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風力発電機用 FRP ブレードの落雷破壊対策
平成 16 年度 フロンティアプロジェクト 風力発電機用 FRP ブレードの落雷破壊対策 Lightning Protection of FRP Blades for Wind Power Generators 1050145 竹 林 亮 寛 指導教員 坂 本 東 男 高知工科大学 フロンティア工学コース 環境機械・材料強度研究室 要 旨 風力発電機用 FRP ブレードの落雷破壊対策 竹 林 亮 寛 要旨 近年、風力発電機は地球環境に優しいクリーンなエネルギー源として注目されている。 しかしながら、国内では風力発電機の設置台数の増加と共に、FRP(繊維強化プラスチ ック)ブレードの落雷被害が増加することになった。日本はヨーロッパとアメリカと比 べて雷が発生しやすく大きな問題になっている。このことから FRP ブレードの落雷破 壊に関する衝撃放電実験を実施して、その破壊のメカニズムを理解すると共に落雷対策 を検討することになった。 本報告は落雷破壊対策として FRP ブレードにコーティングする方法で検討し、衝撃 放電実験を行った結果を報告する。 キーワード 風力発電機、FRP(繊維強化プラスチック)、ブレード、 落雷対策、衝撃放電実験 2 Abstract Lightning Protection of FRP Blades for Wind Power Generators Takebayashi A. English Abstract Recently, Wind Power Generators is paid to attention as a clean energy source gentle to the global environment. However, together with the recent increase in wind power generator installation, lightning damage to the FRP blades of wind power generators is also increasing in Japan. Lightning damage is a big issue in Japan since lightning in Japan seems to take a severer form than in Europe and the US. Therefore, We conducted the impact electrical discharge experiment concerning the lightning fracture of the FRP blades, and were able to understand the fracture mechanism and to execute the lightning protection. This report is describes the method of the coating to the FRP blades as the lightning fracture countermeasure and reports on the result on the impact electrical discharge experiments. Key words Wind power generation, FRP(Fiber Reinforced plastic), blades Lightning protection, Impact electrical discharge experiment 3 目次 目次…………………………………………………………………………………………………. 4 図目次………………………………………………………………………………………………..6 表目次………………………………………………………………………………………………..7 第1章 序章………………………………………………………………………………………..9 1-1 緒言 1-2 風力発電機の落雷被害 1-3 研究目的 第2章 風力発電機の落雷対策…………………………………………………………………12 2-1 落雷の実態 2-2 風力発電機の落雷対策 2-3 溶射について 第3章 FRP ブレードの温度上昇………………………………………………………………14 3-1 金属の温度上昇率 3-2 導体の温度上昇の導出式 3-3 温度上昇計算 第4章 実物大 FRP ブレードの落雷破壊実験 ……………………………………………..19 4-1 実験目的と内容 4-2 実験方法と設備 4-3 アルミニウム箔を貼り付けた FRP ブレードでの実験 4-4 アルミニウム箔を貼り付けた FRP ブレード実験結果 4-5 レセプターを施工した FPR ブレードでの実験 4-6 レセプターを施工した FPR ブレード実験結果 4-7 実物大 FRP ブレードでの実験の考察 第5章 1/2 モデル FRP ブレードの落雷破壊実験…………………………………………….25 5-1 実験目的と内容 5-2 実験方法と設備 5-3 アルミニウムコーティング FRP ブレードでの実験 4 5-4 アルミニウムコーティング FRP ブレード実験結果 5-5 ステンレスコーティング FRP ブレードでの実験 5-6 ステンレスコーティング FRP ブレード実験結果 5-7 1/2 モデル FRP ブレードの実験の考察 第6章 終章………………………………………………………………………………………35 6-1 今後の課題 6-2 結言 謝辞………………………………………………………………………………………………….36 参考文献…………………………………………………………………………………………….36 付録………………………………………………………………………………………………….37 1/2 モデル FRP ブレードの落雷破壊実験データ 5 図目次 図 1-1 高知県大豊風力発電機の落雷でのブレード損傷状況………………………………..10 図 2-1 溶射の仕組み……………………………………………………………………………..13 図 3-1 