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と畜場搬入豚のサルモネラ属菌およびカンピロバクター属菌保菌
と畜場搬入豚のサルモネラ属菌およびカンピロバクター属菌保菌状況調査 新潟県長岡食肉衛生検査センター 1 ○星野麻衣子 仲村直美 唐沢麗子 新井礼子 はじめに 豚 レ バ ー( 以 下 、レ バ ー と す る 。)の 生 食 が 原 因 と 推 定 さ れ た 食 中 毒 は 、過 去 10 年 間 に 全 国 で 5 例 報 告 さ れ て お り 、推 定 病 因 物 質 は サ ル モ ネ ラ 属 菌 あ る い は カ ン ピ ロ バ ク タ ー・ジ ェ ジ ュ ニ / コ リ( 以 下 、C. j/c と す る 。)で あ っ た 1 )。厚 生 労 働 省 は レ バ ー 生 食 の 危 険 性 を 指 摘 し 、飲 食 店 を 始 め と す る 関 係 事 業 者 お よ び 消 費 者 に 対 し 必 要 な 加 熱 を 行 う よ う 注 意 喚 起 し て い る 。し か し 、全 国 に お け る 立 入 り 調 査 の 結 果 、多 数 の 事 業 者 が レ バ ー 等 の 内 臓 を 未 加 熱 の ま ま 提 供 し ていたという調査結果がある2)ことから、レバー生食の危険性については引き続き周知して い く こ と が 望 ま れ る 。こ の た め に は レ バ ー 汚 染 実 態 の 把 握 が 必 要 で あ る が 、牛 に 比 べ 豚 の 消 化 管やレバー内部の保菌状況に関する報告は少ない。 今 回 わ れ わ れ は 、 と 畜 場 に 搬 入 さ れ る 豚 の 胆 嚢 内 胆 汁 ( 以 下 、 胆 汁 と す る 。) や 消 化 管 内 容 物 、レ バ ー 内 部 の サ ル モ ネ ラ 属 菌 お よ び C. j/c の 保 菌 状 況 を 調 査 し 、表 面 汚 染 お よ び 内 部 汚 染 の両面から汚染実態に関する検討を行ったので報告する。 2 材料および方法 平 成 25 年 1 月 か ら 5 月 の 間 に 、と 畜 場 に 健 康 畜 と し て 搬 入 さ れ た 肉 豚 17 農 場 50 頭 を 対 象 と し た 。 こ の う ち 40 頭 に つ い て 消 化 管 内 容 物 お よ び 胆 汁 を 採 取 し 、 サ ル モ ネ ラ 属 菌 定 性 試 験 を 実 施 し た 。 50 頭 の 消 化 管 内 容 物 お よ び 胆 汁 を 採 取 し 、 C. j/c 定 性 試 験 を 実 施 し た 。 50 頭 の う ち 5 頭 で 消 化 管 内 容 物 の C. j/c 定 量 試 験 を 実 施 し た 。 50 頭 の う ち 5 頭 に つ い て 、 消 化 管 内 容 物 、胆 汁 に 加 え 図 1 の よ う に レ バ ー 内 部 の 尾 状 葉 、内 側 右 葉( 以 下 、右 葉 と す る 。)、外 側 左 葉 ( 以 下 、 左 葉 と す る 。) を そ れ ぞ れ 無 菌 的 に 採 取 し 、 定 性 試 験 を 実 施 し た 。 尾状葉 左葉 右葉 図1 レバー内部定性試験 採材部位 (出典:カラーアトラス獣医解剖学 チクサン出版社) サ ル モ ネ ラ 属 菌 定 性 試 験 で は 、消 化 管 内 容 物 お よ び 胆 汁 は 1 白 金 耳 量 を ク ロ モ ア ガ ー サ ル モ ネ ラ 培 地 ( CHROMagar) を 用 い て 直 接 分 離 培 養 し た 。 C. j/c 定 性 試 験 で は 、消 化 管 内 容 物 1 白 金 耳 量 、胆 汁 1ml を プ レ ス ト ン カ ン ピ ロ バ ク タ ー 選 択 増 菌 培 地( 以 下 、 プ レ ス ト ン と す る 。)( OXOID)を 用 い て 42℃ 24 時 間 増 菌 培 養 後 、カ ン ピ ロ バ ク タ ー 血 液 無 添 加 選 択 寒 天 培 地 ( 以 下 、 CCDA と す る 。)( OXOID) を 用 い て 分 離 し た 。 C. j/c 定 量 試 験 で は 、 消 化 管 内 容 物 を MPN3 管 法 3 ) を 用 い て 定 量 し た 。 