...

コンテキストデスクトップ技術

by user

on
Category: Documents
8

views

Report

Comments

Transcript

コンテキストデスクトップ技術
コンテキストデスクトップ技術
Context Desktop Technology
● 松本達郎 ● 二村和明 ● 司波 章 ● 藤井 彰 あらまし
現在,急速に普及するスマート端末とクラウドを垂直に統合し,人の状況に応じて最
適なサービスを提供するコンテキストアウェアなサービス基盤の研究開発を進めている。
この度,人の状況に応じてサービスを絞り込み,最小限のサービスをスマート端末に提
供するコンテキストデスクトップ技術を開発した。
本稿では,コンテキストデスクトップ技術のコンセプトと構造,適用例について解説
する。コンテキストデスクトップは,端末やセンサから得られた実世界データに基づい
て,アプリケーションを自動配信し,利用できるアプリケーションセット
(デスクトップ)
を自動的に切り替える。これにより事前にアプリケーションをインストールしておかな
くても必要なとき,必要な場所で最適なアプリケーションを利用することができる。
Abstract
We are now conducting research and development on a service platform which
vertically integrates smart devices and the cloud, so as to provide adequate information
and services to humans. Recently, we have developed Context Desktop technology which
selects and delivers the minimum services to smart devices depending on the human
situation. In this paper, we describe the concept and structure of Context Desktop
and its applications. Context Desktop automatically provides optimal applications to
smart devices and changes the available application sets on these devices based on
real-world data sensed with the devices or ambient sensors. This technology frees
users from having to set up applications in advance, and thus enables them to utilize
smart devices, when and wherever needed.
FUJITSU. 63, 5, p. 531-536(09, 2012)
531
コンテキストデスクトップ技術
なっている。業務アプリもスマート端末への対応
ま え が き
が進みつつある。
富士通研究所では,人がICTシステムに合わせる
のではなく,人を中心にして,ICTシステムが人に
サービス利用時の課題
寄り添い,その場,そのとき,その人に合った情
上記で述べたように人は実世界の様々な場所を
報やサービスを自然な形で提供する新しい技術パ
移動しながら生活しており,移動先のその場,そ
ラダイム「ヒューマンセントリックコンピューティ
のときに合ったアプリやコンテンツを利用するた
(1)
,
(2)
めには,膨大な量のアプリやコンテンツ中からユー
ング」の実現を目指している。
ヒューマンセントリックコンピューティングの
ザ自ら場面に合ったものを検索し端末にインス
目指す世界を図-1に示す。人は実世界の様々な場
トールする必要がある。また,業務利用の場合は,
所を移動しながら生活している。人・場所・時間
IT部門の管理者があらかじめ必要な業務アプリを
によって,必要な情報やサービスは異なっており,
端末にインストールをしておく必要があり,面倒
現状はユーザ自らが意識して能動的に適切な情報
な工程と時間がかかっている。更に,あらかじめ
やサービスにアクセスしている。ヒューマンセン
インストールされたとしても,利用する場面では,
トリックコンピューティングでは,ユーザの置か
ユーザが端末中の大量なアプリの中から最適なも
れた状況を把握し,その状況に適合した情報やサー
のを探して起動しなければならず,効率的にアプ
ビスを提供する。
リやコンテンツを利用することは難しい。セキュ
近年,スマートフォンやタブレットなどのスマー
リティ的には,業務情報を含むアプリやコンテン
ト端末や,モバイルブロードバンドの急速な普及
ツは必要なときに利用してそれ以外のときは端末
により,ユーザはいつでもどこでもスマート端末
上に存在しない方が望ましく,あらかじめインス
を通じて様々なサービス{アプリケーション(以下,
トールしておくと必要ない場面で業務情報が参照
アプリ)やコンテンツ}を入手できる環境が整い
されたり,端末紛失時に情報漏えいを引き起こし
つつある。また,スマート端末に搭載された各種
たりする危険性がある。
センサを通じてユーザの様々な状況の把握も可能
開 発 技 術
となってきている。
また,スマート端末の普及に伴い膨大な数のア
これらの課題を解決するために,図-2に示すコ
プリが開発されクラウド上に配置され利用可能と
