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Page 1 Page 2 Page 3 Page 4 Page 5 固体には温度差があると丶
娘
遷移金属酸化物の巨大熱起電力とホッピン
グ伝導を利用した熱電変換材料の開発
(課題番号11650716)
平成11年度∼平成14年度科学研究費補助金
(基盤研究(C)(2))研究成果報告書
平成15年3月
研究代表者 井 口 栄 資
(横浜国立大学大学院工学研究生)
横浜国立大学附属図書館
llllllllllllll
三1446140
1
は
が
し
き
研究組織
研究代表者
井口栄資(横浜国立大学大学院工学研究院
機能の創生部門固体の機能分野)
研究分担者
中津川博(横浜国宰大学大学院工学研究院
機能の創生部門固体の機能分野)
交付決定額(配分額)
(金額単位 千円)
直接経費
間接経費
合 計
平成11年度
3,000
0
3,000
平成12年度
300
0
300
平成13年度
300
0
300
平成14年度
300
0
300
3,900
0
3,900
総 計
2
研究発表
(1)学会誌等
1.中津川博、井p栄資
“Lao. g(Sr1.xCa。)1.1CoO4の熱電変換材料への応用”
日本金属学会誌 63巻11号 pp.1$93−13991999年
’ 2.井口栄資、糸賀拓也、中津川博、宗像文雄、古谷健次
‘‘Thermoelectronic Properties in Bi2_xpbxSr3_yYyCo209_δ”
Journal of Physics D: ApPlied Physics 934巻 PP.1017
−10242001年
含.井口栄資、加藤理史、中津川博、宗像文雄
‘‘Thermoelectric Properties (Resistivity and Thermo−
power) in Bi1.95Pbo.5Ca2_x〃Co208_δ (〃=Sc3+, Y3+or La3+)”
Journal of Solid Stεlte Chemistry, 167 巻 PP.472−479
2002年、
(2)口頭発表
1.中津川博、井口栄資
“La2.、(Sr1−yCa,)。04多結晶の熱電特性”
3
日本金属学会春期(124回)大会pp.2921999年3,月29目
2.中津川博、糸賀拓也、井口栄資
“Bi2.。PbxSr3.yYyCo20gの熱電:特牲”一
熱電変換シンポジュウム2000PP.1−52000年7,月20日
3.中津川博、井口栄資
“Bi2.xPb。Sr3Co20g及び(Sr, Ba)PbO3の電子構造”
第3回DV−Xα研究会A92000年8月22目
4.糸賀拓也、宗像文男、中津川博、井口栄資
“Bi2.xPb。Sr3.yYyCo20g系の熱電特性”
日本物理学会第55回年会22aSD−32000年9月22日
4’
1.序 論
固体には温度差があると、その温度差に比例した起電力が生じ
る特有の現象があり、これを“熱を電気に変換する特性”という
意味で熱電変換特性と呼ぶ。この現象はかなり古くから知られて
いた。熱電変換特性の発現機構原理の解明という研究課題は物乞
的立携からは確かに非常に魅力的である・一方・固体に温度差を
与えるだけで電力が得られるという事実は工業的にも大きな利益
をもたらす可能性がある。従って、より優れた熱電変換機能、す
なわち小さな温度差で大きな起電力を持つ固体の開発がこれまで
も試みられてきた。
歴史的にみると・1823年Thomas Seρbeckが温度差のある物体
の両端に電位差が生じることを発見した。即ち、熱が電気に変わ
る熱電変換の発見である。それ故にこの現象が赤面ペック
(Seebeck)効果と呼ばれている。この現象の利用で我々にとって
身近で馴染みがあり、そして最も頻繁に接するのが温度測定に用
いる熱電対(thermocouple)である。1950年代にはヨッフェ(Abram
Ioffe)が高濃度に不純物を添加(doping)’した縮退半導体が大き
な熱電変i換効果を示すことを発見し、これを契機に世界中で精力
5
的な研究開発が開始された。このような理由で熱電変換機能の研
究は半導体物理の研究の一翼を担っていた。その後半導体ばかり
ではなく、半金属、そしてそれらの合金が熱電変換材料として評
価され、集中的な研究が行われたが、その時点での研究は比較的
短期間で一応終了した。
\1/
\ /
⇔・
一◎
一◎
1¢
1⇔.
.《)
.十→ r十・
n型半導体
p型半導体
図1熱電変換素子の原理図
この熱電変換の原理を用いて、熱を供給することによって温度
6
勾配をつけた固体に外部回路を接続すると、ゼーベック効果(熱
電変換効果)によって得られた熱起電力ににより電流を発生させ
て電力を取り出すことが出来る。更に図1のように伝導電子
ぐ。・nducti・n electr・n)分注なキャリアーであるn型の固体と正
孔(positive hole)が主なキャリアーであるP型の固体を接続す
ることによりより大きな電力を取り出すことが出来る。このよう
な一対のn型一P型の半導体で構成されている固体素子が熱電変
換素子である。
熱電変換材料(Thermoelectric(TE)materia1)のみで熱エネ
ルギーを電力に変換する機構を熱電発電と呼ぶ。より有効に大き
な起電力を得るために、更に図2に示すように熱電変換固体素子
を直列に結線すればより大きな起電力を有効に取り出すことがで
きる。すなわち、図のように熱電変換素子を直列に繋ぎ、△Tの
温度差をつければ、各変換素子に△Vの電位差が生ずるので、変
換素子をN個直列に繋げば、N△Vの直流電圧を得ることが出来る。
△Vは使用する変換素子により上限値が決まるが、個数Nを大き
く取れば、非常に大きな電力が取得できる。この様な技術的手法
をモジュール化(module)と言う。
7
外部からの熱
一
7i 】『一
T+△T
診 .一』幽.
を
@一一r
ち=
P「」
L
n
τ
↓↓↓↓/ 外部へ放出する熱
一一一一1
△V △V △V
△V △V △V
ト→Hト………一一→Hト→
←一一一一工
モジュール化
図2熱電変換固体素子のモジュール化
熱電変換効果を工業化するには、最終的にはこのモジュール化
8
の段階にまで至らなければならない。そしてその工業化の第1段
階がより優れた熱電変換機能をもつ固体の開発探索であり、本研
究はこの位置に属している。熱電発電は温度差がある限り電圧を
発生し続け(長寿命)、発電の過程で余分な老廃物を出さず、保守
(メンテナンス)無しで発電を継続するという利点がある。
これらの利点をもつ熱電発電は、アメリカや旧ソ連などの宇宙
や軍事用、例えばアポロやボイジャーのような探索船などの極め
て特殊な電源として開発され、実用化されてきた。恐らく軍事的
には我々の計り知れない利用が行われているのであろう。しかし、
我が国ではこの様な軍事的戦略に立脚するのではなく、むしろ民
需を対象とした利用が求められており、特に環境問題改善に対し
て熱電変換材料の開発が果たすべき責任は決して小さくない[1]。
この点についての詳細は後述する。
ゼーベック効果とは逆に、二種類の固体を接合し電流を流すと、
接合点で電流の向きに応じて可逆的に熱の発生又は吸収が起こる。
この現象はペルチェ(Pel七ier)効果と呼ばれ、財田ペック効果と
は表裏一体の現象である。前述の初期の半導体物理の研究では、
むしろペルチェ効果の研究に重点が置かれていた。ペルチェ効果
9
は冷却装置への応用が考えられているが、熱電変換素子による冷
却効率は現在のところ室温近傍で熱電効率の最も優れた
Bi2Te3/Sb2Te3合金でさえ[2,3]、現在冷却用に一般に用いられてい
るコンプレッサー方式の冷却効果よりも劣っているために、経済
性よりも信頼性、利便性を重視された用途にのみ実用化されてい
る。例えば、携帯用冷蔵庫やCPU冷却装置がその例である。
この様な熱電発電の状況下では、日本はこれを軍事目的に使用
する意図は皆無であるし、効率に関してもそれ程高い期待は持て
ないので民生用への実用化開発にもそれ程の関心は寄せられてい
なかった。しかし、近年エネルギー問題、環境問題が深刻化する
ことによって、熱電発電の持つ機能の重要性と意味が見直され、
研究にも大きな変化が生じ、より優れた熱電変換材料の開発を目
的とした研究が求められるようになった。
、エネルギー問題および環境問題の現状について大まかに述べる
と・世界におけるエネィレギーめ90%以上を化石燃料く石油および
石炭)の燃焼エネルギーに依存している。これらの燃焼過程で発
生するCO2、 NO、、 SO、などのガスが地球温暖化や酸性雨の最大の原
因となっている。また、これらの化石燃料の代替エネルギーとし
10
て原子力への期待もある。しかし現在原子力を本格的に採用して
いるが、安全性や放射性廃棄物の処理等の非常に深刻な問題を抱
え込んでいるのが現状である。
化石燃料に代わるエネルギー源として種々な可能性が検討され
ているが、つまるところ当面は現在使用可能な化石燃料の利用効
率を上げることが急務であるとの結論に至る。しかし、熱サイク
ルを使う発電システムの場合、カルノーサイクルによる制約や、
変換や輸送の際に生ずる損失のために、全体のエネルギーの約
60%が廃熱として破棄されている。60%という数字はエネルギー一
問題・環境問題に直面して苦悩している人類にとってまさに恐る
べき数字である。そして、この無駄に廃棄されている熱エネルギ
ーを回収することがもし可能ならば、エネルギー資源の再利用の
道が確実に開かれるはずであるし、環境問題も大幅に改善される。
しかし実際は現在廃棄されている熱エネルギーはそのままでは低
品質であり、再度熱機関に利用するのは現在の技術では至難であ
る。
もし効率の高い熱電発電が可能であれば、この、ような比較的低
品質の廃棄される熱エネルギーを高品質な電力に変換でき、廃棄
11
熱エネルギ「の高付加価値を持つ再利用が可能になる。大まかな
試算ではあるが、高効率の熱電発電が可能となった暁には、前述
の約60%のエネルギー損失のうち約20%が電力エネルギーとし
て回収できる可能性がある(但し、あくまでも高効率熱電発電を
可能ならしめる熱電変換材料が開発された場合である)。20%とい
う熱エネルギーの回収量は1995年度実績で石油約750万kl、水
力発電の電力生産量の約1/3に相当し、これは驚くべき量である。
すなわち機能の非常に優れた熱電変換材料を開発できれば、こ
れだけの量の石油を使用せずに済むか、あるいは水力による発電
を行わずに済む。石油に関してはこれだけの消費量を抑制できエ
ネルギー問題を改善できるばかりではなく、廃熱エネルギーを大
幅に減少でき環境問題を部分的にではあるが解決できる糸口とな
るし、また自動車の燃焼型エンジンを熱電変換素子を装備した燃
料電池に代えれば、燃費は約80%近く高くなるとの試算もあり、
もしこれが実現されたらエネルギー問題、環境問題を根本的に改
善できる可能性がある。
優れた熱電変換材料が開発され、それを使用した熱電発電が可
能になった場合、多種多様な目的に沿った工業的な使用が考えら
12
れるが、いずれの使用にも対しても共通している熱電発電システ
ムの利点は
a.固体素子のみで構成されている
b.稼動部分をまろたく必要としない
c.騒音・振動・老廃物を全く出さない
d.信頼性が高い
e.小型軽量化が可能
従って、廃熱を電力に変換するばかりではなく、上記の機能は
環境に極めて優しく、小型軽量化が可能であるために大規模な発
電施設が無用であり、例えば個々の燃焼型エンジンに燃焼ガス廃
棄部分に取り付けての発電が可能である。すなわち離散した多用
な熱源を熱電発電のために利用できる。
このような背景から、多くの熱電発電の仕様が考えられている。
具体的には小型焼却炉やゴミ焼却炉からの廃熱の利用、太陽熱の
利用、自動車等の動カエンジンからの高温廃熱ガスの利用、火力
発電の高温タービンからの廃熱の利用等々である。最近では人間
の肉体と空気の微小な温度差を熱電発電に利用した熱電時計が実
用化されており、また国土交通省では積雪下の道路で雪の温度と
13
地面の温度差を利用したペルチェ効果を用いて雪による道路の凍
結等を防ぐ技術の開発を行っている。
このように熱変換技術はエネルギー・環境問題改善に大きく貢
献できる技術であるが、これもより高効率の熱電変換素子の開発
に成功して初めて可能となる。我々が今回報告する文部省科学研
究費補助で行った研究はあくまでも環境問題解決型技術の確立を
目指すものである。従ってこれまで主流であった堵較的低温での
小さい温度差を利用した熱電変i換素子ではなく、500℃以上での高
温熱源の使用に長時間耐え得る熱電変i換材料の開発を目指すもの
である。
固体は熱電変換機能を持つが、一般に高温で長時間晒されると
酸化され酸化物が形成される。熱電変換機能を決定するのは以下
の三つの因子である。
a.低電気抵抗(高電気伝導度)
b.高熱起電力(大きなゼーベック係数)
c.低熱伝導黙
従って熱電変換材料は低電気抵抗で電気伝導性に優れていなけ
ればならない。よく知られているように酸化物はいわゆる絶縁体
14
が多く、常識的には熱電変換材料としては相応しくない。しかし
1986年のBednorzとMuller[4]のべロブスカイト構造を基調とし、
それから変調した結晶構造を持つ高温超伝導酸化物(high Tc
oxides)の発見はそれまでの常識を完全に打ち破り、ある種の酸
化物は非常に電気伝導性に優れていることが判明した。単純に考
えれば、酸化物は既に酸化されているから高温でもそれ以上の酸
化の懸念は払拭される(実際は熱電変換材料を使用する雰囲気の
酸素分圧により酸素量が変化するので、それ程単純ではない。高
温空気中で熱電変換材料を使用する場合も同様である)。この段階
に至って、高温熱電変i換材料開発に大きな展望が持てるようにな
った。
ペロブスカイト酸化物はABO3なる化学式で表され、図3にその
結晶構造を示した。B位置を遷移金属イオンが占めたペロブスカイ
ト酸化物ほ、高温超伝導をはじめとし例えば巨大磁気抵抗効果、
強磁隆反弾磁性転移等の磁気的挙動、酸化物としては極端に高い
伝導性、大きな熱起電力等の物理的に非常に興味をそそる事象を
示す場合が多い。これはB位置が02一イオンの八面体(octahedron)
の中心にあり、この八面体の作る結晶場は遷移金属イオンの外殻
15
\為.
