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第 5 章 付帯表の作成 - 内閣府経済社会総合研究所

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第 5 章 付帯表の作成 - 内閣府経済社会総合研究所
〈内閣府経済社会総合研究所「経済分析」170号
2003年〉
第 5 章 付帯表の作成∗
JIP データベースの中核は、部門別に全要素生産性上昇率を推計するために必要な、資本・労
働投入、産業連関表等のデータである。しかし、各産業における生産性上昇率を決定している要
因を分析するためには、各産業における技術知識ストック・規制の存在・市場集中度等、付帯的な
統計が欠かせない。また、グローバル化が日本経済に与える影響を分析するには、財・サービス貿
易や対外・対内直接投資統計を産業別に整備する必要がある。
このような問題意識から我々は産業別・相手国別貿易統計、対内・対外直接投資状況、対内直接
投資に対する規制、稼働率、技術知識ストック、市場集中度、企業系列の存在等、付帯的な諸表
を整理した。本章ではこれら付帯表の作成方法と推計結果について報告する。
1 産業別・相手国別貿易統計
乾 友彦・深尾京司*
1.1 はじめに
産業別・相手国別貿易統計は、中国をはじめとするアジア諸国の経済発展が日本の産業構造
に与える影響とか、日本はどのような相手国との間で産業内貿易を活発に行っているか、といった
問題を分析する上で重要なデータである。しかしわが国ではこれまで、詳細な産業分類に基づく
産業別・相手国別貿易統計は限られていた。今回我々は、日本関税協会『日本貿易月表』(以下
では通関統計と呼ぶ)に記載された品目別・相手国別貿易統計(貿易統計コード HS9 桁)を、総務
庁『産業連関表』付属のコード対応表(産業連関表-HS 品目分類)を使用して産業別に変換し、
原則として総務庁『産業連関表』基本分類行コード(7桁)レベルで、1980 年から 2000 年までの期
間について 5 年毎に名目と実質(90 年価格)の産業別・相手国別貿易統計を作成した。本節ではこ
の作業を報告する。なお、本節で報告する貿易統計のうち 1980、85、90 年分についてはもともと日
本政策投資銀行(旧日本開発銀行)調査部において野坂博南氏が中心となって作成された(詳し
くは野坂(1997)および篠崎・乾・野坂(1998)参照)1。
まず既存の統計について簡単に説明しておこう。日本関税協会『外国貿易概況』や『日本貿易
月表』は品目別統計であり、産業別の分析を行うには品目から産業へ変換を行う必要がある。また、
本章で報告する付帯表推計作業においては、リサーチアシスタントの雇用、所長リーダーシップ経費の支出、統
計・ネットワーク室によるデータ入力等により、一橋大学経済研究所から多大の支援を受けた。また推計作業の一
部は文部科学省科学研究費プロジェクト『アジア諸国の産業・貿易構造と経済成長:アジア長期経済統計に基づく
実証研究』(代表者:深尾京司)および『国際貿易・直接投資理論の構築とデータの基盤整備』(代表者:石川城太
一橋大学教授)の一部として行われた。これらの支援に深く感謝したい。
*
深尾、乾、野坂博南(Assistant Professor of Economics, Hong Kong University of Science and Technology)及
び伊藤恵子((財)国際東アジア研究センター上級研究員)が分担して行った。
1 野坂(1997)や篠崎・乾・野坂(1998)では1995年についても推計を行っている。しかし当時は 1985-90-95 年接
続産業連関表の公表前だったため、95 年の実質値(1990 年価格)は 90 年から 95 年にかけての貿易単価を使って
推計している。これに対して今回我々は 1985-90-95 年接続産業連関表を使って実質値を算出している。
*
-220-
第5章
付帯表の作成
総務庁『産業連関表』や『接続産業連関表』では貿易統計が品目別から産業別に変換されている
ものの、相手国別のデータは掲載されてない。このため、中国をはじめとする東アジア諸国からの
最近の輸入の急増が日本経済にどのような影響を与えているかといった問題の分析には使うこと
ができない。一方、通商産業省『日米産業連関表』では付帯表として産業別・相手国別貿易統計
が報告されているが、限られた年次のみであること、主要貿易相手国のみであること、産業分類が
産業連関表基本分類より粗いこと、等の問題点を持っている。このように既存の統計は大幅な改善
の余地がある。
以下では野坂(1997)および篠崎・乾・野坂(1998)の統計作成方法、およびこれに準拠した我々
の作業方法を説明しよう。
1.2 通関統計の産業連関表基本分類への変換・集計
1980、85、90、95 年については各年の総務庁『産業連関表』に付属のコード対応表(産業連関
表基本分類-貿易統計 HS コード対応表)を使用し、各年の通関統計を産業連関表基本分類まで
変換・集計した。基本分類はすべて総務庁『1980-85-90 年接続産業連関表』のそれに統一した。
2000 年については 96 年以降 HS 分類が大きく変更されたため、日本関税協会『輸出統計品目表』
、
『実行関税率表』をもとに 2000 年データの HS 分類を 1995 年の HS 分類に変換した上で、コード
対応表を使って総務庁 1980-85-90 年接続産業連関表基本分類ベースに変換・集計した。なお、
産業連関表基本分類の時間を通じた変化のため、付帯表で利用した部門分類は総務庁 1980-
85-90 年接続産業連関表基本分類と僅かだが異なっている。表 5-1 は我々の採用した JIP 貿易
データ用部門分類(以下では基本分類と呼ぶ)と、総務庁 1980-85-90 年接続産業連関表基本
分類、および JIP 産業分類間の対応表である。
1.3 貿易データ実質化の方法
実質値はすべて 1990 年基準とした。1980、1985 年については、総務庁『1980-85-90 年接続
産業連関表』の輸出・入に関するインフレータを用いて実質化した。1995 年については総務庁
1985-90-95 年接続産業連関表インフレータの逆数を用いて 1990 年価格にデフレートした。
2000 年データの実質化(1990 年価格)については、以下の方法を採用した。
・輸出データ
日本銀行の卸売物価指数、輸出物価指数(品目等の内訳指数)を用いて、1995 年価格にデフ
レートした後、1990 年価格→1995 年価格インフレータ(接続産業連関表)の逆数を用いて 1990 年
価格にデフレートした。なお、輸出物価指数に対応する品目がない業種については、国内卸売物
価指数(品目等の内訳指数)、輸入物価指数(品目等の内訳指数)を用いた。それでも対応する品
目がない業種については、輸出物価指数または国内卸売物価指数の対応する大分類の指数を用
いた。
-221-
・輸入データ
日本銀行卸売物価指数 輸入物価指数(品目等の内訳指数)を用いて、1995 年価格にデフレ
ートした後、1990 年価格→1995 年価格インフレータ(接続産業連関表)の逆数を用いて 1990 年価
格にデフレートした。なお、輸入物価指数に対応する品目がない業種については、国内卸売物価
指数(品目等の内訳指数)、輸出物価指数(品目等の内訳指数)を用いた。それでも対応する品目
がない業種については、輸入物価指数または国内卸売物価指数の対応する大分類の指数を用い
た。日本銀行卸売物価指数は、日本銀行ホームページ
〈http://www.boj.or.jp/down/dlong_f.htm〉
よりダウンロードした(ダウンロード日:2002 年 2 月 26 日)。
1.4 流通マージンの取り扱い
通関統計は輸出・入ともに流通マージンを含んでいるが、我々の統計ではこれを除いていない。
一方、産業連関表の貿易データは生産者価格ベースであり流通マージンを含まない。特に輸出に
ついては、我々の統計と産業連関表の間には主に流通マージンに起因する乖離があることに注意
が必要である。
1.5 国コード
1980-2000 年の間にはかなりの国について分離・統合が起きた(1995 年までの統合・分離につ
いては野坂(1997)参照)。我々は原則として分離が起きた場合は分離前の、統合が起きた場合は
統合後の国名・国コードを全期間について使うこととした。従って、1991 年に崩壊したソ連邦はそ
の後も 1 国 USSR として、また 1990 年に統合された東・西ドイツはそれ以前も 1 国 Germany として
扱っている。
以上の作業により、作成された産業別・相手国別貿易統計は以下のとおりである。
基本分類産業別・相手国別輸出名目値:1980-2000 年
基本分類産業別・相手国別輸入名目値:1980-2000 年
基本分類産業別・相手国別輸出実質値(1990 年価格):1980-2000 年
基本分類産業別・相手国別輸入実質値(1990 年価格):1980-2000 年
JIP 分類産業別・相手国別輸出名目値:1980-2000 年
JIP 分類産業別・相手国別輸入名目値:1980-2000 年
JIP 分類産業別・相手国別輸出実質値(1990 年価格):1980-2000 年
JIP 分類産業別・相手国別輸入実質値(1990 年価格):1980-2000 年
これらについては、付属の CD-ROM に収録されている。ここでは、主要相手国・地域別に集計し
た、2000 年 JIP 分類産業別貿易データのみを掲載する(表 5-2、表 5-3)。
-222-
第5章
付帯表の作成
