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VR のための両面投影可能な半透過型スクリーンの研究
VR のための両面投影可能な半透過型スクリーンの研究 Research on mixed reality with a Semi-transmissive screen 2DS06137R 豊田耕志 Kouji TOYOTA 1. z 孔の形状 立体映像を用いたコミュニケーションツールとして,二 z 孔の大きさ 人のユーザーの間に半透過なスクリーンを介在させ,その z 孔の中心間の距離(ピッチ) スクリーンの表側と裏側で個別の映像を投影するという z 孔の配置 システムを発案した.本システムでは,スクリーンの表側 z 厚さ と裏側とで個別の映像を投影することで,例えばキャッチ z 全体のサイズ(縦×横) ボールやテニスのように二人の人間である一つの映像オ z 材質 はじめに ブジェクトをやり取りするというような映像表現が可能 などを基準として分類されており,DIY ショップ等で一般 となる.またスクリーンを通して向こう側に存在する人や に市販されている. 物が見えるので,例えば図 1 に示した野球ゲームのよう またパンチングメタルには一般に「開孔率」もしくは「開 な,映像と実体とを組み合わせて見るという楽しみ方がで 口率」と呼ばれる,単位面積辺りの穴が占める割合の指標 きるシステムを目指している. がある.この開孔率は主に z 穴の大きさ z 穴と穴の間の距離(ピッチ) z 穴の配置 によって定まる. 3. 図 1 目標とするゲームの例(野球の場合) このような複合現実感(Mixed Reality:MR)技術をエンタ システムの概要 図 3 と図 4 は本システムの完成型の場合のブロック図, 及び利用イメージである. ーテインメントの世界に活かし,新しいゲームやスポーツ などに適用できる可能性を探りたいと考えた. そこでそれらをポイントとして踏まえ,実現するために, 各種材料を試験及び検討した結果,穴の開いた金属板(一 般名称:パンチングメタル)に行き当たり,まずはこの材 料で実験をすることにした. 本システムの主な特徴を簡単にまとめると z 半透過なのでスクリーンを通して向こう側が見え 図 3 システムのブロック図 る z スクリーンの表と裏で別々の映像が投影できる z 偏光が崩れないので偏光を使った立体映像をプロ ジェクションできる という三点になる 2. スクリーンの検討 パンチングメタル(英語名:Perforated metal)とは,ア ルミニウムやステンレスといった金属製の板に,規則正し く穴を開けた物の一般名称である.図 2 にパンチングメタ ルの一般的な形状を例として示す. 図 4 システムの利用イメージ 前述したように,本システムではスクリーンの表と裏の両 面を使うことを想定しており,そのためスクリーンの表側 及び裏側で同一のシステムを組む.また本システムは偏光 によって両眼用の像を切り分ける方式の立体映像を投影 図 2 パンチングメタル(写真) パンチングメタルは概ね するシステムとなっており,従ってプロジェクターは表と 裏で各 2 台ずつの,合計 4 台を設置する必要がある.その 上で用いる PC 同士を LAN 経由で接続し,投影する映像を 文字)を見て,それが何であるかを答える.4 種類それ 4 台のプロジェクターで同期させることとなる.図 3 およ ぞれの試料において同様に行い,正答数を調べた. び図 4 を用いて本システムの利用のポイントを説明する. 図 3 にあるように,スクリーンの左側に立っている対戦者 S は,スクリーンを通して右側にいる対戦者 T を見ること 図 5 ランドルト環(例) ができる.また同時に対戦者 S にはプロジェクターA から 出たボール1 の3D 映像がスクリーンに移って見えている. 同様にスクリーンの右側に立っている対戦者 T には,スク リーンを通して左側にいる対戦者 S の姿が見えていると 同時に,スクリーン上にプロジェクターB から出たボール 2 の 3D 映像が見えている.ボール 1 の映像とボール 2 の 映像は同期しており,例えばボール 1 の映像が対戦者 S に向かって飛んできているような映像の場合は,対戦者 T の姿と合わさって,対戦者 T がボールを投げたように見え 図 6 スクリーン透過の実験 る.またその場合,対戦者 T にとってはボールが飛んでい く映像が見えていることとなり,従って対戦者 T にはボー ルと対戦者 S の姿が合わさって,まるでボールが対戦者 S 同様にして投影の実験を行なった.実験の概略図を図 7 に示す. に向かって飛んでいくように見える. 4. スクリーンの選定実験 前述したように,パンチングメタルには様々な形状・種 類が存在する.それらを今回のようなエンターテインメン トシステムのスクリーンとして利用するには一体どの形 状のものが良いのかという研究は現在までになされてい ない.