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「共創の戦略フロンティア」 日本企業の新成長戦略

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「共創の戦略フロンティア」 日本企業の新成長戦略
「共創の戦略フロンティア」
日本企業の新成長戦略
2014 年 2 月 21 日発行
要 旨
標準化規格への取り組みや、ルール・規制への働きかけなど、企業が環境要因として取
り組むべき範囲を広げることで企業間競争を優位に戦えるのではないか、という考えが我
が国でも広がりを見せつつあるが、それだけの取り組みで本当に戦えるのであろうか。
近年の日本のいくつかの産業が置かれる苦しい状況を振り返ってみると、企業が現在の
環境を狭く捉えすぎた結果、その現状に適合しすぎ、戦略に革新性がなくなるとともに、
予測不可能と捉えていた環境変化が起きるなど、より大きな領域で戦う世界規模の競合と
競争環境作りで負けているように思える。
一方、CSR 活動の見直しや社会起業家などの増加により、社会をより良いものにしよう
とする動きは着実に社会に定着化しつつある。社会課題に取り組む社会起業家や NPO など
がその存在感を高めており、一部の大企業においても社会課題への取り組みが CSV 活動な
どによって進んできている。
本稿では、全く違う内容に思えるこの2つの動きを、より良い社会変革を起こし事業活
動の持続性やスペースを確保しようとしているもので、基本的には同じベクトルにあるも
のと考えてみた。積極的な社会との関係作りは、本来、企業に求められていたことであり、
その先に企業として取り組むべき事業のニーズやイノベーションが存在しているはずで
ある。
企業を取り巻く環境を見る視点を少し上げ、社会変革を踏まえたグランドデザインの視
点をもつことで、現在起きている事象を再考し、企業戦略を考える際に、競争を優位に戦
うための企業戦略の一助となればと思い、新しいフロンティアの可能性について論じた。
みずほ総合研究所 コンサルティング部
主席コンサルタント 宮澤 元
Tel: 03-3591-7302
E-mail:[email protected]
1. 従来の考えでは予測し難いモデルの出現
● 「経済システム」とそれ以外の「社会システム(注1)」との境界が曖昧化しており、企業の従
来の経済的視点だけでは予測し難い環境変化が起きている。
● これまでの日本企業の戦略は、現状の環境を狭く捉えすぎており、その中で環境適合し
ている。予測不可能な環境変化や、社会システム変化までを取り込んだ世界の競合との
戦いには新しい視点が必要である。
企業戦略上の分析対象となっていた経済システム上の視点だけでは予測し難いモデルが
出現してきている。
ロンドンの中心地に位置する「ザ・ピープルズ・スーパーマーケット」
。見た目はごく普
通のスーパーマーケットであるが、その労働スタッフは会員が無償で月4時間以上ボラン
ティア提供してもらう制度となっており(その代わりに商品を 10%オフで買える)、労働
コストの削減分、コスト競争力があり、かつ(消費者がスタッフになっていることで)消
費者ニーズに敏感なスーパーマーケットが出現している。また、米国の「Lyft(リフト)」
のように、自家用車を所有するしかなかった個人の移動ニーズを、自家用車保有者(その
時に運転可能なドライバー)とマッチングさせシェア(この場合「相乗り」)することで価
値提供する「シェアエコノミー(注2)」と呼ばれる形態が広がる動きもある。また、NPO で
あるが日本でも「カタリバ」のように、学生ボランティアらの組織化を通じ、低コストで
高校生の総合学習支援を企画・運営している団体もある。これらの企業や団体の動きは、
社会的な新しい価値観を基に、これまでにないモデル創出をしている点で共通しているが、
既存の経済的フレームワークにとらわれた企業戦略の考えでは捉えることは困難である。
企業戦略を考える際に、経済的な視点で将来の顧客の動向や競合について、時間をかけ
て慎重かつ丁寧に検討しておくことが重要であることは、現在の共通認識であるし、今後
も重要性は変わらないであろう。分析の対象は、大きな意味での経済的な指標となるもの
が主となる。少子化の進行、世帯当り人数の減少、医療費の上昇、生産人口の減少・非生
産人口の増加、介護・福祉の人手不足、世界需要の増加と食料調達価格の上昇、エネルギ
ー調達コストの上昇、労働集約型産業の低コスト労働地域への移動、高付加価値産業・職
業への移行などである。ただ本来、将来予測の面を考えると、政策や規制、さらには社会
的認知や共通価値観、倫理性などの変化・変更のほうがインパクトは大きく、予測対象と
してより深く検討すべき対象であるはずであるが、どちらかといえばその分野は手薄とな
っている。
注1:社会システムとは:本文中では、
