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第 5 章 東洋紡製人工心臓コネクタ・カニューレ間の 離脱を想定した

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第 5 章 東洋紡製人工心臓コネクタ・カニューレ間の 離脱を想定した
第5章
東洋紡製人工心臓コネクタ・カニューレ間の
離脱を想定した引張り試験方法の提案と,
その安全性評価試験
5.1
本章の目的
5.2
離脱試験方法の提案と離脱試験
5.3
拍動流及び作動流体の温度を加味した
循環還流下での離脱試験
5.4
人工心臓に加わる外力の方向を加味した
離脱試験
5.5
本章のまとめ
- 72 -
5.1 本章の目的
東洋紡 VAD の安全性について,2章から4章ではポンプ自体の水力学的特性という観点
から水撃・溶血に着目してそれらを軽減する駆動方法等について検証した.
一方、東洋紡 VAD の安全性については上記のポンプ自体の特性によるものとは別に,実
際に使用される環境(取り扱い)に起因するものがある.何らかの負荷がポンプ自体や駆
動チューブに加わってポンプの流入・流出コネクタが外れたり,駆動チューブが外れると
言った危険性である.
2007 年から 2009 年にかけて,東洋紡 VAD 長期装着患者がカニューレの離脱事故で 3 例
亡くなった.いずれもタイバンドで固定されている流入カニューレが VAD コネクタから外
れて血液が流出したのが原因であった.
長期使用 VAD 接続部にどのような力が加わった時にカニューレが離脱するのかを定性
的・定量的に把握しておくことは,安心して安全に生活を送ると言う点で患者側・看護側
両者にとって必要なことである。
本章では人工心臓コネクタとカニューレ間の接続強度に影響を及ぼすと思われる要素を
抽出し,それらをパラメータとして,離脱時の荷重を定量的に計測できる試験装置を設計・
製作して安全性評価試験を行う.最初にカニューレ・タイバンド・接続面等の各要素の接
続強度について調べ,次に循環・加温装置を組み込んでより臨床に近い条件での接続強度
を計測し、最後にポンプに加わる外力の方向・速度を想定して接続強度を計測する.
得られた安全性評価試験結果から長期 VAD 使用時の安全・安心に関わる指針を提示する
ことを本章の目的とする.
5.2 離脱試験方法の提案と離脱試験
5.2.1 本節の目的
本節では,長期使用 VAD の交換時及び交換直後の VAD コネクタとカニューレとの接続
強度について,引張り試験機を利用して試験装置を製作する.接続部周囲の部品をパラメ
ータとして引張り試験を行い,基本的な特性を定性的・定量的に調べる.その結果から,
長期使用 VAD 交換時の注意点を明らかにする.
5.3 節ではより臨床に近い条件下で接続強度を計測するために,引張り試験機に循環回路
を組み込んで 37℃のもとで一定時間循環させ,その後引張り試験を行って接続強度への影
響を調べる.さらに 5.4 節では VAD 接続コネクタ部分にかかる外力の方向と速度に注目し
て引張り試験を行い,接続強度への影響を調べる。
- 73 -
5.2.2 試験装置
離脱荷重を計測するために引張り試験機(島津製作所:AG-25TB)を使用する(Fig.5.1).
試験用部品を Fig.5.2 に示す.
1170 mm
2412 mm
(a) Connector
(c) Tieband
(d) Tiegun
(b) Cannulae
Fig.5.1 Tensile instrumental
Fig.5.2 Experimental appliance
試験用部品は Toyobo VAD 装着時に使用されているステンレスコネクタ(a)と塩ビ製カニ
ューレ(b),タイバンド(c) (パンドウィット社:SST2S-M 幅 4.6mm×全長 172mm,ナイロン
製)とタイガン(d)(パンドウィット社:GS2B)を用意する.
Fig.5.3 は引張り試験セット時の写真で,試験機のチャック上下に VAD 用ステンレスコネ
クタを固定し,チャック下部は引張り角度が変えられるようにアダプタが取り付けてある.
45 mm
Pulling direction
17.5mm OD
Test cannulae
Pulling angle
Upper chuck
Tieband
Angle adapter
A
Lower chuck
B
Fig. 5.3 Experimental equipment
- 74 -
5.2.3 試験方法
1) 試験カニューレのセット
試験カニューレをチャック上部側コネクタに針金で外れないように固定し,チャック下
1)
部側は臨床と同様に 2 本のタイバンド(A 位置,B 位置)で固定する.
カニューレに引張り荷重を与え,2 本のタイバンド A,B が外れて固定したカニューレがコ
ネクタから離脱するまでの荷重・変位を計測する.そして計測した引張り荷重・変位曲線
の最大荷重の値を「離脱荷重」と定義し,この値を比較する.
2) 試験条件
(1) 引張り速度
各試験パラメータの影響を調べるために静的負荷に近く,また,1 分間程度で離脱までの
様子が観察できるように試験機の引張り速度は 25mm/min とする.