熱伝達の流れ……………………………………………………………………………..15 図 3-2 1/2 サイズブレードの測定地点…………………………………………………………16 図 4-1 アルミニウム箔貼り付け試験前………………………………………………………..21 図 4-2 アルミニウム箔貼り付け試験後………………………………………………………..21 図 4-3 アルミニウム箔貼り付け試験後………………………………………………………..21 図 4-4 アルミニウム箔貼り付け試験後………………………………………………………..21 図 4-5 アルミニウムコーティング試験前……………………………………………………..21 図 4-6 アルミニウムコーティング試験後……………………………………………………..21 図 4-7 アルミニウムコーティング試験後……………………………………………………..21 図 4-8 アルミニウムコーティング試験後……………………………………………………..21 図 4-9 ステンレス棒挿入実験前………………………………………………………………..23 図 4-10 ステンレス棒 9mm 径挿入実験後…………………………………………………….23 図 4-11 ステンレス棒 9mm 径挿入実験後…………………………………………………….23 図 4-12 ステンレス棒 6mm 径挿入実験前…………………………………………………….23 図 4-13 ステンレス棒 6mm 径挿入実験後…………………………………………………….23 図 4-14 ステンレス棒 6mm 径挿入実験後…………………………………………………….23 図 5-1 ブレードのセッティング………………………………………………………………..25 図 5-2 実験番号 1-1(78.1C)………………………………………………………………….27 図 5-3 実験番号 1-1(78.1C)………………………………………………………………….27 図 5-4 実験番号 1-2(78.1C)………………………………………………………………….28 図 5-5 実験番号 1-2(78.1C)………………………………………………………………….28 図 5-6 実験番号 1-3(143C)…………………………………………………………………..28 図 5-7 実験番号 1-3(143C)…………………………………………………………………..28 図 5-8 実験番号 2-1(557C)…………………………………………………………………..29 図 5-9 実験番号 2-1(557C)…………………………………………………………………..29 図 5-10 実験番号 7-1(146C)…………………………………………………………………29 図 5-11 実験番号 7-1(146C)…………………………………………………………………29 図 5-12 実験番号 3-1(78.1C)実験前…………………………………………………………30 図 5-13 実験番号 3-1(78.1C)実験後…………………………………………………………30 図 5-14 実験番号 3-1(78.1C)ヒューズ取り付け部…………………………………………30 図 5-15 実験番号 4-1(78.1C)実験前…………………………………………………………31 図 5-16 実験番号 4-1(78.1C)実験後…………………………………………………………31 6 図 5-17 実験番号 5-1(146C)…………………………………………………………………32 図 5-18 実験番号 6-1(78.1C)実験前…………………………………………………………32 図 5-19 実験番号 6-1(78.1C)実験後…………………………………………………………34 図 5-20 アルミニウムコーティングの比較(左から 78.1C、143C)………………………34 図 5-21 ステンレスコーティングの比較(左から 78.1C、78.1C、146C)……………….34 図 5-22 ステンレスコーティングの比較(左から 78.1C、146C、78.1C)……………….34 図 5-23 アルミニウムコーティングとステンレスコーティングの比較……………………34 7 表目次 表 1-1 日本における風力発電導入量の推移…………………………………………………….9 表 1-2 国内における落雷の被害の割合………………………………………………………..10 表 3-1 25℃における金属の比熱………………………………………………………………..14 表 3-2 金属の熱伝達率…………………………………………………………………………..15 表 3-3 金属の物理特性…………………………………………………………………………..16 表 3-4 電荷量が 300 クーロンでのステンレスの丸棒の温度上昇値………………………..17 表 3-5 各径の温度上昇値………………………………………………………………………..17 表 3-6 各径の温度上昇値………………………………………………………………………..17 表 3-7 各地点の幅………………………………………………………………………………..17 表 3-8 アルミニウムとステンレスコーティングの各電荷量の温度上昇…………………..17 表 4-1 IEC 保護レベルと雷パラメータの最大値……………………………………………..20 表 4-2 実験で使用した短絡発電機のパラメータ値…………………………………………..20 表 4-3 アルミニウムコーティング FRP ブレードの実験条件……………………………….20 表 4-4 アルミニウムコーティング FRP ブレードでの実験結果…………………………….20 表 4-5 レセプターを施行した FRP ブレードでの実験条件………………………………….22 表 4-6 レセプターを施行した FRP ブレードでの実験結果………………………………….22 表 5-1 実験番号及び実験片条件………………………………………………………………..26 表 5-2 IEC 保護レベルと雷パラメータの最大値……………………………………………..26 表 5-3 実験で使用した短絡発電機のパラメータ値…………………………………………..26 表 5-4 アルミニウムコーティングでの実験番号・実験条件………………………………...27 表 5-5 アルミニウムコーティングでの実験結果……………………………………………..27 表 5-6 ステンレスコーティングでの実験番号・実験条件…………………………………..29 表 5-7 ステンレスコーティングでの実験結果………………………………………………..30 8 第1章 序章 1-1 緒言 現在、風力発電機は二酸化炭素を排出しない地球環境に優しいクリーンなエネルギーと して注目されている。