「社会システム」を社会における様々な現象を、全体的なシステムとして捉え
る意味で使っている。例えば、
「社会システム」には「経済システム」
「政治システム」などのレベル感のシステ
ムが包含され、より個別には「教育システム」
「医療システム」なども含まれる意味で使用している。
注2:シェアエコノミーのその他の企業としては、「Airbnb(エアビーアンドビー)」:空室の貸し借りの仲介や、
「FlightCar(フライトカー)」
:空港で旅行者の自家用車を預かり別の旅行者に賃貸する、などの例がある。
1
また、近年の出来事を振り返ってみると、経済予測の難しさも理解できる。バブル経済
崩壊以降の 20 年にわたる長期デフレや、2001 年のアメリカ同時多発テロ事件、2008 年の
リーマンブラザースを発端にした金融恐慌、2011 年の東日本大震災など、経済的なインパ
クトだけでなく、社会の価値観にまで影響を与えるような事柄が予測の延長線上では認識
しえない形で起きている。
結果、多くの企業では予測不可能な事態への対応を、スピーディーな原状回復を重視す
る形で行っており、その意味で非常に緻密かつ堅固な経営モデルを構成しつつある。これ
は、戦略を策定し実行するという経営責任の面からは、非常に正しく合理的な方法である。
しかしながら、現代の日本企業の戦略や経営計画などは、この現状に適合しすぎており、
戦略がコモディティ化し差別化が難しくなってきている。企業戦略の差別化の面からも、
また企業戦略として対象とする領域としても、新たなフロンティアが必要である。
冒頭で紹介した「ザ・ピープルズ・スーパーマーケット」は、すでにイギリスでは大手
スーパーとの競合となっているようだ。企業も社会の一員として、政策や規制、社会的認
知、共通価値観、倫理性などの社会的課題・ルールなどによる影響を受ける存在であるが、
それらに対する注意を怠らず、むしろ積極的に働きかけていく必要がある。
2. 社会システムへの取り組みの現状
● 社会課題に取り組む社会起業家や NGO、NPO などがその存在感を高めている。
● 一部の大企業でも、社会課題への取り組みが CSV 活動などによって進んできている。
● 社会システム上の課題解決を試みることは、既存の経済システムだけを前提にした考え
では限界があるが、より広範に社会を巻き込むことで経済性も踏まえて解決できることは
多い。
一方、我々を取り囲む社会では、若年層の社会への関心の高まりなどとともに、政府・
国家システムや、私企業による解決を待つのではなく、社会課題のビジネスイノベーショ
ン活動による課題解決を志す動きが胎動してきている。例えば、NPO の「フローレンス」
による病児保育や、自らを社会的企業として位置付けている「株式会社大地を守る会」に
おける食の安全への取り組みなど、日本でも徐々にその存在感を高めている。海外におい
ては、米国における「Teach for America」が学生就職人気ランキングで上位に入るなど、
社会改革に関心のある人々の増加による課題解決への動きは着実に進みつつある。
国内のベンチャー企業の中には、社会課題解決への取り組みを中心にした起業家が増え
つつあり、またそれを支える仕組みも人材面、資本面、情報面などで充実してきている(NPO
の「ETIC(エティック)
」や「ソーシャルベンチャー・パートナーズ(SVP 東京)」
「社会起
業大学」といった例のように、社会起業家を専門に支援する仕組みもできつつある)。
社会起業家の社会課題解決への活動は、政府や寄付による社会貢献とは違い、経済的持
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続性も確保しつつ、それが可能なように環境を変革することも含めて社会変革を起こして
いく経済活動である。同様の活動は大企業の活動にも見られ、いわゆる「CSV (注3)」
や「BOP(注4)」といった考え/活動がその一部といえる。ボーダフォンの「Mペサ事業」
のように、当初はイギリス政府からの助成金で開発を行ったが、その後アフリカなどで金
融サービスや政府機関支援を展開している事例、チャイナモバイルのように内陸部の貧し
い農民に携帯電話やインターネットの使い方のトレーニングを行い、最新の市場や農業技
術の知識獲得を可能にすることでさらなる販路の拡大に成功している事例、ネスレの途上
国コーヒー農家への支援による調達の安定化などが、企業による社会課題の解決への代表
的な取り組みとして知られている。
社会課題への取り組みは、もちろん政府からも行われる必要がある。例えば、我が国の
介護分野は、初期には国家が中心となり制度設計を行ってきているが、
「介護保険」という
公的な仕組みの構築により全ての課題が解決しているわけではなく、今後の持続的課題解
決には、民間のイノベーションが必要な領域であろう。民間に期待されるところは、単に
現行制度で成立しえる事業への参入だけでなく、本質的な課題解決のイノベーションであ
