Comments
Description
Transcript
基本的価値観の再認識（2013年4月号）
Management 「基本的価値観の再認識」 企 業 経 営 は「 急 が ば 回 れ 」、Ⅴ 字 回 復 よりも 体 質 改 善 が 先 決 。近 江 商 人 の 活 動 の 理 念と して「 三 方 よし」というもの がありますが 、この 考 えを 社 内 に 根 付 か せることが できるか 否 か 「世 が 企 業 成 長 の 鍵 を 握ると筆 者 は 考 えます 。最 近 よく言 わ れる「 W i n - W i n 」に 留まらず 、 間 よし 」まで 考 えた 企 業 経 営 の 実 現 。徹 底したお 客 様 シー ズ の 把 握とそれに 応 えようとす る 一 定 の 価 値 観 で 結 ば れた 人 の 集 合 体 を 如 何 に 作り、盛り上 げ 、有 機 的 結 合 体として 発 展させ て いくことが できるかが 、今まさに 企 業 経 営 者 に 課された 最 大 の テーマ で す 。その た めに 、自 社を見 つ め 直し、基 本 的 価 値 観 を 再 認 識 することから始 めることに 致しましょう。 状態ですから、その下で働く従業員となると、言 経営 はじめに わずもがなです。業績不振に陥っている企業は、 現代は、先の見通せない不確実な時代です。自 場合が多く、このような質問をすることさえ、的 然災害・エネルギー問題・民族間紛争・隣国摩擦・ 外れに感じることもしばしばあります。 「 社是・ EU加盟国の突然の破綻懸念等、最近の出来事を 社訓」等のある企業でも、各部・各人が自身の都 思 い 出 す だ け で も 、予 期 せ ぬ 事 が 立 て 続 け に 合の良いようにそれらを解釈して行動していま 起っており、その度に、経営者の皆様は、企業の すから、お客様側からその企業を見た場合、ちぐ 行く末を案じ、組織統治や経営の舵の取り方で はぐで、組織としての体をなしていないように 悩んでいるのではないでしょうか。筆者は、長年 感じることさえあります。果たして、このような 当地において、経営のコンサルティングを行っ 統治レベルでお客様に最高の製品やサービスを て参りました。そこで、これ迄の経験を踏まえた 提供することができるのでしょうか。経済成長 上で、経営者の皆様にどうしても押さえておい が困難な現代だからこそ、今一度、企業が大切に ていただきたい内容を、この紙面を借りて記述 するべき価値について見直していただきたいも していくことと致します。 のだと思います。 日々の資金繰りやクレーム対応に追われている 基本的価値観を定義すると、 「 組織にとって欠 基本的価値観について 「皆様が企業経営を行う上で大切にしている 価値観とは何ですか？」、私が経営指導に入らせ かせない不変の主義、利益の追求や目先の事情 の た め に 、ま げ て は な ら な い も の 」 （「 ビ ジ ョ ナ リーカンパニー」 （ 1995）ジェームズ・Ｃ・コリン ズ、ジェリー・Ｉ・ポラス著）となります。 ていただく場合には、最初にこのようなご質問 日本は、1 9 8 0 年 代 の 好 景気を 経て、失 わ れた をさせていただきます。たいていの経営者の方 2 0 年と言われる時代を経験しました。その最も は、 「 うーん」と考え込まれ、なかなかお答えが無 苦しい時代に、成果主義人事制度や株主利益の かったり、 「 社是に書いてあるよ」と答えられま 最大化に代表される短期志向型の経営にシフト す。そして、後者の場合に、その意味するところ し、結果として基本的価値観や長期目標等、企業 をお尋ねすると、明快なお答えが返ってこない 経営を行う上で大切にしなければならなかった ことがほとんどです。経営者ですらそのような 長期的な志向を見失っていったのではないで 18 MIE TOPICS 2013.4 しょうか。その点に関し、トム・ピーターズとロ バ ー ト・ウ ォ ー タ マ ン が そ の 著 書「 エ ク セ レ ン ト・カンパニー」 （ 1983）の中で、 「 自社の価値体系 経営理念への反映 を確立せよ。