディアアート展示機材
現代芸術においてよく見られるニューメディアアートの展示では、複数のイメージを組み合
わせて一つのアートとして表現する場合が多く、複数の視聴覚機材と音響機材を組み合わせ
Ⅸ-13
IX
た展示が要求される。これを考慮し、常設展でのビデオアート及び特別展におけるニューメ
ディアアートを開催できる必要最小限の機材と数量を選定した。
常設展用として、美術館が所有する 2 作品のビデオアートを展示するため、ディスプレイ及
び BD/DVD プレーヤーを 2 セット選定した。また特別展用として過去の実績から、複数のニ
ューメディアアートの紹介 、または一つのニューメディアアート作品でディスプレイ・
BD/DVD プレーヤーを 4 セット使用することが多いため、これを 4 セット及び映像を同時に
切り替えるスイッチャーを選定した。
さらに、ニューメディアアートの展示の際は、何点かのニューメディアアート作品を同時に
紹介することが多く、上記のディスプレイ以外にも、プロジェクターを複数使った作品を紹
介するため、過去の実績を考慮してビデオプロジェクター・ビデオスクリーン・BD/DVD プ
レーヤー・スピーカーを必要最小限の 3 セットを選定した。2 セットは地上階、1 セットは
1 階に設置される。なお、計画機材は輝度が十分なレベルの機材を選定した。
また、ニューメディアアート特別展にて紹介されるオーディオアートのために、ミキサー、
スピーカー2 セット、マイク 2 台を併せて選定した。
ニューメディアアートは年間約 100 日の開催を予定している。
本案件の主要な機材リスト及び用途は表-10 のとおりである。
表-10 主要機材リスト及び用途
分類
展示室用空調
機材
展示 用照明機
材
フォ ト・スタ
ジオ用機材
機材名
精密空気調整機
ダクトシステム
LED スポットライト
配 線 ダク トシ ス テ
ム・吊金具
一 眼 レフ デジ タ ル
カメラ
三脚
露出計
美術館展示用
機材
写真撮影用ライト
画 像 編集 用ソ フ ト
ウェア
折りたたみ展示台 A
折りたたみ展示台 B
折りたたみ展示台 C
用途
展示室の温度湿度を調整。
同上。
展示室において、最小限にダメ
ージを抑えつつ、展示作品に焦
点を当てる。
スポットライトを取り付ける
ためのレール及び金具。
美術品のデーターベース化、カ
タログ、パンフレットの作成に
利用。
上記カメラと共に使用。
数量
3 セット
3 セット
1 セット
評価
C
C
A
1 セット
A
1 セット
A
1
A
撮影時に光の強度を測定する
ために使用。
写真撮影用の照明。
記録写真の加工、データーベー
ス構築、カタログ作成に使用。
展示品展示用。
(W600×D600×H600mm)
展示品展示用。
(W900×D900×H700mm)
展示品展示用。
(W600×D600×H900mm)
1
A
1 セット
1
A
A
3
A
2
A
5
A
Ⅸ-14
IX
組立型展示ケース A
組立型展示ケース B
展示パネル A
展示パネル B
ピクチャーレール
フック
吊金具セット
作業棒
ニューメディ
アアート展示
機材
マ ッ プキ ャビ ネ ッ
ト
台車
プ ロ ジェ クタ ー シ
ステム
(データプロジェク
ター×1、BD/DVD プ
レーヤー×1、ビデオ
スクリーン×1、パワ
ードスピーカー×1
等で構成)
デ ィ スプ レイ シ ス
テム1
(BD/DVD プレーヤー
×1、42 インチフラ
ットパネルディスプ
レイ×1、デュスプレ
イ用台×1 等で構成)
ビ デ オス イッ チ ャ
ー
デ ィ スプ レイ シ ス
テム 2
(BD/DVD プレーヤー
×1、42 インチフラ
ットパネルディスプ
レイ×1、壁掛けブラ
ケット×1 等で構成)
オ ー ディ オシ ス テ
ム
(マイク×2、オーデ
ィオミキサー×1、パ
ワードスピーカー×
4 等で構成)
展示品展示用。ショーケース
付。(W1200×D600×H1000mm)
展示品展示用。ショーケース
付。(W600×D600×H1700mm)
展示品(絵画)展示用。
(2 連タイプ)
展示品(絵画)展示用。
(4 連タイプ)
展示品フック取り付け用のレ
ール。
ピクチャーレールに吊り金具
を吊るために使用。
ピクチャーレール、フックとと
もに使用。3m/2.5m/2m/1.5m/1m
吊り金具セットをフックに掛
けるためのもの。
紙ベースの美術品の保存。
5
A
5
A
6
A
2
A
80
A
500
A
1 セット
A
1
A
2
A
展示品運搬に使用。
BD/DVD の映像をプロジェクタ
ーによりスクリーン上に投影
する。特別展用。
1
3 セット
A
A
BD/DVD の映像をフラットパネ
ルディスプレイで上映する。特
別展用。
4 セット
A
ディスプレイシステム 1 で再生
する映像の切り替え用。
BD/DVD の映像を壁掛け型フラ
ットパネルディスプレイで上
映する。常設展用。
1
A
2 セット
A
1 セット
A
マイク等からの音声信号再生、
オーディオアートの音声 再生
に使用。特別展用。
展示機材、ニューメディアアート展示設置予定場所は表-11 のとおりである。
Ⅸ-15
IX
表-11 展示用機材、ニューメディアアート展示機材設置予定場所
機材名
数量
地上階
展示用機材
折りたたみ展示台 A(W600×D600×H600mm)
折りたたみ展示台 B(W900×D900×H700mm)
折りたたみ展示台 C(W600×D600×H900mm)
組立型展示ケース A(W1200×D600×H1000mm)
組立型展示ケース B(W600×D600×H1700mm)
展示パネル A(2 連タイプ)
展示パネル B(4 連タイプ)
ピクチャーレール(4m)
フック
吊り金具セット 3.0m
吊り金具セット 2.5m
吊り金具セット 2.0m
吊り金具セット 1.5m
吊り金具セット 1.0m
3
2
5
5
5
6
2
80
設置予定場所
1階
2階
3
2
5
3
3
2
2
6
2
11
28
500
70
175
100
50
50
200
30
152
162
26
88
ニューメディアアート展示機材
プロジェクターシステム(特別展用)
データプロジェクター
3
2
1
BD/DVD プレーヤー
計9
2
1
ビデオスクリーン
3
2
1
パワードスピーカー(100W)
6(3 ペア) 4(2 ペア) 2(1 ペア)
ディスプレイシステム 1(特別展用)
BD/DVD プレーヤー
計9
4
フラットパネルディスプレイ
計6
4
デュスプレイ用台
4
4
ディスプレイシステム 2(常設展用)
BD/DVD プレーヤー
計9
フラットパネルディスプレイ
計6
オーディオシステム(特別展用)
オーディオミキサー
1
1
パワードスピーカー(250W)
4(2 ペア)
4(2 ペア)
マイク
2
2
41
255
18
162
26
88
2
2
美術館展示用機材、ニューメディアアート展示機材については、展示会毎に移動して使用する
ことになるが、想定される機材の設置予定場所(ピクチャーレール等は除く)の一例は以下のと
おりである。
Ⅸ-16
IX
A
プロジェクターシステム
ディスプレイシステム 1
A
ディスプレイシステム 2
4
オーディオシステム
A
折りたたみ展示台(タイプ A,B,C)
組立型展示ケース (タイプ A,B)
地上階展示室(106m2)
C
C
C
展示パネル (2,4 連タイプ)
C
A
4
A
B
B
B
A
C
1 階展示室(267.02m2)
2
2
2
B
A
2
2
A
B
B
2
B
B
2 階展示室(387.10m2)
図-2 美術館展示用機材、ニューメディアアート展示機材設置予定場所
Ⅸ-17
IX
3-2-3 調達計画
1) 資機材等調達先
本プロジェクトにて調達される資機材の調達先は、表-12 に示すとおりである。
表-12 資機材等調達先
分類
展示室用照明機材
機材名
調達国
現地
日本
LED スポットライト
○
配線ダクトシステム・吊金具
○
一眼レフデジタルカメラ
○
三脚
○
露出計
○
写真撮影用ライト
○
画像編集用ソフトウェア
○
折りたたみ展示台
○
組立型展示ケース
○
展示パネル
○
ピクチャーレール
○
フック
○
吊金具セット
○
作業棒
○
マップキャビネット
○
台車
○
ニューメディアアート展示
プロジェクターシステム
○
機材
ディスプレイシステム 1
○
ビデオスイッチャー
○
ディスプレイシステム 2
○
オーディオシステム
○
フォト・スタジオ用機材
美術館展示用機材
割合(%)
0%
100%
第三国
0%
2) 輸送計画
本プロジェクトで調達される機材の輸送は、日本側の経費負担により、調達契約業者が行う。
日本から調達される機材はコンテナ詰めされた後、海上輸送され、クロアチアのプロチェ港で陸
揚げされ、コンテナのまま「ボ」国の首都サラエボにある同美術館内のサイトまで運ばれる。海
上輸送には約 45 日間、内陸輸送には 10 日間を要する。
Ⅸ-18
IX
3) 機材据付及び操作指導
機材計画のうち、据付が必要となる機材は表-13に示すとおりである。
据付工事の内容は、設置場所への固定、電気の接続工事が主なものであるが、これらは日本側
で負担する。機材の据付は、美術館に機材搬入後に機材メーカー又は、代理店の技術者監督の下
に美術館側の人員で行う。また、機材据付に係る費用は機材調達業者が負担することとなる。な
お、業者による技術指導はない。
表-13 据付が必要となる機材
分類
展示室用照明機材
機材名
LED スポットライト
配線ダクトシステム・吊金具
美術館展示用機材
ピクチャーレール
ニューメディアアート展示機材
ビデオスクリーン
データプロジェクター
4) 事業実施工程表
本プロジェクトの事業実施工程表を表-14 に示す。
Ⅸ-19
IX
表-14 事業実施工程表
月
交換公文(E/N)締結
契 贈与計画(G/A)
約 調達監理契約
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
▽
▽
▽
調達監理認証
▽
入札仕様書作成
入
札
段
階
機材価格、諸経費調査
▽
予定価格の作成
▽
入札公告(案)の作成
▽
入札図書(案)の作成
▽
入札図書承認
▽
在京大使館への入札手続き説明
▽
入札公告、入札図書配布
▽
質問受付・回答(アメンド含む)
入札
▽
入札評価
業者契約締結
▽
業者契約認証
▽
発注
▽
機材製作
調
達
段
階
船積前検査
輸送
納入・開梱
機材据付工事
初期操作指導・運用指導
業務完了の確認
要 業務主任(3号)
員
計
画 機材調達担当(4号)
合計M/M
0.01
0.04
0.10
1.14
0.10
0.22
0.08 0.08
0.17 0.20
0.05
0.04
国内業務
現地業務
Ⅸ-20
0.13
0.02
0.10
0.44
2.04
IX
3-3 相手国側負担事項
本プロジェクト実施にあたって、「ボ」国側の負担事項は表-15 に示すとおりである。支
払授権書発行、銀行取り極めに係る手数料は同美術館で負担する予定だが、2009 年度の同
美術館施設・機材購入費及び維持管理費の約 1 万 8 千ユーロの 2%程度で、十分に負担可能
な額であり、問題ない。また、計画機材の一つである画像編集用ソフトウェア用に必要な
パソコンについては同美術館側で準備する必要があるが、パソコン購入については別途、
「ボ」連邦文化・スポーツ省から購入資金を得る予定である。既存のレールの取り外し、
既存の展示ケース等などの既存機材の撤去は同美術館の人員で対応することから経費は発
生しない。
表-15 相手国側負担事項
負担内容
負担経費
(ユーロ)
支払授権書(A/P)発行、
銀行取り極め(B/A)に係る手数料
パソコン購入費
備考
378
-
1,000
-
無
美術館人員で対応
フォト・スタジオのための部屋の
準備、既存機材の撤去
3-4 プロジェクトの運営維持管理
機材使用者である機材技術担当 3 人及び、学芸員 4 人が日常的な機材の維持管理を行う
予定である。照明機材は、LED電球の寿命が長いことから通常の電球のような頻繁な交換は
生じないため、特別な維持管理は生じない。また、既存照明機材よりも省電力 9 が見込まれ
るため、現状の光熱費予算で十分対応可能である。
消耗品は、写真などのデータ記録保持メディアである BD・DVD・CD 程度で、汎用品であ
ることからサラエボ市内の電器店などで容易に入手可能である。また、写真撮影用ライト
の電球が必要となるが、現地で入手可能である。金額は些少であることから、費用は同美
術館の予算で充分に賄うことが可能であり、本プロジェクトは十分に実施可能である。
4. プロジェクトの評価
4-1 プロジェクトの前提条件
4-1-1 事業実施のための前提条件
①
フォト・スタジオの整備
計画機材のフォト・スタジオ用機材一式は、地下階にある現在は倉庫として使用されて
いる一室に設置される計画である。改修工事などは必要ないが、本プロジェクトが実施さ
れる場合には、事前に同部屋の整理が必要である。
9
従来のハロゲンスポットに比べて、LED スポットライトは消費電力を約 50%削減可能である。一般的な白
熱電球の寿命が約 1,000 時間であるのに対して、LED は 40,000 時間である。
IX-21
IX
②画像編集用ソフトのパソコンの準備
美術館が保有しているパソコンは、計画機材のソフトウェアを稼動させるために必要な
機能、容量を持ち合わせていないため、案件実施の際は、必要なパソコンを確実に美術館
側で準備する必要がある。
4-1-2 プロジェクト全体計画達成のために必要な相手方投入(負担)事項
特になし。
4-2 プロジェクトの評価
4-2-1 妥当性
同美術館は、本プロジェクトの実施により、美術品の展示方法、状態を改善して美術品
に対するダメージを軽減し、貴重な所蔵品を後世に引継ぐとともに、国内外からの美術品
の展示会を広く開催し、国民が美術品に触れる機会を増やすことによって、
「ボ」国の文化、
芸術の更なる振興を目指している。計画機材は、同美術館の展示方法、状態の改善及び活
動の強化に資するほか、ニューメディアアートの紹介に貢献できる。本プロジェクトでは、
高度な技術、特別な維持管理が要求されないことから、ボスニア側の資金と人材、技術に
より十分に運営維持管理が可能である。
したがって、本プロジェクトは妥当なものであると判断される。
4-2-2 有効性
1) 定量的効果
・美術館展示用機材、展示パネルの整備によって、現在常設展示されている 180 点ほど
の作品に加えて、40 点以上の作品(主に絵画)の展示が可能となることから、年間約
1 万人の参観者がより多くの美術品を鑑賞することが可能となる。
・ニューメディアアート展示機材の整備によって、年間約 100 日のニューメディアアー
ト特別展が開催可能となるほか、現在所蔵していながら、展示ができていないボスニ
ア出身で世界的に活躍しているニューメディアアートアーティスト(Danica Dakić 10
やDamir Nikšić 11 )の作品や、ビデオナーレ 12 の作品が年間 40 日程度を開催することが
可能となる。また、常設展において同美術館が所蔵するニューメディアアート 2 作品
を展示することが可能となる。
・フォト・スタジオ機材の整備によって、同美術館が所蔵する約 5,500 点の美術品のデ
ジタル記録化が可能となる。
10
ドイツ在住のボスニア生まれのインスタレーション、ビデオワークアーティスト。ドイツとボスニアの
2 つの文化にいる自己のアイデンティティを扱った作品が特徴。
11
スウェーデン在住のボスニア生まれのインスタレーション、ビデオワークアーティスト。自らのルーツ
であるイスラム教や、多民族文化について扱った作品が多い。
12
ドイツ連邦文化財団の主催で 1984 年から隔年ごと実施されているドイツのボンで開催されているビデオ
アートのための国際フェスティバル及びコンクール。50 点ほどの作品が世界各地から選ばれる。ボン以外
に世界各地で巡回展が行われる。
IX-22
IX
2) 定性的効果
・既存照明機材では、照明からの熱や、紫外線・赤外線などの有害光線の発生により、
絵画の褪色などのダメージが懸念されるが、これらの発生が少ない LED 照明機材の整
備によって、作品へのダメージが軽減される。展示ケースなどの美術館用展示機材に
よって、作品の展示方法、状態が改善される。また、展示環境の改善によって、より
積極的に国内外の作品も展示できるようになる。
・フォト・スタジオ機材により、デジタル記録化したデータがホームページに掲載され
ることにより、外部からの同美術館所蔵美術品へのアクセスが容易となる。また、修
復対象の美術品について、修復前・後の精緻な撮影データの記録・比較が可能となり、
修復精度・技術の向上も期待できる。
4-3 その他(広報、人的交流等)
4-3-1 相手国側による広報計画
本協力が実施された際には、以下のような広報活動を行う予定である。
・ 美術館入口に日本政府支援の銘板を設置する。
・ 1 階の展示室を“日本ギャラリー”と命名する。
・ 機材の引渡式を開催し、プレスコンファレンスを行う。
・ マスメディアを通じての広報を行う。
・ 現在作成中の新しいホームページを通じてわが国の援助を伝える。
4-3-2 その他
同美術館では、国際交流基金主催巡回展として 2001 年「日本現代建築展」、2002 年「日
本人形展」、2004 年「ポスターに見る日本展」、2005 年「日本現代建築展」、2008 年「こど
もの写真 60 年展」、2010 年「武道の精神」が開催されており、日本文化の紹介・発信の拠
点となっている。
IX-23
IX
5. 付属資料
5-1 調査団員・氏名
三木 聖子
団長、機材計画
(財)日本国際協力システム
赤木 寿春
機材調達・設計積算
(財)日本国際協力システム
5-2 調査行程
日付
No.