日本の風力発電機の発電容量は 68 万 kW(2003 年度)で、国内の設 置台数は 735 基になり、近年設置台数が増加している。風力発電機の設置場所は、風況の よい北海道や北陸地方に多いが、高知県でも 300kW∼600 kW の風力発電機が 7 台設置さ れて、北欧でも風力発電機の普及率が高く、世界中でも普及されている。しかしながら、 風力発電は自然を相手にしていることから安定した電力を得ることが難しく、課題でもあ る。 日本は北欧に比べ雷が発生しやすく、風力発電機の大型化と設置台数の増加と共に、落 雷によるブレードの損傷事故が頻繁に生じるようになった。このままだと風力発電機の発 電ができなくなり、風力発電機の期待が損なわれ、風力発電の自体の発展にも影響してく ると考えられる。 表 1-1 日本における風力発電導入量の推移 9 1-2 風力発電機の落雷被害 風力発電機は風況の問題から山頂付近や海岸線に設置されることが多く、風力発電機自 体もブレードが回転するため、ブレード先端が最も高い位置になりやすく、その高さは 50m 程になるものもある。そのため、落雷被害が多く発生してしまう。風力発電機の落雷によ る被害として、ブレードの材質によって先端部や側面部が損傷し、場合によってはブレー ド自体が全損するくらいの被害が発生することもある。一般的にブレードは電気抵抗の高 い絶縁体である FRP(繊維強化プラスチック)製が多い。しかし、落雷が発生する時には雨が 降ったりしてブレードが湿ったりし、そのうえ時間の経過によるブレード表面に小さなご みの付着や小さい傷ができ、そのわずかな傷や穴やひび割れから雨水などが侵入し、それ が導電体となってブレード内部に電流が流れ、ブレードが破損することがあると考えられ る。落雷よる被害が小さかったとしても、ブレードの耐久性や発電に及ぼす影響や傷によ る騒音の問題から、一度ブレードを地上に下ろして修理を行う必要がある。またブレード が破損した場合には、修理に要する時間が長くかかり、発電が出来なくなり稼動するまで にはかなりの時間が必要になる。 図 1-1 高知県大豊風力発電機の落雷でのブレード損傷状況 表 1-2 国内における落雷の被害の割合 その他 13% 配電線 7% ブレード 40% 敷地内 7% 避雷針 13% 風況観測装置 20% 10 1-3 研究目的 風力発電機は地球環境に優しいクリーンなエネルギー源として注目され、風力発電機大 型化と設置台数の増加と共に落雷によるブレードの損傷被害が頻繁に生じるようになった。 ブレードが破損した場合その大きさから、修理にかなりの時間がかかり、また修理中は発 電を行うことができない。そこで製造メーカは落雷対策にさらに強化しようとしている。 高知県大豊町に設置されている風力発電機のブレードは、落雷対策として誘導チップを備 えているものの、実際に落雷によってブレードが破損しることもあり、効果が十分とは言 えない。落雷対策として避雷針を設置する場合、発電機よりも高い位置に設置しなければ ならなく、コストも高く必ず落雷するという保障もない。また避雷針をたくさん設置する と景観を損ねてしまう。風力発電機のブレードに落雷させない対策はコストが高いため、 落雷しても被害が小さく、発電に影響がない対策が求められている。そこで本研究は高知 県企業局の研究委託でブレード全体を落雷から保護する目的で研究を進めていく。 11 第2章 風力発電機の落雷対策 2-1 落雷の実態 落雷は、雲が鉛直方向に発達する対流性雲(積雲、積乱雲、雷雲)や雷雲中にある+の電 荷と−の電荷がそれぞれ異なる側に集まることによって、電荷の分離、蓄積が進んで電界 が強まり空気の絶縁破壊が起きて、雷放電が起きる現象である。また雷には夏季雷と冬季 雷の 2 種類があり、性質も異なる。夏季雷は、積雷雲など雷を起こす雲の高さが 10 数 km にも達し、その雷雲の内部で雷が発生しやすく、雷雲の範囲は狭い。また極性の 90%以上 が負極性で、10%以下が正極性である。冬季雷は雷雲の高さは 5~6km と低いが、水平方向 に範囲が広く、地上から上向きの雷が多く電流の継続時間が長い。また極性は約半々で、 雷撃 1 回あたりのエネルギーが非常に高い。 また落雷の時間は平均 10∼15 秒の間隔で、短くて 0 秒(同時)長くて約 1 分で落雷が起 こっている。一度落雷があった場合次に落雷する場所はその場所から平均 4∼6km,近くで 約 200m、遠くで約 10km となっており、また過去には 50km も離れた地点に落下した記 録もある。そのため落雷する位置を予測するのは不可能であると言える。 2-2 風力発電機の落雷対策 一般的なブレードの落雷対策は次の通りである。 (1)避雷針 避雷針はブレードの最頂部を 60 度の保護範囲に入るように設置する必要がある。風力発電 機のサイズが小さい場合や設置台数が少ない場合効果を発揮する。大型の風力発電機では 避雷針に高さが高くなるために、設置に多額の費用がかかることや景観を損ねることがあ る。 (2)レセプター ブレードの先端付近に導雷部を設け、そこに接続した金属ワイヤをブレード付け根まで通 す方法である。導雷部で落雷させ雷電流を金属ワイヤに通らせ、その後ナセル、タワーを 介して接地極へと流す方法である。 (3)ブレード翼端の保護(ダウンコンダクタ) ブレードの翼端に金属製のコンダクタを取り付けるものである。ブレードに落雷した時に 雷電流を翼端のコンダクタを通じてブレードを通過し、その後ナセル、タワーを介して接 地極へと流す方法である。 (4)金属メッシュ ブレードに金属製のメッシュを組み込むことにより、ブレード表面が落雷によって大きな 損傷を受けることなく雷電流を流す方法である。 12 2-4 溶射について 今回実験を行う 1/2 モデルのブレードにはアルミニウムとステンレスをコーティングと して溶射する。 