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バナジウム酸化物における電子の集団現象を利用した 低電圧不揮発
Annual Report No.28 2014 バナジウム酸化物における電子の集団現象を利用した 低電圧不揮発メモリ素子の開発 Development of Low-Voltage Non-Volatile Memory by Using Collective Electronic Phenomena in VO2 H25助自74 代表研究者 矢 嶋 赳 彬 東京大学 工学系研究科 助教 Takeaki Yajima Assistant professor, School of engineering, The University of Tokyo The demand for decreasing power consumption in integrated circuits forces us to develop a non-volatile memory, which can maintain memory without any supply voltage. However, the non-volatility generally increases the writing voltage in the memory, making it difficult to realize both the non-volatility and the low operation voltage simultaneously. One of the ways to overcome this difficulty is using the metal-to-insulator transition (MIT) in VO2. In the MITs, electrons behave not independently but rather collectively, being able to enhance non-volatility without increasing the writing voltage. While the collective behavior in the MITs is the most essential property for realizing non-volatility and low operation voltage simultaneously, the research on such collective behavior has been limited. Therefore, the purpose of this research is to clarify the collective behavior in the MITs using VO2 films, and to find the pathway to realizing non-volatile low-voltage memory. It is known that metallic domains and insulating domains coexist during the MIT, and these coexisting domains form a geometric pattern which reflects the collective behavior of the MIT. We found that the domain pattern changes from random patches to ordered stripes with increasing the film thickness. While the random patches indicate a relatively weak collective behavior, the ordered stripes manifest a strong collective behavior mediated by the elastic stress of the VO2 lattices. These findings strongly indicate that stress engineering is the pathway to controlling collective behavior during the MIT in VO2 films and to realizing the non-volatile low-voltage memory. ため、メモリの不揮発性が増すが、電場は集 研究目的 団全体に作用するため書き換え電圧は増加し 集積回路の低消費電力化のためには、不揮 ない。このように金属絶縁体転移における電子 発かつ低電圧で動作するメモリの作製が不可 の集団性が、不揮発性と低電圧性を両立する 欠である。しかし一般的に、不揮発性が増す ための要となる。しかし過去の研究で電子の 程メモリの書き込み電圧が増大するため、不 集団性に焦点を絞ったものは限られている。個 揮発性と低電圧性を同時に満たすのは難しい。 別のVO 2 薄膜において金属絶縁体転移の集団 このジレンマを克服するための手法の一つが、 性を観察した例はあるものの、一連の試料を用 VO 2 が示す金属絶縁体転移の活用である。金 いて集団性を系統的に調べた研究はない。本 属絶縁体転移では電子が集団として振る舞う 研究ではVO 2 の金属絶縁体転移において、膜 ─ 656 ─ The Murata Science Foundation 厚の増加に伴い集団性がどう変化するか観察 極方向として記憶を蓄え、PRAMは材料の結晶 することで、集団性を支配するパラメータを明 相として記憶を保持する。電子や格子の集団 らかにすることを目的とした。これによって不 に蓄えられた記憶は熱揺らぎに対して安定で 揮発かつ低電圧なメモリを実現するための足が あることから容易に不揮発性を実現できる一 かりが得られると考えられる。 方で、電場・磁場・熱といった集団全体に作 用する外部刺激に対しては敏感に応答するた 概 要 め低電圧かつ高速に記憶を書き換えることが ムーアの法則に沿ったLSI回路の高集積化が できる。しかし実際には、MRAMでは電子スピ 限界に近付いており、その要因の一つがLSI回 ンを電場で制御する難しさ、FeRAMでは微細 路の消費電力の急激な上昇である。LSI回路の 化された構造での格子分極の不安定性、PRAM 低消費電力化に向けて様々な取り組みがおこ は相転移が必要とする大きな消費電力と時間 なわれているが、効果的な取り組みの一つが不 が、依然大きな問題点となっている。このため 揮発メモリによるSRAMやDRAMの置き換え SRAMやDRAM等の内部メモリと同レベルで である。SRAMやDRAMは揮発メモリであり記 低電圧・高速動作する不揮発メモリを実現す 憶を保持するために電力を必要とするが、不 るには至っていない。 揮発メモリは電力供給がなくとも記憶を保持す 本研究では上記とは異なる相転移現象とし ることができるため、回路全体の消費電力を大 て、VO2 の金属絶縁体転移に着目した。これは 幅に減らすことができる。 室温近傍でVO2 の電気伝導度が3-4桁不連続に 不揮発メモリの一つとしてフラッシュメモリ 変化するという現象である。金属絶縁体転移 が商品化されたが、書き込み電圧が高くまた を利用した不揮発性メモリは、MRAMと違っ 書き込み速度が遅いため、SRAMやDRAMの て電場や熱等の外部刺激によって容易に制御 置き換えには至っていない。そこには不揮発メ 可能であり、FeRAMと違ってナノスケールでも モリに共通の問題点として、メモリが不揮発な 記憶が安定であり、かつPRAMと違って結晶 分、それを書き換えるのには大きな電圧と時間 相ではなく電子相の転移を利用するため書き を要するという問題点がある。この根本的な問 換えのための電力と時間を低減できると期待で 題点を解決しない限り、SRAMやDRAMを置 きる。VO2 の金属絶縁体転移はこれまでにも物 き換えるほど低電圧かつ高速で動作する不揮 理的興味から広く研究されてきたが、不揮発 発メモリの実現は見込めない。 メモリへの応用を目指して転移の際の電子の この問題を解決するための一つの手法が、 集団性に着目した研究は少ない。本研究では 相転移現象の利用である。強磁性体の分極転 VO 2 薄膜において金属絶縁体転移が示す集団 移を利用したMRAM、強誘電体の分極転移を 性を明らかにし、それを不揮発メモリに応用す 利用したFeRAM、アモルファス材料の結晶相 るための道筋を立てることを目的とした。 転移を利用したPRAMなどが実際に不揮発性 VO 2 が金属絶縁体転移をする際には、金属 メモリの候補として研究されている。相転移を ドメインと絶縁ドメインとが入り混じった不均 利用したメモリは、個々の電子や格子ではな 質な状態を取り、そこに現れるドメインのパ くその集団に記憶を蓄える。例えばMRAMや ターンは電子の集団性を反映している。技術 FeRAMは電子スピンの集団や格子の集団の分 的にはこのドメインパターンを制御するための ─ 657 ─ Annual Report No.28 2014 手法を確立することが、不揮発メモリ作製の ための要となる。我々はVO 2 膜の膜厚を増加 させるにつれて、転移の際のドメインのパター ンが無秩序なものから秩序的な縞模様へと劇 的に変化することを見出した。無秩序なパター ンは電子の集団性が弱いことを示しているのに 対し、秩序的な縞模様はVO 2 の格子歪みを介 して電子の集団性が強く発揮されていることを 示唆している。この結果から、材料中の格子 歪みを微視的長さスケールで制御することが、 VO 2 の金属絶縁体転移の集団性を利用して不 揮発メモリを作製するための基本になることが 示された。 −以下割愛− ─ 658 ─