旅程
内容
成田 10:25(LH711) --> 14:10 フランクフルト
フランクフルト 18:30(JA211) --> 21:00 サラエボ
宿泊地
移動
サラエボ
月
JICA及び大使館表敬
美術館との協議・調査
サラエボ
11/9
火
美術館との協議・調査
サラエボ
4
11/10
水
美術館との協議・調査
サラエボ
5
11/11
木
美術館との協議・調査
サラエボ
6
11/12
金
美術館との協議・調査
サラエボ
7
11/13
土
書類整理・市場調査
サラエボ
8
11/14
日
書類整理・市場調査
サラエボ
9
11/15
月
美術館との協議・調査、ミニッツ署名
大使館及びJICAへの報告
サラエボ
10
11/16
火 サラエボ 06:20(JU109) --> 07:05 ベオグラード
移動
1
11/7
日
2
11/8
3
5-3 関係者(面会者)リスト
外務省
Mr. Sefik Fadžan
多国間経済協力・再建部部長
Mr. Mustafa Halilović
公使参事官
ボスニア・ヘルツェゴビナ美術館
Ms. Meliha Husedžinović
館長
Ms. Ivana Udovičić
シニア学芸員
Ms. Maja Kordić
デザイナー、写真家
Ms. Dragana Brkić
学芸員
IX-24
IX
Mr. Amir Hadžić
副館長兼財務
Ms. Maja Abdomerović
学芸員
Mr. Mihret Alibašić
技術担当
Mr. Haris Osmanović
電気技術担当
在ボスニア・ヘルツェゴビナ日本国大使館
浜川
舞子
二等書記官
JICA サラエボ事務所
本間
和実
企画調査員
JICA バルカン事務所
黒沢
啓
所長
山田
健
次長
高橋
洋平
所員
5-4 討議議事録及び当初要請からの変更点
最終的に同美術館と合意した討議議事録は別添のとおりである。
当初要請から削除・変更及び追加した機材内容については表-16 及び表-17 に示す。
表-16 当初要請内容から削除・変更した機材
機材名
数量
理由
A. 展示室用空調機材
(当初要請)
要請書記載機材は通常の空調機及び換気装置
空調機屋内ユニット×14, 空調機屋外ユニット×
であったが、調査の結果、要望している機材は
3、手元リモートユニット×13、全熱交換器×7
温湿度調整および換気機能がパッケージとな
(協議後)
った精密空気調整機及びダクトシステムであ
精密空気調整機×3、ダクトシステム×3
ったため、地上階、1階、2 階の各展示室1セ
ットずつ設置する機材内容に変更。
B. 展示室用照明機材
(当初要請)
要請時の数量チェックが不十分であったため、
配線ダクトシステム×70
調査 時に設置予定の展示室サイズから必要数
(協議後)
量の見直しを行い変更。
配線ダクトシステム×一式
(レール×42、直線用コネクター×61、フレキシ
ブルコネクター×3、L タイプコネクター×10、エ
ンドカバー×15、エンドフィード(R)×4、エン
ドフィード(L)×4
IX-25
IX
天吊り型蛍光灯
70⇒0
施設付属設備であると考えられるため削除。
(当初要請)
ライトの熱からの作品の保護、及び省電力、保
スポットライト(ハロゲン電球、メタルハロゲン
守コストの削減の観点から、ハロゲン・メタル
電球)×各 70 個
ハロゲンタイプ共に LED タイプに変更。数量
(協議後)
も、上記配線ダクトシステムと同様に見直しを
スポットライト(LED)×211 個
行ったもの。
C. フォト・スタジオ用機材
パソコン
1⇒0
一般事務用品であり、現地購入することを確
認したため削除。
プリンター
1⇒0
一般事務用品であるため削除。
D. 美術館展示用機材
(当初要請)
要請時の数量チェックが不十分であったた
ピクチャーレール 2.5m×140(350m)
め、調査時に設置予定の展示室サイズから必
(協議後)
要数量の見直しを行い変更。
ピクチャーレール 4m×80(320m)
フックセット
250⇒300
同上。
パネルクリップ
30⇒0
現地購入が可能であり削除。
組立型展示ケース
5⇒10
要請時の数量チェックが不十分であったため、
調査時に設置予定の展示室サイズ から必要数
量の見直しを行い変更。
図面フォルダー及び図面円筒ケース
50⇒0
現地購入が可能であり削除。
表-17 当初要請内容に追加した機材
機材名
数量
理由
32
配線ダクトシステムに含まれていたため、別ア
B. 展示室用照明機材
コンセント(配線ダクト取付タイプ)
イテムとし、数量の見直しを行ったもの。
配線ダクトの吊り金具
一式
配線ダクトシステム設置のために必要なもの
であるが、要請書から抜けていたため追加。
C. フォト・スタジオ用機材
露出計
1
追加要請があったため追加。
3
展示用機材の充実による展示の質の向上、その
D. 美術館展示用機材
折りたたみ展示台(タイプ A)
結果、展示会の開催数を増加させることができ
るとして追加要請があり、必要と考えられたた
め。
折りたたみ展示台(タイプ B)
2
同上。
折りたたみ展示台(タイプ C)
5
同上。
IX-26
IX
展示パネル(タイプ A)
6
同上。
展示パネル(タイプ B)
2
同上。
吊り金具セット(タイプ A)
100
ピクチャーレール及びフックと共に必要なも
のであるが、要請書から抜けていたため追加。
吊り金具セット(タイプ B)
200
同上。
吊り金具セット(タイプ C)
162
同上。
吊り金具セット(タイプ D)
26
同上。
吊り金具セット(タイプ E)
88
同上。
作業棒
1
ハンガーセットをフックに掛けるもので、作
業の安全性、作業性向上の面から追加要請が
あり、必要と考えられたため。
台車
1
重量のあるアート作品、及びアート作品一式
の運搬のために必要なため。
E. ニューメディアアート展示機材
ビデオプロジェクター
3
展示室の活用機会の増大という観点より、従来
要求があ っても実現できなかったニューメデ
ィアアートの展示、各種展示会での視聴覚機材
を活用した展示方式の実現により、美術館活動
の活性化を図るために必要で、機材の活用効果
が期待できると考えられたため。
ビデオスクリーン
3
同上。
DVD プレーヤー
9
同上。討議議事録では DVD プレーヤーとして
いたが、高解像度での表現傾向及び市場の傾
向に鑑みて機材の陳腐化を防ぐため、計画機
材では BD/DVD プレーヤーとした。
ビデオスイッチャー
1
同上。
フラットパネルディスプレイ
6
同上。
ディスプレイ用台
4
同上。
オーディオミキサー
1
同上。
4 セット
同上。
パワードスピーカー(大出力)
(2 ペア)
パワードスピーカー(中出力)
6 セット
同上。
(3 ペア)
マイク
2
同上。
マイクスタンド
2
同上。
接続ケーブル及び電源ケーブル
1
同上。
IX-27
X
セルビア国
国立民俗学博物館
撮影・展示機材整備計画
調査結果概要
X
目
次
頁
プロジェクト位置図
写真
1. プロジェクトの背景・経緯 ------------------------------------------------
1
1-1 プロジェクトの背景と無償資金協力要請の経緯------------------------------
1
1-2 無償資金協力要請の内容 -------------------------------------------------
1
1-3 我が国の関連分野への協力 -----------------------------------------------
2
1-4 他のドナー国・機関による協力---------------------------------------------
2
2. プロジェクトを取り巻く状況 ----------------------------------------------
2
2-1 プロジェクトの実施体制--------------------------------------------------
2
2-1-1 組織 -----------------------------------------------------------------
2
2-1-2 財政状況 -------------------------------------------------------------
5
2-1-3 技術水準 -------------------------------------------------------------
6
2-1-4 既存施設・機材 -------------------------------------------------------
6
2-2 環境社会配慮及びグローバルイシューとの関連 -----------------------------
7
2-2-1 環境社会配慮 ---------------------------------------------------------
7
2-2-2 その他(グローバルイシュー等との関連) ---------------------------------
7
3. プロジェクトの内容 ------------------------------------------------------
8
3-1 プロジェクトの概要 -----------------------------------------------------
8
1) 上位計画 ----------------------------------------------------------------
8
2) 当該セクターの現状 ------------------------------------------------------
8
3) プロジェクトの目的 ------------------------------------------------------
9
3-2 無償資金による計画 ----------------------------------------------------
9
3-2-1 設計方針 -------------------------------------------------------------
9
3-2-2 基本計画(機材計画)---------------------------------------------------
10
3-2-3 調達計画 -------------------------------------------------------------
15
1)資機材等調達先------------------------------------------------------------
15
2)輸送計画------------------------------------------------------------------
16
3)機材据付及び操作指導------------------------------------------------------
16
4)事業実施工程表------------------------------------------------------------
17
3-3 相手国側負担事項 -------------------------------------------------------
19
3-4 プロジェクトの運営維持管理 ---------------------------------------------
19
X
4. プロジェクトの評価 ------------------------------------------------------
20
4-1 プロジェクトの前提条件 ------------------------------------------------
20
4-1-1 事業実施のための前提条件 ---------------------------------------------
20
4-1-2 プロジェクト全体計画達成のために必要な相手方投入(負担)事項 ---------
20
4-2 プロジェクトの評価 -----------------------------------------------------
20
4-2-1 妥当性 ---------------------------------------------------------------
20
4-2-2 有効性 ---------------------------------------------------------------
20
1) 定量的効果---------------------------------------------------------------
20
2) 定性的効果---------------------------------------------------------------
21
4-3 その他(広報、人材交流等)----------------------------------------------
21
4-3-1 相手国側による広報計画-------------------------------------------------
21
4-3-2 その他----------------------------------------------------------------
21
5. 付属資料 ----------------------------------------------------------------
22
5-1 調査団員・氏名 ---------------------------------------------------------
22
5-2 調査行程----------------------------------------------------------------
22
5-3 関係者(面会者)リスト -------------------------------------------------
22
5-4 討議議事録及び当初要請からの変更点--------------------------------------
23
X
プロジェクト位置図
(中東欧地図)
セルビア共和国
(出典:The Cartographic Section of the United Nations (CSUN))
(セルビア地図)
ベオグラード市
(出典:University of Texas Libraries)
X
写
真
写真-1:国立民俗学博物館の外観。6 階建てで、地
上階、中 1 階、1 階の 3 フロアが展示室となってい
る。
写真-2:エントランスホール。多目的ホールとして
使用されており、講演会、レセプションなどは、主
にこのホールで開催される。
写真-3:地上階にある常設展示スペース。セルビア
及び旧ユーゴスラビア諸国の民俗衣装が展示して
ある。
写 真 -4: 地 上 階 に あ る 特 別 展 示 用 ス ペ ー ス 。
「Plastic Nineties(90 年代のプラスチック)」を
展示している。
写真-5:地上階にある映画上映室。毎週火曜日午後 1
時から映画上映、毎年秋に国際民俗映画祭が行われ
ている。収容人数は約 100 席。
写真-6:中 1 階にある子供用ワークショップのため
の部屋。子供達が作った作品を展示している。
写真-7:中 1 階の特別展示用スペース。小学生達が
博物館ガイドの説明を聞いている。
写真-8:1 階の常設展示室。民俗衣装、生活用具、祭
事具などが展示されている。
X
写真-9: 1 階の常設展示室。ここに、計画機材の一
つであるモニター(p.12 表-9 に記載の No.6)の設置
を予定している。
写真-11:無形文化遺産の一つとして同博物館が撮
影した伝統菓子職人の菓子作りの 1 コマ。
写真-10: 3 階の事務所。ここと隣接する 2 室に無形
文化遺産国立研究センターの設置を予定している。
写真-12:同博物館の全所蔵品情報は、3 階の事務所
で保管されている。
写真-13:4 階にある図書館。55,000 冊以上の書籍
を有している。民俗学、人類学などの研究者や、
一般市民に利用されている。
写真-14:キリム絨毯(トルコ等にある平織りの織
物)の修復作業中の修復技術者。同博物館以外の
所蔵品の修復作業も行っているほか、他の博物館
に対して、修復のワークショップを行っている。
写真-15:別館 Manak’s House の外観。常設・特別
展の他、各種ワークショップ、講演会などが行わ
れている。
写真-16:別館 Manak’s House で行われている織物
のワークショップ。この他、刺繍、陶芸など多くの
手工芸品のワークショップが行われている。
X
1. プロジェクトの背景・経緯
1-1 プロジェクトの背景と無償資金協力要請の経緯
セルビア国立民俗学博物館は、セルビア共和国(以下「セ」国という。)のベオグラード市に位
置し、1901 年に民俗学博物館として「セ」国立博物館から独立した。同博物館は、バルカン地域
1
における多様な民族の 19 世紀初頭からの民族衣装、生活用品、祭事具、宝飾など 20 万点にも及
ぶ所蔵品を有し、「セ」国及びバルカン地域における民俗研究の中心的な役割を果たしている。
「セ」国はユネスコの無形文化遺産条約 2 を 2010 年 6 月に批准した。これを受けて「セ」国文
化省は、同国から消失しつつある無形文化遺産 3 を保存、保護するために、同博物館内に無形文化
遺産国立研究センターを設置することを決定し、2011 年中に同センターを設立する予定である。
同センターでは、無形文化遺産の映像などを資料として記録、保存し、
「セ」国の無形文化遺産を
リストにまとめ、無形文化遺産の保護、研究等を行う他、記録・編集を行った映像を同博物館内
で展示上映するなどして、来館者に対し無形文化遺産に関する情報を提供し、無形文化遺産につ
いての啓発活動を推進することを計画している。
しかしながら、「セ」国の財政事情の制約から文化面の予算が十分でないため、同博物館では、
無形文化遺産を映像資料として記録する機材の整備ができない状況にあり、保護、研究活動に支
障をきたしている。また、映像資料の展示上映に必要な機材が整備されていないため、単に民俗
品本体を展示するのみで、来館者に対して展示物の十分な情報提供が出来ていない。同博物館は、
民俗文化の保護・振興に関する活動の強化に加えて、同国の民俗文化の重点分野として認識され
始めた自国の無形文化遺産を保護、保存することが急務となっている。
このような背景から、
「セ」国政府は同博物館における有形・無形文化遺産の撮影・記録及び所
蔵品の効果的な展示等に必要な機材の整備について、我が国へ無償資金協力を要請した。
1-2 無償資金協力要請の内容
1) 要請年月
2009 年 8 月
2) 要請金額
48.8 百万円
1
モンテネグロ、クロアチア、スロベニア、マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、アルバニア、ブルガリア、
ギリシャなど
2
正式名称は「無形文化遺産の保護に関する条約」である。(a)無形文化遺産を保護すること、(b)関係のある社
会、集団および個人の無形文化遺産を確実に尊重すること、(c)無形文化遺産が重要であり、さらに無形文化遺産
に対する相互理解を確実に深めることが重要であるという意識を地域的、国内的、および国際的に高めること、
(d)国際的な協力および援助についての規定を設けることを目的としている。
我が国は、1950 年に文化財保護法を制定し、他国に先駆けて無形文化遺産保護に取り組んできている。その豊富
な知見を活かし、本条約の作成交渉段階から議論を主導してきた。条約発効後は第 1 期の政府間委員会委員国に
選出され、2007 年には第 2 回政府間委員会を東京で開催し、議長国として条約運用の核となるルールを巡る議論
をとりまとめた。1993 年にユネスコに無形文化財保存・振興日本信託基金を設置し、世界各国の無形文化遺産の
保存・振興を支援してきている。
3
無形文化遺産とは、人びとの慣習・描写・表現・知識及び技術並びにそれらに関連する器具、物品、加工品及
び文化的空間であり、次の 6 つの分野にカテゴリー化されている。 1. 口承による伝統及び表現(言語を含む)、
2. 芸能、 3. 社会的慣習、 4. 儀式及び祭礼行事、5. 自然及び万物に関する知識及び慣習、6. 伝統工芸技術
等。ユネスコによって無形文化遺産と認定されているリストには 2010 年 11 月時点で緊急保護リスト 16 件、代表
リスト 213 件、計 229 件が登録されている。我が国では、能楽、歌舞伎、組踊、結城紬など合計 19 件が登録され
ている。「セ」国の無形文化遺産の登録はまだない。
X-1
X
3) 要請内容
①野外ビデオ撮影システム:HD カムコーダー、三脚、照明キットなど 17 品目
②テレシネシステム:35mm フィルム用テレシネ機材、ノンリニア編集機材など 20 品目
③展示システム:スピーカー付 50 インチモニター、DVD プレーヤーなど 16 品目
④プレゼンテーション用視聴覚システム:書画装置、CD プレーヤー、CD・カセットデッキなど
21 品目
1-3 我が国の関連分野への協力
我が国の文化遺産関連分野での協力は特になし。
1-4 他のドナー国・機関による協力
他のドナー国・機関からの協力実績は表-1 のとおりである。
表-1 他のドナー国・機関の協力実績
実施年度
機関名
案件名
金額
(単位:米ドル)
援助形態
2002 年
イタリア政府
不明
不明
不明
2010 年
アメリカ政府
文化保存のためのアメリカ
大使基金
「国立民俗学博物館 収蔵
物のための予防的保存」
65,199
寄附
概要
修復機材、パソ
コン整備の支援
天井、水道管の
修理のための支
援
2. プロジェクトを取り巻く状況
2-1 プロジェクトの実施体制
2-1-1 組織
本プロジェクトの主管官庁は文化省、実施機関は国立民俗学博物館である。同博物館の組織図
は図-1 のとおりである。
同博物館は、設立時には、909 点の所蔵品、32 冊の書籍、数点の写真を有するのみであったが、
現在ではセルビア民族のほか、旧ユーゴスラビア諸国を中心としたバルカン地域の多様な民族の
民族衣装、生活用品、祭事具、宝飾品、建築物、牧畜用品など 20 万点にも及ぶ所蔵品を有するま
でになった。
同博物館は、
19 世紀初頭からのバルカン地域に暮らす多様な民族の伝統的な生活や、
民衆の文化を、所蔵品を通して現在に伝える他、民俗学的見地から、小規模博物館や関係機関へ
の指導的役割を果たすなど、「セ」国及びバルカン地域における中心的な民俗学博物館と言える。
同博物館の本館は 6 階建てで、地上階、中 1 階、1 階の 3 フロアに延べ 2,000m2 の展示室を有し
ている。現在、
“19 世紀と 20 世紀初頭におけるセルビアの伝統的な文化”をテーマとした常設展
を開催し、生活用具、衣装、織物、祭事具、家屋模型、建築様式など 3,000 点以上の所蔵品を展
示している。
同博物館の組織は、民俗品の収集、研究などを行う民俗学研究部、所蔵品のアーカイブを扱う
文書・記録部、所蔵品の修復を行う保存・修復部、博物館への生徒の受入れや、活動を外部に発
X-2
X
信する教育活動・広報部、総務部及び別館 Manak’s House の 6 部門により構成されており、前述
したように 2011 年中に無形文化遺産国立研究センターを設置する予定である。
同博物館の職員は、館長以下 61 人であり、各部署の機能は、以下のとおりである。
民俗学研究部では、学芸員が定期的にフィールドワークを実施して、民俗資料や民俗品を収集
し、学術的研究を行い、その研究成果を年間刊行物として発表している。また、研究内容につい
て特別展を行っている。2006 年からは、儀式、伝統行事、社会的慣習、伝統工芸技術等の無形文
化遺産と位置づけられる民俗的現象を学芸員が無形文化遺産リストに記録することを開始してい
る。
文書・記録部では、全所蔵品に関する記録を管理している。また、1926 年より民俗学、セルビ
アの社会、精神、宗教的な生活をテーマに、年 1 回刊行物の出版を行っている。同部門に付属す
る図書館では 55,000 冊に及ぶ書籍を有しており、一般公開を行っている。
保存・修復部では、同博物館が所蔵する織物、金属・木製品等の民俗品の修復を行うほか、他
の機関から依頼を受けて、収蔵品の修復を行っている。また、他の博物館や機関に対して修復の
技術を指導するワークショップを開催している。
教育活動・広報部では、博物館の広報活動、
「セ」国及びバルカン地域全体の民俗文化の紹介の
ほか、特に、若い世代に自らの祖先の文化の理解の促進を目的に、小中学生の博物館の見学受入
を行う等、文化に対する啓発活動を積極的に行っている。
現在設立準備中の無形文化遺産国立研究センターでは、教育活動・広報部のシニア学芸員
Srećković 氏と、民俗学研究部の学芸員の Govčić 氏 2 人が中心となって、無形文化遺産をリスト
に記録することを行う予定であり、既に一部民俗学研究部の仕事として活動を始めている。今後、
活動の本格化に伴って外部専門家も招聘して、機能強化を図る予定である。
別 館 Manak’s House に お い て は 、 1961 年 よ り 民 俗 品 の 収 集 家 で あ っ た Hristifor
Crnilovic(1886-1963)が収集した 2,600 点に及ぶ、現在のセルビア、コソボ、マケドニアを中心
とした地域の民族衣装、宝飾類、織物などを展示しているほか、特別展の開催、織物や陶芸など
の伝統工芸技術を指導するワークショップを行っている。
(出典:国立民俗学博物館提出資料)
*括弧内の数字は職員数。
図-1 博物館組織図
同博物館は開館以来、8 つの常設展と 350 回以上の特別展を開催する他、ヨーロッパを中心と
X-3
X
4
した国内外 の民俗博物館から所蔵品を貸し借りして展示会を開くなど、他博物館との交流も積極
的に行っている。
同博物館の過去 5 年間における本館の常設展及び特別展年間入場者数は表-2 のとおりである。
同博物館のエントランスホールは多目的ホールとして利用されており、文化関係機関や民俗専
門家等から一般市民までを幅広く対象として、講演会、セミナー、民族舞踊のイベント、民俗衣
装のファッションショーなどが開催されている。過去 5 年間における講演等の回数及び入場者数
は表-3 のとおりである。また、別館 Manak’s House における展示開催数、入場者数は表-4 のと
おりである。
表-2 年間入場者数
個人
大人
子供
一般
外国人
一般
外国人
4,602
1,185
836
35
1,463
1,311
208
38
1,424
836
93
20
2,094
1,623
471
115
7,082
2006年
2007年
2008年
2009年
2010年
(単位:人)
団体(ガイド付き)
大人
小学生 中学生 高校生以上
一般
外国人
9,323
267
358
6,359
119
403
32
335
4,367
214
106
186
622
3,692
701
967
3,590
486
922
*2010 年は 11 月までの入場者数。
*上記に別館 Manak’s House の入場者数は含まれない。
2006年
2007年
2008年
2009年
2010年
14
19
13
7
9
講演会
21
23
14
21
33
コンサー プロモー
映画上映
ト
ション
23
30
56
37
23
21
15
0
19
23
ショー
8
7
10
14
27
セミナー
8
1
3
2
2
16,606
9,901
7,427
10,471
12,080
(出典:国立民俗学博物館提出資料)
表-3 本館における講演会等のイベント開催回数及び入場者数
展示会
合計
2
3
2
10
23
(単位:回)
プレスカ
パフォー
オーク
入場者数
ンファレ
マンスイ 合計
ション
(人)
ンス
ベント
3
2
0 102
22,738
1
1
11 111
9,101
2
0
0 100
3,815
5
0
3 118
4,325
5
0
3 148
3,309
(出典:国立民俗学博物館提出資料)
表-4 別館 Manak’s House の展示開催数、入場者数
(単位:人、括弧内は展示開催数)
常設展
展示会
ワークショップ 講演会
合計
2006年
364 2,068(16)
64(4)
20(1)
2,516
2007年
292 1,569(10)
62(3)
0
1,923
2008年
1,333 2,093(12)
60(4)
40(1)
3,526
2009年
504 2,281(12)
44(4)
0
2,829
2010年
305 1,375(10)
55(4)
15(1)
1,750
*ワークショップは内容によるが、期間は 1 クラスあたり 2~3 カ月である。
(出典:国立民俗学博物館提出資料)
1992 年から同博物館は、民俗文化振興活動の一つとして、民俗学研究部の学芸員が中心となっ
て、秋季に 1 週間~10 日程度、国際民俗映画祭を開催し、バルカン地域の国々を中心に、世界各
4
ブルガリア、フランス、カナダ、ハンガリー、マケドニア、カナダ、フランス、ドイツ、イギリス、メキシコ、
オーストラリアなど
X-4
X
国のドキュメンタリー映画を上映している。映画祭開始当時は、
「セ」国テレビ制作会社によるフ
ォークロア 5 やバルカン地域の諸民族の伝統に焦点を当てた映画を扱うことが多かったが、近年で
は、世界各国からの応募の中から選ばれた作品や、同博物館学芸員監修による世界各国の文化や
社会人類学を扱った題材のドキュメンタリーを上映する 6 など、幅広い作品を紹介している。映画
祭では、映画の上映以外にも、ディベートや講演会を行い、民俗映画制作についてのワークショ
ップも開催している。毎年の平均入場者は約 1,300 人である。
開館 110 周年を迎える 2011 年には、同博物館は“国際博物館会議・衣装委員会” 7 の定例会を
開催する予定であり、その際には、セルビアの民俗衣装及びその歴史についての特別展を開催し、
「セ」国の民俗衣装について広く紹介するほか、講演会、ワークショップ、ディベートなども合
わせて行う予定である。
2-1-2 財政状況
同博物館の予算を表-5 に示す。同博物館の収入は、文化省、ベオグラード市からの予算及び入
場料、同博物館ショップにおける販売収入などで構成されている。
表-5 国立民俗学博物館予算
年度
2007 年度
実績
2008 年度
実績
(単位:千ディナール)
2009 年度
実績
2010 年度
予算
2011 年度
予算
収入
文化省からの補助金
59,391
71,699
76,392
74,728
78,900
独自収入(入場料、ショップ売り上げ)
7,131
8,427
5,878
3,400
4,500
その他(寄付金など)
2,707
7,271
2,109
0
0
合計
69,229
87,397
84,379
78,128
83,400
37,763
45,696
48,414
48,258
48,952
4,641
4,932
2,307
2,000
2,300
713
573
502
432
500
11,227
12,607
12,920
11,700
12,500
施設費
456
1,051
1,292
500
550
施設維持費
666
4,173
559
80
90
機材維持費
2,523
3,551
2,710
3,972
4,205
支出
給与
雑費(修復に必要な材料、文具、清掃用
具等、車両の燃料費)
旅費
光熱費、通信費
5
地域コミュニティや特定の民族によって創作され伝承されてきた有形無形の文化遺産。
「セ」国で、“Tobelija”と呼ばれる、女性でありながら実質上、男性として生きていかなればならない最後の
生き証人である一人の女性(南西バルカン半島で 19 世紀後半から 20 世紀初頭まで、跡継ぎに男子がいない家庭
に生まれた長女は、一家の稼ぎ手となり、自らの意思、または状況により、家族の面倒をみるために男性として
生きることを選択する慣習があった。この女性は、その慣習を受け継いだ「セ」国における最後の女性であると
言われている。)を、同博物館は米国の視覚芸術家であり映画監督でもあるメリッサ・ポーター氏と 2009 年から
共同で撮影し、ドキュメンタリー作品を仕上げている。
7
ICOM(International Council of Museums, Costume Committee)、1946 年に設立され、147 カ国におよそ 15,000
のメンバーを有している。国際的なレベルで、博物館および博物館専門職のプロモーションと発展に努めている。
http://www.costume-committee.org/index.php?option=com_content&view=article&id=1&Itemid=17
6
X-5
X
その他(カタログ印刷費、展示会関連費)
11,103
15,366
11,021
7,047
7,770
合計
69,092
87,949
79,725
73,989
76,867
(出典:国立民俗学博物館提出資料)
2-1-3 技術水準
同博物館の主な技術者は表-6 に示すとおりである。Mirković氏とMizdrak氏の 2 人の技術者は、
同博物館既存の音響・視聴覚・ビデオ機材の操作及び維持管理を行っている。上記技術者 2 人の
管理の下に、学芸員のSrećković氏とGovčić氏が、既存のデジタルカムコーダーを使用して、無形
文化遺産の撮影を行っている。セルビア国立放送、ユーゴスラビア・フィルムアーカイブ 8 の協力
を得て、同博物館の学芸員が編集したドキュメンタリー作品が、国際民俗映画祭で上映されるな
ど、同博物館は十分なビデオ撮影、ノンリニア編集の技術力を有している。また、同博物館が技
術指導を依頼しているベオグラード美術大学演劇芸術技術部門の主任が、要請しているノンリニ
ア編集機材の古いバージョンを使用した経験を有しているため、技術的な問題はないと判断され
る。
表-6
No.
