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我が国の国際的リーダーシップの確保 - 「科学技術振興調整費」等

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我が国の国際的リーダーシップの確保 - 「科学技術振興調整費」等
「我が国の国際的リーダーシップの確保」プログラム
科学技術政策に必要な調査研究
「スマトラ型巨大地震・津波被害の軽減策」
中核機関名:東京大学地震研究所
研究代表名:加藤 照之
研究期間:平成17年度~平成19年度
本報告書は、文部科学省の科学技術総合研究委託
事業による委託業務として、東京大学地震研究所が
実施した平成17-19年度「スマトラ型巨大地
震・津波被害の軽減策」の成果を取りまとめたもの
です。
従って、本報告書の著作権は、文部科学省に帰属
しており、本報告書の全部又は一部の無断複製等の
行為は、法律で認められたときを除き、著作権の侵
害にあたるので、これらの利用行為を行うときは、
文部科学省の承認手続きが必要です。
目次
Ⅰ.調査研究概要
1.調査研究の趣旨
2.調査研究の概要
3.調査研究の全体像
4.調査研究の体制
Ⅱ.経費
1. 所要経費
2. 使用区分
Ⅲ.調査研究成果
1.調査研究成果の総括
2.調査研究の本文(各課題別)
3.調査研究成果の発表状況(各課題別)
Ⅰ.調査研究概要
■プログラム名:我が国の国際的リーダーシップの確保
■課題名:スマトラ型巨大地震・津波被害の軽減策
■中核機関名:東京大学地震研究所
■研究代表名(役職):加藤照之(教授)
■調査研究実施期間: 3年間
■調査研究総経費(調整費充当分):総額 150 百万円 (間接経費込み)
1.調査研究の趣旨
2004年12月に発生したスマトラ沖地震は断層延長が千kmにも及びインド洋沿岸諸国に未曾有の
大惨事をもたらした。このような巨大地震を「スマトラ型巨大地震」と呼ぶが、このような巨大
地震津波災害からのこれらの国々の復興と今後の地震・津波災害対策について、わが国の地震・
津波・防災関係研究者が連携しつつ、アジア諸国の関係者の協力のもとに、有効な対策を提言し、
あわせて住民に対する啓発活動を行うことを目的とする。このため、まずはその基礎としてスマ
トラ型巨大地震の発生メカニズム・過去の地震の発生履歴・将来の発生予測について解明すると
ともに、アジア諸国における地域特性を考慮した復旧・復興・啓発活動の方策の研究と実践を行
う。また、わが国がつちかってきた、津波警報システムのインド洋沿岸諸国への展開にたいする
有効な活用方法と今次津波災害からのインド洋沿岸諸国の復興都市計画への有効策について検討
する。もって、わが国の地震・津波防災分野におけるアジアでのリーダーシップを確保すると共
に、人類の生命と生活の安全に資することを目的とする。
2.調査研究の概要
研究テーマを4つおよび総括の5つに分け,以下の構成で目的達成を目差す。
研究総括【東大地震研 加藤照之】
0-1 シンポジウム開催
下記テーマ1~4及びこれらの連携した課題を議論する国際研究シンポジウムを開催する。まず、平成
17年度に関係研究者が参加する国際シンポジウムを開催することにより、今次災害の概要を総括するとと
もに、これから進むべき研究ならびに調査活動の方向性の抽出を行う。また最終年度(H19年度)におい
て、3ヵ年の調査研究活動を総括し、アジアの地震津波防災への提言を目標とする国際シンポジウムを開
催する。
なお,上記の計画に対し,平成17年度の国際会議は「国際シンポジウム」ではなく,「国際ワークショッ
プ」とした.
テーマ1 スマトラ型巨大地震・津波の発生メカニズムの解明
テーマ代表【産業技術総合研究所 佐竹健治】
断層長が千 km にも及ぶ M9 地震がなぜスマトラ沖で発生したのか、そしてそれが何故巨大な津波を発
生させたのか(このような地震を「スマトラ型巨大地震」と呼ぶ)、また将来同様の地震が起こりうるのか、を
知ることはインド洋の地震・津波防災を考える上で極めて重要であるばかりでなく、同様の海溝を有する
他の大洋沿岸諸国にとっても重要である。本サブテーマでは,わが国の地震・津波研究者が太平洋地域
でつちかってきた世界トップレベルの研究実績をもとに、アジア諸国(インド・インドネシア・タイなど)の関
連研究者と共同研究を実施し,また,国際ワークショップを開催するなどして,スマトラ型巨大地震やそれ
に伴う地殻変動及び津波の発生メカニズムを明らかにする.これらの共同作業を通じて,わが国がアジア
における地震・津波の研究レベルの向上に寄与する.
1-1 インド洋における過去の地震・津波の履歴ならびに将来の発生予測に関する研究
【産業技術総合研究所 佐竹健治】
インドネシア(スマトラ島)、インド(アンダマン諸島)において、珊瑚などによる海面変動から過去の地
1
震に伴う地殻変動を調べる。上記に加えてタイ(アンダマン海沿岸)での津波堆積物の調査から、過去の
津波の履歴も調べる。これらの調査結果と、津波のシミュレーションを組み合わせ、インド洋東部の過去の
地震の発生履歴を明らかにし、将来の発生予測を行う。
1-2 GPS観測に基づくスマトラ沖巨大地震の余効変動のメカニズムの解明
【
【東大地震研 加藤照之】
スマトラ沖地震は、その巨大さのゆえに今後も地殻変動が継続すると考えられる。そのメカニズムが余効
的すべりか粘弾性緩和かについてはまだ解明されていない。そこで、インド,インドネシア,タイ・ミャンマ
ー等で実施している GPS 観測を継続し,スマトラ沖地震の余効変動の時空間分布を明らかにすると共に,
逆解析手法を用いたすべり分布やアセノスフェアの粘弾性緩和などのモデルを適用し、それらの妥当性
を検討して余効変動のメカニズムを解明する.
1-3 歪観測による破壊様式の解明
【気象庁 伊藤秀美】
日本の歪観測網により記録されたスマトラ沖巨大地震の地震記録を用いて、巨大地震の破壊様式の特
徴を把握する。また、この手法の日本周辺で発生する巨大地震への適用についての検討も行う。
1-4 巨大地震発生前後の地震活動の解析と応力状態の評価
【防災科研 井元政二郎】
既存のグローバル観測カタログ(USGS カタログ、ISC カタログ、ハーバードカタログ等)を用い、東海・東
南海・南海への応用を意識して、事前の変化、発生予測の可能性に焦点をあてた以下の解析を行う。(1)
事前の空白域、静穏化、(2)事前のb値変化、(3)地球潮汐、海洋潮汐によるトリガー作用、(4)破壊アスペリ
ティを特徴づけるような地震の存在、(5)特徴的な応力パターンの有無。
1-5 インド洋周辺国家の津波の検潮記録の系統的収集
【防災科研 岩崎伸一】
インド洋においては、オーストラリア、インドネシア、ミャンマー、インド、モルジブなどでハワイ大学の検潮
網が 1980 年半ばから稼動している。また、インドネシア、タイ、インドには各国の設けた検潮所が 50 箇所
以上ある。これらの諸国の過去の地震時の津波の検潮記録を収集し、震源位置、規模等と各国での津波
規模との関係の調査を行う。
テーマ2 地震津波に対する防災力向上のための人材育成に関する研究
テーマ代表【東大地震研 山岡耕春】
スマトラ沖巨大地震津波災害のような、低頻度大災害である地震や津波に対する防災力向上のために
は、教育・啓発をふくめた人材育成が非常に重要である。ここでは防災力向上のための地域の文化的・
社会的実情を調査するとともに、日本の豊富な災害経験・対策を効果的に活かし、我が国の国際的リー
ダーシップを発揮する。
テーマ2では、途上国の開発に関する専門家をそろえている名古屋大学大学院国際開発研究科が、防
災システムの構築に関する行政・社会アプローチを担当する。多国間防災協力の推進と各国の防災能力
向上、発展途上国からの招聘による防災行政セミナーを推進してきたアジア防災センターが、地域にあっ
た減災策を検討する。発展途上国からの多くの留学生を受け入れていて、かつ多くの地震・防災専門家
を擁する東京大学が、留学生に対する教育・研修と地震・津波防災のための教材開発を行う。
2-1 地震・津波防災における社会・文化的ファクターの分析と人材育成
【名古屋大学国際開発研究科 木村宏恒・大橋厚子・中西久枝】
地震・津波被害軽減等のための防災システムの地域特性に配慮した活用のためには「誰がいつどのよ
うな政治・行政・社会制度のなかでいかなる社会的ネットワークにのせて活用していくのか」という検討が
必要である。また、地震・津波災害の知識や、防災意識および既存の体制についての知識が、あらゆる
人々に、十分に周知されていなければならない。こうしたことをふまえ、以下の研究を実施する;
1)社会的防災システムの行政ネットワーク構築上の現状・問題点と対策
2)地域コミュニティ・レベルでの社会的防災システム構築上の現状・問題点と対策
3)社会的弱者(少数民族、年長者、子供、女性)の政治的・社会的・文化的地位と、社会的防災システ
ムに組み込む上での問題点と対策
2-2 各国の実情に応じた自助・共助・公助の減災意識向上対策の検討と推進
【アジア防災センター 羽鳥友彦】
防災能力の向上にはあらゆる社会構成単位の自覚的な関与が必要である。また緊急対応のみならず、
中・長期的な復旧・復興策も含めた総合的な対策が不可欠である。しかしながら、日本で培った世界でト
2
ップレベルの地震・津波対策をインド洋沿岸諸国において真に活かすためには、各国の実情に応じた柔
軟な対策の提案、参考となる実例や素材の提供、対策実施のノウハウなどのコンサルティング等を通して
多国間・各国内の連携を強化していくことが重要となる。
以上を踏まえ、今回、アジア防災センターは次の事業を行う;
1)各国の既存の防災対策の現状を調査し、特徴(長所・短所)とその理由について検討する。調査方法
には面接やアンケート、及び文献調査等を適宜採用する。現地政府や NGO などにも情報収集の協力を
求めるなどあらゆる機会を利用する。
2)上記1)で得られた結果を基に、現地政府や住民に初期検討段階からの参加を求めつつ、地域の
特徴を活かした自然災害の防止軽減、緊急対応、復旧・復興施策を検討する。
3)収集した伝承や施策などの情報をデータベース化する。整理できた段階で公開し今後の研究や防
災対策に貢献できるようにする。
2-3 留学生を対象とした防災教育制度の構築
【東京大学地震研究所 山岡耕春】
東大地震研に平成17年度から設置する国際地震・火山研究推進室を活用し,本学留学生センターと
も連携しつつ、アジア諸国における地震・津波防災に寄与するためにいくつかの事業を実施する.重要
なことはこれら諸国の若手研究者等が日本において災害・防災の基礎を学び、帰国後それぞれの国に
おいて様々な立場で、学んだ防災意識を活かして、その国の防災力を高めてもらうことである。以上の観
点から,以下の事業を実施する;
1)首都圏の大学に学ぶ留学生に対し、地震・津波等防災に関する研修をおこなう。
2)インドネシア・タイ等インド洋沿岸国から研修生を招聘し、地震・津波等防災に関する研修をおこなう。
3)これらの研修を通じ、地域の実情に応じた教育・啓発方法および教材の開発をおこなう。
テーマ3 津波警報システムの有効な活用に関する研究
テーマ代表【東北大工学研究科 今村文彦】
地震発生後に,迅速・詳細・正確な津波情報を提供し,伝達することは不可欠であ る.今回の大
災害を教訓とした基礎データを作成しながら,テーマ1の成果にもとづき津波発生過程の高精度化、沿岸
での観測データを融合したシステムを検討する.一方、警報の内容については、テーマ2、やテーマ4の
データを利用して、地域性、伝達手段、住民の意識などを考慮したものとし、過去の事例研究を行い、最
終的に避難できるシステムを整理する。
3-1 津波警報情報の認知と避難行動に関する研究
【東北大大学院工学研究科 今村文彦】
現行の津波警報システムと将来に向けた高精度なシステムの検討を踏まえて,各国とのニーズと照ら
し併せた,警報の迅速性・正確性・伝達性などを整理してインド洋など新しい地域に適用可能な早期津
波警報メカニズムの考え方を出す.また,津波情報の内容と信頼性について,環太平洋津波警報セン
ターや気象庁(2002 石垣南,2003 十勝沖)での実態調査を実施し,警報の精度・内容・伝達方法
による認 識 ・認 知 と避 難行 動 を明 らかにすることにより,有 効 な津 波 警報システムの内 容 を提案す
る.
3-2 適切な津波警報基準の設定
【気象庁 束田進也】
気象庁は津波予報に関する50年以上にわたる経験を有しており、インド洋地域に津波警報システムが
設立された場合には、津波警報の発表に関する実際の運用面での助言を行うことが可能である。津波予
報発表基準や津波予報区の設定についても経験豊かであることから、インド洋地域における数値シミュレ
ーションによる量的な津波データベースの構築を行うとともに、環太平洋地域などにおける観測のデータ
ベースを組み合わせて、適切な警報基準や津波予報区設定のための基礎調査を実施し、インド洋津波
警報システムなどの円滑かつ有効的な運用に寄与したい。
3-3 津波の発生・伝幡過程を考慮した津波予警報システムの検討
【海洋研究開発機構 平田賢治】
現行の津波警報システムでは,地震の割れ目が破壊伝播する効果,津波波源が伝播する効果を考慮
していない.M8クラスまでの地震の場合,これらの効果は津波発生にあまり影響を及ぼさないと考えられ
るが,それ以上の大きさの地震や,いわゆる「津波地震」になると影響を及ぼしくると予想される.スマトラ
沖巨大地震の解析結果等に基づき,地震割れ目の破壊伝播,津波波源の発生・伝播が及ぼす影響に
ついて検討し,津波予警報システムの能力向上案について提案する.
3
3-4 津波観測と警報システムの高精度化
【港湾空港技術研究所 永井紀彦】
津波情報の信頼性の向上をめざし、沖合・沿岸・オンサイトといったさまざまな津波波形観測機器の特
徴を活かした、総合的な津波観測網の構築を行なうため、既存のセンサーの特徴と適用限界を整理する
とともに、常時の波浪・新たな複合型津波監視センサーの開発改良の可能性について検討する。それぞ
れの国や地域毎に電源・通信網などの社会基盤整備状況が大きく異なることを想定し、社会基盤整備条
件設定に対応した適切な観測システムを考察し、来襲する津波の規模や到達時刻を正確に予測伝達す
る機能を有する津波情報センターの基本システム・運用方法について検討する。あわせて、情報の効果
的な配信システムについても、検討を行なう。
3-5 津波警報を活用する防災計画・災害対応マニュアル・防災情報共有プラットフォーム
【防災科学技術研究所川崎ラボラトリー 後藤洋三】
津波警報に関する情報提供、避難誘導、救命医療活動、避難所開設、瓦礫撤去、生活再建活動など
の社会システム的減災対策の重要性はインド洋沿岸諸国でも同じである。我が国の災害時に実施される
防災計画・災害対応技術の実態とインド洋沿岸諸国で実施された実態を比較的に調査分析し、分かり易
く整理して関係国の行政関係者や教育関係者にプラットフォームを通して配信する。H16 年度振興調整
費「危機管理対応情報共有技術による減災対策」の成果を参考にリスクコミュニケーションに適した情報
共有プラットフォームのあり方を検討し、この研究はじめ関連の災害研究で構築されるデータベースを包
括的にリンクし蓄積して活用できる様にするプラットフォームを構築する。
テーマ4 地震・津波災害 からの復興策と都市政策
【京大工学研究科 家村浩和】
今回の地震・津波被害を受けたインド洋沿岸の地域の、合理的かつ迅速な復興策と、将来の安全な都
市としての復興策の提言を行なうため、1)都市全体の構成や配置など都市計画の観点、2)建物、橋梁、
港湾道路など、インフラの構造物の力学メカニズム、3)水、電気、ガスなど、都市への供給系の問題など
生活維持に関わる問題、の3つの異なるアプローチで調査研究を実施する。
4-1 地域特性を考慮した防災都市再開発計画、都市復興計画の研究と提案
【筑波大学 村尾修】
インド洋沿岸の発展途上にある多くの都市が、地震津波により大きな被害を受けた。本研究では、まず、
津波から生き残るための必要条件を、津波被害にあった人々から、現地の研究者の協力を得て、アンケー
ト調査し、整理し、安全確保のための基礎資料とする。一方、被災都市の、合理的かつ迅速な復旧や、安
全性の高い都市としての復興に当たっては、それらの目標とする発展の方向性や沿岸地域の地形を十分
に考慮しなければならない。工業化指向型、観光指向型、漁業・農業指向型など、都市のあり方に適した
合理的な防災対策を検討し、さらに安全確保の基礎資料をも勘案して、地震・津波により命をおとすことの
ない安全な街作りの提案を行なう。
4-2 地震・津波に強い都市施設構築技術の研究とケーススタディ
【京大工学研究科 家村浩和】
震源に近いスマトラ島北西部では、津波来襲前の、強い地震動が報告されている。安全性の向上のため
には、構造物の耐震性能、耐津波性能の確保が基本的に必要である.津波に関しては,インド洋沿岸の
広い範囲で甚大な人的・物的被害をもたらした。また,港湾,漁港等の防波堤の背後では津波等が減殺
されたとの報告もある.日本において耐震性能に関しては、十分な技術の集積があり、津波に関しては,
津波外力や漂流物・流出物による衝撃力に関する研究が進んでいる。以上の知見を活かしつつ、今回の
津波による学校、ホテル、公共建物、海岸施設、港湾施設、橋梁や道路、河川水路などのインフラ施設な
どの被害、崩壊のメカニズム、防波堤による津波減衰効果,洗掘の調査結果に基づいて以下を検討し、
地域特性に応じた地震・津波に強い都市施設構築技術を提案する.
i)建築物・土木構造物に作用する津波の外力,漂流・流出物による外力、防波堤による津波減衰効果及
び津波による洗掘量を評価する手法、およびこれに対する構造物等の安定性能、被災形態の評価手法
ii)避難場所としての特定構造物の設計法・特定手法、海岸林や海岸施設・防波堤等耐津波構造物等の
配置の考え方、信頼できる避難経路の特定手法
iii)ケーススタディーに基づく地震・津波に強い都市施設構築手法
4-3 地震・津波に強い上水施設、衛生施設、医療施設の研究とケーススタディ
【神戸大 高田至郎】
今回の地震・津波により、上下水道施設、衛生施設、さらには医療施設までもがおおきな被害を発生し、
災害後の人々の生命・健康に直結する大問題となっている。これらライフライン施設の津波による崩壊メカ
4
ニズムの調査から、まず緊急に復興可能な対策を提案するとともに,恒久的な復興に際しては,耐津波性
能に優れたライフライン施設の有り方の提言を行なう。
5
3.調査研究の全体像
6
4.調査研究の体制
実施体制一覧
研 究 項 目
担当機関等
研究担当者
1.スマトラ型巨大地震・津波の発生メカニズム
の解明
(1) インド洋における過去の地震・津波の履歴な
らびに将来の発生予測に関する研究
(2) GPS 観測に基づくスマトラ沖巨大地震の余効
変動のメカニズムの解明
(3) 歪観測による破壊様式の解明
テーマ代表:東京大学地震研究所
○佐竹
東京大学地震研究所
佐竹
健治(教授)
東京大学地震研究所
加藤
照之(教授)
気象庁気象研究所
(4) 巨大地震発生前後の地震活動の解析と応力
状態の評価
(5)インド洋周辺国家の津波の検潮記録の系統的
収集
防災科学技術研究所
伊藤 秀美(H17)
吉田 康宏(H18, H19)
井元 政二郎(総括主任研
究員)
岩崎 伸一(総括主任研究
員)
2.地震津波に対する防災力向上のための人材育
成に関する研究
(1) 地震・津波防災における社会・文化的ファク
ターの分析と人材育成
(2) 各国の実情に応じた自助・共助・公助の減災
意識向上対策の検討と推進
テーマ代表:名古屋大学大学院 環
境学研究科
名古屋大学大学院 国際開発研究
科
アジア防災センター
(3) 留学生を対象とした防災教育制度の構築
名古屋大学大学院
3.津波警報システムの有効な活用に関する研究
テーマ代表:東北大学大学院 工学
研究科
東北大学大学院 工学研究科
○今村
気象庁
地震津波監視課
(3) 津波の発生・伝幡過程を考慮した津波予警報
システムの検討
(4) 津波観測と警報システムの高精度化
(5)津波警報を活用する防災計画・災害対応マニ
ュアル・防災情報共有プラットフォーム
気象庁
気象研究所
束田 信也(課長:H17)
上垣内 修(課長:H18)
長谷川 洋平(課長:H19)
平田 賢治(主任研究官)
港湾空港技術研究所
富士常葉大
永井
後藤
4
テーマ代表:京都大学大学院 工学
研究科
筑波大学大学院 システム情報工
学研究科
京都大学大学院 工学研究科
○家村
神戸大学大学院
(1) 津波警報情報の認知と避難行動に関する研
究
(2) 適切な津波警報基準の設定
地震・津波災害 からの復興策と都市政策
(1) 地域特性を考慮した防災都市再開発計画、都
市復興計画の研究と提案
(2) 地震・津波に強い都市施設構築技術の研究と
ケーススタディ
(3) 地震・津波に強い上水施設、衛生施設、医療
施設の研究とケーススタディ
5.進捗状況管理
防災科学技術研究所
東京大学
◎ 代表者
○ サブテーマ責任者
7
環境学研究科
工学研究科
地震研究所
○山岡
健治(教授)
木村
耕春(教授)
宏恒(教授)
栗田 哲史(研究員:H17)
寺西章浩(研究員:H18)
田中 修平(研究員:H19)
山岡 耕春(教授)
今村
文彦(教授)
文彦(教授)
紀彦(統括研究官)
洋三(特任研究員)
浩和(教授)
村尾
修(准教授)
家村
浩和(教授)
高田
至郎(教授)
◎加藤
照之(教授)
推進委員会
氏
名
◎首藤 伸夫
所
属
日本大学大学院総合科学研究科 教授
伊藤 和明
NPO 法人 防災情報機構 会長
西川 智
国土交通省土地・水資源局水資源部水資源政策課 課長
阿部 勝征
(財)地震予知総合研究振興会 地震調査研究センター センター長
加藤 照之
東京大学地震研究所 教授
佐竹 健治
東京大学地震研究所 教授
山岡 耕春
名古屋大学大学院環境学研究科 教授
今村 文彦
東北大学大学院工学研究科 教授
家村 浩和
京都大学大学院工学研究科 教授
◎ 推進委員長
8
Ⅱ.経費
1.所要経費
(直接経費のみ)
(単位:百万円)
研 究 項 目
1.スマトラ型巨大地震・津波の発生
メカニズムの解明
(1) インド洋における過去の地震・津
波の履歴ならびに将来の発生予測に
関する研究
(2) GPS 観測に基づくスマトラ沖巨大
地震の余効変動のメカニズムの解明
(3) 歪観測による破壊様式の解明
(4) 巨大地震発生前後の地震活動の
解析と応力状態の評価
(5)インド洋周辺国家の津波の検潮記
録の系統的収集
2.地震津波に対する防災力向上のた
めの人材育成に関する研究
(1) 地震・津波防災における社会・
文化的ファクターの分析と人材育成
(2) 各国の実情に応じた自助・共
助・公助の減災意識向上対策の検討と
推進
(3) 留学生を対象とした防災教育
制度の構築
3.津波警報システムの有効な活用に
関する研究
(1) 津波警報情報の認知と避難行動
に関する研究
(2) 適切な津波警報基準の設定
(3) 津波の発生・伝幡過程を考慮した
津波予警報システムの検討
(4) 津波観測と警報システムの高精
度化
(5)津波警報を活用する防災計画・災
害対応マニュアル・防災情報共有プラ
ットフォーム
4 地震・津波災害 からの復興策と
都市政策
(1) 地域特性を考慮した防災都市再
開発計画、都市復興計画の研究と提案
(2) 地震・津波に強い都市施設構築技
術の研究とケーススタディ
(3) 地震・津波に強い上水施設、衛生
施設、医療施設の研究とケーススタデ
ィ
5.進捗状況管理
所要経費
担当部署等
研 究
担当者
所要経費
H17
H18
H19
年度
年度
年度
合計
東京大学地震研究
所
佐竹健治
(教授)
3.0
4.8
2.6
10.4
東京大学地震研究
所
気象庁気象研究所
防災科学技術研究
所
防災科学技術研究
所
加藤照之
(教授)
吉田康宏
井元政二
郎
岩崎伸一
4.0
3.8
2.7
10.5
1.1
1.1
1.1
0.6
1.0
0.8
3.2
2.5
1.8
1.0
0.7
3.5
名古屋大学大学院
国際開発研究科
アジア防災センタ
ー
木村宏恒
(教授)
田中修平
3.9
3.0
2.5
9.4
3.0
3.4
1.7
8.1
名古屋大学大学院
環境学研究科
山岡耕春
(教授)
1.0
1.0
1.0
3.0
東北大学大学院
工学研究科
気象庁 地震津波
監視課
気象庁 気象研究
所
港湾空港技術研究
所 海洋・水工部
富士常葉大
今村文彦
(教授)
長谷川洋
平(課長)
平田賢治
3.3
2.9
2.2
8.4
1.2
1.3
1.7
4.2
0.8
1.3
1.0
3.1
永井紀彦
(部長)
後藤洋三
2.0
2.0
2.0
6.0
3.4
3.6
6.0
13.0
筑波大学大学院
システム情報工学
研究科
京都大学大学院
工学研究科
神戸大学大学院
工学研究科
村尾修(准
教授)
3.1
3.3
3.1
9.5
家村浩和
(教授)
高田至郎
(教授)
3.5
4.0
2.6
10.1
2.0
3.0
3.0
8.0
東京大学地震研究
所
加藤照之
(教授)
9.8
9.5
11.4
30.7
48.0
49.6
46.0
143.6
(合 計)
9
2.使用区分
(単位:百万円)
課題 1.1
課題 1.2
課題 1.3
課題 1.4
課題 1.5
産総研
東大地震研
気象研
防災科研
防災科研
設備備品費
0
0
2.2
0
0
試作品費
0
0
0
0
0
消耗品費
0.4
1.1
0
1.3
0.1
人件費
0
0.0
0
0
0
その他
10.0
9.4
1.0
1.2
3.4
間接経費
0
0.4
0
0.3
0.4
計
10.4
10.9
3.2
2.8
3.9
課題 2.1
課題 2.2
課題 2.3
課題 3.1
課題 3.2
名大国際
アジア防災セ
東大/名大
東北大
気象庁
設備備品費
0
0
0
0
0
試作品費
0
0
0
0
0
消耗品費
0.3
0
1.0
1.2
0
人件費
0
0.3
0
0.3
2.9
その他
9.1
7.8
2.0
6.1
1.3
間接経費
0.9
0
0
0.8
0
計
10.3
8.1
3.0
8.4
4.2
課題 3.3
課題 3.4
課題 3.5
課題 4.1
課題 4.2
JAMSTEC/
港空研
防災科研/
筑波大
京大工
気象研
富士常葉大
設備備品費
0.4
0
0.2
0.8
0.5
試作品費
0
0
0
0
0
消耗品費
0.6
0
0.2
0.5
2.9
人件費
0.7
0
2.5
2.3
0
その他
0.4
6.0
9.4
5.1
6.7
間接経費
0.2
0
0.7
0.8
1.0
計
2.3
6.0
13.0
9.5
11.1
10
課題 4.3
課題 5
合計
神戸大
東大地震研
設備備品費
1.0
0.3
5.4
試作品費
0
0.0
0
消耗品費
2.3
1.6
13.5
人件費
0
4.1
13.1
その他
4.0
24.7
107.6
間接経費
0.7
0.7
6.9
計
8.0
31.4
146.5
※備品費の内訳(購入金額5百万円以上の高額な備品の購入状況を記載ください)
該当なし
11
Ⅲ.調査研究成果
1. 調査研究成果の総括
本研究課題は,日本国内の地震・津波に関する理学・工学・社会学の広範な研究者の参加と連携の下
に,スマトラ地震・津波を一事例として,このような大きな地震・津波からの復興策を議論し,提言するとい
う目的で実施した.極めて学際的かつ国際的な事業となった.このような試みはこれまで例がないため,
個別の研究課題について日本と関係各国の相手方の調整を図る一方,異分野間の連携を模索し,研究
者ネットワークの構築を作ることを主たる課題とした.地震・津波の分野の研究は日本が世界でも先導的
な役割を果たしているので,本事業は日本の研究者がリーダーシップを発揮して実施できる分野でもあ
る.
まず活動経過についてであるが,平成 17 年度には関係研究者が参加する国際ワークショップを開催し
た.このワークショップは,他の科学技術振興調整費「災害軽減科学技術の国際連携への提言」と連携し,
平成 17 年 12 月 14-17 日に東京で開催された.この会議においては今次災害の概要を総括するとともに、
これから進むべき研究ならびに調査活動の方向性の抽出を行った。これをふまえ,16 研究課題が 3 年間
にわたって実施され,適宜情報交換を行った.平成 18 年度と平成 19 年度には AOGS(Asia Oceania
Geoscience Societies)会議に本プログラムによるセッションを設け,国内外の関連研究者を招聘した.国
内でサブテーマ2,3では独自に国内のワークショップも開催した.また最終年度(H19 年度)には、3 ヵ年
の調査研究活動を総括し、アジアの地震津波防災への提言を目標とする国際シンポジウムを開催した。
これらの全体的な活動はサブテーマ5.「進捗状況管理」によって実施した.
以下,1-4 のサブテーマごとに,各課題の成果を簡潔に記す.
1.のサブテーマ「スマトラ型巨大地震・津波の発生メカニズムの解明」は理学的なアプローチにより地震・
津波の発生メカニズムや将来の発生予測を検討しようとする課題であった.
1.1 ではインド洋地域における地震・津波発生の中・長期評価に関する研究がアンダマン諸島とミャンマ
ー地域において行われた.まず,アンダマン諸島では,2004 年スマトラ島沖地震による地殻変動が、スマ
トラ島から 1000 km 以上離れたアンダマン諸島北部まで達しており,同諸島北西部では断層運動により陸
地が 1 m 以上隆起し、さらにその後の約 2 ヶ月間で 3 割程度回復し、本震後さらにプレート境界が浅部に
ゆっくりとすべったことを示唆した。また,ミャンマー西海岸で現地調査を行ったところ、海岸段丘が発達し
ていること、過去約 3000 年間に 3 回隆起したこと、最近は 1762 年の地震に対応する可能性が高いことが
明らかとなった。
1.2 においては地震後にアンダマン島,ミャンマー・タイ及びインドネシア北部で GPS 観測を実施し地震に
伴う余効変動の調査を行った.インドネシア北部においては地震時に2mほどの変位があったことが明ら
かにされたほか,地震後に極めて顕著な余効変動のあることが明らかにされた.1.1 と同様に地震時にす
べった部分より海溝寄りの浅い領域が滑ったとのモデルが提唱されたが,また,変動領域全体にわたる
余効変動観測結果から粘弾性モデルで説明する試みもなされている.
1.3 においては歪計を用いて震央の位置や震源時間関数を推定する手法を開発し、巨大地震に適用し
た。その結果、スマトラ・アンダマン地震のように観測点からかなり離れた位置で起きた地震についてもあ
る程度の精度を持って位置や時間関数を推定できることが可能であることが確かめられた。震央の位置
はほぼリアルタイムで解析できることが可能であり、津波警報に役立てることができる。今後はより早くメカ
ニズム解を推定する手法を開発し津波警報に用いることができるレベルまで早期化を進めることができる
であろう。
1.4 では,既存のグローバル観測カタログ(USGS カタログ、ISC カタログ、ハーバードカタログ等)を用い、
スマトラ地震発生前後における地震活動の変化を調べた.その結果,地震発生前において震源域で,地
震活動が活性化していることが判明した.
1.5 においてはインド洋周辺諸国の験潮記録が集積され,スマトラ地震津波の実態の解明に資するデー
タを取得することができた.しかしながら,資料の収集は各国の事情などがあり,当初の予定は達成でき
なかった.また,1977 年に小スンダ列島で発生した地震による津波の検潮記録を入手し,地震規模、震
源位置と津波の関係を明らかにした.
2.のサブテーマは,復興や今後の地震・津波防災における諸課題を社会学的なアプローチにより検討
し,また,防災教育を実践しようとするものであった.
12
2.1 においては地震・津波防災における社会・文化的ファクターの分析と人材育成を目的とし、日本の地
震・津波の経験のある市町村で調査を行い,また、インド洋諸国(インドネシア、スリランカ、インド、タイ)に
おいて、被害の実態・復興過程・次に備えた防災体制についての調査を行った。日本の地震・津波防災
体制の分析をまとめたものを日本語と英語でホームページに掲載するとともに、インド洋諸国の津波被害
の実態・復興過程・次に備えた防災体制についての調査・分析をまとめたものをホームページに掲載する
とともに、CD 化して、関係者に配布した。また、復興過程および防災体制づくりにおける女性の役割につ
いても教材を作成した。
2.2 においては,まず,児童等を対象としたアンケート調査によって児童たちの自然災害に対する非常に
高い関心が明らかになり、学校での防災教育の実施が最も効果的であるとの結果を得た。そこで,バンダ
アチェの学校教員の協力を得て、パイロット授業の開催及びその結果を反映した「防災教育指導の手引
き」を作成した。作成した「防災教育指導の手引き」の内容を活用しつつ、防災教育の知識や手法に関す
るセミナーを実施するとともに、地球物理学に関する内容の追加などさらなる防災に関する知識を充実さ
せた「教員用の防災指導マニュアル」の作成及び印刷、頒布を行った。
2.3 においては,日本の主要大学において外国からの留学生に対する防災セミナーが行われた.これは,
留学生が潜在的に帰国後その国のリーダーになることを前提に地震・津波防災の知識を得てもらい,帰
国後の自国での防災施策に生かしてもらおうとの意図による.
3.のサブテーマは津波警報システムの有効な利用法に関する様々な検討が行われた.
3.1 においては,現地でのヒアリングや関係機関への調査を実施し,インドネシア,スリランカ,タイなどの
主要な地域でのスマトラ地震時および以降での津波警報発令の実態と住民の行動を把握した.また,現
状での復興状況や津波警報システムの現状を把握した.さらに,2005 年ニアス島地震, 2006 年ジャワ
島南西沖地震津波,2006 年千島沖地震津波,2007 年スマトラ南地震津波などの被害事例で,調査・情
報収集を実施し,同時の津波情報提供や避難の実態,さらには人的被害を中心とした津波被害の特徴
を整理した.さらに,GIS やグラフィックソフトを利用して結果を表示し,警報システムでの問題点と課題を
整理した.国内外での国際会議やワークショップに参加し,ではインド洋での津波警報システムに関する
研究打ち合わせと資料収集を実施した.特に,観測体制,数値シミュレーション技術,伝達体制・住民要
望などの現状を踏まえてインド洋での津波警報システムの提案についての基本情報を収集した.
3.2 においては太平洋で過去に発生した津波のデータを文献収集・整理してデータベースにまとめる作
業を行い、警報基準、発表対象地域区分設定を行うための基礎データとして整備した。また,2005 年 3
月に、太平洋津波警報センター(PTWC:Pacific Tsunami Warning Center)と気象庁が協力して、暫定的
にインド洋地域に津波情報を提供することとなったが,情報受領国からは内容の異なる津波情報は混乱
の元になるとの指摘が寄せられたため,両機関間で検討調整を行った結果、統一した予測内容を情報発
表に反映させることが可能となった。
3.3 では,2004 年 12 月スマトラ沖地震の第1近似的な津波波源モデルを人工衛星データの解析,自己浮
上式海底地震計による余震観測の結果等に基づき検討した.また,津波波源の伝播速度の違いによっ
て沖合の津波波高がどのような影響をうけるのかを検討するため,スマトラーアンダマン海溝沿いに地震
断層を設定し,数値シミュレーションを行った.その結果,破壊伝播方向よりもむしろ津波波源の短軸方
向(海溝に直交する方向)で津波振幅の増幅率が大きくなる場合があること,破壊伝播速度が遅くなれば
なるほど破壊伝播が津波振幅に与える影響を無視することができないことなどがわかった.
3.4 においては「GPS 津波計」の活用の可能性について検討が行われた.津波は非常に稀な事象である
ため、津波だけを対象とした観測網であっては、日常における良好な維持管理が困難となるとともに、長
期間にわたって観測情報に関する多数の人々の関心を継続的に維持することは現実的には困難となる
ことを配慮した。すなわち、津波観測網は、日常の波浪等の観測機能をあわせ持つものでなければなら
ないため、大水深海域での cm オーダ精度で海面の上下運動や水平運動の観測が可能なGPSブイに、
異常時の津波検知に加えて、常時の波浪・洋上風などのモニタリング機能の付加を行うよう、観測データ
の処理法に関する検討を並行実施し、津波情報センターの概略設計に反映させた。
3.5 においてはもっとも被害の大きかったスマトラ島北部のバンダアチェ市の 3 年間の復旧、復興の状況
を現地にて調査し、復興の課題、生活再建の課題を整理した。その調査を参考にして、今後の同市にお
いて、津波警報を活用する防災計画・防災対策マニュアルとして、我が国で開発されてきた防災計画・災
害対応技術を活用した住民参加型の分かり易い防災教育を提案し、試験実施してそれらが効果的であ
13
ることを取りまとめた。また,時間と地図上の位置で情報を管理できる GIS を使った防災情報共有プラットフ
ォームシステムを構築し、本研究で収集してきた調査資料をアップロードし、公開した。
4.のサブテーマでは地震後の復興過程における工学的な問題をとりあげた.
4.1 においてはスリランカ等の被災状況と復興状況を把握し,分析することにより,都市計画的な視点から
の今後の津波防災に活かす知見を得るとともに,我国が得てきた知見を被災地の復興計画に資する提
案を行うことを目的とし,以下のとおり実施した.まず,被災地およびインターネット等を用いた被害状況,
復興状況に関する資料とデータの継続的な収集と整理を行い,それらを基礎資料とし,被災地での構造
的被害,避難行動,および復興状況の調査を実施した.スリランカ,タイ,インドネシア等の調査で得られ
たデータおよび資料等を用いて,復興計画および今後の津波災害軽減のための,構造物被害の解析を
行い,社会基盤設備のフラジリティ評価等を実施した.また被災地の地域特性を考慮した被災および復
興状況の把握と分析を行った結果,各地の復興過程を定量的に評価するとともに,地域ごとの特徴や問
題について明らかにした.さらに日本におけるハザードマップの整備状況を調査・整理し,地域ごとの課
題について考察した.以上の作業から,被災した都市の復興過程を定量的に評価する方法を建物復興
曲線の構築として提案した.
4.2 では,インドネシア国スマトラ島バンダアチェ市域における地震・津波災害後のアンケート調査に基
づいて,津波の来襲高さと被害の関係を明らかにするとともに,災害を将来にわたって忘れないための津
波高さのメモリアルポールを数多く建設し,それらを活用した津波遡上高さに関する評価,及び防災教育
を実施した.さらに,長水路を用いた津波の模型実験により,橋梁に作用する津波の波力の推定式の検
討や,マングローブが波力の低減にどのような効果を有するかについての検討を進めた.本研究の成果
を元に,社会基盤施設の被害軽減策について提言した.
4.3 では、地震動や波動に耐える構造物だけでなく、被災後に迅速に復旧できるライフラインのシステム
化を図るため、スマトラ地震における脆弱施設を分析し、災害に強いシステムへの復旧・都市政策に提言
を行うことを目的としている。タイのライフライン施設の被害と復興計画について調査し、日本の津波被災
地域の被害と復興方法と比較を行い、復興時における課題を明らかにした。また、津波によるライフライン
の被害によって地域の生活・産業が復興する過程についてモデル化を行い、スリランカの復興過程をもと
に適用を行った。また、津波被害に加え、インドネシアのジャワ島におけるライフラインの地震被害につい
ても調査を行い、スマトラ地域のライフラインの地震脆弱性についても明らかにした。
最後に,平成 20 年 1 月に実施した総括の国際シンポジウムで採択した決議を図1に示す.
図1:総括シンポジウムにおいて採択された Resolution.
14
2. 調査研究成果の本文
調査研究成果については各課題ごとに以下にとりまとめた.研究経費についても各課題ごとにとりまと
めてある.
15
1.スマトラ型巨大地震・津波の発生メカニズムの解明
1.1 インド洋における過去の地震・津波の履歴並びに将来の発生予測に関する研究
1.1.1 2004年スマトラ島沖地震前後のアンダマン諸島の地殻変動1)
2004 年 12 月 26 日スマトラ島沖地震はマグニチュード 9 クラスの超巨大地震であり、その津波によってイ
ンド洋周辺諸国に大きな被害をもたらした。地震波や津波の解析からは、スマトラ島周辺での断層面上の
すべりは 30m にも及んだことがわかっている。しかしながら、スマトラ島付近で始まった断層の破壊がどこ
まで達しており、どのようにして終了したのかはよくわかっていなかった(図-1)。地震波や津波の解析によ
ると、アンダマン諸島での断層すべり量はスマトラ島沖に比べて非常に小さいとされる。一方、GPS 解析
や衛星写真の解析はアンダマン諸島でも大きな地殻変動が発生したことを示していたが、現地調査は行
われていなかった。東京大学と産業技術総合研究所は,2005 年3月と 2006 年3月にアンダマン諸島にお
いて、インド地質調査所、インド科学技術研究所と共同で現地調査をおこない、スマトラ島沖地震にともな
う地殻変動がアンダマン島諸島まで達していたことを確認した。アンダマン諸島北西部では、海面下でし
か生息しないサンゴが地震による地殻変動で海面上に隆起し死滅した(図-2)。一方、アンダマン諸島南
部では地震の際に沈降したため(図-3)、満潮時には陸地まで浸水するようになった。隆起した地域の住
民証言によると、地震当日に下がった海面は、その後の約 2 ヶ月間で 3 割程度回復した(図-4)。これらの
観測事実を説明するには、地震の際には地震波や津波を発生させない程度にゆっくりとすべり、その後、
プレート境界の浅部でさらにゆっくりとしたすべりが発生したと考えられる。
図-1 2004 年スマトラ島沖地震の震源域。青は津波の波源域、赤は断層面上のすべりが発生したと推定
される領域。アンダマン諸島は津波波源域には含まれていないが、今回確認された海面変動からはゆっ
くりとすべったと考えられる。
16
図-2 アンダマン諸島北西部のノースリーフ島で発見された隆起サンゴのマイクロアトール(2005 年 3 月撮
影) 。2004 年スマトラ島沖地震による地殻変動で隆起したため海面上に姿を出し、死滅した。
図-3 アンダマン諸島における 2004 年スマトラ島沖地震の地殻変動量。2005 年 3 月までの余効変動も含
む。北西部では最大 1.3 m 隆起し、南東部では最大 1m 程度沈降した。
図-4 (A) 住民の証言に基づく地震後の海面変化。 (B) 地震時・地震後の地殻変動を説明するモデル。
地震後にプレート境界の浅部がすべった。
17
1.1.2 ミャンマー沿岸における大地震発生の地形的証拠 2)
2004 年スマトラ島沖地震による津波は、インドネシアを中心に死者 23 万人以上という、史上
最悪の津波被害をもたらたした。震源域東方のアンダマン海を挟んだミャンマー沿岸では、津波
高さは 3m以下と、タイ沿岸に比べて低く、人的被害も少なかった。ただし、2004 年以降急速に
津波対策が取られたタイと異なり、ミャンマーやバングラデッシュの沿岸ではいまだに津波対策
は取られていない。これらの沿岸において津波の可能性があるのかどうかを調べることは、科学
的にも社会的にも重要である。
ミャンマー沿岸のテクトニクスを考慮すると、沈み込み帯の大地震が発生することが想定され
る。インド洋プレートは、ミャンマー西方沖でビルマ・マイクロプレートの下に年間 35-50mm
程度の速度で沈み込んでいる。この沈み込みに伴い、ヤカイン(Rakahine)海溝と Chitagong 活褶
曲帯が形成されている(図-5A)。プレートは斜めに沈み込んでいるが、ベンガル湾の分厚い堆積
物の下に位置する地震発生帯では、横ずれ成分は相対的に小さいとされる。プレート運動のうち、
横ずれ成分は、ミャンマー内陸部のサガイン断層で消費され、沿岸での沈み込み速度は年間 23
㎜程度であることから
M 8.5 程度の地震が平均 100 年に 1 回程度発生するという見積もりもあ
る。
1762 年ベンガル地震(図-5B)は、その正確な位置や規模は不明であるが、1841 年に現地を
訪問した英国人船長 Halsted によれば、Ramree 島、Cheduba 島、Foul 島で 3-7 m の海岸隆起
が報告されている。その後、1878 年に訪問したインド地質調査所の Mallet は、Phayonkar 島の
北部で、高潮位面よりも約 0.6m上方にカキ礁の化石を発見した。さらに北方では、逆に地震時に
沈降したと推定されている。1762 年地震は津波も生じたが、被害はなかった。Cummins (2007)
は、長さ 700km、 幅 125km、すべり 10m(マグニチュード 8.8)程度の断層モデルによって、
このような沿岸の隆起・沈降は説明できるとしている。
岩礁海岸が地震によって突然隆起すると、海岸段丘が形成される。日本では、大正 12 年の関東
大地震によって房総半島や三浦半島が 1-2m程度隆起し、段丘が形成された。房総半島の南端付
近では、1703 年の元禄関東地震の際には、4m以上隆起した。このように二つのタイプの関東地
震によって異なる量の海岸隆起が生じた。
ミャンマー西海岸の West Phayonkar 島において現地調査を行ったところ(図-5C)、三段の海岸
段丘が形成されていることがわかった。これらの高さは、現在の海面上 1-2m、4-6m、6-16
mである(図-6)。空中写真を詳しく調べると、これらの段丘はヤカイン海岸にそって広がってお
り、Cheduba 島では 4-6 段の段丘面が確認された。
さらに、段丘面において隆起したサンゴ礁化石を採集して、年代測定を行うことにより、段丘
の形成年代、すなわち地震の発生時期を推定した。試料の年代測定結果は、大きく 3 つのグルー
プに分けられる(図-6)。すなわち、590-680 年前(西暦 1585-1810 年に対応)、1245-1545
年前(西暦 805-1220 年に対応)、そして、2925-3420 年前(紀元前 1395-740 年に対応)で
ある。なお、ここでの西暦対応年代は、年輪年代測定法を用いて推定したものである。最新の隆
起時期は西暦 1762 年を含むことから、これは 1762 年ベンガル地震に対比される。そのひとつ前
の地震からの時間間隔は約 540-950 年であるが、さらに前の間隔は約 1550-2620 年と倍以上
18
長い。これらは、地震の発生間隔が一定でないこと、あるいは房総半島のように二つのタイプの
地震が発生することを示しているかも知れない。
1762 年の地震の際の隆起量を推定するためには、当時から現在までの海岸の変動量を知る必要
がある。最も低い段丘面は現在の平均海面から 1-5m高いが、この値には、過去 50 年間の海面
変動量も含まれる。1878 年に Mallet が発見したカキ礁の高さ(0.6m)も、地震から約 100 年が
経っていることから、地震後の影響を含んでいる。我々の調査の際の住民の話や、古い地形図と
の比較によれば、海岸は現在沈降している(海面が上昇している)ようであるが、定量的な測定
はなされていない。GPS 観測による水平変動量が年間 23 ㎜であることから、プレートの傾斜角
が 15 度で、完全に固着しているとすると、鉛直変位量(海岸の沈降量)は年間 6 ㎜程度と計算さ
れる。この場合、1762 年ベンガル地震から今日まで、海岸は約 1.5 m 沈降したことになる。
次の地震の発生時期の予測には大きな不確定性を伴う。過去 3400 年間に、段丘を隆起させる
ような地震が少なくとも 3 回発生したことは間違いない。それらの時間間隔は約 1000 年と約 2000
年であった。最新の地震からまだ 250 年しか経っていないことを考慮すると、次の大地震が近い
将来に発生する確率は低いと考えられる。しかしながら、地震にともなう隆起量や地震の発生間
隔は一定でなく、大きなばらつきを持つことが知られており、次の地震は平均的な間隔よりも早
く(あるいは遅く)発生する可能性もある。
図-5 ミャンマー西海岸のテクトニクスと過去の地震発生履歴。(A) インド洋プレートは、Sunda
海溝、Rakahine 海溝でビルママイクロプレートの下に沈み込み、Chittagong 活褶曲帯が形成さ
れている。
(B) 過去の大地震の時空間分布。(C) ヤカイン海岸の拡大図。黄色丸印の地点で古
地震調査を行った。赤い数字は、1762 年地震の際の海岸隆起量。
19
図-6 海岸段丘調査結果。
(A)West Payonkar 島の位置。 (B) サンゴ試料を採取した地点の標
高と年代値。(C) (D)
West Payonkar 島北部(C)と中部(D)における海岸段丘の断面と年代測
定試料の採取位置。
20
調査研究成果の発表状況(全体)
(成果発表の概要)(調整費充当領域分)
1. 原著論文(査読付き)
2報 (筆頭著者:2報、共著者:該当なし)
2. 上記論文以外による発表
国内誌:3報、国外誌:該当なし、書籍出版:該当なし
3. 口頭発表
招待講演: 該当なし、主催講演:8回、応募講演:24回
4. 特許出願
出願済み特許:該当なし
5. 受賞件数
1件
1. 原著論文(査読付き)
1) Kayanne, H., Y. Ikeda, T, Echigo, M. Shishikura, T. Kamataki, K. Satake, J. N. Malik, S. R. Basir, G. K.