使 用 し た 培 地 ・ 培 養温度等は定性試験と同じ条件とした。 レ バ ー 内 部 の 定 性 試 験 で は 、肝 臓 10g を 採 取 後 ア ル コ ー ル 消 毒 、火 炎 滅 菌 し プ レ ス ト ン を 用 い て 42℃ 24 時 間 増 菌 培 養 後 、 CCDA を 用 い て 分 離 し た 。 サ ル モ ネ ラ 属 菌 、 C. j/c の 同 定 は 常 法 3 ) に よ り 行 っ た 。 表 1 3 結果 検体№ サルモネラ属菌定性試験では、いずれ の検体からも分離されなかった。 C. j/c 定 性 試 験 結 果 は 表 1 の と お り で あ り 、 直 腸 便 で は 、 実 施 し た 14 農 場 45 頭 の う ち 、 13 農 場 37 頭 か ら C. j/c を 分離した。また十二指腸便では、実施 し た 10 農 場 15 頭 の う ち 、 9 農 場 11 頭 か ら C. j/c を 分 離 し た 。 胆 汁 に つ い て は 、 いずれの個体からも分離されなかった。 直腸便または十二指腸便のいずれかで C. j/c を 分 離 し た 個 体 は 50 頭 中 41 頭 で あった。分離されたカンピロバクター 属 菌 は 全 48 菌 株 中 4 菌 株 が Campylobacter jejuni 、 44 菌 株 が Campylobacter coli で あ っ た 。 C. j/c 定 量 試 験 で は 直 腸 便 の MPN は 90,000~ 11,000,000/100g、 十 二 指 腸 便 の MPN は 30,000 未 満 ~ 4,600,000/100g で あ っ た 。 消 化 管 内 か ら C. j/c を 分 離 し た 豚 の 胆 汁 か ら C. j/c は 分 離 さ れ な か っ た ( 表 2)。 レバー内部の定性試験の結果、5 頭中 2 頭の尾状葉および 1 頭の右葉から Campylobacter C. j/c 定 性 試 験 coli を 検 出 し た ( 表 3)。 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 - : 陰性、+: 農場 胆汁 A A B B B B C C C C C C C D D D D D E E E E E E F G G G G G G H H H H I J J J K K L M M N O P Q Q Q 陽性、 N.D:試験未実施 十二指腸便 N.D N.D N.D N.D N.D C.coli N.D N.D N.D N.D N.D N.D N.D N.D N.D N.D N.D N.D N.D N.D N.D N.D C.coli N.D N.D N.D N.D N.D N.D C.coli N.D N.D N.D N.D N.D N.D N.D N.D C.coli C.coli C.coli C.coli C.coli C.coli C.coli C.jejuni 直腸便 C.jejuni C.coli C.coli C.jejuni C.jejuni C.coli C.coli C.coli C.coli C.coli C.coli C.coli C.coli C.coli C.coli C.coli C.coli C.coli C.coli C.coli C.coli C.coli C.coli C.coli C.coli C.coli C.coli C.coli C.coli C.coli C.coli N.D N.D N.D N.D N.D C.coli C.coli C.coli C.coli C.coli C.coli 表 2 C. j/c 定 量 試 験 検体№ 農場 胆汁 (定性) 十二指腸便 (MPN/100g) 直腸便 (MPN/100g) 十二指腸便/直腸便 6 B 陰性 90,000 90,000 C.coli / C.coli 31 G 陰性 <30,000 90,000 C.coli / C.coli 45 N 陰性 4,600,000 1,500,000 C.coli / C.coli 46 O 陰性 <30,000 ※ 230,000 陰性 / C.coli 47 P 陰性 4,600,000 11,000,000 C.coli / C.coli 確認された菌 ※ 定性試験の結果は陰性であった。 