(2)試験カニューレ
臨床用カニューレ(Fig.5.2(b))の VAD 接続側寸法は外径 17.5mm 内径 12mm で,塩ビ製チ
ューブの内面を抗血栓性材料(TM-3)でコーティングしてある.
試験ではこのコネクタ接続部分を試験装置上下のステンレスコネクタが接触しない程度の
長さである 45mm に切断したものを用い,接続部分以外の影響を少なくする.試験カニュ
ーレは各試験ごとにそれぞれ用意し,離脱しやすさについては T 検定処理を行ってその有
意差を調べる.
(3) 引張り角度
VAD に様々な方向から負荷が加わることを想定し,コネクタ軸方向の引張り荷重を 0°と
して角度アダプタ(Fig.5.3)でコネクタ角度を変えた時(5°,15°,30°,45°,60°)の離脱荷
重を計測する.
(4) タイバンドの締付け力
臨床で使用されているタイガン(Fig.5.2(d))は締付け強度が可変で,低い方から MIN(ミニ
チュア)・INT(インターミディエイト)・STD(スタンダード)の 3 種類がある.
臨床ではカニューレは通常 STD で固定するが,MIN・INT 各強度についても離脱荷重を計
測し,その影響を調べる.
(5) コネクタ・カニューレ間接触面の性状
VAD 交換時に生理食塩水を充填し,かつ,カニューレにコネクタを挿入する際は表面を
湿潤状態にしながらコネクタとカニューレを接続する.その影響を調べるために接触面が
乾燥状態(dry)と湿潤状態(wet)の違いを調べる.
- 75 -
(6) カニューレの塑性変形
VAD 交換の時は「しまりばめ」状態でコネクタと
カニューレが接続されたとしても,長期使用した場
合はカニューレ接続部がコネクタ外径形状に変形し
て離脱しやすくなる恐れがある.これを模擬するた
(a) Control(virgin)
めにコネクタにカニューレを固定し,タイバンドで
締付けた状態でオーブン(70℃)内に 24 時間放置して
カニューレを塑性変形させ,これを長期使用模擬カ
ニューレとして離脱荷重を調べる(Fig.5.4).
(b) Plastically-deformed
Fig.5.4 Cannulae tested
5.2.4 試験結果
1) 離脱荷重曲線
典型的な標準カニューレと長期使用模擬カニューレとの関係を離脱荷重曲線として
Fig.5.5 に示す.
Control・dry
N=5
50
Tensile
load kgf
引張荷重
kgf
40
Control・wet
30
20
Plastically-deformed・wet
10
0
0
10
20
30
40
変位 mm mm
Displacement
Fig.5.5 Detachment-load curve
引張りをスタートすると,試験カニューレはゆっくり伸長し,タイバンドが A,B の順に
抜けて,40 秒前後でカニューレ下側がコネクタから外れた.その状態を更に詳細に観察す
ると以下のようになる.
(1) 初期(変位 0~3mm 程度):カニューレが一次関数的に伸長する.
- 76 -
(2) 最大引張り荷重(図中丸印):1 個目のタイバンド(Fig.5.3 A 位置)が外れ始める直前に
最大荷重に到る.
(3) 離脱:2 個目のタイバンド(Fig.5.3 B 位置)も外れてカニューレがコネクタから離脱す
る.
どの条件でも最大引張り荷重に到達後,コネクタ先端部に固定しているタイバンド(A)が
抜け始めると比較的早い時間で 2 個目のタイバンド(B)が離脱し,カニューレもその後すぐ
に抜ける傾向が見られた.また,接触面が「湿潤」になっただけで離脱荷重は 50%程度低
下し,さらに長期使用を想定した塑性変形カニューレでは「乾燥」と比較すると 70%も強
度が低下している.
2) カニューレの塑性変形の影響
Fig.5.6 は標準カニューレと長期使用模擬カニューレとの比較を示したグラフである.ど
ちらのカニューレの場合も,湿潤は乾燥に比べ有意差を持って離脱荷重が減少している.
また,カニューレ内径が塑性変形している長期使用模擬カニューレは標準に比べ,乾燥・
湿潤どちらの状態でも離脱荷重が低下している.
50
45
N=5
40
離脱荷重
Tensile load kgf
kgf
35
30
乾燥
湿潤
25
20
15
10
5
0
Control
Plastically-deformed
標準カニューレ
長期使用模擬カニューレ
Cannulae tested
カニューレの状態
Fig.5.6 Comparison of detachment-load between control and plastically-deformed
3) 引張り角度の影響
Fig.5.7 は引張り角度の違いによるカニューレ離脱荷重の比較を示したものである.引張
り角度が大きくなるほど離脱荷重が大きくなり,0°(平均 13.3kgf)では 60°(平均 19.3kgf)に比
べ約 65%まで低下している.これは,引張り力が軸方向に作用する時に最もコネクタとカ
- 77 -
ニューレが離脱しやすくなっている
ことを示している.