Chakrabortty, A. K. Ghosh Roy, Coseismic and postseismic creep in the Andaman Islands associated
with the 2004 Sumatra-Andaman earthquake, Geophys. Res. Lett., 34, L01310,
doi:10.129/2006GL028200, 2007.
2) Satake, K., Than Tin Aung, Y. Sawai, Y. Okamura, Kyaw Soe Wing, Wing Swe, Chit Swe, Tint Lwin
Swe, Soe Thura Tun, Maung Maung Soe, Thant Zin Oo, and Saw Htwe Zaw, Tsunami heights and
damage along the Myanmar coast from the December 2004 Sumatra-Andaman earthquake, Earth
Planets Space, 58, 243-252, 2006.
2. 上記論文以外による発表
国内誌(国内英文誌を含む)
宍倉正展・池田安隆・茅根 創・越後智雄・鎌滝孝信,アンダマン諸島における 2004 年スマトラ―アンダ
マン地震の地殻変動および津波調査,活断層・古地震研究報告,産業技術総合研究所,5,189-199,
2005.
Satake, K., Than Tin Aung, Y. Sawai, Y. Okamura, Kyaw Soe Wing, Win Swe, Chit Swe, Tint Lwin Swe,
Soe Thura Tun, Maung Maung Soe, Thant ZIn Oo, and Saw Htwe Zaw,Report on post tsunami survey
along the Myanmar coast for the December 2004 Sumatra-Andaman earthquake, Ann. Rep. Active Fault
and Paleoseism. Res. (活断層・古地震研究報告),産業技術総合研究所 5,161-188,2005.
Than Tin Aung,Y. Okamura, K. Satake. Wing Swe, Tint Lwin Swe, Hla Saw and Soe Thura Tun,
Paleoseismological field survey along the western coast of Myanmar,Ann. Rep. Active Fault and
Paleoseism. Res. (活断層・古地震研究報告),産業技術総合研究所,6,171-188,2006.
国外誌
該当なし
21
3. 口頭発表
招待講演
該当なし
主催・応募講演
代表的なもの 3 つだけ列記します.
Aung, T, Satake, K, Okamura, Y, Shishikura, M, Swe, W, Saw, H, Swe, T, Tun, S, Aung, T:
Paleoseismoloigcal evidence of the 1762 and earlier earthquakes off Myanmar, San Francisco, American
Geophysical Union Fall Meeting, 2007.12.11.
Than Tin Aung, Y. Okamura, K.Satake, M. Shishikura, Win Swe, Hla Saw, Tint Lwin Swe, Soe Thura
Tun, Thura Aung, Holocene Crustal Movement along the Rakhine Coast of Myanmar, Bagkok, AOGS
meeting, 2007.8.1
Shishikura, M., K. Satake, Y. Ikeda, H. Kayanne, T. Echigo, T. Kamataki and J. Malik, Transient uplift
since the 2004 Sumatra-Andaman earthquake and deformation cycle in the Andaman Islands, Singapore,
AOGS meeting, 2006/7/13.
4. 特許出願
該当なし
5. 受賞件数
1件
第4回地質写真コンテスト
http://www.gsj.jp/Muse/photo/photo2006/photo2006.html
グランプリ作品
題名: 巨大地震が生んだ南の島の不思議な景色
カテゴリー: 組写真(地質現象)
撮影者: 宍倉正展
5. その他の主な情報発信(一般公開のセミナー、展示会、著書、Wwb等)
① Web での紹介
産総研活断層研究センター,http://unit.aist.go.jp/actfault/activef.html
ミャンマー西海岸 2008 年古地震調査報告 2008 年 2 月
http://unit.aist.go.jp/actfault/katsudo/news/no.76.pdf
インド・アンダマン諸島における第 3 次古地震調査,ミャンマー西海岸古地震調査報告
22
2007 年 2 月
http://unit.aist.go.jp/actfault/katsudo/news/no.65.pdf
② 著書での紹介
産業技術総合研究所 きちんとわかる巨大地震, 白日社,2006 年 10 月
23
1.2.GPS観測に基づくスマトラ沖地震の余効変動のメカニズムの解明
1.2.1 はじめに
2004 年 12 月 26 日に発生したスマトラ沖地震津波はインド洋沿岸諸国に未曾有の津波災害をもたらし
た.この巨大津波は,スマトラ沖で開始したプレート境界の破壊が 1000km 以上もプレート境界に沿って伝
播し,海底に地殻変動を発生させたことが原因である.このような巨大な破壊は少なくとも近代の地震観
測研究が開始されてから初めて観察されたものである.
このような巨大な地震が発生したあとには必ず余効変動と呼ばれる地殻変動が観察される.余効変動
の原因には,断層面上の余効的すべり,アセノスフェアの粘弾性的緩和,などいくつかのメカニズムが提
唱されている.スマトラ沖地震は,このような余効変動のメカニズムの解明に絶好の機会を提供してくれて
いると考えられる.
また,最近の研究では,地震後に発生する余効的すべりないしは地震後に発生する「ゆっくりすべり」が
次の地震の発生の引き金になっていることが示唆されており,余効変動の連続的観測は次の地震発生
予測にとって極めて重要な鍵を握っていると考えられる.
以上のことから,日本の大学の GPS 研究者で構成される「GPS 大学連合」では,本科振費において震源
近傍域で GPS による地殻変動の観測を実施し,得られた結果に基づいてそのメカニズムを考察することと
した.
また,本地震が大変大きな規模であったことから,地震時の変動も千km四方を越えると考えられ,地震
前に観測が実施されていた点では,再測を行うことにより地震時変動が検出できると考えられるほか,連
続観測点でのデータ解析によっても地震時変動が検出できるであろうと考えられた.そのようなことから,
地震時変動の検出も試みることとした.
1.2.2 GPS 観測の構成
スマトラ沖巨大地震の震源域はインドネシア北東部のスマトラ島からインド領のニコバル諸島・アンダマ
ン諸島にかけての地域である.余効変動を効率的に観測するためには震源の近傍で観測を実施すること
が適切である.しかしながら,今回の地震ではその影響が広範囲にわたるので東南アジア全体を含むよう
な広域の観測も必要であると考えられた.
このような考察に基づき,観測班を以下のように構成した.
インドネシア:名大環境研究科・高知大理学部
インド:東大地震研
ミャンマー:静岡大・JAMSTEC
活動は緊急を要することであったため,2005 年はじめから平成 16 年度科学技術振興調整費「スマトラ
島沖大地震及びインド洋津波被害に関する緊急調査研究」によって開始され,平成 17 年度から本科振
費に引き継がれた.以下,それぞれの班活動およ
Table 1. GPS observation
1) 2005 年 3 月 3 – 7 日
2) 2005 年 5 月 9 – 16 日
3) 2005 年 11 月 22-29 日
4) 2006 年 11 月 22-27 日
5) 2007 年 8 月 20-30 日
6) 2007 年 11 月 21-28 日
7) 2008 年 2 月 19-25 日
び連続観測の解析による研究成果について述べ
る.
1.2.3 インドネシアにおける GPS 観測
24
period
アチェの西海岸
アチェの西海岸
アチェ全域
アチェ全域
アチェ全域
アチェ全域
アチェ全域
1.2.3.1 はじめに
インドネシアを担当した名古屋大学のグループでは,地震・津波発生後ただちに、インドネシアの
Institute Bandung Technology (ITB) の研究者と連絡を緊密にとり、地震時の地殻変動の検出を思索した。
アチェには 1 周波受信機による短時間の GPS 観測網が 1998 年以降に確立されていた。また、Banda
Aceh の Syiah Kuala University(UNSYIA )に地球物理学講座が存在することも明らかになり、共同研究の
体制を整えた。
まず、津波から 1 ヶ月後、UNSYIA 大学に GPS 連続観測点を設置した。しかし、まだ GPS キャンペーン
が可能なほど地域は復旧していなかった。ホテルの再開が遅れ、民家に滞在する形で、地震津波の襲来
から 2 ヶ月後となる 2005 年 3 月 3 日に Banda Aceh で観測に取り組んだ。津波で傾いた基点もある中で
の観測になった。また西海岸は道路の崩壊が激しく、しかも途中で南下を断念せざるを得なかった。日本
に帰国して観測の解析を行い、その結果、Banda Ache 周辺では地震時に 3m もの地殻変動が生じていた
ことが明らかになった。
3 月末、震源の南でニアス地震が発生し、その地殻変動を検出するために、同じ研究チームで Medan
から再びアチェの西海岸に入った。地震発生から 1 年、やっと西海岸の南に位置する Meulaboh に入れた。
といっても 2 日間に及ぶ車のスタックという苦戦があった。2008 年 3 月までにアチェでは計 7 回の GPS 観
測を実施した(Table 1)。2007 年 5 月からは科学研究費補助金も採択され、2004 年スマトラ地震の余効変
動のみならず、スマトラを縦断する大スマトラ断層での歪み蓄積過程を明確にするために、観測を継続し
ている。
UNSYIA には地球物理学講座があるものの、地震発生当時は地震学の研究者がいなかった。そのよう
な背景もあり、GPS 観測の前後には UNSYIA の
学生を対象に今回の地震に関連する講義を開
設した。また、3 年間の取り組みの中で地球物
理学講座の研究者も地震学に関心を持ち、地
震学的な研究テーマに取り組みだしている。
1.2.3.2 研究成果
1.2.3.2.1 地震時の地殻変動
図 1
スタックする車を村人が曳き、押す(2005 年 11 月)
巨大地震だけに地殻変動がかってない広範
な地域で観測され、GPS 観測に基づく多くの断層滑りモデルがすでに考察されている。2004 年スマトラ地
震は GPS による地殻変動の観測のみならず、地震波の観測からも 1200km に及ぶ巨大な破壊域とそのう
ち 3 個のセグメントで 10m を上回る大きな滑りが推定されている。
私たちは、アチェの西海岸を中心に 20 点に及ぶ基点で GPS 観測を実施したことから、推定される 3 セ
グメントのうち、もっとも滑りが大きな南側のいわゆるスマトラセグメントについて、滑り分布を詳細に検討し
た(図 2)。10mを上回る大きな滑りがアチェの西海岸沖のスンダ海溝寄り、プレート境界の浅部に推定され
る。大きな滑り分布をスンダ海溝よりもスマトラ寄りのプレート境界の深部に推定し Vigny et al.(2005)とは
対照的な結果である。
25
スマトラセグメントではその後、詳細な海底地形の調査や海底地震計による余震観測も実施された(たと
えば Sibuet et al., 2007)。これらの調査結果と GPS による地殻変動観測から推定される断層滑りを比較す
る(図 2)。
推定された 10m を超える大きな滑りは、地形では一番底部の main thrust fault からアチェ海盆の西
縁,Outer Arc までの地域に推定される。大きな滑り分布が main thrust fault に推定されたのは、破壊域を
めぐる議論のうえでも非常に興味がある。しかし、スンダ海溝の西側では GPS 観測点が分布しないことか
ら、推定の分解能は低い。一方、大きな滑り分布の東側については観測点も密であり、信頼性は高い。つ
なわち、アチェ海盆の下に位置するプレート境界まで破壊が地震時に達しなかったと推定できる。これは
海盆の成因メカニズムと関連して興味のある結果である。
地震後の地震観測では、上述のアチェ海盆に最も活発な余震活動が求められた。ちょうど大きな滑り
分布の地域の陸側、東側のプレート境界のより深部で余震活動が活発だった。なお、Sibuet et al.(2007)
は余震観測からプレート境界を推定している。彼らによれば大きな滑り分布が推定された東側、アチェ海
図 2 左から 1) 観測した水平変動ベクトル、2)推定した滑り分布、3)海底地形と 10m 以上の滑り分布、4)
余震分布と 10m 以上の滑り分布。海底地形と余震分布は(Sibuet et al.,2007)による。
盆西縁、Outer Arc でプレート境界の深さは 30km だった。これは東海や東南海地震という大地震におけ
る南海トラフでの破壊域の深度とよく対応する。また、2004 年スマトラ地震当時まで、この地域におけるプ
レート沈み込み角度は 10-15 度と考えられていた。しかし、Sibuet et al.(2007)はプレート境界の深さを海
溝から 170km のアチェ海盆西縁、Outer Arc で深さ 30km と推定する。海溝の深さを考えると沈み込み角
度は 9 度前後となり、これまで考えられたものよりさらに浅くなる。プレートの沈み込み角度はアチェ海盆よ
り深くなり 15-20 度となる。
1.2.3.2.2 地震後の変動
2005 年 2 月上旬に UNSYIA に GPS 連続観測点を設置した。この観測は学生などの協力で現在までほ
ぼ維持されている。その結果、2005 年 2 月以降に 2007 年 11 月までに UNISIA 観測点では南西方向へ
70cm ほど変位していることが明らかになった(2006 年 12 月までの結果を図 3 に示す)。Banda Aceh 周辺
では地震時に 2-3m の変位が観測されており、地震時の滑りの 1/4~1/3 相当分が地震後の変位として
観測された。粘弾性としての変動も考察すべきであるが、現在のところ、まだ結論を得ていない。
26
次に、Banda Ache で観測された 70cm に及ぶ地震後の変動
について、その滑り分布を推定してみた(図 4)。最大の余効変
動滑りがアチェの南部 Meulaboh の沖合に推定された。ちょうど
大きな滑りが推定されたスマトラセグメントの南側に位置する。し
かし、その南に観測点がなく、詳細は明らかでない。
次の大きな滑り分布は地震時に大きな滑りを示したスマトラセ
グメントの東側、プレート境界の深いところに推定される。明らか
に顕著な余震活動を示す地域に対応する。
1.2.3.3 今後の課題
スマトラでは沈み込むプレートに沿い、内陸を縦断するスマト
ラ断層が縦断する。地質学的には年間最大 4cm の断層滑りが
推定され、それも北部に行くに従い大きな滑り速度になる。スマ
図 3
動
トラ内陸で GPS 観測を実施するのが困難で、断層滑り速度はほ
アチェにおける地震後の地殻変
とんど検出されていない。唯一、北緯 2 度の Toba Lake 南部で
2cm/yr が検出されているだけである。
北部スマトラのアチェでは断層滑り速度は 4cm/yr、しかも最近 200 年間に M7 に達する大地震が発生
していないとの指摘もあり、スマトラ断層
北部の断層歪み場を明確にすることは防
災上も重要な意義を有する。その観点か
ら、2007 年にはスマトラ断層を 2 か所で横
断する GPS 観測網を構築し、断層周辺で
の歪み場の解明と地震発生ポテンシャル
を評価する課題に取り組んでいる。現在、
断層周辺で半年ごとのキャンペーン観測
と 6 点で GPS 連続観測を実施している。
図 4 2005 年 11 月から 2006 年 11 月に GPS で観測された水平
変動ベクトルと推定された断層滑り分布。
1.2.4 インド・アンダマン諸島における GPS 観測
1.2.4.1 観測の概要
インドもインドネシア同様大きな
津波被害を蒙った.大陸部では
主として津波による被害が顕著
であったが,遠く東に隔たったア
ンダマン・ニコバル諸島はインド
ネシアのスマトラ島から北に延び
る弧状列島を形成し,震源に近
かったことから津波と地震に伴う
地殻変動による被害が大きかっ
た.
このアンダマン・ニコバル諸島
図5:インド・南アンダマン島に設置された GPS アンテナ.
27
では地震時にも地震後も大きな地殻変動が予想されたので,これらの地域において GPS 観測を実施する
ことを計画した.この GPS 観測は東大地震研とインド地球電磁気学研究所の共同研究として実施すること
とした.
アンダマン・ニコバル諸島はインドにとっては軍事的・政治的に重要な地域であり,外国人の移動は極
めて制限されている.そこで,今回は外国人も立ち入り可能な南アンダマン島のポートブレアに観測点を
設置することとした.
東大地震研グループは 3 月8日にまずデリー経由でムンバイに入った.ここには共同研究相手機関のイ
ンド地球電磁気学研究所があり,そこで別途送付した資材の到着を待つと共に,観測点設置の計画を立
てる,セミナーを実施するなどの事前活動を行った.また研究所の所長を表敬訪問した.
3 月13日に飛行機を乗り継いで南アンダマン島ポートブレアに到着した.観測点は同島のインド科学技
術庁のオフィスに設置することとした.同オフィスの屋上に GPS アンテナを固定し(図5),階下の空きスペ
ースに受信機を設置した.受信機は Trimble 4000SSI 型で,アンテナは附属のグランドプレーン付のもの
を使用している.データは受信機に接続した PC に毎日定時に前日のファイルを収録する方式を取って
いる.
観測点ではインド側研究協力者によって観測のチェッ
クが行われているほか,2006 年 3 月には現地に赴きデ
ータの収録を行った.以後は現地協力者によりデータの
回収が適時行われている.
1.2.4.2 データ解析と結果
収録されたデータはインド地球電磁気学研究所にお
いて解析され,結果を共有している.解析には GAMIT ソ
フトウェアが用いられている.2006 年 4 月までに取得され
たデータを解析して得られた結果を図6に示す.
図から明らかなように,ポートブレア観測点は地震後1
図6: 2005 年 1 月から 2006 年 4 月はじめま
でのデータに基づくインド・ポートブレア
(ANDA)における位置座標変化
年余りでほぼ西向きに 40cm 程度移動したことがわかる.
また,地盤は 20cm 程度隆起した.地震時にはこの地域
は約1m程度沈降したことが判明しているので地震後約
5 分の1程度は 1 年で回復したことがわかる.1 年を経て
水平成分はほぼ収束しつつあるように見えるが上下成分はまだ余効変動が続いているようにも見えるた
め,今後さらに観測を継続する必要があると考えられる.
現在,その後のデータの解析を進めているところである.
1.2.4.3 考察
地震の余効変動に対してはいくつかのメカニズムが提唱されている.例えば断層面の余効的すべり,マ
ントルの粘弾性的緩和,多孔質弾性体としてのふるまい,などである.一般的には断層面の地震時にす
べり残した部分やアスペリティ周辺でのすべりが一番受け入れられているといってよいだろう.しかしなが
ら,粘弾性的変形やその他の効果がないかどうかについてはまだ解明されていないといってよいだろう.
課題1.1では,同じアンダマン島の北部で,南部のポートブレアと全く逆の動き,すなわち地震時の隆
起と余効的沈降,のあったことが報告されている.Kayane et al.(2007)はこの余効変動について地震時に
28
すべった領域に比べ海溝に近い部分が余効的にすべったことを示唆している.ポートブレアは逆のセン
スの動きであることから,逆に地震時にすべった場所よりも深いプレート境界がすべった可能性がある.こ
んごモデル化を検討すべきであろう.
当初,アンダマン島だけでなく,ニコバル島など他の地域において観測を実施する予定であったが,イ
ンド側の許可が得られないなどの困難があり,本課題のインドグループとしては 1 点のみの観測にとどまっ
ている.インド側の研究協力者はニコバル等においても観測を実施しており,今後これらのデータも併用
することにより余効変動のメカニズムに関してもより詳細な検討が可能になると期待される.
1.2.5 ミャンマーにおける GPS 観測
2004 年 12 月 26 日に発生したスマトラ沖地震の余効変動調査のために、2005 年 3 月 20 日から 25 日
の日程で、静岡大学理学部の里村幹夫と海洋研究開発機構の伍培明の 2 名がヤンゴンのミャンマー気
象水文局(Department of Meteorology and Hydrology: DMH)を訪問し、地殻変動観測のために GPS 受
信機を同局の建物の屋上に設置した。設置したアンテナの位置は北緯 16 度 51 分 53.74 秒、東経 96 度
09 分 13.61 秒、楕円体高-21m である。また、GPS 受信機は Trimble 社製 5700 で、アンテナはチョーク
リングアンテナである。
図7:(左)今回作ったアンテナ基台とアンテナと(右)最上階に設置した受信機
その後、里村が 2006 年 3 月と 2007 年 3 月に同気象水文局を訪れ、データ回収を行うともに伍も適宜
データ回収を行っている。
タイにおいては、このプロジェクト以前から、大気中の水蒸気量の変動を調べるために、タイ東北部のコ
ンケン大学構内(北緯 16 度 28 分 22.07 秒、東経 102 度 49 分 21.80 秒、楕円体高 168m、Trimble4000SSi
受信機、Compact Geodetic L1/L2 microcentered アンテナ)とタイ北部チェンマイ郊外のコグマ試験地
(北緯 18 度 48 分 12.89 秒、東経 98 度 53 分 44.72 秒、楕円体高 1324m、Trimble 5700 受信機、Zephra
Geodetic アンテナ)において、静岡大学がGPS観測を実施しており、これらのデータも今回のプロジェクト
に利用している。
1.2.6 東南アジアの GPS 解析
東南アジアには我々が実施した地震後の観測点のほか多数の連続観測点がある.これらの多くがスマ
トラ地震発生前から稼動していたことから,これらを用いることにより地震時の変動と地震後の余効変動を
検出することが可能である.そこで,ここでは,2つのソフトウェアを用いて東南アジアの GPS 観測点デー
タを解析した結果を示す.
29
1.2.6.1 GAMIT ソフトウェアによる解析と結果
GAMIT ソフトウェア(ver.10.3)
による解析は主として静岡大学
のグループによって実施された.
今回地殻変動を求めた点は、
PHKT(プーケット)、BNKK(バンコ
ク ) 、 CHMI( チ ェ ン マ イ ) 、
KOGM(コグマ)、LAMB(ボルネオ
島ミリ近郊)、KKUT(コンケン)、
YNGN(ヤンゴン)の 7 点と、IGS 点
の BAKO(ジャワ島)、COCO(コ
コス島)、DARW(ダーウィン)、
DGAR(ディエゴ・ガルシア島)、
GUAM(グアム)、HYDE(ハイデ
ラバード)、LHAS(ラサ)、NTUS
(シンガポール)、PERT(パース)、 図8:地殻変動を求めた観測点
PIMO(マニラ)、USUD(臼田)、
WUHN(武漢)の 12 点である。観測点の位置を図8に示す.またこれらの変動を求めるために、座標基準
点として東南アジア地域を囲むように,IGS 点から BAHR(バーレイン)、BILI(ロシア Bilibino)、CHAT(ニュ
ージーランド)、IRKT(イルクーツク)、KERG(ケルゲレン島)、KOKB(ハワイ)、MKEA(ハワイ)、YAKT(ヤクー
ツク)の 8 点を選択し、ITRF2005 座標系の座標値を用いた。データは 2005 年 12 月 31 日までを用いて解
析した。
図9には地震前後のオフセットから推定した地震時の変位ベクトルを示す.スマトラ沖地震時には、震
央に最も近い PHKT では西に約 25cm、南に約 11cm 移動する大きな変動が見られた。また、震央に近い
BNKK で西に約 7cm、南に約 4.2cm、CHMI で西に約 1.8cm、南に約 2.3cm、KKUT で西に約 3.7cm、南
に約 2.2cm 移動するなど震央の北部で顕著な動きが見られた。一方震央の南部に位置する COCO や
BAKO などの観測点では比較的震央に近いにも関わらず、地震時に大きな変動は見られなかった。これ
らの変動の見積もりは Hashimoto et al.(2006)や Catherine et al.(2005) の研究結果とも概ね一致する。更
に震源から約 4000km 離れた WUHN で西に約 4mm、南に約 3mm、LHAS でも西に約 9mm,北に約 1mm
の有意な変動が見られた。
図10に 2005 年 3 月 28 日に発生したニアス地震時の変動ベクトルを示す.ニアス地震では,スマトラ沖
地震ほど大きな変動は見られないが,PHKT で西に約 6mm、南に 1.8cm、NTUS で西に約 1.4cm、南に約
4mm 移動し、震央の西側にある DGAR では東に約 1.0cm、北に約 1mm の移動が見られた。
30
図9:スマトラ沖地震時の地殻変動
図10:ニアス地震時の地殻変動
図11及び図12にスマトラ沖地震とニアス地震の間の地殻変動およびニアス地震以後の地殻変動を示
す.余効変動に関しては,ニアス地震の前後で滑り方向が異なる観測点(BNKK,KKUT)が存在すること
が分かった.これは橋本・他(2006)(次節参照)の結果とは異なる。今回は、基準座標系を ITRF2005 でと
り、REVEL-2000 モデルでプレート運動の影響を差し引いたが、この座標系が異なっており、今回求めた
余効変動は座標系の違いによって生じたものである可能性もあり、今後の検討を要する。
図11:スマトラ沖地震とニアス地震
図12:ニアス地震以降の地殻変動
との間の地殻変動
1.2.6.2
Bernese ソフトウェアによる解析と結果
1.2.6.2.1 はじめに
Bernese ソフトウェアによる解析は京大グループによって行われた.タイおよび周辺各国に設置された
GPS 連続観測点のデータを用いて,2004 年スマトラ地震の余効変動を追跡している.観測点は,タイ・ミ
ャンマーなど東南アジアに分布しており,チュラロンコン大学,京大,海洋開発研究機構(以下
JAMSTEC),静岡大,情報通信研究機構(以下 NICT),名古屋大太陽環境研などの機関により設置運営
されている.一部,インドネシア測量局(BAKOSURUTANAL)など各国の機関・大学により運営されている
31
観測点で,IGS などに登録されているものも含め,データが公開されているものも用いた.今回用いる観
測点の多くはオンライン化されておらず,研究者や各地の協力者が観測点に出向いてデータ回収を行っ
ている.これまで,2007 年 8 月までの解析が完了したので報告する.
1.2.6.2.2 解析方法
解析には Bernese5.0 を用いた.アジア・オセアニアの IGS 観測点のデータと合わせて解析し,2005 年
11 月 4 日までは ITRF2000 系,それ以降は ITRF2005 系での座標を推定した.この際,震源域から十分
離れたつくばやウルムチ・バーレーンなどの IGS 観測点を ITRF2000 系のエポックごとの座標にゆるく拘束
した.ITRF2000 系の座標はすべて ITRF2005 に変換し,座標系を統一した.この時系列に Wdowinski et
al.(1997)による空間フィルターを適用し,時系列を得た.さらに,時系列から ITRF 系における水平変動を
推定し,Bock et al.(2003)の Sunda ブロック-ITRF 間のオイラー・ベクトルを差引く事により,Sunda ブロッ
クに相対的な変位と得た.なお,ここで使用する観測点は熱帯に位置しているため,大気や電離層による
擾乱が大きい上,その年周的な変化を推定するまでには十分なデータが得られていないので,年周補正
は行っていない.また,上下成分については,今回は議論の対象としない.
1.2.6.2.3 座標変化の時系列
Bock et al.(2003)によれば,ミャンマーのヤンゴン(YNGN)を除くこれらの観測点はスンダ・ブロックに位
置しており,ITRF 系に対してはほぼ東方向に運動していると推定されている.しかし,プーケットやチュン
ポン(CPN),バンコク(BNKK)などの観測点は,西向きに移動していることが明らかであり,その時間変化
のパターンは大地震後によく見られる余効変動そのものである.また,チェンマイ(CHMI)やシサムロン
(SIS2)などは南に移動していることが明らかであり,インドシナ半島の広い領域に余効変動が及んでいる
ことが明らかである.
2点注目すべき事柄を指摘したい.1点目はヤンゴンの座標の時間変化で,チェンマイよりも震源に近
いにもかかわらず,変動が小さい.2点目は,スマトラ西岸のパダン(PDNG)で,2005 年 3 月 28 日のニア
ス地震時の変位は認められないのに,その後一旦南に移動したように見える.2005 年 4 月 10 日にパダン
沖で M6 クラスの地震が発生しており,そのコサイスミックな変位の可能性もあるが,余効変動的な減衰す
る変動を示しており,興味深い.
1.2.6.2.4 水平変位場
プーケット(PHKT)やチュンポン(CPN)では,ニアス地震の影響は小さく,スマトラ地震本震時とほぼ同
じ方向の余効変動が生じている.ニアス地震前の3ヶ月間とその後の9ヶ月間の変動量はほぼ等しく,余
効変動の減速を示している.しかし,地震後1年間の余効変動の総和は,スマトラ地震時変位の80%程
度の大きさがあり,Mw8を有意に越える歪の解放が起きていることを示している.
注目すべき観測点としては,スマトラ中部のパダンとミャンマーのヤンゴンがある.パダンはニアス地震
時の変位は見られないが,この地震の余効変動らしき変化をしている.ただし,2005 年 4 月 10 日発生し
た Mw6.7 の地震の影響もありうる.一方,ヤンゴンはチェンマイよりは震源断層に近いが,顕著な余効変
動は見られない.余効すべり領域の広がり,あるいは粘弾性層の構造などの研究に拘束条件を与えるも
のとして興味深い.今後も観測を継続し,余効変動の時空間変化を追跡していく.
32
1.2.7 まとめ
本研究課題では 2004 年 12 月 26 日に発生したスマトラ島沖地震に伴う余効変動の検出とそのメカニズ
ムの考察を目的として実施した.観測はインドネシア・スマトラ島,インド・アンダマン島及びミャンマーで実
施した.また,東南アジア全体の連続観測データも収集して解析を実施した.
これらの結果から,スマトラ島沖地震の震源域全体に及んで余効変動が進行していることが明らかとな
った.特に破壊開始点に近いスマトラ島北部では 2007 年 11 月までに 70cm に達する大きな余効変動が
観測され,変動はまだ継続している.観測網全体のデータに基づくモデル化はまだ未完であるが,地震
による破壊領域の周辺での余効すべりで比較的よくデータを説明できると考えられる.
また,東南アジア全体にわたる連続観測データの解析も行われた.これによって地震時の変位場も明
らかになった.地震時の変動についてもモデル化が進められている.
余効変動が現在もまだ継続中であることから観測は今後もまだ継続すべきであり,長期にわたってデー
タが取得できれば今回発生した地震に伴う余効変動のメカニズムが詳細に解明できると期待される.
33
調査研究成果の発表状況(全体)
(成果発表の概要)(調整費充当領域分)
1. 原著論文(査読付き)
該当なし
2. 上記論文以外による発表
国内誌: 10報、国外誌: 0報、書籍出版:0 冊
3. 口頭発表
招待講演: 1回、主催講演: 回、応募講演:10回
4. 特許出願
出願済み特許: 該当なし
5. 受賞件数
該当なし
1. 原著論文(査読付き)
該当なし
2. 上記論文以外による発表
国内誌(国内英文誌を含む)
木股文昭, 2004 年スマトラアンダマン地震津波から 3 年:地震学としての課題と展望, 2004 年北
部スマトラ地震調査報告Ⅳ, 名古屋大学環境学研究科, 3-6, 2008.
Ito T., Agustan, M. Irwan, T.Tabei, F. Kimata, The construction of new dense GPS observation
network: AGNess (Aceh GPS network for Sumatra Fault System), The 4th Investigation
Report of 2004 Northern Sumatra Earthquake, Graduate School of Environmental Studies,
Nagoya University, 83-88, 2007.
木股文昭・伊藤武男・太田雄策・メイラノイルワン・田部井隆雄, インドネシア国スマトラにお
ける GPS 観測のための予備調査 -スマトラの GPS 観測による 2004 年アチェ・アンダマン地
震の滑り分布の推定-, 防災科学技術研究所研究報告,57-68, 2007.
Irwan M., Y. Ohta , F. Kimata , T. Ito, T. Tabei, H. Z. Abidin, Agustan, Two years GPS
observation in Aceh, 3nd investigation report on the 2004 Northern Sumatra Earthquake,
Graduate School of environmental studies, 7-10, 2007.
Irwan M., Y. Ohta , F. Kimata , T. Ito, T. Tabei, D. Darmawan, H. Andreas, H. Z. Abidin, M. A.
Kusuma, D. Sugiyanto, Agustan, GPS measurement of coseismic displacement in Aceh
Province after the 2004 Aceh-Andaman earthquake2n, 2nd investigation report on the 2004
Northern Sumatra Earthquake, Graduate School of environmental studies, 103-108, 2006.
伊藤武男・太田雄策・Irwan Meilano・木股文昭, スマトラアンダマン地震の地震学的測地学的な
側面からの知見, 名古屋大学環境学研究科「2004 年北部スマトラ地震調査報告Ⅲ」, 11-16, 2006.
Ohta Y., M. Irwan, T. Ito, F. Kimata, T. Tabei, and D. Sugiyanto, Crustal deformation
following the 2004 Sumatra-Andaman earthquake in the northern Sumatra region
(Preliminary Report), Investigation Report of 2004 Northern Sumatra Earthquakes (part 2),
Graduate School of Environmental Studies, Nagoya University, 109-113, 2006.
Ito T., S. Kawamoto, Y. Ohota, M. Irwan, F. Kimata, Evaluation of visco-elastic and
poro-elastic deformations following 2004 Sumatra-Andaman earthquake, Investigation
34
Report of 2004 Northern Sumatra Earthquakes (part 2), Graduate School of Environmental
Studies, Nagoya University, 114-119, 2006
木股文昭・伊藤武男・太田雄策・メイラノイルワン・田部井隆雄, スマトラの GPS 観測から見
えてきた滑り分布 :スマトラアチェでの GPS 観測から見えてきた 2004 年アチェ・アンダマ
ン地震の滑り分布, 月刊地球,スマトラ地震特集号, 86-94 ,2006
橋本学・Nithiwatthn Choosakul・橋爪道郎・竹本修三・瀧口博士・福田洋一・藤森邦夫・里村幹夫・伍培
明・斉藤亨・丸山隆・川村眞文・大塚雄一・加藤照之,月刊「地球」,号外 No.56,38-48,2006
国外誌
該当なし
3. 口頭発表
招待講演
HASHIMOTO, M., M. Hashizume, S. Takemoto, H. Takiguchi,
Y. Fukuda, K.Fujimori, M. Satomura, P.
Wu, T. Kato, A. Kyi, S. Kingpaiboon, Y.Otsuka, N. Hemmakorn, T. Komolmis, S. Saito, T. Maruyama,
and M.Kawamura, Postseismic deformations following the Sumatra-Andaman Earthquake detected
by continuous GPS Observations in SE Asia, International Workshop on Tectonics of Plate
Convergence Zones: Toward the Seamless Understanding from Earthquake Cycles to Geomorphic
Evolution,Tokyo,2006年9月28日.
主催・応募講演
HASHIMOTO, M., M. Hashizume, S. Takemoto, Y. Fukuda, K. Fujimori,H. Takiguchi, K. Sato, Y.
Otsuka, S. Saito, S. Miyazaki, and M. Satomura, Kinematic Analysis of GPS Data in SE Asia During
the Sumatra-Andaman and Nias Earthquakes, 100th Anniversary Earthquake Conference, San
Francisco, 2006年4月.
HASHIMOTO, M., M. Hashizume, S. Takemoto, Y. Fukuda, K. Fujimori, H. Takiguchi, M. Satomura, Y.
Otsuka, and S. Saito, 100th Anniversary Earthquake Conference, San Francisco, 2006年4月.
HASHIMOTO, M., S. TAKEMOTO, M. HASHIZUME, M. SATOMURA, and S. SAITO, Postseismic
Deformations Following the Sumatra-Andaman and Nias Earthquakes Detected by Continuous GPS
Observations in Southeast Asia, AOGS2006, Singapore, 2006年7月10日.
HASHIMOTO, M., S. TAKEMOTO, M. HASHIZUME, Y. OTSUKA, and S. SAITO, Kinematic Analysis
of GPS Data in SE Asia During the Sumatra-Andaman and Nias Earthquakes, AOGS2006,Singapore,
2006年7月10日.
橋本学ほか9名,スマトラ地震の余効変動のその後,日本地震学会2006年度秋季大会,名古屋,日本,
2006年11月.
太田雄策ほか6名,北部スマトラ域における2004年スマトラ・アンダマン地震後の余効変動のモデル化-
余効すべりの発生場所とすべり方向の考察-,日本地震学会2006年度秋季大会,名古屋,日本,
2006年11月.
Irwan, M., and other 10 authors, Slip distribution of the 2004 Sumatra-Andaman Earthquake from
35
Near-field GPS observations, 106th Meeting of the Geodetic Society of Japan, Iwate, Japan, 2006年10
月
Irwan, M., and other 7 authors, Preseismic transient and postseismic afterslip associated with the 2004
Sumatra earthquake, 108th Meeting of the Geodetic Society of Japan, Wakayama, Japan, 2007年10
月.
片木武,他13名,GPS連続観測によるスマトラ-アンダマン地震の余効変動と3D-FEMを用いた粘性緩
和の影響について,日本地震学会2007年秋季大会,宮城,日本,2007年10月
Irwan, M. and other 7 authors, Postseismic deformation of the 2004 Sumatra-Andaman Earthquake, The
Seismological Society of Japan 2007 Fall Meeting, Miyagi, Japan, 2007年10月.
Reddy, C.D., S.K. Prajapati and T. Kato, Visco-elastic post-seismic relaxation model for 2004 Sumatra
earthquake, AOGS 3rd Annual Meeting 2006, Singapore, July 2006
4. 特許出願
該当なし
5. 受賞件数
該当なし
5. その他の主な情報発信(一般公開のセミナー、展示会、著書、Wwb等)
該当なし
36
1.3 歪観測による破壊様式の解明
1.3.1 はじめに
スマトラ・アンダマン地震は地震の規模を表すマグニチュードは研究により 9.0 から 9.3 くらいのばらつき
があるが、9以上であることは確かで、この100年間に起きた地震の中では 1960 年のチリ地震や 1964 年
アラスカ地震と同様の最大級の地震であった。また、この地震に伴い巨大な津波が発生し、多数の方が
亡くなった。津波被害を軽減するためには、津波の大きさを精度良く推定することが大切である。このため
地震発生後早期に地震計の波形などから発生位置や規模、破壊の広がりを推定する必要がある。歪計
は非常に長い周期まで計測することが可能であるから、長周期成分の励起が大きい超巨大地震の解析
には向いている。しかしながら短周期地震計や広帯域地震計を用いた震源過程の推定に関しては多数
の研究があるが、歪計を用いた震源過程解析の研究は少ない。そこで、本研究では歪計がスマトラ・アン
ダマン地震のような超巨大地震の解析に有効であるかどうかを検証すると共に、準リアルタイムでの解析
が可能であるかどうかについても検討を行った。
1.3.2 観測データ
日本では東海地震の直前予知を目指して、気象庁が南関東・東海地域に歪計を展開している。観測点
には体積歪計という体積歪1成分を測定する計器か多成分歪計という3〜4成分の水平歪を測定する計
器が設置されている。これらの歪計は地震の前駆的なゆっくりとしたすべりを検出するために設置されて
いるので、周期無限大まで計器の特性が伸びている(図 1.3.1)。また、データは1秒でサンプリングされて
おり、地震計として使用することも十分に可能である。図 1.3.2 に歪計観測点の地図を示す。設置場所は
地域的に限られているが、東西約 300km、南北約 100km の地域に約 30 点の歪計が設置されている。こ
れらのデータは気象庁の本庁にテレメターで伝送されているので、リアルタイムで解析することが可能で
ある。また、周期無限大まで計器の特性が伸びていることより、地震動はあまり大きくないが、津波を大きく
励起する可能性のある長周期の波(周期数十分)まできちんと捉えることができる。以上のことより、津波
の規模を早期に推定するために歪計は非常に有効であることが予想される。
図 1.3.1 歪計の特性曲線。色の違いは収録系の違いを表し、図 1.3.2 の観測点の色と対応している。周期 100
秒以上周期無限大までの波を捉えられることを示している。
37
図 1.3.2 気象庁の展開している歪計観測点の位置。丸が体積歪計、四角が多成分歪計を示す。図形の中の色
は収録系の種類を示す(図 1.3.1 を参照)。
まず最初に、歪計がスマトラ・アンダマン地震のような巨大地震の地震波(正確には歪地震波)を捉えら
れているかどうかを検証した。本震はあまりにも大きく、複雑な破壊の広がりの影響が含まれていると思わ
れるので、ひとまわり小さく、本震の震源域の近くで起きた 2005 年 3 月 29 日に起きたニアス島近海の地
震(Mw8.6)について検証を行った。歪計の記録は観測点の局地的な影響が非常に強く出るので、遠地
地震や潮汐によって引き起こされる広域応力場と比較することによって、体積歪計ではキャリブレーション
値が(上垣内,1994)、多成分歪計ではキャリブレーション行列が(上垣内他,1999)が求められている。そ
こで、今後これらの値(行列)をかけたものを観測記録と呼ぶことにする。地震のメカニズム解は長周期地
震波を用いて広帯域地震計より決定したモーメントテンソル解を仮定して、地球の自由振動モードの足し
合わせにより歪計の理論波形を計算し、観測波形との比較を行った。地球の地震波速度構造として
PREM を用いた(Dziewonski and Anderson, 1981)。足し合わせには周期 35 秒以上のモードを用いた。理
論波形と観測波形のスペクトルを比較したところ、非常に良く一致しており、震源過程の影響があまり見ら
れない周期 100 秒以上の波について波形の比較を行うと、ほぼ一致していた。以上のことより、歪計は巨
大地震の波をきちんと捉えていることが明らかになった。
1.3.3 震源時間関数(時間分布)の推定
M9 クラスの地震になると、地震の破壊は時間的には数 100 秒、空間的には 1,000km もの広がりを持つ。
津波の波高をより正確に予測しようと思えば破壊の時空間分布を求める必要がある。まず、破壊の時間
的な広がりを、地震波形をデコンボリューションすることによって求めてみた。理論波形の計算は地球の
自由振動モードの足し合わせで行う(周期 35 秒以上のモードを使用)。地震のメカニズム解は長周期地
震波を用いて広帯域地震計より決定したモーメントテンソル解を仮定した(走向:329 度、傾斜 8 度、すべ
り角:110 度)。スマトラ・アンダマン地震は巨大地震なので、途中である程度メカニズムが変化している可
能性もあるが、他の研究により大きくは変化していないという解析結果が得られている(Tsai et al., 2005)。
理論記象と観測波形に周期 1,000 秒から 50 秒のバンドパスフィルターをかけて解析を行った。日本から
スマトラ地震の震源域を見ると角度にして約 15 度の広がりがあるので、精密に解析する上では1つの点で
38
破壊域を代表することはできない。しかしながら、早期に破壊様式を推定するという目的を考えれば、ある
程度精度を犠牲にしなくてはならない。破壊を1点で代表させて解析をした後に、他の研究結果と比較す
ることにより、この仮定の妥当性についても検討してみた。
最初に観測点ごとに観測波形を理論記象でデコンボリューションして震源時間関数を求めた。デコンボ
リューションでは解が負にならないという条件を課した。また、震源時間関数暴れないようにダンピングを
導入した。図 1.3.3 に湯河原(YUGAWA)観測点において解析した結果を示す。理論波形が観測波形を
よく説明していることがわかる。特に振幅の大きい表面波の部分はぴったりと合っているが、実体波の部
分は多少差が出た。これは解析が振幅の大きな所に引きずられてしまうためであると考えられる。求めら
れた震源時間関数は急激に立ち上がり 200 秒後くらいに最大値に達し、その後幾つかのピークを作りな
がら減衰していくことがわかる。1,200 秒まで解析を行ったが、後ろの部分はノイズであると思われる。
図 1.3.3 湯河原(YUGAWA)観測点の記録とデコンボリューションの結果。a)の黒線は観測記録、赤線は計算
波形。b)は求められた震源時間関数。
他の観測点についても同様の処理を行って震源時間関数を求めた。図 1.3.4 に求められた観測点ごと
の関数とその平均を示す。観測点ごとに2倍くらいのばらつきがあることがわかるが、だいたいどの結果も
同じような形をしている。得られた関数の平均値をとると、大きく3つのピークがある。最初のピークが1番
大きく 50〜200 秒の間に起きている。次が 250〜400 秒、最後が 450〜700 秒である。それより後ろは震源
時間数のばらつきからノイズの可能性が高いと判断した。各々の地震モーメントは 3.5×1022Nm、1.0×
1022Nm、0.7×1022Nm となり、合計は 5.2×1022Nm で Mw9.1 に相当する。地震計の記録を使った解析
(Ammon et al., 200)では、破壊の継続時間は 550 秒、地震モーメントは 6.5×1022Nm と、スマトラ・アンダ
マン地震の震源域から約 50 度離れている日本の観測点のみを使った解析ではあるが、かなり良い結果
が得られていることがわかる。震源時間数の形についても似ており、精度は落ちるであろうが、点震源を
仮定してもほぼ同じ結果が得られることがわかった。
39
図 1.3.4 歪計のデータから求められた震源時間関数。横軸が時間、縦軸がモーメントレートを示す。黒線は観
測点ごとに求めたもの、赤線はそれらの平均を示す。
1.3.4 破壊の空間分布の推定
次に日本に展開されている歪計を使って、破壊域の推定を行った。多成分歪計は成分を回転させるこ
とにより、面積歪(Ea)と線歪2成分で表すことができる。この線歪2成分(γ1、γ2 と呼ぶ)から歪の主軸方
向(θ)を求めることができる。
θ = 1/2 tan-1(γ2/γ1)
P 波部分の主軸方向は波の振動方向、つまりは伝播方向を表すので、主軸方向がわかれば、震央の方
向がわかる。また、S-P 時間を測定することにより、震央距離が推定でき、両者を合わせることで1観測点
のデータのみで震央位置を推定することができる。巨大地震では破壊が起きている点が空間的に数
100km のオーダーで移動するので、波の到来方向も変化すると思われる。スマトラ・アンダマン地震では
地震記録の解析から断層の広がりはほぼ南北 1,000km に達し、方位角の広がりも 10 度程度あることが期
待される。また多成分歪計は4成分持っている。この中で独立な成分は3つなので、1つは冗長性を持た
せるためにあると考えて良い。そこで、歪の4成分を(e1, e2, e3, e4)とすると、(Ea, γ1, γ2)を求めるペアは
(e1, e2, e3)、(e1, e2, e4)、(e1, e3, e4)、(e2, e3, e4)の4つがある。浜北(HAMAKI)観測点において各々のペア
から求められた(γ1,γ2, θ)を図 1.3.5 に示す。P 波、S 波の到着時を読み取ると 530 秒、960 秒なので、
S-P 時間は 430 秒。よって震央距離は約 50 度と推定できる。また P 波が到達して、S 波が到達する前の
時間の主軸の方向をみると、約 240 度となって、歪成分の組み合わせによらずほぼ一定の値が出ている。
図 1.3.5 の右図より明らかなように、これはスマトラ・アンダマン地震地震の震央(破壊開始点)の方向を示
している。しかしながら、到来方向はほぼ 240 度で一定となり、破壊の進行に伴って角度が変化していく
様子は見られない。これは P〜S 波の間に到着する長周期の波が、直達 P 波だけでなく、地球内部で反
射をした PP 相や PPP 相、PS 相などが含まれており、必ずしも震央より北の破壊域より来た波でないことが
挙げられる。これら巨大地震において P〜S 波の間に見える長周期の波のことを W 相と呼ぶことがある
(Kanamori, 1993)。以上のことより、1点の多成分歪計を用いて地震波の到来方向と震央距離を推定でき
ることがわかった。しかしながら破壊域の広がりについては、W 相の影響により到来方向の変化を見つけ
出すことが困難であることが判明した。
40
図 1.3.5(左図)浜北(HAMAKI)観測点における多成分歪計の記録。上から2つの線歪(γ1、γ2)とそれから求
められた主軸の方向(θ)を示す。(赤、緑、青、シアン)の色の違いは、線歪を求めた成分が(e1, e2, e3)、(e1, e2,
e4)、(e1, e3, e4)、(e2, e3, e4)と異なっていることを示す。(右図)観測点と震央地域の地図。観測点から震央方向
を見た方位角を書き入れてある。
1.3.5 千島列島の地震の解析
スマトラ・アンダマン地震によって、歪計のデータから震源時間関数を求める方法や、震央位置を求め
る手法が有効であることがわかった。そこで、これらの方法を 2006 年 11 月 15 日と 2007 年 1 月 13 日に
起きた千島列島近海の地震に適用してみた。2つの地震はほぼ同じ場所で起きており、前者はプレート
間の低角逆断層型の地震、後者がプレート内の正断層型の地震である。気象庁マグニチュードは各々
7.8、8.2 と後者が大きいにもかかわらず、津波の高さは前者のほうが大きくなっている。そこで、この違い
が何から来るか歪計を用いて解析した。
図 1.3.6 多成分歪計から推定した震央の位置。緑丸が解析に使用した多成分歪計の観測点を示す。矢印の
先が推定された震央位置である。参考までに USGS(アメリカ合衆国地質調査所)が決定した震央の位置を星
41
印で示す。左が 2006 年 11 月 15 日、右が 2007 年 1 月 13 日の地震の推定結果である。
まず、歪の主軸と S-P 時間から震央の位置を求めた。多成分歪計は5点設置されているので、観測点ご
とに震央の位置を推定した結果を図 1.3.6 に示す。多少ばらつきが大きいものの、だいたい良い位置に
震央が推定されていることがわかる。特に 2007 年の地震のほうが精度良く決まっている。本方法はメカニ
ズム解の推定など他のデータを用いて決定したパラメターを使用する必要がなく、単独点の歪3成分を用
いれば決定できるので、精度良い震央の推定は難しいが、地震発生直後におおまかな破壊域を推定す
る上では有効であることがわかる。
次に震源時間関数の推定を行った。メカニズム解は広帯域地震計を用いて推定したモーメント・テンソ
ル・インバージョンの結果を用いた。2006 年の地震が走向 214 度、傾斜 15 度、すべり角 92 度の低角逆
断層、2007 年の地震が走向 263 度、傾斜 40 度、すべり角-57 度の正断層を仮定した。理論波形は前解
析と同様に地球の自由振動モード(周期 35 秒以上)の足し合わせによって表現した。求められた結果を
図 1.3.7 に示す。後ろの時間は振幅が小さく信頼性が低いのでゴーストを見ている可能性があり、どこで
切るかを判断することは難しい。そこで、今回はピーク値の 20%の値を下回った時点を破壊停止時間とし
て、地震モーメントを求めたところ、地震モーメントは 2006 年の地震が 1.8×1021Nm(Mw8.1)、2007 年の地
震が 1.9×1021Nm(Mw8.1)とほぼ同程度になった。震源時間関数の形を比較すると、2006 年の地震は幾
つかのピークから成り複雑な形をしており、継続時間は 130 秒程度である。一方 2007 年の地震ピークが1
つしかない単純な形をしており、継続時間は 90 秒と前者に比べて短くなっている。つまり、2006 年の地震
のほうが震源時間関数は長周期成分に富んでいることになる。この特徴のため、気象庁マグニチュードは
2007 年の地震のほうが小さくなったものと思われる。地震モーメントの値はほぼ同じであることより、2006
年の地震に伴う津波が大きくなった理由は本解析からではわからない。可能性として、2006 年の地震は
プレート境界の地震なので、2007 年の地震に比べて破壊域の深さが浅く津波の励起が大きかったという
ことが考えられる。
図 1.3.7 体積歪計より求めた震源時間関数。黄線が観測点ごとに求めた値、赤線がそれの平均値を示す。関
数のばらつきより求めた±1σを青線で表す。左が 2006 年 11 月 15 日、右が 2007 年 1 月 13 日の地震の推定
結果である。
42
1.3.6 まとめ
長周期まで特性が伸びている歪計を用いて震央の位置や震源時間関数を推定する手法を開発し、巨
大地震に適用した。その結果、スマトラ・アンダマン地震のように観測点からかなり離れた位置で起きた地
震についてもある程度の精度を持って位置や時間関数を推定できることが可能であることが確かめられた。
震央の位置は1観測点のみのデータから推定できるので、ほぼリアルタイムで解析できることが可能であり、
津波警報に役立てることができる。また、震源時間関数を推定する手法は、現在はメカニズム解を他の解
析結果から持ってこなくてはいけないので、そこで時間がかかるが、メカニズム解さえ仮定できれば1分も
かからずに結果を出すことができるので、今後はより早くメカニズム解を推定する手法を開発し津波警報
に用いることができるレベルまで早期化を進めることを考えている。
参考文献
Ammon, C. J., C. Ji, H. K. Thio, D. Robinson, S. D. Ni, V. Hjorleifsdottir, H. Kanamori, T. Lay, S. Das,
D. Helmberger, G. Ichinose, J. Polet, and D. Wald, Rupture process of the 2004 Sumatra-Andaman
earthquake, Science 308, 1133–1139, 2005.