表 3 4 レバー内部 検体№ 農場 23 定性試験結果 肝臓 胆汁 十二指腸便 直腸便 - - - C.coli - - - C.coli C.coli - - - - C.coli C.coli Q C.coli C.coli - - - C.coli Q C.coli - - - C.jejuni C.coli 尾状葉 右葉 左葉 E - - 24 E - 48 Q 49 50 考察 本 調 査 の 結 果 、豚 の 消 化 管 に は C. j/c が 高 率 に 生 息 し て い る こ と が 確 認 さ れ 、そ の 菌 数 は 個 体 に よ っ て は 10 7 MPN/100g と 高 濃 度 で あ る こ と も 確 認 さ れ た 。 豚 の 内 臓 を 摘 出 す る 際 消 化 管 を 損 傷 す れ ば 、と 体( 枝 肉 )や レ バ ー を 含 む 内 臓 が 高 率 に C. j/c に 表 面 汚 染 さ れ る と 考 え ら れ 、 C. j/c 食 中 毒 は 、菌 量 10 2 個 以 上 で 感 染 が 成 立 す る と 言 わ れ て い る 4 ) こ と か ら 、汚 染 菌 量 は 食 中毒が発生しうる量になる可能性が考えられた。 一 方 、 胆 汁 か ら C. j/c は 分 離 さ れ ず 、 胆 嚢 の 損 傷 等 に よ る 胆 汁 の 漏 出 は C. j/c の 表 面 汚 染 に はつながりにくいと考えられた。 さ ら に 今 回 は 検 体 数 が 少 な く 、有 効 な 検 討 に は つ な が ら な か っ た も の の 、レ バ ー 内 部 の C. j/c 定 性 試 験 を 実 施 し た 結 果 、 C. j/c が 生 息 す る 個 体 が あ る こ と が 確 認 さ れ た 。 レ バ ー の 汚 染 状 況 を 把 握 す る に は 豚 の 解 体 処 理 工 程 に お け る 表 面 汚 染 の ほ か 、レ バ ー 内 部 の C. j/c 汚 染 に つ い て 引き続き検討する必要があると思われた。 本調査では、調査対象とした検体からサルモネラ属菌は分離されなかった。このことから、 サ ル モ ネ ラ 属 菌 に よ る レ バ ー の 汚 染 は C. j/c に よ る 汚 染 と 比 較 し 、 低 率 で あ る と 思 わ れ た 。 豚 の 解 体 処 理 工 程 で は 、牛 と 異 な り 消 化 管 結 紮 は 行 わ れ な い た め 、処 理 中 に 消 化 管 内 容 物 中 の C. j/c が レ バ ー を 表 面 汚 染 さ せ る 機 会 は 多 い 。 一 方 で 、 豚 由 来 C. j/c の 食 中 毒 に 対 す る リ ス ク は 不 明 な 点 が 多 い 。 今 後 は 豚 由 来 C. j/c の 血 清 型 や 病 原 遺 伝 子 保 有 状 況 を 調 査 し 、 豚 由 来 C. j/c の 食 中 毒 発 生 リ ス ク に つ い て 検 討 し て い き た い 。 ま た 、 今 回 は 検 体 数 不 足 で 比 較 で き な か っ た 農 場 別 の 保 菌 率 に つ い て も 検 討 し 、他 の 食 材 を 汚 染 さ せ な い と い う 二 次 汚 染 対 策 の た め 、 衛生的なレバーをと畜場より出荷できるよう、対策を講じていきたい。 5 1) 参考文献 平 成 24 年 10 月 4 日 付 け 厚 生 労 働 省 医 薬 食 品 局 食 品 安 全 部 監 視 安 全 課 長 通 知 食安監 発 1004 第 1 号 2) 平 成 25 年 3 月 8 日 付 け 厚 生 労 働 省 医 薬 食 品 局 食 品 安 全 部 監 視 安 全 課 長 通 知 食安監発 0308 第 3 号 微 生 物 編 (2004) 3) 社団法人日本食品衛生協会:食品衛生検査指針 4) 坂 崎 利 一 ほ か : 食 水 系 感 染 症 と 細 菌 性 食 中 毒 、 p129、 中 央 法 規 出 版 株 式 会 社 (1991)