.i.
曇
ちヌ
じ
生()
陰
○… 藻覧.
O B
蘂
盤
L()
図3ペロブスカイト構造
3d電子にとってエネルギー的に極めて有利であり、それが故に3d
電子あるいは3d成分を持つ正孔(positive hole)が電気伝導や
磁気的挙動に直接関与できるからである。3d成分を持つキャリア
ーは旧いに強く相互作用すると同時に、マトリックス中のイオン
の外殻電子、特に0かイオンの2p一電子とも強い相互作用を持ち前
述の特異な物理特性を与える。従ってこれらの酸化物は電子間に
強い相互作用が働く系、即ち強相関電子系(Strongly correlated
electron system)に属す。
本研究の課題はこの強相関電子系酸化物中の3d一成分を持つキ
16
ヤリアーゐ特性に基づくと推測される極めて高い電気伝導性と異
常に大きな熱起電力(ゼーベック係薮)を有効に機能させ、優れ
た熱電変換材料の開発を試みるものである。従って、本研究では
3d成分を持つキャリアーの動力学(dynamics)が研究全体を通じ
て考慮されねばならない。
本研究は232タイプといわれているBi2Sr3C・209を母結晶とする
層状ペロブスカイト型Co酸化物系を研究対象とした[5,6]。その
詳細の理由は後述するが、この系は高熱起電力発生の有力な要因
である低スピン(10w spin)状態のCoイオンを含み、このCoイ
オンと酸素のCo−0ネットワークが高熱起電力ばかりではなく低電
気抵抗をも与える可能性を内蔵している[7−9]。従ってCo−0ネッ
トワークの上部層構造と下部層構造を人工的に調節することによ
り、Co−0イオン間距離を連続的に変化させれば、より低電気抵抗
率と高熱起電力の発生機構に関する重要な知見が得られる可能性
があると同時に、優れた熱電変換材料にもなりうると推測される
からである。
17
2. 理 論
序論で述べたように熱電変換機能は、その材料の電気抵抗率ρ、
熱起電力(ゼーベック係数)Sおよび熱伝導率んで決まる。電気抵
抗率ρは言うまでもなくもちろん規格化された電気比抵抗であり、
直流抵抗Rを測定し、このRに試料断面積Aを乗じ試料厚さdで
割った値、ρ=RA/d、である。一般的に抵抗率の大きさは室温近
傍では典型的な金属でμΩcm、半導体はΩcmのオーダーであるが、
物質によってそれぞれ異なる。酸化物にいたっては抵抗測定が不
可能な絶縁体から金属程度の低い抵抗率を示す一部の強相関電子
系まで幅広く存在している。優れた熱電変換機能には可能な限り
低い抵抗率が必要である。
熱伝導率κは単位体積当たりの熱抵抗の逆数である。ここで
熱抵抗RTは単位時間当たりに加えた熱量Jと試料両端の温度差A
Tを用いてRT=△T/Jで定義される。従って熱伝導率はκ=d/RTA
である。優れた熱電変換機能を持っためには試料両端の温度差が
大きいほど望ましい。試料に温度差をつけても熱伝導率が高いと
試料内の温度分布の均一化の傾向が促進されて、熱電変換機能を
低下せしめる。従って熱電変換材料は熱伝導率が低い物質でなけ
18
ればならない。
熱伝導率の大きさは熱を伝える媒体の性質によって決まるが、
この媒体には、キャリア(電子または正孔)による寄与と格子振動
等の結晶格子による寄与があり、κ=κ。lect。。ni。+κ1。tti,,の式で表記
されることが多い。ここで、金属や半導体などバンドを経由する
ことによって伝導が起こる、即ちバンド伝導(band conduction)
を示す系では、キャリア即ち伝導帯(conducti己n band)中の伝導
電子あるいは価電子帯(valence band)中の正孔が熱と電気を同
時に伝える。それ故にキャリアの熱伝導率(κ,1ect。。ni。)と電気抵抗
率は反比例関係にあり[10]、κ,lect,。ni,=LT/ρで与えられ、ここで
しはLorentz定数である。この関係式をWiedermanrFranz則と呼
ぶ。しかし熱電変換機能においては深刻な問題に遭遇する。優れ
た熱電変換機能実現のためにはρおよびκの値は小さくなければ
ならない。もし電気伝導が主にバシド伝導に基づくならばρの値
の低下とκの値の低下は互いに矛盾する。すなわちキャリアの濃
度や移動度を大きくして伝導性を増しキャリアの電気を運ぶ能力
を高め電気抵抗を低下させると、これらのキャリアは熱も同時運
ぶので熱伝導率も高くなる。これは電気伝導機構と熱伝導機構が
19
同一である限り生ずる問題である。これを避けるためには両者の
機構が異なる物質を探索するか、あるいは格子振動等の結晶格子
による熱伝導率κ1。tti,,がん,lect。。nicよりも大きい物質を開発するか
のいずれかである。
強相関電子系酸化物はキャリアが含む3d成分が局在性を持ちフ
ォノンと強い相互作用し(electrorphonon interactioの、ポー
ラロン(polaron)となっている場合が多い。ポーラロンはバンド
伝導ではなく、ホッピンッグ伝導(hopping)を示すので[1H4]、
電気伝導機構が熱伝導機構と異なる可能性がある。事実このよう
な特性を示す酸化物は低電気抵抗率を示すとともに低熱伝導率も
示す場合が多い。この観点からも強相関電子系酸化物は熱電変換
材料の有力な候補となりうる。
熱起電力(ゼーベック係数)Sは試料の両端の温度差△Tに基づ
く起電力Vを△Tで割った値で定義され、S=V/△Tである。この
物理量は、抵抗率と異なり試料の大きさに依存しない値であり、
典型的な金属では室温で数μV/K程度、半導体では100μ∼1mV/K
程度の値を持つといわれている。更に、抵抗率や熱伝導率の符号
は常に正であるが、もっとも単純な物質(僅かにキャリアが注入さ
20
れた半導体など)においては、キャリアが電子である場合は負を正
孔である場合は正を取るため、キャリアの性質を調べることにも
利用されている。また、ゼーベック係数の大きさは、熱拡散によ
るキャリアの化学ポテンシャルの変化と、フォノン等結晶格子の
作用によって、即ちキャリアと結晶のエントロピーの大きさによ
って決定される。従って熱起電力の理論的導出の問題は固体物理
の中でも難i解の部類に属する。一般には熱起電力SはBoltzmannn
transport equation(ボルツマンの運動輸送方程式)に立脚した
場合、理論的には次式が得られる[15]。
S=π2kB2T[∂D(εF)/∂ε]、=,F/3eD(εF)
ここでkBはBoltzmann定数、 Dは電子の状態密度(density of
state)εFはフェルミ準位(Fermi energy)である。この理論式
の示すところは優れた熱電変換材料を開発するには[∂D(εF)/,∂
ε],。、,が大きい値を持つような物質を探索あるいは開発しなけ
ればならない。よく知られているように電子の状態密度Dはエネ
ルギーεの関数として表示され、従ってフェルミ準位での状態密
21
度のエネルギーに対する変化率が大きい物質が大きな熱起電力を
持つ。一般には[∂D(εF)/∂ε],.、Fを大きくするにはフェルミ準
位近傍で偽ギャップ(pseud。 gap)の形成が望ましいと考えられ
ている。
偽ギャップの形成には種々なケースがあるが、最も理解しやす
いケースはEGのエネルギー間隔(energy gap)で隔たっていた価
電子帯(valence band)と伝導帯F(conduction band)が例えば不
純物添加あるいは温度上昇等によって格子が変形し、この二つの
バンドが交差(band crossing)する場合である。このようなband
crossingが起こった物質があれば、偽ギャップが形成され大きな
熱起電力も得られるし、交わった価電子帯と伝導帯は新たに一個
の伝導帯となるので、伝導電子の濃度が増加し移動度も大きくな
るので、電気抵抗が著しく低下し、熱電変換材料としては非常に
有望である。
一方、Koshibae等は低スピン状態(low spin state)の3d電子
が熱起電力を巨大化する可能性を理論的に示した[16]。したがっ
て低スピン状態の強相関電子系酸化物が熱電変換材料探索の対象
となる。特にCo一系強相関電子系酸化物はCoの3d電子構造から低
22
スピン状態となる場合が多く、それ故に本研究ではCo一系強相関電
子系酸化物を研究対象としている。
熱源
P・ ゼ箪l l .婦 1二
・是,,.li躍.’葺・ 昌・顎騰 夏
ヒートシンク
三一一一〉
図4 熱電変換素子
図4に熱電変換機能発現の説明のために一対のn一型およびp一
型絶縁体(一般には半導体と言うべきであるが、バンド構造およ
び伝導の温度依存性より、物理的には半導体は絶縁体の範疇には
いるので絶縁体とした)からなる熱電変換素子を示した。
23
高温の熱源と低温のヒートシンクの問には温度差△Tがある。キ
ャリアーは電子であろうと正孔であろうと、固体内に温度差があ
れば高温から低温へ移動するから、p一型絶縁体では高温部分から
低温部分へ正孔が移動し、電流はヒ:一トシンク熱源から熱源へ流
れる。一方n一型絶縁:体では電子が高温部分から低温部分へ移動す
るから電流は熱源からヒートシンクへ流れる。従ってpおよびn一
型絶縁体の高温部分を接続し、低温部分では分離しておけばn一型
絶縁体のヒートシンク部分からP一型絶縁体のヒートシンク部分へ
電流は流れる。即ち温度差△Tによりp一型絶縁体のヒートシンク
部分が陽極(anode)でn一型絶縁体のヒートシンク部分が陰極
(cathode)の電池となる。温度差がなければ正孔も電子も移動し
ないから電流は流れず電池とはならない。この原理からも温餌差
△Tが大きいほど流れる電流は大きくなり、従って陽極と陰極の電『
位差も大きくなるであろうと容易に想像できる。
単位温度差当たりにたいしてどれだけの起電力を得ることが出
来るか熱電変換材料の変換効率を表す物理量が性能指数Z、あるい
は性能指数を無次元化した無次元性能指数ZTであり、これらの物
理パラメターを用いて熱電変換機能を評価する。Zは具体的には次
24
式で表される。
Z=S2/ρκ
性能指数Zの次元は温度の逆数[T『1]である。この式を参照にす
ると、熱電変i換素子を通常の電池と比較すると、熱起電力(ゼー
ベック係数)Sは温度差に比例する電圧であるため、電池の郷軍力
に相当し、抵抗率ρは電池の内部抵抗に相当する。従って取り出
せる電力WはW=V2/R㏄S2/ρとなるので、 S2/ρの値は出力因子
(power factor)と呼ばれ、取り出せる電力の目安になる。
前述のように優れた熱電変換材料とは、大きな熱起電力、低い
抵抗率、低い熱伝導率を持つ。しかしこれらの物理要素を独立に
制御することは困難であるために、そのような材料は少ないのが
現状である。例えば、絶縁体では大きなSを得ることが出来るが、
キャリア濃度が少ないためにρが大きくなり、逆に金属では小さ
なρを得ることが可能であるが、キャリア濃度が多いためにSが
小さくなり、更にキャリアがバンドを経由することによって、電
子のκへの寄与が大きくなるため(Wiede−mann−Franz則)、双方と
25
も熱電変換素子には適していない。そこで、現在実用化されてい
るのは、Bi2Te3合金などこれら二つの極限(金属と絶縁体)の間のキ
ャリア濃度が1019/cm3近傍である縮退半導体である[3]。㌔
26
3.試料および試料作成 ,
3−1.研究対象試料
本研究が基本形として取り上げる232タイプのBi2Sr3Co209の単
結晶はTrascon等によって1989年高温超伝導酸化物の参考試料と
して初めて合成された[6]。従って本質的に伝導性に優れた酸化物
であると同時に、遷移金属イオンCoを含むのでその局在した外殻
3d電子問ばかり℃なく、02p電子とも強く相互作用し、典型的な