Dziewonski, A. M., and D. L. Anderson, Preliminary reference Earth Model, Phys. Earth Planet. Inter., 25,
297-356, 1981.
Kanamori, H., W-phase, Geophys. Res. Lett., 20, 1691-1694, 1993.
上垣内修:長周期地震計としての気象庁体積歪計の特性,日本地震学会講演予稿集 1994 年秋季大会,
A12,1994.
上垣内修,内藤宏人,山本剛靖,吉川澄夫,小久保一哉,宮岡一樹:気象庁石井式歪計の応答特性解
析,日本地震学会講演予稿集 1999年秋季大会,B72,1999.
Tsai, V. C., M. Nettles, G. Ekstro¨m, and A. M. Dziewonski, Multiple CMT source analysis of the 2004
Sumatra earthquake, Geophys. Res. Lett., 32, L17304, doi:10.1029/2005GL023813, 2005.
43
調査研究成果の発表状況(全体)
(成果発表の概要)(調整費充当領域分)
1. 原著論文(査読付き)
該当なし
2. 上記論文以外による発表
該当なし
3. 口頭発表
応募講演:4 回
4. 特許出願
該当なし
5. 受賞件数
該当なし
1. 原著論文(査読付き)
該当なし
2. 上記論文以外による発表
国内誌(国内英文誌を含む)
該当なし
国外誌
該当なし
3. 口頭発表
招待講演
該当なし
主催・応募講演
吉田康宏:「気象庁の歪計から見た 2004 年スマトラ島沖地震の破壊過程」,北海道大学,2005年度地
震学会秋季大会,2005.10.21.
Yoshida, Y. and H. Ito, "The rupture process of 2004 Sumatra-Andaman earthquake viewing from the
data obtained by the strainmeters of JMA, Singapore Suntec International Convention Centre, AOGS 3rd
Annual Meeting, 2006.07.13.
吉田康宏:「歪計で見た千島列島の地震」,幕張メッセ,日本地球惑星科学連合 2007 年大会,
2007.05.22.
Yoshida, Y., Kuril Island earthquakes viewing from strainmeters, Queen Sirikit National Convention
Center, Bangkok, AOGS 4th Annual Meeting, 2007.08.04.
4. 特許出願
44
該当なし
5. 受賞件数
該当なし
5. その他の主な情報発信(一般公開のセミナー、展示会、著書、Wwb等)
該当なし
45
1.4 巨大地震前後の地震活動の解析と応力状態の評価
1.4.1 地震発生前の地震発生数の変化 1)
1973 年以降の地震発生数を調べると,2000 年頃を境に発生数の増加が認められる.地震の群発性を
考慮した解析(ETAS)と,余震を除去した
震源表を用いた解析でほぼ同じ結果を
得た.従って,この解析結果の信頼性は
高い.
図1上 ETAS の手法により,地震回数
の変化を調べた.2002 年のなかばに地
震発生数の増加を検出する.
図1下 余震を除去した震源表におい
ても 2002 年なかばを境に地震数の増加が認められる.
1.4.2 地震前の平均地震規模の変化
地震規模の変化を調べ,スマトラ地震発生前十数年間はそれ以前に比べ規模の大きい地震が発
生しているとの結果を得た.ブートストラップ法により,統計的有意性について検討した.
図2a :地震規模の時間変化を表す.全期間の平均M
からの偏差値を地震発生毎に積算した図である.右上
がりの傾向は大規模な地震の頻発を表す.
ブートストラップ法により,それぞれの値の出現割合
を調べ,影の濃淡で表す.最も濃い領域は,下 10%よ
り大きく,上 10%より小さい値の範囲である.同様に,5%,
1%の範囲が順に淡い影で表示されている.
46
図2b :余震を除去した震源表により,地震規模の
時間変化を調べる.2000 年以降の急激な右上がり
は,大規模な地震の頻発を表す.
1.4.1 の結果とともに,スマトラ地震発生前における応力増加を示すと解釈できる.
1.4.3 アスペリティを特徴づけるような地震活動
バックグラウンド活動として採用したのは、 USGS 地震カタログより 1973 年以降M 5 以上の地震を抜き
出したものである。これに対して、東西 30km・時間差7日の時空間ウインドウを用いてクラスター除去を施
した結果を基礎データとする。図1は、 1973 年~1989 年の 17 年間を基準期間とし、これに対する5年間
の調査期間における地震活動度の比をカラーグラデーションで表したものである。赤は活性化を、青は静
穏化を示す。調査期間は、 1992 年 7 月~1997 年 6 月を第 1 ステージとし、これを 2 年半ずつ順次ず
らしてゆく。ただし、右端の第 4 ステージは、 2000 年 1 月~2004 年 12 月 25 日、スマトラ地震発生の
直前までとしている。スマトラ地震に向けて、全体に活性化してきたことが分かる。なお、第 3 ステージで
南端部が大きく活性化したのは、 2000 年 6 月M8.3 地震とその余震活動による。
図 2 は、第 4 ステージを拡大したものである。左図では、第 4 ステージに入って初めて活性化した領
域を楕円で囲っている。右図は、その後、実際に発生した2個のM8地震のアスペリティ(Yamanaka の
EIC 地震学ノートを参照して緑太線で囲った)を示す。5 個のアスペリティの内、北から4個が 2000 年 12
47
月M9.0 のアスペリティ、南端の1個が 2005 年 3 月M8.6 のアスペリティに相当する。左右の図を対照す
ると、実際に出現したアスペリティの位置は、事前のステージで概ね活性化していたことが分かる。これは、
アスペリティの全面破壊に到る前段階、すなわち臨界状態において、固着域の中の強度の弱い部分に
準静的滑りが発生し、その結果アスペリティへの応力集中が進行すると考えることによって説明がつく。
図 3 は、スマトラ地震発生後の第 5 ステージを示す。図2左図でもっとも南端にあった楕円は、第 5 ス
テージでもまだ未解決であったが、ここには、その後、2007 年 9 月になってM8.5 の地震が起きている。
さらに、第 5 ステージではこの部分の北側に新たな活性化域(楕円)が現れる。ここは、パダン沖の空白
域とされる場所であり、上述のように活性化が応力集中の進行を意味するとみるならば、近い将来のM8
地 震 の 発 生 が 懸 念 さ れ る
。
図2左
図2右
1.4.4 その他特徴的な応力パターン
2004 年スマトラ沖地震を中心とする地震活動の時間・空間・規模分布の特徴とそのテクトニックな意味
の解明に焦点を当てて論じる.
2004 年スマトラ沖地震の震央から例えば半径 5000km 以内の M≧7.5 の M-t 図,累積度数,各地震の
距離と方位の時間分布を調べると,1960 年代~1980 年代の比較的安定な低活動期に対し,1990 年代
初めから 2004 年スマトラ沖地震前まで,クラスター的また加速的増加傾向がみられた.特にプレート境界
付近の活動域とともに,2004 年地震周辺の比較的近距離や海陸プレート内に稀な地震が出現した.
2000 年前後の活発な時期は,例えば 2000/6/4 M7.9(スマトラ),2000/6/18M7.9(インド洋),2001/1/26
M7.7(インド西部),2001/11/14M7.8(中国・青海)が発生している.
一方,プレート境界に沿って分割したブロック毎の地震活動から,特にインド-ヒマラヤ-チベット衝突帯
は,顕著な静穏期・活動期の周期性がみられる(図の C 領域の M-t 図).またブロック毎のマグニチュード
度数分布のうち,2004 年スマトラ沖地震を含む B 領域は,その発生前の最大の地震は M8.5(1938/2/1),
2 番目は M8.3(1977/8/19)で,その分布形は M の大きな範囲で凸形であったが,2004 年スマトラ沖地震
M9.3 とその後の M8.6 等を含めると全体に Gutenberg-Richter 分布則に近く,よりフラクタル的な特徴を
持つ(図の B 領域の度数分布).一方,C 領域の M0.1 毎の度数分布では,M7.4 や M7.9 とその前後の
M 範囲で度数の不足が目立っている.非平衡開放系としてプレート内地震も本来フラクタル的と考えると,
規模分布の不足分の M が今後の地震で埋め合わされることも考えられる.
48
上記のような 2004 年スマトラ沖地震前の広域活動は,大規模変動に至る応力場の臨界的広域変化と
プレート境界付近の強度低下を示唆する.さらに 2004 年地震による広範囲・大規模プレート相対運動に
より,北側の衝突帯ではテクトニック荷重と応力の再配分とともに,その下のアセノスフェアの擾乱,流体
移動によって大陸プレートの強度が低下し,地殻活動が組織的に活発化することも考えられる.
図の説明 2004 スマトラ沖地震周辺の 1900 年 1 月~2007 年 6 月の M≧7.5 の浅い地震の震央分布と3
領域 A,B,C の M-t 図,および M の規模分布(M0.1 毎と累積度数).領域 C の M-t 図は,1902~1957
年は 24 個,1958~1996 年は 0 個,1997 年~2007 年6月は4個と顕著な周期性を示す.最近の地震に
2005/10/8 Mw7.6 (パキスタン)が含まれる.領域 C の規模分布では,M7.4 と M7.9 と前後の度数が相対
的に少ない
49
1. 原著論文(査読付き)
1)IMOTO, M. and N. YAMAMOTO:「Premonitory changes in seismicity prior to the Great
Sumatra-Andaman earthquake of December 26, 2004」,Earth, Planets and Space, 60,(2008)in print
2. 上記論文以外による発表
国内誌(国内英文誌を含む)
該当なし
3. 口頭発表
招待講演
松村正三:スマトラ地震系列(2004 年M9.0、2005 年M8.6、2007 年M8.5)に先行する地震活動変化
幕張メッセ,日本地球惑星科学連合 2008 年大会,2008 年5月29日
主催・応募講演
Noguchi, S., 2007, Long-term Seismicity Trend along the Subduction and Collision Zones in Eastern
Eurasia Associated with the 2004 Great Sumatra Earthquake, AOGS 4th Annual Meeting 2007,
Bangkok, SE19-A0012.
野口伸一:2004 年スマトラ沖地震 Mw9.3 とユーラシア南東部沈み込み・衝突境界域の地震活動.
仙台国際センター,日本地震学会 2007 年秋季大会
50
1.5 インド洋周辺国家の津波の検潮記録の系統的収集
1.5.1 検潮記録の収集
1.5.1.1. インド洋で発生した地震
インド洋では、1900 年以降 15 の津波を伴う地震が発生している(図 1)。
図1
1.5.1.2 各国の状況
1)タイ
タイ国 Andaman Sea 沿岸には、8 箇所の検潮所が 2 つの機関により設置されている(図 2)。2004 年インド
洋津波の来襲時には Ao Tap Lamu を除く 7 つの検潮所が稼働していた(Tsuji et al., 2006)。今回の調査
により,Thai Marine Department が運用している検潮所における,2004 年インド洋津波、2002 年津波の記
録コピーを入手した。2002 年のイベントは、2002 年 9 月 13 日、22 時 28 分 29.46 秒(USGS による)に発
生した Ms6.7 の地震で発生メカニズムから逆断層タイプの地震である。
Ranong 1977-
図 2 タ イ 国 Andaman
Kuraburi 1999-
Sea 沿岸の検潮所。地
Ao Tap Lamu
1986-
点ならびに運用開始年
Krabi 1981-
Ta Phao Noi
1940-
を示している。
Kantang 1969-
2)インドネシア
Ta Ru Tao
1986-
TamaLang 1981-
インドネシアの検潮
所はここ2,3年のうち
に急速に整備され、
▲ Marine Dept.
▲ Royal Thai Navy
に BAKOSUTANAL 所管の検潮所がある(図4)。
51
2006 年 3 月現在 53 点
図4.インドネシアの検潮所配置図(2006 年 3 月時点)
現地で入手したものはデジタルデータのみで、アナログデータは後日郵送されてきた。津波の記録が
あるのは、6 事例、11 データに限定される。このうち、インド洋に面した海域で起きたものは、2004 年の 2
例のみである。
図 5 津波記録が得られ
た検潮所の位置と、津波
発生年
赤丸は検潮所の位置、青
星印は 5 個の地震の震源
の地図上の位置を発生
年とともに示した。
3)インド
検潮所所管機関は
Survey of India(SOI)であ
り、 National Institute of Oceanography(NIO) は、一部その運営にかかわっている。連続記録は 1940 年
からあるが、インドのゴアにある National Institute of Oceanography(NIO)を訪問し、津波検潮記録の調査
を行った。NIO は Mormugao(ゴア近傍)の記録以外は Survey of India から検潮記録を入手している。
2004 年スマトラ地震による津波を記録した記録紙のコピー(Kochi, Mormugao, Visakhapatnam)を見る事
ができた。最近公開された 5 分サンプリングの津波記録の第1波の波高は記録紙に残された生データと
整合的である事が確認された。
52
4)オーストラリア
過去の津波に関して、オーストラリア DPI(Department of Planning & Infrastructure)から検潮記録を収集し
た.津波記録としては 1977 年のものしか手に入らなかった。また,オーストラリアの東半分の検潮記録を
管轄する NTF(National Tidal Facility)における過去及び現在の検潮記録の保存状況を調べた。
図6
オーストラリア西部にお
ける検潮観測.
1.5.1.3 まとめ
インド洋周辺国における津波検潮記録の系統的収集は,各国の個別の事情により当初予定を達成で
きなかった.各国の事情は以下のとおりである.
タイの HDRTN は 1940 から記録をとっているが、データの整理が良くない。また,
Marine
Department は記録の整理は良いが過去の津波記録は収集できなかった。検潮儀の導水管の構造や地
域的問題(水深が浅い)などがその原因と考えられる。
インドネシアにおいては,1996 年以後の地震について記録が残されている.
オーストラリアの DPI では,1960 年代から検潮記録が残されている.津波観測が目的外であることや,
過去のアナログ記録をデジタイズした際にオリジナルが行方不明になるなど、収集できたのは 1977 年と
1994 年の記録である。
インドでは 1940 年から連続記録があるが、管轄官庁である SOI が研究者レベルへの記録提供を行わ
ないため、記録の収集は困難である。
今後は、インドの記録の公開、オーストラリアの記録の発掘により 1940 年まではさかのぼれる可能性は
残る。
1.5.2 地震規模、震源位置と津波の関係調査
スンダ海溝の近く小スンダ列島南部で 1977 年 8 月 19 日に発生した地震による津波をオーストラリアの
二カ所の検潮所で記録した.
53
Broome
Wyndham
Port Headland
Dampier
Hampton Harbour
Geraldton
Barrack Street
左 図 は , 二 カ 所 の 検 潮 所 ,Hampton Habour と
Bunbury
Dampier の位置をしめす.また,1977 年スンバ地震の
Busselton
震央を黄色星印で示す.
Albany
Esperance
左図は Dampier(左)と Hampton(右)にお
Hampton
ける検潮観測記録(上)と計算で得られた理
2
1
1.5
0.8
論波形(下)である.両者の比較からすべり量
1
0.6
は3mと推定された。
E lev ation, m
E levation, m
Dampier
0.5
0.4
0.2
0
0
-0.5
16
17
18
19
Time, hour
20
21
-0.2
11
13
15
17
19 21 23
Time, hour
25
27
29
この地震は、幅 70km 全長 200km の広がり
で走向 270 度傾斜角 45 度の断層面をもつ,すべり角-70 度の逆断層型地震と考えられている.
この断層モデルを用いて津波波形を計算し,二カ所の津波記録と比較した.比較により、断層す
べり量は 3m と見積もられた.地震モーメントは 1.7x1021Nm(Mw=8.1)と見積もられ,長周期波形
や自由振動に基づく見積りと一致する.
54
2.1 地震・津波防災における社会・文化的ファクターの分析と人材育成
2.1.1 本研究グループの目標は、「地震・津波防災における社会・文化的ファクターの分析と人材育成」
にあった。そのため、「分析」に関しては、日本の地震・津波の深刻な被害に会い、被害からの復興経
験や、その後の防災体制を築いてきた市町村で調査を行った。また、インド洋諸国(インドネシア、スリ
ランカ、インド、タイ)において、被害の実態・復興過程・次に備えた防災体制についての調査を、中央
政府レベル、地方自治体レベル、および漁村地域で行った。
そして、日本の地震・津波防災体制の分析をまとめたものを日本語と英語でつくって、インターネット・
ホームページに掲載するとともに、インドネシア、スリランカ、インド、タイ各国の(今回は中心的には)津
波被害の実態・復興過程・次に備えた防災体制についての調査・分析をまとめたもの、および日本の
防災経験・防災体制を紹介しつつ各国の被害の経験と合わせて、現地での人材養成に役立つような
教材を英語でつくって、インターネット・ホームページに掲載するとともに、CD 化して、関係者に配布し
た。また、復興過程および防災体制づくりにおける女性の役割についても教材を作成した(5 月 30 日
の提出までに未稿分作成予定)。
調査研究成果の内容について、以下に記す。
2.1.2 日本の地震・津波防災体制の分析とインド洋諸国への移転可能性について
2.1.2.1 地震・津波大国日本では、メカニズムの解明が大幅に進んでいる。途上国で見聞した疑問に答え
る。
(a) 世界の地震帯の地図。
(b) GPS のメカニズムと必要性。
(c) 海底地震が津波になるメカニズム。
(d) なぜ 700~800km/時とかの速さになるのか?
(e) なぜ津波の破壊力は大きいのか?波との差。
(f) なぜ一度の地震で何度も襲ってくるのか?
(g) なぜ津波は来襲前に海の水が引くのか?一部の津波は来襲前に海が引かないのはなぜか?
2.1.2.2 日本では防災体制には、情報普及、物理的・行政的・社会的インフラが整っている必要がある。そ
の鍵となるのは行政の普段からの活動レベルである。物理的インフラでは、
(h) 防潮堤設置(静岡市で 2m、沼津市で 7m、尾鷲市でなし=避難のソフトに依存)。防潮堤設置に
ついては予算がかかるので、途上国では困難であるが、行政の手でコミュニティに至るまでの連
絡網が整備されていることが大きな特徴である。
(i) 市町村役場の防災課への情報集中体制を支える地震・津波情報キャッチ IT システム、防災課
から関係各機関や各コミュニティとの無線連絡システム。
(j) 通報システム・サイレンや各集落の情報伝達スピーカー設置などが整っている。
(k) ところによっては(奥尻町、尾鷲市)役場からラジオが支給され、大きな効果をあげている。このラ
ジオは毎日役場からのお知らせに使われ、音量は操作できるが、津波緊急通報のときなどは自
動的に最大音量で通報されるようになっている。
(l) 早期警戒態勢と末端への周知体制:気象衛星から全国 1200 カ所(20km 毎に設置)の GPS(全
地球測位システム)によって、地震は 2-3 分以内にテレビにその震度が表示され、避難するか
55
どうかの判断材料に供されている。ちなみに日本の面積の 1.3 倍の面積を持つインドネシアのス
マトラ島には 4 カ所しかなく、うち 1 カ所は 04 年 12 月の大地震後にアチェに設置された。スマト
ラ南部は空白である。GPS 設置を促進する。
(m) 地震に対しては、建物の耐震対策を推進する一環として、補助金付で耐震診断、耐震改修(こ
れはわずかの額)を支援している。
(n) また、海岸沿いの耐震性がある高い建物については、津波の際には近隣住民が避難出来るよう、
役所が個別に契約を結んでいる。
2.1.2.3 行政的インフラでは、
(o) 1961 年に災害対策基本法が制定され、災害救助法、大規模地震対策特別処置法、被災者生
活再建支援法など多くの関連法案が作られ、特定非営利活動促進法でボランティアによる災害
救援活動を支援する体制など多くの法体系が整備されている。
(p) それらに基づいて、中央政府では防災基本計画があり、中央防災会議、その下に東海地震に
関する専門調査会など 7 つの専門調査会が機能している。
(q) また、各県、各市町村、各学校などで防災計画を作成し、防災体制を細かく整え、毎年訓練を
行うなどの行政システムが稼動している。
(r) 津波に関しては、被害者を出す経験をした地域としていない地域では、その対応に本当に大き
な開きがある。また、過去に津波被害を経験した地域の人々は、前の津波ではこうだったから今
回もこうだろうと思う傾向が強く、その経験が被害を大きくしている。奥尻では、83 年の秋田沖地
震の津波が 20 分後に来たので、93 年の地震後も 20 分ぐらいあるだろうと思って対応した人が
多かった。実際には 3~10 分で津波が来た。その結果、津波はすべて違う性質を持っているの
で前の経験には頼らない。津波は早く襲ってくることが考えられるのでとにかくすぐ逃げる。大事
なものをもってとか、家族そろってからとかを考えず、家族てんでんばらばらにでも、とにかくすぐ
逃げるということが過去の一番の教訓である。
(s) 避難体制:日本の地震・津波被害に備えている市町村では、避難場所の特定、避難経路の整
備・設定、避難先を示す各所の標識、それらを示した地図の普及、毎年の避難訓練、学校教育、
家庭での避難行動想定話し合いなどをおこなっている。市町村役場が地域防災の要になって
いることが大きな特徴である。夜間や休日でも、役場関係者が直ちに役場に駆けつけ、防災設
備と防災体制を起動させることになっている。
2.1.2.4 社会インフラ:地震・津波対策に関してコミュニティが果たすべき役割の周知と実施体制:
(t) 日本ではコミュニティが強い結束を持っており、自治会・町内会を通じて自主防災の体制を安価
につくることに成功している。
(u) 全国の市町村には公民館・コミュニティ・センター施設があるが、津波防災体制をとる市町村で
は、そこに自主防災の諸道具・医薬品や食料の備蓄を行い、自治会・町内会の共助を支える体
制が取れている。
(v) 自助、共助、公助の組み合わせのシステム化:市町村役場が地域防災の中心的な役割を果た
しているが、社会教育、ポスター、防災訓練などの場で、第一義的に重要なことは自助であり、
自分ないし各家庭で避難先を確認しておき、もって逃げるものを用意し、家の耐震を心がけ、家
56
具などを固定し、水・食料などを確保しておくという認識を普及させている。第 2 に重要なことは
隣近所のコミュニティによる助け合いであり、そのうえで行政の支援があることを、一致した社会
的共通認識にする方向性が目指されている。
(w) メディアの防災報道体制:地震・津波の状況と被害軽減策の全局面(防災の全体像、防災教育、
予報および実態報道、災害対策本部との連携、復興過程における役割)において、メディアが
緊急報道体制をとるよう体制を整えている。防災関係の番組もしばしば報道される。
2.1.2.5 地震・津波防災に関する知識・情報の普及体制:これがよく整っている。
(x) 各地の学校教育の場では毎年防災訓練が行われており、すべての若者の防災意識を高めてい
る。
(y) また県庁や市町村役場の防災関係部局のホームページを通じて、各種の防災情報が広く伝わ
るように工夫されている。
(z) 静岡県の地震防災センター、神戸市の人と未来防災センター、北海道奥尻町の津波記念館な
ど、過去の地震・津波の被害・メカニズム・防災体制を展示し、学校教育の見学用にしたり、一般
見学者の認識を高めるのも効果がある。
(aa) 地震・津波防災に関する出版活動も盛んであり、幼児用、小中学校生徒用、一般社会用、担当
者用などの各種防災関係の本が豊富に出版され、公立図書館などにも備えられている。
(bb) 諸公共機関の連係プレーがとれる体制:地震・津波後は、すみやかに緊急対策(避難、人命救
助)、応急対策(被災者の日常生活の回復)、復旧・復興対策(被災者の人生再建と被災地の再
建)が取れるように、市町村役場・消防署を中心に、病院・保健所・警察・消防団・避難場所とし
ての学校などと連係プレーができるように毎年話し合いが行われ、体制がとられている。
2.1.2.6 市町村の普段の活動レベルが防災活動レベルを規定:以上のような防災体制の整備と実施は、
その主役である市町村の普段の政府サービス活動レベルを反映しており、途上国においても、普段から
の住民サービス体制が、防災体制のレベルにも正確に反映することを認識すべきである。
2.1.2.7 防災に加えて、被害の再建・復興の基本パターンを知っておくことが有益である。
2.1.3 途上国で体制を整えるためには何が必要か
2.1.3.1 各国で復興状況に大差
(a) タイ:復興・再建はほぼ終了。その後は、防災システム構築、津波防災テキストづくり
(b) インドネシア:ほぼ 50%(5.7 万恒久住宅と 1.5 万 temporary 住宅建設。土地確保、Spatial
planning、インフラ建設になお課題。(BRR & Partners. Aceh and Nias Two Years after the
Tsunami: 2006 Progress Report. Dec.2006)
(c) インド:ほぼ 45%か。(Dr. K.M. Pariveran: UNDP sponsored Disaster Management Resource
Center, South India, Chennai)
(d) スリランカ:政府系の仏教徒シンハリ人地域=南部の復興は 90%。紛争地域東部の復興は 20~
30%。ヒンドゥー教徒タミル人の分離独立運動反乱軍 LTTE が支配する北部の復興は「情報が入
らない。」(Ministry of Finance and Planning & RADA(Reconstruction & Development Agency.
Post-Tsunami Recovery and Reconstruction. Dec. 2006)
2.1.3.2 何が復興の差をもたらしたか
一言で言えば、政府の対応能力である。経済が発展した国ほど、その経済成長を支える政府の支
57
援政策が実施されており、その結果税収も増え、社会サービス(教育、保健、住宅政策、貧困層支
援など)もより高いレベルにあり、地方政府は日常的に住民サービスを多面的に行うことに馴れてい
る。一方、経済発展レベルが低いと、地方に至るまで、政府の経済支援政策が弱く、その結果税収
も低くなるため、政府の日常的な社会サービス・レベルも低く、その反映として、津波被害復興事業
や防災体制づくりが遅々として進まないことになっている。したがって、防災体制づくりは、それだけ
が突出してよくなるようにすることは困難であり、その国のシステム全体の向上を図るなかで、防災体
制も進めていく必要がある。
2.1.3.3 途上国で必要な体制づくりの全体像
(a) 災害対策基本法および関連法案・細則
(b) 国、州、県・市レベルにおける災害難民対応国家調整部局を中心とした地域ごとの防災協議の
場の設定、防災計画、訓練の実施体制
(c) 教育文化省における全学校の防災教育・避難訓練政策とその実施方針。教材作り。
(d) 政府、気象庁など国の機関、研究機関の関係者などを結ぶネットワーク
(e) 各種の防災ホームページ(全国、州、自治体、大学・研究所の防災関係)
(f) 全国数箇所の大都市で地震・津波防災センターなどの展示
(g) 地方政府公務員、町内会、企業レベルの防災教育
(h) メディアにおける防災速報体制と防災関係番組の増加
(i) 耐震家屋構造の普及、地震避難所の普及
(j) 国民的防災教育はその中で並行して行う。
(成果発表の概要)(調整費充当領域分)
1. 原著論文(査読付き)
該当なし
2. 上記論文以外による発表
該当なし
3. 口頭発表
4. 特許出願
5. 受賞件数
招待講演:1回、主催講演: 回、応募講演:7回
該当なし
該当なし
招待講演:1回 07.9. ハワイ州防災担当者会議
2 回(2 人報告)05.12 Memorial Conference on the 2004 Giant Earthquake and Tsunami in the Indian
Ocean (東京会議)
2 回(2 人報告)07.8 バンコク会議
3 回(3 人報告)08.1 プーケット会議
5. その他の主な情報発信(一般公開のセミナー、展示会、著書、Wwb等)
題目 途上国津波対策における政府の役割
Web アドレス
http://www-new.gsid.nagoya-u.ac.jp/kimura/kimura_homepage/tsunami%20project.htm
発表年月日 2005 年 10 月から 2008 年 5 月まで順次
58
2.2 「各国の実情に応じた自助・共助・公助の減災意識向上対策の検討と実施」
(1) 研究概要
アジア防災センター(ADRC)では、平成 16 年度スマトラ島沖地震に伴うインド洋津波による被害が
甚大であったインドネシア共和国ナングロ・アチェ・ダルサラム州バンダアチェにおいて、中・長期的な
減災意識の向上対策として有効である学校における防災教育の促進を図るため、日本の防災に関す
る教材やノウハウを基にして、現地でのパイロット授業等を通じて当該国の実情に合わせた防災教育
指導マニュアルを作成し防災教育を普及させるため、平成 17 年度から平成 19 年度にかけて本調査を
実施した。
平成 17 年度の一般住民、児童等を対象としたアンケート調査においては、住民は防災意識を高め
るための方法として「学校教育のカリキュラムへの導入」を最も多く回答(46.6%)しており、児童(10-12
歳)の 92.8%が「自然災害について勉強したい」と答え、子供たちの自然災害への関心が非常に高いこ
となどから、災害の経験と教訓を後世に伝え住民・児童の防災意識向上を図るためには、学校での防
災教育の実施が最も効果的であるとの結果を得た。しかしながら、学校における防災教育の重要性の
認識が強くあるものの、バンダアチェではこれまで学校における防災教育を実施した経験がなく、教育
関係者等から学校防災教育の実施手法に関する支援要請がアジア防災センターに寄せられた。
これらのことからアジア防災センターでは、様々な自然災害に対して教育関係者、生徒をはじめとす
る学校を中心とした防災能力向上を目的として、平成 18 年度と平成 19 年度において、バンダアチェの
幼稚園から高等学校まで5段階の学校各 1 校を対象(パイロット校)として、現地のシアクアラ大学、ASB
(Arbeiter-Samariter-Bund Deutschland e.V.)、パイロット校、教育関係行政機関等の協力を得て、学校
防災教育のモデルプログラムの検討、教員の防災教育実施のための研修、総合的な防災をすすめる
観点からの学校と行政との協力の推進、さらには、学校防災教育推進のための防災教育指導マニュア
ルの作成などの学校防災教育プログラム開発を通じ、自助・共助・公助の減災意識向上対策の検討を
行った。
(2)研究成果
2.2.1 平成 17 年度の成果
2.2.1.1 調査内容
2004 年 12 月 26 日にインド洋に津波が発生した時、被害に差はあれ多くの国々が被災国となった。
最大の被災地域はインドネシアのナングロ・アチェ・ダルサラム州であった。この調査の目的は、現地
の一般住民、小学生、小学校教師、行政関係者に対して同地の津波被害に関する体験および意見
の情報を収集することである。調査にあたっては、2,209 名に対してアンケートおよびインタビューを
実施し、被災体験および災害意識を明らかにした。
2.2.1.1.1 調査地域
インドネシア共和国ナングロ・アチェ・ダルサラム州バンダアチェ、アチェブサール
2.2.1.1.2 調査方法
以下の調査対象グループに対し、それぞれ異なる調査方法を用いてデータを収集した
調査時期:平成 17 年 10 月
・一般住民(サンプル数:1,000):インタビュー後にアンケート調査を実施
・小学生(サンプル数:1,005):インタビュー後に教師の指示に基づきアンケート調査を実施
・小学校教師(サンプル数:84):インタビュー後にアンケート調査を実施
59
・行政関係者(サンプル数:120):調査対象者に対して個別にアンケート調査を実施
調査は、津波の被災地となったバンダアチェ地区およびアチェブサール地区で行った。バンダ
アチェおよびアチェブサールの被災地域全体には 10 の小地区が含まれる。調査チームの構成は、
一般住民のインタビューを担当した 13 名の調査員、小学生を担当した 17 名の調査員、小学校教
師を担当した 13 名の調査員、行政関係者を担当した 1 名の調査員であった。調査は、開始前に
調査地区および各地区の調査件数を指定し、次に各地区に調査員を派遣して回答者に個別に
直接インタビューを実施した。
2.2.1.1.3 調査項目
・一般住民:津波発生時の反応、避難中の情報、津波に関する知識、自然災害に対する対策
・小学生:自然災害に対する意識、津波に関する知識、自然災害に関する家庭内のコミュニケ
ーション
・小学生教師:自然災害に関する学習カリキュラム、指導教材
・公務員:自然災害に関するトレーニングおよびセミナー、自然災害に対する対策、地震発生源、
情報入手の手段
図 1-1 バンダアチェ市内の被災地域の一般住民、小学生に
対するインタビュー及びアンケート調査の実施状況
2.2.1.1.4 調査のまとめ
児童(10-12 歳)に対する「自然災害について勉強したいか」という問いに対して 92.8%が「は
い」と回答し、「学校で学んだことについて家族と話し合うか」という問いに対しては 77.1%が「は
い」と回答した。
これらのことから、児童は自然災害に対する関心が高く、児童への防災教育は家族の防災知識
向上にも貢献することが考えられる。また、一般住民に対する「最も効果的な防災教訓の継承方
法は」との問いに対しては 46.6%が「学校教育カリキュラムへの防災教育の導入」と回答した。
2.2.2 平成 18 年度の成果
2.2.2.1 調査内容
平成 17 年度に実施した一般住民、学校、行政関係者への意識調査の結果、教訓を今後の被害
軽減に生かす方策として防災教育の必要性が判明した。この調査では、一般住民の 46.6%が防災意
識を高めるための方法として「学校教育のカリキュラムへの導入」と最も多く、児童(10-12 歳)も 92.8%
が「自然災害について勉強したい。」と答えているなど子供たちの自然災害への関心も非常に高いこ
とがわかった。
60
この調査結果に基づき、アジア防災センターでは、幼稚園から高等学校までの学校教育において
防災教育を現地のシアクアラ大学の協力を得て推進することとした。しかし、学校における防災教育
の重要性の認識が高まっているものの、バンダアチェではこれまで防災教育を実施した経験がなく、
関係者から防災教育の実施手法に関する支援の要請があり、文部科学省の支援を得て防災教育プ
ロジェクト調査を実施した。
2.2.2.1.1 調査地域
インドネシア共和国ナングロ・アチェ・ダルサラム州バンダアチェ
2.2.2.1.2 調査項目
ア 資料の収集
・既存資料や教材の収集・分析
イ ワークショップの開催
・パイロット授業を実施する教員(トレーナー)対象とした自然災害に関する基礎知識及び防災
教育の教授法に関する2日間のワークショップの開催(幼稚園、小学校低学年・高学年、中学
校、高等学校の 5 レベル、各 2 名)
ウ パイロット授業の実施
・ワークショップで訓練を受けた教師(10 名)及び学生ボランティアによる各レベル(5クラス)での
パイロット授業の実施
エ 評価会の開催
・パイロット授業の評価を行い、その成果に基づく教員用防災教育指導マニュアル案の検討
2.2.2.2 調査結果
2.2.2.2.1 ワークショップの実施・評価
ア 実施内容
日程:2007 年 1 月 26 日(金)~27 日(土):2日間
場所:シアクアラ大学セミナールーム
目的:パイロット授業を行う教員が自
然災害に関する基礎知識及び
防災教育の教授法に関する技
能を取得すること
参加者:
・研修教師10名(幼稚園、小学校
低学年・高学年、中学校、高等学
校の5レベル×各2名)
・講師6名(シアクアラ大学、ASB、
ADRC)・オブザーバー20名(研
究者、教員、教師、赤十字社、
図 2-1 講義「日本の防災教育」
NGO、大学生)
・ 主 催 者 4 名 ( YJM 、 ADRC )
YJM=Yayasan Jambo Minda「ジャ
61
図 2-2 グループ作業
ンボミンダ財団」(現地パートナー)
内容:
・インドネシアの自然災害、インドネシアの防災システム
・日本の防災教育(“兵庫の新たな防災教育”)
・インドネシアの防災教育事例及び避難訓練
・部門別パイロット授業「指導案」の作成
・成果発表と講評
イ 評価
バンダアチェでの防災教育研修は初めての経験とのことで、参加した教員は、非常に熱心に
取り組んでいた。課題としては、災害時の避難に関する知識の充実があげられた。
2.2.2.2.2 パイロット授業の実施・評価
ア 実施内容
ワークショップで作成した部門別パイロット授業指導案を基に、下記のとおり、バンダアチェの
4 校(園)5 クラスで防災教育のパイロット授業及び避難訓練を行った。
・2 月 27 日(木):SMPN 16 Banda Aceh 中学校(クラス生徒数約 20 名)
・2 月 28 日(金):TK Putik Meulu Lambhuk 幼稚園(クラス生徒数約 50 名)
・3 月 1 日(土):SDN 24 Banda Aceh 小学校低学年・高学年(クラス生徒数各 40 名)
・3 月 3 日(月):MAN Rukoh Darussalam 高校(クラス生徒数約 40 名)
図 2-3 幼稚園(1)
図 2-4 幼稚園(2)
イ 評価
・幼稚園:避難訓練経験あり、楽しんで受講。防災教育は親の積極的参加が重要
・小学校:熱心に講義を聴く。低学年・高学年とも避難指導方法が一部不適切
・中学校:地震発生メカニズム等教師の説明力不足。避難指導方法が一部不適切
・高等学校:教師の説明力不足。防災マップ作成など高水準の講義を実施
62
図 2-8 高等学校
図 2-7 中学校
2.2.2.3 調査のまとめ
平成 18 年度の調査においては、2 日間の教員研修及び研修を受けた教員によるパイロット授業を
行い、その結果を反映して「防災教育指導の手引き」を作成した。教員は熱意を持って授業を行い、
また児童・生徒も熱心に授業や訓練を受けていた。
今後の課題として、防災教育の知識や手法に関するセミナー等の教員研修の充実による教員能
力のさらなる向上が求められるとともに、参加者及び教育関係者は、防災に関する知識をより一層充
実させた防災に関する資料の必要性を訴えた。
2.2.3. 平成 19 年度の成果
2.2.3.1 調査内容
平成 19 年度においては、平成 18 年度に作成した「防災教育指導の手引き」の内容を活用し、学
校教員及び教育関係者と対象とした防災教育の知識や手法に関するセミナーを実施した。さらに、
防災教育の知識・経験の少ない教員でも活用することができるように、地球物理学に関する内容の
追加などさらなる防災に関する知識を充実させた「教員用の防災教育指導マニュアル」を作成し印
刷及び頒布を行った。
2.2.3.1.1 調査地域
インドネシア共和国ナングロ・アチェ・ダルサラム州バンダアチェ
2.2.3.2 調査結果
2.2.3.2.1 セミナーの開催
ア 実施内容
日程:平成 19 年 7 月 28 日(土)
場所:シアクアラ大学多目的室
参加者:教員 40 人(パイロット教員 10 人、その他5レベルの教員)
63
教育関係者 15 人(教育省、大学生、NGO 等)
講師 5 人(アジア防災センター、シアクアラ大学、 ASB)
内容:
・学校防災教育の重要性についての講義
・パイロット授業のレビュー:パイロット授業を実施した各5レベルの教員から、パイロット授業
の内容、結果等についてのプレゼンテーションを行い、セミナー参加者全員で経験を共有
化するとともに授業の課題、問題点について議論した。
・防災教育指導マニュアル(案)説明、防災教育についての講義
・各レベル別で防災教育指導マニュアル(案)討議、発表:バンダアチェの実情に合わせた防
災教育指導マニュアルの作成に反映させるため、教育現場で真に求められている学校防
災教育を効果的に実施するためのマニュアルの内容について検討を行った。
図 3-2 マニュアル(案)発表
図 3-1 マニュアル(案)討議
出席者の主な意見:
[幼稚園教員]
・津波に関する話は紙芝居を使った方法が非常に有効である
・避難訓練には両親の助けなどがあればより良い
[小学校低学年教員]
・防災教育指導マニュアルでは地震や津波を説明するためにもっとイラストが欲しい
・防災授業では、子供達の作文を用いた発表会などが有効
・絵日記を用いて表現力を養うことも重要である
[小学校高学年教員]
・津波だけに特化するのではなく他の災害についても認識を深める必要がある
・子供達へのQ&A方式の授業も有効ではないか
・避難訓練などではヘルメットなども常備して活用した方が良い
・小さいグループ単位で生徒を分けて意見を交換したい
[中学校教員]
・津波以外の災害についても正確な教育が必要
・定期的に避難訓練は行うべき
・けが人や犠牲者を減らすためのインドネシア独自の工夫が必要
64
[高等学校教員]
・洪水についてもっと情報が欲しい
・災害後のフォローについてもっと情報が欲しい
・避難訓練の重要さについては理解できた
イ 評価
パイロットクラス教員を除くと出席者の多くが防災に関するセミナーは初めての経験であった
が、率直な質問や多くの意見交換が活発に行われ、学校防災教育の重要性の認識を共有する
とともに、防災教育に関する知識や手法に習得に積極的に取り組んでいた。
また、防災教育指導マニュアルの内容については、防災授業進行のための手引きにとどまら
す、地震、津波の発生メカニズム等に関する記述の充実が改めて強く求められた。
2.2.3.2.2. 防災教育指導マニュアル検討会議の開催
これまでの取組を踏まえ作成した防災教
育指導マニュアル(案)の内容について関係
者が一堂に会して検討を行い、さらなる内
容の充実に努めた。
ア 実施内容
日程:平成 19 年 10 月 20 日(土)
場所:シアクアラ大学セミナー室
参加者:パイロット教員10人、
講師7人(アジア防災センター、シアクア
図 3-3 マニュアル検討会議
ラ大学)
内容:出席者からは、具体的な避難方法の解説の充実、防災教育の経験の少ない教員でも効
果的な授業を行えるよう、各レベルの授業実施内容を想定した具体的なタイムテーブル
の追加などが提案され、さらに改稿を行うこととし
た。
2.2.3.2.3 防災教育指導マニュアルの印刷・頒布
7月のセミナー及び10月の防災教育指導マニュアル検
討会議での取組を踏まえて改稿を重ね、バンダアチェの
実情に応じた教員用の防災教育指導マニュアルを作成し、
1,500 部を印刷した。
頒布にあたっては、関係者の意向を踏まえ、パイロット
校を含むバンダアチェの学校 42 校、行政関係 5 機関、シ
アクアラ大学等 8 機関の計 55 の機関に 1,500 部の防災教
育指導マニュアルを頒布し、3年間に渡った津波被災国
児童向け防災教育プログラムを完了した。
図 3-4 防災教育指導マニュアル
2.2.3.3 調査のまとめ
これまでの3年間の取組成果を踏まえ、今後の活動の課題としては次の点が挙げられる。
・継続した防災教育活動の推進のためには対象国の教育行政、防災行政施策等の実情を踏まえ、
必要に応じて行政関係者の参加を検討
65
・教員の防災に関する更なる知識向上
・児童の学習レベルに応じた児童用防災学習教材の開発
・地域コミュニティレベルでの防災教育活動への展開
また、従来の防災に関する知識、技能に関する教育に加えて、人と人が支え合い助け合うなど人
としての在り方生き方に関する心の教育も防災教育の重要な要素であり、特に被災地で行うこの種
の取組には被災者の心の問題を十分考慮して進める必要がある。
(3)結語
一人一人が災害への備えの大切さを理解し、人と人とが支え合う地域社会を作っていくことが安全・
安心を支える基本であり、こうした「自助」と「共助」の考え方を身に付け進んで行動する「減災社会」の
担い手を育成することが防災教育に課せられた使命であろう。
児童への防災教育が地域住民の防災意識向上にも効果的であるというアンケート調査の結果を得
て、学校防災教育推進のため現地の教育関係者等とともに学校防災教育プロジェクトを実施し、日本
の防災に関する知見を活かしつつ、現地実情に応じた防災教育指導マニュアルを作成することができ
た。この防災指導教育マニュアルによって防災の術を身に着けたアチェの子供達が、将来、アジアの
防災の担い手となることを期待する。
本調査の実施にあたっては、バンダアチェの学校教員及びシアクアラ大学、ASB、さらに、インドネシ
ア政府、ナングロ・アチェ・ダルサラム州、バンダアチェ市の協力を得た。マニュアルの印刷にあたって
は、ASB に多大な協力を頂いた。また、現地調査はジャンボミンダ財団に実施の協力を得た。ここに関
係各位に深く感謝申し上げる。
66
調査研究成果の発表状況(全体)
(成果発表の概要)(調整費充当領域分)
1. 原著論文(査読付き)
該当なし
2. 上記論文以外による発表
該当なし
3. 口頭発表
該当なし
4. 特許出願
該当なし
5. 受賞件数
該当なし
1. 原著論文(査読付き)
2. 上記論文以外による発表
国内誌(国内英文誌を含む)
該当なし
国外誌
該当なし
3. 口頭発表
招待講演
該当なし
主催・応募講演
該当なし
4. 特許出願
該当なし
5. 受賞件数
該当なし
5. その他の主な情報発信(一般公開のセミナー、展示会、著書、Wwb等)
該当なし
67
2.3. 留学生を対象とした防災教育制度の構築
2.3.1.はじめに
現在、日本には留学生を始め多くの外国人が住んでいる。しかし子供の頃から地震や地震災害につい
て学ぶ機会の多い日本人と異なり、他の国々から来た人の多くは、必ずしも地震や地震災害について詳
しいわけではない。地震や津波に対する理解が、生死を分けることがあることは、2004年12月に発生し
たスマトラ沖巨大地震津波でも明らかになった。観光地の美しい景色だけでなく、その背景となる地球科
学的知識が、いざというときに必要となることも痛感した。
日本は防災先進国であり、その知識や教訓をアジアを含めた諸外国に伝えることは非常に重要なこと
である。そこで、平成17年度から東京大学地震研究所では留学生センターと協力して、首都圏に住む外
国の方を対象として地震と地震防災について、その仕組みから学ぶ機会を試行的に設けた。また担当者
が名古屋大学に異動した平成19年度には、名古屋大学環境学研究科と名古屋大学留学生センターの
協力のもと、名古屋大学でもセミナーを実施した。実は名古屋大学においては、阪神淡路大震災直後か
ら留学生センターの先生の尽力によって留学生に対する防災セミナーが実施されていた。名古屋大学で
はそれを発展させた形でセミナーを実施した。同時に平成19年度は東京大学においてもセミナーを継続
し、駒場・本郷の両キャンパスにおいてセミナーを実施した。
3年間のセミナーの試行を通じ、留学生にとって必要な最低限の知識を伝えるための基本的内容がか
たまり、おおむね1−2時間程度にセミナーで利用できる教材を作り上げた。このような留学生を対象とした
地震防災セミナーは本来は留学生をかかえるすべての大学で実施すべきであるが、実際に実施している
大学はごく招集にとどまる。しかしながら、地震学・地震防災にかかわる教員は多くの大学に在籍しており、
基本的ノウハウさえあればほとんどの大学で実施できるものである。
また留学生が得た知識と体験および防災意識は、母国に帰っても役に立つものであり、ひいては留学
生の母国に防災レベルの向上に役立つものと考える。
本報告書では、3年間の試行で得た基本的なノウハウを示すこととする。
2.3.2.各年度の実施内容の概要
留学生のための地震防災セミナーおよびそのセミナーを通じてどのような研修内容が必要かを探った。
各年度に実施した内容について概要を説明する。
2.3.2.1.平成17年度
平成17年度は、東京大学地震研究所において、東京大学留学生センターの協力を得、日本語のコー
スおよび英語のコースを実施した。実施内容は
1)地震と津波に関する基礎知識
2)建物の耐震性に関する基礎知識
3)地震発生時の対応に関する基礎知識
4)首都圏の地震
1)および2)において地震や津波のしくみと地震が災害となる最大の原因である建物の耐震性につい
68
て講義を行った。また3)においては地震発生の際の行動について講義を実施した。さらに地震の発生と
災害には地域性があるため、首都圏における地震と災害についての講義を実施した。
英語および日本語のコースそれぞれについて、2日をかけて実施した。英語については 10 月 22 日
(土曜日)および 29 日(土曜日)、日本語については 11 月 12 日(土曜日)および 19 日(土曜日)に実施
した。
講師は以下の通り
10 月 22 日 英語
1)今村文彦(東北大学工学研究科)
2)壁谷澤寿海(東京大学地震研究所)
10 月 29 日 英語
3)木村宏恒(名古屋大学国際開発研究科)
4)岡田義光(防災科学技術研究所)
11 月 12 日 日本語
1)山岡耕春(東京大学地震研究所)
2)武村雅之(鹿島建設株式会社)
11 月 19 日 日本語
3)木村怜欧(名古屋大学災害対策室)
4)古村孝志(東京大学地震研究所)
2.3.2.2.平成18年度
平成18年度は、2日間に分けることが受講生にとっても負担となるという反省から、英語コース、日本語
コースともに1日に短縮した。講習内容も短縮した。講習内容は以下の通り。
1)地震や津波のしくみ
2)地震に強い建物と首都圏の地震
3)地震に対する備え
平成17年度と比べて、建物と首都圏の地震の話を一緒にしたところが異なる。地震と津波のしくみにつ
いては、しくみを知ることが防災対策行動の基礎となることから平成17年度と同じ内容とした。
平成18年度の講師は以下の通りである。
10 月 14 日(土曜日)日本語
1)古村孝志(東京大学地震研究所)
2)武村雅之(鹿島建設株式会社)
3)木村怜欧(名古屋大学災害対策室)
10 月 21 日(土曜日)英語
1)岡田義光(防災科学技術研究所)
2)ムリョ・ハリス・プラドノ(京都大学工学研究科)
3)山岡耕春(東京大学地震研究所)
2.3.2.3.平成19年度
69
平成17年度および18年度の2カ年を通じ、セミナーとして扱うべき内容と教材がはっきりしてきた。また
平成19年度には担当者が名古屋大学に異動し、担当機関も変更となった。そこで、平成19年度は、平
成18年度までの実績を元に、名古屋大学および東京大学において、今後長期にわたり、無理なく実行
可能なセミナーの方法を模索した。
名古屋大学および東京大学留学生センターとの議論の結果、セミナーのカバーする範囲は維持しなが
らも内容を基礎的な項目に絞り、1時間半から2時間程度のセミナーでできる教材とした。名古屋大学に
おいては、前期・後期に1回ずつ実施した。東京大学では駒場及び本郷キャンパスで1回ずつ実施した。
いずれも複数の言語で同時に講義を行った。名古屋大学および東京大学駒場キャンパスにおいては、
日本語で講義をして英語の逐語訳を行った。東京大学本郷キャンパスにおいては、日本語での講義を、
英語・中国語・韓国語に同時に通訳をした。この場合、講義室内に、それぞれの言語毎の「島」をつくって
受講生に集まってもらい、「島」の中央部で小声で同時通訳を行った。また東京大学においては、地域の
ボランティア団体である文京多言語ネットワークの協力を得て、地震時のへの備えに関する講義と、通訳
を実施した。
講義の内容は、名古屋大学、東京大学とも地震と津波のしくみ、および災害軽減と地震時の対応であり、
教材についてはできるだけ共通化した。
また、本科学技術振興調整費の他のテーマと連携し、日本における災害教訓の中でアジアに伝えるべ
きものに関する議論も行った。それぞれのテーマに関する報告は、各課題の報告に含まれているが、日
本が明治以来どのように地震学を発展させてきたかを知ることも非常に重要と考えた。そのため東京大学
特任助教の金凡性さんに講演をしてもらった。
また、1月にタイのプーケットで実施したシンポジウム後のエクスカーションでインタビューをしたカオラッ
クのホテル経営者が災害復興に関する重要なコメントを発していた。観光地の復興は観光産業の復興で
あり、そのためには観光客の数が戻ることであるということであった。日本の観光客の戻りが悪いとの指摘
があり、日本国民全体での復興への貢献が必ずしもできていないことがわかった。
2.3.3.留学生のための地震防災セミナーに用いることのできる教材について
2.3.3.1.最終的にまとまったパワーポイントファイル(平成19年度に使用)
平成19年度に使用した、パワーポイントファイルをまとめたものを以下に掲載する(図2.3.1,
a-g)。
前半は地震のしくみの話から始まる。日本に来る留学生の過半数は、自身を体験していない学生であ
る。そのため、まず地震とは何か、という点からスタートする必要がある。地震とは何かを知るためには、
「地震は地下の岩盤がずれることにより発生する」という論理的な面と、「地震によるゆれ」はこのようなもの
である、という感覚的な面の両面からスタートする。特に後者としては、平成7年標語県南部地震の際にコ
ンビニエンスストアで撮影された防犯ビデオの映像が最も役にたつ。おそらく地震体験車の体験に匹敵
するか、それ以上の効果がある。地震時にレジカウンターが大きく揺れる様子が映し出され、受講者の目
が釘付けになるのがわかる。その他、できるだけ映像を多用するのが良い。
また、地震にはP波とS波があり、最初に小刻みな揺れがあり、その後に大きな揺れがあることを知っても
らう。また余震は徐々に減少していくという性質があり、本震より大きな余震は希であることも、実際に地震
に遭遇したときに役立つ重要な知識であり、講義の中に入れている。
70
一方、留学生にとって最も知りたいことは、自分の住んでいる家・場所が地震の際に安全かどうかという
点である。個々の質問に対応することは難しいが、一般論として日本では 1981 年以降に建てられた建物
の耐震性が高いこと、それに地盤によって同じ地震でも揺れの大きさに違いがあることを知っておく必要
がある。そのために名古屋や東京の地形図を用意した。
実際に地震が発生したときにそなえて、どのような準備をしておくかも大事なことである。特に室内の家
具・本棚が地震の際にも倒れないようにすることを教えることは重要である。そのために、過去の地震によ
って、部屋の中が散乱している写真を見せると目を丸くする。さらに、留学生にとっても、まず頼りにすべ
き人たちは近所の人たちであり、できるだけ普段から交流を図っておくことの大事さを神戸の例から知ら
せておく。
このような地震に備えての事例の他、最近日本で実用化された緊急地震速報についても基礎知識を持
ってもらうことが重要である。そのためには、緊急地震速報とは何か、また緊急地震速報に用いられる共
通のチャイム音についても知っておく必要がある。東海地震の予知に関する情報の発せられ方について
も知っておく必要がある。
このような話を1時間半程度でするのは非常に大変であるが、詳しく話すための長時間のセミナーにす
ると、かえって参加しにくくなり逆効果になる。またできるだけ質問の時間を多めに確保するように心がけ
ると良い。日本人学生と異なり、留学生は積極的に質問する傾向が強い。
71
図2.3.1a: 1−2時間のセミナーに使用するためのパワーポイントファイルのイメージ。
72
図2.3.1b: 1−2時間のセミナーに使用するためのパワーポイントファイルのイメージ。(つづき)
73
図2.3.1c: 1−2時間のセミナーに使用するためのパワーポイントファイルのイメージ(つづき)。
74
図2.3.1d: 1−2時間のセミナーに使用するためのパワーポイントファイルのイメージ(つづき)。
75
図2.3.1e: 1−2時間のセミナーに使用するためのパワーポイントファイルのイメージ(つづき)。
76
図2.3.1f: 1−2時間のセミナーに使用するためのパワーポイントファイルのイメージ(つづき)。
77
図2.3.1g: 1−2時間のセミナーに使用するためのパワーポイントファイルのイメージ(つづき)。
78
2.3.3.2.明治以来の日本の地震防災
明治以来、日本は地震防災のために継続的な努力を積み重ねてきた。それは 1891 年に発生した濃尾
地震を契機として発足した震災予防調査会である。この震災予防調査会の運営には大森房吉が大きく貢
献している。大森房吉は当時の世界の地震学の権威としての地位を確立し、日本においても地震防災の
基礎を気づいた重要な人物であった。当時の日本の科学が西欧中心の考え方であったことに対し、地震
学がなぜ日本がその中心たり得たかにつて、最近金凡性氏によって科学史的に研究がなされ、一冊の
本にまとめられた。(金凡性著「明治・大正の日本の地震学」東京大学出版会)。本課題においてもその
内容が重要と考え、2007 年 10 月 16 日に東京大学地震研究所において講演を依頼した。その際に用い
られたパワーポイントファイルのうち公開可能なものについてここに掲載しておく。(図2.3.2,a-c)
講演タイトルは「明治・大正の日本の地震学 —科学史の観点から−」である。
79
図2.3.2a:「明治・大正の日本の地震学」(金凡性)による講演概要。
80
図2.3.2b:「明治・大正の日本の地震学」(金凡性)による講演概要。(つづき)
81
図2.3.2c:「明治・大正の日本の地震学」(金凡性)による講演概要。(つづき)
82
2.3.3.3.災害からの復興について —カオラックにおけるインタビュー
2008 年1月に、本科学技術振興調整費のまとめとしてプーケットで開催された国際シンポジウムの際に、
インド洋大津波で大きな被害を受けた観光地であるカオラックを訪問し、ホテルオーナー(図2.3.3)の話
を聞いた。そのお話しの中で非常に印象に残ったのは、ホテルの再建についての話である。観光地は災
害被害を受けたとしても、やはり観光でしか生活ができない。観光は観光客によって支えられていて、災
害からの復旧のあとの復興は観光客がどれだけ戻ってきてくれるかにかかっている。最初に戻ってきてく
れたのがスウェーデンの観光客であるが、日本を始めとするアジアからの客の戻りが良くない、とのことで
あった。
ここでは、ホテルオーナーの話の文字おこしをしたものを、英日併記で収録しておく。
図2.3.3:カオラックのホテルオーナ。
○インド洋大津波について、カオラックホテルのオーナーの話
(A) …and you can have any information. You can ask him what is the situation and how it has
recovered, okay? And now, acting is about 90% who booked...
