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宮崎委員提出資料【PDF】

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宮崎委員提出資料【PDF】
2011年3月3日
検察の在り方検討会議
御中
弁護士
宮
崎
誠
捜査・公判の在り方について(その2)
1「最高検察庁の録音・録画試行指針(平成23年2月23日付)」に対する意見
(1)試行指針は国民の納得が得られるか
今回の録画指針は、「検察官の裁判所における立証のため」であって、密室取調
べの事後的検証を目的としていない点で根本的な欠陥を抱えている。検察官の立証
のためであるから録画するかしないかは、検察官が選択すればよいという内容に、
指針発表直後の当会議では、法曹関係者以外の多くの委員は、検察官に対する信頼
が大きく揺らいでいる状態で、録画の範囲を検察官の選択に委ねるのでは、およそ
国民の理解を得ることはできまいと批判した。
このような批判に対し、最高検は、取調べの途中であっても積極的に行っていく
ように、指導してゆく、本指針がある中、録画されていない調書については、裁判
所も任意性や信用性を容易には認めないであろう、自信があれば録画すると言うこ
とになるとの見通しが示された。
上記のような「指導」があっても、実際の事件で、否認の場面から録画すること
は期待できない。自白に転じることに心理的な障害となる否認調書の作成自体をし
ないのが実務慣行だからである。また、新聞報道によれば、笠間検事総長は全過程
録画をしない理由として、説得場面を録画すれば真相解明機能に支障があるという
理由を挙げたようである。厚労省元局長無罪事件での元局長の表現によれば「プロ
ボクサーとアマチュアのボクサーがレフリーもいないセコンドもいないリング上
で戦っている」、まさにその説得場面は録画しない、ダウン(自白)をすれば、録
画する(早く自白すれば、早くから録る)というにすぎない。本指針の下では、虚
偽の調書が多数積み重ねられる状況が改善されることはない。
(2)一部録画ではわからないのに、わかった気になってしまう危険
そもそも一部録画は極めて危険である。再審開始された布川事件では一部録音が
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なされていた。録音の前の日にリハーサルを繰り返し、スムーズに犯行状況を語る
テープを聞いた裁判官が「虚偽自白」を信じた話はよく知られている。当時の公判
調書では、「テープは事前のリハーサルの結果だ」と説明する杉山さんに、「知ら
ないことをあれだけすらすら喋れるはずがない」という裁判官の尋問が長々と続い
ている。
従来から録音録画されていた事件そのものは多くないが、一部録画の危険性は高
野山放火事件でも見られる。警察における暴行を訴えた少年に対し検事が警察に録
音を命じたが、テープが欠けている時間帯での暴行が疑われその後に作成された調
書の任意性が否定されている。
厚労省元局長事件では元係長をはじめほとんどの被疑者は拘置所にいる間は自
白していたが、その自白が録画されておれば調書以上のインパクトを裁判官に与え
たであろうことは想像に難くない。一部であっても録画自体のインパクトは大きい
から、かえって深刻な冤罪を生む恐れがある。むしろ弊害が大きいシステムである
ことを指摘し、改めて「全過程の録画」が必要であることを申し上げたい。
なお、ここでは、特捜部の取調べに限定した最高検の試行方針についてのみ、意
見を述べたが、限定することに異論がある点は別の機会に述べる。
2
取調べが反省・悔悟を目的とするとの考えは世界標準ではない。
捜査当局には自白の目的を、被疑者に反省・悔悟をさせるためとの考えが根強い。
日本政府は、国際人権(自由権)規約委員会の第5回政府報告書審査において、「自
白は証拠としてだけでなく反省のあらわれであり、犯罪者の更生の出発点でもあり、
取調べに弁護人を同席させると捜査に重大な支障が生じる」旨説明したが、これに
対し、国際人権(自由権)規約委員会から、「日本の制度のもとでは、被疑者・弁
護人と警察との対等性が確保されていない、罪を犯したのは誰かを決めることは警
察の仕事ではなく、それは裁判所の仕事である」との指摘がなされている。
多くの冤罪事件は、密室のいびつな人間関係の下での自白が、反省・悔悟よりも、
絶望や、利益誘導や、脅迫の結果であることを示している。
3
取調べの可視化のための条件提示について
(1)新たな捜査手法は別途検討すればよい
取調べの可視化の前に、刑法を改正して主観的要素を排除した構成要件にするこ