強相関電子系酸化物である。Itoh等[5]はBiの一部をPbで置i署し
た多結晶Bi1.。Pb。Sr3Co201の熱電斜掛を調べ、室温においてρ=5×
10−3Ωcm、 S=100μV/Kであることを報告している。これらの熱
電特性は優れた熱電変換材料として現在注目されている単結晶酸
化物NaCoO4[5,17,18]の熱電特性には及ばないものの、結晶の安定
性等を考慮すると熱電変換材料として有望であると考えられる。
さらにShin等[19]は多結晶焼結体をhot press法で作成した結果、
熱電効率の著し恥向上を報告している・
Bi1一。Pb。Sr3Co20gはTarascon等[6]の報告したBi2Sr2CaCo208、δ
(BSCCO)超伝導体と同形体であり、CoO6八面体が二層をなしており、
その隙間にSrが固溶している。この二層とBi−0層が交互に積層
27
麟㌍b)
図5Bi2Sr2CaCo208、δ(BSCCO)の結晶構造
した構・造である。この構造は熱電変換特性に必要な電気伝導は
CoO2層が担っていると考えられる。結晶は斜方晶であり、格子定
数はaおよびbは約5A、 cは約30Aである[6]。しかし最近
’Yamamoto等は電子線回折の測定結果よりBi1.xPb。Sr3Co20g多結晶焼
結体の結晶構…造は従来考えられてきたBSCCO高温超伝導体と同形
体ではなく、Bi−Sr−0で形成されるNaCl型岩塩層とCoO2層の三角
格子を持つCd12−type層による異なる二つの副格子が交互に積層
したmisfit layer structureであると報告している[20]。この
misfit layer structureはNaCo204とも芸通しているので・この構
造が大きな熱起電力を与える要因とも考えられる。いずれにして
28
も結晶構造は複雑で現在でもなお研究中である。しかし、層状構
造であり、CoO2面が電気伝導面である二次元結晶であることには
間違いはない。
本研究ではSr2+の一部をY3+で置換したBi2−xPb。Sr3.,Y,Co20g.δ多
結晶焼結体を研究対象とした。Bi3+を価数の異なるPb2+で置換する
ことによって、先ず電気伝導を担うキャリアであることが予想さ
れる正孔ドーピング(hole doping)を試みた。先に述べた様に、こ
こまでの結果についてはある程度報告がなされているが
[5,19−22]、本研究では更に、Sr2+をY3+で置換するζ.とによって電
子ドーピング(electrordoping)を試みた。抵抗率については、 x
とyを系統的に変化させる事によるキャニリア数の制御を行った。
一方熱起電力(ゼーベック係数)はキャリアまたは結晶のエント
ロピーに依存しているので、PbとYを置換することによって結晶
のエントロピーの増大が期待できる。更に、熱伝導率は結晶格子
による熱伝導率への寄与を小さくするために、イオン半径の異な
るイオン置換を行うことによって、熱を伝えるフォノンの平均自
由行程を小さくすることを想定した。事実Biか、Pb。Sr3−yYyCo20g=δ1ま
大きな熱起電力を示す[5]。
29
本研究の第2段階としてBi2−xpb、Sr3.yY,Co209.δのような232タイ
プの物質が何故低い抵抗率と大きな熱起電力、即ち優れた熱電変
換機能を示すのか、その発現機構の解明を試みた。しかし、
Bi2Sr3Co209.δ試料を固相反応法で作成すると、単相ではなく
piSr205やSrCoOy等の不純物相(impurity phases)が結晶粒界に
析出し[23]、優れた熱電変換機能を示すものの、その発現機構の
解明には必ずしも理想的な研究対象ではない。また本研究の対象
であるBi−Ca−Co−0系でも、多結晶試料の作製において目的外の相
が形成されるとの報告がある[24]。これらの不純物相の体積比は
(volume fractions)無視できるほど小さいものではなく、目的
の多結晶試料における熱電特性の解明の大きな妨げとなる。しか
しBi−Sr−Co−0系では、 Bi2Sr3.、Cg20yにおいて、 z=1.0としたとき
に不純物相が減少し、X線回折パターンも232構造のそれにより一
致したとの報告がされている[25]。実際本研究でもBi2Sr2Co20w多
結晶焼結体を作製しX線回折で構造解析した結果、不純物相ピー
クは確認出来なかった。さらにBi2Sr2−xM。Co208一δでは、 X線回折パ
ターンがBi2Sr3Co20g.δのそれによく一致している[6,24,26]。本研
究ではこのことを考慮し、Bi1.5Pbo.5(Ca, M)3Co20g.δが主要な構造を
30
とると思われるBi1.5Pb。,5Ca2.xM。Co208.δ多結晶試料を作製した
Abbate等は、強相関電子系酸化物の電気的な輸送特性を理解す
るために、02pレベルから上部3d金属レベルまで電荷移動(Charge
transfer;CT)エネルギーの重要性を指i摘した[2,28]。この指摘
はCo−0ネットワークが熱電特性に重要な役割を果たし、低い抵抗
率と高い熱起電力の主な原因であることを示唆している。結晶格
子中のCo−0週頃トワークの上部と下部の層構造を、Co−0イオン間
距離の変化を連続的に起こすような調整をすることによって、’低
い抵抗率および高い熱起電力の出現に関する重要な知見を得るこ
とが可能だと思われる。
このような事実を考慮してBi1.5Pbα5(Ca, M)3Co20g.δが主要な構造
をとると思われるBi1.5Pbα5Ca2−xM。Co208.δ(M=Sc、 Y、 La)多結晶焼
結試料を用いて232タイプ酸化物の熱電変換機能の発現機構解明
を試みる。この系の酸化物では、まずBi3+を価数の異なるPb2+で置
換することによっそ、主要な伝導キャリアと思われる正孔をドー
ピングすることを想定した。過去の研究より232系Co酸化物は伝
導キャリアとして主に正孔が支配的であるといわれている
[6,16,25,29,30]。また本研究の第1段階では後述するように
31
Bi2−xPb。Sr3.yY,Co20g.δでは、 x=0.5のときに抵抗率が最小となるの
で、この組成で効果的に正孔ドーピングが行われたと考えられる。
以上のことを踏まえ、Bi3+の4分の1をPb2+で置換することとした。
また、Ca2+をSc3+、 Y3+、 La3+に、 x=0∼0.3へと置i署することに
よって電子ドーピングを試みた。Sc3+、 Y3+、 La3+は類似した電子構1
造をもち、それらはns2np6と表され、そのイオン半径は主量子数n
が3(Sc)から5(La)へ増加するとともに大きくなる。8配位の
場合、ca2+、 sc3+、 Y3+、 La3+のイオン半径はそれぞれ1.12A、0.870
A、1.019Aそして1.160Aである。 Sc3+、 Y3+はca2+よりイオン半径
は小さく、La3+はCa2+よりイオン半径は大きい。実験的にはxを系
統的に変えて試料を作製することにより、C−0問距離は滑らかに変
化することが期待できる。
常識的には酸化物は一般に高抵抗の絶縁体という印象が持たれ
ていたが、1986年の高温超伝導酸化物の発見により強相関電子系
酸化物の中には大幅な低抵抗化が可能な酸化物の存在が推測され、
これに基づき高温用熱電変換材料の開発・探索研究が加速された。
2000年度の時点で、大瀧倫卓氏が集約されたそれまでの熱電変i換
材料の開発・研究結果は本研究において非常に有益な参考になる
32
ので、それを図6に引用させていただいた[31]。
1」駒。
2稠 400 6珊 8朋1000129㊦
掬r
−P一妙pe
−rト卵。
響㌦囎
/殆鯉 職
薪SiC
ソ%’
7
209 400 600 800 ¶000霊20014001600
7’髭
図6 酸化物熱電変換材料の性能指数[311
33
3−2.試料作成方法
本研究では、物質の特性を調べるために、試料としてセラミッ
クス(多結晶体)を用いる。セラミックスの作製に関しては、再現
性を確認し、更に定量的な解析を試みようとするのであれば、出
発原料から電極に至るまで細心の注意が必要である。特に個々の
研究室単位で作製するような少量の試料の場合は一層の注意が必
要である。これはいかに精密象実験を行ったとしてもよい試料が
得られていなければ、それは全く無意味なものになってしまうか
らである。例えば、排斥するべき不純物、特に金属元素がほんの
少量混入するだけでも作製後の試料の特性に大きな変化をもたら
す恐れがある。また、混合もきちんとされていなければ、均一な
試料は得られない。
多結晶セラミックスを作製する際の反応過程には、熱分解反応、
固相反応、固相変態などがあるが、本研究では最も一般的な固相
反応法を用いて試料を作製した。
先ず、本研究における実験手順の概要を図7のフローチャート
に示し、さらに個々の行程についての詳細な説明をする。
34
糠1毒主蔚Bi2・3晒・ゐSrC・3魚C・あSc2・3凸・3馬・3ゆ3・4
↓
雛灘灘鑛
↓
メノウ乳鉢、メタノール使用一1.5hrs
770∼790℃一12hrs(in Airン
↓
鑛鑛
メノウ乳鉢、30mins
↓
繋饗
10t試験機、1.2(t)一3mins
↓
830∼850℃一12∼18hrs(in Air)
難懸騰
メノウ乳鉢、30mins
↓
三鑛i鑛藏醗i醗
CuKα線
Carbgrundum’ 1#1000使用
↓
金蒸着、銀ペースト(Resistivity)
↓
顯三
直流抵抗率、熱起電力、磁化率
図7 実験手順の原料フローチャート
35
3−2.1出発原料(Starting materials)
本研究で使用した試薬を以下の表1に示す。
表1試薬一覧
購醗1翻 難壁講灘 和光純薬工業株式会社
Bi203
99.9%
PbO2
97%
ナカライテスク株式会社
CaCO3
99.9%
添川理化学株式会社
Sc203
99.9%
和光純薬工業株式会社
Y203
99.9%
和光純薬工業株式会社
La203
99.9%
和光純薬工業株式会社
Co304
99.9%
添川理化学株式会社
SrCO3
99.9%
添川理化学株式会社
3−2.2秤量
原料粉末は直示天秤(島津製作所LIBOROR L−200)を使用し、誤差
±0.1mgの精度で秤量した。原料粉末は乾燥させて保管させるのは
36
言うまでもないが、秤量の際に生じる水分の変化には十分注意す
る必要がある。重量測定段階において僅かな水分の変化があると
天秤の精度が簡単に失われる。従って、可能な限り湿度の多い日
を避け、乾燥した部屋で秤量した。秤量を行う際には手早く済ま
せる必要がある。特にLa203は水分を吸収しやすいので、空気中で
10000C、10時間保持した後3000Cで取り出し、直ちに秤量を行っ
た。
>
3−2.3湿式混合
一般のセラミックスの混合にはボールミルが良く使用されるが、
原料が少量の場合には不純物による汚染の点からもあまりこの方
法は妥当でない。また、ボールの材質が問題となってくる。例え
ば、最も一般的なアルミナボールを使用すると1∼1.5wt%ものア
ルミナ(A1203)が混入するという報告が過去になされており、セラ
ミックスの電気的および熱的輸送特性に多少たりとも変化が生じ
る懸念がある。そこで、今回の試料は全てメノウ乳鉢を用い、粉
末の飛散を防ぐためにメタノールを用いた湿式混合を行った。な
お、湿式混合は空気中の塵を避iけるためにクリーンボックス中で
行い、混合時間は作成条件を統一させるためにいずれの試料とも1
37
時間30分平した。
3−2.4卵焼
この行程は二つの意味を持っている。第一に下記の固相反応を
用い、本焼成の前に組織を均一化することである。第一の式は