(A)・・・それから、何か知りたい情報などがあれば、彼に聞いてみるといいと思います。状況とか、どうや
って復旧したかとか。現在では 90%の部屋の稼動率です。
(Interviewer) 90?
(インタビュアー) 90? 90 ですか。
(A) 90%. Please interview, and he has a speech about some information.
(A) 90%です。インタビューをお願いします。情報について彼が話します。
83
(Owner) First of all, I would like to introduce myself. You can call me Joe. I am here for 10 years.
Last 10 years, we were the first property in Khao Lak, we started with 56 rooms and then before tsunami,
we had totally 115 rooms. We are the pioneer to do the resort here. And on the 26th December 2004,
about 8 o’clock in the morning, we could feel the earthquake already, and lots of things happened here in
the hotel, but we did not know what was going to happen. So we alerted. Also, something have
happened already; like last time before at the restaurant, our house is a Thai house, made with all wood,
and the roof just moved already at the time, 2 hours before. Then about 10 o’clock in the morning,
tsunami just hit our property. Right here is the highest point of the tsunami. It is about 12 meters.
Right here, your height from the beach is about 13 meters now, at that...
(オーナー) まず自己紹介したいと思います。私のことはジョーと呼んでください。ここで 10 年間営業して
います。10 年前、弊社はカオラックでの最初のホテルとして、56 部屋でスタートしました。津波が襲う前ま
でに 115 部屋までになっていました。私たちはカオラックのリゾート開発のパイオニア的存在です。2004 年
12 月 26 日の午前8時ごろに、私たちは地震の揺れを感じました。このホテルでもいろいろなことが起きて
いましたが、状況を把握できていませんでした。私たちは、また何かが起こるのではないかと警戒しました。
レストランで揺れを感じる前に、私たちの家はタイ式の家で全て木造ですが、そこでは津波の2時間前に
既に屋根がずれて移動していました。それから午前 10 時ころに津波が私たちのホテルを襲いました。ちょ
うどここは津波の一番高いところで、だいたいビーチの海面から 12 メートルです。あなたの背の高さならビ
ーチの海面からだいたい 13 メートルになります。
(Interviewer) 13, one-three?
(インタビュアー) 13 メートルですか?
(Owner) One-three. And at the lobby right now, it is about 18 meters. Before tsunami, the highest
one was 12 meters here.
(オーナー) 13 メートルです。現在のロビーは海面からだいたい 18 メートルの高さとなっています。前の
津波の最高地点はここで、12 メートルでしたから。
At that time, 4,394 families in the Khao Lak area just got impact. 4,394 families, 19,509 people got
impact. So they got damage or some problems at the time, excluding tourists. For the information, the
space about 105.95 square kilometers got impact in this Khao Lak area. We are the most impacted by
this in the southern part of Thailand.
4,919 people died and for injury, 5,597 people, and 992 people got
lost. For the identification, still about 390 people cannot be identified yet.
当時 4394 世帯の家族がカオラック地域に暮らしいて、19509 人が津波の被害を受け、苦境に追い込ま
れました。この数に観光客は含んでいません。このカオラック地域ではおよそ 105.95 平方キロメートルが
被害を受けました。私たちの地域は、タイの南部では最も被害を受けた地域です。4919 人が死亡、5597
人が負傷、992 人が行方不明となりました。現在でも 390 人の身元確認ができていません。
At that time, people lost jobs. Business owner got lost, some still have found dead. After investment
for one-year, some still cannot get back to the business now.
84
I think about 40 owners cannot get back to
the business, cannot get any help yet, also. At that time, the donation from the government sector and
from the foreigners was about 400 million Baht in total to the people in this area.
For small business,
there are about 5,000 owners and the government helped entrepreneurs about 20,000 Baht each. For
the large and medium business players, like this property, the government helped to support for the short
loan 1% for 5 years, but we made construction for 3 years, so 2 years left.
人々は職を失い、事業主で行方不明となったり、死亡したりした人もいます。1年間の投資の後でもいま
だに営業を再開できない人たちがいます。約 40 人の事業主が仕事に戻れておらず、何の支援も受けら
れずにいるのではないかと思います。この地域の人々に対して、政府機関や外国からの寄付が全体で
400 万バーツありました。小規模の事業者はおよそ 5000 ありますが、政府はその事業者に対して各 20000
バーツ程度の支援を行いました。このホテルも当てはまるのですが、大企業や中規模の事業者に対して
は、政府は5年間1%の利率での短期貸付という支援を実施しました。私たちは建設までに3年かかった
ので、あと2年間しか残っていないのですが(笑)。
Quite difficult also, because it is about triple investment: before I invested about 100 million Baht for 115
rooms, and right now, for 154 rooms, I invested nearly 400 million Baht already, quite difficult.
I think
we can pay back maybe in 8 or 10 years from now, but I expect to have 70% all year round. It should be
quite difficult during low season like from April until September, most Asian people still scared of the ship
or boat are not coming back yet, especially from Japan, Malaysian and Singaporean also.
Nothing here,
you can come back.
それでもかなり厳しい状況です。というのは、これが約3倍の投資になったからです。私は以前 115 部屋
のために 100 万バーツを投資していました。そして現在 154 部屋に対して既に 400 万バーツ近くを投資し
ています。とても厳しい状況だといえます。多分、今から8~10 年で返済することができると思いますが、1
年を通して 70%の部屋の稼働率があることを期待します。4月から9月にかけてシーズンオフの間はかな
り難しいと思われます。アジアの国々の多くの人は、まだここへの渡航を恐れていて客足が戻ってきてい
ません。特に日本です(笑)。マレーシアやシンガポールもですけれども(笑)。もう大丈夫なので、戻って
きてほしいと思います。
And during that time, about 8,000 students got lost: some of them have no parents, no mother, no father,
or lost from the family. They get support from the King of Thailand. They have the new school. 8,000
people are in the dormitory, supported by the King.
これまでに、およそ 8000 人の学生が孤児となっています。両親を亡くした、母親または父親を亡くした、
あるいは家族からはぐれてしまった人たちです。その学生たちは、タイ国王から援助を受けています。国
王の援助で新しい学校に通うことができるようになり、8000 人が寮に入っています。
So right now the business in this area, we, about 40 hotels could get back to business, about 10,000
people and about 4,000 rooms. Before tsunami, we had about 7,000 rooms. It means 3,000 rooms
cannot get back to business yet because they still cannot get the support from the bank. Because right
now tourism industry is the main business here in Khao Lak, and let us say 100,000 people in the family
continue having support, our staff also.
If we can get back to business earlier, we can support the family
85
earlier, because right now for the fishermen, they got the problem about the gasoline, it is expense. It is
very difficult to get fish, and then coming back, they get lost. So they cannot survive at this time.
現在のこの地域のビジネスの状況としては、約 40 軒のホテルが営業を再開し、約 10000 人が仕事に戻
り、約 4000 室が稼働しています。津波が襲う前は約 7000 室だったので、3000 室がいまだに復旧できてい
ない状態です。それは銀行からの支援が受けられていないからです。現在カオラックでは観光産業が主
要産業です。約 10 万人が支援を受け続けており、私たちのスタッフもそうです。仕事に復帰するのが早い
ほど、家族を早く養うことができます。漁師にとっては、最近ガソリンが高騰しているという問題があり、漁を
するのも非常に難しく、陸に戻って途方にくれています。そういう状況なので、彼らは仕事を失っていま
す。
So, tourism industry is the main business in this area. We hope tsunami will not come back. You are
specialist, you should know when it would be. But right now, we already have about 18 warning towers in
every hotel, supported by Princess Foundation. Hopefully, we can get the right signal at the right time.
そのような理由から、観光産業がこの地域の主要産業です。津波にはもう襲われたくないものです。皆さ
ん方は専門家ですから、次はいつ来るのかご存じなのではないですか(笑)。現在では、プリンセス財団
の援助で既に 18 基の警告塔が各ホテルに建てられています。適切な合図を適切なタイミングで出しても
らえることを願います(笑)。
And right now, we get the support mostly from Europe. They come back early. After tsunami, we did
the road show to Europe, to Sweden, to Germany to see how the feedback. Do they come back to Khao
Lak? At that time, if no signal, then we would not come back.
So if everyone said, “Maybe you should
not do any business,” then we had to stop already at that time.
most are the local people, and we just sit and talk together.
survive also.
But anyway, the owners in this area,
If we do not make any business, we cannot
So, we made decision to get back to business even though survive or not survive.
Suddenly without any signal, Sweden came back, the first nation. They got the biggest impact from
tsunami, about 2 thousad people, right? But they are the first nation to come back to help for the
tourism, and Germany later.
そして今、私たちは主にヨーロッパに支えられています。彼らの戻りは早かったです。津波の後、私たち
は、ヨーロッパ各国の反応を見るためにスウェーデンやドイツなどに向けて説明を行いました。彼らはカオ
ラックに戻ってくるのかどうか。何の確証もなく、「あなたたちはもうどんなビジネスもやらない方がいい、事
業はもうやめた方がいい」と言われたら、諦めざるを得ないわけです。しかし、この地域の事業主たちはほ
とんどが地元の人たちですので、じっくり話し合いました。もし仕事をしなかったら、私たちも生きていけま
せん。それで私たちは、やっていけるかどうか確信はありませんでしたが、ビジネスを再開する決意を固め
ました。ある日突然、何の前兆もなく、スウェーデンから観光客が戻ってきました。彼らは津波から最大の
被害を受けました。約 2000 人でしたか。それでも彼らは一番早く戻ってきて観光業を助けてくれた最初の
国でした。ドイツがそれに続きました。
Hopefully, tsunami will not come back again, but I think it is a natural disaster and we cannot predict, so
we learn how to live with the natural disaster so we can survive.
86
津波はもう来ないことが一番ですが、自然が相手なだけに予測することはできません。生き残るために、
自然災害とどのように付き合っていくか学んでいかなければなりません。
So hope you enjoy the trip to Khao Lak here, and Khao Lak people welcome all of you. Even we stay
here, some part of our heart still scare of the tsunami, because we got a lot of impact. But we have to
live, we have to work, and we have to survive. Thank you for listening and hope to see you again.
それでは、カオラックの旅を楽しんでください。カオラックは皆様を歓迎いたします。私たちはここに暮ら
していますが、津波の被害は非常に大きく、依然として心の中に恐怖を抱えたままです。しかし私たちは
仕事をして、生きていかなければならないのです。ご清聴ありがとうございました。またいつかお会いしまし
ょう。
2.3.4.まとめ
留学生に対する地震等の防災教育は、防災先進国である日本ができる重要な国際貢献の一つであり、
かつ地震や地震工学の専門家を要する主要な大学において実施可能なコストのかからない事業である。
東京大学および名古屋大学における3年間の試行から、潜在的需要が多いことは確認したものの、短時
間でまとめられる教材が必要であることが明らかになった。現時点ではほとんどの大学で実施されていな
いのが現状であるが、本課題でつくりあげた内容を参考にして、多くの大学で実施されるように継続的に
努力をする必要がある。
防災対策は、一朝一夕には確立せず、地域に応じた文化的背景を考慮する必要がある。日本におい
ては明治期から始まった近代的地震防災の歴史を見直すと同時に、現時点においても地震を恐れるだ
けでなく復興とは何かという点について再考する必要があると感じた。これらの点を今後のセミナーにも活
かしていく必要がある。
(成果発表の概要)(調整費充当領域分)
1.原著論文(査読付き)
該当無し
2.上記論文以外による発
該当無し
表
3.口頭発表
招待講演:0回、主催講演:0回、応募講演4回
4.特許出願
該当無し
5.受賞件数
該当無し
Yamaoka, K., Doi, K. and Suhara, S.: Education on the earthquake disaster reduction for international
students in Japan. Memorial Conference on the 2004 Giant Earthquake and Tsunami in the Indian
Ocean, Tokyo, Dec, 14-17, 2005. Tokyo, Japan.
Yamaoka, K., Doi, K. and Suhara, S.: Education on the earthquake disaster reduction for international
students at Universities. AOGS annual meeting, July 10-14, 2005 Singapore
87
Yamaoka, K., Tusji, H. and Doi, K. Outreach and Education with Concurrent Movie ‘Sinking of Japan.’,
AOGS annual meeting August, 2007 Bangkok, Thailand
Yamaoka, K., Tanaka, K., Kato, T., Tsuji, H., Doi, K., Suhara, S., Onishi, A., Harada, M. and Miyauchi
Y.:
Education on the earthquake disaster reduction for international students at Universities.
International Symposium on the Restoration Program from Giant Earthquakes and Tsunamis, Phuket,
Thailand.
5. その他の主な情報発信(一般公開のセミナー、展示会、著書、Wwb等)
題目 留学生のための地震防災セミナー
Web アドレス
http://www.seis.nagoya-u.ac.jp/yamaoka/quake-seminar/index.html
発表年月日 2005 年 10 月から 2008 年 5 月まで順次
88
3.1 津波警報情報の認知と避難行動に関する研究
3.1.1 現地調査による主な結果
3.1.1.1 現地調査
現地で復興状況を把握しながら住民への津波警報に関するヒアリングや関係機関への調査を実施した.
特に,インドネシア,スリランカ,タイなどの主要な地域での津波情報に関するニーズ,津波災害に関する
認知をベースに,スマトラ地震時および以降での津波警報発令の実態と住民の行動を把握した.まさらに,
2005 年ニアス島地震, 2006 年ジャワ島南西沖地震津波,2006 年千島沖地震津波などの最近の被害事
例で,インド洋以外での住民認識,津波警報体制,避難体制と現状に関する調査・情報収集を実施した.
日本国は最も進んだ津波警報体制を有しているが,そこでの現状と課題を整理し,将来の警報システム
(内容と体制)の姿を検討した.
3.1.1.2 復興状況
実際に現地での復興の状況を調査する目的で主な被災地域を調査した,3 年間で復旧復興状況の把
握だけでなく,現在の課題だけでなく新しい活動・対策・取り組みを把握することも加えている.地域の復
興は進んでいるが,そこに伴う新たな課題(無秩序に街再建,下水・排水システム破壊,地盤沈下,森林
伐採,により洪水危険性の増大,建設材料・資材の深刻な不足)などの課題が見えていた.一方,住民参
加型WS,津波メモリアル(記念碑やポール)ラジオ啓蒙番組などの新しい試みも展開中であった.
3.1.1.3 津波警報発令の事例と課題
2005 年 M8.7 スマトラ沖地震・津波による情報伝達について調査を実施した.11:05 スマトラ沖地震
(M8.7),津波警報が発令された.日本の気象庁が津波監視情報を提供開始後初めての対応し,40 分後
にタイなど6カ国に情報を提供.実際には,ココス島で 10cm 程度,スリランカで 20cm 程度の津波が観測さ
れた.
表— 3.1.1 各国の津波警報発令時刻(時刻は日本時間)29 日
地震発生
午前1時 9分
日本気象庁が各国へ通報
午前1時50分
タイ
午前1時45分
マレーシア
午前2時00分
スリランカ
午前2時35分
インドネシア
午前2時40分
インド
午前3時00分
調査によって得られた状況としては,津波情報の発信体制は整いつつあるが伝達体制の整備の遅れが
目立つ.避難体制・対応の未整備(ハザードマップもない地域が多い),津波災害に対する知識・意識の
低さ(スマトラの教訓が国民に浸透していない),漁港や人口集中地域での津波被害拡大要因(脆弱性な
部分が手つかずである)
3.1.1.4 我が国での事例
2006 年 11 月 15 日および 2007 年 1 月 13 日に千島列島で発生した2回の地震により津波が発生し,
我が国へも津波が到達した.この時の津波情報,自治体での対応,住民避難の実態,津波被害などを整
理した.11 月 15 日津波では,警報解除の後に漁船転覆などの漁業被害が発生している.2回の津波は
89
いずれも千島列島沖のほぼ同じ地域で発生したイベントで,日本へ影響した津波は,通常の直接波,境
界波に加えて,散乱波(海山での反射波)の影響があったと考えられる.様々な成分が重なり合った結果,
長時間の津波継続と地震発生6時間以降に最大波が出現するなどの特異的な状況が生じたものと考え
られる.
2006 年 11 月の際には,北海道オホーツク海側で津波警報・注意報の発表経験は少なく,自治体で対
応の苦慮がみられた.道内で避難勧告・指示を出した自治体は22市町村にのぼり,対象世帯数は4万7
千世帯となった.根室市や網走支庁斜里町,湧別町は全世帯に避難勧告を出した.自治体毎に対応の
差はあってもよいが,避難指示と勧告のどちらにするかについて具体的基準はない地域が多いことは課
題である.なお,佐呂間町では,警報の対象外だったサロマ湖畔地域に避難勧告し,対象住民の実に9
2%の677人が避難したことは注目に値する.前回の津波警報の経験があったにもかかわらず,北海道
の午後9時45分現在のまとめでは,避難所に避難した人が避難対象者に占める割合(避難率)は6.6%
で,昨年11月の13.6%を下回った.昼間で海の状態が見えるという安心感に加え,「前回,何も被害が
なかったという慣れがあるのではないか」と考えられる.今回の地震津波により
z
地域での避難指示・勧告などの基準整備
z
警報解除の再検討(陸域と海域の相違)
z
津波認知バイアスの顕在化
z
情報認知と避難行動のメカニズムの解明
などが重要項目として挙げられた.
3.1.1.5 津波情報の認識システム
津波情報の内容と信頼性について,2004 年インド洋大津波後の被災地や気象庁での実態調査を実施
し,警報の精度・内容・伝達方法による認識・認知と避難行動を明らかにすることにより,有効な津波警報
システムの内容を提案する.この時,基本となる考えが図—3.1.1 であり,津波情報が各地域・各個人のリ
スク認知のバイアスを超えるものでないと,避難行動に結びつかないことが示された.限られた情報を短
時間に伝達しなければならない現状を踏まえると,リスク認知バイアスの課題は,事前の防災啓発や教育
の中で取り組む必要性がある.
図— 3.1.1 津波警報とリスク認知バイアスの関係
90
3.1.2 数値解析及び GIS データによる主な結果
GIS やグラフィックソフトを利用して結果を表示し,津波被害の予測や警報システムでの問題点と課題を
整理した. 被害の最も大きかったインドネシア・バンダアチェにおいては,当時の被害データと数値シミ
ュレーション結果の比較検討により,家屋被害及び人的被害の被害関数を求めることが出来た.この結
果を海岸工学講演会などで発表報告し,第一回の土木学会海岸工学論文賞を受賞している.
ここでは,津波観測記録,人工衛星の海面高度計の空間波形を用いて,タイ・インドネシアの津波を説
明する断層モデルを得た.スマトラ島バンダ・アチェ市街地の詳細な津波氾濫解析を行った.解析結果と
現地調査結果にはよい整合性が得られ,アチェ市街地の津波氾濫過程の再現に初めて成功した.アチ
ェ市の行政区毎の人的・家屋被害実績と数値解析結果を用いた GIS 分析により,市街地の津波浸水深と
人的・建物被害程度の関係を明らかにし,津波被害関数を構築した.これにより,アチェ市では津波浸水
深が 2m を超えると甚大な建物被害が発生し始め,4m を超えると大破に至ることが分かった.市街地に存
在していた建物の多くはコンクリートブロック造であり,松冨・首藤(1994)が調査した我が国のコンクリート
造の建物の破壊津波強度よりも脆弱な可能性が高いことが分かった.津波浸水深と人的被害の関係を求
めた結果,アチェ市の津波による人的被害は浸水深 2-3m を境に増大することが分かった(図—3.1.2 参
照).さらに,アチェ市の人口統計データを用いて,津波の氾濫過程に応じた津波影響人口の時間的推
移を求めた.その結果,津波浸水による人的被害発生のリスクに曝された住民は約 14 万人となり,これは
市全体の人口の約半数にあたることが分かった.
死亡率 (%)
人的被害大
(浸水深毎)
50000
100 (%)
40000
80 (%)
30000
60 (%)
20000
40 (%)
10000
20 (%)
0(%)
0
m
m
m
m
m
m
m
SAVED
DEAD+MISSIN
津波浸水深 (m
図-3.1.2 バンダアチェで推定された浸水深—人的被害関係
3.1.3 津波警報システム提案に関する主な結果
3.1.3.1 国際的な警報システムに関する動き
スマトラ沖地震・インド洋大津波で甚大な犠牲者を出した理由の1つに,津波警報システムの欠如が挙
げられた.太平洋においても,以下のような歴史を持つ.1960 年のチリ地震津波災害を教訓とした太平
91
洋における津波早期警戒に関する地域協力の経験を活かして,国連は,UNESCO の政府間海洋学委員
会(IOC)を中心に,国連国際防災戦略(ISDR)や世界気象機関(WMO)と連携しつつ,インド洋津波早
期警戒体制(IOTWS: Indian Ocean Tsunami Warning and Mitigation System)の構築に向けた国際調整
活動を展開している.
2005 年3月(パリ)及び同年4月(モーリシャス)には,インド洋諸国及び日本を含む関係国・機関による
国際調整会合を開催し,インド洋地域の自然的,社会的特性に応じた地域協力枠組の構築についての
検討を開始した.特に,この地域では,1つの地域センターから関係各国に一元的に情報提供するような
津波に関する技術的,社会的な環境整備,ノウハウの蓄積が十分にはなされておらず,まずは各国内の
気象部門や防災部門の能力向上が不可欠であることが確認された.また,2005 年 6 月(パリ)の
UNESCO/IOC 総 会 で は イ ン ド 洋 津 波 早 期 警 戒 体 制 の 構 築 の た め の 政 府 間 調 整 グ ル ー プ
(ICG/IOTWS)が設置され,同年8月には第 1 回会合(オーストラリア・パース)が,同年 12 月には第 2 回
会合(インド・ハイデラバード)が開催された.さらに,今年 2006 年3月 27 日から 29 日まで,ドイツ・ボンに
おいて第三回早期警報に関する国際会議(EWC-III, Early Warning Conference III)が開催され,地球規
模で複合災害や巨大災害に対応できるシステム,また,観測,予測,警報についての議論が行われた.
3.1.3.2 インド洋での暫定システム
インド洋諸国が主体となった本格的な津波早期警戒体制の構築までの暫定的な措置として,気象庁と
米国ハワイの太平洋津波警報センター(PTWC)が協力して,インド洋諸国の要請に基づき,2005 年3月
末より 24 時間体制で津波監視情報を提供している.これは,既存の地震・潮位観測網及び通信網を活
用し,インド洋でマグニチュード 6.5 以上の地震が発生した場合に,その発生時刻,震源位置,マグニチ
ュード及びこれらから推定される津波の発生可能性の有無に加え,津波発生のおそれがある場合には,
インド洋沿岸を 43 に分割した沿岸区域へ津波が到達するまでの予想時間を伝えるものである.2005 年
11 月末時点での提供先はインド洋 26 カ国,発表回数は8回である(内閣府,2006).
3.1.2.3 津波波早期警戒体制の本格的な構築のために
さらに,国際的にはドイツ政府主催の 2006 年ボン EWC(Conference of Early Warning)国際会議での研
究打ち合わせと資料収集を実施した.
・ 早期津波警報システム構築への科学技術的な検討
・ 警報システムに関する基礎データ収集
・ 2005 年 3 月 28 日スマトラ沖地震(ニアス島付近)での対応
・ インドネシア・バンダアチェでの復興状況と現在の課題
・ 早期警報に関する最新情報と課題
津波波早期警戒体制の本格的な構築のためには,
①地震や津波の観測,警戒情報の発令体制
②国内外関係機関間での情報伝達体制
③災害知識の普及,災害リスクの把握,災害時の避難行動等の備えの充実のための防災教育,意識啓
発の体制
の3つの要素について,各国の自助努力による災害対応能力の向上及び地域間の協力枠組の構築をさ
らに推進する必要がある.さらに,今回の調査研究で重要であると考えたれる点は,以下の通りであ
る.
92
④地域に応じた津波警報(メッセージ,避難情報)を整理する
⑤津波警報の内容は,広く教育・啓発の中で,理解される.
⑥他の災害とも関連した体制が必要
⑦行政と科学・研究者と連携できる仕組みを構築する
⑧低頻度巨大災害に対するリスク評価手法の提案・実施
3.1.2.4 我が国の役割と具体的な課題
日本は,国連防災世界会議の開催国として,その成果である「兵庫行動枠組 2005-2015」の着実な実
施,持続可能な開発の前提となる災害予防の文化の普及を国際社会に訴えている.インド洋津波早期警
戒体制の構築はその象徴となるものであり,日本は,世界有数の津波災害の経験とこれに基づく高度か
つ先進的な対策を強化してきた国として,そのノウハウ・技術の移転を強く期待されている.今後とも,上
記の要素の全てにわたり,国内関係府省庁及び関係機関が連携し,引き続き多国間及び二国間の様々
なレベルで国際協力を効率的・効果的に推進する必要がある(内閣府,2006).
適用可能な早期津波警報メカニズムについて,本年度の調査研究で整理された課題を以下にまとめ
る.
項目
内容
事例
情報の内容・発
迅速性
津波来襲前に
信
詳細性
日本では県単位毎
津波避難対象地域をきめ細かくする(避難率
向上につながる)
地域での行政区,伝達体制も考慮
正確性
波高だけでなく浸水範囲や浸水高,さらには,
海域での流れの情報が必要
発令と解除
津波警報発令の基準の不一致
警報解除のタイミング
情報の伝達手
様々な手段の複合化リダンダ
地震時の影響・
段
ンシー
対象は住民だけでない
確実な伝達
屋外無線で避難勧告が指示に聞こえた
災害情報取得の意識形成
情報があっても取得しない状況
情報の認知と対
応
リスク意識の向上が不可欠
リスク認知バイアスの低減
津波情報だけでは避難行動開始のきっかけに
はならない(千島津波では 7-14%の避難率)
災害文化の継承と防災文化
今も残るスリランカ仏教伝説
の創造
リスク回避行動・手段の具体
避難途中に踏切がある
化
避難場所を知らない
ハザードマップはあっても活用していない
93
調査研究成果の発表状況(全体)
1. 原著論文(査読付き)
1.
大家隆行・越村俊一・柳澤英明・今村文彦:2004 年インド洋津波によるバンダアチェ市街地の津波
氾濫解析と被害推定,海岸工学論文集,第 53 巻,pp.221-225, 2006.
2.
KONKONKORN SRIVICHAI1, SEREE SUPHARATID2 and FUMIHIKO IMAMURA ,Recovery
Process in Thailand after the 2004 Indian Ocean Tsunami, J.Natural Disaster Science, Vol.29, No.1,
pp.3-12, 2007
3.
Abdul Muhari, Subandono Diposaptono, Fumihiko Imamura, Toward an Integrated Tsunami Disaster
Mitigation: Lessons Learned From Previous Tsunami Events in Indonesia, , J.Natural Disaster
Science, Vol.29, No.1, pp.13-19, 2007
4.
A H R Ratnasooriya and S P
Samarawickrama, Fumihiko Imamura, POST TSUNAMI
RECOVERY PROCESS IN SRI LANKA, J.Natural Disaster Science, Vol.29, No.1, pp.21-28,
2007
5.
Tomita,T., F.Imamura, T.Arakawa, T.Yasuda and Y.Kawata: Damage caused by the 2004 Indian
Ocean Tsunami on the southwestern coast of Sri Lanka, Coastal Engineering Journal, Vo.48, No.2,
pp.99-116, 2006.
2. 上記論文以外による発表
国内誌(国内英文誌を含む)
1.
アイデン オメル・今村文彦,2007 年 9 月 12 日インドネシア南スマトラ地震とその津波による附属災
害制御研究センター調査速報,土木学会誌,事故・災害, vol.93, no.2, pp.46-49, 2008
2.
今村文彦・阿部郁男,津波対策における緊急地震速報の活用ー課題整理と低減対策に向けて,緊
急地震速報ー揺れる前にできること,東京法令出版,pp.239-255,2007, ISBN978-8090-3126-7
3.
今村文彦,ジャワ島における津波被害について,消防防災,vol.6, no.1,No.19, pp.52-59, 2007
4.
今村文彦:スマトラ沖地震及びインド洋大津波を振り返って,はまべ交信, 全国漁港海岸防災協会,
No.14,pp.12-17, 2006
5.
今村文彦:スマトラ沖地震及びインド洋大津波から1年ー津波被害からの復興と我が国への教訓ー,
消防防災,Vol.5, No.1, pp.2-10, 2006
6.
今村文彦・越村俊一・大家隆行,津波による人的被害の推定ー2004 年インド洋大津波のバンダア
チェでの事例ー,月刊消防,No.8.Vol.28, pp.11-15, 2006
3. 口頭発表
招待講演
1. 特別招待講演「Tsunami disaster」,APEC and Eqtap Seminar on earthquake and tsunami disaster
94
reduction, Jakarta,2005 年 9 月 27,28 日
2. 招待講演,国際堆積学会議(International Sedimentrology Councel),福岡国際会議場,2006 年 8 月 27 日
2. 国際港湾協会(IAPH)常任理事会開催記念国際シンポジュウム,基調講演「みなとの防災〜津波・高潮に
備えて」,静岡県コンベンションアーツセンター, 2006 年 10 月 12 日
3. 地震学会,地域防災の新展開,招待スピーチ,名古屋国際会議場, 2006 年 11 月 1 日
1. 招待講演,International workshop on recent Developments in Tsunami modeling, Alfred-Wegener
Institute, AWI, Bremerhaven, Germany, 2007 年 4 月 25 日,
4. 地域減災フォーラム,基調講演,「地震・津波にどう向き合うか?」,東北福祉大メルティメディア教室,
2007 年 9 月 29 日
5. 第2回都市防災会議( 2nd, ICUDR,International Conference for Urban Disaster Reduction)台北シェラトン
ホテル,招待講演, 2007 年 11 月 28 日
主催・応募講演
5.学会賞
1. 土木学会東北支部技術開発賞,沖合い津波観測による宮城県沖を想定した減災シナリオに関する基礎
的検討,阿部郁男・今村文彦,(2006)平成 18 年 5 月 16 日
2. 土木学会海岸工学論文賞,2004 年インド洋大津波によるバンダ・アチェ市街地の津波氾濫解析と被害評
価,大家隆行,越村俊一,柳澤英明,今村文彦,(2006)平成 18 年 11 月 17 日
95
3.2 適切な津波警報基準の設定
3.2.1 イントロダクション
2004 年 12 月のインド洋津波により甚大な被害が生じた原因は、この地域に津波警報システムが存在し
なかったことに加え、人々が自然現象としての津波について知識が乏しかったことである、とたびたび指
摘されてきた。このため、被害を受けた国、また、それを支援しようという世界中の国が、この状況を改善し
ようとして大きな努力を払ってきている。津波警報については、現在のところ、この地域の関係国自身によ
り地域津波警報システムが整備されるまでの間の暫定措置として、気象庁と PTWC がインド洋諸国に対し
てインド洋津波監視情報を提供している。ここで、現在の暫定津波監視情報にせよ、将来の地域津波警
報システムによる津波警報にせよ、防災情報として有効に活用されるためにはその警報発表基準等を適
切に設定することが必要である。本調査研究では、1)基準等設定のための基礎データとしての過去津波
データベース作成整備、及び、2)インド洋に対する暫定津波監視情報提供に関して気象庁と PTWC の情
報の整合性を図ることを実施した。
3.2.2 過去津波のデータベース整備および国際津波データベースへの提供
3.2.2.1 データベースの適切な基準設定への活用
津波の推定が技術的に精確で詳細なものになればなるほど、それに応じて、警報発表基準や発表対
象である沿岸の区分(津波予報区)を適切に設定する重要性は増してくる。この適切な設定を行うための
方法の一つは、過去の津波記録から経験的に行うことである。もう一つは、津波数値シミュレーションを用
いることで、この方法は任意な多数のケースを想定できるという利点がある。しかしながら、後者の方法で
も、その手法や結果の妥当性を確かめるためには過去に起きた実際の津波の記録と照合することが不可
欠である。すなわち、過去津波データベースを作成することは、上記双方の方法に対して有効である。
3.2.2.2 日本周辺の過去津波データベース作成
上記目的のため、太平洋で発生した津波に関する研究論文及び報告書を収集し、データベースを作
成することとした。その第一段階として、本調査研究では、過去の多数の記録が存在する日本周辺のデ
ータから着手することとし、観測精度が良く信頼度も高い検潮儀観測データが豊富であり、また、気象庁
の詳細な報告書が存在する、1927 年以降(~2003 年)の期間について作業を行った(Iida,1984; 渡
邊,1998; 気象庁,1933 他)。収集したデータは、発生日時、場所、津波の高さおよび出典に関する情報
をまとめてデータベース化した。これらのデータには、プレート沈み込み帯付近の低角逆断層タイプ、海
洋プレート内の正断層タイプ、陸地近くの高角逆断層タイプ、大洋の向こうの遠地地震など、様々なタイ
プの地震によって引き起こされた様々な津波が含まれている。津波の襲来した場所としては日本付近に
限られてはいるものの、このように多岐に渡る津波のデータは、他の地域における津波警報基準を検討
する場合にも非常に有益であると考えられる。
3.2.2.3 全球津波データベースの検証と訂正
現在、国際的に広く使われている全球津波データベースとしては、太平洋津波警戒・減災システムの
ための政府間調整グループ(ICG/PTWS)と国際測地学・地球物理学連合(IUGG)の共同プロジェクトの
枠組みでノボシビルスク津波研究所が開発した統合津波データベース(ITDB: Integrated Tsunami
Database)と、米国海洋大気庁(NOAA: National Oceanic and Atmospheric Administration)の国立地球
物理データセンター(NGDC: National Geophysical Data Center)が開発したものとの2つがある(UNESCO,
2006)。しかしながら、データ収集の元とした文献が日本語で書かれていたためであろうか、日本周辺の
96
津波に関する両データベース中のデータには、誤りや欠落が少なからず見受けられた。本調査研究で作
成された日本付近の津波に関するデータベースは、これらの全球データベースの検証と訂正に活用する
ことができる。図 3.2.1 に ITDB の検証とデータ密度の増加の様子を、また、図 3.2.2 にデータ数の増加の
様子を示す。今回の成果によって、日本付近の津波のデータに関しては、質・量ともに格段の改善が達
成されたことが分かる。この成果は、それぞれの全球津波データベースに統合されるべく、上記両機関に
対して提供された。異なるフォーマットで独自に作成されたデータベースにより引き起こされかねない混
乱をできるだけ避けるためには、追加・訂正されたデータを既存の標準的なデータベースに統合すること
は非常に重要である。また、全球的なDBの一部として組み込まれることで、本研究の目的である警報基
図 3.2.1 ITDB の検証とデータ密度の増加 準の設定の他にも、様々な研究・調査にも活用されることが期待される。
3.2.3 インド洋津波監視情報発表基準の整合統一
3.2.3.1 津波監視情報暫定業務開始の経緯
インド洋津波直後の 2005 年 1 月に神戸で開催された国連世界防災会議の中で、インド洋津波災害に
図 3.2.2 ITDB への追加・修正
97
関する特別セッションが緊急に設けられ、被害を受けた地域を同様の自然災害に対して安全な地域へと
変えるための議論が行われた。この会議及びその後開催されたユネスコ政府間海洋学委員会(IOC:
Intergovernmental Oceanographic Commission)による調整会議の結論として、1)本地域の関係国による
津波警報システムの整備、2)気象庁および PTWC による暫定的な津波監視情報提供、を行うことが決定
された(WCDR, 2005; UNESCO, 2005)。特に、マグニチュード9を超える超巨大地震の後に、津波を伴う
次の巨大地震が今後この地域を襲う可能性は非常に高いと考えられたため、暫定情報提供業務を直ち
に開始することが求められていた。また、当時、気象庁と PTWC のみがそれぞれの持つ既存の津波警報
システムを用いてインド洋に対する情報を提供する能力があると一般に認識されていた。このような状況
の下、国際社会の要請に応えて、気象庁は 2005 年 3 月に、また、PTWC は同年 4 月に津波監視情報の
暫定提供を開始した。なお、2 ヵ月後の同年 6 月には、インド洋津波警戒・減災システムのための政府間
調整グループ(ICG/IOTWS)が IOC の下に設立され、地域津波警報システムの構築に関する議論・調整
はここで行われることとなった。
3.2.3.2 津波監視情報提供の仕組みと気象庁・PTWC の情報内容整合
インド洋に対する津波監視情報提供の手順は 3 段階に区分される(図 3.2.3)。まず、全球的な地震観
測網による地震波形データを解析し、地震の発生位置、深さ、規模を決定する(全球的な潮位観測網の
データは、津波が実際に発生したかどうか、また、その規模がどのくらいかを確認するために用いられる)。
次いで、あらかじめ定めておいた基準に基づき津波の規模を推定し、また、各地沿岸への津波の到達時
刻も推定する。これらの情報がインド洋沿岸国の関係機関に伝送され、各国内において津波警報を発表
するための参考情報として活用されることになっている。この津波監視情報が“警報”ではなく“情報”の位
置付けであるのは、国民の安全に責任を持ち、国民に対して津波警報を発表できる権限を持つのが、そ
れぞれの国であることによる。
図 3.2.3 津波監視情報提供の仕組み
上記一連の作業は、気象庁と PTWC とで独立して行われているが、これは、津波監視情報提供に関し
て両機関が相互にバックアップするという意味を持ち、関係国での情報受領が確実に行われることを可能
としている。この“独立性”について、業務開始当初、気象庁と PTWC は完全に別々に情報発表を行って
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いた。すなわち、地震解析や津波予測についての両者の情報内容が異なっていた場合は、情報を受け
取った国が選別し、より危険な内容の方の情報を用いるという方法を取っていた。しかし、このやり方では
情報内容の不一致が受領国において混乱を招きかねないとの指摘がなされたため、気象庁と PTWC が
議論、検討を行った結果、津波規模の推定に用いる地震パラメーター(位置、深さ、規模)は同一のもの
を使うこととし、また、津波推定の基準も同一のものを使うこととした。これによって、両機関から提供される
津波監視情報の内容が異なることは基本的に無くなった。
図 3.2.4 に気象庁から提供されるインド洋津波監視情報の例を示す(UNESCO,2007)。その内容は、地
震解析情報と、推定された津波の規模及び津波到達時刻である。表 3.2.1 は、津波規模を推定する際に
気象庁及び PTWC が共通に使用している基準であるが、この基準は地震データを解析した情報にのみ
基づいており、また、個別の海岸での津波の高さを与えるものではない大まかな推定であることに、利用
の際は留意しなければならない。なお、個別海岸の津波高さ等、詳細な予測情報を提供するためには多
数のケースの数値シミュレーション実行などの膨大な作業が必要であり、これは暫定的な情報提供業務
の能力範囲を超えるものであるため、今後、関係国によって構築される本格的な地域津波警報システム
がその機能を整備するものと考えられる。
表 3.2.1
インド洋津波監視情報の発表
図 3.2.4 気象庁によるインド洋津波監視情報の例
参考文献
World Conference on Disaster Reduction, Common statement of the Special Session on the Indian Ocean
Disaster: risk reduction for a safer future, Report of the World Conference on Disaster Reduction, Annex
II, A/CONF.206/6, 39-42, 2005.