と、刑法や刑事訴訟法を改正して、諸外国のように、刑事免責や被疑者についての
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虚偽陳述罪等を認めること、欧米同様に通信傍受を拡充すること等々様々な制度提
言がなされている。しかし、これらは、過去の経過を見る限り問題解決の先送りに
すぎない。
日本における取調べの可視化は、司法制度改革審議会意見書(平成13年6月1
2日)では、将来的な検討課題とされ、以来10年が経過した。この間、関連法案
を審議した国会の委員会附帯決議においても、繰り返し、政府が取調べの可視化と
新たな捜査手法について実質的検討をするよう求めてきた。
この間の国会の答弁においても、法務省は、取調べの可視化の話の際必ず持ち出
す「新たな捜査手法」について、「検討しています」という以上の答をしてはいな
い。附帯決議によって開始された法務省、日弁連、最高裁の協議(平成16年1月
から平成22年2月まで)においても、可視化の代替的「捜査手法」についての具
体的提言は行われず、この協議自体中断されている。
このように、10年が経っても、新たな捜査手法の導入が提案されず、結果的に
は提案しないことによって可視化導入の議論は先送りされてきた。
司法取引にせよ、おとり捜査にせよ、実施している国でも、共犯者への巻き込み、
新たな犯罪の誘発など、問題が多いとの指摘もある。今後も、適切な方策を検討す
ることを否定しないが、この10年の間にも数多くの「冤罪」が次々と明らかとな
り、それがひどい密室での取調べの結果だとの認識が深まる中で、捜査当局の「新
たな捜査手法」が新たに提案され、検討され、実現するまで可視化できないと言う
議論は、捜査当局がこの10年来と同様、提案を怠れば怠るほど、可視化が実現で
きない不合理な結果となる。
一方、国際的にはえん罪防止など人権保障の観点からも弁護士の立会権や録画の
拡大は世界的な流れとなっている。2月17日に述べたとおり、我が国の科学的捜
査手法も、飛躍的に発展してきており、有効に用いられている。なお、付言すれば、
監視カメラやDNAデータベースのデータはこの間増大したが、欧米各国では、こ
れらがプライバシーの保護など国民的議論を経て法制化されているのに対し、我が
国では、DNAデータベースについては国家公安委員会規則があるに留まる。DN
Aデータベースや防犯カメラの使用基準など、恣意的な使用に対する歯止めなどに
ついても国民的議論が行われるべきであろう。
(2)内心の意思は、客観的な証拠から証明することが可能である
犯罪構成要件の中の主観的要件は、被疑者の口から言わせなければ立証できない
かのような議論がある。しかし、客観的な証拠から内心の意思が立証され、有罪と
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される例も多いのであり、取調べの可視化がなされたから立証できなくなる、ひい
ては巨悪を眠らせることになる、というものではない。
(3)捜査機関を真実究明の義務から解放すべきとの点について
取調べの可視化をするなら、捜査機関を真実究明義務から解放すべきとの提言も
ある。しかし、黙秘権を認めた憲法の下で刑事訴訟法が制定されたことを忘れては
ならない。しかも取調べの可視化は、真実究明のための方策なのである。これまで
の密室の誤った取調べで、どれほど多くの真実が闇に葬られたことであろうか。捜
査官の見込みに従って自白を迫ることが真実究明ではない。取調べの可視化がなさ
れているもとで、捜査官が真摯に真実を探求すること、それを国民は求めている。
実際、取調べの可視化を実現した国々においては、録画を利用して、相互の批判
や、研修によって取調べ技術の飛躍的向上が図られたと述べており、真実をフェア
な手法で引き出すことができるようになってきている。これらの経験を無視して、
取調べの可視化があっては真実が究明できないと妄信してはならない。取調べの可
視化を実現している英国の例を資料として添付する。四半世紀前から取調べの可視
化を導入している英国の捜査当局へのインタビューでは、自白率が低下した、治安
に対する弊害があったと述べた人はいなかった。
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証拠開示のあり方について
今回、厚労省元局長無罪事件において、主任検察官がフロッピーディスクを証拠
開示の対象から除外するため関係者に還付したこと及び取調べメモが全部廃棄さ
れていたことがきわめて問題であること、そして、そのような事態を防止するため