我々は推計結果の信頼性を確認するため、推計した産業別・相手国別貿易統計名目値を合計
した総輸出・入額と、接続産業連関表および外国貿易概況の総輸出・入額を各年について比較し
てみた。以下ではその結果を報告しておく。
・1980 年
(輸出)
総務庁『1980 年産業連関表』普通貿易総額から卸・小売、輸送、写真、分類不明等を除いた金
額(名目・購入者価格、流通マージン含む):28,926,853 百万円
本集計による輸出総額(名目):29,063,647 百万円
外国貿易概況による輸出総額(名目):29,382,472 百万円(分類不明等も全て含む)
(輸入)
総務庁『1980 年産業連関表』普通貿易総額から卸・小売、写真、分類不明等を除いた金額(名
目・輸入の場合は購入者価格=生産者価格):31,748,439 百万円
本集計による輸入総額(名目):31,764,725 百万円
外国貿易概況による輸入総額(名目):31,995,325 百万円(分類不明等も全て含む)
・1985 年
(輸出)
総務庁『1985 年産業連関表』普通貿易総額から卸・小売、輸送、写真、分類不明等を除いた金
額(名目・購入者価格、流通マージン含む):41,450,827 百万円
本集計による輸出総額(名目):41,526,413 百万円
外国貿易概況による輸出総額(名目):41,955,659 百万円(分類不明等も全て含む)
(輸入)
総務庁『1985 年産業連関表』普通貿易総額から卸・小売、写真、分類不明等を除いた金額(名
目・輸入の場合は購入者価格=生産者価格):30,645,088 百万円
本集計による輸入総額(名目):30,647,151 百万円
外国貿易概況による輸入総額(名目):31,084,935 百万円(分類不明等も全て含む)
・1990 年
(輸出)
総務庁『1990 年産業連関表』普通貿易総額から卸・小売、写真、分類不明等を除いた金額(名
目・購入者価格、流通マージン含む):40,781,272 百万円
本集計による輸出総額(名目):40,798,603 百万円
-223-
外国貿易概況による輸出総額(名目):41,456,940 百万円(分類不明等も全て含む)
(輸入)
総務庁『1990 年産業連関表』普通貿易総額から卸・小売、写真、分類不明等を除いた金額(名
目・輸入の場合は購入者価格=生産者価格): 32,872,391 百万円
本集計による輸入総額(名目):32,879,454 百万円
外国貿易概況による輸入総額(名目):33,855,208 百万円(分類不明等も全て含む)
・1995年
(輸出)
総務庁『1995 年産業連関表』普通貿易総額から卸・小売、写真、分類不明等を除いた金額(名
目・購入者価格、流通マージン含む): 40,580,077 百万円
本集計による輸出総額(名目):40,581,705 百万円
外国貿易概況による輸出総額(名目):41,530,895 百万円(分類不明等も全て含む)
(輸入)
総務庁『1995 年産業連関表』普通貿易総額から卸・小売、写真、分類不明等を除いた金額(名
目・輸入の場合は購入者価格=生産者価格): 31,122,281 百万円
本集計による輸入総額(名目):31,122,703 百万円
外国貿易概況による輸入総額(名目):31,548,754 百万円(分類不明等も全て含む)
・2000年
(輸出)
本集計による輸出総額(名目):49,730,073 百万円
外国貿易概況による輸出総額(名目):51,654,198 百万円(分類不明等も全て含む)
(輸入)
本集計による輸入総額(名目):40,276,739 百万円
外国貿易概況による輸入総額(名目):40,938,423 百万円(分類不明等も全て含む)
一部乖離が生じた理由としては、流通マージンの取り扱いの違い、産業連関表は百万円単位で
記載されているのに対し、本集計は 1,000 円単位であるため、集計誤差が若干生じたこと、また屑、
副産物、中古品等の取り扱いが異なること等が考えられよう。
-224-
第5章
付帯表の作成
2 産業別対内・対外直接投資およびサービス貿易統計
深尾京司*
2.1 はじめに
よく知られているように、対内・対外直接投資残高やサービス貿易は財貿易より格段に高い成長
率で拡大しており、国際取引が日本経済に与える影響を考える上で、無視できない要素となりつ
つある。
しかし後述するように直接投資やサービス貿易に関する日本の統計は整備が遅れており、
特に JIP 産業分類に対応するような詳細な産業別統計はほとんど存在しない。伊藤・深尾(2001)、
伊藤・深尾(2003)、Ito and Fukao(2003)および深尾・袁(2001)は限られた年次についてのみであ
るが、直接投資やサービス貿易に関する詳細な産業別統計を作成した。本節ではこれらの集計に
ついて作業経過を要約し、結果表を転載する。まず 2.2 では産業別対内・対外直接投資および貿
易統計に関する伊藤・深尾(2001、2003)の結果を紹介する。2.3 では産業別・相手地域別対外直
接投資に関する深尾・袁(2001)の結果を紹介する。
2.2 産業別対内・対外直接投資および貿易統計
伊藤・深尾(2001)、伊藤・深尾(2003)、Ito and Fukao(2003)では、総務庁『平成 8 年事業所・企
業統計調査』の個票データの独自集計によって得た、3 桁業種別の外資系企業従業者数統計を
用いて、日本における外資系企業の活動を分析している。また日本の対内投資の規模を、米国の
それと比較したり、日本の対外投資や貿易による財・サービス取引の規模と比較している。本節で
はこれらの研究で得た集計表のうち JIP データベースを使った今後の分析において重要と考えら
れる表を転載する。
対日直接投資に関する既存統計と『事業所・企業統計調査』個票データ集計の方法
日本への直接投資は極めて少ないとされてきた(表 5-4 参照)。しかし経済産業省の『外資系企
業動向調査』をはじめとする既存の統計では、1)回答率が必ずしも高くない、2)すべての産業を
網羅していない、等の問題を持っている。そこで我々は総務庁の『平成8年事業所・企業統計調
査』の個票データを独自に集計して、1996 年度における外資系企業の従業者が全従業者に占め
『外国資
る割合を産業別に算出した。表 5-5 は既存の統計と我々の統計とを比較している。なお、
本比率』の境界値としては、外資比率 50 パーセント以上、33.4 パーセント以上、10 パーセント以上
の三つの値を使った。また各事業所の業種に基づいて業種分類を行っている。表 5-6 から 5-8 に
はこの分類と事業所・企業統計調査産業小分類および JIP 産業分類間の対応を示している(集計
方法の詳細については伊藤・深尾(2003)を参照されたい)。
表 5-9 と 5-10 に、3 桁業種別に日本における外資系企業の事業所数とその雇用者数をまとめ
た。
*
深尾、伊藤恵子((財)国際東アジア研究センター上級研究員)及び袁堂軍(一橋大学大学院経済学研究科博士
課程)が分担して行った。
-225-
我々はまた日米の直接投資を比較するため、前述の米国統計(U.S. Department of Commerce
1995a) を我々の産業分類に合わせて再集計した。日米比較は表 5-11 にまとめたとおりである。さ
らに、外資系企業について同じ定義のもとで日米比較を行うため、過半所有の外資系企業の雇用
者数が産業全体の雇用者数に占める割合についても、表 5-12 にまとめた。表 5-12 の米国側デー
タは、米国商務省統計(U.S. Department of Commerce 1995b) を用いて作成したが、この統計で
は 3 桁業種別データが公表されていないために、表 5-12 は、より粗い産業分類での日米比較とな
っている。
さらに我々は、日本の対内直接投資と対外直接投資および国際貿易を比較する目的で、日本
の対外直接投資についてもデータの整理・集計を行った。対外直接投資については製造業は、通
商産業省(現経済産業省)『第 26 回海外事業活動動向調査』の統計個票データ集計結果、一次
産業は同統計をそのまま利用し2、サービス業については、東洋経済新報社『海外進出企業総覧
1996 年:CD-ROM 版』の企業データを利用した3。ただし、対外投資データについては、前述した
ように経済産業省データや東洋経済データのカバレッジに問題があるため、実際の数値よりも過少
である可能性があることに留意する必要がある。また、直接投資と貿易との比較においては、1995
年の産業連関表(総務庁 1999)の輸出入データを我々の産業分類に合わせて集計している。表
5-13 で、以上のデータの比較を行っている4。
2.3 日本企業の海外生産活動:1987・98 年、相手国別・製造業産業別
日本企業の海外生産活動が国内経済に与える影響は、その進出先によって大きく異なると考え
られる。深尾・袁(2001)で示したように、例えば最近の中国向け直接投資に典型的に見られるよう
に、投資先の安価な労働を利用して逆輸入や第三国への輸出を行うための基地を途上国に立地
する場合には、日本からの輸出が代替されたり逆輸入が行なわれるため、国内生産に負の影響を
与える可能性が高い。
このような問題意識から判断すると、相手地域別直接投資統計が貴重だが、既存の統計は幾つ
かの問題点を持っている。例えば最近の東洋経済新報社『海外進出企業総覧:国別編』では 2 桁
業種別・進出先国別従業者数が報告されているが、80 年代についてはこの表は作成されていない。
また業種分類はあまり詳細でない。80 年代については CD-ROM も販売されていないため、独自に
集計を行うことは困難である。一方、経済産業省『海外事業活動動向調査・基本調査』では古くか