る(例えば、要介護者を取り巻くコミュニティを使ったサービスなどが期待される)。
これらの取り組みについては、その対象範囲の大きさや、解決主体(取り組みを開始し
ているのは、大企業や社会起業家、または政府であったりする)や手段の多様性などはあ
るが、課題を従来の経済的な方法だけで解決させようとするのではなく、社会システムと
いう大きな視点で捉え直し、全体システムに必要とされる変革(イノベーション)を起こ
すことで解決しようとしている点で共通している。また、社会課題をイノベーションで解
決するという視点は、本来、ビジネスの根源であったはずであるが、現在はその担い手が
ベンチャーや NGO、NPO などに(特に日本では)比較的偏っているように見える。これは、
既存の社会課題が、企業の経済効率性から見ると採算性の合わないものになっているとい
う判断からであろう。しかしながら、上記で紹介した事業のように、政策や法的規制、社
会的認知、共通価値観の醸成なども課題の解決対象として捉え、社会システムの価値と経
済システムの価値を上手く整合できれば、事業としても十分魅力的になる可能性はある。
むしろ社会システムにおける課題解決や、そのためのイノベーションを怠った企業が、気
づいたときには社会的な存在意義を失っている可能性を否定しえない。
これまで経済活動における効率性を追求する企業戦略では、経済システム下で認識可能
な社会であることを、ある程度の与件として戦略を策定してきていた。しかし、社会シス
テムそのものも対象として戦略に組み込む領域においては、その担い手が社会起業家と
NPO だけということはなく、各企業本来の取り組み課題として認識すべきである。
注3: Creating Shared Value。
「共通価値の戦略」マイケル E.ポーター、
「DIAMOND ハーバード・ビジネスレビュー」
2011 年 7 月(邦訳)
注4: Bottom of Pyramid。
「帝国主義的グローバリゼーションの終焉」C.K.プラハラード、「DIAMOND ハーバード・ビ
ジネスレビュー」2010 年 9 月(邦訳)
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3. 社会システムを組み込んだグランドデザインとしての「共創戦略」の必要性
● 現在の日本企業の企業戦略は、現在の環境に高度に適合しすぎており、海外の競合な
どにより仕掛けられる社会システムに踏み込んだ競争に対処できていない。
● これから競争を優位に戦うためには優れた企業戦略が必要であり、それは社会システム
変革を踏まえたグランドデザインの視点である。
● 「共創戦略」とは、経済システムに加え社会システムとの関係をも組み込んだグランドデ
ザインを戦略的に描くことで、新たなイノベーションや産業競争を継続的に優位に戦う戦
略である。
仮に、イノベーションを測るひとつの指標として、特許の件数(注5)などで比較すると、
日本のエレクトロニクス業界は未だに力を持っているはずとなり、現在業界などが直面
している厳しい状況を考えると、あまりに実感と乖離がある。課題となっている点は、
製品やサービスを主体とした経済システム完結型のイノベーションでは、これまで述べ
てきた社会課題の解決にはなっておらず、その競争力の持続性が難しくなってきている
点であろう(競合との価格競争の激化や、新興国の産業育成による急速なキャッチアッ
プなどである)。
他方、Google や Apple、Amazon などの米国企業が、新しい事業モデルにおいて公共性
も追求し、社会・ルールの変革までを見据えた競争をしてきており、残念ながらその争
いに正面から戦いを挑めている日本企業は少なく見える。この差はどこから生じたもの
であろうか。
社会システムのイノベーションの側面で日本企業の過去を振り返ると、その内在的な可
能性はあると思える。例えば電子マネーや交通カードといった分野や、携帯電話によるイ
ンターネットへの接続などは、それまでの社会システムを大きく変え、イノベーションを
成し遂げる可能性が見られる事例である。それらからは日本企業の社会イノベーションの
能力が技術的な面から低いとはいえないが、残念ながら現在の状況からは、そのイノベー
ションの継続性が疑わしい。
では、日本企業は社会システムの改善を目指してイノベーションの競争優位性を維持で
きていないのは何故であろうか。
『失敗の本質』における著者らの第二次世界大戦時の日米
軍の戦略の比較が考察として参考になると考える(次ページ表参照)
。
その中では代表的な6つの作戦失敗ケースを取り上げ、その失敗の内容を分析、本質を
えぐり出そうとしているのだが、明らかなひとつの要因は、日本軍の長期的、グランドデ
ザイン的、システム思考に基づく戦略性の弱さである。これは、現在の日本企業の狭い視
野における短期的な成果を求める戦略と同様であり、その本質は時代を感じさせない。