Detachment-load kgf
20
15
10
5
0
60°
Pulling angle °
45°
30°
15°
5°
0°
4) タイバンド締付け力の影響
Fig.5.7 Influence of pulling angle
Fig.5.8 はタイバンドの締付け力の違い,
並びに接触面の水分状態と離脱荷重との
相関について表したグラフである.
50
Detachment
load kgf
離脱荷重
kgf
40
30
NON
MIN
INT
STD
20
10
0
Dry
Wet
乾燥
湿潤
Condition
of contact surface
接触面状態
Fig.5.8 Relationship among detachment load , tightening force of tieband
and condition of contact surface
- 78 -
タイバンドの締付け力をバネばかりを用いて測定したところ,それぞれ MIN(3.5kgf)・
INT(6kgf)・STD(10kgf)の値が得られた.接触面性状に関わりなく,タイバンドの締付け力
が大きいほど離脱荷重が大きく,接続強度が大きいことがわかる.
また「乾燥」ではタイバンドが無い場合とタイバンドがある場合(STD 時)では,39.5kgf(平
均)から 44.5kgf(平均)へと 13%程度の増大だったのに対して,
「湿潤」状態では 16kgf(平均)
から 23.5kgf(平均)と 47%増大した.どちらの場合もタイバンドの効果が有意差を持って確
認できた.
5) 接触面の状態の影響
接触面状態の違いによる離脱強度についてはコネクタ・カニューレ接続部分に水分がつ
いている「湿潤」の場合は「乾燥」と比べ約 50%も低下していることがわかった.
5.2.5 考察
1) 試験条件について
本実験は静荷重(25mm/min)での引張り試験を行ったが,瞬間的な衝撃力や曲げ,ねじり
といった複合的な力が加わった場合はさらに離脱しやすくなると思われる.
また,実験は室温が 20℃前後の状況下で行った.実際は 37℃程度の血液が循環していて
カニューレが軟化する傾向にあるため,さらに離脱荷重は低下することが予想される.し
たがって,離脱荷重はあくまでも安全の限界としての指標である.
2) 引張り角度について
術野で VAD とカニューレを接続しやすいようにステンレスコネクタ先端部には 4°程度の
テーパがついているが(Fig.2),これが影響して小さな引張り角度(0~30°)では「A」位置の
タイバンドが抜けやすく,最終的に離脱荷重が低い原因となっていると思われる.一方,
45°・60°ではコネクタ先端部自体がカニューレに対して摩擦抵抗としてはたらくためにタイ
バンド「A」も抜けにくくなりその結果離脱荷重が大きくなっている.したがって,静的荷
重下では VAD ポートと平行方向の力がコネクタ部分に加わった時が最も離脱しやすいと言
える.
3) タイバンド締付け力について
タイガンの締付け強度(MIN・INT・STD)はハンドル下部のつまみを 90°ずつ回転するだけ
で簡単に切り替えられる.切り替えの誤操作によって離脱荷重の低下を引き起こす可能性
があるので,使用時は必ず強度の確認をすることが重要である.
4) 接触面性状について
VAD 交換時はエアの混入を防ぐためにコネクタ・カニューレ接続の際は,シリンジで
生理食塩水を満たしてエアを除去しながら接続する.そのため必ずカニューレ内面とコネ
- 79 -
クタ外面の間には水分が残溜し,これが摩擦力低下を引き起こす要因のひとつとなる.長
期使用時の VAD 交換直後は手術後と違い,装着患者はすぐにベッドから離れられる.長期
になればなるほど VAD にも慣れて注意力が散漫になる恐れがある.VAD 交換直後は上記の
危険性があることを十分認識し,特に接続部分に無理な力がかからぬよう,普段以上に注
意する必要がある.
5) カニューレ塑性変形について
長期使用の場合はカニューレが塑性変形し,ステンレスコネクタとの接続部の摩擦が低
下して手抜けやすくなる傾向がある.現在臨床でも行われているようにカニューレの旧接
続部分を切除することが安全性を高める上で有効である.
カニューレを切除せずに再接続する場合は,塑性変形したカニューレに VAD を再度接続す
ることになるため接続強度が低下している恐れがあり,不用意な負荷が VAD にかからぬよ
う,より細心な注意が必要である.
VAD の不慮の離脱はコネクタ形状,カニューレ材質,接触面性状等の各要素が複雑に関
わりあっているために理論的な解析では捉えにくい.これに対して,今回実験的解析手法
を用いることによって「離脱荷重」という具体的な数値で危険要素を洗い出すことが出来
た.
5.2.6 本節のまとめ
長期装着患者の VAD 交換の安全性についてコネクタ・カニューレ間の接続強度に着目し,
離脱荷重という指標をもとに実験を計画し,定性的・定量的に調べた.
その結果,VAD 交換直後はコネクタとカニューレとの接触面に水分が付着しており,
それが接続強度を約 50%も低下させていることがわかった.
このことは,VAD 交換直後は無理な負荷がかからぬよう,特に注意を払うことが必要であ
ることを示している.