ら相手国別・業種別に従業者数や売上が報告されているが、業種分類はやはりかなり粗い。
そこで深尾・袁(2001)では 87 年と 98 年を対象とする『海外事業活動調査』の結果から、アジア 9
カ国とそれ以外の地域について 3 桁業種別に日系現地法人の従業員数を算出した。海外事業活
2
この作業については伊藤・深尾(2001)参照。
東洋経済新報社データの集計についての詳細は Fukao and Ito(2001)参照。
4 産業連関表のサービス貿易データは、財輸入が CIF ベースで計上され輸入に伴う輸送や保険等のサービスの価
値が輸入財の価格に含まれるなど、いくつかの問題点を持つ。我々はこれを修正した推計を行った。詳しくは補論
参照。
3
-226-
第5章
付帯表の作成
動調査の産業分類は 93 年に改訂が行われているため(製造業は 67 分類から 117 分類へと細分
化された)、われわれは 87 年の業種分類をもとに 98 年の業種分類を対応させ、2 時点間での比較
を可能にした。
表 5-14 は深尾・袁産業コードと JIP 産業コードの対照表である。また表 5-15 と 5-16 は、それぞ
れ従業者数と売上でみた日本企業の海外生産活動を 1987 年と 98 年について業種別に比較して
いる。
3 産業別市場構造・規制・企業系列
深尾京司*
「構造改革」に関する最近の議論でしばしば指摘されるとおり、市場構造や規制の存在は、その
産業の生産性をはじめとするパフォーマンスに影響している可能性が高い。本節では、中村・深
尾・渋谷(1995、1997)、伊藤・深尾(2001)、伊藤・深尾(2003)、Ito and Fukao (2003)等の先行研
究で作られた市場構造、規制、企業系列を中心とする各産業の属性に関するデータの出所と定義
について説明する。データは表 5-17 にまとめて転載した。この表は前節で紹介した伊藤・深尾
(2001、2003)による産業分類に従っている。JIP 分類と伊藤・深尾分類の対応、コンバーターにつ
いては表 5-7 と 5-8 を見られたい5。
産業別総従業者数
『平成 8 年(1996年)事業所・企業統計調査』個票データ従業者数の産業別集計値。
日本における外資の浸透度
1996 年の日本の全従業者数に占める外資系企業(外資比率 34%以上および 10%以上)
の従業者数のシェア。総務庁『平成 8 年(1996年)事業所・企業統計調査』の個票データを
用いて従業者数を産業別に集計した。
日系海外現地法人従業者数・国内従業者数比率
本章補論で説明した日本企業海外現地法人の従業者数を国内の産業別総従業者数で
割った値。
輸入・国内生産比率
本章補論で説明した日本の輸入を国内生産額で割った値。
輸出・国内生産比率
本章補論で説明した日本の輸出を国内生産額で割った値。
研究開発集約度
研究開発集約度は、各業種における粗付加価値に対する研究開発支出額の比率として
*
深尾及び伊藤恵子((財)国際東アジア研究センター上級研究員)が分担して行った。
なお日本の産業のパフォーマンスを考える上では内外価格差も重要な情報である。3 桁産業別に内外価格差を
推計した仕事として河井(1996)および野村・宮川(1999)がある。
5
-227-
定義した。製造業については、中村・深尾・渋谷(1997)のデータを用いた。サービス業につ
いては、
『平成 7 年産業連関表』(総務庁 1999)のデータを用いて算出した。サービス業の
研究開発費は、研究機関から各業種への投入額とした。
広告宣伝集約度
広告宣伝集約度は、各業種における一人あたり広告宣伝費と定義した。製造業について
は、中村・深尾・渋谷(1997)のデータを用いた。サービス業については、
『平成 7 年産業連
関表』(総務庁 1999)のデータを用いて算出した。サービス業の広告宣伝費は、広告業から
各業種への投入額とした。
資本労働比率
中村・深尾・渋谷(1997)のデータを用いた。
土地集約度
土地投入額のデータは、日本政策投資銀行(2000)『企業財務データバンク』と日経
QUICK 情報(2000)
『日系企業データ』の企業データを用いた。まず、各企業の所有する土
地の簿価(単位:10 億円)と各企業の従業者数の比率を求めた。そして、各産業について、
その比率を各企業の従業者数をウェイトとして加重平均した値が LAND である。
ただし、上水道と下水道については、大蔵省(1996)『財政金融統計月報・法人企業統計
特集』を用いて算出した。まず、日本政策投資銀行(2000)または日経 QUICK 情報
(2000)、大蔵省(1996)の両方で土地投入・従業者比率を得ることができる産業について、前
者を用いて算出した土地投入・従業者数比率を、後者を用いて算出した土地投入・従業者
数比率に回帰させた。そして、大蔵省(1996)から算出した上下水道業の土地投入・従業者
数比率を、得られた回帰式を用いて前者データによる比率に調整した。
高学歴労働者集約度
高学歴労働者集約度は、各業種の全従業者における大卒従業者の割合と定義した。総務
庁統計局(1995)
『平成 4 年度就業構造基本調査』と労働大臣官房政策調査部(1996)『平
成 7 年賃金構造基本統計調査』のデータを用いて算出した。
ハーフィンダール指数
『平成 8 年(1996 年)事業所・企業統計調査』の個票データを用いて算出した。
Σ(各企業の従業者数シェア(%))2 (nは産業内の企業数)により算出した。
n
上位 4 社集中度
『平成 8 年(1996 年)事業所・企業統計調査』の個票データを用いて、従業者数の上位 4
社集中度を産業別に算出した。
米国における外資の浸透度
1992 年の米国の全従業者数に占める外資系企業(外資比率 10%以上)の従業者数のシ
ェア。U.S. Department of Commerce (1995a) , Foreign Direct Investment in the United
States, Establishment Data for 1992を用いて算出した。
-228-
第5章
付帯表の作成
現在規制産業ダミー
現在も対内投資規制がある業種では 1、その他の業種では0をとるダミー変数。OECD の
資本移動自由化コード(Code of Liberalisation of Capital Movements (various issues))によ
れば、製造業で現在規制されている業種は、石油精製業、革・皮革製品のみである。
過去規制産業ダミー
過去に対内投資規制があった業種では 1、その他の業種では0をとるダミー変数。OECD
の資本移動自由化コード(Code of Liberalisation of Capital Movements (various issues))に
よれば、製造業で過去に規制されていた業種は、食料品、衣服、医薬品、その他化学、土
石・ガラス製品、特殊産業機械、電子計算機、電子部品・電子デバイスである。
日米の対内投資規制格差
日本の対内投資規制指標から米国の指標を引いたものを、日米対内投資規制格差とす
る。
公的事業所のシェア
国や地方公共団体が所有する事業所の従業者数/日本の全事業所の従業者数。『平成
8 年(1996 年)事業所・企業統計調査』の個票データを業種別に集計して作成した。
生産性レベル
米国の生産性レベルを 1 としたときの日本の生産性レベル。河井(1996)のデータを用い
た。このデータの詳細については、Kawai and Urata (1997)も参照のこと。
離職率
離職率のデータは、労働省政策調査部(1995)『毎月勤労統計速報・全国調査』の産業別
年平均離職率を用いた。
垂直系列
垂直系列に属する企業の従業者数/産業の全従業者数。製造業については、中村・深
尾・渋谷(1997)が Dodwell Marketing Consultants の企業レベル・データを産業ごとに集計し
て作成した統計を用いた。サービス業については、東洋経済新報社(1992, 2000)『企業系
列総覧』
、
『日本の企業グループ』を用いた。43 の企業集団(トヨタ自動車、日産自動車、日
立製作所、東芝、松下電気産業、大成建設などを中心とする企業グループ)に属する全て
の企業と、その関係会社を垂直系列企業と定義した。
水平系列
水平系列に属する企業の従業者数/産業の全従業者数。製造業については、中村・深
尾・渋谷(1997)が Dodwell Marketing Consultants (1995) をもとに作成した統計を用いた。
サービス業については、東洋経済新報社(1992, 2000)『企業系列総覧』
、
『日本の企業グル
ープ』を用いた。7 つの企業集団(三井、三菱、住友、芙蓉、三和、一勧、東海)の社長会に
属する全ての企業と、その関係会社を水平系列企業と定義した。
-229-
4 産業別資本稼働率指数6
村上友佳子・深尾京司
4.1 はじめに
企業の持つ実物資本ストックは、短期間に投入量を調整することが困難であるため、最適生産量
が急速に低下した場合には資本ストックの遊休が生じる可能性がある。資本ストックがどの程度利
用されているかをあらわす稼働率は、マクロレベルや産業レベルの需給ギャップを測定し適切な景
気対策を立案する上でも、企業の収益や設備投資の変動を理解したり予測する上でも、また経済
成長の要因分解(成長会計)を行い全要素生産性の上昇率を正しく評価する上でも、決定的に重
要な意味を持つ。
このような重要性にもかかわらず、我が国非製造業部門の設備稼働率については、稼働率に関
する通産統計が製造業のみを対象としていることもあってこれまで十分な注意が払われてこなかっ