溶射とは、燃焼炎、熱エネルギーや電気エネルギーを用いて各種材料を溶融し、それらを 素材表面に付着させて皮膜を形成させることにより、様々な機器・装置の部材表面に優れ た機能と品質を付加する表面被覆技術である。また、溶射は。多種多様な種類と形状の素 材に適用できると共に、薄膜から肉盛まで皮膜の厚さを広範囲に選定できるという優れた 特長を持ち、高度化・多様化が進むあらゆる産業分野において、材料の性能向上や新機能 素材の開発に大いに利用されている。 不完全溶融粒子 酸化膜 機械的かみ合部 溶融粒子 酸化膜 気孔 素材 素材表面 衝突中の粒子 図 2-1 溶射の仕組み 13 0.1mm 第 3 章 FRP ブレードの温度上昇 3-1 金属の熱・電気物性 落雷で風力発電機のブレードが破壊される原因として、高電圧高電流が流れたときに発 生する熱エネルギーと電気エネルギーによるブレード表面の複合材料の剥離や燃焼及び落 雷点部分の金属構成要素の加熱または溶断よるものだと考えられている。そこで実物大 FRP ブレード及び 1/2 サイズモデル FRP ブレードでの落雷実験を実施する上で、アルミニ ウムまたはステンレスの高電圧高電流付加における熱物性を知る必要がある。そこでアル ミニウム及びステンレスの熱物性として熱伝達・熱伝導をまとめる。 まず始めに1つの特定の物体の温度を 1℃だけ上昇させるのに必要な熱エネルギー量を その物体の熱容量と言い、物体の熱容量はその質量に比例する。この定義から熱容量 C の 次式で表される。 物体に熱量 Q を与えたときに ∆T の温度変化が生じることからすなわち、 Q = C∆T (3.1) 物体の熱容量はその質量に比例する。従って、その物体を構成している物質について、 比熱と呼ばれる単位質量あたりの熱容量 c は次式で表される。 c= C m (3.2) 上式の式(3.1)と式(3.2)から、質量 m の物質とその周囲のものとの間で伝達される熱エネル ギーQ は、温度変化が ∆T = T f − Ti であるとき次式で表され、物質 1mol あたりの熱容量を モル比熱と呼ぶ。 Q = mc∆T (3.3) 主な金属の比熱を表 3-1 に示す。 表 3-1 25℃における金属の比熱 物質 比熱 モル比熱 J/kg・℃ J/mol・℃ アルミニウム 900 24.3 銅 387 24.5 金 129 25.4 鉄 448 25.0 鉛 128 26.4 銀 234 25.4 14 次に金属の伝熱には基本的には熱伝導、熱伝達、熱輻射の 3 つである。熱伝導は原子的観 点から見ると、分子どうしの運動エネルギーの交換である。エネルギー的に粒子がエネル ギー的にもっと高い粒子と衝突するときにエネルギーを獲得することにより、熱が伝達し ていくことである。熱伝導は熱伝達が起きる 媒体の 2 ヶ所に温度差があるときだけ生じる。 厚さが ∆x 、断面積が A の板状の材料において、 T₂ A その両側が異なる温度 T₁および T₂になって いる場合を考える。ただし、T₂>T₁とし、図に 示す。実験的に、時間 ∆t の間に熱い側から冷 たい側へ流れる熱の流量(熱伝達率) ∆ Q/ ∆t T₂>T₁の場合 は、断面積と温度差とに比例して、厚さに反 の熱の流れ Δx 比例する。すなわち、次式で表される。 ∆Q ∆T ∝A ∆t ∆x ここで H = ∆Q / ∆t を用いて、次式は H = − kA dT dx T₁ (3.4) 図 3-1 熱伝達の流れ (3.5) となる。 上式は熱伝導の法則を呼ばれ、 k は物質の熱伝導率、 dT / dx は温度勾配と呼ばれる。上式 の負号は熱が温度勾配と逆向きに、すなわち温度の低い方向に、流れることを表している。 今回の落雷実験では、短絡発電機と FRP ブレードをヒューズで結ぶため、熱伝導と熱伝達 の 2 種類による伝熱と仮定する。 主な金属の熱伝導率を表 3-2 に示す。 表 3-2 金属の熱伝達率 物質(25℃) 熱伝導率(W/m℃) アルミニウム 238 銅 397 金 314 鉄 79.5 鉛 34.7 銀 427 ステンレス鋼 25 15 3-2 導体の温度上昇の導出式 導体の温度上昇の導出式は次式である。 θ −θ0 = ここで θ − θ0 : α : W R : ρ0 : 1 (W R ) ⋅ α ⋅ ρ 0 ⋅ exp − 1 α q 2 ⋅ λ ⋅ C w 導体の温度上昇 抵抗体の温度係数( 1 K ) 衝撃電流のエネルギー仕様値( J Q ) 室温における導体の抵抗仕様値( Ω ⋅ m ) q : 導体の断面積( m ) γ : 材料密度( kg m ) Cw : (3.6) 2 3 熱容量( J kg ⋅ K ) 次に落雷保護に用いられる典型的金属の物理特性を表 3-3 に示す。 表 3-3 金属の物理特性 金属の種類 銅 α (1 K ) ρ0 ( Ω ⋅ m ) 3.92 × 10 アルミニウム −3 4.00 × 10 −3 鋼 6.50 × 10 ステンレス鋼 −3 8.00 × 10 −4 γ ( kg m 3 ) 17.8 × 10 −9 8920 29.0 × 10 −9 2700 120.0 × 10 −9 7700 700.0 × 10 −9 8000 θ s (℃):溶融点 1080 658 1530 1600 C s ( J kg ) 2.09 × 105 385 3.97 × 105 908 2.72 × 105 469 2.72 × 105 500 C w ( J kg ⋅ K ) 3-3 温度上昇計算 式(3.7)を用いて、落雷による金属の温度上昇を計算する。 (1) 実物大ブレードの落雷実験 ステンレス丸棒 6mm 径、9mm 径をレセプターとして施したブレードの落雷実 験を行う。そこでステンレス丸棒各径の高電圧高電流における温度上昇を計算 する。 (2) 1/2 サイズモデルのブレードの落雷実験 内部に流れる雷電流を外に流れるのを手助けするためにダウンコンダクタをブ レードの内部に取り付け実験を行う。そこでアルミニウム丸棒とステンレス丸 棒の高電圧高電流における温度上昇を計算する。 16 (1)レセプター付き実物大ブレードでの温度上昇値 電荷量 300 クーロンでのステンレスの丸棒の温度上昇値を計算する。 