名前
機材使用者、維持管理者
担当
業務経験年数
担当業務
撮影用機材、
1
Mr. Goran Mirković
情報技術機材
20 年
プレゼンテーション用視聴覚機材
IT 機材、舞台照明
2
Mr. Dragan Mizdrak
音響・ビデオ機材
24 年
撮影用機材、
プレゼンテーション用視聴覚機材
・国際民俗映画際の企画、実施担当
教育活動・広報部
3
Mr. Saša Srećković
シニア学芸員
13 年
・無形文化遺産の記録、ドキュメンタリ
ーの制作(ビデオ機材)
・無形文化遺産についての研究
民俗学研究部
4
Ms. Jelena Jovčić
視覚人類学者
・無形文化遺産の記録、ドキュメンタリ
10 年
ーの制作(ビデオ機材)
・無形文化遺産についての研究
2-1-4 既存施設・機材
同博物館の施設は、5 階にある民俗品保管庫が老朽化し、
「文化保存のためのアメリカ大使基金」
の支援を受けて、天井などを修復する予定であるが、他の施設・設備には特段の問題はない。本
案件に係る計画機材が設置される部屋、展示室に必要な容量の電源は確保されており、十分な広
さも有している。
なお、既存の機材リストは表-7 に示すとおりである。全ての既存機材は自己調達されたもので
8
1949 年に設立された国立の旧ユーゴスラビア・フィルムライブラリーが現在のユーゴスラビア・フィルムアー
カイブとなっている。1,500 万メートルに及ぶフィルムを有し、85%以上のフィルムは外国のものである。
X-6
X
あり、ほぼ全ての機材の状態は良好である。
・撮影用機材
自己調達した野外ビデオ撮影用のデジタルカムコーダーがあり、フィールドワークにおいて使
用しているが、同機材は民生用の廉価なものであり、無形文化遺産を撮影し、学術的記録として
保存用に編集等を行うには、十分な画質は確保できておらず、また、一度の記録可能時間が短い
ため、業務仕様の機材が必要とされている。
・プレゼンテーション用視聴覚機材
プレゼンテーション用視聴覚機材は、博物館内及び別館 Manak’s House での講演会、イベント
に共用されているが、数量が不足しているため、博物館で複数のイベントが同時に開催される場
合に支障をきたしている。
表-7 既存機材リスト
機材名
数量
整備年
状態
(優/良/故障)
設置・使用場所
2009
2009
2008
2006
2009
良好
良好
良好
良好
良好
本館事務所
本館事務所
本館事務所
本館事務所
本館事務所
1997
不明
不明
不明
不明
不明
不明
不明
不明
2010 /2007/2004
2009/2010
2009
不明
不明
良好
良好
良好
良好
良好
良好
良好
良好
良好
良好
良好
良好
良好
良好
本館保管庫・別館
本館保管庫・別館
本館保管庫・別館
本館保管庫・別館
本館保管庫・別館
本館保管庫・別館
本館保管庫・別館
本館保管庫・別館
本館保管庫・別館
2/映画上映室、1/本館保管庫・別館
1/映画上映室、1/本館保管庫・別館
本館保管庫・別館
本館保管庫・別館
本館保管庫・別館
1台(2010) 2台(2007)
2台(2007) 3台(2008)
1989
2003
2002
2007
2007
2007
不明
2007
2007
2007
良好
良好
老朽化
良好
良好
良好
良好
良好
良好
良好
良好
良好
本館事務所
本館事務所
フォトスタジオ
本館事務所
フォトスタジオ
フォトスタジオ
フォトスタジオ
フォトスタジオ
本館事務所
子供用ワークショップスペース
子供用ワークショップスペース
子供用ワークショップスペース
撮影用機材
1
カメラ
4
ディクタフォン
1
デジタルカメラ
1
デジタルカムコーダー
1
HDD/DVD レコーダー
プレゼンテーション用視聴覚機材
3
VHSプレーヤー
1
パワードミキサー
2(1組)
スピーカー
2
スピーカースタンド
1
ハンドマイク
1
マイク用アダプター
2
ワイヤレスマイク
1
レシーバー
1
ダイナミックマイク
3
ビデオプロジェクター
2
DVDプレーヤー
1
テレビ
4
マイク用スタンド
4
マイク
その他
3
ノートパソコン
5
デジタルカメラ
カメラ 6x6 sm
1
1
カメラ
1
露出計
3
照明
1
三脚
2
デジタルカメラ
4
外付けハードディスク
1
プリンター
1
ノートパソコン
1
プロジェクター
(出典:国立民俗学博物館提出資料)
2-2 環境社会配慮及びグローバルイシューとの関連
2-2-1 環境社会配慮
特になし。
2-2-2 その他(グローバルイシュー等との関連)
特になし。
X-7
X
3. プロジェクトの内容
3-1 プロジェクトの概要
1) 上位計画
「セ」国は、ユネスコ無形文化遺産条約を 2010 年 6 月に批准し、現在、文化省において無形文
化遺産保護についてアクションプランの策定が進められている。2011 年中にセルビア国立民俗学
博物館内に無形文化遺産国立研究センターの設置が計画されている。
また、経済・地域開発省では 2006~2015 年の観光開発国家計画において、観光を「セ」国経済
発展の重点分野の一つとして位置づけており、同国の観光の柱として、文化遺産、独特の伝統技
術や伝統文化などを打ち出している。しかしながら、グローバル化が進展する中、伝統技術の担
い手が少なくなり、伝統文化などに対する国民の関心が次第に失われつつあるため、同国の重要
な観光資源である無形文化遺産の保護が急務とされている。国立民俗学博物館は、伝統工芸品や
民族衣装、民族舞踊などの伝統文化などの紹介や研究を行ってきた実績から、伝統的な家屋での
宿泊、伝統工芸品作りなど体験型の観光開発に貢献する役割が期待されている。
2) 当該セクターの現状
セルビア国立民俗学博物館は、旧ユーゴスラビア諸国を中心としたバルカン地域における多様
な民族の民族衣装、生活用品、祭事具、宝飾品、建築物、牧畜用品など 20 万点にも及ぶ所蔵品を
有し、同地域に暮らす多様な民族の伝統的な生活や、民衆の文化を、所蔵品を通して現在に伝え
る他、民俗学的見地から、小規模博物館や関係機関への指導的役割を果たすなど、
「セ」国及びバ
ルカン地域における民俗研究の中心的な役割を果たしている。
「セ」国が 2010 年 6 月にユネスコ無形文化遺産条約を批准したことを踏まえて、文化省は 2011
「セ」国から消失し
年中に同博物館内に無形文化遺産国立研究センターを設置することを決定し、
つつある無形文化遺産の保存・研究活動を強化する計画である。
無形文化遺産国立研究センターは、3 階の事務所として使用されている 3 部屋(広さ約 80m2)
に 2011 年中に設立される予定である。同センターは、
「セ」国全地域の博物館や文化機関と連携
し、各地の職人に受継がれた伝統工芸技術や無形文化遺産を撮影し、学術的な記録として保存し、
研究することを第一の目的としている。その他、外部から博物館学者などの専門家を招聘して無
形文化遺産の共同研究を進めること、学芸員がフィールドワークで撮影した無形文化遺産の映像
を編集し、関連する展示物と合わせて紹介、講演会や国際民俗学映画祭などで上映し、文化関係
各機関への無形文化遺産に関する知識を共有することを予定している。また、来館者の民俗文化
に対する理解を深めることを通じて、同国における無形文化遺産の保存・振興を図りたいと考え
ている。
同博物館は、2010 年 8~9 月に、
「セ」国通商・サービス省の支援を得て、
“Old crafts in Serbia”
と題して、織物、絨毯、刺繍、銅細工、銀細工など 15 分野の伝統工芸技術を紹介する特別展を開
催した。その際に、各分野における職人の各作業工程を記録した紹介ビデオを制作、上映すると
ともに、伝統工芸技術を体験できるワークショップなども併せて行った。また、学芸員が飴職人、
絨毯職人などの伝統工芸の作業工程を 10 時間に亘り撮影する等、無形文化遺産の記録を進め、今
後設置予定の無形文化遺産国立研究センターの一部業務を先行して実施している。
X-8
X
このように、同博物館の無形文化遺産記録活動は緒についたところであるが、既存の撮影機材
は民生用であるため学術的記録として撮影するために十分な機能を有しておらず、撮影映像の編
集用機材もないため編集作業が十分に出来ないなどの支障が生じており、編集映像を講演会、ワ
ークショップ等で紹介するための視聴覚機材も不足している。
また、同博物館の現在の展示方法は、実物の民俗品の展示だけに留まっており、来館者に対し
て展示品の解説や関連する情報を十分に提供できていない。そのため、来館者の民俗文化に対す
る理解を深める展示方法として、視聴覚媒体を民俗品の展示と組み合わせて、多角的に情報を提
供できるよう改善したいと要望しているものの、予算の制限によりモニター等の整備が難しい状
況である。
このような背景から、
「セ」国政府は、同博物館における有形・無形文化遺産の撮影・記録及び
所蔵品の効果的な展示等に必要な機材の整備について、我が国へ無償資金協力を要請するに至っ
た。
3) プロジェクトの目的
本プロジェクトは、
「セ」国における有形・無形文化遺産の保護、振興について、中心的役割を
果たす国立民俗学博物館に対し、これら文化遺産を記録する撮影・編集機材や、博物館の展示方
法を改善する展示システム機材などを整備することによって、
「セ」国民俗文化の多様性について
国民の理解を促進し、「セ」国の民俗文化の保存、振興に資することを目的とする。
3-2 無償資金協力による計画
3-2-1 設計方針
本プロジェクトは、
「セ」国政府の要請と現地調査及び協議の結果を踏まえて、以下の方針に基
づき計画することとした。
①
野外ビデオ撮影システム
同博物館の既存機材は民生用であり、学術研究用に記録・保存を行うには、十分な画質と記
録時間が望めない。よって、高画質の長時間録画が可能なビデオ撮影機材を整備する。
②
テレシネシステム
テレシネシステムは、以下の理由により、計画機材から削除した。
現地調査時に先方に要請機材の仕様を改めて確認したところ、当初の要請の 35mm フィルム用
テレシネシステムに加えて、16mm、8mm フィルムもデジタル化可能なテレシネシステムを要
請していることが判明した。35mm、16mm フィルムについては、「セ」国内に外注先があるこ
と、デジタル化の対象が限定されることから、同博物館の負担によってデジタル化が可能で
あることを確認した。
「セ」国内に外注先がない 8mm フィルムについては、8mm フィルム用テ
レシネシステムを検討対象としたが、
「セ」国に存在する 8mm フィルムの具体的数量や、民俗
資料として学術的価値のあるフィルムが存在するかどうかの情報が同博物館より提出されず、
活用計画が明確でないことから、計画対象外とした。
③ 編集システム
同博物館学芸員がフィールドワークにおいて撮影した映像や、既存の VHS テープに記録され
た映像、写真、35mm・16mm フィルム映像などの素材を学術的記録用にデジタル化するととも
X-9
X
に、それらの映像素材を編集し、博物館で上映するためのコンテンツ制作を行うために必要
なノンリニア編集用の機材一式を整備する。
④ 展示システム
同博物館は、展示スペースも広く、展示内容も様々であるため、館内数箇所の適当な場所に
ディスプレーを設置し、それぞれのディスプレーで、同博物館が制作した展示物の解説や関
連情報を提供する視聴覚資料や、展示物に関連する無形文化遺産の映像を別個に上映できる
システムとする。また、同博物館では、各場所で共通の情報を一斉に流すことも計画してい
ることから、集中管理で映像を制御可能な内容とする。
⑤ プレゼンテーション用視聴覚システム
同博物館の既存機材は数量が不足しているため、同時に複数の講演会等の開催が困難な状況
である。今後開催を増やすことを予定している無形文化遺産をテーマとした講演会やワーク
ショップ及び通常の講演会やワークショップにおいて使用するため、本館専用に必要な機材
一式を整備する。なお、既存機材は別館に設置する。
⑥ 計画対象機材の統一の仕様
野外ビデオ撮影システムは学術的な用途から高解像度(High Definition:HD)画質対応機材と
しており、その他の編集、展示、視聴覚システムの各機材についても、HD 画質の映像を展示
や講演会等において活用するため HD 画質対応の機材で統一する。
3-2-2 基本計画(機材計画)
上記設計方針に基づき、各種機材の設置場所、先方の要望等を勘案の上、以下のとおり、計画
対象機材の選定を行った。
① 野外ビデオ撮影システム
フィールドワークにおいて、学芸員 2 人が同博物館スタッフ、フィールドワーク地域の文化
機関スタッフと各々チームを組んで収録する計画であるため、HD ビデオカムコーダーを 2 セッ
ト選定し、さらに音声収録用のマイクおよび携帯型音声ミキサー、照明キットなど、撮影に必
要とされる周辺機材を加えて一式とした。また数日間電源にアクセスできない地域でフィール
ドワークを行う事も考慮して、撮影したデータのバックアップ用の携帯型データ保存ユニット
を選定し、かつメモリーカードや充電池は最低限の容量を確保できる数量とした。同機材の整
備によって、現在月に 1 回の撮影を、月に 3~4 回に増やし、80 時間程度撮影する予定である。
同機材は、3 階の事務所及び隣接する 2 部屋の計 3 室に設置される無形文化遺産国立研究セ
ンターに保管される。
② 編集システム
フィールドワークで撮影した映像、同博物館所蔵の既存の映像を編集するために、操作性、
仕様レベルが中上級程度のノンリニア編集用のワークステーション、編集用ソフトウェア一式
を選定した。
フィールドワークで撮影した無形文化遺産についての記録は、学術的記録として同センター
に保存する。それらの映像素材を編集したコンテンツやドキュメンタリー等は、同博物館の展
示システムのモニターで展示上映され、また編集された素材は、無形文化遺産の講演会や、他
の文化関係機関への知識の共有を図るためにも利用される。同博物館は、来館者に無形文化遺
X-10
X
産について、広く知ってもらうためには、視聴覚に訴えるのが効果的であるとの認識より、今
後、同博物館の制作ドキュメンタリー数を、現在の年間 1 作品から、2 作品以上に増やしてい
くことを計画しており、国際民俗映画祭などで上映するためのドキュメンタリーの制作にも活
用される。
また、同博物館はデジタル化した 35mm、16mm のフィルム映像、写真、過去の国際民俗映画祭
「セ」国以外の旧ユーゴスラビア諸国、ルーマニア、ギリシャ、
で上映されたドキュメンタリー、
フランス等などで収集された伝統行事・民俗舞踊などが収められている計 700 本の VHS テープ、
これまでのフィールドワークにおいて撮影したアナログ映像資料等についても編集を加えた上
で、来館者に向けて展示上映することを計画しており、これら映像素材をノンリニア編集用ワ
ークステーションに取り込みを行うために必要なビデオキャプチャー機能を同機材に追加した。
同機材は、無形文化遺産国立研究センターの設立後は同センターに保管する。
③ 展示システム
同博物館本館及び別館 Manak’s House において、数箇所の適当な場所にモニターを設置し、
来館者が座って鑑賞できるスペースを設ける。ディスプレーの規模は、展示室の広さに鑑みて、
50 インチとした。
計画するディスプレーは全 8 台で、内 7 台を本館に設置する。設置場所の詳細は、本館 1 階
の展示室に 2 台、中 1 階の展示室に 2 台、同階子供用ワークショップ部屋に 1 台、地上階の展
示室に 1 台、同階特別展示ホールに 1 台とする。映像を再生する BD プレーヤー7 台は、マトリ
ックススイッチャーとともに 1 階にある調整室にまとめて設置し、BD プレーヤーによって再生
された映像データ、マトリックススイッチャーを使って表示するディスプレーを集中管理で選
択できるようにする。各ディスプレーの設置場所と、マトリックススイッチャーが設置される
1 階調整室との館内配線には、距離を考慮して、光ケーブルシステムまたはツイストペアケー
ブルを利用するデジタル信号長距離伝送システムを選定した。また、残りのディスプレー1 台
と BD プレーヤー1 台は、別館 Manak's House に設置する。
各モニターで流す予定のコンテンツの内容は表-8、展示システムのモニターの設置予定場所
は図-2 のとおりである。
表-8 ディスプレーでの紹介コンテンツ内容(一例)
No.