Bihp域Sr駈,Y,C・2・餅δ、第二の式はBiL5Pbq5Cah戦C・2・∴(M=Sc、
Y、La)作製のための反応過程を示している。
(2
f)B卿鵬+(3一ア)蹴+卸+払②→B樋馴C嶋
1.5 κ
2
了Bちα+0・5乃ら+(2一κ)CαCq+5M・Q+5Co・②→B擢砺・Cαh砿Co・(福・
第二の点としては試料内に生成された気孔を取り除いて、より緻
密な粉末を得ることである。しかし、高温で長時間仮焼すると、
焼結現象が始まって焼結前の粉砕が困難になり、緻密化が阻害さ
れる。従って適当な温度及び処理時間を試行錯誤で決めなければ
ならない。以上に述べたことを考慮して、本研究で作製する
Bi2.xPb。Sr3.yY,Co20g.δ試料の仮焼温度を経験上で、 x≦0.5、 y≦
0.5の試料は8400Cで12時間保持としたが、x≧,0.6もしくはy=
38
0.7の試料では試料の融点が下がる関係上、790℃で12時間保持と
し、アルミナボート内に試料を入れて、電気炉で熱処理を行った。
Bi1.5Pbα5Ca2.xM。Co208一δ(M=Sc、 Y、 La)の堅焼は経験から770∼
790℃で12時間保持した。
3−2.5粉砕、造粒
仮睡の終了した試料は粒成長しているために、メノウ乳鉢を用
いて乾式粉砕することによって粉末を微細化させた・この粉末の
微細化は次の本焼成における焼結性、しいては試料の質に大きな
影響を与えるものであるから軽視してはならない。
3−2.6成形(プレス)
この行程では軽焼及び造粒の終了した粉末の試料を金型を用い
て成形する。ここで使用する装置は10t試験機で、約1.2tの圧
力下で3分間保持することにより試料を半径8㎜、厚さ約1.5㎜
のペレット状に成形する。この際、全ての試料における成形条件
を一定にするために、一回の粉末の重量を約0.4gとした。一般に
多くのセラミックスでは、成形時に脆さがあるためにそのままで
は成形できないことが多いため、binderとして蒸留水を用いて試
料の強度を保つことが多い。しかし、成形した試料内に水分が過
39
剰に含まれていると、焼結後の収縮率が高いために試料に亀裂が
入る可能性があり、然るべき適当な量を添加しなければならない
というむ難しさがある。幸い、本研究で作製する試料は成形時に
脆さが無いため、binderを用いずにそのまま成形した。
また・試料成形では臆すべき点力1二?ある・第一に加重を加
える時及び加重を取り去る時の速度であるが、これが早いと試料
の内部にクラックが生じるので、なるべくゆっくりとした操作が
必要である。第二点は、成形後に金型によって付着してしまう鉄
粉を完全に取り除くようにすることである。この作業を疎かにす
ると本焼成時に余分な金属紛(主に鉄粉)が試料内で拡散してしま
うので慎重な対処が必要である。
3−2.7本焼成
焼結とは原子粉末の成形体を高温(融点以下)で加熱して粒子間
に結合を形成することであり、粒子間に存在する気孔を取り除き、
試料を可能な限り理想的なものに近づける。焼結の駆動力は粒子
の表面エネルギーであるので、原料が微細であるほど焼結速度が
大きくなり、物質移動距離も短くなるためにより緻:密化された試
料が出来上がる。更に、焼結時に加える温度は高いほど熱エネル
40
ギーが供給されるために焼結性はよくなるが、加える温度が高ず
ぎると元素の一部がイオンとして大気中に蒸発したり、試料内に
析出してしまうことがある。その結果、試料の組成が大きく変化
する危険性がある。このことを考慮して、Bi2.xPb。Sr3.,Y,Co20g一δの
試料作製ではx≦0.5,y≦0.5の組成では焼結温度を870℃で
24時間保持とし、x≧0.6もしくはy=0.7の組成では8400C
で24時間保持とし、アルミナボート内に試料を入れて、自動制御
装置(CHINO Model KP)によりフィードバック制御された電気炉の
中で焼成した。なお、焼成雰囲気としては先に述べたように、熱
電変換材料としての実用性(生産性)を考慮して、空気中での作製
に固執した。
以上の点と仮焼温度とを考慮に入れBi1.5Pbα5Ca2.xM。Co208.δ(M=
Sc、 Y、 La)の焼結は温度830∼850℃の下で12∼18時間保持し、
700℃まで20K/hで温度を下げ、その後壁冷した。
3−2.8X線回折
以上のようにして焼結させた試料の結晶構造CuKα線(λ=
1.,54056A)を用いたDiffractmeter(JEOL社JDx−3530 x−ray
Diffractmeter)により同定し、目的とした酸化物が作製されてい
41
ることを確認した。この行程は、先に述べたBSCCO高温超伝導体
やmisfit構造など、結晶;構造や伝導機;構の解明に重要な知見を与
える。
3−2.9研磨
焼結した試料をCarborundum#1000を用いて、試料の大きさが
およそ5×5×(0.5∼1.0)㎜となるように研磨した。この行程では
試料が完全な直方体になるように研磨し、試料の面積及び厚さが
正確に測れるような形状にすることに留意した。また、研磨後に
アセトンを用いた超音波洗浄で、試料に付着した汚れを完全に取
り除くことも重要である。
42
4.測定方法
本研究で測定すべき物理量は直流抵抗、熱起電力(ゼーベック
係数)および試料中の3d電子のスピン状態を調べるための磁化率
測定である。作製した総ての試料は室温以下でこれらの物理量が
測定され、室温以下で最も優れた熱電変換機能を示す酸化物は
800Kまでの直流抵抗、熱起電力そして熱伝導率を測定し、高温用
熱電変換材料としての機能を調べた。
作製した試料に関する一連の電気的特性(直流抵抗および熱起
電力)の測定を行うためには、どのような電極を選択するかが重
要な因子となる。しかし、電極の選択を誤ると電極と試料との接
触面において様々な問題が生じる。第一に接触面でオーミック接
合をしているかという点である。オーミジク接合していない場合、
i接触面において接触電位差に基づく電位障壁が形成されて、抵抗
率がオームの法則に従わなくなる。第二に電極の接合強度が問題
になる。特に、本研究での電気的特性の測定は高温から低温にか
けているため、全温度領域で強度に耐え得ることが非常に重要な
問題となる。以上の点を考慮した結果、電極にはイオンスパッタ
リングによる金電極を用い銅線の接続には銀ペーストを採用した。
43
直流抵抗率測定は汎用されている電流端子と電圧端子が分離し
た四端子法を採用した。室温以下の測定手順は先ず作製した試料
をデュア石釧(OXFORD製)にセットし、油回転ポンプで真空を引き、
その状態で液体窒素を媒体として約80Kまで冷却する。そして、
ヒーターにより温度を上昇させながら80Kから340 Kまでの昇温
時に、電流を10飴印加した時の電圧値を1Kの温度間隔でGP−IB
制御により測定した。温度は温度補正をした銅一コンスタンタン
熱電対を用いて測定した。なお、温度を上げる際は、温度を計測
する熱電対の温度と試料の温度に隔たりが生じないよう、熱電対
を出来るだけ試料に近くセットするとともに、昇角速度を可能な
限り小さくし、試料内部が熱平衡状態を保つように温度上昇率が
できるだけ一定になるようにヒーターを調節した。
熱起電力(ゼーベック係数)測定は試料の両極面をOFHC(無酸
銅;oxygen−free high conductivity)銅で固定して、試料の一端
を温度差が一定になるようにヒーターで調節し、生じる起電力を
2Kの温度間隔で抵抗率測定と同様にGP−IB制御のもと80 Kから
300Kの温度領域で測定し、温度は銅一コンスタンタン熱電対を用・
いて測定した。試料両端の温度差は約10℃に保った。
44
熱起電力は次のような関係式で計算した。
8=巫=耽一死
4:τ η一三
ここで、Vh, Vcは高温側及び低温側の電圧値、 Th, Tcはそれぞれ高
温側と低温側の温度である。
電流源にはADVANTEST Model R6161 Voltage Current Sourceを
用い、電:流はKEITHLEY Model 619 Electrometer/Multimeter、電
圧はADVANTEST Model TR6871 Digital Multimeter、温度はKEITHLEY
Mode12000 MultimeterおよびADVANTEST Model TR6871 Digital
Multimeterを用いて測定した。
磁化率はQuantum Design社の磁気特性システム(SQUID)を用い
て測定した。測定は磁場を印加しないで10Kまで冷却後に昇温過
程で測定する方法(ゼロ磁場フィールドクーリング:ZFC)と磁場を
印加した状態で冷却後に測定する方法(フィールドクーリング:
FC)の二種類でおこなった。なお、10 Kから300 Kの温度領域で測
定し、印加磁場は0.1Tである。
室温以上の高温での測定は本研究の目的である熱電変換材料の
45
実用化を考えるうえで、高温領域における熱電特性の測定は必要
不可欠である。このため、Bi2.、Pb。Sr3.yYyCo20g.δ多結晶系のx=0.5、
y=0.5の組成を持つ試料を高温領域(300K∼800 K)で直流抵抗
率、熱起電力及び熱伝導率測定を行った。高温測定は日産自動車
株式会社総合研究所の協力のもとで行われた。2×4×10㎜3の直
方体上に成形した試料の両端に、温度測定としてPt−Pt(13%Rh)
熱電対を銀ペーストで接着し、直流抵抗率測定用に白金線を試料
中央部に2本銀ペーストで接着して四端子法の電圧端子とした。
油回転ポンプで真空を引いた後、所定の温度
(300,400,500,600,700および800K)に電気炉で定常にして試料両
端のマイクロヒーターで試料に温度差を設け、両マイクロヒータ
ーの出力を調整することによって試料両端の温度差を約+2℃から
一2℃の問で徐々に振ることによって発生する電位を測定し、その
勾配から熱起電力を求めた。
また、直流抵抗率は熱起電力において発生起電圧が0になるよ
うにマイクロヒーター出力を設定し、定電流源を用いてnA∼飴オ
ーダーで電流を変化させることによって電流一電圧特性を求める
ことによって算出し、熱伝導率は一般に用いられるレーザーフラ
46
ッシュ法により測定した。
47
5.結晶構造
室温における結晶構i造の解明をJEOL JDX−3350 Cu Kα粉末
X−ray Diffractmeterを用いて行った。
5−1.Bi2.xPb。Sr3.yYyCo20g.δ多結晶焼結体
Bi2.xPb。Sr3.yY,Co20g一δ多結晶焼結体ではx=0.4、0.5および0.6、
y=0.0、0.3、0.5および0.7を組み合わせた12種類の組球を持
っ試料を系統的に固相反応法により作成し、先ず作製した試料の
粉末X線回折測定(XRD)を行い結晶構造の同定を試みた。一例とし
てx=0.6、y=0.5試料の回折パターンを図8に示した。他の組
成を持つ試料も同様な回折パターンを示すことが確認された。
この回折パターンをTrascon等によって過去に報告された
Bi2Sr3Co20g単結晶の回折パターンと比較すると[6]、主要な回折ピ
ークは一致したが、単結晶の回折パターンには含まれていないサ
テライトピークが確認された。
また、Srに対するYの置i換量を多くしたとき、即ちyの値を徐々
に大きくしていくと、(001)方向のピークが僅かながらも高角度側
にシフトするのが確認され、これによって。軸方向の格子定数がY
置換によって僅かながら減少することが分かρた。この現象は、
48
Y3+のイオン半径がSr2+のイオン半径よりも小さいために生じてい
ると推測される。
2000
x=06y=05
1
1500 .一. 」
. 1 .