弁護人に対する証拠リストの交付を制度化すべきであることについては、すでに指
摘したとおりである。
その他にも、現行の証拠開示制度下においては、証拠の存否をめぐって問題が生
じている事例がある。
例えば、公判前整理手続中に、前任の検事が「存在しない」と回答していた資料
に基づき、後任の検事が尋問したためようやく存在が判明した事例を始め、当初は
「存在しない」とされていた証拠の存在が後に判明した事例がいくつか報告されて
いる。
検察官が意図的に虚偽の回答をしたのかどうかは不明であるが、原則として全て
の証拠を開示することとすれば、このような証拠開示漏れにより被告人側の防御権
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が害される事態を防止することができる。また、捜査機関が作成又は入手した証拠
のリストが弁護人に交付されれば、証拠の存否をめぐる疑義の解消に資する。
そもそも、現行の類型証拠開示請求、主張関連証拠開示請求等は、過重な事務的
負担を弁護人と検察官に課しており、要件該当性等についても争いが生じ、これが
公判前整理手続に時間がかかる原因のひとつにもなっている。
さらに、公判前整理手続をすることに極めて消極的な裁判所があり、明らかに公
判前整理手続に付することが適切な事件であるにもかかわらず、公判前整理手続が
なされず、証拠開示に困難を来す例もある。
このように、現状の証拠開示制度では不都合な点があり、改善が求められる。
以
上
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イギリス取調べの可視化事情視察報告書(暫定版・抜粋)
(日本弁護士連合会取調べの可視化実現本部作成 調査期間:2010年11月22日∼26日)
はじめに
1
調査の目的など
2010 年 11 月下旬、日弁連取調べの可視化実現本部等の弁護士 8 名は、イギリスの可視
化の実情と捜査機関の取調べの技術の進化について調査を行った。
イギリスでは 1984 年に警察刑事証拠法(PACE)が成立し、取調べの録音が義務づけ
られた。その後、イギリスの取調べの可視化は香港、オーストラリア、ニュージーランド、
カナダ等英連邦系の国や地域に拡大するとともに、韓国、モンゴル、イタリア等の可視化
に影響を与えた。2002 年には可視化実現本部の委員である小坂井久、秋田真志弁護士を
中心に研究者も加えた視察団がイギリスを訪問し、その結果は「取調べ可視化-密室への
挑戦・イギリスの取調べ録音・録画に学ぶ」(成文堂 2004 年)に収録されている。
今回の視察は、調査対象は録音・録画の具体的なやり方や問題点というより、どちらか
といえば、PACE 以降取調べの技術がどのように変化したのかが中心であり、録音・録画
の実施はそれにどのような関わりを持つのかという点にある。とはいえ、現在なお日本の
警察関係者から「イギリスの警察は実は取調べ録音を導入したのは大失敗だったと考えて
いる」などという指摘があり、その真偽を確かめるという目的があったことも事実である。
2
視察日程
実質 5 日間の調査は以下のとおりであった。
2010 年 11 月
22 日
午前 10 時~午後 1 時
23 日
午前 10 時~午後 1 時
Metropolitan Police training School at Hendon Crime Academy 視察
2003 年開設。警察官のトレーニング施設。
被疑者取調べを含む 70 のコースがあり、年間 7000 名の警察官が受講する。
マネージャーのロジャー・ミルバーン氏(Roger Milburn)とアシスタントのワトソ
ン巡査部長から話を聞いた。
1980 年代後半~ 90 年代初めまで、学者の研究でイギリスの警察の取調べに全くス
キルがないことが指摘された。改善の方策の検討に録音・録画が役立った。模擬取調
べ室を見学し、トレーニングの DVD を 10 数枚いただいた。
23 日
午後 2 時半~午後 5 時
East London のソリシタ*1、アンソニー・エドワーズ氏(Anthony
Edwards)訪問
同氏は、 38 年の刑事弁護歴を持つベテラン・ソリシタである。同氏がパートナーを
務める事務所は約 100 人のソリシタの半分が刑事担当で、 24 年間の当番弁護士体制も
*1 イギリスでは、弁護士制度は、主に法廷外の活動を行うソリシタと、主に法廷活動を行うバリス
タに分かれる。捜査段階で、被疑者らにアドバイスをしたり、取調べに立ち会うのは、ソリシタの役
割である。本報告において、イギリスの弁護士に言及する場合、特に断らない限り、ソリシタを指す。