そこでパンチングメタルをスクリーンとして利用す るための指標を導出するための実験を行った. 図 7 スクリーン投影の実験 具体的にはスクリーンの性能評価実験として 実験参加者はスクリーンから 2m の位置に立ち,スクリ z スクリーンを透過したものの見え方 ーンに投影された刺激(実験 1 と同様のランドルト環 25 z スクリーンに投影した映像の見え方 種類,及び平仮名 25 文字)を見て,それが何であるかを答 の二つを主観評価により測定することにした. える.それぞれの試料において実験 1 と同様に実験を行い, 正答数をカウントする. 表 1 各試料の孔の直径と開孔率 のグラフを図 8 にプロットした. 開孔率(%) 試料A 5.0 35.4 試料B 3.0 51.0 試料C 1.0 22.7 試料D 0.5 22.7 実験中では数種類あるパンチングメタルの中でも特に (1)孔の直径(2)孔の中心間の距離(ピッチ)の差に主眼を 置き,表 1 に挙げた 4 種類のパンチングメタルを用いた. 100 90 80 70 60 正答率(%) 孔直径(mm) 今回の実験で得られた二つのデータを表 2 にまとめ,そ 投影平均(%) 50 透過平均(%) 40 30 20 10 0 試料B 実験内容として,それぞれにおけるスクリーンを透過し て見える実体,及びスクリーンに投影した映像について, 実験参加者に観測してもらい,観測したものを正確に認識 できるかどうか,その認識率について調べた. 透過の実験の概略図は図 6 の通りである. 実験 参加者はスクリーンから 2m の位置に立ち,スクリーン を挟んで反対側2m の位置に呈示される刺激(5 段階で大 きさの異なるランドルト環をそれぞれ 5 種類,合計 25 個と,同様に 5 段階で大きさの異なる平仮名を合計 25 試料A 試料C 試料D 図 8 開孔率順に見る各実験での正答率のグラフ 図 8 から,試料 B と試料 C の間で,透過の実験と投影の実 験との正答率の平均値が,試料 B では透過の実験が高く, 試料 C では投影の実験が高いという結果となっている部 分に注目して欲しい. 投影の実験に関しては,開孔率の 順に綺麗に右肩上がりのグラフになっていることがわか る.また透過の実験に関しても,ほぼ開孔率の順に右肩下 がりになっている.ちなみに試料 C と試料 D は開孔率が同 一であり,この二つの違いは試料 D の方が孔の直径が小さ い(0.5mm)というものであった.試料 C は穴の直径が 1mm 観測したものを正確に認識できるかどうか,その認識率に であったことから,同一の開孔率の場合は孔の直径が小さ ついて調べた. い方が良好な結果が得られる可能性がグラフから窺える. 表 3 各試料の孔の直径と開孔率 表 2 開孔率順に並べた各試料の正答率 孔直径(mm) 実験 1 結果(%) 実験 2 結果(%) 開孔率(%) 試料 A 3.0 51.0 試料 B 86.9 53.1 試料 B 1.0 22.7 試料 A 80.0 64.4 試料 C 0.5 22.7 試料 C 78.2 96.4 試料 D 80.7 99.1 透過の実験の概略図は図 10 の通りである. また図 8 から,スクリーンを透過したものの見え方におい て,そしてスクリーンに投影した映像の見え方においての 両方で良好な(ないしちょうど良い)結果となるのは試料 A と試料 C の間の,開孔率 20%前後であると予想される. 5. スクリーンの振動実験 前章のスクリーンに関する実験中に,偶然スクリーンが 揺れている状態に遭遇し,そのときにスクリーンの見え方 図 10 スクリーン透過の実験 (刺激の認識率)が向上する可能性を思いついた.そこで第 4 章で行った実験と合わせて,スクリーンが振動している 実験参加者はスクリーンから 2m の位置に立ち,スクリ 状態でのスクリーンの見え方に関する実験を行うことと ーンを挟んで反対側 2m の位置に呈示される刺激(5 段階で した.スクリーンは図 9 で示したように横方向の振動とし 大きさの異なるランドルト環をそれぞれ 2 種類,合計 10 た.これは縦方向では重力の影響を受け,振動の速度が安 個と,同様に 2 段階で大きさの異なる平仮名を合計 10 文 定しない可能性を考えたためである. 字)を見て,それが何であるかを答える.3 種類それぞれ の試料において同様に行い,更にそれぞれの試料に関して 振動させた条件でも同様の実験を行い,正答数を調べる. 図 9 スクリーンの振動のイメージ 具体的にスクリーンの性能評価実験として z スクリーンを振動させない場合の,スクリーンを 透過したものの認識率 z 過したものの認識率 z z 図 11 スクリーン投影の実験 スクリーンを振動させた場合の,スクリーンを透 また投影の実験の概略図を図 11 に示す.