ンセプトに基づいてコンテキストデスクトップ技
業務サービス
位置情報
サービス
乗換案内
サービス
コミュニティ
サービス
GPS
健康サービス
温度
チケット発券
サービス
動画サービス
検索サービス
RFID
図-1 ヒューマンセントリックサービスのイメージ
532
FUJITSU. 63, 5(09, 2012)
コンテキストデスクトップ技術
(3)−(5)
実世界上でユーザが置かれた状
術を開発した。
ことができる。アプリのインストールは必要なく,
況に対応した仮想プレースを定義し,そこにクラ
今やりたいことが即座に実行できるようになる。
ウド上に存在する多様なサービス,既存の業務サー
また会議室を出た時点で関連するファイルを自動
ビスをユーザの状況に応じて絞り込んで配置する。
的に消去することも可能である。
具体的には,仮想プレースは,アプリやコンテン
コンテキストデスクトップを実現するアーキテ
ツが配置されたスマート端末上のデスクトップと
クチャを図-3に示す。実行制御と開発環境の二つ
して表現され,ユーザの状況に応じてデスクトッ
の部分から成る。
プが切り替わる。
実行制御は,アプリを蓄積し管理するアプリ管
本技術により,ユーザが事前にアプリやコンテ
理と,ロケーション管理からの場所イベントに応
ンツをインストールしておかなくても,必要なと
じて,コンテキストを切り替えるコンテキスト制
きに必要な場所でスマート端末を利用できるよう
御から成る。
になる。例えば利用者が会議室にスマート端末を
開発環境では,業務向アプリの開発と,アプリ
持って入室するだけで必要なアプリとコンテンツ
やコンテンツの配信条件(人,場所,時間など)
の配信を受け,会議に関連する資料を直ちに見る
の定義を行う。
多様なサービス(HTML5)
既存の業務サービス
人事業務システム
クラウド
購買システム
WebAPI
WebAPI
仮想
プレース
業務システム
ナビゲーション
会社
移動中
ホビー
実世界
自宅
図-2 コンテキストデスクトップのコンセプト
実行制御
バージョン管理
アプリ管理
カタログアプリ
発注アプリ
カタログアプリ
配信
顧客A宅訪問
利用者
取得
課金
…
動作検証
顧客A向け
アプリ
開発環境
アプリ開発
業務向
アプリ開発
登録
参
照
コンテキスト制御
アプリ
プッシュ
コンテキスト
スイッチ
イベント
ロケーション管理
部品
SE
仮想プレース
設定
端末アプリ1
場所 人
端末アプリ2
文書
記述
配信条件
定義 人
場所
文書
定
設
コンテキスト定義
配信条件の記述
図-3 コンテキストデスクトップを実現するアーキテクチャ
FUJITSU. 63, 5(09, 2012)
533
コンテキストデスクトップ技術
このアーキテクチャによって,サービス開発者
(5)端末側のPushクライアントは,プッシュされ
は,提供するサービス(アプリやコンテンツ)の
てきた情報を受け取り,デスクトップ管理に渡す
開発に加えて,ロケーション管理における場所定
(図中⑦)。
義,アプリやコンテンツ群の配信条件(コンテキ
(6)デスクトップ管理は,切替情報であれば指定
スト定義)を記述するだけで,ユーザの置かれた
されたデスクトップへ切替える。アプリ情報であ
状況に応じて,必要最低限のアプリやコンテンツ
ればアプリをダウンロードし,指定されたデスク
が配備されたスマート端末上のデスクトップを切
トップに配置する。更に指定があれば,アプリを
り替えることが可能となる。また,指定によっては,
自動実行する(図中⑧)。
アプリをプッシュし,自動実行も可能になる。
コンテキスト定義は,場所情報とそれに対応し
たサービス群を定義する。簡略化のために,図で
コンテキストデスクトップの動作
は示していないが,人,時間,場所への出入りな
コンテキストデスクトップの構造と動作を図-4
に示す。図に基づいて動作の流れを説明する。
(1)ロケーション管理は,端末,環境センサなど
どの条件も指定できる。コンテキスト定義を変更
することで,様々なシーンに応じたロケーション
アウェアなサービスが早期に実現可能となる。
場所に応じたアプリ配信の実例を図-5に示す。
からの実世界データを取得して,場所判定を行
い,コンテキストスイッチに場所情報を通知する
(図中①)。
(2)コンテキストスイッチは,コンテキスト定義
に基づいて,配信するサービス(アプリやコンテ
ンツ)を決定し,アプリパッケージングサーバに
パッケージ要求する(図中②)。
(3)アプリパッケージングサーバは,アプリを暗
号化し,暗号化されたアプリパッケージの格納先
のURIを返す(図中③,④)
。
(4)コンテキストスイッチは,Pushサーバを介し
て,アプリ情報/デスクトップ切替情報をプッシュ
外出時のデスクトップ 会議室用業務アプリ通知
する(図中⑤,⑥)。
スマート端末
図-5 デスクトップ切替えとアプリ自動実行の例
アプリ管理
③アプリ アプリパッケージング
暗号化
サーバ
⑦ダウンロード
Pushクライアント
Android
取得
②パッケージ要求
④応答
デスクトップ Phone
管理
Gap
アプリレポジトリ
サーバ
コンテキスト制御
Pushサーバ
コンテキストスイッチ
⑥アプリプッシュ ⑤プッシュ要求
①場所通知
アプリ登録
アプリ開発環境
⑧デスクトップ切替/
アプリ起動
業務アプリの実行
コンテキスト定義
(人,時間,場所,
サービス,…)
(U1,T1,L1,S11,…)
(U2,T2,L2,S21,…)
…
ロケーション管理
図-4 コンテキストデスクトップの動作
534
FUJITSU. 63, 5(09, 2012)
コンテキストデスクトップ技術
病室A
病室C