ト
ミ
茎 10001』...1. .『 「. ...ニ
ミ . 1
1 [
1
500
ト 1
. ,・,_「ドIL
O_訊___..ゴ.鉱、論,、一_』=■∵_⊥∴、.。.跡
1015120125李30▲3540
2〃仙ρ
図8Bi2.xPb、Sr3.yYyCo20g.δ(x=0.6, y=0。5)のX線回折パターン
問題のサテライトピークは単結晶Bi2.、Pb、Sr3Co20g試料では現れ
ず、固相反応法馬で作成した多結晶嶢六体の場合には必ず生じる
49
[19,20,22]。しかしながら、サテライトピークの起源については、
各研究者によって異なった二つの見解がなされている。
第一に、このサテライトピークは、従来考えられていたものと
は違う結晶構造であるために存在するという考えである。序論で
も述べた様に、近年、Yamamoto等はx線回折と電子回折の測定結
果より、Bi2.xPb。Sr2Co20g多結晶焼結体の結晶構造が従来考えられて
きたBSCCO高温超伝導体と同形体ではなく、Bi−Sr−0で形成される
NaC1型岩塩相とCoO2平面をもつCd12−type六方相による異なる二
つの副格子が二次元的に交互に積層したmisfit layer structure
であると報告している[20,32]。彼等はX線回折パターンで確認さ
れたサテライトピークは主にCoO2副格子によるものであると説明
している。このCoO2副格子は、 Coイオンの質量吸収係数が大きい
ためにピークとして検出される時とされない時がある。このため、
X線回折のみでは結晶構造の同定を行うことは出来ず、電話回折の
測定結果を用いることではじめて分かると報告している。しかし
ながら、この考えは前に述べた様に現在でも研究段階であり、明
確な回答は得られていないのが現状である。
第二はこのサテライトピークは不純物相によるものとする主張
50
である。Vashuk等は、 Bi2Sr3Co209試料を固相反応法で作成すると、
単相ではなくBiSr205やSrCoOy等の不純物相が結晶粒界に析出する
ことを報告した[23]。また、Shin等は同様に固相反応法で作成し、
熱間成形させたBi1.6Pb。.4Sr3Co20g多結晶焼結体のX線回折による
サテライトピークは第二相による可能性があると述べている[19]。
更に、Tsukada等によって、固相反応法で作成したBi2Sr3一、Co20.多
結晶焼結体においてzの値を0から1に増加させることによって
不純物相が取り除かれて単相に近づいて行き、その結果、z=1に
おいて不純物相によるサテライトピークは完全に除去されること
を報告している[33]。
実際に、本研究でもBi2Sr2Co20w多結晶焼結体を作成し、 X線回折
を行ったところ、サテライトピークの数は減少し、Tsukada等のX
線回折パターンとほぼ一致した。
サテライトピークに関しでは・上に述べた二つの考えが報告さ
れているが、本研究で作成したBi2.xPb。Sr3.,Y,Co20g.δ多結晶焼結体
には、磁化率測定結果の項でも後に述べるが、SrCoO,等のCo磁性
イオンを含んだ不純物相の存在が予想される。また、X線回折結果
からではサテライトピークが数多く存在しているために、結晶構
51
造がmisfit構造であるかBSCCO高温超伝導体と同形体であるかを
確認することが出来なかったが、電気伝導を司るCoO2面はいずれ
の結晶構造でも存在する。
なおBi2.xPb。Sr3.yY,Co20g.δ多結晶焼結体に含まれるサテライトピ
ークの除去を目的として異なる焼結温度、焼結時間、あるいは還
元雰囲気中(窒素雰囲気中)での試料作成を試みたが、いずれもサ
テライトぜ一クは消滅しなかった。更に、Tsukada等;[33]によって
報告された単相に近いBi2Sr2Co20.多結晶焼結体を作成し、
Bi2.xPb。Sr3.yYyCo20g.δと同様にSr2+イオンを少量のY3+イオンで置i換
を試みたが成功しなかった。この事実はBi2.xPb。Sr3.yY,Co20g.δに比
較してBi2Sr2Co20。多結晶嶢狂体ではY3+イオンの瀬野限が小さいこ
とを意味している。
5−2.Bi1.5Pbq 5CahM。Cρ208.δ(M=Sc, Y, La)多結晶焼結体
Bi1.5Pbo.5Ca2.xM。Co208.δ(M=Sc、 Y、 La)ではx=0およびM=Sc、
Yの場合x=0,1∼0.3、M=Laの場合x=0.2の合計8種類の組
成の多結晶焼結体を作製し、結晶構造の同定を試みた。図9−1,
2および3にそれぞれM=Sc、 Y、 La試料のX線回折パターンをx
52
「=0の試料の結果とともに示す。また比較するために、報告されて
いるBi2Ca3Co20gのX線回折パターンを図9−4に示した[24]。
560
480
x=0.3
400
⇒
x=0.2
320
●三
田−
損
240
印
x=0.1
160
80
x=0
0
102030405060’7q 8090
20
図971 Bi1.5Pbo.5Ca2−xSc。Co208.δのX線回折パターン
53
M=Y
560
480
x=0.3
1400
昏
x=0.2
320
●お
田
省
240
同
x=0.1
160
80
x=0
0
10 20 30 40 50 60 70 80 90
20
図9−2 Bi1.5Pbα5Ca2.xY。Cq208.δのX線回折パターン
Yamamoto等[20]によって報告されているBi−Sr−Co−0系の多結晶
試料では、主要なピークのほかに不純物相によるものと思われる
サテライトピークが観察されている。最近ではBi2Sr3.、Co20wにおい
て、’
噤≠P.0としたときにサテライトピークの減少、すなわち不純
54
240
倉 160 x=0・2
竈12。
三 8・
40
x=0
0
10 20 30 40 50 60 70 80 90
2θ
uン
:BiCaCoO 2 3 2 9
−28
10 20 30 40 50 60 70 80 90
図∵蝋のX三三ター
純物木1の減少が見られ、232構造の回折パターンにより一致し泥と
55
の報告がされている[33]。この結果を参照にして、本研究のおい
てもBi1.5Pbo.5Ca2一,M。Co208.δという非化学量論比によって試料を作
製した。その結果すべての試料のX線回折パターンは、Tarascon
等[6]やVashuk等[24]によって報告されている232構造のそれに
よく一致した。Bi2−xPb。Sr3.yY,Co20g一δ多結晶試料で報告されている
ものと比較しても、サテライトピークは少なく、より単相に近い
試料が得られたと思われる[8]。非化学量論比の化式から、作製し
た試料にはBi系不純物相とCo系不純物相の存在が懸念されるが、
それらの電気的、磁気的特性への寄与は、Bi2.xPb。Sr3.yY,Co20g.δ多
結晶試料における不純物相の影響ど比べても小さいと考えられる。
よってBi1.5Pb。.5Ca2−xM。Co208一δにおける電気的、磁気特性は、232結
晶構造によるものといえる。
これらのX線回折パターンのうち、低角度側に見られるピーク
は(001)familyに属し、その回折角度から単位格子の。軸長さを
求めることができる。その結果、M=Laの試料を除き。の値は単
調に減少し、x=o試料が。=29.497Aであったものが、 M=sg
においてx=0.3の試料では。=29.439、M=Yにおいてx=0.3
の試料では。=29.398Aとなった。このことから、 Ca2+よりもイオ
56
ン半径の小さいSc3+、 Y3+のドーピングによって効果的に格子定数。
が減少する。またCa2+よりもイオン半径の大きいLa3+ドーピングに
よって、格子定数。が逆に増加していることが分かる。すなわち、
Caサイトをイオン半径の異なるもので置換することが、結晶格子
の収縮および膨張を効果的に引き起こしている。
57
6. 実験結果と考察
6−1.Bi2−xPb。Sr3.yYyCo20g一δ多結晶焼結体系
a).4端子直流抵抗
x=0.4、0.5および0.6、y=0.0、0.3、0.5および0.7を組み
合わせて合計12種の組成を持つBi2.xPb。Sr3.,Y,Co20g.δ多結晶焼結体
の4端子直流抵抗率を80Kから340 Kの温度領域で測定し、その
結果を図10−1に示した。序論でも述べた様に、熱電変換素子とし
ての実用化を考える場合、直流抵抗率の絶対値は内部抵抗に比例
するために、より抵抗率の値が小さい程熱電変換効率がよくなる。
それ故に、この段階ではより小さな抵抗率を持つ試料の探求が研
究の主眼である。
従って幅広くxおよびyの値を変化させるべきであり、x=0.3
の組成を持つ一連の試料も作成して直流抵抗を測定した。しかし
他の試料に比べて抵抗率の値が大きく熱電変換材料としての機能
は劣っていると判断されたのでx≦0.3の組成域での実験は行
わなかった。一方、x≧0.7またはy≧1.0の組成を持つ試料の
作成も試みたが試料作成が不可能であった。これは固溶限界が主
たる原因であると考えられる。
58
図10−1から理解できるように抵抗率の値はxとyの組み合わ
により、即ちイオン置換量の制御により数桁にもおよび大きく
1ρ〃r一,一一・
“l
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鳶
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乱’L
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100 』150 2〃 250 初
50 35〃
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図lo−1 Bi2.、Pb、sr3−yYyco20g.δ多結晶焼結体の4端子直流抵抗率
変化する。また、室温での抵抗率の温度依存性が0.1Ωcm以上
59
である試料は半導体的挙動を、0.1Ωcm以下の試料は金属的挙動
を示しているのも興味深い。すべての試料のうち、x=0.5、 y=
0.5の試料の抵抗率が最小となる。この試料の抵抗率は室温で約
20×10−3Ωcmであり、多結晶焼結体としては非常に小さな値であ
る。
次にYを置換せずにPbの置換量を変化させた試料、即ちx=
0.4、0.5および0.6、y=0の試料における抵抗率の温度依存性
を図10−2に示す。このグラフよりPbの置換量を多くしていく
と、即ちxの値を大きくすると、僅かではあるが抵抗率の減少
が確認できる。この結果はBi3+イオンを価数の異なるPb2+イオン
で置換することにより、主なキャリアである正孔がドープされ、
その結果電気伝導性が若干良くなったものと推測される。
しかしy=0の系の抵抗率はY置換した試料と比較すると非
常に大きな値を示した。更に、Itoh等によって報告された
Bi1.6Pbo.4Sr3Co20g(本研究で作成したx=0.4、 y=0.0試料に相
当)単結晶試料の直流抵抗率は、室温付近で約5×10−3Ωcmと本
研究で作成した試料と比べて3桁も小さな値を示すことがわか
った[5]。一般的に単結晶試料の抵抗率は多結晶試料の10分の1
60
程度であるといわれており、この違いは異常である。
’o”
u’一凶.