注5: 特許関連の調査会社 IFI Claims 社の 2012 年の米特許商標庁などの調査による
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■日本軍と米軍の戦略・組織特性比較
分類
戦略
組織
項目
日本軍
米軍
目的
不明確
明確
戦略志向
短期決戦
長期決戦
戦略策定
帰納的
演繹的
戦略オプション
狭い
広い
技術体系
一点豪華主義
標準化
構造
集団主義
構造主義
統合
属人的統合
システムによる統合
学習
シングルループ
ダブルループ
評価
動機・プロセス
結果
出所:野中郁次郎ほか『失敗の本質―日本軍の組織論的研究』
(中央公論新社)
ここから日本企業に求められるのは、社会システムのイノベーションに自社として何を
働きかけどのように社会変革を成し遂げるのか、その中における自社の位置付けをどのよ
うな形で実現するのか、を描くことではないだろうか。つまり、これまでは「どのような
市場の中で、どういった戦略で競合と戦うのか」という競争戦略であったが、今求められ
ているのは「どのような『社会環境』の中で、その競争をするのか」というところまでな
のである。ある意味、日本企業は高度に、これまでの経済フレームワーク思考の戦略策定
に適合しすぎて、そのフレームワークを取り巻く環境の変化(例えば市民の社会的価値観
の変化)への取り組みや対応が遅れ、失敗の傷を深めていると考えられる。
競争の優劣の構造が決定的となっている産業分野ばかりではないため、日本企業のこれ
からの企業戦略として、社会システムとの関係を組み込み、グランドデザインを描くこと
で新たなイノベーションや、産業競争を継続的に戦っていくことは可能な状況であると信
じる。洗練された企業戦略策定プロセスから季節行事となった計画から、社会システムと
の「共創」を視野に入れた新しいグランドデザイン戦略を策定していくことが、
「競争力の
源泉」となりえるのではないか(既に社会起業家の間では、例えば「セオリー・オブ・チ
ェンジ」といった社会変革の方法が広がりつつある)。
これは、盛んに行われている日本企業の海外進出においても、激烈な国内市場の競争で
鍛え抜かれた「ものづくり」の製品を現地に持ち込んだところで、進出先の社会で必要と
される価値との乖離を目の当りにし、新興国進出に苦戦している企業が多数存在すること
とも一致する。進出先の社会システムにおけるどういった課題を解決したいのかを明確に
しないで、規模と効率性を求めた海外展開を図ろうとすることだけでは、一部の国家資本
主義下の海外の競合企業とは戦っていけない。進出先の社会にある一定の素地が必要なの
はもちろんであるが、必要とされる「社会との関係」を明確にし、構築することにより、
企業の提供価値を決めるべきである。
社会にまで及ばせた世界観をもった企業の戦略思考は本来、日本企業の得意分野であっ
たはずであるが、いくつかの産業分野における日本企業の近年の競争を振り返ると、社会
5
システム上の価値と経済価値を整合させられた競争を海外企業から仕掛けられた市場にお
いて、製品イノベーションだけで戦おうとしている状況では、既に戦略上の優劣が決して
いるのかもしれない。海外勢の競争を再度見つめ直し、日本企業も緻密な局地戦の戦い方
の延長線上にある競争戦略の欠落を見直すべきである。
4. 企業戦略の新しいフロンティアへの取り組み
● 企業活動において、社会システムとの対峙はチャレンジングな領域。
● 社会システムを対象とした戦略による競争は時間と投入資源が必要だが、そこにあるの
は競争優位性が高く、その持続性が期待できる新しいフロンティアである。
現在、いくつかの優れた企業においては、社会課題を解決する CSV や BOP という新たな
概念のもと、社会システムの課題解決を促し、自らのイノベーションを試行錯誤している。
CSR などの従来型の「社会貢献活動」についても財務会計との統合を目指す、統合レポー
トの動きなど、社会課題解決への貢献と経済的結果の融合という挑戦が始まっている。
企業活動の対象を、経済システムという範囲からそれ以外の社会システムの領域にまで広
域に広げて捉え直すことで、課題解決とイノベーションを起こそうとする企業活動は、その
戦略的位置付けを高めている。社会とともに課題の解決を図るとともに、企業としても事業
として成立可能な環境を創り出すこの考え方は、ある意味事業領域のフロンティアを社会と
ともに創り出しているといえる。これは、競争戦略の視点からは、社会システムまでを対象
とした競争上優位な戦いを行うゲームチェンジを起こしているようにも思える。社会課題を
事業的に解決できた領域は、通常の競争状態(価格や品質の競争)に至ることで徐々に課題
と認識されない領域となり、やがてまた革新性のある企業が、その時の課題解決に取り組む
ことで新たな事業領域が創造されて全く違う競争が行われていく(下図参照)
。
■企業活動の対象領域