1
場所
エントランスホール
階
プログラム
・博物館全体の紹介(展示全体の紹介、鑑賞ルート、
博物館のイベント情報等)
地上階
・セルビアの地域の伝統工芸技術や文化など観光に
(常設展、 関する情報
特別展)
2
特別展示ホール
・特別展についての紹介、過去 1 年間及び今後の特
別展の紹介
・セルビア及びバルカン半島の衣装、織物の紹介
3
展示室(常設展)
・常設展の内容の紹介(衣装、伝統工芸技術の紹介)
4
展示室(特別展用)
5
子供用ワークショップ
中1階
・特別展示の内容の紹介
・博物館で行われた子供向けショー、子供用ワーク
ショップで制作した作品の紹介
X-11
X
6
展示室(常設展)
7
展示室(常設展)
8
別館 Manak's House
(常設展)
1階
・常設展の紹介(伝統産業、工芸品、農業、生活用
具や、家屋などの当時の暮らしの紹介)
・常設展の紹介(上記のプログラムと対比して、現
在の生活における伝統工芸品、地域毎の工芸品など
の使われ方の変化などの紹介)
地上階
・博物館全体の紹介、Manak's House の展示内容の
紹介
機材収容ラック
本館 1 階-展示室
調整室
モニター(壁掛け)
6
モニター(壁掛け)
展示室
約 30m
7
約 40m
本館中 1 階-展示室
モニター(壁掛け)/スタンド
子供用ワークショップ
5
モニター(壁掛け)
3
展示室
約 30m
4
約 40m
モニター(壁掛け)
本館地上階
モニター(壁掛け/スタンド)
特別展示ホール
(100m2) 2
エントランスホール
(多目的ホール)
約 30m
映画上映室
別館 Manak’s House 地上階
展示室
1
展示室
約 40mモニター(壁掛け/スタンド)
8
モニター(壁掛け)
図-2 展示システム機材設置予定場所
X-12
ワークショップ
X
④ プレゼンテーション用視聴覚システム
マイク、スピーカー、パワードミキサーなどの音響機材と、書画装置、プロジェクター、100
インチスクリーンなどの映像展示機材により構成され、必要に応じて機材を移動して使用でき
るように可搬型のシステムとした。中一階、地上階の展示室においても使用される予定である
が、主な使用場所はエントランスホールとなるため、機材はエントランスホールの広さ(約 6m
×10m)及び各講演会や、イベントにおける過去の来場者実績(約 50 人~70 人)に鑑み、100 イ
ンチのスクリーンを選定した。
本館では講演会等のイベントが月 10~15 回ほど開催されているが、本計画が実施された際に
は、月 3 回以上講演会などを増やす予定である。また、今後無形文化遺産に関する講演会も別
途開催を予定している。なお、計画機材は本館専用として活用される予定であり、既存機材は
別館 Manak’s House でのワークショップ・講演会等で主に使用される計画である。
ワイヤレスマイク及びワイヤレスチューナーの整備については、日本国内から出荷されるワ
イヤレスマイクの無線周波数が「セ」国国内法規に抵触しないことが前提となる。同博物館に
よると、
「セ」国の電波法上、使用には問題がないとの回答があったが、書面等による公的な証
明が確認できなかったため、ワイヤレスチューナー及びワイヤレスマイクを削除し、代わりに
ダイナミックマイクの数量を追加した。
また、「セ」国では電圧の変動が大きいため、電源安定化装置も併せて計画した。
使用しない時には、1 階の調整室において保管する。
表-9 主要機材リスト及び用途
分類
機材名
HD ビデオカムコーダー
三脚
照明キット
携帯型データ保存ユニ
ット
野外ビデオ
撮影
システム
携帯型音声ミキサー
ステレオヘッドホン
ガンマイク
コンデンサーマイク
ブーム型マイクスタン
ド
ハンドマイクブーム
用途
文化遺産の 記録撮 影用ビ
デオカメラ。
撮影時の HD カムコーダー
保持用。
撮影時の照明。
ビデオカムコーダ ーの映
像記録用メモリーカード
の、データバックアップ保
存ユニット。
音声信号のレベ ルの確認
および調整。
オーディオミキサーモニ
ター用。
ハンドマイ クブームにと
りつけ、撮影時の音声集温
音に使用する。
楽器音楽収音用。
マイクスタンド。
離れた場所からマイクを
保持して収音するための
ブーム。
X-13
数量
評価
2 セット
A
2 セット
A
1 セット
A
1 セット
A
1 セット
A
1
A
2 セット
A
3
A
3
A
2
A
X
テレシネ
システム
テレシネ装置
テレシネ周辺機器
ノンリニアビデオ編集
機
パワードモニタースピ
ーカー
編集
システム
無停電電源装置
スピーカー付きディス
プレー
BD レコーダー
ビデオキャプチャー
電源安定化装置
スピーカー付ディスプ
レー
展示
システム
HD 映像マトリックスス
イッチャー
BD プレーヤー
HD 映像マトリックスス
イッチャー用モニター
2ch 音声モニターユニ
ット
外部 PC 用 RGB 分配器
デジタル映像信号長距
離伝送システム
機材ラック
電源安定化装置
プレゼンテ
ーション用
視聴覚
システム
書画装置
書画装置確認用モニタ
ー
BD プレーヤー
マルチシグナルスイッ
チャー
CD/カセットデッキ
既存フィル ムの記録映像
をビデオに変換。
フィルム巻き取り、切り貼
り用機器。
ビデオカムコ ーダーで撮
影した映像や既存の映像
素材をパソコン上でデジ
タル編集するためのワー
クステーション。
編集時音声モニター用。
編集用ワークステーショ
ンの停電時のバックアッ
プ用電源。
編集した映像を確認する。
1 セット
C
1 セット
C
1 セット
A
2
A
1
A
1 セット
A
編集後の映像の記録、複製
1
用。
アナロ グを含めた既存映
1
像機器の接続用。
電源電圧安定化用。
1
博物館内の複数個所にて、
配信展示映像の表示に使 8 セット
用。
配信映像信号切替用。
1 セット
配信映像再生用。
映像の切替の確認用。
再生音声確認用。
外部 PC を接続し、スイッ
チャー経由で博物館内の
展示モニターに PC 上のデ
ータを表示させるのに使
用する。
データを劣 化させずに映
像信号を長距離配信する
ために必要。
機器収納用。
電源電圧安定化用。
紙媒体などの資料の映 像
撮影用。撮影映像はプロジ
ェクターで投射。
書画装置映像確認用。
映像再生用。
再生装置の切替用。
CD/ カ セ ッ ト テ ー プ 再 生
用。
X-14
A
A
A
A
A
8
A
1
A
1
A
1 セット
A
1 セット
A
2 セット
1
A
A
1
A
1
A
1
A
1
A
1
A
X
外部 PC 用 RGB 分配器
パワード音声ミキサー
機材ラック
ダイナミックマイク
卓上マイクスタンド
ブーム型マイクスタン
ド
スピーカー
ビデオプロジェクター
ビデオプロジェクター
スタンド
スタンド付スクリーン
電源安定化装置
外部 PC の映像音声入力
用。
マイク などからの音声入
力を調整、選択し、内蔵ア
ンプで増幅してスピーカ
ーへ出力し、拡声する。
機器収納用。
音声収音用
マイク用スタンド。
マイク用スタンド。
拡声音声出力用。
映像投影用。
プロジェクター用スタン
ド。
プロジェクター用スクリ
ーン。
電源電圧安定化用。
1 セット
A
1 セット
A
1 セット
4
2
A
A
A
3
A
2 セット
1 セット
A
A
1
A
1 セット
A
1
A
「セ」国の電圧は単相 AC220V、周波数は 50Hz、ビデオ方式は PAL 方式、リージョンコードは 2、
プラグは C タイプである。
3-2-3 調達計画
1) 資機材等調達先
本プロジェクトにて調達される資機材の調達先は、表-10 に示すとおりである。
表-10 資機材等調達先
分類
野外ビデオ
撮影
システム
編集
システム
機材名
現地
HD ビデオカムコーダー
三脚
照明キット
携帯型データ保存ユニット
携帯型音声ミキサー
ステレオヘッドホン
ガンマイク
コンデンサーマイク
ブーム型マイクスタンド
ハンドマイクブーム
ノンリニアビデオ編集機
パワードモニタースピーカー
無停電電源装置
スピーカー付きディスプレー
ディスプレースタンド
BD レコーダー
ビデオキャプチャー
電源安定化装置
X-15
調達国
日本
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
第三国
X
展示
システム
プレゼンテー
ション用視聴
覚システム
スピーカー付ディスプレー
ディスプレースタンド
HD 映像マトリックススイッチャー
BD プレーヤー
HD 映像マトリックススイッチャー用モ
ニター
2ch 音声モニターユニット
モニター用ヘッドホン
外部 PC 用 RGB 分配器
デジタル映像信号長距離伝送システム
機材ラック
電源安定化装置
書画装置
書画装置確認用モニター
書画装置用スタンド
BD プレーヤー
マルチシグナルスイッチャー
CD/カセットデッキ
外部 PC 用 RGB 分配器
パワードミキサー
機材ラック
ダイナミックマイク
卓上マイクスタンド
ブーム型マイクスタンド
スピーカー
ビデオプロジェクター
ビデオプロジェクタースタンド
スタンド付スクリーン
電源安定化装置
割合(%)
○
○
○
○
○
0%
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
100%
0%
2) 輸送計画
本プロジェクトで調達される機材の輸送は、日本側経費負担により、調達契約業者が行う。日
本から調達される機材はコンテナ詰めされた後、海上輸送され、クロアチアのリジェカ港で陸揚
げされ、コンテナのまま「セ」国の首都ベオグラードにある同博物館内のサイトまで運ばれる。
海上輸送には約 40 日間、内陸輸送には約 10 日間を要する。
「セ」国は免税方式である。関税に関する法律 24 条に基づき、贈与契約において発生する通関
手数料や関税は免除される。本プロジェクトが実施された場合は、通関・免税手続は文化省を通
して行われることになっており、E/N コピー、G/A コピー、機材リストの提出が必要である。財務
省に免税の申請をしてから承認が下りるまでの手続は 2 週間ほどである。
3) 機材据付及び操作指導
計画機材のうち、据付が必要となる機材は、編集システム、展示システム及びプレゼンテーシ
ョン用視聴覚システムの機材である。
据付工事の内容は、設置場所への固定、電気および信号線の配線工事、機材の調整が主なもの
X-16
X
であるが、これらは日本側で負担する。機材の据付は、博物館に機材搬入後に機材メーカー又は、
代理店の技術者の監督の下に博物館側の人員で行う。また、機材据付に係る費用は機材調達業者
が負担することとなる。なお、編集システム、展示システム及びプレゼンテーション用視聴覚シ
ステムの全ての機材において、業者による初期操作技術指導が必要となる。
4) 事業実施工程表
本プロジェクトの事業実施工程表を表-11 に示す。
X-17
X
表-11 事業実施工程表
月
交換公文(E/N)締結
契 贈与計画(G/A)
約
調達監理契約
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
▽
▽
▽
調達監理認証
▽
入札仕様書作成
機材価格、諸経費調査
▽
予定価格の作成
▽
入札公告(案)の作成
▽
入札図書(案)の作成
▽
入
入札図書承認
札
在京大使館への入札手続き説明
段
入札公告、入札図書配布
階
質問受付・回答(アメンド含む)
▽
▽
▽
入札
▽
入札評価
業者契約締結
▽
業者契約認証
▽
発注
▽
機材製作
調
達
段
階
船積前検査
輸送
納入・開梱
機材据付工事
初期操作指導・運用指導
業務完了の確認
要 業務主任(3号)
員
計
画 機材調達担当(4号)
合計M/M
0.01
0.04
0.10
1.14
0.10
0.22
0.08 0.08
0.17 0.20
0.05
0.04
0.13
国内業務
現地業務
X-18
0.02
0.10
0.44
2.04
X
3-3 相手国側負担事項
本プロジェクトの実施にあたって、
「セ」国側の負担事項は表-12 に示すとおりである。
現在同博物館内で事務所として使われている部屋を無形文化遺産国立研究センターとして
使用するために、室内の整理が必要となるが、改修工事などは必要ないため、同博物館の
人員で対応可能であり、経費は発生しない。そのため、2009 年度の同博物館の機材維持額
約 2.71 百万ディナールの 1%以下であり、十分に負担可能な額であり、案件実施後の必要な
経費も生じないことから問題ないと思われる。
表-12 相手国側負担事項
負担内容
負担経費
備考
(ディナール)
支払授権書(A/P)発行、
銀行取り極め(B/A)に係る手数料
無形文化遺産国立研究センター設
置のための部屋の準備
25,907
無
博物館の人員で対応
3-4 プロジェクトの運営維持管理
野外ビデオ撮影システム、編集システムの機材は、今後設置される無形文化遺産国立研
究センターに配属予定である、民俗学研究部及び教育活動・広報部の学芸員 2 人が中心と
なって使用し、展示システム及びプレゼンテーション用視聴覚システムの機材は、民俗学
研究部の学芸員が使用することとなる。日常的な維持管理は、同博物館が機材の技術指導
を依頼しているベオグラード美術大学演劇芸術技術部門主任や、同博物館専門の技術者の
協力を得て、学芸員によって行われる。さらに文化省から派遣される技術専門家によって
も技術的な支援が行われる予定であり、問題はない。
消耗品は、記録保持メディアであるブルーレイディスク程度で、汎用品であることから
ベオグラード市内などで容易に入手可能である。
スペアパーツについては、プロジェクターのランプがあるが、金額が些少であることか
ら、こちらも費用は同博物館の予算で十分に対応可能である。
表-13 消耗品・スペアパーツ概算
品名
内容
ブルーレイディ
年間使用枚数 100 枚(@250 円)と仮定
スク
100 枚×250 円=25,000 円
液晶プロジェク
ランプの定格寿命は 3,000 時間
ターランプ
週 9 時間(年間約 468 時間、@78,000 円)使用と仮定
費用
25,000 円
24,000 円
6.4 年毎に 2 個×プロジェクター1 台、年間約 24,000 円
合計
49,000 円
X-19
X
4. プロジェクトの評価
4-1 プロジェクトの前提条件
4-1-1 事業実施のための前提条件
特になし。
4-1-2 プロジェクト全体計画達成のために必要な相手方投入(負担)事項
(1) 技術者のレベルの向上
計画機材である編集システム機材については、同博物館が技術指導を依頼しているベオ
グラード美術大学演劇芸術技術部門の主任が、ノンリニアビデオ編集機の古いバージョン
を使用した経験を有しているほか、セルビア国営放送などの協力を得て、同博物館技術者、
学芸員がドキュメンタリー制作等のために使用した経験があり、既に機材を操作する基本
的な技術は持ち合わせている。しかし、計画機材をより有効に使いこなすまでに、さらな
る関連の技術を習得すると望ましい。これについて、文化省はこれら技術者のレベル向上
のために必要な研修や技術者の派遣を約束しているため、案件が実施される際は、「セ」国
側によって、確実に技術者研修が行われることが望まれる。
4-2 プロジェクトの評価
4-2-1 妥当性
本プロジェクトは、国立民俗学博物館の活動を強化するために必要な機材を整備するも
のであり、「セ」国及びバルカン地域の民俗文化の保存・振興活動への貢献が期待できる。
「セ」国は、2010 年 6 月にユネスコ無形文化遺産条約を批准し、無形文化遺産の保護に
重点を置いており、本件は同政策に沿ったものである。なお、ユネスコの無形文化遺産条
約については、1950 年から無形文化遺産保護に取り組んできた我が国は、本条約の作成交
渉段階から議論を主導してきており、本プロジェクトは我が国の国際的な文化遺産保護政
策とも合致する。
本プロジェクトの計画機材の操作に必要とされる技術も同博物館側は有しており、セル
ビア側の資金と人材、技術により十分に運営維持管理が可能である。したがって、本プロ
ジェクトは妥当なものであると判断される。
4-2-2 有効性
1) 定量的効果
・HD 仕様の野外撮影ビデオ制作システム機材の整備によって、現在月に 1 回行われてい
るフィールドワークが月に 3~4 回可能となり、月 80 時間ほどの無形文化遺産の映像
記録が可能となる。また、編集システムの整備により、撮影生映像について学術的な
映像への編集が容易になるとともに、無形文化遺産の理解を深めるために、同博物館
が制作し国際民俗映画祭で上映しているドキュメンタリーを、現在の年間 1 本から 2
本以上制作可能となる。
・プレゼンテーション用視聴覚システム機材の整備によって、同博物館本館の講演会等
X-20
X
のイベントを現在月 10~15 回開催から、月 3 回以上増やす計画を有している。また、
従来のイベント等に加えて同博物館では新たに無形文化遺産に関する講演会等の開催
も予定しており、視聴覚システム機材の整備により、講演会等イベントの開催数が増
加することが期待される。
・また、編集システム機材の整備によって、新たに撮影記録された映像のみならず、博
物館が所有している VHS テープ 700 本、デジタル化予定の 35mm フィルム 40 本、16mm
フィルム 15 本、写真などのノンリニア編集が可能となる。また、必要に応じ展示品に
関連した情報を提供するコンテンツを制作し、展示システムにより来館者に民俗文化
を紹介することが可能となる。
2) 定性的効果
・展示システム機材の整備によって、詳細な展示品の説明、展示品に関する情報、博物
館についての情報などを来館者に提供することが可能となり、多角的な展示方法が図
られる。
・「セ」国における無形文化遺産について、博物館の新しい展示システムによって多角的
に紹介していくことで、
「セ」国内の多様な民族の民俗文化の理解の促進や民俗相互の
融和に貢献する。
4-3 その他(広報、人的交流等)
4-3-1 相手国側による広報計画
添付の討議議事録でも確認しているとおり、本協力が実施された際には、以下のような
広報活動を行う予定である。
・ 博物館入口に日本政府支援の銘板を設置する。
・ 機材の引渡式を開催し、プレスカンファレンスを行う。
・ マスメディアを通じての広報を行う。
・ 博物館のホームページを通じて我が国の援助を伝える。
・ 計画機材を使用して制作する全ての映像のクレジットに我が国の援助であることを
挿入する。
・ 日本文化週間を開催する。
4-3-2 その他
(1)日本との交流
国際交流基金が同基金主催巡回展として、1991 年に「日本人形展」を実施している他、
セルビア日本友好協会が、講演会、映画上映、コンサートなどを同博物館で行っており、
日本文化の紹介・発信の拠点となっている。
また、同博物館は本件が実施された場合には、無形文化遺産の保護・研究が進んでい
る日本から知識人を招聘し、日本の無形文化遺産の紹介、保護活動等に関する講演会を
開催し、あわせて日本の無形文化遺産に関するドキュメンタリー映画の上映を行うこと
を計画している。
X-21
X
5. 付属資料
5-1 調査団員・氏名
三木
聖子
団長、機材計画
(財)日本国際協力システム
赤木
寿春
機材調達・設計積算
(財)日本国際協力システム
栗原
良夫
機材調達・設計積算
エー・エス・メディア(株)
5-2 調査行程
No.