表 3-4 電荷量が 300 クーロンでのステンレスの丸棒の温度上昇値 6mm径 α 抵抗体の温度係数: (J /Ω) 8.00 × 10−4 10000000 (Ω⋅m) 7.00 × 10−7 (1 / k ) 電流の比エネルギ:W / R 9mm径 導体の比抵抗: ρ0 導体の断面積: q ( mm ) 材料の密度: γ ( kg / m ) 8000 熱容量: Cw ( J / kgk ) 500 温度上昇値: θ −θ0 2 28.3 63.6 3 (Κ ) 5929.28 516.95 (2)ダウンコンダクタ付き 1/2 サイズブレードでの温度上昇値 全電荷移送量 300 クーロンで電流の比エネルギ: W / R ( J /Ω)が 10000000 であること から 75 クーロンで電流の比エネルギは 625000 として、導体の温度上昇の導出式(3.6)を使 いアルミニウム及びステンレスの各径の温度上昇を求める。 ① アルミニウム アルミニウムの各径の温度上昇値を表 3-5 に示す。 表 3-5 各径の温度上昇値 導体の断面: mm 2 温度上昇値: Κ 2mm径 4mm 径 5mm径 6mm 径 8mm径 3.14 12.6 19.6 28.3 50.3 4768.19 51.19 20.1 9.40 2.94 ② ステンレス ステンレスの各径の温度上昇値を表 3-6 に示す。 表 3-6 各径の温度上昇値 導体の断面: mm 温度上昇値: Κ 2 2mm径 4mm 径 5mm径 6mm 径 8mm径 3.14 12.6 19.6 28.3 50.3 893385.74 919.05 319.75 144.31 43.99 17 (3)コーティングの温度上昇値 1/2 サイズのモデルの幅を 5 箇所測定し、測定値を表 3-7 に示す。 表 3-7 各地点の幅 地点 幅(mm) ① 280 ② 265 ③ 250 ④ 230 ⑤ 215 ⑤ ④ 1m ③ 測定したブレードの幅の平均値をとると ② 約 250mm となり、コーティングのみの 断面積を求めるのにこの値を用いること ① にした。 図 3-2 1/2 サイズブレードの測定地点 今回実験に用いるブレードの厚さは 42mm、コーティング溶射膜は 150μm であることか ら、ブレードの断面部を楕円として考える。 楕円の断面積= 1 × π × a (長軸) × b(短軸) 4 (3.7) 2 上式(3.7)よりコーティングのみの断面積は約 7 mm である。 さらに、丸棒の円形断面として考えると約 3mm 直径に相当する。 以上から、アルミニウム及びステンレスコーティングの断面積を円形断面の直径として、 式(3.6)に代入して温度上昇値を計算し、表 3-8 に示す。 表 3-8 アルミニウムとステンレスコーティングの各電荷量の温度上昇 電荷量 150C におけ 電荷量 75C に置ける る温度上昇値 温度上昇値 アルミニウム 2544.88 207.14 ステンレス 1580047.03 6204.80 18 第4章 実物大 FRP ブレードの落雷破壊実験 4-1 実験目的と内容 過去に行った落雷破壊実験での、1/2 モデルのアルミニウムコーティング無し FRP ブレードの結果は次のようになった。大電流を直接表面に流した場合には損傷及び破 壊はないものの、ススなどでブレードの外観が損なわれ、また大電流をブレード内部 に流すと破壊することがわかった。また破壊損傷の形態は実際の風力発電機用ブレー ドの落雷破壊(岩手県風力発電機の破壊の件)に類似していることが得られた。今回 の実験では、1/1 実物大(250kW 風力発電用)を 4 分割にしたブレードで落雷実験を 実施した。実物大ブレードでのアルミニウムコーティングの落雷破壊防止効果を確認 することと、実物大ブレードでのレセプターの効果の確認が目的である。 実験内容は以下の通りである。 ・ 短絡発電機の放電部からブレードモデル表面にヒューズ(細い銅線)を張り電流を 流し、ブレードの表面での破壊状況を調べる。 ・ 実物大ブレードに関して、アルミニウムコーティングを施したものとそうでないも のの比較を行う。 ・ アルミニウムコーティングを施してないブレードの場合でも模擬レセプターをセ ットして落雷実験を行い、レセプターの落雷破壊防止効果を確認する。レセプター は 6mm 直径及び 9mm 直径のステンレス棒を準備して実験を行う。 4-2 実験方法と設備 短絡発電機の放電部からブレードモデル表面にヒューズ(細い銅線)を張り付け、短 絡発電機を用いて電荷量 300C を目標して落雷実験を行う。実験に使用したブレード は実物を切り出したものである。三菱重工業製の 250Kw 発電用 12.6m 長さのブレー ドであり、4 分割にしたもので実験を行った。 一般的な雷のパラメータ値を表 4-1 に示し、実験で使用する短絡発電機のパラメータ 値を表 4-2 に示す。 19 表 4-1 IEC 保護レベルと雷パラメータの最大値 保護レベル ピーク電流 ※比エネルギー 平均電流上昇率 ※全電荷移送量 IEC61024-1-1 (kA) (kJ/Ω) (kA/μs) (C) Ⅰ 200 10000 200 300 Ⅱ 150 5600 150 225 Ⅲ 100 2500 100 150 表 4-2 実験で使用した短絡発電機のパラメータ値 保護レベル ピーク電流 ※比エネルギー 平均電流上昇率 ※全電荷移送量 IEC61024-1-1 (kA) (kJ/Ω) (kA/μs) (C) Ⅰ相当 47.1 11100 0.0109 300 Ⅱ相当 35.3 6230 0.0082 225 Ⅲ相当 23.6 2780 0.0055 150 ※電荷上昇率は低いが注入エネルギー(C)は同等にできる。 4-3 アルミニウムコーティング FRP ブレードでの実験 表 4-3 に示す手順で実験を行った。 表 4-3 アルミニウムコーティング FRP ブレードの実験条件 試験番号 試験片条件(備考) 電荷量目標値(C) 250kW、3/4 部位 1 0.3mm 厚さアルミニウム箔貼り付け 250kw、1/4 部位 2 300 330 アルミニウムコーティング処理 4-4 アルミニウムコーティング FRP ブレード実験結果 アルミニウムコーティングをした FRP ブレードでの実験結果を下の表 4-4 で示す。 表 4-4 アルミニウムコーティング FRP ブレードでの実験結果 試験番号 実際の電荷量(C) 1 318 2 561 結果 約 100mm の穴が出来て剥がれた。 アルミニウム箔接合部が溶融した。 (図 4-1,2,3,4) アルミニウムコーティングが剥がれて焦げている。 膜は 180∼220μm 20 (図 4-5,6,7,8) 図 4-1 アルミニウム箔貼り付け試験前 図 4-2 アルミニウム箔貼り付け試験後 図 4-3 アルミニウム箔貼り付け試験後 図 4-4 アルミニウム箔貼り付け試験後 図 4-6 アルミニウムコーティング試験後 図 4-5 図 4-7 アルミニウムコーティング試験前 図 4-8 アルミニウムコーティング試験後 21 アルミニウムコーティング試験後 4-5 レセプターを施工した FPR ブレードでの実験 表 4-5 に示す手順で実験を行った。 表 4-5 レセプターを施工した FPR ブレードの実験条件 試験番号 試験片条件(備考) 電荷量目標値(C) 温度上昇値(計算値) 250kW、4/4 部位 3 9mm 直径ステンレス丸棒を取り 300 516.95 330 5929.28 付け(800mm 長さブレード内) 250kW、4/4 部位 4 6mm 直径ステンレス丸棒を取り 付け(800mm 長さブレード内) 4-6 レセプターを施工した FPR ブレード実験結果 レセプターを施工した FRP ブレードでの実験結果を下の表で示す。 表 4-6 レセプターを施工した FPR ブレードでの実験結果 試験番号 実際の電荷量(C) 3 301 4 295 結果 ステンレス棒は焦げたもののブレード自体は一部が焦げた 程度であった。 (図 4-10,4-11) ブレードが破壊し、ステンレス棒は溶融した。 (図 4-12,4-13,4-14) 22 図 4-9 ステンレス棒挿入実験前 図 4-10 ステンレス棒 9mm 径挿入実験後 図 4-11 ステンレス棒 9mm 径挿入実験後 図 4-12 ステンレス棒 6mm 径挿入試実験前 図 4-13 ステンレス棒 6mm 径挿入試験後 図 4-14 ステンレス棒 6mm 径挿入試験後 23 4-7 実物大 FRP ブレードでの実験の考察 電荷量を 300C の目標で実物大ブレードの実験を行った。表面に伝導性の材料として アルミニウム箔を貼り付けたブレード、アルミニウムコーティング施行したブレード、 実物大の FRP ブレードにレセプター挿入(9mm、6mm 直径ステンレス棒)を模擬し た 4 種類の FRP 実物大試験片を準備した。過去に行った実験と同様に大電流落雷試 験を実施した。これらの実験から次の結果が得られた。 (1)アルミニウム箔を貼ったブレードは張り付け方が十分ではなく、瞬間的に高い温度 に上昇したことから、アルミニウム箔に穴が空き、また接着部も剥がれる状態であ った。実際にアルミニウム箔を貼ったブレードを実用化するには接着方法、適正箔 の厚みなど課題が多い結果になった。 (2)アルミニウムコーティングを施した FRP ブレードはアルミニウムが焦げる結果とな り、破壊はしなかったものもブレード自体の外観が損なわれ製品としては受け入れ られない結果であった。実験では電荷量が当初予定(300C)の 2 倍になったとは言 え、焦げない状況でアルミニウムコーティングでの FRP ブレードを実用化するには アルミニウムの材質、接合強度など課題が多い結果になった。 (3)レセプターを施したブレードで模擬実験を実施したところ、9mm ステンレス丸棒を 取り付けたブレードの破壊は生じなかったものも、一部が焦げる、あるいは一様で はなく弱い部分は損傷を受ける。適正なレセプターの大きさを使用条件と合わせて 検討する必要がある。またステンレス丸棒の温度上昇値を計算すると約 520℃の温度 上昇が求められ、実験結果と比較検討を行った。9mm ステンレス丸棒はテンパーカ ラーと呼ばれるステンレスに熱を加えることにより、 ステンレス表面に多彩な色の変化 が生じる現象が見られたことから約 400℃以上になったことが考えられる。このことか ら温度上昇値計算結果は妥当だと考えられる。 (4)レセプターを施したブレードで模擬実験を実施したところ、6mm ステンレス丸棒は 完全に溶け、ブレードは破壊した。上記の結論と同様にレセプターを採用する時に 使用条件に合わせた適正サイズの検討が必要である。またステンレス丸棒の温度上 昇値を計算すると約 6000℃の温度上昇が求められ、実験結果と比較検討を行った。 6mm ステンレス丸棒は完全に溶けたことから、ステンレスの融点である約 1700℃ 以上になったと考えられる。このことから温度上昇値計算結果は妥当だと考えられる。 24 第5章 1/2 モデル FRP ブレードの落雷破壊実験 5-1 実験目的と内容 前回行った 1/1 実物大 FRP ブレードでの落雷実験で、アルミニウムコーティングは落 雷による損傷を低減させる結果が得られた。大電流をブレード表面に流すとススが生 じる程度で破壊することはなかったが、大電流をブレード内部に流すと破壊が生じた。 実際の落雷によるブレードの破壊の事例を見ると何らかの影響でブレード内部に電 流が流れたと考えられる。即ち、経年劣化などでブレードの内部に電流が流れるとの 前提で対策を考える必要がある。そこで今回は 1/2 モデル FRP ブレードで落雷破壊実 験を実施した。電流をブレード内部に流さないようにするため、あるいは内部と表面 に流れても表面に流れる割合を多くするためにブレードの下部にコンダクタを取り 付けた。また表面に電流が流れブレードの外観が損なわれないようにするためにブレ ードの表面にアルミニウムコーティングの接着方法と接合量を変えて実験を行う。さ らにステンレスコーティングを施したブレードについても同様に実験を行い、アルミ ニウムとステンレスの比較をする。 5-2 実験方法と設備 ・ 短絡発電機の放電部からブレードモデル表面に 1.6mm 直径の銅線をヒューズに し張りそこへ電流を流し、ブレードの表面での破壊状況を調べる。ヒューズの取 り付け方法を先端と側面の 2 種類にした。 ・ ブレードモデルの先端と底面に穴をあけ、そこへ 0.5mm 銅線を取り付け、ブレー ド内部に電流を流すようにする。これは雷がブレードの先端に落雷しやすいため、 先端から内部に電流が侵入したということを想定して実験を行う。 ・ 実験で加わる電流は 11.8kA∼47.1kA、電圧は 20.0kV である。しかし実際の落雷 は 150kA を超えるものも多い。今回の実験では電流値は実際のものより低いが、 比エネルギー(注入エネルギー)を実際のものに近い値で実験を行う。 ・ また全電荷移送量(C)を 75C、150C、300C と変化させて実験を行う。 図 5-1 ブレードのセッティング 25 表 5-1 実験番号及び実験片条件 実験番号 実験片番号 1-1 1-2 4 実験片条件 アルミニウムコーティング+アルミコンダクタ アルミニウム丸棒 2mm 直径 1-3 2-1 2 3-1 7 4-1 6 5-1 5 6-1 8 7-1 3 アルミニウムコーティング+アルミコンダクタ アルミにうむ丸棒 4mm 直径 ステンレスコーティング+ステンレスコンダクタ ステンレス丸棒 6mm 直径 ステンレスコーティング+ステンレスコンダクタ ステンレス丸棒 3mm 直径 ステンレスコーティングのみ ステンレスコーティング+ステンレスコンダクタ ステンレス丸棒 5mm 直径 アルミニウムコーティング+アルミコンダクタ アルミニウム丸棒 6mm 直径 表 5-2 IEC 保護レベルと雷パラメータの最大値 保護レベル ピーク電流 ※比エネルギー 平均電流上昇率 ※全電荷移送量 IEC61024-1-1 (kA) (kJ/Ω) (kA/μs) (C) Ⅰ 200 10000 200 300 Ⅱ 150 5600 150 225 Ⅲ 100 2500 100 150 表 5-3 実験で使用した短絡発電機のパラメータ値 保護レベル ピーク電流 ※比エネルギー 平均電流上昇率 ※全電荷移送量 IEC61024-1-1 (kA) (kJ/Ω) (kA/μs) (C) Ⅰ相当 47.1 11100 0.0109 300 Ⅱ相当 35.3 6230 0.0082 225 Ⅲ相当 23.6 2780 0.0055 150 ※ 電荷上昇率は低いが注入エネルギー(C)は同等にできる。 26 5-3 アルミニウムコーティング FRP ブレードでの実験 実験手順・実験片番号及び実験片条件を表 5-4 に示す。 表 5-4 アルミニウムニウムコーティングでの実験番号・実験条件 実験片条件 実験番号 実験片番号 1-1 4 1-2 1-3 備考(セッティングの仕方) 電荷量 通電電流 通電時間 (C) (kAp) (ms) 75 11.8 10 上:銅線 下:銅線+棒 75 11.8 10 上:表面ヒューズ 下:棒 150 23.6 10 上:表面ヒューズ 下:棒 下:棒 2-1 2 300 47.1 10 上:表面ヒューズ 7-1 3 150 23.6 10 上:表面横ヒューズ 下:棒 5-4 アルミニウムコーティング FRP ブレード実験結果 アルミニウムコーティングでの実験結果及び損傷状況を表 5-5 に示す。 表 5-5 アルミニウムニウムコーティングでの実験結果 実験結果 実験番号 実験片番号 1-1 1-2 4 1-3 電荷量 通電電流 通電時間 (C) (kAp) (ms) 78.1 11.0 10.6 78.1 11.0 10.7 143 21.7 10.2 2-1 2 557 47.3 20.0 7-1 3 146 21.6 10.3 図 5-2 実験番号 1-1(78.1C) 損傷状況 ブレード表面に電流が流れず、内部の銅線が溶 けた。ブレード自体に損傷無し。 (図 5-2、5-3) ヒューズを取り付けた部分が焦げたものも、ブ レード自体に損傷無し。 表面コーティングが割れて剥がれた。 損傷有り。 (図 5-6,5-7) 表面のコーティングが割れて剥がれ、内部破裂 した。損傷大。 (図 5-8,5-9) ヒューズの取り付け部からコーティングが割 れて剥がれる。 図 5-3 27 (図 5-4,5-5) 試験番号 1-1(78.1C) (図 5-10,5-11) 図 5-4 実験番号 1-2(78.1C) 図 5-5 試験番号 1-2(78.1C) 図 5-6 実験番号 1-3(143C) 図 5-7 28 試験番号 1-3(143C) 図 5-8 実験番号 2-1(557C) 図 5-9 図 5-10 実験番号 7-1(146C)実験前 5-5 試験番号 2-1(557C) 図 5-11 試験番号 7-1(146C)実験後 ステンレスコーティング FRP ブレードでの実験 実験手順・実験片番号及び実験片条件を表 5-6 に示す。 表 5-6 ステンレスコーティングでの実験番号・実験条件 実験片条件 実験番号 実験片番号 電荷量 通電電流 通電時間 (C) (kAp) (ms) 備考(セッティングの仕方) 3-1 7 75 11.8 10 上:表面ヒューズ 4-1 6 75 11.8 10 上:表面横ヒューズ 下:棒 5-1 5 150 23.6 10 上:表面横ヒューズ 下:なし 6-1 8 75 12.5 10 29 下:棒 上:銅テープ 2 重 2 本 1cm 重ね横 ヒューズ 下:棒 5-6 ステンレスコーティング FRP ブレード実験結果 ステンレスコーティングでの実験結果及び損傷状況を表 5-7 に示す。 表 5-7 ステンレスコーティングでの実験結果 実験結果 実験番号 実験片番号 電荷量 通電電流 通電時間 (C) (kAp) (ms) 3-1 7 78.1 11.0 10.6 4-1 6 78.1 10.9 10.4 5-1 5 146 21.7 10.3 6-1 8 78.1 10.8 10.4 図 5-12 実験番号 3-1(78.1C)実験前 損傷状況 ヒューズを取り付けた先端部が焦げた。 ブレード表面の損傷無し。 (図 5-12,13,14) ヒューズを取り付けた部分が焦げ、コーティ ングが少し剥げた。損傷小。 (図 5-15,16) 表面コーティングが割れて剥がれた。 (図 5-17) 損傷有り。 ヒューズを取り付けた部分が焦げ、コーティ ングが少し剥げた。損傷小。 (図 5-18,19) 図 5-13 実験番号 3-1(78.1C)実験後 図 5-14 実験番号 3-1(78.1C)ヒューズ取り付け部 30 図 5-15 実験番号 4-1(78.1C)実験前 図 5-16 実験番号 4-1(78.1C)実験後 図 5-17 実験番号 5-1(146C) 31 図 5-18 実験番号 6-1(78.1C)実験前 図 5-19 実験番号 6-1(78.1C)実験後 32 5-7 1/2 モデル FRP ブレードの実験の考察 電荷量を 75C∼300C に変化させて 1/2 モデル FRP ブレードの実験を行った。