自社の経営理念を確立せよ。働く人 企 業 に 創 業 者 が 健 在 で 、創 業 精 神 が 染 み つ い の誰もが仕事に誇りを持つようにするために何 ている時は、経営者そのものが全ての基準であ をなしているかを自問せよ。10年、20年先になっ りますから、あまりこのことを問題視する必要 て振り返ってみるとき、満足感をもって思い出 はありません。しかし、 「 創業後年数を経るに従 せることしているかと自問せよ」として、企業経 い、これらの価値観の共有状態は薄れ、次第に事 営における、基本的価値観に基づく経営の重要 業活動に反映させていくことが難しくなってく 性を説いています。 るので、価値観を明文化したフィロソフィーが 私 の 経 営 指 導 の 考 え 方 は 、医 療 に 例 え る と 東 洋医学的な発想に基づく指導、つまり自己免疫 必要」 （ ｢ 経 営 理 念 と は 何 か ｣ 中 元 麻 衣 子 著 ）に なってきます。わが国では、これらを総称して、 「経営理念」や「社是・社訓」と呼んでいます。この 手法が中心です。昔から「企業は人なり」という 前、講演終了後、ある経営者の方からご質問を受 言葉が言われ続けているように、人の力を如何 けました。それは、 「 父の代に作った経営理念は に引き出し統合できるかが企業経営者に問われ あるのですが、言葉が難しくて、現在の社員に唱 ているのだと考えております。従って、西洋医学 和させてよいものかどうかと悩んでおります。 的な発想に基づく指導、つまり正常でない部位 こんな場合変えてもいいのですか？」というも を外科的手術により取り除くという方法は余り のでした。私は、 「 意味が解って初めて理念です 好みません（しかたなく実行する場合もありま ので、自身のお考えを今一度整理して、あなたの すが、極力最小限に留めます。世に言うＶ字回復 言葉に直してみてください」とお答えしました。 をよしとはしないのです）。 このように、皆様には、まず、基本的価値観の再 日 本 は 、長 寿 企 業 の 数 で 世 界 一 と い う 先 行 研 究がありますので、図表にお示し致します。 図表 順位 名 創業200年 以上企業数 本 順位 国 認識や経営理念の理解から進めて頂きたいので す。企業の「自己免疫能力を高める」、 「 社員が自 身で考え実行したことが、企業のすすむべき方 各国の「創業200年以上の企業」 国 向と一致している」、こんな組織づくりの第一歩 名 創業200年 以上企業数 を始めて頂きたいと思います。 １ 日 3,113 ９ ス イ ス 130 ２ ド ツ 1,563 10 チ ェ コ 97 ３ フラン ス 331 11 米 国 88 ４ 英 国 315 12 ベルギー 75 基本的価値観や経営理念が大切なことは、言わ ５ オランダ 292 13 スウェーデン 74 ６ オーストラリア 255 14 ス ペ イン 68 れて久しいことではありますが、これらの浸透が ７ イタリア 163 15 中 国 64 ８ ロ シ 149 16 デンマーク 62 イ ア 経営 能力を高めることで人体の持続可能性を高める （出所） 後藤俊夫 （２００９） 「三代、 １００年潰れない会社のルール」 プレジデント社 結びに なされていなかったがために、ビジネスチャンス を逃した企業を、筆者は目の当たりにしてきまし た。今一度、社内を見渡してください。さて、皆様 が 大 切 に している 、基 本 的 価 値 観は、本当に社 ま ず は 基 本 的 価 値 観 を 示 し 、組 織 が 同 一 の 方 向に向かって一致団結する運営を心掛けること 内に浸透しているでしょうか？次回は、その 浸 透策について、解説させて頂きます。 で、継続企業への足がかりを築いて頂きたいと 思います。 三重銀総研 取締役コンサルティング部長 伊藤 公昭 Miegin Institute of Research.Ltd All rights reserved. 2013.4 MIE TOPICS 19