日付
旅程
内容
(栗原)
成田 13:25 (LH715) -->
17:35 ミュンヘン
移動
ミュンヘン 19:25
(LH1726) --> 20:55 ベオ
グラード
1
11/15
月
2
11/16
火 サラエボ 06:20(JU109) --
(三木、赤木)
> 07:05 ベオグラード
宿泊地
ベオグラード
JICA、大使館表敬
博物館との協議・調査
ベオグラード
3
11/17
水
博物館との協議・調査
ベオグラード
4
11/18
木
博物館との協議・調査
ベオグラード
5
11/19
金
博物館との協議・調査
ベオグラード
6
11/20
土
書類整理・市場調査
ベオグラード
7
11/21
日
書類整理・市場調査
ベオグラード
8
11/22
月
博物館との協議・調査、ミニッツ署名
大使館、JICAへの報告
ベオグラード
9
11/23
火
博物館との協議・調査
ベオグラード
10
11/24
水 ルト
ベオグラード 06:45 (LH1411) --> 08:55 フランクフ
移動
フランクフルト 13:30 (LH710)
11
11/25
木 -> 08:30 成田
5-3 関係者(面会者)リスト
国立民俗学博物館
Ms. Vilma Niškanović
館長
Ms. Vesna Dušković
副館長
Ms. Mirjana Menković
博物館アドバイザー
Ms. Vanja Balaša
民俗学者、人類学者
Mr. Saša Srećković
シニア学芸員
Ms. Tjana Čolak-Antić
シニア学芸員
Mr. Miloš Matić
シニア学芸員
X-22
機中
X
Ms. Jelena Jovčić
視覚人類学者
Mr. Dejan Rajić
ベオグラード美術大学、演劇芸術技術部門主任
文化省
Ms. Snežana Stojanović Plavšić
副大臣
Ms. Dušica Živkivić
文化遺産副大臣
Ms. Tatjana Šarčević
欧州統合グループアドバイザー
Ms. Milena Radomirović
欧州統合グループアドバイザー
外務省
Ms. Aleksandra Lučić-Kopitić
法律アドバイザー
在セルビア日本国大使館
坪田
哲哉
一等書記官
JICA バルカン事務所
黒沢
啓
所長
山田
健
次長
高橋
洋平
所員
5-4 討議議事録及び当初要請からの変更点
最終的に同博物館と合意した討議議事録は別添のとおりである。
当初要請から削除・変更及び追加した機材内容については表-14 及び表-15 に示す。
当初要請のテレシネシステムについては、35mm 用であったが、現地調査時に、再度仕様
を確認したところ、同博物館が現在所蔵している 35mm フィルム及び 16mm フィルムに加え、
結婚式、誕生日、各種記念行事などを記録した民俗学的に貴重な 8mm フィルムが「セ」国
には相当数あると同博物館は見込んでおり、これらのフィルムを各関係機関や一般家庭か
ら借り受けて、デジタル化した後、記録として残すことも計画していたため、マルチフォ
ーマット対応の機材を要請していることが確認された。
現在、同博物館が所蔵しているフィルムは、35mm フィルムが 40 本、16mm フィルムが 15
本(8mm フィルムはなし)であるが、「セ」国内ではユーゴスラビア・フィルムアーカイブ
が 35mm と 16mm フィルム用テレシネ機材を保有(デジタル変換の費用はフィルム 1 本 1 時
間毎に 100 ユーロ)しており、また、シネボックス社も 16mm フィルム用テレシネ機材を保
有(デジタル変換の費用は 1 分あたり 10 ユーロ)しており、「セ」国内でデジタルへの変
換が可能であることが判明した。
他方、8mm フィルムについては「セ」国内にある博物館、文化関係の計 40 の機関及び一
般家庭で相当数が保有されていると見込まれるものの、8mm フィルムをデジタル変換可能な
外注先は同国には存在しないことが明らかになった。
X-23
X
こうした状況を踏まえ、35mm、16mm フィルムのデジタル化はフィルム数が限定されるこ
とから同博物館の負担によって行うこととし、現地調査期間中に確認ができなかったデジ
タル化対象 8mm フィルムの数量、詳細なテレシネシステムの活用計画等の必要な情報を調
査団帰国後に提出することを条件として、8mm フィルム用のテレシネシステムの優先順位を
A として討議議事録に記載した。なお、本調査の結果として、テレシネシステムの評価を C
とした理由は 9 ページ目、②テレシネシステムの通り。
表-14 当初要請内容から削除・変更した機材
機材名
A テレシネシステム
(当初要請)
35mm テレシネ
35 フィルムプロジェクター×1、プリア
ンプリファイアー×1、グラフィックイコ
ライザー×1、ビデオカメラ×1、カラー
モニター×1、ビデオ信号分配器×1、信
号発生器×1
(協議後)
8mm 用テレシネシステム
フィルムリワインダー(35mm)
フィルムスプライサー(35mm)
35mm 用フィルムリール
DVD プレーヤー
DVD ディスク
B 展示システム
(当初要請)
プラズマディスプレー×8
(協議後)
LCD ディスプレー×8
(当初要請)
プラズマディスプレー用台×8
(協議後)
ディスプレー用台×3
(当初要請)
RGB マトリックススイッチャー×1
(協議後)
SDI マトリックススイッチャー×1
オーディオ用マトリックススイッチャー
(当初要請)
DVD プレーヤー×1
(協議後)
BD プレーヤー×8
(当初要請)
ビデオスケーラー×8
(協議後)
HDMI - HD SDI コンバーター×10
数量
理由
機材単独構成をパッケージに変更。
また、35mm、16mm のフィルム数量は、
「セ」
国内他の機関で対応可能なため 8mm 用とし
た。
1
1
3⇒0
1⇒0
100⇒0
35mm 用を 8mm に変更。
同上。
要請内容の変更に伴い削除。
同上。
同上。
要請時アナログ信号であった機材仕様を、
現在主流になっているデジタル信号にし
たいとの調査時の要望により変更。技術的
観点から見ても適当である。
省エネとの観点よりプラズマから LCD(LED
バックライト)へ変更。
設置方法の変更で、スタンド×3 へ変更。
残りの 5 台は壁掛けとなる。
B グループの HD 仕様への変更により、
変更。
1⇒0
HD 仕様変更により不要。
B グループの HD 仕様への変更に伴い変更。
同上。
X-24
X
(当初要請)
RGB モニター×1
(協議後)
HD-SDI モニター×1
RGB・音声分配器
同上。
(当初要請)
RGB・音声トランスミッター×10
(協議後)
光ファイバートランスミッター×7
AC アダプター
(当初要請)
RGB・音声レシーバー×10
(協議後)
光ファイバーレシーバー×7
壁付接続ボックス
機材収容ラック
D プレゼンテーション用視聴覚システム
(当初要請)
DVD プレーヤー×1
(協議後)
BD・DVD プレーヤー×1
DVD ディスク
E 編集システム
3⇒2
B グループの HD 仕様への変更により、数量
変更。
B グループの HD 仕様への変更により、
変更。
3⇒0
本来不要のものであったため削除。
B グループの HD 仕様への変更により、
変更。
10⇒0
1⇒2
HD 仕様変更により不要。
機材数が多いためラックを 2 本に変更。
HD 仕様への変更により BD ディスクに要求
変更。
100⇒0 BD ディスクに要求変更のため削除。
A-2 の編集機材を独立させ E グループとし
た。
表-15 当初要請内容に追加した機材
機材名
数量
理由
A テレシネシステム
8mm 用フィルムリール
3
35mm 用を 8mm に変更したため追加。
HD SDI - HDMI コンバーター
7
B グループの HD 仕様への変更により、
追加。
RGB、ステレオ音声 HDMI スケーラー
2
同上。
光接続ユニット
1
同上。
光接続箱
7
同上。
光ファイバーケーブル
7
同上。
カードリーダー
1
ビデオキャプチャー
1
録画したメモリーカードを直接パソコンに
読込みたいとの要請により追加。
既存テープ、ディスクの映像をパソコンに
取込みたいとの要請により追加。
B 展示システム
C 野外ビデオ撮影機材
D プレゼンテーション用視聴覚システム
電源安定化装置
1
当初のリストから漏れていたため追加。
1
要請内容の変更に伴い追加。
E 編集システム
BD・DVD レコーダー
X-25
XI
ペルー国
カラル遺跡調査・保存機材整備計画
調査結果概要
XI
目
次
頁
プロジェクト位置図
写真
1. プロジェクトの背景・経緯 ------------------------------------------------
1
1-1 プロジェクトの背景と無償資金協力要請の経緯 -----------------------------
1
1-2 無償資金協力要請の内容 -------------------------------------------------
1
1-3 我が国の関連分野への協力 -----------------------------------------------
2
1-4 他のドナー国・機関による協力 --------------------------------------------
2
2. プロジェクトを取り巻く状況 ----------------------------------------------
3
2-1 プロジェクトの実施体制 -------------------------------------------------
3
2-1-1 組織 -----------------------------------------------------------------
3
2-1-2 財政状況 -------------------------------------------------------------
6
2-1-3 技術水準 -------------------------------------------------------------
8
2-1-4 既存施設・機材 ------------------------------------------------------
9
2-2 環境社会配慮及びグローバルイシューとの関連 -----------------------------
10
2-2-1 環境社会配慮 ---------------------------------------------------------
10
2-2-2 その他(グローバルイシュー等との関連) ---------------------------------
10
3. プロジェクトの内容 ------------------------------------------------------
10
3-1 プロジェクトの概要 -----------------------------------------------------
10
1) 上位計画 ----------------------------------------------------------------
10
2) 当該セクターの現状 ------------------------------------------------------
11
3) プロジェクトの目的 ------------------------------------------------------
15
3-2 無償資金による計画 ----------------------------------------------------
16
3-2-1 設計方針 -------------------------------------------------------------
16
3-2-2 基本計画(機材計画) --------------------------------------------------
16
3-2-3 調達計画 -------------------------------------------------------------
18
1) 資機材等調達先 ----------------------------------------------------------
18
2) 輸送計画 ----------------------------------------------------------------
18
3) 機材据付及び操作指導 ----------------------------------------------------
18
4) 事業実施工程表 ----------------------------------------------------------
18
3-3 相手国側負担事項 -------------------------------------------------------
20
3-4 プロジェクトの運営維持管理 ---------------------------------------------
20
4. プロジェクトの評価 ------------------------------------------------------
21
XI
4-1 プロジェクトの前提条件 ------------------------------------------------
21
4-1-1 事業実施のための前提条件 ---------------------------------------------
21
4-1-2 プロジェクト全体計画達成のために必要な相手方投入(負担)事項 ---------
21
4-2 プロジェクトの評価 -----------------------------------------------------
21
4-2-1 妥当性 ---------------------------------------------------------------
21
4-2-2 有効性 ---------------------------------------------------------------
22
1) 定量的効果 --------------------------------------------------------------
22
2) 定性的効果 --------------------------------------------------------------
22
4-3 その他(広報、人材交流等)----------------------------------------------
23
4-3-1 相手国側による広報計画 ------------------------------------------------
23
4-3-2 その他 ---------------------------------------------------------------
23
5. 付属資料 ----------------------------------------------------------------
24
5-1 調査団員・氏名 ---------------------------------------------------------
24
5-2 調査行程 ---------------------------------------------------------------
24
5-3 関係者(面会者)リスト -------------------------------------------------
24
5-4 討議議事録及び当初要請からの変更点 -------------------------------------
25
別添資料 1 ------------------------------------------------------------------
26
別添資料 2 ------------------------------------------------------------------
28
XI
プロジェクト位置図
ペルー共和国
(出典:University of Texas Libraries)
★
カラル
首都リマ
(出典:University of Texas Libraries)
XI
カラル遺跡調査区分布図
(出典:ZAC 提出資料)
2011 年度に活動が予定されているカラル遺跡の 9 の調査区(カラル、チュパシガロ、ミライヤ、ルリワシ、アルパコト、
エラデパンド、アスペロ、ビチャマ、ペニコ)
XI
写
写真-1:世界遺産のロゴが刻まれた「聖地カラ
ル・スーペ」のメインとなるカラル調査区の入
口看板。年間約 5 万人が来訪する。
真
写真-2:円形劇場神殿。地下に掘り下げて劇場が
造られており、エリート階級のみが観覧を許され
たものと推測されている。
写真-3:縦 150m×横 170m のカラル最大となる巨
大ピラミッド。前面広場に高さ約 2m の石柱 4 本
が象徴的に立っている。
写真-4:カラル調査区の中央に立つ一枚岩のワ
ンカ(石碑)。全ての建造物の入口はこのワンカ
に向かっていると言われている。
写真-5:大規模な発掘を行う前は必ず近くの土
を掘って地層・地盤の状態を確認する。
写真-6:調査団訪問当日に発掘されたシクラ(植
物繊維のネット)で補強された塀の一部。
写真-7:中央ピラミッド。まだ一部しか発掘さ
れていないため、発掘前の状態を見ることがで
きる。発掘には片面 1 カ月を要する。
写真-8:砂塵を防止するため試験的に導入されて
いる網目約 1mm の防御ネット(遺跡後方)。効果
の検証が待たれる。
XI
写真-9:2010 年 7 月にアメリカ財団から供与され
たスキャン付きトータルステーション。
写真-10:手書きによる遺跡全体の下絵図。壁・
柱の位置、段差、寸法など詳細に記されており、
慣れた考古学者でも作成に約 4 時間を要する。
写真-11:住民によって修復中の遺跡の壁。修復
には近郊から採取してきた類似素材の粘土が使
用される。
写真-12:2004 年に建築されたカラル事務所(通
称「考古学者の家」)。地域住民も自由に出入り
可能でインターネットを無料で利用できる。
写真-13:「考古学者の家」に隣接する保管庫。
発掘された遺物はまずここに保管される。
写真-15:リマ本部の研究室。各調査区で採取さ
れた遺物のうち、優先度・重要度の高いものが集
められ分析・研究される。
写真-14:2007 年に導入されたトータルステーシ
ョン(スキャン機能なし)。
写真-16:遺跡から発掘されたキプという南米
原産のラクダ科アルパカの体毛や木綿で作ら
れた紐。その紐で結ばれた結び目(節)は当時
使用された文字の一種と言われている。
XI
1. プロジェクトの背景・経緯
1-1 プロジェクトの背景と無償資金協力要請の経緯
ペルー共和国(以下「ペ」国という。)は、紀元前から多くの古代文明が栄え、16 世紀ま
では当時世界最大級の帝国とされるインカ帝国 1 の中心地であった。国内には数多くの遺跡が
存在し、その中のカラル遺跡については、1994 年に調査・発掘のためのプロジェクトが形成
され、1996 年から現地調査が始まった。2001 年までに発掘された遺物を放射性炭素年代測定
2
した結果、紀元前 2600~2800 年頃のものであることが判明し、カラル遺跡は世界四大文明
であるメソポタミア文明、エジプト文明、インダス文明、黄河文明とほぼ同時期の文明であ
ることが確認された。
「ペ」国政府は同遺跡の重要性を認め、カラル文明の遺跡を調査・発掘・
研究・監督することを目的としたカラル・スーペ特別プロジェクト(Projecto Especial
Archeologico de Caral-Supe、以下「CAS」という。)と称する独立機関を 2003 年の文化庁法
令により設立し、2010 年にはカラル考古学地域(Zona Archeologica Caral、以下「ZAC」と
いう。)に改称した。
スーペ渓谷の聖地とされるカラルは首都リマから約 200km北の中央高原に位置し、アメリ
カ大陸における文明の誕生の地といわれる古代都市遺跡である。このカラルを中心にスーペ
渓谷両岸の複数の地区で「カラル文明」が発展していった。カラル遺跡は「聖地カラル・ス
ーペ」という名称で 2009 年に「ペ」国 11 番目となる世界遺産 3 に登録され、同国観光省から
は同遺跡がマチュ・ピチュに匹敵する観光資源になるものと期待を寄せられており、今後観
光開発が進むと考えられている。
ZAC の担当地域はスーペ川を含む 4 つの川の流域と広範囲に亘っているが、現在は精密な
記録・保存機材を所有していないため、調査・発掘・保存作業における測量やデータの採取
及びその編集・加工に膨大な時間を要している。また、これから発掘する場所がどのような
地層で形成されているか、遺構のどこに空洞や柱があるかを探査できる機材がなく、現在は
手作業で少しずつ掘り進めているため、時間を要する上に人的なミスが懸念される。
このような中、世界に誇る「ペ」国の貴重な文化遺産を適正に調査・発掘・保存・研究・
普及していくためには、測量・記録・探査作業の効率化・迅速化が大きな課題であると考え、
「ペ」国政府は当該機材の整備に必要な資金協力を我が国に対し要請した。
1-2 無償資金協力要請の内容
1)要請年月
2009 年 8 月
2)要請金額
12.2 百万円
3)要請内容 合計 2 品目
1
最盛期には 80 の民族と 1,600 万人の人口を抱え、現在のチリ北部から中部、アルゼンチン北西部、コロン
ビア南部にまで広がっていた国家。首都はクスコ。
2
生物遺骸の炭素化合物中の炭素に 1 兆分の 1 程度以下含まれる放射性同位体である炭素 14 の崩壊率から年
代を推定すること。
3
1972 年のユネスコ総会で採択された「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」
(世界遺産条約)
に基づき、世界遺産リストに登録された遺跡や景観そして自然など、人類が共有すべき「顕著な普遍的価値」
をもつ不動産のこと。内容により、文化遺産(顕著な普遍的価値をもつ建築物や遺跡など)
