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日本語入力における最適なキーボード配列の研究
平成 24 年度 卒業研究発表会 日本語入力における最適なキーボード配列の研究 西川 浩志 1. 研 究 背 景 ・研 究 目 的 コンピュータの入力装置としてキーボードは、 現在も重要な役割を果たしている。最近では状況 が 変 化 し 、 iPad や Android タ ブ レ ッ ト 端 末 、 ス マートフォンといった携帯情報端末を使用する光 景が当たり前となってきており、ここでは QWERTY 配 列 の ソ フ ト ウ ェ ア キ ー ボ ー ド が 採 用 さ れ て い る 。 し か し 、 QWERTY 配 列 は 元 々 英 語 の文字入力を想定して考案されたものである。そ のため、日本語入力に適したキーボード配列が求 められる。 本卒業研究は、従来からあるハードウェアキー ボードに加えて、タブレット端末のソフトウェア キーボードに着目し、日本語入力に最適なキーボ ード配列を提案することが目的とする。日常的な ローマ字入力での日本語タイピングに着目し、記 号や数字といったキーは使用しないことを前提に 提案するキーボード配列を考える。ローマ字入力 は、グローバリズムに富んだ訓令式を採用する。 また、編集の際に使用するバックスペースキーや エンターキーなども考慮しない。 2. 研 究 目 標 本卒業研究の目標は、既存のキーボード配列 (QWERTY 配 列 )よ り も 、 日 本 語 入 力 に 適 し た キ ーボード配列を提案し、複数人を対象に実際に検 証実験をすることである。 目標を達成するために以下の項目を満たすキー ボード配列を考える。 ・タ イ プ ミ ス の 回 数 を で き る 限 り 減 ら す 。 ・タ ッ チ す る 総 移 動 距 離 を で き る 限 り 短 く す る 。 ・タ ッ チ タ イ ピ ン グ で は な い の で 、視 認 タ イ ピ ン グしやすいキー配置にする。 3. 既 存 の キ ー ボ ー ド 配 列 の 特 徴 キ ー ボ ー ド の 歴 史 や 既 存 の キ ー ボ ー ド 配 列 (主 に QWERTY 配 列 と DVORAK 配 列 )で 英 文 タ イ ピ ングの特徴などの調査を行った。 (1) 両 手 使 用 度 の バ ラ ン ス の 違 い が あ る 。 QWERTY 配 列 で は タ イ プ す る 仕 事 量 の 57% が 左 手 に か か り 、 43 % が 右 手 に 負 担 が か か る ことが分かった。 (2) 各 指 の 使 用 頻 度 の バ ラ ン ス が 違 う こ と で あ る 。 蘆田 昇 こ の 場 合 、QWERTY 配 列 で は 各 指 に 応 じ て か か る 負 担 が DVORAK 配 列 よ り も バ ラ バ ラ で 悪い。 (3) 中 央 段 だ け で タ イ プ で き る 語 囲 に 差 が あ る 。 QWERTY 配 列 で は 約 100 語 に 過 ぎ な い が 、 DVORAK 配 列 で は 約 3000 語 網 羅 し て い る こ とが分かった。 以 上 の こ と か ら 、 QWERTY 配 列 に は 多 く の 問 題点があることが分かった。 4. 日 本 語 文 字 の 特 徴 分 析 Web 上 の 日 本 語 文 か ら ロ ー マ 字 の 出 現 頻 度 に つ い て 調 査 を 行 っ た 。 フ リ ー ソ フ ト “ KAKASI” を用いて日本語の文章を訓令式のローマ字に変換 後 、文 字 ご と の 頻 出 度 を java プ ロ グ ラ ム で 抽 出 し た。 調 べ た 文 章 中 の ア ル フ ァ ベ ッ ト の 数 は 60360 字 、 数 字 や 記 号 な ど の 無 効 文 字 は 20058 字 で あ っ た 。 そ の 中 で 母 音 の 数 は 全 体 の 59.68% 、 子 音 の 数 は 全 体 の 40.32% と い う 結 果 と な っ た 。 表 1 順位 1 2 3 4 5 ア ル フ ァ ベ ッ ト 頻 出 (top10) 文字 % 順位 文字 14.5 6 A T 13.3 7 O K 12.5 8 I E 11.9 9 U S 9.0 10 N R % 8.7 7.6 7.4 5.6 5.2 ローマ字の 2 文字組、3 文字組の出現頻度につ いても調査を行った。2 文字組と 3 文字組を合わ せ た デ ー タ 数 は 57175 組 で あ る 。 57175 組 の 中 で 、 2 文 字 組 [no]が 一 番 多 く 、 逆 に 一 番 少 な か っ た の が 、 [nu]で あ っ た 。 50 音 以 外 の ロ ー マ 字 表 記 の も の ( 濁 音 ・ 半 濁 音・拗 音 )で あ ら わ さ れ る 組 み 合 わ せ で は 、特 に「 だ 行」で表されているものが多いことが分かった。 