5.3 拍動流及び作動流体の温度を加味した還流下での離脱試験
5.2 節では引張り試験機に VAD 用カニューレ・コネクタを接続し,引張り角度・タイガ
ン締付け力・カニューレ経年変化・接触面性状等をパラメータとして,カニューレ・コネ
クタ間の接続強度を定量的に調べた.
その中で,VAD 交換直後を想定した実験(コネクタ・カニューレを水分をつけて接続)では
水分をつけないときに比べて接続強度が半減することを確認した.この接続強度について,
より臨床に近い条件で計測することは安全性の観点からも重要である.
- 80 -
5.3.1 本節の目的
本節では,VAD 交換時の接続強度に着目して,より臨床に近い要素(温度・流量・圧力・
時間等)を加味したカニューレ離脱試験を行うために,作動流体の温度を保ちながら拍動流
下で引張り試験が出来る実験システムを構築する.この実験システムを用いて接続強度の
経時的変化を解析すし,その結果から長期使用時の VAD 交換の安全性について具体的な指
標を提案することを目的とする.
5.3.2 試験装置
1) 環流用チャック市販の引張り試験機に取り付けて,拍動流を負荷しながら引張り試験が
出来るマニホールドを新たに設計・製作した(Fig.5.9).引張り試験機にセットする上下
のチャック部分に環流用の流入・流出ポートをそれぞれ取り付けた.また,下側チャ
ックにはアクリル製の水受けをセットして環流しながらカニューレが離脱する際に流
出した作動流体を受けられる構造にした.
2) 離脱荷重を計測するために引張り試験機(嶋津製作所:AG-25TB,ロードセル 5KN)
を使用する.
3) 試験用部品として,2 節の試験と同様に臨床に用いられている東洋紡製カニューレ・ス
テンレスコネクタ,タイガン,タイバンドを用いる.
4) 体温に近い37℃で試験カニューレ内に温水を還流させるために,拍動流模擬循環回路
と恒温水槽を使用する.また,カニューレ表面及びタイバンド表面に温度センサ(白金測
温抵抗体 C-0808-100S-2-1000PLi-B-3,㈱ネツシン)を固定し,還流中の温度変化を計測する.
Direction of flow
Fig.5.9 Manifold of a pulsatile flow circuit
- 81 -
5.3.3 試験方法
1) 試験カニューレセット要領(Fig.5.10 )
(1)引張り試験機の上・下チャック還流用のマニホールドをセットする.
(2) 上・下マニホールドにそれぞれステンレスコネクタをセットする.
(3) 試験カニューレ(長さ 45mm)の一方を上部コネクタに針金で外れないように固定する.
(4) 下部コネクタは臨床と同様の方法で 2 本のタイバンド(A 位置,B 位置)で固定する.
(5) 模擬循環回路を接続し,圧力・流量を設定して温水を試験カニューレ内に循環させる.
(6) 設定時間に達したら還流を続けながら引張り試験を開始する.
(7) 試験カニューレに引張り力を加え,2 本のタイバンドが外れてカニューレ下部がステン
レスコネクタから離脱するまでの荷重・変位を計測する.
計測した引張り荷重・変位曲線から離脱荷重を求め,各条件下で比較する.
Pulling direction
Cannula
Tieband A
Tieband B
Stainless-steel
connector
Fig.5.10 Test cannula setting
2) 試験条件
(1)加温・還流式引張試験装置
加温・還流式引張試験装置概観を Fig.5.11 に示す.
(a)
Tensile instrument
Constant temperature
water tank (37℃)
(b)
Manifold
Pulsatile pump
Fig.5.11 Experimental equipment
Pulsatile flow circuit
(a) Overall view
(b) Mock circuit
(a) Overall view
(b) Mock circuit
- 82 -
(2) 引張り試験機
引張り速度は 25mm/min とし,各試験条件下での比較がしやすいように静的負荷に近い速
度とする.
(3) 模擬循環回路
加温・拍動流還流条件は,臨床に近い値として下記に設定する.
作動流体:水
還流温度:37℃
流量特性:圧力 100mmHg(平均),流量 3L/min
駆動条件:拍動数 60~70BPM,収縮時間比 35~40%
3) 試験パラメータ
試験パラメータを Fig.5.12 に示す.
(1)試験用カニューレ
2 節の試験と同様に東洋紡製 VAD カニューレを 45mm に短く切断したものを用いる.ま
た,この試験カニューレにステンレスコネクタをセットし,120℃で 7 時間加熱して
カニューレを塑性変形させたものを長期模擬カニューレとして使用する.また,患者 1
人で VAD を数回交換する場合のカニューレ切断を想定し,カニューレを短くしていった
場合の離脱荷重も計測する.
(a)
(b)
A
B
C
Outer diameter:17.2~17.5mm
Inner diameter:11.3~11.5mm
MIN(6kgf)
STD (13.5kgf)
Length:45mm
(c)
Fig.5.12 Test parameter
(a) Test cannula
(b)Tiegun’s strength of constriction
(c)Contact surface condition
Dry
Wet
- 83 -
(2) ステンレスコネクタ・カニューレ間接触面性状
VAD 交換時は生理食塩水を充填しながらステンレスコネクタにカニューレを装着する.