、自然遺産(顕
著な普遍的価値をもつ地形や生物、景観などをもつ地域)、複合遺産(文化と自然の両方について、顕著な
普遍的価値を兼ね備えるもの)の三種類に分類される。
XI-1
XI
3D スキャナー(一式)、ソフト・コンポーネント(技術者 9 人への操作指導)
1-3 我が国の関連分野への協力
過去に我が国による考古学分野に関連した技術協力、有償資金協力の援助実績はない。無
償資金協力の実績は表-1 のとおりである。
表-1
実施
2002
2002
2004
供与
案件名
年度
1988
我が国の無償資金協力の実績(考古学分野) (単位:百万円)
限度額
文化庁に対する視聴覚・文化財保存機材
国立シカン博物館に対する研究・保存・保
管機材
ラファエル・ラルコ・エレラ考古学博物館
に対する文化財保存・修復及び普及用機材
ペルー国立考古・人類・歴史学博物館向け
研究・保存・保管機材
概要
45.0 文化無償資金協力
43.1 文化無償資金協力
2.6 草の根無償資金協力
49.2 文化無償資金協力
2005
天野博物館に対する遺物調査保存機材
3.8 草の根無償資金協力
2006
マテオ・サラド遺跡地区整備計画
4.6
草の根無償資金協力により
柵を設置
文化遺産無償資金協力によ
2006
チャビン国立博物館建設計画
298.0 りチャビン・デ・ワンタル遺
跡近隣に博物館を新設
1-4 他のドナー国・機関による協力
表-2 他のドナー国・機関の協力実績(カラル遺跡関連)
(単位:千米ドル)
実施
年度
2005
機関名
金額
援助
形態
概要
フィンランド カラル調査区観光利
政府
用実施計画
不明
無償資 受付・トイレ設備の建設
金協力 を支援
カラル調査区受付飲
料水供給用発電機調
達計画
不明
無償資 考古学者の家に発電機を
金協力 供与
2005 ドイツ政府
2009
案件名
スキャン付きトータルス
アメリカ財団 2010-2011 聖なるカ
無償資
テーション購入及び遺跡
800.0
(FONDAM)
ラル遺跡保存計画
金協力
保存に係る人件費を支援
XI-2
XI
2. プロジェクトを取り巻く状況
2-1 プロジェクトの実施体制
2-1-1 組織
本プロジェクトの主管官庁は文化省、実施機関はカラル考古学地域(ZAC)である。また、
全ての国際協力案件については国際協力庁が窓口となっている。
文化省は、「ペ」国における文化行政の権限強化などを目的とし、2010 年 7 月に文化庁か
ら昇格した。国立図書館、国立公文書館、国営ラジオ・テレビ局、ケチュア語 4 アカデミーな
どを管轄するほか、同国の代表的な遺跡のうち、チャン・チャン(Chan Chan) 5 、マルカ・
ワマチュコ(Marcahuamachuco)6 、ナイムラップ(Naylamp-Lambayeque)7 、カラル(Caral)
の 4 つについては、考古学的に重要で将来観光地として発展する可能性が高いという理由か
ら、遺跡発掘現場及び周辺地域の改善及び強化を担う国家プロジェクトに指定され、同省が
直轄している。上記 4 つの遺跡の所在地は図-1 のとおりである。
4
インカ帝国で公用語として使用されていた言語。現在では、ボリビア、ペルー、エクアドル、チリ北部、
コロンビア南部など、主に南米大陸各国で 1300 万人に使用されている。
5
「ペ」国北西部の太平洋岸に位置し、紀元前 1100 年頃からインカに征服されるまで続いたチムー文明の首
都で南米最大の古代都市遺跡。1986 年に文化遺産に登録されると同時に、風雨による侵食のため危機遺産に
も指定されている。
6
「ぺ」国北西部ラ・リベルタ県の海抜 3,000m 以上の高地に位置し、紀元前 4 世紀のプレ・インカ時代の城
塞が残る遺跡群。プレ・インカの地方発展期やワリ期においても他地域との交流があったことが示されてお
り、この地域が交流のルートとして地政学的に重要であったことが示唆される。
7
ナイムラップとは神話に登場する人物で、シカン文化の人々が信仰した。シカン文化は「ペ」国北部沿岸
で 750 年~1350 年頃のプレ・インカ時代に栄えた文化で、米国南イリノイ大学の島田教授により命名された。
XI-3
XI
図-1 ペルー遺跡分布図
XI-4
(出典:ZAC 提出資料)
XI
2003 年旧文化庁法令により ZAC の前身となる CAS が設立され、2010 年 7 月に文化庁が文化
省へ昇格した際に CAS は ZAC に改称された。2005 年に策定された ZAC(旧 CAS)のマスター
プランの中では「カラル文化遺産を地域とともに発展させる」という方針が掲げられ、そこ
には「カラル遺跡の保存」と「地域の経済社会の発展」が根幹を成している。ZAC は遺跡(遺
構・遺物)の調査・発掘・保存活動を行いながら、他方でホームページ(HP)を作成して幅
広く遺跡・地域の広報を図り、地域住民へ啓発の機会を提供するなど積極的な活動を展開し
ている。HP においては、ZAC の活動の様子、遺跡の見所の紹介、遺跡で提供されるサービス
などを写真や 2.5D 画像入り CG で掲載しており、その宣伝効果によって国内外からの観光客
は年々増加し、2009 年度は計 5 万人を超えた。また 2004 年からは「PUNTA PAJ(ケチュア語
で“案内人”
)」という組織が地元で結成され、住民の遺跡ガイドの養成、遺跡破壊禁止や環
境保護など道徳教育の他、学生へのワークショップ、予防接種などの医療衛生キャンペーン、
有機野菜の栽培・販売など各種セミナー・研修が実施されている。住民はそこで得た知識や
技術を活かして観光客に地域色豊かなサービスや物品を販売提供し、地域開発に取り組んで
いる。研修を受けた住民が他の住民に二次研修を行って地域の指導者として活躍するケース
も出て来ている。住民が主体となって観光客を受け入れ始めたことで、自らの力で収入源を
得ることが貧困脱出や生活向上に繋がることを学び、意識の改革・向上に大きく貢献してい
る。このように、ZAC(旧 CAS)が設立当初から地域との関係性を重要視しているのは、過去
の遺跡調査・発掘現場周辺では、周辺の住民は現場で何が行われているかを一切知らされる
ことなく、突然自分達が築いてきた田畑や土地を国に取り上げられた経験から、国や遺跡調
査団に対して不信感や不満感を抱き関係が悪化していたためである。ZAC は遺跡調査団だけ
ではなく住民とともに発展を図るべく、共生しながら活動を展開している。このような住民
共生型の活動形態は「ペ」国初のケースであったが、今では他の遺跡プロジェクトでも導入
されている。
※括弧内はスタッフ数。組織上は存在するが現在空席の部門もあり。
図-2 カラル考古学地域組織図
XI-5
(出典:ZAC 提出資料)
XI
ZAC の組織図及びスタッフ数は前掲図-2 のとおりで、カラル遺跡を最初に発掘した考古学
者である代表の下、260 人のスタッフが配置されている。本プロジェクトの実施部門は、199
人のスタッフを擁する調査保存部門である。各調査区(2011 年度現在、9 つの調査区がある。)
には考古学者が責任者として配置され、全体的な指揮管理を行っている。また、ZAC には考
古学者以外に生物学者、地質学者、物理学者などが在籍しており、これら各分野の専門家と
住民がマルチセクターチームを組み、多角的・多面的にカラル文明の生活や文化などを研究
している。ZAC の尊重する住民共生型活動により、実際にカラル遺跡の各調査区で働くスタ
ッフの約 7 割(約 130 人)が周辺住民で、地域の雇用の創出ひいては経済の活性化にも貢献
している。
2-1-2 財政状況
文化省の 2007~2011 年度予算は表-3 のとおり。2010 年 7 月に文化庁から省に昇格したこ
とで政府予算は大幅に増加している。博物館・美術館の入場料などによる観光収入を柱とし
た安定的な自己収入により、各年度とも比較的潤沢な財政状況にあると言える。
表-3
2007 年度
実績
文化省の予算
2008 年度
実績
(単位:千ソル)
2009 年度
実績
2010 年度
実績
2011 年度
予算
収入
政府予算
37,508,636
48,679,642
34,282,795
243,976,033
260,285,051
自己収入
84,136,925
127,603,519
191,889,838
226,730,489
135,480,338
寄付・海外送金
18,428,169
5,823,901
2,099,199
2,251,451
140,073,730
182,107,062
228,271,832
472,957,973
395,765,389
収入合計
------
支出
人件費
55,171,855
76,897,538
90,352,804
85,676,300
150,000,000
コンサルタント費
323,707
330,791
382,569
358,943
2,000,000
第三者サービス費
6,370,514
2,550,671
217,732
55,112,275
100,000,000
12,694,435
14,703,222
23,284,633
10,543,672
40,000,000
2,150,373
2,300,320
2,754,697
390,795
1,000,000
11,093,077
15,619,090
11,206,188
2,920,573
50,000,000
燃料費
827,365
867,098
683,283
60,512
350,000
ユニフォーム制作費
230,641
626,986
485,484
33,051
500,000
3,126,350
1,361,779
168,992
187,725
200,000
166,119
166,257
0
0
0
27,146
50,873
86,690
555,318
2,000,000
1,160,100
1,181,604
1,543,803
130,139
1,000,000
水道
319,131
279,616
419,882
41,447
500,000
電話
751,915
826,924
931,721
65,845
500,000
一般サービス費
出張費
消耗品費
税金
地方税
法的費用
電気代
XI-6
XI
通信サービス費
74,126
77,364
11,614
22,014
130,000
事務所賃貸料
249,008
259,801
547,940
34,691
600,000
保険
313,666
244,787
452,831
27,428
500,000
2,520,910
8,784,635
7,759,582
3,228,948
10,000,000
融資
0
211,725
0
0
0
プロジェクト費(VAT)
0
0
0
0
77,853
国際機関への会費
(UNESCO、スポーツ連盟等)
0
0
791,777
1,770,104
36,407,537
1,930,276
1,957,567
0
172,677
0
446,964
1,298,558
0
0
0
99,947,678
130,597,206
142,082,222
161,332,457
395,765,390
機材購入費
サービス業者との契約費
前年度補填
支出合計
※ 維持管理費は一般サービス費に含まれる。
(出典:ZAC 提出資料)
ZAC の 2007~2011 年度予算は表-4 のとおりである。収入は、政府予算、自己収入、寄付・
送金からなる。組織設立当初の 2003~2006 年度までの政府予算は 18 億ソル程度であったが、
遺跡の調査・保存・研究の重要性と緊急性が認められ、2008 年度から毎年 55 億ソルに増加
した。2011 年度は新たに 3 調査区での発掘を計画・申請しており、28 億ソルの予算増額が内
定している。自己収入は、遺跡の入場料、書籍・写真集・土産物の売上げ等である。文化省
同様、毎年黒字を維持しており、余剰金は翌年度に繰り越されており、健全で安定した運営
状況にある。
表-4 ZAC の予算
2007 年度
実績
2008 年度
実績
(単位:千ソル)
2009 年度
実績
2010 年度
実績
2011 年度
予算
収入
政府予算
3,864,466
5,500,000
5,507,555
5,500,000
8,358,247
自己収入
532,093
654,072
967,739
834,669
800,000
寄付・海外送金
118,607
1,586,002
455,193
1,551,300
4,515,166
7,740,074
6,930,487
7,885,969
9,158,247
収入合計
支出
人件費
2,654,102
3,116,476
4,551,319
3,699,752
4,578,670
コンサルタント費
133,923
54,771
60,500
131,881
138,000
一般サービス費
576,623
1,304,800
1,059,916
890,257
1,425,513
出張費
151,307
158,671
143,163
95,718
112,300
消耗品費
557,390
1,291,198
621,324
320,016
2,091,719
28,601
51,986
50,373
49,247
58,800
衣類
7,319
40,825
35,000
40,251
62,000
税金
11
927
4,001
3,193
50,000
5,364
13,396
11,817
19,597
20,000
757
1,545
2,705
3,893
4,000
燃料費
電気代
水道
XI-7
XI
電話
65,472
56,139
56,966
44,894
59,894
965
8,384
11,802
21,064
20,000
0
3,360
6,930
7,420
8,000
7,343
21,273
16,776
55,468
62,603
209,589
929,084
199,016
282,632
388,896
0
0
0
0
77,853
88,736
3,931
743
0
0
4,487,502
7,056,766
6,832,351
5,665,283
9,158,248
通信サービス費
事務所賃貸料
保険
機材購入費
プロジェクト費
前年度補填
支出合計
※ 維持管理費は一般サービス費に含まれる。
(出典:ZAC 提出資料)
2-1-3 技術水準
要請機材の使用者は表-5 の調査保存部門のスタッフ 10 人である。機材使用責任者は測量
主任技術者の Mr. Quiroga である。主な使用者は測量チームの技術者 3 人で、いずれも測量・
地質調査に関する経験を 6 年以上有し、要請機材に類似した測量機材(スキャン付きトータ
ルステーション)を既に使いこなしていること、採取したデータを 3D ソフトウェアで編集・
加工する技能を有することから、要請機材に対する操作及び技術レベルに問題はないと判断
される。残り 7 人は資料デジタル化担当、建築学者、地質学者などで、現在 CAD(コンピュ
ーター支援設計)や建築用ソフトウェアを使用した編集・加工作業に従事している。要請機
材には専用ソフトウェアが付属しているが、
「ペ」国内メーカー代理店に確認したところ、CAD
等を使いこなす能力があれば専用のソフトウェアは容易に習得可能とのことであり、データ
編集・加工を担当するスタッフ 7 人の技術レベルについても問題はないと判断される。
表-5 技術者リスト
No
氏名
年
齢
所属
1
Gerardo
Quiroga
28
測量
2
Dedicación
Machuca
36
測量
3
Alfredo
Melgarejo
38
測量
4 Pedro Novoa
38
Christian
5
Magallanes
職
歴
6
専攻
測量
学歴
専門学校
使用機材
測量主任
Topcom IS
技術者
操作能力
Autocad
Civil
3D/ARC GIS
トータルステー
CAD/ 測 量 機
測量アシ
ション/トリン
器
スタント
ブル GPS
測 量 ア シ トータルステー CAD/ 測 量 機
7
測量
-
スタント ション
器
CAD/Civil
アンデス
考古学
コンピューター
11 考古学
3D
考古学修士
7
分析
チーフ
デジタル
化/仮想
10
34
再生チー
フ
測量
-
建築
学士
建築学
3D
コンピューター
Max/Autocad
/3D Max
Civil 3D
地理
学士
地理学
コンピューター ARCGIS-CAD(
/Arcviews/Erga ARC Info)/
写真造形
s
6
Karin
Ramírez
29
7
Estela
Vásquez
デジタル
32 化/仮想 6 CAD 技術 専門学校
再生
地理
専門
5
XI-8
製図・デッ コンピューター Civil
サン技術 /3D Max
3D-3D/造形
XI
Juan C.
8
Domínguez
デジタル
31 化/仮想 8 CAD 技術 学士
再生
博物館・
8
建築 学士
33
広報
Yoshio
Cano
Miguel
27
10
Inchaustegui
9
地理
3
地理
修士
製図・デッ コンピューター
2D-3D/造形
サン技術 /3D Max
建築学
地理学
Autocad
2010/3D Max
ARCGIS/ARC
コンピューター
VIEW
コンピューター
(出典:ZAC 提出資料)
2-1-4 既存施設・機材
ZAC は首都リマに本部事務所、9 つの調査区のうちカラル、アスペロ、ビチャマに現地事務
所を有する。本部事務所は政府から無償・無期限で提供された独立家屋で、分析室、空調付
き保管庫が備わっており、分析部門、マーケティング部門、コミュニティ調整部門など平均
50 人の常勤スタッフが勤務している。調査区で発掘し仕分けされた遺物のうち、貴重かつ優
先度の高い遺物は本部に送られ、分析を経て保管庫で保管される。本部で保管されている遺
物は約 1,350 点で、その他にも約 1 万点が現地事務所で保管されている。特に、
「考古学者の
家」と呼ばれるカラル事務所の保管庫は約 60 ㎡の独立棟で規模が一番大きいことから、ミラ
イヤ、アルパコト、ルリワシ、エラデパンド、チュパシガロなど、周辺 6 つの調査区の遺物
が収集される中央倉庫として機能している。現場で使用する測量機材等もカラル事務所の施
錠付き倉庫(縦 1.2m×横 3m×高さ 2.5m程度)で管理・保管され貸し出されている。
測量関連の既存機材は表-6 のとおりで、トータルステーション、GPSなど僅かな機材しか
ない。したがって、毎年立案するオペレーションプランを基にどの調査区にどの機材を貸し
出すかを振り分けている。オペレーションプランは四半期毎に作業の進捗が見直され、それ
に併せて再度機材の振り分けを行い、機材を効率的に使用可能にしている。機材は使用後に
清掃を行い、年 1 回はメーカーによる校正 8 を行っているため、砂漠地帯で使用しているにも
拘らず、これまで故障したことはなく、状態は良好である。2010 年にアメリカ財団からスキ
ャン付きトータルステーションを供与されたが、測量機材に 3Dスキャニング機能が付加され
たもので、走査速度が最大 20 点/秒と遅い。例えば、トータルステーションでカラル遺跡最
大級の遺構(ピラミッド、縦 150m×横 170m)を測定する場合で 1,290 箇所程度からの測定が
必要とされ、取得座標点が少ないうえ、不足しているデータについてはCGが作成する仮想座
標点に基づいたデータしか使用できないため、取得したデータはCAD等ソフトウェアで手作業
によって細かく調整しなければならず、膨大な時間を費やしている。また、調整後も 2~3%
の誤差が出る場合もある。
なお、要請機材が導入された場合も、既存機材はほぼ毎日各調査区に振り分けて使用され
る予定である。
8
キャリブレーションとも言う。測定器の読み(出力)と入力または測定の対象となる値との関係を決定付
ける作業。測定器の使用頻度によるが、半年に 1 回または 1 年に 1 回、実施されることが望ましい。
XI-9
XI
表-6
No
機材名
数量
既存機材リスト(測量関連)
購入年
供与年
メーカー
型式番号
保管場所
状態
1 トータルステーション
1
2007
Trimble
Modelo 5000
カラル事務所
良好
2 トータルステーション
1
2003
Leica
TCR 407
カラル事務所
良好
3
1
2006
Trimble
PRO XH
カラル事務所
良好
1
2003
Leica
Disto Version 1.3
カラル事務所
良好
1
2010
Topcom
modelo IS-201
カラル事務所
良好
6 GPS ナビゲーション
1
2002
Garmin
GPS12
カラル事務所
良好
7 プロッター(B0)
1
-
HP
Designjet 800PS
リマ本部
良好
8 大型スキャナー
1
-
HP
Designjet 815mfp
リマ本部
良好
9 コンピューター
多数
-
複数社
-
各事務所
良好
10 プリンター
多数
-
複数社
-
各事務所
良好
11 卓上スキャナー
多数
-
複数社
-
各事務所
良好
D-GPS
4 レーザー距離計
5
スキャナー付トータル
ステーション
(出典:ZAC 提出資料)
2-2
2-2-1
環境社会配慮及びグローバルイシューとの関連
環境社会配慮
特になし。
2-2-2
その他(グローバルイシュー等との関連)
特になし。
3. プロジェクトの内容
3-1 プロジェクトの概要
1)上位計画
文化省は 2010 年 7 月 10 日に文化庁から昇格し、現在は省としての関係法令整備中である
ため、正式な上位計画は提示されていない。
これまで、
「ペ」国には遺産資源が豊富にあることから、その価値や重要性に対する国民の
認識が低く、遺跡の破壊や遺物の盗難・盗掘などが頻繁に発生していた。しかし、1985 年に
文化庁(現文化省)により国家文化遺産保護法が制定され、カラル遺跡についても調査・発
掘を行っている 9 つ全ての調査区が国の文化遺産として登録されており、国全体で文化遺産
を守ろうという意識が高まりつつある。遺産の保存・保護に対する政府の支援増加や、調査
団に必ず同国の大学で博士号を取得した専門家を入れることを法的に義務付けるなど、外国
の調査団が主体であった遺跡調査・発掘活動が、地域の発展や観光開発を視野に入れた同国
主体の活動にシフトしている。
XI-10
XI
2)当該セクターの現状
南米大陸のほぼ中央に位置する「ペ」国は、地域によって熱帯雨林(セルバ、国土の約 60%)、