π=侃4y=o. o
π=訊5y=銑ρ
◆ π=乱6y=乱ρ
鳶
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〃1
’50’一.血8.一回忌2。∂ .2訊ρ’.初.‘初
rω
図10−2 Bi2−xPb、Sr3ッYyCO20g一δ(X=0,4∼0.6, y=0)の抵抗率
本研究でのy=0の系の抵抗率が予想された値よりも著しく
大きな理由として以下の三つの要因を考えられる。
61
・酸素欠損によるホール数の減少
・結晶密度の違い
・不純物相の影響
ここで、電気的中性条件から1個の酸素が欠損すると2個の電子
が結晶内に導入されるから電子と正孔の再結合がおこり、酸素欠
損はキャリアである正孔濃度を減少させ、その結果抵抗率が単結
晶試料に比べて大きくなる可能性がある。
そこで、x=0.5、 y=0.0試料を酸素雰囲気中でアニ:一リング
して試料の酸素含有量を増加させ、正孔濃度の増加を試みた。そ
の結果、酸素量増加により確かに抵抗率は減少するが、非常に僅
かであった。したがって酸化アニーリングによる正孔濃度増加の
効果は小さいことが分かり、酸素欠損が単結晶試料との決定的な
違いを与える要因でないと判断した。
次に、結晶密度の違いを考える。多結晶試料については、単結
晶試料と違って結晶粒界を考える必要がある。更に、結晶粒問に
空回や不純物相が存在し、これらは結晶粒間の伝導性の障壁とな
ることがある。そこで試料の密度を測定し結晶密度が抵抗率にど
のような影響を与えているかについて調べ、これまでの文献の結
62
果と比較してみる。
ShinとMurayamaは本研究と同様にBi1.6Pb。.4Sr3Co20g.δ多結晶焼
結体(本研究のx=0.4、y=0.0に相当)を常圧下で成形した試料
(結晶密度ρ=4.49g/cm3)と、熱間成形(ホットプレス)’により結
晶密度を大きくした試料(ρ=6.35g/cm3)を作成している[19]。
440K∼1060 Kの高温領域でこの高焼結密度の試料の抵抗率を測定
したところ、常圧下で作成した試料の440Kにおける値は約1Ωcm
であり、本研究で作成したx=0.4、y=0.0試料(ρ=4.66g/cm3)
の抵抗率曲線の440Kにおける外装値とほぼ一致した。
表2Bi2−xPbxSr3C620g.δの結晶密度
翻譲翻’麟灘’幽 生漆i難1懸灘 x=0.4,y=0.0
4.66
4.49
Bi1.6Pbo.4Sr3Co209
inormal−press)
コ口1.6Pbo.4Sr3Co209 (hot−press)
6.35
表2に試料密度のリストを示した。更に、熱間成形させた試料
63
の抵抗率は440Kで約20×10−3Ωcmと二桁も減少し、 Itohによっ
て報告された単結晶との抵抗率の差は一桁のみにまで減少する
[5]。
これにより、単結晶試料と多結晶焼結体躯の抵抗率は結晶密度
の違いに非常に敏感であることが判明した。また前述の結晶粒界
に析出する不純物相は抵抗率に関してはあまり影響を及ぼざない
と予想される。
次にPb量を固定して(x=0.5)、 Yの置換量yを変化させたとき
の抵抗率の温度依存性を図10−3に、xをパラメ華墨として室温(300
K)における抵抗率をyの関数として図10−4に示した。
これらの結果より、Yの置換量即ちyの値を大きくしていくと抵
抗率は劇的に減少しy=、0.5で最小値を示し、さらにYの置換量
を増すと抵抗率は増加する。従って熱電効率を考える上でのyの
最適値は0.5と結論される。
Bi2.xPb。Sr3.yY,Co20g一δ多結晶焼結体系ではBi3+をPb2+で置i饗すると、
キャリアである正孔がドープされて抵抗率が若干減少するが、こ
れに対してSr2+をY3+で置換すると電子をドープし、正孔濃度を減
少させる。これにより電気伝導はY置換によって減少すると予想
64
していたが、実際には、Pb置換よりも、 Y置換の方が抵抗率は劇
的に減少させ、全く予想に反する結果になった。
’”
u
π=ρ.5」Fo. o
JFo.5.Fo.3
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50
rω
図10−3
Bi2.xPb、Sr3.yYyCo20g.δ(x=0.5, y=0∼0.7)の抵抗率
65
10.
コ
ξ
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巳一凋r且5
◆ 潔=o.6
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θ., ■ ●一.. 亀
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。.〃 . 一 .一..一・一一一. ・ 一.一一
θ σ.7 ρ.2 ρ.3 0.4 ρ.5 θ.6 θ.7
y
図10−4
Bi2一,Pb、Sr3雪YyCo20g一δ(x=0.4∼0.6)の室温での抵抗率のy
による変化
従ってキャリア濃度以外の別の要因に対するY置換の効果を考
察する必要がある。ShinとMurayamaの結果を参考にすると[19]、
抵抗率の減少はY置換による結晶密度増加によると推測される。
66
しかしながら、x=0.5、 y=0.0の試料どx=0.5、 y=0.5の試
料の結晶密度の測定結果はそれぞれ4.89g/cm3、4.60g/cm3であり、
Y置換により逆に結晶密度が減少する。従ってY置i換による抵抗率
の減少は結晶密度に依存していない。
第二の可能性はY置換よる伝導機構の変化である。Pb置換によ
って正孔が導入され、僅かながら抵抗率が減少したが、この正孔
は、02p−Co 3d eg軌道の波動関数が混成した1igand holesで
あることが予想される。しかしながら、Pb置換によってこのligand
holeの量が増える一方で、 Pb置i換のみではCo4+イオンの量が多く
なり、またBiイオンとPbイオンの半径の相違からCoイオンのス
ピン状態が変化し、混成状態が保たれなくなる恐れもある。そこ
で、この混成によるligand holeの伝導を維持するために、 Sr2+
をY3+で置i換することによってCoイオンは低スピン(10w spin)
Co3+(t62g)状態を維持すると考えられる。
実際、本研究におけるy=0.0試料のような高抵抗絶縁体的挙
動を示す試料の伝導機構は多くのCo強相関電子系酸化物に見られ
るようなligand holesによるスモールポーラロンのホッピング伝
導による[12−14]。しかしながら、yが増加することによって絶縁
67
体から金属に転移することは、「ポーラロン伝導から別の伝導機構
への転移を示している。
X線回折が示すようにY置換によって。軸の長さが減少する。つ
まり、Y置換によって、02p−Co 3d eg軌道間距離が減少し、そ
の結果高い移動度の金属的伝導に必要な幅広い伝導バンドが形成
されると推測される。即ち二つのバンドが一部交差するband
crossingが起こっている。 Y置換は。軸方向の格子定数を減少さ
せ、それによりバンド交差を誘起し、その結果抵抗率を下げる。
序論で述べたようにバンド交差はまた偽ギャップを作り出し、大
きい熱起電力を結果として与えることもありうる。
またX線回折のみでは判断できないカミ・Pb置換は蔽伝導面
(CoO2面)に歪場を誘引するがYイオンがこのひずみ場を緩和し、
その結果電気伝導性が高める効果も考えられる。
b).熱起電力
80K∼300Kの温度領壊における熱起電力の温度依存性を図11−1
に示す。この結果より、いずれの試料とも180K付近でピークを
示し、一般的に絶縁体的な挙動[34,35]を示す。正の値を取ること
68
’6〃
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,ρo1
§
§
8び.
60・・
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2〃.
@ .一 一 、....』 . __一
’ρo ’50 200 250 3σσ
7ω
Bi2−xPb、Sr3.yYyCO20g.δの熱起電力の温度依存性
図ll−1
からこの系のキャリアは正孔であることが確認された。またY置
換による電子ドーピングにもかかわらず熱起電力の値は大きくは
変化しなかった。いずれの試料も室温付近では約100μV/Kと大き
な値の熱起電力を示し、この値はBi2.、Pb,Sr3Co20g単結晶試料とほ
69
ぼ同程度であり[5]、Nal.1.,Ca、Co204単結晶試料に比べて僅かに大き
な値である[36]。
16”r一 一.・.一一.一一一「 一一一・一一… ・一一一
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サきえ 1 ブ 』\、ノ
ト ロ
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1 ’ 三
60ム。.‘〃∂1一涜一.2あ ‘25〃…}∂o I350
7ω
図11−2 Bi2.。Pb,Sr3.yYyCo20g.δ(x=0.5)の熱起電力の温度依存性
次にPb置換量を一定に保ち(x=0.5)、 Y置換量即ちyの値をパ
ラメ鼻口とした熱起電力の温度依存性を図11−2に示した。前章で
70
紹介したように同じ試料の抵抗率の温度依存性が劇的な変化をす
、るのに対し、熱起電力はY置換量即ちyの値にほとんど依存せず、
熱起電力とyとの間の明確な因果関係は確認できない。従って多
結晶Bi2.。Pb。Sr3−yYyCo20g.δ系の伝導機構は単なるキャリ’ア濃度のみ
には依存していない。
熱起電力は熱電変換材料の性能指数には自乗に比例する値であ
るので、この値が大きいことは熱電変換材料として極めて有利で
ある。また、ShinとMurayamaの報告によれば抵抗率は結晶密度に
非常に敏感であるが、熱起電力は結晶密度にほとんど依存しない
[19]。
多結晶Bi2一。Pb。Sr3.yY,Co20g.δ系の大きい値の熱起電力を与える要
因としては、これまでにも述べたように
1)バンド交差による偽ギャップが形成される可能性
2)Koshibae等[16]の指摘する伝スピン状態のCoイオン
が考えられる。バンド交差は直流抵抗の結果からも推測されるが
多結晶Bi2−xPb。Sr3.,Y,Co20g.δ系ではバンド交差が実現している可能
性が高い。低スピン状態のCoイオンに関しては磁気測定が何らか
の知見を与えてくれるかもしれない。
71
c).磁気測定
外部磁場を0.1T印加した時の磁化率(%)の温度依存性を図
12−1に示す。この結果より、いずれの試料とも磁化率は非常に小
さく常磁性的な挙動を示していることが分かり、Trascon等による
Bi2Sr3Co20g単結晶試料の測定結果と見かけ上は一致している。また、
a”01 u
、,グ1:
ム
6’〆
§
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τω
図12−1Bi2.xPb。sr3.yYyco20g.δの磁化率の温度依存性
72
フィーールドクーリング(FC)とゼロフィールドクーリング(ZFC)の
測定結菓は全く同一であった[6]。
最近のKoshibae等の理論計算によると、Co酸化物における熱起
電力の絶対値を大きくするためには、Coイオンが低スピン状態に
なければならない[16]。更に、Trascon等[6]やTsukada等[22]も
単結晶の磁化率測定と光学測定を通してこの系におけるCoイオン
は低スピン状態であると結論している。そこで本研究でも常磁性
領域におけるCurie則を適用することによって、この系の合成ス
ピンを算出してスピン状態を調べることを試みた。
この計算に必要な磁化率の逆数(一1)の温度に対するプロット
を図12−2に示す。しかしながらこの結果より常磁性領域において
プロットには直線関係が成立せず、Curie−Weiss則に従ず、合成ス
ピンを算出することは出来なかった。
更に組成の違いによって、様々な変化を示していることも確認
できる。この理由として、前述のSrCoO,等の磁性イオンを含む不
純物相の影響が考えられる。
この様に、本研究で作成したBi2−xPb。Sr3−yY,Co20g.δ多結晶焼結体
の合成スピンは,不純物相の影響によって合成スピンの値を正確
73
8’05
F
7〃[.
o 鳳5y鴫5
8’ 勘 5’‘oo㈲
’5 05
’ 2 7
61〆
5,〆
§
4〃1
§
3”1
2”1
’〃5L
ノ∼__.__..…ゴ
ρ 5〃 10〃 ’50 2ρ0 250 3〃0
7ω
図12−2Bi2.、Pb、sr3雪Yyco20g.δ(x=o.5,y=o.5)および
Bil.5Pbo.5Sr2Co20.のZ−1の温度依存性
に算出することは不可能であった。ここでYamamoto等の報告によ
り[21]、単相が期待できるBi1.5Pb。.5Sr2Co20.多結晶僥結体を作成し
磁化率を測定し、その結果を図12−2に添付した。Tsukada等は
74
Bi1.5Pb。.5Sr2Co20wは10 K以上の温度領域でCurie−Weiss則が成立
し、4K以下で強磁性転移が生じると報告しているが[22]、本研究
の測定結果でも彼らの報告と同様に10K以上で常磁性的挙動を示
し、室温まで温度を上げてもスピン状態の変化は見られなかった。
そこでBi1.5Pb。.5Sr2Co20w多結晶焼結体に関して10 K以上の常磁
性領域でCurie−Weiss則を適用してキュリー定数C=0.03[emu・
K/mo l e]、有効磁気モーメントμ,ff=0.45μB、および合成スピンS
=0。05をえたが、Sの値は非常に小さない。この合成スピンの値
より、Bi1.5Pbo.5Sr2Co20.多結晶焼結体中のCoイオンのスピン状態
は、90%の低スピンCo3+(t62、、 S=0)と10%の低スピンCo4+(t52,、
S=1/2)であると算出され、少なくても室温以下におけるこの酸
化物のスピン状態は低スピン状態であると推測される。この結果
よりBihpb。Sr鋭,Y,Co209.δ多結晶焼結体も同様に室温以下では低ス
ピン状態であり、スピン転移が起こっているとは考えにくい。
d).出力因子
図13は測定した総ての試料の出力因子S2/ρを温度の関数とし
てプロットした。但し室温以下での結果である。このグラフはx=
75
0.5、y=0.5の組成の試料が他の試料に比べて一桁も大きい出力
因子を持つことを示している。即ちBi2.、Pb、Sr3.vYyCo20g一δ多結晶僥
結体の中で、x・0.5、 y=0.5試料が熱電変換の性能が一番優れ
ている。それ故にこれからの考察はx・o。5、y・o.5試料に限定
する。
炉ρ.4y=0.ρ
鳳47=砿3
π冨ρ.4y=o.5
”7
P
κ=0曹5y=σ.5
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炉。.5y富。.3
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乞
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囲躍国’
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50 ’ρ0 ’50 2〃θ 250 3〃ρ 350
rω
図13
Bi2.xPb、Sr3.yYyCo20g.δの出力因子の温度依存性
76
序論で述べた様1ご、本研究では高温領域にて使用可能な熱電変
換素子の開発を一つσ丹砂に挙げている。また、へ現在のところ酸
化物の中で最も優れた性能を持つNaCo204はNaイオンの潮解1生が
問題となり、高温領域における長期間の使用を考えると課題が残
る。本論文ではx=0.5、y=0.5の試料がこれらの問題に対処出
来る材料であるかを確認するために、作成してから一年経過した
試料と、800℃で24時間空気中で再度焼成した二種類の試料(双方
ともx=0.5、y=0.5試料)を用意し、 X線回折、抵抗率及び熱起
電力の測定を行ったところ、双方とも全く同一の傾向を示した。
この事実はBi1.5Pbα5Sr25Yα5Co20g一δ(x=0.5、 y=0.5)多結晶
焼結体は空気中では化学的に非常に安定しており、長期間の使用
も可能であることを示している。
e).高温測定
前節の結果はx=0.5、y=0.5試料が熱電変i換材料として高温
使用に耐えうることを示しており、それ故に実用化を視野に入れ
た研究が求められる。この観点に立ちx=0.5、y=0.5試料の高
温領域における直流抵抗率、熱起電力、熱伝導率の測定を行った。
77
乱055
i
●
ρ.05一
O x;0 5 y=0 5
言・〃45’ 。
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1
●
●
●
o’
o.835 1 1..