水分が付着した状態(WET)と乾燥状態(DRY)で接続した場合の強度を比較する.
(3) タイバンド締付け力
タイバンドは臨床時と同様に2箇所(A,B)固定する.タイガンは締付け力が小さい順に
MIN・INT・STD(実測の引張り力はそれぞれ 3.5,6,10kgf)の 3 段階ある.
臨床で用いるタイガン締付け強度 STD のほか,低締付け力 MIN でも加温・還流実験を行
い,経過時間との関係を調べる.
(4) 還流時間
VAD 交換後の接続部分強度の時間的変化を調べるために,30 分間・60 分間・24 時間・
72 時間の 4 通りについて,それぞれ離脱荷重を計測する.
5.3.4 試験結果
今回新たに設計・製作した還流実験用マニホールドは引張り試験機への着脱もしやすく,
効率よくデータを取得することが出来た.
また,排水受けも備えているため離脱時に試験機に水分が飛散することも少なかった.
1) 離脱荷重曲線
加温・還流の有無に関わらず,タイバンド A が外れる直前に荷重は最大値を示し,以後
タイバンド B が徐々に抜けて最後にカニューレが離脱した(Fig.5.13).72 時間
加温・還流実験後は,還流しない場合と比べて傾きがなだらかになっている.
2) カニューレ部位の強度
実測寸法で内径 11.3~11.5mm,外径 17.2~17.5mm と多少ばらつきがあった.Fig.5.14 はカ
ニューレ部位の影響を調べたもので,WET では切断部位による差は見られなかった.
3) 加温・還流
Fig.5.15 は,加温・還流実験で,還流時間の影響について調べたグラフである.
タイガンの締付け力に関しては,加温・還流実験でも MIN は STD よりも 2 割程度離脱荷
重が減少している.
還流時間の違いを見ると,還流後 30 分程度で離脱荷重が若干増加し,1 時間程度経つと
再度減少する傾向が見られた.しかし,24 時間経過すると STD で DRY 時の8割程度まで
回復していることがわかる.
Fig.5.16 は環流中のカニューレ表面とタイバンド表面の温度を示したグラフである.
環流開始直後から,循環している 37℃温水の影響を受けてカニューレ表面で 34~35℃,
タイバンド表面で 33℃前後になっている.環流開始時の室温は 25℃で 72 時間後には 23.5℃
に低下しており,その影響がカニューレ表面・タイバンド表面温度に出ている.
- 84 -
45
Dry
Wet (after 60minutes' circulation)
Wet (after 24hours' circulation)
40
35
Tensile load kgf
Detachmentload
30
25
20
15
10
5
0
0
10
20
30
40
Displacement mm
Fig.5.13 Detachment-load curve
Detachment load kgf
60
50
40
30
DRY
WET
20
10
0
A
B
Segments of cannula
Fig.5.14 Influence of segments
- 85 -
C
45
DRY
40
Detachment
kgf
離脱荷重load
(kgf)
35
30
25
20
WET
15
DRY・STD
DRY・MIN
10
WET・STD
5
WET・MIN
0
30分間
30minutes
No warming
24hours
24時間
60minutes
60分間
Reflux time
No reflux
Fig.5.15 Influence of Tiegun’s strength of constriction and reflux time
Tieband
A
Cannula
Cannula
Tieband A
36
Temperature
sensor
35.5
35
Temperature℃
34.5
34
33.5
33
32.5
32
31.5
0
4
8
12
16
20
24
28
32
36
40
44
48
52
56
60
Reflux time hour
Fig.5.16 Surface temperature of cannula and tieband
- 86 -
64
68
72
5.3.5 考察
1) 離脱荷重曲線
Fig.5.13 より,加温・還流後の離脱荷重曲線は循環なしの場合と比べて,引張り荷重の変化
が少ない状態で変位が増加している傾向が見られる.これは,循環実験の加温でカニュー
レが軟化し,伸びやすくなったためと思われる.
2) カニューレ部位の強度
カニューレはディッピングで製作するため内・外径や硬さにばらつきが生じる.
Fig.5.14 を見ると,DRY では心尖接続側に近い試験カニューレの方が若干離脱荷重が増加
している.これはカニューレ製作用の金型が離型しやすいように僅かながらテーパ状にな
っており,成型したカニューレの内径がポート側から心尖側に向かって徐々に狭くなって
いるためと思われる.しかし、WET ではカニューレ部位による差は無く,VAD 交換時にカ
ニューレを切断して短くなっていくことによる影響は無いと思われる.
3) 加温・還流
タイガン締付け力を見ると,未還流時と同様,加温・還流の場合も MIN では STD よりも
2 割程度離脱荷重が減少している.タイガンの締付け強度つまみはワンタッチで強弱が切り
替えできるので,逆に危険性も含んでいることになる.VAD 交換時は締付け強度最大の STD
位置になっていることを必ず確認して操作することが必要である.