UNESCO, International Coordination Meeting for the Development of a Tsunami Warning and Mitigation
System for the Indian Ocean within a Global Framework, IOC Workshop Report No. 196, 2005.
UNESCO, Users Guide for the Indian Ocean Tsunami Warning and Mitigation System Interim Tsunami
Advisory Information Service, Intergovernmental Oceanographic Commission Technical Series 72, 2007.
Iida, K, Catalog of Tsunamis in Japan and its Neighboring Countries, Special Report, Aichi Institute of
99
Technology, 1984.
渡辺偉夫、日本被害津波総覧【第 2 版】、東京大学出版会、1998
気象庁、気象庁技術報告、第 8 号、1961; 第 43 号、1965; 第 68 号、1969; 第 87 号、1974; 第 95 号、
1978; 第 106 号、1984; 第 117 号、1995. 気象庁、験震時報、第 7 巻第 2 号、1933; 第 10 巻第 3-4 号、1937; 第 12 巻第 3 号、1942; 第 14 巻第
3-4 号、1950; 第 17 巻第 1-2 号、1953; 第 18 巻第 1 号、1954; 第 19 巻第 2 号、1955; 第 24 巻第 3
号、1959; 第 26 巻第 3 号、1962; 第 30 巻第 4 号、1967; 第 35 巻第 1 号、1970; 第 36 巻第 1-2 号、1971;
第 37 巻第 1 号、1972; 第 38 巻第 1 号、1973; 第 39 巻第 4 号、1974; 第 41 巻第 1-4 号、1977; 第 42
巻第 1-2 号、1978; 第 45 巻第 3-4 号、1981; 第 47 巻第 1-2 号、1983; 第 50 巻第 3-4 号、1987; 第 55
巻第 1-4 号、1992.
UNESCO, Summary Report of the Global Tsunami Database Project, Summary Report of 21st Session of
Intergovernmental Coordination Group for the Pacific Tsunami Warning and Mitigation System, Annex IX,
2006.
100
調査研究成果の発表状況(全体)
(成果発表の概要)(調整費充当領域分)
1. 原著論文(査読付き)
該当なし
2. 上記論文以外による発表
該当なし
3. 口頭発表
招待講演:0回、主催講演:0回、応募講演:2 回
4. 特許出願
該当なし
5. 受賞件数
該当なし
3. 口頭発表
応募講演
1) Yosuke Igarashi: Verification of Japanese Tsunami Data in the Integrated Tsunami Database (ITDB),
Guayaquil, Ecuador, International Union of Geodesy and Geophysics, 6th International Tsunami Workshop,
2007.9.14
2) Yohei Hasegawa: For establishment of appropriate criteria for tsunami warning, Phuket, Thailand,
International Symposium on the Restoration Program from Giant Earthquakes and Tsunamis, 2008.1.24
5. その他の主な情報発信(一般公開のセミナー、展示会、著書、Wwb等)
①津波データベースの Web 公開: “JMA Japanese Tsunami Runup Search” in NGDC Tsunami Runup
Database,
http://www.ngdc.noaa.gov/nndc/struts/form?t=101650&s=267&d=267,
2008
101
NOAA/NGDC,
3.3 津波の発生・伝搬過程を考慮した津波予警報システムの検討
3.3.1 2004年スマトラ沖超巨大地震の津波発生モデルの推定
人工衛星によって観測された海面高度異常データの解析から,スマトラ沖超巨大地震の津波波源(断
層)モデルを推定した.モデルパラメタとしては従来あまり考慮されて来なかった津波波源の伝播速度も
含めた.その結果,断層は全長 1300km で,平均的津波波源伝播速度は 0.7 km/sec と推定された.この
値は,Ammon et al.(2005)による地震波解析によって得られた伝播速度に比べかなり遅いが,Fujii and
Satake(2007)による津波解析によって得られた値に近い.いずれにせよ,人工衛星の観測トラックと津波
波源の相対的位置関係は,人工衛星がニコバル諸島やアンダマン諸島付近から放射された津波の第1
波をサンプルしていない(後続波のみをサンプルしている)ことを示唆しているので,津波波源の伝播速
度を精度良く推定できていない可能性がある.
そこで,ベンガル湾北部の2箇所の検潮所(Paradip と Vishakhapatnam)の津波第1波到達時刻と人工
衛星データから推定した波源モデルを比較することによって津波波源の北端と平均的な津波波源伝播
速度を詳しく調べた.比較検討の際には,検潮記録の時計の精度や検潮所周辺の浅い水深データに含
まれる誤差などの要因により,検潮所への到達時刻に±10 分の誤差が含まれていると仮定した.その結
果,やはり全長 1300km 以上の長さで,かつ,伝播速度が 0.6 km/sec から 1.0 km/sec の範囲の津波波
源モデルが適当であることがわかった(Hirata et al.,20061))(図 3.3.1).
図 3.3.1 人工衛星データの解析に基づく津波波源モデルとベンガル湾西北部の2箇所の検潮
所(Paradip と Vishakhapatnam)への津波第1波到達時刻の比較.津波波源モデルは海底面の
上下変動量によって表現されている.それぞれの図中の下部に破壊伝播速度(Vr)が示されて
いる.検潮所からの逆伝播波面の推定の際には,北方への波源伝播の影響が補正されている.
人工衛星データの解析によって推定された津波波源の北端と検潮所からの逆伝播波面(黒
線)が一致すれば,妥当なモデルだと考えられる.実際には,検潮記録の時計や浅い水深デ
ータに誤差が含まれていると考えられるので,逆伝播波面の走時に±10 分の許容範囲(2つの
赤線で囲まれる領域が Vishakhapatnam の津波走時に対する許容範囲.2つの青線で囲まれる
領域が Paradip の津波走時に対する許容範囲)を設けた. (a)全長 1400km の区間で津波発生
が許される場合.(b)全長 700km の区間だけで津波発生が許される場合.
102
次に,I)人工衛星によって測定された海面高度データ(図 3.3.2a)から推定される津波逆伝播波面(図
3.3.2b)を説明するように,かつ(II)海底地震観測から推定されたスマトラ北西沖の余震分布の形状(図
3.3.2c; Araki et al.,2006)に合うように,スマトラ北西沖の小断層を設定しなおし,海面高度データ全体を
説明するようなモデルを波形インヴァージョンによって求めた.その結果,以前のモデルではスマトラ北西
沖に約 30m のすべりが推定されていた(図 3.3.3a; Hirata et al.,20061))が,今回推定しなおされたモデル
では,スマトラ北西沖で約 40m のすべりがあったことが示された(Seno and Hirata, 20072))(図 3.3.3b).約
40m ものすべりが実際にあったとは考えにくい.おそらく,これは,スマトラ北西沖海域において,プレート
境界上のすべりだけではなく,海溝陸側浅部の未固結堆積物の非弾性的変形(Seno, 2000; Tanioka and
Seno, 2001)などの,何らかの二次的な津波発生メカニズムが生じたことを示していると考えられる.
図 3.3.2 (a)人工衛星によって測定されたインド洋の海面高度データ.上図が Jason-1,下図が
TOPEX/Poseidon による海面高度データ.三角形と黒色の円はそれぞれ地震直前と直後の海面
高度を示す.上向きの矢印は今回同定したインド洋津波の先端部分を示す.海面高度の測定誤
差を考慮すると,津波先端部分は上向き矢印の位置からある程度の範囲の中に収まっていると
考えられる,下向き破線の矢印は,海面高度の測定誤差を考慮した場合に津波先端部が存在し
うる範囲のうち,最も遅い(最も波源に近い)場合を示す.(b)(a)で求めた津波先端の位置から,津
波到達時間分だけ波源方向に仮想的に逆伝播させた津波波面.地震破壊が震央からスマトラ
北西沖までの約 300km を破壊伝播速度 3.0km/sec で伝わったと仮定して,衛星軌道直下まで到
達した津波の到達時間を補正してある.実線と破線はそれぞれ(a)の上向き矢印と下向き矢印で
示された位置から逆伝播させた波面に対応する.津波逆伝播波面はスマトラ北西沖海溝陸側斜
面の deformation front 付近に推定される.海面高度の測定誤差を考慮した場合でもこの結果は
変わらない.したがってスマトラ北西沖海域の津波波源の海側の境界が deformation front 付近に
位置していたと推定される.(c)海底地震観測によって推定された余震分布(Araki et al.,2006)と波
形インヴァージョンで使用した断層面(図中の赤線).下側の断層面はオリジナルモデルの断層
位置(Hirata et al.,20061)).上側の断層面は,今回の解析で使用した,余震分布に合うように設
定した断層位置.断層上端の深さは 1km と設定した.
103
図 3.3.3 人工衛星によって測定された海面高度データから波形インヴァージョンによって
推定された津波波源(断層)モデル.(a) Hirata et al.(2006)1)のオリジナルモデル.(b)津波
逆伝播波面解析と海底地震観測による余震分布に基づき,スマトラ北西沖の断層を再設
定しなおした場合の改訂モデル(Seno and Hirata, 20072)).改訂モデルでは,スマトラ北西
沖においてオリジナルモデルよりも大きなすべり(約 40m)が推定された.実際にこのような
大きなすべりが起こったとは考えにくく,おそらく,海溝陸側浅部の軟らかい堆積層におい
て非弾性的変形などが起こった(Seno and Hirata, 20072))など,何らかの二次的津波発生
が発生したことを示していると考えられる.
3.3.2 数値シミュレーションに基づく津波波源伝播速度が津波振幅に及ぼす影響の検討
津波波源の伝播速度が沿岸部の津波の高さに与える影響を調べるため,上記の津波波源モデルを参
考に,インド洋,ベンガル湾,アンダマン海を含む領域において数値シミュレーションを行った.計算には
海底地形 ETOPO2 (Smith and Sandwell,1997)から作成した3分刻みのグリッドを用い,線形長波式を差
分法で解き(Satake, 1995),破壊伝播速度を変えながら,ベンガル湾,インド洋,アンダマン海の沖合 50
km〜100 km の仮想観測点での津波波形を計算した.各小断層のパラメタは Hirata et al.(2006)1)と同じも
のを使用し,すべての小断層の滑り量(14 m)を等しくした.
図 3.3.4 インド洋,ベンガル湾,アンダマン海,インドネシア周辺などの沿岸沖合における津波
のシミュレーション結果.津波波源(破壊)伝播速度 Vr が遅くなるほど津波振幅が大きくなる傾
向にあるが,場所によって小さくなる.
水深一定の平坦な海底と1枚の矩形断層を想定した理論的な研究によれば,断層破壊(津波波源)の
104
伝 播 速 度 が 遅 く な る ほ ど , 津 波 の 振 幅 変 化 が 大 き く な る こ とが 予 想 さ れ て い た が ( Yamashita and
Sato,1974),実際の海底地形における数値シミュレーションの結果でも,それが確かめられた(図 3.3.4).
すなわち,通常の地震よりも破壊伝播速度の遅い「ゆっくり地震」の場合,津波波源の伝播速度の影響を
無視することができないことを示している(Hirata, 2008).例えば,500km の津波波源をスマトラ北西沖に
置いた場合,スリランカ南東沖における津波振幅は,津波波源の伝播速度が 2.5km/sec で約 10%,
1.5km/sec で約 20%,1.0km/sec で約 30%増大する.
次に,津波振幅が波源伝播速度によってどのように変化するのかより詳細に検討した.図 3.3.5 に,ベン
ガル湾,インド洋,アンダマン海各地の沖合において,津波第1波の振幅が破壊伝播速度によってどのよ
うに変化するのかを図示した.図 3.3.5 では,短い津波波源と長い津波波源のケースを比べるために,長
さ 1400km と 500km の2通りの波源モデルを比較している.それぞれのパネルの横軸は破壊伝播速度
(km/sec),縦軸は津波第1波の振幅を表している.但し,津波第1波の振幅は,破壊伝播は瞬時に起こっ
た場合の津波第1波振幅で規格化してある.
図 3.3.5 沖合の津波第1波振幅(小グラフの縦軸)と破壊伝播速度(横軸)との関係.津波振幅は,
ベンガル湾,インド洋,アンダマン海の沖合に配置した仮想的観測点に対して,数値シミュレーショ
ンを用いて計算された津波波形から読み取った.各パネルにおいて,青い菱形は長い津波波源
(1400km)の場合,ピンク色は短い波源(500km)の場合を示す.
図 3.3.5 から,破壊伝播速度が遅くなるほど,(1)津波振幅の変化は,破壊伝播方向よりもむしろ津波波
源の短軸方向(スマトラーアンダマン海溝と直交する方向)で大きくなる,(2)短い津波波源の方が長い波
源よりも概して振幅の変化率が大きい,などがわかった.またインド東北岸〜スリランカ〜モルディブ諸島
〜チャゴス諸島にかけての振幅変化に注目すると,(3)振幅が増大するか減少するかは津波波源の長軸
105
方向と観測点のなす角度にのみ依存するのではなく観測点ごとに異なること,が見てとれる.これらのこと
は,水深一定の平坦海底を仮定した理論的な研究(Yamashita and Sato,1974)では予想されておらず,
津波波源の伝播現象が津波の振幅に及ぼす影響を検討するためには,実際の海底地形と現実的な津
波波源の形状および伝播速度を仮定した津波シミュレーションが必要であることを示している.
このように,実際の海底地形と現実的な津波波源形状を用いた数値シミュレーションにおいて,一様水
深の理論的な研究結果(Yamashita and Sato,1974)と,なぜ違いが生じるのか調べるために,津波シミュレ
ーションによる合成津波波形を,各々の波源要素(断層要素)に分解してみる.ここでは,一例として,モ
ルディブ諸島ガム島沖の仮想的津波観測点(観測点 T160)に対する合成津波波形を検討する(図
3.3.6).
図 3.3.6 長さ 1400 km の津波波源から,モルディブ諸島ガム島沖の仮想的観測点に対して計算さ
れた津波波形(最上部のトレース)と各小波源(E1,E2,…,E14)の津波波形要素.最も左側が津波
波源伝播速度が無限大(現在の津波予測システムで用いられている)の場合.以降,左から順に,
波源伝播速度が 1.5 km/sec, 1.0 km/sec, 0.7km/sec の場合.
図 3.3.6 を視察すると,津波振幅の変化率は,各波源要素(断層要素)から放射された津波要素の位相
がそろえば大きくなり,逆位相でそろえば小さくなる,ことが認められる.同様な事実は,インドとスリランカ
東岸においても認められる(Hirata, 2008)津波要素の位相がそろうか否かは,津波波源の形成速度と,
各波源要素からある観測点までの津波到達時間,の2つの条件によって決まると考えられる.さらに,後
者の条件は波源・観測点の2点間の距離と海底地形,実際の波源(断層)形状によって決まる.すなわち,
津波振幅の変化率は,津波波源の形成速度と波源要素から観測点までの津波到達時間の非線形な関
数と考えることができる..したがって,実際の波源(断層)形状や海底地形が複雑であればあるほど,一
様水深の理論的な研究結果とは異なる,津波の振幅変化が起きると考えられる.
3.3.3 津波波源の形成伝播(地震の破壊伝播)を考慮した津波予測システムの展望
次に,次世代の津波予測システムを設計する場合に,津波波源の形成伝播という条件を含めるべきか
106
否かについて検討する.
(A)通常の破壊伝播速度(2 km/sec〜4 km/sec)を持つ地震によって発生した津波でさえ,瞬時に津波
波源が形成される場合に比べ,振幅は最大で 10%程度変化する.従来の波源全域にわたって瞬間的に
津波波源が形成されるという仮定はあまり現実的ではない可能性がある.
(B)したがって,もしも津波波源の形成伝播速度を準リアルタイムで推定できるならば,次世代の津波予
測システムには,津波波源が形成伝播するという前提で設計した方がよい.しかし,現在のところ,それを
可能とするような手法も,インフラストラクチャも整っていないし,近い将来にこれらを整える計画も,少なく
とも我が国においては現在見あたらない.
(C)それゆえ,津波波源の形成伝播が準リアルタイムで推定できるようになるまで当面,ある適当な速度
(例えば,3km/sec)とユニラテラル/バイラテラルな形成伝播を a priori に仮定し津波データベースを構
築しておき,それら数種類のケースのうち,各地点での最大津波振幅を予測値として選択するのが良い.
(D)ただし,津波は沿岸部の浅い海底地形によって,局所的かつ容易に,沖合の津波よりも数倍増幅す
る.他方,津波波源の形成伝播が津波振幅に与える影響は最大でも2倍を超えることはないと考えられる.
沿岸部の浅い海底地形が調査されていない地域の津波波高予測にとっては,津波波源の形成伝播を考
えるより先に,浅い海底地形情報を取得する方が必要である,と考えられる.
3.3.4 考察とまとめ
本研究では,人工衛星データと検潮所への津波走時から第1近似的な津波波源モデルを推定し,津波
波源は全長 1300km 程度,伝播速度は 1km/sec 以下が妥当であるという結果が得られた(Hirata et
al.,20061)) . し か し な が ら , 現 在 い く つ か の 津 波 波 源 モ デ ル が 提 案 さ れ て い て ( 例 え ば , Fujii and
Satake,2006;Song et al.,2005;Tanioka et al.,2006),波源の長さや伝播速度に関してはかなりのばらつき
があり,さらなる検討が必要と思われる.また,スマトラ北西沖では 2004 年 12 月のスマトラ沖超巨大地震
の際に,プレート境界上の単純なすべり以外に,何らかの二次的な津波発生メカニズムが存在していたら
しいことが判明した(Seno and Hirata, 20072)).
一方,実際の海底地形と現実的な津波波源形状を使って数値シミュレーションを行い,津波波源の形
成伝播(地震の破壊伝播)が沿岸沖合での津波震幅に与える影響を検討した結果,波源の形成速度が
遅くなればなるほど,津波振幅の変化率が大きくなることが判明した.これは一様水深の理論的な予測と
一致しており,特に,ゆっくり地震から発生する津波を考える場合,波源の有限な形成伝播速度を無視す
るのは現実的ではないことを示している.一方,短い津波波源の方が長い波源よりも概して振幅の変化率
が大きい,振幅が増大するか減少するかは同じ範囲の沿岸であっても観測点ごとに異なること,など一様
水深の理論的な予測とは異なる結果も得られた.津波振幅がどのように増幅するか減少するかは,各波
源要素から放出された津波要素の位相がそろうか否かに依存しており,位相のそろい方は,おそらく実際
の海底地形,津波波源の幾何形状などに左右されていると考えられる.
次世代の津波予測システムに,津波波源の形成伝播という条件を含めるべきか否かについて検討し
たところ,伝播速度を準リアルタイムで推定可能ならば含めるべきであるが,現状ではそれが不可能であ
るので,当面,ある適当な速度(例えば,3km/sec)とユニラテラル/バイラテラルな形成伝播を a priori に
仮定し津波データベースを構築しておき,それら数種類のケースのうち,各地点での最大津波振幅を予
測値として選択するのが良いと考えられる.
引用文献
1. Ammon, C. J., C. Ji, H-K. Thio, D. Robinson, S. Ni, V. Hjorleifsdottir, H.Kanamori, T. Lay, S. Das, D.
Helmberger, G. Ichinose, J. Polet, and D. Wald, 2005. Rupture process of the 2004 Sumatra-Andaman
earthquake, Science 308, 1133−1139.
107
2. Fujii,Y., and K.Satake, Tsunami source of the 2004 Sumatra-Andaman earthquake inferred from tide
gauge and satellite data, submitted to Bull. Seismol. Soc. Am., 2006.
3. Hirata,K., K. Satake, Y. Tanioka, T. Kuragano,Y. Hasegawa,Y. Hayashi, and N.Hamada, The 2004
Indian Ocean Tsunami: Tsunami source model from satellite altimetry, Earth Planets Space,
58,195-201,2006.
4. Hirata,K., Tsunami amplification along the eastern coast of India and Sri Lanka due to propagating
tsunami sources, submitted to Journal of Earthquake and Tsunami,2008.
5. Satake, K., Linear and nonlinear computations of the 1992 Nicaragua earthquake tsunami, Pure Appl.
Geophys., 144, 455-470, 1995.
6. Seno, T. and K.Hirata, Did the 2004 Sumatra-Andaman earthquake involbe a component of tsunami
earthquakes, Bull.Seismol.Soc.Am, 97, S296-S306, 2007.
7. Smith,W.H.F., and D.T.Sandwell, Global sea floor topography from satellite altimetry and ship depth
soundings, Science, 277, 1956-1962, 1997.
8. Song,Y.T., et al., The 26 December 2004 tsunami source estimated from satellite radar altimetry ansd
seismic waves, Geophys.Res.Lett., 32, L20601,doi:10.1029/2005GL023683, 2005.
9. Tanioka,Y., et al., Rupture process of the 2004 great Sumatra-Andaman earthquake estimated from
tsunami waveforms, Earth Planets Space, 58, 203-210,2006.
10. Yamashita,T., and R.Sato, Generation of tsunami by a fault model, J.Phys.Earth, 22, 415-440,1974.
108
調査研究成果の発表状況(3−3のみ)
(成果発表の概要)(調整費充当領域分)
1. 原著論文(査読付き)
3報 (筆頭著者:1報、共著者:2報)
2. 上記論文以外による発表
国内誌:4 報、国外誌:1報、書籍出版: 冊
3. 口頭発表
招待講演:1回、主催講演:2回、応募講演:9回
4. 特許出願
該当なし
5. 受賞件数
該当なし
1. 原著論文(査読付き)
1) Hirata,K., K. Satake, Y. Tanioka, T. Kuragano,Y. Hasegawa,Y. Hayashi, and N.Hamada, The
2004 Indian Ocean Tsunami: Tsunami source model from satellite altimetry, Earth Planets Space,
58,195-201,(2006).
2) Seno, T. and K.Hirata, Did the 2004 Sumatra-Andaman earthquake involve a component of
tsunami earthquakes, Bull.Seismol.Soc.Am, 97, S296-S306, (2007).
3) Hayashi,Y., K.Hirata, T.Kuragano, T.Sakurai, H.Takayama, Y.Hasegawa, and N.Hamada,
Feasibility study on the potential of satellite altimetry for detecting seismic geoid changes due to
the 2004 Sumatra-Andaman earthquake, Earth Planets Space, 59, 1149-1153, (2007).
2. 上記論文以外による発表
国内誌(国内英文誌を含む)
1) 平田賢治,総論:津波予測—リアルタイム津波予測を中心にー,月刊地球,309, 159-165,
(2005).
2) 平田賢治,倉賀野連,林豊,佐竹健治,谷岡勇市郎,長谷川洋平,浜田信生,宇宙から観た
津波と地震断層モデル,月刊地球,号外 56, 12-18, (2006).
3) 林豊,濱田信生,倉賀野連,桜井敏之,高山寛美,長谷川洋平,平田賢治,スマトラ島沖地震
に伴うジオイド高変化の衛星海面高度計による検出,月刊地球,号外 56, 32-37, (2006).
4) 林 豊,平田 賢治、浜田 信生、佐竹 健治、谷岡 勇市郎、倉賀野 連、桜井 敏之、高山 寛
美 、 長 谷 川 洋 平 , 衛 星 海 面 高 度 計 に よ り 観 測 さ れ た 2004 年 ス マ ト ラ 沖 地 震 津 波 ,
SANE2005-35(2005-6)/ 91-96,2005.
国外誌
1) Hirata,K., K. Satake, Y. Tanioka, T. Kuragano,Y. Hasegawa,Y. Hayashi, and N.Hamada, The
2004 Indian Ocean Tsunami: Tsunami source model from satellite altimetry, Proceedings of the
22nd International Tsunami Symposium, 72-76, (2005).
109
3. 口頭発表
招待講演
1)佐竹健治,平田賢治,2004 年スマトラーアンダマン地震の断層モデル,2007 年地球惑星科学連
合学会,T235-002,2007.
主催・応募講演
1) Hirata, K., Effect of earthquake rupture mechanism on tsunami generation and propagation Toward examination of a possible tsunami warning system applicable to M9 earthquakes -,
International Workshop on the Restoration Program from Giant Earthquakes and Tsunamis,
P1-2-3-7/ 71, 2005.12.14.
2)平田賢治,佐竹健治,谷岡勇市郎,倉賀野連,林豊,長谷川洋平,浜田信生,宇宙から観測され
たスマトラ沖地震津波と地震断層モデル 幕張メッセ,2005 年地球惑星科学連合学会.
3) Hayashi,Y., Nobuo Hamada, Tsurane Kuragano, Toshiyuki Sakurai,Hiromi Takayama, Yohei
Hasegawa, Kenji Hirata, Change in the sea surface height observed by satellite altimetry before and
after the 2004 Sumatra-Andaman earthquake, US-Japan Natural Resources the 36th joint meeting,
2005.
3)平田賢治,倉賀野連,林豊,佐竹健治,谷岡勇市郎,長谷川洋平,浜田信生,2004 年インド洋津
波の津波波源はどのくらい北まで延びていたか?, 幕張メッセ,2006 年地球惑星科学連合学会.
4)平田賢治,断層の破壊伝播が津波の振幅に及ぼす影響,2007 年地球惑星科学連合学会,
T235-018,2007.
5) Satake, K., and K.Hirata, Review of source models of the 2004 Sumatra-Andaman earthquake,
AOGS2007, IWG07-D4-AM1-BR3-002, 2007.
6)平田賢治,徐垣,町山栄章,山口はるか,富士原敏也,金松敏也,荒木英一郎,尾鼻浩一郎,末
廣潔,荒井晃作,瀬野徹三,スマトラ北西沖海域調査の国際的な取り組みと3つの断層モデル仮
説,日本地震学会 2007 年度秋季大会,D31-04, 2007.
7) Hirata,K., Should the effect of earthquake rupture propagation be included in tsunami
forecast/warning systems?, Program and Abstracts, International Symposium on the Restoration
Program from Giant Eartquakes and Tsunamis, S3-1-8, 121-123, Phuket, Thailand, 2008.
8) Hirata,K., A tsunami early warning system based on realistic tsunami source propagation, 2008
AOGS meeting.
9) Hirata,K., Jeffrey.A.Hanson, Eric L.Geist, Tetsuzo Seno, Wonn Soh, Toshiya Fujiwara, Christian
Müller, Hideaki Machiyama, Ei’ichiro Araki, Kohsaku Arai, Kazuki Watanabe, Leonardo Seeber,
Yusuf.S.Djajadihardia, Safri Burhanuddin, Badrul M.Kemal, Nugroho D.Hananto1, Hananto
Kurnio1, Yudi Anantasena, Kiyoshi Suyehiro, A new model for the unusual tsunami generation off
northwest Sumatra during the 2004 Sumatra-Andaman earthquake, 2008 AOGS meeting.
10) 平田賢治,津波波源の形成伝播(地震の破壊伝播)を考慮した津波予測システムの展望,2008
年度地球惑星科学連合大会,2008.
11) 平田賢治,Jeffrey.A.Hanson, Eric.L.Geist, 瀬野徹三, 徐垣, 富士原敏也, Christian Müller,町
山栄章, 荒木英一郎, 荒井晃作, Yusuf.S.Djajadihardia, Safri Burhanuddin, 末廣潔, 2004 年イン
ド洋大津波波源域南部(スマトラ北西沖)における津波発生メカニズムに関する5番目のモデル仮
説, 2008 年度地球惑星科学連合大会,2008.
4. 特許出願
110
該当なし.
出願・公告等の日付
「発明の名称」
発明者氏
名
1)
2)
5. 受賞件数
該当なし.
111
出願人名
特許等の種類・番号
6. その他の主な情報発信(一般公開のセミナー、展示会、著書、Web等)
①一般公開のセミナー: 人工衛星データを用いた津波解析,スマトラ島沖地震震源域近傍におけ
る緊急調査航海報告会,東京,2005.4.21.
②一般公開のセミナー:地震と津波の驚異—2004 年スマトラ沖地震の事例を踏まえてー,2005 年
海洋研究開発機構一般公開セミナー,2005.5.9.
③専門家会合:「衛星軌道で捕らえた津波」, 第 164 回地震予知連絡会, 2005.5.16.
④一般公開のセミナー:地震と津波,マリンサイエンススクール 2005,横須賀,2005.8.4.
⑤一般公開のセミナー: 2004 年スマトラ沖地震とインド洋津波,日本国際地図学会講演会,横浜,
2005.8.5.
⑥ 一 般 公 開 の セ ミ ナ ー : 2004 Sumatra-Andaman earthquake and tsunami: recent studies ,
International workshop on investigation of the 2004 Sumatra earthquake,Jakarta, 2005.7.25.
⑦一般公開のセミナー: インドネシア・スマトラ沖震源地調査,江東区文化センター,東京,
2006.6.15.
⑧ 一 般 公 開 の セ ミ ナ ー : In-site seafloor observations in the source region of the 2004
Sumatra-Andaman earthquake, 第 4 回計算機を利用した風工学に関する国際シンポジウム参加
者に対するセミナー, 横浜,2006.7.20.
⑨一般公開のセミナー: 地震と津波,サイエンスキャンプ 2006 夏,横須賀,2006.7.28.
⑩一般公開のセミナー: 入門 地震・津波,マリンサイエンススクール 2006 夏,横須賀,2006.8.4.
⑪一般公開のセミナー:地震災害と津波の驚異,平成18年度第1回海洋科学技術学校,横須賀,
2006.8.8.
112
(###以下は,H17・18 年度の成果報告書の書式.11-12 頁の成果と同じ)
■成果の発表
原著論文による発表
1. Hirata,K., K. Satake, Y. Tanioka, T. Kuragano,Y. Hasegawa,Y. Hayashi, and N.Hamada, The 2004
Indian Ocean Tsunami: Tsunami source model from satellite altimetry, Earth Planets Space,
58,195-201,2006.
2. Seno, T. and K.Hirata, Did the 2004 Sumatra-Andaman earthquake involbe a component of tsunami
earthquakes, Bull.Seismol.Soc.Am, 97, S296-S306, 2007.
3. Hayashi,Y., K.Hirata, T.Kuragano, T.Sakurai, H.Takayama, Y.Hasegawa, and N.Hamada, Feasibility
study on the potential of satellite altimetry for detecting seismic geoid changes due to the 2004
Sumatra-Andaman earthquake, Earth Planets Space, 59, 1149-1153, 2007.
原著論文以外による発表
1. Hirata,K., K. Satake, Y. Tanioka, T. Kuragano,Y. Hasegawa,Y. Hayashi, and N.Hamada, The 2004
Indian Ocean Tsunami: Tsunami source model from satellite altimetry, Proceedings of the 22nd
International Tsunami Symposium, 72-76, 2005.
2.平田賢治,総論:津波予測—リアルタイム津波予測を中心にー,月刊地球,309, 159-165, 2005.
3.平田賢治,倉賀野連,林豊,佐竹健治,谷岡勇市郎,長谷川洋平,浜田信生,宇宙から観た津波と地
震断層モデル,月刊地球,号外 56, 12-18, 2006.
4. 林豊,濱田信生,倉賀野連,桜井敏之,高山寛美,長谷川洋平,平田賢治,スマトラ島沖地震に伴う
ジオイド高変化の衛星海面高度計による検出,月刊地球,号外 56, 32-37, 2006.
口頭発表
1.Hirata,K., Effect of earthquake rupture mechanism on tsunami generation and propagation - Toward
examination of a possible tsunami warning system applicable to M9 earthquakes -, International
Workshop on the Restoration Program from Giant Earthquakes and Tsunamis, P1-2-3-7/ 71,
2005.12.14.
2.平田賢治,佐竹健治,谷岡勇市郎,倉賀野連,林豊,長谷川洋平,浜田信生,宇宙から観測されたス
マトラ沖地震津波と地震断層モデル 幕張メッセ,2005 年地球惑星科学連合学会.
3.平田賢治,倉賀野連,林豊,佐竹健治,谷岡勇市郎,長谷川洋平,浜田信生,2004 年インド洋津波の
津波波源はどのくらい北まで延びていたか?, 幕張メッセ,2006 年地球惑星科学連合学会.
4. 平 田 賢 治 , 断 層 の 破 壊 伝 播 が 津 波 の 振 幅 に 及 ぼ す 影 響 , 2007 年 地 球 惑 星 科 学 連 合 学 会 ,
T235-018,2007.
5.佐竹健治,平田賢治,2004 年スマトラーアンダマン地震の断層モデル,2007 年地球惑星科学連合学
会,T235-002,2007.
6.Satake, K., and K.Hirata, Review of source models of the 2004 Sumatra-Andaman earthquake,
AOGS2007, IWG07-D4-AM1-BR3-002, 2007.
7.平田賢治,徐垣,町山栄章,山口はるか,富士原敏也,金松敏也,荒木英一郎,尾鼻浩一郎,末廣潔,
荒井晃作,瀬野徹三,スマトラ北西沖海域調査の国際的な取り組みと3つの断層モデル仮説,日本地
震学会 2007 年度秋季大会,D31-04, 2007.
8.Hirata,K. Should the effect of earthquake rupture propagation be included in tsunami forecast/warning
systems?, Program and Abstracts, International Symposium on the Restoration Program from Giant
Eartquakes and Tsunamis, S3-1-8, 121-123, Phuket, Thailand, 2008.
113
9. Hirata,K., A tsunami early warning system based on realistic tsunami source propagation, 2008 AOGS
meeting.
10. Hirata,K., Jeffrey.A.Hanson, Eric L.Geist, Tetsuzo Seno, Wonn Soh, Toshiya Fujiwara, Christian
Müller, Hideaki Machiyama, Ei’ichiro Araki, Kohsaku Arai, Kazuki Watanabe, Leonardo Seeber,
Yusuf.S.Djajadihardia, Safri Burhanuddin, Badrul M.Kemal, Nugroho D.Hananto1, Hananto Kurnio1,
Yudi Anantasena, Kiyoshi Suyehiro, A new model for the unusual tsunami generation off northwest
Sumatra during the 2004 Sumatra-Andaman earthquake, 2008 AOGS meeting.
11.平田賢治,津波波源の形成伝播(地震の破壊伝播)を考慮した津波予測システムの展望,2008 年度
地球惑星科学連合大会,2008.
12.平田賢治,Jeffrey.A.Hanson, Eric.L.Geist, 瀬野徹三, 徐垣, 富士原敏也, Christian Müller,町山栄
章, 荒木英一郎, 荒井晃作, Yusuf.S.Djajadihardia, Safri Burhanuddin, 末廣潔, 2004 年インド洋大津
波波源域南部(スマトラ北西沖)における津波発生メカニズムに関する5番目のモデル仮説, 2008 年度
地球惑星科学連合大会,2008.
114
3.4 津波観測と警報システムの高精度化
平成 17 年度は太平洋沿岸を、18 年度は日本海沿岸を、19 年度は離島等を対象として、我が国
沿岸おび外洋における津波・波浪等の海象観測システムの概略設計をとりまとめた。
とりまとめにあたっては、津波は非常に稀な事象であるため、津波だけを対象とした観測網で
あっては、日常における良好な維持管理が困難となるとともに、長期間にわたって観測情報に関
する多数の人々の関心を継続的に維持することは現実的には困難となることを配慮した。すなわ
ち、津波観測網は、日常の波浪等の観測機能をあわせ持つものでなければならないため、大水深
海域での cm オーダ精度で海面の上下運動や水平運動の観測が可能なGPSブイに、異常時の津
波検知に加えて、常時の波浪・洋上風などのモニタリング機能の付加を行うよう、観測データの
処理法に関する検討を並行実施し、津波情報センターの概略設計に反映させた。
以下に各年度の研究成果をとりまとめる。
3.4.1 平成 17 年度の成果
3か年計画の1年目である平成17年度においては、歴史的な津波災害を引き起こした推定地
震震源などをもとに、我国沿岸における太平洋沿岸域に焦点をあて、津波観測網の配置計画の
概略検討を行うとともに、GPSブイによる観測情報から津波波形を抽出するフィルターに関す
る検討を行った。
①太平洋沿岸における津波観測網の配置計画の検討
歴史的な津波災害を引き起こした推定地震震源や、地理的配置バランスなどをもとに、太
平洋沿岸の津波観測候補点の配置を検討し、代表的検討対象として下記の5観測候補点を選
定した。
太平洋沿岸における津波観測候補点は、以下の7地点である。
釜石沖・大船渡沖・気仙沼沖・御前崎沖・尾鷲沖・串本沖・土佐清水沖
②津波波形を抽出するフィルターに関する検討
沖合での早期津波検知が目的なので,フィルター処理に時間をかけられない.ここでは,沖合
で 10 分程度早く津波を検知できるメリットを活かした情報発信を目標とするため,フィルター長
としては±60s 以下,すなわち,遅れ時間を 1 分間以下とすることを与条件として検討を行なっ
た.
数値フィルター形状は,インパルス応答とも言われる.すなわち,インパルス信号を入力波形記録
とし,任意形状の数値フィルターをかけた出力波形記録は,フィルター形状そのものとなるからであ
る.逆に,数値フィルター形状がインパルス関数である場合,入力波形と出力波形は一致する.言い
換えれば,インパルス形状のフィルターは,すべての周波数を透過させる周波数応答特性をもったフ
ィルターである.
十分に長いフィルター長を設定できれば,任意の周波数応答特性を有する数値フィルターを設
定することは,理論的に可能である.しかしながら,津波抽出フィルターの設計にあたっては,
強くその即時性が求められるので,十分なフィルター長の確保が困難である.前述したように,
±60s といったフィルター長の中で,周期5分以下の比較的短周期の成分をより効果的に除去す
115
ることができるフィルターの選定が重要である.ここでは,図-1 は,以下の代表的な4種類のフ
ィルター形を想定したものである.
① 単純移動平均フィルター
② 式(1)の第1項だけをとったCOS型フィルター
③ ナウファス長周期波検出フィルター
④ ハミングウィンドウをかけたフィルター
図-1 4種類の数値フィルターの周波数応答
①の単純移動平均フィルターは,いわゆるサイドローブが見られる周波数応答であり,波浪や
うねりの影響を完全には除去できない.式(1)の第1項だけを抽出した②の COS 型フィルターは,
サイドローブ現象が①に比べて小さくなっているが,完全には消えていない.③のナウファス長
周期波検出フィルターは,周期 30s 以上の常時の長周期波の観測を目的としたものであるため,
津波抽出の観点からはノイズとなる周期 30s から 300s にかけての透過率がほぼ 1.0 と大きいため,
津波検出には不向きである.こうした観点から,サイドローブ現象が見られず,かつ,周期5分
以下の短周期ノイズは,極力除去することができる,④のハミングウィンドウ型フィルターを,
ここでは採用することとした.このフィルターは,次式で表現される.
π ⋅i ⎞
⎛
H (i ) = A ⋅ ⎜ 0.54 + 0.46 ⋅ cos
⎟ M ⎠
⎝
(i = − M ,L,+ M )
(2)
図-2 は,以上の検討結果をふまえて提案する津波波形抽出処理フローを示したものである.こ
のフローは主としてGPSブイを想定したものであるため,海象計などの海底設置式波浪計によ
る場合は,測位信頼性評価やミスフィックス事象への対応部分は除いて考えることができる.な
お,観測波形記録における異常値判定は,ナウファスの手法を採用した.
116
観測データ
[ DGPS解以下精度 ]
[ フィックス解 ]
①測位信頼度
[ フロート解 ]
< OFF >
MF判定
②ミスフィックス
フラグ(MF)設定
< ON >
④観測データの平均水位と
標準偏差σの計算
⑤平均水位との差分Δηの計算
No
③欠落処理
⑤
ミスフィックス
判定
Yes
⑥差分データの標準偏差σD の計算
⑦隣接データの差分ΔηDの計算
⑦
異常値判定
NG
③欠落処理
OK
⑧欠落データ
30秒以下
No
Yes
欠測
⑨欠落データの補完
⑩ローパス(±60s)処理
⑪天文潮汐の除去
⑪平均水位補正(12時間)
GPSブイ特有の処理
偏差抽出
津波判定
図-2 提案する津波波形抽出フロー
3.4.2 平成 18 年度の成果
3か年計画の2か年目である平成18年度においては、歴史的な津波災害を引き起こした推定
地震震源などをもとに、我国沿岸における日本海沿岸域に焦点をあて、津波観測網の配置計画
の概略検討を行い、想定される代表的な津波観測候補点に関する電源・通信等のインフラ環境
に関する資料収集を行い、当該観測候補点における観測システムの試設計を実施した。
①日本海沿岸における津波観測網の配置計画の検討
平成17年度に全国沿岸域における概略の津波観測網の配置の検討結果を踏まえ、平成18年
度は、歴史的な津波災害を引き起こした推定地震震源や、地理的配置バランスなどをもとに、
日本海沿岸の津波観測候補点の配置を検討し、代表的検討対象として下記の5観測候補点を
選定した。
117
日本海沿岸における津波観測候補点は、以下の5地点である。
浜田、若狭湾、能登半島沖(舳倉島)、男鹿半島沖、奥尻島
②インフラ環境に関する資料収集
①の作業によって抽出された津波観測候補点それぞれについて、周辺地形条件や海底地形
条件を収集整理した。この際、電源や通信回線の整備状況に関しても、可能な限り現地条
件を把握するように努めた。この資料収集結果は、上記③の観測システム設置位置の提言
に活用した。
③システムの試設計
・
①の作業によって抽出された津波観測候補点それぞれについて、GPS津波計の洋上
設置点と陸上ステーションの設置位置の選定作業を試行した。この際、観測の精度と確実
性を確保するため、安定的な係留が可能である海底地形条件であること、洋上ブイと陸上
ステーション間の見通しが良好なこと、洋上ブイと陸上ステーション間の距離を20km以下
にとどめること、などを配慮した。
日本海沿岸では、太平洋沿岸と異なり、勾配が大きい急峻な海底が多く、設置場所の選
定にあたっては、海底地形について特に考慮すべきことがわかった。
・ GPSブイによる観測情報が、津波来襲時に有効に機能するためには、日常から観測デー
タが多数の行政・住民・研究者等にリアルタイム情報配信され、観測情報が活用されてい
なければならない。このため、GPSブイシステムは、発生頻度の極めて稀な津波に加え
て、日常来襲する波浪に関しても、質の高い観測情報を常時発信し続けなければならない。
こうした観点に立ち、平成18年度には、ネットワーク波浪・津波観測情報の集中的なリア
ルタイム処理システムに関する試設計にあたって、波浪観測情報、特に波向き観測情報の
適切な処理・解析システムに関して、GPSブイの室戸沖実証試験機による現地観測情報
を用いて検討し、データ処理フローをとりまとめ、さらに、観測センターの解析システム
に組みこんだ。
118
ブイ動揺に伴う毎秒の
X, Y, Z 観測データ
異常データ処理
津波波形抽出
長周期波形抽出
波浪解析
ゼロアップクロス解析
Hmax,Tmax,
H1/3,T1/3,etc.
(ブイ動揺補正なし)
スペクトル周期帯解析
f1 : 換算波高
f2 : 換算波高,波向
f3 : 換算波高,波向
f4 : 換算波高,波向
f5 : 換算波高,波向
f6 : 換算波高(ブイ動揺補正)
データ処理フロー
3.4.3 平成 19 年度の成果
3か年計画の最終年度である平成19年度においては、我国沿岸における外洋上の離島・岩礁
に焦点をあて、電源自給や通信回線使用について考慮した、遠地津波観測システムの概略検討
を行った。さらに、平成17年度(太平洋沿岸)および18年度(日本海沿岸)に関する検討結果
を含めた、我が国沿岸および外洋における津波・波浪等の海象観測システムの概略設計をとり
まとめた。
とりまとめにあたっては、津波は非常に稀な事象であるため、津波だけを対象とした観測網
であっては、日常における良好な維持管理が困難となるとともに、長期間にわたって観測情報
に関する多数の人々の関心を継続的に維持することは現実的には困難となることを配慮した。
すなわち、津波観測網は、日常の波浪等の観測機能をあわせ持つものでなければならないため、
大水深海域でのcmオーダ精度で海面の上下運動や水平運動の観測が可能なGPSブイに、異常
時の津波検知に加えて、常時の波浪・洋上風などのモニタリング機能の付加を行うよう、観測
データの処理法に関する検討を並行実施し、津波情報センターの概略設計に反映させた。
①外洋上の離島・岩礁を活用した遠地津波検知システムに関する検討
外洋上の離島・岩礁周辺海域における観測は、遠地津波の早期検知や、もっとも勢力の強い状
態にある台風の観測に有効であり、沿岸域の防災にあたって重要となる基礎データの測得が期待
119
できる海域である。反面、外洋上の離島や岩礁の周辺地形は急勾配であることや、離島や岩礁上
には電源や通信などの基本的なインフラ整備はなされていないことなどを考慮すると、離島や岩
礁を活用した観測システムの構築にあたっては、内地の太平洋沿岸や日本海沿岸とは異なる配慮
も必要となる。こうした制約条件をふまえて、ここでは、以下のようなGPSブイに関する観測
システム改良適用を提言した。
a) 無線システムの省電力化による電源供給制約条件の克服
内地沿岸域で標準的システムとして提言した10W無線出力システムを1W出力システムに変更
し、電源負荷の軽減をめざした。離島や岩礁周辺域では、一般に急勾配海岸であるため、内地
沿岸で標準とした10-20kmの離岸距離を離したブイ設置は必ずしも必要とはされず、離岸距離
5km以下であっても、十分に大水深観測条件が確保できるためである。無線の強さは、出力電力
量に比例するとともに、通信距離の自乗に反比例するため、理論的には通信距離が20kmから5km
へと1/4になると、無線出力強さは、1/16でも同じレベルの信頼性を有する通信が期待
できるためである。
b) 20分を単位とした間欠的なデータ通信システムの採用による衛星通信回線使用負荷の削減
離島や岩礁から内地の情報センターに定常的に観測情報を通信するためには、通信単価がき
わめて高額な衛星通信を用いなければならず、連続的に接続しデータ収集することは現実的で
はない。他方、遠地津波が離島や岩礁から内地沿岸に到達するには、1時間程度以上の時間差
が想定されるので、内地沿岸観測点とは異なり、秒単位での速報性は必ずしも要請されない。
このため、離島や岩礁における観測に限っては、20分を単位とした間欠的なデータ通信システ
ムの採用による衛星通信回線使用負荷の削減を提言した。
②津波情報センターの概略設計
前項で述べた検討によって抽出された外洋上の離島・岩礁を活用した遠地津波検知システムを考
慮するとともに、平成17年度および18年度の検討結果を反映した、津波情報センターの概略設計を
行った。GPSブイによるデータ処理解析システムとしては、平成17年度には津波波形自動抽出法
について、平成18年度には波向観測情報を含む常時の波浪観測情報処理法について検討したが、平
成19年度においては、洋上風の観測情報処理法について検討を行った。
図に,ブイ動揺補正の有無による風速観測結果の瞬時比較例を示す.図中の実線はブイ動揺
補正をしない観測値を,プロットはブイ動揺補正後の値を,それぞれ意味している.2分間の瞬
間最大風速は,実線の観測値では12.7m/s,プロットの補正値では13.8m/sとなっており,瞬時
値としては,ブイの動揺補正の有無によって風速が10%程度異なっている.このように,瞬時
の風況を算定するには,ブイ動揺補正が不可欠であることが,他の観測時のデータからも示さ
れた.しかし,図における実線とプロットの相違は,5s弱程度の一定の周期性を持って出現し
ており,平均風速としての両者の差は小さく、平均風速を論ずるためには、ブイ動揺補正は必
ずしも必要ないことが明らかにされた.この周期5s弱程度の周期は,GPSブイの回転運動(ロ
ーリングおよびピッチング)固有周期に対応するものである.