2ρρ 300 40ρ 50ρ 60ρ 70ρ 800
rω
図14−lBihPb、sr3.yYyco20g.δの(x=o.5,y=o.5)の抵抗率の温度依存性
図14−1に300K∼800 Kの温度領域で測定したx=0.5、 y=0.5
試料の直流抵抗率の温度依存性を示す。この試料の340K以下にお
ける抵抗率は図10−1に示したように、280K付近で金属一絶縁体転
移を起しており、300K∼800 Kの高温領域でも温度上昇に伴って抵
78
抗率が単調に減少し絶縁体的挙動を維持している。
’〃_一「・一..T 一.__. ._一..
1 ●一
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rω
図14−2Bi2一、Pb,Sr3.yYyCo20g.δの(x・0.5,y=0.5)の熱起電力の温度依
存性
図14−2は熱起電力の温度依存性をプロットした。この試料の室
温以下における熱起電力は図11−1に示したように、温度上昇に伴
79
い180Kでピークを示して300 Kまで単調に減少している。
しかし、高温測定によって400Kまでは単調に減少するが、400
K以上では再び増加する。この原因は不明であるが400K以上で温
度上昇に伴い熱起電力の単調な増加と・抵抗率の単調な減少は熱
電変換効率の点では非常に有利である。
また、抵抗率、熱起電力とも500K近傍で変化しており、この
現象与える理由の詳細は不明であるが、この温度近傍で磁性転移
もしくは結晶格子の変化が生じている可能性がある。
図14−3にx=0.5、y=0.5試料における熱伝導率κの温度依
存性のグラフを示す。・熱伝導率は室温付近で約10×10−3W/cmKと
非常に小さな値である。この値はNaCo204焼結体試料よりも小さく
(約15×10−3W/cmK)、高温超伝導体焼結辞職料の1/3程度である
[17,37]。熱伝導率が非常に小さな値を示すのはイオン置i換によっ
てフォノンの平均自由行程が短くなったことことも理由の一つで
あろうし、結晶粒界に析出した不純物相も何らかの寄与をしてい
るかもしれない。
温度上昇とともに熱伝導率κは僅かではるが単調減少しており、
この減少は抵抗率、熱起電力と同様に実用化の観点から有利であ
80
る。
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7ω
図14−3Bi2.xPb、sr3.yYyco20g.δの(x=o.5,y=o.5)の熱伝導率の温度
依存性
図14−4にはx二〇.5、y=0.5多結晶焼結体の性能指数の温度依
存性を示す。この結果より、温度上昇に伴い性能指数は単調に増
81
加しており、200K∼800 Kでの温度領域ではその値は2×10−5∼7
×10−5/Kである。
17σ5
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堰@ l
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11グ
2〃0 3θθ 40ρ 500 6〃0 1ρ0 8ρ0 900
rω
図14−4Bi2.、Pb、Sr3.yYyCO20g.δの(x=0.5,y=0.5)の性能指数の温
度依存性
ここでBiI.5Pbo.5Sr2.5Yo.5Co20g.δの性能指数の値を例えば現在熱電
82
変換材料として実用化されているBi2Te3と比較してみよう[383.
Bi2Te3ぽ低温ではBi1,5Pbq 5Sr25Yα5Co20g.δに対して性能指数自体は
一桁近く大きいものの、室温以上に温度が上昇すると性能指数は
急激に減少して高温領域での実用化には適さない。また、周司じ酸
化物熱電変換材料の候補として挙げられている(ZnO)5(ln, Y)203や
Ca(Mn, In)03[39,40]と比較すると、500 K以上における性能指数は
これらの誠料と匹敵する値であり、(La, Sr>CrO3や(Nd, C⑲》幽◎4
[41・42]よりも遥かに大きな値を示している。しかしなカ1ら・酸化
物熱電変換材料の最有力候補であるNa(Co, Cu)204試料[43ユの性能
指数は一桁近く大きな値を示しておりBi1.5Pbα5sra 5Yα5co2Q囲試料
よりも優れた熱電変換性能を持っている。BiL5Pbα5Sra sY価C◎2馬.δ
多結晶焼結体は、一方Na(Co, Cu)204試料に比較すると測定された
温度領域では化学的に安定しており高温における長期間の使用に
耐え得る利点を持ち高温予熱変換材料の有力な候補である.
f).実用化に向けての課題
これまでの研究結果を踏まえてBi1.5Pbα5Sra 5Yo.5Co20g.δ(x=0.5、
y=0.5)多結晶焼結体を実用化する際の課題を述べる。先ず、最
83
大の問題点は熱電変i換に搭要な性能指数がかなり向上したとはい
え、いまだ若干低い点である。序論でも述べた様に、実際に実用
化する為に必要な無次元性能指数(ZT)の値はカルノー効率の得ら
れるZT=1前後であり、現在実用化されている材料のZTは0.4
∼1.3である[3]。本研究で作成したBi1.5Pbα5Sra 5Yα5Co20g。δ(x零
0.5、y=0.5)多結晶焼結体の800 KにおけるZTは約qO6と小
さい。1その主な原因は比較的高い抵抗率にあり、NaCo204単結晶試
料と比較すると熱伝導率と熱起電力の値は同程度より寧ろ良い値
を取る。しかし抵抗率は二桁も大きく、この差が性能指数の直接
的な差として現れている。従って、実用化には抵抗率を下げるこ
とが一番の課題であるが、その対策として、伝導機構を妨げてい
ると思われる不純物相を含まない試料、即ち単相の試料の作成、
結晶密度を上げると同時に所定の結晶方位に結晶粒を整列させる
こと目的としたホットプレスの採用、可能ならば単結晶試料の作
成、もしくは溶融法による試料の作成が考えられる。
また、より良い性能指数を持つ試料を探求するためには、この系
の伝導機構の解明、環境問題としてPbに変わる元素の探索、 p型
熱電素子とは対で用いられるn型熱電素子を開発が必要である。
84
6−2.Bil.5Pbo.5Ca2.xM、Co208一δ(M=Sc,Y, La)多結晶焼結体
a).4端子直流流抵抗
全ての試料において4端子法による直流抵抗率測定を行った。
図15−1、2および3にM=Sc、 Y、 La試料の抵抗率の温度依存性
をそれぞれ示した。
1
0.8
曾
x=0.3
0.6
9
q
0.4
0.2
x=0.2
x=0.1
0
50 100 150 200 250 300 350
T(K)
図15−1 Bil.5Pb軌5Ca2.、Sc、Co208.δの抵抗率の温度依存性
85
1
0.8
( 0.6
9
暮
x=0。3
Q. 0。4
x=
0.2
x=0。2
0
50 100 150 200
250 300 350
T(K)
図15−2 Bi1.5Pb軌5Ca2.,Y,Co208.δの抵抗率の温度依存性
M=ScおよびM=Y試料はx=0.1で抵抗率が最小となるが、
さらにx=0.3まで置換量を増加すると抵抗率は増加した。M=Sc
のx=0.1およびx=0.2の試料、M=Yのx・0.1の試料は、高
温側での電気伝導は金属的挙動を示した。またそれ以外の試料は
全て絶縁体的挙動を示した。
86
M=ScおよびY試料がともに類似した傾向を示した。抵抗率の
最小値は、約0.1Ω㎝のオーダーであり、BihPb、Sr3.yYyCo20g.δに
おいてx=0.5、y=0.5で示す最小の抵抗率よりも1桁大きい[8]。
100
10
曾
9
Q
1
0.1
50 100 150 200 250 300 350
T(K)
図15−3
Bi1.5Pbo.5Ca2.、La,Co208.δの抵抗率の温度依存性
一方M=La(x=0.2)試料の抵抗率はM=Sc、 Y試料のそれよ
り一桁以上大きくなった。すなわちLaドーピングはSc、 Yドーピ
87
ングよりも著しく抵抗率を増加させ、より絶縁体的挙動を加速す
る。
300
x=0.2(M=1、a)
250
毫…
x=0.2(M=Sc)
の
x=02(M=Y)
150
x=0
100
200 250 300
100 150
T(K)
Bil.5Pbo.5Ca2.xM互Co208.δ(x=0, x=0.2;M=Y, Sc, La)の熱起
図15−4
電力の温度依存性
b).熱起電力
x・0試料、およびM・Sc、 Y、 Laのそれぞれx=0.2の試料に
88
ついて熱起電力の測定を行った。図15−4にそれぞれx需0および
x=0.2(M=Sc、 Y、 La)試料の熱起電力の温度依存性を示す。
総ての試料について熱起電力は正の値を示すので、電気伝導にお
ける支配的なキャリアは正孔である。
いずれの試料も熱起電力は近い値をとり、Bi2−xPb。Sr3.yY¥Co《轟
と比べても同じオーダーである[8]。とはいえ、x瓢0の試料と比
べて、置換した3種の試料はすべて熱起電力の値はわずかながら
も大きい。この事実は置換による結晶のエントロピーの増加ぶ熱
起電力増加に何らかの寄与をしていると推測される。
M=ScおよびM=Y試料の熱起電力は温度の上昇とともに緩や
かに増加する傾向を示した。M=La試料は、抵抗率と同様に特有
の挙動、すなわち160Kから温度の低下に伴う急激な減少を示し
た。すなわち、M=La試料の電気的特性は擁零ScおよびM零Y試
料とM=La試料と著しく異なる特性を鈍す。
c).M=ScおよびY試料の電気的特性
232結晶構造を持つ強相関電子系酸化物は過去の研究から電荷
移動(CT)型の伝導が電子輸送特性を支配すると言われている
89
[6,44,45−48]。従ってBi1.5Pbα5Ca2.xM。Co208。δにおいても、エネルギ
ー準位の相対的な位置はx=0で、CQt2,<02p<Coe,である
と推測できる。ScまたはYイオンがドープされる場合、 c軸方向
の格子定数はSc3+およびY3+がCa2+より小さなイオン半径であるこ
とに起因して、ドープしたイオンの量(すなわちxの大きさ)と
ともに徐々に減少する。格子定数。の減少は、(:b−0間題離の弾碁
に結びつく。ペロブスカイト型Co酸化物に関する理論欝算では
Co−0距離の減少によって、02pとCo e,問のCTエネルギー・ギャ
ップが縮小すると予測されている[49].この予測は、LaCoO3にお
いて高温でCo3+と02一間距離の減少による金属一絶縁体(MI)転移に
よっても確認できる[49,50]。
02pからCo egレベルへの電子励起は、 CTギャップが縮小する
ことにより促進される。この促進された電子励起によって⑫舞レ
ベルでの正孔密度と、Co egレベルでの電脳密壌は増翻する。麗⑧,
電子がCo egレベルに局在するのに対して、⑪加正孔は⑧掬の波
動関数の広がりから遍歴性があり高い移動度をもつ.そのためM=
ScおよびY試料における電子輸送特性は、この◎2ρ正孔が支配的
となる。このことはこれらの試料の正の熱起電力によっても立証
90
される。
ScおよびYのドーピングは2つの機能をもっている。一つは繭
濁したようなCo−0のイオン間距離の縮小であり、他の一つは電子
ドーピングである。ScまたはYイオンの量が少ない場合(すなわち
xが小さい場合の)、Co−0間距離の縮小による効果は電子ドーピン
グによる効果よりも大きいかもしれないぶ、後者の効果は翼瀞大
きくなると前者を凌駕するかもしれない。xぶ大きい場食、 Scま
たはY置換によってドープされた電子が◎3Pレベルを優先的に占
め、02p正孔を補償することになれば、その結果02p正孔の密度
は減少する。図15−1∼3で示されるように翼が0.1から増加する
のに伴って抵抗率が増加するのは02p正孔の密度の減少ぶ原因と
考えられる。
M=ScおよびYのそれぞれの系で、抵抗率はX累鉱1で最小で
ある。この結果をもたらす理由は不畷だ瀞、考隣するべき3つの
可能性がある。第1の可能性はx零{ほで衡畷薦距灘の縮小によ
る効果が電子ドーピングによる効果を上選るこをである.