拗音については、全体的に発生確率は少ないとい う 結 果 に な っ た が 、[子 音 +yu]、[子 音 +yo]の 形 の ものの発生確率が多いという結果になった。 5. ソ フ ト ウ ェ ア キ ー ボ ー ド の 提 案 今回調査を行ったデータを基に、片手でメール やインターネットの検索を行うことを想定して図 1のようなキー配列を考案した。上段の左右隅の 4つのキーは割り当てていない。 平成 24 年度 卒業研究発表会 図 1 考案したキー配列 このキー配列は、2つの観点を考慮して配置を 行った。1つ目は、母音を全て集めて、さらにソ フトウェアキーボードではタッチタイピングでな く、視認によるタイピングとなるため、最下部の 中心に配置するようにした。2つ目は、より少な い移動距離にしたという点である。母音ごとに対 に な る 子 音 に 特 徴 が あ る こ と が わ か っ た 。そ こ で 、 それらの子音を母音から上下左右のいずれかの1 つのキーの範囲に配置した。図 1 に示すように赤 色は一番使用される母音、青色は母音程使わない が重要な文字群、緑色は優先順位が一番低い文字 群と区別し、キーを配置した。用意した文章タイ プ A,B,C(表 3)を 用 い て 移 動 距 離 を シ ミ ュ レ ー シ ョンプログラムで調べたところ、表2のような結 果が得られた。 表 2 各キー配列の移動距離の比較 (ソ フ ト ウ ェ ア キ ー ボ ー ド 上 で 使 用 す る と 仮 定 ) キーボード配列名 移動距離 QWERTY 配 列 4557cm 考案したキー配列 3874.5cm 備 考 キ ー の 幅 :1.7cm キ ー の 高 さ :1,7cm キ ー 間 の ス ペ ー ス :縦 ・ 横 同 じ で 0.4cm 移動距離とは、2 点間の直線距離を意味す る。 考案したキー配列を評価するため、被験者 5 名 による評価実験を行った。評価方法の手順は次の 通りである。 (1) キ ー 配 列 (QWERTY 配 列 ) を 用 い て 文 章 タ イ プ A,B,C を そ れ ぞ れ 一 分 間 ず つ ど ち ら か 利 き手の指一本でタイピングする。 (2) 文 章 C を 実 験 者 の 打 ち や す い 方 法 で 一 分 間 タイピングをする。 (3)考 案 し た キ ー 配 列 を 用 い て 、ま ず 練 習 用 文 章 で練習する。 (4) 考 案 し た キ ー 配 列 を 用 い て (1) と (2) の 作 業 を繰り返す。 (5)10 項 目 程 度 の ア ン ケ ー ト に 答 え て も ら う 。 表3 文章の特徴 文章タイプ 総文字数 特徴 A 280 3 文字以下の単語が多い B 345 4 文字以上の単語が多い C 420 短い文章形式 6. ハ ー ド ウ ェ ア キ ー ボ ー ド の 提 案 3 . よ り 、 QWERTY 配 列 で は な く 、 DVORAK 配列をベースにしたキーボード配列を提案する。 右側に子音、左側に母音を配置する形になる。上 段 左 か ら 文 字 を 並 べ て 、 PLYD 配 列 と 呼 ぶ 。 子 音 の割り当て方は、使用頻度の高い順に人差指、中 指、薬指、小指の順に割り当てた。残りの子音は 上段から配置した。自分の手の甲によって下段が 見づらくなってしまうのを防ぐ目的がある。下段 に は 、 QWERTY 配 列 で も 下 段 に あ る 文 字 を な る べく配置した。 図 2 図 3 PLYD 配 列 各指の負担率 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン し た 結 果 図 3 よ り 、各 指 に か かる負荷が均等になり、疲労感が軽減されること が 予 想 で き る 。ま た 、各 段 の 使 用 回 数 を 調 べ る と 、 中段の使用頻度が一番高く、中段でタイプできる 範囲が広くなっている。 7. 結 論 ソフトウェアキーボードでは、シミュレーショ ン の 結 果 通 り QWERTY 配 列 に ま さ る キ ー ボ ー ド 配 列 を 提 案 で き な か っ た 。 原 因 は 、 QWERTY 配 列の慣れが影響し、新しいキーボード配列の練習 時間が短かったことが挙げられるため、実験方法 をもう一度吟味する必要がある。ハードウェアキ ー ボ ー ド で は 、QWERTY 配 列 や DVORAK 配 列 よ りも指の負担が少なく、総移動距離の少ないキー ボード配列を提案することができた。今後、より 幅広い年齢層の一般の方を対象にした検証実験を 行うことが望ましい。 参考文献 1 .「 キ ー ボ ー ド 配 列 QWERTY の 謎 」 NTT 出 版 安 岡 孝 一 安 岡 素 子 著 2 . 平 成 23 年 度 卒 業 論 文 「 個 人 に 適 し た キ ー ボ ー ド 配 列 の 提 案 」井 上 朋 紀 3 .平 成 22 年 度 卒 業 論 文 「 Java プ ロ グ ラ ミ ン グ に お け る 最 適 な キ ー ボ ー ド配列に関する研究」東 和樹