アンデス山岳地域(シエラ、約 28%)、太平洋岸に広がる海岸砂漠地域(コスタ、約 12%)
と大きく 3 つの地形に分けられ、さまざまな地理的影響を受けて異なった気候を有する。変
化に富んだ自然環境を巧みに利用しながら、古代から人々は次第に社会を確立し、紀元前
2000 年頃から 16 世紀当時世界最大の帝国であったインカ帝国が滅亡する以前までの約 3500
年に亘り、南米では総称してアンデス文明と呼ばれる複数の文明がアンデス各地で生まれた。
「ペ」国内にはアンデス文明それぞれの文化習慣、儀式、芸術、生活の知恵、技術などの痕
跡が多くの場所に留められており、現在も全国各地で国内外の専門家らが調査・発掘・保存
などを進めている。
カラル遺跡に関するプロジェクトは 1994 年に文化庁からの発掘許可を受けて始動した。当
時、現ZAC代表は国立サンマルコ大学の考古学教授として教鞭をとっており、同プロジェクト
は大学付属の研究機関という立場で、大学から支援を受けて活動していた。1996 年から本格
的に現地調査を開始し、1997 年に発行された同大学機関紙においてカラル遺跡が約 5000 年
前(紀元前 3000 年)の遺跡の可能性があることを発表した。それまで約 3800 年前(紀元前
1800 年)のチャビン文明 9 が「ペ」国最古の文明であると考古学会では考えられてきたこと
から、歴史概念を覆す同発表は考古学会に波紋を広げた。しかし、当時は事実を証明する決
定的な証拠を示すことができなかった。その後、発掘された 18 の遺物を米国の研究機関で放
射性炭素年代測定した結果、紀元前 2600~2800 年頃のものであることが確認され、その結果
が 2001 年の米国科学専門誌に発表されたことによって世界が認める事実となった。これによ
り、カラル文明は、世界四大文明とされるメソポタミア文明、エジプト文明、インダス文明、
黄河文明とほぼ同時期で、かつアメリカ大陸最古の文明であることが確認されたことになる。
国からもカラル遺跡の調査・保存・研究の必要性や重要性が認められ、2003 年に大学付属の
研究機関から文化庁(現文化省)直轄となり、CAS(現ZAC)として独立した。
図-3 のとおり、カラル文明が広まった地域は、ペルー中部にあるアンカシュ県のサンタ川
からリマ県のチヨン川まで(桃色の線で囲まれた部分)と定義されている。そのうち、文化
省が規定している ZAC の担当地域は、ワウラ川、スーペ川、パティビリカ川、フォルタレン
ザ川の 4 つの流域(黒色の線で囲まれた部分)である。
9
「ペ」国の北部から中部にかけて広まった文化。宗教性が強く、各地に神殿が造られ、内外にネコ科の動
物(チャビン猫)や怪獣像を刻した円柱,石像が立てられた。アンデス文明の母体であると言われる。代表
的なものはチャビン・デ・ワンタル遺跡(神殿跡)。
XI-11
XI
図-3 ZAC 担当地域
(出典:ZAC 提出資料)
2009 年にはカラル調査区を中心とするスーペ川流域約 626haがユネスコの世界文化遺産
「聖地カラル・スーペ」として登録された。ユネスコからは遺跡の保全状況の良さと当時の
宗教文化の特異性が高く評価されたとされる。何世紀にも亘って発展した壮大なピラミッド
建造物、基壇建築、くぼんだ円形劇場神殿、デザイン性のある建造物の配置などが古期後期
時代 10 の特色を顕著に表している。カラル文明の特徴の一つに道路が整備されていることが
挙げられるが、文明が放棄された後も他から文明が入らず破壊されなかったおかげで、当時
の集落や道路がほぼそのままの状態で残されている。なお、カラル文明は後のチャビン、リ
マ、クスコなどアンデス各都市の文明に影響を与えたとも言われている。
カラル遺跡では、コンドルやペリカンの骨で作られたフルート、貝殻や魚介類の骨、生贄
となった人骨、装飾品、石のナイフ、足や手のない偶像、綿繊維、衣類など遺物約 15,000
点が出土している。太平洋から 30 キロ以上離れた地で鰯を食べた形跡、320 キロ離れた土地
でしか取れない植物の粉、現在の耐震構造の基礎となる葦等の植物繊維を袋状に編んだシク
ラに石を詰めたものが発見されているほか、5000 年もの昔から大規模な集落が組織されてい
たことは特筆すべきである。
「ペ」国におけるカラル遺跡の重要性や優先度の高さは前述のとおりであるが、まだ 2001
年にその歴史的価値が検証されたばかりである。遺跡の発掘調査は繊細かつ緻密で人手によ
る作業が多いため、全ての調査を終えて観光関連施設などを整備するためには、今後何十年
という時間を要するものと考えられる。マチュ・ピチュ遺跡の場合は、1970 年半ばから整備
10
紀元前 2500~1800 年頃。神殿建築や社会的地位の明確な差異化がみられ始めた時代で、この傾向は続く
形成期前期(紀元前 1800~800 年頃)に継承され増幅されていく。
XI-12
XI
が開始され、現在のように同国を代表する観光地となっている。カラル遺跡は 2003 年から一
般向けに公開が開始され、2009 年に遺跡までの主要道路が整備されたことにより、表-7 のと
おり、2009 年から観光客数は 5 万人を超すようになった。将来的にはマチュ・ピチュ遺跡に
匹敵する観光地になると同国観光省は予測しており、長期的視点の下、同遺跡に対する調査・
記録保存用機材の整備は、遺跡の調査・発掘・保存等のみならず地域の観光産業の促進にも
貢献するものと考えられる。
表-7
カラル遺跡観光客数
(単位:人)
2003 年
2004 年
2005 年
2006 年
2007 年
2008 年
2009 年
2010 年※
7,338
15,265
21,659
30,245
42,346
45,095
50,340
48,786
観光
客数
※ 2010 年は 10 月までの実績。
(出典:ZAC 提出資料)
現在、ZAC が現地調査・発掘を行っているのは、カラル、チュパシガロ、ミライヤ、ルリ
ワシ、アルパコト、エラデパンド、アスペロ、ビチャマの 8 調査区で、その概要は表-8 のと
おり、紀元前 3000~1800 年のものである。間もなく 9 つ目となるペニコの調査が開始される
予定である。加えて、2011 年度はミライヤ、ルリワシ、アスペロにおいて新たに計画されて
いる調査プロジェクトを文化省に申請し、既に内定を得ていることから、活動がより活発化
される予定である。
表-8 ZAC 調査区
調査区名
調査
面積
開始年
年代
特徴
遺構数
中央広場、建造物が美しくデザイ
主な遺構
・円形劇場神殿
紀元前
ン性をもって配置されている。川
カラル
1996
66ha
3000~
・中央ピラミッド
32
を挟んで高地・低地に分割されて
・石切り場のピラミッド
いる。
・ワンカ(石碑)
1800 年
紀元前
チュパシガロ
2000
ほとんどの遺跡が破壊されて農
45ha
・断崖に作られた建物
12
2600 年 地となっていた地域。
・地上絵(人間の頭)
紀元前
ミライヤ
2002
43ha
・二重のピラミッド
建物が密集して配置されている。
20
2600 年
紀元前
ルリワシ
2002
・二重の円形広場
雪崩があった後を利用して建築
38ha
・円形ピラミッド
24
2600 年 されている。半円形の配置。
・ニーチェのピラミッド
山裾にあり農地となっていた地
紀元前
アルパコト
2008
域。カラルの後にチャンカイなど
60ha
7
2500 年 様々な文明が入っている。地形
上、監視の役割を果たす場所。
紀元前
エラデパンド
2010
山の斜面に円形広場がある。破壊
80ha
6
2500 年 され農地となった形跡がある。
紀元前
アスペロ
2005
漁業を中心とする集落で海岸に
19ha
・偶像ピラミッド
25
2800 年 神殿がある。半円形の形状。
XI-13
・生贄のワカ(小山)
XI
・軒蛇腹の建物
紀元前
ビチャマ
2007
住民が半農半漁であったことか
21ha
11
・シクラの建物
2200 年 ら畑・海との関連が深い地域。
・生贄の建物
2011
ペニコ
高度 600m にあり、地面を掘って
22ha
不明
予定
作った儀式用の円形広場がある。
(出典:ZAC 提出資料)
2005 年に策定されたマスタープラン及びマネージメントプランを元に、ZACは毎年オペレ
ーションプランを作成している。このオペレーションプランに沿って各調査区では作業が実
施される。表-9 及び表-10 に示すとおり、2011 年はこれまでの 8 調査区にペニコを加えた合
計 9 調査区、45 セクター 11(総面積 394ha)で調査・発掘・保存作業が予定されている。9 つ
の調査区では毎日調査・発掘・保存作業が行われているが、基本的には作業中も一般に遺跡
を開放することにより、カラル遺跡だけではなく考古学に対する観光客の興味・関心を喚起
している。
表-9
作業内容
作業別活動実績・計画
(単位:セクター)
2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 2010 年 2011 年
合計
資料のデジタル化
0
0
0
0
2
4
6
修復・保存
15
24
26
31
43
45
184
発掘・調査
15
24
26
31
43
45
184
合計
30
48
52
62
88
94
374
※修復・保存及び発掘・調査は同時並行で作業が行われるため数値が同じである。
(出典:ZAC 提出資料)
表-10 調査区別調査・発掘活動実績・計画
調査区名
(単位:セクター)
2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 2010 年 2011 年
合計
カラル
7
8
8
10
12
12
57
チュパシガロ
0
1
1
1
2
2
7
ミライヤ
2
2
2
2
2
2
12
ルリワシ
2
2
2
5
7
7
25
アルパコト
0
2
2
2
2
2
10
エラデパンド
0
0
0
0
2
2
4
アスペロ
4
5
5
5
7
7
33
ビチャマ
0
4
6
6
9
9
34
ペニコ
0
0
0
0
0
2
2
合計
15
24
26
31
43
45
184
(出典:ZAC 提出資料)
11
セクターとは遺跡のグループ単位を指す。ピラミッド 1 基を 1 セクターと数える場合もあれば、ピラミッ
ド 1 基+周辺の建造物をまとめて 1 セクターと数える場合もある。
XI-14
XI
ZAC はリマ州政府の財政支援を受けて遺跡付近に 2 つの小規模な地域博物館(Community
Museum)を有するが、今後更に 4 つの地域博物館の建設、そして現在カラル調査区にしかな
いビジターセンター、公衆トイレ(上下水道)、太陽光発電、道路、案内標識の整備を全調査
区に図り、観光地としての受け入れ体制を強化していく計画である。また、首都リマから 180km
北に位置するサン・ニコラス(日本移民が最初に入植した地)に、国立工科大学の協力の下、
全ての遺物を展示できる大規模な博物館、研究所、観光案内所等を備えた ZAC の拠点となる
センターを建設する計画があり、同州政府に予算を申請している。まだ承認は得られていな
いが、承認されれば 1~2 年後に着工予定である。
ZAC は、広大な範囲に及ぶカラル遺跡における調査・発掘・保存作業を計画的かつ着実に
遂行する一方で、HP の活用や展示会・企画展の開催により同遺跡を国内外に広くアピールし、
遺跡周辺の住民に対して自己啓発する機会を提供し、地域の経済発展のために観光開発に力
を入れている。国からの支援も後押しとなり、年々その活動は拡大方向にあるが、既存機材
の数量不足及び精度の低さから活動に様々な支障をきたしている。
既存の測量機材であるスキャン付きトータルステーションでは、走査速度が最大 20 点/秒
と遅いため、遺構を複数の箇所から測定した上、手作業で測定誤差を調整してデータの整合
性をとらなければならず、膨大な時間を要している。また、それを使って 2.5D の映像は制作
できるものの、手作業で測量誤差をゼロにするのは実質的に不可能なため、完成度が低い。
一般的に、遺跡は発掘を開始した時点から風化・劣化が始まると言われ、いかに迅速かつ的
確に現物により近い精密なデータを採取し、各作業を進めるかが最も重要とされている。そ
のためには、走査精度が高くて誤差範囲が限りなくゼロに近い、対象物を写真のようなリア
ルな質感の画像で再現できる記録保存機材の導入が早急に求められている。
また、発掘作業にあたっては、その場所がどのような地層で形成されているか、遺構のど
こに空洞や柱があるか機材を用いて把握できれば、正確、迅速かつ効率的に調査・発掘を進
めることができるが、現在はかかる探査機材を保有していない。よって、手作業で少しずつ
掘り進め実態を確認しながらの作業であり、人的なミスが常に懸念される。
このような状況から、世界に誇る「ペ」国の貴重な文化遺産を適正に調査・発掘・保存・
研究・普及させるためには、調査・発掘・保存作業の効率化・迅速化が課題であると考え、
「ペ」国は我が国に対して調査・保存用機材を要請するに至った。
3)プロジェクトの目的
本プロジェクトは、カラル遺跡に不足している調査・保存用機材を整備することにより、
一度に広範囲かつ高精度な遺跡・地層データの採取・記録を可能とすることで測量・記録作
業の効率化・迅速化を促進し、世界遺産でもある「ペ」国の貴重な文化遺産の適正な調査・
発掘・保存に貢献するとともに、同地域の観光産業の促進・地域経済の活性化にも貢献する
ことを目的とする。
XI-15
XI
3-2 無償資金協力による計画
3-2-1 設計方針
本無償資金協力は、「ペ」国における文化遺産の保存・保護を目的とし、カラル遺跡での
効率的・機能的な作業を可能とする調査・保存機材の整備を行うために、「ペ」国政府の要
請と現地調査及び協議の結果を踏まえて、以下の方針に基づき計画することとした。
①
測量データを広範囲に亘って一度に採取できる高精度な 3D スキャナー中心のシステ
ムを整備する。走査速度が速いこと、砂漠地帯での屋外作業で使用されるため耐久性
があること、維持管理が容易なことを考慮して機材を選定する。
②
カラル遺跡は未発掘の箇所が多く、発掘前に地層の状態や遺構の内部構造を調査する
ために必要な地下探査装置についても併せて整備する。3D スキャナー同様、耐久性が
あること、維持管理が容易なこと、操作が容易なことを考慮して機材を選定する。
③
当初要請にあったソフトコンポーネント(9 人に対する技術指導)は、機材使用者の
操作・技術レベルに問題ないことが確認できたため、本計画の対象外とした。しかし、
計画機材のうち、3D スキャナーに付属する専用ソフトウェアを用いて採取したデータ
を正確に編集・加工するためには、同ソフトウェアを十分に習得する必要がある。よ
って、同ソフトウェア習得を中心とした短期間の初期操作指導を実施することとし、
同スキャナー及び採取したデータを使用した作業に従事する予定のスタッフ 10 人を
その対象者とする。
3-2-2 基本計画(機材計画)
上記設計方針に基づき、各種機材の設置場所、先方の要望等を勘案の上、以下の経緯及び
理由により、計画対象機材の選定を行った。本案件の機材リスト及び用途は表-11 のとおり
である。
表-11 計画機材の内容・規模
機材名
3D スキャナーシステム
地下探査装置
用途
数量
遺跡及び文化遺産の詳細な形状や状態を
1 セット
3D にて記録・保存する
地下に埋没している遺跡や文化遺産の探
1台
査を行うとともに、地層の調査を行う
評価
A
A
3D スキャナーシステムは、3D スキャナー、コンピューター、発電機、トランシーバーから
構成されており、各機材の用途は下記のとおりである。
3D スキャナー及びコンピューター:
スキャナー本体で保存・記録する遺跡のデータを採取し、そのデータをコンピューターで解
析する。測定対象は遺構などの対象物で、既に発見されている最大の遺構(ピラミッド)が
縦 150m×横 170m であることから最大 300m 程度の測定が可能であること、既存の測量機材の
走査速度が最大 20 点/秒と低いことから、最大 50,000 点/秒程度の測定能力を有し、対象
物を写真のようにリアルな質感のある画像で再現できる機材を選定する。解析したデータは、
XI-16
XI
ZAC のリマ本部において 2D-3D CAD 及びモデリング用ソフトウェアを使用して立体成形及び
仮想修正を行い、当時の建造物の 3D 画像を作成する。作成された 3D 画像は考古学的及び建
築学的に研究・解析される。採取したデータは 3D スキャナー付属のソフトウェアまたは既存
の CAD や建築用ソフトウェアなどで利用する予定であるが、データの整合性に関しては、付
属ソフトウェアでも既存ソフトウェアでも利用可能なファイル形式(拡張子 dxf)で保存で
きることから、計画機材と既存機材の間のデータ共有は可能であり、導入にあたっての問題
はない。なお、既存機材で採取したデータを、2D-3D CAD 及びモデリング用ソフトウェアを
使って手作業で作成した 2.5D レベルの画像は別添資料 1 の図-5 のとおり、また今次計画機
材を使用して「ペ」国内の他の遺跡で作成された遺跡の画像は図-6 のとおりであり、精度に
大きな差があることがわかる。
発電機:
山中や谷間など電気が通じていない場所で 3D スキャナー及びコンピューターへ電力を供給
するために使用する。いずれの消費電力も小さく計 300VA 程度であることから、容量は 600VA
程度とする。燃料となるガソリンは現地で問題なく入手可能なことを確認済みである。
トランシーバー:
3D スキャナー使用時、主操作者と作業補佐 3 人との連絡用に使用する。主操作者は測定する
対象物(的)を遠方で固定している作業補佐に対し、遠隔から的確な測定位置を指示するた
めに使用する。電波が長距離まで届くことから周波数帯は HF 帯を使用する。HF 帯であれば
山中や谷間での作業にも対応可能で、使用許可などを取得する必要もない。
地下探査装置:
現在未発掘の地域の地面に電極を埋め込んで電気抵抗比や超音波を測定することにより、地
層の状態、空洞や柱など遺構の内部構造や規模、あるいは発掘前やその途中に地層の状態を
随時確認するために使用する。操作者は一人。機材本体は送受信装置一体型の小型・軽量な
タイプとする。電極数については、既に発見されている横 170m の最大遺構(ピラミッド)を
基準とした場合、5m 間隔に電極を配置すると一辺あたり 34 本が必要なことから、電極の標
準セット数である 48 本以上とする。なお、採取したデータは USB ドングルキー(制御キー)
を介してコンピューターで解析可能とする。
案件が実施される場合、3D スキャナーセット及び地下探査装置は 9 つの調査区で表-12 及
び別添資料 2 の表-18 のように使用される計画である。カラルは気候温暖で雨期もなく、年
中作業が可能なことから、1 年を通じて活用される計画である。これらの計画機材は、カラ
ル事務所(「考古学者の家」)内の倉庫で保管される計画である。
表-12 機材活用計画
部門
短期計画 発掘・保存部門
内容
遺構の形状及び状態の記録・モニタリング
XI-17
頻度
毎日
XI
発掘・保存部門
調査・発掘の工程における記録・モニタリング
グラフィック部門
遺構の形状及び状態の記録と画像での再現
半年毎
渓谷周辺の調査区の地形測量の記録
四半期
中期計画 発掘・保存部門
毎月
(出典:ZAC 提出資料)
なお、
「ペ」国の電圧は単相 AC220V、三相 AC440V、周波数は 60Hz、プラグは A タイプ及び
B タイプである。
3-2-3 調達計画
1)資機材等調達先
本プロジェクトにおける資機材等の調達先は表-13 のとおりである。
表-13 資機材等調達先
機材名
調達国
現
地
日
本
3D スキャナーシステム
○
地下探査装置
○
割合(%)
0%
100%
第三国
備考
0%
2)輸送計画
本プロジェクトで調達される機材の輸送は、日本側の経費負担により、調達契約業者が行
う。日本で調達される機材は全体容積が小さいため航空輸送され、
「ペ」国ホルヘ・チャベス
国際空港で荷卸しされた後、そのまま首都リマ市内の要請機関本部まで内陸輸送される。航
空輸送に約 1 週間、内陸輸送に約 1 週間を要する。
3)機材据付及び操作指導
計画機材のうち、据付が必要な機材はない。操作指導については、機材メーカーまたはメ
ーカー代理店の技術者により、機材使用者 10 人に対する初期操作指導を実施する。
4)事業実施工程表
本プロジェクトの事業実施工程表を表-14 に示す。
XI-18
XI
表-14 事業実施工程表
月
交換公文(E/N)締結
契 贈与計画(G/A)
約 調達監理契約
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
▽
▽
▽
調達監理認証
▽
入札仕様書作成
機材価格、諸経費調査
▽
予定価格の作成
▽
入札公告(案)の作成
▽
入 入札図書(案)の作成
入札図書承認
札
在京大使館への入札手続き説明
段
入札公告、入札図書配布
階 質問受付・回答(アメンド含む)
▽
▽
▽
▽
入札
▽
入札評価
業者契約締結
調
達
段
階
▽
業者契約認証
▽
発注
▽
機材製作
船積前検査
輸送
納入・開梱
初期操作指導・運用指導
業務完了の確認
要 業務主任(3号)
員
計
画 機材調達担当(4号)
合計M/M
0.01
0.04
0.10
0.90
0.10
0.22
0.08 0.08
0.17 0.15
0.05
0.03
国内業務
現地業務
XI-19
0.13
0.02
0.10
0.44
1.74
XI
3-3 相手国側負担事項
本プロジェクト実施にあたる「ペ」国側の負担事項は表-15 のとおりである。計画機材は
据え付けがないため、既存機材の撤去や設置場所の改修等は発生しない。ZAC が負担する金
額は、関税及び A/P・B/A に係る手数料を合わせた 8 万ソル程度で、2011 年度の一般サービ
ス費(維持管理費を含む)予算 143 万ソルの 6%未満であり、十分に負担可能と判断される。
表-15 相手国側負担事項
負担内容
負担経費
(通貨:ソル)
備考
文化省から予算確保済み。機材金額
関税(一時負担金)
77,853
が増加する場合は文化省から補填
される予定。
支払授権書(A/P)発行、
銀行取極め(B/A)係る手数料
685
3-4 プロジェクトの運営維持管理
本プロジェクトの維持管理責任者は、機材使用責任者と同じく、測量主任技術者の Mr.