第2の可能性は試料中の酸素固溶の麗題である。翫またはY一ド
ープした試料が、x=0.1で電気的中性条件のために必要な酸素量
91
よりも多くの酸素イオンを供給されている場合、過剰な酸素イオ
ンが正孔ドーピングの効果をもたらすために、02p正孔密度を増
加させて、その結果x=0.1で最小の抵抗率を示すことは可能で
ある。最後の可能性は格子ひずみである。232タイプの酸化物に属
するBi1.5Pb。.5Ca2−xM。Co208.δ[51]はこの酸化物固有の格子歪を内蔵
している。この格子歪がM添加によって緩麹され、炉0.1で碁子
歪が最小となれば遍歴性をもつ02P正孔の平均自由行程は大きく
なり、従って移動度が高くなり、最小の抵抗率を示すこととなる
[52]。
d).磁気測定
前述のようにKoshibae等の理論によると、大きな熱起電力には
低スピン状態のCoイオンを必要とする[1§3。この理論の確簸を得
るためにも、またBi1.5Pbα5Ca2一。MxC◎2◎3一姦細則Sc、 Y;およ1びしの
多結晶焼結体で実験的に大きな熱起電力が得られたが、その理
由を解明するためにも磁気測定の実験溺重要である、図15−5およ
び6にM=ScおよびY試料における磁化率の逆数κ4の温度依存
性を示した。
92
これらの系では、Curie−Weiss則が成立し、実験値のプロットは:
次式に従う。
c
z= e=万
ここで、Cがキュリー定数、θがワイス温度である。測定より得ら
れた磁気的挙動は、Bi2.xPb。Sr3んYyCo20g.δのそれとは非常に異なる。
こみ磁気的挙動の違いはBihPb。Sr助馬Co2転δがBi2Sr20§や、
SrCoO,のような不純物相が存在することによって複雑な磁気的挙
動を見せるのに対し[8]、M=ScおよびYの総て試料がほぼ単相で
あることに起因すると考えられる。M=ScおよびY試料の両方で、
x=0.1でん一1は最大となり、x=0.3へ置換量が増加するのに伴
って減少した。
実験値より求めたキュリー定数Cから、以下の関係式を用いる
ことにより有効磁気モーメントμ。f,を求めることができる[14ゴ
μげ=、配μ・
93
1106
8105
x=0.1
\、
曾 6105
x=0
§
㊥
様...
さ 4105
【
2105
0
0 50 100
150 200
250 300 350
T(K)
図15−5 Bil.5Pbo.5Ca2.xSc、Co208一δのz−1と温度の関係
1106
8105
令 6105
岳
き
さ4105
■一
2105
0
0 50 100 150 200
250 300 350
T(K)
図15−6 Bil.5Pbo.5Ca2.、Y。Co208.δのz−1と温度の関係
算出されたμ,ff(b値を表3に示す。 M零ScおよびYの両方の試
料でx=0.1のときに有効磁気モーメントばかりではなく∼抵抗
率が最小になり磁化率の逆数が最大になるのは非常に興味深い⑧
表3有効磁気モーメントμ。ff
Y
Sc
x』0
1.29
x=0.1
1.14
1.27
x=0.2
1.44
1.43
x=0.3
1.67
1.46
*単位 μ9
図15−7に、M=La試料(x=0.2)における磁化率κの温度依存
性を示す。外部磁場H=1kOeを印加して低温まで冷却した(騨C)
後に昇温過程で測定したものと、外部磁場を印加しないで冷劫し
た(ZFC)後に昇騰で測定した結果を示す。 T>200 Kにおいては、
FC曲線およびZFC曲線はキュリーワイス則に乗り、μ,ff=1.89μB
となった。しかしT〈160Kでは異なる挙動を見せ、 ZFC曲線は約
96
6
5鬼 .x=0.2(FC)
袴’
窃
言
∼
目
8
マ①
×
3 角
ロ〈舌 x=0.2(ZFC)
2 [L
コ [▲
日 [全
1
畠
ゴ怒=oモ・
0
0 50 1①0 150 200
250 300 350
T(K)
図15−7 Bi1,5Pbo.5Ca2.xLaxCo208一δのz’1と温度の関係
50Kで最大値をとるが、 FC曲線は温度の減少に伴う単調な増翻を
禾すb低温におけるそのような磁気的挙動は、・反強磁性相:重唱溺
を含んでいるPbをドープしたBi−Sr−CQ−0系の面sfit層状画会物
に似ている[53]。
e).MニScおよびY試料の磁気的特性
ScまたはY置換によってドーープされた電子がC◎e,レベルを優
先的に占めるなら、μ,ffはScまたはYイオンの置換量:に比例して
増加するはずである。しかしながら、xに対するμ讃の単調な増置
は見られない。特にx=0.1で、ScまたはYドーピングによるμ
,ffの効果的な増加は見られない。これらの磁気的測定結果は、02ρ
ヒベルがドープした電子のほどんどを駅容し・c。e評ベルにおけ
る直接的な電子の占有がx=0.1で生じ,たことを示唆しているξ52}。
前述したようにScまたはY置i換はx顎0ほで抵抗率を三三させ
る。ScあるいはYドーピングによるCo℃麗癒離の締小によるCT
ギャップの収縮が、x=0.1で抵抗率ぶ最座となる主原因である
なら、Coe、レベルに励起された電子の数は増翻し、その結果μe{f
の明確な増加が期待できる。しかしこれは実験の結果と一致しな
98
い。
このような推測は、前に示した他の2つの可能性、すなわち酸
素固溶と格子歪がx=0.1で抵抗率が最小となるように抵抗率の
減少を促進することを示唆している。一方x≧0.2ではScまた
はY一ドープすることによる02pレベルでの電子の増加は0恥正
孔濃度を減少させ、Co egレベルに励起する電子数を顎脚させる。
そしてρおよびμ,ffはともに、 xが0.1から増加するのに伴って
増加する。
図15−1および2で示されているように、Scをドープした試料(x
=0.1と0.2)およびYをドープした合成物(x霜0.1)は低い抵抗率
を示す。温度が増加するのに伴って、これらの試料の抵抗率は他
の試料と同様に減少するが、温度のさらなる増加にしたがってわ
ずかに増加する。すなわち、弱いMI転移演これらの試料では起こ
っている。
金属的伝導が起こる高温範囲では、◎恥ホールの軌遣と3d¢、
電子の軌道が、熱的に拡張される。そして③為と偽egバンドが
多少広がることになる。CTギャップはScまたは¥ドーピングによ
って縮小するので、02P軌道とCo eg軌道が部分的に重なる可能
99
性が高い。これらの試料で観察された弱いMI転移は主にこのよう
な原因で起こるであろうと推測される。
f). Two band mode1
これまでのに議論はScまたはYをドープした試料が遍歴性のあ
る02p正孔だけでなく3deg電子も含むことを示している②これ
らの系での電気的特性および熱電変換特性は、02p正孔と3deg電
子によるtwo band mode1によって記述することができる[54−56}。
Two band mode1の場合、次式が成り立つ[57,58]。
1 1 1
一=一十一
ρ ρ1 ρ2
8一
k丑ρ1〕品鯛出
抵抗率の式は0.2p正孔および3deg電子の電気輸送特性への寄与
を前提にしているが、3deg電子の低い移動度と02p正孔の高い
移動度と比較すると、電気輸送特性に有効的に寄与をしているの
は主に02p正孔であるといえる。熱起電力に関する式が示すよう
100
に、02p正孔およびeg電子はとも熱起電力にも寄与するが、 e曜電
子は負の熱起電力を与え、02p正孔は正の熱起電力を与える。す
なわち熱起電力へのeg電子の熱起電力への寄与は抵抗率への寄与
よりもより直接実験結果に表れるので、局在した3de、電子による
熱起電力は実験的に無視することはできない。しかしながらS¢ま
たはYドープした試料においては、図15−4および5の正の熱起電
力は、02p正孔が電気伝導だけでなく熱起電力も主に支配してい
ることを示している。
g).M=La(x=0.2)試料の電気的、磁気的特性
Laをドープ》た試料(x=0.2)の抵抗率は図15−3から理解で
きるようにScまたはYをドープした試料のそれよりも一桁(炉
0.2)、またはそれ以上大きい。さらに有効磁気モーメントは非常
に大きくμ。ff=1.89μBとなった。 La3+のイオン半径はCa2強勢大き
いため、Co−0間距離の拡大を通じてCTギャップを増加させるので
[49,59]、02pからのCo 3d egレベルへの電子励起はそれほど活
発でなくなる。従って、02P正孔濃度および02Pレベルからの励
起した3d eg電子の濃度はScまたはYドープした試料のもと比較
101
しても小さくなるはずである。したがって、La置換によってドー
プされた電子はCo 3d eg軌道を占めざるをえない。これは正孔濃
度の小さい02pレベルにおいて収容することができる電子の量瀞
ScまたはYドープした試料の02pレベルのそれより少ないためで
ある。すなわち、伝導キャリア濃度の減少に伴うより高い抵抗率、
および3de、電子数の増加による大きな有効磁気モーメントがL劉
をドープした試料で期待される。実験の結果は、これら溺実際に
実現されていることを示している。
熱起電力への3d eg電子の寄与はLaドープした試料(x累(L2)
において明白に現れている・この試料では抵抗率が非常に高いこ
とから大きな熱起電力も期待される。しかしながら実験結果では、
Laドープした試料の熱起電力は図15−6で示されるようにSeある一
いはYドープした試料の熱起電力と同じオーダーとなっている.
これはtwo band mode1日目いて、3d e、電子に起因する負の熱趨
電力が、02p正孔によってもたらされる正の熱起電力を効果的に
相殺しているためと考えられる。したがって、熱起電力の正味の
値は、Laドーピングによって抑制される。
Laをドープした試料(x=0.2)の電子的および磁気的特性は約160
102
K近傍で著しく変化する。熱起電力に関しては約16◎K以上で絶縁
体的挙動を示しているのにもかかわらず、図15−6で示されるよう
に160K近傍で急激な低下が始まる。磁化率にも変異が確認され
た。この変異の始まる温度は約160K(図15−7を参照)である、.
図15−8にρと1/Tのアレニウスプロットを示した。、
この結果は低温での伝導と高温の伝導は機構が異なることを示
唆しており、やはり160K周辺で電気伝導の転移が見られる.160
K周辺で見られるこれらの転移ぽ電子構造の変化を示唆している.
抵抗率におけるT<160Kでの急激な増加の理由の一つは伝導キ
ャリア密度の実質的な減少かもしれない。
Laドープした試料の磁気的挙動は、 PbをドープしたBi−SrC◎一〇
系のmisfit層状化合物のそれに非常に似ている[53ユ。図15−6は
Bi−Sr−C・一〇系と同様にLaをドープした試料串のに反強磁性的相亙
作用の存在を示唆している。そのような相互作用ぶ謎電予を寮縛
し、より強く局在させるため、3d電子は抵温ではさらに動きにく
い状態に陥る。より局在化した3d電子の数の増加億、大きな負の
熱起電力を与える原因となり[601、02p正孔による正の熱起電力
を相殺する。その結果、T〈160 Kで熱起電力の急激な減少参見ら
103
100
曾
り
G 10
)
q」
1
丁糞(1σ3K重)
図15−8 Bi1.5Pbα5Ca多。La。(協δの抵抗率の
アーレニュウスプロット
104
れる。反強磁性的相互作用によって局在化された3d電子は、 C◎e,
軌道のエネルギー準位を上げるため、反強磁性的相互作用は結果
においてCTギャップの拡大を促進する。
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