Fig.5.16 は経過時間による離脱荷重の変化を加温・還流しない場合とした場合とで比較し
たグラフで,DRY 時の値を 100%とした比率で表示している.
100
90
Dry
80
70
60
50
40
Wet
No reflux (control)
30
Reflux (control)
20
Reflux (plastically-deformed)
10
0
0 minuites 30 minuites 60 minuites 24 hours
48 hours 72 hours
Time
Fig.5.17 Influence of warming and reflux
- 87 -
水分を塗布してステンレスコネクタとカニューレを接続する場合,両者間に付着した水
分で摩擦が減少して滑りやすくなり,そのために接続直後は離脱荷重が減少する(WET 条件).
加温・環流なしでは接続後は徐々に接触面の水分はカニューレに浸透し,抜けていくため
に摩擦は DRY 時に近づき,離脱強度が回復していく.
加温・還流なしの場合,WET 接続直後は離脱強度が DRY に比べて半減するが 30 分後に
は 9 割程度まで回復し,1 時間後にはほぼ DRY と同等の強度に戻っている.一方,加温・
還流下の場合、未処理カニューレでは 1 時間程度ではさほど回復せず,約 24 時間後に約 8
割まで回復する.これは VAD 交換時にカニューレの一部を切断して新 VAD を装着する場
合に相当する.これに対して,VAD 交換時にカニューレを切断せずに新 VAD を接続する場
合はステンレスコネクタ接続部分のカニューレが塑性変形している(図中の長期模擬カニュ
ーレ).その結果,VAD 交換直後は DRY 時の 35%程度まで強度が低下する.この値は 72
時間後でも 45%程度までしか回復しないことがわかる.
長期使用模擬カニューレ 72 時間環流直
後の離脱試験で外れたタイバンドの写真
を Fig.5.18 に示す.37℃加温によって循環
72 hours
直後からタイバンド温度も 34℃程度に達
する(Fig.16).そのため徐々に塑性変形を起
こし,円形に近くなったことがわかる.ス
テンレスコネクタくさび部分への接触力
0 hour
が円周方向に均一に加わり,離脱荷重漸増
の要因になっていると思われる.ただ、72
時間以降についてはさらにタイバンドの
内径が減少する等は考えられず,また,接
触面の水分の蒸発もかなり進んでいると
思われるのでこれ以降の離脱荷重の上昇
は少ないと思われる.
Fig.5.18 The shape of Cable-tie after 72
hours circulation
離脱荷重の大きさとしては、
「未処理カニ
ューレ+WET」と「長期模擬カニューレ+
DRY」(Fig.5.6)が約 25kgf で,カニューレ切断交換直後と温存カニューレ長期使用時とが同
程度の危険性があることが想定できる.
加温・還流を実験に取り入れたことによって,より臨床に即したデータを取得すること
が出来た.
5.3.6 本節のまとめ
長期装着患者の VAD 交換の安全性について,コネクタ・カニューレ間の接続強度という
- 88 -
観点から,その離脱荷重を臨床に近い加温・還流条件を設定して実験的に調べた.
その結果,
1) カニューレを切断して VAD 交換する場合,離脱荷重は VAD 交換直後に DRY 接続時の
50~60%程度まで低下するが,24 時間後には 80%程度まで回復することがわかった.
2) カニューレを温存して VAD 交換する場合,VAD 交換直後に 35%程度まで低下し,72 時
間後も 45%程度までしか回復しないことがわかった.
3) 比較的体の自由が利く長期装着患者の場合,カニューレを温存して VAD 交換するときは
看護側・患者側とも VAD 交換後は VAD 接続部に負荷を与えないよう注意を払う必要があ
ることが確認できた.また,カニューレを切断して交換する場合も交換直後 24 時間は注意
が必要であることが確認できた.
5.4 人工心臓に加わる外力の方向を加味した離脱試験
5.3 節では臨床に即して人工心臓内の温度・拍動流が接続強度に与える影響を実験的に調
べた.
もうひとつの要素として,人工心臓にどんな外力が加わった時に接続強度が低下するか
を調べることも安全性という観点から必要である.
5.4.1 本節の目的
本節では臨床で想定される外力用の引張り試験ジグを設計・製作する.これを用いて離
脱荷重の計測を行い,離脱を起こす外力の大きさ・方向について解析して VAD 装着時の安
全性の指標を提案する.
5.4.2 試験装置
1) 回転引張り用チャック
臨床での VAD 装着は Fig.5.19 のような位置関係になって
いる.
40mm
人工心臓にかかる負荷としては,
①VAD 本体に直接外力が加わる場合,②駆動チューブが
引張られる場合が考えられる.
どちらも流入・流出ポート間のピッチ(約 40mm)を回転半径
としてトルク的な力が加わる可能性がある.
そこで本試験では,Fig.5.20 のような回転引張りが出来る
VAD-drive-tube
チャックを設計・製作した.