Quiroga である。
既存の測量・記録機材については使用後に必ず清掃を行い、カラル事務所の機材保管室で
施錠のうえ保管している。計画機材も同保管室で保管され、維持管理責任者である測量主任
技術者が鍵を管理する。カラル遺跡の調査区は砂漠地帯の中にあるため、雨が少なく砂塵が
強いという特徴がある。その砂塵の原因となる風は太平洋側からの海風で塩分を含み機材が
損傷を受けやすいため、たとえ防塵処理が施されている機材でも、長期間使用するためには
使用後のメンテナンスが重要なため、計画機材も既存機材同様に使用後の清掃は必ず行う必
要がある。なお、清掃以上の精密な修理・保守は、メーカーまたはメーカー代理店での対応
となるため、首都リマまたは近隣国に送付する必要がある。
計画機材のうち 3D スキャナーは精度が要求される機材のため、定期的な校正が必要である。
既存のスキャナー付きトータルステーション同様に 3D スキャナーに関しても、適正使用が図
られるよう、機材の使用頻度に合わせて半年または 1 年に 1 回、正規代理店を通して米国、
スイス等の製造国へ送付して校正を行う必要がある。地下探査装置については、基本的に定
期的な校正は不要であるが、使用後の清掃は徹底して行う必要がある。
なお、計画機材が保管されるカラル事務所には国家警察 2 人が 24 時間体制で監視している
ほか、ZAC が雇用している警備員(元警察官)2 人が配置されており、セキュリティは充分に
保たれている。
本プロジェクトに係る維持管理費は表-16 のとおりである。消耗品としては、3D スキャナ
ー用のリチウムイオン電池及び発電機用のガソリンが挙げられるが、国内で容易に調達可能
である。スペアパーツについても、調達メーカーによっては国内代理店から入手可能である。
全体の維持管理費は 2 万ソル程度で、2011 年度一般サービス費予算の 143 万ソルから拠出さ
れる予定であり、不足する場合は他予算を割り振ることが可能なことから、予算的な問題は
ない。
XI-20
XI
表-16 維持管理費概算
項目
リチウム
イオン電池
(単位:ソル)
内容
費用
4 時間/日使用(年間 300 日稼動、約 1,200 時間、@30,000 円)
2,000
3D スキャナー用
と仮定した場合、1 年に 2 個を要し、年間 60,000 円
3D スキャナー用
校正
年 1 回程度、メーカー代理店を通じて製造国にて実施する
12,460
1 回につき 4,500 米ドル程度
発電機用
ガソリン
4 時間/日使用(年間 200 回給油、7L/回、@150 円)と過程
7,000
した場合、1 年に 1,400L を要し、年間 210,000 円
合計
21,460
4. プロジェクトの評価
4-1 プロジェクトの前提条件
4-1-1 事業実施のための前提条件
特になし。
4-1-2 プロジェクト全体計画達成のために必要な相手方投入(負担)事項
1) 測量技術を有する技術者の確保
現在、測量技術者 3 人が既存の測量機材を毎日使用している。本プロジェクトが実施され
た場合、測量主任技術者 1 人が計画機材を、残る技術者 2 人に加えて測量経験者 3 人が既存
機材を使用する計画である。計画機材は問題ないが、既存の測量機材 3 台を有効的に活用す
るためには測量技術者、測量経験者の 5 人では運用困難と推測されることから、測量技術者
1 人及び作業補佐 3 人を増員する必要がある。このことを ZAC に説明したところ、ZAC は人員
増加の必要性を理解しており、本プロジェクトが実施される際には確実に人員を確保するこ
ととしている。
4-2 プロジェクトの評価
4-2-1 妥当性
本プロジェクトは下記の事由により我が国の無償資金による協力対象事業として実施する
ことに十分な妥当性を有すると認められる。
① 本プロジェクトの主要目的は、文化省が直轄する 4 つの遺跡プロジェクトの一つで考古
学的に重要性の高いカラル遺跡の保存・保護である。広大な面積に広がるカラル遺跡は、
砂漠地帯に位置するため雨が少なくて砂塵が強く、風化しやすい環境にある。後世まで
同遺跡を保存・維持していくためには、迅速、正確かつ効率的に精密なデータを採取し
て記録・保存することが緊急に必要とされている。
② カラル遺跡周辺の地域は遺跡の発掘・保存が進むことにより、観光地として将来さらに
発展する可能性が高く、地域経済の活性化に繋がるものである。既に ZAC と地域住民の
XI-21
XI
間の連携・協力体制が確立されていることから、更なる連携が図られることで自己発展
型の活動が展開される。
4-2-2 有効性
1)定量的効果
①
考古学においては遺構の正確な形状・状態を記録することが重要な仕事の一つであり、
本機材の整備により、それらデータを取得するための測量時間が大幅に短縮される。
例えば、カラル遺跡最大級の遺構(ピラミッド、縦 150m×横 170m)を測定する場合、
既存機材のトータルステーションでは 1,290 箇所程度からの測定が必要とされていた
ところ、計画機材の 3D スキャナーでは 4 箇所(ピラミッドの四隅)からの測定で足
りる。また、現在調査中の居住区にある建造物 20m×40m を測量する場合、従来約 1
カ月を要していたところ約 1 週間に短縮される。
②
計画機材の 3D スキャナー、地下探査装置の導入により、現在は年間 26ha 程度に留ま
っている年間測定面積についても大幅な改善が見込まれる。
2)定性的効果
3D スキャナーの導入により、2011 年に調査・発掘・保存作業が予定される 9 つの調査区、
総面積約 394ha において迅速かつ精緻なデータが収集され、カラル遺跡全体が 3D データに
て保管・活用が可能となるほか、地下探査装置の導入により、埋蔵文化財の状況・状態に
ついて予め計測データを取得可能となり、下記の効果が見込まれる。
①
広大な範囲のカラル遺跡における調査・発掘・保存作業の効率化が図られ、作業計画
が促進・加速されることにより、世界遺産の保存・保護が促進される。
②
世界遺産の一つであるカラル遺跡はユネスコに対し定期的に報告・発表を行っている。
3D データを活用した報告・発表を行うことが可能となり、また学術誌・機関紙・専門
誌などにおいても同データの活用を図ることができ、カラル遺跡に関する科学的、学
術的な研究が促進される。
③
ZAC の HP 上でリアルな質感の 3D 画像を掲載することで、国内外の人々にカラル遺跡
をより現実的・視覚的にアピールすることができる。また、作業の効率化は一般への
公開エリアの拡大に繋がり、観光客の増加が期待できる。将来、ZAC により大規模な
博物館が建設された場合には、3D データをモデリング化(レプリカ、ジオラマを制作)
し、展示することも計画されていることから、観光開発において広くデータの活用を
図ることができる。
④ より精緻な 3D データを残すことができれば、将来技術が進歩した際にも現場にいるの
と変わらない精度と臨場感で、後世の研究者らが当該データを用いて過去に行った分
析・研究を繰り返し検証することができ、それによって新たな発見・成果を生み出す
ことが期待される。
⑤ 発掘場所がどのような地層で形成されているか、遺構のどこに空洞や柱があるかを把
握できることから、発掘前及び発掘中の作業の迅速化・効率化が図られる。
XI-22
XI
4-3 その他(広報、人材交流等)
4-3-1 相手国側による広報計画
本プロジェクトが実施された場合、ZAC は以下により日本からの支援を積極的に広報する
計画である。
①
日本大使館、JICA、文化省、国際協力庁など本プロジェクトに係わる全機関を招待し
て引渡し式を開催し、メディアを通じて日本側支援を広報する。
②
遺跡入口に記念プレートまたは記念看板を設置する。
③
ZAC のホームページやパンフレット、或いは定期的な学会やユネスコ会議の発表の席
で日本側支援を広報する(ただし、ユネスコ会議の資料は著作権の制限があるため、
可能な範囲でアピールを行う)。
④
全国で開催される展示会や博物展で日本側支援を広報する。
4-3-2 その他
特になし。
XI-23
XI
5. 付属資料
5‐1 調査団員・氏名
鮎川
朋子
団長、機材計画
(財)日本国際協力システム
間宮
裕之
機材調達・設計積算
(財)日本国際協力システム
5‐2 調査行程
No.
日付
旅程
内容
宿泊地
成田 17:15(JL062)→09:50 ロサンゼ
1
11/15
月
移動
リマ
ルス 12:20(LA601)→23:55 リマ
JICA・大使館表敬及び打合せ、文化
2
11/16
火
リマ
省・カラル考古学地域との協議・調査
3
11/17
水
カラル考古学地域との協議・調査
リマ
4
11/18
木
カラル考古学地域との協議・調査
リマ
5
11/19
金
カラル考古学地域との協議・調査
リマ
6
11/20
土
カラル遺跡視察・調査
リマ
7
11/21
日
書類整理、市場調査
リマ
8
11/22
月
カラル考古学地域との協議・調査
リマ
9
11/23
火
カラル考古学地域との協議・調査・ミ
リマ
ニッツ署名、JICA・大使館報告
リマ 01:05(LA600)→06:50 ロサンゼ
10
11/24
水
移動
ルス 11:50(JL061)→
11
11/25
木
16:55 成田
移動
5‐3 関係者(面会者)リスト
文化省
Mr. Juan Ossio Acuña
大臣
カラル考古学地域
Ms. Ruth Shady Solís
代表
Mr. Pedro Novoa
分析部門
Mr. Francisco Vallejo
国際協力プロジェクトリーダー
Mr. Alan Rios Ramirez
発掘・保存部門考古学者
XI-24
機中泊
XI
Mr. Aldemar Crispin
カラル遺跡現場責任者
Ms. Gerardo Quiroga
測量士
Ms. Vidal Puente Esther
会計士
Quimica Suiza(メーカー代理店)
Mr. Javier Pérez-Albela
部門リーダー
Mr. Walter Rea
カラル考古学地域担当
在ペルー日本国大使館
福田
進
公使
黒田
なおみ
二等書記官
JICA ペルー事務所
中尾
誠
所長
木田
克人
所員
5‐4 討議議事録及び当初要請からの変更点
要請機関と要請内容について協議及び確認を行った結果、当初要請内容から変更した機材
はない。追加した機材は表-17 のとおりである。発掘前の遺跡の上部には、長い歴史の中で
地層が何層にも亘り堆積しているが、要請機関は地層の構造を計測する機材を所有しないた
め、現在は手作業で少しずつ掘り進めながら実態を確認している。予め発掘する場所がどの
ような地層になっているか、どこに空洞や柱があるかなど把握できれば、正確、迅速かつ効
率的に発掘を進めることが可能となるため、地下探査装置を追加することとした。
表-17 当初要請内容に追加した機材
機材名
地下探査装置
数量
理由
1
発掘場所の地層を予め把握することで正確、迅速かつ効率
的に発掘できるため。
XI-25
XI
別添資料 1
(聖地カラル・スーペの全体図)
(聖地カラル・スーペのある遺跡の外壁)
図-4 トータルステーションで作成された 2.5D 画像 (提供:ZAC 提出資料)
XI-26
XI
(セチュラ教会の天井部分)
(マチュ・ピチュ遺跡)
(提供:ZAC 提出資料)
図-5
3D スキャナーで作成された画像サンプル
XI-27
XI
別添資料 2
表-18 案件が実施された場合の 3Dスキャナー利活用計画 12
発掘のための記録(マッピング、電子アーカイブ)
カラル調査区
セクター サブセクター
A
A1
A3
A4
A5
B
B‐1
B‐2
B‐3
B‐5
B‐10
C
C1
C2
C4
D
D1
D2
E
E1
E2
E3
F
F1
F2
F6
G
G1
H
H1
H2
I
I1
I2
J
J1
K
K
K1
L
N
N
N2
P
Q
R
S
T
U
X
Z
チュパシガロ調査区
Sector A
Sector C
アルパコト調査区
C
A
C1
C4
エラデパンド調査区
A
A1
C
C1
ルリワシ調査区
A
A1
B
B1
E
E1
E2
F
F1
G
G1
G2
H
H1
Ñ
Ñ2
ミライヤ調査区
A
A1
A3
A4
C
C3
C4
C5
アスペロ調査区
A
A1
A2
B
B1
B2
I
I2
1月
2月
3月
4月
5月
1年目
6月
7月
12
8月
9月
10月
11月
12月
2年目
1月
2月
セクターとは遺跡のグループ単位を指す。ピラミッド 1 基を 1 セクターと数える場合もあれば、ピラミッ
ド 1 基+周辺の建造物をまとめて 1 セクターと数える場合もある。A1 等の記号で表されるサブセクターとは、
セクター内での ZAC の個別遺物の認識番号である。
XI-28
XI
カラル調査区
セクター
A
B
C
D
E
F
G
H
I
J
K
サブセクター
A1
A3
A4
A5
B‐1
B‐2
B‐3
B‐5
B‐10
C1
C2
C4
D1
D2
E1
E2
E3
F1
F2
F6
G1
H1
H2
I1
I2
J1
K
K1
1月
2月
保存のための記録(立面図、電子アーカイブ)
1年目
3月
4月
5月
6月
7月
8月
L
N
N
N2
P
Q
R
S
T
U
X
Z
チュパシガロ調査区
Sector A
Sector C
アルパコト調査区
C
A
C1
C4
エラデパンド調査区
A
A1
C
C1
ルリワシ調査区
A
A1
B
B1
E
E1
E2
F
F1
G
G1
G2
H
H1
Ñ
Ñ2
ミライヤ調査区
A
A1
A3
A4
C
C3
C4
C5
アスペロ調査区
A
A1
A2
B
B1
B2
I
I2
L
L1
L2
M
M1
O
Q
Q1
Q
Q2
R
R1
ビチャマ調査区
A
A1
B
B1
C
D
D1
F
F1
K
L
XI-29
9月
10月
11月
12月
2年目
1月
2月
XI
カラル調査区
セクター
A
B
C
D
E
F
G
H
I
J
K
L
N
サブセクター
A1
A3
A4
A5
B‐1
B‐2
B‐3
B‐5
B‐10
C1
C2
C4
D1
D2
E1
E2
E3
F1
F2
F6
G1
H1
H2
I1
I2
J1
K
K1
1月
2月
普及のための記録(仮想復元、電子アーカイブ)
1年目
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月
12月
2年目
1月
2月
N
N2
P
Q
R
S
T
U
X
Z
チュパシガロ調査区
Sector A
Sector C
アルパコト調査区
C
A
C1
C4
エラデパンド調査区
A
A1
C
C1
ルリワシ調査区
A
A1
B
B1
E
E1
E2
F
F1
G
G1
G2
H
H1
Ñ
Ñ2
ミライヤ調査区
A
A1
A3
A4
C
C3
C4
C5
アスペロ調査区
A
A1
A2
B
B1
B2
I
I2
L
L1
L2
M
M1
O
Q
Q1
Q
Q2
R
R1
ビチャマ調査区
A
A1
B
B1
C
D
D1
F
F1
K
L
(提供:ZAC 提出資料)
XI-30
XI
表-19 案件が実施された場合の地下探査装置利活用計画
セクター
A
B
C
D
E
F
G
H
I
J
K
サブセクター
A1
A2
A3
A4
A5
B1
B2
B5
C1
C2
C3
C4
D1
D2
D3
E1
E2
E3
F1
F2
F6
F7
G1
H1
H2
I1
I2
J1
K K1
L
M
N
NN2
O
P
Q
R
S T
U
V
X
Z
面積
外周長
29 761 m2 (2.97 ha)
726.795 m
28415 m2 (2.84 ha)
854.492 m
26148 m2 (2.61 ha)
718.715 m
24906 m2 (2.49 ha)
793.765 m
35586 m2 (3.55 ha)
891.990 m
35305 m2 (3.55 ha)
814.308 m
10030 m2 (1 ha)
405.304 m 16388 m2 (1.63 ha)
514.930 m
12186 m2 (1.21 ha)
444.713 m
3084 m2 (0.3 ha)
223.237 m
5415 m2 (0.5 ha)
305.154 m
19518 m2 (1.9 ha)
1858 m2 (0.18 ha)
1216 m2 (0.12 ha)
4957 m2 (0.49 ha)
1019 m2 (0.1 ha)
3579 m2 (0.35 ha)
31141 m2 (3.11 ha)
3187 m2 (0.31 ha)
2328 m2 (0.23 ha)
カラル調査区
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月
12月
3月
1月
2月
1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4
575.348 m
178.801 m
143.806 m
300.629 m
136.254 m
240.228 m
741.568 m
228.082 m
195.167 m
(提供:ZAC 提出資料)
XI-31
ペルー共和国向けカラル遺跡調査・保存機材整備計画
事前調査討議議事録
ペルー共和国(以下「ペ」国という。)政府の要請を受け、国際協力機構(以下「JICA」
という。)は、カラル考古学地域-カラル・スーペ考古学特別プロジェクト調査・保存機
材整備計画に関する事前調査実施を決定し、日本国際協力システム(以下「JICS」とい
う。)に右調査の実施を委託した。
JICA は、事前調査団(以下「調査団」という。)を 2010 年 11 月 15 日から 23 日まで「ぺ」
国に派遣した。
調査団は、「ペ」国政府関係者(以下「ぺ」国側という。)と討議を行い、要請の詳細
を確認した。討議の主要事項は添付文書のとおりである。
事前調査を実施することは現段階で JICA が援助を行うことを決定したという意味で
はない。
リマ市、2010 年 11 月 23 日
ルース・シャディ・ソリス
代表
カラス・スーペ考古学特別プロジェクト
カラル考古学地域
立会人:
フアン・オッシオ・アクーニャ
大臣
文化省
鮎川 朋子
調査団長
国際協力機構事前調査団
添付文書
I. 案件名
案件名は「カラル考古学地域-カラル・スーペ考古学特別プロジェクト調査・保存機
材整備計画」である。
Ⅱ. 案件の目的
案件の目的は、
「ペ」国カラル文明の考古学的文化遺産の調査・保存に貢献することで
ある。
Ⅲ. 「ぺ」国側要請機材について
1. プロジェクトサイト
案件の実施場所は「ぺ」国、リマ県、バランカ郡、カラルである。
2. 機材調達
要請機材の詳細は、添付-1 に示すとおりである。
3. コンサルタントサービス
入札図書準備、日本における調達監理業務
IV. 実施機関、協力メカニズム
実施機関:カラル考古学地域-カラル・スーペ考古学特別プロジェクト
責任機関:カラル考古学地域-カラル・スーペ考古学特別プロジェクト
V. 日本無償資金援助スキーム
1. 「ぺ」国側は、添付-2 に示す日本無償資金援助スキームを理解した。また、調査団
は次のことを説明し、「ぺ」側は確認した。
1) 案件のコンサルタントは JICA によって推薦される。
2) コンサルタント業務は、援助の予算制限により日本での補助及び監理に限られる。
3) 案件の入札は、在日「ぺ」国大使館の代表者の出席のもと日本で行われる。
2. 日本の無償資金援助の実施条件として、「ぺ」国側は円滑な実施のために別添-3 に示
すとおり、必要とされる措置を講じる。
VI. 関連事項
1. 被援助国の責任
日本政府がプロジェクト査定を行うことを決定し、「ぺ」国側が日本大使館を通じ提示
された本プロジェクトの機材リストに同意した場合には、両者は速やかに次のプロジェ
クト実施のために準備を行うことを確認した。
1) 入札会に立ち会う「ぺ」国の代表者を公示前に任命する。
2) 調達予定機材が「ぺ」国に到着する前に既存機材を移動し、電源の供給や、施設
の準備をする。
3) 機材の据付時に技術スタッフを任命する。
4) 既存機材を継続して使用できる技術スタッフを確保する。
2. 文化無償における広報活動
日本国政府及び国民が「ぺ」国民の文化的発展のために貴重な貢献をしたことを認識
するため、次のことを実施する。
1) 引渡し式を開催する。
2) 各種メディアを通じて我が国援助を広報する。
3) 実施機関のウェブサイトで我が国援助を広報する。
4) 調達機材を使用して取得したデータや記録を展示物や出版物に活用し、我が国援
助を国民に広く広報する。
5) 調達機材に日章旗(ODA マーク)を貼付する。
以上
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