事業性(高)
社会と共創する
フロンティア事業領域
一般的な事業
事業が社会
的課題にか
かわる程度
(低い)
CSV
CSR
事業が社会
的課題にか
かわる程度
(高い)
公共型社会支援
出所)一橋ビジネスレビュー2009,SUM 一橋大学大
学院商学研究科 谷本寛治教授 資料に加工・加筆
事業性(低)
出所:
「一橋ビジネスレビュー」
(2009),SUM 一橋大学大学院商学研究科・谷本寛治教授資料に加工・加筆
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では、企業は何に注意しながら取り組んでいけば良いのであろうか。社会と企業との関
係は、経済的な面だけでなく複合的かつ複雑であるため、通常、社会価値観の変化までを
企業戦略の対象として捉えるには資源的にも限界があり、個別の企業にとっては非常にチ
ャレンジングな領域でもある。CSR や CSV などの活動により、その一部を掴み解決に導く
ことはできることもあるであろうが、期待できる広がりには限界がある。
Google の取り組んでいる「ソルブ・フォー・X」などのように、既に動き出している取
り組みなどからは、オープンイノベーションや社外組織との(例えば、CSR 活動などにお
ける資金支援などのような)役割分担などにより、対象領域を拡大することは可能である
と考えられる。また、その活動から企業が得られるのは、自らの使命としている社会課題
とその解決方法の正しさを認識する情報である。恐らく各企業の経営者は、今後の戦略オ
プションの選択において、取り巻く社会システムという環境内での存在意義を常に問い続
けることになり、そのことは重要性を増すと思われる。
仮に、社会課題の情報を適切に把握できた場合にも注意すべき点はある。FSG(注6)のマ
ーク・フィッツアーらは「『共通価値』を創出する5つの要素」(注7)の中で、CSV の成功
においては社会的な目的、明確なニーズ、測定方法、正しいイノベーション構造、ステー
クホルダーとの共創、であるとしている。後者の2つにあるように、社会システムの変革
には、システム全体を見た上で社会の一員や政府との共創が必要である。例えば、日本の
「介護制度」による課題解決のように、制度や政策の立案・変更や規制緩和だけでなく、
社会の価値観の醸成も必要である。
人材面では、既に優れた複数の海外企業では、ニック・ラブグローブらのいう「トライ
セクターリーダー(注8)」といった、「民間・公共・社会」の3つのセクターを行き来する
形で社会課題変革のリーダーを輩出する動きがある。この動きは、中国やシンガポールな
どの国家資本主義の動きの中で、欧米でも産業競争力という意味で重視されてきているよ
うだ。
日本でも、政府と民間の間での人材交流は過去には盛んに行われてきていた。現在、別
の意味でその流れにブレーキが掛かっているが、各官庁や企業の私的な目的を達成する人
材育成でなく、より良い社会改革に向けた人材交流として発展させていくことも検討が必
要かもしれない。
企業戦略が社会システムを対象としたときに、そのイノベーションの実現までの投入資
源と時間についても注意する必要がある。自企業と競合との関係などで捉えていた従来の
どちらかというとスタティック(静的)な戦略よりも、実現までの投入資源、時間ともに
大きなものとなる。同時に程度の差はあるとはいえ、企業戦略上の優位性を築く大きな可
能性をもっている領域でもあるので、その選択においてはリスクを踏まえ、実現される世
界の大きな可能性を考えるべきであろう。
一部の企業(売上高)が既に多くの国の規模(GDP)を上回っているという現実を前に、
企業の社会課題解決主体としての期待は必然的に高まっていく。ただし、政府と違い社会
7
的価値観への介入に正統な後ろだてのない経済主体としての企業は、社会システムへの対
応に慎重さも求められる。
注6:Foundation Strategy Group。困難な社会問題の解決をサポートする非営利コンサルティング組織
注7:「DIAMOND ハーバード・ビジネスレビュー」2014 年 1 月(邦訳)
注8:「DIAMOND ハーバード・ビジネスレビュー」2014 年 2 月(邦訳)
以上
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
当リポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたもので
はありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき作成されております
が、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予
告なしに変更されることもあります。
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