ラック&ピニオン機構が組み込まれており,引張り試験
- 89 -
Fig.5.19 VAD position
機の上部チャックが鉛直方向に上昇するとコネクタ部分が
ピニオン軸を中心に回転しながらカニューレを引張る.
2) 離脱荷重を計測するために引張り試験機(嶋津製作所:AG-25TB,ロードセル5KN)を
使用する.
3) 試験用部品として,2 節と同様に臨床に用いられている東洋紡製カニューレ・ステンレ
スコネクタ,タイガン,タイバンドを用いる.
Pulling direction
Rotary plate
Stainless-steel connector
Tieband
Test cannula
Detached phase
40mm
Fig.5.20 Pulling unit with rotary direction
5.4.3 試験方法
試験カニューレを引張り試験機に取り付け,2 本のタイバンドが外れてカニューレがステ
ンレスコネクタから離脱するまでの荷重・変位を計測する.
計測した引張り荷重・変位曲線の最大荷重の値を「離脱荷重」と定義し,各条件下で比
較する.
1) 回転引張り試験時カニューレセット要領
(1) 引張り試験機の上・下チャックに回転引張り用チャックをセットする.
(2) 回転側コネクタ・固定側コネクタにそれぞれステンレスコネクタをセットする.
- 90 -
(3) 試験カニューレ(長 45mm)の一方を固定側コネクタに針金で外れないように固定する.
(4) 回転側コネクタは臨床と同様の方法で 2 本のタイバンド(A 位置,B 位置)で試験カニュ
ーレを固定する.
(5) 引張り試験を開始する.
(6) 試験カニューレに回転引張りの力を加え,回転側コネクタの 2 本のタイバンドが外れて
カニューレがステンレスコネクタから離脱するまでの荷重・変位を計測する.
計測した引張り荷重・変位曲線から離脱荷重を求め,各条件下で比較する.
2) 試験条件
(1) 引張り試験
①
引張り試験機
離脱荷重を計測するために引張り試験機(嶋津製作所:AG-25TB,ロードセル5KN)を使
用する.
②
カニューレ
2 節の試験と同様に東洋紡製 VAD カニューレを 45mm に短く切断したものを用いる.
③
VAD コネクタとカニューレとの固定には臨床に用いられるタイガン(パンドウィッ
ト社:GS2B),タイバンド(パンドウィット社:SST2S-M 幅 4.6mm×全長 172mm,ナイロ
ン製)を用いる.
(2) 試験パラメータ
① 引張試験速度
引張り速度は静的荷重が加わった場合に近い 25mm/min と,瞬間的に負荷が加わった場
合を想定した 500mm/min の 2 種類で計測する.
② 引張り方向
試験カニューレを鉛直方向に掃引した場合(平行引張り)と回転させながら掃引した場
合(回転引張り)との離脱荷重を比較する(Fig.5.21).
③ カニューレ
長さ 45mm の VAD 用カニューレをコントロールとする. 長期使用ではコネクタ接続
部分のカニューレが塑性変形を起こす.
そこで試験カニューレをステンレスコネクタにセットして,2 節と同様にオーブンで
120℃7 時間加熱して塑性変形させたものを長期模擬カニューレとし,離脱荷重を比較する.
- 91 -
(a) Pulling with straight direction
(b) Pulling with rotary direction
Fig.5.21 Pulling direction
5.4.4 試験結果
本試験用に新たに設計・製作した回転引張り用試験ジグは,回転動作もスムースで試験
カニューレの着脱も容易であった.
Fig.5.20 は平行引張り試験,Fig.5.23 は回転引張り試験の連続写真である.
いずれの場合も 2,3 節と同様,タイバンド A が外れる直前に荷重は最大値を示し,以後タイ
- 92 -
バンド B が徐々に抜けて最後にカニューレが離脱した.
Resolution photograph
Fig.5.22 Pulling with straight direction
Fig.5.23 Pulling with rotary direction
- 93 -
Fig.5.24 は引張り荷重―変位曲線の一例である.
Tensile load kgf
掃引速度が 500mm/min では離脱荷重も高くなるが 6 秒ほどで離脱することがわかる.
Displacement mm
Fig.5.24 Detachment-load curve
Fig.5.25 は平行引張りでの長期模擬カニューレの影響について得られたグラフである.
長期使用時は離脱荷重が 25mm/min で 40%,
500mm/min で 28%低下していることがわかる.
Fig.5.26 は回転引張りでの長期模擬カニューレの影響について得られたグラフである.
長期使用時は離脱荷重が 25mm/min で 35%,
500mm/min で 27%低下していることがわかる.