病室B
患者ごとの投薬履歴,処置,
容態(体温,血圧)などを表示
図-6 適用例1(医療現場における患者情報共有)
左側の画面は外出時のデスクトップ,中央は会議
室に入ったことを検知して会議室用の業務アプリ
がプッシュされてきた画面,右側は会議用業務ア
プリが自動実行された画面をそれぞれ示している。
自社
オフィス
このように,人の状況に応じて,スマート端末上
のデスクトップを切り替え,適切なアプリの自動
実行を実現している。
移動中
現在,業務利用に向けて,コンテキストデスク
マート端末上での個人データ,業務データの状況
に応じた分離技術(7)も開発中である。
移動中には
業務データや顧客情報は
削除
顧客先では
顧客データに
アクセス
トップを強化するために,イントラネット内にあ
(6)
ス
るサービスのインターネット上への配信技術,
自社オフィスでは
業務アプリケーションだけ
利用可能
顧客先
図-7 適用例2(状況に応じた業務情報アクセス制御)
適 用 例
む す び
これらの技術により,無線ネットワークを介し
てスマート端末とクラウドとを接続し,時々刻々
本稿では,人を中心にして,ICTシステムが人に
変化するユーザの場所や状況に応じてタイムリに
寄り添い,その場,そのとき,その人に合った情
サービスを切り替えていく統合システムを,端末
報やサービスを自然な形で提供する新しい技術パ
や通信のレイヤを意識することなく構築できる。
ラダイム「ヒューマンセントリックコンピューティ
以下に,適用例のイメージを示す。医療現場では,
看護師が病室に入った際に,その病室の患者情報
ング」の実現を目指して開発したコンテキストデ
スクトップ技術について述べた。
や必要な処置などをスマート端末に提示すること
本技術により,サービス開発者は,簡単な場所
で,看護業務の効率や確実性を向上させることが
の定義,場所とサービスの関係定義を行うだけで,
可能になる(図-6)。
短期間なロケーションアウェアサービスの構築を
また,自社オフィスでは業務アプリだけの利用,
可能とした。
移動中には業務データや顧客情報は削除,顧客先
今後は,スマート端末の業務利用への拡大に向け
では顧客データにアクセスできるといった,モバ
て,セキュアかつ利便性の高いサービスを簡易に
イル業務環境を提供できる(図-7)。
構築できるサービス基盤へ向けて技術強化を図る。
FUJITSU. 63, 5(09, 2012)
535
コンテキストデスクトップ技術
(5) H. Ito et al.:Application Push & Play - Proposal
参考文献
(1) 飯田一朗ほか:ヒューマンセントリックコンピュー
on Dynamic Execution Environment Combined
ティングの全体像.
FUJITSU ,Vol.62,No.5,p.489-494
with Personal Devices and Cloud Computing.
IWIN(International Workshop on Informatics),
(2011).
(2) 富士通:場所に応じてスマート端末に最適なサービ
スを提供する基盤技術を開発.
http://pr.fujitsu.com/jp/news/2012/05/15-2.html
(3) 富士通:時間や場所に応じて必要なアプリケーショ
ンが自動配信・自動実行される情報端末技術を開発.
http://pr.fujitsu.com/jp/news/2011/07/19-1.html
(4) 藤井 彰ほか:コンテキストデスクトップ - コンテキ
p.96-102,September 2011.
(6) Y. Nakamura et al.:Seamless Application Push
with
Secure
Connection.IWIN(International
Workshop on Informatics)
,September 2012.
(7) K. Nimura et al.:A Secure Use of Mobile Application
with
Cloud
Service.SmartApp(International
Workshop on Smart Mobile Applications)
,June
ストによって制御される端末デスクトップ - の試作.
2012.
FIT2011(第10回情報科学技術フォーラム)第4分冊,
http://www.mobile.ifi.uni-muenchen.de/aktuelles/
p.307-308,September 2011.
smartapps2012/smartapps12_secure.pdf
著者紹介
536
松本達郎(まつもと たつろう)
司波 章(しば あきら)
ヒューマンセントリックコンピュー
ティング研究所スマートプラット
フォーム研究部 所属
現在,スマート端末とクラウドを統合
したモバイルサービス基盤技術の研究
開発に従事。
ヒューマンセントリックコンピュー
ティング研究所 所属
現在,HTML5プッシュ型アプリケー
ションエコシステムの開発に従事。
二村和明(にむら かずあき)
藤井 彰(ふじい あきら)
ヒューマンセントリックコンピュー
ティング研究所スマートプラット
フォーム研究部 所属
現在,スマート端末へセキュアに情報
を配信・実行する基盤技術の研究開発
に従事。
ヒューマンセントリックコンピュー
ティング研究所ヒューマンソリュー
ション研究部 所属
現在,スマート端末を中心としたマル
チデバイス連携技術の研究開発に従事。
FUJITSU. 63, 5(09, 2012)
Fly UP