ブレー ド表面をアルミニウムでコーティングを施し、さらに内部の電流を外に逃がすのを手 助けためにダウンコンダクタを取り付けた。ダウンコンダクタはアルミの丸棒を用い、 直径を 2mm、4mm、6mm の 3 種類を用意した。同様にステンレスコーティングを 施したブレードとステンレス丸棒のダウンコンダクタと取り付けたものでも実験を 行った。ステンレスの丸棒の直径は 3mm、5mm、6mm の 3 種類を用意した。 過去に行った実験と同様に大電流落雷試験を実施し、これらの実験から次の結果が得 られた。 (1) 今回の実験片は 1/2 サイズであり、落雷実験の電流による同じ長さでの単位面積あ たりの発熱は実体より 4 倍になり、実際よりも条件が厳しいと言える。 (2) 1/2 モデル FRP ブレードによる落雷実験で、ブレード表面に電流を流してもブレー ド自体が損傷または破壊することがないことが分かった。しかしコーティングの剥 離強度も十分でないことから剥離があり、ブレードの外観が損なわれ、ススが大量 に付着した。 (3) ダウンコンダクタは内部の電流を外に逃がすのを手助けするために取り付けたが、 コンダクタの取り付け方の不十分かつブレード表面との接着が必要であることから、 ダウンコンダクタの働きを証明することができなかった。 (4) アルミニウムコーティングの溶射膜は前回の実験で 75μm、今回は 2 倍の 150μm であった。内部に銅線のフェーズを通したが損傷は少なかった。アルミニウムコー ティングを施すことによってブレード表面に電流が分散し、内部にわずかしか流れ なかったのでブレードの破壊には至らなかったと考えられる。 (5) ステンレスコーティングも同様に溶射膜は 150μm であった。アルミコーティング よりコーティング自体が剥がれる状況が多かった。アルミニウムに比べステンレス の方がブレード表面に溶射するのが難しく、溶射膜の厚さが均一でなく、溶射の厚 さから抵抗値が上がり温度上昇したと考えられる。 33 図 5-20 アルミニウムコーティングの比較 図 5-21 ステンレスコーティングの比較 (左から 78.1C、143C) (左から 78.1C、78.1C、146C) 図 5-22 ステンレスコーティングの比較 図 5-23 アルミニウムコーティング (左から 78.1C、146C、78.1C) とステンレスコーティングの比較 34 第6章 終章 6-1 今後の課題 今回の 1/2 サイズモデルでの実験では、内部に電流が流れたとき、内部の電流を外に逃が すのを手助けするためのダウンコンダクタが、取り付け方の不十分とブレード表面との接 着がされてないことから、ダウンコンダクタの働きを証明することができなかったので、 今後実験を行う。 また、アルミニウムとステンレスをブレード表面にコーティングとして溶射して、ブレー ドの破壊を軽減する効果が多少あることが分かったが、実験段階でコーティングが焼け剥 がれてしまう。今回の実験で使用したブレードは、ブレード表面の FPR の上にトップコー トで処理され、アルミニウム及びステンレスの溶射膜が接着しにくいため剥離強度が下が って剥離したので、今後コーティングを施したブレードで実験を行うときは、コーティン グの剥離強度を上げるために溶射膜とブレード表面を工夫する必要があり、コーティング の厚さの検討も必要だと考えられる。 6-2 結言 今回行った 2 つの落雷実験によって雷電流がブレード表面を流れるより、内部に流れる ほうが、損傷が大きくブレード自体が破壊する可能性が高いことが証明できた。また、実 験によって落雷被害を受けた実際のブレードの破壊損傷を、ブレードモデルを使用するこ とに再現できた。 ブレードにアルミニウムコーティングを施したものについては、実物大のものと 1/2 サイ ズのものについて実験が行うことができた。アルミニウムコーティングは、ブレード表面 に電流が流れてもコーティングが多少焼け剥がれてしまうが、内部にフェーズを通しても ブレード表面のアルミニウムで電流が分散し、ブレード内部に少量しか流れないので内部 からの破壊には効果が多少あると考えられる。 ステンレスコーティングを施したブレードについてはアルミニウムコーティングを施し たものと同様に、ブレード表面のステンレスで電流を分散させて、ブレードの内部からの 破壊には効果が多少あると考えられる。しかしアルミニウムよりステンレスを表面に溶射 したブレードの方が、コーティングが焼け剥がれてススが付着した量が多かった。 また 1/2 サイズモデルでの実験は、電流に対してサイズ的に条件が厳しいので、剥離被害 が大きかったということも考えられる。実際のブレードでは、同じ電荷で実験を行えば、 ブレード自体の表面積も広くなるので電流が十分に分散しやすくなりアルミニウムまたは ステンレスなどコーティングしたものの損傷が若干低減すると考えられる。 35 謝辞 本研究は高知県企業局の研究委託で実施しました。本研究を行う上で、ご指導頂きまし た高知工科大学知能機械システム工学科の坂本東男教授に深く感謝いたします。また、実 験場所・実験装置をお貸しくださいました TMT&D ならびに関係者各位のご協力に深く御 礼申しあげます。 参考文献 1. 恒石卓也 風力発電機用 FRP ブレードの落雷破壊対策 日本機械学会中国四国学生会 2. 谷本大作 第 33 回学生員卒業研究発表講演会講演前刷集,p181,2003-3-15 風力発電機用 FRP ブレードの落雷破壊対策 日本機械学会中国四国学生会 第 34 回学生員卒業研究発表講演会講演前刷集,p70,2004-3-5 3. 4. 5. 6. 7. 武智重之 著 「雷のはなし」 四電エンジニアリング株式会社 四国四県風力発電推進ビジョン Wind turbine generator systems-Part24: Lightning Protection, IEC TR 61400-24 R.H. Golde, Lightning Volume 2, Lightning Protection, Academic Press,1977 F.A. Fisher, J.A. Plumer, and et al, Lightning Protection of Aircraft, Lightning Technology Inc., 1999 8. 61400‐24c IEC 36 付録 1/2 モデル FRP ブレードの落雷破壊実験データ 37 38 39 40 41 42