-3-
6/10
個別の弁護士に無理がかからない体制で行っているという。
ただ、政府の司法扶助関係予算が 25%カットとなる予定で、当番弁護士関係は入札制
になるとのことで、これからの業務運営に危機感を持っていた。
しかし、同氏の刑事弁護にかける情熱は強く、 1994 年の黙秘権行使に対する不利益推
認など、弁護活動には全く影響がないと言い切っていた。
24 日
午前 10 時 30 分~ 13 時 00 分
ブリストル大学のエド・ケープ教授(Ed Cape)訪問。
2002 年の視察の際にも、刑事弁護活動について貴重な意見をうかがっている。教
授は、欧州連合と欧州人権裁判所の被疑者の弁護を受ける権利に関する最近の動きと
ともに、当番弁護士制度が現在かかえている問題を解説された。後者について教授は、2
年程前に導入された CDS ダイレクトという制度-あまり重大でない事件に関して当
番弁護士の指名もできず(イギリスは取調べの立会いなどの場合指名可能)、電話の
みの相談しか受けられない-やソリシタ以外にテストに合格した代理人の接見・立会
いを弁護士会が認めたことについて、批判的な意見を述べられた。
なお、取調べの録音については、カーディフ 3 というえん罪事件で一審の裁判官は
録音テープを聞こうとしなかったが、控訴審でこれを聞いた結果、有罪判決が覆った
例が紹介された。
また、不利益推認については、弁護人のスキルアップにつながったのは間違いない
が、若い弁護人はどの段階でどの程度の証拠開示があれば、たとえば黙秘を解くよう
にアドバイスするかなど悩んでいるのも事実であるという。
さらに、実証的な研究はないが、可視化によって虚偽自白はずい分減少したと言う
べきであるとの指摘もあった。
25 日
正午~午後 3 時
レスター大学のレイ・ブル教授(Ray Bull)と面談。
教授は警察官の経歴を持つ研究者で PEACE の開発で著名である。現在も警察から
取調べについてアドバイスを求められているという。
PEACE に基づく取調べについて、具体的な事例を交えて丁寧に説明がなされた。
取調べの可視化は、PEACE モデルにとって、必要不可欠かという質問には、必ず
しもそうではないが、録音を始めたら、取調べのスキル不足が露顕したという事実が
あるので、可視化がなければ訓練は始まらないと回答した。
また、録音・録画をして自白率が下がった国はない、イギリスでも、警察は 1986
年の PACE 施行以前には、自白率が下がると言っていたが、それは間違っていたと
明言した。
26 日
午前 9 時 30 分~午後 2 時
サセックス警察署を訪問。
サセックスは、ロンドンから西南に列車で1時間半ほどに位置する。
アンドリュー・グリフィス警視(Andrew Griffiths)がプレゼンテーション。ここで
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も PACE 施行後のボールドウィンらの研究により取調べのスキルの欠落が明らかに
なったこと、PEACE モデルの普及等が解説された。
ここでは実際の取調室、録音・録画機器も見せてもらったが、何よりも現実に発生
した事件の被疑者取調べの DVD が再生された。CCTV の画像を示されるまで、否認
している被疑者が弁護人とともに画像を見た後、自白に転じる様子が克明に録画され
ている。取調べ全体を通じて捜査官が興奮したり自白強要と思われる場面はなく、
PEACE フルに取調べが行われていた。
3
評価
今回の視察を通じて、感じたのは、イギリスにはもはや録音・録画の是非などというレ
ベルの問題は存在せず、当然存在し、存在することを前提として刑事手続が動いていると
いうことである(当然1で述べた日本の警察関係者の意見に賛同するものはなかった)。
視察で判明した主な点を挙げれば、以下の3点になろう。
(1)可視化によって公正さが確保されている
取調べの可視化は、警察だけではなく、国民一般にも完全に実務として定着しており、
警察からも可視化に反対する意見は全く聞かれなかった。むしろ、可視化によって公正
さが確保されていることに強い自負が窺えた。
(2)
可視化によって取調べ技術が向上し、徹底した訓練が行われている
警察では、1980 年代の取調べ可視化以降、可視化によって明らかになった取調べ技
術の欠落を改善するために、警察実務のキャリアが自ら調査し、心理学者等とも共同研
究して、その成果をイギリス全体の警察官の訓練に反映させるようになった。現在、そ
の技術は、PEACE モデルとして確立され、徹底した訓練が行われている。
取調べ技術の訓練は、最重視されており、被疑者のほか、参考人や弱者に対する取調