120
風速の差(m/s)
2
1
0
-1
-2
14
風速(m/s)
12
10
8
観測値
補正値
6
04/7/17 17:00:00 04/7/17 17:01:00 04/7/17 17:02:
日時
図-1 室戸沖におけるGPSブイ実証試験によって観測された洋上風の一例
なお、国際協力として海外に津波情報センターを構築する場合は、それぞれの国や地域毎
に電源・通信網などの社会基盤整備状況が大きく異なるため、それぞれの社会基盤整備条件に
対応した適切な観測システムの構築が望まれる。本調査では、3か年の本調査によって、我が
国沿岸域の中で、太平洋沿岸や日本海沿岸のような社会基盤整備が比較的十分になされている
事例と、外洋上の離島や岩礁のように電源供給も期待できず独自の電源や通信回線確保が必要
な事例とを検討することができたため、今後は、個別の国際協力案件の中で、適切なシステム
提案を行うことが可能となった。
この際、特に注意しなければならないことは、長期間にわたって津波観測網を維持していく
ためには、津波観測網は、日常の波浪等の観測機能をあわせ持つものでなければならないこと
である。従って、基本システム・運用方法は、各国毎の事情によって異なる姿になることが想
定されるが、日常の波浪等の観測情報の配信を定常的に行うことのできる観測センターの体制
作りが望まれる。我が国の国土交通省港湾局関係機関によって長年にわたって運用され、開発・
改良が進められてきた全国港湾海洋波浪情報網は、一つの「あるべき津波観測・情報システム
の姿」のモデルケースとなるものである。
③研究成果のとりまとめ
3か年の研究成果をとりまとめ、その概要を平成19年10月16日に東大地震研で開催された研
究者連絡会で報告するとともに、平成20年1月22日から24日にかけて、タイ国プーケット市に
て開催された国際シンポジウムで発表した。この国際シンポジウムでの発表内容は、英文論文
集としてとりまとめられている。
④本研究成果の活用と今後の発展
国土交通省では、本研究成果を活用し、平成18年度に太平洋北東岸に2基の実機GPS波浪
計を設置し、平成19年度よりリアルタイム外洋波浪観測情報のホームページによる公開を開始
するとともに、平成19年度以降も図に示すようなGPS波浪計観測ネットワークの構築を進め
121
ている。こうした、実際の国土交通行政の中にも、本研究成果は、一部活用されている。
我が国が、外洋における津波・波浪・洋上風等の観測と警報システムの高精度化の分野で
国際的リーダーシップの確保するためには、まずは、我が国自身に、各国の模範となる実際の
高精度観測網を構築し、各国に紹介することが肝要である。国土交通省港湾局関係機関が、長
年にわたって運用され、開発・改良が進めている全国港湾海洋波浪情報網では、気象庁や地方
自治体等とも連携しつつ、本研究成果をふまえたGPS波浪計による沿岸防災へのより一層の
貢献をめざしている。
H18整備済
H19整備
計画中
設置エリア(将来構想)
図-2 国土交通省港湾局関係機関によるGPS波浪計の全国沿岸への展開状況
122
調査研究成果の発表状況(全体)
(成果発表の概要)(調整費充当領域分)
1. 原著論文(査読付き)
報 (筆頭著者:2報、共著者:1報)
2. 上記論文以外による発表
国内誌:1報、国外誌:1報、書籍出版:該当なし
3. 口頭発表
該当なし
4. 特許出願
該当なし
5. 受賞件数
該当なし
1. 原著論文(査読付き)
1)T.Nagai, T.Kato, N.Moritani,H.Izumi, Y.Terada And M.Mitsui:Proposal of Hybrid
Tsunami
Monitoring Network System consisted of Offshore, Coastal and On-Site Wave
Sensors, Japan Society of Civil Engineers, Coastal Engineering Journal Vol.49 No.1 , pp.63-76,
(2007)
2)永井紀彦・清水勝義・李在炯・藤田孝・久高将信・額田恭史:ブイの動揺を考慮した GPS
波浪計による洋上風観測, 土木学会, 海洋開発論文集 第 23 巻, pp.1003-1008,(2007)
3) 清水勝義・永井紀彦・李在炯・泉裕明・岩崎峯夫・藤田孝:沖合水面変動記録を用いた津
波成分即時抽出法に関する研究, 土木学会, 海洋開発論文集 第 22 巻, pp.523-528, (2006)
2. 上記論文以外による発表
国内誌(国内英文誌を含む)
1)永井紀彦:波浪観測網の強化による海の安全の確保-GPS波浪計 2006 年度より配備開
始!-, 土木学会, 土木学会誌 第 91 巻第9号(2006.9.号), pp.78-79,(2006)
国外誌
1)Nagai, K.Shimizu, J.H.Lee, M.Iwasaki, T.Fujita, M.Kudaka : Development Of
Muli-Purpose Offshore Observation System Using Gps Buoy, Coastal Structures , Book of
Abstract Coastal Structures 2007 International Conference 11B-225, 2007.
3. 口頭発表
招待講演
なし
主催・応募講演
なし
123
3.5 津波警報を活用する防災計画・防災対策マニュアル・防災情報共有プラットフォーム
目次
1)要旨
2)スマトラ島北部のバンダアチェ市の復旧、復興の状況と課題
3)津波警報を活用する防災計画・防災対策マニュアルとしての防災教育の提案
4)防災情報共有プラットフォームの構築
3.5.1 要旨
もっとも被害の大きかったスマトラ島北部のバンダアチェ市の3年間の復旧、復興の状況を現地
にて調査し、復興の課題、生活再建の課題を整理した。その調査を下にして、今後の同市におい
て、津波警報を活用する防災計画・防災対策マニュアルとして、我が国で開発されてきた防災計画・
災害対応技術を活用した住民参加型の分かり易い防災教育を提案し、試験実施してそれらが効果
的であることを取りまとめた。これらの調査には、シャクアラ大学Tsunami and Disaster
Mitigation Research Centerの協力受けた。
時間と地図上の位置で情報を管理できるGISを使った防災情報共有プラットフォームシステムを構
築し、本研究で収集してきた調査資料をアップロードし、公開した。
124
3.5.2 スマトラ島北部のバンダアチェ市の復旧、復興の状況と課題
ⅰ) BRR の活動状況の調査
①調査の主旨
アチェ州とニアス島に対する復旧復興事業は国際的な支援金とインドネシア政府の支出により 4 年間
で USD8billion(約 1 兆円、日本の生活費に換算すると 10 兆円以上)が支出される大規模な復旧復興事
業である。そのマネージメント経験は開発途上国における大災害復旧復興の先例として共有されるべき
大変貴重な経験である。
ア チ ェ 州 と ニ ア ス 島 に お け る こ の 復 旧 復 興 事 業 は 、 BRR ( Agency for the Rehabilitation and
Reconstruction of Aceh-Nias;Badan Rehabilitasi dan Reconstruksi NAD-Nias)を一元的な調整機関として
実施されている。ここでは、BRR の実際の活動状況について、公開資料の調査とインタビューによる調査
の結果を報告する。なお、調査は 2007 年 10 月までに実施しており、その後の変化はこの報告に含まれて
いない。
②BRR の概要
BRR は 2005 年 4 月 16 日にインドネシア政府により設立された 4 年間を期限とする期間限定の特別機
関であり、アチェ州とニアス島の復旧復興事業に関わる各援助団体の調整と国庫を経由した予算による
事業を推進する。Advisory Board、Supervisory Board、Executing Agency の 3 組織で構成されており、実
行組織(Executing Agency)はバンダアチェ市内に置かれている。
③調査結果
主として、BRR の活動に関する出版物による調査と、2007 年 8 月から 10 月にかけての口頭インタビュ
ーと書面インタビューによる調査である。調査結果を Q & A 形式にまとめて以下に要約する。
ア) BRR と雇用契約のある職員について
a. 職員数と職員の出身地?
表-1 BRR 職員出身地
2005 年 9 月
2006 年 9 月
2007 年 8 月
外国人
0
0
0
前職がインドネシア政府職員で BRR 退
職後は元に戻る予定の人
アチェ州とニアス島出身者
76
101
38
69
495
395
アチェ州とニアス島以外の出身者
75
134
58
220
730
501
計
・BRR の職員は 2009 年 4 月までに 300 名まで縮小する予定である。
・BRR の活動は 2009 年 4 月までとされているので多くの業務を地方自治体(アチェ州庁)に引き継がなけ
ればならない。地方自治体の職員数を増やさなければならないが、その能力向上が課題である。
b. BRR 職員の雇用契約年数と Executive メンバー?
・10 名の Executive を除いて全員が最長で 1 年契約である。
・10 名の Executive の内訳は、Chairman:1, Secretary:1, Deputy chair:8 である。Chairman はインドネシア
政府の大臣で、Deputy chair の内の 1 名は女性。
125
c. BRR 職員の学歴は?
博士
その他
修士
学士
図-1 BRR 職員学歴
d. BRR 職員の男女の比率は?
女/男=0.14
イ) BRR のポリシーについて
a. 津波や地震の被害を受けなかった所も含めてアチェ州全体の向上が図られているようだが
Build-back-better ポリシーによるものか?
→その通りである。被害を受けた地域だけの教育水準やインフラ水準が向上すると不満が出る。また、バ
ンダアチェ市だけがハイテク技術の導入を進めても教育水準の高い人材が供給されないと行き詰まる。
b. Build-back-better のポリシーを実行するためには予算が不足するようだが?
→その通りである。インフレの影響もあって、2007 年 8 月の時点で不足は USD 4.8 billion.(0.6 兆円)と見
込まれている。インドネシア政府と 10 カ国の支援国は Build-back-better ポリシーの下で援助を増額す
ることに同意しており、BRR の継続期間(2009 年 4 月まで)とその後の期間に渉って援助を続けることを
約束しているが、不足分が全てまかなわれる見通しはまだ無い。
c. BRR のミッションの一つは汚職の根絶であったが上手くいっているか?
→BRR は 3 つの手段を講じている。
・第 1:高給、通常の公務員の 16 倍(十分暮らしていける給料を支払えば汚職がなくなるか国家的に実
験している、とのこと)
・第 2:採用契約における書面宣誓、汚職が発覚すると即解雇
・第 3:重層化した監査制度
d. 競争入札制度を採用しているか
→発注の規模によって変えている。原則は自由競争入札であるが、小規模なものは地域の業者育成の
ために地域業者に限定した入札を行っている。極端な低価格応札があった場合 BRR は慎重に内容を
検討し、再入札にかることがある。
e. 政治家の介入は排除できているか?
→BRR は政治家の関心が生じないように次の 3 施策をとっている。
A. 職員の採否は専門的能力により決める。
B. マスタープランに従って個々の復旧復興プログラムを進める。
C. BRR で働いているときに政治活動を行った人にはペナルティーを課す。
f. Community-driven village planning は上手く機能しているか?
→300 の村で案が示され、20 地域で案がまとまりサインされた。これらは BRR がインフラ整備や生活再建
にかける予算の優先付けを決める上で大変役立っている。しかし、402 地域でまだ進行中である。不正
な申し立てを組織的に行うグループも登場し、時には寡婦や孤児が不利益を被るので、土地境界の画
定と地権者の認定に手間取っている。案がサインされていても、案を検討している段階では村にいなか
126
った地権者(遠方に避難していた人や遠い親戚)が現れて、案に同意しないケースもある。
多くの NGO が家を提供することだけに関心をもって独自の基準(広さや質)で家を建て提供してしま
ったため、問題が複雑になった可能性もある。
ウ) 復旧復興進捗の課題について
a. 一部の恒久住宅は空き家になっているようだが何故か?
→ ・多くの家族を抱えている人には一律の大きさの住宅は狭い。
・遠方で仕事に就いてしまった人は元の場所に住居を供給されても遠くて住みにくい。
・再建されても水道の布設が遅れている村がある。
・仮設住宅にいると水は無料で供給され、時には NGO が食料さえも提供してくれる。恒久住宅に無償
で入居できても入居後はこれらを自分で調達しなければならない。
・行政は、当初、テントで避難生活をしていた人達にお金を支給していたが、これを止めたところ仮設住
宅に移動した。行政は仮設住宅生活者への支援を徐々に打ち切ることを検討している。)
b. TRIP-Report(文献 2)によると Banda Aceh 市における教師の養成率 50%以下で遅れているようだが?
→Banda Aceh 市には多くの学校が集中し、母数が多い。2007 年末までに 75%の教師がトレーニングを終
える予定である。教師の養成プログラムのメニューには、授業と学習を進める手法と質の比較、学校運
営、実験室の実用的な活用、IT 研修などが含まれている。
c. TRIP-Report によると地域自治体の機能回復が遅れているようだが?
→人材不足が原因である。今後、BRR の機能を地域自治体が肩代わりしていくことになるが、人材育成と
地域自治体への予算の配分が不可欠である。
d. TRIP-Report によるとバンダアチェ市の海岸線改修と防潮堤建設が他の地域より先行しているが何か
理由があるのか?
→バンダアチェ市は人口も多く、破壊された海岸線も長い。BRR は生産活動活性化のためバンダアチェ
地域の護岸工事を優先的に進めている。
e. TRIP-Report によると津波の被害はなかったと思われる Aceh Tamiang 郡や Aceh Timur 郡においても
マングローブの植林が行われているようだが?
→BRR は環境改善を目的にマングローブの植林を進めている。マングローブの植林技術は難しく、植え
た苗が根付いていない地域もある。
f. Aceh Barat 郡と Aceh Jaya 郡では被害を受けた米作水田の 2 倍の面積が復旧されたことになっている
が?
→既存の水田の改良工事も含まれている。津波を被った後に復旧された水田での稲作(3 期作)は上手く
いっている。最初の植え付けの際は BRR が種籾と肥料を無償供与したが 2 回目からは農民自身がそれ
らを調達している(Dr. Aman Yaman が現地を案内してくれた)。一方、潅漑設備が不十分な水田の復
旧は難しい。
g. バンダアチェとメラボーを結ぶ海岸沿いの幹線道路の内の西半分の建設が遅れていてあと 2 年はか
かると見られる。また、既存の道路は砂利道のままでアスファルトの簡易舗装すらされていない。バンダ
アチェ市内の被害を受けた橋梁の復旧や補修もほとんど行われていない。これらは、この地域の復旧
復興の阻害要因になるのでないか?
→その通りである。津波の被害を受けた Aceh Besar 郡西海岸と Aceh Jaya 郡北海岸の道路復旧・建設
工事は土地地権者の確定や利害調整の問題と厳しい地形条件により予定より遅れている。そのため、
127
他の復旧工事の資材運搬にも影響している。このような道路状況はこの地域の復旧のあらゆる面に影
響するだろう。しかし、事態は改善されつつある。
h. 大量の津波廃棄物はどのように処分されたか?
→ヘドロがどこへ行ったかはよく分からない(聞いた相手が知らないだけか?)。
流された家屋などの廃材はリサイクルしている。BRR は廃材の収集者に IDR35,000/day (日本円にして
500 円/日、生活費換算すると 5,000 円/日くらい)支払っている。
紹介されたリサクルの現場を視察した。大量の廃材が収集されており良質なものは家具や学校で
使う机、いすに加工されていた。狭義のコストでは見合わない事業であろう。しかし、10 名以上の職
人が働いていて、木工技術職人の養成や CO2 削減の効果などで高く評価されるべきである。廃材
はまだまだあるとのことであった。
エ) 経済・政治的な課題
a. インフレが起きて消費者物価が上がっているようだが貧富の差が拡大していないか?
→消費者物価は 2 倍になった。外部から来た人が運転手を雇用し家を借りている。そのため賃金も上が
っているが、家賃が 10 倍になった。儲けられる人とそうでない人の格差が広がっている。
b. 貧富の差の拡大が政治的な不安定要因にならないか?
→今はそのような懸念はない。人々は新しいアチェ州知事に期待を寄せている。また、来年から BAM(ア
チェの武装独立運動組織)とインドネシア政府の間の和平協定に従ってインドネシア政府が石油採掘
会社からの税収の大半をアチェ州に還元することになっているので、アチェの人々はそれにも期待して
いる。一方、政治的な問題はとしては、自治体の首長が変わると地方行政の方針がコロコロ変わることが
問題である。そのため、最近、特に経済支援についての戦略的方針がアチェの自治体で定められ、長
期の恒久的な開発政策として用いられることになった。
④まとめ
ア) BRR は基本的にその機能を果たしている。この様な組織による大規模な復旧、復興の経験は今後の
大災害への対応に生かされる。
イ) プロジェクトの進捗状況に濃淡がある。地権者の確定が難題である。NGO 等の支援団体の身勝手な
行動が問題を複雑にしている場合がある。
ウ) 住宅建設はやや遅れ、施工品質に問題があるものの 2007 年末には当初目標を達成する。一方、道
路、水道、電力等のインフラ整備が遅れている。アチェ州西北海岸沿いの道路建設の遅れが地域の
復興に悪影響を及ぼしている。電力も発電・送電能力が不足し、停電が常態化している。
エ) BRR は 2009 年 4 月に活動を終える。それまでに地方自治体の行政能力を高め業務を移植していく
ことが大きな課題である。BRR 職員と自治体職員の給与格差、自治体職員の人材不足などの解決が
急がれる。
オ) 復 旧 復 興 の 総 必 要 額 の 見 積 も り は 当 初 予 算 の 1.6 倍 に ふ く れ あ が っ て い る 。 イ ン フ レ と
Build-back-better ポリシーの結果と推定される。BRR の活動が終了した後は、高水準のインフラ整備
を継続しながら、いわゆるバブル経済を軟着陸させる経済運営が必要とされる。
128
ⅱ)津波早期警報サイレンの誤動作とその影響
バンダアチェ市と周辺部に 5 台、ニアス島に 1 台の津波警報サイレンが設置されており気象庁(BMG)
職員がボタンを押すことによって遠隔操作でサイレンが鳴るようになっている。
2007 年 6 月 4 日(月)サイレン 3 台が相次いで誤警報を発し、パニックが起こった。そこで、この出来事
の推移を現地の新聞ならびに電子ニュースページを収集し調査した。
①誤報とパニックの状況
1 回目
10 時 30 分頃 Kajhu 地域(バンダアチェ北東部)のサイレンが
突然警報音を発し、およそ 30 分間鳴り続けた。数千人の人がパ
ニックとなりシャクアラ大学からバンダアチェ空港の方向を目指し
て遁走した。バイク、三輪バイク、4 輪自動車、そして素足で走る
ものもいた。人々は家族単位で逃げようと子供を捜し求めヒステリ
ックにわめき散らした。混乱の中で子供を見失う親もいた。道路が
渋滞し、バイクと車が接触して怪我人が出た。高等学校では親か
ら電話を受けた生徒が突然騒ぎだし、教師の制止を振り切って逃
げ出した。一部の学校では教師が子供達を直ちに自宅に帰した。
民間人ばかりでなく一部の行政職員も恐怖に駆られて走った。多
くの企業、学校がその日 1 日の機能を停止した。
写真-1 バンダアチェ市内の
津波サイレン
逃げた全ての人がサイレンの音を聞いたわけではなく、口伝え
や電話で(携帯電話がよく発達している)聞いて、あるいは周りの人が逃げるのを見てパニックとなった。こ
の日が丁度満月の大潮に当たり汐が異常に高くなるという噂があったのもパニックを助長した。
2 時間後に警察が広報車を出して誤報であると知らせて回り平静になった。5km 先の山の方まで逃げ
た人達を軍隊が車を出して帰宅させた。
2 回目
その日の午後早くに、Meuraxa 地域(バンダアチェの西方、Ulee Lhee とその西側)で津波警報サイレン
が突然鳴り出し、再びパニックが起こった。人々は山や近所の病院の上(Permata Hati 病院、Ulee Lhee
の近くで大津波の際に建物は流されなかった)、そしてモスクに走った。
3 回目
さらに同じ日の午後に、今度は Lhoknga 地域(バンダアチェの南西方)のサイレンが鳴り出した。既に午
前中の騒ぎを伝え聞いていた周囲の人はすぐに誤報と察知し、怒りだしてサイレンに向かって投石、電源
を切断して止めてしまった。
②誤報の原因
津波警報サイレン(Tsunami Early Warning System と現地では言っている)は BMG(Badan Meteorologi
dan Geofisika、気象庁)により管理されており、その職員がボタンを押すことにより遠隔通信でサイレンが
起動する仕組みになっている。BMG は職員の誤操作ではなく、機械的な故障だと言っている。前日に何
かの不具合があり修理が行われていたそうで、その修理が誤動作を誘引した可能性がある。
129
③今後の課題
新聞報道では数千の人達がパニックに陥ったとされている。バンダアチェ市の人口は 20 万人以上なの
で、町全体を巻き込んだパニックではなかったようであるが、多くの人が一触即発のトラウマ的状態にある
事は確かである。津波の高さに対する過度の不安があるようで、前回の大津波の際に安全であった近隣
の地域や建物に逃げるのでなく遠い山の方まで逃げようとする。津波はアラーの神が与える試練であるの
で前回よりも大きな津波が来ることもあると考えるようである。避難方法も無秩序で、遠くまで家族でまとま
って逃げようとする結果、多くの人が自動車やバイクを使い、渋滞してしまう。津波避難では御法度の橋を
渡る避難も行われている。また、携帯電話により噂が早く伝わったのも特徴的である(輻輳についての報
道はない)。
海岸沿いに多くの恒久住宅が建てられており、入居が始まっている。入居者自身が津波を体験してい
たり身内や親戚に犠牲者を出す過酷な体験をしているので、トラウマ的状況にあり、不安を抱えながら生
活していることは想像に難くない。そのような地域においては、まず、納得のいく避難施設や避難路を建
設し、次に、住民に津波の自然現象としての説明、避難方法の指導、避難場所と避難経路の指定などを
すすめ、合理的な避難行動をとるように指導していくことが必要である。それがトラウマ状態から住民を解
放する道でもあると思われる。
写真-2 現地新聞記事の切り抜き
130
ⅲ)2006 年 7 月ジャワ島南岸津波によるパンガンダランの被害調査
2006 年 7 月に発生したジャワ島南岸津波によるパンガンダランを調査した。短期間の調査であったが、
防災教育上の現状を知る成果があった。
①津波の遡上高さと被災状況
ジャカルタ大学のグループの緊急調査資料によると 2.5m から 3m の波が、海岸から 100m~120m に達
していたことが判るが、スマトラ島沖地震によるバンダアチェの津波よりは遙かに小規模である。
海岸線から 1 列目の民家は洗われて大破しているが、2 列目からは形は何とか保っている状態だった。
地震による大きな揺れが感じられなかった事もあって、多くの人は波が押し寄せるのを見てから逃げ出し
ている。健常者の多くは逃げられたが、老人や幼児を中心に数百人の犠牲者が出た。
②救援状況他
インドネシアの赤十字社が救援に入っていたが、スマトラ島沖地震ほどの注目度がなく、海外からの
NGO 等の支援にはかなり格差があるように思えた。テント村に避難していた被災者は政府の対応の悪さ
を非難していたが、アチェでは国際的な支援合戦になっている様子など知らないばかりか、1 年 7 ヶ月前
にアチェで大津波があったこと自体を今回自分たちが被災するまで知らなかったと言う人もいた。
調査のために現地に 1 泊したその日の夜にドスンと 1 回きりの衝撃的な地震を感じた。震度Ⅱ程度の小
さい余震と思われ、津波来襲を連想しなかったが、住民の半数が一時、山に逃げた、と翌朝聞いた。
図-3 大学研究者による遡上高さの緊急調査報告
写真-3 手前が住居跡、奥にテント村が見える。
131
写真-4 窮状を訴える避難民
3.5.3 津波警報を活用する防災計画・防災対策マニュアルとしての防災教育の提案
ⅰ)防災教育に関する Workshop の開催
①経緯
2006 年 8 月にバンダアチェの復旧状態の調査を行った際、約半日かけて防災対応関係者、警察・市職
員、大学教員、学生、を対象にワークショップを開催し、意見交換を行った。その際、バンダアチェ市の警
察などの行政側防災関係者と市民約 40 名を対象に実施した津波避難に対する意識調査の結果、群馬
大片田教授が開発した動く津浪・避難シミュレーション、日本の市民防災教育の事例などを紹介したが、
動く津浪・避難シミュレーションについてはバンダアチェ市でも実施可能か等について突っ込んだ質問が
あった。
このワークショップの経験をふまえて、2007 年 8 月 22 日に富士常葉大学と Syiah Kuala 大学が防災教
育に関する 1 日間のワークショップを共催した。以下に、このワークショップの状況を報告する。
② 2007 年のワークショップの概要
会場は Syiah Kuala 大学構内の会議場である。インドネシア側の参加者は約 40 名で、バンダアチェ周
辺部の高等学校、中学校の教師が 17 名、防災ボランティア活動に参加している学生 6 名、その他学生 9
名、市民団体・大学関係・BRR 関係者 8 名であった。シャクアラ大学側は学長も出席し挨拶を行った。日
本側の出席者はいずれも富士常葉大学の小川、小村、後藤の 3 名である。
プログラムは、日本の防災教育の紹介、動く津波・避難シミュレーションの紹介、住民参加型の避難計
画作成手法の一つとしてのタウンウォチングの紹介、インドネシア政府が策定中の防災計画の紹介であ
るが、午後に実際に屋外に出て、参加者にタウンウォッチングを体験してもらった。
③ 参加者へのアンケート結果の分析
ワークショップの前とワークショップの後に、参加者にアンケートをお願いした。アンケート結果を要約す
ると、
・設問:何を教えているか?
答:当然津波が多く次いで地震である。学校教師の方がより広く教えている点が興味深い。
・設問:どのような内容を教えているか?
答:学校教師は発災後の対処を中心に教えており、メカニズムを教える割合は低い
・設問:誰に教えているか?
答:NPO・大学関係者・学生は広い世代を対象にしておりコミュニティの防災教育に参画しているものと
思われる。
・設問:防災教育実施の課題は?
答:学校教師が教材不足を上げている点が注目される。
・設問:動く津波避難マップとタウンウォッチングは有効と思うか?
答:学校教師は大変有効と思うが 75%、有効と思うが 25%であった。学校教師以外はやや評価が冷め
るようである。
・設問:動く津波避難マップとタウンウォッチングを使おうと思うか?
答:学校教師は大いに使いたいが 75%以上を占め、特にタウンウォッチングについては 80%が大いに使
いたいとしている。他方、学校教師以外は自分自身が実施する場合を考えるのか、やや引いて評
価するようである。
以上の結果から、学校教育を通じた防災教育の普及を考える場合、教材の整備、動く津波避難マップ
132
の様な分かり易い教育ツール、タウンウォッチングのような参加型防災教育手法が技術支援として求めら
れている。
また、タウンウォッチングのグループ討議や結果のプレゼンテーションにおける学校教師の熱意と対応
能力はかなり高いように思われた。高等学校と中学校の教師であったことと呼びかけに応じて集まる人達
であるだけに意識が高いのであろうが、学校教育だけでなく地域の防災教育の担い手としても期待できる
ように思われた。
図-4 ワークショップ参加者による防災教育手法の評価
村に出てウオッチング開始
津波避難体験者の話を聞く
グループ討議
プレゼンテーション
写真-5 タウンウォッチングの様子
133
ⅱ)津波警報を活用するための防災教育の提案
以上に述べてきた調査ならびにワークショップの成果を下に、実際のコミュニティにおいて津波警報を
活用するための防災教育を実施し、最終目標とする津波警報を活用するための防災計画・防災対策マ
ニュアルの作成に進むことを提案する。
① 提案の要旨
・2004 年のインド洋大津波でもっとも大きな被害を受けたスマトラ島アチェ州バンダアチェ市では人口の
およそ 1/4、7 万人が犠牲となり、市域のおよそ半分が壊滅的な被害を受けた。3 年を経過して住宅の
再建は進み、被災者は元の地域に戻って生活を始めているが、津波警報サイレンの誤動作により大規
模なパニックが起こるなど、その多くはトラウマ的状態である。被災地域の復旧復興を活性化するため
には、住民が安心して生活再建に取り組める対策を示し普及していく必要がある。
・アチェ州の人達が信仰心に厚く大半の人が津浪を神の試練とする災害観を持っていることをふまえた上
で、これまでの調査の経験と蓄積を活用して我が国で開発されてきた防災教育技術の発展的な適用を
図る。具体的には、タウンウォチングのような住民参加型の避難計画作成手法と動く津浪・避難シミュレ
ーションの様な分かり易いビジュアルな教材を活用した防災教育手法の適用である。
・BRR(インドネシア政府アチェ・ニアス復旧・復興庁、2009 年 4 月までの時限組織)とアチェ州政府による
津浪避難対策事業と連携をとりながら、現地 NGO と市の防災担当に防災・津波避難教育の技術を伝
授し、彼らによるコミュニティベースの防災力向上事業を指導し支援する。
・事業は第 1 期と第 2 期に分け、第 1 期の対象地域はバンダアチェ市内で JICS((財)日本国際協力シス
テム)がコミュニティビル(避難ビル)を建設している 3 地域とする。第 1 期の結果を踏まえて、津波警報
を活用するための防災計画・防災対策マニュアルのプロトタイプを作成する。
・第 2 期の対象地域は、必要性、住民の期待、現地パートナーの熱意と継承性、支援事業としての分かり
易さ、ならびに安全面を考慮して、インドネシア全域から対象地域を選定し、同国の防災水準向上事
業の発展に貢献することを目標とする。
②実施計画
以下に第 1 期の実施計画を述べる。第 2 期の実施計画は第 1 期の結果を持って策定する。
ア)対象地域 GIS の作成、津浪避難シミュレーションによる検証、防災教育用避難アニメーション作成
対象地域について既存の GIS を活用しつつ、最新の衛星写真に基づいて 1/2500 以上の分解能を持
つ GIS マップを作成する。また、被災前の地図も作成する。さらに、バンダアチェ周辺海域の水深地図
(沿岸部 50m から沖合部 1km メッシュ)を作成する。
作成した GIS 地図を使用し、地震断層を仮定して津波・避難シミュレーションを行う。防災教育用に
2004 年 12 月の災害状況を再現したシミュレーションと、BRR・アチェ州政府が作成した避難計画に従った
シミュレーションを行う。後者では、地震・津波の発生、津波警報の発令と伝達、計画に従った避難をシミ
ュレーションし、実効性を検証する。
シミュレーションの結果を基に、一般の PC でも稼働できる津波・避難のアニメーションを作成する。アニ
メーションのシナリオについては、現地でのシャクアラ大学、地域関係者とディスカッションして決定する。
イ)住民教育用パンフレットと教材作成
住民教育用パンフレット(Flyer)は A4 サイズ 1 枚両面印刷で図を主体とする。対象コミュニティごとに作
成し全戸配布する。内容はその地域の警報の発令方法、避難場所、避難経路、避難上の注意などを表
面に、津波発生のメカニズム、日頃の注意などを裏面にわかり易く示した物とする。アチェの人達の厚い
134
信仰心に抵触しないように配慮する。
教材としては学校教育用教材と住民集会用の教材を作成する。学校教材はアジア防災センターがシャ
クアラ大学とバンダアチェ市の学校教師の協力を得て作成したマニュアルに基づいて作成する。住民集
会用の教材は、住民教育用パンフレットを補足した物とする。また、地域のリーダの役割、地域としてやる
べきことなども示した物とする。
ウ)コミュニティの現況把握・育成(ヒヤリング、セミナー、学校教育)
ヒヤリングでは、3 地域の中から最大で 50 家族程度の小コミュニティを 20 箇所程度選び、調査員がヒ
ヤリングでアンケート用紙を埋める要領の調査を行う。調査内容はアジア防災センターが実施しているイ
ンドネシア国自然災害管理計画調査の項目と整合するように設定し、データを相互に比較、活用出来る
ようにする。また、エ)オ)の終了後にも要点を絞った調査を行い、事業の効果を定量的に評価できるよう
にする。この調査では、コミュニティの成熟状況、リスクの理解や認知度、要求や関心事、年齢構成や災
害弱者の存在、リーダの有無、連絡方法などを調べる。調査を通じて人脈を形成することも課題とする。
セミナーは、調査対象とした小コミュニティ単位で行い、教材を使って津波に関する知識や注意事項を
伝達すると共に、津波避難アニメーションを見せて避難の重要性や課題を理解させる。さらに、住民参加
型避難計画作成(タウンウォッチング)の主旨と方法を解説し、参加を呼びかける。
学校教育では対象としたコミュニティを学区内に含む小学校、中学校に協力を要請し、教材を提供し
てパイロット授業を行う。また、地域を対象にしたセミナーや住民参加型避難計画作成に学校教師の積
極的な参加を促す。
エ)住民参加型避難計画作成
上述のコミュニティを対象に参加者を募り、津波避難を主題にしたタウンウォッチングを行う。参加者は
津波・避難アニメーションを援用しつつディスカッションを行い、当該コミュニティの避難経路を記したハザ
ードマップを作成する。ディスカッションでは、安心して避難できる環境を維持するために、自ら為すべき
こと、地域で協力すべきこと、行政にゆだねるべきことも議論する。
次に、タウンウォッチングに参加したグループを中心に、コミュニティビルが建設された 3 地域の避難計
画をコミュニティベースで作成する。作成に当たっては、小コミュニティ毎に作成されたハザードマップを
持ち寄り、津波警報の伝達方法、災害弱者避難の支援方法、小コミュニティ毎の避難経路等を具体的に
示した物とする。
オ)避難訓練の実施
作成した計画に従って訓練を行い避難計画の妥当性を検証する。最終的には大津波の発生した 12
月 26 日の 4 周年を期して本年末にインドネシア全土で行われる避難訓練に参加し、第 1 期の締めくくり
とする。
この訓練が住民参加で実効的に取り組めるかどうかがこの事業の評価ポイントの一つとなる。年末の訓
練後に要点を絞ったヒヤリング調査を行い、この事業の成果を広く展開していくための資料とする。
カ)防災計画・防災対策マニュアルのプロトタイプと第 2 期計画の策定
第 1 期の結果を踏まえて、津波警報を活用するための防災計画・防災対策マニュアルのプロトタイプを
作成する。また、その実証を念頭に第 2 期計画を策定する。
135
3.5.4 防災情報共有プラットフォームの構築
ⅰ)実施概要
平成 16 年度の科学技術振興調整費緊急研究スマトラ島沖大地震及びインド洋津波被害に関する緊急
調査研究でサーバー機と時間管理が出来る GIS データベースシステムが導入されているので、これにデ
ータ入力機能とデータ編集機能を追加し、インターネットに接続して Web から GIS 上の位置と時間でデー
タにアクセスできるプラットフォームを構築した。また、これまでに収集した現地調査写真や資料をアップロ
ードした。
ⅱ)システム構成
システム構成を下図に示す。図中の WebGIS サーバーが平成 16 年度の成果から引き継いだ部分であ
る。アップロードされるデータはまず調査員が画像・調査報告作成端末を用いて作成し、データ登録者の
基に送信される。データ登録者は必要な前処理を行って GIS システムである DiMSIS に登録し、生成され
る差分ファイルを WebGIS サーバーに移動させる操作を行う。
調査員が使用する画像・調査報告作成端末にはあらかじめ地図情報を持たせ、収集した情報に緯度
経度による位置情報を容易に付加できるようにした。
図-5 システム構成図
136
ⅲ)登録データの一例
次図が地図上に貼り付けられるデータの一例である。次々図に示す GIS 画面の地図中のフラグをクリッ
クすると次図のページがポップアップする仕組みである。写真のサムネイルをクリックすると拡大写真がポ
ップアップする。
図-6 地図上に貼り付けられるデータのイメージ
137
図-7 データが貼り付けられている位置にフラグが立っている。フラグをクリックすると貼り付けられている
データのサムネイルがポップアップする。
現在(2008 年 5 月)、サーバーは富士常葉大学のサーバー室に置かれ、以下の URL でアクセスできる。
http://sumatraserver.fuji-tokoha-u.ac.jp/research-db/
138
調査研究成果の発表状況(全体)
(成果発表の概要)(調整費充当領域分)
1. 原著論文(査読付き)
該当無し
2. 上記論文以外による発表
国内誌:該当無し、国外誌:1報、書籍出版:該当無し
3. 口頭発表
該当無し
4. 特許出願
該当無し
5. 受賞件数
該当無し
1. 原著論文(査読付き)
該当無し
2. 上記論文以外による発表
国内誌(国内英文誌を含む)
該当無し
国外誌
1)Y. Goto, Y. Ogawa & T. Komura:「Tsunami disaster reduction education using town watching
and moving tsunami evacuation animation –Trial in Banda Aceh- 」 ,Proceedings of the
International Symposium on the Restoration Program from Giant Earthquakes and Tsunamis,
283-288, (2008)
3. 口頭発表
該当無し
4. 特許出願
該当無し
5. 受賞件数
該当無し
5. その他の主な情報発信(一般公開のセミナー、展示会、著書、Wwb等)
該当無し
139
4.1 地域特性を考慮した防災都市再開発計画・都市復興計画の研究と提案
2004 年 12 月 26 日に発生した津波により,インド洋沿岸の発展途上にある多くの都市が,地震津波によ
り大きな被害を受けた.このようなスマトラ型巨大地震による津波地震は我国で懸念されている東海・東南
海・南海地震による被害にも通ずる.また地震防災分野の中で世界的にも先導的な立場である我国の知
見を,インド洋沿岸の被災地における今後の復興に活かしていくことは,我国が世界に対して貢献できる
重要なものである.
本研究ではこのような考え方に基づき,スリランカ等の被災状況と復興状況を把握し,分析することによ
り,都市計画的な視点からの今後の津波防災に活かす知見を得るとともに,我国が得てきた知見を被災
地の復興計画に資する提案を行うことを目的とし,実施した.その成果は以下のとおりである.
4.1.1 被災地での構造的被害,避難行動,および復興状況の調査
過去 3 年間にわたり,スリランカ,タイ,インドネシア等において,被災状況および復興状況の調査を実
施した.スリランカでは,ヒッカドゥア,ゴール,マタラ,ハンバントタなど南西海岸における橋梁と建物の被
災状況および,被害のより大きかった東側(トリンコマリー,クッチャベリ)の住宅再建状況を調査した.調
査では,被災地での復興状況の継続的な住宅再建悉皆調査(図 1,図 2)や,復興住宅におけるヒアリン
グ調査を実施し,入居に関する経緯や各問題点と都市計画上の課題について明らかにした.また,NGO
や政府機関にて,復興住宅等の統計データや政府の取り組みに関する情報と資料を入手した.これらの
入手データおよび資料に基づき,③,④,⑤について分析等を行った.ここであげた調査報告について
は,原著論文 2)や原著論文以外の論文にて適宜報告している.
■Not Damaged
■Repaired
■Remaining Damaged
■Demolished
■Re-Built
▲Temporary Shelters/Tents
I
#
I#
I
#
II
#
I##
I#
I
#
500m
I#
I#
#
I
II#
#
II #
I
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II
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I# #
II
I#
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I #
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I#
II
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I#
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I #
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I
I #
#
I#
I
I #
I##
I#
I
I##
I
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I#
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I#
I#
I#
I#
I
I #
II
#
I#
#
I
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I #
I#
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I#
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I#
I
I#
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I#
#
I
I##
I
I
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I#
I
#
I
#
図 1 スリランカ(ゴール地区)における復興状況図(2005 年 11 月現在)
140
被害無
修復済
被災保持
撤去済
建替え済(新築含む)
仮設住宅/テント
500m
図 2 スリランカ(ゴール地区)における復興状況図(2007 年 3 月現在)
4.1.2 被災地およびインターネット等を用いた被害状況,復興状況に関する資料とデータの継続的な収
集と整理
インターネットを用いて,継続的に発信される被害および復興に関する情報を収集し,現地で進められ
ている復興に関する新たな提案や問題について把握し,整理した.そこで得られた復興に関する政策的
課題や経緯に関する情報を,①で行った復興状況等の調査の基礎資料とするとともに,③,④の分析に
も活用した.
4.1.3 復興計画および今後の津波災害軽減のための,構造物被害の解析
2004 年のスマトラ島沖地震およびインド洋大津波の際には,家屋等の構造物の被害に加えて,港湾,
道路,電力施設,上下水道施設等の社会基盤構造物に甚大な構造被害が発生した.社会基盤構造物は
発災直後における救命・救助活動や応急復旧,本復旧及び復興の各段階の社会・経済活動において不
可欠なシステムであり,これらの構造物の津波被害を軽減するためにその被災メカニズムの解明と対
策案の検討は極めて重要な課題となっている。
このような背景を踏まえ,道路インフラの機能保持の観点からクリティカルな結節点として位置づ
けられる橋梁構造物を対象とし,上記の津波災害時におけるこれらの津波被災データに対する統計分
析により,津波作用に対する橋梁構造物の被災率の関係をフラジリティー曲線として定量的に明らか
にした(図 3 および図 4)5)。その際には,スリランカ及び北スマトラにおいて津波被害を受けた支承
を持たない 1 径間の置き桁形式の橋梁構造物に対象を絞って分析を行った。得られた知見をまとめる
と以下の通りである。
1)スリランカの津波被災データから作成したフラジリティー曲線に基づくと,津波の浸水深さが 6m
まで達すると,20%の橋梁の橋桁が流出する可能性があり,一方,橋梁が無被害である確率は約 30%
にとどまることが明らかとなった.
2)北スマトラ西海岸の津波被災データから作成したフラジリティー曲線に基づくと,全橋梁の 50%が
落橋の被害を受ける浸水高さは約 18m であることが明らかとなった.
以上のフラジリティー曲線は海岸線極近傍に位置する道路ネットワーク上の橋梁構造物の津波脆弱
性をマクロに計量化する貴重な指標になると考える。勿論,構造形式が異なればフラジリティー曲線
141
は異なると考えられ,落橋防止システムが一般化している我が国の橋梁構造物に対しては得られた知
見は過大な被災率を見積もる可能性もある。しかし,道路インフラの対津波設計を図る上で,上述し
たような「支承を持たない 1 径間の置き桁形式」という構造上シンプルで,津波作用に対して最も脆
弱であると予想される橋梁構造物に対してフラジリティー曲線が得られた意義は大きいと考える。
1.0
Data of rank A
Data of rank A+B
Data of rank A+B+C
Fragility curve of
rank A
Fragility curve of
rank A+B
Fragility curve of
rank A+B+C
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
0
3
6
9
12
15
18
Cumulative damage possibility Pci
Cumulative damage possibility Pci
1.0
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
0
21
Data of rankA
Fragility curve of rank A
0.9
3
6
9
12
15
18
21
Inundation height(m) Z
Inundation depth(m) Z
(a) スリランカにおける橋梁被害を対象とした場合
(b) 北スマトラの橋梁被害を対象とした場合
図-3 橋梁構造物の浸水深さに対するフラジリティー曲線
図 3 に示すフラジリティー曲線は津波作用に対する橋梁構造物のマクロな脆弱性を表している。こ
れを受け,次に津波被災メカニズムを力学的な観点から明らかにした。具体的には,庄司・森 4)によっ
て行われた水理実験(以下,庄司・森実験)より得られた実験データに対して分析を更に進め,橋梁
構造物を構成する橋桁に作用する抗力と浸水深さの関係性やそれらの知見の実橋梁への適用性に関す
る検討を行い,橋桁に作用する津波荷重評価を行った.なお,庄司・森実験は本研究プロジェクトの
活動の一環として平成 17 年度に実施され,その成果報告が平成 18 年度に行われたものである。
以上より,実験より得られた津波流速 vm から桁模型に作用する抗力 FDm を求め,桁の重量 Wm によっ
て無次元化した数値 β に関する評価を行った.図 4 ならびに図 5 は, β と橋桁に対する無次元化され
た浸水深さ (a − hc ) a との関係性を示した結果である.図 4 では,桁長 L と桁厚 T は等しいが幅員 B の
異なる 2 通りの実験値を同形で異色のプロットにより比較しており,図 5 では桁長 L と幅員 B は等し
いが桁厚 T の異なる 2 通りの実験値を同じく同形で異色のプロットにより比較している.なお,図中
の全ての数値は,桁移動が生じるか生じないかの閾値を示しており,桁模型と橋台の間の摩擦の状態
が静止摩擦係数に換算して μ 0 =0.71 と μ1 =0.80 の 2 通りとなるようにそれぞれモデル化されている。こ
れらより得られた知見をまとめると以下の通りである.
1) 橋桁の幅員 B が相対的に大きくなると,橋桁に対する浸水深さ (a − hc ) a がほとんど変化せずに桁
重量 W に対する抗力 FD の比 β が大きく低下する.これは,橋桁の抗力係数 CD が相対的に小さく
なり,橋桁に作用する津波作用力に対して抗力 FD が相対的に小さくなるためである.また,橋桁
の形状が極めて薄くなると β が 0.2 から 0.1 程度と著しく低くなる場合があり,対津波設計におい
て十分な注意が必要である.これは,津波の流れ場において橋桁に作用する流体力の力の釣り合い
から β が極小化する場合があることを意味する.
142
2) 橋桁の桁厚 T が大きくなると,β は右上方向に大きくなり,橋桁に対する浸水深さ (a − hc ) a が相対
的に大きな数値において桁移動が生じる.これは,橋桁の桁重量 W が大きくなる結果,津波の流
れ場に基づいたメカニズムよりも津波の衝撃的な水平波力に基づいたメカニズムに基づいて桁移
動が生じるためであると考えられる.
0.7
0.7
模型5 (CD=1.64)
模型5 (CD=1.64)
模型6 (CD=1.30)
模型7 (CD=1.58)
0.5
模型9 (CD=1.33)
模型10(CD=1.30)
0.4
模型12(CD=1.30)
模型11(CD=1.61)
0.3
模型6 (CD=1.30)
0.6
(1/2ρwCDAv2)/(ρVg)
(1/2ρwCDAv2)/(ρVg)
0.6
模型13(CD=1.30)
0.2
模型7 (CD=1.58)
0.5
模型9 (CD=1.33)
模型10(CD=1.30)
0.4
模型12(CD=1.30)
模型11(CD=1.61)
0.3
模型13(CD=1.30)
0.2
0.1
0.1
0
0
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
0.0
1.0
0.2
0.4
(a) μ=0.71 の場合
0.8
1.0
(b) μ=0.80 の場合
桁模型の幅員 B が変化した場合の β と (a − hc ) a との関係
図4
0.7
0.7
模型6 (CD=1.30)
0.6
模型6 (CD=1.30)
0.6
模型7 (CD=1.58)
模型8 (CD=1.30)
0.5
(1/2ρwCDAv2)/(ρVg)
(1/2ρwCDAv2)/(ρVg)
0.6
(a-hc)/a
(a-hc)/a
模型9 (CD=1.33)
模型10(CD=1.30)
0.4
模型11(CD=1.61)
模型12(CD=1.30)
0.3
模型13(CD=1.30)
0.2
模型7 (CD=1.58)
模型8 (CD=1.30)
0.5
模型9 (CD=1.33)
模型10(CD=1.30)
0.4
模型11(CD=1.61)
模型12(CD=1.30)
0.3
模型13(CD=1.30)
0.2
0.1
0.1
0
0
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
(a) μ=0.71 の場合
図5
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
(a-hc)/a
(a-hc)/a
(b) μ=0.80 の場合
桁模型の桁厚 T が変化した場合の β と (a − hc ) a との関係性
このような道路インフラ等の社会基盤構造物の津波被災メカニズムの解明と併せて,2006 年ジャワ
島南西沖地震津波の際に被災した家屋等構造物の被災分析を実施した。これは,本研究プロジェクト
の実施期間中である平成 18 年度において前述した津波災害が発生し,地震外乱ではなく津波外乱を主
たる作用荷重とした構造物被害が多数発生し,構造物の津波被災メカニズムを明らかにする上で極め
て重要な災害事例が得られたためである。具体的には,上記津波災害に関わる家屋等構造物の損傷状
況から津波荷重の逆同定を試み,内閣府による津波避難ビル等に係るガイドライン(2005)で採用されて
いる朝倉ら(2000)による津波波圧の算定式の妥当性を検討した 6).その際には,分析対象とする構造部
材の曲げ耐力ならびにせん断耐力と津波による水平波力が等しくなった場合に構造部材の損傷が生じ
ると想定し,曲げ耐力ならびにせん断耐力相当時における浸水深さと実測された最大浸水深さとの比
a を逆算した。以上より,逆算された係数 a と最大浸水深さの関係性を分析し,得られた知見をまとめ
ると以下のようになる。
1) 壁部材が係数 a =4~5 の耐力を有していても,津波作用を受けてひび割れ相当の損傷を受ける可能性
143
がある.また,同一部材でも異なった破壊メカニズムを想定すると係数 a ≤ 3 の領域の耐力相当と見
積もられる可能性がある.