た。非製造業の設備稼働率を推定した分析も経済白書を含めいくつか行われてきたが、4.2 で述
べるように、理論的な基礎なしに安易な推計が行われたため適切な稼働率の指標となっていない
場合が多い。
そこで本節では、経済成長の要因分解を行うためにはどのような設備稼働率指標が適切かを理
論的に議論したうえで、JIP データベース各部門について稼働率年次系列を推計する。
本節の構成は次の通りである。まず 4.2 では様々な設備稼働率概念を比較し、成長の要因分解
を目的とする場合にはどのような設備稼働率概念が適切かを理論モデルを使って考察する。4.3 で
は、我々が行った JIP 産業分類別設備稼働率年次系列推計方法を報告する。
4.2 経済成長会計における設備稼働率の役割:理論モデルによる考察
本節では、経済成長の要因分解を正しく行うにはなぜ設備稼働率の指標が必要か、またこの目
的のためには、どのような設備稼働率の指標が望ましいかを理論モデルを使って明らかにする。
成長会計と設備稼働率
まず、簡単な新古典派生産関数を仮定して成長の要因分解と設備稼働率の関係について考え
てみよう。
一国全体、またはある産業について生産関数が次式のように書けるとしよう。
Y =AF (hN, ZK, M )
(1)
ここで、Y は実質付加価値、hN は生産に投入された労働時間、ZK は生産活動に投入された資
本サービス、M は実質中間財投入をあらわす。K は資本ストック残高をあらわす。われわれは資本
ストック投入量の調整には調整費用を要し、資本ストック投入量は短期的には与件であるものとし
6
本節の理論部分 4.2 は深尾・村上(2001)における考察をもとに、これを改定して作成した。
-230-
第5章
付帯表の作成
て以下の議論を進める。Z は資本ストックが標準的な稼働状況に比べどの程度活発に稼働された
かをあらわす設備稼働率である。A は全要素生産性をあらわす指数である。関数F ( )は一次同次
であるとする。
生産関数の形状について以下の点を確認しておこう。われわれは労働と資本間の代替の弾力
性はゼロではないと仮定する。代替の弾力性がゼロ、つまり生産関数が資本と労働の代替につい
てレオンチェフ型
Y =AG ( min (ahN, bZK ), M )
(1’ )
であらわされる場合には、労働投入と資本サービスの投入が比例するため、仮に設備稼働率が観
察できない場合でも労働投入の動向から設備稼働率を推測することができる。
またこの場合には、
設備がフル稼働でない状況では、生産量の変化は労働および中間財投入の変化だけで説明でき
ることになる。しかし、一国全体、または電機や卸売等、中分類程度まで集計された産業レベルの
生産関数では、労働と資本サービス間の代替の弾力性がゼロとは考えるのは非現実的であろう。
仮に企業レベルや細分類産業レベルでは生産関数がレオンチェフ型でも、一国全体や中分類産
業レベルでは、集計値の内訳が変化するため労働と資本サービスの投入比率は要素価格の変化
に対応して動くと考えられるからである。たとえば労働が割高になれば、資本集約的な企業が生産
を拡大するため、集計された資本サービス/労働比率は上昇するだろう。
設備の稼働率についてもう一つ重要な点を確認しておこう。資本ストックの調整には時間を要す
るため、資本ストック残高およびその投入コストは短期的には与件であるという我々の想定の下で
は、企業が設備をフル稼働させない選択をするのは、少なくとも企業や事業所といったマイクロ・レ
ベルでは資本サービスと他の何らかの生産要素間の代替の弾力性がゼロの場合に限られる。企
業にとって資本投入のコストは既に与件だから、設備稼働率を上昇させると、たとえば電力や中間
財の投入等をどうしても増やす必要がある、等の理由のため生産コストが増加するということがなけ
れば、代替の弾力性がゼロでない限り、企業は設備のフル稼働を選択するはずだからである。この
点で(1)式の生産関数で表現している我々のモデルは厳密でない。より厳密なモデルについては
後に議論する。
成長の要因分解を行うため(1)式の両辺について対数をとって微分すれば次式を得る。
= - ( + )- ( + )-
(2)
ただし、記号「」は成長率をあらわす。また、 、 、 はそれぞれ、実質生産の労働投入に
対する弾力性( AF (・)/ hN )(hN/Y )、実質生産の資本サービス投入に対する弾力性( AF
(・)/ ZK )(ZK/Y )、および実質生産の中間投入に対する弾力性( AF (・)/ M )(M/Y )
をあらわす。
(2)式は、全要素生産性 A の成長率が実質生産 Y の成長率から生産要素投入量増加の寄与を
引いた残差として計算されることをあらわす。なお、生産要素に対する報酬がその限界生産価値に
-231-
等しい場合には、 、 、 は総費用に占める労働と資本および中間財投入費用のシェアー
と等しいから、分配に関する情報からこれを求めることができる。
なお、我々が仮定しているように資本ストックの投入量が短期的に硬直的な場合には、一般的に
は資本に対する報酬総額は資本の限界生産価値と資本ストックの積に必ずしも一致せず、生産額
から他の生産要素に対する報酬を除いた残差として決まる。しかし、生産関数が一次同次であれ
ば完全分配の定理として知られているように資本に対する報酬総額は資本の限界生産価値と資本
ストックの積と一致する。従って規模に関する収穫一定を仮定する限り、 は当該産業における
総費用に占める資本ストック報酬総額の割合から求めることができる。ただし、資本が硬直的な場
合には、資本一単位あたりの報酬は産業ごとに異なり、全産業共通の所謂「資本コスト」からは乖離
する点に注意が必要である。慶応データベースを使った実証研究では、このような問題意識から全
要素生産性導出にあたり、資本の寄与を計算する際には全産業共通の資本コストではなく、産業
別の営業余剰に関する情報が使われることも多い。
資本が硬直的であるだけでなく、規模に関して収穫一定が成立しない場合には、さらに厄介な
問題が生じる。残差として計算される営業余剰は資本の限界生産価値と資本ストックの積と一致し
ないからである。この場合には、費用関数や生産関数を直接推計することにより、資本の限界生産
力を別途推計する必要が生じる7。
現実には設備稼働率 Z が変動するにもかかわらずこれを無視し、資本サービスの投入を資本ス
トック量 K で測って成長会計を行った場合、どのような問題が生じるかを(2)式を使って考えてみよ
う。一般に、景気拡大期には設備稼働率は上昇し、後退期には下落する。従って(2)式からわかる
ように、設備稼働率の変動を無視すると、全要素生産性の成長率を景気拡大期には過大に、景気
後退期には過小に誤って評価してしまうことになる。
全要素生産性に関する多くの実証研究では、全要素生産性が景気変動と正の相関を持つ
(pro-cyclical)との結果を得ている。この関係はしばしば、景気変動がサプライ・ショックによって引
き起こされると主張するリアル・ビジネス・サイクル学派の論拠とされたり、生産活動に規模の経済
性が働くことの証拠と見なされてきた。しかしながら正の相関は設備稼働率の変動を無視している
ために生じている見せかけのものかもしれない。例えば Basu (1996) やBurnside, Eichenbaum, and
Rebelo (1995) は稼働率の変動を考慮すると、生産性と景気変動の正の相関は有意でなくなるとの
結果を得ている。
設備稼働率の変動を無視することは、成長会計において誤った結果を生み出すだけでなく、
GDP ギャップや産業構造に関する分析においても深刻な問題を生じさせる。
例えば経済企画庁(1998)は 1970 年代末以降の日本について産業別の全要素生産性の伸び
を算出し、90 年代に入って建設、金融等、非製造業において製造業と比較して顕著な生産性上
昇率の低下が見られたことに注目し(図 5-1 参照)、この低迷が、国際競争にさらされることの少な
い一部の非製造業で、護送船団的あるいは業界横並び的体質が維持される傾向が強かったこと、
バブル期に効率の低い投資が行われたこと、等に起因している可能性があると指摘している。
-232-
第5章
付帯表の作成
しかしながらこの分析は、製造業については設備稼働率の変化を考慮して成長会計を行ってい
るのに対し、非製造業については稼働率の変動を全く考慮に入れていない点で問題がある。90 年
代には経済成長の鈍化により、稼働率が低迷したと考えられるから、非製造業における稼働率の
変動を無視した経済企画庁(1998)の分析は、この時期の非製造業の生産性上昇を実際より過小
に評価している可能性が高い。
設備稼働率に関する諸概念
ここで、設備稼働率に関する諸概念を簡単に概観しておこう。國則(1983)
、國則・高橋(1984)
、
通商産業大臣官房調査統計部(1990)等が要領よくまとめているように、設備稼働率に関する概
念は次の三つに大別できよう。
(A) 設備の技術的な稼働水準を推計し、これを稼働率とする
(B) マクロまたは産業レベルで生産ピークを推計し、ピークからの乖離率を稼働率とする
(C) 費用概念による稼働率:短期平均費用を最小にする生産水準を生産能力と考えこれと実際の
生産水準との比を稼働率とする
(A)の稼働率概念を使った研究としては、設備の稼働時間(workweek of fixed capital)を推計し
、設備の稼働水準と連動すると考えられる中間財投入量や電力
た Foss(1981)や Shapiro(1993)
投入量のデータを使って設備の稼働率を推計した Burnside, Eichenbaum, and Rebelo(1995)や