- 94 -
70
140
60
120
50
100
40
80
30
60
20
40
10
20
0
0
25mm/min
500mm/min
25mm/min
Control
Fig.5.25
500mm/min
Long term used cannulae
Load and time required for detachment (Pulling with straight direction)
The load necessary for the detachmen
The load necessary for the detachment kgf
The time required for detachment sec
The time required for detachment
The time required for detachment
70
140
60
120
50
100
40
80
30
60
20
40
10
20
0
0
25mm/min
500mm/min
25mm/min
Control
Fig.5.26
500mm/min
Long time used cannulae
Load and time required for detachment (Pulling with rotary direction)
- 95 -
The time required for detachment sec
The load necessary for the detachment kgf
The load necessary for the detachmen
5.4.5 考察
1) 加わる外力の方向について
Fig.5.25 の平行引張りは Fig.5.27 に相当し,静荷重の場合は 55kgf の力が 70 秒かからない
と離脱しない.
また急激な負荷が加わった場合は 84kgf が 4 秒かかると離脱することになり,
通常の動作の範囲では離脱の恐れは少ないと言える(Table5.1).
Toyobo VAD
F
Fp
of force
Fp = 2F
40mm
Equiribrium
F
45mm
Fig.5.27 Parallelism load
Table5.1 Influence of pulling with straight direction
Mean load Load necessary Mean time required
Tensile speed
for detachment for detachment for detachment
mm/min
F kgf
Fp kgf
ts
25
27.2
54.4
66.7
500
42.0
84.0
4.04
一方,Fig.5.28 は Fig.5.26 の回転引張りを模式的に表した図である.カニューレが短い場
合は送血カニューレが皮膚から出てくる部位を回転中心と考えると考えることが出来,エ
アポートに図のようなトルクがかかることになる.この場合,静荷重では 7kgf の力が 74 秒
間かかって離脱するが,500mm/min では 8.5kgf の力が約 6 秒間加わっただけで離脱する恐
- 96 -
れがある.この条件は覚醒下で発生する可能性があり,十分注意する必要がある(Table5.2).
Toyobo VAD
Equilibrium of moment
at the outlet cannula
F
40・F = 150・Fd
45mm
Fd =
40・F
Fd
150
Center of rotation
Fig.5.28
Outlet cannula
Rotary load
Table5.2 Influence of pulling with rotary direction
Mean load Load necessary Mean time required
Tensile speed
for detachment for detachment for detachment
mm/min
F kgf
Fp kgf
ts
25
25.8
6.88
74.2
500
31.7
8.45
5.46
2) 外力を吸収する方法について
駆動圧ポートに直接の負荷がかかりにくい構造にすることも安全対策のひとつである.
その案を 3 つほど提案する(Fig.5.29).
(1) ロータリジョイント式エアコネクタの利用
市販のロータリジョイントをエアチャンバに取り付ける方法.360 度回転するのでどの
方向からの負荷にも対応できるが,ポート方向の負荷は吸収できない.また,新たに
VAD バックプレート側にロータリジョイント固定するためのネジ等が必要になるので
再申請も含め工数がかかる.
(2) 駆動チューブの一部をコイル状にする.
駆動圧コネクタに近い部分にコイル状の駆動チューブを接続する方法.どの方向の負
荷に対しても力を逃がせる.ただし,コイル部分が太くなるので,若干のスペースが
- 97 -
必要.
(3) 現行の VAD に即座に使える方法としては,駆動圧ポート直後の駆動チューブを直径
20cm 程度の円にして,交差部分をステンレス製引張りコイルスプリングで固定する.
予期せぬ負荷が駆動チューブにかかった場合,スプリングが伸びて負荷を吸収するこ
とが出来る.
Spring
Rotary joint
Coiled tube
(1)
(2)
(3)
Fig.5.29 Suggestion for additional absorption to prevent a removal of VAD connector
5.4.6 本節のまとめ
長期装着患者の VAD 交換の安全性について,VAD にかかる負荷の方向の影響を調べた.
その結果,カニューレが 50mm 程度と短い場合には短時間の外力によってカニューレが
離脱する危険性があることが判った.
また,負荷が直接 VAD にかかりにくい方法を提案した.
5.5 本章のまとめ
長期装着患者の VAD 交換の安全性について,コネクタ・カニューレ間の接続強度という
観点から,引張り試験から得られる離脱荷重という指標を定義した.VAD の長期装着時を
想定して様々なパラメータをもとに臨床に近い温度・流量・圧力を設定して実験的に離脱
荷重を計測した.
- 98 -
その結果,
1) 本研究で開発した加温・環流引張試験システム・回転引張り試験ジグは臨床に即した環
境下での引張り試験が可能となった.
2) 覚醒下で VAD 交換を行う長期装着患者の場合は,VAD 交換直後も比較的自由に行動す
ることが出来るので,逆に VAD に外力が加わる危険性もある.
カニューレを温存して VAD
交換するときは温存部分が塑性変形して抜けやすくなっている危険性があり,看護側・
患者側とも VAD 交換後は VAD 接続部に負荷を与えないよう特に注意を払う必要がある
ことが確認できた.また,カニューレを切断して交換する場合も交換直後 24 時間は離脱
し易く,注意が必要であることが確認できた.
3) 直接 VAD に負荷がかからない方法についても提案した.今の臨床現場に対応可能な方
法もあり,有用であると思われる.
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