2) 係数 a が 3 以上の十分な耐力を有する構造部材でも,津波の直接的な作用と津波の流れ場による他
方向からの作用の津波荷重の組み合わせにより,大きな損傷が生じる可能性がある.
3) 道路壁等の部材幅が長い壁部材は,津波の水流が部材の裏側に迂回しにくくなり,津波の直接的な
作用が大きくなるため, a ≥ 3 の耐力を有している壁部材にも損傷が生じる可能性がある.
4.1.4 被災地の地域特性を考慮した被災および復興状況の把握と分析
現地調査およびインターネット調査で得られた情報とデータを用いて,地域特性を考慮した被災状況と
復興状況の分析を行った.
スリランカでは,被災者の再建事業として,仮設住宅および恒久住宅の 2 段階に分けた住宅供給政策
をとっている.そのため仮設住宅の建設状況と,恒久住宅の建設状況についてデータを収集し,その建
設過程の推移について分析し,その地域性を明らかにした.被災状況については被害と地域特性の関
係を把握するため,模型をつくり,地域ごとの被災状況や再建状況と地域特性との関係等について,時
系列に基づく復興過程を定量的に示すことにより,明らかにした(図 6).そして,復興が遅れている要因と
して,政情不安やそれにともなう建設のストライキやドナーの申し込みの差異などが影響していることなど
が挙げられた.
またタイでは,被害の大きかったプーケット県とパンガー県の復興状況を調査し,被災の規模によって
住宅再建の供給の仕組みが異なり,それらが被災地の復興の速さに大きく影響していることなどを明らか
にした.タイの復興施策では,復興住宅を支給する際に,世帯ごとにひとつという規制をかけたが,籍を
入れていない夫婦が過度の住宅を入手するなどの問題も発生しており,それらに関する提言も行った.
さらに被災国のうち最も甚大な被害を受けたインドネシアでの調査の結果,インフラの整備状況等を分
析した(図 7).その結果,インドネシアの中でバンダ・アチェにて最も復興が遅れていること,またインドネ
シア政府のとった復興施策,すなわち都市マスタープランと地区・集落レベルのヴィレッジプランの整合
性がとりづらいため,復興の遅延に影響を与えたことや, NGO 等による復興支援をコーディネートする組
織の介在が不十分であり,復興支援に格差が生じていたことなどが明らかになった.
ここで得られた分析結果については,原著論文 3)や原著論文以外の論文にて適宜発表した.
100%
※
80%
60%
※
Ampara
Trincomalee
Matara
Colombo
Kalutara
Kilinochchi
Total
40%
20%
Batticaloa
Galle
Hambantota
Gampaha
Jaffna
Mullaitivu
0%
12月
5月
7月
9月
2004
11月
1月
2005
図 6 仮設住宅の建設戸数割合の推移
144
3月
復興量/被害量
2.500
250%
200%
2.000
1.500
150%
恒久住宅建設戸数
仮設住宅建設戸数
総住宅建設数
津波難民数(世帯)
仮設住宅居住者数
津波浸水地域修復面積(ha)
土地所有権証明書再発行申込件数
土地所有権証明書再発行件数
幹線道路再建距離(Km)
橋梁修復数
空港建設数
海港建設数
電気配線
診療所数
学校再建戸数
エビ養殖場清掃,再建(ha)
農地再建 (ha)
損害自治体数(村・ガンポン)
政府関連施設
・政府関連施設
・農地再建
・津波浸水地域修復面積
被災前
インフラ量
・仮設住宅居住者数
・損害自治体数
・海港建設数
・空港建設数
1.000
100%
・幹線道路再建距離
・土地所有権証明書再発行件数
・診療所数
建設予定住宅量
・学校再建
・電気配線
・総住宅建設戸数
・エビ養殖場清掃,再建
・恒久住宅建設戸数
0.500
50%
・橋梁修復数
・津波難民数
・仮設住宅建設戸数
0%
0.000
2006/12
(published)
2007/4/1
2007/5/1
2007/6/7
2007/8/7
2007/9/7
2007/10/7
2007/11/7
2007/12/7
2008/1/8
図 7 インドネシア(バンダ・アチェ)における被災量に対するインフラ復興量
4.1.5 日本における津波防災情報の収集と整理
平成 16 年に津波・高潮ハザードマップ研究会によって行われた調査を元に,インターネットを用いた平
成 18 年 8 月時点での津波ハザードマップの公開状況調査を行った.
その結果,津波災害経験の高い太平洋沿岸地域の津波ハザードマップの作成は,都道府県による公
開を中心に,市町村も進行しつつあり,平成 16 年と比較して公開率は約 3 倍に上昇していること,津波災
害経験の低い日本海側は公開率(作成状況)が低いこと,などを把握し,地域ごとの課題について明らか
にした(表 1).
また,実際の災害では,津波災害が単独で発生するとは限らず,地震など複数の災害と同時発生する
危険があり,津波災害がそれほど重要視されない地域では,津波ハザードマップを単独で作成すること
は予算的に困難と考えられるため,今後は防災マップとして,複数の災害情報とともに津波情報が掲載さ
れる形態が増加していくと考えられることなどについて,考察した.
そして,避難活用情報・災害学習情報に共通して,各情報の津波ハザードマップ全体での整備状況は
20~30%と低いことから,住民のための啓発の必要性やワークショップによる解説などのフォローが必要で
あることを提言した.
これらについては原著論文 1)等にて,発表した.
145
表 1 日本における津波ハザードマップ集計結果
都道府県 発行主体
海岸
線を
有す
る市
町村
数
平成
16年
公開
市町
村数
稚内市
釧路市
苫小牧市
92
18
八戸市
29
北海道
青森県
0
平成
18年
公開
市町
村数
平成
16年
公開
率
掲載災害情報
0.0%
○
3.4%
13
岩手県津波浸水予測図
○
○
○
○
○
○
本吉町
津波ハザードマップ
宮城県沖地震連動型
津波ハザードマップ
牡鹿町防災マップ
塩釜港津波ハザードマップ
名取市津波浸水予測マップ
仙台港津波ハザードマップ
気仙沼市防災マップ
村上市災害ハザードマップ
千葉県防災地図
津波浸水予想区域図
津波浸水予想区域図
宮城県沖地震連動型
宮城県沖地震連動型
宮城県沖地震連動型
宮城県沖地震連動型
新潟地震(S39)
元禄地震
元禄地震
東海・東南海・南海地震連動型
○
○
○
ハザードマップ基本図
東海・東南海・南海地震連動型
○
○
○
○
○
○
○
○
ハザードマップ基本図
東南海・南海地震連動型
○
○
○
○
○
○
○
○
南関東地震
○
備前市
日生町
県発行
神戸市
尼崎市
南あわじ市
県発行
県発行
県発行
直島町
香川県
22
5
22 22.7% 100.0%
○ ○
29
6
38
0
14
0
14
0
33
20
23
1
30
6
25
0
21
5
7 20.7% 24.1%
38
1
1
○ ○ ○
○ ○
0.0% 100.0%
0.0%
0.0%
7.1%
7.1%
12
0
2
4.3%
8.7%
11 20.0% 36.7%
2
0.0%
4.0%
21 23.8% 100.0%
4
0.0% 33.3%
県発行
海南市
県発行
高知市
土佐市
須崎市
宿毛市
愛南町
○
○
○
10
0
10
0.0% 100.0%
26
0
12
0.0% 46.2%
28
18
0
5
28 0.0% 100.0%
18 27.8% 100.0%
19
0
19
2
12 16.7% 100.0%
24
2
24
3
5
石垣市
竹富町
与那国町
その他(未公開自治体)
合計
○
東南海・南海地震
南海地震
南海地震
南海地震
東南海・南海地震
東南海・南海地震
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
◎
◎
○
○
○
○
○
○
◎
◎
◎
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
◎
○
○
○
○
○
宝永地震・安政地震
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
東海地震
安政東海地震
○
○
東南海・南海地震
東南海・南海地震
東南海・南海地震
南海地震
南海地震
東南海・南海地震
想定鳥取県沖地震
東南海・南海地震
東南海・南海地震
備前市日生町津波ハザードマップ
兵庫県CGハザードマップ
避難所マップ
○ 尼崎市防災マップ
津波ハザードマップ
広島県津波浸水予測図
鳥取県津波浸水ハザードマップ
香川県津波浸水予測図
香川県直島町
東海地震・関東地震・南
海地震・チリ地震津波な
ど
安政東海地震
東海地震
東海地震
東海・東南海地震連動型
東海・東南海・南海地震連動型
東海・東南海・南海地震連動型
東海・東南海・南海地震連動型
東海・東南海・南海地震連動型
東海・東南海・南海地震連動型
能登半島東方沖地震・北方沖地震
能登半島東方沖地震
東海・東南海・南海地震連動型
東海・東南海・南海地震連動型
宝永地震(1707年・南海地震)
○
○
○
○
○
○
○
○
○
8.3% 100.0%
0.0% 11.9%
○
さぬき市防災ハザードマップ
東南海・南海地震
○
○
○
津波浸水予測図
防災マップ
津波浸水予測図
高知市津波浸水予測図
津波避難地図
須崎湾津波ハザードマップ
宿毛湾津波ハザードマップ
愛南町災害危険箇所統括マップ
東南海・南海地震
東海・東南海・南海地震連動型
南海地震
南海地震
南海地震
南海地震
南海地震
南海地震
災害想定区域図
東南海・南海地震
○
津波浸水被害予測図
津波浸水予測図
南海地震
東南海・南海地震
○
○
○
○
○
○
○
◎
○
○
○
○
糸満市防災マップ
◎
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
嘉手納町防災マップ
◎
○
津波浸水予測図
○
M7.7想定地震
M7.7想定地震
M7.7想定地震
0.0% 0.0%
9.6% 33.9% 11 25 103 73 3
82
都道府県
部は公開率100%達成自治体
避難場所の表記について
発行主体
部は都道府県のハザードマップ統合ページ
146
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
南海地震
宝永・安政南海地震
○
○
○
○
○
沖縄市防災マップ
○
○
○
○
○
○
○
うるま市防災マップ
津波浸水予測図
津波浸水予測図
津波浸水予測図
○
安政・昭和南海地震
10 13.3% 22.0% ○
0
336
○
○
○
0
95
○
○
○
○
○
350
991
○
○
東南海・南海地震
沖縄市
6
○
○
○
○
寄島町津波避難ハザードマップ
○
45
○
○
○
○
○
○ ○
与那原町
○
○
○
○
糸満市
嘉手納町
○
○
○
○
○
22 13.6% 100.0%
うるま市
○
東南海・南海地震
県発行
佐伯市
豊後高田市
○
○
○
○
三陸地震津波
(M29/S8)・チリ地震津波
三陸地震津波
(M29/S8)・チリ地震津波
(M35)
三陸地震津波(S8)・チリ
地震津波(M35)
チリ地震津波
三陸地震津波(S8)・チリ
地震津波(M35)
0.0% 100.0%
12
0
○
○
◎
◎
◎
◎
○
○
備前市津波避難ハザードマップ
○ ○ ○
22
○
○
○
○
42
○
宮城県沖地震連動型
神奈川県津波浸水予測図
静岡県第三次地震被害想定結果(GI
○ ○
○
Sシステム)
○ ○ ○ 富士市ハザードマップ
推定津波浸水域図
津波浸水マップ
御浜町防災マップ
四日市市防災マップ
松阪市津波ハザードマップ
鳥羽市ハザードマップ
津波ハザードマップ
珠洲市における津波浸水予測図
七尾市津波浸水想定区域図
津波浸水予測図
古座川町津波ハザードマップ
津波浸水ハザードマップ
有田市津波浸水マップ
防災マップ
高石市津波ハザードマップ
南海地震津波ハザードマップ
津波ハザードマップ
岡山県津波浸水予測図
玉野市津波・高潮ハザードマップ
○
33 60.6% 100.0%
さぬき市
沖縄県
○
○
宮城県沖地震連動型
浅口市寄島町
大分県
○
○
宮城県沖地震連動型
県発行
愛媛県
○
○
○
津波浸水域予測図
富士市
浜松市
愛知県 南知多町
御浜町
四日市市
三重県 松阪市
鳥羽市
伊勢市
玉洲市
石川県
七尾市
県発行
古座川町
和歌山県
御坊市
有田市
大阪市
高石市
大阪府
堺市
岸和田市
県発行
玉野市
高知県
○
○
○
津波ハザードマップ
静岡県
徳島県
予想
到達
時間
想定
志津川町
唐桑町
牡鹿町
塩釜港
名取市
仙台港
気仙沼市
新潟県 村上市
県発行
千葉県
鴨川市
神津島村
新島新島港地
東京都 区
父島二見港地
区
神奈川県 県発行
広島県
鳥取県
十勝沖地震(M8.2)
チリ地震津波(M8.5)・十勝沖地震
(M7.9)
三陸地震津波(M29・S8)想定宮城
県沖連動地震
三陸地震津波(M29・S8)想定宮城
県沖連動地震
災害学習情報
避難場所情報
最
避
避
避難
大
自主 危険
難 津波
避難 難
開始
津
設定 箇所
時 学術 過去の津波災害記録
場所 経
基準
波
欄 表示
心 情報
路
指示
高
得
県発行
宮城県
兵庫県
○
13 100.0% 100.0%
釜石市
岡山県
稚内市防災マップ
くしろ安心マップ
苫小牧市防災マップ
岩手県津波浸水予測図
13
web
GIS 外力設定
八戸市津波浸水予想図
県発行
岩手県
浸水情報
平成
18年 高 洪 土 地 火
ハザードマップ名称
公開 潮 水 砂 震 災
率
18 19.6% 19.6%
1
避難活用情報
マップ形態・掲載情報
都道府県別公開状況
○
○
石垣島沖地震(M7.6)
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
68 23 98 82 34
74
43 37 52
○……避難場所表記あり
◎……避難場所表記と別に津波避難ビル表記あり
75
4.1.6 津波災害軽減のための都市計画的提案
各被災地の復興過程を把握し,比較するのは,その社会的背景が異なるため容易ではない.そこで本
研究プロジェクトを通して,仮設住宅および恒久住宅の再建状況を指標として評価する方法として,被災
後の復興状況を地域の物的環境という観点から定量的に記述する建物復興曲線を提案した(図 8).その
結果,仮設住宅の建設状況はゴンペルツ曲線が,また恒久住宅の建設状況は累積正規分布曲線が最も
適切に近似できることが明らかになった.次に,これらの曲線を用いて,スリランカ各地と国全体を代表す
る建物復興曲線を導き,仮設住宅と恒久住宅の復興過程から,その違いを定量的に明らかにした.ここ
で示した建物復興曲線構築の過程は,被災後の復興過程を定量的に記述し,社会的背景の異なる地域
間の比較を行ううえでの汎用的な方法論となり得る.例えば,スマトラ沖津波により被災した各国の復興過
程を本方法を用いて記述することにより,その違いが定量的に評価され,今後の復興計画や施策に資す
ることができる.また,ここで示した復興曲線構築手法をスリランカ以外の被災地についても適用し(図 9),
各地の復興曲線を構築した.
ここで得られた復興曲線は都市の復興を評価する手法である.この背景にある被災地の都市計画的課
題についても整理し,ドナーの存在やその仕組みについても構造化し,都市計画的な課題として整理し
た.
以上の結果を,論文としてまとめ,発表した(する予定である).
100%
90%
Construction Ratio
80%
70%
60%
50%
40%
30%
Permanent House
20%
Total-P
10%
0%
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
20
Months
Construction Ratio
図 8 スリランカにおける恒久住宅の復興曲線
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
Total
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
20
Months
図 9 タイにおける恒久住宅の復興曲線
147
22
24
調査研究成果の発表状況(全体)
(成果発表の概要)(調整費充当領域分)
1. 原著論文(査読付き)
7報 (筆頭著者:4報、共著者:3報)
2. 上記論文以外による発表
国内誌:21報、国外誌:11報、書籍出版:0冊
3. 口頭発表
招待講演:2回、主催講演:0回、応募講演:0回
4. 特許出願
該当なし
5. 受賞件数
該当なし
1. 原著論文(査読付き)
1)杉安和也,村尾修:「平成 18 年 8 月における津波ハザードマップの公開状況とコンテンツの比較」,
日本都市計画論文集, No. 42-3,613-618,(2007)
2)村尾修,仲里英晃:「スリランカにおける 2004 年インド洋津波被災地の復興状況調査報告 2005 年 11 月時点でのゴール・マタラ・ハンバントタの事例 -」,日本都市計画論文集, No. 41-3,
683-688,(2006)
3)仲里英晃,村尾修:2004 年スマトラ沖津波後のスリランカにおける恒久住宅建設過程の地域間
比較,日本都市計画論文集, No. 41-3,689-694,(2006)
4)庄司学,森洋一郎:「桁橋の津波被害再現実験」,海岸工学論文集,第 53 巻, 801-805,(2006)
5) Shoji, G. and Moriyama, T.: 「Evaluation of the Structural Fragility of a Bridge Structure
Subjected to a Tsunami Wave Load」, Journal of Natural Disaster Science, (2008) (to be
accepted).
6) 庄司学,森山哲雄,幸左賢二,松冨英夫,鴫原良典,村嶋陽一:「2006 年ジャワ南西沖地震津
波による家屋等構造物の被災分析」,海岸工学論文集,第 54 巻,土木学会,861-865,(2007)
7)Nakazato, H. and Murao, O.: 「Study on regional differences in permanent housing reconstruction
process in Sri Lanka after the 2004 Indian Ocean Tsunami」, Journal of Natural Disaster Science,
(2008) (to be accepted).
2. 上記論文以外による発表
国内誌(国内英文誌を含む)
1)杉安和也,村尾修,仲里英晃:「インドネシアにおける 2004 年インド洋津波被災地の復興マスター
プランとインフラ復興の現況」, 2008 年度日本建築学会大会(中国)学術講演梗概集 F-1, (掲
載予定),(2008)
2)仲里英晃,村尾修,杉安和也:「インド洋津波後のバンダアチェにおける復興の現状と居住環境
に関する課題」,2008 年度日本建築学会大会(中国)学術講演梗概集 F-1, (掲載予定),
(2008)
3)村尾修,杉安和也,仲里英晃:「タイにおける 2004 年インド洋津波被災地の建物復興過程」,
2008 年度日本建築学会大会(中国)学術講演梗概集 F-1, (掲載予定),(2008)
4)村尾修,仲里秀晃:「スリランカにおける 2004 年インド洋津波被災地の復興過程調査報告 その 6
-スリランカにおける 2004 年インド洋津波被災地の建物復興曲線-」,都市計画報告集 No.6-4
148
(CD-ROM), 130-135,(2008)
5)仲里英晃,村尾修:「スリランカにおける津波復興指針の変更と被災地の現状」,2007 年度日本建
築学会大会(九州)学術講演梗概集 F-1, 619-620,(2007)
6)杉安和也,村尾修:「日本における津波ハザードマップコンテンツの比較」,2007 年度日本建築学
会大会(九州)学術講演梗概集 F-1, 643-644,(2007)
7)杉安和也,村尾修,仲里秀晃:「タイにおける 2004 年インド洋津波被災地の復興状況調査報告
-2007 年 3 月時点におけるプーケット・カオラックの被災地の現状-」,都市計画報告集 No.6-1
(CD-ROM), 28-32,(2007)
8)仲里秀晃,村尾修:「スリランカにおける 2004 年インド洋津波被災地の復興過程調査報告 その 5
-住宅再建指針の改訂と 2007 年 3 月時点における被災地の復興状況-」,都市計画報告集
No.6-1(CD-ROM), 22-27,(2007)
9)杉安和也,村尾修:「平成 18 年 8 月における日本全国の津波ハザードマップの作成状況」,都市
計画報告集 No.5-4(CD-ROM), 113-116,(2007)
10)仲里秀晃,村尾修:「スリランカにおける 2004 年インド洋津波被災地の復興過程調査報告 その
4 -各地における仮設住宅建設の推移-」,都市計画報告集 No.5-4(CD-ROM), 109-112,
(2007)
11)村尾修,仲里秀晃:「スリランカにおける 2004 年インド洋津波被災地の復興過程調査報告 その
3 -2006 年 3 月時点における仮設住宅居住と恒久住宅建設に関する問題-」,都市計画報告
集 No.5-1(CD-ROM), 33-36,(2006)
12)仲里秀晃,村尾修:「スリランカにおけるスマトラ沖津波被災後の住宅再建状況」,2006 年地域安
全学会梗概集 No.18, 9-12,(2006)
13)村尾修,仲里秀晃:「スリランカにおける 2004 年インド洋津波被災地の復興過程調査報告 その
1 -2005 年 11 月時点におけるゴール・マタラ・ハンバントタの被災地の現状-」,都市計画報告
集 No.4-4(CD-ROM), 107-112,(2006)
14)仲里秀晃,村尾修:「スリランカにおける 2004 年インド洋津波被災地の復興過程調査報告 その
2 -復興計画と 2005 年 11 月時点における復興住宅の建設状況-」,都市計画報告集 No.4-4
(CD-ROM), 113-118,(2006)
15)庄司学,森洋一郎:「インド洋大津波によるスリランカの道路構造物被害に関する分析」,日本地
震工学会大会―2005 梗概集, 258-259,(2005)
16)庄司学,森洋一郎:「2004 年インド洋大津波におけるスリランカの道路構造物の被害」,第 9 回地
震時保有耐力法に基づく橋梁の耐震設計に関するシンポジウム講演論文集,221-224,(2006)
17)庄司学,森洋一郎:「2004 年インド洋大津波におけるスリランカの道路構造物被害に関する分
析」,筑波大学リスク工学研究, Vol.2, 41-45, (2006)
18)庄司学:「スマトラ沖地震による津波被害を受けた構造物の調査概要」,ビルデイングレター,
72-84, (2006)
19)庄司学,森山哲雄:「2004 年インド洋大津波の津波作用を受けた道路構造物に対する被災分
析」,第 10 回地震時保有耐力法に基づく橋梁の耐震設計に関するシンポジウム講演論文集,
115-120,(2007)
20) 庄司学,森山哲雄:「橋桁に作用する津波荷重の評価」,第 11 回地震時保有耐力法に基づく
149
橋梁等構造の耐震設計に関するシンポジウム講演論文集,土木学会,225-230,(2008)
21) Shoji, G. and Moriyama, T.: 「Tsunami Wave Load Acting to a Road Structure」, Proceedings of
the International Symposium on the Restoration Program from Giant Earthquake and Tsunamis,
173-178, Phuket, Thailand, (2008)
国外誌
1)Nakazato, H. and Murao, O.: 「Report on the Tsunami housing reconstruction process and
problems in Sri Lanka affected by 2004 Sumatra Tsunami」,Proceedings of the 2nd International
Conference on Urban Disaster Reduction (CD-ROM), 6p, (2007)
2 ) Murao, O. and Nakazato, H.: 「 Regional Construction Process of Temporary House and
Permanent House in Sri Lanka after the 2004 Sumatra Tsunami」, Asia Oceania Geosciences
Society, the 4th Annual Meeting (CD-ROM), IWG07-A0020, (2007)
3)Murao, O. and Nakazato, H.: 「Regional Characteristics of Building Damage and Reconstruction
Condition in Sri Lanka due to 2004 Sumatra Tsunami」, Asia Oceania Geosciences Society, the
3rd Annual Meeting, (CD-ROM), No. 59-SE-A1161, 927, (2006)
4)Murao, O., and Nakazato, H. : 「Recovery Curves for Housing Reconstruction in Sri Lanka after
the 2004 Indian Ocean Tsunami」, Proceedings of the International Symposium on the Restoration
Program from Giant Earthquakes and Tsunamis, 191-196, Phuket, (2008)
5)Murao, O., Nakazato, H., and Rupasinghe, N.: 「Report on the Post-Tsunami Reconstruction
Condition in Sri Lanka affected by 2004 Sumatra Tsunami」, Proceedings of the Memorial
Conference on the 2004 Giant Earthquake and Tsunami in the Indian Ocean, 151-160, (2005)
6)Shoji, G. and Mori, Y.: 「Identification of Tsunami Wave Loads based on Damage Assessment of
Road Structures in Sri Lanka due to the 2004 Giant Earthquake and Tsunami in the Indian
Ocean」, Memorial Conference on the 2004 Giant Earthquake and Tsunami in the Indian Ocean,
Abstract No. P1-2-2-3, (2005)
7)Shoji, G. and , Mori, Y.: 「Risk Analysis of Road Structures in Sri Lanka due to the 2004 Giant
Earthquake and Tsunami in the Indian Ocean」, Proceedings of the Asia Oceania Geosciences
Society 3rd Annual Meeting (AOGS 2006), Paper ID. 59-SE-A1212 (CD-ROM), 928-929,
(2006)
8) Shoji, G., Moriyama, T. and Mori, Y.: 「Fragility Analysis of Road Structures subjected to a
Tsunami Wave Load in the 2004 Giant Earthquake and Tsunami in the Indian Ocean 」 ,
Proceedings of the 2nd International Conference on Urban Disaster Reduction, Paper No.8-2-3,
Taipei, Taiwan, (2007)
9) Shoji, G. and Moriyama, T.: 「Evaluation of a Tsunami Wave Load Acting to a Deck of a Road
Bridge」, 14th World Conference on Earthquake Engineering, (2008) (to be accepted)
10) Nakazato, H., Murao, O., and Sugiyasu, K., 「Regional Transition of the Transitional House
Construction and Livelihood Problem in Sri Lanka affected by 2004 Sumatra Tsunami」, 14th
World Conference on Earthquake Engineering, (2008) (to be accepted)
150
11)Sugiyasu, K., Murao, O., and Nakazato, H.,: 「Comparison Study on Urban Recovery Planning
Conducted by the Affected Countries due to 2004 Sumatra Tsunami」, 14th World Conference on
Earthquake Engineering, (2008) (to be accepted)
3. 口頭発表
招待講演
1)村尾修:「2004 年スマトラ沖津波からの復興(スリランカ)」,日本建築学会,公開研究会「集団移転
をともなう海外の復興事例」,日本建築学会都市防災・復興小委員会,2007.1.22
2)Murao, O.: 「Mitigating and Responding to Tsunami Hazards in Japan and Recent Research in Sri
Lanka 」 , Changwon Convention Center, Gyung Nam Province, South Korea, International
Symposium for the Disaster Prevention of Korea, China, and Japan, 2006.6.12
4. 特許出願
該当なし
5. 受賞件数
該当なし
5. その他の主な情報発信(一般公開のセミナー、展示会、著書、Wwb等)
該当なし
151
4.2 地震・津波に強い都市施設構築技術の研究とケーススタディ(京都大学)
4.2.1 はじめに
本研究では,インドネシア国スマトラ島バンダアチェ市域における地震・津波災害後のアンケート調査に
基づいて,津波の来襲高さと被害の関係を明らかにするとともに,災害を将来にわたって忘れないための
津波高さのメモリアルポールを数多く建設し,それらを活用した津波遡上高さに関する評価,及び防災教
育を実施した.さらに,長水路を用いた津波の模型実験により,橋梁に作用する津波の波力の推定式の
検討や,マングローブが波力の低減にどのような効果を有するかについての検討を進めた.
4.2.2 バンダアチェ市における地震・津波被害調査
2004 年 12 月 26 日に発生した大地震はインドネシア国バンダアチェ市域を中心に甚大な被害を与えた.
津波による被害が甚大であるために,地震動に関する評価はほとんどなかった.例えばバンダアチェ市
域にける観測所でも地震観測されていたが,アナログ式記録であるとともに測定レンジも小さく,その地震
記録は図 1 のように振り切れて地震動強さを評価することが不可能であった.そこでアンケート調査により
地震の記録を収集するとともに,津波に関する調査も同時に実施した.
図1
バンダアチェ観測所における地震記録
まず津波に関するアンケートから得られた最も重要な結果は,地元民の津波に関する知識はきわめて
少ないということである.「あなたは大地震後に津波が来ることを知っていたか?」に対する回答を図2に
示す.
Yes
3%
K n e w if t s u n a m i w o u ld c o m e ?
No
97%
図2 津波に関するアンケート結果
他に重要な結果としては,大地震後すぐに避難しはじめたとしても,生き残っていた可能性は 100%で
はないという回答結果である(図3).つまりこの津波の破壊力は,絶望的なほど大きいという印象であった.
152
将来の地震や津波の来襲に対して人命を守るために重要であると考えられることとしては,防災教育や
避難ルートの周知,避難建物や警報システムなどの措置などが回答された.
図3
バンダアチェ市における生存者割合(括弧内は地震後すぐに避難していたとしたら生存し
ていたであろう確率を問うアンケート結果)
地震に関するアンケートにより地震動強度を評価したところ,震度5強~6弱程度となった.図4に対応
するゾーニングの詳細は A:5.49 (5+),B:5.35 (5+), C:5.61 (6 -),D:5.41 (5+),E:5.43 (5+),F:5.63 (6
-), G:5.47 (5+),H:5.44 (5+),(市内全数):5.50 (5+)である.USGS の発表はメルカリ震度で IX(震度6程
度)であること,また津波被害の小さい地域 H における建物被害調査結果と調和的である.
153
図4
地震動強さ推定における市内ゾーニング
4.2.3 津波高さメモリアルポールの意義と建設
大災害の記録と教訓を風化させずに長期間残すため,津波高さを表すポールを,市内の学校やモスク
の敷地,あるいは主な道路に沿って出来るだけ多数建設することを提案した.その意義は,津波高さの面
的な分布を示すこと,避難の参考となること,毎日見るので津波に対する正確な警戒を持ち続けられるこ
と,などである.またハザードマップの概念を現地で直接示すというメリットである.この建設計画は,ジャ
カルタの日本大使館の草の根運動資金を受けた現地 NPO ヤヤサンウミアバシア(シャクワラ大学タンタウ
イ教授代表)により進められた(図5).
津波ポールの下部のプレートに,津波が地震後何分でどの方向から来襲したかの情報を書き込んだ.
建設ポール数は,高さ1m の低いものから9m の高いものまで,合計85本である.配置図とそれぞれの様
子を図6に,詳細データを表1に示す.この写真の拡大版を建設した地点の関係者に配布し,それぞれ
の相互関係を明確にした理解が進むようにした.このプロジェクトがバンダアチェ市の将来の安全性に寄
与することを願う次第である.
154
図5
図6
津波メモリアルポールの一例
津波メモリアルポールの建設地点(道路地図による)
155
表1
1. 3.15 m 2.80 km GPG.
LAMDINGIN KEC.
KUTA ALAM
2. 2.90 m 3.00 km GPG.
LAMBARO SKEP
KEC. KUTA ALAM
津波メモリアルポールの詳細
23. 1.75 m 3.50 km
Asrama Mahasiswa
Unsyiah, Darussalam
24. 1.45 m 3.60 km
Kantor Rektorat Iain
Ar-Raniry,
Darussalam
45. 2.30 m 3.20 km Kantor
Pengadilan Negeri Banda
Aceh
67. 1.30 m 3.30 km RUMAH
BP. ALAMSYAH UMAR
JALAN SYIAH KUALA
46. 2.00 m 3.50 km Taman
Kanak2 YKA Taman Sari
68. 5.70 m 1.50 km MASJID
BAITUL MAGHFIRAH
PEUKAN BADA
3. 1.40 m 3.75 km MAN 1
25. 2.00 m 3.40 km MAN
3, RUKOH
47. 3.40 m 3.20 km SMA
NEGERI 1 BLANG
PADANG
4. 1.95 m 3.40 km SMP
NEGERI 2
26. 1.00 m 4.00 km SMP
NEGERI 18
48. 1.80 m 3.40 km SMPN 17
BLANG PADANG
5. 1.39 m 3.55 km SD
NEGERI 25
27. 1.80 m 3.85 km SMP
NEGERI 6
49. 3.80 m 3.10 km SDN 2
PUNGE JURONG
6. 1.84 m 3.70 km Masjid
Agung Al Makmur
Bandar Baru
7. 2.60 m 3.60 km SMK
NEGERI 2/STM
NEGERI
28. 0.90 m 4.30 km
DINAS PERTANIAN
TANAMAN PANGAN
50. 4.50 m 2.00 km Rumah
Ny. Zulkifli Narukaya
Blang Oi
51. 5.80 m 1.90 km Masjid
Syech Abdul Rauf Blang
Oi
8. 2.60 m 3.40 km SD
NEGERI 80, PRADA
9. 2.60 m 3.50 km Kanwil
Kehakiman Dan
HAM
10. 1.55 m 4.10 km
DINAS KOPERASI
DAN UKM
11. 3.20 m 3.50 km SMA
NEGERI 2
12. 2.70 m 3.70 km SD
NEGERI 20, POCUT
BAREN
13. 3.50 m 3.60 km SMP
NEGERI 9,
PEUNAYONG
14. 2.57 m 3.90 km
KANTOR BKPMD
15. 1.52 m 3.90 km SD
NEGERI 28, KP.
KEURAMAT
16. 0.89 m 3.90 km
DARUL ULUM,
YPUI
17. 1.52 m 3.70 km SD
KARTIKA XIX-I,
LAMPRIET
18. 1.91 m 3.40 km
Badan Perpustakaan
Wilayah
19. 1.80 m 3.80 km
MASJID
LAMGUGOB
20. 1.40 m 3.80 km MIS
LAMGUGOB
21. 1.00 m 3.90 km
STIES/AMBA
22. 1.30 m 3.70 km SD
NEGERI 69,
DARUSSALAM
29. 1.60 m 3.80 km SMK
NEGERI 3
30. 2.45 m 3.50 km
Kantor Dekranas
Taman Ratu
Safiatuddin
31. 2.65 m 3.40 km
KANTOR BAWASDA
32. 1.00 m 3.85 km
Direktorat Politeknik
Kesehatan
33. 1.80 m 3.75 km
Politekkes NAD
Jurusan
Keperawatan
69. 9.00 m (w) 0.50 km
MASJID LAM TENGOH
PEUKAN BADA
70. 7.00 m 0.40 km MASJID
INDRA PURWA
LAMGURON
71. 2.50 m 2.50 km
MEUNASAH TANJONG
KEC.LHOKNGA
72. 5.50 m 2.50 km SDN
KAJHU
KEC.BAITUSSALAM
73. 7.00 m 2.20 km Tanah
Widari Dawam Dawood Sp,
Cot Paya
52. 7.00 m 0.50 km Rumah
Bp. Bachtiar Zakaria
Deah Baro
74. 3.50 m 2.70 km SMAN-1
BAITUSSALAM
53. 3.90 m 1.80 km SMPN 11
LAMJABAT
75. 5.10 m 1.50 km MASJID
LAMBADA LHOK
BAITUSSALAM
54. 3.70 m 2.10 km SDN 95
GAMPONG BARO
76. 4.60 m 2.00 km GAMPONG
LABUI BAITUSSALAM
55. 2.20 m 2.90 km Masjid
Baitul Muqarrabin Punge
Blang Cut
77. 4.00 m 1.50 km GAMPONG
LAMNGA JALAN
KRUENG RAYA
34. 2.00 m 3.40 km SD 35
LAMPRIET
56. 2.20 m 2.90 km SDN 18
PUNGE BLANG CUT
35. 1.80 m 3.35 km
MASJID JAMIK
SILANG RUKOH
36. 1.20 m 3.80 km SMP
NEGERI 8
DARUSSALAM
37. 3.40 m 3.40 km SDN
27 GAMPONG
MULIA
38. 3.50 m 3.35 km MIN
Merduati Jalan
Malahayati,
GP.MULIA
39. 4.60 m 3.00 km
MASJID AL
MUKARRAMAH GP.
MULIA
40. 4.50 m 2.50 km
Masjid Tgk. Dianjong
PEULANGGAHAN
41. 7.00 m 1.80 km
SMPN 12 GAMPONG
JAWA
42. 6.00 m 2.00 km SDN 6
KEUDAH
43. 8.00 m (w) 1.80 km
SDN 8/38
MERDUATI
44. 2.70 m 2.70 km SD
MUHAMMADIYAH
LAMPASEH
57. 3.40 m 2.70 km
Universitas Iskandar
Muda, Surien
78. 3.40 m 1.30 km
MEUNASAH NEUHEUN
MASJID RAYA
79. 2.20 m 0.40 km
MEUNASAH DURONG
MASJID RAYA
58. 2.30 m 3.00 km SDN 97
LAMTEUMEN TIMUR
80. 3.30 m 1.00 km Meunasah
Paya Kameng Masjid Raya
59. 2.00 m 3.10 km SDN 93
LAMTEUMEN TIMUR
81. 3.40 m 0.50 km MASJID
KRUENG RAYA
60. 1.40 m 3.30 km PGSD
FKIP Unsyiah Goheng
82. 3.20 m 0.80 km GAMPONG
MEUNASAH KULAM
61. 2.00 m 3.30 km MIN
TELADAN
LAMTEUMEN
83. 3.20 m 0.80 km GAMPONG
MEUNASAH MON
62. 1.00 m 3.50 km Rumah
Zakaria Ismail
Lamteumen
63. 2.35 m 3.30 km Biro
Logistik Polda NAD
Lamteumen
64. 3.80 m 2.30 km SMPN 15
LAMPOH DAYA
65. 3.70 m 2.70 km SDN
JEULINGKE
61
66. 3.20 m 2.70 km SDN 106
RUKOH
156
84. 2.50 m 0.30 km MASJID
LAMREH KRUENG RAYA
85. 3.10 m 0.50 km
Pasantren/Dayah Al
Mahfuzhah Krueng Raya
Notes:
- Data in [m] is height and data
in [km] is distance from shore
- Poles 43 & 69 show wave
height.
Others
show
inundation height
- red in Banda Aceh, blue in
Aceh Besar
4.2.4 津波高さの海岸よりの距離減衰
津波ポールがバンダアチェ市内に建設されたものの,その位置や特に地表標高に関するデータは整理
されていなかった.そこでシャクワラ大学のスタッフ,学生らとともに GPS により全点計測した(図7).
図7 津波ポールの建設位置(GPS 計測による)
得られたデータを元に,海岸からの距離を横軸に,地表面からの津波高さを縦軸にとって図示したのが
図8である.これより海岸からの距離に応じて,津波高さが比較的なめらかに減衰しているのが分かる.次
にポール建設地点の海面よりの高さ(海抜)および津波高さを同時に示したものを図9に示す.バーの下
端部が地表高さ,バーの長さが津波の地表よりの高さ,バーの上端部が津波の通常海面よりの高さであ
る.4km 程度まで通常海面より 15〜20m 程度の津波高さが確認できる一方,3〜4km にかけては津波高さ
は 5〜10m まで減衰しているデータが多い.これらの結果より,津波の来襲高さは,地表面の高さよりも海
岸からの距離の影響を大きく受けて減衰することが分かる.すなわち海岸よりの距離が津波に対する安全
性の大きな指標となる.
157
図8
図9
地表面からの津波高さ
海抜からの地表面および津波高さ
4.2.5 津波ポールの防災教育への活用
こ津波ポールの下部のプレートには,津波が地震後何分でどの方向から来襲したかの情報を書き込ん
であり,その配置図の拡大版を建設した地点の関係者に配布し,それぞれの相互関係を明確にした理解
が進むようにしている.特に小中学生を対象に地震・津波に関する防災教育を実施し,地震・津波の発生
メカニズムとともに津波ポールを活用した避難方法などの防災教育を実施した(図10).
158
図10
津波ポールにおける防災教育の事例
4.2.6 構造物への津波波力の計測とその低減に関する模型実験
津波による構造物への波力の計測および消波ブロックやマングローブによる波力の低減に及ぼす効果
を検討するため,京都大学防災研究所の長水路を用いて津波実験を実施した(図11,12).
図11 長水路実験施設と橋梁模型
実験のパラメータとしては,橋梁構造物の形式,津波深さ,津波速度,そして浮遊物の有無である.実
験より,津波速度と構造物への作用力には相関性があり,津波に浮遊物が混じっている場合には作用力
は大きく測定された.また構造物に到達するまでに津波力を低減することを期待し,構造物より海岸側に
消波ブロックを設置した実験を行った.この結果より津波高さの半分以下の消波ブロックでは津波力や速
度を低減される効果は小さいことが明らかとなった.
159
図12
津波再現実験
次に橋梁構造物より海岸側にマングローブを配置した水路実験を実施した.マングローブモデルの剛
性および高さを変化させて構造物への津波外力および津波速度を計測した.柔らかく低いマングローブ
は,津波高さがマングローブ高さの 1.5 倍以下の場合,津波外力を最大で 6 割,津波速度を 8 割低減す
ることができた.剛で低いマングローブの場合も同様に津波の威力を低減することができるが,さらに背の
高いマングローブは津波外力を最大で5%まで低減することができた(図13).
図13
マングローブ実験結果(剛性が高く高さが高い場合)
4.2.7 社会基盤施設の被害低減策への低減
構造物に作用する津波力は消波ブロックなどにより低減されることは水路実験より確認できたが,津波
高さがその障害物の 2 倍以上の高さになるとその効果は無くなることも明らかとなった.したがってバンダ
アチェのような起伏の少ない地域では,現在進められている海岸線における堤防などの物理的被害低減
策に加え,日常生活における避難ルートの確認や防災教育が重要である.その観点から,津波ポールプ
ロジェクトは被害の記憶(地震の情報,津波高さ,海岸からの距離)や避難ルートの認識などにおいて有
160
用な情報を提供できるといえる.また大きな津波に対しては堤防の効果は小さいことから,海岸線に近い
位置での避難建物は人的被害の低減に不可欠である.堤防やマングローブなどによる津波力の低減策,
日常の防災教育,避難場所の確保を核とした社会基盤施設・人的被害の被害低減策を講じることが重要
である.
謝辞:
本研究はバンダアチェにおける現地研究者の協力無くして実現することは不可能であった.特にシャク
ワラ大学アグサリム教授, NPO ヤヤサンウミアバシア代表タンタウイ教授代表をはじめとするバンダアチ
ェ現地研究者および学生の協力に深く謝意を表する.また津波実験では京都大学防災研究所安田助教
に実験指導等協力頂いた.重ねて謝意を表する.
161
調査研究成果の発表状況(全体)
(成果発表の概要)(調整費充当領域分)
1. 原著論文(査読付き)
該当なし
2. 上記論文以外による発表
国内誌: 0 報、国外誌: 2 報、書籍出版: 0 冊
3. 口頭発表
招待講演: 0 回、主催講演: 0 回、応募講演: 1 回
4. 特許出願
該当なし
5. 受賞件数
該当なし
1. 原著論文(査読付き)
該当なし
2. 上記論文以外による発表
国内誌(国内英文誌を含む)
該当なし
国外誌
1) Mulyo Harris Pradono:「Experiments of Tsunami Force on Bridges and Reductions by Mangroves」,
Proc. Symposium on Giant Earthquakes and Tsunamis, Phuket, Thailand, 2008.
2) Mulyo Harris Pradono:「The Effect of Mangroves on the Tsunami Force on Bridge Models」, Proc.
International Conference on Earthquake Engineering and Disaster Mitigation, Jakarta, Indonesia, 2008.
3. 口頭発表
招待講演
該当なし
主催・応募講演
1)Mulyo Harris Pradono:「Experiments of Tsunami Force Acting on Bridge Models」,第 29 回地震工学
研究発表会,九州大学,2007.