Basu(1996)等があげられる。また製造業について通産省が推計している稼働率指数も、比較的こ
れに近い概念と言えよう8。
(B)の稼働率概念の代表例としてはウォートン・スクール方式と呼ばれる推計があげられよう(詳
しくは、Adams and Summers (1973)、國則 (1983)、Shapiro (1989) を参照)。最近の日本の非製造
業について、この概念に基づいて稼働率を算出した研究としては、久保 他 (1997) があげられる。
彼らは産業別の潜在産出能力を過去の生産額から推計し、これと現実の生産額の差を稼働率と
見なして、全要素生産性を算出している。また、通産省の第三次産業活動指数を経済企画庁の民
間企業資本ストックで割った値の時系列データから下方トレンドを除いた値を非製造業の稼働率
指数と見なし、これを GDP ギャップの推計に利用した山澤・永濱 (2000) も、稼働率について(B)
に近い概念を採用していると言えよう。
(C)の稼働率概念の推定例としては、Bernt, Fuss, and Waverman (1980)、Bernt and
Fuss(1982)、Bernt (1980)、國則 (1983) 等があげられる。
以上三つの稼働率概念のうち(B)と(C)は、マクロレベルや産業レベルの需給ギャップを推計し
このような実証研究としては Baltagi and Griffin(1988) および Baltagi, Griffin and Rich(1993)を見られたい。
通産省の稼働率指数は、生産動態統計調査に基づく品目別の生産能力推計値で実際の生産量を割った値とし
て算出される。ただし生産能力は、設備の標準的な操業時間と標準的な人員を前提とした場合の生産量と定義さ
れている(通商産業大臣官房調査統計部 1990 参照)。したがって、通産省の稼働率指数は設備の操業時間だけ
でなく、労働投入の変化にも依存する値であり、厳密には設備の稼働時間とは異なった概念である。
7
8
-233-
たり、企業の収益や設備投資行動の変動を理解したり予測したりするためには有益だが、経済成
長の要因分解のために設備の稼働率(具体的には、例えば(1)式の Z)として利用するには不適切
な概念である。
生産要素間の代替性がすべてゼロという強い仮定を置かない限り、生産水準は資本サービスの
投入だけでなく、労働等、他の生産要素の投入量にも依存する。したがって、生産のピークと現実
の生産水準との乖離は、資本サービス投入量の変化だけでなく、労働をはじめとする他の生産要
素投入量の変化をも反映するはずなのに、(B)はこの点を無視している。
また(C)の場合には、次のような理論上の問題を持つ。(C)の稼働率概念を前提とする多くの研
究では、通常の新古典派生産関数を仮定し、資本の投入が短期には固定的であるため、平均総
費用曲線が U 字型であると考えるわけであるが、この仮定だけでは、資本コストがすでにサンクして
いる以上、企業がなぜ資本をフル稼働にしないかが説明できない。企業が資本をフル稼働してい
るとすれば、生産水準は過去に蓄積された資本ストック量および労働等、短期にも可変的な生産
要素投入量のみに依存し、設備稼働率 Z には依存しないはずである。つまり(C)の考え方を取る
限り、(1)式や(2)式右辺に稼働率Z が入る根拠は無い。
以上見てきたように、(2)式で示した経済成長の要因分解のために設備の稼働率として利用す
るには、稼働率の諸概念のうち設備の技術的な稼働水準を対象とする(A)の概念が適切であり、
(B)と(C)は不適切である9。
なお、我が国の非製造業に関する実証研究では、以上の諸概念の外にも、もっと簡便な方法で
稼働率を推計した分析がいくつかある。ここではそれらの研究についても簡単に検討しておこう。
まず日本経済研究センターの長期予測用モデル(中村 他 1998)や日経 NEEDS の日本経済モ
デルでは非製造業の設備稼働率は製造業の稼働率指数と同じ動きをすると仮定されている。しか
しながら、製造業と非製造業の実質付加価値成長率を比較した図 5-2 からも分かるとおり、2つの
産業の生産の変動はかなり異なっている。製造業と比較して非製造業の変動が小さいこと、1978
年や 85、86 年の円高期には貿易財の性格の強い製造業は成長率が鈍化しているのに対し非製
造業はそのような影響をあまり受けていないこと、等、両者の変動の間には無視できない違いがあ
り、これを同一と仮定する分析には無理がある。
一方、先に紹介した経済企画庁(1998)や経済企画庁調査局(2000)は、非製造業の稼働率
は常に100%と仮定している。図 5-2 の製造業と非製造業実質成長率の比較から判断すると、確
かに非製造業の方が製造業と比較して稼働率の変動は小さいと推測されるが、図 5-3 の日本銀行
『短期経済観測』生産・営業用設備(「過剰」-「不足」判断項目(ディフユージョン・インデックス、
D.I.)からも分かるとおり、非製造業においても設備の「過剰」-「不足」判断は大きく変動しており、
稼働率一定の仮定は強すぎると思われる。
最後に、経済企画庁調査局(1994)や経済企画庁(1996)は、非製造業の稼働率指数を所定
外労働時間で代用している。しかしながら、本節の最初のモデルでも議論したように、労働と資本
9
なお、よく知られているように成長会計を費用関数側から推計する場合には、(C) の意味で定義された
稼働率は重要な意味を持つ。
-234-
第5章
付帯表の作成
サービスの間で代替が行われれば、このような代用は望ましくない。稼働率指数が利用できる製造
業について、稼働率指数と労働投入(人・時間)・資本ストック比率を比較すると、図 5-4、図 5-5 に
見られるように、水準についても成長率についてもかなり違った動きが観察される。非製造業の稼
働率指数を所定外労働時間で代用する方法も、問題があると考えられる。
理論モデルによる考察
先に簡単なモデルについて議論したとおり、成長会計に設備稼働率の変動を理論的な矛盾無
しに導入するためには、次の2つの問題に答えておく必要がある。
1) 固定資本の投入コストはサンクし、また労働と資本の代替の弾力性はゼロではないと考えられる
のに、なぜ資本が 100%使われない場合があるか。
2) 限界原理で生産要素報酬が決まっているとすると、資本の遊休が生じている状況では資本に対
する報酬はゼロのはずなのに、現実には資本の分配率は正である。これをどのように理解する
か。
先にも議論したとおり、例えば通常の新古典派生産関数を仮定し、資本の投入が固定的である
ため平均総費用曲線が U 字型であり、平均総費用が最小になる生産量と現状の生産量の比率を
稼働率と定義するだけでは、生産量は労働投入と資本の蓄積量のみに依存し、
「稼働率」には依
存しなくなる。
この2つの問題を解決する方法について簡単なモデルで考えてみよう。我々は Burnside,
Eichenbaum, Rebelo(1995)のモデルに変更を加えた以下のようなモデルを想定する。
一国全体またはあるセクターの実質付加価値生産額は次式で規定されるとする。
Vt =AtQ (HtNt, min (Et/ b, Kt ))-AtEt
(3)
ただし、At は技術水準、HtNt は投入労働時間、Et は電力のような資本の稼働と完全に補完的
な中間財投入、Kt は資本ストックをあらわす。資本の投入量は短期的には固定的であるとする。資
本の稼働率を上げるためには中間財投入を増やす必要があるため、企業は稼働率を常に 1 に保
つとは限らない。これが我々のモデルの特徴である。またこの特徴は、稼働率を中間投入の変動
で測ることの理論的根拠ともなる。
稼働率 Z を次式で定義すると
Zt =Et/ (bKt )
(4)
(4)式は次のように書き改められる。
-235-
Vt =AtQ (HtNt, ZtKt ))-AtbZtKt
(5)
上式右辺はAt、HtNt、ZtKt の関数である。以下ではこれをAtF (HtNt, ZtKt)とあらわす。関数 Q
(・)について適当な仮定を置くことにより、AtF (HtNt, ZtKt)をHtNt、ZtKt について一次同次な新古
典派生産関数にすることができる(HtNt と ZtKt は代替的)。
この定式化では、労働の限界生産力は実質賃金に等しく、また残差として決まる実質営業余剰
は完全分配の定理よりAtF (HtNt, ZtKt)をZtKt で偏微分した値に等しい。従って、付加価値ベー
スで見た次式のような成長会計が適用できる(次式以降では簡略に表記するため添え文字t を省
略している)。
dA/A = dV/V - dHN/ HN - dZK/ ZK
(6)
、 は総費用に占める労働と資本のシェアと等しい。
上式において、資本の稼働率Z ま(4)式で定義されているとおり、中間投入と資本ストックの情報
から算出することができる。以上のような考え方に基づき、我々は中間投入/資本ストック比率のデ
ータをもとに「稼働率」を推定した。推計方法の詳細と推計結果は 4.3 で報告する10。
4.3 産業別設備稼働率の推計
前節の理論モデルで示したように、我々は設備の稼働率と中間財投入・資本ストック比率の間に
は高い相関があると考え、稼働率指数が作成されていない非製造業について、中間財の投入に
なお、このモデルを現実に適用する場合には、資本のシェア の算出にあたりやや問題が残ることを指摘して
おこう。生産物価格をP 、中間財価格をPm、賃金率をW とすると、Z〈1 の企業にとっての利潤最大条件は
PA Q / HN = W
PA F / ZK = PA Q / ZK –PmAb = 0
従って、稼働率が 1 未満の企業では営業余剰はゼロになる。