べ技術など、多数のメニューが用意されている。
警察関係者に足利事件の法廷で公開された録音の一部と大阪東署事件の録音の一部を
英訳して意見を聞いたところ、日本の取調官について、自白にこだわる発想そのものの
誤り、技術と倫理を含む訓練の不足を指摘された。
(3)取調べはイギリスでも重視されている
イギリスでも取調べは、証拠収集の場として重視されている。
サセックス警察で、実際の殺人事件の反訳書の提供を受け、録画を視聴する機会を得
ましたが、3 日間で 5 回にわたり、合計 4 時間 40 分にわたる取調べが実施されていた。
なお、その間常にソリシタ(弁護人)が立ち会っていた。
他方、ソリシタ側でも取調べ立会の技術の向上を図っている。
視察の最終目的は、日本の可視化の実現のための情報収集であったが、どちらかといえ
ばイギリス警察の取調べ技術の変化とその意義を確認する結果になった。可視化の先には、
日本においても取調べ方法に変化が予測され、弁護技術もまた改革を余儀なくされると思
われる。その意味でも、視察結果は有意義なものであったと確信している。
-5-
8/10
イギリス調査の際の自白率等をめぐる関係者の発言
ミルバーン警部補(暫定版21ページ)
(調査団)今日本の警察・検察が反対している理由としては、大きく2つあります。1つ
は、「テープやカメラのあるところでは、人は本当のことを話さない。だから、2人きり
の部屋のなかで強い信頼関係を作らなければ真実の供述は出てこない」だから、録音は取
調べの邪魔になるというものです。もう1つが、組織犯罪です。子分が親分のことをあの
人に指示されたというようなことが記録に残るような場面では怖くて言えない場合があ
るというものです。この2つの反対論をどう思われますか。
(ミルバーン)録音をしていることが真実を話すことの邪魔になるという意見には全く合
意できません。甘い考えです。現状維持をしたいということの理由として言い訳に使って
いるだけだと思います。カルチャー・チェンジが必要でしょうが、実際には取調べは録音
するようになってから取調べはとてもやり易くなりました。録音がなされていても被疑者
は自分の言いたいことをいっていますし、また、捜査機関は、国民の信頼を得た上で公共
の利益を守っていることを示すことができます。だから、その意見には合意できません。
先程の 1986 年の殺人事件のケースに戻りますが、10 分か 15 分間くらいただ普通の会話
をしていたら、犯人が急に「他の遺体の遺棄場所も知りたいだろう」と言いだし、それか
ら1時間∼1時間半かけて、どのようにして殺したか、どこに遺体を捨てたかについて話
をしてくれました。ですからテープがあるからしゃべらないというのは全く違うと思いま
す。
イギリスにおいて録音が開始されてから 26 年近くになり、書面に録っていた時代を覚
えている自分のような者は少ないのですが、とにかく録音をしたほうが効率が良く、捜査
官の信頼性を守るものであり、そしてまた被疑者をも守るものであるといえます。
現在の刑事司法において録音をしないで取調べを行なうというのはもう考えられませ
ん。グッド・プラクティスとして定着しているものです。
レイ・ブル教授の説明(38∼39ページ)
(調査団)PEACE がフェアだということはよく分かりましたが、日本では取調べの録画を
すると自白率が下がるので、代わりにおとり捜査等をくださいといった考えがあります。
そういう考え方についてはどう思われますか?
(ブル)レコーディングをした国で自白率が下がった国はありません。イギリスの警察で
も、86 年以前には自白率が下がると言っていたましたが、彼らは間違っていました。警察
は、旧式のやり方が効果があると思っているのですから、そのように言うでしょう。
(中略)
(調査団)取調べの可視化がラポールの障害になるという日本の捜査機関の主張について
は?
(ブル)誤っています。オーストラリアの研究であるのですが、ビデオ録画をされている
被疑者にどうか?と質問をしても「全然問題ない」との答えが返ってきています。
9/10
サセックス警察での説明(47ページ)
(調査団)録音することによって、自白が減ったとか、黙秘が増えたとか、そういうこと
はなかったのでしょうか。
(グリフィス)分かりません。
(ティム)いくつかの研究がありますが、変化なしという結果が出ています。しかし、数
字というものは、変数的な要素が大きく関わりますし、軽微な事件の自白率と、重大事件
の自白率を一緒にされても困ります。
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