4. 特許出願
該当なし
5. 受賞件数
該当なし
5. その他の主な情報発信(一般公開のセミナー、展示会、著書、Web等)
該当なし
162
4.3 地震津波に強いライフライン施設の研究とケーススタディ
4.3.1 はじめに
スマトラ型巨大地震・津波の災害後に社会生活基盤である上下水道などのライフライン施設の機能が
停止すれば、緊急対応だけでなく復旧・復興にも支障を来たす。そこで、本研究では、地震動や波動に
耐える構造物だけでなく、被災後に迅速に復旧できるライフラインのシステム化を図るため、スマトラ地震
における脆弱施設を分析し、災害に強いシステムへの復旧・都市政策に提言を行うことを目的としてい
る。
都市基盤整備を含めたまちづくりにおいて、地震や津波などの災害が発生してもまちが破壊されずに
機能を維持しつづけることが期待される。しかし、地震リスク管理の観点からも、完全に損傷しない都市基
盤を構築するには経済的にも技術的にも難しいことは明らかである。それゆえ、人々が安心・安全に生活
を送ることができるように、「防災」概念の他、災害による被害をできるだけ小さくする「減災」の立場で防災
対策が進められている。また、その防災対策は地震前の地震予防対策・地震直後の応急対策のみに着
目するのではなく、予防・準備・災害・緊急対応・復旧・復興、そして、次の予防につながるサイクルの中で
進められていく必要がある。災害で街が被災したときに、まず諸条件を踏まえて原形復旧が可能であるか
判断される。比較的被害が小規模である場合、予算が確保できない場合等では補修・補強を施しながら
基本的に原形復旧を目指すことが専らである。一方、大規模災害によって街全体が壊滅し原形復旧が不
可能となった場合は、土地区画整備事業の介入やライフラインの新設など都市の再計画がなされる。つ
まり、都市復興は戦略の如何によって都市機能の仕組みも多大な影響と変化を受け、経済面でも防災面
でも左右される。そのために原形復旧が不可能となった街や都市を効果的に復興・新設し、かつてのシス
テム以上のものを提供するための方策が期待される。
「復旧」は元に戻すことであり、現在の災害対策基本法では「復旧」することは国の義務とされ、現実に
履行されている。一方「復興」の概念については、兵庫県南部地震以降、社会学・地震防災工学を主とす
る研究や研究者によって様々に定義されてきたが、今もなお最大の論点の一つとなっている。東京都震
災復興マニュアル
1)
では都市と生活を分けた上で、都市復興とは「旧状の水準を超えた新しい価値や質
が付加された都市空間を生み出すための措置を講じること」であり、生活復興とは「震災によって大きな変
容を迫られた社会の中で、被災者が生活の変化にうまく適応するための営み」であると定義している。林 2),
3)
は、「復興」とは「災害前とまったく同じ施設、機能に戻すのではなく、地域が災害に見舞われる前以上
の活力を備えるように、暮らしと環境を再建していく活動のこと」と定義している。
本研究においてもこれらの定義を踏襲するが、これまでにライフラインに視点をあてて都市と生活の復
興を関連付けた研究事例はない。そのため、本研究における復興を『旧状の水準を超えた新しい価値や
質が付加された都市空間を生み出し、被災者が生活の変化にうまく適応するためのライフラインを構築す
ること』と定義する。また、原形復旧を基本とするライフラインの復旧戦略の中で、旧システムの一部を復
旧しても全体のシステムとしては変わらず、若干の信頼性が向上するにすぎない。そこで、一部の管路を
修繕するのではなく、ある限られた地区を再構築する、または、システムの構成が変わるような斬新な復
興が本来の復興であるべき方向性であると考え、「ライフライン再構築」を構造的・機能的なライフラインの
復興と捉える。
本研究では壊滅したライフラインを復興して都市を再開発する点に焦点をあてるため、2004 年スマトラ
島沖地震津波で被災したタイのパンガー県のライフライン復興を対象に検証する。また、同様な津波被
163
害の被災地として、1993 年北海道南西沖地震で被災した北海道奥尻島について検討した。
4.3.2 スマトラ沖津波地震によるタイにおける被害
スマトラ島沖地震津波は 2004 年 12 月 26 日インドネシア西部時間午前 7 時 58 分に発生し、発生箇所
は北緯 3.298 度、東経 95.779 度で、地震規模はマグニチュード 9.3 であった。タイ沿岸部のプーケット周
辺に津波が到着した時間は同日タイ現地時間の午前 10 時頃(現地時間、地震発生午前 7 時 59 分)であ
る。タイではカオラック(Khao Lak)で平均 10m、プーケット(Phuket)で 5m という津波高さが高田ら 4)の現地
津波後調査から得られている。タイでの人的被害は 2005 年
1 月現在で死者数が 5,395 人、行方不明者数が 3,071 人で
Tenasserim
ある。また、12 月 26 日はクリスマス休暇中ということもあり、多
Chumphon
Tenasserim
くのヨーロッパからの外国人観光客が被害を受けた。観光客
Ranong
と外国人労働者が多く、国籍を特定できない人が多かった。
タイでは、高田ら
4)
の調査によると地震の揺れをほとんどの
Surat Thani
人が感じておらず、またガタガタと物音がしても知識がない
Phangnga
ため地震と認知していなかった。タイでの震度は気象庁震
Nakhon Si Thammarat
度階で震度 1 程度と考えられる。しかし、津波の到着時間は
Krabi
Phuket
地震発生から約 2 時間半後であり、津波警報が発表されて
Songkhla
いれば海岸近くの住民等が避難する時間は十分にあった。
Trang Phatthalung
表-4.3.1 にタイの人的被害状況、図-4.3.1 にタイの津波被
災地域の図を示す。県(Province)別に被災者数をみると、パ
ンガー(Phang Nga)県の被害者数が圧倒的に多い。
0
12.5
Pang Nga
負傷者
行方不明者
1,186
1,633
1,403
4,222
4,344
1,253
5,597
1,448
324
1,772
349
198
174
721
808
568
1,376
348
294
642
Phuket
151
111
17
279
591
520
1,111
257
385
642
Ranong
156
4
0
160
215
31
246
9
0
9
3
2
0
5
92
20
112
1
0
1
Satun
合計
Kedah
合計 タイ人 外国人 合計 タイ人 外国人 合計
Krabi
Trang
Perlis
図-4.3.1 タイ津波被災
死者
タイ人 外国人 不明
25
Satun
Perlis
表-4.3.1 タイの人的被害状況 5)
県名
Songkhla
Satun
km
50
6
0
0
6
15
0
15
0
0
0
1,851
1,948
1,594
5,393
6,065
2,392
8,457
2,063
1,003
3,066
パンガー県は人口 234,188 人、面積 4,170 ㎞ 2 で、8 つの TAO (Tambon Administration Organization)
と 48 町 318 村からなる。TAO とは、地方自治を掌る日本の役場、町役場にあたる部署で、災害復旧方針
も中央政府や DDPM (Department of Disaster Prevention and Mitigation、内務省防災管理局) から任せ
られている。今回の津波による死者と行方不明者数を合計すると 6,567 人となり、これはパンガー県全人
口の 19 分の 1 にあたる。表-4.3.2 と図-4.3.2 にパンガー県の中でも最も大きな被害を受けたバンムヤン
(Bang Muang)TAO とカオラック TAO 管轄域地元住民の被害者数分布を示す。
164
表-4.3.2 バムヤンとカオラック地区の被害者数
#
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
村名
Ban Bang Por
Ban Nam Kem
Ban Bang Mor
Ban Bang Muang
Ban Bang Ma Rvan
Ban Bang Luud
Ban Bang Sak South
Ban Bang Sak North
Ban Pak Weep
Ban Bang Ka Ya
Ban Nai Baan
Ban Kuuk Kak
Ban Bang Niang North
Ban Bang Niang South
Ban La Own
合計
死者
4
199
4
15
3
4
54
10
6
30
14
6
29
2
8
388
行方不明 負傷者
8
NA
255
448
10
1
5
4
5
1
3
8
14
NA
16
18
26
58
50
198
31
97
31
46
49
176
10
23
8
21
521
1,099
(人)
±
^_
k
kk
k
k
k
^_
k
k
避難所
浸水域
Damaged
Heavily Damaged
TAO所在地と管轄域
^
_
^_
k
0 1,7503,500
7,000
Bang Muang TAO
Khao Lak TAO
10,500
14,000
m
図-4.3.2 バンムヤンとカオラック
TAO 管轄域
4.3.3 パンガー県のライフラインの被害と復旧
(1)水道ライフライン
パンガー県の地中管路施設で津波被害を受けたのは、パンガー県バンムヤン TAO 管轄下のナムケム
村(Namkem)周辺のみであり、被害金額は 4 百万 Baht であった。本水道システムは PWWA (Provincial
Water Works Authority、県内水道企業団)により運営されており、隣接するタクアパー市の東側山間部の
表流水から取水し、国道 4 号線に沿ってナムケム村まで供給されているものである。本管は口径φ
100mm からφ200mm のポリエチレン管が主に使用されており、地盤の良い地区では一部硬質塩化ビニ
ル管使用されている。ポリエチレン管は日本で使用されている規格とは異なるが、可とう性があるため、タ
イ政府からは推奨されている。
図-4.3.3 にナムケム村での津波による管路被害、住宅被害と浸水域を示し、図-4.3.4 にバンムヤンエ
リアにおけるナムケム村の位置を示す。被害形態は、写真-4.3.1、4.3.2 に表したナムケム村で使用されて
いる水道メータの写真からわかる通り、地上に飛び出ているメータ部分に瓦礫が引っかかって破損してし
まったことや、施工が悪いためにポリエチレン管の融着部で損傷した等が挙げられる。また、津波後に軍
隊が瓦礫の除去作業や住宅の復旧工事に入った際に、管路の埋設箇所を分からずに掘削して管路を傷
つけてしまった事例も多くあった。これは、津波前は道路舗装もされていなかった為に区画がはっきりして
いなかったことが要因である。よって、行政と民間企業の間で管路図を共有していれば未然に防げた事
態であろう。カオラックエリアは各自治区、ホテル等で深井戸から取水しているため管路は通っていなか
った。
165
± ±
Water Pipe Line
Repaired
No Damage
House Damage
Collapsed or Flooded
Moderate
Slightly
No Damage
Inundation Area
Damaged
Heavily Damaged
水道管路
損傷管路
無傷管路
浸水域
Damaged
Heavily Damaged
0 50 100
200
300
400
m
0 1,7503,500
図-4.3.3 ナムケム村津波被害状況 6)
7,000
10,500
14,000
m
図-4.3.4 ナムケム村の位置
水道局の緊急対応は、災害発生当日の 12 月 26 日から被害状況の把握と同時に本管復旧作業の開
始をしている。翌日 27 日からは応急給水と井戸水汲み上げポンプの供給を行った。応急給水は顧客で
ない住民にも提供され、一週間で合計 88 万 Baht を要した。当時の職員数は、技術職員が 7 人と事務員
が 4 人であったが、スラタニ(Surat Thani)県から職員が派遣されるなどして 1 ヵ月後には復旧作業が完了
した。復旧方針は、新しく埋設し直すのではなく埋設されている既設管を利用した原形復旧を基本として
おり、古い管路の横に新しい管路を埋設している箇所もある。復旧作業が 1 ヶ月というスピードで完了した
のもこのような方針によるためである。
写真-4.3.1 は 2005 年の津波による被災直後の水道メータ、写真-4.3.2 は地震発生後 2 年後の 2007
年に撮影した復旧後の水道メータある。津波前後で同じ形態を使用していることがわかる。配水管は
1979 年の基準で規定されたものであるが、一方屋内管は個人の所有であり材料に規制がない。そのため
塩化ビニル管が専ら使用されているが、今後はフレキシブルなポリエチレン管を使用するように水道局が
指導している。しかしそれには費用がかかるということで、1 世帯あたり復興支援費のうち 2 万 Baht を屋内
インフラとして援助を受けているにもかかわらず、被災前と同じ従来の材質の悪い管を使って復旧してい
るところが大多数である。また、このメータの形状が被害拡大の一要因になってにもかかわらず、同じ構造
のメータを使用している。
水道の顧客数は、津波前は 300 戸であったが津波後には 600 戸に増加した。これは水道局が災害の
復旧に併せて支管を無料で増設したことにより、水質のよい水を求めて井戸水利用者も水を購入するよう
になったためと、場所によっては津波で井戸に海水が入り井戸が使用不可となったためであると考えられ
る。写真-4.3.3 に 2005 年にナムケム村にて撮影した被災直後の井戸の写真、図-4.3.4 に地震発生より 2
年後の 2007 年に現場視察で撮影したものを示す。これより、水道によって不必要になった井戸はまちの
復興後も復旧されず放置されている状態であることがわかる。生活水準は上昇した一方で、その後に残さ
れた問題点のひとつである。
166
写真-4.3.1 2005 年の水道メータ
写真-4.3.2 2007 年の水道メータ
写真-4.3.3 2005 年の井戸
写真-4.3.4 2007 年の井戸
(2) 電力ライフライン
パンガー県の電力設備は、近年民営化した PEA
(Provincial Electricity Authority)によって運営されて
おり、パンガー県北部から高圧送電線によってパンガ
ー県およびプーケット県へ送電されている。PEA はパ
ンガー県全体で 40,000 世帯の顧客を有している。ケ
ーブル高さは 12mの架空線で、国道 4 号線沿いは
115kv の高圧線が、それ以外は 33kv の低圧線で電力
供給されている。地盤が悪いところは 4.5mから 6mの
短いポールを杭にして、根元で電柱をボトル締めして
いる。今回の津波によりパンガー県では、送電線は高
圧線が 36km、低圧線が 27km 被災し 63 百万 Baht、
変電器は 33kv の架空トランス 22 台が被災し 4 百万
Baht、2,396 台のメータが被災し 8.8 百万 Baht の損失
を受けた。パンガー県の送電線被害を図-4.3.5 に示
す。図中の送電線被害率は被害延長を全長で除して
算出し、20%ごとに被害率 Lv.1 から Lv.5 で色分けし
ている。この図-4.3.5 より、沿岸部に被害が集中して
いることと、幹線道路沿いの高圧線が浸水被害を受け
167
図-4.3.5 送電線被害と浸水域
ると、それに付随する低圧線も修復が必要となっていることがわかる。
電力ライフラインの緊急対応と復旧の概要について以下に述べる。12 月 26 日の津波発生当日、被災
現地は捜索や患者搬送などの対応に追われ、すぐに復旧作業ができる状況ではなかった。そこで午前
11 時に、当日出張中で県外に出ていたパンガー県のマネージャーが現地スタッフに携帯電話で連絡し、
主要幹線沿いの電柱被害の確認や被害程度を予測し、被害報告書の作成、夕方に会議を開いた。応急
対応は翌日 27 日から 31 日まで、最大 31 台による電源車で電力供給を行った。復旧にはメディアを通し
て他の 5 県から 44 チーム、450 人がパンガー県に派遣された。病院へのルートと主要道路上の送電線を
優先的に緊急復旧し、12 月 31 日には主要幹線の送電線が復旧された。翌月の 1 月 15 日には支線送電
線の復旧も完了し、全ての復旧作業は 25 日間で終えた。災害に併せて避難所へ増設したラインは 27 箇
所で、これらは避難所の解消に併せて撤去したが、避難所に残っている人のため 4 箇所は未だに使用中
であった。パンガー県の電気整備局では日頃から 24 時間体制で監視しているということで、津波に対して
の緊急対策は特になく、また今回のスマトラ島沖地震後に提案した新たな対策もなかった。顧客数は津
波前後で 4,405 戸増加し、これは避難所へ増設した 27 箇所のラインのうち 4 箇所が現在も使用中である
ことと、復興と共に企業誘致が行われたためであると考えられる。
復旧スピードが早かった一番の要因は原形復旧が基本であったことが挙げられるが、その他には 16 年
前の台風での復旧活動経験が生かされ、手際よく復旧活動に取り組めたこともひとつの要因である。復旧
時に、水道・電気・通信等のライフラインは共同溝を地中化する案もあったがコスト面を考慮して却下され、
プーケットなどの観光地のみ実行されている。
4.3.4 パンガー県の復興計画とライフライン再構築の効果
現在進行中の計画は、2007 年を着工初年度に 2009 年を完成目標とした予算 200 百万 Baht のカオラ
ック地域の水道拡張工事がある。これはタイミャン(Tai Meang)のプラオ川(Thung Ma Prao)を水源として海
岸沿いに管路を北上させ、ナムケム村まで延長させる計画である。2007 年 9 月には口径 400m 程度のポ
リエチレン管がすでに道路脇に設置されていた。この管路が完成すれば、ナムケム村では二箇所の水源
から水の供給を受けることとなる。もし一方の管路が被災しても他方の管路にて水を得られるため、より災
害に強い町を目指すことができる。その他の防災対策として 2005 年 5 月 31 日に完成した NDWC
(National Disaster Warning Center)が管轄する津波警報タワーが 5 塔設置された。NDWC とはタイ国内で
発生する自然災害に対して警報の発令の要となる機関であり、2007 年 9 月現在で合計 2,910 件の警報タ
ワーを管理している 20)。しかしこれらのタワーだけでは全域はカバーできていないことと、バンコクにある情
報指令センターが被害を受けた場合に代替施設がないことが問題点として残されている。コミュニティレ
ベルの復興には、津波時の緊急避難経路を示す案内板や地図、避難所となる高台の設置がある。避難
所高さや避難経路の距離などはすべて、スマトラ島沖地震津波によって発生した津波を最大として設定
されており、緊急避難路は 1.8km 以下となるように計画されている。他にも観光客の多い地域であるが故、
海岸沿いのホテルを避難所にし、ホテルスタッフは滞在客に津波避難のガイドを行うよう教育するなどの
防災指導がなされている。
スマトラ沖地震津波発生後、DPT (Department of Public Work & Town Planning、都市地方住宅計画
局)が壊滅したナムケム村の復興計画を立案していた。本計画は津波後に設定された区画整備案や都市
形成の規定に基づいており、災害時に避難所までのアクセスが良好になるよう道路設計され、海岸からの
距離によって建物の高さや建蔽率が定められている。また住民の職種や、土地の利用目的によって住み
168
分けするなどより防災を強化された地域づくりを目指していた。しかし本計画は、被災後に海外の NGO 等
を通じて多額の寄付の送金や復旧事業の介入が行われたために復旧スピードが早く対応が間に合わな
かったことと、観光地区で土地が高く行政が土地を買って分譲するほどの費用がないという理由で採用さ
れることなく復旧を終えてしまった。図-4.3.6 に津波後に一部改訂された建築基準、図-4.3.7 に DPT によ
る土地利用計画図を示す。また以下では、当時本計画案が採用された場合の効果について検証する。こ
の検証に当たっては、水道管、電線共に基本的に道路沿いを通るものとして、当時の航空写真と道路網、
および DPT による道路網敷設計画案を参考にした。図-4.3.8 と図-4.3.9 に現在の道路網と DPT 案を参
考にした新しい道路網、図-4.3.10 と図-4.3.11 に現在の水道管路図と DPT 案を参考にした新しい水道管
路図、図-4.3.12 と図-4.3.13 に現在の電力配電線図と DPT 案を参考にした新しい電力配電線図を示
す。
図-4.3.6 改訂後の建築基準 7) (BCR = 建蔽率)
Public area
Fishery area
Monument
& sight
seeing area
Living area
図-4.3.7 土地利用計画
169
±
0 100200
400
600
±
800
m
0 100200
図-4.3.8 道路網 (現在)
400
400
±
損傷管路
新設管路
無傷管路
既設管路
600
800
m
0 100200
図-4.3.10 水道管路図(現在)
400
600
800
m
図-4.3.11 水道管路図 (案)
±
±
LT
HT
LT
HT
0 100200
800
m
図-4.3.9 道路網 (案)
±
0 100200
600
400
600
0 100200
800
m
図-4.3.12 電力配電線図 (現在)
400
600
800
m
図-4.3.13 電力配電線図 (案)
水道管路の場合は図から延長を求め、被害延長と被害金額から 1m あたりの新設費用を算出する。被
害のなかった管路はそのまま使用し、新設する水道管路は推奨されている PE 管を設置するとする。被害
延長は 4,849m で、これを原形復旧するのにかかった費用が 40 万 Baht であった。これより管路 1m あたり
にかかる費用を 825Baht と算出する。新案を採用するにあたり損傷がなかった管路 14,011m はそのまま
利用すると考えると、新設管路長の合計 18,409m になる。これに 825Baht を乗じて新設費用を求めると
170
3,628,100Baht となる。今回の津波によってナムケム村の水道管を原形復旧するに 4,000,000Baht 要した
が、新案を採用した場合は総費用 3,628,100Baht となり 371,800Baht 安く復興することができたと考えられ
る。
電線の場合は図から被害延長と被害金額から、1m あたりの新設費用を算出する。ナムケム村の電線
は壊滅して全面復旧したので、高電圧線は幹線道路沿いのみ、残りは低電圧線として高電圧線と低電圧
線それぞれについて算出した。ナムケム村の現状の電気ネットワークは高電圧線(以下 HT)の合計延長
が 1.72km、低電圧線(以下 LT)の延長が 5.75km となっている。一方新案は HT の合計延長が 1.9km、LT
が 6.97km となる。HT の 1km あたり金額が 1,538,000Baht、LT の1km あたり金額が 994,000Baht である
ので、延長にこの金額を乗じて電線の復興費用を算出する。この結果、現状の電線復興費用は
4,383,000Baht となり、新案のほうは 4,993,000Baht となり、新案のほうが 630,000Baht 高くなる。表-4.3.3
に現状と新案採用時の復興費の比較を示す。新案を採用すると現状より 238,100Baht の費用がかさむ。
しかし復興後に土地の有効活用をできると考えると原形復旧よりは効果のある投資であると考えられる。
表-4.3.3 復興費
水道
電気
現状
新案採用時 比較
4,000,000
3,628,100 - 371,801
4,383,200
4,993,200 + 630,000
(Baht)
以上より、新設したほうが安く効率的に復旧できることから、計画案を地方自治体などで管理し、復旧ス
ピードに応じて対応できるよう計画案を行政や企業の間であらかじめ共有しておくことが必要である。また
計画案を提案しておくことで、海外企業や NGO の介入によって生じる無秩序な復興を防ぐこともできるで
あろう。
4.3.4 北海道南西沖地震による奥尻島の被害と復興
(1) 被害概要 8)
奥尻島は北海道の最西端に位置し、日本海に浮かぶ総面積
143 ㎞ 2 の離島である。人口は約 3,700 人、世帯は約 1,700 世帯か
らなる。豊富な水産資源と自然の美しさを備えた数々の観光資源
を有することから、基幹産業は主に水産業と観光業である。
北海道南西沖地震は 1993 年 7 月 12 日 22 時 17 分に発生した。
震源位置は北緯 42 度 47 分、東経 139 度 12 分で、震源深さは
34km、マグニチュード 7.8 である。奥尻島と北海道の位置関係と震
源箇所を図-4.3.14 に示す。本地震は日本海測の観測史上最大
の地震であった。奥尻町には地震計がなかったため、被災状況か
ら震度 6 の烈震と推定されている。奥尻町各地区で建物の倒壊や
地割れ、陥没、崖地の崩壊などが発生し、奥尻地区の観音山大崩
壊では麓にあったホテルやレストラン、灯油備蓄タンクなどを土砂
が飲み込み大惨事を招いた。重ねて地震発生直後に大津波が奥
図-4.3.14 青苗地区被災地域
尻町を来襲したことで、稲穂、奥尻、青苗地区などが大きな被害を受けた。震源に一番近い稲穂地区で
171
は、地震が発生した 3 分後の 22 時 20 分に津波第一波が襲来している。大津波警報を発令したのは 22
時 22 分であったので、津波警報発令の前に第一波が来襲したことがわかる。また津波の最高到達高は
西海岸の藻内地区で 29m であった。
奥尻島最南端にある青苗地区では第一波来襲後も、北海道本土に押し寄せた波が反射し時間差でさ
まざまな方向から波が来たため、最終的に避難命令がとかれたのは翌日早朝の 4 時 20 分であった。津波
によって旧青苗 5 区は全戸流出した。また、この青苗地区では船舶火災と建物火災が発生し、翌朝まで
広範囲に渡り延焼した。津波と火災により青苗地区は一夜にして壊滅状態になった。青苗地区の被災地
域を、火災によって建物が焼失した地域と津波によって流出した地域に分けて図-4.3.14 に示す。青苗地
区は漁業が盛んな地域であるため、沿岸部に漁村が発展していた。青苗地区住民は今回の震災によっ
て、住居周辺だけでなく生活を支える仕事場である漁港も被害を受けたため、職に復帰するにも時間を
要する結果となった。
本地震による奥尻町全体での合計被害金額は 664 億円であった。これに対して建築物被害金額は 53
億円であり、合計被害金額の 8%程度であった。これは、地震よりも津波による被害が主であったことと、
地方に位置する奥尻町には大きな建物がなかったためである。一方漁業を基幹産業にしている奥尻町
の財政は、今回の津波によって港湾施設や水産関係が甚大な被害により大きな影響を受けた。農林水
産関係の被害詳細は、水産被害が約 69 億円、林業被害が約 158 億円、農業被害が約 3 億円であった。
公共土木施設には道路や橋梁、空港の被害が含まれる。奥尻町の最終被害金額を表-4.3.4 に、その割
合を図-4.3.15 に示す。
表-4.3.4 奥尻島の被害金額
水道施設
廃棄物処理・
0.1%
し尿処理施設
0.2%
保健医療・福
祉関係施設
0.1%
項目
■建築物
■鉄道
■高速道路
■公共土木施設
■港湾
■埋立地
■文教施設
■農林水産関係
■保健医療・福祉関係施設
■廃棄物処理・し尿処理施設
■水道施設
■ガス・電気
■通信・放送施設
■商工関係
■その他公共施設等
合計
商工関係
6.2%
建築物
8.0%
公共土木施設
19.0%
農林水産関係
34.6%
港湾
29.3%
文教施設
2.3%
金額(千円)
5,309,528
0
0
12,638,467
19,466,700
0
1,548,007
23,010,122
92,535
138,000
66,821
0
0
4,134,200
15,897
66,420,277
図-4.3.15 奥尻島の被害金額
奥尻町での人的被害は、死者 172 人、行方不明者 26 人、重軽傷者 143 人である。津波被害の大きか
った青苗、稲穂、松江地区で被害者数が多くなっている。奥尻地区では崖地の崩壊によってホテルが飲
み込まれ、灯油備蓄タンクが押しつぶされて灯油が流出するなどの大惨事を招き、死者 31 名のうち、島
外からの観光客も含めた 29 名が犠牲となった。同年 7 月 17 日から 8 月 28 日まで避難所が設置された。
さらに同年 7 月 28 日から 9 月 27 日まで 4 期に分けて 9 地区に計 330 戸(330 世帯、入居者 899 名)の仮
設住宅を設置し、被害者の生活的・精神的安定を図った。これらの仮設住宅は、北海道庁を通じて、い
ずれも 2 年間リースで民間業者から借り受けたものである(内 300 戸はさらに 1 年間延長)。震災から 3 年
172
6 ヶ月後の 1997 年 1 月中旬に仮設住宅は全て撤去された。また奥尻町の地域別被害者数と避難人数、
仮設住宅設置戸数と入居人数を表-4.3.5、奥尻町の各地区名称を図-4.3.16 に示す。
表-4.3.5 奥尻町人的被害概要と仮設住宅設置状況
地区名
①稲穂
②宮津
③球浦
④奥尻
⑤赤石
⑥松江
⑦富里
⑧青苗
⑨米岡
⑩湯浜
合計
人的被害
仮設住宅
死者 行方不明 被害形態 避難人数 設置戸数 入居人員
13
3 津波
1,219
26
79
0
0
2,592
4
10
3
0
895
6
22
31
1 崖崩れ
2,592
2
8
0
0
1,563
0
0
31
2 津波
855
24
59
1
0
0
0
0
87
20 津波,火災
9,594
263
714
6
0
3,057
5
7
0
0
0
0
0
172
26
22,367
330
899
①稲穂
②宮津
③球浦
⑩湯浜
④奥尻
⑤赤石
⑥松江
⑦富里
⑨米岡
⑧青苗 0
1,3002,600
±
5,200
7,800
m
図-4.3.16 奥尻島各地区名
(2) ライフライン被害の概要
島内の水道は、簡易水道が青苗・奥尻地区の 2 箇所、地区水道が 8 箇所、農業灌漑水道が数箇所、
防衛庁の自衛隊専用水道が 1 箇所ある。図-4.3.17 に奥尻島の河川と配水区域を示す。奥尻地区簡易
水道は釣懸川自流を緩速濾過して奥尻地区、球浦地区の計 1,600 人に、青苗地区簡易水道は青苗川
から青苗浄水場で緩速濾過された水を一旦ポンプアップして青苗地区、富里地区、初松前地区、松江地
区の合計 1,700 人に配水している。その他地区水道はそれぞれ計画給水人口 100 人から 400 人程度で、
湧水は消毒のみ、河川自流は濾過後に配水している。本地震とそれによって引き起こされた津波によっ
て甚大な被害を受けたのは、松江地区の受水槽と青苗地区の管路網であった。奥尻町全体で水道管路
網の合計被災金額は 6 千 7 百万円であった 9)。とくに水道ライフラ
インがほぼ壊滅し 9,594 人の避難人口と 714 人の仮設住宅入居人
員を抱えた青苗地区では、新設ライフラインが平成 6 年 8 月に完成
するまでの期間仮設住宅用のポンプや受水槽や配管を設置し、
±
!(
!(
!(
!(
約 5 千万円を要している。
!(
電力は、北海道電力株式会社が共学電気株式会社に委託し、
!(
!(
!(
!(
火力発電で供給している。被害状況は、奥尻地区の町役場では
!(
!(
一時的に停電したがすぐ通電し、一方青苗地区では町役場に自
家発電装置が備えられており電力供給が可能であった。避難所で
!(
!(
!(
は設営のために当初の一週間は電気が使用できなかった。ガスは、
水源
河川
道路網
配水区域
全島プロパンガスを使用している。
簡易水道給水区域
港湾は奥尻地区のみにあり、奥尻港で 2 箇所の被害を受け、被
害金額は 95 億円であった。また、他 8 箇所の漁港が甚大な被害を
受け被害金額合計は 100 億円であった。奥尻町は漁業が主な産
専用水道給水区域
0 1,000
2,000 4,000 6,000 8,000
m
小規模水道給水区域
図-4.3.17 奥尻町配水区
業であるため、漁港が被災したことが住民の生活に大きな打撃を与えた。奥尻空港が米岡地区にあるが、
これも津波によって被害を受け、被害金額は 6,644 万円であった。島の中心部にある航空自衛隊の飛行
場は被害がなく、救援物資を受け入れる為の重要なライフラインの役割を果した。
173
(3) 奥尻町復興計画とライフライン再構築の効果
奥尻町は今回の大災害に対して災害復興対策室を設置し、国や北海道の支援を受けて各種復旧事
業を推進してきた。しかし、北海道南西沖地震による被害は甚大で、島内全域に渡ることから、「単に復旧
という意味合いの復興ではなく根本的な意味での復興を企図する事業計画案を作成する必要がある」
(北海道南西沖地震奥尻町企画書より抜粋)8)という考えから 1995 年 3 月に 1997 年度達成を目標年度と
する「奥尻町災害復興計画」を策定し、各事業を推進していくこととした。表-2 に出来事と奥尻町の主な
防災計画の年表を示す。
表-4.3.6 奥尻町防災計画年表
年号 西暦 出来事
S38 1963 奥尻地区に大火発生
S58 1983 日本海中部地震発生
H3 1991
H5
H6
H7
H8
H9
H10
H12
H14
奥尻町の防災対策
初期防災計画完成
1993 7月:北海道南西沖地震発生
12月:灯油備蓄設備復旧完了
1994 1月:災害復興基金による支援策開始
1995 1月:阪神淡路大震災発生
「第三期奥尻町発展計画」策定
(最終目標年度2000年)
10月:災害復興対策室設置
防災集団移転事業開始
「奥尻町災害復興計画」策定
(第三期奥尻町発展計画ベースに)
防災対策改訂
建築設備耐震設計指針改訂
(阪神淡路大震災を受けて改訂)
1996 11月:避難所閉鎖
1997 1月:仮設住宅然撤去
7月:全国沿岸市町村津波防災サミット開催
1998 3月:北海道南西沖地震災害完全復興宣言
2000 奥尻島津波館落成
青苗漁港人口地盤望海橋完成
2002 奥尻クリーンセンター完成 (下水道供用開始)
奥尻町にはもともと、北海道南西沖地震以前の 1991 年を初年度に、2000 年を最終目標年度とする
「第三期奥尻町発展計画」を策案していた。しかし今回の大災害により頓挫を余儀なくされたため、この
「奥尻町災害復興計画」は「第三期奥尻町発展計画」を基盤に北海道から指示を受けた「まちづくり復興
計画案」を付加し、生活の再建、防災まちづくり、地域振興の 3 つの柱を最重要課題として練り直したもの
である。
奥尻町では津波の被災経験からこの「まちづくり復興計画案」を掲げ、防潮堤や津波水門、人口地盤、
避難路など津波に対する防災対策を行っている。1983 年に発生した日本海中部地震の後、奥尻島では
沿岸に高さ 5m の防潮堤を設置していた。しかし今回の北海道南西沖地震では、発生した津波がそれ以
上の高さを有していたことから、当時の集落ごとで観測された津波の波高を最高位として設定している。
一番高いところで 11m の盛土を行った。また、漁業で生計を立てているため沿岸部を中心に生活をする
住民等も、地震発生後早急に高台に避難できるよう、各地に避難路を多数整備した。また、壊滅的な被
害を受けた青苗地区、松江地区、稲穂地区では水産庁の補助事業である漁業集落環境整備事業等に
より新しいまちづくりを促進し、居住地の移転や盛土、区画整備などをして、新たな集落を作った。このよ
うな移転事業の際に奥尻町では、町役場の災害対策室が個人の土地を買い上げて区画整備してから再
分譲をするという方式をとっている。この方式は地方財政に大きな負担がかかるが、①地区一帯の整備が
必要なこと、②地価が都市部と比べて安価であること、③国からの十分な補助が受けられること等の条件
が整っている場合に有効な方法であるといえる。
この事業計画によって、稲穂地区では水産庁の補助事業である「漁業集落環境整備事業」として防潮
堤の背後土を 5m 盛土して宅地整備を進め、漁業就業者を除く 39 戸を高台へ移住させた。住宅再建に
174
あわせて公営住宅 4 戸と教員住宅 5 戸の設置、小学校校舎の再建、生活排水処理施設や防災安全施設
の設立等により地区の強化を行った。松江地区では町の単独事業である「まちづくり集落整備事業」とし
て、防潮堤の背後土を 3m 盛土して 26 区画の宅地整備を進めた。この他に公営住宅 4 戸と上下水道施
設、防災安全施設を設立している。
青苗地区は稲穂地区と同様、水産庁の補助事業「漁業集落環境整備事業」に認められ、特に青苗岬
地区は住民の居住に適当でないとされ、国土庁の「防災集団移転事業」補助事業として認定を受けた。
そのため、この岬地区ではこの大災害を語り継ぐための公園や記念館などを非住家地区として整備し、
高台や、青苗地区北部にある米岡地区へ宅地造成をする全面復旧方法を採った。また旧市街地区は防
潮堤の背後を 6m盛土し人工地盤を作った上に宅地を整備した。他に車道、町道、漁港道路、生活排水
処理施設、防災安全施設、緑地等が設置された。人工地盤の断面例を図-4.3.18 に示す。これまで使用
していた水道管は損傷が激しかったため、この宅地造成計画と道路網の改良と同時に、地下にあるライフ
ライン施設も人工地盤内に全面新設された。図-4.3.19 に復興後の青苗地区航空写真と青苗地区の復
興事業と道路網詳細地図を示す。
奥尻町には全国から義援金が寄せられ、これが大きな財源となった。義援金内訳は、募集委員会(日
本赤十字社)からの配分額が 133 億、北海道からの配分額が 22 億、教育委員会分を含む奥尻町の受付
額が 36 億となっており、これは奥尻町の町予算年間 45 億円の 3 倍に近い金額である。この多額の義援
金が寄せられなければ、復興だけでなく 644 億円以上もの被害総額の消化もできなかったであろう。そし
て全国各地から寄せられた膨大な量の救援物資と多額の義援金を得て、奥尻島の主要水産物であるウ
ニの水揚げ量が例年に戻った 1998 年に北海道南西沖地震災害完全復興宣言を発表した。
新設下水道管
DL+6.0m
新設水道管
集落道
宅地
車道
人工地盤
在来地盤
損傷水道管
図-4.3.18 人工地盤断面図
図-4.3.19 復興後の青苗地区航空写真と同地区の
復興事業と道路網詳細地図 8)
(4) 水道ライフラインの再構築
図-4.3.20 に青苗地区の新設配水管路図、図-4.3.21 に同地区の旧配水管路図を示す。旧配水管の
管種はダクタイル鋳鉄管(A 形継手)で、総延長は約 2,568m である。新設配水管の管種は硬質塩化ビニ
ル(VP)管で、延長は 4,802m となっている。表-4.3.7 に青苗地区の水道管復旧費用、復興費用の内訳を
表す。この地区の給水は青苗地区簡易水道であり、今回配水管を新設したことによって計画給水人口は
復興前の 1,700 人から 1,790 人となった。新設配水管の延長内訳は表-4.3.7 に示す通りで、本管は口径
150mm から 100mm を使用している。枝管までの総延長を合計すると 6,229mとなる。図-4.3.20 ついては、
津波による壊滅前の道路地図が入手出来なかったため参考に現在の道路網を図示している。しかし、管
175
路は基本的に道路沿いに埋設される点を考慮すると、図-4.3.21 より地震前と復興後では管路網も流線
的になり、区画整備されていることがわかる。米岡地区には図-4.3.19 右のA団地とC団地が整備され居
住空間が移動された。しかし、復興前にはダグタイル鋳鉄管が使用されていたにも関わらず、新設管路に
は耐震性の劣る VP 管が使用されている。これは兵庫県南部地震の 1997 年に水道施設耐震工法指針 7)
が改訂される前に管路を敷設したためである。管路延長は約 2 倍となり水道機能は確実に良質なものと
なったが、一方で災害に強い町をつくるという目的には矛盾している。
±
±
旧配水管(ダグタイル鋳鉄管)
0
90 180
360
540
新設配水管路(ビニル管)
720
m
図-4.3.20 旧配水管路図 7)
0
90 180
360
540
720
m
図-4.3.21 新設配水管路図 7)
表-4.3.7 青苗地区水道管復旧費用、復興費用内訳 9)
工事概要
応急仮工事費
復旧
作業 工事雑費
諸経費
復旧費合計
費用(円)
内訳
46,748,610 仮設住宅用受水槽
1,220,000 仮設住宅用ポンプ室
3,306,000 仮設配管
51,274,610
本工事費(含付帯工事)
工事雑費
復興 諸経費
作業 消費税相当額
設備費
測量および試験費
復興費合計
42,864,480 青苗地区配水管
1,058,000
VWP φ150 L=1195m
5,290,000
VWP φ100 L=1672m
1,248,480
VWP φ 75 L=1935m
28,086,040
VWP φ 50 L=1427m
0 電気機械計装設備
78,547,000
合計
129,821,610
図-4.3.22 に青苗地区と米岡地区の人口の推移を表す。1993 年 7 月に地震が発生したのを境に青苗
地区では人口が減少している。一方青苗地区の北に位置し、宅地移動が実施された米岡地区では人口、
が増加している。
図-4.3.23 に奥尻町の観光客数、図-4.3.24 に漁業就業者数の推移を示す。図-4.3.23 の観光客数の
推移を見ると、1993 年の北海道南西沖地震を境に観光客数は激減している。しかし 1998 年の復興宣言
時には、被災前の人数にはまだわずかに及ばずとも着実に観光客数が増えている。奥尻町災害復興計
画によって奥尻町全体をみると着実にもとの状態に回復しつつあることがわかる。一方、図-4.3.24 の漁
業就業者数の推移から、徐々に漁業就業者数が減少している。これは若手労働者が島外へ流出し、過
176
疎化にあるためといえる。(奥尻の復興事業は産業の中でも特に漁業に力を入れたにもかかわらず減少
方向にあるということは、整備した町の財産が活かされていない状態となっている。)
(人)
1600
0
2000
2005
1997
1998
1999
1998
1995
1996
1994
(人)
100
1993
1994
1993
200
1990
1991
1992
0
300
1989
200
48.0
46.0
44.0
42.0
1998
400
400
1997
600
500
1996
800
600
1995
(千人)
1000
56.0
54.0
52.0
50.0
1994
1200
1993
青苗
米岡
1400
図-4.3.22 青苗、米岡地区 図-4.3.23 奥尻町観光客数の推移 10) 図-4.3.24 漁業就業者数の推移 10)
人口推移 11)
これより、現時点における基幹産業に対して多額投資したことは、これまでの生活を復旧することを目
的とすれば成果を得ている。一方で若手労働者が島外へ流出する傾向にあり漁業形態も変化している
奥尻島で、今後の産業に応じた有用な投資であったかは疑問が残る結果となっている。よって安全な町
へ復興する為に投資をする際にはその地域の将来的な展望を考慮し、投資対効果が見合うように計画
する必要がある。
以上より、これまでの生活を復旧することを目的とした場合は現時点における基幹産業に対して多額
投資したことは成果を得たと考えられる。しかし一方で、高齢化及び漁業形態が変化している奥尻島で、
今後の産業に応じた有用な投資であったかは疑問が残る。よって復興投資には地域の将来的な展望を
考慮して、投資対効果が見合うように計画する必要がある。
4.3.5 シナリオ型復興戦略の提案について
(1) 復興金額からみた復興方法の比較
被害金額を住居、漁業、農業、畜産業、労働教育、教育施設、医療関係、インフラの項目に分けそれ
ぞれの国、地域でのそれらの比率を出し、図-4.3.25 にパンガー県、図-4.3.26 にタイ全国、図-4.3.27 に
奥尻町、図-4.3.28 に神戸市(1995 年兵庫県南部地震の場合)の被害金額比を示す。北海道南西沖地
震による奥尻町の被害総額は約 664 億円、スマトラ沖地震によるパンガー県では約 4,296 億円、兵庫県
南部地震による神戸市では 9 兆 9,268 億円となった。これを当時の人口で除して一人当たりの被害金額
をそれぞれ算出すると、パンガー県 122 (万円/人)、奥尻町 1,544 (万円/人)、神戸市 662 (万円/人)と計
算される。ここでパンガー県と日本の物価を初任給等から比較した物価比率 11 をかけるとパンガー県で
の一人当たり被害金額は 1,337 万円となる。この金額は日本における奥尻町と類似している。
177
インフラ
9%
教育施設
8%
インフラ
14%
住居
28%
労働者
27%
漁業
22%
農業
畜産関係 5%
1%
医療関係
24%
住居
漁業
農業
畜産関係
労働者
教育施設
医療関係
インフラ
図-4.3.25 パンガー県の被害金額比
教育施設
5%
医療関係
2%
教育施設
4%
医療関係
0.3%
教育施設
4%
農業
1%
漁業
45%
漁業
20%
労働者
11%
農業
4%
図-4.3.26 タイの被害金額比
住居
15%
インフラ
35%
住居
22%
インフラ
20%
漁業
11%
住居
62%
農業
0.9%
図-4.3.27 奥尻町の被害金額比
図-4.3.28 神戸市の被害金額比
パンガー県は漁業と観光業を中心とし、基本は自給自足の生活を送る地方の村である。そして奥尻町
も漁業と観光業を中心とし、都市から離れた地域に位置する島である。これより、復興計画を選定する際
にはさまざまな要因が存在するが、最大の要因は被害を受けた地域の特性であるといえる。
(2) 復興スピードからみた復興方法の比較
日本においては被害を受けてから避難所を開設し、仮設住宅を経てその間にライフラインの復興などを
行う。その後に恒久住宅の建設を終え、まち全体の復興が完了する。奥尻町では 1993 年 7 月に地震が
発生し 1998 年 3 月に復興宣言を出し、神戸市では 1995 年 1 月に地震が発生し 2000 年 2 月に復興対
策本部が解散していることからも、両地域とも約 5 年以上の年月をかけて復興に至ったことがわかる。これ
より日本では被災後 3 年計画で復旧を行い、災害発生から約 5 年後までに復興を終えるよう計画される。
一方、タイにおいては被害を受けてから避難所を開設し、仮設住宅の過程を経ずに恒久住宅を建設して
しまう。その間は約 3 ヶ月程度であり、ライフラインの復興についても水道、電気システム共に一ヶ月未満
で原形復旧を終えている。これは、タイでは TAO と地元住民コミュニティとの連携が強く、国や行政の事
業に抵抗を持つ傾向にあったことと、外資企業や NGO 等支援団体が復旧・復興事業に介入したことが挙
げられる。しかし現状は、復旧を早く終えることができた一方で行政が復旧を調整することが出来なかった
ために無秩序な復旧が為されてしまったという問題が発生している。
(3) 復興シナリオに応じたライフライン復興戦略
178
被災地が、上記の被害シナリオより大規模被害と断定された場合に、市民の都市形成と生活復興に貢
献するためのライフライン復興計画を実現させるまでのシナリオを、本研究対象地域の復旧・復興過程に
おける問題をまとめ、実際に都市の復興過程でどのようにライフラインの復興が計画されていくかを整理
することで提案する。これをライフラインの復興シナリオとし、図-4.3.29 に示す。
本研究で調査した北海道奥尻町青苗地区、パンガー県ナムケム村、兵庫県神戸市灘区(区画整備地
区における面的耐震化地区)、兵庫県神戸市東灘区(大容量送水管建設に伴う幹線システムの再構築
地区)を例として、以下にこの復興シナリオを解説する。北海道奥尻町では既存の土地利用計画はなか
ったが、奥尻町自治体に町の年間予算の 3 倍近い多額の義捐金が寄せられたために十分な復興費用を
得、防災効果を判断して人工地盤敷設事業が採択された。パンガー県ナムケム村では DPT による土地
利用計画案は存在していたが、TAO や地元住民との協議や連携が取れなかったことと、外資企業や
NGO の無秩序な復興がおこなわれたことによって復興計画の調整ができなかった。その結果原形復旧
が基本となり、ライフラインは避難所まで水道管路や電線など一部延長にとどまってしまった。兵庫県神
戸市灘区は被災前から密集した市街地であることについて防災に対する脆弱性を危ぶみ様々な土地利
用計画が考案されていた。そして兵庫県南部地震によって大部分の住居が全壊・半壊した後、行政と神
戸市が迅速に対応して土地の利用方法や売買についての規制をかけた 12)。その結果既存の計画を基盤
とした市街地整備案が実現され、土地区画整備による市街地形態の変化に伴いライフライン網も前面改
善された。一方神戸市東灘区では既存の土地利用計画案は整備されておらず、また神戸市財政も震災
によって大きな打撃を受けたため十分な財源を得ることが出来ない状況であった。しかしこの東灘区では
大容量送水管という新しいシステムが、その有効性や効果を検証することを目的に厚生労働省のモデル
事業に採択され、国からの補助を得ることが出来た。そして総事業費用や維持費などを費用として便益を
算出した結果、大容量送水管事業が採択された。このように、原形復旧以外の復興計画を採用するには
費用対効果や長期評価の判断が重要である。
復興方法次第では同額の復興費用であってもより高度なまちへ発展できる可能性がある。従って、災
害が生じる前から都市計画案や市街地整備案を政府やライフライン会社間であらかじめ検討しておき、
それらの案を共有しておくことが大切である。またその際には、被災地の特徴や今後の災害に対する危
険性、これからの発展性・将来性などを考慮した上で復興計画をたてるべきである。そして、過去の復旧・
復興の流れを整理しておき、地域の特徴に応じた復興戦略の姿を決めてから復旧・復興事業に取り掛か
ることが求められる。
179
大規模被害
中規模被害
既存の
土地利用計画
無
地方行政自治力
(権力,財政)
小規模被害
無
有
有
地域コミュニティと
の協議,連携
無
無
国の補助事業,
復興事業の介入
有
有
費用対効果,
長期評価など
不適
費用対効果,
長期評価など
不適
適
適
都市の変化に伴う
ライフラインの
全面改善
土地区画整備(神戸市灘区)
人工地盤敷設(奥尻町青苗地区)
ライフライン
システムの改善
大容量送水管(神戸市東灘区)
原形復旧
一部耐震化など(パンガー県)
図-4.3.29 ライフラインの復興シナリオ
参考文献
1)
東京都総務局:東京都震災復興マニュアル,東京都総務局,p.10,2003
2)
林 春男:いのちを守る地震防災学,岩波書店,p.116,2003
3)
牧 紀男,太田敏一,林 春男:どれだけの規模の災害に見舞われたら復興計画が策定されるの
か?―復興計画が策定される災害規模と計画内容―,地域安全学会論文集,pp.29-36,2007
4)
高田至郎,鍬田泰子:スマトラ沖代地震・津波調査報告書,神戸大学都市安全研究センター・神
戸大学工学部地震工学研究所,2005
5)
Phang Nga DDPM:Earthquake / tsunami victims relief efforts,内部資料,2005
6)
PWWA:Nam Kem 水道管路網図,2007
7)
DPT:Executive summary report,Modus consultants,2006
8)
北海道奥尻町:蘇る夢の島-北海道南西沖地震災害と復興の概要,奥尻町勢要覧,1996
9)
北海道水道局:青苗地区配水管平面図,内部資料,1995
10)
奥尻町役場企画振興課広報統計係:HOKKAIDO OKUSHIRI 奥尻島,奥尻町勢要覧,pp.4-8,
2002.
11)
北海道奥尻町町役場:世帯数及び人口調べ,1993,1998
12)
震災対策国際総合検証会議:震災対策国際総合検証事業検証報告(第五巻),2000
180
調査研究成果の発表状況(全体)
(成果発表の概要)(調整費充当領域分)
1. 原著論文(査読付き)
1報 (筆頭著者:1報、共著者: 報)
2. 上記論文以外による発表
国内誌:2報、国外誌:1報、書籍出版: 冊
3. 口頭発表
招待講演: 回、主催講演:0回、応募講演:5回
4. 特許出願
出願済み特許:0件 (国内: 件、国外: 件)
5. 受賞件数
該当なし
1. 原著論文(査読付き)
1)
鍬田泰子, 高田至郎, Chandana Dinesh Kumara Parapayalage: 「津波被害による事業ベースの復
旧と事業継続への影響」, 第 12 回日本地震工学シンポジウム, Paper No.365, 1566-1569, (2006)
2. 上記論文以外による発表
国内誌(国内英文誌を含む)
1) 高田至郎, 鍬田泰子,新谷正樹:「スマトラ沖地震・津波におけるタイのライフライン被害と復旧」,第
28 回土木学会地震工学研究発表会報告集,Paper No.220 (CD),(2005)
2) 高田至郎, 鍬田泰子, 田熊靖史, 柴田安啓, 上野淳一:「ジャワ島中部地震における地震特性とライ
フライン被害」, (財)建設工学研究所論文報告集, 第 48 号, 181-202, (2006)
国外誌
1) Kuwata, Y., Takada, S., Parapayalage, C. D. K.: 「Business impact and restoration model from
tsunami disaster」, Proc. of First European Conf. on Earthquake Eng. and Seismology, (2006)
3. 口頭発表
招待講演
該当なし
主催・応募講演
1) 鍬田泰子,高田至郎,Parapayalage, C.D.K.:「津波強度レベルによる事業体ベースの復旧プロセス」,
神戸,平成 18 年度土木学会関西支部年次学術講演会,(2006)
2) 高田至郎,鍬田泰子,田熊靖史,柴田安啓:「Opak 断層近傍の地震動強度とライフラインの機能損
傷―2006 年ジャワ島中部地震被害調査―」,栃木,第 25 回自然災害学会学術講演会, (2006)
3) 鍬田泰子,高田至郎:「スリランカの事業ベース津波被害による事業継続への影響評価」,栃木,第
25 回自然災害学会学術講演会, (2006)
4) Takada, S., Kuwata, Y., Pinta, A.: 「Lifeline reconstruction planning after earthquake and tsunami
disaster」, Proc. of International Symposium on the Restoration Program from Giant Earthquakes and
Tsunamis, pp.69-70, Phuket, Thailand
5) Kuwata, Y., Takada, S.: 「Business restoration related to lifeline after tsunami disaster」, Proc. of
International Symposium on the Restoration Program from Giant Earthquakes and Tsunamis,
181
pp.71-72, Phuket, Thailand
4. 特許出願
該当なし
5. 受賞件数
該当なし
5. その他の主な情報発信(一般公開のセミナー、展示会、著書、Wwb等)
該当なし
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