実験参加者は スクリーンを振動させない場合の,スクリーンに スクリーンから 2m の位置に立ち,スクリーンに投影され 投影した映像の認識率 た刺激(実験 1 と同様のランドルト環 10 種類,及び平仮名 スクリーンを振動させた場合の,スクリーンに投 10 文字)を見て,それが何であるかを答える.それぞれの 影した映像の認識率 試料において実験 1 と同様に実験を行い,正答数をカウン の四つを主観評価により測定することにした. トする. 本実験では前回同様,パンチングメタルの(1)孔の直径 今回の実験で得られたデータを,各試料の開孔率の順に (2)孔の中心間の距離(ピッチ)の差に注目し,表 3 に挙げ 表 4 にまとめた.また振動の有無による認識率の変化が分 た 3 種類のパンチングメタルを実験に用いている.また, かり易くなるように,両条件で結果を図 12 および 13 にプ 今回の実験ではパンチングメタルを振動させた条件下で ロットした.図 12 及び図 13 から,スクリーンを透過した の認識率がどうなるかを測定するために,素材にはモータ ものの見え方において,そしてスクリーンに投影した映像 ーを仕込み, 駆動出来るようにしてある. 実験内容として, の見え方においての両方で,振動を加えた条件の方が,認 それぞれにおけるスクリーンを透過して見える実体,及び 識率が上がる,もしくは振動を加えても認識率が下がらな スクリーンに投影した映像を,振動の無い場合,及び振動 いということが見て取れる. のある場合の二つの条件で実験参加者に観測してもらい, 表 4 開孔率順に並べた各試料の正答率 現在,このシステムを用いたテニスゲームを作成中である. プレイ時のイメージは図 15 のようになる. 透過 透過 投影 投影 (振動 (振動 (振動 (振動 ナシ) アリ) ナシ) アリ) 試料 A 48.6 58.6 47.9 86.4 試料 B 42.1 47.9 82.9 95.7 試料 C 42.3 42.9 96.4 98.6 100 スクリーンを挟んで両側に立った対戦者同士が,映像の 90 80 ボールを打ち合うという内容になる予定である. 正答率(%) 70 60 振動ナシ 50 振動アリ 7. まとめ 本論文の要旨を端的にまとめると 40 30 z 20 対面型のディスプレイシステムによるコミュニケ 10 ーションの促進 0 試料A 試料B 試料C 対面型の MR システム構築にはパンチングメタル z 図 12 開孔率順に見る透過の実験での正答率のグラフ (実験参加者全員の平均) を利用するという手段がある z パンチングメタルを利用する場合には開孔率が重 z その上でエンターテインメントシステムとして真 要 100 90 に目的に適うにはユーザーインターフェースの検 80 70 討が重要 正答率(%) 60 振動ナシ 50 振動アリ 40 ということになる. 8. 30 20 参考文献・参考 URL 参考 URL・参考文献 10 0 試料A 試料B 試料C [1] “WEBSITE of LumiSight Table” : http://www.hc.t.u-tokyo.ac.jp/project/LumiSight 図 13 開孔率順に見る投影の実験での正答率のグラフ(実 験参加者全員の平均) / [2] 清川清 マーク・ビリングハースト ダニエル・ベルチ ャ アルナブ・グプタ:拡張現実感インタフェースを 今回の実験から,パンチングメタルをスクリーンとして 用いる際に,振動を加えることで (1) 素材上に投影した映像の認識率は概ね向上する (2) 素材を透過して見えるものの認識率は,振動を加える 前と同等,もしくは向上する ということが分かった.これはつまり概ね,振動を加える 用いた対面協調作業のコミュニケーション過程,日本 バーチャルリアリティ学会論文誌 vol.7 No.2 pp. 159̶160 2002 [3] 舘暲 :人工現実感の基礎−臨場感・現実感・存在感 の本質を探る.バーチャルリアリティの基礎〈1〉 ,培 風館,2000. ことで認識率が向上する場合がほとんどで,低下する場合 [4] 舘暲 :バーチャルリアリティ入門, ちくま新書,2002. は少ないということである. [5] A 下條信介:視覚の冒険 イリュージョンから認知科 6. MR システムの作成 デモを兼ねて,本システムを利用した MR のアプリケー ションを作成した.実物の写真を図 14 に示す. 図 14 MR システム 学へ Adventure of Vision –From Illusions To Sciences,産業図書株式会社,pp. 65-66, 1995. [6] Elrod, S., eT al. LiveBoard: A large interactive display Supporting group meetings,presentations,and remote collaboration. In Proceedings of CHI 92: Human Factors in Computing Systems, pp.599-607, 1992