各産業において営業余剰は通常正であるから、理論をこれに矛盾させないためには、例えば、以下のような仮定
が必要である。
(1) 各産業の営業余剰は生産関数は同一であるが、需用水準と稼働率が異なるより小さないくつかの細分類産業j
の営業余剰の集計値である。
(2) dZjKj /ZjKj が全ての j について等しい
仮定(1)のもとでは一部の細分類産業では稼働率が1、残りの細分類産業では稼働率が 1 未満と想定することによ
り、産業全体では営業余剰が正でありながら、平均的な稼働率が 1 未満である状況を考えることができる。また仮定
(1)のもとでは、成長会計(6)式の最後の項はΣ(AjFj dZjKj /ZjKj)/ Σ(AjFj) と表すべきであるが、仮定(2)のも
とではこれは産業全体の平均的な資本分配シェアに集計されたZK の成長率を掛けた値、(Σ(AjFj )/ Σ(AjFj))
(Σ(dZjKj)/Σ(ZjKj))に等しくなる。
このように強い仮定は必要であるものの、仮に現実の経済において我々が想定するように稼働率が重要な役割
を果たしているとすれば、本節の最初に示したように、これを無視した成長会計よりは稼働率の変動を考慮した
我々の推計の方がバイアスが小さい可能性が高い。たとえば、ある産業を構成する細分類産業のうち半分のみが
稼働率 1 であとは稼働率は 1 未満であったとする。稼働率 1 の細分類産業の資本の分配率は 0.6、したがってこの
産業平均では資本の分配率は 0.3 であったとする。景気が良くなり、当初稼働率 1 の小産業では資本を 10%増加
させ、残りの小産業では稼働率のみ 10%上昇し、設備は増やさないとする。このとき、我々の成長会計では資本増
加の成長への寄与は正しく0.3*10%=3%と推計できるのに対し、稼働率を無視した成長会計では資本蓄積の寄
与は0.3*10%/2=1.5%と過小に推計されてしまう。この分 TFP 成長率を過剰に推定することになる。
10
-236-
第5章
付帯表の作成
関する情報を使って設備の稼働率を推計する。すなわち前節のモデルで言えば、Et/Kt の変動
を、Zt の変動の代理変数として使う。
なお、Burnside, Eichenbaum, and Rebelo (1995) や Basu (1996)は、米国のマクロ経済全体およ
び製造業について業種別に、中間財投入だけでなくエネルギーや電力の投入に関する情報も利
用して設備の稼働率を推定している。しかし日本の非製造業については、業種別にエネルギー投
入や電力投入のデータを得ることができなかったため11、我々は中間財投入の情報を使って推定
を行った。
中間財投入・資本ストック比率の変動に関する情報を設備稼働率の代理変数として使うことの妥
当性を確認するため、本節ではまず通産省の稼働率指数と中間財投入のデータがともに利用でき
る製造業について、
稼働率指数の推移と中間財投入・資本ストック比率の推移を比較しておこう。
図 5-6、図 5-7 では、稼働率指数の成長率と中間財投入・資本ストック比率の推移と成長率を比
較している。これらの図からわかるとおり、稼働率指数と中間財投入・資本ストック比率の間には高
い相関がある。1971 年から 98 年までの年データで見ると、稼働率指数の成長率と中間財投入・資
本ストック比率の成長率の間の相関係数は、0.85 であった。この事実は、製造業についてではある
が、設備稼働率を推測するうえで中間財投入・資本ストック比率が有益な情報を提供してくれる可
能性を示している。
また図 5-5 と図 5-6 を比較すると、労働投入(人・時間)・資本ストック比率の変動が稼働率指数
や中間財投入・資本ストック比率の変動と比較して小さいことがわかる。成長率(%)の標準偏差で
比較すると、労働投入・資本ストック比率は 3.0 と、稼働率指数の 5.3 や中間財投入・資本ストック比
率の 3.8 と比較して確かに低い。この違いは、非製造業に関する分析でしばしば見られるように設
備稼働率を労働投入の変動で代用すると(たとえば経済企画庁調査局(1994)、経済企画庁(1996)
参照)、設備稼働率の変動を過小に評価する危険があることを意味する。
中間財投入と資本のサービス投入の間の比例関係は、中・長期的にはオイルショック等、相対価
格(中間財価格/資本サービス価格)の変動や、アウト・ソーシングの高まりといった長期的なトレン
ド要因の影響を受ける可能性がある。すなわち前節のモデルで言えば、生産技術をあらわすパラ
メーターbが時間を通じて変化する可能性がある。中間財投入・資本ストック比率を設備稼働率の
代理変数として利用するためには、中間財投入・資本ストック比率の変動のうち、これらの中・長期
的な要因による変動を取り除いて考える必要がある。我々は以下の手順でこの問題に対処するこ
とにした。
(1)経済産業省(旧通商産業省)鉱工業指数で稼働率指数が推計されている製造業の多くの業種
の 1973-98 年の値については、稼働率指数をほぼそのまま利用した。
11 資源エネルギー庁長官官房企画調査課(各年)に記載された「総合エネルギー需給バランス」から、産業別・年
度別に、エネルギー種類別のエネルギー投入量がわかる。しかし、一次産業を除く非製造業については、建設業と
運輸部門しか産業別のデータが得られない。
-237-
(2)稼働率指数が利用できない製造業の 1970 年および非製造業の多くの年の値については、原
則として設備の稼働率と中間財投入・資本ストック比率の間には高い相関があると考え、中間財の
投入に関する情報を使って設備の稼働率を推計した。なお、中間財投入・資本ストック比率と設備
の稼働率の関係は、技術変化や資本コストと中間財価格の相対比の変化に対応した 2 つの生産
要素間の長期的な代替等により、時間を通じて次第に変化していくものと考えられる。そこで、中間
財投入・資本ストック比率年次系列についてピークを結び、そこからの乖離を設備稼働率の 1 から
の乖離とみなすことにした。つまり、中間財投入・資本ストック比率の年次系列について 4.1 でふれ
たウォートン・スクール方式と似た方法で稼働率を算出した。以下ではこの方法による推計をウォー
トン法による推計と呼ぶ。なお、稼働率のピークを捉えウォートン法を適用するには四半期ベース
程度の時間単位のデータが望ましいと考えられるが12、中間財投入は年次系列しかない。そこでわ
れわれは中間財投入を四半期ベースの生産指数で置き換え、資本ストックについては年次系列か
ら移動平均により四半期系列を推計して四半期ベースのデータを作成し、これについてウォートン
法を適用して四半期ベースの「稼働率」を算出し、最後にこれの年毎の平均値を年次データとする
方法も試みた13。
(3)「バブル経済」崩壊後の 90 年代においては、景気のピークといっても好況感が薄く、多くの産業
において設備稼働率が1とは判断できないと考えられる。事実、鉱工業指数の稼働率は多くの製
造業において 90 年代を通じて低迷してきたし、4.2 でも見たように非製造業についても日本銀行
『短期経済観測』の生産・営業用設備(
「過剰」-「不足」
)判断項目(以下では短観の設備 D.I.と呼
ぶ)は 90 年代を通じて低迷してきた。しかしながらウォートン法を適用すると、90 年代についても多
くの産業において中間投入/資本ストックのピークがあるとみなすため、90 年代の稼働率を過剰に
高く推計してしまう危険がある。幸い 91 年以降は多くの非製造業について短観の設備 D.I.が利用
可能である。そこで我々は短観設備 D.I.から稼働率を推計することにした。われわれはまず短観設
備 D.I.と鉱工業指数稼働率が利用可能な製造業について業種×四半期系列のパネルデータを
作成し、鉱工業指数稼働率を被説明変数、短観設備 D.I.、タイムトレンドおよび業種ダミーを説明
変数とするモデルを推計した。次に非製造業各業種について短観設備 D.I.に当該業種の短観設
備 D.I.を代入することにより、91 年以降の「稼働率」理論値の変動を算出し、これを4四半期づつ合
計することにより年次化した。さらにこれを 91 年までのウォートン法による
「稼働率」に接続すること
により、91 年以降の稼働率を推計した。つまり我々は全ての業種、全ての時期で鉱工業指数稼働
率と短観設備 D.I.の間の関係が切片とタイムトレンドを除き同一であると仮定し、非製造業の稼働
率を短観設備 D.I.から推計したことになる。
12
月次データのように時間の単位が短い場合には、瞬間的に高い中間財投入・資本ストック比率をピークとして捉
えるため、ボトム時の稼働率は低く推定される、一方年次データのように時間の単位が長いほど、ボトム時の稼働率
は高く推定されることになる。
13 生産水準は資本サービスおよび中間財の投入だけでなく、労働の投入量にも依存する。したがって、生産水準
/資本ストック比率のピークと現実の生産水準/資本ストック比率との乖離は、資本サービス投入量の変化だけで
なく、労働投入量の変化をも反映するはずである。この点で生産指数/資本ストック比率についてウォートン法を適
-238-
第5章
付帯表の作成
以下では、上記の方法による稼働率推計作業の結果を報告しよう。
表 5-18 は稼働率の推計にあたって我々が利用したデータの出所と産業分類の対応を表す。先
にも述べたように、製造業では鉱工業指数の稼働率、非製造業は 1991 年まではウォートン法、そ
れ以降は日銀短観の情報を主に使っている。
表 5-19 と 5-20 はそれぞれ、実質中間投入・資本ストック比率と生産指数・資本ストック比率にウ
ォートン法を適用して算出した稼働率を非製造業に関してまとめてある。なお、生産指数は 73 年以
降しか得られないため、生産指数・資本ストック比率に基づく稼働率(表 5-20)は73年以降のみの
データである。
表 5-21 は 1974 年から 2001 年までの製造業四半期データを使って鉱工業指数稼働率を被説明
変数、短観設備 D.I.、タイムトレンドおよび業種ダミーを説明変数とするモデルを推計した結果であ
る。短観設備 D.I.が各期末に関する値であるのに対し、稼働率は四半期平均の値であるため、説
明変数としては前期と当期の短観設備 D.I.を使った。推計においては産業ダミーを説明変数に加
えたが、その推定係数は表から略してある。残差の系列相関や不均一分散について異なった仮定
を置いた 4 つの推計を行ったが、ほぼ同様の結果を得た。どの推定においても前期と当期の短観
設備 D.I.の係数は期待どおり共に負で有意である。また、当期および前期の設備 D.I.の推定係数
もあまり違わない。我々は残差について産業個別のAR(1)過程を仮定した(2)式の結果を使って
以下の議論を進めるが、他の式の推定結果を使っても以下の議論はほとんど変わらない。
図 5-8 は、この推定結果に日銀短観設備 D.I.の値を代入して算出した非製造業稼働率である。
非製造業については切片(産業ダミー)の値が不明であるため、それぞれの産業について 91 年平
均値からの稼働率変化分が示してある。我々の推測どおり、90 年代には多くの産業において稼働
率は低迷したままであり、91 年の水準にまで一度でも回復している業種は、鉱業、電気・ガス、不
動産、および例外的に稼働率が上昇した通信のみである。卸売、サービス、リースの稼働率は、91
年よりも約2%以上低い水準を保っており、建設や運輸ではそれ以上に下落していることが分か
る。
表 5-22 はデータが無い時期と業種について、中間財投入・資本ストック比率にウォートン法を適
用して作成した我々の稼働率である。データの出所については先にも述べたように表 5-18 にまと
めてある。なお、異なったデータに基づく稼働率の推計を接続する場合には、原則として鉱工業生
産指数の稼働率が 1 年でも利用できる部門ではこの期間、これが全ての期間について利用できな
い非製造業等の部門ではウォートン法による推計期間をベンチマークとし、他の方法による推計結
果をこれにリンクした。また、このようにリンクして作成した稼働率の最大値が 1 を超える場合には、
この最大値で全期間の値を割ることにより、稼働率は 1 を超えないようにした。
表 5-23 は非製造業(JIP 部門コード 1-10 および 46-83)について生産指数・資本ストック比率
にウォートン法を適用して推計した稼働率である。多くの期間について鉱工業生産指数の稼働率
が得られる製造業については表 5-22 の結果をそのまま使った。また生産指数が得られない 1970
用して稼働率を算出する方法は欠点を持つことに注意する必要がある。
-239-
年については全部門について表 5-22 の結果をそのまま使った。
5 産業別技術知識ストックおよび技術知識ストックコスト
深尾京司*
5.1 はじめに
一国の経済成長は資本の蓄積や労働力の増加、さらには人的資本の蓄積による労働の質の
向上だけでは十分に説明できない。新古典派成長論では Solow 以来、生産要素の投入によって
説明できないすべての残差要因を技術進歩と呼んできた。しかし研究開発に関する多くの研究は、
技術進歩が伝統的な新古典派成長理論が仮定するように努力なしで得られるものではなく、研究
開発投資によって蓄積された技術知識ストックによって達成されていることを示している。
内生的な経済成長の源泉である技術進歩と研究開発活動の関係を我々の JIP データベースで
検証するためには、長期的な技術知識ストックを推計する必要がある。また日本経済の長期低迷
の原因を理解する上でも、最近の全要素生産性上昇の下落が研究開発投資の減少によって引き
起こされているか否かを検証することは重要な課題であると考えられる。
このような問題意識から、
我々は JIP データベースの産業分類に対応した業種別技術知識ストックの推定を行った。
5.2 研究開発費の範囲と定義
研究開発活動は企業だけではなく、大学や公的・民間研究機関等によっても行われている。また
研究開発活動の代わりに技術取引を通じて技術を獲得することも可能である。産業の技術知識ス
トックを推計する場合には大学や公的・民間研究機関による研究開発活動や技術取引も考慮する
必要があるが、なお、我々はここで取り扱う研究開発主体の範囲を総務庁統計局『科学技術研究
調査報告』の「会社等」14に限定した。
我々は研究開発支出・技術取引の基礎データとして『科学技術研究調査報告』を利用した。しか
し同報告は、産業分類が JIP 産業分類に対応するような詳細なものではなく、産業 2 桁分類になっ
ている。このため、我々は総務庁の『産業連関表』と『接続産業連関表』および経済産業省『産業連
『科学技術研究
関表延長表』を利用して JIP データベースの詳細な産業分類に按分した。ただし、
調査報告』は商業、金融・保険、不動産業とサービス業(ただし放送業およびその他のサービス業
以外)を調査対象外にしている。このため我々もこれらの産業については技術知識ストックを推定し
「科学技術研究調査報告」の産
ないこととした。JIP データベースの産業分類は 84 産業であるが、
業分類に対応させ諸産業連関表の情報で按分することにより、製造業 34 産業、非製造業 20 産業
の全 54 産業について技術知識ストックを推計した。
研究開発費は算定ベースに基づいて支払いベースと費用ベースに分けられる。
*
深尾及び権赫旭(一橋大学大学院経済学研究科博士課程)が分担して行った。
資本金 500 万円以上(80 年-95 年)の会社および公団、事業団などの特殊法人をいう。
14
-240-
第5章
付帯表の作成
支払いベース研究開発費:人件費+原材料費+有形固定資産購入費+その他の経費
費用ベース研究開発費:人件費+原材料費+有形固定資産減価償却費+その他の経費
我々は産業別技術知識ストックの推計には費用ベースの研究開発費を使うことにした。
5.3 名目研究開発投資系列の推計
日本の研究開発活動に関する包括的な年次調査報告である『科学技術研究調査報告』の名目
研究開発投資は産業 2 桁分類で一般に公表されている。同調査の調査票ではより詳しい業種分
類で行われ、また詳しい業種分類の集計結果は総務庁『産業連関表』等の基礎資料として利用さ
れている。しかし残念ながら担当部局によれば過去に遡及できる、より詳細な産業分類別統計や
マイクロデータは残していないとのことであった。そこで我々は諸産業連関表を用いて、
『科学技術
研究調査報告』の 2 桁業種別データを JIP データベースの産業分類別に按分した。JIP 産業分類
表と科学技術研究調査報告産業分類表の対照については表 5-24 を見られたい。
JIP データベースにおける名目研究開発投資系列の推計過程は以下の通りである。
1)
総務庁の『75-80-85 年接続表産業連関表』75 年と、総務庁『80-85-90 年接続表産業
連関表』
、総務庁『85-90-95 年接続表産業連関表』の 95 年、96 年・97 年・98 年延長表の
基本分類を『SNA 産業連関表』の 89 分類に変換する。
2)
われわれは総務庁の『75-80-85 年接続表産業連関表』の 75 年自家研究項目と、総務庁
、総務庁『85-90-95 年接続表産業連関表』の 95 年、
『80-85-90 年接続表産業連関表』
96 年・97 年・98 年延長表の 96、97、98 年それぞれの企業内研究開発項目の産出構造を使
うことにした15。
3)
産出構造の情報は上記した 75 年(自家研究)、80 年、85 年、90 年、95 年、96 年、97 年、98
年しかない。75 年以前は 75 年の産出構造をそのまま使用し、75 年から 95 年までは線形補
間して各年度の各産業に対する研究開発の産出構造を決定した。このように推計した産出
構造を JIP 産業分類に変換した。
4)
3)のように推計した研究開発の産出構造の情報を用いて『科学技術研究調査報告』のデー
タを JIP 産業分類の各産業毎に按分し、各産業の名目研究開発費を推計した。たとえば、
『科学技術研究調査報告』の繊維工業に対応する JIP 産業は 4 つある。この 4 つの産業の
15
自家研究と企業内研究開発は定義が異なる。自家研究は原材料費にその他の経費を足したものになって
いるが、企業内研究開発は費用ベースの式で定義されている。
-241-
中での各産業の企業内研究開発産出構造に占める比重を用いて、『科学技術研究調査報
告』の繊維工業の研究開発費を分割し、各産業の研究開発費を決定した。以上のような方
法を取ったため、毎年の『科学技術研究調査報告』の研究開発費の合計と JIP データベー
スの名目研究開発費の合計は一致する。
以上のようにして推計した名目研究開発費は表 5-25 に示されている。
5.4 研究費デフレーターの推計16
毎年の『科学技術白書』には全産業レベルの支払いベース研究開発費デフレーターが公表され
ているが、産業別の費用ベース研究費デフレーターは全く推計されてない。我々は全産業レベル
に関する支払いベース研究費デフレーターの作成方法に沿って産業別の費用ベースの研究費デ
フレーターを推計する。
まず『科学技術研究調査報告』の産業 2 桁分類別に各産業における社内使用研究費の費用額
内訳を人件費、原材料費、有形固定資産減価償却費、その他の経費の4項目に集計し、これらを
社内使用費用額で除することにより各項目の構成比を求めた。
次に、人件費、原材料費、有形固定資産減価償却費、その他の経費の産業別デフレーターを算
出して、上記で算出した毎年の各内訳の構成比をウェイトとして調和平均指数(パーシェ指数)を推
計し、毎年の研究費デフレーターとした。各内訳のデフレーターはすべて JIP データベースのデー
タを利用した。人件費については 90 年基準の賃金指数、原材料については JIP 産業連関表の 90
年基準中間投入額のデフレーター、有形固定資産減価償却費に対しては 90 年基準の資本ストッ
クのデフレーター、その他の経費については JIP 産業連関表の 90 年基準産出額のデフレーターを
使用した。
こうして作成した産業別研究費デフレーターは表 5-26 に示されている。
5.5 技術知識ストックの減価償却率とラグ17
技術知識ストックを推計する際に問題になるのは適切な減価償却率とラグ構造である。
この数値は必ずしも確
多くの先行研究では減価償却率として 10%という数字をよく用いているが、
かな根拠はない。減価償却率を計算する方法として次の 5 つがある。第 1 に特許所有者の主体的
均衡条件から出発して実証的に推計する方法、第 2 に特許の残存年数のデータから計算する方
法、第 3 に技術の平均寿命から逆算する方法、第 4 に実証にもとづき感応分析(sensitivity
analysis)によって算出する方法、第 5 に製品ライフサイクル年数を利用する方法である。
本研究では第 2 の方法に基づいて 1985 年科学技術庁が推計した結果をそのまま減価償却率と
して使うことにした。減価償却率は表 5-27 に示されている。
研究開発活動がすぐ結果につながることはなくある程度のタイムラグが存在すると考えられる。ラ
16
17
後藤他(1986)を参照。
後藤(1993)を参照。
-242-
第5章
付帯表の作成
グの構造も産業別に違う可能性があるが、ラグに関しても減価償却率と同じように合意された適切
なラグはない。本研究ではラグを全産業で同じと仮定した上で、ラグが 0 年と 3 年、二種類の産業
別技術知識ストックを作成した。
5.6 産業別技術知識ストック推計
5.3 で求めた名目研究開発費を 5.4 で算出した研究費デフレーターで実質化した実質研究開発
費をもとに技術知識ストックを推計する。技術知識ストックの推計式は次のように表すことができる。
=
+(1-
:t
ただし、
:t
)
期における技術知識ストック
- 期における研究開発費
: 技術知識ストックの減価償却率
なお、ベンチマークとなる 70 年の技術ストックは次のようにして求めた。
=
g +
ここで、gは 28 年間の研究開発費の平均成長率である。
ラグ無しと 3 年ラグで推計した産業別技術知識ストックは表 5-28 に示されている。
5.7 技術知識ストックコスト推計方法
JIP の資本コスト推計式に沿って技術知識ストックコストの推計を行った。我々は次式を使った。
1-z
=
1-u
ここで、
{ r + (1-u) (1- )i +
-(
)}
は i 産業の研究費デフレーター、u は法人実効税率、r は長期市場金利(利付き国債利
回り(10 年もの)を用いる)、i は長期貸出金利(長期貸出プライムレートを用いる)、 は自己資本
比率、 は固定資本減耗率である。
z は、1単位の研究開発投資に対する固定資本減耗の節税分であり、
∞
t +x
∫exp[-∫{
z(t) =
0
(s)r(s) + ((1- (s))(1-u(s)) i(s)}ds]{ u(t + x)}
t
t +x
(t,
∫
x) = exp{-
(s)
ds} (t + x)
t
である。
しかし、実際の推計にあたっては、
-243-
(t, x) dx
z(t) = u(t)* /[{ (t)r(t) + (1- (t))(1-u(t)) i(t)} + ]
と近似して、z を求めている。
推計式に使用されたデータに関しては JIP 資本ストックの作成方法を参照されたい。推計結果は
表 5-29 に示されている。
-244-
第5章
付帯表の作成
補論:本章第 2 節で作成したデータの定義と出所について
米国における従業者数:
米国の全事業所の従業者数と米国における外資系企業(外資比率 10%以上)の従業者
数は、Foreign Direct Investment in the United States, Establishment Data for 1992(U.S.
Department of Commerce 1995a)のデータを用いた。
対内直接投資規制の指標:
まず、Hoekman (1996)に従って、3 桁業種分類毎に日本と米国の対内投資規制の指標を
作成した。指標の作成にあたっては主に GATS (General Agreement on Trade in Services)
の約束表を使用した。GATS の各締結国はサービスの貿易と直接投資について、締結後
(1994 年)に自国のどの分野で自由な取引・投資を保障するかを一覧表の形で約束した。約
束表は、155 のサービス業種につき、マーケット・アクセスと内国民待遇という 2 つの自由化
原則に関して、サービス貿易・投資の 4 つのモード(すなわち越境取引、国外消費、商業拠
点、人の移動)それぞれについて、各国の約束の状況を記載している。我々は商業拠点に
関する規制が対内投資規制として最も重要と考え、このモードについての規制情報から頻
度測度(frequency measure)として対内投資規制の指標を作成した。GATS スケジュールの
中に報告されていない業種については、APEC (1996),Guide to the Investment Regimes of
Member Economies、OECD(various issues), Code of Liberalisation of Capital Movements、
対日投資委員会(各年版),Yearbook of the Japan Investment Council、日本政府(各年版),
Japan’s APEC Individual Action Plan を用いた。
輸入・輸出・国内生産額:
日本の輸出入と国内生産額は、『平成 7 年産業連関表』(総務庁 1999)のデータを用い
た。しかし、サービス貿易のデータについては、産業連関表データでは以下のような欠点が
ある。
1)
産業連関表の輸出入データは、非居住者によって提供された建設サービスの支払
や受取を計上していない。しかし、これらは本来、サービスの輸出入と考えられるも
のである。
2)
産業連関表では、財の輸入額は CIF ベースで計上されているので、財輸入に関わ
る輸送や保険などのサービスの価値は輸入財の価格に含まれている。
3)
外国の卸売業者のマージンは、FOB ベースであっても CIF ベースであっても輸入財
価格に含まれている。しかし、輸出財については、卸売マージンは卸売業の産出と
して計上されている。
以上のような問題点を考慮し、建築土木サービス、海上輸送、航空輸送の各サービスの貿
易額については、日本銀行(各月版)のデータを利用した。産業連関表では財の輸入額に
含まれてしまっている輸入財に関わる卸売サービスの輸入額については、
以下のように推計
した。まず、FOB ベースの財輸出額合計に対する輸出財の卸売マージンの比率を算出する。
-245-
その比率を、FOB ベースの財輸入額合計に掛けることによって、輸入財に関する卸売マー
ジンの額を推計した。FOB ベースの財輸入額は、日本銀行(各月版)による。
また、金融サービスについては、産業連関表で計上されているのは帰属利子と手数料収
入のみである。我々は、金融業の活動規模の指標として経常収益を使用し、また経常収益と
比較可能なベースで金融サービスの輸入額を算出した。つまり、産業連関表データより「輸
入額/生産額」の比率を算出し、その比率を全金融機関の経常収益に掛けることによって
金融サービスの輸入額を推計した。
なお、我々の財輸入に関するデータは CIF ベースであり、輸入に関わるサービスの価値も
含まれていることに注意を要する。
米国の輸出入と国内生産額は、1992 U.S. Input-Output Tables (U.S. Department of
Commerce 1995c)のデータを用いた。米国の産業連関表も日本の産業連関表と同様の問題
点があるため、建築土木サービス、鉄道輸送、道路輸送、海上輸送、航空輸送、運輸付帯
サービスについては、U.S. International Services (U.S. Department of Commerce 1999)の
越境取引のデータを使用した。金融サービス、通信、外食、旅館その他の宿泊所のサービ
ス輸入は、U.S. Department of Commerce (1999)のデータを使用した。輸入財に関わる卸売
サ ー ビ ス に つ い て は 、 日 本 と 同 様 の 方 法 で 卸 売 マ ー ジ ン を 推 計 し た 。 な お 、 U.S.
Department of Commerce (1999)による米国の輸入データは、米国企業の海外現地法人か
らの輸入が除かれていることに注意を要する。
日本企業の海外現地法人の従業者数:
日本企業の海外現地法人の従業者数は、製造業については、通商産業省の海外事業活
動調査の個票データの集計結果(伊藤・深尾 2001 参照)。一次産業を除く非製造業につい
ては、東洋経済新報社『海外進出企業データ 1996年:CD-ROM 版』を用いて集計した。
-246-
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